説明

蛍光X線分析用試料前処理装置およびそれを備えた蛍光X線分析システム

【課題】基板表面などに存在する被測定物を反応性ガスにより溶解後、その基板に溶液を滴下して保持具で保持しながら基板表面で移動させ、被測定物を回収後乾燥させて基板表面に保持する試料前処理装置などにおいて、溶液の残量の影響を受けずに、所望の一定の滴下量が得られ、被測定物の回収が正しく行われるものを提供する。
【解決手段】溶液4の残量、弁82の開放時間および溶液4の滴下量の相関関係をあらかじめ記憶するとともに、溶液4の残量を検知し、その検知した溶液4の残量と相関関係とに基づいて、溶液4を滴下するための弁82の開放時間を決定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板表面などに存在する被測定物を溶解後乾燥させて基板表面に保持する試料前処理装置およびそれを備えた蛍光X線分析システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体基板に付着した微量の汚染物質などを蛍光X線分析するために、試料前処理装置から蛍光X線分析装置への基板の搬送を、ロボットハンドなどの搬送装置で行う蛍光X線分析システムがある(特許文献1参照)。このシステムにおける試料前処理装置は、基板表面などに存在する被測定物を反応性ガス(フッ化水素)により溶解後、その基板に溶液(フッ化水素酸)を滴下して保持具で保持しながら基板表面で移動させ、被測定物を回収後乾燥させて基板表面に保持するものである。
【0003】
この試料前処理装置では、溶液を滴下するための圧力、溶液の流路を開閉する弁の開放時間および溶液の滴下量の相関関係をあらかじめ記憶するとともに、溶液を滴下するための圧力を検知し、その検知した圧力と前記相関関係とに基づいて、溶液を滴下するための弁の開放時間を決定する。これにより、溶液を滴下するための圧力が変動しても、所望の一定の滴下量が得られ、被測定物の回収が正しく行われるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3629535号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これに対し、近年、円板状の基板の側面に存在する被測定物まで回収して分析したいという要望があり、そのためには、滴下した溶液を基板表面の外周からわずかにはみ出させながら、しかも側面からこぼれ落ちないように、保持具で保持して移動させなければならず、例えば適切な滴下量100μリットルに対し、−10〜+0%というきわめて微量の誤差しか許されない。しかし、前記従来の試料前処理装置では、溶液の残量が減少してくると、このようなきびしい許容誤差を逸脱するおそれがあることが判明した。
【0006】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、基板表面などに存在する被測定物を反応性ガスにより溶解後、その基板に溶液を滴下して保持具で保持しながら基板表面で移動させ、被測定物を回収後乾燥させて基板表面に保持する試料前処理装置およびそれを備えた蛍光X線分析システムにおいて、溶液の残量の影響を受けずに所望の一定の滴下量が得られ、被測定物の回収が正しく行われるものを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明の第1構成の蛍光X線分析用試料前処理装置は、基板表面に存在する被測定物または基板表面に形成された膜の表面もしくは膜中に存在する被測定物を分解室内で反応性ガスにより溶解後乾燥させて基板表面に保持する気相分解装置と、表面に被測定物が存在する基板に溶液を滴下して保持具で保持しながら基板表面で移動させ、被測定物を回収後乾燥させて基板表面に保持する試料回収装置とを備え、さらに、以下の残量検知手段と、弁と、制御装置とを備える。残量検知手段は、前記溶液を収納した容器内における溶液の残量を検知する。弁は、前記容器内において所定の圧力で加圧された前記溶液の流路を開閉する。制御装置は、前記溶液の残量、前記弁の開放時間および溶液の滴下量の相関関係をあらかじめ記憶し、その記憶した相関関係および前記残量検知手段により検知された溶液の残量に基づいて、前記溶液を滴下するための前記弁の開放時間を決定する。
【0008】
第1構成の蛍光X線分析用試料前処理装置によれば、溶液の残量、弁の開放時間および溶液の滴下量の相関関係をあらかじめ記憶するとともに、溶液の残量を検知し、その検知した溶液の残量と前記相関関係とに基づいて、溶液を滴下するための弁の開放時間を決定するので、溶液の残量の影響を受けずに、所望の一定の滴下量が得られ、被測定物の回収が正しく行われる。
【0009】
本発明の第2構成の蛍光X線分析システムは、前記第1構成の蛍光X線分析用試料前処理装置と、前記気相分解装置または試料回収装置により基板表面に保持された被測定物に1次X線を照射して発生する蛍光X線の強度を測定する蛍光X線分析装置とを備える。第2構成の蛍光X線分析システムによっても、第1構成の蛍光X線分析用試料前処理装置と同様の効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施形態である蛍光X線分析システムが備える試料回収装置の特徴部分を示す概略図である。
【図2】(a)は、同試料回収装置の平面図、(b)は、同装置の正面図である。
【図3】(a)は、同試料回収装置の保持具洗浄手段であって保持具を洗浄液に浸漬させるものの正面図、(b)は、同手段であって保持具に洗浄液を吹き付けるものの正面図である。
【図4】(a)は、同蛍光X線分析システムが備える気相分解装置の平面図、(b)は、同装置の正面図である。
【図5】(a)は、同蛍光X線分析システムの平面図、(b)は、同システムの正面図である。
【図6】同試料回収装置における溶液の残量、弁の開放時間および溶液の滴下量の相関関係の一例を示すグラフである。
【図7】同相関関係の別の例を示すグラフである。
【図8】同相関関係のさらに別の例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態である蛍光X線分析システムについて、構成から説明する。図5(a),(b)の一部を破断した平面図、正面図に示すように、この蛍光X線分析システムは、まず、気相分解装置20および試料回収装置30を有する試料前処理装置10と、試料台41に載置された基板1上の被測定物2にX線源42から1次X線43を照射して発生する蛍光X線44の強度を検出手段45で測定する蛍光X線分析装置40と、前記試料前処理装置10から蛍光X線分析装置40へ基板1を搬送する搬送装置50とを備える。
【0012】
この実施形態では、試料に対し1次X線を微小な入射角で照射する全反射蛍光X線分析装置40を採用し、X線源42は、X線管、単色化のための分光素子などを有し、検出手段45には、SSDなどを用いる。蛍光X線分析装置40は、ロボットハンドなどの搬送手段46を有しており、導入室のカセット47と試料台41との間で、基板1を搬送する。
【0013】
前記搬送装置50は、レールの上で本体が前後に移動自在なロボットハンドであり、そのハンド部50aに基板1を載置して、基板1を、蛍光X線分析システムのカセット台5に載置されたカセット3(所定の投入位置)から試料前処理装置10の分解室21または回収室31へ、分解室21から回収室31へ、分解室21または回収室31から蛍光X線分析装置40の導入室のカセット47へ、導入室のカセット47からもとのカセット台5に載置されたカセット3へ、搬送する。カセット台5には、複数のカセット3を載置できる。
【0014】
蛍光X線分析システムは、半導体製造装置などが置かれるクリーンルーム6とそこで製造された半導体基板1を分析する分析室7とを隔てる壁8を突き抜けるように設置され、カセット台5のみがクリーンルーム内にある。カセット台5に載置されたカセット3と搬送装置50との間には図示しないシャッターが設けられている。
【0015】
蛍光X線分析システムは、前記試料前処理装置10、蛍光X線分析装置40、搬送装置50、カセット台5に載置されたカセット3と搬送装置50との間のシャッターなどを共通の環境(ソフトウエア)で制御するコンピュータなどの制御装置60を、例えば蛍光X線分析装置40内に配置して備える。各装置は、共通の基台上で、全体として一つの筐体に一体的に設けられている。
【0016】
ここで、試料前処理装置10のうちの気相分解装置20の構成について説明する。図4(a),(b)に平面図、正面図に示す気相分解装置20は、基板1表面に存在する被測定物または基板表面に形成された膜の表面もしくは膜中に存在する被測定物を分解室21内で反応性ガスにより溶解後乾燥させて基板1表面に保持する。より具体的には、この気相分解装置20の分解室21は、例えばPTFE(ポリ四フッ化エチレン、テフロン(登録商標))製の箱であり、ロボットハンドなどの搬送装置50のハンド部50aに対向する側に、開閉自在の内側シャッター21aを有している。さらに、その内側シャッター21aから、上方の回収室31からの空気が流れ落ちる空間を隔てて、気相分解装置20の外壁に開閉自在の外側シャッター27が設けられている。分解室21内には、配管22aから反応性ガスとしてフッ化水素が導入され、例えばシリコンウエハである基板1表面に形成された酸化膜を溶解するとともに、膜の表面または膜中に存在する汚染物質などの被測定物を溶解し、配管22bから排出される。基板1表面に膜が形成されていない場合には、基板1表面に存在する被測定物が溶解される。
【0017】
気相分解装置20は、分解室21内に洗浄液として超純水を流して洗浄する分解室洗浄手段23、すなわち、洗浄液導入配管23aおよび排出配管23bを有している。また、分解室21内に不活性ガスとして清浄な窒素を流して、フッ化水素を追い出すとともに、基板1に生じた液滴を乾燥させる液滴乾燥手段24、すなわち、窒素導入配管24aおよび排出配管24bを有している。なお、液滴乾燥手段では、不活性ガスを流す代わりに、または不活性ガスを流すことに加えて、分解室内を減圧(真空排気)して、基板に生じた液滴を乾燥させてもよい。この場合、真空排気と不活性ガスの導入を繰り返し行ってもよい。
【0018】
また、基板1が分解室21内の所定の位置に載置されるように、内周に下向き狭小のテーパ25aが付いた基板台25を有している。すなわち、基板台25は、搬送装置のハンド部50aに干渉しないように一部を切り欠いた輪状で、内周に下向き円錐側面の一部をなすテーパ面25aが形成され、仕切り板26を介して分解室21内に固定されている。
【0019】
次に、試料回収装置30の構成について説明する。図2(a),(b)に平面図、正面図を示す試料回収装置30は、分解室21の上に配置された回収室31内で、表面に被測定物が存在する基板1に溶液4を滴下して保持具32aで保持しながら基板1表面で移動させ、被測定物を回収後乾燥させて基板1表面に保持する。より具体的には、この試料回収装置30の回収室31は、上部にファン11およびフィルター12が設けられた例えばPVC(ポリ塩化ビニル)製の箱であり、分解室21の上に配置され、搬送装置のハンド部50aに対向する側に、開閉自在のシャッター31aを有している。そのシャッター31a近傍(図2(a)中1点鎖線で囲む範囲)において回収室31の底板には多数のパンチング孔31bがあけられており、ファン11およびフィルター12を介して回収室31に流入した清浄な空気が、分解室21の内側シャッター21aの外側へ流れ落ちるようになっている。試料回収装置30は、以下の回収液移動手段32、回収液乾燥手段33、保持具洗浄手段34および回転台35を有している。
【0020】
回収液移動手段32は、その先端部下側にある保持具32aを、回転台35に載置された基板1の上方において基板1の外側と中心間で円弧状に移動させるアームであり、保持具32aを上下方向にも移動させることができる。保持具32aは例えばPTFE製のノズルであり、分解室21のさらに下方の後述する容器から、PTFE製のチューブ84などを経由して溶液(フッ化水素酸)4が供給される。回転台35は、載置された基板1を水平面内で回転させる。すなわち、試料回収装置30は、保持具32aから基板1の外周近傍に滴下した所定量例えば100μリットルの溶液4を、基板1を回転させながら、保持具32aと基板1で挟むようにして保持しつつ基板1上で中心まで移動させて、基板1表面に存在する被測定物を回収する。
【0021】
回収液乾燥手段33は、その先端部に下向きに設けられたランプ33aを、基板1の上方において基板1の外側と中心間で円弧状に移動させるアームである。すなわち、試料回収装置30は、基板1の中心上方にランプ33aを移動させ、被測定物を回収した溶液4を加熱して被測定物を乾燥させる。この乾燥時にも、回転台35で基板1を水平面内で回転させる。
【0022】
保持具洗浄手段34は、図3(a)に示すように、底付き円筒状の内槽34aとその外側の輪状の外槽34bとを有する容器において、内槽34a上方に洗浄液として超純水を供給してオーバーフローさせる配管34cを設け、外槽34b下部にオーバーフローした洗浄液を排出する配管34dを設けたものである。図2において、試料回収装置30は、回収液移動手段32により、保持具32aを基板1の外周からさらに外側にある保持具洗浄手段34の内槽34a上方にまで移動させ、図3(a)のように上下に移動させる。すなわち、保持具32aの少なくとも下端部を洗浄液に浸漬させて洗浄する。供給側の配管34cは、洗浄後の内槽34a内の洗浄液に含まれる汚染物を流入させないために、図示のように内槽34a内の洗浄液と非接触にすることが好ましい。なお、洗浄は、洗浄液を保持具32aに吹き付けて行ってもよい。この場合には、図3(b)のように、供給側の配管34cを開口が上向きになるように設け、下方から保持具32aに洗浄液を吹き付ける。
【0023】
さて、保持具32aから溶液(フッ化水素酸)4を滴下するための構成について、詳細に説明する。この試料回収装置30は、図1に示すように、さらに、以下の残量検知手段81A、弁82、制御装置60などを備える。この蛍光X線分析システムが置かれる半導体製造ラインにおける窒素ガスや空気のラインが、チューブ84を経由して、容器83内に収納された溶液4を所定の圧力(例えば、ゲージ圧で0.025±0.005MPa の範囲内の圧力)で加圧し、加圧された溶液4の流路であるチューブ84は、弁82を経由して、ノズルである保持具32a(図2)に接続されている。残量検知手段81Aは、容器83内における溶液4の残量を検知する。弁82は、容器83内において所定の圧力で加圧された溶液4の流路を開閉する電磁弁である。制御装置60は、蛍光X線分析システム全体の制御装置60(図5)を兼ねており、溶液4の残量、弁82の開放時間および溶液4の滴下量の相関関係をあらかじめ記憶し、その記憶した相関関係および残量検知手段81Aにより検知された溶液の残量に基づいて、溶液4を滴下するための弁82の開放時間を決定する。
【0024】
残量検知手段81Aと、溶液4の残量、弁82の開放時間および溶液4の滴下量の相関関係とについて、より具体的に説明する。例えば、容器83が満杯、つまり溶液4の残量が500ccのとき、弁(バルブ)82の開放時間y(単位:ミリ秒)と溶液4の滴下量x(単位:cc)の相関関係を実験から求めると、図6に示すように、次の(1)式で近似できる。
【0025】
=1025x−1.4 (1)
【0026】
一方、弁82の開放時間が100ミリ秒のとき、溶液4の滴下量(単位:cc)と溶液4の残量(単位:cc)の相関関係を実験から求めると、図7に示すグラフが得られる。
【0027】
さて、1回の適切な溶液4の滴下量は100μリットル、つまり0.1ccであるが、図6、図7から明らかなように、容器83が満杯、つまり溶液4の残量が500ccのとき、適切な溶液4の滴下量0.1ccは、弁82の開放時間100ミリ秒で得られ、これを基準開放時間とする。適切な溶液4の滴下量0.1ccが維持されるとすると、溶液4の残量は、満杯状態からの溶液4の累積の滴下回数x(以下、ショット累積回数xという)から、500−0.1xとして計算でき、換言すれば、溶液4の残量は、ショット累積回数xとして検知できる。残量検知手段81Aは、このようにショット累積回数xをカウントすることにより、容器83内における溶液4の残量を検知する。適切な溶液4の滴下量0.1ccを維持するには、ショット累積回数xに応じて弁82の開放時間を基準開放時間100ミリ秒から長くする必要があるが、ショット累積回数xと弁82の開放時間を長くするために基準開放時間に掛けるべき定数の関係は、図6の相関関係つまり式(1)と図7の相関関係に基づいて得られ、図8に示すように、次の(2)式で近似できる。
【0028】
y=2.5×10−5×x+1 (2)
【0029】
つまり、適切な溶液4の滴下量0.1ccを維持するための弁82の開放時間tは、次の(3)式で表される。
【0030】
t=100×(2.5×10−5×x+1) (3)
【0031】
制御装置60は、具体的にはこの(3)式を相関関係としてあらかじめ記憶する。そして、その記憶した(3)式と、残量検知手段81Aにより検知された溶液の残量、具体的には残量検知手段81Aによりカウントされたショット累積回数xとに基づいて、適切な溶液4の滴下量0.1ccを維持するための弁82の開放時間tを決定する。
【0032】
このような制御により、溶液4の残量の影響を受けずに、1回の滴下量を、適切な滴下量100μリットルに対し、−10〜+0%(−10〜+0μリットル)というきわめて微量の誤差内に収めることができる。なお、この実施形態では、容器83が満杯のときに適切な溶液4の滴下量100μリットルが得られる弁82の開放時間を基準開放時間としたが、これに限られず、例えば、残量が満杯の半分になったときに適切な溶液4の滴下量100μリットルが得られる弁82の開放時間を基準開放時間として、残量が満杯の半分よりも多いときには弁82の開放時間を適切に短くし、残量が満杯の半分よりも少ないときには弁82の開放時間を適切に長くするようにしてもよい。この場合にも、溶液4の残量の影響を受けずに、1回の滴下量を、適切な滴下量100μリットルに対し、−5〜+5%(−5〜+5μリットル)というきわめて微量の誤差内に収めることができる。また、1回の適切な溶液4の滴下量は、この実施形態では100μリットルとしたが、基板1や溶液4の種類に応じて50〜200μリットル程度の範囲で変更してもよい。
【0033】
さらに、以上の説明においては、ショット累積回数xをカウントすることにより、容器83内における溶液4の残量を検知する残量検知手段81Aを用いたが、これに代えて、溶液4の残量を直接検知するレベルメータを残量検知手段81Bとして用いてもよい。
【0034】
次に、この蛍光X線分析システムの動作について説明する。このシステムでは、前処理および分析の条件として、複数のモードがあるが、ここでは、VPD(Vapor Phase Decomposition)モードでの動作を説明する。以下の動作は、図1の制御装置60により制御される。まず、図4において、搬送装置50が、基板1を所定の投入位置から分解室21へ搬送し、基板台25に載置する。搬入の際、気相分解装置20のシャッター21a,27が自動的に開く。基板台25には、内周に下向き狭小のテーパ25aが付いているので、基板1がハンド部50a上で所定の位置から多少ずれていても、基板1を基板台25に載置するだけで、自重で滑ってはまり込むようにして適切に位置決めされるので、続く回収、分析が正確に行われる。
【0035】
次に、シャッター21a,27が閉じて密閉された分解室21内にフッ化水素が配管22aから導入され、基板1表面に形成された酸化膜を溶解するとともに、膜の表面または膜中に存在する汚染物質などの被測定物を溶解し、配管22bから排出される。基板1表面に膜が形成されていない場合には、基板1表面に存在する被測定物が溶解される。フッ化水素導入の際、排出側の配管22bのバルブが導入側の配管22aのバルブよりも先に開くことが好ましいが、逆でも同時でもよい。このフッ化水素による気相分解は、設定により例えば10分間行われる。
【0036】
所定時間の気相分解が終了すると、液滴乾燥手段24により分解室21内が排気されながら窒素が流され、フッ化水素が追い出されるとともに、基板1に生じた液滴が乾燥される。これにより、以降の搬送において、液滴に搬送装置のハンド部50aが接触して腐食されることがなく、ハンド部50a上で基板1が滑って搬送が不正確になることもない。また、フッ化水素が、搬送装置50側や蛍光X線分析装置側に流入して、腐食などの原因となることもない。また、定期的に、分解室洗浄手段23により分解室21内に超純水が流されて洗浄される。このように、分解室21内の洗浄も自動化されるので、システムの操作がいっそう容易になる。
【0037】
次に、搬送装置50が、基板1を図2の回収室31へ搬送し、基板1の中心が回転台35の回転中心に合致するように載置する。搬送の際、気相分解装置20および試料回収装置30のシャッター21a,27,31aが自動的に開閉する。このように、分解室21から回収室31への基板1の搬送も搬送装置50で行うので、人手による汚染が回避されて正しい分析ができる。続いて、試料回収装置30が、保持具32aから基板1の外周近傍に滴下した溶液4を、基板1を回転させながら、保持具32aで保持しつつ基板1上で中心まで移動させて、基板1表面に存在する被測定物(気相分解装置20により基板1表面に保持された被測定物)を回収する。ここで、溶液4の滴下量が、図1の制御装置60により前述したように制御される。
【0038】
このように、本実施形態の蛍光X線分析システムによれば、溶液4の残量、弁82の開放時間および溶液4の滴下量の相関関係をあらかじめ記憶するとともに、溶液4の残量を検知し、その検知した溶液4の残量と前記相関関係とに基づいて、溶液4を滴下するための弁82の開放時間を決定するので、溶液4の残量の影響を受けずに、所望の一定の滴下量が、例えば適切な滴下量100μリットルに対し−10〜+0%(−10〜+0μリットル)というきわめて微量の誤差内で、得られる。したがって、滴下した溶液4を基板1表面の外周からわずかにはみ出させながら、しかも基板1側面からこぼれ落ちないように、保持具32aで保持して移動させることも可能となり、円板状の基板1の側面に存在する被測定物まで含めて、被測定物の回収が正しく行われる。
【0039】
また、回収工程における溶液4の滴下位置や保持具32aの移動経路は、前述したものに限定されず、種々考えられる。回収後、図2の保持具32aを上昇させ保持具洗浄手段34の内槽34a上方にまで移動させて上下させ、洗浄液に浸漬させて洗浄する。このように、保持具32aの洗浄も自動化されるので、システムの操作がいっそう容易になる。
【0040】
次に、試料回収装置30は、基板1の中心上方にランプ33aを移動させ、被測定物を回収した溶液4を加熱して被測定物を乾燥させる。この乾燥時にも、回転台35で基板1を水平面内で回転させる。これにより、被測定物が、基板1上で偏って乾燥して拡がりすぎることがないので、いっそう正しい分析ができる。また、回収室31が分解室21の上に配置され、ファン11およびフィルター12を介して回収室31に流入した清浄な空気が、パンチング孔31bを通って分解室21の内側シャッター21aの外側へ流れ落ちるようになっているので、システム全体の設置面積が十分に小さくなるとともに、回収室31が清浄に保たれる。なお、保持具32aが被測定物を回収した溶液4の上方から退避した後であれば、保持具32aの洗浄と被測定物の乾燥は、どちらを先に行ってもよく、並行して行ってもよい。
【0041】
次に、搬送装置50が、被測定物を回収した基板1を蛍光X線分析装置の導入室のカセットへ搬送する。搬送の際、試料回収装置30のシャッター31aが自動的に開閉する。続いて、蛍光X線分析装置が全反射蛍光X線分析を行い、分析後、基板1は、搬送装置50によりもとの所定の投入位置へ搬送される。なお、最初の基板1の分析中に、次の基板の回収、その次の基板の分解を同時に行えば、全体の前処理および分析作業をいっそう迅速に行える。
【0042】
以上詳細に説明したように、本発明の蛍光X線分析用試料前処理装置またはそれを備えた蛍光X線分析システムによれば、溶液の残量の影響を受けずに、所望の一定の滴下量が得られ、被測定物の回収が正しく行われる。
【符号の説明】
【0043】
1 基板
2 被測定物
4 溶液
10 試料前処理装置(気相分解装置および試料回収装置)
20 気相分解装置
21 分解室
30 試料回収装置
32a 保持具
40 蛍光X線分析装置
43 1次X線
44 蛍光X線
60 制御装置
81A,81B 残量検知手段
82 弁
83 容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板表面に存在する被測定物または基板表面に形成された膜の表面もしくは膜中に存在する被測定物を分解室内で反応性ガスにより溶解後乾燥させて基板表面に保持する気相分解装置と、
表面に被測定物が存在する基板に溶液を滴下して保持具で保持しながら基板表面で移動させ、被測定物を回収後乾燥させて基板表面に保持する試料回収装置とを備えた蛍光X線分析用試料前処理装置であって、
前記溶液を収納した容器内における溶液の残量を検知する残量検知手段と、
前記容器内において所定の圧力で加圧された前記溶液の流路を開閉する弁と、
前記溶液の残量、前記弁の開放時間および溶液の滴下量の相関関係をあらかじめ記憶し、その記憶した相関関係および前記残量検知手段により検知された溶液の残量に基づいて、前記溶液を滴下するための前記弁の開放時間を決定する制御装置とを備えた蛍光X線分析用試料前処理装置。
【請求項2】
請求項1の蛍光X線分析用試料前処理装置と、
前記気相分解装置または試料回収装置により基板表面に保持された被測定物に1次X線を照射して発生する蛍光X線の強度を測定する蛍光X線分析装置とを備えた蛍光X線分析システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−106903(P2011−106903A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−260710(P2009−260710)
【出願日】平成21年11月16日(2009.11.16)
【出願人】(000250339)株式会社リガク (206)
【Fターム(参考)】