説明

蛍光X線分析装置

【課題】高精度の元素分析を可能にする可搬型の蛍光X線分析装置を提供する。
【解決手段】本発明の蛍光X線分析装置1は、可搬型の蛍光X線分析装置であり、試料室状のシールドケース31を着脱可能であり、シールドケース31を装着した状態でシールドケース31内に配置した試料の蛍光X線分析を行うことができる。蛍光X線分析装置1は、シールドケース31が装着されずに使用される場合は、外部へ放射するX線の強度が所定の強度以下の小さい強度に抑えられ、シールドケース31が装着された状態で使用される場合は、より大きい強度でX線を放射することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可搬型の蛍光X線分析装置に関し、より詳しくは、安全のためにX線の出力を制限することができる蛍光X線分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光X線分析は、X線管等を用いて発生させたX線を試料に照射し、試料から発生する蛍光X線を検出し、蛍光X線のスペクトルから試料に含有される元素の定性分析及び定量分析を行う分析手法である。卓上型の蛍光X線分析装置は、試料室を備えており、試料室内の試料に対してX線を照射することによって分析を行う。試料室には、試料室内に試料を出し入れするための扉が閉じていることを検出するためのセンサが設けられ、扉が閉じている状態でX線の照射が行われる。このようにX線が試料室外へ漏洩しないように制御することにより、X線被曝が防止される。
【0003】
一方で、試料室に入れることができない大型の試料、又はサンプリングを行うことができない試料を蛍光X線分析装置で分析したいというニーズがある。また工業製品又は考古学試料等の多くの試料に対して、製造現場又は発掘現場等の現場で手軽に蛍光X線分析を行いたいというニーズがある。これらのニーズを満たすために、可搬型の蛍光X線分析装置が開発されている。特許文献1には、持ち運び可能な筐体内にX線管及びX線検出器を備え、照射口に試料を押し付けた状態でX線の照射及び蛍光X線の測定を行う可搬型の蛍光X線分析装置が開示されている。このような可搬型の蛍光X線分析装置では、照射口に試料が押し付けられている状態でのみX線の照射を可能とする安全機構を備えていることが通常である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−304733号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
可搬型の蛍光X線分析装置は、人体を試料に見立てて人体に対してX線を照射することも可能である等、X線が人体に照射されないようにX線を確実にシールドすることができないので、卓上型の蛍光X線分析装置に比べ、X線被曝の危険性が高い。X線被曝の危険性を低くするために、従来の可搬型の蛍光X線分析装置では、試料に照射するX線の強度を小さくしていた。従って、従来の可搬型の蛍光X線分析装置には、卓上型の蛍光X線分析装置に比べ、元素分析の精度が低いという問題があった。
【0006】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、X線被曝の危険性がある状態ではX線の出力を低くしておき、X線被曝の危険性がない状態でX線の出力を上昇させることを可能にしておくことにより、高精度の元素分析を可能にする可搬型の蛍光X線分析装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る蛍光X線分析装置は、X線源を備え、該X線源から発生したX線を外部へ放射し、X線を照射された外部の試料から発生する蛍光X線を検出し、検出した蛍光X線に基づいて前記試料の蛍光X線分析を行う蛍光X線分析装置において、X線をシールドするシールドケースが着脱可能であり、前記シールドケースの内部に配置された試料の蛍光X線分析を行うために、前記シールドケースを装着した状態で前記シールドケースの内部へX線を放射することができる構成となっており、前記シールドケースを装着していることを検出する検出手段と、前記シールドケースを装着していることを前記検出手段が検出していない場合に、放射するX線の強度を、所定の強度以下に制限する制限手段と、前記シールドケースを装着していることを前記検出手段が検出してる場合に、前記所定の強度よりも大きい強度で前記シールドケースの内部へX線を放射することを可能にする手段とを備えることを特徴とする。
【0008】
本発明においては、シールドケースを装着できる可搬型の蛍光X線分析装置は、シールドケースが装着されずに外部へX線を放射する場合は、放射するX線の強度が所定の強度以下の小さい強度に抑えられ、シールドケースが装着されてシールドケース内へX線を放射する場合は、より大きい強度でX線を放射することが可能となる。
【0009】
本発明に係る蛍光X線分析装置は、前記制限手段は、前記X線源が発生するX線の強度を制限するように構成してあることを特徴とする。
【0010】
また本発明においては、蛍光X線分析装置は、X線源が発生するX線の強度を制限することによって、放射するX線の強度を抑制する。
【0011】
本発明に係る蛍光X線分析装置は、前記シールドケースは、磁気発生部品を組み込んであり、前記検出手段は、前記磁気発生部品の磁気を検出する磁気センサを用いてなることを特徴とする。
【0012】
また本発明においては、シールドケースは磁石等の磁気を発生する部品を備えており、蛍光X線分析装置は、シールドケースが装着されていることを磁気センサを用いて検出する。
【0013】
本発明に係る蛍光X線分析装置は、前記検出手段は、前記シールドケースを装着している状態で前記シールドケースが接触する位置に配置した接触スイッチを用いてなることを特徴とする。
【0014】
また本発明においては、シールドケースが蛍光X線分析装置に装着されていることを接触スイッチを用いて検出する。
【発明の効果】
【0015】
本発明にあっては、蛍光X線分析装置にシールドケースが装着されず、蛍光X線分析装置の外部へX線が放射される場合は、X線の出力強度が小さく抑えられるので、X線被曝の危険性を可及的に小さくすることができる。また蛍光X線分析装置にシールドケースが装着され、シールドケースの内部へX線が放射される場合は、シールドケース内の試料に照射するX線の強度をより大きくすることが可能であり、またX線はシールドケースによってシールドされるので、蛍光X線分析による高感度・高精度の元素分析を安全に実行することが可能となる。
【0016】
また本発明にあっては、X線源が発生するX線の強度を制限することによって放射するX線の強度を抑制するので、X線を減衰する手段を備えずとも本発明の実現が可能となり、蛍光X線分析装置の大型化を防止することができる。
【0017】
また本発明にあっては、シールドケースで発生する磁気を検出する磁気センサ、又はシールドケースが接触したことを検出する接触スイッチを用いることにより、シールドケースが蛍光X線分析装置に装着されていることの検出を簡単な構成で実現することができる等、本発明は優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の蛍光X線分析装置の外観の例を示す模式図である。
【図2】本発明の蛍光X線分析装置の内部構成を示すブロック図である。
【図3】シールドケースが装着された蛍光X線分析装置を示す模式図である。
【図4】装着センサが磁気センサである形態を示す蛍光X線分析装置及びシールドケースの模式的部分断面図である。
【図5】装着センサが接触スイッチである形態を示す蛍光X線分析装置及びシールドケースの模式的部分断面図である。
【図6】本発明の蛍光X線分析装置が蛍光X線分析を行うために実行する処理の手順を示すフローチャートである。
【図7】蛍光X線分析のモードを選択するための選択画面の例を示す模式図である。
【図8】キャップ型のシールドケースを用いた本発明の形態を示す模式図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下本発明をその実施の形態を示す図面に基づき具体的に説明する。
図1は、本発明の蛍光X線分析装置1の外観の例を示す模式図である。本発明の蛍光X線分析装置1は、可搬型の蛍光X線分析装置であり、片手で保持できる大きさで、略直方体形状の筐体に取っ手が取り付けられた形状に構成されている。蛍光X線分析装置1の略直方体形状の筐体の一端には、工業製品等の試料に接触するための接触面18が形成されており、また蛍光X線分析装置1はトリガ17を備えてある。
【0020】
図2は、本発明の蛍光X線分析装置1の内部構成を示すブロック図である。蛍光X線分析装置1は、X線を発生するX線管(X線源)12及び蛍光X線を検出するX線検出器13を備え、X線管12には、X線管12に電力を供給する電力供給部15が接続され、X線検出器13には、検出回路16が接続されている。X線管12は、金属ターゲットに対して加速した熱電子を衝突させることによってX線を発生させる素子であり、電力供給部15は、熱電子を発生させるための電流及び熱電子を加速するための電圧をX線管12に供給する。電力供給部15がX線管12へ供給する電流又は電圧を変更することにより、X線管12が発生するX線の強度を変更することができる。例えば、電力供給部15がX線管12へ供給する電流を増加させた場合は、X線管12が発生するX線の強度が増大する。X線検出器13は、検出素子としてSi素子等の半導体検出素子を用いた構成となっており、半導体検出素子に入射した蛍光X線のエネルギーに比例した電荷を検出回路16へ出力する。検出回路16は、X線検出器13が出力した電荷を受け付け、蛍光X線のエネルギーに対応する各電荷パルスの波高及びその数をカウントする。電荷パルスのカウント数は、パルス波高が示すエネルギーの蛍光X線の検出量に対応する。
【0021】
蛍光X線分析装置1は、また、小型コンピュータ2を内部に備えている。小型コンピュータ2は、演算を行う演算部及び演算に必要な情報を記憶するメモリ等を含んでなる制御部21を備えている。制御部21には、フラッシュメモリ等の不揮発性の記憶媒体で構成された記憶部22、蛍光X線分析に必要な情報を表示する表示部23、及び使用者からの各種の指示の入力を受け付ける入力部24が接続されている。記憶部22は、制御部21が蛍光X線分析装置1の動作を制御し、蛍光X線分析装置1に必要な情報処理を行うための制御プログラム及び必要なデータを記憶している。表示部23は小型の液晶パネル等で構成されており、入力部24はタッチパネル又は各種のスイッチで構成されている。入力部24のタッチパネルになっている部分と表示部23とは一体に構成されている。小型コンピュータ2は、蛍光X線分析装置1の接触面18とは逆の端に表示部23及び入力部24が位置するように備えられている。
【0022】
制御部21は、図示しない所定のインタフェースを介して電力供給部15及び検出回路16に接続されている。制御部21は、電力供給部15がX線管12へ供給する電流及び電圧を制御する処理を行う。検出回路16は、電荷パルスの波高が示す蛍光X線のエネルギーとカウント数との対応を示すデータを制御部21へ出力する。制御部21は、検出回路16からの出力データを受け付けることにより、蛍光X線のエネルギーとカウント数との関係、即ちX線検出器13で検出した蛍光X線のスペクトルを取得する。制御部21は、取得した蛍光X線のスペクトルを表示部23に表示する処理を行う。記憶部22は、各元素の蛍光Xのデータを記憶しており、制御部21は、取得した蛍光X線のスペクトル、及び記憶部22で記憶しているデータに基づき、蛍光X線を発生した元素の定性・定量分析の処理を行う。
【0023】
また蛍光X線分析装置1は、接触面18に試料が接触していることを検出する試料センサ14を備えており、試料センサ14及びトリガ17は、制御部21に接続されている。試料センサ14は、例えば接触スイッチ又は赤外線センサで構成されている。蛍光X線分析装置1は、使用者が手で保持して接触面18を試料に押し付け、この状態で使用者がトリガ17を押下するように使用される。試料センサ14が接触面18に試料が接触していることを検出していない場合は、トリガ17が押下されてもX線は発生しない。接触面18に試料が接触していることを試料センサ14が検出した場合、試料センサ14は所定の信号を制御部21へ出力し、またトリガ17は、使用者に押下された場合に所定の信号を制御部21へ出力する。
【0024】
制御部21は、接触面18に試料が接触していることを示す信号を受け付けている状態で、トリガ17が押下されたことを示す信号を受け付けた場合は、電力供給部15に、X線管12へ電力を供給させる処理を行う。X線管12は、電力供給部15から電力を供給されることにより、X線を発生させる。接触面18には、開口部が形成されており、X線管12が発生したX線は、開口部から放射される。X線は、接触面18に接触している試料の表面に照射され、X線が照射されることによって試料からは蛍光X線が発生する。蛍光X線は開口部から蛍光X線分析装置1内へ入射され、X線検出器13が蛍光X線を検出する。制御部21は、X線検出器13が検出した蛍光X線のスペクトルに基づき、試料に含まれる元素の定性・定量分析を行う。
【0025】
また本発明の蛍光X線分析装置1は、内部に試料を収納することができる専用のシールドケースが着脱可能であり、シールドケースに収納された試料の蛍光X線分析を行うことができる構成となっている。図3は、シールドケース31が装着された蛍光X線分析装置1を示す模式図である。シールドケース31は、箱状に形成されており、蛍光X線分析装置1の接触面18が内部に挿入して蛍光X線分析装置1に装着される構成となっている。蛍光X線分析装置1は、シールドケース31が装着された状態でシールドケース31の内部へX線を放射することができる。シールドケース31は、蛍光X線分析装置1に装着された状態で蛍光X線分析装置1が内部へ放射するX線、及び収納した試料から発生する蛍光X線を、内部から外部へ漏洩しないようにシールドする構成となっている。
【0026】
またシールドケース31に収納することができる試料は、チップ等の比較的小型の試料であり、シールドケース31には試料を出し入れするための図示しない蓋部が設けられている。またシールドケース31は、蓋部が閉じている状態では蛍光X線分析装置1の試料センサ14に試料が接触面18に接触していると検出させ、蓋部が開いている状態では試料センサ14に試料が接触面18に接触していると検出させない構成となっている。例えば、試料センサ14が接触スイッチである形態の場合、シールドケース31は、蓋部が閉じることに連動して試料センサ14を可動片で押下する構成であればよい。また試料センサ14が赤外線センサである形態の場合、シールドケース31は、蓋部が閉じることに連動して試料センサ14の受光部を可動片で隠す構成であればよい。
【0027】
シールドケース31が蛍光X線分析装置1に装着されている状態では、シールドケース31を試料室として利用した卓上型の蛍光X線分析装置と同様の利用が可能となる。シールドケース31の蓋部が開いている状態では、蛍光X線分析装置1の試料センサ14は接触面18に試料が接触していると検出せず、トリガ17が押下されても蛍光X線分析装置1はX線を放射しない。シールドケース31の蓋部が閉じている状態では、試料センサ14は接触面18に試料が接触していると検出し、トリガ17が押下された場合に、蛍光X線分析装置1は、シールドケース31内の試料に対してX線を照射し、試料から発生した蛍光X線を検出する。
【0028】
なお、シールドケース31は、蛍光X線分析装置1と電気的な接続が可能であり、蓋部が閉じている場合に蓋部が閉じていることを示す情報を制御部21へ出力する形態であってもよい。この形態の場合、制御部21は、蓋部が閉じていることを示す情報をシールドケース31から受け付けた場合に、X線の発生を可能にする処理を実行する。
【0029】
蛍光X線分析装置1は、蛍光X線分析装置1にシールドケース31が装着されていることを検出する装着センサ(検出手段)11を備えており、装着センサ11は制御部21に接続されている。装着センサ11は磁気センサ又は接触スイッチ等を用いて構成されている。
【0030】
図4は、装着センサ11が磁気センサである形態を示す蛍光X線分析装置1及びシールドケース31の模式的部分断面図である。図4中では、シールドケース31を模式的断面図で示してある。蛍光X線分析装置1の装着センサ11は、接触面18の付近に配置されている。磁気センサである装着センサ11は、ホール素子又は磁気抵抗素子等を用いて構成されている。またシールドケース31は、蛍光X線分析装置1に装着された状態で装着センサ11に近接する位置に磁石(磁気発生部品)32が設けられている。蛍光X線分析装置1にシールドケース31が装着された場合、装着センサ11は磁石32の磁気を検出し、シールドケース31が装着されたことを示す信号を制御部21へ出力する。なお、磁石32は永久磁石であってもよく、電磁石であってもよい。またシールドケース31は、コイル等の、磁石以外の磁気発生部品を備える形態であってもよい。
【0031】
図5は、装着センサ11が接触スイッチである形態を示す蛍光X線分析装置1及びシールドケース31の模式的部分断面図である。図5中では、シールドケース31を模式的断面図で示してある。蛍光X線分析装置1の装着センサ11は、蛍光X線分析装置1にシールドケース31が装着された場合にシールドケース31に接触する位置に配置されている。図5(a)に示すように、蛍光X線分析装置1にシールドケース31が装着されていない状態では、接触スイッチである装着センサ11は押下されていない状態となっている。図5(b)に示すように、蛍光X線分析装置1にシールドケース31が装着された状態では、装着センサ11はシールドケース31に接触して押下されており、装着センサ11は、シールドケース31が装着されたことを示す信号を制御部21へ出力する。
【0032】
次に、以上の構成でなる蛍光X線分析装置1の動作を説明する。図6は、本発明の蛍光X線分析装置1が蛍光X線分析を行うために実行する処理の手順を示すフローチャートである。蛍光X線分析装置1の制御部21は、使用者が入力部24を操作することによる、蛍光X線分析の開始指示の入力を入力部24で受け付ける(S1)。制御部21は、次に、装着センサ11からの信号に基づいて、蛍光X線分析装置1にシールドケース31が装着されているか否かを判定する(S2)。ステップS2では、制御部21は、シールドケース31が装着されたことを示す信号を装着センサ11から受け付けている場合に蛍光X線分析装置1にシールドケース31が装着されていると判定し、シールドケース31が装着されたことを示す信号を受け付けていない場合に蛍光X線分析装置1にシールドケース31が装着されていないと判定する。
【0033】
ステップS2で蛍光X線分析装置1にシールドケース31が装着されていると判定した場合は(S2:YES)、制御部21は、蛍光X線分析のモードとして、高パワーモード及び低パワーモードのいずれかを選択するための選択画面を表示部23に表示させる(S3)。図7は、蛍光X線分析のモードを選択するための選択画面の例を示す模式図である。図7(a)は、高パワーモード及び低パワーモードのいずれかを選択するための選択画面を示しており、高パワーモードの文字列と低パワーモードの文字列とが表示されている。タッチパネル上で何れかの文字列を指で選択する等の方法で使用者が入力部24を操作することにより、蛍光X線分析装置1は、モードの指定の入力を入力部24で受け付けることができる。
【0034】
高パワーモードと低パワーモードとでは、蛍光X線分析装置1が放射するX線の強度を異ならせている。低パワーモードは、X線の出力強度を予め定められた所定の強度以下に制限したモードであり、高パワーモードは、X線の出力強度を低パワーモードよりも高くしたモードである。電力供給部15がX線管12へ供給する電流の大きさを変更することによってX線管12が発生するXの強度が変化し、蛍光X線分析装置1が放射するX線の強度は変更される。高パワーモード及び低パワーモードの夫々に対応する電流の大きさは記憶部22に予め記憶されている。低パワーモードでのX線強度は、たとえX線被曝が発生した場合であってもX線による人体への悪影響を最小限に抑えることができる強度に設定されている。制御部21は、ステップS3にて、高パワーモードを選択できる選択画面を表示部23に表示させることにより、低パワーモードでのX線強度以上の強度でX線を放射することを可能にさせる。
【0035】
高パワーモードは低パワーモードよりもX線強度が高いので、蛍光X線分析の感度がより高い。従って、より高感度・高精度の蛍光X線分析が必要である場合に、高パワーモードが選択される。例えば、分析対象の元素が微量である場合、又は分析結果に対する母材の影響が大きい場合等では、高パワーモードが選択される。逆に、分析対象の元素が多量である場合、又は分析結果に対する母材の影響が小さい場合等では、低パワーモードを選択しても構わない。なお、高パワーモード及び低パワーモードの名称は一例であり、互いにX線の出力強度が異なるモードであれば、モードの名称にその他の名称を用いてもよい。
【0036】
ステップS2で蛍光X線分析装置1にシールドケース31が装着されていないと判定した場合は(S2:NO)、制御部21は、蛍光X線分析のモードとして、低パワーモードを選択するための選択画面を表示部23に表示させる(S4)。図7(b)は、低パワーモードを選択するための選択画面を示しており、高パワーモードの文字列は表示されておらず、低パワーモードの文字列のみが表示されている。この状態では、低パワーモードの指定のみが受け付け可能となっている。
【0037】
ステップS3又はステップS4が終了した後は、制御部21は、選択画面を利用したモードの指定の受け付けを待ち受ける(S5)。モードの指定の受け付けがない場合は(S5:NO)、制御部21は、モードの指定の待ち受けを続行する。モードの指定の入力を入力部24で受け付けた場合は(S5:YES)、制御部21は、指定された蛍光X線分析のモードに合わせて、電力供給部15からX線管12へ供給する電流の大きさを設定する(S6)。ステップS6では、低パワーモードが指定されている場合はX線強度を所定の強度以下に制限する電流の大きさに設定され、高パワーモードが指定されている場合はより大なる電流の大きさに設定される。
【0038】
制御部21は、次に、トリガ17が押下されることを待ち受ける(S7)。トリガ17の押下がない場合は(S7:NO)、制御部21は、トリガ17の押下の待ち受けを続行する。トリガ17が押下された場合は(S7:YES)、制御部21は、試料センサ14からの信号に基づいて、X線の放射が可能であるか否かを判定する(S8)。ステップS8では、制御部21は、試料が接触面18に接触していることを示す信号を装着センサ14から受け付けている場合にX線の放射が可能であると判定し、試料が接触面18に接触していることを示す信号を試料センサ14から受け付けていない場合にX線の放射が不可能であると判定する。蛍光X線分析装置1にシールドケース31が装着されていない状態で接触面18に試料が接触していない場合、又は蛍光X線分析装置1にシールドケース31が装着されている状態でシールドケース31の蓋部が開いている場合には、試料センサ14は信号を出力せず、制御部21はX線の放射が不可能であると判定することになる。逆に蛍光X線分析装置1にシールドケース31が装着されていない状態で接触面18に試料が接触している場合、又は蛍光X線分析装置1にシールドケース31が装着されている状態でシールドケース31の蓋部が閉じている場合には、試料センサ14は信号を出力し、制御部21はX線の放射が可能であると判定することになる。
【0039】
ステップS8でX線の放射が不可能であると判定した場合は(S8:NO)、制御部21は、処理をステップS7へ戻す。X線の放射が可能であると判定した場合は(S8:YES)、制御部21は、電力供給部15にX線管12へ設定した大きさの電流を供給させることにより、X線管12にX線を発生させる(S9)。X線管12が発生したX線は、接触面18に形成された開口部から放射されて試料に照射される。試料から発生した蛍光X線はX線検出器13で検出され、制御部21は、検出回路16から蛍光X線のスペクトルを取得し、取得したスペクトルに基づいて、試料に含まれる元素の蛍光X線分析を行う(S10)。制御部21が実行した蛍光X線分析の結果は、表示部23に表示される。制御部21は、ステップS10で処理を終了する。
【0040】
以上詳述した如く、本発明においては、蛍光X線分析装置1は、シールドケース31が装着されず、外部の試料へX線を照射して蛍光X線分析を行う場合は、高パワーモードでの動作ができず、X線の強度が所定の強度以下に抑えられた低パワーモードでの動作のみが可能である。低パワーモードで動作する場合には、蛍光X線分析装置1が蛍光X線分析の際に放射するX線の強度が所定の強度以下の小さい強度に抑えられる。従って、蛍光X線分析装置1にシールドケース31が装着されずに使用される場合は、蛍光X線分析装置1外へX線が放射されるのでX線被曝の危険性があるものの、本発明では、X線の出力強度が小さく抑えられるので、X線被曝の危険性を可及的に小さくすることができる。
【0041】
また本発明においては、蛍光X線分析装置1は、シールドケース31が装着され、シールドケース31内の試料へX線を照射して蛍光X線分析を行う場合は、低パワーモード及び高パワーモードのいずれのモードでも動作することが可能である。高パワーモードで動作する場合には、蛍光X線分析装置1は、蛍光X線分析の際に低パワーモードよりも大きい強度でX線を放射することができる。従って、蛍光X線分析装置1にシールドケース31が装着されて使用される場合は、シールドケース31内の試料に照射するX線の強度をより大きくすることが可能であるので、蛍光X線分析による高感度・高精度の元素分析を行うことができる。またシールドケース31内へ放射されたX線はシールドケース31によってシールドされるので、高感度・高精度の蛍光X線分析を安全に実行することが可能となる。
【0042】
なお、以上の実施の形態においては、卓上型蛍光X線分析装置の試料室として利用できるシールドケース31を用いた形態を示したが、本発明は、その他の形状のシールドケースを用いた形態であってもよい。図8は、キャップ型のシールドケース33を用いた本発明の形態を示す模式図である。シールドケース33は、蛍光X線分析装置1の接触面18に被せるキャップ状に形成されてある。接触面18に小型の試料を載せ、更にその上からシールドケース33を被せることにより、X線をシールドした状態で蛍光X線分析を行うことが可能である。蛍光X線分析装置1は、前述の形態と同様に、装着センサ11によりシールドケース33が装着されていることを検出し、本発明を実現することが可能である。
【0043】
また本実施の形態においては、X線管12に供給する電流を制御することによってX線の強度を制限する形態を示したが、本発明は、蛍光X線分析装置が放射するX線の強度を制限する方法としてその他の方法を用いた形態であってもよい。例えば、本発明の蛍光X線分析装置は、X線管12に供給する電圧を制御することによって、X線管12が発生するX線の強度を制限する形態であってもよい。また本発明の蛍光X線分析装置は、発生するX線の強度が異なる複数のX線管を備え、X線を発生させるX線管を変更することによって、放射するX線の強度を変更する形態であってもよい。また本発明の蛍光X線分析装置は、複数のX線管を備え、X線を発生させるX線管の数を変更することによって、放射するX線の強度を変更する形態であってもよい。また本発明の蛍光X線分析装置は、X線を減衰させるX線フィルタを備え、X線管12から発生したX線をX線フィルタに通過させることによって、放射するX線の強度を制限する形態であってもよい。
【符号の説明】
【0044】
1 蛍光X線分析装置
11 装着センサ(検出手段)
12 X線管(X線源)
13 X線検出器
14 試料センサ
2 小型コンピュータ
21 制御部
23 表示部
31、33 シールドケース
32 磁石(磁気発生部品)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線源を備え、該X線源から発生したX線を外部へ放射し、X線を照射された外部の試料から発生する蛍光X線を検出し、検出した蛍光X線に基づいて前記試料の蛍光X線分析を行う蛍光X線分析装置において、
X線をシールドするシールドケースを着脱可能であり、
前記シールドケースの内部に配置された試料の蛍光X線分析を行うために、前記シールドケースを装着した状態で前記シールドケースの内部へX線を放射することができる構成となっており、
前記シールドケースを装着していることを検出する検出手段と、
前記シールドケースを装着していることを前記検出手段が検出していない場合に、放射するX線の強度を、所定の強度以下に制限する制限手段と、
前記シールドケースを装着していることを前記検出手段が検出してる場合に、前記所定の強度よりも大きい強度で前記シールドケースの内部へX線を放射することを可能にする手段と
を備えることを特徴とする蛍光X線分析装置。
【請求項2】
前記制限手段は、前記X線源が発生するX線の強度を制限するように構成してあることを特徴とする請求項1に記載の蛍光X線分析装置。
【請求項3】
前記シールドケースは、磁気発生部品を組み込んであり、
前記検出手段は、前記磁気発生部品の磁気を検出する磁気センサを用いてなることを特徴とする請求項1又は2に記載の蛍光X線分析装置。
【請求項4】
前記検出手段は、前記シールドケースを装着している状態で前記シールドケースが接触する位置に配置した接触スイッチを用いてなることを特徴とする請求項1又は2に記載の蛍光X線分析装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2010−223641(P2010−223641A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−69195(P2009−69195)
【出願日】平成21年3月20日(2009.3.20)
【出願人】(000155023)株式会社堀場製作所 (638)
【Fターム(参考)】