説明

蝶番付きプラスチック成形体

【課題】 圧縮薄肉化して形成する蝶番部に対するシート状片の圧縮一体化に加えてシート状片の係着面を樹脂壁に食い込ませて一体化をさらに強化することができ、強度および耐久性に優れるとともに、シート状片が樹脂壁の表面に現れることなく外観性に優れた蝶番付きプラスチック成形体を提供する。
【解決手段】 蝶番付きプラスチック成形体1は、二つの構成部分2,3をそれらと一体を成す薄肉の蝶番部4で連結して成る。蝶番部4は、二つの構成部分2、3を成す樹脂壁をその裏面1a側から表面1bへ向けて圧縮薄肉化して形成するとともに、蝶番部4の裏面側に、成形過程の溶融樹脂に食い込ませる係着面6を有するシート状片5を一体状に貼着する。シート状片5は、ループ状起毛または係合突起を有する織布片、編布片または不織布片である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二つの構成部分をそれらと一体を成す薄肉の蝶番部で連結して成る蝶番付きプラスチック成形体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
二つの構成部分をそれらと一体を成す薄肉の蝶番部で連結して成る蝶番付きプラスチック成形体は、車両の構成部材や容器の構成部材等として広く用いられている。そして、この種の蝶番付きプラスチック成形体の蝶番構造としては、二つの構成部分の樹脂壁を単に薄肉に形成したもののほか(特開2000−67739公報参照)、二つの構成部分の樹脂壁を薄肉に形成するとともに薄肉に形成した樹脂壁の表面にシート状片を貼着したもの(特表2003−503231公報参照)が知られている。なお、二つの構成体が一体でなくそれぞれの構成部分の間を蝶番部材で接合して蝶番構造としたものもある(特開2001−46186公報参照)。
【0003】
二つの構成部分の樹脂壁を単に薄肉に形成した蝶番の強度と耐久性を向上させる手段として、前掲の特表2003−503231公報に示すように、薄肉に形成した樹脂壁の表面にシート状片を貼着することはある程度有効であるが、薄肉に形成した部分の樹脂壁に対して状片が単に合わせ状態に貼着されているだけであるから、蝶番部分を補強する効果が限定的であるうえ、樹脂壁の表面にシート状片があるので、表皮材が無い場合は著しく外観が損なわれるし、たとえ樹脂壁の表面に表皮材を貼ったものであっても、シート状片が段差となって外観が損なわれることがある。
【特許文献1】特開2000−67739公報
【特許文献2】特表2003−503231公報
【特許文献3】特開2001−46186公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本発明は、二つの構成部分を成す樹脂壁をその裏面側から表面へ向けて圧縮薄肉化して形成する蝶番部の裏面側に、成形過程の溶融樹脂に食い込ませる係着面を有するシート状片を一体状に貼着することにより、圧縮薄肉化して形成する蝶番部に対するシート状片の圧縮一体化に加えてシート状片の係着面を樹脂壁に食い込ませて一体化をさらに強化して、強度および耐久性に優れるとともに、シート状片が樹脂壁の表面に現れることなく外観性に優れた蝶番付きプラスチック成形体を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明は次の技術的手段を提供する。すなわち、本発明の請求項1に係る蝶番付きプラスチック成形体は、二つの構成部分をそれらと一体を成す薄肉の蝶番部で連結して成るプラスチック成形体において、蝶番部は、二つの構成部分を成す樹脂壁をその裏面側から表面へ向けて圧縮薄肉化して形成するとともに、蝶番部の裏面側に、成形過程の溶融樹脂に食い込ませる係着面を有するシート状片を一体状に貼着したことを特徴とするものである。
【0006】
また、本発明の請求項2に係る蝶番付きプラスチック成形体は、請求項1の構成において、シート状片は、ループ状起毛または係合突起を有する織布片、編布片または不織布片であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る蝶番付きプラスチック成形体は、二つの構成部分を成す樹脂壁をその裏面側から表面へ向けて圧縮薄肉化して形成する蝶番部の裏面側に、成形過程の溶融樹脂に食い込ませる係着面を有するシート状片を一体状に貼着するものであるから、圧縮薄肉化して形成する蝶番部に対するシート状片の圧縮一体化に加えてシート状片の係着面を樹脂壁に食い込ませて一体化をさらに強化することができ、強度および耐久性に優れるとともに、シート状片が樹脂壁の表面に現れることなく外観性に優れたものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明に係る蝶番付きプラスチック成形体1は、図1および図2に示すように、二つの構成部分2、3を、それらと一体を成す薄肉の蝶番(ヒンジ)部4で連結して成り、蝶番部4は、二つの構成部分2、3を成す樹脂壁をその裏面1a側から表面1bへ向けて圧縮薄肉化して形成する。蝶番部4の裏面側にはシート状片5が一体に貼着されている。このシート状片5は、成形過程の溶融樹脂に食い込ませる係着面6を有しており、シート状片5はその係着面6に樹脂が食い込んで強力に貼着される。シート状片5は、織布片、編布片または不織布片であり、その係着面6はループ状起毛を成している。シート状片5は、図3に示すように、先端が笠状に広がりをもった係合突起7を有する織布片、編布片または不織布片、あるいは面ファスナーなどであってもよい。
【0009】
前記蝶番付きプラスチック成形体1は、図4に示すようにブロー成形されるものである。すなわち、8、9は一対の分割金型であり、その一方の金型8は蝶番部成形キャビティ10を有している。この蝶番部成形キャビティ10は樹脂壁を圧縮薄肉化するための突部である。図示した蝶番付きプラスチック成形体1は中空二重壁構造であるが、これは単壁構造のパネルなどであってもよく、また、中空二重壁構造または単壁構造のいずれであってもブロー成形のほか圧空成形または射出成形など適宜の成形法により成形することができる。
【0010】
図4に示すように、一対の分割金型8、9間にパリソン11を配置し、一方の金型8の蝶番部成形キャビティ10には、シート状片5をその係着面6側がパリソン11と対向するように装着してプラスチック成形体をブロー成形する。このようにブロー成形されたプラスチック成形体は、蝶番部成形キャビティ10により圧縮薄肉化される蝶番部5の凹部となる裏面には、シート状片5がその係着面6が溶融状態の樹脂壁に食い込んで強力に一体化され、蝶番部4はシート状片5によって補強された蝶番付きプラスチック成形体1が成形される。
【0011】
本発明に係る蝶番付きプラスチック成形体1は、ABS樹脂、変性ポリフェニレンオキサイド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリアセタール、ポリフェニレンスルファイドなどの熱可塑性樹脂で構成される。また熱硬化性樹脂で構成することも可能である。
【0012】
また、シート状片5の係着面6としては、前記のようにループ状起毛であることが好適であるが、これはフック状など係着性に優れたものであればもよい。シート状片5としては、ポリアミド、セルロースや芳香族ポリエステル、ポリイミド、ポバール[商品名ビニロン(R)]などの繊維から成る直径20〜100μm、好ましくは直径40〜90μmの単繊維を10〜90本合糸したマルチフィラメントをループ状成形繊維としたものである。
【0013】
本発明に係る蝶番付きプラスチック成形体1によれば、二つの構成部分2、3を成す樹脂壁をその裏面1a側から表面1bへ向けて圧縮薄肉化して形成する蝶番部4の裏面側に、成形過程の溶融樹脂に食い込ませる係着面6を有するシート状片5を一体状に貼着するものであるから、圧縮薄肉化して形成する蝶番部4に対するシート状片5の圧縮一体化に加えてシート状片5の係着面6を樹脂壁に食い込ませて一体化をさらに強化することができる。このため強度および耐久性が大きく向上するとともに、シート状片5が樹脂壁の表面に現れることがないので、樹脂壁が露出している場合はもとより、樹脂壁の表面に表皮材を貼ったものの場合にもシート状片5による段差が生じないので外観性に優れたものとなる。
【0014】
図5および図6は、本発明に係る蝶番付きプラスチック成形体1を作業車両12の収納部開閉カバー13として用いた実施の態様を例示している。14は運転席、15は搭乗者座席である。
【0015】
本発明に係る蝶番付きプラスチック成形体1は、薄肉の蝶番部4がシート状片5により強力に補強されているので、二つの構成部分2、3の開閉頻度が高い部材や二つの構成部分2、3の開閉角度が大きく特に180°ないしは180°を超えて360°近い角度まで開閉されるような部材として強度および耐久性の面で好適である(図2参照)。なお、蝶番部4は薄肉であってもシート状片5と一体になって補強されているので、蝶番部4は変形や捻れが生じやすい部分であるにもかかわらず引き裂きや引っ張りに対する強度および剛性も高く、蝶番付きプラスチック成形体1がパネル状のものにおいても強度および剛性に優れたものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施の形態に係る蝶番付きプラスチック成形体の要部断面図である。
【図2】同上屈曲態様を示す要部断面図である。
【図3】シート状片の他例を示す一部斜視図である。
【図4】本発明に係る蝶番付きプラスチック成形体のブロー成形態様を示す断面図である。
【図5】本発明に係る蝶番付きプラスチック成形体を作業車両の収納部開閉カバーとして用いた態様を示す斜視図である。
【図6】同上収納部開閉カバーを開いた態様を示す部分斜視図である。
【符号の説明】
【0017】
1 蝶番付きプラスチック成形体
1a 裏面
1b 表面
2、3 二つの構成部分
4 蝶番部
5 シート状片
6 係着面
7 係合突起
8、9 一対の分割金型
10 蝶番部成形キャビティ
11 パリソン
12 作業車両
13 収納部開閉カバー
14 運転席
15 搭乗者座席

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二つの構成部分をそれらと一体を成す薄肉の蝶番部で連結して成るプラスチック成形体において、
蝶番部は、二つの構成部分を成す樹脂壁をその裏面側から表面へ向けて圧縮薄肉化して形成するとともに、
蝶番部の裏面側に、成形過程の溶融樹脂に食い込ませる係着面を有するシート状片を一体状に貼着した
ことを特徴とする蝶番付きプラスチック成形体。
【請求項2】
シート状片は、ループ状起毛または係合突起を有する織布片、編布片または不織布片であることを特徴とする請求項1記載の蝶番付きプラスチック成形体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−34872(P2009−34872A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−200213(P2007−200213)
【出願日】平成19年7月31日(2007.7.31)
【出願人】(000104674)キョーラク株式会社 (292)
【Fターム(参考)】