融合ポリペプチド、および抗血管腫瘍治療におけるその使用
開示されるのは、融合ポリペプチドであって、a)この融合ポリペプチドを腫瘍血管内皮細胞へと選択的に結合させ得る、3〜30アミノ酸のペプチド;およびb)組織因子(TF)またはそのフラグメントであって、この組織因子およびこのフラグメントは、この融合ポリペプチドが腫瘍血管内皮細胞に結合した際に血液凝固を活性化し得ることによって特徴付けられる、組織因子またはそのフラグメントを含む、融合ポリペプチドである。ペプチドa)とペプチドb)とは、互いに直接結合しているか、または15個までのアミノ酸を含むリンカーによって連結されており、なおもこの融合ポリペプチドを腫瘍血管内皮細胞へと選択的に結合させ得るペプチドは、この融合ポリペプチドが腫瘍血管内皮細胞に結合した際に血液凝固を活性化し得るペプチドのC末端に結合されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも2つのペプチドを含む融合ポリペプチドに関する。一方のペプチドは、3〜30個のアミノ酸を含み、この融合ポリペプチドを、腫瘍血管内の内皮細胞に選択的に結合させる。他方のペプチドは、組織因子(TF)またはそのフラグメントからなり、この組織因子およびフラグメントは、この融合ポリペプチドが腫瘍血管内の内皮細胞に結合した際に血液凝固を活性化し得ることによって特徴付けられる。これらのペプチドは、直接一緒に連結されてもよく、または15個までのアミノ酸を有するリンカーを介して一緒に連結されてもよい。本発明はさらに、新生物疾患の抗血管治療におけるこれらの融合タンパク質の使用、および新生物疾患の処置のための薬物を製造する際のそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
適切な新生血管新生は、進行性の腫瘍増殖に必須である(1(非特許文献1))。血管新生は、膨張性腫瘍増殖を維持するために特に必要とされる。なぜなら、充分な酸素供給のみが、腫瘍への栄養供給および腫瘍からの腫瘍分解産物の除去を確実にするからである。
【0003】
腫瘍処置に関する先行技術では、抗血管治療ストラテジーが開発されており、これらは、血管の増殖および分化の複雑なプロセスを攻撃する抗血管治療ストラテジーに加えて、腫瘍血管および関連する腫瘍梗塞の破壊を目的としている。
【0004】
これらのストラテジーの前提条件は、正常組織内の静止内皮細胞に生じない、腫瘍の血管内皮内の標的構造の同定である。これらの特異的標的構造は、細胞増殖抑制剤または特定の毒素を、腫瘍細胞自体に対してよりも低い程度で、腫瘍血管内皮細胞へと提供するために利用され得る。この目的のために使用され得る標的構造は、bFGF(塩基性線維芽細胞増殖因子)、VEGF(血管内皮増殖因子)およびVEGF−2(VEGFレセプター2)、エンドグリン、エンドシアリン(endosialin)、フィブロネクチンアイソフォーム(ED−Bドメイン)、インテグリンαvβ3、αvβ5、α1β1およびα1β2、アミノペプチダーゼN、NG2プロテオグリカン、ならびにマトリックスメタロプロテイナーゼ2および9(MMP2およびMMP9)(2〜13(非特許文献2〜13))。例えば、Arapら(8(非特許文献8))は、α1インテグリンに特異的に結合するペプチドを、化学療法についての技術水準で使用された活性物質(ドキソルビシン)へと結合させた。動物モデルにおいて、ドキソルビシンの抗腫瘍効果が、このペプチドに結合することによって改善され得ることが実証された。
【0005】
代替の抗血管治療アプローチは、腫瘍壊死を誘導するための、腫瘍血管における血液凝固の選択的活性化を含む。例えば、短縮型組織因子(tTF)およびMHCクラスII抗原に対する、二重特異性F(ab’)2抗体フラグメントが生成された。腫瘍内皮細胞内でのこの抗原の実験的誘導後、抗血管治療は、この抗体をマウス神経芽細胞腫モデルに投与することによって実証され得る(14(非特許文献14))。同じチームによる第2の研究では、tTFを、天然に存在する腫瘍血管内皮マーカーVCAM−1(血管細胞付着分子−1)に選択的に結合させる免疫結合体が用いられた(15(非特許文献15))。
【0006】
非常に類似したアプローチでは、腫瘍胎児性ED−Bドメインに特異的である抗体フラグメント(scFv)をtTFと融合させた。生成された融合タンパク質scFv−tTFは、マウスモデルにおいて種々の腫瘍内で完全かつ選択的な梗塞をもたらした(16(非特許文献16))。
【0007】
あるいは、tTFは、前立腺特異的膜抗原のインヒビターに結合された(17(非特許文献17))。この融合タンパク質は、静脈内投与後、ラット前立腺モデルにおいて、選択的梗塞壊死を誘導した。この融合タンパク質を低用量の細胞傷害性物質(ドキソルビシン)と組み合わせて投与することにより、大規模な腫瘍後退、さらには完全な腫瘍根絶がもたらされた(17(非特許文献17))。VEGFRに対する抗体フラグメント、エンドグリンに対する抗体フラグメントおよびVCAM−1に対する抗体フラグメントからなる他のtTF融合タンパク質は、近年記載されている(18(非特許文献18))。
【0008】
しかし、技術水準で抗血管腫瘍治療のために生成された分子は、欠点を有する。特に、これらの分子は、それらのサイズに起因して免疫原性であるとみなされるべきである。それゆえ、これらの分子での哺乳動物の処置は、これらの分子に対する免疫反応を誘発し、その結果、これらの分子の反復投与が不可能になる。
【0009】
血液凝固を活性化し得るペプチド部分を腫瘍組織に導く結合パートナーのサイズは、さらに、血液凝固に重要である高分子第VIIa因子/FX酵素−基質複合体の形成に対する立体障害を引き起こし得る。この複合体の形成はまた、血液凝固を活性化し得るペプチドが、比較的大きな融合パートナーに起因して変化したコンホメーションを有する場合にも阻害され得る。
【0010】
技術水準(WO 03/035688(特許文献1))では、選択的結合ドメイン(例えば、フィブロネクチンのうちの、インテグリンに結合するドメイン(例えば、RGDペプチドを含むドメイン)またはD−β−Eジペプチド(PSMA(前立腺特異的膜抗原)に結合する))が組織因子ポリペプチドのN末端に結合された融合ポリペプチドもまた公知である。アミド分解(amidolytic)効果およびタンパク質分解効果がインビトロで実証されたが、これらの構築物は、第VIIa因子との組合せでさえも、極めて弱い抗腫瘍効果をインビボで示したに過ぎない。これらの動物は、ドキシサイクリンとの組合せにおいてのみ、より長期に生存した。
【0011】
Huら(46(非特許文献19))は、短縮型組織因子に結合された、RGD配列を含む9アミノ酸のオリゴペプチド由来の融合タンパク質を含め、種々の融合タンパク質および腫瘍血管における血栓の生成のためのそれらの使用を記載する。さらに、RGDペプチドは、tTFのN末端に連結され、RGD−tTFが得られた。機能分析は、RGDを含む融合タンパク質が、腫瘍増殖の顕著な阻害を全く生じないことを示した。
【0012】
技術水準で公知の構築物は、選択的結合ドメインが組織因子ポリペプチドのN末端に連結するような様式でこのようにして構築された。この構築物が選択されなければならないことが強調されさえした。なぜなら、構造モデルに基づいて、N末端は、血栓の開始を阻害しない特に好ましい結合部位であると考えられたからである。
【特許文献1】国際公開第WO 03/035688号パンフレット
【非特許文献1】Folkman J,Watson K,Ingber D,Hanahan D:Induction of angiogenesis during the transition from hyperplasia to neoplasia.Nature 339:58−61,1989
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【非特許文献4】Terman BJ,Dougher−Vermazen M:Biological properties of VEGF/VPF receptors.Cancer Metastasis Rev 15:159−163,1996
【非特許文献5】Burrows FJ,Derbyshire EJ,Tazzari PL,Amlot P,Gazdzar AF,King SW,Letarte M,Vitetta ES,Thorpe PE:Upregulation of endoglin on vascular endothelial cells in human solid tumors:Implications for diagnosis and therapy.Clin Cancer Res 1:1623−1634,1995
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【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
これらの先行技術を考慮して、それゆえ、課題は、腫瘍増殖をインビボで効果的に阻害し得る代替的トロンボゲン形成物質を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
(発明の要旨)
この課題は、融合ポリペプチドを腫瘍血管内皮細胞に選択的にさせる3〜30個のアミノ酸のペプチド、および組織因子(TF)またはそのフラグメントを含む融合ポリペプチドによってここで解決され、この融合ポリペプチドは、この組織因子およびフラグメントが、この融合ポリペプチドが腫瘍血管内皮細胞に結合した際に血液凝固を活性化し得、これらのペプチドが、互いに直接結合しているかまたは15個までのアミノ酸を有するリンカーを介して互いに結合されていること特徴付けられる。このペプチドは、この融合ポリペプチドが腫瘍血管内皮細胞に選択的に結合することを可能にし、この融合ポリペプチドが腫瘍血管内皮細胞に結合したときに血液凝固を活性化し得るペプチドのC末端に結合されている。本発明はさらに、対応する融合ポリペプチドを含む薬学的組成物、および腫瘍の処置のためのその使用に関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
(発明の詳細な説明)
先行技術で観察された課題は、以下のペプチドを含む融合ポリペプチドによっていまや克服された:
a)この融合ポリペプチドを腫瘍血管内皮細胞へと選択的に結合させ得る、3〜30アミノ酸のペプチド;および
b)組織因子(TF)またはそのフラグメントであって、この組織因子およびこのフラグメントは、この融合ポリペプチドが腫瘍血管内皮細胞に結合したときに血液凝固を活性化し得ることによって特徴付けられる、組織因子またはそのフラグメント。ここで、このペプチドa)およびペプチドb)は、互いに直接結合しているかまたは15個までのアミノ酸を有するリンカーを介して互いに結合されており、この融合ポリペプチドは、この融合ポリペプチドを腫瘍血管内皮細胞へと選択的に結合させ得るペプチドが、この融合ポリペプチドが腫瘍血管内皮細胞に結合した際に血液凝固を活性化し得るペプチドのC末端に結合されていることを特徴とする。本発明はさらに、対応する融合ポリペプチドを含む薬物、および腫瘍の処置のためのその使用に関する。
【0016】
配列a)および配列b)に加えて、本発明による融合ポリペプチドは、さらなる配列を含み得る。ただし、これらは、融合ポリペプチドの立体コンホメーションに対して有害な効果を有さず、そして血液凝固を誘発する酵素−基質複合体の形成を妨げない。本発明による融合ポリペプチドは、例えば、His−Tagの配列を含み得る。His−Tagの配列は、このペプチドの組換え発現および精製を単純にする(実施例を参照のこと)。しかし、これらの配列の存在は必要ではない。本発明の好ましい実施形態によれば、この融合ポリペプチドは、それゆえ、以下を含む:
a)この融合ポリペプチドを腫瘍血管内皮細胞へと選択的に結合させ得る、3〜30アミノ酸のペプチド;および
b)組織因子(TF)またはそのフラグメントであって、この組織因子およびこのフラグメントは、この融合ポリペプチドが腫瘍血管内皮細胞に結合したときに血液凝固を活性化し得ることによって特徴付けられる、組織因子またはそのフラグメント。ここで、このペプチドa)およびペプチドb)は、互いに直接結合しているかまたは15個までのアミノ酸を有するリンカーを介して互いに結合されている。本発明の特に好ましい実施形態によれば、この融合ポリペプチドは、以下を含む:
a)この融合ポリペプチドを腫瘍血管内皮細胞へと選択的に結合させ得る、3〜30アミノ酸のペプチド;および
b)組織因子(TF)またはそのフラグメントであって、この組織因子およびこのフラグメントは、この融合ポリペプチドが腫瘍血管内皮細胞に結合したときに血液凝固を活性化し得ることによって特徴付けられる、組織因子またはそのフラグメント。ここで、このペプチドa)およびペプチドb)は、互いに結合している。
【0017】
本発明によれば、融合ポリペプチドを腫瘍血管内皮細胞へと選択的に結合させ得る特に小さなペプチド、および融合ポリペプチドが腫瘍血管内皮細胞に結合したときに血液凝固を活性化し得るペプチド由来の融合ポリペプチドが、抗血管腫瘍治療に特に有利であることが驚くべきことに示された。腫瘍血管内皮細胞への結合を可能にするポリペプチドのサイズが小さいことにより、この融合タンパク質の内皮細胞のリン脂質膜への配向が改善される。
【0018】
血液凝固に必須である酵素/基質複合体の形成は、立体的に障害を受けず、そして組織因子TF(これは、血液凝固を活性化し得る)はコンホメーションの変化を受けない。
【0019】
本発明の好ましい実施形態によれば、融合ポリペプチドが腫瘍血管内皮細胞に結合したときに血液凝固を活性化し得るペプチドは、配列番号1(図12)に示すアミノ酸配列を有する組織因子TFである。本発明はさらに、配列番号1(図12)に対して少なくとも70%または少なくとも80%のアミノ酸相同性を有する組織因子配列を含み、少なくとも95%の相同性を有する配列が特に好ましい。相同性の程度は、100アミノ酸の長さにつき4つのギャップが可能として比較される配列の可能な最大の一致を達成するように2つの配列を上下に書くことにより決定される(Dayhoff,Atlas of Protein Sequence and Structure,5,124,1972を参照のこと)。次いで、2つのアミノ酸鎖のうちの短い方について、他方の鎖における同一のアミノ酸残基に対向する鎖のアミノ酸残基の百分率を決定する。
【0020】
融合ポリペプチドが腫瘍血管内皮細胞に結合したときに腫瘍血管における血液凝固を活性化し得るペプチドは、さらに、組織因子TFのフラグメントまたはTFに相同な配列のフラグメントであり得る。好ましくは、このフラグメントは、配列番号2(図13)に示す配列を有する。配列番号2(図13)に示す配列(tTF1−218または省略してtTF)は、TFのN末端の218アミノ酸を含む。さらに、本発明によれば、tTFと比較してN末端またはC末端のいくつかのアミノ酸を欠くtTFフラグメントを使用することもまた可能である。例えば、N末端の10アミノ酸までを欠くフラグメント(tTF11−218)を使用することが可能である。さらに、C末端の8アミノ酸までを欠くフラグメント(tTF1−210)(例えば、tTF1−214)が使用され得る。
【0021】
本発明は、融合ポリペプチドに関し、ここで、腫瘍血管の内皮細胞に選択的に結合し得るペプチドは、血液凝固を活性化し得るペプチドのC末端に結合している。本発明によれば、用語「腫瘍血管内皮細胞」および用語「腫瘍血管内の内皮細胞」は、腫瘍の血管を覆う細胞をいうために使用される。上記の配置により、内皮細胞のリン脂質膜に対して垂直な融合タンパク質の配向が確実になり、このことが血液凝固の誘発に特に有利であることが本発明によって確立された。この配向は、血液凝固を誘導する間のTFの天然での配向に対応する。図3に示すように、第X因子の活性化に関して、このようにして生成された全ての構築物について、FVIIa/tTF1−218またはFVIIa/tTF1−218融合タンパク質によって、非常に類似したミカエリス−メンテン反応速度が見出される。対照的に、先行技術では、凝固を活性化するペプチドは、標的化分子のC末端に結合された((16)を参照のこと)。したがって、本発明による融合ポリペプチドは、先行技術で用いられたペプチドとは基本的に異なる。
【0022】
融合ポリペプチドを腫瘍血管内皮細胞へと選択的に結合させ得るペプチドは、3〜30アミノ酸の長さを有しかつ腫瘍血管内皮細胞を高い特異性で結合する、任意のペプチドであり得る。対応するペプチドは、技術水準で通常である方法によってペプチドライブラリーから単離され得る。これらは、選択されるペプチドライブラリーに依存して、直鎖状または環状の構造を有し得る。
【0023】
本発明の1つの実施形態によれば、融合ポリペプチドを腫瘍血管内皮細胞に選択的に結合させ得るペプチドは、アミノ酸配列RGDまたはNGRを含む。両方の配列とも、インテグリン(特にαvβ3インテグリンおよびαvβ5インテグリン)に対する特異的結合に関して(RGDペプチド)、ならびに細胞付着モチーフとして(NGRペプチド)先行技術で公知である((8)を参照のこと)。本発明によれば、これらのペプチドが、融合ポリペプチドの一部として特に適切であり、融合ポリペプチドの他の部分は、融合ポリペプチドが腫瘍血管内皮細胞に結合したときに腫瘍において血液凝固を活性化し得るペプチドであることが驚くべきことに示された。
【0024】
特に有利な効果は、配列GRGDSPを有する直鎖状ペプチド、配列GNGRAHAを有する直鎖状ペプチドおよび配列GALNGRSHAGを有する直鎖状ペプチド、ならびに配列GCNGRCGを有する環状ペプチド、配列GCNGRCVSGCAGRCを有する環状ペプチドおよび配列GCVLNGRMECを有する環状ペプチドを用いて得られた。これらの配列およびヒトTFの最初の218アミノ酸の配列を含む融合ポリペプチドが、抗血管腫瘍治療に非常に適切であることが実証された。特に、これらの融合ポリペプチドが、腫瘍増殖の顕著な阻害または腫瘍サイズの低下を引き起こすことが示された(図7および図8を参照のこと)。腫瘍の部分的後退の観察された誘導(図8を参照のこと)は、マウスモデルの高い予測力(42、43、44)に基づいて、ヒト腫瘍治療におけるポジティブな結果の期待を示す。
【0025】
本発明はさらに、環状RGDペプチドを有する融合タンパク質を含む。なぜなら、環化は、インテグリンへの親和性を改善するからである(例えば、参考文献21に記載の通り)。
【0026】
本発明はさらに、配列番号3〜配列番号8(図14〜図19)に示す配列のうちの1つを有する融合ポリペプチドに関する。
【0027】
別の実施形態によれば、本発明は、上記の通りの融合ポリペプチドをコードする核酸に関する。対応する核酸は、例えば、配列番号10〜配列番号15(図21〜26)に示す配列のうちの1つを有し得る。
【0028】
なお別の局面では、本発明は、上記の核酸のうちの1つを含むベクターに関する。対応するベクターは通常、核酸配列の発現のための調節配列もまた含む。このベクターは、先行技術に包括的に記載されており、多数の会社から市販される。
【0029】
さらなる実施形態では、本発明は、上記の核酸またはベクターのうちの1つを含む細胞に関する。この細胞は一般に、この核酸の発現および本発明による融合ポリペプチドの組換え産生のために用いられる。E.coli、酵母細胞および動物細胞株(例えば、CHO細胞またはCOS細胞)を含めた多数の細胞は、この目的に対する適用を見出し得る。適切な細胞およびその使用は、先行技術に包括的に記載される。
【0030】
請求項1に記載の本発明のポリペプチドは、他の適切な方法によって(例えば、個々のペプチドの化学的結合によって)さらに産生され得る。従って、個々のペプチドは、技術水準で従来ある方法によって(例えば、化学合成によって、または異種発現によって)産生され得、次いで結合によって一緒に連結される。
【0031】
最後に、本発明はまた、上記の融合ポリペプチド、核酸、ベクターまたは細胞を含む薬学的組成物に関する。薬学的組成物は、薬学的に適合性のキャリア、賦形剤または佐剤をさらに含み得る。さらに、この薬学的組成物中のポリペプチドは、改変状態(例えば、peg化(pegylated)、すなわち、ポリエチレングリコール分子へ結合した状態)で存在し得る。
【0032】
本発明による融合ポリペプチドまたはこれらの融合ポリペプチドを含む薬学的組成物は、新生物疾患の処置のために、特に抗血管腫瘍治療のために用いられ得る。本発明による融合ポリペプチドまたはこれらの融合ポリペプチドを含む薬学的組成物の助けによる処置が考えられ得る新生物疾患としては、例えば、気管支癌ならびに胸郭および縦隔の他の腫瘍、胸部癌および他の婦人科腫瘍、結腸直腸癌、膵臓癌および胃腸管の他の腫瘍、悪性黒色腫および皮膚の他の腫瘍、頭部および頚部の領域の腫瘍、前立腺癌および他の尿生殖器腫瘍、肉腫、内分泌活性腫瘍、白血病および骨髄形成異常症候群ならびにホジキンリンパ腫および非ホジキンリンパ腫が挙げられる。
【0033】
さらに、良性腫瘍(例えば、血管腫)および糖尿病性網膜症における新生血管形成もまた処置され得る。
【0034】
静脈内投与以外に、融合ポリペプチドまたは薬学的組成物の皮下投与および腹腔内投与もまた可能である。融合ポリペプチドが胃腸管において切断するのを防ぐ薬学的ビヒクル中に詰めることにより、この融合ポリペプチドまたは薬学的組成物はまた、経口投与され得る。
【0035】
本発明による融合ポリペプチドと他の治療アプローチ(例えば、細胞傷害性化学療法または照射)を組み合わせることはさらに有利であり得る。他の活性物質との組合せ(例えば、第VIIa因子またはドキシサイクリンとの組合せ)もまた可能であるが、好ましくは本発明によるポリペプチドと第VIIa因子またはドキシサイクリンとの組合せは必要ない。
【0036】
本発明は、以下の実施例に基づいて、より詳細に記載される:
【実施例】
【0037】
(実施例1:tTFおよびtTF融合タンパク質の発現および精製)
組織因子TFのN末端218アミノ酸(本明細書以下、tTFと省略する)をコードするcDNAを、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって、配列番号16および配列番号17(図27)に示すプライマーを用いて合成し、そして発現ベクターpET−30a(+)(Novagen)中にクローニングした。組換えプラスミドをE.coli(BL21)中に形質転換し、発現させ、そして精製した(Qiagen Plasmid Kit)。
【0038】
短縮型組織因子tTFに加えて、tTFペプチド融合タンパク質を構築し、ここで、標的ペプチドを、可溶性組織因子tTFのカルボキシル末端に最初に結合させる。以下の直鎖状融合タンパク質を構築した:
tTF−GRGDSP(配列番号3;図14;本明細書以下、tTF−RGDと省略する;PCRプライマー配列番号18および配列番号19(図28)を用いた);
tTF−GNGRAHA(配列番号4;図15;本明細書以下、tTF−NGRと省略する;PCRプライマー配列番号20および配列番号21(図29)を用いた);
tTF−GALNGRSHAG(配列番号5;図16;PCRプライマー配列番号28および配列番号29(図33)を用いた)。
【0039】
さらに、以下の環状融合タンパク質を合成した:
tTF−GCNGRCG(配列番号6;図17;本明細書以下、tTF−シクロNGR1と省略する;PCRプライマー配列番号22および配列番号23(図30)を用いた);
tTF−GCNGRCVSGCAGRC(配列番号7;図18;本明細書以下、tTF−シクロNGR2と省略する;PCRプライマー配列番号24および配列番号25(図31)を用いた);
tTF−GCVLNGRMEC(配列番号8;図19;本明細書以下、tTF−シクロNGR3と省略する;PCRプライマー配列番号26および配列番号27(図32)を用いた)。
【0040】
全ての構築物(tTFを含む)を、pET30a(+)ベクター中で発現させた。このベクターは、6ヒスチジン残基のN末端親和性タグおよびベクターによってコードされるいくつかのアミノ酸のさらなる発現を媒介する。この親和性タグの助けを借りて、この構築物を、ニッケル−ニトリロトリ酢酸カラム(Ni−NTA,Novagen)での親和性クロマトグラフィーによって精製し得た。この親和性タグを配列番号30に示す。配列番号31および配列番号32は、例として、親和性タグを有する、tTF−GRGDSPおよびtTF−GNGRAHAの完全なアミノ酸配列を示す。
【0041】
この構築物を、tTF:FVIIa複合体(19)の公知のX線結晶構造に基づいて、内皮細胞へのリン脂質膜へのtTF融合タンパク質の垂直の配向(これは、ネイティブなTFの配向に対応する)が確実になるように選択した。選択された構造がtTFにおいて、FVIIaおよび高分子物質FXとの相互作用に対して何の立体障害も引き起こすべきでないことをさらに考慮した。RGD配列のαvβ3インテグリン特異性およびNGR配列のCD13(アミノペプチダーゼN)特異性に起因して、腫瘍選択性が達成された。なぜなら、これらのレセプターは、いくつかの例外を除いて、正常組織内の静止内皮細胞上には存在しないが、腫瘍内皮細胞上に高密度で選択的かつ特異的に発現されるからである(図1を参照のこと)。
【0042】
tTF、ならびにtTF−RGD、tTF−NGR、tTF−GALNGRSHAGおよびtTF−シクロNGR1〜tTF−シクロNGR3と記載される融合タンパク質を、E.coli(BL21)にpET30a(+)によって形質転換して発現させた。形質転換されたIPTG誘導E.coli BL21 DE3を遠心分離し、そして5〜7mlの溶解緩衝液(10mM Tris−HCl、pH7.5;150mM NaCl;1mM MgCl2;10μg/ml アプロチニン;2mg/ml リゾチーム)/gペレット中に吸収させ、そして20μl Benzonase(Novagen)を添加した。室温(RT)にて90分間のインキュベーションおよび12000g、4℃にて20分間の遠心分離後、ペレットを再懸濁し、そして洗浄緩衝液(10mM Tris/HCl、pH7.5;1mM EDTA;3% Triton X−100)中の超音波処理によってホモジナイズした。封入体を、2〜4ml/gペレットの変性緩衝液(6M 塩化グアニジニウム、0.5M NaCl、20mM NaH2PO4、1mM DTT)中でRTにて一晩かけて溶解した。遠心分離(5000g、30分間、4℃)による上清を0.22μgフィルターで濾過した。構築物のさらに導入したHis−Tag配列によってニッケル−ニトリロトリ酢酸カラム(Ni−NTA,Novagen)で均質になるまで構築物を精製した。タンパク質の精製および折り畳みを、His Bind Buffer Kit(Novagen)で実施した。この後、TBS緩衝液(20mM Tris、150mM NaCl、pH7.4)に対する透析を行った。
【0043】
タンパク質の正体を、SDS−PAGE、ウェスタンブロットおよび質量分析法によって確認した(図2を参照のこと)。
【0044】
(実施例2:tTFおよびtTF−融合タンパク質の機能的特徴付け)
第VIIa因子を介した第X因子から第Xa因子への活性化における補因子活性についてのこれらの融合タンパク質の機能活性を、ミカエリス−メンテン分析によりインビトロで実証した。tTFおよびtTF融合ポリペプチドが、リン脂質の存在下でFVIIaを介したFXの特異的タンパク質分解活性化を強化する能力を、Ruf(45)によって記載された方法のわずかに改変したバージョンにおいて決定した。これに関しては、各々20μlの以下の試薬を、マイクロタイタープレート中ピペッティングした:(a)TBS−BSA中の50nM組換えFVIIa(Novo−Nordisk);(b)TBS−BSA中の0.16nM〜1.6μMのtTF/tTF融合ポリペプチド;(c)25mM CaCl2および500μMのリン脂質小胞(ホスファチジルコリン/ホスファチジルセリン、70/30、M/M;Sigma)。室温にて10分間のインキュベーション後、20μlの天然基質FX(Enzyme Research Laboratories)を5μMの濃度で添加した。次いで、サンプルをピペットによって1分間隔で採取し、そして100mM EDTA溶液の添加によって反応を停止させた。形成されたFXaの量を、405nmでの吸光度の変化によって決定することにより、Microplate Reader中での色素形成性基質Spectrozyme FXaの添加によって測定し、そしてミカエリス−メンテン反応速度についてのパラメーターを、Rufによって記載された方法により分析した。結果は、tTFおよびtTF融合ポリペプチドが両方とも、これらの条件下で機能的に活性であることを示す(図3)。融合ポリペプチドについて見出されたミカエリス定数(Km)は、0.12〜1.2nMの範囲内にあり(図3)、従って、tTFについて公開されているよりも低い範囲であった、それゆえ、機能活性は、ペプチドとtTFとの融合によって影響を受けないとみなされ得る。
【0045】
(実施例3:インビトロおよびインビボでの、αvβ3に対するtTF融合タンパク質の結合)
αvβ3インテグリンに対するtTF−RGDおよびtTF−NGRの結合を、精製αvβ3をマイクロタイタープレートに固定することにより、ELISA(酵素結合免疫吸着アッセイ)において実証した(図4を参照のこと)。αvβ3に対するtTF−RGDの結合の特異性は、配列GRGDSPを有する合成ペプチド(Gibco社製)がこの試験系においてtTF−RGDのαvβ3に対する結合を完全に阻害するという事実によって強調された(図5を参照のこと)。
【0046】
次に、内皮細胞に対するtTF−RGDのαvβ3に対する特異的結合を評価した。これについては、懸濁した内皮細胞に対するビオチン化tTFおよびtTF−RGDの差次的結合を、FACS(蛍光活性化細胞選別)によって分析した。組織培養において保持された全ての内皮細胞が活性化される(すなわち、αvβ3分子を発現する)という事実は実験的に利用される。これは、種々の免疫組織化学法によって検出され得る。培養された内皮細胞は従って、αvβ3に関するその発現パターンに関して、腫瘍内皮細胞に対応する。従って、培養された内皮細胞は、腫瘍内皮細胞に対する物質の特異的結合に関するモデル系として用いられ得、そしてまた、予測される毒性に関して予想がなされるのを可能にする。
【0047】
ストレプトアビジン−フィコエリトリンを、検出方法として用いた。tTF−RGDについての測定した蛍光強度は、tTFについてよりも8倍高かった(図6A)。さらに、内皮細胞に対する0.1μM tTF−RGDの結合は、1μMの合成ペプチドGRGDSPの投与によって競合的に75%低下した(図6B)。このことは、内皮細胞表面上のRGD結合レセプター(例えば、αvβ3)に対するtTF−RGDの結合の特異性を強調する。
【0048】
(実施例4:動物モデルにおけるtTF融合タンパク質の抗腫瘍効果)
tTF−RGD融合タンパク質およびtTF−NGR融合タンパク質を、無胸腺ヌードマウスにおけるヒト腫瘍異種移植片に対するそれらの効果および副作用に関して評価した。本発明者らの実験室で確立したモデルをこのために用いた(33、34)。細胞株CCL185(ヒト肺腺癌)およびM−21(ヒト黒色腫)を、雄性BALB/cヌードマウス(9〜12週齢)の脇腹に皮下注射した。約50〜100mm3(CCL185)または400〜600mm3(M−21)の腫瘍体積が得られたら、マウスをランダムに4つの群に割り当てた。群1は、生理学的生理食塩水溶液(NaCl)のみを受け、群2はtTFを、群3はtTF−RGDを、そして群4はtTF−NGRを受けた(各々の場合、1.5〜2.0mg/kg体重(BW)のタンパク質)。(特定の細胞株の増殖速度に依存して)1〜3日間の間隔で動物の尾静脈に注射を行った。融合タンパク質のかなりの治療活性が観察された。tTF−RGD融合タンパク質またはtTF−NGR融合タンパク質で処置したマウスの腫瘍は、それらの増殖が有意に阻害されたか、または部分的後退の場合は、tTFまたはNaClと比較してサイズが低下した(図7および図8を参照のこと)。
【0049】
腫瘍血管中の血栓誘導の作用機構を確認するために、以下の実験を実施した:ヒト黒色腫細胞株を2匹の雄性BALB/cヌードマウスの脇腹に注射した。腫瘍のサイズが約500mm3になったら、2.0mg/kg体重のtTF−NGRまたはNaClを尾静脈に注射した。図9Aは、tTF−NGR融合タンパク質(写真の左半分)またはNaCl(写真の右半分)の注射の20分後の腫瘍保有マウスのインビボでの拡大図を示す。tTF−NGRの注射後の腫瘍の青みがかった青藍色の着色の肉眼的写真は、腫瘍壊死を示す。60分間後、マウスを放血し、腫瘍を完全に切り出し、そして組織学的に調べた。図9Bは、初期腫瘍壊死の結果としての二次出血の徴候として、tTF−NGRで処置した腫瘍の出血膨潤を示す。対照的に、NaClで処置した腫瘍は、元気なようである(図9C)。
【0050】
黒色腫腫瘍の組織学的分析は、血管中の顕微鏡的に可視的な血栓形成を示す(図10A〜D)。この知見は、tTF−NGRの抗腫瘍効果の示唆された機構(すなわち、血管中の血栓の誘導)を確認する。腫瘍血管についてのtTF−NGRの高い選択性は、心臓、腎臓、肝臓および肺のような正常組織において凝固および壊死が組織学的に検出されないことによって実証される(図11A〜11D)。反復した高い用量のtTF−NGR(4mg/kg体重)でさえも、肉眼的血餅形成も器官毒性ももたらされなかった。
【0051】
(実施例5:HT1080腫瘍動物モデルにおけるtTF融合タンパク質の抗腫瘍効果)
tTF−RGD融合タンパク質の抗腫瘍活性をまた、線維肉腫(HT1080)を有するBALB/cヌードマウスにおいて調べた。これらの腫瘍は、迅速に増殖し、充分に新生血管形成されている。2つの実験の結果を表2および図34に提示する。tTF−RGDの2回目の注射後、コントロール群と比較して有意なHT1080腫瘍増殖阻害が観察された。この効果は、7日目の実験の最後まで持続した(緩衝液コントロール(生理学的食塩水溶液)と比較して、tTF−RGDについてP=0.021、tTFと比較してtTF−RGDについてP=0.005)。先の実験と同様に、このモデルにおいて、腫瘍体積の部分的後退が観察された。
【0052】
【表1】
【0053】
【表2】
【0054】
【表3】
他のtTF融合タンパク質を、本発明の開示に基づいて当業者によって何の問題もなく構築し得た。可能性のある候補は、ヒト黒色腫プロテオグリカンのマウスホモログであるNG2に結合するペプチドTAASGVRSMHおよびLTLRWVGLMSである(12)。NG2の発現は、腫瘍細胞および腫瘍の血管形成血管に制限される(35)。別の候補は、合成ペプチドTTHWGFTLであり、これは、マトリクスメタロプロテイナーゼ−2(MMP−2)の選択的かつ強力な阻害を生じる(13)。インテグリンαvβ3はまた、RGD依存性様式でMMP−2に明らかに結合する。このことは、活性な酵素が、血管形成血管の表面に局在することを意味する(36)。tTFおよびこのMMP−2阻害ペプチドからなる構築物は、腫瘍血管の内皮細胞膜へのtTF1−218の選択的結合を同様に媒介し得る。
【0055】
【表4】
【0056】
【表5】
【0057】
【表6】
【0058】
【表7】
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】tTF−RGD融合タンパク質およびtTF−NGR融合タンパク質の、αvβ3およびCD13への結合の提示の概略図。腫瘍選択性は、RGD配列のαvβ3−インテグリン特異性およびNRG配列のCD13(アミノペプチダーゼN)特異性に起因して達成される。これらのレセプターは、腫瘍内皮細胞上に、選択的かつ特異的に、高密度で発現されるが、正常組織内の静止内皮細胞においてはそうではない(いくつかの例外は除く)。融合タンパク質の提示は、非常に概略的であり、一次配列に関する何らかの情報を提供するわけではない。
【図2】組換えtTF1−218およびtTF融合タンパク質のSDS−PAGEおよびウェスタンブロット分析。tTFの純度およびtTF融合タンパク質の純度を、E.coli(BL21 DE3)からの抽出および線形尿素勾配(6M〜1M)での再折り畳み後のSDS−PAGEおよびクーマシーブルー染色によってチェックした。タンパク質の正体を、モノクローナル抗組織因子抗体(クローンV1C7、American Diagnostics)を用いたウェスタンブロッティングによって確認した。個々のレーンにおけるローディング:1=tTF;2=tTF−RGD;3=tTF−NGR;4=tTF−シクロNGR1;5=tTF−シクロNGR2:6=tTF−シクロNGR3;7=tTF−GALNGRSHAG;M=分子量マーカー。
【図3】FVIIa/tTF1−218融合タンパク質またはFVIIa/tTF1−218融合タンパク質によるFXの活性化についてのミカエリス定数(Km)の決定。ミカエリス−メンテン反応速度のパラメーターを、Ruf(45)によって記載された方法を用いて計算した。
【図4】インテグリンαvβ3に対するtTF、tTF−RGDおよびtTF−NGRの結合。0.1μMのtTF、tTF−RGDおよびtTF−NGRの、固定化αvβ3に対する結合を、ヒトTFに対するポリクローナル抗体(American Diagnostica)を用いてELISAにおいて定量した。結果を、メジアンおよび四分位範囲として表す。tTF−RGDとtTFとの間の結合の差、またはtTF−NGRとtTFとの間の結合の差は、統計学的に有意であった(p<0.001、Mann−Whitney検定)。
【図5】インテグリンαvβ3に対するtTF−RGDの結合の特異性。tTF−RGD(0.1μM)の、固定化αvβ3に対する結合は、合成ペプチドGRGDSP(1〜10μM)を用いた競合阻害によって有意に阻害された(両方のRGDペプチド濃度について、p<0.001、Mann−Whitney検定)。
【図6】ヒト内皮細胞に対するtTFおよびtTF−RGDの結合。A:0.1μM tTF(2)または0.1μM tTF−RGD(3)とともに4℃で60分間インキュベートした内皮細胞のFACS分析。B:結合の75%の減少が、1μM GRGDSP(4)を用いたtTF−RGD融合タンパク質の競合阻害によって実証された。AおよびBにおける曲線1は、ネガティブコントロールを示す。
【図7】生理学的食塩水溶液(NaCl、n=8)またはtTF(n=1)の注入を用いた腫瘍増殖と比較した、tTF融合タンパク質(tTF−RGD、n=6;tTF−NGR、n=6)を用いた静脈内治療による、無胸腺ヌードマウスにおける異種移植片としてのヒト肺癌(CCL185)の増殖の阻害。垂直の矢印は、それぞれの物質を用いた注射時間を示す。
【図8】生理学的食塩水溶液(NaCl、n=4)またはtTF(n=4)の注入を用いた腫瘍増殖と比較した、tTF融合タンパク質(tTF−RGD、n=3;tTF−NGR、n=3)を用いた静脈内治療による、無胸腺ヌードマウスにおける異種移植片としてのヒト悪性黒色腫(M21)の増殖の阻害および部分的後退。垂直の矢印は、それぞれの物質を用いた注射時間を示す。
【図9】tTF−NGR融合タンパク質(A、写真の左半分)またはNaCl(A、写真の右半分)の注射20分後の腫瘍保有マウスの巨視的インビボ写真。tTF−NGRの注射後の腫瘍の青みがかった青藍色の着色の肉眼的写真は、腫瘍壊死を示す。60分後、2匹のマウスを放血し、この腫瘍を完全に切り出し、そして組織学的に調べた。Bでは、本発明者らは、初期腫瘍壊死の結果としての二次出血の徴候として、tTF−NGRで処置した腫瘍の出血膨潤がわかり得る。対照的に、NaCl処置腫瘍は、元気なようである(C)。
【図10】腫瘍保有ヌードマウスの尾静脈におけるtTF−RGD(AおよびB)、tTF−NGR(CおよびD)および普通塩(EおよびF)の静脈内注射の1時間後の黒色腫腫瘍の組織構造。tTF融合タンパク質で処置した腫瘍では、血管は、血栓崩壊的に閉塞しているようであった(矢印)。大規模腫瘍壊死は、血餅によって閉塞された血管の供給領域において観察可能である(A〜D)。写真は、腫瘍の代表的な領域のものである(A、CおよびE:倍率200倍、B、DおよびF 倍率400倍;HE染色(例えば、H.C.Burck,Histologische Technik−Leitfadenfuer die Herstellung mikroskopischer Praeparate in Unterricht und Praxis,第5版、Thieme Verlag,Stuttgart 1982,109ff頁に記載の染色))。
【図11】4mg/kg体重 tTF−NGRの注射1時間後の心臓(A)、腎臓(B)、肝臓(C)および肺(D)の代表的組織構造。血栓または壊死は、これらの器官のいずれにおいても顕微鏡的に検出されなかった(HE染色;倍率200倍)。
【図12】ヒト組織因子(TF)のアミノ酸配列。
【図13】短縮型ヒト組織因子tTF1−218(本出願の範囲内で、略してtTFとも省略する)のアミノ酸配列。
【図14】融合ポリペプチドtTF−GRGDSP(tTF−RGDとも省略する)のアミノ酸配列。
【図15】融合ポリペプチドtTF−GNGRAHA(tTF−NGRとも省略する)のアミノ酸配列。
【図16】融合ポリペプチドtTF−GALNGRSHAGのアミノ酸配列。
【図17】融合ポリペプチドtTF−GCNGRCG(tTF−シクロNGR1とも省略する)のアミノ酸配列。
【図18】融合ポリペプチドtTF−GCNGRCVSGCAGRC(tTF−シクロNGR2とも省略する)のアミノ酸配列。
【図19】融合ポリペプチドtTF−GCVLNGRMEC(tTF−シクロNGR3とも省略する)のアミノ酸配列。
【図20】短縮型ヒト組織因子tTF1−218(本出願の範囲内で、略してtTFとも省略する)のヌクレオチド配列。
【図21】融合ポリペプチドtTF−GRGDSP(tTF−RGDとも省略する)のヌクレオチド配列。
【図22】融合ポリペプチドtTF−GNGRAHA(tTF−NGRとも省略する)のヌクレオチド配列。
【図23】融合ポリペプチドtTF−GALNGRSHAGのヌクレオチド配列。
【図24】融合ポリペプチドtTF−GCNGRCG(tTF−シクロNGR1とも省略する)のヌクレオチド配列。
【図25】融合ポリペプチドtTF−GCNGRCVSGCAGRC(tTF−シクロNGR2とも省略する)のヌクレオチド配列。
【図26】融合ポリペプチドtTF−GCVLNGRMEC(tTF−シクロNGR3とも省略する)のヌクレオチド配列。
【図27】tTF1−218の生成のためのオリゴヌクレオチドのヌクレオチド配列。A:5’−プライマー;B:3’−プライマー。
【図28】tTF−GRGDSPの生成のためのオリゴヌクレオチドのヌクレオチド配列。A:5’−プライマー;B:3’−プライマー。
【図29】tTF−GNGRAHAの生成のためのオリゴヌクレオチドのヌクレオチド配列。A:5’−プライマー;B:3’−プライマー。
【図30】tTF−GCNGRCGの生成のためのオリゴヌクレオチドのヌクレオチド配列。A:5’−プライマー;B:3’−プライマー。
【図31】tTF−GCNGRCVSGCAGRCの生成のためのオリゴヌクレオチドのヌクレオチド配列。A:5’−プライマー;B:3’−プライマー。
【図32】tTF−GCVLNGRMECの生成のためのオリゴヌクレオチドのヌクレオチド配列。A:5’−プライマー;B:3’−プライマー。
【図33】tTF−GALNGRSHAGの生成のためのオリゴヌクレオチドのヌクレオチド配列。A:5’−プライマー;B:3’−プライマー。
【図34】a:生理学的食塩水溶液(NaCl、n=9)またはtTF(n=11)の注入を用いた腫瘍増殖と比較した、tTF融合タンパク質(tTF−RGD、n=7)を用いた静脈内治療による、無胸腺ヌードマウスにおける異種移植片としてのヒト悪性黒色腫(M21)の増殖の阻害および部分的後退。垂直の矢印は、それぞれの物質を用いた注射時間を示す。b:生理学的食塩水溶液(NaCl、n=15)またはtTF(n=14)の注入を用いた腫瘍増殖と比較した、tTF融合タンパク質(tTF−RGD、n=12)を用いた静脈内治療による、無胸腺ヌードマウスにおける異種移植片としてのヒト線維肉腫(HT1080)の増殖の阻害。垂直の矢印は、それぞれの物質を用いた注射時間を示す。c:生理学的食塩水溶液(NaCl、n=10)またはtTF(n=5)の注入における腫瘍増殖と比較した、tTF融合タンパク質(tTF−RGD、n=11)を用いた静脈内治療による、無胸腺ヌードマウスにおける異種移植片としてのヒト肺癌(CCL185)の増殖の阻害。垂直の矢印は、それぞれの物質を用いた注射時間を示す。統計学的有意性を、独立した群についてMann−Whitney検定を用いて各々の場合に調べた。0.05未満のP値は、有意とみなされる。*は、tTF−RGDと緩衝液との間の差の統計学的有意性を示す。
【図35】tTF−RGD融合タンパク質(A、C)またはNaCl(B、D)を用いた処置の終了時(7日目)の、M21腫瘍を保有するマウスの拡大図。明らかに元気なコントロールの腫瘍とは対照的に、壊死の明確な徴候を示す、tTF−RGD処置腫瘍のサイズの差および異なる外観が容易に識別可能である。
【図36】tTF−RGD処置マウスおよび生理学的食塩水溶液処置マウスの腫瘍および器官のH−E染色。腫瘍細胞の重篤な血栓および壊死は、tTF−RGDで処置した動物において観察された(A:200倍、B:400倍)。矢印は、腫瘍の血管中の血栓の例を示す。生理食塩水で処置した動物においては、明らかな血栓も壊死も生じなかった(C:200倍、D:400倍)。矢印は、いくつかの赤血球を有する腫瘍のインタクトな血管を示す。tTF−RGDで処置した動物の心臓(E)、肺(F)、肝臓(G)および腎臓は、可視の血栓も壊死も示さなかった。
【図37】線維肉腫モデルにおけるtTF−NGRの作用。線維肉腫(HT1080)を保有するマウスを、tTF−NGRの静脈内投与なし(プレtTF−NGR)およびtTF−NGRの静脈内投与6時間後(tTF−NGR後)に磁気共鳴画像化(MRI)によって調べた。高いまたは低い血管体積割合を示す。
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも2つのペプチドを含む融合ポリペプチドに関する。一方のペプチドは、3〜30個のアミノ酸を含み、この融合ポリペプチドを、腫瘍血管内の内皮細胞に選択的に結合させる。他方のペプチドは、組織因子(TF)またはそのフラグメントからなり、この組織因子およびフラグメントは、この融合ポリペプチドが腫瘍血管内の内皮細胞に結合した際に血液凝固を活性化し得ることによって特徴付けられる。これらのペプチドは、直接一緒に連結されてもよく、または15個までのアミノ酸を有するリンカーを介して一緒に連結されてもよい。本発明はさらに、新生物疾患の抗血管治療におけるこれらの融合タンパク質の使用、および新生物疾患の処置のための薬物を製造する際のそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
適切な新生血管新生は、進行性の腫瘍増殖に必須である(1(非特許文献1))。血管新生は、膨張性腫瘍増殖を維持するために特に必要とされる。なぜなら、充分な酸素供給のみが、腫瘍への栄養供給および腫瘍からの腫瘍分解産物の除去を確実にするからである。
【0003】
腫瘍処置に関する先行技術では、抗血管治療ストラテジーが開発されており、これらは、血管の増殖および分化の複雑なプロセスを攻撃する抗血管治療ストラテジーに加えて、腫瘍血管および関連する腫瘍梗塞の破壊を目的としている。
【0004】
これらのストラテジーの前提条件は、正常組織内の静止内皮細胞に生じない、腫瘍の血管内皮内の標的構造の同定である。これらの特異的標的構造は、細胞増殖抑制剤または特定の毒素を、腫瘍細胞自体に対してよりも低い程度で、腫瘍血管内皮細胞へと提供するために利用され得る。この目的のために使用され得る標的構造は、bFGF(塩基性線維芽細胞増殖因子)、VEGF(血管内皮増殖因子)およびVEGF−2(VEGFレセプター2)、エンドグリン、エンドシアリン(endosialin)、フィブロネクチンアイソフォーム(ED−Bドメイン)、インテグリンαvβ3、αvβ5、α1β1およびα1β2、アミノペプチダーゼN、NG2プロテオグリカン、ならびにマトリックスメタロプロテイナーゼ2および9(MMP2およびMMP9)(2〜13(非特許文献2〜13))。例えば、Arapら(8(非特許文献8))は、α1インテグリンに特異的に結合するペプチドを、化学療法についての技術水準で使用された活性物質(ドキソルビシン)へと結合させた。動物モデルにおいて、ドキソルビシンの抗腫瘍効果が、このペプチドに結合することによって改善され得ることが実証された。
【0005】
代替の抗血管治療アプローチは、腫瘍壊死を誘導するための、腫瘍血管における血液凝固の選択的活性化を含む。例えば、短縮型組織因子(tTF)およびMHCクラスII抗原に対する、二重特異性F(ab’)2抗体フラグメントが生成された。腫瘍内皮細胞内でのこの抗原の実験的誘導後、抗血管治療は、この抗体をマウス神経芽細胞腫モデルに投与することによって実証され得る(14(非特許文献14))。同じチームによる第2の研究では、tTFを、天然に存在する腫瘍血管内皮マーカーVCAM−1(血管細胞付着分子−1)に選択的に結合させる免疫結合体が用いられた(15(非特許文献15))。
【0006】
非常に類似したアプローチでは、腫瘍胎児性ED−Bドメインに特異的である抗体フラグメント(scFv)をtTFと融合させた。生成された融合タンパク質scFv−tTFは、マウスモデルにおいて種々の腫瘍内で完全かつ選択的な梗塞をもたらした(16(非特許文献16))。
【0007】
あるいは、tTFは、前立腺特異的膜抗原のインヒビターに結合された(17(非特許文献17))。この融合タンパク質は、静脈内投与後、ラット前立腺モデルにおいて、選択的梗塞壊死を誘導した。この融合タンパク質を低用量の細胞傷害性物質(ドキソルビシン)と組み合わせて投与することにより、大規模な腫瘍後退、さらには完全な腫瘍根絶がもたらされた(17(非特許文献17))。VEGFRに対する抗体フラグメント、エンドグリンに対する抗体フラグメントおよびVCAM−1に対する抗体フラグメントからなる他のtTF融合タンパク質は、近年記載されている(18(非特許文献18))。
【0008】
しかし、技術水準で抗血管腫瘍治療のために生成された分子は、欠点を有する。特に、これらの分子は、それらのサイズに起因して免疫原性であるとみなされるべきである。それゆえ、これらの分子での哺乳動物の処置は、これらの分子に対する免疫反応を誘発し、その結果、これらの分子の反復投与が不可能になる。
【0009】
血液凝固を活性化し得るペプチド部分を腫瘍組織に導く結合パートナーのサイズは、さらに、血液凝固に重要である高分子第VIIa因子/FX酵素−基質複合体の形成に対する立体障害を引き起こし得る。この複合体の形成はまた、血液凝固を活性化し得るペプチドが、比較的大きな融合パートナーに起因して変化したコンホメーションを有する場合にも阻害され得る。
【0010】
技術水準(WO 03/035688(特許文献1))では、選択的結合ドメイン(例えば、フィブロネクチンのうちの、インテグリンに結合するドメイン(例えば、RGDペプチドを含むドメイン)またはD−β−Eジペプチド(PSMA(前立腺特異的膜抗原)に結合する))が組織因子ポリペプチドのN末端に結合された融合ポリペプチドもまた公知である。アミド分解(amidolytic)効果およびタンパク質分解効果がインビトロで実証されたが、これらの構築物は、第VIIa因子との組合せでさえも、極めて弱い抗腫瘍効果をインビボで示したに過ぎない。これらの動物は、ドキシサイクリンとの組合せにおいてのみ、より長期に生存した。
【0011】
Huら(46(非特許文献19))は、短縮型組織因子に結合された、RGD配列を含む9アミノ酸のオリゴペプチド由来の融合タンパク質を含め、種々の融合タンパク質および腫瘍血管における血栓の生成のためのそれらの使用を記載する。さらに、RGDペプチドは、tTFのN末端に連結され、RGD−tTFが得られた。機能分析は、RGDを含む融合タンパク質が、腫瘍増殖の顕著な阻害を全く生じないことを示した。
【0012】
技術水準で公知の構築物は、選択的結合ドメインが組織因子ポリペプチドのN末端に連結するような様式でこのようにして構築された。この構築物が選択されなければならないことが強調されさえした。なぜなら、構造モデルに基づいて、N末端は、血栓の開始を阻害しない特に好ましい結合部位であると考えられたからである。
【特許文献1】国際公開第WO 03/035688号パンフレット
【非特許文献1】Folkman J,Watson K,Ingber D,Hanahan D:Induction of angiogenesis during the transition from hyperplasia to neoplasia.Nature 339:58−61,1989
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【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
これらの先行技術を考慮して、それゆえ、課題は、腫瘍増殖をインビボで効果的に阻害し得る代替的トロンボゲン形成物質を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
(発明の要旨)
この課題は、融合ポリペプチドを腫瘍血管内皮細胞に選択的にさせる3〜30個のアミノ酸のペプチド、および組織因子(TF)またはそのフラグメントを含む融合ポリペプチドによってここで解決され、この融合ポリペプチドは、この組織因子およびフラグメントが、この融合ポリペプチドが腫瘍血管内皮細胞に結合した際に血液凝固を活性化し得、これらのペプチドが、互いに直接結合しているかまたは15個までのアミノ酸を有するリンカーを介して互いに結合されていること特徴付けられる。このペプチドは、この融合ポリペプチドが腫瘍血管内皮細胞に選択的に結合することを可能にし、この融合ポリペプチドが腫瘍血管内皮細胞に結合したときに血液凝固を活性化し得るペプチドのC末端に結合されている。本発明はさらに、対応する融合ポリペプチドを含む薬学的組成物、および腫瘍の処置のためのその使用に関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
(発明の詳細な説明)
先行技術で観察された課題は、以下のペプチドを含む融合ポリペプチドによっていまや克服された:
a)この融合ポリペプチドを腫瘍血管内皮細胞へと選択的に結合させ得る、3〜30アミノ酸のペプチド;および
b)組織因子(TF)またはそのフラグメントであって、この組織因子およびこのフラグメントは、この融合ポリペプチドが腫瘍血管内皮細胞に結合したときに血液凝固を活性化し得ることによって特徴付けられる、組織因子またはそのフラグメント。ここで、このペプチドa)およびペプチドb)は、互いに直接結合しているかまたは15個までのアミノ酸を有するリンカーを介して互いに結合されており、この融合ポリペプチドは、この融合ポリペプチドを腫瘍血管内皮細胞へと選択的に結合させ得るペプチドが、この融合ポリペプチドが腫瘍血管内皮細胞に結合した際に血液凝固を活性化し得るペプチドのC末端に結合されていることを特徴とする。本発明はさらに、対応する融合ポリペプチドを含む薬物、および腫瘍の処置のためのその使用に関する。
【0016】
配列a)および配列b)に加えて、本発明による融合ポリペプチドは、さらなる配列を含み得る。ただし、これらは、融合ポリペプチドの立体コンホメーションに対して有害な効果を有さず、そして血液凝固を誘発する酵素−基質複合体の形成を妨げない。本発明による融合ポリペプチドは、例えば、His−Tagの配列を含み得る。His−Tagの配列は、このペプチドの組換え発現および精製を単純にする(実施例を参照のこと)。しかし、これらの配列の存在は必要ではない。本発明の好ましい実施形態によれば、この融合ポリペプチドは、それゆえ、以下を含む:
a)この融合ポリペプチドを腫瘍血管内皮細胞へと選択的に結合させ得る、3〜30アミノ酸のペプチド;および
b)組織因子(TF)またはそのフラグメントであって、この組織因子およびこのフラグメントは、この融合ポリペプチドが腫瘍血管内皮細胞に結合したときに血液凝固を活性化し得ることによって特徴付けられる、組織因子またはそのフラグメント。ここで、このペプチドa)およびペプチドb)は、互いに直接結合しているかまたは15個までのアミノ酸を有するリンカーを介して互いに結合されている。本発明の特に好ましい実施形態によれば、この融合ポリペプチドは、以下を含む:
a)この融合ポリペプチドを腫瘍血管内皮細胞へと選択的に結合させ得る、3〜30アミノ酸のペプチド;および
b)組織因子(TF)またはそのフラグメントであって、この組織因子およびこのフラグメントは、この融合ポリペプチドが腫瘍血管内皮細胞に結合したときに血液凝固を活性化し得ることによって特徴付けられる、組織因子またはそのフラグメント。ここで、このペプチドa)およびペプチドb)は、互いに結合している。
【0017】
本発明によれば、融合ポリペプチドを腫瘍血管内皮細胞へと選択的に結合させ得る特に小さなペプチド、および融合ポリペプチドが腫瘍血管内皮細胞に結合したときに血液凝固を活性化し得るペプチド由来の融合ポリペプチドが、抗血管腫瘍治療に特に有利であることが驚くべきことに示された。腫瘍血管内皮細胞への結合を可能にするポリペプチドのサイズが小さいことにより、この融合タンパク質の内皮細胞のリン脂質膜への配向が改善される。
【0018】
血液凝固に必須である酵素/基質複合体の形成は、立体的に障害を受けず、そして組織因子TF(これは、血液凝固を活性化し得る)はコンホメーションの変化を受けない。
【0019】
本発明の好ましい実施形態によれば、融合ポリペプチドが腫瘍血管内皮細胞に結合したときに血液凝固を活性化し得るペプチドは、配列番号1(図12)に示すアミノ酸配列を有する組織因子TFである。本発明はさらに、配列番号1(図12)に対して少なくとも70%または少なくとも80%のアミノ酸相同性を有する組織因子配列を含み、少なくとも95%の相同性を有する配列が特に好ましい。相同性の程度は、100アミノ酸の長さにつき4つのギャップが可能として比較される配列の可能な最大の一致を達成するように2つの配列を上下に書くことにより決定される(Dayhoff,Atlas of Protein Sequence and Structure,5,124,1972を参照のこと)。次いで、2つのアミノ酸鎖のうちの短い方について、他方の鎖における同一のアミノ酸残基に対向する鎖のアミノ酸残基の百分率を決定する。
【0020】
融合ポリペプチドが腫瘍血管内皮細胞に結合したときに腫瘍血管における血液凝固を活性化し得るペプチドは、さらに、組織因子TFのフラグメントまたはTFに相同な配列のフラグメントであり得る。好ましくは、このフラグメントは、配列番号2(図13)に示す配列を有する。配列番号2(図13)に示す配列(tTF1−218または省略してtTF)は、TFのN末端の218アミノ酸を含む。さらに、本発明によれば、tTFと比較してN末端またはC末端のいくつかのアミノ酸を欠くtTFフラグメントを使用することもまた可能である。例えば、N末端の10アミノ酸までを欠くフラグメント(tTF11−218)を使用することが可能である。さらに、C末端の8アミノ酸までを欠くフラグメント(tTF1−210)(例えば、tTF1−214)が使用され得る。
【0021】
本発明は、融合ポリペプチドに関し、ここで、腫瘍血管の内皮細胞に選択的に結合し得るペプチドは、血液凝固を活性化し得るペプチドのC末端に結合している。本発明によれば、用語「腫瘍血管内皮細胞」および用語「腫瘍血管内の内皮細胞」は、腫瘍の血管を覆う細胞をいうために使用される。上記の配置により、内皮細胞のリン脂質膜に対して垂直な融合タンパク質の配向が確実になり、このことが血液凝固の誘発に特に有利であることが本発明によって確立された。この配向は、血液凝固を誘導する間のTFの天然での配向に対応する。図3に示すように、第X因子の活性化に関して、このようにして生成された全ての構築物について、FVIIa/tTF1−218またはFVIIa/tTF1−218融合タンパク質によって、非常に類似したミカエリス−メンテン反応速度が見出される。対照的に、先行技術では、凝固を活性化するペプチドは、標的化分子のC末端に結合された((16)を参照のこと)。したがって、本発明による融合ポリペプチドは、先行技術で用いられたペプチドとは基本的に異なる。
【0022】
融合ポリペプチドを腫瘍血管内皮細胞へと選択的に結合させ得るペプチドは、3〜30アミノ酸の長さを有しかつ腫瘍血管内皮細胞を高い特異性で結合する、任意のペプチドであり得る。対応するペプチドは、技術水準で通常である方法によってペプチドライブラリーから単離され得る。これらは、選択されるペプチドライブラリーに依存して、直鎖状または環状の構造を有し得る。
【0023】
本発明の1つの実施形態によれば、融合ポリペプチドを腫瘍血管内皮細胞に選択的に結合させ得るペプチドは、アミノ酸配列RGDまたはNGRを含む。両方の配列とも、インテグリン(特にαvβ3インテグリンおよびαvβ5インテグリン)に対する特異的結合に関して(RGDペプチド)、ならびに細胞付着モチーフとして(NGRペプチド)先行技術で公知である((8)を参照のこと)。本発明によれば、これらのペプチドが、融合ポリペプチドの一部として特に適切であり、融合ポリペプチドの他の部分は、融合ポリペプチドが腫瘍血管内皮細胞に結合したときに腫瘍において血液凝固を活性化し得るペプチドであることが驚くべきことに示された。
【0024】
特に有利な効果は、配列GRGDSPを有する直鎖状ペプチド、配列GNGRAHAを有する直鎖状ペプチドおよび配列GALNGRSHAGを有する直鎖状ペプチド、ならびに配列GCNGRCGを有する環状ペプチド、配列GCNGRCVSGCAGRCを有する環状ペプチドおよび配列GCVLNGRMECを有する環状ペプチドを用いて得られた。これらの配列およびヒトTFの最初の218アミノ酸の配列を含む融合ポリペプチドが、抗血管腫瘍治療に非常に適切であることが実証された。特に、これらの融合ポリペプチドが、腫瘍増殖の顕著な阻害または腫瘍サイズの低下を引き起こすことが示された(図7および図8を参照のこと)。腫瘍の部分的後退の観察された誘導(図8を参照のこと)は、マウスモデルの高い予測力(42、43、44)に基づいて、ヒト腫瘍治療におけるポジティブな結果の期待を示す。
【0025】
本発明はさらに、環状RGDペプチドを有する融合タンパク質を含む。なぜなら、環化は、インテグリンへの親和性を改善するからである(例えば、参考文献21に記載の通り)。
【0026】
本発明はさらに、配列番号3〜配列番号8(図14〜図19)に示す配列のうちの1つを有する融合ポリペプチドに関する。
【0027】
別の実施形態によれば、本発明は、上記の通りの融合ポリペプチドをコードする核酸に関する。対応する核酸は、例えば、配列番号10〜配列番号15(図21〜26)に示す配列のうちの1つを有し得る。
【0028】
なお別の局面では、本発明は、上記の核酸のうちの1つを含むベクターに関する。対応するベクターは通常、核酸配列の発現のための調節配列もまた含む。このベクターは、先行技術に包括的に記載されており、多数の会社から市販される。
【0029】
さらなる実施形態では、本発明は、上記の核酸またはベクターのうちの1つを含む細胞に関する。この細胞は一般に、この核酸の発現および本発明による融合ポリペプチドの組換え産生のために用いられる。E.coli、酵母細胞および動物細胞株(例えば、CHO細胞またはCOS細胞)を含めた多数の細胞は、この目的に対する適用を見出し得る。適切な細胞およびその使用は、先行技術に包括的に記載される。
【0030】
請求項1に記載の本発明のポリペプチドは、他の適切な方法によって(例えば、個々のペプチドの化学的結合によって)さらに産生され得る。従って、個々のペプチドは、技術水準で従来ある方法によって(例えば、化学合成によって、または異種発現によって)産生され得、次いで結合によって一緒に連結される。
【0031】
最後に、本発明はまた、上記の融合ポリペプチド、核酸、ベクターまたは細胞を含む薬学的組成物に関する。薬学的組成物は、薬学的に適合性のキャリア、賦形剤または佐剤をさらに含み得る。さらに、この薬学的組成物中のポリペプチドは、改変状態(例えば、peg化(pegylated)、すなわち、ポリエチレングリコール分子へ結合した状態)で存在し得る。
【0032】
本発明による融合ポリペプチドまたはこれらの融合ポリペプチドを含む薬学的組成物は、新生物疾患の処置のために、特に抗血管腫瘍治療のために用いられ得る。本発明による融合ポリペプチドまたはこれらの融合ポリペプチドを含む薬学的組成物の助けによる処置が考えられ得る新生物疾患としては、例えば、気管支癌ならびに胸郭および縦隔の他の腫瘍、胸部癌および他の婦人科腫瘍、結腸直腸癌、膵臓癌および胃腸管の他の腫瘍、悪性黒色腫および皮膚の他の腫瘍、頭部および頚部の領域の腫瘍、前立腺癌および他の尿生殖器腫瘍、肉腫、内分泌活性腫瘍、白血病および骨髄形成異常症候群ならびにホジキンリンパ腫および非ホジキンリンパ腫が挙げられる。
【0033】
さらに、良性腫瘍(例えば、血管腫)および糖尿病性網膜症における新生血管形成もまた処置され得る。
【0034】
静脈内投与以外に、融合ポリペプチドまたは薬学的組成物の皮下投与および腹腔内投与もまた可能である。融合ポリペプチドが胃腸管において切断するのを防ぐ薬学的ビヒクル中に詰めることにより、この融合ポリペプチドまたは薬学的組成物はまた、経口投与され得る。
【0035】
本発明による融合ポリペプチドと他の治療アプローチ(例えば、細胞傷害性化学療法または照射)を組み合わせることはさらに有利であり得る。他の活性物質との組合せ(例えば、第VIIa因子またはドキシサイクリンとの組合せ)もまた可能であるが、好ましくは本発明によるポリペプチドと第VIIa因子またはドキシサイクリンとの組合せは必要ない。
【0036】
本発明は、以下の実施例に基づいて、より詳細に記載される:
【実施例】
【0037】
(実施例1:tTFおよびtTF融合タンパク質の発現および精製)
組織因子TFのN末端218アミノ酸(本明細書以下、tTFと省略する)をコードするcDNAを、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって、配列番号16および配列番号17(図27)に示すプライマーを用いて合成し、そして発現ベクターpET−30a(+)(Novagen)中にクローニングした。組換えプラスミドをE.coli(BL21)中に形質転換し、発現させ、そして精製した(Qiagen Plasmid Kit)。
【0038】
短縮型組織因子tTFに加えて、tTFペプチド融合タンパク質を構築し、ここで、標的ペプチドを、可溶性組織因子tTFのカルボキシル末端に最初に結合させる。以下の直鎖状融合タンパク質を構築した:
tTF−GRGDSP(配列番号3;図14;本明細書以下、tTF−RGDと省略する;PCRプライマー配列番号18および配列番号19(図28)を用いた);
tTF−GNGRAHA(配列番号4;図15;本明細書以下、tTF−NGRと省略する;PCRプライマー配列番号20および配列番号21(図29)を用いた);
tTF−GALNGRSHAG(配列番号5;図16;PCRプライマー配列番号28および配列番号29(図33)を用いた)。
【0039】
さらに、以下の環状融合タンパク質を合成した:
tTF−GCNGRCG(配列番号6;図17;本明細書以下、tTF−シクロNGR1と省略する;PCRプライマー配列番号22および配列番号23(図30)を用いた);
tTF−GCNGRCVSGCAGRC(配列番号7;図18;本明細書以下、tTF−シクロNGR2と省略する;PCRプライマー配列番号24および配列番号25(図31)を用いた);
tTF−GCVLNGRMEC(配列番号8;図19;本明細書以下、tTF−シクロNGR3と省略する;PCRプライマー配列番号26および配列番号27(図32)を用いた)。
【0040】
全ての構築物(tTFを含む)を、pET30a(+)ベクター中で発現させた。このベクターは、6ヒスチジン残基のN末端親和性タグおよびベクターによってコードされるいくつかのアミノ酸のさらなる発現を媒介する。この親和性タグの助けを借りて、この構築物を、ニッケル−ニトリロトリ酢酸カラム(Ni−NTA,Novagen)での親和性クロマトグラフィーによって精製し得た。この親和性タグを配列番号30に示す。配列番号31および配列番号32は、例として、親和性タグを有する、tTF−GRGDSPおよびtTF−GNGRAHAの完全なアミノ酸配列を示す。
【0041】
この構築物を、tTF:FVIIa複合体(19)の公知のX線結晶構造に基づいて、内皮細胞へのリン脂質膜へのtTF融合タンパク質の垂直の配向(これは、ネイティブなTFの配向に対応する)が確実になるように選択した。選択された構造がtTFにおいて、FVIIaおよび高分子物質FXとの相互作用に対して何の立体障害も引き起こすべきでないことをさらに考慮した。RGD配列のαvβ3インテグリン特異性およびNGR配列のCD13(アミノペプチダーゼN)特異性に起因して、腫瘍選択性が達成された。なぜなら、これらのレセプターは、いくつかの例外を除いて、正常組織内の静止内皮細胞上には存在しないが、腫瘍内皮細胞上に高密度で選択的かつ特異的に発現されるからである(図1を参照のこと)。
【0042】
tTF、ならびにtTF−RGD、tTF−NGR、tTF−GALNGRSHAGおよびtTF−シクロNGR1〜tTF−シクロNGR3と記載される融合タンパク質を、E.coli(BL21)にpET30a(+)によって形質転換して発現させた。形質転換されたIPTG誘導E.coli BL21 DE3を遠心分離し、そして5〜7mlの溶解緩衝液(10mM Tris−HCl、pH7.5;150mM NaCl;1mM MgCl2;10μg/ml アプロチニン;2mg/ml リゾチーム)/gペレット中に吸収させ、そして20μl Benzonase(Novagen)を添加した。室温(RT)にて90分間のインキュベーションおよび12000g、4℃にて20分間の遠心分離後、ペレットを再懸濁し、そして洗浄緩衝液(10mM Tris/HCl、pH7.5;1mM EDTA;3% Triton X−100)中の超音波処理によってホモジナイズした。封入体を、2〜4ml/gペレットの変性緩衝液(6M 塩化グアニジニウム、0.5M NaCl、20mM NaH2PO4、1mM DTT)中でRTにて一晩かけて溶解した。遠心分離(5000g、30分間、4℃)による上清を0.22μgフィルターで濾過した。構築物のさらに導入したHis−Tag配列によってニッケル−ニトリロトリ酢酸カラム(Ni−NTA,Novagen)で均質になるまで構築物を精製した。タンパク質の精製および折り畳みを、His Bind Buffer Kit(Novagen)で実施した。この後、TBS緩衝液(20mM Tris、150mM NaCl、pH7.4)に対する透析を行った。
【0043】
タンパク質の正体を、SDS−PAGE、ウェスタンブロットおよび質量分析法によって確認した(図2を参照のこと)。
【0044】
(実施例2:tTFおよびtTF−融合タンパク質の機能的特徴付け)
第VIIa因子を介した第X因子から第Xa因子への活性化における補因子活性についてのこれらの融合タンパク質の機能活性を、ミカエリス−メンテン分析によりインビトロで実証した。tTFおよびtTF融合ポリペプチドが、リン脂質の存在下でFVIIaを介したFXの特異的タンパク質分解活性化を強化する能力を、Ruf(45)によって記載された方法のわずかに改変したバージョンにおいて決定した。これに関しては、各々20μlの以下の試薬を、マイクロタイタープレート中ピペッティングした:(a)TBS−BSA中の50nM組換えFVIIa(Novo−Nordisk);(b)TBS−BSA中の0.16nM〜1.6μMのtTF/tTF融合ポリペプチド;(c)25mM CaCl2および500μMのリン脂質小胞(ホスファチジルコリン/ホスファチジルセリン、70/30、M/M;Sigma)。室温にて10分間のインキュベーション後、20μlの天然基質FX(Enzyme Research Laboratories)を5μMの濃度で添加した。次いで、サンプルをピペットによって1分間隔で採取し、そして100mM EDTA溶液の添加によって反応を停止させた。形成されたFXaの量を、405nmでの吸光度の変化によって決定することにより、Microplate Reader中での色素形成性基質Spectrozyme FXaの添加によって測定し、そしてミカエリス−メンテン反応速度についてのパラメーターを、Rufによって記載された方法により分析した。結果は、tTFおよびtTF融合ポリペプチドが両方とも、これらの条件下で機能的に活性であることを示す(図3)。融合ポリペプチドについて見出されたミカエリス定数(Km)は、0.12〜1.2nMの範囲内にあり(図3)、従って、tTFについて公開されているよりも低い範囲であった、それゆえ、機能活性は、ペプチドとtTFとの融合によって影響を受けないとみなされ得る。
【0045】
(実施例3:インビトロおよびインビボでの、αvβ3に対するtTF融合タンパク質の結合)
αvβ3インテグリンに対するtTF−RGDおよびtTF−NGRの結合を、精製αvβ3をマイクロタイタープレートに固定することにより、ELISA(酵素結合免疫吸着アッセイ)において実証した(図4を参照のこと)。αvβ3に対するtTF−RGDの結合の特異性は、配列GRGDSPを有する合成ペプチド(Gibco社製)がこの試験系においてtTF−RGDのαvβ3に対する結合を完全に阻害するという事実によって強調された(図5を参照のこと)。
【0046】
次に、内皮細胞に対するtTF−RGDのαvβ3に対する特異的結合を評価した。これについては、懸濁した内皮細胞に対するビオチン化tTFおよびtTF−RGDの差次的結合を、FACS(蛍光活性化細胞選別)によって分析した。組織培養において保持された全ての内皮細胞が活性化される(すなわち、αvβ3分子を発現する)という事実は実験的に利用される。これは、種々の免疫組織化学法によって検出され得る。培養された内皮細胞は従って、αvβ3に関するその発現パターンに関して、腫瘍内皮細胞に対応する。従って、培養された内皮細胞は、腫瘍内皮細胞に対する物質の特異的結合に関するモデル系として用いられ得、そしてまた、予測される毒性に関して予想がなされるのを可能にする。
【0047】
ストレプトアビジン−フィコエリトリンを、検出方法として用いた。tTF−RGDについての測定した蛍光強度は、tTFについてよりも8倍高かった(図6A)。さらに、内皮細胞に対する0.1μM tTF−RGDの結合は、1μMの合成ペプチドGRGDSPの投与によって競合的に75%低下した(図6B)。このことは、内皮細胞表面上のRGD結合レセプター(例えば、αvβ3)に対するtTF−RGDの結合の特異性を強調する。
【0048】
(実施例4:動物モデルにおけるtTF融合タンパク質の抗腫瘍効果)
tTF−RGD融合タンパク質およびtTF−NGR融合タンパク質を、無胸腺ヌードマウスにおけるヒト腫瘍異種移植片に対するそれらの効果および副作用に関して評価した。本発明者らの実験室で確立したモデルをこのために用いた(33、34)。細胞株CCL185(ヒト肺腺癌)およびM−21(ヒト黒色腫)を、雄性BALB/cヌードマウス(9〜12週齢)の脇腹に皮下注射した。約50〜100mm3(CCL185)または400〜600mm3(M−21)の腫瘍体積が得られたら、マウスをランダムに4つの群に割り当てた。群1は、生理学的生理食塩水溶液(NaCl)のみを受け、群2はtTFを、群3はtTF−RGDを、そして群4はtTF−NGRを受けた(各々の場合、1.5〜2.0mg/kg体重(BW)のタンパク質)。(特定の細胞株の増殖速度に依存して)1〜3日間の間隔で動物の尾静脈に注射を行った。融合タンパク質のかなりの治療活性が観察された。tTF−RGD融合タンパク質またはtTF−NGR融合タンパク質で処置したマウスの腫瘍は、それらの増殖が有意に阻害されたか、または部分的後退の場合は、tTFまたはNaClと比較してサイズが低下した(図7および図8を参照のこと)。
【0049】
腫瘍血管中の血栓誘導の作用機構を確認するために、以下の実験を実施した:ヒト黒色腫細胞株を2匹の雄性BALB/cヌードマウスの脇腹に注射した。腫瘍のサイズが約500mm3になったら、2.0mg/kg体重のtTF−NGRまたはNaClを尾静脈に注射した。図9Aは、tTF−NGR融合タンパク質(写真の左半分)またはNaCl(写真の右半分)の注射の20分後の腫瘍保有マウスのインビボでの拡大図を示す。tTF−NGRの注射後の腫瘍の青みがかった青藍色の着色の肉眼的写真は、腫瘍壊死を示す。60分間後、マウスを放血し、腫瘍を完全に切り出し、そして組織学的に調べた。図9Bは、初期腫瘍壊死の結果としての二次出血の徴候として、tTF−NGRで処置した腫瘍の出血膨潤を示す。対照的に、NaClで処置した腫瘍は、元気なようである(図9C)。
【0050】
黒色腫腫瘍の組織学的分析は、血管中の顕微鏡的に可視的な血栓形成を示す(図10A〜D)。この知見は、tTF−NGRの抗腫瘍効果の示唆された機構(すなわち、血管中の血栓の誘導)を確認する。腫瘍血管についてのtTF−NGRの高い選択性は、心臓、腎臓、肝臓および肺のような正常組織において凝固および壊死が組織学的に検出されないことによって実証される(図11A〜11D)。反復した高い用量のtTF−NGR(4mg/kg体重)でさえも、肉眼的血餅形成も器官毒性ももたらされなかった。
【0051】
(実施例5:HT1080腫瘍動物モデルにおけるtTF融合タンパク質の抗腫瘍効果)
tTF−RGD融合タンパク質の抗腫瘍活性をまた、線維肉腫(HT1080)を有するBALB/cヌードマウスにおいて調べた。これらの腫瘍は、迅速に増殖し、充分に新生血管形成されている。2つの実験の結果を表2および図34に提示する。tTF−RGDの2回目の注射後、コントロール群と比較して有意なHT1080腫瘍増殖阻害が観察された。この効果は、7日目の実験の最後まで持続した(緩衝液コントロール(生理学的食塩水溶液)と比較して、tTF−RGDについてP=0.021、tTFと比較してtTF−RGDについてP=0.005)。先の実験と同様に、このモデルにおいて、腫瘍体積の部分的後退が観察された。
【0052】
【表1】
【0053】
【表2】
【0054】
【表3】
他のtTF融合タンパク質を、本発明の開示に基づいて当業者によって何の問題もなく構築し得た。可能性のある候補は、ヒト黒色腫プロテオグリカンのマウスホモログであるNG2に結合するペプチドTAASGVRSMHおよびLTLRWVGLMSである(12)。NG2の発現は、腫瘍細胞および腫瘍の血管形成血管に制限される(35)。別の候補は、合成ペプチドTTHWGFTLであり、これは、マトリクスメタロプロテイナーゼ−2(MMP−2)の選択的かつ強力な阻害を生じる(13)。インテグリンαvβ3はまた、RGD依存性様式でMMP−2に明らかに結合する。このことは、活性な酵素が、血管形成血管の表面に局在することを意味する(36)。tTFおよびこのMMP−2阻害ペプチドからなる構築物は、腫瘍血管の内皮細胞膜へのtTF1−218の選択的結合を同様に媒介し得る。
【0055】
【表4】
【0056】
【表5】
【0057】
【表6】
【0058】
【表7】
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】tTF−RGD融合タンパク質およびtTF−NGR融合タンパク質の、αvβ3およびCD13への結合の提示の概略図。腫瘍選択性は、RGD配列のαvβ3−インテグリン特異性およびNRG配列のCD13(アミノペプチダーゼN)特異性に起因して達成される。これらのレセプターは、腫瘍内皮細胞上に、選択的かつ特異的に、高密度で発現されるが、正常組織内の静止内皮細胞においてはそうではない(いくつかの例外は除く)。融合タンパク質の提示は、非常に概略的であり、一次配列に関する何らかの情報を提供するわけではない。
【図2】組換えtTF1−218およびtTF融合タンパク質のSDS−PAGEおよびウェスタンブロット分析。tTFの純度およびtTF融合タンパク質の純度を、E.coli(BL21 DE3)からの抽出および線形尿素勾配(6M〜1M)での再折り畳み後のSDS−PAGEおよびクーマシーブルー染色によってチェックした。タンパク質の正体を、モノクローナル抗組織因子抗体(クローンV1C7、American Diagnostics)を用いたウェスタンブロッティングによって確認した。個々のレーンにおけるローディング:1=tTF;2=tTF−RGD;3=tTF−NGR;4=tTF−シクロNGR1;5=tTF−シクロNGR2:6=tTF−シクロNGR3;7=tTF−GALNGRSHAG;M=分子量マーカー。
【図3】FVIIa/tTF1−218融合タンパク質またはFVIIa/tTF1−218融合タンパク質によるFXの活性化についてのミカエリス定数(Km)の決定。ミカエリス−メンテン反応速度のパラメーターを、Ruf(45)によって記載された方法を用いて計算した。
【図4】インテグリンαvβ3に対するtTF、tTF−RGDおよびtTF−NGRの結合。0.1μMのtTF、tTF−RGDおよびtTF−NGRの、固定化αvβ3に対する結合を、ヒトTFに対するポリクローナル抗体(American Diagnostica)を用いてELISAにおいて定量した。結果を、メジアンおよび四分位範囲として表す。tTF−RGDとtTFとの間の結合の差、またはtTF−NGRとtTFとの間の結合の差は、統計学的に有意であった(p<0.001、Mann−Whitney検定)。
【図5】インテグリンαvβ3に対するtTF−RGDの結合の特異性。tTF−RGD(0.1μM)の、固定化αvβ3に対する結合は、合成ペプチドGRGDSP(1〜10μM)を用いた競合阻害によって有意に阻害された(両方のRGDペプチド濃度について、p<0.001、Mann−Whitney検定)。
【図6】ヒト内皮細胞に対するtTFおよびtTF−RGDの結合。A:0.1μM tTF(2)または0.1μM tTF−RGD(3)とともに4℃で60分間インキュベートした内皮細胞のFACS分析。B:結合の75%の減少が、1μM GRGDSP(4)を用いたtTF−RGD融合タンパク質の競合阻害によって実証された。AおよびBにおける曲線1は、ネガティブコントロールを示す。
【図7】生理学的食塩水溶液(NaCl、n=8)またはtTF(n=1)の注入を用いた腫瘍増殖と比較した、tTF融合タンパク質(tTF−RGD、n=6;tTF−NGR、n=6)を用いた静脈内治療による、無胸腺ヌードマウスにおける異種移植片としてのヒト肺癌(CCL185)の増殖の阻害。垂直の矢印は、それぞれの物質を用いた注射時間を示す。
【図8】生理学的食塩水溶液(NaCl、n=4)またはtTF(n=4)の注入を用いた腫瘍増殖と比較した、tTF融合タンパク質(tTF−RGD、n=3;tTF−NGR、n=3)を用いた静脈内治療による、無胸腺ヌードマウスにおける異種移植片としてのヒト悪性黒色腫(M21)の増殖の阻害および部分的後退。垂直の矢印は、それぞれの物質を用いた注射時間を示す。
【図9】tTF−NGR融合タンパク質(A、写真の左半分)またはNaCl(A、写真の右半分)の注射20分後の腫瘍保有マウスの巨視的インビボ写真。tTF−NGRの注射後の腫瘍の青みがかった青藍色の着色の肉眼的写真は、腫瘍壊死を示す。60分後、2匹のマウスを放血し、この腫瘍を完全に切り出し、そして組織学的に調べた。Bでは、本発明者らは、初期腫瘍壊死の結果としての二次出血の徴候として、tTF−NGRで処置した腫瘍の出血膨潤がわかり得る。対照的に、NaCl処置腫瘍は、元気なようである(C)。
【図10】腫瘍保有ヌードマウスの尾静脈におけるtTF−RGD(AおよびB)、tTF−NGR(CおよびD)および普通塩(EおよびF)の静脈内注射の1時間後の黒色腫腫瘍の組織構造。tTF融合タンパク質で処置した腫瘍では、血管は、血栓崩壊的に閉塞しているようであった(矢印)。大規模腫瘍壊死は、血餅によって閉塞された血管の供給領域において観察可能である(A〜D)。写真は、腫瘍の代表的な領域のものである(A、CおよびE:倍率200倍、B、DおよびF 倍率400倍;HE染色(例えば、H.C.Burck,Histologische Technik−Leitfadenfuer die Herstellung mikroskopischer Praeparate in Unterricht und Praxis,第5版、Thieme Verlag,Stuttgart 1982,109ff頁に記載の染色))。
【図11】4mg/kg体重 tTF−NGRの注射1時間後の心臓(A)、腎臓(B)、肝臓(C)および肺(D)の代表的組織構造。血栓または壊死は、これらの器官のいずれにおいても顕微鏡的に検出されなかった(HE染色;倍率200倍)。
【図12】ヒト組織因子(TF)のアミノ酸配列。
【図13】短縮型ヒト組織因子tTF1−218(本出願の範囲内で、略してtTFとも省略する)のアミノ酸配列。
【図14】融合ポリペプチドtTF−GRGDSP(tTF−RGDとも省略する)のアミノ酸配列。
【図15】融合ポリペプチドtTF−GNGRAHA(tTF−NGRとも省略する)のアミノ酸配列。
【図16】融合ポリペプチドtTF−GALNGRSHAGのアミノ酸配列。
【図17】融合ポリペプチドtTF−GCNGRCG(tTF−シクロNGR1とも省略する)のアミノ酸配列。
【図18】融合ポリペプチドtTF−GCNGRCVSGCAGRC(tTF−シクロNGR2とも省略する)のアミノ酸配列。
【図19】融合ポリペプチドtTF−GCVLNGRMEC(tTF−シクロNGR3とも省略する)のアミノ酸配列。
【図20】短縮型ヒト組織因子tTF1−218(本出願の範囲内で、略してtTFとも省略する)のヌクレオチド配列。
【図21】融合ポリペプチドtTF−GRGDSP(tTF−RGDとも省略する)のヌクレオチド配列。
【図22】融合ポリペプチドtTF−GNGRAHA(tTF−NGRとも省略する)のヌクレオチド配列。
【図23】融合ポリペプチドtTF−GALNGRSHAGのヌクレオチド配列。
【図24】融合ポリペプチドtTF−GCNGRCG(tTF−シクロNGR1とも省略する)のヌクレオチド配列。
【図25】融合ポリペプチドtTF−GCNGRCVSGCAGRC(tTF−シクロNGR2とも省略する)のヌクレオチド配列。
【図26】融合ポリペプチドtTF−GCVLNGRMEC(tTF−シクロNGR3とも省略する)のヌクレオチド配列。
【図27】tTF1−218の生成のためのオリゴヌクレオチドのヌクレオチド配列。A:5’−プライマー;B:3’−プライマー。
【図28】tTF−GRGDSPの生成のためのオリゴヌクレオチドのヌクレオチド配列。A:5’−プライマー;B:3’−プライマー。
【図29】tTF−GNGRAHAの生成のためのオリゴヌクレオチドのヌクレオチド配列。A:5’−プライマー;B:3’−プライマー。
【図30】tTF−GCNGRCGの生成のためのオリゴヌクレオチドのヌクレオチド配列。A:5’−プライマー;B:3’−プライマー。
【図31】tTF−GCNGRCVSGCAGRCの生成のためのオリゴヌクレオチドのヌクレオチド配列。A:5’−プライマー;B:3’−プライマー。
【図32】tTF−GCVLNGRMECの生成のためのオリゴヌクレオチドのヌクレオチド配列。A:5’−プライマー;B:3’−プライマー。
【図33】tTF−GALNGRSHAGの生成のためのオリゴヌクレオチドのヌクレオチド配列。A:5’−プライマー;B:3’−プライマー。
【図34】a:生理学的食塩水溶液(NaCl、n=9)またはtTF(n=11)の注入を用いた腫瘍増殖と比較した、tTF融合タンパク質(tTF−RGD、n=7)を用いた静脈内治療による、無胸腺ヌードマウスにおける異種移植片としてのヒト悪性黒色腫(M21)の増殖の阻害および部分的後退。垂直の矢印は、それぞれの物質を用いた注射時間を示す。b:生理学的食塩水溶液(NaCl、n=15)またはtTF(n=14)の注入を用いた腫瘍増殖と比較した、tTF融合タンパク質(tTF−RGD、n=12)を用いた静脈内治療による、無胸腺ヌードマウスにおける異種移植片としてのヒト線維肉腫(HT1080)の増殖の阻害。垂直の矢印は、それぞれの物質を用いた注射時間を示す。c:生理学的食塩水溶液(NaCl、n=10)またはtTF(n=5)の注入における腫瘍増殖と比較した、tTF融合タンパク質(tTF−RGD、n=11)を用いた静脈内治療による、無胸腺ヌードマウスにおける異種移植片としてのヒト肺癌(CCL185)の増殖の阻害。垂直の矢印は、それぞれの物質を用いた注射時間を示す。統計学的有意性を、独立した群についてMann−Whitney検定を用いて各々の場合に調べた。0.05未満のP値は、有意とみなされる。*は、tTF−RGDと緩衝液との間の差の統計学的有意性を示す。
【図35】tTF−RGD融合タンパク質(A、C)またはNaCl(B、D)を用いた処置の終了時(7日目)の、M21腫瘍を保有するマウスの拡大図。明らかに元気なコントロールの腫瘍とは対照的に、壊死の明確な徴候を示す、tTF−RGD処置腫瘍のサイズの差および異なる外観が容易に識別可能である。
【図36】tTF−RGD処置マウスおよび生理学的食塩水溶液処置マウスの腫瘍および器官のH−E染色。腫瘍細胞の重篤な血栓および壊死は、tTF−RGDで処置した動物において観察された(A:200倍、B:400倍)。矢印は、腫瘍の血管中の血栓の例を示す。生理食塩水で処置した動物においては、明らかな血栓も壊死も生じなかった(C:200倍、D:400倍)。矢印は、いくつかの赤血球を有する腫瘍のインタクトな血管を示す。tTF−RGDで処置した動物の心臓(E)、肺(F)、肝臓(G)および腎臓は、可視の血栓も壊死も示さなかった。
【図37】線維肉腫モデルにおけるtTF−NGRの作用。線維肉腫(HT1080)を保有するマウスを、tTF−NGRの静脈内投与なし(プレtTF−NGR)およびtTF−NGRの静脈内投与6時間後(tTF−NGR後)に磁気共鳴画像化(MRI)によって調べた。高いまたは低い血管体積割合を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
融合ポリペプチドであって、
a)該融合ポリペプチドを腫瘍血管内皮細胞へと選択的に結合させ得る、3〜30アミノ酸のペプチド;および
b)組織因子(TF)またはそのフラグメントであって、該組織因子および該フラグメントは、該融合ポリペプチドが腫瘍血管内皮細胞に結合した際に血液凝固を活性化し得ることによって特徴付けられる、組織因子またはそのフラグメント
を含み、
ここで、該ペプチドa)および該ペプチドb)は、互いに直接結合しているかまたは15個までのアミノ酸を有するリンカーを介して互いに結合されており、該融合ポリペプチドは、該融合ポリペプチドを腫瘍血管内皮細胞へと選択的に結合させ得るペプチドが、該融合ポリペプチドが腫瘍血管内皮細胞に結合した際に血液凝固を活性化し得るペプチドのC末端に結合されていることを特徴とする、融合ポリペプチド。
【請求項2】
前記ペプチドa)および前記ペプチドb)、ならびに15個までのアミノ酸を有するリンカーからなる、請求項1に記載の融合ポリペプチド。
【請求項3】
前記ペプチドa)と前記ペプチドb)とが互いに直接結合している、請求項1に記載の融合ポリペプチド。
【請求項4】
前記融合ポリペプチドが腫瘍血管内皮細胞に結合した際に血液凝固を活性化し得る前記ペプチドが、組織因子TFであり、該組織因子TFは、配列番号1に示す配列を有することによって特徴付けられる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の融合ポリペプチド。
【請求項5】
前記融合ポリペプチドが腫瘍血管内皮細胞に結合した際に血液凝固を活性化し得る前記ペプチドが、組織因子TFのフラグメントであり、該組織因子TFのフラグメントは、好ましくは配列番号2に示す配列を有することによって特徴付けられる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の融合ポリペプチド。
【請求項6】
前記融合ポリペプチドを腫瘍血管内皮細胞へと選択的に結合させ得る、3〜30アミノ酸のペプチドが、直鎖状または環状の構造を有することによって特徴付けられる、請求項1〜5のいずれか1項に記載の融合ポリペプチド。
【請求項7】
前記融合ポリペプチドを腫瘍血管内皮細胞へと選択的に結合させ得る、3〜30アミノ酸のペプチドが、アミノ酸配列RGDまたはNGRを含むことによって特徴付けられる、請求項1〜6のいずれか1項に記載の融合ポリペプチド。
【請求項8】
前記融合ポリペプチドを腫瘍血管内皮細胞へと選択的に結合させ得るペプチドが、GRGDSPおよびGNGRAHAを含む群より選択されることによって特徴付けられる、請求項7に記載の融合ポリペプチド。
【請求項9】
前記融合ポリペプチドを腫瘍血管内皮細胞へと選択的に結合させ得るペプチドが、GCNGRCG、GCNGRCVSGCAGRC、GCVLNGRMECおよびGALNGRSHAGを含む群より選択されることによって特徴付けられる、請求項7に記載の融合ポリペプチド。
【請求項10】
配列番号3〜8に示される配列のうちの1つを有することによって特徴付けられる、請求項1〜9に記載の融合ポリペプチド。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の融合ポリペプチドをコードする、核酸。
【請求項12】
配列番号10〜15に示す配列のうちの1つを有することによって特徴付けられる、請求項11に記載の核酸。
【請求項13】
請求項11または請求項12に記載の核酸を含む、ベクター。
【請求項14】
請求項11もしくは請求項12に記載の核酸または請求項14に記載のベクターを含む、細胞。
【請求項15】
薬学的組成物であって、請求項1〜請求項10のいずれか1項に記載の融合ポリペプチド、請求項11もしくは請求項12に記載の核酸、請求項13に記載のベクター、または請求項14に記載の細胞を含む、薬学的組成物。
【請求項16】
薬学的に受容可能なキャリア、賦形剤または佐剤をさらに含む、請求項15に記載の薬学的組成物。
【請求項17】
新生物疾患の処置のための、請求項15または請求項16に記載の薬学的組成物の使用。
【請求項18】
前記新生物疾患が、気管支癌ならびに胸郭および縦隔の他の腫瘍、胸部癌および他の婦人科腫瘍、結腸直腸癌、膵臓癌および胃腸管の他の腫瘍、悪性黒色腫および皮膚の他の腫瘍、頭部および頚部の領域の腫瘍、前立腺癌および他の尿生殖器腫瘍、肉腫、内分泌活性腫瘍、白血病および骨髄形成異常症候群ならびにホジキンリンパ腫および非ホジキンリンパ腫を含む群より選択されることによって特徴付けられる、請求項17に記載の使用。
【請求項1】
融合ポリペプチドであって、
a)該融合ポリペプチドを腫瘍血管内皮細胞へと選択的に結合させ得る、3〜30アミノ酸のペプチド;および
b)組織因子(TF)またはそのフラグメントであって、該組織因子および該フラグメントは、該融合ポリペプチドが腫瘍血管内皮細胞に結合した際に血液凝固を活性化し得ることによって特徴付けられる、組織因子またはそのフラグメント
を含み、
ここで、該ペプチドa)および該ペプチドb)は、互いに直接結合しているかまたは15個までのアミノ酸を有するリンカーを介して互いに結合されており、該融合ポリペプチドは、該融合ポリペプチドを腫瘍血管内皮細胞へと選択的に結合させ得るペプチドが、該融合ポリペプチドが腫瘍血管内皮細胞に結合した際に血液凝固を活性化し得るペプチドのC末端に結合されていることを特徴とする、融合ポリペプチド。
【請求項2】
前記ペプチドa)および前記ペプチドb)、ならびに15個までのアミノ酸を有するリンカーからなる、請求項1に記載の融合ポリペプチド。
【請求項3】
前記ペプチドa)と前記ペプチドb)とが互いに直接結合している、請求項1に記載の融合ポリペプチド。
【請求項4】
前記融合ポリペプチドが腫瘍血管内皮細胞に結合した際に血液凝固を活性化し得る前記ペプチドが、組織因子TFであり、該組織因子TFは、配列番号1に示す配列を有することによって特徴付けられる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の融合ポリペプチド。
【請求項5】
前記融合ポリペプチドが腫瘍血管内皮細胞に結合した際に血液凝固を活性化し得る前記ペプチドが、組織因子TFのフラグメントであり、該組織因子TFのフラグメントは、好ましくは配列番号2に示す配列を有することによって特徴付けられる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の融合ポリペプチド。
【請求項6】
前記融合ポリペプチドを腫瘍血管内皮細胞へと選択的に結合させ得る、3〜30アミノ酸のペプチドが、直鎖状または環状の構造を有することによって特徴付けられる、請求項1〜5のいずれか1項に記載の融合ポリペプチド。
【請求項7】
前記融合ポリペプチドを腫瘍血管内皮細胞へと選択的に結合させ得る、3〜30アミノ酸のペプチドが、アミノ酸配列RGDまたはNGRを含むことによって特徴付けられる、請求項1〜6のいずれか1項に記載の融合ポリペプチド。
【請求項8】
前記融合ポリペプチドを腫瘍血管内皮細胞へと選択的に結合させ得るペプチドが、GRGDSPおよびGNGRAHAを含む群より選択されることによって特徴付けられる、請求項7に記載の融合ポリペプチド。
【請求項9】
前記融合ポリペプチドを腫瘍血管内皮細胞へと選択的に結合させ得るペプチドが、GCNGRCG、GCNGRCVSGCAGRC、GCVLNGRMECおよびGALNGRSHAGを含む群より選択されることによって特徴付けられる、請求項7に記載の融合ポリペプチド。
【請求項10】
配列番号3〜8に示される配列のうちの1つを有することによって特徴付けられる、請求項1〜9に記載の融合ポリペプチド。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の融合ポリペプチドをコードする、核酸。
【請求項12】
配列番号10〜15に示す配列のうちの1つを有することによって特徴付けられる、請求項11に記載の核酸。
【請求項13】
請求項11または請求項12に記載の核酸を含む、ベクター。
【請求項14】
請求項11もしくは請求項12に記載の核酸または請求項14に記載のベクターを含む、細胞。
【請求項15】
薬学的組成物であって、請求項1〜請求項10のいずれか1項に記載の融合ポリペプチド、請求項11もしくは請求項12に記載の核酸、請求項13に記載のベクター、または請求項14に記載の細胞を含む、薬学的組成物。
【請求項16】
薬学的に受容可能なキャリア、賦形剤または佐剤をさらに含む、請求項15に記載の薬学的組成物。
【請求項17】
新生物疾患の処置のための、請求項15または請求項16に記載の薬学的組成物の使用。
【請求項18】
前記新生物疾患が、気管支癌ならびに胸郭および縦隔の他の腫瘍、胸部癌および他の婦人科腫瘍、結腸直腸癌、膵臓癌および胃腸管の他の腫瘍、悪性黒色腫および皮膚の他の腫瘍、頭部および頚部の領域の腫瘍、前立腺癌および他の尿生殖器腫瘍、肉腫、内分泌活性腫瘍、白血病および骨髄形成異常症候群ならびにホジキンリンパ腫および非ホジキンリンパ腫を含む群より選択されることによって特徴付けられる、請求項17に記載の使用。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【公表番号】特表2007−528722(P2007−528722A)
【公表日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−523616(P2006−523616)
【出願日】平成16年8月20日(2004.8.20)
【国際出願番号】PCT/EP2004/009364
【国際公開番号】WO2005/021593
【国際公開日】平成17年3月10日(2005.3.10)
【出願人】(506055025)
【出願人】(505086598)オンコサイエンス・アーゲー (2)
【氏名又は名称原語表記】Oncoscience AG
【住所又は居所原語表記】Hafenstrasse 32, D−22880 Wedel, Germany
【出願人】(506055036)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年8月20日(2004.8.20)
【国際出願番号】PCT/EP2004/009364
【国際公開番号】WO2005/021593
【国際公開日】平成17年3月10日(2005.3.10)
【出願人】(506055025)
【出願人】(505086598)オンコサイエンス・アーゲー (2)
【氏名又は名称原語表記】Oncoscience AG
【住所又は居所原語表記】Hafenstrasse 32, D−22880 Wedel, Germany
【出願人】(506055036)
【Fターム(参考)】
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