融合分子及びIL−15変異体
本発明は、治療的及び診断的用途を有する可溶性融合タンパク質複合体及びIL−15変異体、並びにそのようなタンパク質を作製する方法を提供する。本発明は、さらに、本発明に係る融合タンパク質複合体及びIL−15変異体を用いて、哺乳動物における免疫応答を促進又は抑制する方法も提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
本出願は、2007年5月11日に出願された米国仮出願第60/928,900号の優先権を主張するものであり、その全内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
(政府による支援)
1.1 本出願に対する研究支援は、保健社会福祉省(the Department of Health and Human Services)長官によって代表されるアメリカ合衆国によって行われた。
【背景技術】
【0003】
T細胞受容体(TCR)は、治療薬を開発するための基盤として独自の利点を有する、免疫系の主要エフェクターである。抗体治療薬は、血液中及び細胞外空間における病原体、又は細胞表面上にあるタンパク質標的を認識することに限定されるのに対し、T細胞受容体は、細胞表面上にあるMHC分子によって提示される抗原(細胞内タンパク質に由来する抗原を含有する)を認識することができる。提示された抗原を認識して活性化するT細胞のサブタイプに応じて、T細胞受容体及びT細胞受容体を有するT細胞が、さまざまな免疫応答を調節するのに関与することができる。例えば、T細胞は、B細胞が抗体産生細胞へと分化するのを誘導することによって、液性免疫応答の制御に関与する。また、活性化されたT細胞は、細胞媒介型免疫応答を開始させるよう作用する。このように、T細胞受容体は、抗体では利用することができない別の標的を認識することができる。
【0004】
T細胞は、他の型の免疫細胞(多形核細胞、好酸球、好塩基球、マスト細胞、B細胞、NK細胞)と共に免疫系の細胞成分を構成する細胞のサブグループである。生理的条件下において、T細胞は、免疫監視機能及び外来抗原を排除する機能を有する。しかし、病理的条件下では、T細胞が疾患の原因及び伝達に大きな役割を果たしているという有力な証拠がある。これらの疾患では、中枢又は末梢におけるT細胞免疫寛容破綻が、自己免疫疾患をもたらす基本的な過程である。
【0005】
TCRは、免疫系の発達及び機能において重要な役割を果たすと考えられている。例えば、TCRは、細胞死滅を介して、B細胞の増殖を高め、さらに、癌、アレルギー、ウイルス感染症、及び自己免疫疾患を含有するさまざまな疾患の発症及び重篤度に影響を与えることが報告されている。
【0006】
そのため、T細胞受容体に基づいた新規の標的薬剤、及びそのような薬剤を治療用及び診断用に製造及び使用する方法を提供することが望ましいであろう。したがって、抗体標的に基づいた従来技術による複合体と比較してある特定の利点を有すると思われる分子を提供することが特に望ましいであろう。
【0007】
さらには、TCRを用いて、さまざまなエフェクター分子を疾患部位に対して標的にして、そこでそれらが、標的としていない活性系に関連した副作用なしで、治療上の恩恵を提供できるようにすることが望ましい。そのようなものの一つが、リンホカインの4つのα−ヘリックスバンドル(helix bundle)ファミリーの一員であるIL−15である。IL−15は、免疫系の発達及び制御において多面的な役割を果たしている。すなわち、IL−15は、CD8+T細胞、NK細胞、キラーT細胞、B細胞、腸管上皮内リンパ球(IEL)、及び抗原提示細胞(APC)の機能、発達、生存、及び増殖に影響を与える。IL−15−/−トランスジェニックマウス及びIL−15Ra−/−トランスジェニックマウスの両方が、末梢NK及びキラーT細胞集団、ある特定のIELサブセット、及びほとんどのメモリー表現型CD8+T細胞を有していないことが明らかにされており、IL−15がこれらの細胞型の発達、増殖又は/及び生存に関与することを示唆している。IL−15受容体(R)は、型特異的なIL-15Rα鎖(「IL−15Rα」又は「IL−15Ra」)、IL-2/IL-15Rβ鎖(「IL−2Rβ」又は「IL−15Rb」)、及び共通γ鎖(多数のサイトカイン受容体に共有されている「γC」又は「gC」)という3つのポリペプチドから構成される。
【0008】
IL−15のシグナル伝達は、IL−15Rα、IL−2Rβ及びγCのヘテロ三量体複合体を介して、IL−2Rβ及びγCのヘテロ二量体複合体を介して生じ得る。新規なIL−15作用の機構は、IL−15及びIL−15Rαが抗原提示細胞(単核球及び樹状細胞)によって協調的に発現され、IL−15Rαに結合したIL−15が、IL−15RβγC受容体のみを発現している、隣接したNKT細胞又はCD8T細胞にトランスで提示されるというトランス提示(transpresentation)の機構である。免疫学的シナプスで起きる共刺激的(co-stimulatory)事象として、現在IL−15のトランス提示が、インビボにおけるIL−15作用の主要機構であり、腫瘍免疫監視において主要な役割を果たしていると見られている(Waldmann,TA,2006,Nature Rev.Immunol.6:595-601)。エキソン3の欠失及びN末端にいわゆる「スシ(sushi)」ドメインを含有するアイソフォームを誘導する可溶性IL−2Rαサブユニットが、サイトカイン結合に関与する構造要素のほとんどを有していることが明らかになっている。IL−2Rα単独では、IL−2に対する低親和性受容体である(Kd_10nM)であるが、IL−15Rαは、高い親和性(Kd_100pM)でIL−15に結合する。従って、可溶性のIL−2RαとIL−15は、溶液中で安定したヘテロ二量体複合体を形成することができ、これらの複合体は、中程度又は高い親和性(アフィニティー)を有するIL−15R複合体を介して、免疫応答を制御する(すなわち、刺激する又は阻害する)ことができる(Mortier etal. 2006. J Biol Chem 281:1612-1619; Stoklasek et al. 2006、J Immunol 177:6072-6080; Rubinstein etal. 2006. Proc Natl Acad Sci USA 103:9166-9171)。
【0009】
免疫系に対するIL−15の既知の効果を踏まえて、宿主にとって有用になるよう免疫系を操作するために、IL−15を利用する多くの方法が研究されてきた。IL−15の投与は、免疫応答を強化するか、免疫系再構築を増強するために用いられてきたが、IL−15活性の阻害によって、自己免疫及びその他の望ましくない免疫応答を抑制することができる(Waldmann, TA, 2006, Nature Rev. Immunol. 6:595-601)。実際には、全身的なIL−15治療に伴う制限の一つは、自己免疫疾患を誘発する可能性があることである。別の制限には、この細胞を標準的な哺乳動物細胞発現系で産生させるのが困難なこと、及びインビボにおける半減期が非常に短いことなどが含まれる。したがって、より長いインビボ半減期、免疫細胞に結合する活性の増加、又は生物活性促進を示す、IL−15の好適な免疫活性化療法の形態を作出する必要がある。さらに、有効なIL−15アンタゴニストも必要である。理想的には、そのような分子は、選択的に疾患部位を標的にして不要な全身毒性を避けることができ、より効果の高い治療有用性を提供できることが望ましいと考えられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、治療的用途を有する、多くのIL−15変異体及び可溶性融合複合体、並びにそのようなタンパク質を作製する方法を提供する。本発明は、本発明に係る可溶性融合複合体を用いて、標的細胞を死滅させる方法を提供する。本明細書に記載されているIL−15変異体及び可溶性複合体は、潜在的な治療有用性を有する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
したがって、一つの態様において、本発明は、少なくとも2つの可溶性融合タンパク質を含有する可溶性融合タンパク質複合体であって、第一の融合タンパク質が、インターロイキン15(IL−15)又はその機能的断片に共有結合している第一の生物活性ポリペプチドを含み、かつ、第二の融合タンパク質が、可溶性インターロイキン15受容体α鎖(IL−15Ra)ポリペプチド又はその機能的断片に共有結合している第二の生物活性ポリペプチドを含み、第一の融合タンパク質のIL−15ドメインが、第二の融合タンパク質の可溶性IL−15Raドメインに結合して可溶性の融合タンパク質複合体を形成する、可溶性融合タンパク質複合体を提供する。
【0012】
一つの態様では、第一及び第二の生物活性ポリペプチドの一つが、第一の可溶性T細胞受容体(TCR)、又はその機能的断片を含有する。別の態様では、これらの生物活性ポリペプチドの別の一つが、第一の可溶性TCR又はその機能的断片を含み、それによって、結合活性が増加した多価性のTCR融合タンパク質複合体を創出する。さらに別の態様では、もう一方の生物活性ポリペプチドが、第一の可溶性TCRとは異なる第二の可溶性TCR又はその機能的断片を含有する。
【0013】
本態様の別の実施態様では、このTCRは、特定の抗原を認識するのに特異的である。
【0014】
本態様のさらなる実施態様では、このTCRは、TCRのa鎖及びb鎖を含有するヘテロ二量体である。
【0015】
本態様のさらに別の実施態様では、このTCRは、単鎖TCRポリペプチドを含有する。さらなる態様では、この単鎖TCRは、ペプチドリンカー配列によってTCRのV−β鎖に共有結合したTCR Vα鎖を含有する。別のさらなる態様では、この単鎖TCRは、さらに、TCRのV−β鎖に共有結合した可溶性TCR Cβ鎖断片を含有する。
【0016】
別の態様では、この単鎖TCRは、TCR Vα鎖に共有結合した可溶性TCR Cα鎖断片をさらに含有する。
【0017】
さらなる態様では、第一及び第二の生物活性ポリペプチドの一方又は両方は、抗体又はその機能的断片を含有する。
【0018】
さらに別の態様では、抗体は、特定の抗原の認識について特異的である。さらなる態様では、抗体は、単鎖抗体又は単鎖Fvである。別の特定の態様では、単鎖抗体は、ポリペプチドリンカー配列によって、免疫グロブリンの重鎖可変領域に共有結合した免疫グロブリン軽鎖可変ドメインを含有する。
【0019】
上記態様の一つの実施態様では、第一の生物活性ポリペプチドは、ポリペプチドリンカー配列によって、IL−15(又はその機能的断片)に共有結合している。
【0020】
上記態様の別の実施態様では、第二の生物活性ポリペプチドは、ポリペプチドリンカー配列によって、IL−15Raポリペプチド(又はその機能的断片)に共有結合している。
【0021】
別の態様では、TCRドメインに対する抗原は、MHC分子又はHLA分子に存在するペプチド抗原を含有する。さらなる態様では、ペプチド抗原は、腫瘍関連ポリペプチド又はウイルスにコードされているポリペプチドに由来する。
【0022】
別の態様では、抗体ドメインに対する抗原は、細胞表面の受容体又はリガンドを含有する。
【0023】
さらなる態様では、抗原は、CD抗原、サイトカインもしくはケモカインの受容体若しくはリガンド、増殖因子の受容体若しくはリガンド、組織因子、細胞接着分子、MHC/MHC様分子、FC受容体、Toll様受容体、NK受容体、TCR、BCR、陽性/陰性の共刺激受容体もしくは共刺激リガンド、細胞死受容体もしくは細胞死リガンド、腫瘍関連抗原、又はウイルスにコードされている抗原を含有する。
【0024】
上記態様の別の実施態様では、IL−15Raポリペプチドは、IL−15と結合することができる、IL−15受容体アルファ(α鎖)の細胞外ドメインを含有する。
【0025】
上記態様の別の実施態様では、IL−15Raポリペプチドは、IL−15aのスシドメイン(Wei et al. Journal of Immunology, 2001, 167:277-282)又はIL−15aΔE3ドメイン(Anderson et al. 1995, J. Biol. Chem. 270:29862-29869; Dubois et al. 1999, J. Biol. Chem. 274:26978-26984)を含む。
【0026】
別の態様において、本発明は、天然型の(又は、野生型)IL−15タンパク質とは異なるアミノ酸配列を有し、IL−15Raポリペプチドに結合してIL−15のアゴニスト又はアンタゴニストとして機能するIL−15変異体(IL−15突然変異体とも呼ばれる)を提供する。本発明の態様では、IL−15変異体は、非融合タンパク質として、又は上記の生物活性ポリペプチドを含有する可溶性融合タンパク質として提供され、該IL−15変異体が、IL−15ドメインの代わりに使用される。
【0027】
上記態様の一つの実施態様では、本発明は、本明細書に記載されている態様又は実施態様のいずれかに記載された第一の融合タンパク質をコードする核酸配列を特徴とする。
【0028】
上記態様の一つの実施態様では、本発明は、本明細書に記載されている態様又は実施態様のいずれかに記載された第二の融合タンパク質をコードする核酸配列を特徴とする。
【0029】
上記態様の一つの実施態様では、本発明は、本明細書に記載されている態様又は実施態様のいずれかに記載されたIL−15変異体をコードする核酸配列を特徴とする。
【0030】
一つの態様では、核酸配列は、さらに、融合タンパク質又はIL−15変異体をコードする配列に機能可能に結合されたプロモーター、翻訳開始シグナル、及びリーダー配列を含有する。別の態様では、上記の核酸配列の何れかがDNAベクターに包含されている。
【0031】
別の態様において、本発明は、上記態様に係る可溶性融合タンパク質複合体を作製する方法を特徴としていて、方法は::上記の態様及び実施形態に記載された、第一の融合タンパク質をコードするDNAベクターを第一の宿主細胞に導入すること、細胞又は培地の中で第一の融合タンパク質を発現させるのに十分な条件下で、培地において第一の宿主細胞を培養すること、第一の融合タンパク質を宿主細胞又は培地から精製すること、第二の融合タンパク質をコードする、上記の態様及び実施形態に係るDNAベクターを、第二の宿主細胞の中に導入すること、細胞又は培地の中で第二の融合タンパク質を発現させるのに十分な条件下で、培地において第二の宿主細胞を培養すること、及び第二の融合タンパク質を宿主細胞又は培地から精製すること、及び、第一の融合タンパク質のIL−15ドメインと、第二の融合タンパク質の可溶性IL−15Raドメインとを結合させて可溶性融合タンパク質複合体を形成させるのに十分な条件下で、第一の融合タンパク質と第二の融合タンパク質を混合することを含有する。
【0032】
別の態様において、本発明は、上記態様に係る可溶性融合タンパク質複合体を作製する方法を特徴としていて、方法は:上記の態様及び実施形態に記載された、第一の融合タンパク質をコードするDNAベクターと、上記の態様及び実施形態に記載されたような、第二の融合タンパク質をコードするDNAベクターとを宿主細胞に導入すること、細胞又は培地の中で融合タンパク質を発現させ、かつ、第一の融合タンパク質のIL−15ドメインと第二の融合タンパク質の可溶性IL−15Raドメインとを会合させて可溶性融合タンパク質複合体を形成させるのに十分な条件下で、培地において宿主細胞を培養すること、及び、宿主細胞又は培地から可溶性融合タンパク質複合体を精製することを含有する。
【0033】
さらに別の態様において、本発明は、上記態様に係る可溶性融合タンパク質複合体を作製する方法を特徴としていて、方法は:第一及び第二の融合タンパク質をコードする、請求項28に記載のDNAベクターを宿主細胞に導入すること、細胞又は培地の中で融合タンパク質を発現させ、かつ、第一の融合タンパク質のIL−15ドメインと第二の融合タンパク質の可溶性IL−15Raドメインとを会合させて可溶性融合タンパク質複合体を形成させるのに十分な条件下で、培地において宿主細胞を培養すること、宿主細胞又は培地から可溶性融合タンパク質複合体を精製することを含有する。
【0034】
上記方法のさらに別の態様において、IL−15変異体をコードするDNAベクターを、第一の融合タンパク質をコードするDNAベクターの代わりに用いて、該IL−15変異体を発現することができる宿主細胞を作出し、該IL−15変異体を、第二の融合タンパク質のIL−15Raドメインに会合させて、可溶性融合タンパク質複合体を形成させる。
【0035】
別の態様において、本発明は、上記態様に係るIL−15変異体を作製する方法を特徴としていて、方法は:上記の態様及び実施形態に記載された、IL−15変異体をコードするDNAベクターを宿主細胞に導入すること、細胞又は培地の中でIL−15変異体を発現させるのに十分な条件下で、培地において宿主細胞を培養すること、宿主細胞又は培地からIL−15変異体を精製することを含有する。
【0036】
別の態様において、本発明は、標的細胞を死滅させる方法を特徴としていて、方法は:上記態様のIL−15ドメインによって認識されるIL−15R鎖を有する免疫細胞、及び上記態様の生物活性ポリペプチドの少なくとも一つによって認識される抗原を有する標的細胞をさらに含有する複数の細胞を、上記の態様又は実施形態のいずれかに係る可溶性融合タンパク質複合体又はIL−15変異体に接触させること、標的細胞上の抗原と免疫細胞上のIL−15R鎖との間に、免疫細胞に結合して活性化させるのに十分な特異的結合複合体(ブリッジ)を形成させること、及び結合した活性化免疫細胞によって標的細胞を死滅させることを含有する。
【0037】
本方法の一つの態様では、標的細胞は、腫瘍細胞又はウイルス感染細胞である。
【0038】
本方法の別の態様では、生物活性ポリペプチドはTCRを含有する。
【0039】
本方法のさらに別の態様では、標的細胞上の抗原は、MHC分子又はHLA分子の中に提示され、TCRによって認識される腫瘍ペプチド抗原又はウイルスにコードされているペプチド抗原を含有する。
【0040】
本方法のさらなる態様では、免疫細胞は、T細胞、LAK細胞、又はNK細胞である。
【0041】
別の態様において、本発明は、疾患細胞が疾患関連抗原を発現する患者における疾患を予防又は治療する方法を特徴としていて、方法は:疾患関連抗原を認識する生物活性ポリペプチドを含有する、上記の態様及び実施形態のいずれかに記載された可溶性融合タンパク質複合体又はIL−15変異体を患者に投与すること、抗原を発現する疾患細胞と、IL−15Rを発現する免疫細胞との間に特異的結合複合体(ブリッジ)を形成させて、免疫細胞を局在化させること、及び疾患細胞を損傷又は死滅させて、患者における疾患を予防又は治療することを含有する。
【0042】
別の態様において、本発明は、疾患細胞が疾患関連抗原を発現する患者における疾患を予防又は治療する方法を特徴としていて、方法は:IL−15R鎖を有する免疫細胞を、疾患関連抗原を認識する生物活性ポリペプチドを含有する、請求項1から22に記載の可溶性融合タンパク質複合体と混合すること、この免疫細胞−融合タンパク質複合体混合物を患者に投与すること、抗原を発現する疾患細胞と、IL−15Rを発現する免疫細胞との間に特異的結合複合体(ブリッジ)を形成させて、免疫細胞を局在化させること、及び疾患細胞を損傷又は死滅させて、患者における疾患を予防又は治療することを含有する。
【0043】
別の態様において、本発明は、患者の細胞が疾患関連抗原を発現する患者における疾患を予防又は治療する方法を特徴としていて、方法は:患者の細胞上にある疾患関連抗原を認識する生物活性ポリペプチドを含有する、上記の態様又は実施形態のいずれかに記載された可溶性融合タンパク質複合体又はIL−15変異体を患者に投与すること、可溶性融合タンパク質複合体又はIL−15変異体のIL−15ドメインが、IL−15R鎖を有する免疫細胞に結合する可溶性融合タンパク質複合体又はIL−15変異体を、患者の細胞上に局在化させること、及び該免疫細胞の免疫応答を抑制することを含有する。
【0044】
本方法の一つの態様では、疾患は、癌又はウイルス感染症である。
【0045】
本方法の別の態様では、疾患は、免疫疾患、自己免疫疾患、又は炎症性疾患である。
【0046】
本方法の別の態様では、疾患関連抗原は、ペプチド/MHC複合体である。
【0047】
別の態様では、本発明は、上記の態様及び実施形態のいずれかに記載された可溶性融合タンパク質複合体又はIL−15変異体の有効量を哺乳動物に投与することを含有している、哺乳動物における免疫応答を刺激する方法を特徴とする。
別の態様では、本発明は、上記の態様及び実施形態のいずれかに記載された可溶性融合タンパク質複合体又はIL−15変異体の有効量を哺乳動物に投与することを含有している、哺乳動物における免疫応答を刺激する方法を特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1A】図1A及びBは概略図である。図1Aは、単鎖TCRポリペプチドを含有する融合タンパク質複合体の一例を描いた概略図である。
【図1B】図1Bは、融合タンパク質複合体を含有する代表的な融合タンパク質の構成を描いた概略図である。
【図2A】図2A〜Cは、3つの分図からなる。図2Aは、pNEF38−c264scTCR/huIL15発現ベクターのマップを示す。
【図2B】図2Bは、c264scTCR/huIL15融合遺伝子の配列を示す。
【図2C】図2Cは、c264scTCR/huIL15融合タンパク質の、リーdダー配列を含有する配列を示す。
【図3A】図3A〜Cは、3つの分図からなる。図3Aは、pNEF38−c264scTCR−hinge−huIL15発現ベクターのマップを示す。
【図3B】図3Bは、c264scTCR−hinge−huIL15融合遺伝子の配列を示す。
【図3C】図3Cは、c264scTCR−hinge−huIL15融合タンパク質の、リーダー配列を含有する配列を示す。
【図4A】図4A〜Cは、3つの分図からなる。図4Aは、pNEF38−c264scTCR/huIL15RaDE3発現ベクターのマップを示す。
【図4B】図4Bは、c264scTCR/huIL15RαΔE3融合遺伝子の配列を示す。
【図4C】図4Cは、c264scTCR/huIL15RαΔE3融合タンパク質の、リーダー配列を含有する配列を示す。
【図5A】図5A〜Cは、3つの分図からなる。図5Aは、pNEF38−c264scTCR/huIL15RaSushi発現ベクターのマップを示す。
【図5B】図5Bは、c264scTCR/huIL15RαSushi融合遺伝子の配列を示す。ま
【図5C】図5Cは、c264scTCR/huIL15RαSushi融合タンパク質の、リーダー配列を含有する配列を示す。
【図6A】図6A〜Cは、3つの分図からなる。図6Aは、pNEF38−c264scTCR−hinge−huIL15RaSushi発現ベクターを示す。
【図6B】図6Bは、c264scTCR−hinge−huIL15RαSushi融合遺伝子の配列を示す。
【図6C】図6Cは、c264scTCR−hinge−huIL15RαSushi融合タンパク質の、リーダー配列を含有する配列を示す。
【図7】pSun−c264scTCRIL15/c264scTCRIL15RaSush発現ベクターのマップである。
【図8】pSun−c264scTCRIL15/c264scTCRIL15RaDE3発現ベクターのマップである。
【図9】図9A及びBは、TCR/IL15Rα融合タンパク質を発現する形質転換細胞の特徴を示す図である。図9Aは、融合タンパク質発現細胞のフローサイトメトリー分析の結果を示す2つのグラフである。図9Bは、融合タンパク質産生についてのTCRを用いたELISAの結果を示すグラフである。
【図10】図10A及びBは、還元SDS−PAGEによるTCR/IL15融合タンパク質及びTCR/IL15Rα融合タンパク質の分析を示す図である。図10Aは、c264scTCR/huIL15又はc264scTCR/huIL15RaSushiを含有する細胞培養上清を示す。図10Bは、c264scTCR/huIL15又はc264scTCR/huIL15RαΔE3を含有する細胞培養上清を示す。
【図11】図11A〜Cは、サイズ排除クロマトグラフィーによる、TCR/IL15、TCR/IL15Ra、及び融合タンパク質複合体の分析を示す図である。図11Aは、c264scTCR/huIL15のSECのSECクロマトグラフィープロファイルを示すグラフである。図11Bは、c264scTCR/huIL15RαSushiのSECクロマトグラフィープロファイルを示すグラフである。図11Cは、c264scTCR/huIL15+c264scTCR/huIL15RαSushi融合タンパク質複合体のSECクロマトグラフィープロファイルを示すグラフである。
【図12】図12A及びBは、サイズ排除クロマトグラフィーによる、TCR/IL15Rα及び融合タンパク質複合体の分析である。図12Aは、c264scTCR/huIL15RαΔE3のSECクロマトグラフィープロファイルを示すグラフである。図12Bは、c264scTCR/huIL15+c264scTCR/huIL15RαΔE3融合タンパク質複合体のSECクロマトグラフィープロファイルを示すグラフである。
【図13】図13は、フローサイトメトリーで測定して、TCR/IL15、TCR/IL15Rα、及び融合タンパク質複合体が、細胞上に提示されたペプチド/MHC複合体に結合することを示すグラフである。
【図14AB】図14A〜Dは、4つの分図からなる。図14Aは、成熟ヒトIL−15タンパク質の配列(配列番号:1)を示し、青色の下線が施された残基は、表1に示すIL−15変異体で置換されている。図14Bは、pNEF38−c264scTCR−hinge−huIL15D8A発現ベクター及びpNEF38−c264scTCR−hinge−huIL15D8N発現ベクターを示す。
【図14C−1】図14Cは、pNEF38−c264scTCR−hinge−huIL15D8A遺伝子及びpNEF38−c264scTCR−hinge−huIL15D8N遺伝子の配列を示す。
【図14C−2】図14Cは、pNEF38−c264scTCR−hinge−huIL15D8A遺伝子及びpNEF38−c264scTCR−hinge−huIL15D8N遺伝子の配列を示す。
【図14D−1】図14Dは、pNEF38−c264scTCR−hinge−huIL15D8A融合タンパク質及びpNEF38−c264scTCR−hinge−huIL15D8N融合タンパク質の、リーダー配列を含有する配列を示す。青色の下線が施されたヌクレオチドを変更して、表示されているIL−15変異体を作出した。
【図14D−2】図14Dは、pNEF38−c264scTCR−hinge−huIL15D8A融合タンパク質及びpNEF38−c264scTCR−hinge−huIL15D8N融合タンパク質の、リーダー配列を含有する配列を示す。青色の下線が施されたヌクレオチドを変更して、表示されているIL−15変異体を作出した。
【図15】図15は、IL−15R産生CTLL2細胞を、融合タンパク質及び複合体で染色した後、TCR特異的ペプチド/MHC試薬で染色したもののフローサイトメトリー分析の結果を示すグラフである。
【図16】図16は、細胞増殖アッセイ法によって測定すると、融合タンパク質及び融合タンパク質複合体が、IL15R産生細胞の増殖を支持していることを示すグラフである。
【図17AB】図17A〜Cは、フローサイトメトリーで測定して、TCR/IL15RαSushi、及びTCR/IL15の二量体の融合タンパク質複合体で、天然型及び変異型のIL−15を含有するものが、ペプチドを負荷された細胞上に提示された同起源のペプチド/MHC複合体に結合することを示すグラフである。ペプチド負荷のない細胞上における二量体融合タンパク質複合体のバックグランド結合も示されている。図17Aは、TCR/IL15RαSushiと、TCR/IL15wt(天然型)又はTCR/IL15D8N変異体又はTCR/IL15D8A変異体の二量体複合体が、細胞上に提示された同起源のペプチド/MHC複合体に結合することを示すグラフである。図17Bは、TCR/IL15RαSushiとTCR/IL15wt(天然型)の二量体複合体が、ペプチド負荷のない細胞に僅かにバックグランド結合することを示すグラフである。TCR/IL15RαSushiとTCR/IL15D8N変異体又はTCR/IL15D8A変異体との二量体複合体による、ペプチド負荷のない細胞へのバックグランド結合は見られなかった。
【図17C】図17Cは、TCR/IL15RαSushi及びTCR/IL15wt(天然型)、又はTCR/IL15N72D変異体、TCR/IL15D8N変異体、又はTCR/IL15D8A変異体の二量体複合体によって染色された、IL−15RβγC産生32Dβ細胞のフローサイトメトリー分析の結果を示すグラフである。TCR/IL15N72Dを含有する複合体のIL−15RβγCへの結合が増加し、TCR/IL15D8N又はTCR/IL15D8Aを含有する複合体のIL−15RβγCへの結合が低下することが観察された。
【図18】図18A及びBは、ELISAによって測定された、同起源のペプチド/MHC複合体及びIL15Rαに対する、野生型TCR/IL15融合タンパク質、アンタゴニストTCR/IL15融合タンパク質、及びアゴニストTCR/IL15融合タンパク質の結合活性を示すグラフである。図18Aは、同起源のペプチド/MHC複合体に対する融合タンパク質の結合活性を示す分析結果である。図18Bは、IL15Rαに対する融合タンパク質の結合活性を示す分析結果である。
【図19AB】図19A〜Cは、細胞増殖アッセイ法によって測定すると、IL−15変異体を含有するTCR/IL−15融合タンパク質が、IL15R産生細胞の増殖を抑制又は促進できることを示すグラフである。図19Aは、高親和性IL15R(αβγ受容体複合体)を産生するCTLL−2細胞の増殖を阻害する、IL−15変異体を含有する融合タンパク質の活性を示すグラフである。図19Bは、低親和性IL15R(βγ受容体複合体)を産生する32Dβ細胞の増殖を阻害又は促進する、IL−15変異体を含有する融合タンパク質の活性を示すグラフである。
【図19C】図19Cは、高親和性IL15R(αβγ受容体複合体)を産生するCTLL−2細胞のTCR/IL15wt−刺激による増殖を阻止する、IL−15変異体を含有する融合タンパク質の活性を示すグラフである。
【図20】図20は、NK細胞を、二量体融合タンパク質複合体のTCR/IL15RαSushi及びTCR/IL15とともにインビトロでインキュベートした場合の、異種移植腫瘍担持ヌードマウスの生存率に与える影響を示す図である。胸腺欠損ヌードマウスにヒトNSCLC A549−A2細胞を注入して、肺転移を確立する。同種異系ドナーマウスの脾臓から単離して精製したNK細胞を、rhIL−2、MART1scTCR−IL2、c264scTCR−IL2、又はc264scTCR−IL15/c264scTCR−IL15Rαとともにインビトロでインキュベートして、シクロホスファミド(CTX)でプレ処理した腫瘍産生マウスに、図面の説明書きに示すように養子導入した。処理後の生存率をプロットした。
【図21】図21は、IL−15変異体におけるアミノ酸置換とそれらの変化がIL−15活性に及ぼす影響とを表1に示したものである。
【図22】図22A及びBは、IL−15(配列番号:1)のアミノ酸配列及びIL−15の核酸配列(配列番号:2)をそれぞれ示している。
【発明を実施するための形態】
【0049】
IL−15がIL−15Rαの細胞外ドメインに安定して結合して、得られた複合体が、中程度又は高度の親和性を有するIL−15R複合体を介して免疫応答を調節(すなわち、刺激又は阻害)できることが確認されている(1−4)。また、単鎖TCR又は抗体ポリペプチドをサイトカイン及びその他の免疫エフェクタードメインに融合させることができ、そのような二重特異性融合分子が両方の融合ドメインの機能活性を保持することが実証されている(5−8)。また、多価型のTCRは、それらのリガンドへの結合増強をもたらすことが示されている(9)。
【0050】
(定義)
以下の定義は、以下の説明において使用される特定の用語に対するものである。
【0051】
本明細書及び特許請求の範囲において、単数形の「a」、「an」、及び「the」は、文脈上明らかに別段の記載がないかぎり、複数形への言及を含有する。例えば、「一つの細胞」という用語には、その混合物を含有する、複数の細胞も含まれる。「一つの核酸分子」という用語は、複数の核酸分子も含有する。
【0052】
本明細書において、「含有する」という用語は、組成物及び方法が、記載された要素を含有するが、それら以外の要素を除外しないことを意味する。「本質的に〜からなる」は、組成物及び方法を定義するために用いられる場合、その組み合わせに対して何らかの本質的な意義を有するその他の要素を除外することを意味するものである。すなわち、本明細書に記載された要素から本質的に構成される組成物は、その単離精製法及び薬学的に許容される担体からの微量の混入物、例えば、リン酸塩緩衝食塩水、保存剤などを除外するものではない。「からなる」は、他の成分の微量を超える要素、及び本発明に係る組成物を投与するための実質的な方法工程を除外することを意味するものとする。これら移行部の用語のそれぞれによって定義される実施形態は、本発明の範囲に含まれる。
【0053】
「抗体」とは、特異的エピトープを結合する任意の免疫グロブリンであって、抗体及びその断片を含有する。この用語には、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、キメラ抗体、及び単鎖抗体、並びに二重特異性抗体も包含される。
【0054】
本明細書において、「抗原」という用語は、それに対する抗体又は特異的細胞媒介性免疫応答を免疫系に生じさせる任意の物質を意味する。疾患関連抗原とは、任意の病気に関連した任意の物質のことである。
【0055】
本明細書において、「生物活性ポリペプチド」という用語は、本明細書で検討されているような所望の効果を生じることができるタンパク質、ポリペプチド、又はペプチドなどのアミノ酸配列;糖又は多糖;脂質又は糖脂質、糖タンパク質、又はリポタンパク質を意味するものとし、抗原結合活性を有するTCRもしくは抗体の融合タンパク複合体を含んでいる。
【0056】
本明細書において、「細胞」という用語は、任意の原核細胞、真核細胞、初代細胞、又は不老化細胞株を意味し、組織又は器官に存在する細胞などの任意のグループも意味する。好ましくは、細胞は、哺乳類、特にヒト由来の細胞であり、一つ以上の病原体に感染することが可能なものである。本発明に適合する「宿主細胞」は、原核細胞、真核細胞、哺乳類細胞、鳥類細胞、昆虫細胞、植物細胞、又は細菌細胞など、任意の由来の形質移入、形質転換、形質導入、又は感染した細胞であってもよく、又は本明細書記載の核酸を増殖させるのに用いることができる任意の起源の細胞であってもよい。
【0057】
本明細書において、「結合分子」という用語は、TCR分子又は抗体分子、及びエフェクター分子を意味し、通常、化学的方法又はその他の適当な方法によって共有結合(すなわち、融合)した化学分子又は合成分子である。必要ならば、結合分子を、ペプチドリンカー配列又は担体分子を介して一つ又はいくつかの部位で融合させることができる。あるいは、ペプチドリンカー又は担体を用いて、結合分子の構築に役立たせることも可能である。特に好適な結合分子は、結合毒素又は検出可能な標識である。
【0058】
本明細書において、「エフェクター分子」という用語は、タンパク質、ポリペプチド、又はペプチドなどのアミノ酸配列;糖又は多糖;脂質又は糖脂質、糖タンパク質、リポタンパク質又は化学物質であって、本明細書で検討されている所望の効果を生じさせることができるものを意味し、IL−15ドメイン、IL−15変異体、又はIL−15Rα、IL−2RβもしくはγCなどのIL−15受容体、又はこれらの機能的断片を含んでいる。
【0059】
「融合分子」及び「融合タンパク質」という用語は同義的に使用され、通常はTCR又は抗体である生物活性ポリペプチド、及び通常、組み換え的、化学的、又はその他適当な方法によって共有結合(すなわち融合)しているタンパク質又はペプチドの配列であるエフェクター分子を意味することとする。必要ならば、融合分子は、ペプチドリンカー配列を介して一つ又はいくつかの部位で融合させることができる。あるいは、ペプチドリンカーを用いて、融合分子の構築に役立てることを可能である。特に好適な融合分子は融合タンパク質である。一般的に、融合分子は、結合分子からなっていてもよい。
【0060】
「宿主細胞」という用語は、クローニングベクター又は発現ベクターを含有する任意の原核細胞又は真核細胞を意味することとする。また、この用語には、宿主細胞の染色体もしくはゲノムの中にクローニングされた遺伝子を含有するように遺伝子操作された原核細胞又は真核細胞も含まれる。
【0061】
本明細書において、「免疫応答」という用語は、明確な接着段階及び活性化段階を含有する多因子過程を介して、免疫細胞を刺激し、それらを血液からリンパ系組織及び非リンパ系組織に補充する過程を意味するものとする。活性化条件は、サイトカイン、増殖因子、ケモカイン、及びその他の因子を放出させたり、免疫細胞上における接着分子及びその他の活性化分子の発現を上方調節したり、組織を通過する走化性と同時に起きる接着、形態変化、及び/又は溢出を促進したり、細胞増殖及び細胞毒性を増加させたり、抗原提示を刺激したり、また、メモリー細胞型の生成を含有する、他の表現型変化をもたらしたりする。免疫応答は、免疫細胞が、他の免疫細胞の炎症活性又は細胞毒性を抑制又は調節する活性も意味することとする。
【0062】
本明細書において、「ポリヌクレオチド」及び「核酸分子」という用語は同義的に使用されており、任意の長さの多量体型のヌクレオチドを意味する。ポリヌクレオチドは、デオキシリボヌクレオチド、リボヌクレオチド、及び/又はそれらの類似体を含有することができる。ヌクレオチドは、何らかの三次元構造を有することができ、公知又は未知の機能を果たすことができる。「ポリヌクレオチド」という用語には、例えば、一本鎖分子、二本鎖分子、及び三重らせん分子、遺伝子もしくは遺伝子断片、エキソン、イントロン、mRNA、tRNA、rRNA、リボザイム、アンチセンス分子、cDNA、組み換えポリヌクレオチド、分枝ポリヌクレオチド、アプタマー、プラスミド、ベクター、何らかの配列を有する単離DNA、何らかの配列を有する単離RNA、核酸プローブ、及びプライマーなどが含まれる。また、核酸分子は、修飾された核酸分子(例えば、修飾塩基、糖、及び/又はヌクレオチド間リンカーを含有するもの)を含有することも可能である。
【0063】
「ポリペプチド」という用語は、その大きさにかかわらず、好ましくは、本質的に20種の天然アミノ酸のいずれかからなる任意のポリマーを意味することとする。「タンパク質」という用語は、しばしば、比較的高分子量のタンパク質を言うときに用いられ、「ペプチド」はしばしば、低分子量のポリペプチドを言うときに用いられるが、これらの用語の当該技術分野における使用はしばしば重複する。「ポリペプチド」という用語は、別段の記載がない限り、広く、タンパク質、ポリペプチド、及びペプチドを意味する。本発明に従った有用なペプチドは、一般的に、遠心分離法又はSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動法などの標準的な分子サイズ決定法によって判定すると、約0.1KD〜100KD、又はこれよりも大きく、約1000KDの間、好ましくは、約0.1、0.2、0.5、1、2、5、10、20、30、及び50KDの間であろう。
【0064】
「予防する」、「予防すること」、「予防」、「予防的治療」などの用語は、病気又は症状を発症してはいないが、発症するリスクがあるか、或いは発症しやすい対象において、病気又は症状を発症する可能性を低下させることを意味することとする。
【0065】
「一本鎖抗体」という用語は、一本鎖構成を基本とする抗体を意味するものとする。一本鎖抗体は、抗体の最小結合サブユニットからなることができる。一本鎖抗体は、安定的に折りたたまれたポリペプチド一本鎖上にある抗体の抗原結合領域のみを組み合わせることができる。そのため、一本鎖抗体は、標準的な免疫グロブリンよりもかなり小さいが、抗体の抗原特異的な結合特性を保持している。一本鎖抗体は、多様なリガンド、例えば、エフェクター分子又は薬物複合体に結合させることができる。
【0066】
本明細書において、「可溶性の」という用語は、水性緩衝液、例えば、細胞培地から、低G遠心(例えば、標準的な遠心分離機で毎分約30,000回転未満)では容易に沈降しない融合分子、特に融合タンパク質を意味する。さらに、融合分子は、約5〜37℃よりも高い温度、かつ陰イオン性又は非イオン性の界面活性剤が低濃度で存在するか、これらが存在しないときの中性又はそれに近いpHにおいて水溶液中に存在したままであれば可溶性である。これらの条件下では、可溶性タンパク質は、しばしば、低沈降値、例えば、約10〜50未満のスベドベリ単位を有するであろう。
【0067】
本明細書に記載されている水溶液は、一般的には、pH、一般的には約5〜9のpH範囲内、及び約2mMから500mMの範囲のイオン強度を確立するために緩衝用化合物を有している。プロテアーゼ阻害剤又は弱い非イオン性界面活性剤が添加される場合もある。また、必要ならば、ウシ血清アルブミン(BSA)のような担体タンパク質を数mg/mlまで加えることもできる。水性緩衝液の例には、標準的なリン酸緩衝生理食塩水、トリス緩衝食塩水、又はその他のよく知られている緩衝液及び細胞培地製剤などがある。
【0068】
「刺激する」又は「刺激」という用語は、免疫応答を増加させること、増幅すること、増強すること、増大させることを意味する。刺激は積極的な改変であってもよい。増加率の例は、例えば、5%、10%、25%、50%、75%、さらには90〜100%であってもよい。増加率のその他の例には、2倍、5倍、10倍、20倍、40倍、さらには100倍などがある。
【0069】
「抑制する」又は「抑制」という用語は、免疫応答を低下させること、弱めること、減少させること、停止させること、又は安定化させることを意味する。抑制は消極的な改変であってもよい。低下率の例は、例えば、5%、10%、25%、50%、75%、さらには90〜100%であってもよい。低下率のその他の例には、2倍、5倍、10倍、20倍、40倍、さらには100倍などがある。
【0070】
「T細胞受容体」(TCR)という用語は、抗原提示に応答してT細胞の活性化に関与する内在性膜タンパク質複合体のポリペプチドを意味するものである。T細胞は、αβ.ヘテロ二量体T細胞受容体(TCR)を介してMHC産物に結合しているペプチドを認識する。TCRのレパートリーには、抗体の重鎖遺伝子及び軽鎖遺伝子で用いられているのと同一の遺伝子再構成機構によって作られる広範な多様性がある[Tonegawa, S. (1988) Biosci. Rep. 8:3-26]。多様性の大部分は、α鎖及びβ鎖の相補性決定領域3(CDR3)をコードする、可変(V)領域と結合(J)(もしくは多様性(D))領域の連結部で生じる[Davis and Bjorkman (1988) Nature 334:395-402]。しかし、TCRは、抗体が受けるような体細胞点突然変異を受けることなく、おそらく同時発生的にではない。TCRは、抗体と同程度の親和性成熟を受けることもない。自然に存在する場合、TCRは、105〜107M−1の親和性を有するように見えるが、一方、抗体は、一般的には105〜109M−1の親和性を有する[Davis et al. (1998)Annu. Rev. Immunol. 16:523-544; Eisen et al. (1996) Adv. Protein Chem. 49:1-56]。TCRで体細胞点突然変異が起こらないことは、親和性が低いことに関連している可能性があるが、TCRにはより高い親和性を有する選択上の有利性がないとも主張されている。実際、T細胞活性化の漸次刺激モデル[Valitutti et al. (1995) Nature 375:148-151]及び動的校正モデル[Rabinowitz et al. (1996) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93:1401-1405]はいずれも、(より高い親和性に関連した)解離速度の遅さがシグナル伝達過程に有害なものであることを示唆している。高親和性TCRが、T細胞応答に必要なペプチド特異性を維持できない可能性もある。例えば、MHC溝内部に結合しているペプチドは、わずかな接触可能表面を提示する[Bjorkman, P.J. (1997) Cell 89:167-170]が、これは、次に、その相互
作用で生じ得るエネルギー量を制限する可能性がある。一方、MHCらせんにエネルギーを向けることによってTCRの親和性を高めると、おそらく負の選択過程でチミン欠失が生じると思われる[Bevan, M.J. (1997) Immunity 7:175-178]。「TCR」という用語には、ポリクローナル、モノクローナル、キメラ、ヒト化、ヘテロ二量体、及び単鎖のT細胞受容体又はそれらの機能性断片が包含され、TCRのVαドメイン及びVβドメインを含有する分子などがある。また、「TCR」という用語には、例えば、「T CELL RECEPTOR FUSIONS AND CONJUGATES AND METHODS OF USE THEREOF」と題する、2008年3月19日出願の米国特許仮出願及び米国特許公報US 2003 01−44474A1に開示されているT細胞受容体も包含される。
【0071】
「ベクター」という用語は、宿主細胞内で自己複製し、外来DNAを受け入れることができる核酸分子のことである。ベクターは、自ら複製開始点を有し、外来DNAを挿入するために用いることができる制限エンドヌクレアーゼに対する固有の認識部位を一つ以上有し、また、通常、抗生物質耐性をコードする遺伝子のような選択可能マーカー、及び、しばしば、挿入DNAを発現させるための認識配列(例えば、プロモーター)を有する。一般的なベクターには、プラスミドベクター及びファージベクターなどがある。
【0072】
T細胞受容体(TCR)
T細胞は、他の免疫細胞型(多形核細胞、好酸球、好塩基球、マスト細胞、B細胞、NK細胞)と共に免疫系の細胞成分を構成する細胞のサブグループである。生理条件下で、T細胞は、免疫監視及び外来抗原の排除において機能を果たす。しかし、病的条件下では、T細胞が病気の原因及びその伝播において主要な役割を果たしているという有力な証拠が存在する。これらの疾患においては、中枢であろうと末梢であろうと、T細胞の免疫寛容の崩壊が自己免疫疾患を引き起こす基本的な過程である。
【0073】
TCRは、少なくとも7個の膜貫通タンパク質から構成される。ジスルフィド結合した(α、β)ヘテロ二量体は、単一型抗原認識単位を形成するが、一方、ε鎖、γ鎖、δ鎖、及びζ鎖及びη鎖からなる、CD3の不変鎖は、T細胞の活性化及び細胞性免疫応答の発生をもたらすシグナル経路に結合するリガンドのカップリングに関与する。TCR鎖の遺伝子の多様性にもかかわらず、2つの構造特性が公知のサブユニット全部に共通している。第一は、これらが、恐らくはα−へリックス型の単一の膜貫通全域ドメインを有する膜貫通タンパク質であることである。第二は、すべてのTCR鎖は、予想膜貫通ドメイン内部に荷電アミノ酸を有するという珍しい特徴を有することである。不変鎖は、マウスとヒトの間で保存されている単一の負の電荷を有し、また不変鎖は1つ(TCR−β)又は2つ(TCR−α)の正電荷を有する。TCR−αの膜貫通配列は、多くの種において高度に保存されており、そのため、系統発生学的には重要な機能的役割を果たしている可能性がある。親水性アミノ酸であるアルギニン及びリジンを含有するオクタペプチド配列は、これらの種の間で同一である。
【0074】
T細胞応答は、TCRに結合する抗原によって調節されている。一つの型のTCRは、免疫グロブリンの可変(V)及び定常(C)領域に似たα鎖及びβ鎖からなる膜結合型ヘテロ二量体である。TCRα鎖は、共有結合しているV−α鎖及びC−α鎖を含有するが、β鎖は、C−β鎖に共有結合しているV−β鎖を含有する。V−α鎖及びV−β鎖は、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)(ヒトにおいてはHLA複合体として知られている)と関連して超抗原又は抗原を結合することができるポケット又は間隙を形成する。一般的には、Davis Ann.Rev.of Immunology 3:537(1985); Fundamental Immunology 3rd Ed., W. Paul Ed. Rsen Press LTD.New York (1993) を参照されたい。
【0075】
融合タンパク質
本発明に係る可溶性融合タンパク質及び結合分子複合体は、少なくとも2つの可溶性融合タンパク質を含有するが、ここで、第一の融合タンパク質は、インターロイキン15(IL−15)又はその機能的断片に共有結合している第一の生物活性ポリペプチドを含み、かつ、第二の融合タンパク質は、可溶性インターロイキン15受容体α(IL−15Ra)ポリペプチド又はその機能的断片に共有結合している第二の生物活性ポリペプチドを含み、第一の融合タンパク質のIL−15ドメインが、第二の融合タンパク質の可溶性IL−15Raドメインに結合して可溶性の融合タンパク質複合体を形成している。
【0076】
ある特定の例において、生物活性ポリペプチドの一方は、第一の可溶性TCR又はその断片を含有する。他方もしくは第二の生物活性ポリペプチドは、第一の可溶性TCR又はその機能的断片を含有していて、その結果、一価のTCRと比較して同族リガンドに対する結合活性が増大した多価のTCR融合タンパク質複合体を作出する。さらに、他方の生物活性ポリペプチドは、第一の可溶性TCRとは異なる第二の可溶性TCR又はその機能性断片を含有する。ある特定の例において、例えば、天然型TCRと比較して、同族リガンドに対してより高い親和性又は増加した結合親和性を有するTCRが産生される。本明細書に記載されるような本発明に係る可溶性TCRが、そのリガンドに対してより高い親和力(avidity)又は親和性(affinity)を有している場合には、それは、細胞表面結合型抗原のための特異的プローブとして有用である。本発明のある特定の好適な例において、TCRは、特定の抗原を特異的に認識する。
【0077】
例示的な態様では、TCRは、α鎖(本明細書では、α鎖、アルファ鎖、又はa鎖と称す)及びβ鎖(本明細書では、β鎖、ベータ鎖、又はb鎖と称す)を含有するヘテロ二量体である。別の例示的な態様では、TCRは、単鎖TCRポリペプチドを含有する。単鎖TCRは、ペプチドリンカー配列によって、TCRのV−β鎖と共有結合したTCR V−α鎖を含有することができる。単鎖TCRは、さらに、TCRのV−β鎖に共有結合した可溶性TCR Cβ鎖断片を含有することができる。単鎖TCRはさらに、TCRのV−α鎖に共有結合した可溶性TCRのCα鎖断片を含有することができる。
【0078】
さらなる態様では、第一及び第二の生物活性ポリペプチドの一方又は両方が、抗体又はその機能性断片を含有している。
【0079】
本明細書において、「生物活性ポリペプチド」又は「エフェクター分子」という用語は、本明細書に記載されるような所望の効果をもたらすことができる、タンパク質、ポリペプチド、又はペプチドなどのアミノ酸配列;糖又は多糖;脂質又は糖脂質、糖タンパク質、若しくはリポタンパク質を意味する。エフェクター分子には、化学物質も含まれる。生物活性があるか又はエフェクターであるタンパク質、ポリペプチド、又はペプチドをコードするエフェクター分子核酸も意図している。従って、適当な分子には、調節因子、酵素、抗体、又は薬物、並びにDNA、RNA、及びオリゴヌクレオチドも含有される。生物活性ポリペプチド又はエフェクター分子は天然のものであってもよく、又は、例えば、組み換え又は化学合成によって公知の成分から合成することもでき、異種由来の成分を含有することもできる。生物活性ポリペプチド又はエフェクター分子は、通常、遠心分離法又はSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動法などの標準的な分子サイズ決定法によって判定すると、約0.1KD〜100KD、又はこれよりも大きく、約1000KDまでの間、好ましくは、約0.1、0.2、0.5、1、2、5、10、20、30、及び50KDの間である。本発明の所望の効果は、例えば、結合活性が増大したTCR融合タンパク質複合体を形成させること、標的細胞を死滅させること(例えば細胞増殖もしくは細胞死を誘導するために)、病気を予防又は治療するときに免疫応答を引き起こすこと、又は診断用の検出分子として作用することを含有するが、これらに限定されない。このような検出を行うために、アッセイ法、例えば、細胞を培養して増殖させ、この細胞を本発明に係るTCR融合複合体と接触させて、TCR融合複合体が細胞のさらなる発生を抑制できるか否かを評価するという一連の工程を含有するアッセイ法を用いることができよう。
【0080】
本発明に従ってエフェクター分子をTCRペプチドに共有結合させることにより、多くの顕著な利益がもたらされる。公知の構造を有するペプチドなどの単一エフェクター分子を含有する、本発明に係るTCR融合複合体を作製することができる。また、多様なエフェクター分子を同じようなDNAベクター内に作製することができる。すなわち、感染細胞又は異常細胞を提示するために、さまざまなエフェクター分子のライブラリーをTCR分子に結合させることができる。さらに、治療に応用するために、対象にTCR分子を投与するのではなく、エフェクターペプチドに結合するTCR分子をコードするDNA発現ベクターを、TCR融合複合体をインビボで発現させるために投与することができる。このような方法により、一般的には組み換えタンパク質の調製に関連する費用の掛かる精製工程を避けることができ、かつ、従来の方法に関連した抗原の取り込み及び処理の複雑さを回避することができる。
【0081】
上記したように、本明細書に開示した融合タンパク質の成分、例えば、サイトカイン、ケモカイン、増殖因子、タンパク質毒素、免疫グロブリンドメイン若しくはその他の生物活性分子、及び何れかのペプチドリンカーなどのエフェクター分子は、融合タンパク質に意図された機能があるのであれば、ほぼどのような形にも構築することができる。具体的には、融合タンパク質の各成分を、必要ならば少なくとも一つの適当なペプチドリンカー配列によって、別の成分との距離をあけて配置することができる。また、融合タンパク質は、例えば、融合タンパク質の修飾、同定、及び/又は精製を容易にするためにタグを含有することができる。より具体的な融合タンパク質が、下記の実施例に記載されている。
【0082】
リンカー
本発明に係る融合複合体は、好ましくは、IL−15ドメイン又はIL−15Rαドメインと生物活性ポリペプチドとの間に置かれる可動性リンカー配列も含有する。リンカー配列は、IL−15ドメイン又はIL−15Rαドメインに対して生物活性ポリペプチドを効果的に配置して、この両ドメインが機能的に活性を発揮できるようにすることを可能にするはずである。生物活性ポリペプチドがTCRである態様では、リンカー配列は、TCR分子結合溝を、T細胞受容体がMCH−ペプチド複合体の提示を認識して、エフェクター分子を所望の部位に送達できるように配置する。エフェクター分子をうまく提示できると、T細胞を培養して増殖させ、このT細胞を本発明に係るTCR融合複合体と接触させて、TCR融合複合体が細胞のさらなる発生を抑制できるか否かを評価するという一連の工程を含有するインビトロアッセイ法など、下記に開示されているアッセイ法によって測定しながら、T細胞の増殖を誘導又は阻害したり、特定の部位に対する免疫応答を開始又は抑制したりするよう細胞の活性を調節することができる。
【0083】
ある特定の態様では、可溶性融合タンパク質複合体は、第一の生物活性ポリペプチドが、ポリペプチドリンカー配列によってIL−15(又はその機能性断片)に共有結合しているリンカーを有する。
【0084】
別の特定の態様では、本明細書に記載されているような可溶性融合タンパク質複合体は、第二の生物活性ポリペプチドが、ポリペプチドリンカー配列によってIL−15Rαポリペプチド(又はその機能性断片)に共有結合しているリンカーを有する。
【0085】
リンカー配列は、好ましくは、提示抗原を認識するためにTCR分子の結合溝を効果的に配置することができるペプチドを生じさせるヌクレオチド配列によってコードされている。本明細書において、「生物活性ポリペプチドを、IL−15ドメイン又はIL−15Rαドメインに対して効果的に配置すること」という語句、又はその他同様の語句は、IL−15ドメイン又はIL−15Rαドメインが互いに相互作用してタンパク質複合体を形成することができるよう、IL−15ドメイン又はIL−15Rαドメインに結合した生物活性ポリペプチドを配置することを意味するものである。ある特定の態様では、IL−15ドメイン又はIL−15Rαドメインは、免疫細胞と相互作用して、免疫反応を開始又は阻害するか、細胞発生を阻害又は刺激できるよう効果的に配置されている。
【0086】
リンカー配列は、好ましくは約7〜20個のアミノ酸、より好ましくは約8〜16個のアミノ酸を含有する。リンカー配列は、好ましくは、生物活性ポリペプチド又はエフェクター分子を単一の望ましくない立体構造のままにさせないよう可動的である。リンカー配列を用いて、例えば、認識部位を融合分子から距離をあけて配置することができる。具体的には、ペプチドリンカー配列を生物活性ポリペプチドとエフェクター分子の間に配置して、例えば、それらを化学的に架橋して分子柔軟性をもたらすことができる。リンカーは、好ましくは、柔軟性を与えるために、例えば、グリシン、アラニン、及びセリンなどの低分子側鎖を有するアミノ酸を主に含有する。好ましくは、リンカー配列の約80%又は90%、又はそれ以上がグリシン残基、アラニン残基、又はセリン残基を含み、特にグリシン残基及びセリン残基を含有する。ヘテロ二量体TCRを含有する融合タンパク質複合体では、リンカー配列は、TCR分子のb鎖に適当に結合しているが、リンカー配列は、TCR分子のa鎖に結合していてもよい。あるいは、リンカー配列は、TCR分子のa鎖及びb鎖の両方に結合していてもよい。そのようなβペプチド鎖がa鎖と共に発現されると、図1に概略して描かれているように、TCR−エフェクター結合ペプチドが折りたたまれて、機能的TCR分子となるはずである。一つの適当なリンカー配列は、ASGGGGSGGG(すなわち、Ala Ser Gly Gly Gly Gly Ser Gly Gly Gly)であり、好ましくは、TCRのbドメインの最初のアミノ酸に結合している。抗体の可変領域をうまく連結するために用いられてきた多くの可動性リンカー設計のいずれかを含有する、さまざまなリンカー配列を用いることもできる。Whitlow, M. et al. (1991) Methods: A Companion to Methods in Enzymology 2:97-105 を参照されたい。いくつかの例では、エフェクター分子をTCRb鎖分子に共有結合させるためには、リンカーのアミノ配列が、TCRベータ鎖のC−末端残基からエフェクター分子のN−末端残基までの間に適当な距離を置くことができなければならない。適当なリンカー配列を、経験的に容易に同定することができる。さらに、リンカー配列の適当な大きさ及び配列も、TCR分子の予測される大きさ及び形状に基づいて、従来のコンピューターモデリング技法によって決定することができる。
【0087】
一般的に、本発明に係る融合タンパク質複合体の調製は、本明細書に開示された手順によって、そして、例えば、ポリメラーゼ連鎖増幅反応(PCR)、プラスミドDNAの調製、制限酵素によるDNA切断、オリゴヌクレオチドの調製、DNAライゲーション、mRNAの単離、適当な細胞へのDNA導入、宿主の形質転換又は形質移入、宿主の培養を含有する、広く知られている組み換えDNA技術によって行うことができる。さらに、カオトロピック(chaotropic)剤、並びに公知の電気泳動法、遠心分離法、及びクロマトグラフィー法を用いて、融合タンパク質を単離及び精製することができる。これらの方法に関する開示については、一般的に、Sambrook et al. Molecular Cloning: A Laboratory Manual (2nd ed. (1989); 及びAusubel et al. Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, New York(1989)を参照されたい。
【0088】
本明細書において、本発明に係る生物活性ポリペプチド又はエフェクター分子には、サイトカイン、ケモカイン、増殖因子、タンパク質毒素、免疫グロブリンドメインなどの因子、又は、その他の生物活性タンパク質、例えば、酵素などを含有することができる。また、生物活性ポリペプチドには、非タンパク質毒素、細胞傷害剤、化学療法剤、検出可能な標識、放射性物質のような他の化合物との結合体を含有していてもよい。
【0089】
本発明に係るサイトカインは、他の細胞に作用し、細胞性免疫の多くの多重効果のいずれかに関与している細胞によって産生される因子の何れかによって規定される。サイトカインの例には、IL−2ファミリー、インターフェロン(IFN)、IL−10、IL−1、IL−17、TGFサイトカインファミリー及びTNFサイトカインファミリー、並びにIL−1からIL−35まで、IFN−α、IFN−β、IFN−γ、TGF−β、TNF−α、並びにTNFβが含まれるが、これらに限定されない。
【0090】
本発明の一つの態様において、第一の融合タンパク質は、インターロイキン−15(IL−15)ドメイン又はその機能的断片に共有結合している第一の生物活性ポリペプチドを含有する。IL−15は、T細胞の活性化及び増殖に影響するサイトカインである。免疫細胞の活性化及び増殖に作用するときのIL−15の活性は、いくつかの点でIL−2に似ているが、基本的な相違点は、既によく特徴付けられている(Waldmann, TA, 2006, Nature Rev.Immunol.6:595-601)。
【0091】
本発明の別の態様において、第一の融合タンパク質は、IL−15変異体(本明細書においては、IL−15突然変異体とも称す)であるインターロイキン−15(IL−15)ドメインを含有する。IL−15変異体は、好ましくは、天然型(又は野生型)のIL−15タンパク質とは異なるアミノ酸配列を含有する。IL−15変異体は、好ましくは、IL−15Raポリペプチドに結合して、IL−15のアゴニスト又はアンタゴニストとして機能する。好ましくは、アゴニスト活性を有するIL−15変異体は、スーパーアゴニスト活性を有する。いくつかの態様では、IL−15変異体は、IL−15Raとの結合とは無関係に、IL−15のアゴニスト又はアンタゴニストとして機能することができる。IL−15のアゴニストは、野生型IL−15に較べて、それと同等又はそれよりも高い生物活性によって例示される。IL−15のアンタゴニストは、野生型IL−15に較べて低い生物活性によって、又はIL−15を介した応答を阻害できることによって例示される。いくつかの例では、IL−15変異体は、より高い活性又はより低い活性で、IL−15RβγC受容体に結合する。いくつかの態様では、IL−15変異体の配列は、天然型IL−2の配列と比較すると、例えば、置換又は欠失など、少なくとも1つのアミノ酸が変化しており、そのような変化が、IL−15のアゴニスト活性又はアンタゴニスト活性をもたらす。好ましくは、アミノ酸の置換/欠失は、IL−15Rβ及び/又はIL−15RγCと相互作用するIL−15のドメインに存在する。より好ましくは、アミノ酸の置換/欠失は、IL−15Raポリペプチドへの結合にも、IL−15変異体を産生する能力にも影響しない。IL−15変異体を生じさせるのに適したアミノ酸の置換/欠失は、本明細書に記載されるように合理的又はランダムな突然変異誘発、及び機能的アッセイを経て、又は他の経験的な方法を経た後、推定される、又は公知のIL−15構造に基づいて、公知の構造を有するIL−2などの相同分子とIL−15との比較に基づいて同定することができる。さらに適したアミノ酸置換は、保存的な変化であっても非保存的な変化であってもよく、さらなるアミノ酸の挿入であってもよい。好ましくは、本発明に係るIL−15変異体は、成熟ヒトIL−15の配列の8位、61位、65位、72位、92位、101位、108位、又は111位で、1つ又は1つ以上のアミノ酸置換/欠失を含有するが、特に、D8N(「D8」は、天然型成熟ヒトIL−15配列のアミノ酸及び残基の位置を意味し、「N」は、その位置におけるIL−15変異体で置換されているアミノ酸残基を意味する)、D8A、D61A、N65A、N72R又はQ108Aという置換は、アンタゴニスト活性を有するIL−15変異体を生じさせ、N72Dという置換は、アゴニスト活性を有するIL−15変異体をもたらす。
【0092】
本発明の一つの態様において、IL−15変異体は、融合タンパク質複合体の一成分であるが、別の態様においては、IL−15変異体は非融合タンパク質である。好ましくは、非融合型のIL−15変異体は、IL−15のアゴニスト又はアンタゴニストとして機能する可溶性サイトカインである。いくつかの態様では、非融合型IL−15変異体は、IL−15Raと複合体を形成するが、別の態様では、それは、IL−15Raとは無関係に作用する。
【0093】
本発明に係るケモカインは、サイトカインと同様、別の細胞に曝露されると、細胞性免疫の多くの多重効果のいずれかに関与する何れかの化学的な因子又は分子と定義されている。適切なケモカインには、CXC、CC、C、及びCX3Cというケモカインファミリー、並びにCCL−1からCCL−28まで、CXC−1からCXC−17まで、XCL−1、XCL−2、CX3CL1、MIP−1b、IL−8、MCP−1、及びRantesが含まれ得るが、これらに限定されない。
【0094】
増殖因子には、特定の細胞に曝露されると、作用を受ける細胞の増殖及び/又は分化を誘導する何れかの分子が含まれる。増殖因子は、タンパク質及び化学分子などであるが、それらの一部は、以下のものを含有する:GM−CSF、G−CSF、ヒト増殖因子、及び幹細胞増殖因子。さらなる増殖因子は、本明細書に記載されている用途にも適している。
【0095】
毒素又は細胞毒性物質には、細胞に曝露されると、致死効果又は増殖阻害効果を有する何れかの物質が含まれる。すなわち、エフェクター分子は、例えば、植物又は細菌に由来する細胞毒素、例えば、ジフテリア毒素(DT)、志賀毒素(shiga toxin)、アブリン(abrin)、コレラ毒素、リシン、サポリン、シュードモナス外毒素(PE)、ヤマゴボウ抗ウイルスタンパク質、又はゲロニンなどであってよい。このような毒素の生物活性断片が、当該技術分野において公知であり、例えば、DTのA鎖及びリシンA鎖などを含んでいる。さらに、この毒素は、細胞表面上で活性を有する物質、例えば、ホスホリパーゼ酵素(例えば、ホスホリパーゼC)であってもよい。
【0096】
また、エフェクター分子は、例えば、ビンデシン、ビンクリスチン、ビンブラスチン、メトトレキサート、アドリアマイシン、ブレオマイシン、又はシスプラスチンなどの化学療法薬であってもよい。
【0097】
さらに、エフェクター分子は、診断検査又は画像検査に適した検出可能に標識された分子であってもよい。そのような標識には、ビオチン若しくはストレプトアビジン/アビジン、検出可能なナノ粒子若しくは結晶、酵素若しくはその触媒活性断片、緑色蛍光タンパク質、FITC、フィコエリトリン、サイクローム、テキサスレッド、若しくは量子ドットなどの蛍光標識;放射性核種、例えば、ヨウ素−131、イットリウム(yttrium)−90、レニウム−188若しくはビスマス(bismuth)−212;リン光分子若しくは化学発光分子、又はGdに基づく若しくは常磁性金属イオンに基づく造影剤など、PET、超音波、若しくはMRIによって検出可能な標識が含まれる。エフェクター又はタグを含有するタンパク質の作製及び使用に関する開示については、例えば、Moskaug et al. J. Biol. Chem. 264, 15709 (1989); Pastan, I, et al. Cell 47, 641, 1986; Pastan et al. Recombinant Toxins as Novel Therapeutic Agents, Ann. Rev. Biochem.61, 331, (1992); "Chimeric Toxins" Olsnes and Phil, Pharmac. Ther., 25, 355 (1982); 公開PCT出願第WO94/29350号公報;公開PCT出願第WO94/04689号公報;公開PCT出願第WO2005/046449号公報、及び米国特許第5,620,939号を参照されたい。
【0098】
共有結合したIL−15ドメイン及びIL−15Raドメインを含有するタンパク質融合体又は結合複合体は、いくつかの重要な用途を有する。例えば、TCRを含有するタンパク質融合体又は結合複合体を用いて、TCRに特異的に結合できる一定の細胞にIL−15/IL−15Ra複合体を送達することができる。その結果、このタンパク質融合体又は結合複合体は、リガンドを含有する細胞を選択的に損傷したり、死滅させたりする手段を提供する。TCRを含有するタンパク質融合体又は結合複合体によって損傷又は死滅させることが可能な細胞又は組織の例は、TCRが特異的に結合することができる一つ又はそれ以上のリガンドを発現している腫瘍及びウイルス感染細胞若しくは細菌感染細胞などである。損傷又は死滅させられやすい細胞又は組織は、本明細書に開示される方法によって簡単に分析することができる。
【0099】
本発明に係るIL−15ポリペプチド及びIL−15Raポリペプチドは、アミノ酸配列が、天然のIL−15分子及びIL−15Ra分子、例えば、ヒト、マウス若しくはその他の齧歯類、又はその他の哺乳動物のIL−15分子及びIL−15Ra分子に適切に対応する。
【0100】
場合によっては、例えば、Sc−TCRの価数を増加させるために、本発明に係るタンパク質融合体又は結合複合体を多価にすることが有用である可能性がある。特に、融合タンパク質複合体のIL−15ドメインとIL−15Raドメインの間の相互作用は、多価性複合体を作出する手段を提供する。また、例えば、標準的なビオチン−ストレプトアビジン標識技術を用いて、又はラテックスビーズなどの適切な固体支持体に結合させて、1つのタンパク質と4つのタンパク質(異同を問わない)の間を共有結合的又は非共有結合的に連結することにより、多価の融合タンパク質を作製することができる。化学的架橋タンパク質(例えば、デンドリマーへの架橋)も、適当な多価の種である。例えば、タンパク質は、ビオチン化BirAタグのように修飾可能なタグ配列や、Cys又はHisなどの化学反応性の高い側鎖を有するアミノ酸残基をコードする配列を含有することによって改変することができる。このようなアミノ酸タグ又は化学反応性アミノ酸を、融合タンパク質内のさまざまな位置、好ましくは、生物活性ポリペプチド又はエフェクター分子の活性部位から離れた位置に配置することができる。例えば、可溶性融合タンパク質のC末端を、タグ、又はそのような反応性アミノ酸を含有する他の融合タンパク質に共有結合させることも可能である。2つ又はそれ以上の融合タンパク質を適当なデンドリマー又は他のナノ粒子に化学的に結合させて多価性分子を得るために、適当な側鎖を含めることも可能である。デンドリマーは、その表面の数あるさまざまな官能基の何れかを有することができる合成化学ポリマーである(D. Tomalia, Aldrichimica Acta, 26:91:101 (1993))。本発明に従って使用できるデンドリマーの例には、例えば、E9スターバースト(starburst)ポリアミンデンドリマー、及びE9コンバスト(combust)ポリアミンデンドリマーなどがあるが、これらは、システイン残基を結合することができる。
【0101】
(核酸及びベクター)
核酸
本発明は、さらに、本発明の融合タンパク質をコードする核酸配列、特にDNA配列を提供する。好ましくは、DNA配列は、ファージ、ウイルス、プラスミド、ファージミド、コスミド、YAC、又はエピソームのような、染色体外での複製に適したベクターによって担持されている。特に、所望の融合タンパク質をコードするDNAベクターを用いて、本明細書に記載される調製法を促進させることができ、また、有意な量の融合タンパク質を得ることができる。このDNA配列は、適当な発現ベクター、すなわち、挿入されたタンパク質コード配列の転写及び翻訳に必要な要素を含有するベクターの中に挿入することができる。さまざまな宿主−ベクター系を利用して、タンパク質コード配列を発現させることができる。これらは、ウイルス(例えば、ワクシニアウイルス、アデノウイルスなど)に感染した哺乳動物細胞系;ウイルス(例えば、バキュロウイルス)に感染した昆虫細胞系;酵母ベクターを含有する酵母などの微生物、又は、バクテリオファージDNA、プラスミドDNA、又はコスミドDNAで形質転換された細菌などである。利用する宿主−ベクター系に応じて、数ある適当な転写因子及び翻訳因子のいずれかを使用することができる。一般に、Sambrook et al., supra、及びAusubel et al., supra を参照されたい。
【0102】
本発明は、可溶性融合タンパク質複合体を作製する方法を包含していて、方法は:本明細書に記載されるように、第一及び第二の融合タンパク質をコードするDNAベクターを宿主細胞に導入すること、融合タンパク質を細胞又は培地の中で発現させ、第一の融合タンパク質のIL−15ドメインと、第二の融合タンパク質の可溶性IL−15Raドメインとを会合させて、可溶性融合タンパク質複合体を形成させるのに十分な条件下で、宿主細胞を培地中で培養すること、宿主細胞又は培地から可溶性融合タンパク質複合体を精製することを含有する。
【0103】
一般的に、本発明に従った好適なDNAベクターは、エフェクター分子をコードする配列に動作可能に連結した、TCR鎖をコードする第一のヌクレオチド配列を導入するための第一のクローニング部位を5’から3’方向に含有する、ホスホジエステル結合によって連結されているヌクレオチド配列を含有する。
【0104】
DNAベクターによってコードされる融合タンパク質成分は、カセットという形で提供することも可能である。「カセット」という用語は、標準的な組換え法によって、各成分を別の成分に簡単に置換することができることを意味する。特に、コードされた融合複合体を、血清型(serotypes)を必然的に生じさせるか、又は生じさせる能力を有する可能性がある病原体に対して使用する場合には、カセット形式で構成されているDNAベクターが特に望ましい。
【0105】
TCR融合複合体をコードするベクターを作製するには、適当なリガーゼを用いて、TCR分子をコードする配列を、エフェクターペプチドをコードする配列に連結させる。適当な細胞株など、天然の由来源からDNAを単離するか、公知の合成法、例えば、リン酸トリエステル法によって、提示ペプチドをコードするDNAを得ることができる。例えば、Oligonucleotide Synthesis, IRL Press (M.J. Gait ed., 1984)を参照されたい。合成オリゴヌクレオチドは、市販されている自動オリゴヌクレオチド合成装置を用いて調製することもできる。TCR分子をコードする遺伝子は、一旦単離されると、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)又は当該技術分野において公知の別法によって増幅することができる。TCRペプチド遺伝子を増幅するための適当なPCRプライマーによって、PCR産物に制限酵素認識部位を付加することができる。好ましくは、PCR産物は、エフェクターペプチドのスプライス部位、及びTCR−エフェクター融合複合体を適正に発現する及び分泌するのに必要なリーダー配列を含んでいる。また、好ましくは、PCR産物は、リンカー配列をコードする配列、又はこのような配列をライゲーションするための制限酵素部位も含んでいる。
【0106】
好ましくは、本明細書に記載される融合タンパク質は、標準的な組換えDNA技術によって製造される。例えば、TCRタンパク質をコードするDNA分子を単離すると、配列を、エフェクターポリペプチドをコードする別のDNA分子にライゲーションすることができる。TCR分子をコードするヌクレオチド配列を、エフェクターペプチドをコードするDNA配列に直接連結することができ、又は、より一般的には、本明細書に記載されるようなリンカー配列をコードするDNA配列を、TCR分子をコードする配列と、エフェクターペプチドをコードする配列の間に配置して、適当なリガーゼを用いて連結することができる。得られたハイブリッドDNA分子を適当な宿主細胞の中で発現させて、TCR融合複合体を産生させることができる。DNA分子は、ライゲーション後に、コードされたポリペプチドの翻訳フレームが変わらないよう(すなわち、DNA分子を互いにインフレームでライゲーションするよう)、互いに5’から3’の方向にライゲーションする。得られたDNA分子は、インフレームで融合タンパク質をコードしている。
【0107】
別のヌクレオチド配列を遺伝子構築物に含ませることも可能である。例えば、エフェクターペプチドに融合したTCRペプチドをコードする配列の発現を調節するプロモーター配列、又はTCR融合複合体を細胞表面又は培養培地に方向づけるリーダー配列を、構築物に含ませるか、又は、構築物を挿入する発現ベクターの中に存在させることも可能である。免疫グロブリンプロモーター又はCMVプロモーターが特に好適である。
【0108】
変異体TCRをコードする配列を得るにあたって、当業者は、TCRに由来するタンパク質を、ある種のアミノ酸置換、付加、欠失、及び翻訳後修飾によって、生物活性を失ったり、低下させたりすることなく改変できることを認識されているだろう。特に、保存的アミノ酸置換、即ち、あるアミノ酸を、同じような大きさ、電荷、極性、及び立体構造を有する別のアミノ酸と置換することによって、タンパク質の機能が顕著に変わる可能性が低いことは周知である。タンパク質の構成成分である20種の標準的アミノ酸は、大きく4つの保存的アミノ酸のグループに分類できる:非極性(疎水性)グループは、アラニン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、トリプトファン、及びバリンを含み;極性(非荷電、中性)グループは、アスパラギン、システイン、グルタミン、グリシン、セリン、スレオニン、及びチロシンを含み;正に荷電した(塩基性)グループは、アルギニン、ヒスチジン、及びリジンを含み;負に荷電した(酸性)グループは、アスパラギン酸及びグルタミン酸を含んでいる。タンパク質における1個のアミノ酸で、同じグループ内の別のアミノ酸を置換することが、そのタンパク質の生物活性に有害な影響を及ぼす可能性は低い。
【0109】
ヌクレオチド配列間の相同性は、DNAハイブリダイゼーション分析法によって確認することができるが、二本鎖DNAハイブリッドの安定性は、生じる塩基対合の程度に依存する。高い温度及び/又は低い塩濃度という条件では、ハイブリッドの安定性が低下するので、選択した程度よりも低い相同性を有する配列のアニーリングが阻止されるよう条件を変えることができる。例えば、約55%のG−C含量を有する配列について、40〜50℃、6×SSC(塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム緩衝液)、及び0.1%SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)という、ハイブリダイゼーション及び洗浄の条件では、約60〜70%の相同性が示され、50〜65℃、1×SSC、及び0.1%SDSという、ハイブリダイゼーション及び洗浄の条件では、約82〜97%の相同性が示され、52℃、0.1×SSC、及び0.1%SDSという、ハイブリダイゼーション及び洗浄の条件では、約99〜100%の相同性が示される。ヌクレオチド配列及びアミノ酸配列を比較(及び相同性の程度を測定)するために、広範なコンピュータプログラムも利用することができ、市販及び無料のソフトウェア供給源のリストが、Ausubel et al. (1999)に記載されている。容易に利用できる配列比較及び複数配列アラインメントのアルゴリズムは、それぞれ、Basic Local Alignment Search Tool (BLAST) (Altschul et al., 1997)及びClustal Wプログラムである。BLASTプログラムは、ワールドワイドウェブ上(ncbi.nlm.nih.gov)で利用することができ、Clustal Wの一つのバージョンを、2.ebi.ac.uk.で利用することができる。
【0110】
融合タンパク質の成分は、それぞれが、目的とする機能を果たすことができるならば、ほとんど何れの順序にも並べることができる。例えば、一つの態様では、TCRを、エフェクター分子のC末端かN末端に配置する。
【0111】
本発明に係る好適なエフェクター分子は、それらのドメインが意図している機能に役立つ大きさを有するであろう。本発明に係るエフェクター分子は、周知の化学的架橋法など、さまざまな方法によって作製して、TCRに融合させることができる。例えば、Means, G.E. and Feeney、 R.E. (1974) in Chemical Modification of Proteins,Holden-Dayを参照されたい。また、S.S. Wong (1991) in Chemistry of Protein Conjugation and Cross-Linking, CRC Pressを参照されたい。ただし、一般的には、組換え操作法を用いてインフレームの融合タンパク質を作製することが好適である。
【0112】
上記のように、本発明に係る融合分子又は結合分子は、いくつかの態様に組織化することができる。構造の一例として、TCRのC末端を、エフェクター分子のN末端に動作可能に連結する。このような連結は、必要であれば、組換え法によって行うことができる。しかし、別の構造では、TCRのN末端を、エフェクター分子のC末端に連結する。
【0113】
あるいは、又はさらに、必要に応じて、1つ又はそれ以上のさらなるエフェクター分子を、TCR融合複合体又は結合複合体に挿入することができる。
【0114】
ベクター及び発現
多くの方策を用いて、本発明に係るタンパク質融合複合体を発現させることができる。例えば、制限酵素を使用して、構築物を挿入するための切れ目をベクターに入れて、その後ライゲーションするなど、公知の方法によって、上記のTCR遺伝子融合構築物を適当なベクターに組み込むことができる。そして、TCR融合ペプチドを発現させるために、遺伝子構築物を含有するベクターを適当な宿主に導入する。一般に、Sambrook et al., supraを参照されたい。適当なベクターの選択は、クローニング手順に関係した因子に基づいて、経験的に行うことができる。例えば、ベクターは、使用されている宿主に適合し、その宿主にとって適正なレプリコンを有する必要がある。さらに、ベクターは、発現させようとするTCR融合複合体をコードするDNA配列を収容できるものでなければならない。適当な宿主細胞には、真核細胞及び原核細胞が含まれるが、好ましくは、簡単に形質転換することができ、かつ培養培地の中で迅速な増殖を示す細胞である。特に好適な宿主細胞は、大腸菌(E. coli)、枯草菌(Bacillus subtillus)などの原核生物、及び動物細胞及び酵母菌系などの真核生物、例えば、出芽酵母(S. cerevisiae)などである。哺乳動物細胞が一般的には好適であり、特に、J558、NSO、SP2−O、又はCHOが好適である。その他の適当な宿主には、例えば、Sf9などの昆虫細胞が含まれる。通常の培養条件を用いる。Sambrook et al., supraを参照されたい。そして、安定した形質転換細胞株又は形質移入細胞株を選択することができる。公知の方法によって、本発明に係るTCR融合複合体を発現する細胞を決定することができる。例えば、免疫グロブリンに結合したTCR融合複合体の発現は、結合している免疫グロブリンに特異的なELISAによって、及び/又は免疫ブロッティングによって確認することができる。IL−15ドメイン又はIL−15Raドメインに結合したTCRを含有する融合タンパク質の発現を検出する別の方法が、実施例に開示されている。
【0115】
上記で概説されるように、宿主細胞は、所望の融合タンパク質をコードする核酸を増殖させるため、調製目的で使用することができる。すなわち、宿主細胞は、特に融合タンパク質の産生を目的とする原核細胞又は真核細胞を含有してもよい。従って、宿主細胞は、酵母、ハエ、虫、植物、カエル、哺乳動物の細胞、及び融合タンパク質をコードする核酸を増殖させることができる器官を特に含有する。使用することができる哺乳動物細胞株の限定ではない例は、CHO dhfr−細胞(Urlaub and Chasm, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 77:4216 (1980))、293細胞(Graham et al., J Gen. Virol., 36:59(1977))、又はSP2又はNSOなどの骨髄腫細胞(Galfre and Milstein, Meth. Enzymol., 73(B):3(1981))などである。
【0116】
所望の融合タンパク質をコードする核酸を増殖させることができる宿主細胞は、非哺乳動物真核細胞も包含し、昆虫(例えば、ヨトウガ(Sp. frugiperda)、酵母(例えば、Fleer R., Current Opinion in Biotechnology, 3(5):486496(1992)に概説されているような、出芽酵母(S. Cerevisae)、分裂酵母(S. pombe)、P.パストリス(P. pastoris)、K.ラクチス(K. lactis)、H.ポリモルファ(H. polymorpha))、真菌細胞、及び植物細胞などを包含する。大腸菌及びバチラス菌など、ある種の原核生物も意図される。
【0117】
所望の融合タンパク質をコードする核酸は、細胞を形質移入させるための標準的な技術によって宿主細胞の中に導入することができる。「形質移入する」又は「形質移入」という用語は、宿主細胞の中に核酸を導入するための従来技術のすべてを包含するものであり、カルシウムリン酸共沈殿法、DEAE−デキストランによる形質移入法、リポフェクション、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション、ウイルス形質導入法、及び/又は組み込みを包含する。宿主細胞に形質移入するのに適した方法は、Sambrook et al., supra 及びその他の実験用教科書に記載されている。
【0118】
本発明に従って、さまざまなプロモーター(転写開始調節領域)を用いることができる。適当なプロモーターの選択は、提案された発現宿主に応じて決まる。異種由来のプロモーターは、選択した宿主の中で機能すれば使用することができる。
【0119】
また、プロモーターの選択は、ペプチド産生又はタンパク質産生の所望の効率及びレベルに依存する。大腸菌におけるタンパク質の発現レベルを劇的に増加させるためには、しばしばtacのような誘導型プロモーターを用いる。タンパク質の過剰発現は、宿主細胞にとって有害である。その結果、宿主細胞の増殖が制限される可能性がある。誘導型プロモーター系を使用すると、遺伝子発現を誘導する前に許容できる濃度にまで宿主細胞を培養することができ、それによって、より高い産物収率を得やすくする。
【0120】
本発明に従って、さまざまなシグナル配列を用いることができる。TCRコード配列に相同なシグナル配列を用いることができる。あるいは、発現宿主における効率的な分泌及び処理のために選択された又は設計されたシグナル配列を用いることもできる。例えば、適当なシグナル配列/宿主の組み合わせには、枯草菌において分泌させるための枯草菌SacBシグナル配列、及び出芽酵母のα−接合因子、又はP.パストリスによる分泌を行わせるためのP.パストリスの酸性ホスファターゼphoIシグナル配列を含む。シグナル配列は、シグナルペプチダーゼ切断部位をコードする配列を介して、又は、通常10コドンよりも数個少ないコドンからなる短いヌクレオチド架橋であって、下流にあるTCR配列の正しい読み枠を担保する架橋を介して、タンパク質コード配列に直接連結することができる。
【0121】
転写及び翻訳を促進する要素が、真核生物のタンパク質発現系で同定されている。例えば、カリフラワーモザイクウイルス(CaMV)プロモーターの1000bpを異種プロモーターの両側に配置すると、植物細胞における転写レベルを10倍〜400倍上昇させることができる。発現構築物には、適当な翻訳開始配列も含まれなければならない。発現構築物を改変して、適正な翻訳開始を行わせるためのKozakコンセンサス配列を含有するようにすると、翻訳のレベルを10倍増加させることができる。
【0122】
選択用マーカーがしばしば用いられるが、これは、発現構築物の一部であってもよいし、それとは別になっていて、マーカーが目的遺伝子とは別の部位に組み込まれるようになっていてもよい(例えば、発現ベクターに担持されている)。例としては、抗生物質に対する耐性を付与するマーカー(例えば、blaは、大腸菌宿主細胞にアンピシリンに対する耐性を付与し、nptIIは、広範な原核細胞又は真核細胞にカナマイシン耐性を付与する)、又は、宿主が最少培地で増殖できるようにするマーカー(例えば、HIS4は、P.パストリス又はHis.sup.−出芽酵母を、ヒスチジンがなくても増殖できるようにする)が含まれる。選択可能マーカーは、マーカーが独立して発現できるよう、独自の転写及び翻訳の開始及び終結を調節する領域を有する。抗生物質耐性をマーカーとして利用する場合、選択のための抗生物質濃度は抗生物質によって変わるが、通常、培地1mLあたり抗生物質10〜600μgの範囲である。
【0123】
発現構築物は、公知の組換えDNA技術を用いて組み立てられる(Sambrook et al., 1989; Ausubel et al., 1999)。制限酵素消化及びライゲーションが、2つのDNA断片を連結するために用いられる基本的な工程である。ライゲーションする前にDNA断片の末端を修飾する必要があるが、これは、突出末端を充填したり、断片の末端部分をヌクレアーゼ(例えば、ExoIII)で削除したり、部位特異的変異処理(site-directed mutagenesis)したり、又はPCRによって新しい塩基対を付加したりして行うことができる。ポリリンカー及びアダプタを用いて、選択した断片の連結を促進することができる。発現構築物は、一般的には、制限酵素消化、ライゲーション、及び大腸菌の形質転換という一連の段階を用いる工程で組み立てられる。発現構築物を構築するのに適した数多くのクローニングベクターが、当該技術分野において知られており(λZAP及びpBLUESCRIPT SK−1, Stratagene, LaJolla, Calif. pET, Novagen Inc., Madison, Wis.、 Ausubel et al., 1999に引用されている)、具体的に何を選択するかは、本発明において重要ではない。クローニングベクターの選択は、発現構築物を宿主細胞に導入するために選択した遺伝子移入系によって影響される。各工程の終わりに、得られた構築物を制限酵素消化、DNA塩基配列決定法、ハイブリダイゼーション、及びPCR分析によって分析することができる。
【0124】
発現構築物は、線状であっても環状であっても、クローニングベクターの構築物として宿主に形質転換させることができ、あるいは、クローニングベクターから取り除き、送達ベクターとして使用するか、又は送達ベクター上に導入することができる。送達ベクターは、選択された宿主細胞型の中に発現構築物を導入して維持することを促進する。多くの公知の遺伝子導入系(例えば、自然受容能、化学物質による形質転換、プロトプラスト(protoplast)形質転換、エレクトロポレーション、バイオリスティック(biolistic)形質転換、形質移入、又は接合)のいずれかによって、発現構築物を宿主細胞の中に導入する(Ausubel et al., 1999; Sambrook et al., 1989)。選択される遺伝子導入系は、使用される宿主細胞及びベクター系に応じて変わる。
【0125】
例えば、プロトプラスト形質転換又はエレクトロポレーションによって、発現構築物を出芽酵母細胞の中に導入することができる。出芽酵母のエレクトロポレーションは簡単に行うことができ、スフェロプラスト(spheroplast)形質転換と同等の形質転換効率が得られる。
【0126】
本発明は、さらに、目的とする融合タンパク質を単離するための生産工程を提供する。この工程では、調節配列に動作可能に連結した、目的とするタンパク質をコードする核酸が既に導入されている宿主細胞(例えば、酵母細胞、真菌細胞、昆虫細胞、細菌細胞、又は動物細胞)を、目的の融合タンパク質をコードするヌクレオチド配列の転写を促進するための融合タンパク質が存在する培養培地において実生産スケールで増殖させる。その後、目的とする融合タンパク質を、回収した宿主細胞から、又は培養培地から単離する。標準的なタンパク質精製技術を用いて、目的とするタンパク質を、培地から、又は回収した細胞から単離することができる。具体的には、精製技術を用いて、ローラーボトル、スピナーフラスコ、組織培養皿、バイオリアクター、又は発酵槽を含む、さまざまな実施形態から、所望の融合タンパク質を大規模に(すなわち、少なくともミリグラム量で)発現及び精製することができる。
【0127】
発現したタンパク質融合複合体は、公知の方法によって単離及び精製することができる。一般的には、培養培地を遠心分離し、次いで、上清を、親和性クロマトグラフィー又は免疫親和性クロマトグラフィーによって、例えば、プロテインA若しくはプロテインGの親和性クロマトグラフィー、又は発現された融合複合体に、例えば、連結されたTCR又はその免疫グロブリン領域に結合するモノクローナル抗体の使用を含有する免疫親和性手順によって精製する。本発明に係る融合タンパク質は、公知の技術を適当に組み合わせて分離及び精製することができる。これらの方法には、例えば、塩沈殿及び溶媒沈殿のように、溶解度を利用する方法、透析、限界濾過、ゲル濾過、及びSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動のように、分子量の違いを利用する方法、イオン交換カラムクロマトグラフィーのように、電荷の違いを利用する方法、親和性クロマトグラフィーのように、特異的親和性を利用する方法、逆相高速液体クロマトグラフィーのように疎水性の違いを利用する方法、及び等電点電気泳動のように、等電点の違いを利用する方法、Ni−NTAなどの金属親和性カラムを包含する。これらの方法に関する開示について、一般に、Sambrook et al.及びAusubel et al. を参照されたい。
【0128】
本発明に係る融合タンパク質は実質的に純粋であることが好ましい。すなわち、融合タンパク質が、好ましくは、少なくとも80%又は90%〜95%の均質度(w/w)で存在するよう、融合タンパク質を、それを本来伴う細胞置換成分から単離する。多くの医薬、臨床、及び研究への適用場面では、少なくとも98〜99%の均質度(w/w)を有する融合タンパク質が最も好適である。実質的に精製されると、融合タンパク質は、治療への応用にとって汚染物質となるものを含まないはずである。可溶性融合タンパク質は、部分的に、又は実質的に純粋になるまで精製されると治療に用いることができ、又は、本明細書に開示されるようなインビトロアッセイ法又はインビボアッセイ法を行うときに使用することができる。実質的な純度は、クロマトグラフィー及びゲル電気泳動など、さまざまな標準的技術によって確認することができる。
【0129】
本発明に係る切断型TCR融合複合体は、TCR融合複合体が、発現後に培養培地中に分泌されるようになるまで十分に切断されているTCR分子を含有している。したがって、切断型TCR融合複合体は、疎水性残基に富む領域、一般的には、TCR分子の膜貫通ドメイン及び細胞質ドメインを含まない。したがって、例えば、本発明に係る好適な切断型DR1 TCR分子では、好ましくは、TCR分子のb鎖の約199番目〜237番目の残基、及びTCR分子のa鎖の約193番目〜230番目の残基が、切断型TCR融合複合体には含まれていない。
【0130】
本発明のTCR融合複合体及び結合体複合体は、1つ又はそれ以上の病気に感染した多様な細胞又は感染する可能性のある多様な細胞とともに、インビトロ又はインビボで使用するのに適している。
【0131】
(方法)
治療法
本発明は、患者において、疾患細胞が病気関連抗原を発現する病気を予防又は治療する方法を包含していて、方法は:病気関連抗原を認識する生物活性ポリペプチドを含有する可溶性融合タンパク質複合体を患者に投与すること、抗原を発現する病気細胞と、IL−15Rを発現する免疫細胞の間に、免疫細胞を局在化させるのに十分な特異的結合複合体(架橋)を形成させること、及び疾患細胞を損傷又は死滅させて、患者の病気を予防又は治療することを含有する。
【0132】
患者において、疾患細胞が病気関連抗原を発現する病気を予防又は治療する方法を含んでいて、方法は:IL−15R鎖を産生する免疫細胞を、病気関連抗原を認識する生物活性ポリペプチドを含有する可溶性融合タンパク質複合体、例えば、ペプチド/MHC複合体と混合すること、免疫細胞−融合タンパク質複合体の混合物を患者に投与すること、抗原を発現する病気細胞と、IL−15Rを発現する免疫細胞の間に、免疫細胞を局在化させるのに十分な特異的結合複合体(架橋)を形成させること、及び疾患細胞を損傷又は死滅させて、患者の病気を予防又は治療することを含有する。
【0133】
また、本発明には、標的細胞を死滅させる方法が包まれていて、方法は:請求項1に記載のIL−15ドメインによって認識されるIL−15R鎖を産生する免疫細胞を含み、可溶性融合タンパク質複合体を有する複数の細胞を、本明細書に記載されるような生物活性ポリペプチドの少なくとも1つによって認識される抗原を産生する標的細胞と接触させること、標的細胞上の抗原と免疫細胞上のIL−15R鎖の間に、免疫細胞に結合して活性化させるのに十分な特異的結合複合体(架橋)を形成させること、及び結合した活性化免疫細胞によって標的細胞を死滅させることを含有する。
【0134】
また、本発明には、可溶性融合タンパク質複合体の生成によって、IL−15のインビボにおける半減期を増加し、そして/又は、それが免疫細胞に安定して結合する能力を促進する(例えば、細胞表面に滞留する時間を長くする)ための方法も含まれる。例えば、本明細書に記載したように、融合タンパク質複合体の薬物動態パラメータ及び細胞表面滞留時間の評価を行い、IL−15と比較する。治療有用性の向上に基づくと、長い血中半減期か又は細胞表面滞留時間を有する融合タンパク質複合体が好ましい。
【0135】
治療可能な病気の例には、癌などの新生物形成症、又はウイルス感染症が含まれるが、これらに限定されない。「新生物形成症」は、不適切に高いレベルの細胞分裂、不適切に低いレベルのアポトーシス、若しくはその両方が原因となるか、又はそれらを生じさせる何れかの病気を意味する。例えば、癌が、新生物形成症の一例である。癌の例には、これらに限定されないが、白血病(例えば、急性白血病、急性リンパ性白血病、急性骨髄性白血病、急性骨髄芽球性白血病、急性前骨髄球性白血病、急性骨髄単球性白血病、急性単球性白血病、急性赤白血病、慢性白血病、慢性骨髄性白血病、慢性リンパ性白血病など)、真性多血症、リンパ腫(ホジキン病、非ホジキン病)、ワルデンストローム・マクログロブリン血症、重鎖病、及び肉腫及び癌腫などの固形腫瘍(例えば、線維肉腫、粘液肉腫、脂肪肉腫、軟骨肉腫、骨肉腫、脊索腫、血管肉腫、内皮肉腫、リンパ管肉腫、リンパ管内皮肉腫、滑膜腫、中皮腫、ユーイング肉腫、平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、結腸癌、膵臓癌、乳癌、卵巣癌、前立腺癌、扁平上皮癌、基底細胞癌、腺癌、汗腺癌、脂腺癌、乳頭癌、乳頭状腺癌、嚢胞腺癌、髄様癌、気管支原性肺癌、腎細胞癌、肝細胞癌、胆管癌、絨毛癌、精上皮腫、胚性癌腫、ウィルムス腫瘍、子宮頚癌、子宮癌、精巣癌、肺癌、小細胞肺癌、膀胱癌、上皮癌、神経膠腫、星状細胞腫、髄芽腫、頭蓋咽頭腫、上衣腫、松果体腫、血管芽腫、聴神経腫瘍、乏突起膠腫、神経鞘腫、髄膜腫、黒色腫、神経芽細胞腫、及び網膜芽細胞腫)が含まれる。リンパ球増殖性疾患も、増殖性疾患と見なされる。
【0136】
哺乳動物における免疫応答を刺激する方法であって、有効量の可溶性融合タンパク質複合体、又は本明細書に記載されるようなIL−15変異体を哺乳動物に投与することを包含する方法も含まれる。哺乳動物における免疫応答を抑制する方法であって、有効量の可溶性融合タンパク質複合体、又は本明細書に記載されるようなIL−15変異体を哺乳動物に投与することを包含する方法も含まれる。免疫抑制の場合には、IL−15βγc複合体に結合する能力を有しないIL−15アンタゴニスト又はIL−15ドメインを含有する、融合タンパク質複合体又はIL−15変異体が特に有益である。
【0137】
融合タンパク質複合体治療薬の用途の具体例として、培養細胞に単一の血清型の病原体を感染させることができる。そして、感染細胞を、インビトロにおいて特定の融合タンパク質複合体に接触させる。前述したように、融合タンパク質複合体は、TCRと結合することによって、感染細胞に毒性ドメインが提示されるように構成されている。生物活性分子を細胞に導入した(通常、約30分間未満)後、約2〜24時間までの間、一般的には、約18時間、細胞に所望の効果を生じさせる。この時間の後、細胞を適当な緩衝液又は細胞用培地で洗浄し、その後、生存力を評価する。融合タンパク質複合体による細胞の殺傷に充てる時間は、選択された具体的なエフェクター分子によって変わる。ただし生存力は、しばしば、約2〜6時間後〜約24時間までに測定することができる。より詳しくは後述するが、細胞の生存力は、ある種の公知の色素(例えば、トリパンブルー)又は蛍光の取り込みを観測することによって、容易に測定及び定量を行うことができる。
【0138】
本発明に係る融合タンパク質複合体とともにインキュベートされた細胞の生存力を、標準的な方法によって分析することができる。一つの例示的な方法では、インキュベーションした後又はその間にDNA複製を測定することにより、細胞の生存力を容易に分析することができる。例えば、好適なアッセイ法は、放射性標識チミジンなど、1つ又はそれ以上の検出可能に標識されたヌクレオシドの細胞への取り込みを含有する。この取り込みは、トリクロロ酢酸(TCA)沈殿の後にシンチレーション測定を行うなど、いくつかの従来法によって簡便に測定することが可能である。他の細胞生存力測定法には、周知のトリパンブルー排除技術、又はWST−1による増殖アッセイ法を含む。
【0139】
本発明に係る融合複合体のTCR分子は、アミノ酸配列が、天然のTCR分子、例えば、ヒト、マウス若しくは他の齧歯類、又は他の哺乳動物のTCR分子に適切に対応する。
【0140】
従って、自己免疫応答又は炎症応答を抑制するための本発明に係る一つの治療法は、病気関連抗原に対して結合特異性を有するT細胞受容体又は抗体を包含している融合タンパク質複合体を含有するであろう。好ましくは、「切断型」の可溶性TCR複合体が投与される。すなわち、TCR複合体は膜貫通部分を含まない。また、この融合タンパク質複合体は、不要な免疫応答を抑制するために、IL−15のアンタゴニストとして機能するIL−15変異体も含有する。投与後、TCRドメイン又は抗体ドメインは、融合タンパク質複合体を、IL−15アンタゴニストが自己免疫応答又は炎症応答を抑制する疾患部位を標的とする。このような融合タンパク質複合体は、アレルギー、自己免疫疾患、例えば、多発性硬化症、インスリン依存性糖尿病、及び関節リウマチ、又は移植片拒絶の治療に特に有用であり得る。アンタゴニストであるIL−15変異体を非融合タンパク質として用いて、同じような非標的化法を実施することもできる。
【0141】
免疫応答を誘導するための本発明に係る別の治療法は、サイトカインなどの何れかの共刺激エフェクター分子存在下で、有効量の本発明のタンパク質融合複合体を投与して、生物活性ポリペプチドに結合する提示抗原の存在する場所での所望の免疫応答の誘導を提供する。
【0142】
また、本発明に係るさまざまな療法を、抗炎症薬など、別の公知の療法剤と組み合わせて使用して、疾患のより有効な治療法を提供することも可能である。例えば、免疫抑制用タンパク質融合複合体又はIL−15変異体は、自己免疫疾患及びアレルギーを治療するために、副腎皮質ステロイド剤及び非ステロイド剤などの抗炎症薬と組み合わせて用いることができる。
【0143】
本発明に係る化合物は、悪性の病気、疾患、又は症状を有するか、又は有する疑いのあるヒト患者にとって特に有用である。本発明に係る化合物は、ヒト患者における特定の腫瘍抗原を標的とするのに特に有用である。本発明によって治療可能な病気の具体例には、癌、例えば、乳癌、前立腺癌など、ウイルス感染症、例えば、HCV、HIVなど、及び本明細書に記載される他の具体的疾患又は症状が含まれる。
【0144】
理論に縛られることなしに、本発明に係る複数の及び明確な共有結合化合物(即ち、少なくとも1つのTCRと組み合わせた少なくともIL−15)は、例えば、対象となる個体内の抗原を標的とするためにIL−15の標的化を増大することによって、IL−15の有効性を顕著に高めることができると考えられている。
【0145】
更に(その上)、共有結合を理由として、本発明に係る結合体は、対象細胞に対し、IL−15とTCRを実質的に同時に提示するものであり、これは、化合物を共有結合させることなしには、同じ化合物を薬剤「カクテル」処方で投与することによっては簡単に達成することができない効果である。
【0146】
また、一つの薬剤による治療が、次々に患者を別の薬剤に対して感作できることも報告されている。従って、本発明に係る結合体によって対象細胞に対してIL−15とTCRを実質的に同時に提示できることは、例えば、相乗効果をもたらすことによって、及び/又は免疫応答の発生を促進することによって、薬剤の活性を増大させることができる。
【0147】
診断方法
特定のpMHCリガンドに特異的な高親和性又は多価のTCRタンパク質は、その特定のpMHCに関連した病気を患っていると考えられるヒトなどの動物を診断するのに有用である。本発明に係る融合タンパク質複合体は、新生物形成症、異常タンパク質、自己免疫疾患、又は細菌、真菌、ウイルス、原生生物、酵母、線虫、もしくはその他の寄生生物による感染又は侵入に関連した抗原を含有するが、これらに限定されない、本質的にはあらゆる抗原を検出するのに有用である。
【0148】
このように、対象における腫瘍細胞若しくはウイルス感染細胞又は組織であって、MHC複合体と関連して細胞又は組織の上に提示される、腫瘍又はウイルスに関連したペプチド抗原を含有する細胞又は組織を検出する方法は、a)可溶性TCRを含有する、本発明に係る融合タンパク質複合体を、提示されたペプチド抗原とTCRとの間に特異的結合複合体を形成させる条件下で対象に投与すること;及びb)提示された腫瘍関連又はウイルス関連のペプチド抗原を含有する腫瘍細胞もしくはウイルス感染細胞もしくは組織が存在することの指標として特異的結合複合体を検出することを含有する。
【0149】
また、融合タンパク質複合体は、産生された異常タンパク質が存在するある特定の遺伝疾患の診断にも用いることができる。融合タンパク質複合体の適用例は、公知のpMHCが存在する自己免疫疾患の診断及び治療である。I型糖尿病は、免疫破壊を誘発する自己抗原について比較的よく特徴が調べられている。多発性硬化症、セリアック病、炎症性腸疾患、クローン病、及び関節リウマチが、そのような適用に対するさらなる候補疾患である。
【0150】
IL−15変異体ポリペプチドを含有する、本発明に係る融合タンパク質複合体は、これらの適用において特に有用であり得る。例えば、TCR分子を含有する融合タンパク質複合体では、本明細書に開示されるように、IL−15変異体ドメインとIL−15Raポリペプチドとの相互作用によって、増強された抗原結合活性を有する多価のTCR分子が生成される。さらに、このIL−15変異体は、IL−15RβγC受容体を産生する細胞への結合を失わせる可能性があるアミノ酸化を含み、それによって、免疫細胞への非特異的結合又は非標的結合を低下させる。その結果、このような融合タンパク質複合体によって、TCR特異的抗原の検出を向上させることができる。また、本明細書に開示されるように、ペプチドタグ配列又は検出可能標識への結合によって、本発明に係る融合タンパク質複合体を、さらに多量体化することもできる。
【0151】
用量及び投与
本発明に係る化合物の投与は、経口、局所(経皮、頬側、舌下など)、経鼻、及び非経口(腹腔内注射、皮下注射、静脈注射、皮内注射、又は筋肉内注射など)など、さまざまな適当な経路で行うことができるが、経口又は非経口が、通常は好適である。また、当然ながら、好適な投与法及び投薬量は、例えば、服用者の状態及び年齢によって異なる可能性がある。
【0152】
本発明に係る化合物は、単独で、又は公知の薬理学的活性を有する別の薬剤と組み合わせて、所望の適応症を治療するために使用することができる。薬剤の例には、手術、放射線照射、化学療法、及びその他の形態の免疫療法(例えば、ワクチン、抗体療法など)などの公知の治療薬が含まれる。本発明に係る化合物は、必要に応じて、そのような療法の前後や治療中に投与することができる。
【0153】
本発明に係る一つ又はそれ以上の化合物を単独で投与することができるが、それらは、従来の賦形剤、すなわち、非経口、経口、又はその他の所望の投与法に適し、かつ、活性化合物と有害な反応を起こすことなく、その服用者にも有害でない、薬学的に許容される有機担体物質又は無機担体物質と混合して、薬学的組成物の一部として存在することも可能である。本発明に係る薬学的組成物は、通常、本発明の一つ又はそれ以上の融合タンパク質複合体又はIL−15変異体、又はそのような化合物をコードするDNA構築物を、一つ又はそれ以上の許容される担体とともに含有する。担体は、処方剤の他の成分に適合し、その服用者に害を与えないという意味で「許容され」なければならない。薬学的に許容される適当な担体は、水、塩溶液、アルコール、植物油、ポリエチレングリコール、ゼラチン、ラクトース、アミロース、ステアリン酸マグネシウム、タルク、ケイ酸、粘性パラフィン、香油、脂肪酸モノグリセリド及び脂肪酸ジグリセリド、ペトロエトラル(petroethral)脂肪酸エステル、ヒドロキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドンなどを含有するが、これらに限定されない。医薬製剤は、滅菌することができ、必要があれば、活性化合物と有害な反応を起こさない補助剤、例えば、潤滑剤、保存剤、安定化剤、湿潤剤、乳化剤、浸透圧に影響を与える塩類、緩衝剤、着色剤、風味剤、及び/又は香料物質などと混合することができる。
【0154】
非経口適用に特に適しているのは、溶液、好ましくは、油性又は水性の溶液、及び懸濁液、エマルジョン、又は坐薬などの植込錠である。アンプルは、便利な単位用量である。
【0155】
腸内への適用に特に適しているのは、担体が、好ましくはラクトース及び/又はコーンスターチ及び/又はポテトスターチである、タルク及び/又は炭水化物の担体結合剤などを有する錠剤、糖衣錠、又はカプセル剤である。甘味付けされた賦形剤が用いられているシロップ、エリキシルなどを使用することができる。活性成分が、例えば、マイクロカプセル化、多段被覆などによって、分解性が異なる被覆剤で保護されている組成物などの徐放性組成物を処方することも可能である。
【0156】
また、本発明に係る治療用化合物は、リポソームに取り込ませることもできる。この取り込みは、例えば、超音波処理及び押し出し成形処理など、公知のリポソーム調製法によって行うことができる。リポソーム調製に適した常法が、例えば、A.D. Bangham et al., J. Mol. Biol., 23:238-252 (1965); F.Olson et al., Biochim. Biophys. Acta, 557:9-23(1979); F.Szoka et al., Proc. Nat. Acad. Sci., 75:4194-4198(1978); S. Kim et al., Biochim. Biophys. Acta, 728:339-348(1983); 及び Mayer et al., Biochim. Biophys. Acta, 858:161-168(1986)にも開示されている。
【0157】
また、本発明は、感染体や癌などの標的疾患に対して、ヒトなどの哺乳動物にワクチンを接種するなど、ヒトなどの哺乳動物において免疫応答を誘起する方法も提供する。
【0158】
これらの方法は、本発明に係る融合タンパク質複合体又はIL−15変異体をコードするDNAベクターを含有するDNA配列の有効量を哺乳動物に投与することを含有する。融合タンパク質複合体及びIL−15変異体の発現ベクターを調製する方法については、上記又は後述の実施例に記載されている。プラスミドDNAを投与する方法、そのDNAを、投与を受ける対象者の細胞に取り込ませる方法、及びタンパク質を発現させる方法が報告されている。Ulmer, J.B et al., Science (1993) 259:1745-1749 を参照されたい。
【0159】
本発明に係る融合タンパク質複合体及びIL−15変異体をコードするDNAベクターは、好ましくは、筋肉内注射によって、ヒトなどの哺乳動物に適当に投与することができる。哺乳動物の骨格筋にcDNAを投与し、その後、投与された発現ベクターが筋細胞によって取り込まれ、DNAによってコードされたタンパク質が発現することが、Ulmer et a., に記載されており、模範的な手順となっている[Ulmer, J.B. et al., Science 259:1745-1749]。所定の治療的適用に関する最適な用量は、従来の手段で決定することができる。
【0160】
ヒトの疾患を治療する以外に、本発明に係る融合タンパク質複合体及びIL−15変異体、並びにそのような分子をコードする本発明に係るDNA構築物(コンストラクト)は、例えば、ウシやヒツジなどの家畜、及びイヌやネコなどのペットの疾患の治療など、獣医学に適用するためにも大いに有用であるだろう。
【0161】
当然ながら、所定の療法において使用される、本発明に係る所定の融合タンパク質複合体及びIL−15変異体、又はそれらをコードする本発明に係るDNA構築物の実際の好適な量は、具体的な活性化合物又は利用される化合物、処方された具体的な組成物、適用する方法、具体的な投与部位、患者の体重、一般的な健康状態、性別など、治療を受けている具体的な適応症など、並びに、担当の医師や獣医など当業者が認識しているその他の因子に応じて変わるであろう。所定の投与手順に対する最適な投与速度は、例えば、前記したガイドライン及び本明細書に開示されるアッセイ法に関して実施される従来の用量決定試験を用いて、当業者が容易に決定することができる。
【0162】
(実施例)
当然のことながら、本発明は、以下に記載する実施例に限定されるものと解されるべきではなく、本明細書に記載されたあらゆる適用、及び当業者が適宜なし得る等価な改変もすべて含有するものと解されるべきである。
【実施例1】
【0163】
−scTCR/huIL15及びscTCR/huIL15Rα融合タンパク質を含有する融合タンパク質複合体の設計
IL−15は、IL−15Rαの細胞外ドメインに安定的に結合し、その結果生じた複合体は、中程度の親和性又は高親和性のIL−15R複合体を介して免疫応答を調節(すなわち、刺激又は阻止)することができるということが確認されている(1〜4)。また、単鎖TCR又は抗体ポリペプチドが、サイトカイン及び他の免疫エフェクタードメインと融合することができ、そのような二重特異性分子が、両方の融合ドメインの機能活性を保持していることが明らかにされている(5〜8)。さらに、多価型のTCRは、それらのリガンドへの結合を促進できることが示されている(9)。従って、本発明の特性は、第一のTCRポリペプチドがIL−15に融合している、少なくとも1つの融合タンパク質と、第二のTCRポリペプチドがIL−15Rαの細胞外ドメインに融合している、少なくとも1つの融合体とが、IL−15ドメインとIL−15Rαドメインの間の結合相互作用によって複合体を形成している、2つの融合タンパク質を含有する融合タンパク質複合体を提供する。このような融合タンパク質複合体において、TCRポリペプチドは、同じものであっても、異なったものであってもよく、また、単鎖であってもヘテロ二量体の形であってもよい。
【0164】
単鎖TCRポリペプチドを含有する融合タンパク質複合体の一例が、図1Aに概略図として示されている。この融合タンパク質複合体では、多価のTCRドメインが、それらのリガンドに対して高い結合親和力/親和性をもたらす。典型的なリガンドの例はペプチド/MHC複合体であるが、これに限定されない。IL−15/IL−15Rαドメインは、免疫調節活性をもたらす。融合タンパク質複合体を含有する代表的な融合タンパク質の構成を、図1Bに概略的に示す。これらの構成では、TCRポリペプチドは、ペプチドリンカー配列((G4S)4)によって連結されているTCR−Vαドメイン及びTCR−Vβ−Cβドメインからなる単鎖TCR(264scTCR)である。このscTCRポリペプチドを、直接、又はペプチドリンカー配列を介して、IL−15ドメイン又はIL−15Rαドメインに融合させる。scTCRポリペプチドの前には、可溶性発現を可能にするシグナルペプチド(又はリーダーペプチド)配列が存在する。シグナルペプチドは、その後タンパク質の輸送過程で切断されて、成熟融合タンパク質が生成される。融合タンパク質複合体の別の例では、図1A及び1Bで図示したTCRドメインを抗体ドメインで置き換えることができる。このような抗体は、単鎖形式であっても、ヘテロ多量体形式であってもよい。上記の融合タンパク質複合体のいずれについても、配列は、ヒトの配列であっても、ヒト以外の配列、例えば、限定されるわけではないが、マウスの配列であってもよい。これらの配列を、融合タンパク質ドメインの一部又は全てについて用いることができる。また、ドメインの配列は、融合タンパク質が可溶性かつ機能的であるかぎり、どのように変えてもよい。
【実施例2】
【0165】
−発現ベクターにおけるc264scTCR/huIL15遺伝子融合体の構築
p53(aa264−272)−特異的TCRに関するTCR遺伝子の単離及び特徴については既に記載されている(5〜7)。ヒトのIL−15遺伝子及びIL−15Rα遺伝子を得るために、ドナー(ロット番号:2238789、Community Blood Bank, Miami, FL)の200mLの血液から、HISTOPAGUE−1077(Sigma)を用いてヒトのPBMCを単離した。細胞(1.5×107)を、10%FBSを含有するIMDM中30ng/mlのPMA(Sigma)、200ng/mlのイオノマイシン、及び220ng/mlの組換えヒトIL2によって、CO2インキュベータ内にて10日間活性化した。活性化した細胞(1×107/mL)を、さらなる使用に備えて−70℃で凍結した。活性化PBMCから全RNAを精製するために、RNEASY PLUS MINI(Qiagen)を製造業者の手順に従って使用した。この全RNAから、前方プライマーとして、
5’−CACCTTGCCATAGCCAGCTCTTC−3’を、
また、後方プライマーとして、
5’−GTCTAAGCAGCAGAGTGATGTTTG−3’を用いて、SUPERSCRIPT IIIワンステップRT−PCRプラチナタグHiFi(Invitrogen)によって、以下の条件に従って、コーディング領域、並びに5’側及び3’側の隣接領域の一部を含有するヒトIL−15遺伝子を増幅した:RTには、55℃にて30分間;94℃にて2分間;cDNA増幅には、94℃にて30秒間;53℃にて30秒間;68℃にて1分間;×40サイクル;68℃にて5分間。600bpのヒトIL−15のPCR−cDNA産物を、1%アガロースゲル上で電気泳動によって分離し、単離した。このcDNA産物を、Qiaquickゲル抽出キット(Qiagen)を用いてアガロースから精製した。この600bpのヒトIL−15のcDNAから、前方プライマーとして、
5’−TGGTTAACAACTGGGTGAATGTAATAAGTG−3’を、
また、後方プライマーとして、
5’−ACGCGTTTATCAAGAAGTGTTGATGAACATTTGGAC−3’を用いて、PfuUltra(Stratagene)によって、以下のPCR条件下で成熟ヒトIL−15タンパク質の遺伝子を増幅した:94℃にて1分間;63℃にて1分間;72℃にて1分間;×35サイクル;72℃にて10分間。成熟ヒトIL−15タンパク質の遺伝子をゲル精製してから、製造業者の手順に従いTOPO反応によって、シャトルベクターであるpcDNA3.1 Directional TOPO発現ベクター(Invitrogen)にクローニングした。前方プライマーとして、
5’−TGGTTAACAACTGGGTGAATGTAATAAGTG−3’を、
また、後方プライマーとして、
5’−ACGCGTTTATCAAGAAGTGTTGATGAACATTTGGAC−3’を用いた診断PCRに基づき、RedTag(Sigma)によって、以下の条件下で、成熟ヒトIL−15タンパク質遺伝子である挿入配列を含有するクローンを同定した:94℃にて1分間;63℃にて1分間;72℃にて1分間;×35サイクル;72℃にて10分間。製造業者の手順に従って、QUICK START KIT(Beckman Coulter)を用いたGenomeLab Dye Termination Cycle SequencingによるDNA塩基配列決定法によって、正しいクローンの配列を確認した。HpaI及びMluIで消化して、シャトルベクターから成熟ヒトIL−15タンパク質遺伝子を取り出して、HpaI及びMluIで消化しておいた発現ベクターpNEF38−c264scTCRにライゲーションした。pNEF38−c264scTCR発現ベクターは、p53(aa264−272)ペプチド特異的な可溶性キメラ単鎖TCRタンパク質(c264scTCR)に連結した免疫グロブリン軽鎖リーダー(又は分泌シグナル)配列をコードする遺伝子断片を含んでいる(5)。また、このベクターは、5’調節/エンハンサー領域、転写調節領域及びプロモーター領域、Kozakコンセンサス配列及びポリ−A終結領域を含有する翻訳調節/開始/終結配列、並びに推定マトリックス結合調節因子を有する3’調節領域も含んでいる。このベクターは、哺乳動物細胞(SV40プロモーター/neoR遺伝子/ポリ−A)及びバクテリア(ori/amp遺伝子)の中での選択的な増殖を可能にするDNA配列も含んでいる。成熟ヒトIL−15タンパク質をコードするDNA断片を、pNEF38−c264scTCRベクターの中にクローニングしたところ、以下の配列を含有するc264scTCR/huIL15融合遺伝子が得られた:3’−免疫グロブリン軽鎖リーダー−264 TCR V−α−ペプチドリンカー−264 TCR V−β−ヒトTCR C−β−ヒトIL−15。得られたベクター(pNEF38−c264scTCR/huIL15)が図2Aに示されているが、これは、診断PCRに基づいて同定され、DNA塩基配列決定法によって再確認されたものである。c264scTCR/huIL15融合遺伝子及びそのタンパク質の配列(リーダー配列を含有する)をそれぞれ図2Bと図2Cに示す。
【実施例3】
【0166】
−変異ヒトIgG1ヒンジ領域を含有するc264scTCR/huIL15遺伝子融合体の発現ベクターにおける構築
pNEF38−c264scTCR/huIL15ベクターの構築は、実施例2で説明されている。3個のシステイン残基が3個のセリン残基で置換されている、ヒトIgG1のH鎖に由来する変異型ヒンジ領域を用いて、c264scTCRとhuIL15を連結させた。このヒンジ領域を、既述の264scTCR/IgGl遺伝子(7)から、前方プライマーとして、
5’−TGGTGGGTTAACGAGCCCAAATCTTCTG−3’を、
また、後方プライマーとして、
5’−ATTATTACGCGTTGGAGACGGTGGAGATG−3’を用いて、PfuUltra(Stratagene)によって、以下のPCR条件下で変異及び増幅させた:94℃にて30秒間;65℃にて30秒間;70℃にて1分間;×35サイクル;72℃にて10分間。この70bpの変異型ヒトIgG1ヒンジのPCR−cDNA産物を1%アガロースゲル上で電気泳動によって分離し、単離した。このcDNA産物を、Qiaquickゲル抽出キット(Qiagen)を用いてアガロースから精製した。この変異型ヒンジ領域遺伝子をHpaI及びMluIで消化し、HpaI及びMluIで消化しておいたpNEF38−c264scTCRにライゲーションした。この変異型ヒンジ領域遺伝子である挿入配列を含有するクローンを、前方プライマーとして、
5’−TGAGTGATCGATACCACCATGGAGACAGACAC−3’を、
また、後方プライマーとして、
5’−ATTATTACGCGTTGGAGACGGTGGAGATG−3’を用いた診断PCRに基づき、RedTag(Sigma)によって、以下の条件下で同定した:94℃にて30秒間;64℃にて30秒間;70℃にて1分間;×35サイクル;72℃にて10分間。前方プライマーとして、
5’−TGGTGGACGCGTAACTGGGTGAATG−3’を、
また、後方プライマーとして、
5’−TGGTGGTCTAGAATTATCAAGAAGTGTTGATG−3’を用いて、PfuUltra(Stratagene)によって、以下のPCR条件下で、実施例2に記載されたpNEF38−c264scTCR/huIL15ベクターからhuIL−15を増幅した:94℃にて30秒間;65℃にて30秒間;70℃にて1分間;×35サイクル;72℃にて10分間。この380bpのhuIL−15のPCR−cDNA産物を1%アガロースゲル上で電気泳動によって分離し、単離した。このcDNA産物を、Qiaquickゲル抽出キット(Qiagen)を用いてアガロースから精製した。このhuIL15遺伝子をMluI及びXbaIで消化し、MluI及びXbaIで消化しておいた、変異型ヒンジ遺伝子を含有するpNEF38−c264scTCRにライゲーションした。huIL−15遺伝子である挿入配列を含有するクローンを、前方プライマーとして、
5’−TGAGTGATCGATACCACCATGGAGACAGACAC−3’を、
また、後方プライマーとして、
5’−TGGTGGTCTAGAATTATCAAGAAGTGTTGATG−3’を用いた診断PCRに基づき、RedTag(Sigma)によって、以下の条件下で同定した:94℃にて30秒間;64℃にて2分間;70℃にて2分間;×35サイクル;72℃にて10分間。製造業者の手順に従って、QUICK START KIT(Beckman Coulter)を用いたGenomeLab Dye Termination Cycle SequencingによるDNA塩基配列決定法によって正しいクローンの配列を確認した。pNEF38−c264scTCR発現ベクターは、上記実施例2に記載されている。変異型ヒトIgG1ヒンジ領域及び成熟ヒトIL−15タンパク質をコードするDNA断片をpNEF38−c264scTCRベクターの中にクローニングしたところ、以下の配列を含有するc264scTCR−hmt−huIL15融合遺伝子が得られた:3’−免疫グロブリン軽鎖リーダー−264 TCR V−α−ペプチドリンカー−264 TCR V−β−ヒトTCR C−β−変異型ヒトIgG1ヒンジ−ヒトIL−15。得られたベクター(pNEF38−c264scTCR−hmt−huIL15)が図3Aに示されているが、これは、診断PCRに基づいて同定され、DNA塩基配列決定法によって再確認されたものである。c264scTCR−hmt−huIL15融合遺伝子及びそのタンパク質の配列(リーダー配列を含有する)をそれぞれ図3Bと図3Cに示す。
【実施例4】
【0167】
−発現ベクターにおけるc264scTCR/huIL−15RαΔE3遺伝子融合体の構築
PBMCの全RNAを上記のように調製した。このPBMCの全RNAから、前方プライマーとして、
5’−AGTCCAGCGGTGTCCTGTGG−3’を、
また、後方プライマーとして、
5’−TGACGCGTTTAAGTGGTGTCGCTGTGCCCTG−3’を用いて、SUPERSCRIPT IIIワンステップRT−PCRプラチナタグHiFi(Invitrogen)によって、以下の条件に従って、コーディング領域、並びに5’側及び3’側の隣接領域の一部を含有するヒトIL−15Rα遺伝子を増幅した:RTには、55℃にて30分間;94℃にて2分間;cDNA増幅には、94℃にて1分間;66℃にて1分間;72℃にて1分間;×35サイクル;72℃にて5分間。970bpのヒトIL−15RαのPCR−cDNA産物を、1%アガロースゲル上で電気泳動によって分離し、単離した。このcDNAを、Qiaquickゲル抽出キット(Qiagen)を用いてアガロースから精製した。この970bpのヒトIL−15RαのcDNAから、前方プライマーとして、
5’−TGGTTAACATCACGTGCCCTCCCCCCATG−3’を、
また、後方プライマーとして、
5’−TGACGCGTTTAAGTGGTGTCGCTGTGCCCTG−3’を用いて、PfuUltra(Stratagene)によって、以下のPCR条件下でヒトIL−15Rαの細胞外ドメイン遺伝子を増幅した:94℃にて1分間;72℃にて2分間;×35サイクル;72℃にて10分間。ヒトIL−15Rαの細胞外ドメイン遺伝子をゲル精製してから、製造業者の手順に従い、TOPO反応によって、シャトルベクターであるpcDNA3.1 Directional TOPO発現ベクター(Invitrogen)にクローニングした。正しいヒトIL−15Rα細胞外ドメイン遺伝子である挿入配列を含有するクローンを、診断PCRに基づいて選び出し、製造業者の手順に従った、QUICK START KITを用いたGenomeLab Dye Termination Cycle SequencingによるDNA塩基配列決定法によって再確認した。この遺伝子は、ヒトIL−15RαΔE3細胞外ドメイン遺伝子であると判定された。HpaI及びMluIで消化して、シャトルベクターからヒトIL−15RαΔE3細胞外ドメイン遺伝子を取り出して、HpaI及びMluIで消化しておいたpNEF38−c264scTCRにライゲーションした。ヒトIL−15RαΔE3細胞外ドメインをコードするDNA断片を、pNEF38−c264scTCRベクターの中にクローニングしたところ、以下の配列を含有するc264scTCR/huIL−15Rα融合遺伝子が得られた:3’−免疫グロブリン軽鎖リーダー−264 TCR V−α−ペプチドリンカー−264 TCR V−β−ヒトTCR C−β−IL−15RαΔE3細胞外ドメイン。得られたベクター(pNEF38−c264scTCR/huIL−15RaDE3)は、図4Aに示されており、正しいIL−15RαΔE3細胞外ドメイン遺伝子である挿入配列を含んでいることを、診断PCRに基づいて同定して、DNA塩基配列決定法によって再確認した。c264scTCR/huIL−15RαΔE3遺伝子及びそのタンパク質の配列を、それぞれ図4Bと図4Cに示す。
【実施例5】
【0168】
−発現ベクターにおけるc264scTCR/huIL−15RαSushi遺伝子融合体の構築
PBMCの全RNAを上記のように調製した。970bpのヒトIL−15RαのcDNA(実施例3を参照されたい)から、前方プライマーとして、
5’−TGGTTAACATCACGTGCCCTCCCCCCATG−3’を、
また、後方プライマーとして、
5’−TTGTTGACGCGTTTATCTAATGCATTTGAGACTGG3’を用いて、PfuUltra(Stratagene)によって、以下のPCR条件下でヒトIL−15RαSushi遺伝子を増幅した:94℃にて1分間;66℃にて1分間;70℃にて1分間;×35サイクル;72℃にて10分間。ヒトIL−15RαSushi遺伝子のPCR産物をゲル精製して、HpaI及びMluIで消化した。この遺伝子を、HpaI及びMluIで消化しておいたpNEF38−c264scTCRにライゲーションした。ヒトIL−15RαSushiドメインをコードするDNA断片を、pNEF38−c264scTCRベクターの中にクローニングしたところ、以下の配列を含有するc264scTCR/huIL−15Rα融合遺伝子が得られた:3’−免疫グロブリン軽鎖リーダー−264 TCR V−α−ペプチドリンカー−264 TCR V−β−ヒトTCR C−β−ヒトIL−15RαSushi。得られたベクターは、図5Aに示されており、正しいヒトIL−15RαSushi遺伝子である挿入配列を含んでいることを、診断PCRに基づいて同定して、DNA塩基配列決定法によって再確認した。c264scTCR/huIL−15RαSushi遺伝子及びそのタンパク質の配列を、それぞれ図5Bと図5Cに示す。
【実施例6】
【0169】
−変異型ヒトIgG1ヒンジ領域を含有するc264scTCR/huIL−15RαSushi遺伝子融合体の発現ベクターにおける構築
pNEF38−c264scTCR/huIL15RαSushiベクターの構築は上述されている。3個のシステイン残基が3個のセリン残基で置換されている、ヒトIgG1のH鎖に由来する変異型ヒンジ領域を用いて、c264scTCRとhuIL15RαSushiを連結させた。ヒンジ領域は、上記したようにして変異、増幅、ライゲーション、及び確認を行った。前方プライマーとして、
5’−TAATAAACGCGTATCACGTGCCCTC−3’を、
また、後方プライマーとして、
5’−TGGTGGTCTAGATTATCATCTAATGCATTTG−3’を用いて、PfuUltra(Stratagene)によって、以下のPCR条件下で、上記のpNEF38−c264scTCR/huIL15RαSushiベクターからhuIL15RαSushiを増幅した:94℃にて30秒間;65℃にて30秒間;70℃にて1分間;×35サイクル;72℃にて10分間。この250bpのhuIL15RαSushiのPCR−cDNA産物を1%アガロースゲル上で電気泳動によって分離し、単離した。このcDNA産物を、Qiaquickゲル抽出キット(Qiagen)を用いてアガロースから精製した。このhuIL15RαSushi遺伝子をMluI及びXbaIで消化し、MluI及びXbaIで消化しておいた、変異型ヒンジ遺伝子を含有するpNEF38−c264scTCRにライゲーションした。前方プライマーとして、
5’−TGGTGGGTTAACGAGCCCAAATCTTCTG−3’を、
また、後方プライマーとして、
5’−TGGTGGTCTAGATTATCATCTAATGCATTTG−3’を用いて、以下の条件下で、RedTag(Sigma)によって、診断PCRに基づき、huIL−15遺伝子である挿入配列を含有するクローンを同定した:94℃にて30秒間;65℃にて1分間;70℃にて1分間;×35サイクル;72℃にて10分間。製造業者の手順に従って、QUICK START KIT(Beckman Coulter)を用いたGenomeLab Dye Termination Cycle SequencingによるDNA塩基配列決定法によって正しいクローンの配列を確認した。pNEF38−c264scTCR発現ベクターは、上記されている。変異型ヒトIgG1ヒンジ領域及びヒトIL−15RαSushiタンパク質をコードするDNA断片をpNEF38−c264scTCRベクターの中にクローニングしたところ、以下の配列を含有するc264scTCR−hmt−huIL15RαSushi融合遺伝子が得られた:3’−免疫グロブリン軽鎖リーダー−264 TCR V−α−ペプチドリンカー−264 TCR V−β−ヒトTCR C−β−変異型ヒトIgG1ヒンジ−ヒトIL−15RαSushi。得られたベクター(pNEF38−c264scTCR−hmt−huIL15RαSushi)が図6Aに示されており、診断PCRに基づいて同定して、DNA塩基配列決定法によって再確認した。c264scTCR−hmt−huIL15RαSushi融合遺伝子及びそのタンパク質の配列(リーダー配列を含む)が、それぞれ図6Bと図6Cに示されている。
【実施例7】
【0170】
−単一の発現ベクターにおけるc264scTCR/huIL15RαSushi遺伝子及びc264scTCR/huIL15遺伝子の構築
本発明に係る2つの融合タンパク質を単一の宿主細胞の中で発現させるために、c264scTCR/huIL15RαSushi及びc264scTCR/huIL15をコードする遺伝子を、単一の発現ベクターにクローニングした。c264scTCR/huIL15RαSushi遺伝子は、前方プライマーとして、
5’−TGAGTGTCCGGAACCACCATGGAGACAGACAC−3’を、
また、後方プライマーとして、
5’−TTGTTGGCGGCCGCTTATCATCTAATGCATTTGAG−3’を用いて、以下の条件下で、PfuUltra(Stratagene)によって、実施例5に記載された鋳型から増幅した:94℃にて1分間;68℃にて1分間;72℃にて2分間;×35サイクル;72℃にて10分間。c264scTCR/huIL15RαSushi遺伝子のPCR産物をゲル精製し、BspEI及びNotIで消化し、BspEI及びNotIで消化しておいたpSUN34Rl発現ベクターにライゲーションした。pSUN34Rl発現ベクターは、目的とする遺伝子をクローニングするため、また、5’調節/エンハンサー領域、転写調節領域及びプロモーター領域、Kozakコンセンサス配列及びポリ−A終結領域を含有する翻訳調節/開始/終結配列、並びに調節因子を有するイントロン及び3’領域をクローニングするための2つの部位を含んでいる。また、このベクターは、哺乳動物細胞(SV40プロモーター/neoR遺伝子/ポリ−A)及びバクテリア(ori/amp遺伝子)の中での選択的な増殖を可能にするDNA配列も含んでいる。正しいc264scTCR/huIL15RαSushi遺伝子である挿入配列を含有するベクターを、診断PCRに基づいて同定し、DNA塩基配列決定法によって再確認した。c264scTCR/huIL15遺伝子は、前方プライマーとして、
5’−TGAGTGATCGATACCACCATGGAGACAGACAC−3’を、
また、後方プライマーとして、
5’−TGAGTGTTCGAATTATCAAGAAGTGTTGATGAAC−3’を用いて、以下の条件下で、PfuUltra(Stratagene)によって、実施例2に記載された鋳型から増幅した:94℃にて1分間;65℃にて1分間;72℃にて2分間;×35サイクル;72℃にて10分間。c264scTCR/huIL15遺伝子のPCR産物をゲル精製し、ClaI及びCsp45Iで消化し、ClaI及びCsp45Iで消化しておいたpSUN34Rl−c264scTCR/huIL15RαSushi発現ベクターにライゲーションした。得られたベクター(pSun−c264scTCRIL15/c264scTCRIL15RaSushi)は図7に示されており、正しいc264scTCR/huIL15遺伝子である挿入配列を含んでいることを、診断PCRに基づいて同定して、DNA塩基配列決定法によって再確認した。このベクターは、c264scTCR/huIL15RαSushi遺伝子及びc264scTCR/huIL15遺伝子の両方を含んでいる。
【実施例8】
【0171】
−単一の発現ベクターにおけるc264scTCR/huIL15RαΔE3遺伝子及びc264scTCR/huIL15遺伝子の構築
c264scTCR/huIL15RαΔE3融合遺伝子は、前方プライマーとして、
5’−TGAGTGTCCGGAACCACCATGGAGACAGACAC−3’を、
また、後方プライマーとして、
5’−TTGTTGGCGGCCGCTTATCAAGTGGTGTCGCTG−3’を用いて、以下の条件下で、PfuUltra(Stratagene)によって、実施例4に記載された鋳型から増幅した:94℃にて1分間;68℃にて1分間;72℃にて2分間;×35サイクル;72℃にて10分間。c264scTCR/huIL15RαΔE3遺伝子のPCR産物をゲル精製し、BspEI及びNotIで消化して、BspEI及びNotIで消化しておいた発現ベクターpSUN34R1にライゲーションした。正しいc264scTCR/huIL15RαΔE3遺伝子である挿入配列を含有するベクターを、診断PCRに基づいて同定し、DNA塩基配列決定法によって再確認した。実施例7に記載されたようにして、c264scTCR/huIL15遺伝子を増幅し、発現ベクターにクローニングした。得られたベクター(pSun−c264scTCRIL15/c264scTCRIL15RaDE3)は図8に示されており、正しいc264scTCR/huIL15遺伝子である挿入配列を含んでいることを、診断PCRに基づいて同定して、DNA塩基配列決定法によって再確認した。このベクターは、c264scTCR/huIL15RαΔE3遺伝子及びc264scTCR/huIL15遺伝子の両方を含んでいる。
【実施例9】
【0172】
−融合タンパク質を産生する、形質移入された宿主細胞株の作製
いくつかの異なった形質転換法、形質移入法、又は形質導入法によって、発現ベクターをさまざまな宿主細胞株に導入することができる。このような方法の一つでは、CHO−K1細胞(5×104)を6ウェルプレートに播種して、CO2インキュベータ内で一晩培養した。この細胞に、TCR/IL15融合遺伝子及び/又はTCR/IL15Rα融合遺伝子を含有する5μgの発現ベクターを、10μLのMirus TransIT−LT1試薬(Mirus)を製造業者の手順に従って使用して形質移入した。形質移入した1日後に、4mg/mLのG418(Invitrogen)で細胞を選択した。G418耐性細胞を増大させ、後述するようにMACS選択を3〜5回行うことによって、TCR融合タンパク質発現細胞を濃縮した。細胞を10mMのEDTAで剥離し、10%FBS含有IMDMで1回洗浄した。細胞を再懸濁(100μL中107細胞)し、5μgのR−フィコエリトリン(PE)を結合したp53(aa264−272)/HLA−A2テトラマー試薬とともに4℃で15分間インキュベートした。細胞を1回洗浄し、抗PE抗体結合磁気ビーズ(Miltenyi Biotec)とともに4℃で15分間インキュベートした。細胞を磁気カラム(磁場内にある)に負荷し、結合しなかった細胞を洗浄用緩衝液(0.5%BSA含有PBS)で除去した。カラムを磁場から引き離した後、カラムに結合した細胞を10%FBS含有IMDMで溶出した。この方法は、産生/分泌過程での細胞表面上における可溶性融合タンパク質の一過性の提示に基づいて、融合タンパク質発現細胞の濃縮を可能にする。各濃縮工程の後に、細胞表面への融合タンパク質の結合を観測した。フローサイトメトリーによって測定した、細胞表面に結合した融合タンパク質のレベルを、ELISAによって測定した、細胞培養培地中に存在する可溶性融合タンパク質のレベルと比較した。比較の一例を図9A及び9Bに示す。この例では、pNEF38−c264scTCR/huIL15RαSushiを遺伝子移入したCHO−K1細胞を、MACSによって1〜5回濃縮して、6ウェルプレート上に播種した(1×106細胞/ウェル)。そして、24時間後、細胞を10mMのEDTAで剥離し、IMDM+10%FBSで1回洗浄し、0.6μgのPE結合p53(aa264−272)/HLA−A2四量体、又は同量の対照PE結合CMVpp65(aa495−503)/HLA−A2四量体とともに4℃で30分間染色した(2×105細胞/100μLのIMDM+10%FBS)。細胞を1回洗浄し、図9Aに示したように、細胞表面に結合した可溶性融合タンパク質のレベルをフローサイトメトリーによって分析した。また、図9Bに示したように、細胞培養培地の中に分泌される可溶性融合タンパク質のレベルも、捕捉用抗体である抗ヒトTCR Cβ抗体(BF1)、及び検出用抗体である、既述(5)のビオチン化抗ヒトTCR Cβ抗体(W4F)を用いたTCR特異的ELISAによって測定した。その結果、磁気ビーズによる濃縮工程によって、より高レベルの可溶性融合タンパク質を産生する形質転換体が得られたことが示された。そして、濃縮された形質転換細胞を、限界希釈法によって3回サブクローニングし、培養培地に分泌される可溶性融合タンパク質のレベルに基づいて(上記したELISAによって測定する)、産生細胞株をスクリーニングした。産生細胞株を、IMDM+10%FBS培地又は無血清培地内において、可溶性融合タンパク質を生成させるのに適した条件下(すなわち、フラスコ、スピナー、発酵器、バッグ、ビン)で拡張及び増殖させた。
【0173】
場合によっては、さまざまな発現ベクターによって宿主細胞を同時形質移入して、複数の融合タンパク質を発現できる形質転換体を作出した。また、ある融合タンパク質を発現する形質転換体を、1つ又はそれ以上の発現ベクターで再形質移入して、複数の融合タンパク質を発現する形質転換体を作出することもできた。また、実施例7及び8に例示されるように、2つ以上の融合タンパク質遺伝子を含有する発現ベクターによって細胞に形質移入して、複数の融合タンパク質を発現する形質転換体を作出した。得られた細胞を用いて、本発明の多成分融合タンパク質複合体を可溶性分子として細胞培養培地の中に産生させることができた。
【0174】
また、高いレベルの融合タンパク質又は融合タンパク質複合体の産生も、米国特許出願第09/204,979号に記載された細胞形質移入法及び選択法によって行うことが可能である。
【実施例10】
【0175】
−TCR/IL15融合タンパク質及びTCR/IL15Rα融合タンパク質、又は融合タンパク質複合体の精製
本発明に係る可溶性融合タンパク質又は融合タンパク質複合体は、さまざまな方法を用いて、例えば、溶媒中における選択的な分配又は可溶性によって、又は、電荷、疎水性、親水性、サイズ、及び/若しくはリガンドに対する選択的若しくは半選択的な結合に基づく分離(すなわち、クロマトグラフィー)によって、宿主細胞又は細胞培養培地から精製することができる。可溶性の融合タンパク質又は融合タンパク質複合体は、適当なタンパク質折り畳み条件を用いることで、不溶性物質から作出することができる。一例では、ヒトTCR−Cβドメインを認識する抗体(BF1)を用いた親和性クロマトグラフィーによって、c264scTCR/IL15融合タンパク質を細胞培養培地から精製した。一般的には、まず、pH8.0の20mM Tris−HCl(ローディング緩衝液でBF1結合セファロース(Sepharose)を含有するカラムを平衡化し、c264scTCR/IL15融合タンパク質を含有するpH調整細胞培養培地を、2ml/分で負荷した。そして、このカラムを、5倍カラム量のローディング緩衝液で洗浄して、未結合のタンパク質を除去し、4倍カラム量の0.5Mクエン酸ナトリウム、pH4で、c264scTCR/IL15融合タンパク質を溶出した。回収した後、pH8.0の2M Tris−HClで溶出液を調整した。精製したタンパク質をPBSに入れて緩衝液を交換して、0.22μmフィルターを用いて濾過した。BF1カラムを、pH3.0の50mMグリシンHClで処理して、4℃の20%エタノール中で次の使用時まで保存した。この融合タンパク質は、イオン交換クロマトグラフィー及び/又はサイズ排除クロマトグラフィーによって、さらに精製することができた。c264scTCR/IL15融合タンパク質、c264scTCR/IL15RαSushi融合タンパク質、及びc264scTCR/IL15RαΔE3融合タンパク質を含有する細胞培養上清を、上記の方法で精製し、精製した融合タンパク質のサンプルを、還元的条件下でSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動して、その後、クマシーブリリアントブルーで染色して分析を行った。このようなゲルの例を図10に示す。主要なタンパク質バンドは、融合タンパク質の配列から予測された正確な分子量に相当している。
【実施例11】
【0176】
−TCR/IL15融合タンパク質及びTCR/IL15Rα融合タンパク質の融合タンパク質複合体の生成
IL−15は、細胞外IL−15Rαドメインに高い親和性で特異的に結合する(4)。従って、IL−15ドメイン及びIL−15Rαドメインを有する融合タンパク質の複合体を、発現細胞内、又は細胞外で未精製若しくは精製後の融合タンパク質によることを含む、さまざまな条件下で形成させることができる。一例では、等モル量の精製融合タンパク質を適当な条件下(すなわち、室温にて10分間)で混合して、融合タンパク質複合体を形成させることができる。複合体形成は、直接的結合アッセイ法、競合的結合アッセイ法、免疫沈殿法、表面プラズマ共鳴法、又は、複合体の大きさ、活性、若しくはその他の性質に基づく分析法など、さまざまな技術を用いて観測することができる。例えば、図11に示すように、サイズ排除クロマトグラフィーによって、分子量に基づいて、c264scTCR/huIL15融合タンパク質及びc264scTCR/huIL15RαSushi融合タンパク質を含有する複合体の形成を観測することができる。この検討では、分析を行うために、約100μgのc264scTCR/huIL15(0.5mg/ml)をSuperdex200HR10/30カラムに負荷した。c264scTCR/huIL15について計算された分子量は約57kDである。SECプロファイル(図11A)に基づくと、推定分子量は約98kDであり、この融合タンパク質が単量体である可能性が高いことを示唆している。同様に、約60μgのTCR/huIL15RαSushi融合タンパク質(0.3mg/ml)をSuperdexカラムに負荷した。c264scTCR/huIL15RαSushiについて計算された分子量は約52kDである。SECプロファイル(図11B)に基づくと、融合タンパク質の推定分子量は約81kDであり、ここでも、この融合タンパク質が単量体である可能性が高いことを示唆している。別のTCRによる融合タンパク質の以前のSEC分析でも、グリコシル化された融合タンパク質の単量体の計算された分子量と推定分子量との間には同様の差異が示された。c264scTCR/huIL15融合タンパク質とc264scTCR/huIL15RαSushi融合タンパク質を等モル量で混合して、約126μgの混合タンパク質(0.63mg/ml)をカラムに負荷したところ、図11Cに示したプロファイルが得られた。2つの主要ピークの分子量を推定したところ、1つは約170kDで、2つの融合タンパク質のヘテロ二量体であり、もう1つは約91kDで、これらの融合タンパク質の単量体が混合したものである可能性が高い。従って、c264scTCR/huIL15+c264scTCR/huIL15RαSushi融合タンパク質の混合調製物に170kDの分子種が出現することが、本発明に係る融合タンパク質複合体を生成できることの証しである。
【0177】
c264scTCR/huIL15融合タンパク質及びc264scTCR/huIL15RαΔE3融合タンパク質を含有する融合タンパク質複合体の分析も行った。約100μgのc264scTCR/huIL15RαΔE3融合タンパク質(0.5mg/ml)をSuperdexカラムに負荷した。c264scTCR/huIL15RαΔE3について計算された分子量は約60kDである。SECプロファイル(図12A)に基づくと、このタンパク質の推定分子量は約173kDであり、このタンパク質がホモ二量体として存在することを示唆している。c264scTCR/huIL15融合タンパク質とc264scTCR/huIL15RαΔE3融合タンパク質を等モル量で混合して、約118μgの混合タンパク質(0.59mg/ml)をカラムに負荷したところ、図12Bに示したプロファイルが得られた。2つの主要ピークの分子量を推定したところ、1つは>210kDで、2つのヘテロ二量体から構成される四量体である可能性が高く、もう1つは約93kDで、c264scTCR/huIL15の単量体である可能性が高い。したがって、c264scTCR/huIL15+c264scTCR/huIL15RαΔE3融合タンパク質の混合調製物に170kDの分子種が出現することが、本発明に係る融合タンパク質複合体を生成できることの証しである。
【実施例12】
【0178】
−TCR/IL15融合タンパク質及びTCR/IL15Rα融合タンパク質の融合タンパク質複合体は、ペプチド/MHC複合体への増大した結合を示す。
上記のようにして作出された融合タンパク質複合体が、TCR特異的抗原であるp53(aa264−272)/HLA−A2.1に結合する能力について、その特徴を調べた。この抗原を提示する細胞を作出するために、HLA−A2.1陽性T2細胞に、26℃で一晩、p53(aa264−272)ペプチドを負荷してから、5×106細胞/mLを液体窒素中で保存した。ペプチドとともにインキュベートしなかったT2細胞を対照として用いる。p53ペプチド負荷T2細胞又は対照用T2細胞を融解して、1mLのIMDM+10%FBSに再懸濁した。そして、細胞(5×105/100μL)を、0.5μgの以下の融合タンパク質で室温にて30分間染色した:c264scTCR/huIL15、c264scTCR/huIL15RαSushi、c264scTCR/huIL15+c264scTCR/huIL15RαSushi複合体。細胞を、洗浄用緩衝液(0.5%BSA及び0.05%アジ化ナトリウムを含有するPBS)で1回洗浄し、100μLの洗浄用緩衝液中0.1μgのビオチン化マウスモノクローナル抗ヒトTCR Cβ抗体(BF1)によって、室温にて30分間染色した。細胞を1回洗浄してから、100μLの洗浄用緩衝液中0.5μgのR−フィコエリトリンを結合したストレプトアビジンによって、室温にて30分間染色した。フローサイトメトリーによって分析するために細胞を洗浄及び再懸濁した。図13に示すように、各々の融合タンパク質は、p53ペプチド負荷細胞を特異的に染色することができた。また、発現したc264scTCR/huIL15+c264scTCR/huIL15RαSushi融合タンパク質複合体は、T2細胞上に発現したp53(aa264−272)/HLA−A2.1複合体への多価c264scTCRドメインを介した特異的結合を増強した。特に、二量体融合タンパク質複合体は、c264scTCR/huIL15融合タンパク質又はc264scTCR/huIL15RαSushi融合タンパク質の単量体よりも、p53ペプチド負荷T2細胞を良好に染色した。これらのデータは、多量体融合タンパク質複合体の方が、これらの融合タンパク質の単量体型よりも良好な抗原認識特性をもたらすことを示唆している。
【実施例13】
【0179】
−huIL−15変異遺伝子の作出及びc264scTCR−hmt−huIL15変異遺伝子発現ベクターの構築
上記したように、c264scTCR/huIL15+c264scTCR/huIL15RαSushiポリペプチドは、IL−15ドメインとIL−15Rαドメインの相互作用によって複合体を形成することができ、多価の融合タンパク質複合体は、ペプチド/MHC複合体に対して増強された結合を示す。このような融合タンパク質複合体には、増強された結合活性に基づいた、抗原特異的な、又は抗原を標的とする、研究用、診断用、及び治療用の薬剤としての利点がある。融合タンパク質のIL−15/IL−15Rαドメインが、IL−15受容体を発現する細胞に結合できることも、本明細書に示されるように望ましい特性である。しかし、IL−15/IL−15Rαドメインが、IL−15受容体を発現する細胞の応答と相互作用し、及び/又はそれをもたらす能力を低下又は上昇させることが有利である適用場面がある。例えば、主要な目的が、ペプチド/MHC複合体を特異的に検出するために融合タンパク質複合体を使用することである適用場面(すなわち、研究用途及び診断用途)では、この相互作用を低下させることが望ましい可能性がある。また、治療への適用場面では、IL−15が介在する応答を低下又は上昇させることができるIL−15ドメインを含有する融合タンパク質複合体を作出することも望ましい可能性がある。この問題に取り組むために、変異解析を行って、IL−15Rαとの相互作用をもたらすことなく、IL−2/15Rβγc複合体への結合を生じさせるIL−15の残基を同定した。得られた変異体から、アンタゴニスト又はアゴニストを含有するIL−15変異体を作出することができる。本発明に係る融合タンパク質に使用するだけでなく、得られたIL−15のアンタゴニスト及びアゴニストは、研究、診断、又は治療に利用するための可溶性サイトカイン(すなわち、非融合タンパク質)として、又はIL−15Rαドメインとの複合体としての有用性も有する可能性がある。例えば、IL−15アンタゴニストは、不要な免疫応答を抑制するのに有用である可能性がある。一方では、さまざまな病気を治療するための治療法においてIL−15アゴニストを用いて、免疫応答を刺激することができる。
【0180】
IL−15のアミノ酸配列と構造をIL−2と比較して、IL−15と、IL−15Rα、IL−15Rβ、及び/又はγCとの相互作用をもたらす可能性がありそうなアミノ酸をいくつか同定した。表1及び図14Aに示すように、成熟ヒトIL−15タンパク質がIL−15Rβγc受容体に結合する部位である可能性がある8位、61位、65位、72位、及び108位にあるアミノ酸(番号付けは、天然型の成熟ヒトIL−15の配列に基づく)が、それぞれ置換されているか、又は2つ又はそれ以上の別の置換と併存しているIL−15変異体が作出された。8位のアスパラギン酸が、アラニン又はアスパラギンで置換された。61位のアスパラギン酸は、アラニンで置換された。65位のアスパラギンは、アラニン又はアスパラギン酸で置換された。72位のアスパラギンは、アルギニン又はアスパラギン酸で置換された。108位のグルタミンは、アラニンで置換された。8位のAsp及び108位のGlnは、それぞれアラニンで置換された。8位のAsp及び65位のAsnは、それぞれアスパラギン又はアラニンで置換された。8位のAsp及び65位のAsnは、それぞれセリン又はアルギニンで置換された。IL−15変異体を作出するために、オーバーラップPCRを用いた。
【0181】
例えば、8位のAspをアラニン残基又はアスパラギン残基で置換したものを作出するためには、pNEF38−c264scTCR/huIL15ベクターを鋳型に用いて、2つの重複するcDNA断片を、断片1に対する前方プライマーとして、
5’−TGGTGGACGCGTAACTGGGTGAATG−3’を、
また、断片1に対する後方プライマーとして、
5’−AGATCTTCAATTTTTTTCAAMKHACTTATTACATTCACCCAG−3’を用い、
断片2に対する前方プライマーとして、
5’−ACTGGGTGAATGTAATAAGTDMKTTGAAAAAAATTGAAGATC−3’を、
また、断片2に対する後方プライマーとして、
5’−TGGTGGTCTAGATTATCAAGAAGTGTTGATG−3’を用いて、PfuUltra(Stratagene)によって、以下のPCR条件下で増幅した:94℃にて1分間;66℃にて1.5分間;72℃にて1.5分間;×35サイクル;72℃にて10分間。断片1及び2のPCR−cDNA産物を1%アガロースゲル上で電気泳動によって分離し、単離した。このcDNA産物を、Qiaquickゲル抽出キット(Qiagen)を用いてアガロースから精製した。断片1及び2のPCR−cDNA産物を、PfuUltra(Stratagene)によって、以下のPCR条件下で一つに融合した:94℃にて1分間;66℃にて1.5分間;72℃にて1.5分間;×10サイクル。この重複したPCR−cDNA断片は、前方プライマーとして、
5’−TGGTGGACGCGTAACTGGGTGAATG−3’を、
また、後方プライマーとして、
5’−TGGTGGTCTAGATTATCAAGAAGTGTTGATG−3’を用いて、PfuUltra(Stratagene)によって、以下のPCR条件下で増幅した:94℃にて1分間;64℃にて1.5分間;69℃にて1.5分間;×30サイクル;72℃にて10分間。このhuIL−15変異体のPCR−cDNA産物を1%アガロースゲル上で電気泳動によって分離して、単離した。このcDNA産物を、Qiaquickゲル抽出キット(Qiagen)を用いてアガロースから精製した。このhuIL15変異遺伝子をMluI及びXbaIで消化し、MluI及びXbaIで消化しておいたpNEF38−c264scTCR−hmtにライゲーションした。製造業者の手順に従って、QUICK START KIT(Beckman Coulter)を用いたGenomeLab Dye Termination Cycle SequencingによるDNA塩基配列決定法によって、8位にアラニン又はアスパラギンによる置換を有するhuIL−15遺伝子を含有するクローンを確認した。pNEF38−c264scTCR発現ベクターについては上記されている。変異型ヒトIL−15タンパク質をコードするDNA断片をpNEF38−c264scTCRベクターの中にクローニングしたところ、以下の配列を含有するc264scTCR−hmt−huIL15D8A融合遺伝子又はc264scTCR−hmt−huIL15D8N融合遺伝子が得られた:3’−免疫グロブリン軽鎖リーダー−264 TCR V−α−ペプチドリンカー−264 TCR V−β−ヒトTCR C−β−変異型ヒトIgG1ヒンジ−ヒトIL−15D8A又はヒトIL−15D8N。得られたベクター(pNEF38−c264scTCR−hmt−huIL15D8A又はpNEF38−c264scTCR−hmt−huIL15D8N)が図14Bに示されているが、これは、DNA塩基配列決定法によって確認されたものである。pNEF38−c264scTCR−hmt−huIL15D8A融合遺伝子又はpNEF38−c264scTCR−hmt−huIL15D8N融合遺伝子及びそのタンパク質の配列(リーダー配列を含有する)をそれぞれ図14Cと図14Dに示す。
【0182】
別の変異も同様の方法で導入し、発現ベクターを上記したように構築した。発現ベクターをCHO.K1細胞に導入して、実施例9に記載されるようにして、安定した形質転換体を作製した。TCR/IL15融合タンパク質、及びIL−15変異体を含有する融合タンパク質複合体の作製及び精製は、実施例10及び11に記載したのと同様の方法を用いて行った。IL−15変異体を可溶性サイトカインとして作製することは、原核生物発現系及び真核生物発現系における産生など、当該技術分野において公知のさまざまな方法によって行うことができる(例えば、国際公開公報第9527722号; Hsu et al., J. Immunol. 175:7226を参照されたい)。
【実施例14】
【0183】
−TCR/IL15融合タンパク質及びTCR/IL15Rα融合タンパク質、並びに融合タンパク質複合体の機能的特徴
実施例9に記載したELISA及びp53(aa264−272)/HLA−A2.1試薬を用いる細胞染色法、及び実施例12に記載した抗原提示細胞染色法によって、融合タンパク質のTCRドメインの機能的結合が証明された。融合タンパク質のIL−15ドメインとIL−15Rαドメインが相互作用できることが、実施例11に記載されるように証明された。さらに、IL−2/15Rβγc受容体への結合、又はIL−15受容体を産生する免疫細胞の活性を調節することを含む、さまざまな方法によって、IL15ドメイン及びIL15Rαドメインの機能活性を評価することができる。一つの例では、ヘテロ三量体IL−15R(αβγc鎖)を発現するCTLL−2細胞を、0.5μgの以下の各融合タンパク質とともに室温にて30分間インキュベートした:c264scTCR/huIL15、264scTCR/huIL15RαSushi、又はc264scTCR/huIL15+c264scTCR/huIL15RαSushi複合体。細胞を洗浄用緩衝液(0.5%BSA及び0.05%アジ化ナトリウムを含有するPBS)で1回洗浄し、0.5μgのR−フィコエリトリン(PE)結合p53(aa264−272)/HLA−A2四量体によって、室温にて30分間染色した。フローサイトメトリーによって分析するために細胞を洗浄及び再懸濁した。図15に示すように、c264scTCR/huIL15融合タンパク質及びc264scTCR/huIL15+c264scTCR/huIL15RαSushi複合体が、それらのhuIL−15ドメインを介して、CTLL−2細胞上のIL−15受容体と結合することが、結合した融合タンパク質のc264scTCRドメインを認識するPE結合p53(aa264−272)/HLA−A2四量体を用いて検出することができる。これらの結果は、融合タンパク質/融合タンパク質複合体のIL−15ドメイン及びTCRドメインが、それらの同族リガンドと機能的に相互作用できることを示している。
【0184】
また、CTLL−2細胞は、増殖をサイトカインに依存していて、そして組換えヒトIL−15に応答することができる。融合タンパク質及び融合タンパク質複合体のIL−15生物活性を評価するために、CTLL−2細胞を用いる、細胞に基づいたWST−1細胞増殖アッセイ法を開発した。WST−1(Roche)は、代謝的に活性な細胞に存在する脱水素酵素によってホルマザン(formazan)に変換することができる試薬である。WST−1アッセイ法では、440〜450nmにおける吸光量で測定される、培養培地中のホルマザンの量は、培養中の生細胞数に正比例する。CTLL−2細胞(2×104/200μL)を、CO2インキュベータ内で、37℃にて3日間、96ウェルプレート中で表示濃度の以下の融合タンパク質(0〜28ng/mL)とともにインキュベートした:c264scTCR/huIL15、c264scTCR/huIL15+c264scTCR/huIL15RαSushi複合体、又はc264scTCR/huIL15+c264scTCR/huIL15RαΔE3複合体。マイクロタイタープレート・リーダーによって、440〜450nmにおける吸光度を測定するために100μLの培養培地を回収する前に、細胞を10μLのWST−1とともに4時間インキュベートした。図16に示すように、c264scTCR/huIL15融合タンパク質は、1.8ng/mL(〜31.25pM)という低濃度で、CTLL−2細胞の増殖を支持することができるが、このことは、高親和性IL−15受容体を介して、CTLL−2細胞が、c264scTCR/huIL15融合タンパク質によって活性化されることを示唆している。興味深いことに、融合タンパク質複合体も、より低い度合いではあるが、CTLL−2細胞の増殖を支持して、c264scTCR/huIL15の刺激活性が、c264scTCR/huIL15RαSushi又はc264scTCR/huIL15RαΔE3との複合体形成の後に(それぞれ、1倍又は4倍)抑制されたことを示している。このことは、高親和性IL−15受容体へのc264scTCR/huIL15の結合が、c264scTCR/huIL15RαSushi融合タンパク質又はc264scTCR/huIL15RαΔE3融合タンパク質によって阻害されることを示唆している。これらの結果は、融合タンパク質及び融合タンパク質複合体が、さまざまな条件下で、免疫細胞の応答を活性化又は抑制できることの証拠を提示している。
【0185】
32Dβ細胞株(下記参照)などの中度親和性IL−15βγc受容体だけを発現する細胞株を用いて、同様のアッセイを行った。場合によっては、IL−15R産生細胞の増殖を刺激する際のIL−15の生物活性が、IL−15Rαドメインと複合体になっているときに増強されるという可能性もある(1〜3)。c264scTCR/huIL15+c264scTCR/huIL15RαSushi複合体又はc264scTCR/huIL15+c264scTCR/huIL15RαΔE3複合体による細胞増殖刺激を評価すれば、融合タンパク質複合体が、免疫細胞の免疫応答を刺激又は活性化し得ることのさらなる証拠を提供できるだろう。
【実施例15】
【0186】
−TCR/IL15αSushiとTCR/IL−15変異体の二量体融合タンパク質複合体は、ペプチド/MHC複合体に対してTCR特異的結合を示すが、IL−15Rβγc受容体に対しては、より低い結合を示す。
TCR特異的抗原であるp53(aa264−272)/HLA−A2.1に結合する能力について、上記したようなIL−15変異体を含有する融合タンパク質複合体の特徴を調べた。p53(aa264−272)/HLA−A2.1を提示する細胞を作り出すために、1×PLE(Altor Bioscience)の存在下、37℃にて、2〜3時間、HLA−A2.1陽性T2細胞(2×106/mL)に20μMのp53(aa264−272)ペプチドによる負荷をかけた。ペプチドとインキュベートしなかったT2細胞、及びIL−2/15Rβγcを発現する32Dβ細胞を対照として用いる。そして、p53ペプチドを負荷されたT2細胞、対照T2細胞、又は32Dβ細胞(2×105/100μL)を、320nMの以下の二量体融合タンパク質複合体とともに、4℃にて30分間インキュベートした:1)c264scTCR/huIL15+c264scTCR/huIL15RαSushi、2)c264scTCR/huIL15D8A+c264scTCR/huIL15RαSushi、及び3)c264scTCR/huIL15D8N+c264scTCR/huIL15RαSushi。これらの複合体は、160nMの精製c264scTCRhuIL15融合タンパク質と、160nMの精製c264scTCRhuIL15RαSushi融合タンパク質を4℃にて3時間インキュベートすることによって生成した。染色後、洗浄用緩衝液(0.5%BSA及び0.05%アジ化ナトリウムを含有するPBS)で細胞を1回洗浄し、100μLの洗浄用緩衝液中0.5μgのビオチン化マウスモノクローナル抗ヒトTCR Cβ抗体(BF1)によって、4℃にて30分間染色した。細胞を1回洗浄してから、100μLの洗浄用緩衝液中で0.5μgのR−フィコエリトリン結合ストレプトアビジンによって、4℃にて30分間染色した。フローサイトメトリーによって分析するために細胞を洗浄及び再懸濁した。図17Aに示すように、c264scTCR/huIL15D8A+c264scTCR/huIL15RαSushi複合体及びc264scTCR/huIL15D8N+c264scTCR/huIL15RαSushi複合体は、p53ペプチド負荷T2細胞の特異的染色について、c264scTCR/huIL15+c264scTCR/huIL15RαSushi複合体と同等の活性を示した。これらの結果は、多価のscTCRドメインが、これらの融合複合体のそれぞれにおいて、完全に機能していることを示している。しかし、図17B及び図17Cに示されるように、変異型c264scTCR/huIL15融合タンパク質複合体は、対照であるT2細胞(図17B)及びIL−15Rβγc陽性32Dβ細胞(図17C)に対して、野生型c264scTCR/huIL15融合タンパク質複合体よりも低いバックグランド染色を示した。すなわち、これらIL−15変異体(D8A及びD8N)を含有する融合タンパク質複合体は、32Dβ細胞上に存在するIL−15Rβγc受容体に対する結合活性を示さない。IL−15Rβγc受容体への結合についての同様の検討を、IL−15変異体を含有する別の融合タンパク質を用いて行って、表1にまとめた。その結果、IL−15変異体を含有する本発明に係る融合タンパク質及び融合タンパク質複合体は、ペプチド/MHC複合体を認識する活性を保持しており、IL−15Rβγc受容体に対して、増加したか又は低下した結合活性を示すことが示唆された。
【0187】
上記融合タンパク質の機能的TCRドメイン及びIL−15ドメインを確認するために、ペプチド/MHC及びIL−15Raの結合活性をELISA分析によって測定した。96ウェルマイクロタイタープレートを、pH9.1の炭酸緩衝液(35mM重炭酸ナトリウム、17.5mMのNa2CO3、50mMのNaCl)内で4℃にて3時間、20nMのBF1、抗TCR Cβ抗体、又は20nMのTCR/IL15RαSushiで予め被覆した。プレートを洗浄用緩衝液(40mMイミダゾール、150mMのNaCl)で4回洗浄し、1%BSA−PBSで10分間ブロッキングした。0.03〜4nMの濃度の表示された融合タンパク質をプレートに添加し、室温にて30分間インキュベートした。プレートを4回洗浄した。BF1に捕捉された融合タンパク質を、1μg/mLのHRP結合p53/HLA−A2.1四量体とともに室温にて45分間インキュベートし、TCR/IL15RaSushiに捕捉された融合タンパク質を、50ng/mLのビオチン化マウス抗ヒトIL−15とともに室温にて30分間インキュベートした。4回洗浄した後、ビオチン化マウス抗ヒトIL−15とともにインキュベートされたプレートを、0.25μL/mLのHRP−ストレプトアビジンとともに15分間インキュベートした。プレートを4回洗浄し、ペルオキシダーゼ基質であるABTとともに1〜10分間インキュベートし、マイクロタイタープレート・リーダーによって405nmにおける吸光度を測定するために発色させた。図18A及び図18Bに示されるように、融合タンパク質は、p53/HLA−A2四量体に対して、類似したTCR特異的結合活性を有し、IL−15RαSushiに対しては同等のIL−15結合活性を有する。IL−15Rαへの結合についての同様の検討を、IL−15変異体を含有する別の融合タンパク質を用いて行い、表1にまとめた。その結果、IL−15変異体を含有する本発明に係る融合タンパク質及び融合タンパク質複合体は、ペプチド/MHC複合体及びIL−15Rα受容体を認識する活性を保持していることが示された。
【実施例16】
【0188】
−TCR/IL15変異体の融合タンパク質及び融合タンパク質複合体の機能的特徴
上記したように、IL−15のアンタゴニスト又はアゴニストを含有する融合タンパク質は、病気部位におけるIL−15が介在する応答(すなわち、T細胞又はNK細胞の活性)を阻害又は刺激する標的薬剤として有用である可能性がある。免疫応答をもたらす、これらの融合タンパク質のIL−15生物活性を測定するために、高親和性IL−15R(αβγc鎖)を発現するCTLL−2細胞、及び中度IL−15R(βγc鎖)を発現する32Dβ細胞を用いて、細胞増殖試験を行った。細胞(2×104/200μL)を、CO2インキュベータ内で、37℃にて3日間、96ウェルプレート中で0.4〜40nMの上記TCR/IL15融合タンパク質とともにインキュベートした。マイクロタイタープレート・リーダーによって、440nmにおける吸光度を測定するために150μLの培養培地を回収する前に、細胞を10μLのWST−1とともに4時間インキュベートした。図19A及び図19Bに示すように、野生型IL−15ドメインを含有するc264scTCR/huIL15融合タンパク質は、CTLL−2細胞及び32Dβ細胞の増殖を、それぞれ40pM又は1nMという低い濃度で支持することができる。興味深いことに、72位のアミノ酸にアスパラギンからアスパラギン酸への置換を有するIL−15変異体を含有する融合タンパク質(c264scTCR/huIL15N72D)は、32Dβ細胞株の増殖を支持するという点で、野生型IL−15ドメインを含有する融合タンパク質よりも活性がずっと高く、80pMという低濃度で生物活性を示した(図19B)。これに関して、IL−15変異体を含有する融合タンパク質(huIL15N72D)は、スーパーアゴニスト活性を示した。1:1の比のc264scTCR/IL15RαSushiとの複合体では、c264scTCR/huIL15N72Dは、T2細胞上のp53/HLA−A2.1複合体に対して、c264scTCR/huIL15wtと同じような結合能力を有していた(図17A)が、32Dβ細胞上のIL−15Rβγc受容体に対しては、より高い結合能力を示した(図17C)。これに対し、8位における置換(c264scTCR/huIL15D8N又はc264scTCR/huIL15D8A)、65位における置換(c264scTCR/huIL15N65A)、108位における置換(c264scTCR/huIL15Q108A)、又は72位における異なった置換(c264scTCR/huIL15N72R)を有するIL−15変異体を含有する融合タンパク質は、CTLL−2細胞及び32Dβ細胞の増殖を支持するという点では、c264scTCR/huIL15wt融合タンパク質と比較して活性が低かった(図19A及び図19B)。IL−15変異体を含有する別の融合タンパク質を用いて、IL−15依存性増殖活性について同様の検討を行い、表1にまとめた。これらのデータは、IL−15タンパク質の8位、61位、65位、72位、及び108位における変異は、IL−15Rに対する結合を減少させて、かつ、免疫応答を刺激する活性がほとんどないか又は全くないIL−15アンタゴニストをもたらすことができるとの仮説を裏付けている。1つの変異体(c264scTCR/huIL15N72R)が、IL−15アンタゴニストとして作用する一方で、別の変異体(c264scTCR/huIL15N72D)が、IL−15Rに対する増強された結合と、免疫応答を刺激する活性が高められたことを考えると、72位における置換による結果は予想外であった。
【0189】
一般的な状況では、IL−15は、細胞の生存を支持して、免疫応答を刺激するために、IL−15Rαによって、樹状細胞の表面上で、メモリーT細胞、NKT細胞、又はNK細胞上のIL−15Rβγc受容体に対してトランス提示される。アンタゴニストは、IL−15のトランス提示をIL−15Rαに結合することによって阻止しなければならない。アンタゴニスト融合タンパク質が、c264scTCR/huIL15wtと競合して、CTLL−2細胞の増殖を支持する活性を阻止できるか否かを評価するために、4×104個のCTLL−2細胞を、50nM(100倍モル過剰量)のさまざまなc264scTCR/huIL15変異体融合タンパク質の存在下又は不在下で、0.5nMのc264scTCR/huIL15wtとともに、CO2インキュベータ内で37℃にて24時間インキュベートした。マイクロタイタープレート・リーダーによって、440nmにおける吸光度を測定するために150μLの培養培地を回収する前に、細胞を10μLのWST−1細胞とともに4時間インキュベートした。図19Cに示されるように、c264scTCR/huIL15wtが、CTLL−2細胞の増殖を支持する能力は、100倍多いc264scTCR/huIL15D8N、c264scTCR/huIL15D8A、c264scTCR/huIL15D8A/Q108A、c264scTCR/huIL15Q108A、又はc264scTCR/huIL15D8N/N65Aが存在する場合には完全に阻止され、c264scTCR/huIL15N72R融合タンパク質が存在する場合には62%低下した。このことは、これらの融合タンパク質が、c264scTCR/IL15融合タンパク質に対するアンタゴニストであることを示唆している。このデータは、c264scTCR/huIL15変異体融合タンパク質が、これらのタンパク質がIL−15Rαには結合できるが、IL−15Rβγc受容体に対しては結合できないということから予想されたように、IL−15活性の機能的アンタゴニストであったことを示している。
【0190】
本明細書に記載された別のTCR/IL−15融合タンパク質及びIL−15変異体を用いて、IL−15のアンタゴニスト及びアゴニストの活性を明らかにするために同様の検討を行うことができる。表1にまとめられているように、IL−15の8位、61位、65位、72位、及び108位における置換は、IL−15のIL−15R(βγc鎖)に対する結合に影響を与える可能性を示している。IL−15の92位、101位、及び111位における別の置換も、IL−15R相互作用の可能な結合部位であると評価されるはずである。また、これらの残基の全て又はいくつかにおける置換を含む、変化を組み合わせると、IL−15の効果的なアンタゴニスト又はアゴニストを作り出すことができる。上記の分子を含む、評価されるIL−15変異体は、以下の変化を有するものを含有する:8位における、アラニン、アスパラギン、セリン、リジン、スレオニン、又はチロシンへの変化;61位における、アラニン、アスパラギン、セリン、リジン、スレオニン、又はチロシンへの変化;65位における、アラニン、アスパラギン酸、又はアルギニンへの変化;72位における、アラニン、アスパラギン酸、又はアルギニンへの変化;及び92位、101位、108位、又は111位における、アラニン又はセリンへの変化。
【実施例17】
【0191】
−TCR/IL15融合タンパク質及びTCR/IL15Rα融合タンパク質、並びに融合タンパク質複合体による細胞間結合及び免疫細胞再標的化
融合タンパク質又は融合タンパク質複合体が、IL−15受容体産生細胞とペプチド/MHC産生標的細胞とを架橋できることを証明するために、T2細胞に、p53(aa264−272)ペプチドか、対照のCMVpp65(aa495−503)ペプチドを負荷してから、ジヒドロエチジウムで標識化する。CTLL−2細胞をカルセインAMで標識化して、2つの標識細胞集団を混合して、融合タンパク質又は融合タンパク質複合体の存在下又は不在下でインキュベートする。融合タンパク質複合体が存在しないか、又はT2細胞に対照ペプチドを負荷したときには、フローサイトメトリーによって評価すると、細胞は2つの別々の集団のままであると予測される。しかし、T2細胞にp53(aa264−272)を負荷して、融合タンパク質又は複合体の存在下でCTLL−2細胞とともにインキュベートすると、細胞の二重染色集団の出現が、T2細胞がCTLL−2細胞に融合タンパク質又は融合タンパク質複合体を介して結合したことの指標となる。
【0192】
同様に、融合タンパク質複合体が、IL−15受容体産生免疫細胞とペプチド/MHC産生標的細胞とを架橋して、標的細胞に対する免疫細胞毒性を指向できることを証明するために検討することができる。例えば、p53(aa264−272)ペプチドか、対照のCMVpp65(aa495−503)ペプチドをT2細胞に負荷してからカルセインAMで標識化する。IL−15受容体を有する免疫エフェクター細胞(すなわち、活性化されたNK細胞又はT細胞)をさまざまな比率で混合して、融合タンパク質複合体の存在下又は不在下、適当な条件(すなわち、37℃にて2〜4時間)でインキュベートする。細胞毒性は、T2標的細胞から培養培地の中に放出されるカルセインに基づいて、標準的な方法によって評価することができる。カルセイン−AMの特異的放出を測定するか、又は非特異的対照である自然放出されたカルセイン−AMと比較する。融合タンパク質複合体が存在しないか、又はT2細胞に対照用ペプチドを負荷した場合には、標的細胞の細胞毒性が低レベルであると予測される。しかし、T2細胞にp53(aa264−272)を負荷して、融合タンパク質複合体の存在下で免疫エフェクター細胞とともにインキュベートしたときに、T2細胞の特異的溶出が起こるのは、免疫エフェクター細胞が、融合タンパク質複合体を介して、p53ペプチド提示細胞に対して再標的化されていることを示すものであると考えられる。p53(aa264−272)/HLA−A2.1複合体を標的細胞として提示する腫瘍細胞株を用いて、同様の検討を行うことができる。
【実施例18】
【0193】
−IL−15変異体アンタゴニスト、TCR/IL15融合タンパク質、及び融合タンパク質複合体の抗腫瘍作用のインビボにおける証明
融合タンパク質複合体又はIL−15変異体アンタゴニストが、インビボにおいて抗腫瘍活性を有するか否かを判定するために、実験用異種移植腫瘍モデルを用いることができる。A375黒色腫、MDA−MB−231乳腺癌、PANCl膵臓癌など、p53(aa264−272)/HLA−A2.1複合体を発現するヒト腫瘍細胞株が、別のTCRに基づく融合タンパク質を用いた同様の効能の検討で用いられてきた(5〜7)。例えば、A375ヒト黒色腫細胞をヌードマウスの側腹に皮下注射すると、腫瘍を3日間で確立できる。担癌マウスに、c264scTCR/huIL15+℃264scTCR/huIL15RαSushi複合体若しくはIL−15変異体アゴニスト(用量範囲:0.1〜2mg/kg)、又は用量と均等量のPBSを、4日間又はそれ以上毎日静脈内注射する。この検討の間、腫瘍サイズを測定し、腫瘍体積を計算する。PBSで処理されたすべてのマウスは、腫瘍を発生すると予測される。融合タンパク質複合体又はIL−15変異体アゴニストで処理されたマウスの一部又は全てで腫瘍増殖の抑制又は完全な腫瘍退縮が起これば、その処理の抗腫瘍効果を示すことになるであろう。マルチサイクル投与を含む、別の投与計画も、融合タンパク質又はIL−15変異体アゴニストの抗腫瘍効果を証明することができる。p53(aa264−272)/HLA−A2.1複合体を有しない腫瘍細胞株(HT−29又はAsPC−1(5,9))は、融合タンパク質複合体のc264scTCRドメインによる抗原特異的認識についての対照として使用できる。別のTCRドメイン(すなわち、CMVpp65(aa495−503)ペプチド(9)に特異的である)を含有する別の融合タンパク質複合体を非腫瘍標的対照として使用できる。
【0194】
また、異種移植腫瘍担持マウスで、養子細胞移入の検討を行う。例えば、未処理の又は活性化された(又はメモリー)脾細胞、NK細胞、又はT細胞など、IL−15受容体を産生する免疫細胞をマウスから単離し、その細胞に結合できる条件下で、c264scTCR/huIL15+c264scTCR/huIL15RαSushi複合体又はアンタゴニストであるIL−15変異体とともにインキュベートする。場合によっては、融合タンパク質複合体又はアンタゴニストIL−15変異体を用いて、免疫細胞を活性化することができる。そして、IL−15変異体が活性化された細胞、又は融合タンパク質複合体でコートされた細胞を、A375腫瘍を担持するヌードマウスに移入する。対照は、未処理の免疫細胞、融合タンパク質複合体単独、及びPBSの移入を含んでいる。腫瘍の増殖を観測して、PBSで処理した全てのマウスが腫瘍を発症することが予測される。IL−15変異体活性化細胞又は融合タンパク質複合体被覆細胞で処理された一部又は全てのマウスにおける腫瘍抑制又は完全な腫瘍腫瘍退縮が、この治療法に抗腫瘍効果があることを示すものとなるであろう。或いは、IL−15変異体又は融合タンパク質複合体、及び免疫細胞を同時に投与するか、又は同時に若しくは異なる時に分けて投与する。免疫細胞は、腫瘍産生宿主にとって自己由来であっても同種異系であってもよい。移入される細胞数及び投与計画は、抗腫瘍効果を評価し最適化するために変化するであろう。上記したように、観察された抗腫瘍活性における抗原標的化の役割を確認するために、別の腫瘍株又は融合タンパク質複合体を用いるであろう。
【実施例19】
【0195】
−TCR/IL15:TCR/IL−15Rα融合タンパク質複合体による免疫細胞のインビトロ処理と、その後の養子細胞移入は、異種移植腫瘍動物モデルにおける生存率の向上をもたらす
TCR/IL15:TCR/IL−15Rα融合タンパク質複合体と予めインキュベートした濃縮された同種異系マウスNK細胞の腫瘍増殖に対する抗腫瘍効果を明らかにするために、ヌードマウスの実験用転移モデルにおいてヒトNSCLC A549A2腫瘍細胞を用いて、以下の検討を行った。
【0196】
無胸腺ヌードマウス(グループ当たりn=4、メス、5〜6週齢)の尾静脈側部から、ヒトNSCLC腫瘍細胞株A549−A2を5×106細胞/マウスで静脈内(IV)注射した。A549−A2細胞株は、ヒトHLA−A2.1 cDNAを発現するベクターを担持するp53陽性A549親株の形質移入体に相当する。
【0197】
A2マウス(B6バックグランド)の脾臓を回収し、Miltenyi Biotech Inc.のNK細胞単離用キットを製造業者の指示に従って用いてNK細胞を単離した。要するに、HBSS中で金属製ふるい(60メッシュ)に通して、脾臓をホモジナイズして脾細胞の単一細胞懸濁液を調製した。赤血球をACK赤血球溶解緩衝液に溶解した。細胞を、ビオチン−抗体カクテル(107細胞あたり10μL)とともに4〜8℃にて10分間インキュベートする。白血球の数を測定し、107細胞当たり30μLの緩衝液(PBS、pH 7.2、0.5%BSA及び2mM EDTA)及び20μLの抗ビオチンマイクロビーズを加えて、混合液を4〜8℃にて15分間インキュベートした。細胞を2mLの緩衝液で洗浄し、300×gにて10分間遠心分離した。この細胞を500μLの緩衝液に再懸濁して、MACAカラムに負荷した。流入物を回収して、FACScan分析によってNK細胞の純度を測定した。
【0198】
細胞を活性化させるために、c264scTCR/IL15:c264scTCR/IL15Rα融合タンパク質複合体、TCR−IL2融合タンパク質、又はrhIL−2の存在下又は不在下、T25フラスコ中10mlの10%FBS添加RPMI1640の中でNK細胞(5×106)を37℃にて一晩培養した。c264scTCR/IL15:c264scTCR/IL15Rα融合タンパク質複合体及びTCR−IL2融合タンパク質は0.8μg/mLの濃度で加え、rhIL−2は、0.2μg/mLで加えた。一晩インキュベートした後、細胞を回収して、100μL中0.5mg/mLのc264scTCR/IL15:c264scTCR/IL15Rα融合タンパク質複合体もしくはTCR−IL2融合タンパク質、又は0.125mg/mLのrhIL−2とともに氷上にて30分間プレインキュベートした。PBS(1mL)で洗浄した後、養子細胞移入を行うために細胞をPBSに再懸濁して106/mLとした。
【0199】
一日目に、マウスにA549A2腫瘍細胞(5×106)を尾静脈から静脈内注射して肺腫瘍を確立した。腫瘍細胞を注射してから14日後にマウスを無作為化して、5つのグループ(n=4)に分けた。14日目と21日目に、200mg/kgの用量の腹腔内注射によって、マウスをシクロホスファミド(CTX)で治療した。16日目及び22日目に、予め異なった融合タンパク質又はrhIL−2でインキュベートしておいたNK細胞(5×106/マウス)を静脈内注射し、PBSを注射したマウスを対照として用いた。治療計画の概要は以下の通りである。
【0200】
【表1】
【0201】
腫瘍産生マウスの生存を毎日監視した。瀕死状態になったマウスは殺生して、死亡例に算入した。腫瘍注射後100日以上生存したマウスを治癒例とみなした。
【0202】
CTX処理群、CTX+NK/rhIL−2処理群、CTX+NK/MART1scTCR−IL2処理群、CTX+NK/c264scTCR−IL2処理群、及びc264scTCR/IL15:c264scTCR/IL15Rα融合タンパク質複合体処理群におけるマウスの生存期間の中央値は、それぞれ52日、67.5日、64.5日、85.5日、及び80日である(図20)。このように、c264scTCR/IL15:c264scTCR/IL15Rα活性化NK細胞の養子細胞移入によって、化学療法のみで、又は非標的化MARTscTCR−IL2若しくはrhIL−2で処理された腫瘍産生動物で観察されるよりも長い平均生存期間がもたらされた。このパイロット実験で得られた結果は、c264scTCR/IL15:c264scTCR/IL15Rαによって活性化及び標的化されたマウスNK細胞が、増強された抗腫瘍活性を提供できることを示している。
【実施例20】
【0203】
−延長された細胞表面の滞留時間から明らかな、TCR/IL15:TCR/IL−15Rα融合タンパク質複合体のIL−15R産生免疫細胞との結合の増強
融合タンパク質複合体がIL−15R産生細胞の細胞表面に滞留する時間は、エフェクター細胞をTCR特異的な腫瘍細胞に標的させるか、架橋する融合タンパク質の能力に影響を与える可能性がある。これを調べるために、IL−15RαβγC受容体産生CTLL−2細胞及びIL−15RβγC受容体産生CTL−2細胞32Dβ細胞に対するscTCR/IL−15融合タンパク質、TCR/IL15:TCR/IL15Rα融合タンパク質複合体、及び組換えIL−15の結合を、フローサイトメトリーによって直接比較する。さまざまなタンパク質とインキュベートした後、細胞を洗浄し、37℃にて最長180分間まで培地中でインキュベートしてから、細胞表面に残存しているタンパク質のレベルをPE標識化抗IL−15mAbで検出した。開始時間0における染色とその後の時間とを比較すれば、IL−15Rに対する各タンパク質の結合の細胞表面滞留時間を測定することができる。IL−15と比較してscTCR/IL−15融合タンパク質又はTCR/IL15:TCR/IL15Rα融合タンパク質複合体の細胞表面滞留時間が増加することが、より高くより安定した受容体結合活性を表すことになるであろう。
【実施例21】
【0204】
−マウスにおけるIL−15と比較した場合のTCR/IL−15融合タンパク質及びTCR/IL15:TCR/IL15Rα融合タンパク質複合体のインビボにおける半減期の増大
c264scTCR/IL−15、c264scTCR/IL15:c264scTCR/IL15Rα複合体、組換えIL−15、又は可溶性IL−15:IL−15Ra複合体の薬物動態パラメータを、HLA−A2.1/Kbトランスジェニックマウス系統で評価する。c264scTCR/IL−2が限定されているHLA−A2.1ドメインの存在は、この融合タンパク質の薬物動態に影響を与える可能性があり、他のマウス系統よりも薬物動態の「ヒト化」的側面により高い関連性をもたらすはずである。等モル量のc264scTCR/IL15、c264scTCR/IL15:c264scTCR/IL15Rα複合体、組換えIL−15、又は可溶性IL−15:IL−15Ra複合体をマウスに静脈内注射して、注射後5分後〜2週間後までさまざまな時点で血液を採集する。上記されるELISA法を用いて融合タンパク質の血清中濃度を評価する。標準的なIL−15特異的ELISAによってIL−15の濃度を検出した。
【0205】
曲線適合ソフトウェア(例えば、WinNonlin)を用いて、c264scTCR/IL−15、c264scTCR/IL15:c264scTCR/IL15Rα複合体、組換えIL−15、又は可溶性IL−15:IL−15Ra複合体のインビボにおける薬物動態パラメータを測定する。組換えIL−15又は可溶性IL−15:IL−15Ra複合体と比較したときに、c264scTCR/IL−15、又はc264scTCR/IL15:c264scTCR/IL15Rα複合体についての、Cmax値の上昇、血清中半減期の延長、又はクリアランスの低下は、TCR−IL−15融合体又はTCR/IL15:TCR/IL15Ra複合体の生成によって、IL−15単独で観察されるより好適な薬理動態がもたらされたことを示唆している。
【実施例22】
【0206】
−IL−15変異体アンタゴニスト、TCR/IL−15融合タンパク質、及び融合タンパク質複合体の免疫抑制効果のインビボにおける立証
融合タンパク質複合体又はIL−15変異体アンタゴニストが、インビボにおいて免疫抑制活性を有するか否かを判定するために、自己免疫性関節炎実験モデルを用いる。HLA−DR4トランスジェニックマウスにおいて、II型コラーゲン(CII)を投与した後に自己免疫性関節炎が誘導されるということが明らかにされている(Rosloniec et al. 1998、 J Immunol. 160:2573-8)。また、この病気の病理に関係するCII特異的T細胞の特徴も調べられている。これらのT細胞に由来するTCR遺伝子を用いて、適当な発現ベクターと宿主細胞株を構築して、上記実施例に記載されるように、IL−15変異体アンタゴニストを含有するCIIscTCR/IL15と、CIIscTCR/IL15RαSushi融合タンパク質を作製する。CIIを投与して関節炎を誘導した後、HLA−DR4トランスジェニックマウスにCIIscTCR/IL15アンタゴニスト+CIIscTCR/IL15RαSushi複合体、又はIL−15変異体アンタゴニスト(用量範囲:0.1〜2mg/kg)、あるいは用量と均等量のPBSを、4日間又はそれ以上毎日静脈内注射する。この検討の間、マウスの足の関節を調べて、炎症の程度を0〜4の尺度で採点する。PBSで処理した全てのマウスが関節炎を発症すると期待される。融合タンパク質複合体又はIL−15変異体によって処理されたマウスの一部又は全てで、関節炎が抑制されれば(例えば、発症率又は臨床スコアが低下すれば)、その治療法に免疫抑制効果があることが示唆される。マルチサイクル投与を含む、別の投与計画によっても、融合タンパク質又はIL−15変異体の免疫抑制効果を立証できる。別の(すなわち、p53ペプチドに特異的な)TCRドメインを含有する別の融合タンパク質複合体も、非疾患標的化対照として用いることができて、標的化TCR融合タンパク質の、疾患部位に対する免疫抑制活性を指向する特異的能力を立証できるであろう。
【0207】
(参考文献の援用)
本出願を通して引用されている全ての参考文献、特許、係属中の特許出願、及び公開特許の内容は、参照により明確に本明細書に組み込まれている。
【0208】
(均等物)
当業者は、本明細書に記載されている発明の特定の態様に対する多くの均等物を認識し、又は通常の実験のみによって確認することができるであろう。そのような均等物は、添付の特許請求の範囲に包含されるものである。
【0209】
(参照文献)
1. Mortier, E., A. Quemener, P. Vusio, I. Lorenzen, Y. Boublik, J. Grotzinger, A. Plet, and Y. Jacques. 2006. Soluble interleukin-15 receptor alpha (IL-15R alpha)-sushi as a selective and potent agonist of IL-15 action through IL-15R beta/gamma. Hyperagonist IL-15 x IL-15R alpha fusion proteins. J Biol Chem 281: 1612-1619.
2. Stoklasek, T. A., K. S. Schluns, and L. Lefrancois. 2006. Combined IL-15/IL-15Ralpha immunotherapy maximizes IL-15 activity in vivo. J Immunol 177: 6072-6080.
3. Rubinstein, M. P., M. Kovar, J. F. Purton, J. H. Cho, O. Boyman, C. D. Surh, and J. Sprent. 2006. Converting IL-15 to a superagonist by binding to soluble IL-15R{alpha}. Proc Natl Acad Sci U S A 103: 9166-9171.
4. Waldmann, T. A. 2006. The biology of interleukin-2 and interleukin-15: implications for cancer therapy and vaccine design. Nat Rev Immunol 6: 595-601.
5. Belmont, H. J., S. Price-Schiavi, B. Liu, K. F. Card, H. I. Lee, K. P. Han, J. Wen, S. Tang, X. Zhu, J. Merrill, P. A. Chavillaz, J. L. Wong, P. R. Rhode, and H. C. Wong. 2006. Potent antitumor activity of a tumor-specific soluble TCR/IL-2 fusion protein. Clin Immunol 121: 29-39.
6. Card, K. F., S. A. Price-Schiavi, B. Liu, E. Thomson, E. Nieves, H. Belmont, J. Builes, J. A. Jiao, J. Hernandez, J. Weidanz, L. Sherman, J. L. Francis, A. Amirkhosravi, and H. C. Wong. 2004. A soluble single-chain T-cell receptor IL-2 fusion protein retains MHC-restricted peptide specificity and IL-2 bioactivity. Cancer Immunol Immunother 53: 345-357.
7. Mosquera, L. A., K. F. Card, S. A. Price-Schiavi, H. J. Belmont, B. Liu, J. Builes, X. Zhu, P. A. Chavaillaz, H. I. Lee, J. A. Jiao, J. L. Francis, A. Amirkhosravi, R. L. Wong, and H. C. Wong. 2005. In Vitro and In Vivo Characterization of a Novel Antibody-Like Single-Chain TCR Human IgG1 Fusion Protein. J Immunol 174: 4381-4388.
8. Penichet, M. L., E. T. Harvill, and S. L. Morrison. 1997. Antibody-IL-2 fusion proteins: a novel strategy for immune protection. Hum Antibodies 8: 106-118.
9. Zhu, X., H. J. Belmont, S. Price-Schiavi, B. Liu, H. I. Lee, M. Fernandez, R. L. Wong, J. Builes, P. R. Rhode, and H. C. Wong. 2006. Visualization of p53264-272/HLA-A*0201 Complexes Naturally Presented on Tumor Cell Surface by a Multimeric Soluble Single-Chain T Cell Receptor. J Immunol 176: 3223-3232.
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
本出願は、2007年5月11日に出願された米国仮出願第60/928,900号の優先権を主張するものであり、その全内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
(政府による支援)
1.1 本出願に対する研究支援は、保健社会福祉省(the Department of Health and Human Services)長官によって代表されるアメリカ合衆国によって行われた。
【背景技術】
【0003】
T細胞受容体(TCR)は、治療薬を開発するための基盤として独自の利点を有する、免疫系の主要エフェクターである。抗体治療薬は、血液中及び細胞外空間における病原体、又は細胞表面上にあるタンパク質標的を認識することに限定されるのに対し、T細胞受容体は、細胞表面上にあるMHC分子によって提示される抗原(細胞内タンパク質に由来する抗原を含有する)を認識することができる。提示された抗原を認識して活性化するT細胞のサブタイプに応じて、T細胞受容体及びT細胞受容体を有するT細胞が、さまざまな免疫応答を調節するのに関与することができる。例えば、T細胞は、B細胞が抗体産生細胞へと分化するのを誘導することによって、液性免疫応答の制御に関与する。また、活性化されたT細胞は、細胞媒介型免疫応答を開始させるよう作用する。このように、T細胞受容体は、抗体では利用することができない別の標的を認識することができる。
【0004】
T細胞は、他の型の免疫細胞(多形核細胞、好酸球、好塩基球、マスト細胞、B細胞、NK細胞)と共に免疫系の細胞成分を構成する細胞のサブグループである。生理的条件下において、T細胞は、免疫監視機能及び外来抗原を排除する機能を有する。しかし、病理的条件下では、T細胞が疾患の原因及び伝達に大きな役割を果たしているという有力な証拠がある。これらの疾患では、中枢又は末梢におけるT細胞免疫寛容破綻が、自己免疫疾患をもたらす基本的な過程である。
【0005】
TCRは、免疫系の発達及び機能において重要な役割を果たすと考えられている。例えば、TCRは、細胞死滅を介して、B細胞の増殖を高め、さらに、癌、アレルギー、ウイルス感染症、及び自己免疫疾患を含有するさまざまな疾患の発症及び重篤度に影響を与えることが報告されている。
【0006】
そのため、T細胞受容体に基づいた新規の標的薬剤、及びそのような薬剤を治療用及び診断用に製造及び使用する方法を提供することが望ましいであろう。したがって、抗体標的に基づいた従来技術による複合体と比較してある特定の利点を有すると思われる分子を提供することが特に望ましいであろう。
【0007】
さらには、TCRを用いて、さまざまなエフェクター分子を疾患部位に対して標的にして、そこでそれらが、標的としていない活性系に関連した副作用なしで、治療上の恩恵を提供できるようにすることが望ましい。そのようなものの一つが、リンホカインの4つのα−ヘリックスバンドル(helix bundle)ファミリーの一員であるIL−15である。IL−15は、免疫系の発達及び制御において多面的な役割を果たしている。すなわち、IL−15は、CD8+T細胞、NK細胞、キラーT細胞、B細胞、腸管上皮内リンパ球(IEL)、及び抗原提示細胞(APC)の機能、発達、生存、及び増殖に影響を与える。IL−15−/−トランスジェニックマウス及びIL−15Ra−/−トランスジェニックマウスの両方が、末梢NK及びキラーT細胞集団、ある特定のIELサブセット、及びほとんどのメモリー表現型CD8+T細胞を有していないことが明らかにされており、IL−15がこれらの細胞型の発達、増殖又は/及び生存に関与することを示唆している。IL−15受容体(R)は、型特異的なIL-15Rα鎖(「IL−15Rα」又は「IL−15Ra」)、IL-2/IL-15Rβ鎖(「IL−2Rβ」又は「IL−15Rb」)、及び共通γ鎖(多数のサイトカイン受容体に共有されている「γC」又は「gC」)という3つのポリペプチドから構成される。
【0008】
IL−15のシグナル伝達は、IL−15Rα、IL−2Rβ及びγCのヘテロ三量体複合体を介して、IL−2Rβ及びγCのヘテロ二量体複合体を介して生じ得る。新規なIL−15作用の機構は、IL−15及びIL−15Rαが抗原提示細胞(単核球及び樹状細胞)によって協調的に発現され、IL−15Rαに結合したIL−15が、IL−15RβγC受容体のみを発現している、隣接したNKT細胞又はCD8T細胞にトランスで提示されるというトランス提示(transpresentation)の機構である。免疫学的シナプスで起きる共刺激的(co-stimulatory)事象として、現在IL−15のトランス提示が、インビボにおけるIL−15作用の主要機構であり、腫瘍免疫監視において主要な役割を果たしていると見られている(Waldmann,TA,2006,Nature Rev.Immunol.6:595-601)。エキソン3の欠失及びN末端にいわゆる「スシ(sushi)」ドメインを含有するアイソフォームを誘導する可溶性IL−2Rαサブユニットが、サイトカイン結合に関与する構造要素のほとんどを有していることが明らかになっている。IL−2Rα単独では、IL−2に対する低親和性受容体である(Kd_10nM)であるが、IL−15Rαは、高い親和性(Kd_100pM)でIL−15に結合する。従って、可溶性のIL−2RαとIL−15は、溶液中で安定したヘテロ二量体複合体を形成することができ、これらの複合体は、中程度又は高い親和性(アフィニティー)を有するIL−15R複合体を介して、免疫応答を制御する(すなわち、刺激する又は阻害する)ことができる(Mortier etal. 2006. J Biol Chem 281:1612-1619; Stoklasek et al. 2006、J Immunol 177:6072-6080; Rubinstein etal. 2006. Proc Natl Acad Sci USA 103:9166-9171)。
【0009】
免疫系に対するIL−15の既知の効果を踏まえて、宿主にとって有用になるよう免疫系を操作するために、IL−15を利用する多くの方法が研究されてきた。IL−15の投与は、免疫応答を強化するか、免疫系再構築を増強するために用いられてきたが、IL−15活性の阻害によって、自己免疫及びその他の望ましくない免疫応答を抑制することができる(Waldmann, TA, 2006, Nature Rev. Immunol. 6:595-601)。実際には、全身的なIL−15治療に伴う制限の一つは、自己免疫疾患を誘発する可能性があることである。別の制限には、この細胞を標準的な哺乳動物細胞発現系で産生させるのが困難なこと、及びインビボにおける半減期が非常に短いことなどが含まれる。したがって、より長いインビボ半減期、免疫細胞に結合する活性の増加、又は生物活性促進を示す、IL−15の好適な免疫活性化療法の形態を作出する必要がある。さらに、有効なIL−15アンタゴニストも必要である。理想的には、そのような分子は、選択的に疾患部位を標的にして不要な全身毒性を避けることができ、より効果の高い治療有用性を提供できることが望ましいと考えられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、治療的用途を有する、多くのIL−15変異体及び可溶性融合複合体、並びにそのようなタンパク質を作製する方法を提供する。本発明は、本発明に係る可溶性融合複合体を用いて、標的細胞を死滅させる方法を提供する。本明細書に記載されているIL−15変異体及び可溶性複合体は、潜在的な治療有用性を有する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
したがって、一つの態様において、本発明は、少なくとも2つの可溶性融合タンパク質を含有する可溶性融合タンパク質複合体であって、第一の融合タンパク質が、インターロイキン15(IL−15)又はその機能的断片に共有結合している第一の生物活性ポリペプチドを含み、かつ、第二の融合タンパク質が、可溶性インターロイキン15受容体α鎖(IL−15Ra)ポリペプチド又はその機能的断片に共有結合している第二の生物活性ポリペプチドを含み、第一の融合タンパク質のIL−15ドメインが、第二の融合タンパク質の可溶性IL−15Raドメインに結合して可溶性の融合タンパク質複合体を形成する、可溶性融合タンパク質複合体を提供する。
【0012】
一つの態様では、第一及び第二の生物活性ポリペプチドの一つが、第一の可溶性T細胞受容体(TCR)、又はその機能的断片を含有する。別の態様では、これらの生物活性ポリペプチドの別の一つが、第一の可溶性TCR又はその機能的断片を含み、それによって、結合活性が増加した多価性のTCR融合タンパク質複合体を創出する。さらに別の態様では、もう一方の生物活性ポリペプチドが、第一の可溶性TCRとは異なる第二の可溶性TCR又はその機能的断片を含有する。
【0013】
本態様の別の実施態様では、このTCRは、特定の抗原を認識するのに特異的である。
【0014】
本態様のさらなる実施態様では、このTCRは、TCRのa鎖及びb鎖を含有するヘテロ二量体である。
【0015】
本態様のさらに別の実施態様では、このTCRは、単鎖TCRポリペプチドを含有する。さらなる態様では、この単鎖TCRは、ペプチドリンカー配列によってTCRのV−β鎖に共有結合したTCR Vα鎖を含有する。別のさらなる態様では、この単鎖TCRは、さらに、TCRのV−β鎖に共有結合した可溶性TCR Cβ鎖断片を含有する。
【0016】
別の態様では、この単鎖TCRは、TCR Vα鎖に共有結合した可溶性TCR Cα鎖断片をさらに含有する。
【0017】
さらなる態様では、第一及び第二の生物活性ポリペプチドの一方又は両方は、抗体又はその機能的断片を含有する。
【0018】
さらに別の態様では、抗体は、特定の抗原の認識について特異的である。さらなる態様では、抗体は、単鎖抗体又は単鎖Fvである。別の特定の態様では、単鎖抗体は、ポリペプチドリンカー配列によって、免疫グロブリンの重鎖可変領域に共有結合した免疫グロブリン軽鎖可変ドメインを含有する。
【0019】
上記態様の一つの実施態様では、第一の生物活性ポリペプチドは、ポリペプチドリンカー配列によって、IL−15(又はその機能的断片)に共有結合している。
【0020】
上記態様の別の実施態様では、第二の生物活性ポリペプチドは、ポリペプチドリンカー配列によって、IL−15Raポリペプチド(又はその機能的断片)に共有結合している。
【0021】
別の態様では、TCRドメインに対する抗原は、MHC分子又はHLA分子に存在するペプチド抗原を含有する。さらなる態様では、ペプチド抗原は、腫瘍関連ポリペプチド又はウイルスにコードされているポリペプチドに由来する。
【0022】
別の態様では、抗体ドメインに対する抗原は、細胞表面の受容体又はリガンドを含有する。
【0023】
さらなる態様では、抗原は、CD抗原、サイトカインもしくはケモカインの受容体若しくはリガンド、増殖因子の受容体若しくはリガンド、組織因子、細胞接着分子、MHC/MHC様分子、FC受容体、Toll様受容体、NK受容体、TCR、BCR、陽性/陰性の共刺激受容体もしくは共刺激リガンド、細胞死受容体もしくは細胞死リガンド、腫瘍関連抗原、又はウイルスにコードされている抗原を含有する。
【0024】
上記態様の別の実施態様では、IL−15Raポリペプチドは、IL−15と結合することができる、IL−15受容体アルファ(α鎖)の細胞外ドメインを含有する。
【0025】
上記態様の別の実施態様では、IL−15Raポリペプチドは、IL−15aのスシドメイン(Wei et al. Journal of Immunology, 2001, 167:277-282)又はIL−15aΔE3ドメイン(Anderson et al. 1995, J. Biol. Chem. 270:29862-29869; Dubois et al. 1999, J. Biol. Chem. 274:26978-26984)を含む。
【0026】
別の態様において、本発明は、天然型の(又は、野生型)IL−15タンパク質とは異なるアミノ酸配列を有し、IL−15Raポリペプチドに結合してIL−15のアゴニスト又はアンタゴニストとして機能するIL−15変異体(IL−15突然変異体とも呼ばれる)を提供する。本発明の態様では、IL−15変異体は、非融合タンパク質として、又は上記の生物活性ポリペプチドを含有する可溶性融合タンパク質として提供され、該IL−15変異体が、IL−15ドメインの代わりに使用される。
【0027】
上記態様の一つの実施態様では、本発明は、本明細書に記載されている態様又は実施態様のいずれかに記載された第一の融合タンパク質をコードする核酸配列を特徴とする。
【0028】
上記態様の一つの実施態様では、本発明は、本明細書に記載されている態様又は実施態様のいずれかに記載された第二の融合タンパク質をコードする核酸配列を特徴とする。
【0029】
上記態様の一つの実施態様では、本発明は、本明細書に記載されている態様又は実施態様のいずれかに記載されたIL−15変異体をコードする核酸配列を特徴とする。
【0030】
一つの態様では、核酸配列は、さらに、融合タンパク質又はIL−15変異体をコードする配列に機能可能に結合されたプロモーター、翻訳開始シグナル、及びリーダー配列を含有する。別の態様では、上記の核酸配列の何れかがDNAベクターに包含されている。
【0031】
別の態様において、本発明は、上記態様に係る可溶性融合タンパク質複合体を作製する方法を特徴としていて、方法は::上記の態様及び実施形態に記載された、第一の融合タンパク質をコードするDNAベクターを第一の宿主細胞に導入すること、細胞又は培地の中で第一の融合タンパク質を発現させるのに十分な条件下で、培地において第一の宿主細胞を培養すること、第一の融合タンパク質を宿主細胞又は培地から精製すること、第二の融合タンパク質をコードする、上記の態様及び実施形態に係るDNAベクターを、第二の宿主細胞の中に導入すること、細胞又は培地の中で第二の融合タンパク質を発現させるのに十分な条件下で、培地において第二の宿主細胞を培養すること、及び第二の融合タンパク質を宿主細胞又は培地から精製すること、及び、第一の融合タンパク質のIL−15ドメインと、第二の融合タンパク質の可溶性IL−15Raドメインとを結合させて可溶性融合タンパク質複合体を形成させるのに十分な条件下で、第一の融合タンパク質と第二の融合タンパク質を混合することを含有する。
【0032】
別の態様において、本発明は、上記態様に係る可溶性融合タンパク質複合体を作製する方法を特徴としていて、方法は:上記の態様及び実施形態に記載された、第一の融合タンパク質をコードするDNAベクターと、上記の態様及び実施形態に記載されたような、第二の融合タンパク質をコードするDNAベクターとを宿主細胞に導入すること、細胞又は培地の中で融合タンパク質を発現させ、かつ、第一の融合タンパク質のIL−15ドメインと第二の融合タンパク質の可溶性IL−15Raドメインとを会合させて可溶性融合タンパク質複合体を形成させるのに十分な条件下で、培地において宿主細胞を培養すること、及び、宿主細胞又は培地から可溶性融合タンパク質複合体を精製することを含有する。
【0033】
さらに別の態様において、本発明は、上記態様に係る可溶性融合タンパク質複合体を作製する方法を特徴としていて、方法は:第一及び第二の融合タンパク質をコードする、請求項28に記載のDNAベクターを宿主細胞に導入すること、細胞又は培地の中で融合タンパク質を発現させ、かつ、第一の融合タンパク質のIL−15ドメインと第二の融合タンパク質の可溶性IL−15Raドメインとを会合させて可溶性融合タンパク質複合体を形成させるのに十分な条件下で、培地において宿主細胞を培養すること、宿主細胞又は培地から可溶性融合タンパク質複合体を精製することを含有する。
【0034】
上記方法のさらに別の態様において、IL−15変異体をコードするDNAベクターを、第一の融合タンパク質をコードするDNAベクターの代わりに用いて、該IL−15変異体を発現することができる宿主細胞を作出し、該IL−15変異体を、第二の融合タンパク質のIL−15Raドメインに会合させて、可溶性融合タンパク質複合体を形成させる。
【0035】
別の態様において、本発明は、上記態様に係るIL−15変異体を作製する方法を特徴としていて、方法は:上記の態様及び実施形態に記載された、IL−15変異体をコードするDNAベクターを宿主細胞に導入すること、細胞又は培地の中でIL−15変異体を発現させるのに十分な条件下で、培地において宿主細胞を培養すること、宿主細胞又は培地からIL−15変異体を精製することを含有する。
【0036】
別の態様において、本発明は、標的細胞を死滅させる方法を特徴としていて、方法は:上記態様のIL−15ドメインによって認識されるIL−15R鎖を有する免疫細胞、及び上記態様の生物活性ポリペプチドの少なくとも一つによって認識される抗原を有する標的細胞をさらに含有する複数の細胞を、上記の態様又は実施形態のいずれかに係る可溶性融合タンパク質複合体又はIL−15変異体に接触させること、標的細胞上の抗原と免疫細胞上のIL−15R鎖との間に、免疫細胞に結合して活性化させるのに十分な特異的結合複合体(ブリッジ)を形成させること、及び結合した活性化免疫細胞によって標的細胞を死滅させることを含有する。
【0037】
本方法の一つの態様では、標的細胞は、腫瘍細胞又はウイルス感染細胞である。
【0038】
本方法の別の態様では、生物活性ポリペプチドはTCRを含有する。
【0039】
本方法のさらに別の態様では、標的細胞上の抗原は、MHC分子又はHLA分子の中に提示され、TCRによって認識される腫瘍ペプチド抗原又はウイルスにコードされているペプチド抗原を含有する。
【0040】
本方法のさらなる態様では、免疫細胞は、T細胞、LAK細胞、又はNK細胞である。
【0041】
別の態様において、本発明は、疾患細胞が疾患関連抗原を発現する患者における疾患を予防又は治療する方法を特徴としていて、方法は:疾患関連抗原を認識する生物活性ポリペプチドを含有する、上記の態様及び実施形態のいずれかに記載された可溶性融合タンパク質複合体又はIL−15変異体を患者に投与すること、抗原を発現する疾患細胞と、IL−15Rを発現する免疫細胞との間に特異的結合複合体(ブリッジ)を形成させて、免疫細胞を局在化させること、及び疾患細胞を損傷又は死滅させて、患者における疾患を予防又は治療することを含有する。
【0042】
別の態様において、本発明は、疾患細胞が疾患関連抗原を発現する患者における疾患を予防又は治療する方法を特徴としていて、方法は:IL−15R鎖を有する免疫細胞を、疾患関連抗原を認識する生物活性ポリペプチドを含有する、請求項1から22に記載の可溶性融合タンパク質複合体と混合すること、この免疫細胞−融合タンパク質複合体混合物を患者に投与すること、抗原を発現する疾患細胞と、IL−15Rを発現する免疫細胞との間に特異的結合複合体(ブリッジ)を形成させて、免疫細胞を局在化させること、及び疾患細胞を損傷又は死滅させて、患者における疾患を予防又は治療することを含有する。
【0043】
別の態様において、本発明は、患者の細胞が疾患関連抗原を発現する患者における疾患を予防又は治療する方法を特徴としていて、方法は:患者の細胞上にある疾患関連抗原を認識する生物活性ポリペプチドを含有する、上記の態様又は実施形態のいずれかに記載された可溶性融合タンパク質複合体又はIL−15変異体を患者に投与すること、可溶性融合タンパク質複合体又はIL−15変異体のIL−15ドメインが、IL−15R鎖を有する免疫細胞に結合する可溶性融合タンパク質複合体又はIL−15変異体を、患者の細胞上に局在化させること、及び該免疫細胞の免疫応答を抑制することを含有する。
【0044】
本方法の一つの態様では、疾患は、癌又はウイルス感染症である。
【0045】
本方法の別の態様では、疾患は、免疫疾患、自己免疫疾患、又は炎症性疾患である。
【0046】
本方法の別の態様では、疾患関連抗原は、ペプチド/MHC複合体である。
【0047】
別の態様では、本発明は、上記の態様及び実施形態のいずれかに記載された可溶性融合タンパク質複合体又はIL−15変異体の有効量を哺乳動物に投与することを含有している、哺乳動物における免疫応答を刺激する方法を特徴とする。
別の態様では、本発明は、上記の態様及び実施形態のいずれかに記載された可溶性融合タンパク質複合体又はIL−15変異体の有効量を哺乳動物に投与することを含有している、哺乳動物における免疫応答を刺激する方法を特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1A】図1A及びBは概略図である。図1Aは、単鎖TCRポリペプチドを含有する融合タンパク質複合体の一例を描いた概略図である。
【図1B】図1Bは、融合タンパク質複合体を含有する代表的な融合タンパク質の構成を描いた概略図である。
【図2A】図2A〜Cは、3つの分図からなる。図2Aは、pNEF38−c264scTCR/huIL15発現ベクターのマップを示す。
【図2B】図2Bは、c264scTCR/huIL15融合遺伝子の配列を示す。
【図2C】図2Cは、c264scTCR/huIL15融合タンパク質の、リーdダー配列を含有する配列を示す。
【図3A】図3A〜Cは、3つの分図からなる。図3Aは、pNEF38−c264scTCR−hinge−huIL15発現ベクターのマップを示す。
【図3B】図3Bは、c264scTCR−hinge−huIL15融合遺伝子の配列を示す。
【図3C】図3Cは、c264scTCR−hinge−huIL15融合タンパク質の、リーダー配列を含有する配列を示す。
【図4A】図4A〜Cは、3つの分図からなる。図4Aは、pNEF38−c264scTCR/huIL15RaDE3発現ベクターのマップを示す。
【図4B】図4Bは、c264scTCR/huIL15RαΔE3融合遺伝子の配列を示す。
【図4C】図4Cは、c264scTCR/huIL15RαΔE3融合タンパク質の、リーダー配列を含有する配列を示す。
【図5A】図5A〜Cは、3つの分図からなる。図5Aは、pNEF38−c264scTCR/huIL15RaSushi発現ベクターのマップを示す。
【図5B】図5Bは、c264scTCR/huIL15RαSushi融合遺伝子の配列を示す。ま
【図5C】図5Cは、c264scTCR/huIL15RαSushi融合タンパク質の、リーダー配列を含有する配列を示す。
【図6A】図6A〜Cは、3つの分図からなる。図6Aは、pNEF38−c264scTCR−hinge−huIL15RaSushi発現ベクターを示す。
【図6B】図6Bは、c264scTCR−hinge−huIL15RαSushi融合遺伝子の配列を示す。
【図6C】図6Cは、c264scTCR−hinge−huIL15RαSushi融合タンパク質の、リーダー配列を含有する配列を示す。
【図7】pSun−c264scTCRIL15/c264scTCRIL15RaSush発現ベクターのマップである。
【図8】pSun−c264scTCRIL15/c264scTCRIL15RaDE3発現ベクターのマップである。
【図9】図9A及びBは、TCR/IL15Rα融合タンパク質を発現する形質転換細胞の特徴を示す図である。図9Aは、融合タンパク質発現細胞のフローサイトメトリー分析の結果を示す2つのグラフである。図9Bは、融合タンパク質産生についてのTCRを用いたELISAの結果を示すグラフである。
【図10】図10A及びBは、還元SDS−PAGEによるTCR/IL15融合タンパク質及びTCR/IL15Rα融合タンパク質の分析を示す図である。図10Aは、c264scTCR/huIL15又はc264scTCR/huIL15RaSushiを含有する細胞培養上清を示す。図10Bは、c264scTCR/huIL15又はc264scTCR/huIL15RαΔE3を含有する細胞培養上清を示す。
【図11】図11A〜Cは、サイズ排除クロマトグラフィーによる、TCR/IL15、TCR/IL15Ra、及び融合タンパク質複合体の分析を示す図である。図11Aは、c264scTCR/huIL15のSECのSECクロマトグラフィープロファイルを示すグラフである。図11Bは、c264scTCR/huIL15RαSushiのSECクロマトグラフィープロファイルを示すグラフである。図11Cは、c264scTCR/huIL15+c264scTCR/huIL15RαSushi融合タンパク質複合体のSECクロマトグラフィープロファイルを示すグラフである。
【図12】図12A及びBは、サイズ排除クロマトグラフィーによる、TCR/IL15Rα及び融合タンパク質複合体の分析である。図12Aは、c264scTCR/huIL15RαΔE3のSECクロマトグラフィープロファイルを示すグラフである。図12Bは、c264scTCR/huIL15+c264scTCR/huIL15RαΔE3融合タンパク質複合体のSECクロマトグラフィープロファイルを示すグラフである。
【図13】図13は、フローサイトメトリーで測定して、TCR/IL15、TCR/IL15Rα、及び融合タンパク質複合体が、細胞上に提示されたペプチド/MHC複合体に結合することを示すグラフである。
【図14AB】図14A〜Dは、4つの分図からなる。図14Aは、成熟ヒトIL−15タンパク質の配列(配列番号:1)を示し、青色の下線が施された残基は、表1に示すIL−15変異体で置換されている。図14Bは、pNEF38−c264scTCR−hinge−huIL15D8A発現ベクター及びpNEF38−c264scTCR−hinge−huIL15D8N発現ベクターを示す。
【図14C−1】図14Cは、pNEF38−c264scTCR−hinge−huIL15D8A遺伝子及びpNEF38−c264scTCR−hinge−huIL15D8N遺伝子の配列を示す。
【図14C−2】図14Cは、pNEF38−c264scTCR−hinge−huIL15D8A遺伝子及びpNEF38−c264scTCR−hinge−huIL15D8N遺伝子の配列を示す。
【図14D−1】図14Dは、pNEF38−c264scTCR−hinge−huIL15D8A融合タンパク質及びpNEF38−c264scTCR−hinge−huIL15D8N融合タンパク質の、リーダー配列を含有する配列を示す。青色の下線が施されたヌクレオチドを変更して、表示されているIL−15変異体を作出した。
【図14D−2】図14Dは、pNEF38−c264scTCR−hinge−huIL15D8A融合タンパク質及びpNEF38−c264scTCR−hinge−huIL15D8N融合タンパク質の、リーダー配列を含有する配列を示す。青色の下線が施されたヌクレオチドを変更して、表示されているIL−15変異体を作出した。
【図15】図15は、IL−15R産生CTLL2細胞を、融合タンパク質及び複合体で染色した後、TCR特異的ペプチド/MHC試薬で染色したもののフローサイトメトリー分析の結果を示すグラフである。
【図16】図16は、細胞増殖アッセイ法によって測定すると、融合タンパク質及び融合タンパク質複合体が、IL15R産生細胞の増殖を支持していることを示すグラフである。
【図17AB】図17A〜Cは、フローサイトメトリーで測定して、TCR/IL15RαSushi、及びTCR/IL15の二量体の融合タンパク質複合体で、天然型及び変異型のIL−15を含有するものが、ペプチドを負荷された細胞上に提示された同起源のペプチド/MHC複合体に結合することを示すグラフである。ペプチド負荷のない細胞上における二量体融合タンパク質複合体のバックグランド結合も示されている。図17Aは、TCR/IL15RαSushiと、TCR/IL15wt(天然型)又はTCR/IL15D8N変異体又はTCR/IL15D8A変異体の二量体複合体が、細胞上に提示された同起源のペプチド/MHC複合体に結合することを示すグラフである。図17Bは、TCR/IL15RαSushiとTCR/IL15wt(天然型)の二量体複合体が、ペプチド負荷のない細胞に僅かにバックグランド結合することを示すグラフである。TCR/IL15RαSushiとTCR/IL15D8N変異体又はTCR/IL15D8A変異体との二量体複合体による、ペプチド負荷のない細胞へのバックグランド結合は見られなかった。
【図17C】図17Cは、TCR/IL15RαSushi及びTCR/IL15wt(天然型)、又はTCR/IL15N72D変異体、TCR/IL15D8N変異体、又はTCR/IL15D8A変異体の二量体複合体によって染色された、IL−15RβγC産生32Dβ細胞のフローサイトメトリー分析の結果を示すグラフである。TCR/IL15N72Dを含有する複合体のIL−15RβγCへの結合が増加し、TCR/IL15D8N又はTCR/IL15D8Aを含有する複合体のIL−15RβγCへの結合が低下することが観察された。
【図18】図18A及びBは、ELISAによって測定された、同起源のペプチド/MHC複合体及びIL15Rαに対する、野生型TCR/IL15融合タンパク質、アンタゴニストTCR/IL15融合タンパク質、及びアゴニストTCR/IL15融合タンパク質の結合活性を示すグラフである。図18Aは、同起源のペプチド/MHC複合体に対する融合タンパク質の結合活性を示す分析結果である。図18Bは、IL15Rαに対する融合タンパク質の結合活性を示す分析結果である。
【図19AB】図19A〜Cは、細胞増殖アッセイ法によって測定すると、IL−15変異体を含有するTCR/IL−15融合タンパク質が、IL15R産生細胞の増殖を抑制又は促進できることを示すグラフである。図19Aは、高親和性IL15R(αβγ受容体複合体)を産生するCTLL−2細胞の増殖を阻害する、IL−15変異体を含有する融合タンパク質の活性を示すグラフである。図19Bは、低親和性IL15R(βγ受容体複合体)を産生する32Dβ細胞の増殖を阻害又は促進する、IL−15変異体を含有する融合タンパク質の活性を示すグラフである。
【図19C】図19Cは、高親和性IL15R(αβγ受容体複合体)を産生するCTLL−2細胞のTCR/IL15wt−刺激による増殖を阻止する、IL−15変異体を含有する融合タンパク質の活性を示すグラフである。
【図20】図20は、NK細胞を、二量体融合タンパク質複合体のTCR/IL15RαSushi及びTCR/IL15とともにインビトロでインキュベートした場合の、異種移植腫瘍担持ヌードマウスの生存率に与える影響を示す図である。胸腺欠損ヌードマウスにヒトNSCLC A549−A2細胞を注入して、肺転移を確立する。同種異系ドナーマウスの脾臓から単離して精製したNK細胞を、rhIL−2、MART1scTCR−IL2、c264scTCR−IL2、又はc264scTCR−IL15/c264scTCR−IL15Rαとともにインビトロでインキュベートして、シクロホスファミド(CTX)でプレ処理した腫瘍産生マウスに、図面の説明書きに示すように養子導入した。処理後の生存率をプロットした。
【図21】図21は、IL−15変異体におけるアミノ酸置換とそれらの変化がIL−15活性に及ぼす影響とを表1に示したものである。
【図22】図22A及びBは、IL−15(配列番号:1)のアミノ酸配列及びIL−15の核酸配列(配列番号:2)をそれぞれ示している。
【発明を実施するための形態】
【0049】
IL−15がIL−15Rαの細胞外ドメインに安定して結合して、得られた複合体が、中程度又は高度の親和性を有するIL−15R複合体を介して免疫応答を調節(すなわち、刺激又は阻害)できることが確認されている(1−4)。また、単鎖TCR又は抗体ポリペプチドをサイトカイン及びその他の免疫エフェクタードメインに融合させることができ、そのような二重特異性融合分子が両方の融合ドメインの機能活性を保持することが実証されている(5−8)。また、多価型のTCRは、それらのリガンドへの結合増強をもたらすことが示されている(9)。
【0050】
(定義)
以下の定義は、以下の説明において使用される特定の用語に対するものである。
【0051】
本明細書及び特許請求の範囲において、単数形の「a」、「an」、及び「the」は、文脈上明らかに別段の記載がないかぎり、複数形への言及を含有する。例えば、「一つの細胞」という用語には、その混合物を含有する、複数の細胞も含まれる。「一つの核酸分子」という用語は、複数の核酸分子も含有する。
【0052】
本明細書において、「含有する」という用語は、組成物及び方法が、記載された要素を含有するが、それら以外の要素を除外しないことを意味する。「本質的に〜からなる」は、組成物及び方法を定義するために用いられる場合、その組み合わせに対して何らかの本質的な意義を有するその他の要素を除外することを意味するものである。すなわち、本明細書に記載された要素から本質的に構成される組成物は、その単離精製法及び薬学的に許容される担体からの微量の混入物、例えば、リン酸塩緩衝食塩水、保存剤などを除外するものではない。「からなる」は、他の成分の微量を超える要素、及び本発明に係る組成物を投与するための実質的な方法工程を除外することを意味するものとする。これら移行部の用語のそれぞれによって定義される実施形態は、本発明の範囲に含まれる。
【0053】
「抗体」とは、特異的エピトープを結合する任意の免疫グロブリンであって、抗体及びその断片を含有する。この用語には、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、キメラ抗体、及び単鎖抗体、並びに二重特異性抗体も包含される。
【0054】
本明細書において、「抗原」という用語は、それに対する抗体又は特異的細胞媒介性免疫応答を免疫系に生じさせる任意の物質を意味する。疾患関連抗原とは、任意の病気に関連した任意の物質のことである。
【0055】
本明細書において、「生物活性ポリペプチド」という用語は、本明細書で検討されているような所望の効果を生じることができるタンパク質、ポリペプチド、又はペプチドなどのアミノ酸配列;糖又は多糖;脂質又は糖脂質、糖タンパク質、又はリポタンパク質を意味するものとし、抗原結合活性を有するTCRもしくは抗体の融合タンパク複合体を含んでいる。
【0056】
本明細書において、「細胞」という用語は、任意の原核細胞、真核細胞、初代細胞、又は不老化細胞株を意味し、組織又は器官に存在する細胞などの任意のグループも意味する。好ましくは、細胞は、哺乳類、特にヒト由来の細胞であり、一つ以上の病原体に感染することが可能なものである。本発明に適合する「宿主細胞」は、原核細胞、真核細胞、哺乳類細胞、鳥類細胞、昆虫細胞、植物細胞、又は細菌細胞など、任意の由来の形質移入、形質転換、形質導入、又は感染した細胞であってもよく、又は本明細書記載の核酸を増殖させるのに用いることができる任意の起源の細胞であってもよい。
【0057】
本明細書において、「結合分子」という用語は、TCR分子又は抗体分子、及びエフェクター分子を意味し、通常、化学的方法又はその他の適当な方法によって共有結合(すなわち、融合)した化学分子又は合成分子である。必要ならば、結合分子を、ペプチドリンカー配列又は担体分子を介して一つ又はいくつかの部位で融合させることができる。あるいは、ペプチドリンカー又は担体を用いて、結合分子の構築に役立たせることも可能である。特に好適な結合分子は、結合毒素又は検出可能な標識である。
【0058】
本明細書において、「エフェクター分子」という用語は、タンパク質、ポリペプチド、又はペプチドなどのアミノ酸配列;糖又は多糖;脂質又は糖脂質、糖タンパク質、リポタンパク質又は化学物質であって、本明細書で検討されている所望の効果を生じさせることができるものを意味し、IL−15ドメイン、IL−15変異体、又はIL−15Rα、IL−2RβもしくはγCなどのIL−15受容体、又はこれらの機能的断片を含んでいる。
【0059】
「融合分子」及び「融合タンパク質」という用語は同義的に使用され、通常はTCR又は抗体である生物活性ポリペプチド、及び通常、組み換え的、化学的、又はその他適当な方法によって共有結合(すなわち融合)しているタンパク質又はペプチドの配列であるエフェクター分子を意味することとする。必要ならば、融合分子は、ペプチドリンカー配列を介して一つ又はいくつかの部位で融合させることができる。あるいは、ペプチドリンカーを用いて、融合分子の構築に役立てることを可能である。特に好適な融合分子は融合タンパク質である。一般的に、融合分子は、結合分子からなっていてもよい。
【0060】
「宿主細胞」という用語は、クローニングベクター又は発現ベクターを含有する任意の原核細胞又は真核細胞を意味することとする。また、この用語には、宿主細胞の染色体もしくはゲノムの中にクローニングされた遺伝子を含有するように遺伝子操作された原核細胞又は真核細胞も含まれる。
【0061】
本明細書において、「免疫応答」という用語は、明確な接着段階及び活性化段階を含有する多因子過程を介して、免疫細胞を刺激し、それらを血液からリンパ系組織及び非リンパ系組織に補充する過程を意味するものとする。活性化条件は、サイトカイン、増殖因子、ケモカイン、及びその他の因子を放出させたり、免疫細胞上における接着分子及びその他の活性化分子の発現を上方調節したり、組織を通過する走化性と同時に起きる接着、形態変化、及び/又は溢出を促進したり、細胞増殖及び細胞毒性を増加させたり、抗原提示を刺激したり、また、メモリー細胞型の生成を含有する、他の表現型変化をもたらしたりする。免疫応答は、免疫細胞が、他の免疫細胞の炎症活性又は細胞毒性を抑制又は調節する活性も意味することとする。
【0062】
本明細書において、「ポリヌクレオチド」及び「核酸分子」という用語は同義的に使用されており、任意の長さの多量体型のヌクレオチドを意味する。ポリヌクレオチドは、デオキシリボヌクレオチド、リボヌクレオチド、及び/又はそれらの類似体を含有することができる。ヌクレオチドは、何らかの三次元構造を有することができ、公知又は未知の機能を果たすことができる。「ポリヌクレオチド」という用語には、例えば、一本鎖分子、二本鎖分子、及び三重らせん分子、遺伝子もしくは遺伝子断片、エキソン、イントロン、mRNA、tRNA、rRNA、リボザイム、アンチセンス分子、cDNA、組み換えポリヌクレオチド、分枝ポリヌクレオチド、アプタマー、プラスミド、ベクター、何らかの配列を有する単離DNA、何らかの配列を有する単離RNA、核酸プローブ、及びプライマーなどが含まれる。また、核酸分子は、修飾された核酸分子(例えば、修飾塩基、糖、及び/又はヌクレオチド間リンカーを含有するもの)を含有することも可能である。
【0063】
「ポリペプチド」という用語は、その大きさにかかわらず、好ましくは、本質的に20種の天然アミノ酸のいずれかからなる任意のポリマーを意味することとする。「タンパク質」という用語は、しばしば、比較的高分子量のタンパク質を言うときに用いられ、「ペプチド」はしばしば、低分子量のポリペプチドを言うときに用いられるが、これらの用語の当該技術分野における使用はしばしば重複する。「ポリペプチド」という用語は、別段の記載がない限り、広く、タンパク質、ポリペプチド、及びペプチドを意味する。本発明に従った有用なペプチドは、一般的に、遠心分離法又はSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動法などの標準的な分子サイズ決定法によって判定すると、約0.1KD〜100KD、又はこれよりも大きく、約1000KDの間、好ましくは、約0.1、0.2、0.5、1、2、5、10、20、30、及び50KDの間であろう。
【0064】
「予防する」、「予防すること」、「予防」、「予防的治療」などの用語は、病気又は症状を発症してはいないが、発症するリスクがあるか、或いは発症しやすい対象において、病気又は症状を発症する可能性を低下させることを意味することとする。
【0065】
「一本鎖抗体」という用語は、一本鎖構成を基本とする抗体を意味するものとする。一本鎖抗体は、抗体の最小結合サブユニットからなることができる。一本鎖抗体は、安定的に折りたたまれたポリペプチド一本鎖上にある抗体の抗原結合領域のみを組み合わせることができる。そのため、一本鎖抗体は、標準的な免疫グロブリンよりもかなり小さいが、抗体の抗原特異的な結合特性を保持している。一本鎖抗体は、多様なリガンド、例えば、エフェクター分子又は薬物複合体に結合させることができる。
【0066】
本明細書において、「可溶性の」という用語は、水性緩衝液、例えば、細胞培地から、低G遠心(例えば、標準的な遠心分離機で毎分約30,000回転未満)では容易に沈降しない融合分子、特に融合タンパク質を意味する。さらに、融合分子は、約5〜37℃よりも高い温度、かつ陰イオン性又は非イオン性の界面活性剤が低濃度で存在するか、これらが存在しないときの中性又はそれに近いpHにおいて水溶液中に存在したままであれば可溶性である。これらの条件下では、可溶性タンパク質は、しばしば、低沈降値、例えば、約10〜50未満のスベドベリ単位を有するであろう。
【0067】
本明細書に記載されている水溶液は、一般的には、pH、一般的には約5〜9のpH範囲内、及び約2mMから500mMの範囲のイオン強度を確立するために緩衝用化合物を有している。プロテアーゼ阻害剤又は弱い非イオン性界面活性剤が添加される場合もある。また、必要ならば、ウシ血清アルブミン(BSA)のような担体タンパク質を数mg/mlまで加えることもできる。水性緩衝液の例には、標準的なリン酸緩衝生理食塩水、トリス緩衝食塩水、又はその他のよく知られている緩衝液及び細胞培地製剤などがある。
【0068】
「刺激する」又は「刺激」という用語は、免疫応答を増加させること、増幅すること、増強すること、増大させることを意味する。刺激は積極的な改変であってもよい。増加率の例は、例えば、5%、10%、25%、50%、75%、さらには90〜100%であってもよい。増加率のその他の例には、2倍、5倍、10倍、20倍、40倍、さらには100倍などがある。
【0069】
「抑制する」又は「抑制」という用語は、免疫応答を低下させること、弱めること、減少させること、停止させること、又は安定化させることを意味する。抑制は消極的な改変であってもよい。低下率の例は、例えば、5%、10%、25%、50%、75%、さらには90〜100%であってもよい。低下率のその他の例には、2倍、5倍、10倍、20倍、40倍、さらには100倍などがある。
【0070】
「T細胞受容体」(TCR)という用語は、抗原提示に応答してT細胞の活性化に関与する内在性膜タンパク質複合体のポリペプチドを意味するものである。T細胞は、αβ.ヘテロ二量体T細胞受容体(TCR)を介してMHC産物に結合しているペプチドを認識する。TCRのレパートリーには、抗体の重鎖遺伝子及び軽鎖遺伝子で用いられているのと同一の遺伝子再構成機構によって作られる広範な多様性がある[Tonegawa, S. (1988) Biosci. Rep. 8:3-26]。多様性の大部分は、α鎖及びβ鎖の相補性決定領域3(CDR3)をコードする、可変(V)領域と結合(J)(もしくは多様性(D))領域の連結部で生じる[Davis and Bjorkman (1988) Nature 334:395-402]。しかし、TCRは、抗体が受けるような体細胞点突然変異を受けることなく、おそらく同時発生的にではない。TCRは、抗体と同程度の親和性成熟を受けることもない。自然に存在する場合、TCRは、105〜107M−1の親和性を有するように見えるが、一方、抗体は、一般的には105〜109M−1の親和性を有する[Davis et al. (1998)Annu. Rev. Immunol. 16:523-544; Eisen et al. (1996) Adv. Protein Chem. 49:1-56]。TCRで体細胞点突然変異が起こらないことは、親和性が低いことに関連している可能性があるが、TCRにはより高い親和性を有する選択上の有利性がないとも主張されている。実際、T細胞活性化の漸次刺激モデル[Valitutti et al. (1995) Nature 375:148-151]及び動的校正モデル[Rabinowitz et al. (1996) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93:1401-1405]はいずれも、(より高い親和性に関連した)解離速度の遅さがシグナル伝達過程に有害なものであることを示唆している。高親和性TCRが、T細胞応答に必要なペプチド特異性を維持できない可能性もある。例えば、MHC溝内部に結合しているペプチドは、わずかな接触可能表面を提示する[Bjorkman, P.J. (1997) Cell 89:167-170]が、これは、次に、その相互
作用で生じ得るエネルギー量を制限する可能性がある。一方、MHCらせんにエネルギーを向けることによってTCRの親和性を高めると、おそらく負の選択過程でチミン欠失が生じると思われる[Bevan, M.J. (1997) Immunity 7:175-178]。「TCR」という用語には、ポリクローナル、モノクローナル、キメラ、ヒト化、ヘテロ二量体、及び単鎖のT細胞受容体又はそれらの機能性断片が包含され、TCRのVαドメイン及びVβドメインを含有する分子などがある。また、「TCR」という用語には、例えば、「T CELL RECEPTOR FUSIONS AND CONJUGATES AND METHODS OF USE THEREOF」と題する、2008年3月19日出願の米国特許仮出願及び米国特許公報US 2003 01−44474A1に開示されているT細胞受容体も包含される。
【0071】
「ベクター」という用語は、宿主細胞内で自己複製し、外来DNAを受け入れることができる核酸分子のことである。ベクターは、自ら複製開始点を有し、外来DNAを挿入するために用いることができる制限エンドヌクレアーゼに対する固有の認識部位を一つ以上有し、また、通常、抗生物質耐性をコードする遺伝子のような選択可能マーカー、及び、しばしば、挿入DNAを発現させるための認識配列(例えば、プロモーター)を有する。一般的なベクターには、プラスミドベクター及びファージベクターなどがある。
【0072】
T細胞受容体(TCR)
T細胞は、他の免疫細胞型(多形核細胞、好酸球、好塩基球、マスト細胞、B細胞、NK細胞)と共に免疫系の細胞成分を構成する細胞のサブグループである。生理条件下で、T細胞は、免疫監視及び外来抗原の排除において機能を果たす。しかし、病的条件下では、T細胞が病気の原因及びその伝播において主要な役割を果たしているという有力な証拠が存在する。これらの疾患においては、中枢であろうと末梢であろうと、T細胞の免疫寛容の崩壊が自己免疫疾患を引き起こす基本的な過程である。
【0073】
TCRは、少なくとも7個の膜貫通タンパク質から構成される。ジスルフィド結合した(α、β)ヘテロ二量体は、単一型抗原認識単位を形成するが、一方、ε鎖、γ鎖、δ鎖、及びζ鎖及びη鎖からなる、CD3の不変鎖は、T細胞の活性化及び細胞性免疫応答の発生をもたらすシグナル経路に結合するリガンドのカップリングに関与する。TCR鎖の遺伝子の多様性にもかかわらず、2つの構造特性が公知のサブユニット全部に共通している。第一は、これらが、恐らくはα−へリックス型の単一の膜貫通全域ドメインを有する膜貫通タンパク質であることである。第二は、すべてのTCR鎖は、予想膜貫通ドメイン内部に荷電アミノ酸を有するという珍しい特徴を有することである。不変鎖は、マウスとヒトの間で保存されている単一の負の電荷を有し、また不変鎖は1つ(TCR−β)又は2つ(TCR−α)の正電荷を有する。TCR−αの膜貫通配列は、多くの種において高度に保存されており、そのため、系統発生学的には重要な機能的役割を果たしている可能性がある。親水性アミノ酸であるアルギニン及びリジンを含有するオクタペプチド配列は、これらの種の間で同一である。
【0074】
T細胞応答は、TCRに結合する抗原によって調節されている。一つの型のTCRは、免疫グロブリンの可変(V)及び定常(C)領域に似たα鎖及びβ鎖からなる膜結合型ヘテロ二量体である。TCRα鎖は、共有結合しているV−α鎖及びC−α鎖を含有するが、β鎖は、C−β鎖に共有結合しているV−β鎖を含有する。V−α鎖及びV−β鎖は、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)(ヒトにおいてはHLA複合体として知られている)と関連して超抗原又は抗原を結合することができるポケット又は間隙を形成する。一般的には、Davis Ann.Rev.of Immunology 3:537(1985); Fundamental Immunology 3rd Ed., W. Paul Ed. Rsen Press LTD.New York (1993) を参照されたい。
【0075】
融合タンパク質
本発明に係る可溶性融合タンパク質及び結合分子複合体は、少なくとも2つの可溶性融合タンパク質を含有するが、ここで、第一の融合タンパク質は、インターロイキン15(IL−15)又はその機能的断片に共有結合している第一の生物活性ポリペプチドを含み、かつ、第二の融合タンパク質は、可溶性インターロイキン15受容体α(IL−15Ra)ポリペプチド又はその機能的断片に共有結合している第二の生物活性ポリペプチドを含み、第一の融合タンパク質のIL−15ドメインが、第二の融合タンパク質の可溶性IL−15Raドメインに結合して可溶性の融合タンパク質複合体を形成している。
【0076】
ある特定の例において、生物活性ポリペプチドの一方は、第一の可溶性TCR又はその断片を含有する。他方もしくは第二の生物活性ポリペプチドは、第一の可溶性TCR又はその機能的断片を含有していて、その結果、一価のTCRと比較して同族リガンドに対する結合活性が増大した多価のTCR融合タンパク質複合体を作出する。さらに、他方の生物活性ポリペプチドは、第一の可溶性TCRとは異なる第二の可溶性TCR又はその機能性断片を含有する。ある特定の例において、例えば、天然型TCRと比較して、同族リガンドに対してより高い親和性又は増加した結合親和性を有するTCRが産生される。本明細書に記載されるような本発明に係る可溶性TCRが、そのリガンドに対してより高い親和力(avidity)又は親和性(affinity)を有している場合には、それは、細胞表面結合型抗原のための特異的プローブとして有用である。本発明のある特定の好適な例において、TCRは、特定の抗原を特異的に認識する。
【0077】
例示的な態様では、TCRは、α鎖(本明細書では、α鎖、アルファ鎖、又はa鎖と称す)及びβ鎖(本明細書では、β鎖、ベータ鎖、又はb鎖と称す)を含有するヘテロ二量体である。別の例示的な態様では、TCRは、単鎖TCRポリペプチドを含有する。単鎖TCRは、ペプチドリンカー配列によって、TCRのV−β鎖と共有結合したTCR V−α鎖を含有することができる。単鎖TCRは、さらに、TCRのV−β鎖に共有結合した可溶性TCR Cβ鎖断片を含有することができる。単鎖TCRはさらに、TCRのV−α鎖に共有結合した可溶性TCRのCα鎖断片を含有することができる。
【0078】
さらなる態様では、第一及び第二の生物活性ポリペプチドの一方又は両方が、抗体又はその機能性断片を含有している。
【0079】
本明細書において、「生物活性ポリペプチド」又は「エフェクター分子」という用語は、本明細書に記載されるような所望の効果をもたらすことができる、タンパク質、ポリペプチド、又はペプチドなどのアミノ酸配列;糖又は多糖;脂質又は糖脂質、糖タンパク質、若しくはリポタンパク質を意味する。エフェクター分子には、化学物質も含まれる。生物活性があるか又はエフェクターであるタンパク質、ポリペプチド、又はペプチドをコードするエフェクター分子核酸も意図している。従って、適当な分子には、調節因子、酵素、抗体、又は薬物、並びにDNA、RNA、及びオリゴヌクレオチドも含有される。生物活性ポリペプチド又はエフェクター分子は天然のものであってもよく、又は、例えば、組み換え又は化学合成によって公知の成分から合成することもでき、異種由来の成分を含有することもできる。生物活性ポリペプチド又はエフェクター分子は、通常、遠心分離法又はSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動法などの標準的な分子サイズ決定法によって判定すると、約0.1KD〜100KD、又はこれよりも大きく、約1000KDまでの間、好ましくは、約0.1、0.2、0.5、1、2、5、10、20、30、及び50KDの間である。本発明の所望の効果は、例えば、結合活性が増大したTCR融合タンパク質複合体を形成させること、標的細胞を死滅させること(例えば細胞増殖もしくは細胞死を誘導するために)、病気を予防又は治療するときに免疫応答を引き起こすこと、又は診断用の検出分子として作用することを含有するが、これらに限定されない。このような検出を行うために、アッセイ法、例えば、細胞を培養して増殖させ、この細胞を本発明に係るTCR融合複合体と接触させて、TCR融合複合体が細胞のさらなる発生を抑制できるか否かを評価するという一連の工程を含有するアッセイ法を用いることができよう。
【0080】
本発明に従ってエフェクター分子をTCRペプチドに共有結合させることにより、多くの顕著な利益がもたらされる。公知の構造を有するペプチドなどの単一エフェクター分子を含有する、本発明に係るTCR融合複合体を作製することができる。また、多様なエフェクター分子を同じようなDNAベクター内に作製することができる。すなわち、感染細胞又は異常細胞を提示するために、さまざまなエフェクター分子のライブラリーをTCR分子に結合させることができる。さらに、治療に応用するために、対象にTCR分子を投与するのではなく、エフェクターペプチドに結合するTCR分子をコードするDNA発現ベクターを、TCR融合複合体をインビボで発現させるために投与することができる。このような方法により、一般的には組み換えタンパク質の調製に関連する費用の掛かる精製工程を避けることができ、かつ、従来の方法に関連した抗原の取り込み及び処理の複雑さを回避することができる。
【0081】
上記したように、本明細書に開示した融合タンパク質の成分、例えば、サイトカイン、ケモカイン、増殖因子、タンパク質毒素、免疫グロブリンドメイン若しくはその他の生物活性分子、及び何れかのペプチドリンカーなどのエフェクター分子は、融合タンパク質に意図された機能があるのであれば、ほぼどのような形にも構築することができる。具体的には、融合タンパク質の各成分を、必要ならば少なくとも一つの適当なペプチドリンカー配列によって、別の成分との距離をあけて配置することができる。また、融合タンパク質は、例えば、融合タンパク質の修飾、同定、及び/又は精製を容易にするためにタグを含有することができる。より具体的な融合タンパク質が、下記の実施例に記載されている。
【0082】
リンカー
本発明に係る融合複合体は、好ましくは、IL−15ドメイン又はIL−15Rαドメインと生物活性ポリペプチドとの間に置かれる可動性リンカー配列も含有する。リンカー配列は、IL−15ドメイン又はIL−15Rαドメインに対して生物活性ポリペプチドを効果的に配置して、この両ドメインが機能的に活性を発揮できるようにすることを可能にするはずである。生物活性ポリペプチドがTCRである態様では、リンカー配列は、TCR分子結合溝を、T細胞受容体がMCH−ペプチド複合体の提示を認識して、エフェクター分子を所望の部位に送達できるように配置する。エフェクター分子をうまく提示できると、T細胞を培養して増殖させ、このT細胞を本発明に係るTCR融合複合体と接触させて、TCR融合複合体が細胞のさらなる発生を抑制できるか否かを評価するという一連の工程を含有するインビトロアッセイ法など、下記に開示されているアッセイ法によって測定しながら、T細胞の増殖を誘導又は阻害したり、特定の部位に対する免疫応答を開始又は抑制したりするよう細胞の活性を調節することができる。
【0083】
ある特定の態様では、可溶性融合タンパク質複合体は、第一の生物活性ポリペプチドが、ポリペプチドリンカー配列によってIL−15(又はその機能性断片)に共有結合しているリンカーを有する。
【0084】
別の特定の態様では、本明細書に記載されているような可溶性融合タンパク質複合体は、第二の生物活性ポリペプチドが、ポリペプチドリンカー配列によってIL−15Rαポリペプチド(又はその機能性断片)に共有結合しているリンカーを有する。
【0085】
リンカー配列は、好ましくは、提示抗原を認識するためにTCR分子の結合溝を効果的に配置することができるペプチドを生じさせるヌクレオチド配列によってコードされている。本明細書において、「生物活性ポリペプチドを、IL−15ドメイン又はIL−15Rαドメインに対して効果的に配置すること」という語句、又はその他同様の語句は、IL−15ドメイン又はIL−15Rαドメインが互いに相互作用してタンパク質複合体を形成することができるよう、IL−15ドメイン又はIL−15Rαドメインに結合した生物活性ポリペプチドを配置することを意味するものである。ある特定の態様では、IL−15ドメイン又はIL−15Rαドメインは、免疫細胞と相互作用して、免疫反応を開始又は阻害するか、細胞発生を阻害又は刺激できるよう効果的に配置されている。
【0086】
リンカー配列は、好ましくは約7〜20個のアミノ酸、より好ましくは約8〜16個のアミノ酸を含有する。リンカー配列は、好ましくは、生物活性ポリペプチド又はエフェクター分子を単一の望ましくない立体構造のままにさせないよう可動的である。リンカー配列を用いて、例えば、認識部位を融合分子から距離をあけて配置することができる。具体的には、ペプチドリンカー配列を生物活性ポリペプチドとエフェクター分子の間に配置して、例えば、それらを化学的に架橋して分子柔軟性をもたらすことができる。リンカーは、好ましくは、柔軟性を与えるために、例えば、グリシン、アラニン、及びセリンなどの低分子側鎖を有するアミノ酸を主に含有する。好ましくは、リンカー配列の約80%又は90%、又はそれ以上がグリシン残基、アラニン残基、又はセリン残基を含み、特にグリシン残基及びセリン残基を含有する。ヘテロ二量体TCRを含有する融合タンパク質複合体では、リンカー配列は、TCR分子のb鎖に適当に結合しているが、リンカー配列は、TCR分子のa鎖に結合していてもよい。あるいは、リンカー配列は、TCR分子のa鎖及びb鎖の両方に結合していてもよい。そのようなβペプチド鎖がa鎖と共に発現されると、図1に概略して描かれているように、TCR−エフェクター結合ペプチドが折りたたまれて、機能的TCR分子となるはずである。一つの適当なリンカー配列は、ASGGGGSGGG(すなわち、Ala Ser Gly Gly Gly Gly Ser Gly Gly Gly)であり、好ましくは、TCRのbドメインの最初のアミノ酸に結合している。抗体の可変領域をうまく連結するために用いられてきた多くの可動性リンカー設計のいずれかを含有する、さまざまなリンカー配列を用いることもできる。Whitlow, M. et al. (1991) Methods: A Companion to Methods in Enzymology 2:97-105 を参照されたい。いくつかの例では、エフェクター分子をTCRb鎖分子に共有結合させるためには、リンカーのアミノ配列が、TCRベータ鎖のC−末端残基からエフェクター分子のN−末端残基までの間に適当な距離を置くことができなければならない。適当なリンカー配列を、経験的に容易に同定することができる。さらに、リンカー配列の適当な大きさ及び配列も、TCR分子の予測される大きさ及び形状に基づいて、従来のコンピューターモデリング技法によって決定することができる。
【0087】
一般的に、本発明に係る融合タンパク質複合体の調製は、本明細書に開示された手順によって、そして、例えば、ポリメラーゼ連鎖増幅反応(PCR)、プラスミドDNAの調製、制限酵素によるDNA切断、オリゴヌクレオチドの調製、DNAライゲーション、mRNAの単離、適当な細胞へのDNA導入、宿主の形質転換又は形質移入、宿主の培養を含有する、広く知られている組み換えDNA技術によって行うことができる。さらに、カオトロピック(chaotropic)剤、並びに公知の電気泳動法、遠心分離法、及びクロマトグラフィー法を用いて、融合タンパク質を単離及び精製することができる。これらの方法に関する開示については、一般的に、Sambrook et al. Molecular Cloning: A Laboratory Manual (2nd ed. (1989); 及びAusubel et al. Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, New York(1989)を参照されたい。
【0088】
本明細書において、本発明に係る生物活性ポリペプチド又はエフェクター分子には、サイトカイン、ケモカイン、増殖因子、タンパク質毒素、免疫グロブリンドメインなどの因子、又は、その他の生物活性タンパク質、例えば、酵素などを含有することができる。また、生物活性ポリペプチドには、非タンパク質毒素、細胞傷害剤、化学療法剤、検出可能な標識、放射性物質のような他の化合物との結合体を含有していてもよい。
【0089】
本発明に係るサイトカインは、他の細胞に作用し、細胞性免疫の多くの多重効果のいずれかに関与している細胞によって産生される因子の何れかによって規定される。サイトカインの例には、IL−2ファミリー、インターフェロン(IFN)、IL−10、IL−1、IL−17、TGFサイトカインファミリー及びTNFサイトカインファミリー、並びにIL−1からIL−35まで、IFN−α、IFN−β、IFN−γ、TGF−β、TNF−α、並びにTNFβが含まれるが、これらに限定されない。
【0090】
本発明の一つの態様において、第一の融合タンパク質は、インターロイキン−15(IL−15)ドメイン又はその機能的断片に共有結合している第一の生物活性ポリペプチドを含有する。IL−15は、T細胞の活性化及び増殖に影響するサイトカインである。免疫細胞の活性化及び増殖に作用するときのIL−15の活性は、いくつかの点でIL−2に似ているが、基本的な相違点は、既によく特徴付けられている(Waldmann, TA, 2006, Nature Rev.Immunol.6:595-601)。
【0091】
本発明の別の態様において、第一の融合タンパク質は、IL−15変異体(本明細書においては、IL−15突然変異体とも称す)であるインターロイキン−15(IL−15)ドメインを含有する。IL−15変異体は、好ましくは、天然型(又は野生型)のIL−15タンパク質とは異なるアミノ酸配列を含有する。IL−15変異体は、好ましくは、IL−15Raポリペプチドに結合して、IL−15のアゴニスト又はアンタゴニストとして機能する。好ましくは、アゴニスト活性を有するIL−15変異体は、スーパーアゴニスト活性を有する。いくつかの態様では、IL−15変異体は、IL−15Raとの結合とは無関係に、IL−15のアゴニスト又はアンタゴニストとして機能することができる。IL−15のアゴニストは、野生型IL−15に較べて、それと同等又はそれよりも高い生物活性によって例示される。IL−15のアンタゴニストは、野生型IL−15に較べて低い生物活性によって、又はIL−15を介した応答を阻害できることによって例示される。いくつかの例では、IL−15変異体は、より高い活性又はより低い活性で、IL−15RβγC受容体に結合する。いくつかの態様では、IL−15変異体の配列は、天然型IL−2の配列と比較すると、例えば、置換又は欠失など、少なくとも1つのアミノ酸が変化しており、そのような変化が、IL−15のアゴニスト活性又はアンタゴニスト活性をもたらす。好ましくは、アミノ酸の置換/欠失は、IL−15Rβ及び/又はIL−15RγCと相互作用するIL−15のドメインに存在する。より好ましくは、アミノ酸の置換/欠失は、IL−15Raポリペプチドへの結合にも、IL−15変異体を産生する能力にも影響しない。IL−15変異体を生じさせるのに適したアミノ酸の置換/欠失は、本明細書に記載されるように合理的又はランダムな突然変異誘発、及び機能的アッセイを経て、又は他の経験的な方法を経た後、推定される、又は公知のIL−15構造に基づいて、公知の構造を有するIL−2などの相同分子とIL−15との比較に基づいて同定することができる。さらに適したアミノ酸置換は、保存的な変化であっても非保存的な変化であってもよく、さらなるアミノ酸の挿入であってもよい。好ましくは、本発明に係るIL−15変異体は、成熟ヒトIL−15の配列の8位、61位、65位、72位、92位、101位、108位、又は111位で、1つ又は1つ以上のアミノ酸置換/欠失を含有するが、特に、D8N(「D8」は、天然型成熟ヒトIL−15配列のアミノ酸及び残基の位置を意味し、「N」は、その位置におけるIL−15変異体で置換されているアミノ酸残基を意味する)、D8A、D61A、N65A、N72R又はQ108Aという置換は、アンタゴニスト活性を有するIL−15変異体を生じさせ、N72Dという置換は、アゴニスト活性を有するIL−15変異体をもたらす。
【0092】
本発明の一つの態様において、IL−15変異体は、融合タンパク質複合体の一成分であるが、別の態様においては、IL−15変異体は非融合タンパク質である。好ましくは、非融合型のIL−15変異体は、IL−15のアゴニスト又はアンタゴニストとして機能する可溶性サイトカインである。いくつかの態様では、非融合型IL−15変異体は、IL−15Raと複合体を形成するが、別の態様では、それは、IL−15Raとは無関係に作用する。
【0093】
本発明に係るケモカインは、サイトカインと同様、別の細胞に曝露されると、細胞性免疫の多くの多重効果のいずれかに関与する何れかの化学的な因子又は分子と定義されている。適切なケモカインには、CXC、CC、C、及びCX3Cというケモカインファミリー、並びにCCL−1からCCL−28まで、CXC−1からCXC−17まで、XCL−1、XCL−2、CX3CL1、MIP−1b、IL−8、MCP−1、及びRantesが含まれ得るが、これらに限定されない。
【0094】
増殖因子には、特定の細胞に曝露されると、作用を受ける細胞の増殖及び/又は分化を誘導する何れかの分子が含まれる。増殖因子は、タンパク質及び化学分子などであるが、それらの一部は、以下のものを含有する:GM−CSF、G−CSF、ヒト増殖因子、及び幹細胞増殖因子。さらなる増殖因子は、本明細書に記載されている用途にも適している。
【0095】
毒素又は細胞毒性物質には、細胞に曝露されると、致死効果又は増殖阻害効果を有する何れかの物質が含まれる。すなわち、エフェクター分子は、例えば、植物又は細菌に由来する細胞毒素、例えば、ジフテリア毒素(DT)、志賀毒素(shiga toxin)、アブリン(abrin)、コレラ毒素、リシン、サポリン、シュードモナス外毒素(PE)、ヤマゴボウ抗ウイルスタンパク質、又はゲロニンなどであってよい。このような毒素の生物活性断片が、当該技術分野において公知であり、例えば、DTのA鎖及びリシンA鎖などを含んでいる。さらに、この毒素は、細胞表面上で活性を有する物質、例えば、ホスホリパーゼ酵素(例えば、ホスホリパーゼC)であってもよい。
【0096】
また、エフェクター分子は、例えば、ビンデシン、ビンクリスチン、ビンブラスチン、メトトレキサート、アドリアマイシン、ブレオマイシン、又はシスプラスチンなどの化学療法薬であってもよい。
【0097】
さらに、エフェクター分子は、診断検査又は画像検査に適した検出可能に標識された分子であってもよい。そのような標識には、ビオチン若しくはストレプトアビジン/アビジン、検出可能なナノ粒子若しくは結晶、酵素若しくはその触媒活性断片、緑色蛍光タンパク質、FITC、フィコエリトリン、サイクローム、テキサスレッド、若しくは量子ドットなどの蛍光標識;放射性核種、例えば、ヨウ素−131、イットリウム(yttrium)−90、レニウム−188若しくはビスマス(bismuth)−212;リン光分子若しくは化学発光分子、又はGdに基づく若しくは常磁性金属イオンに基づく造影剤など、PET、超音波、若しくはMRIによって検出可能な標識が含まれる。エフェクター又はタグを含有するタンパク質の作製及び使用に関する開示については、例えば、Moskaug et al. J. Biol. Chem. 264, 15709 (1989); Pastan, I, et al. Cell 47, 641, 1986; Pastan et al. Recombinant Toxins as Novel Therapeutic Agents, Ann. Rev. Biochem.61, 331, (1992); "Chimeric Toxins" Olsnes and Phil, Pharmac. Ther., 25, 355 (1982); 公開PCT出願第WO94/29350号公報;公開PCT出願第WO94/04689号公報;公開PCT出願第WO2005/046449号公報、及び米国特許第5,620,939号を参照されたい。
【0098】
共有結合したIL−15ドメイン及びIL−15Raドメインを含有するタンパク質融合体又は結合複合体は、いくつかの重要な用途を有する。例えば、TCRを含有するタンパク質融合体又は結合複合体を用いて、TCRに特異的に結合できる一定の細胞にIL−15/IL−15Ra複合体を送達することができる。その結果、このタンパク質融合体又は結合複合体は、リガンドを含有する細胞を選択的に損傷したり、死滅させたりする手段を提供する。TCRを含有するタンパク質融合体又は結合複合体によって損傷又は死滅させることが可能な細胞又は組織の例は、TCRが特異的に結合することができる一つ又はそれ以上のリガンドを発現している腫瘍及びウイルス感染細胞若しくは細菌感染細胞などである。損傷又は死滅させられやすい細胞又は組織は、本明細書に開示される方法によって簡単に分析することができる。
【0099】
本発明に係るIL−15ポリペプチド及びIL−15Raポリペプチドは、アミノ酸配列が、天然のIL−15分子及びIL−15Ra分子、例えば、ヒト、マウス若しくはその他の齧歯類、又はその他の哺乳動物のIL−15分子及びIL−15Ra分子に適切に対応する。
【0100】
場合によっては、例えば、Sc−TCRの価数を増加させるために、本発明に係るタンパク質融合体又は結合複合体を多価にすることが有用である可能性がある。特に、融合タンパク質複合体のIL−15ドメインとIL−15Raドメインの間の相互作用は、多価性複合体を作出する手段を提供する。また、例えば、標準的なビオチン−ストレプトアビジン標識技術を用いて、又はラテックスビーズなどの適切な固体支持体に結合させて、1つのタンパク質と4つのタンパク質(異同を問わない)の間を共有結合的又は非共有結合的に連結することにより、多価の融合タンパク質を作製することができる。化学的架橋タンパク質(例えば、デンドリマーへの架橋)も、適当な多価の種である。例えば、タンパク質は、ビオチン化BirAタグのように修飾可能なタグ配列や、Cys又はHisなどの化学反応性の高い側鎖を有するアミノ酸残基をコードする配列を含有することによって改変することができる。このようなアミノ酸タグ又は化学反応性アミノ酸を、融合タンパク質内のさまざまな位置、好ましくは、生物活性ポリペプチド又はエフェクター分子の活性部位から離れた位置に配置することができる。例えば、可溶性融合タンパク質のC末端を、タグ、又はそのような反応性アミノ酸を含有する他の融合タンパク質に共有結合させることも可能である。2つ又はそれ以上の融合タンパク質を適当なデンドリマー又は他のナノ粒子に化学的に結合させて多価性分子を得るために、適当な側鎖を含めることも可能である。デンドリマーは、その表面の数あるさまざまな官能基の何れかを有することができる合成化学ポリマーである(D. Tomalia, Aldrichimica Acta, 26:91:101 (1993))。本発明に従って使用できるデンドリマーの例には、例えば、E9スターバースト(starburst)ポリアミンデンドリマー、及びE9コンバスト(combust)ポリアミンデンドリマーなどがあるが、これらは、システイン残基を結合することができる。
【0101】
(核酸及びベクター)
核酸
本発明は、さらに、本発明の融合タンパク質をコードする核酸配列、特にDNA配列を提供する。好ましくは、DNA配列は、ファージ、ウイルス、プラスミド、ファージミド、コスミド、YAC、又はエピソームのような、染色体外での複製に適したベクターによって担持されている。特に、所望の融合タンパク質をコードするDNAベクターを用いて、本明細書に記載される調製法を促進させることができ、また、有意な量の融合タンパク質を得ることができる。このDNA配列は、適当な発現ベクター、すなわち、挿入されたタンパク質コード配列の転写及び翻訳に必要な要素を含有するベクターの中に挿入することができる。さまざまな宿主−ベクター系を利用して、タンパク質コード配列を発現させることができる。これらは、ウイルス(例えば、ワクシニアウイルス、アデノウイルスなど)に感染した哺乳動物細胞系;ウイルス(例えば、バキュロウイルス)に感染した昆虫細胞系;酵母ベクターを含有する酵母などの微生物、又は、バクテリオファージDNA、プラスミドDNA、又はコスミドDNAで形質転換された細菌などである。利用する宿主−ベクター系に応じて、数ある適当な転写因子及び翻訳因子のいずれかを使用することができる。一般に、Sambrook et al., supra、及びAusubel et al., supra を参照されたい。
【0102】
本発明は、可溶性融合タンパク質複合体を作製する方法を包含していて、方法は:本明細書に記載されるように、第一及び第二の融合タンパク質をコードするDNAベクターを宿主細胞に導入すること、融合タンパク質を細胞又は培地の中で発現させ、第一の融合タンパク質のIL−15ドメインと、第二の融合タンパク質の可溶性IL−15Raドメインとを会合させて、可溶性融合タンパク質複合体を形成させるのに十分な条件下で、宿主細胞を培地中で培養すること、宿主細胞又は培地から可溶性融合タンパク質複合体を精製することを含有する。
【0103】
一般的に、本発明に従った好適なDNAベクターは、エフェクター分子をコードする配列に動作可能に連結した、TCR鎖をコードする第一のヌクレオチド配列を導入するための第一のクローニング部位を5’から3’方向に含有する、ホスホジエステル結合によって連結されているヌクレオチド配列を含有する。
【0104】
DNAベクターによってコードされる融合タンパク質成分は、カセットという形で提供することも可能である。「カセット」という用語は、標準的な組換え法によって、各成分を別の成分に簡単に置換することができることを意味する。特に、コードされた融合複合体を、血清型(serotypes)を必然的に生じさせるか、又は生じさせる能力を有する可能性がある病原体に対して使用する場合には、カセット形式で構成されているDNAベクターが特に望ましい。
【0105】
TCR融合複合体をコードするベクターを作製するには、適当なリガーゼを用いて、TCR分子をコードする配列を、エフェクターペプチドをコードする配列に連結させる。適当な細胞株など、天然の由来源からDNAを単離するか、公知の合成法、例えば、リン酸トリエステル法によって、提示ペプチドをコードするDNAを得ることができる。例えば、Oligonucleotide Synthesis, IRL Press (M.J. Gait ed., 1984)を参照されたい。合成オリゴヌクレオチドは、市販されている自動オリゴヌクレオチド合成装置を用いて調製することもできる。TCR分子をコードする遺伝子は、一旦単離されると、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)又は当該技術分野において公知の別法によって増幅することができる。TCRペプチド遺伝子を増幅するための適当なPCRプライマーによって、PCR産物に制限酵素認識部位を付加することができる。好ましくは、PCR産物は、エフェクターペプチドのスプライス部位、及びTCR−エフェクター融合複合体を適正に発現する及び分泌するのに必要なリーダー配列を含んでいる。また、好ましくは、PCR産物は、リンカー配列をコードする配列、又はこのような配列をライゲーションするための制限酵素部位も含んでいる。
【0106】
好ましくは、本明細書に記載される融合タンパク質は、標準的な組換えDNA技術によって製造される。例えば、TCRタンパク質をコードするDNA分子を単離すると、配列を、エフェクターポリペプチドをコードする別のDNA分子にライゲーションすることができる。TCR分子をコードするヌクレオチド配列を、エフェクターペプチドをコードするDNA配列に直接連結することができ、又は、より一般的には、本明細書に記載されるようなリンカー配列をコードするDNA配列を、TCR分子をコードする配列と、エフェクターペプチドをコードする配列の間に配置して、適当なリガーゼを用いて連結することができる。得られたハイブリッドDNA分子を適当な宿主細胞の中で発現させて、TCR融合複合体を産生させることができる。DNA分子は、ライゲーション後に、コードされたポリペプチドの翻訳フレームが変わらないよう(すなわち、DNA分子を互いにインフレームでライゲーションするよう)、互いに5’から3’の方向にライゲーションする。得られたDNA分子は、インフレームで融合タンパク質をコードしている。
【0107】
別のヌクレオチド配列を遺伝子構築物に含ませることも可能である。例えば、エフェクターペプチドに融合したTCRペプチドをコードする配列の発現を調節するプロモーター配列、又はTCR融合複合体を細胞表面又は培養培地に方向づけるリーダー配列を、構築物に含ませるか、又は、構築物を挿入する発現ベクターの中に存在させることも可能である。免疫グロブリンプロモーター又はCMVプロモーターが特に好適である。
【0108】
変異体TCRをコードする配列を得るにあたって、当業者は、TCRに由来するタンパク質を、ある種のアミノ酸置換、付加、欠失、及び翻訳後修飾によって、生物活性を失ったり、低下させたりすることなく改変できることを認識されているだろう。特に、保存的アミノ酸置換、即ち、あるアミノ酸を、同じような大きさ、電荷、極性、及び立体構造を有する別のアミノ酸と置換することによって、タンパク質の機能が顕著に変わる可能性が低いことは周知である。タンパク質の構成成分である20種の標準的アミノ酸は、大きく4つの保存的アミノ酸のグループに分類できる:非極性(疎水性)グループは、アラニン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、トリプトファン、及びバリンを含み;極性(非荷電、中性)グループは、アスパラギン、システイン、グルタミン、グリシン、セリン、スレオニン、及びチロシンを含み;正に荷電した(塩基性)グループは、アルギニン、ヒスチジン、及びリジンを含み;負に荷電した(酸性)グループは、アスパラギン酸及びグルタミン酸を含んでいる。タンパク質における1個のアミノ酸で、同じグループ内の別のアミノ酸を置換することが、そのタンパク質の生物活性に有害な影響を及ぼす可能性は低い。
【0109】
ヌクレオチド配列間の相同性は、DNAハイブリダイゼーション分析法によって確認することができるが、二本鎖DNAハイブリッドの安定性は、生じる塩基対合の程度に依存する。高い温度及び/又は低い塩濃度という条件では、ハイブリッドの安定性が低下するので、選択した程度よりも低い相同性を有する配列のアニーリングが阻止されるよう条件を変えることができる。例えば、約55%のG−C含量を有する配列について、40〜50℃、6×SSC(塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム緩衝液)、及び0.1%SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)という、ハイブリダイゼーション及び洗浄の条件では、約60〜70%の相同性が示され、50〜65℃、1×SSC、及び0.1%SDSという、ハイブリダイゼーション及び洗浄の条件では、約82〜97%の相同性が示され、52℃、0.1×SSC、及び0.1%SDSという、ハイブリダイゼーション及び洗浄の条件では、約99〜100%の相同性が示される。ヌクレオチド配列及びアミノ酸配列を比較(及び相同性の程度を測定)するために、広範なコンピュータプログラムも利用することができ、市販及び無料のソフトウェア供給源のリストが、Ausubel et al. (1999)に記載されている。容易に利用できる配列比較及び複数配列アラインメントのアルゴリズムは、それぞれ、Basic Local Alignment Search Tool (BLAST) (Altschul et al., 1997)及びClustal Wプログラムである。BLASTプログラムは、ワールドワイドウェブ上(ncbi.nlm.nih.gov)で利用することができ、Clustal Wの一つのバージョンを、2.ebi.ac.uk.で利用することができる。
【0110】
融合タンパク質の成分は、それぞれが、目的とする機能を果たすことができるならば、ほとんど何れの順序にも並べることができる。例えば、一つの態様では、TCRを、エフェクター分子のC末端かN末端に配置する。
【0111】
本発明に係る好適なエフェクター分子は、それらのドメインが意図している機能に役立つ大きさを有するであろう。本発明に係るエフェクター分子は、周知の化学的架橋法など、さまざまな方法によって作製して、TCRに融合させることができる。例えば、Means, G.E. and Feeney、 R.E. (1974) in Chemical Modification of Proteins,Holden-Dayを参照されたい。また、S.S. Wong (1991) in Chemistry of Protein Conjugation and Cross-Linking, CRC Pressを参照されたい。ただし、一般的には、組換え操作法を用いてインフレームの融合タンパク質を作製することが好適である。
【0112】
上記のように、本発明に係る融合分子又は結合分子は、いくつかの態様に組織化することができる。構造の一例として、TCRのC末端を、エフェクター分子のN末端に動作可能に連結する。このような連結は、必要であれば、組換え法によって行うことができる。しかし、別の構造では、TCRのN末端を、エフェクター分子のC末端に連結する。
【0113】
あるいは、又はさらに、必要に応じて、1つ又はそれ以上のさらなるエフェクター分子を、TCR融合複合体又は結合複合体に挿入することができる。
【0114】
ベクター及び発現
多くの方策を用いて、本発明に係るタンパク質融合複合体を発現させることができる。例えば、制限酵素を使用して、構築物を挿入するための切れ目をベクターに入れて、その後ライゲーションするなど、公知の方法によって、上記のTCR遺伝子融合構築物を適当なベクターに組み込むことができる。そして、TCR融合ペプチドを発現させるために、遺伝子構築物を含有するベクターを適当な宿主に導入する。一般に、Sambrook et al., supraを参照されたい。適当なベクターの選択は、クローニング手順に関係した因子に基づいて、経験的に行うことができる。例えば、ベクターは、使用されている宿主に適合し、その宿主にとって適正なレプリコンを有する必要がある。さらに、ベクターは、発現させようとするTCR融合複合体をコードするDNA配列を収容できるものでなければならない。適当な宿主細胞には、真核細胞及び原核細胞が含まれるが、好ましくは、簡単に形質転換することができ、かつ培養培地の中で迅速な増殖を示す細胞である。特に好適な宿主細胞は、大腸菌(E. coli)、枯草菌(Bacillus subtillus)などの原核生物、及び動物細胞及び酵母菌系などの真核生物、例えば、出芽酵母(S. cerevisiae)などである。哺乳動物細胞が一般的には好適であり、特に、J558、NSO、SP2−O、又はCHOが好適である。その他の適当な宿主には、例えば、Sf9などの昆虫細胞が含まれる。通常の培養条件を用いる。Sambrook et al., supraを参照されたい。そして、安定した形質転換細胞株又は形質移入細胞株を選択することができる。公知の方法によって、本発明に係るTCR融合複合体を発現する細胞を決定することができる。例えば、免疫グロブリンに結合したTCR融合複合体の発現は、結合している免疫グロブリンに特異的なELISAによって、及び/又は免疫ブロッティングによって確認することができる。IL−15ドメイン又はIL−15Raドメインに結合したTCRを含有する融合タンパク質の発現を検出する別の方法が、実施例に開示されている。
【0115】
上記で概説されるように、宿主細胞は、所望の融合タンパク質をコードする核酸を増殖させるため、調製目的で使用することができる。すなわち、宿主細胞は、特に融合タンパク質の産生を目的とする原核細胞又は真核細胞を含有してもよい。従って、宿主細胞は、酵母、ハエ、虫、植物、カエル、哺乳動物の細胞、及び融合タンパク質をコードする核酸を増殖させることができる器官を特に含有する。使用することができる哺乳動物細胞株の限定ではない例は、CHO dhfr−細胞(Urlaub and Chasm, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 77:4216 (1980))、293細胞(Graham et al., J Gen. Virol., 36:59(1977))、又はSP2又はNSOなどの骨髄腫細胞(Galfre and Milstein, Meth. Enzymol., 73(B):3(1981))などである。
【0116】
所望の融合タンパク質をコードする核酸を増殖させることができる宿主細胞は、非哺乳動物真核細胞も包含し、昆虫(例えば、ヨトウガ(Sp. frugiperda)、酵母(例えば、Fleer R., Current Opinion in Biotechnology, 3(5):486496(1992)に概説されているような、出芽酵母(S. Cerevisae)、分裂酵母(S. pombe)、P.パストリス(P. pastoris)、K.ラクチス(K. lactis)、H.ポリモルファ(H. polymorpha))、真菌細胞、及び植物細胞などを包含する。大腸菌及びバチラス菌など、ある種の原核生物も意図される。
【0117】
所望の融合タンパク質をコードする核酸は、細胞を形質移入させるための標準的な技術によって宿主細胞の中に導入することができる。「形質移入する」又は「形質移入」という用語は、宿主細胞の中に核酸を導入するための従来技術のすべてを包含するものであり、カルシウムリン酸共沈殿法、DEAE−デキストランによる形質移入法、リポフェクション、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション、ウイルス形質導入法、及び/又は組み込みを包含する。宿主細胞に形質移入するのに適した方法は、Sambrook et al., supra 及びその他の実験用教科書に記載されている。
【0118】
本発明に従って、さまざまなプロモーター(転写開始調節領域)を用いることができる。適当なプロモーターの選択は、提案された発現宿主に応じて決まる。異種由来のプロモーターは、選択した宿主の中で機能すれば使用することができる。
【0119】
また、プロモーターの選択は、ペプチド産生又はタンパク質産生の所望の効率及びレベルに依存する。大腸菌におけるタンパク質の発現レベルを劇的に増加させるためには、しばしばtacのような誘導型プロモーターを用いる。タンパク質の過剰発現は、宿主細胞にとって有害である。その結果、宿主細胞の増殖が制限される可能性がある。誘導型プロモーター系を使用すると、遺伝子発現を誘導する前に許容できる濃度にまで宿主細胞を培養することができ、それによって、より高い産物収率を得やすくする。
【0120】
本発明に従って、さまざまなシグナル配列を用いることができる。TCRコード配列に相同なシグナル配列を用いることができる。あるいは、発現宿主における効率的な分泌及び処理のために選択された又は設計されたシグナル配列を用いることもできる。例えば、適当なシグナル配列/宿主の組み合わせには、枯草菌において分泌させるための枯草菌SacBシグナル配列、及び出芽酵母のα−接合因子、又はP.パストリスによる分泌を行わせるためのP.パストリスの酸性ホスファターゼphoIシグナル配列を含む。シグナル配列は、シグナルペプチダーゼ切断部位をコードする配列を介して、又は、通常10コドンよりも数個少ないコドンからなる短いヌクレオチド架橋であって、下流にあるTCR配列の正しい読み枠を担保する架橋を介して、タンパク質コード配列に直接連結することができる。
【0121】
転写及び翻訳を促進する要素が、真核生物のタンパク質発現系で同定されている。例えば、カリフラワーモザイクウイルス(CaMV)プロモーターの1000bpを異種プロモーターの両側に配置すると、植物細胞における転写レベルを10倍〜400倍上昇させることができる。発現構築物には、適当な翻訳開始配列も含まれなければならない。発現構築物を改変して、適正な翻訳開始を行わせるためのKozakコンセンサス配列を含有するようにすると、翻訳のレベルを10倍増加させることができる。
【0122】
選択用マーカーがしばしば用いられるが、これは、発現構築物の一部であってもよいし、それとは別になっていて、マーカーが目的遺伝子とは別の部位に組み込まれるようになっていてもよい(例えば、発現ベクターに担持されている)。例としては、抗生物質に対する耐性を付与するマーカー(例えば、blaは、大腸菌宿主細胞にアンピシリンに対する耐性を付与し、nptIIは、広範な原核細胞又は真核細胞にカナマイシン耐性を付与する)、又は、宿主が最少培地で増殖できるようにするマーカー(例えば、HIS4は、P.パストリス又はHis.sup.−出芽酵母を、ヒスチジンがなくても増殖できるようにする)が含まれる。選択可能マーカーは、マーカーが独立して発現できるよう、独自の転写及び翻訳の開始及び終結を調節する領域を有する。抗生物質耐性をマーカーとして利用する場合、選択のための抗生物質濃度は抗生物質によって変わるが、通常、培地1mLあたり抗生物質10〜600μgの範囲である。
【0123】
発現構築物は、公知の組換えDNA技術を用いて組み立てられる(Sambrook et al., 1989; Ausubel et al., 1999)。制限酵素消化及びライゲーションが、2つのDNA断片を連結するために用いられる基本的な工程である。ライゲーションする前にDNA断片の末端を修飾する必要があるが、これは、突出末端を充填したり、断片の末端部分をヌクレアーゼ(例えば、ExoIII)で削除したり、部位特異的変異処理(site-directed mutagenesis)したり、又はPCRによって新しい塩基対を付加したりして行うことができる。ポリリンカー及びアダプタを用いて、選択した断片の連結を促進することができる。発現構築物は、一般的には、制限酵素消化、ライゲーション、及び大腸菌の形質転換という一連の段階を用いる工程で組み立てられる。発現構築物を構築するのに適した数多くのクローニングベクターが、当該技術分野において知られており(λZAP及びpBLUESCRIPT SK−1, Stratagene, LaJolla, Calif. pET, Novagen Inc., Madison, Wis.、 Ausubel et al., 1999に引用されている)、具体的に何を選択するかは、本発明において重要ではない。クローニングベクターの選択は、発現構築物を宿主細胞に導入するために選択した遺伝子移入系によって影響される。各工程の終わりに、得られた構築物を制限酵素消化、DNA塩基配列決定法、ハイブリダイゼーション、及びPCR分析によって分析することができる。
【0124】
発現構築物は、線状であっても環状であっても、クローニングベクターの構築物として宿主に形質転換させることができ、あるいは、クローニングベクターから取り除き、送達ベクターとして使用するか、又は送達ベクター上に導入することができる。送達ベクターは、選択された宿主細胞型の中に発現構築物を導入して維持することを促進する。多くの公知の遺伝子導入系(例えば、自然受容能、化学物質による形質転換、プロトプラスト(protoplast)形質転換、エレクトロポレーション、バイオリスティック(biolistic)形質転換、形質移入、又は接合)のいずれかによって、発現構築物を宿主細胞の中に導入する(Ausubel et al., 1999; Sambrook et al., 1989)。選択される遺伝子導入系は、使用される宿主細胞及びベクター系に応じて変わる。
【0125】
例えば、プロトプラスト形質転換又はエレクトロポレーションによって、発現構築物を出芽酵母細胞の中に導入することができる。出芽酵母のエレクトロポレーションは簡単に行うことができ、スフェロプラスト(spheroplast)形質転換と同等の形質転換効率が得られる。
【0126】
本発明は、さらに、目的とする融合タンパク質を単離するための生産工程を提供する。この工程では、調節配列に動作可能に連結した、目的とするタンパク質をコードする核酸が既に導入されている宿主細胞(例えば、酵母細胞、真菌細胞、昆虫細胞、細菌細胞、又は動物細胞)を、目的の融合タンパク質をコードするヌクレオチド配列の転写を促進するための融合タンパク質が存在する培養培地において実生産スケールで増殖させる。その後、目的とする融合タンパク質を、回収した宿主細胞から、又は培養培地から単離する。標準的なタンパク質精製技術を用いて、目的とするタンパク質を、培地から、又は回収した細胞から単離することができる。具体的には、精製技術を用いて、ローラーボトル、スピナーフラスコ、組織培養皿、バイオリアクター、又は発酵槽を含む、さまざまな実施形態から、所望の融合タンパク質を大規模に(すなわち、少なくともミリグラム量で)発現及び精製することができる。
【0127】
発現したタンパク質融合複合体は、公知の方法によって単離及び精製することができる。一般的には、培養培地を遠心分離し、次いで、上清を、親和性クロマトグラフィー又は免疫親和性クロマトグラフィーによって、例えば、プロテインA若しくはプロテインGの親和性クロマトグラフィー、又は発現された融合複合体に、例えば、連結されたTCR又はその免疫グロブリン領域に結合するモノクローナル抗体の使用を含有する免疫親和性手順によって精製する。本発明に係る融合タンパク質は、公知の技術を適当に組み合わせて分離及び精製することができる。これらの方法には、例えば、塩沈殿及び溶媒沈殿のように、溶解度を利用する方法、透析、限界濾過、ゲル濾過、及びSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動のように、分子量の違いを利用する方法、イオン交換カラムクロマトグラフィーのように、電荷の違いを利用する方法、親和性クロマトグラフィーのように、特異的親和性を利用する方法、逆相高速液体クロマトグラフィーのように疎水性の違いを利用する方法、及び等電点電気泳動のように、等電点の違いを利用する方法、Ni−NTAなどの金属親和性カラムを包含する。これらの方法に関する開示について、一般に、Sambrook et al.及びAusubel et al. を参照されたい。
【0128】
本発明に係る融合タンパク質は実質的に純粋であることが好ましい。すなわち、融合タンパク質が、好ましくは、少なくとも80%又は90%〜95%の均質度(w/w)で存在するよう、融合タンパク質を、それを本来伴う細胞置換成分から単離する。多くの医薬、臨床、及び研究への適用場面では、少なくとも98〜99%の均質度(w/w)を有する融合タンパク質が最も好適である。実質的に精製されると、融合タンパク質は、治療への応用にとって汚染物質となるものを含まないはずである。可溶性融合タンパク質は、部分的に、又は実質的に純粋になるまで精製されると治療に用いることができ、又は、本明細書に開示されるようなインビトロアッセイ法又はインビボアッセイ法を行うときに使用することができる。実質的な純度は、クロマトグラフィー及びゲル電気泳動など、さまざまな標準的技術によって確認することができる。
【0129】
本発明に係る切断型TCR融合複合体は、TCR融合複合体が、発現後に培養培地中に分泌されるようになるまで十分に切断されているTCR分子を含有している。したがって、切断型TCR融合複合体は、疎水性残基に富む領域、一般的には、TCR分子の膜貫通ドメイン及び細胞質ドメインを含まない。したがって、例えば、本発明に係る好適な切断型DR1 TCR分子では、好ましくは、TCR分子のb鎖の約199番目〜237番目の残基、及びTCR分子のa鎖の約193番目〜230番目の残基が、切断型TCR融合複合体には含まれていない。
【0130】
本発明のTCR融合複合体及び結合体複合体は、1つ又はそれ以上の病気に感染した多様な細胞又は感染する可能性のある多様な細胞とともに、インビトロ又はインビボで使用するのに適している。
【0131】
(方法)
治療法
本発明は、患者において、疾患細胞が病気関連抗原を発現する病気を予防又は治療する方法を包含していて、方法は:病気関連抗原を認識する生物活性ポリペプチドを含有する可溶性融合タンパク質複合体を患者に投与すること、抗原を発現する病気細胞と、IL−15Rを発現する免疫細胞の間に、免疫細胞を局在化させるのに十分な特異的結合複合体(架橋)を形成させること、及び疾患細胞を損傷又は死滅させて、患者の病気を予防又は治療することを含有する。
【0132】
患者において、疾患細胞が病気関連抗原を発現する病気を予防又は治療する方法を含んでいて、方法は:IL−15R鎖を産生する免疫細胞を、病気関連抗原を認識する生物活性ポリペプチドを含有する可溶性融合タンパク質複合体、例えば、ペプチド/MHC複合体と混合すること、免疫細胞−融合タンパク質複合体の混合物を患者に投与すること、抗原を発現する病気細胞と、IL−15Rを発現する免疫細胞の間に、免疫細胞を局在化させるのに十分な特異的結合複合体(架橋)を形成させること、及び疾患細胞を損傷又は死滅させて、患者の病気を予防又は治療することを含有する。
【0133】
また、本発明には、標的細胞を死滅させる方法が包まれていて、方法は:請求項1に記載のIL−15ドメインによって認識されるIL−15R鎖を産生する免疫細胞を含み、可溶性融合タンパク質複合体を有する複数の細胞を、本明細書に記載されるような生物活性ポリペプチドの少なくとも1つによって認識される抗原を産生する標的細胞と接触させること、標的細胞上の抗原と免疫細胞上のIL−15R鎖の間に、免疫細胞に結合して活性化させるのに十分な特異的結合複合体(架橋)を形成させること、及び結合した活性化免疫細胞によって標的細胞を死滅させることを含有する。
【0134】
また、本発明には、可溶性融合タンパク質複合体の生成によって、IL−15のインビボにおける半減期を増加し、そして/又は、それが免疫細胞に安定して結合する能力を促進する(例えば、細胞表面に滞留する時間を長くする)ための方法も含まれる。例えば、本明細書に記載したように、融合タンパク質複合体の薬物動態パラメータ及び細胞表面滞留時間の評価を行い、IL−15と比較する。治療有用性の向上に基づくと、長い血中半減期か又は細胞表面滞留時間を有する融合タンパク質複合体が好ましい。
【0135】
治療可能な病気の例には、癌などの新生物形成症、又はウイルス感染症が含まれるが、これらに限定されない。「新生物形成症」は、不適切に高いレベルの細胞分裂、不適切に低いレベルのアポトーシス、若しくはその両方が原因となるか、又はそれらを生じさせる何れかの病気を意味する。例えば、癌が、新生物形成症の一例である。癌の例には、これらに限定されないが、白血病(例えば、急性白血病、急性リンパ性白血病、急性骨髄性白血病、急性骨髄芽球性白血病、急性前骨髄球性白血病、急性骨髄単球性白血病、急性単球性白血病、急性赤白血病、慢性白血病、慢性骨髄性白血病、慢性リンパ性白血病など)、真性多血症、リンパ腫(ホジキン病、非ホジキン病)、ワルデンストローム・マクログロブリン血症、重鎖病、及び肉腫及び癌腫などの固形腫瘍(例えば、線維肉腫、粘液肉腫、脂肪肉腫、軟骨肉腫、骨肉腫、脊索腫、血管肉腫、内皮肉腫、リンパ管肉腫、リンパ管内皮肉腫、滑膜腫、中皮腫、ユーイング肉腫、平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、結腸癌、膵臓癌、乳癌、卵巣癌、前立腺癌、扁平上皮癌、基底細胞癌、腺癌、汗腺癌、脂腺癌、乳頭癌、乳頭状腺癌、嚢胞腺癌、髄様癌、気管支原性肺癌、腎細胞癌、肝細胞癌、胆管癌、絨毛癌、精上皮腫、胚性癌腫、ウィルムス腫瘍、子宮頚癌、子宮癌、精巣癌、肺癌、小細胞肺癌、膀胱癌、上皮癌、神経膠腫、星状細胞腫、髄芽腫、頭蓋咽頭腫、上衣腫、松果体腫、血管芽腫、聴神経腫瘍、乏突起膠腫、神経鞘腫、髄膜腫、黒色腫、神経芽細胞腫、及び網膜芽細胞腫)が含まれる。リンパ球増殖性疾患も、増殖性疾患と見なされる。
【0136】
哺乳動物における免疫応答を刺激する方法であって、有効量の可溶性融合タンパク質複合体、又は本明細書に記載されるようなIL−15変異体を哺乳動物に投与することを包含する方法も含まれる。哺乳動物における免疫応答を抑制する方法であって、有効量の可溶性融合タンパク質複合体、又は本明細書に記載されるようなIL−15変異体を哺乳動物に投与することを包含する方法も含まれる。免疫抑制の場合には、IL−15βγc複合体に結合する能力を有しないIL−15アンタゴニスト又はIL−15ドメインを含有する、融合タンパク質複合体又はIL−15変異体が特に有益である。
【0137】
融合タンパク質複合体治療薬の用途の具体例として、培養細胞に単一の血清型の病原体を感染させることができる。そして、感染細胞を、インビトロにおいて特定の融合タンパク質複合体に接触させる。前述したように、融合タンパク質複合体は、TCRと結合することによって、感染細胞に毒性ドメインが提示されるように構成されている。生物活性分子を細胞に導入した(通常、約30分間未満)後、約2〜24時間までの間、一般的には、約18時間、細胞に所望の効果を生じさせる。この時間の後、細胞を適当な緩衝液又は細胞用培地で洗浄し、その後、生存力を評価する。融合タンパク質複合体による細胞の殺傷に充てる時間は、選択された具体的なエフェクター分子によって変わる。ただし生存力は、しばしば、約2〜6時間後〜約24時間までに測定することができる。より詳しくは後述するが、細胞の生存力は、ある種の公知の色素(例えば、トリパンブルー)又は蛍光の取り込みを観測することによって、容易に測定及び定量を行うことができる。
【0138】
本発明に係る融合タンパク質複合体とともにインキュベートされた細胞の生存力を、標準的な方法によって分析することができる。一つの例示的な方法では、インキュベーションした後又はその間にDNA複製を測定することにより、細胞の生存力を容易に分析することができる。例えば、好適なアッセイ法は、放射性標識チミジンなど、1つ又はそれ以上の検出可能に標識されたヌクレオシドの細胞への取り込みを含有する。この取り込みは、トリクロロ酢酸(TCA)沈殿の後にシンチレーション測定を行うなど、いくつかの従来法によって簡便に測定することが可能である。他の細胞生存力測定法には、周知のトリパンブルー排除技術、又はWST−1による増殖アッセイ法を含む。
【0139】
本発明に係る融合複合体のTCR分子は、アミノ酸配列が、天然のTCR分子、例えば、ヒト、マウス若しくは他の齧歯類、又は他の哺乳動物のTCR分子に適切に対応する。
【0140】
従って、自己免疫応答又は炎症応答を抑制するための本発明に係る一つの治療法は、病気関連抗原に対して結合特異性を有するT細胞受容体又は抗体を包含している融合タンパク質複合体を含有するであろう。好ましくは、「切断型」の可溶性TCR複合体が投与される。すなわち、TCR複合体は膜貫通部分を含まない。また、この融合タンパク質複合体は、不要な免疫応答を抑制するために、IL−15のアンタゴニストとして機能するIL−15変異体も含有する。投与後、TCRドメイン又は抗体ドメインは、融合タンパク質複合体を、IL−15アンタゴニストが自己免疫応答又は炎症応答を抑制する疾患部位を標的とする。このような融合タンパク質複合体は、アレルギー、自己免疫疾患、例えば、多発性硬化症、インスリン依存性糖尿病、及び関節リウマチ、又は移植片拒絶の治療に特に有用であり得る。アンタゴニストであるIL−15変異体を非融合タンパク質として用いて、同じような非標的化法を実施することもできる。
【0141】
免疫応答を誘導するための本発明に係る別の治療法は、サイトカインなどの何れかの共刺激エフェクター分子存在下で、有効量の本発明のタンパク質融合複合体を投与して、生物活性ポリペプチドに結合する提示抗原の存在する場所での所望の免疫応答の誘導を提供する。
【0142】
また、本発明に係るさまざまな療法を、抗炎症薬など、別の公知の療法剤と組み合わせて使用して、疾患のより有効な治療法を提供することも可能である。例えば、免疫抑制用タンパク質融合複合体又はIL−15変異体は、自己免疫疾患及びアレルギーを治療するために、副腎皮質ステロイド剤及び非ステロイド剤などの抗炎症薬と組み合わせて用いることができる。
【0143】
本発明に係る化合物は、悪性の病気、疾患、又は症状を有するか、又は有する疑いのあるヒト患者にとって特に有用である。本発明に係る化合物は、ヒト患者における特定の腫瘍抗原を標的とするのに特に有用である。本発明によって治療可能な病気の具体例には、癌、例えば、乳癌、前立腺癌など、ウイルス感染症、例えば、HCV、HIVなど、及び本明細書に記載される他の具体的疾患又は症状が含まれる。
【0144】
理論に縛られることなしに、本発明に係る複数の及び明確な共有結合化合物(即ち、少なくとも1つのTCRと組み合わせた少なくともIL−15)は、例えば、対象となる個体内の抗原を標的とするためにIL−15の標的化を増大することによって、IL−15の有効性を顕著に高めることができると考えられている。
【0145】
更に(その上)、共有結合を理由として、本発明に係る結合体は、対象細胞に対し、IL−15とTCRを実質的に同時に提示するものであり、これは、化合物を共有結合させることなしには、同じ化合物を薬剤「カクテル」処方で投与することによっては簡単に達成することができない効果である。
【0146】
また、一つの薬剤による治療が、次々に患者を別の薬剤に対して感作できることも報告されている。従って、本発明に係る結合体によって対象細胞に対してIL−15とTCRを実質的に同時に提示できることは、例えば、相乗効果をもたらすことによって、及び/又は免疫応答の発生を促進することによって、薬剤の活性を増大させることができる。
【0147】
診断方法
特定のpMHCリガンドに特異的な高親和性又は多価のTCRタンパク質は、その特定のpMHCに関連した病気を患っていると考えられるヒトなどの動物を診断するのに有用である。本発明に係る融合タンパク質複合体は、新生物形成症、異常タンパク質、自己免疫疾患、又は細菌、真菌、ウイルス、原生生物、酵母、線虫、もしくはその他の寄生生物による感染又は侵入に関連した抗原を含有するが、これらに限定されない、本質的にはあらゆる抗原を検出するのに有用である。
【0148】
このように、対象における腫瘍細胞若しくはウイルス感染細胞又は組織であって、MHC複合体と関連して細胞又は組織の上に提示される、腫瘍又はウイルスに関連したペプチド抗原を含有する細胞又は組織を検出する方法は、a)可溶性TCRを含有する、本発明に係る融合タンパク質複合体を、提示されたペプチド抗原とTCRとの間に特異的結合複合体を形成させる条件下で対象に投与すること;及びb)提示された腫瘍関連又はウイルス関連のペプチド抗原を含有する腫瘍細胞もしくはウイルス感染細胞もしくは組織が存在することの指標として特異的結合複合体を検出することを含有する。
【0149】
また、融合タンパク質複合体は、産生された異常タンパク質が存在するある特定の遺伝疾患の診断にも用いることができる。融合タンパク質複合体の適用例は、公知のpMHCが存在する自己免疫疾患の診断及び治療である。I型糖尿病は、免疫破壊を誘発する自己抗原について比較的よく特徴が調べられている。多発性硬化症、セリアック病、炎症性腸疾患、クローン病、及び関節リウマチが、そのような適用に対するさらなる候補疾患である。
【0150】
IL−15変異体ポリペプチドを含有する、本発明に係る融合タンパク質複合体は、これらの適用において特に有用であり得る。例えば、TCR分子を含有する融合タンパク質複合体では、本明細書に開示されるように、IL−15変異体ドメインとIL−15Raポリペプチドとの相互作用によって、増強された抗原結合活性を有する多価のTCR分子が生成される。さらに、このIL−15変異体は、IL−15RβγC受容体を産生する細胞への結合を失わせる可能性があるアミノ酸化を含み、それによって、免疫細胞への非特異的結合又は非標的結合を低下させる。その結果、このような融合タンパク質複合体によって、TCR特異的抗原の検出を向上させることができる。また、本明細書に開示されるように、ペプチドタグ配列又は検出可能標識への結合によって、本発明に係る融合タンパク質複合体を、さらに多量体化することもできる。
【0151】
用量及び投与
本発明に係る化合物の投与は、経口、局所(経皮、頬側、舌下など)、経鼻、及び非経口(腹腔内注射、皮下注射、静脈注射、皮内注射、又は筋肉内注射など)など、さまざまな適当な経路で行うことができるが、経口又は非経口が、通常は好適である。また、当然ながら、好適な投与法及び投薬量は、例えば、服用者の状態及び年齢によって異なる可能性がある。
【0152】
本発明に係る化合物は、単独で、又は公知の薬理学的活性を有する別の薬剤と組み合わせて、所望の適応症を治療するために使用することができる。薬剤の例には、手術、放射線照射、化学療法、及びその他の形態の免疫療法(例えば、ワクチン、抗体療法など)などの公知の治療薬が含まれる。本発明に係る化合物は、必要に応じて、そのような療法の前後や治療中に投与することができる。
【0153】
本発明に係る一つ又はそれ以上の化合物を単独で投与することができるが、それらは、従来の賦形剤、すなわち、非経口、経口、又はその他の所望の投与法に適し、かつ、活性化合物と有害な反応を起こすことなく、その服用者にも有害でない、薬学的に許容される有機担体物質又は無機担体物質と混合して、薬学的組成物の一部として存在することも可能である。本発明に係る薬学的組成物は、通常、本発明の一つ又はそれ以上の融合タンパク質複合体又はIL−15変異体、又はそのような化合物をコードするDNA構築物を、一つ又はそれ以上の許容される担体とともに含有する。担体は、処方剤の他の成分に適合し、その服用者に害を与えないという意味で「許容され」なければならない。薬学的に許容される適当な担体は、水、塩溶液、アルコール、植物油、ポリエチレングリコール、ゼラチン、ラクトース、アミロース、ステアリン酸マグネシウム、タルク、ケイ酸、粘性パラフィン、香油、脂肪酸モノグリセリド及び脂肪酸ジグリセリド、ペトロエトラル(petroethral)脂肪酸エステル、ヒドロキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドンなどを含有するが、これらに限定されない。医薬製剤は、滅菌することができ、必要があれば、活性化合物と有害な反応を起こさない補助剤、例えば、潤滑剤、保存剤、安定化剤、湿潤剤、乳化剤、浸透圧に影響を与える塩類、緩衝剤、着色剤、風味剤、及び/又は香料物質などと混合することができる。
【0154】
非経口適用に特に適しているのは、溶液、好ましくは、油性又は水性の溶液、及び懸濁液、エマルジョン、又は坐薬などの植込錠である。アンプルは、便利な単位用量である。
【0155】
腸内への適用に特に適しているのは、担体が、好ましくはラクトース及び/又はコーンスターチ及び/又はポテトスターチである、タルク及び/又は炭水化物の担体結合剤などを有する錠剤、糖衣錠、又はカプセル剤である。甘味付けされた賦形剤が用いられているシロップ、エリキシルなどを使用することができる。活性成分が、例えば、マイクロカプセル化、多段被覆などによって、分解性が異なる被覆剤で保護されている組成物などの徐放性組成物を処方することも可能である。
【0156】
また、本発明に係る治療用化合物は、リポソームに取り込ませることもできる。この取り込みは、例えば、超音波処理及び押し出し成形処理など、公知のリポソーム調製法によって行うことができる。リポソーム調製に適した常法が、例えば、A.D. Bangham et al., J. Mol. Biol., 23:238-252 (1965); F.Olson et al., Biochim. Biophys. Acta, 557:9-23(1979); F.Szoka et al., Proc. Nat. Acad. Sci., 75:4194-4198(1978); S. Kim et al., Biochim. Biophys. Acta, 728:339-348(1983); 及び Mayer et al., Biochim. Biophys. Acta, 858:161-168(1986)にも開示されている。
【0157】
また、本発明は、感染体や癌などの標的疾患に対して、ヒトなどの哺乳動物にワクチンを接種するなど、ヒトなどの哺乳動物において免疫応答を誘起する方法も提供する。
【0158】
これらの方法は、本発明に係る融合タンパク質複合体又はIL−15変異体をコードするDNAベクターを含有するDNA配列の有効量を哺乳動物に投与することを含有する。融合タンパク質複合体及びIL−15変異体の発現ベクターを調製する方法については、上記又は後述の実施例に記載されている。プラスミドDNAを投与する方法、そのDNAを、投与を受ける対象者の細胞に取り込ませる方法、及びタンパク質を発現させる方法が報告されている。Ulmer, J.B et al., Science (1993) 259:1745-1749 を参照されたい。
【0159】
本発明に係る融合タンパク質複合体及びIL−15変異体をコードするDNAベクターは、好ましくは、筋肉内注射によって、ヒトなどの哺乳動物に適当に投与することができる。哺乳動物の骨格筋にcDNAを投与し、その後、投与された発現ベクターが筋細胞によって取り込まれ、DNAによってコードされたタンパク質が発現することが、Ulmer et a., に記載されており、模範的な手順となっている[Ulmer, J.B. et al., Science 259:1745-1749]。所定の治療的適用に関する最適な用量は、従来の手段で決定することができる。
【0160】
ヒトの疾患を治療する以外に、本発明に係る融合タンパク質複合体及びIL−15変異体、並びにそのような分子をコードする本発明に係るDNA構築物(コンストラクト)は、例えば、ウシやヒツジなどの家畜、及びイヌやネコなどのペットの疾患の治療など、獣医学に適用するためにも大いに有用であるだろう。
【0161】
当然ながら、所定の療法において使用される、本発明に係る所定の融合タンパク質複合体及びIL−15変異体、又はそれらをコードする本発明に係るDNA構築物の実際の好適な量は、具体的な活性化合物又は利用される化合物、処方された具体的な組成物、適用する方法、具体的な投与部位、患者の体重、一般的な健康状態、性別など、治療を受けている具体的な適応症など、並びに、担当の医師や獣医など当業者が認識しているその他の因子に応じて変わるであろう。所定の投与手順に対する最適な投与速度は、例えば、前記したガイドライン及び本明細書に開示されるアッセイ法に関して実施される従来の用量決定試験を用いて、当業者が容易に決定することができる。
【0162】
(実施例)
当然のことながら、本発明は、以下に記載する実施例に限定されるものと解されるべきではなく、本明細書に記載されたあらゆる適用、及び当業者が適宜なし得る等価な改変もすべて含有するものと解されるべきである。
【実施例1】
【0163】
−scTCR/huIL15及びscTCR/huIL15Rα融合タンパク質を含有する融合タンパク質複合体の設計
IL−15は、IL−15Rαの細胞外ドメインに安定的に結合し、その結果生じた複合体は、中程度の親和性又は高親和性のIL−15R複合体を介して免疫応答を調節(すなわち、刺激又は阻止)することができるということが確認されている(1〜4)。また、単鎖TCR又は抗体ポリペプチドが、サイトカイン及び他の免疫エフェクタードメインと融合することができ、そのような二重特異性分子が、両方の融合ドメインの機能活性を保持していることが明らかにされている(5〜8)。さらに、多価型のTCRは、それらのリガンドへの結合を促進できることが示されている(9)。従って、本発明の特性は、第一のTCRポリペプチドがIL−15に融合している、少なくとも1つの融合タンパク質と、第二のTCRポリペプチドがIL−15Rαの細胞外ドメインに融合している、少なくとも1つの融合体とが、IL−15ドメインとIL−15Rαドメインの間の結合相互作用によって複合体を形成している、2つの融合タンパク質を含有する融合タンパク質複合体を提供する。このような融合タンパク質複合体において、TCRポリペプチドは、同じものであっても、異なったものであってもよく、また、単鎖であってもヘテロ二量体の形であってもよい。
【0164】
単鎖TCRポリペプチドを含有する融合タンパク質複合体の一例が、図1Aに概略図として示されている。この融合タンパク質複合体では、多価のTCRドメインが、それらのリガンドに対して高い結合親和力/親和性をもたらす。典型的なリガンドの例はペプチド/MHC複合体であるが、これに限定されない。IL−15/IL−15Rαドメインは、免疫調節活性をもたらす。融合タンパク質複合体を含有する代表的な融合タンパク質の構成を、図1Bに概略的に示す。これらの構成では、TCRポリペプチドは、ペプチドリンカー配列((G4S)4)によって連結されているTCR−Vαドメイン及びTCR−Vβ−Cβドメインからなる単鎖TCR(264scTCR)である。このscTCRポリペプチドを、直接、又はペプチドリンカー配列を介して、IL−15ドメイン又はIL−15Rαドメインに融合させる。scTCRポリペプチドの前には、可溶性発現を可能にするシグナルペプチド(又はリーダーペプチド)配列が存在する。シグナルペプチドは、その後タンパク質の輸送過程で切断されて、成熟融合タンパク質が生成される。融合タンパク質複合体の別の例では、図1A及び1Bで図示したTCRドメインを抗体ドメインで置き換えることができる。このような抗体は、単鎖形式であっても、ヘテロ多量体形式であってもよい。上記の融合タンパク質複合体のいずれについても、配列は、ヒトの配列であっても、ヒト以外の配列、例えば、限定されるわけではないが、マウスの配列であってもよい。これらの配列を、融合タンパク質ドメインの一部又は全てについて用いることができる。また、ドメインの配列は、融合タンパク質が可溶性かつ機能的であるかぎり、どのように変えてもよい。
【実施例2】
【0165】
−発現ベクターにおけるc264scTCR/huIL15遺伝子融合体の構築
p53(aa264−272)−特異的TCRに関するTCR遺伝子の単離及び特徴については既に記載されている(5〜7)。ヒトのIL−15遺伝子及びIL−15Rα遺伝子を得るために、ドナー(ロット番号:2238789、Community Blood Bank, Miami, FL)の200mLの血液から、HISTOPAGUE−1077(Sigma)を用いてヒトのPBMCを単離した。細胞(1.5×107)を、10%FBSを含有するIMDM中30ng/mlのPMA(Sigma)、200ng/mlのイオノマイシン、及び220ng/mlの組換えヒトIL2によって、CO2インキュベータ内にて10日間活性化した。活性化した細胞(1×107/mL)を、さらなる使用に備えて−70℃で凍結した。活性化PBMCから全RNAを精製するために、RNEASY PLUS MINI(Qiagen)を製造業者の手順に従って使用した。この全RNAから、前方プライマーとして、
5’−CACCTTGCCATAGCCAGCTCTTC−3’を、
また、後方プライマーとして、
5’−GTCTAAGCAGCAGAGTGATGTTTG−3’を用いて、SUPERSCRIPT IIIワンステップRT−PCRプラチナタグHiFi(Invitrogen)によって、以下の条件に従って、コーディング領域、並びに5’側及び3’側の隣接領域の一部を含有するヒトIL−15遺伝子を増幅した:RTには、55℃にて30分間;94℃にて2分間;cDNA増幅には、94℃にて30秒間;53℃にて30秒間;68℃にて1分間;×40サイクル;68℃にて5分間。600bpのヒトIL−15のPCR−cDNA産物を、1%アガロースゲル上で電気泳動によって分離し、単離した。このcDNA産物を、Qiaquickゲル抽出キット(Qiagen)を用いてアガロースから精製した。この600bpのヒトIL−15のcDNAから、前方プライマーとして、
5’−TGGTTAACAACTGGGTGAATGTAATAAGTG−3’を、
また、後方プライマーとして、
5’−ACGCGTTTATCAAGAAGTGTTGATGAACATTTGGAC−3’を用いて、PfuUltra(Stratagene)によって、以下のPCR条件下で成熟ヒトIL−15タンパク質の遺伝子を増幅した:94℃にて1分間;63℃にて1分間;72℃にて1分間;×35サイクル;72℃にて10分間。成熟ヒトIL−15タンパク質の遺伝子をゲル精製してから、製造業者の手順に従いTOPO反応によって、シャトルベクターであるpcDNA3.1 Directional TOPO発現ベクター(Invitrogen)にクローニングした。前方プライマーとして、
5’−TGGTTAACAACTGGGTGAATGTAATAAGTG−3’を、
また、後方プライマーとして、
5’−ACGCGTTTATCAAGAAGTGTTGATGAACATTTGGAC−3’を用いた診断PCRに基づき、RedTag(Sigma)によって、以下の条件下で、成熟ヒトIL−15タンパク質遺伝子である挿入配列を含有するクローンを同定した:94℃にて1分間;63℃にて1分間;72℃にて1分間;×35サイクル;72℃にて10分間。製造業者の手順に従って、QUICK START KIT(Beckman Coulter)を用いたGenomeLab Dye Termination Cycle SequencingによるDNA塩基配列決定法によって、正しいクローンの配列を確認した。HpaI及びMluIで消化して、シャトルベクターから成熟ヒトIL−15タンパク質遺伝子を取り出して、HpaI及びMluIで消化しておいた発現ベクターpNEF38−c264scTCRにライゲーションした。pNEF38−c264scTCR発現ベクターは、p53(aa264−272)ペプチド特異的な可溶性キメラ単鎖TCRタンパク質(c264scTCR)に連結した免疫グロブリン軽鎖リーダー(又は分泌シグナル)配列をコードする遺伝子断片を含んでいる(5)。また、このベクターは、5’調節/エンハンサー領域、転写調節領域及びプロモーター領域、Kozakコンセンサス配列及びポリ−A終結領域を含有する翻訳調節/開始/終結配列、並びに推定マトリックス結合調節因子を有する3’調節領域も含んでいる。このベクターは、哺乳動物細胞(SV40プロモーター/neoR遺伝子/ポリ−A)及びバクテリア(ori/amp遺伝子)の中での選択的な増殖を可能にするDNA配列も含んでいる。成熟ヒトIL−15タンパク質をコードするDNA断片を、pNEF38−c264scTCRベクターの中にクローニングしたところ、以下の配列を含有するc264scTCR/huIL15融合遺伝子が得られた:3’−免疫グロブリン軽鎖リーダー−264 TCR V−α−ペプチドリンカー−264 TCR V−β−ヒトTCR C−β−ヒトIL−15。得られたベクター(pNEF38−c264scTCR/huIL15)が図2Aに示されているが、これは、診断PCRに基づいて同定され、DNA塩基配列決定法によって再確認されたものである。c264scTCR/huIL15融合遺伝子及びそのタンパク質の配列(リーダー配列を含有する)をそれぞれ図2Bと図2Cに示す。
【実施例3】
【0166】
−変異ヒトIgG1ヒンジ領域を含有するc264scTCR/huIL15遺伝子融合体の発現ベクターにおける構築
pNEF38−c264scTCR/huIL15ベクターの構築は、実施例2で説明されている。3個のシステイン残基が3個のセリン残基で置換されている、ヒトIgG1のH鎖に由来する変異型ヒンジ領域を用いて、c264scTCRとhuIL15を連結させた。このヒンジ領域を、既述の264scTCR/IgGl遺伝子(7)から、前方プライマーとして、
5’−TGGTGGGTTAACGAGCCCAAATCTTCTG−3’を、
また、後方プライマーとして、
5’−ATTATTACGCGTTGGAGACGGTGGAGATG−3’を用いて、PfuUltra(Stratagene)によって、以下のPCR条件下で変異及び増幅させた:94℃にて30秒間;65℃にて30秒間;70℃にて1分間;×35サイクル;72℃にて10分間。この70bpの変異型ヒトIgG1ヒンジのPCR−cDNA産物を1%アガロースゲル上で電気泳動によって分離し、単離した。このcDNA産物を、Qiaquickゲル抽出キット(Qiagen)を用いてアガロースから精製した。この変異型ヒンジ領域遺伝子をHpaI及びMluIで消化し、HpaI及びMluIで消化しておいたpNEF38−c264scTCRにライゲーションした。この変異型ヒンジ領域遺伝子である挿入配列を含有するクローンを、前方プライマーとして、
5’−TGAGTGATCGATACCACCATGGAGACAGACAC−3’を、
また、後方プライマーとして、
5’−ATTATTACGCGTTGGAGACGGTGGAGATG−3’を用いた診断PCRに基づき、RedTag(Sigma)によって、以下の条件下で同定した:94℃にて30秒間;64℃にて30秒間;70℃にて1分間;×35サイクル;72℃にて10分間。前方プライマーとして、
5’−TGGTGGACGCGTAACTGGGTGAATG−3’を、
また、後方プライマーとして、
5’−TGGTGGTCTAGAATTATCAAGAAGTGTTGATG−3’を用いて、PfuUltra(Stratagene)によって、以下のPCR条件下で、実施例2に記載されたpNEF38−c264scTCR/huIL15ベクターからhuIL−15を増幅した:94℃にて30秒間;65℃にて30秒間;70℃にて1分間;×35サイクル;72℃にて10分間。この380bpのhuIL−15のPCR−cDNA産物を1%アガロースゲル上で電気泳動によって分離し、単離した。このcDNA産物を、Qiaquickゲル抽出キット(Qiagen)を用いてアガロースから精製した。このhuIL15遺伝子をMluI及びXbaIで消化し、MluI及びXbaIで消化しておいた、変異型ヒンジ遺伝子を含有するpNEF38−c264scTCRにライゲーションした。huIL−15遺伝子である挿入配列を含有するクローンを、前方プライマーとして、
5’−TGAGTGATCGATACCACCATGGAGACAGACAC−3’を、
また、後方プライマーとして、
5’−TGGTGGTCTAGAATTATCAAGAAGTGTTGATG−3’を用いた診断PCRに基づき、RedTag(Sigma)によって、以下の条件下で同定した:94℃にて30秒間;64℃にて2分間;70℃にて2分間;×35サイクル;72℃にて10分間。製造業者の手順に従って、QUICK START KIT(Beckman Coulter)を用いたGenomeLab Dye Termination Cycle SequencingによるDNA塩基配列決定法によって正しいクローンの配列を確認した。pNEF38−c264scTCR発現ベクターは、上記実施例2に記載されている。変異型ヒトIgG1ヒンジ領域及び成熟ヒトIL−15タンパク質をコードするDNA断片をpNEF38−c264scTCRベクターの中にクローニングしたところ、以下の配列を含有するc264scTCR−hmt−huIL15融合遺伝子が得られた:3’−免疫グロブリン軽鎖リーダー−264 TCR V−α−ペプチドリンカー−264 TCR V−β−ヒトTCR C−β−変異型ヒトIgG1ヒンジ−ヒトIL−15。得られたベクター(pNEF38−c264scTCR−hmt−huIL15)が図3Aに示されているが、これは、診断PCRに基づいて同定され、DNA塩基配列決定法によって再確認されたものである。c264scTCR−hmt−huIL15融合遺伝子及びそのタンパク質の配列(リーダー配列を含有する)をそれぞれ図3Bと図3Cに示す。
【実施例4】
【0167】
−発現ベクターにおけるc264scTCR/huIL−15RαΔE3遺伝子融合体の構築
PBMCの全RNAを上記のように調製した。このPBMCの全RNAから、前方プライマーとして、
5’−AGTCCAGCGGTGTCCTGTGG−3’を、
また、後方プライマーとして、
5’−TGACGCGTTTAAGTGGTGTCGCTGTGCCCTG−3’を用いて、SUPERSCRIPT IIIワンステップRT−PCRプラチナタグHiFi(Invitrogen)によって、以下の条件に従って、コーディング領域、並びに5’側及び3’側の隣接領域の一部を含有するヒトIL−15Rα遺伝子を増幅した:RTには、55℃にて30分間;94℃にて2分間;cDNA増幅には、94℃にて1分間;66℃にて1分間;72℃にて1分間;×35サイクル;72℃にて5分間。970bpのヒトIL−15RαのPCR−cDNA産物を、1%アガロースゲル上で電気泳動によって分離し、単離した。このcDNAを、Qiaquickゲル抽出キット(Qiagen)を用いてアガロースから精製した。この970bpのヒトIL−15RαのcDNAから、前方プライマーとして、
5’−TGGTTAACATCACGTGCCCTCCCCCCATG−3’を、
また、後方プライマーとして、
5’−TGACGCGTTTAAGTGGTGTCGCTGTGCCCTG−3’を用いて、PfuUltra(Stratagene)によって、以下のPCR条件下でヒトIL−15Rαの細胞外ドメイン遺伝子を増幅した:94℃にて1分間;72℃にて2分間;×35サイクル;72℃にて10分間。ヒトIL−15Rαの細胞外ドメイン遺伝子をゲル精製してから、製造業者の手順に従い、TOPO反応によって、シャトルベクターであるpcDNA3.1 Directional TOPO発現ベクター(Invitrogen)にクローニングした。正しいヒトIL−15Rα細胞外ドメイン遺伝子である挿入配列を含有するクローンを、診断PCRに基づいて選び出し、製造業者の手順に従った、QUICK START KITを用いたGenomeLab Dye Termination Cycle SequencingによるDNA塩基配列決定法によって再確認した。この遺伝子は、ヒトIL−15RαΔE3細胞外ドメイン遺伝子であると判定された。HpaI及びMluIで消化して、シャトルベクターからヒトIL−15RαΔE3細胞外ドメイン遺伝子を取り出して、HpaI及びMluIで消化しておいたpNEF38−c264scTCRにライゲーションした。ヒトIL−15RαΔE3細胞外ドメインをコードするDNA断片を、pNEF38−c264scTCRベクターの中にクローニングしたところ、以下の配列を含有するc264scTCR/huIL−15Rα融合遺伝子が得られた:3’−免疫グロブリン軽鎖リーダー−264 TCR V−α−ペプチドリンカー−264 TCR V−β−ヒトTCR C−β−IL−15RαΔE3細胞外ドメイン。得られたベクター(pNEF38−c264scTCR/huIL−15RaDE3)は、図4Aに示されており、正しいIL−15RαΔE3細胞外ドメイン遺伝子である挿入配列を含んでいることを、診断PCRに基づいて同定して、DNA塩基配列決定法によって再確認した。c264scTCR/huIL−15RαΔE3遺伝子及びそのタンパク質の配列を、それぞれ図4Bと図4Cに示す。
【実施例5】
【0168】
−発現ベクターにおけるc264scTCR/huIL−15RαSushi遺伝子融合体の構築
PBMCの全RNAを上記のように調製した。970bpのヒトIL−15RαのcDNA(実施例3を参照されたい)から、前方プライマーとして、
5’−TGGTTAACATCACGTGCCCTCCCCCCATG−3’を、
また、後方プライマーとして、
5’−TTGTTGACGCGTTTATCTAATGCATTTGAGACTGG3’を用いて、PfuUltra(Stratagene)によって、以下のPCR条件下でヒトIL−15RαSushi遺伝子を増幅した:94℃にて1分間;66℃にて1分間;70℃にて1分間;×35サイクル;72℃にて10分間。ヒトIL−15RαSushi遺伝子のPCR産物をゲル精製して、HpaI及びMluIで消化した。この遺伝子を、HpaI及びMluIで消化しておいたpNEF38−c264scTCRにライゲーションした。ヒトIL−15RαSushiドメインをコードするDNA断片を、pNEF38−c264scTCRベクターの中にクローニングしたところ、以下の配列を含有するc264scTCR/huIL−15Rα融合遺伝子が得られた:3’−免疫グロブリン軽鎖リーダー−264 TCR V−α−ペプチドリンカー−264 TCR V−β−ヒトTCR C−β−ヒトIL−15RαSushi。得られたベクターは、図5Aに示されており、正しいヒトIL−15RαSushi遺伝子である挿入配列を含んでいることを、診断PCRに基づいて同定して、DNA塩基配列決定法によって再確認した。c264scTCR/huIL−15RαSushi遺伝子及びそのタンパク質の配列を、それぞれ図5Bと図5Cに示す。
【実施例6】
【0169】
−変異型ヒトIgG1ヒンジ領域を含有するc264scTCR/huIL−15RαSushi遺伝子融合体の発現ベクターにおける構築
pNEF38−c264scTCR/huIL15RαSushiベクターの構築は上述されている。3個のシステイン残基が3個のセリン残基で置換されている、ヒトIgG1のH鎖に由来する変異型ヒンジ領域を用いて、c264scTCRとhuIL15RαSushiを連結させた。ヒンジ領域は、上記したようにして変異、増幅、ライゲーション、及び確認を行った。前方プライマーとして、
5’−TAATAAACGCGTATCACGTGCCCTC−3’を、
また、後方プライマーとして、
5’−TGGTGGTCTAGATTATCATCTAATGCATTTG−3’を用いて、PfuUltra(Stratagene)によって、以下のPCR条件下で、上記のpNEF38−c264scTCR/huIL15RαSushiベクターからhuIL15RαSushiを増幅した:94℃にて30秒間;65℃にて30秒間;70℃にて1分間;×35サイクル;72℃にて10分間。この250bpのhuIL15RαSushiのPCR−cDNA産物を1%アガロースゲル上で電気泳動によって分離し、単離した。このcDNA産物を、Qiaquickゲル抽出キット(Qiagen)を用いてアガロースから精製した。このhuIL15RαSushi遺伝子をMluI及びXbaIで消化し、MluI及びXbaIで消化しておいた、変異型ヒンジ遺伝子を含有するpNEF38−c264scTCRにライゲーションした。前方プライマーとして、
5’−TGGTGGGTTAACGAGCCCAAATCTTCTG−3’を、
また、後方プライマーとして、
5’−TGGTGGTCTAGATTATCATCTAATGCATTTG−3’を用いて、以下の条件下で、RedTag(Sigma)によって、診断PCRに基づき、huIL−15遺伝子である挿入配列を含有するクローンを同定した:94℃にて30秒間;65℃にて1分間;70℃にて1分間;×35サイクル;72℃にて10分間。製造業者の手順に従って、QUICK START KIT(Beckman Coulter)を用いたGenomeLab Dye Termination Cycle SequencingによるDNA塩基配列決定法によって正しいクローンの配列を確認した。pNEF38−c264scTCR発現ベクターは、上記されている。変異型ヒトIgG1ヒンジ領域及びヒトIL−15RαSushiタンパク質をコードするDNA断片をpNEF38−c264scTCRベクターの中にクローニングしたところ、以下の配列を含有するc264scTCR−hmt−huIL15RαSushi融合遺伝子が得られた:3’−免疫グロブリン軽鎖リーダー−264 TCR V−α−ペプチドリンカー−264 TCR V−β−ヒトTCR C−β−変異型ヒトIgG1ヒンジ−ヒトIL−15RαSushi。得られたベクター(pNEF38−c264scTCR−hmt−huIL15RαSushi)が図6Aに示されており、診断PCRに基づいて同定して、DNA塩基配列決定法によって再確認した。c264scTCR−hmt−huIL15RαSushi融合遺伝子及びそのタンパク質の配列(リーダー配列を含む)が、それぞれ図6Bと図6Cに示されている。
【実施例7】
【0170】
−単一の発現ベクターにおけるc264scTCR/huIL15RαSushi遺伝子及びc264scTCR/huIL15遺伝子の構築
本発明に係る2つの融合タンパク質を単一の宿主細胞の中で発現させるために、c264scTCR/huIL15RαSushi及びc264scTCR/huIL15をコードする遺伝子を、単一の発現ベクターにクローニングした。c264scTCR/huIL15RαSushi遺伝子は、前方プライマーとして、
5’−TGAGTGTCCGGAACCACCATGGAGACAGACAC−3’を、
また、後方プライマーとして、
5’−TTGTTGGCGGCCGCTTATCATCTAATGCATTTGAG−3’を用いて、以下の条件下で、PfuUltra(Stratagene)によって、実施例5に記載された鋳型から増幅した:94℃にて1分間;68℃にて1分間;72℃にて2分間;×35サイクル;72℃にて10分間。c264scTCR/huIL15RαSushi遺伝子のPCR産物をゲル精製し、BspEI及びNotIで消化し、BspEI及びNotIで消化しておいたpSUN34Rl発現ベクターにライゲーションした。pSUN34Rl発現ベクターは、目的とする遺伝子をクローニングするため、また、5’調節/エンハンサー領域、転写調節領域及びプロモーター領域、Kozakコンセンサス配列及びポリ−A終結領域を含有する翻訳調節/開始/終結配列、並びに調節因子を有するイントロン及び3’領域をクローニングするための2つの部位を含んでいる。また、このベクターは、哺乳動物細胞(SV40プロモーター/neoR遺伝子/ポリ−A)及びバクテリア(ori/amp遺伝子)の中での選択的な増殖を可能にするDNA配列も含んでいる。正しいc264scTCR/huIL15RαSushi遺伝子である挿入配列を含有するベクターを、診断PCRに基づいて同定し、DNA塩基配列決定法によって再確認した。c264scTCR/huIL15遺伝子は、前方プライマーとして、
5’−TGAGTGATCGATACCACCATGGAGACAGACAC−3’を、
また、後方プライマーとして、
5’−TGAGTGTTCGAATTATCAAGAAGTGTTGATGAAC−3’を用いて、以下の条件下で、PfuUltra(Stratagene)によって、実施例2に記載された鋳型から増幅した:94℃にて1分間;65℃にて1分間;72℃にて2分間;×35サイクル;72℃にて10分間。c264scTCR/huIL15遺伝子のPCR産物をゲル精製し、ClaI及びCsp45Iで消化し、ClaI及びCsp45Iで消化しておいたpSUN34Rl−c264scTCR/huIL15RαSushi発現ベクターにライゲーションした。得られたベクター(pSun−c264scTCRIL15/c264scTCRIL15RaSushi)は図7に示されており、正しいc264scTCR/huIL15遺伝子である挿入配列を含んでいることを、診断PCRに基づいて同定して、DNA塩基配列決定法によって再確認した。このベクターは、c264scTCR/huIL15RαSushi遺伝子及びc264scTCR/huIL15遺伝子の両方を含んでいる。
【実施例8】
【0171】
−単一の発現ベクターにおけるc264scTCR/huIL15RαΔE3遺伝子及びc264scTCR/huIL15遺伝子の構築
c264scTCR/huIL15RαΔE3融合遺伝子は、前方プライマーとして、
5’−TGAGTGTCCGGAACCACCATGGAGACAGACAC−3’を、
また、後方プライマーとして、
5’−TTGTTGGCGGCCGCTTATCAAGTGGTGTCGCTG−3’を用いて、以下の条件下で、PfuUltra(Stratagene)によって、実施例4に記載された鋳型から増幅した:94℃にて1分間;68℃にて1分間;72℃にて2分間;×35サイクル;72℃にて10分間。c264scTCR/huIL15RαΔE3遺伝子のPCR産物をゲル精製し、BspEI及びNotIで消化して、BspEI及びNotIで消化しておいた発現ベクターpSUN34R1にライゲーションした。正しいc264scTCR/huIL15RαΔE3遺伝子である挿入配列を含有するベクターを、診断PCRに基づいて同定し、DNA塩基配列決定法によって再確認した。実施例7に記載されたようにして、c264scTCR/huIL15遺伝子を増幅し、発現ベクターにクローニングした。得られたベクター(pSun−c264scTCRIL15/c264scTCRIL15RaDE3)は図8に示されており、正しいc264scTCR/huIL15遺伝子である挿入配列を含んでいることを、診断PCRに基づいて同定して、DNA塩基配列決定法によって再確認した。このベクターは、c264scTCR/huIL15RαΔE3遺伝子及びc264scTCR/huIL15遺伝子の両方を含んでいる。
【実施例9】
【0172】
−融合タンパク質を産生する、形質移入された宿主細胞株の作製
いくつかの異なった形質転換法、形質移入法、又は形質導入法によって、発現ベクターをさまざまな宿主細胞株に導入することができる。このような方法の一つでは、CHO−K1細胞(5×104)を6ウェルプレートに播種して、CO2インキュベータ内で一晩培養した。この細胞に、TCR/IL15融合遺伝子及び/又はTCR/IL15Rα融合遺伝子を含有する5μgの発現ベクターを、10μLのMirus TransIT−LT1試薬(Mirus)を製造業者の手順に従って使用して形質移入した。形質移入した1日後に、4mg/mLのG418(Invitrogen)で細胞を選択した。G418耐性細胞を増大させ、後述するようにMACS選択を3〜5回行うことによって、TCR融合タンパク質発現細胞を濃縮した。細胞を10mMのEDTAで剥離し、10%FBS含有IMDMで1回洗浄した。細胞を再懸濁(100μL中107細胞)し、5μgのR−フィコエリトリン(PE)を結合したp53(aa264−272)/HLA−A2テトラマー試薬とともに4℃で15分間インキュベートした。細胞を1回洗浄し、抗PE抗体結合磁気ビーズ(Miltenyi Biotec)とともに4℃で15分間インキュベートした。細胞を磁気カラム(磁場内にある)に負荷し、結合しなかった細胞を洗浄用緩衝液(0.5%BSA含有PBS)で除去した。カラムを磁場から引き離した後、カラムに結合した細胞を10%FBS含有IMDMで溶出した。この方法は、産生/分泌過程での細胞表面上における可溶性融合タンパク質の一過性の提示に基づいて、融合タンパク質発現細胞の濃縮を可能にする。各濃縮工程の後に、細胞表面への融合タンパク質の結合を観測した。フローサイトメトリーによって測定した、細胞表面に結合した融合タンパク質のレベルを、ELISAによって測定した、細胞培養培地中に存在する可溶性融合タンパク質のレベルと比較した。比較の一例を図9A及び9Bに示す。この例では、pNEF38−c264scTCR/huIL15RαSushiを遺伝子移入したCHO−K1細胞を、MACSによって1〜5回濃縮して、6ウェルプレート上に播種した(1×106細胞/ウェル)。そして、24時間後、細胞を10mMのEDTAで剥離し、IMDM+10%FBSで1回洗浄し、0.6μgのPE結合p53(aa264−272)/HLA−A2四量体、又は同量の対照PE結合CMVpp65(aa495−503)/HLA−A2四量体とともに4℃で30分間染色した(2×105細胞/100μLのIMDM+10%FBS)。細胞を1回洗浄し、図9Aに示したように、細胞表面に結合した可溶性融合タンパク質のレベルをフローサイトメトリーによって分析した。また、図9Bに示したように、細胞培養培地の中に分泌される可溶性融合タンパク質のレベルも、捕捉用抗体である抗ヒトTCR Cβ抗体(BF1)、及び検出用抗体である、既述(5)のビオチン化抗ヒトTCR Cβ抗体(W4F)を用いたTCR特異的ELISAによって測定した。その結果、磁気ビーズによる濃縮工程によって、より高レベルの可溶性融合タンパク質を産生する形質転換体が得られたことが示された。そして、濃縮された形質転換細胞を、限界希釈法によって3回サブクローニングし、培養培地に分泌される可溶性融合タンパク質のレベルに基づいて(上記したELISAによって測定する)、産生細胞株をスクリーニングした。産生細胞株を、IMDM+10%FBS培地又は無血清培地内において、可溶性融合タンパク質を生成させるのに適した条件下(すなわち、フラスコ、スピナー、発酵器、バッグ、ビン)で拡張及び増殖させた。
【0173】
場合によっては、さまざまな発現ベクターによって宿主細胞を同時形質移入して、複数の融合タンパク質を発現できる形質転換体を作出した。また、ある融合タンパク質を発現する形質転換体を、1つ又はそれ以上の発現ベクターで再形質移入して、複数の融合タンパク質を発現する形質転換体を作出することもできた。また、実施例7及び8に例示されるように、2つ以上の融合タンパク質遺伝子を含有する発現ベクターによって細胞に形質移入して、複数の融合タンパク質を発現する形質転換体を作出した。得られた細胞を用いて、本発明の多成分融合タンパク質複合体を可溶性分子として細胞培養培地の中に産生させることができた。
【0174】
また、高いレベルの融合タンパク質又は融合タンパク質複合体の産生も、米国特許出願第09/204,979号に記載された細胞形質移入法及び選択法によって行うことが可能である。
【実施例10】
【0175】
−TCR/IL15融合タンパク質及びTCR/IL15Rα融合タンパク質、又は融合タンパク質複合体の精製
本発明に係る可溶性融合タンパク質又は融合タンパク質複合体は、さまざまな方法を用いて、例えば、溶媒中における選択的な分配又は可溶性によって、又は、電荷、疎水性、親水性、サイズ、及び/若しくはリガンドに対する選択的若しくは半選択的な結合に基づく分離(すなわち、クロマトグラフィー)によって、宿主細胞又は細胞培養培地から精製することができる。可溶性の融合タンパク質又は融合タンパク質複合体は、適当なタンパク質折り畳み条件を用いることで、不溶性物質から作出することができる。一例では、ヒトTCR−Cβドメインを認識する抗体(BF1)を用いた親和性クロマトグラフィーによって、c264scTCR/IL15融合タンパク質を細胞培養培地から精製した。一般的には、まず、pH8.0の20mM Tris−HCl(ローディング緩衝液でBF1結合セファロース(Sepharose)を含有するカラムを平衡化し、c264scTCR/IL15融合タンパク質を含有するpH調整細胞培養培地を、2ml/分で負荷した。そして、このカラムを、5倍カラム量のローディング緩衝液で洗浄して、未結合のタンパク質を除去し、4倍カラム量の0.5Mクエン酸ナトリウム、pH4で、c264scTCR/IL15融合タンパク質を溶出した。回収した後、pH8.0の2M Tris−HClで溶出液を調整した。精製したタンパク質をPBSに入れて緩衝液を交換して、0.22μmフィルターを用いて濾過した。BF1カラムを、pH3.0の50mMグリシンHClで処理して、4℃の20%エタノール中で次の使用時まで保存した。この融合タンパク質は、イオン交換クロマトグラフィー及び/又はサイズ排除クロマトグラフィーによって、さらに精製することができた。c264scTCR/IL15融合タンパク質、c264scTCR/IL15RαSushi融合タンパク質、及びc264scTCR/IL15RαΔE3融合タンパク質を含有する細胞培養上清を、上記の方法で精製し、精製した融合タンパク質のサンプルを、還元的条件下でSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動して、その後、クマシーブリリアントブルーで染色して分析を行った。このようなゲルの例を図10に示す。主要なタンパク質バンドは、融合タンパク質の配列から予測された正確な分子量に相当している。
【実施例11】
【0176】
−TCR/IL15融合タンパク質及びTCR/IL15Rα融合タンパク質の融合タンパク質複合体の生成
IL−15は、細胞外IL−15Rαドメインに高い親和性で特異的に結合する(4)。従って、IL−15ドメイン及びIL−15Rαドメインを有する融合タンパク質の複合体を、発現細胞内、又は細胞外で未精製若しくは精製後の融合タンパク質によることを含む、さまざまな条件下で形成させることができる。一例では、等モル量の精製融合タンパク質を適当な条件下(すなわち、室温にて10分間)で混合して、融合タンパク質複合体を形成させることができる。複合体形成は、直接的結合アッセイ法、競合的結合アッセイ法、免疫沈殿法、表面プラズマ共鳴法、又は、複合体の大きさ、活性、若しくはその他の性質に基づく分析法など、さまざまな技術を用いて観測することができる。例えば、図11に示すように、サイズ排除クロマトグラフィーによって、分子量に基づいて、c264scTCR/huIL15融合タンパク質及びc264scTCR/huIL15RαSushi融合タンパク質を含有する複合体の形成を観測することができる。この検討では、分析を行うために、約100μgのc264scTCR/huIL15(0.5mg/ml)をSuperdex200HR10/30カラムに負荷した。c264scTCR/huIL15について計算された分子量は約57kDである。SECプロファイル(図11A)に基づくと、推定分子量は約98kDであり、この融合タンパク質が単量体である可能性が高いことを示唆している。同様に、約60μgのTCR/huIL15RαSushi融合タンパク質(0.3mg/ml)をSuperdexカラムに負荷した。c264scTCR/huIL15RαSushiについて計算された分子量は約52kDである。SECプロファイル(図11B)に基づくと、融合タンパク質の推定分子量は約81kDであり、ここでも、この融合タンパク質が単量体である可能性が高いことを示唆している。別のTCRによる融合タンパク質の以前のSEC分析でも、グリコシル化された融合タンパク質の単量体の計算された分子量と推定分子量との間には同様の差異が示された。c264scTCR/huIL15融合タンパク質とc264scTCR/huIL15RαSushi融合タンパク質を等モル量で混合して、約126μgの混合タンパク質(0.63mg/ml)をカラムに負荷したところ、図11Cに示したプロファイルが得られた。2つの主要ピークの分子量を推定したところ、1つは約170kDで、2つの融合タンパク質のヘテロ二量体であり、もう1つは約91kDで、これらの融合タンパク質の単量体が混合したものである可能性が高い。従って、c264scTCR/huIL15+c264scTCR/huIL15RαSushi融合タンパク質の混合調製物に170kDの分子種が出現することが、本発明に係る融合タンパク質複合体を生成できることの証しである。
【0177】
c264scTCR/huIL15融合タンパク質及びc264scTCR/huIL15RαΔE3融合タンパク質を含有する融合タンパク質複合体の分析も行った。約100μgのc264scTCR/huIL15RαΔE3融合タンパク質(0.5mg/ml)をSuperdexカラムに負荷した。c264scTCR/huIL15RαΔE3について計算された分子量は約60kDである。SECプロファイル(図12A)に基づくと、このタンパク質の推定分子量は約173kDであり、このタンパク質がホモ二量体として存在することを示唆している。c264scTCR/huIL15融合タンパク質とc264scTCR/huIL15RαΔE3融合タンパク質を等モル量で混合して、約118μgの混合タンパク質(0.59mg/ml)をカラムに負荷したところ、図12Bに示したプロファイルが得られた。2つの主要ピークの分子量を推定したところ、1つは>210kDで、2つのヘテロ二量体から構成される四量体である可能性が高く、もう1つは約93kDで、c264scTCR/huIL15の単量体である可能性が高い。したがって、c264scTCR/huIL15+c264scTCR/huIL15RαΔE3融合タンパク質の混合調製物に170kDの分子種が出現することが、本発明に係る融合タンパク質複合体を生成できることの証しである。
【実施例12】
【0178】
−TCR/IL15融合タンパク質及びTCR/IL15Rα融合タンパク質の融合タンパク質複合体は、ペプチド/MHC複合体への増大した結合を示す。
上記のようにして作出された融合タンパク質複合体が、TCR特異的抗原であるp53(aa264−272)/HLA−A2.1に結合する能力について、その特徴を調べた。この抗原を提示する細胞を作出するために、HLA−A2.1陽性T2細胞に、26℃で一晩、p53(aa264−272)ペプチドを負荷してから、5×106細胞/mLを液体窒素中で保存した。ペプチドとともにインキュベートしなかったT2細胞を対照として用いる。p53ペプチド負荷T2細胞又は対照用T2細胞を融解して、1mLのIMDM+10%FBSに再懸濁した。そして、細胞(5×105/100μL)を、0.5μgの以下の融合タンパク質で室温にて30分間染色した:c264scTCR/huIL15、c264scTCR/huIL15RαSushi、c264scTCR/huIL15+c264scTCR/huIL15RαSushi複合体。細胞を、洗浄用緩衝液(0.5%BSA及び0.05%アジ化ナトリウムを含有するPBS)で1回洗浄し、100μLの洗浄用緩衝液中0.1μgのビオチン化マウスモノクローナル抗ヒトTCR Cβ抗体(BF1)によって、室温にて30分間染色した。細胞を1回洗浄してから、100μLの洗浄用緩衝液中0.5μgのR−フィコエリトリンを結合したストレプトアビジンによって、室温にて30分間染色した。フローサイトメトリーによって分析するために細胞を洗浄及び再懸濁した。図13に示すように、各々の融合タンパク質は、p53ペプチド負荷細胞を特異的に染色することができた。また、発現したc264scTCR/huIL15+c264scTCR/huIL15RαSushi融合タンパク質複合体は、T2細胞上に発現したp53(aa264−272)/HLA−A2.1複合体への多価c264scTCRドメインを介した特異的結合を増強した。特に、二量体融合タンパク質複合体は、c264scTCR/huIL15融合タンパク質又はc264scTCR/huIL15RαSushi融合タンパク質の単量体よりも、p53ペプチド負荷T2細胞を良好に染色した。これらのデータは、多量体融合タンパク質複合体の方が、これらの融合タンパク質の単量体型よりも良好な抗原認識特性をもたらすことを示唆している。
【実施例13】
【0179】
−huIL−15変異遺伝子の作出及びc264scTCR−hmt−huIL15変異遺伝子発現ベクターの構築
上記したように、c264scTCR/huIL15+c264scTCR/huIL15RαSushiポリペプチドは、IL−15ドメインとIL−15Rαドメインの相互作用によって複合体を形成することができ、多価の融合タンパク質複合体は、ペプチド/MHC複合体に対して増強された結合を示す。このような融合タンパク質複合体には、増強された結合活性に基づいた、抗原特異的な、又は抗原を標的とする、研究用、診断用、及び治療用の薬剤としての利点がある。融合タンパク質のIL−15/IL−15Rαドメインが、IL−15受容体を発現する細胞に結合できることも、本明細書に示されるように望ましい特性である。しかし、IL−15/IL−15Rαドメインが、IL−15受容体を発現する細胞の応答と相互作用し、及び/又はそれをもたらす能力を低下又は上昇させることが有利である適用場面がある。例えば、主要な目的が、ペプチド/MHC複合体を特異的に検出するために融合タンパク質複合体を使用することである適用場面(すなわち、研究用途及び診断用途)では、この相互作用を低下させることが望ましい可能性がある。また、治療への適用場面では、IL−15が介在する応答を低下又は上昇させることができるIL−15ドメインを含有する融合タンパク質複合体を作出することも望ましい可能性がある。この問題に取り組むために、変異解析を行って、IL−15Rαとの相互作用をもたらすことなく、IL−2/15Rβγc複合体への結合を生じさせるIL−15の残基を同定した。得られた変異体から、アンタゴニスト又はアゴニストを含有するIL−15変異体を作出することができる。本発明に係る融合タンパク質に使用するだけでなく、得られたIL−15のアンタゴニスト及びアゴニストは、研究、診断、又は治療に利用するための可溶性サイトカイン(すなわち、非融合タンパク質)として、又はIL−15Rαドメインとの複合体としての有用性も有する可能性がある。例えば、IL−15アンタゴニストは、不要な免疫応答を抑制するのに有用である可能性がある。一方では、さまざまな病気を治療するための治療法においてIL−15アゴニストを用いて、免疫応答を刺激することができる。
【0180】
IL−15のアミノ酸配列と構造をIL−2と比較して、IL−15と、IL−15Rα、IL−15Rβ、及び/又はγCとの相互作用をもたらす可能性がありそうなアミノ酸をいくつか同定した。表1及び図14Aに示すように、成熟ヒトIL−15タンパク質がIL−15Rβγc受容体に結合する部位である可能性がある8位、61位、65位、72位、及び108位にあるアミノ酸(番号付けは、天然型の成熟ヒトIL−15の配列に基づく)が、それぞれ置換されているか、又は2つ又はそれ以上の別の置換と併存しているIL−15変異体が作出された。8位のアスパラギン酸が、アラニン又はアスパラギンで置換された。61位のアスパラギン酸は、アラニンで置換された。65位のアスパラギンは、アラニン又はアスパラギン酸で置換された。72位のアスパラギンは、アルギニン又はアスパラギン酸で置換された。108位のグルタミンは、アラニンで置換された。8位のAsp及び108位のGlnは、それぞれアラニンで置換された。8位のAsp及び65位のAsnは、それぞれアスパラギン又はアラニンで置換された。8位のAsp及び65位のAsnは、それぞれセリン又はアルギニンで置換された。IL−15変異体を作出するために、オーバーラップPCRを用いた。
【0181】
例えば、8位のAspをアラニン残基又はアスパラギン残基で置換したものを作出するためには、pNEF38−c264scTCR/huIL15ベクターを鋳型に用いて、2つの重複するcDNA断片を、断片1に対する前方プライマーとして、
5’−TGGTGGACGCGTAACTGGGTGAATG−3’を、
また、断片1に対する後方プライマーとして、
5’−AGATCTTCAATTTTTTTCAAMKHACTTATTACATTCACCCAG−3’を用い、
断片2に対する前方プライマーとして、
5’−ACTGGGTGAATGTAATAAGTDMKTTGAAAAAAATTGAAGATC−3’を、
また、断片2に対する後方プライマーとして、
5’−TGGTGGTCTAGATTATCAAGAAGTGTTGATG−3’を用いて、PfuUltra(Stratagene)によって、以下のPCR条件下で増幅した:94℃にて1分間;66℃にて1.5分間;72℃にて1.5分間;×35サイクル;72℃にて10分間。断片1及び2のPCR−cDNA産物を1%アガロースゲル上で電気泳動によって分離し、単離した。このcDNA産物を、Qiaquickゲル抽出キット(Qiagen)を用いてアガロースから精製した。断片1及び2のPCR−cDNA産物を、PfuUltra(Stratagene)によって、以下のPCR条件下で一つに融合した:94℃にて1分間;66℃にて1.5分間;72℃にて1.5分間;×10サイクル。この重複したPCR−cDNA断片は、前方プライマーとして、
5’−TGGTGGACGCGTAACTGGGTGAATG−3’を、
また、後方プライマーとして、
5’−TGGTGGTCTAGATTATCAAGAAGTGTTGATG−3’を用いて、PfuUltra(Stratagene)によって、以下のPCR条件下で増幅した:94℃にて1分間;64℃にて1.5分間;69℃にて1.5分間;×30サイクル;72℃にて10分間。このhuIL−15変異体のPCR−cDNA産物を1%アガロースゲル上で電気泳動によって分離して、単離した。このcDNA産物を、Qiaquickゲル抽出キット(Qiagen)を用いてアガロースから精製した。このhuIL15変異遺伝子をMluI及びXbaIで消化し、MluI及びXbaIで消化しておいたpNEF38−c264scTCR−hmtにライゲーションした。製造業者の手順に従って、QUICK START KIT(Beckman Coulter)を用いたGenomeLab Dye Termination Cycle SequencingによるDNA塩基配列決定法によって、8位にアラニン又はアスパラギンによる置換を有するhuIL−15遺伝子を含有するクローンを確認した。pNEF38−c264scTCR発現ベクターについては上記されている。変異型ヒトIL−15タンパク質をコードするDNA断片をpNEF38−c264scTCRベクターの中にクローニングしたところ、以下の配列を含有するc264scTCR−hmt−huIL15D8A融合遺伝子又はc264scTCR−hmt−huIL15D8N融合遺伝子が得られた:3’−免疫グロブリン軽鎖リーダー−264 TCR V−α−ペプチドリンカー−264 TCR V−β−ヒトTCR C−β−変異型ヒトIgG1ヒンジ−ヒトIL−15D8A又はヒトIL−15D8N。得られたベクター(pNEF38−c264scTCR−hmt−huIL15D8A又はpNEF38−c264scTCR−hmt−huIL15D8N)が図14Bに示されているが、これは、DNA塩基配列決定法によって確認されたものである。pNEF38−c264scTCR−hmt−huIL15D8A融合遺伝子又はpNEF38−c264scTCR−hmt−huIL15D8N融合遺伝子及びそのタンパク質の配列(リーダー配列を含有する)をそれぞれ図14Cと図14Dに示す。
【0182】
別の変異も同様の方法で導入し、発現ベクターを上記したように構築した。発現ベクターをCHO.K1細胞に導入して、実施例9に記載されるようにして、安定した形質転換体を作製した。TCR/IL15融合タンパク質、及びIL−15変異体を含有する融合タンパク質複合体の作製及び精製は、実施例10及び11に記載したのと同様の方法を用いて行った。IL−15変異体を可溶性サイトカインとして作製することは、原核生物発現系及び真核生物発現系における産生など、当該技術分野において公知のさまざまな方法によって行うことができる(例えば、国際公開公報第9527722号; Hsu et al., J. Immunol. 175:7226を参照されたい)。
【実施例14】
【0183】
−TCR/IL15融合タンパク質及びTCR/IL15Rα融合タンパク質、並びに融合タンパク質複合体の機能的特徴
実施例9に記載したELISA及びp53(aa264−272)/HLA−A2.1試薬を用いる細胞染色法、及び実施例12に記載した抗原提示細胞染色法によって、融合タンパク質のTCRドメインの機能的結合が証明された。融合タンパク質のIL−15ドメインとIL−15Rαドメインが相互作用できることが、実施例11に記載されるように証明された。さらに、IL−2/15Rβγc受容体への結合、又はIL−15受容体を産生する免疫細胞の活性を調節することを含む、さまざまな方法によって、IL15ドメイン及びIL15Rαドメインの機能活性を評価することができる。一つの例では、ヘテロ三量体IL−15R(αβγc鎖)を発現するCTLL−2細胞を、0.5μgの以下の各融合タンパク質とともに室温にて30分間インキュベートした:c264scTCR/huIL15、264scTCR/huIL15RαSushi、又はc264scTCR/huIL15+c264scTCR/huIL15RαSushi複合体。細胞を洗浄用緩衝液(0.5%BSA及び0.05%アジ化ナトリウムを含有するPBS)で1回洗浄し、0.5μgのR−フィコエリトリン(PE)結合p53(aa264−272)/HLA−A2四量体によって、室温にて30分間染色した。フローサイトメトリーによって分析するために細胞を洗浄及び再懸濁した。図15に示すように、c264scTCR/huIL15融合タンパク質及びc264scTCR/huIL15+c264scTCR/huIL15RαSushi複合体が、それらのhuIL−15ドメインを介して、CTLL−2細胞上のIL−15受容体と結合することが、結合した融合タンパク質のc264scTCRドメインを認識するPE結合p53(aa264−272)/HLA−A2四量体を用いて検出することができる。これらの結果は、融合タンパク質/融合タンパク質複合体のIL−15ドメイン及びTCRドメインが、それらの同族リガンドと機能的に相互作用できることを示している。
【0184】
また、CTLL−2細胞は、増殖をサイトカインに依存していて、そして組換えヒトIL−15に応答することができる。融合タンパク質及び融合タンパク質複合体のIL−15生物活性を評価するために、CTLL−2細胞を用いる、細胞に基づいたWST−1細胞増殖アッセイ法を開発した。WST−1(Roche)は、代謝的に活性な細胞に存在する脱水素酵素によってホルマザン(formazan)に変換することができる試薬である。WST−1アッセイ法では、440〜450nmにおける吸光量で測定される、培養培地中のホルマザンの量は、培養中の生細胞数に正比例する。CTLL−2細胞(2×104/200μL)を、CO2インキュベータ内で、37℃にて3日間、96ウェルプレート中で表示濃度の以下の融合タンパク質(0〜28ng/mL)とともにインキュベートした:c264scTCR/huIL15、c264scTCR/huIL15+c264scTCR/huIL15RαSushi複合体、又はc264scTCR/huIL15+c264scTCR/huIL15RαΔE3複合体。マイクロタイタープレート・リーダーによって、440〜450nmにおける吸光度を測定するために100μLの培養培地を回収する前に、細胞を10μLのWST−1とともに4時間インキュベートした。図16に示すように、c264scTCR/huIL15融合タンパク質は、1.8ng/mL(〜31.25pM)という低濃度で、CTLL−2細胞の増殖を支持することができるが、このことは、高親和性IL−15受容体を介して、CTLL−2細胞が、c264scTCR/huIL15融合タンパク質によって活性化されることを示唆している。興味深いことに、融合タンパク質複合体も、より低い度合いではあるが、CTLL−2細胞の増殖を支持して、c264scTCR/huIL15の刺激活性が、c264scTCR/huIL15RαSushi又はc264scTCR/huIL15RαΔE3との複合体形成の後に(それぞれ、1倍又は4倍)抑制されたことを示している。このことは、高親和性IL−15受容体へのc264scTCR/huIL15の結合が、c264scTCR/huIL15RαSushi融合タンパク質又はc264scTCR/huIL15RαΔE3融合タンパク質によって阻害されることを示唆している。これらの結果は、融合タンパク質及び融合タンパク質複合体が、さまざまな条件下で、免疫細胞の応答を活性化又は抑制できることの証拠を提示している。
【0185】
32Dβ細胞株(下記参照)などの中度親和性IL−15βγc受容体だけを発現する細胞株を用いて、同様のアッセイを行った。場合によっては、IL−15R産生細胞の増殖を刺激する際のIL−15の生物活性が、IL−15Rαドメインと複合体になっているときに増強されるという可能性もある(1〜3)。c264scTCR/huIL15+c264scTCR/huIL15RαSushi複合体又はc264scTCR/huIL15+c264scTCR/huIL15RαΔE3複合体による細胞増殖刺激を評価すれば、融合タンパク質複合体が、免疫細胞の免疫応答を刺激又は活性化し得ることのさらなる証拠を提供できるだろう。
【実施例15】
【0186】
−TCR/IL15αSushiとTCR/IL−15変異体の二量体融合タンパク質複合体は、ペプチド/MHC複合体に対してTCR特異的結合を示すが、IL−15Rβγc受容体に対しては、より低い結合を示す。
TCR特異的抗原であるp53(aa264−272)/HLA−A2.1に結合する能力について、上記したようなIL−15変異体を含有する融合タンパク質複合体の特徴を調べた。p53(aa264−272)/HLA−A2.1を提示する細胞を作り出すために、1×PLE(Altor Bioscience)の存在下、37℃にて、2〜3時間、HLA−A2.1陽性T2細胞(2×106/mL)に20μMのp53(aa264−272)ペプチドによる負荷をかけた。ペプチドとインキュベートしなかったT2細胞、及びIL−2/15Rβγcを発現する32Dβ細胞を対照として用いる。そして、p53ペプチドを負荷されたT2細胞、対照T2細胞、又は32Dβ細胞(2×105/100μL)を、320nMの以下の二量体融合タンパク質複合体とともに、4℃にて30分間インキュベートした:1)c264scTCR/huIL15+c264scTCR/huIL15RαSushi、2)c264scTCR/huIL15D8A+c264scTCR/huIL15RαSushi、及び3)c264scTCR/huIL15D8N+c264scTCR/huIL15RαSushi。これらの複合体は、160nMの精製c264scTCRhuIL15融合タンパク質と、160nMの精製c264scTCRhuIL15RαSushi融合タンパク質を4℃にて3時間インキュベートすることによって生成した。染色後、洗浄用緩衝液(0.5%BSA及び0.05%アジ化ナトリウムを含有するPBS)で細胞を1回洗浄し、100μLの洗浄用緩衝液中0.5μgのビオチン化マウスモノクローナル抗ヒトTCR Cβ抗体(BF1)によって、4℃にて30分間染色した。細胞を1回洗浄してから、100μLの洗浄用緩衝液中で0.5μgのR−フィコエリトリン結合ストレプトアビジンによって、4℃にて30分間染色した。フローサイトメトリーによって分析するために細胞を洗浄及び再懸濁した。図17Aに示すように、c264scTCR/huIL15D8A+c264scTCR/huIL15RαSushi複合体及びc264scTCR/huIL15D8N+c264scTCR/huIL15RαSushi複合体は、p53ペプチド負荷T2細胞の特異的染色について、c264scTCR/huIL15+c264scTCR/huIL15RαSushi複合体と同等の活性を示した。これらの結果は、多価のscTCRドメインが、これらの融合複合体のそれぞれにおいて、完全に機能していることを示している。しかし、図17B及び図17Cに示されるように、変異型c264scTCR/huIL15融合タンパク質複合体は、対照であるT2細胞(図17B)及びIL−15Rβγc陽性32Dβ細胞(図17C)に対して、野生型c264scTCR/huIL15融合タンパク質複合体よりも低いバックグランド染色を示した。すなわち、これらIL−15変異体(D8A及びD8N)を含有する融合タンパク質複合体は、32Dβ細胞上に存在するIL−15Rβγc受容体に対する結合活性を示さない。IL−15Rβγc受容体への結合についての同様の検討を、IL−15変異体を含有する別の融合タンパク質を用いて行って、表1にまとめた。その結果、IL−15変異体を含有する本発明に係る融合タンパク質及び融合タンパク質複合体は、ペプチド/MHC複合体を認識する活性を保持しており、IL−15Rβγc受容体に対して、増加したか又は低下した結合活性を示すことが示唆された。
【0187】
上記融合タンパク質の機能的TCRドメイン及びIL−15ドメインを確認するために、ペプチド/MHC及びIL−15Raの結合活性をELISA分析によって測定した。96ウェルマイクロタイタープレートを、pH9.1の炭酸緩衝液(35mM重炭酸ナトリウム、17.5mMのNa2CO3、50mMのNaCl)内で4℃にて3時間、20nMのBF1、抗TCR Cβ抗体、又は20nMのTCR/IL15RαSushiで予め被覆した。プレートを洗浄用緩衝液(40mMイミダゾール、150mMのNaCl)で4回洗浄し、1%BSA−PBSで10分間ブロッキングした。0.03〜4nMの濃度の表示された融合タンパク質をプレートに添加し、室温にて30分間インキュベートした。プレートを4回洗浄した。BF1に捕捉された融合タンパク質を、1μg/mLのHRP結合p53/HLA−A2.1四量体とともに室温にて45分間インキュベートし、TCR/IL15RaSushiに捕捉された融合タンパク質を、50ng/mLのビオチン化マウス抗ヒトIL−15とともに室温にて30分間インキュベートした。4回洗浄した後、ビオチン化マウス抗ヒトIL−15とともにインキュベートされたプレートを、0.25μL/mLのHRP−ストレプトアビジンとともに15分間インキュベートした。プレートを4回洗浄し、ペルオキシダーゼ基質であるABTとともに1〜10分間インキュベートし、マイクロタイタープレート・リーダーによって405nmにおける吸光度を測定するために発色させた。図18A及び図18Bに示されるように、融合タンパク質は、p53/HLA−A2四量体に対して、類似したTCR特異的結合活性を有し、IL−15RαSushiに対しては同等のIL−15結合活性を有する。IL−15Rαへの結合についての同様の検討を、IL−15変異体を含有する別の融合タンパク質を用いて行い、表1にまとめた。その結果、IL−15変異体を含有する本発明に係る融合タンパク質及び融合タンパク質複合体は、ペプチド/MHC複合体及びIL−15Rα受容体を認識する活性を保持していることが示された。
【実施例16】
【0188】
−TCR/IL15変異体の融合タンパク質及び融合タンパク質複合体の機能的特徴
上記したように、IL−15のアンタゴニスト又はアゴニストを含有する融合タンパク質は、病気部位におけるIL−15が介在する応答(すなわち、T細胞又はNK細胞の活性)を阻害又は刺激する標的薬剤として有用である可能性がある。免疫応答をもたらす、これらの融合タンパク質のIL−15生物活性を測定するために、高親和性IL−15R(αβγc鎖)を発現するCTLL−2細胞、及び中度IL−15R(βγc鎖)を発現する32Dβ細胞を用いて、細胞増殖試験を行った。細胞(2×104/200μL)を、CO2インキュベータ内で、37℃にて3日間、96ウェルプレート中で0.4〜40nMの上記TCR/IL15融合タンパク質とともにインキュベートした。マイクロタイタープレート・リーダーによって、440nmにおける吸光度を測定するために150μLの培養培地を回収する前に、細胞を10μLのWST−1とともに4時間インキュベートした。図19A及び図19Bに示すように、野生型IL−15ドメインを含有するc264scTCR/huIL15融合タンパク質は、CTLL−2細胞及び32Dβ細胞の増殖を、それぞれ40pM又は1nMという低い濃度で支持することができる。興味深いことに、72位のアミノ酸にアスパラギンからアスパラギン酸への置換を有するIL−15変異体を含有する融合タンパク質(c264scTCR/huIL15N72D)は、32Dβ細胞株の増殖を支持するという点で、野生型IL−15ドメインを含有する融合タンパク質よりも活性がずっと高く、80pMという低濃度で生物活性を示した(図19B)。これに関して、IL−15変異体を含有する融合タンパク質(huIL15N72D)は、スーパーアゴニスト活性を示した。1:1の比のc264scTCR/IL15RαSushiとの複合体では、c264scTCR/huIL15N72Dは、T2細胞上のp53/HLA−A2.1複合体に対して、c264scTCR/huIL15wtと同じような結合能力を有していた(図17A)が、32Dβ細胞上のIL−15Rβγc受容体に対しては、より高い結合能力を示した(図17C)。これに対し、8位における置換(c264scTCR/huIL15D8N又はc264scTCR/huIL15D8A)、65位における置換(c264scTCR/huIL15N65A)、108位における置換(c264scTCR/huIL15Q108A)、又は72位における異なった置換(c264scTCR/huIL15N72R)を有するIL−15変異体を含有する融合タンパク質は、CTLL−2細胞及び32Dβ細胞の増殖を支持するという点では、c264scTCR/huIL15wt融合タンパク質と比較して活性が低かった(図19A及び図19B)。IL−15変異体を含有する別の融合タンパク質を用いて、IL−15依存性増殖活性について同様の検討を行い、表1にまとめた。これらのデータは、IL−15タンパク質の8位、61位、65位、72位、及び108位における変異は、IL−15Rに対する結合を減少させて、かつ、免疫応答を刺激する活性がほとんどないか又は全くないIL−15アンタゴニストをもたらすことができるとの仮説を裏付けている。1つの変異体(c264scTCR/huIL15N72R)が、IL−15アンタゴニストとして作用する一方で、別の変異体(c264scTCR/huIL15N72D)が、IL−15Rに対する増強された結合と、免疫応答を刺激する活性が高められたことを考えると、72位における置換による結果は予想外であった。
【0189】
一般的な状況では、IL−15は、細胞の生存を支持して、免疫応答を刺激するために、IL−15Rαによって、樹状細胞の表面上で、メモリーT細胞、NKT細胞、又はNK細胞上のIL−15Rβγc受容体に対してトランス提示される。アンタゴニストは、IL−15のトランス提示をIL−15Rαに結合することによって阻止しなければならない。アンタゴニスト融合タンパク質が、c264scTCR/huIL15wtと競合して、CTLL−2細胞の増殖を支持する活性を阻止できるか否かを評価するために、4×104個のCTLL−2細胞を、50nM(100倍モル過剰量)のさまざまなc264scTCR/huIL15変異体融合タンパク質の存在下又は不在下で、0.5nMのc264scTCR/huIL15wtとともに、CO2インキュベータ内で37℃にて24時間インキュベートした。マイクロタイタープレート・リーダーによって、440nmにおける吸光度を測定するために150μLの培養培地を回収する前に、細胞を10μLのWST−1細胞とともに4時間インキュベートした。図19Cに示されるように、c264scTCR/huIL15wtが、CTLL−2細胞の増殖を支持する能力は、100倍多いc264scTCR/huIL15D8N、c264scTCR/huIL15D8A、c264scTCR/huIL15D8A/Q108A、c264scTCR/huIL15Q108A、又はc264scTCR/huIL15D8N/N65Aが存在する場合には完全に阻止され、c264scTCR/huIL15N72R融合タンパク質が存在する場合には62%低下した。このことは、これらの融合タンパク質が、c264scTCR/IL15融合タンパク質に対するアンタゴニストであることを示唆している。このデータは、c264scTCR/huIL15変異体融合タンパク質が、これらのタンパク質がIL−15Rαには結合できるが、IL−15Rβγc受容体に対しては結合できないということから予想されたように、IL−15活性の機能的アンタゴニストであったことを示している。
【0190】
本明細書に記載された別のTCR/IL−15融合タンパク質及びIL−15変異体を用いて、IL−15のアンタゴニスト及びアゴニストの活性を明らかにするために同様の検討を行うことができる。表1にまとめられているように、IL−15の8位、61位、65位、72位、及び108位における置換は、IL−15のIL−15R(βγc鎖)に対する結合に影響を与える可能性を示している。IL−15の92位、101位、及び111位における別の置換も、IL−15R相互作用の可能な結合部位であると評価されるはずである。また、これらの残基の全て又はいくつかにおける置換を含む、変化を組み合わせると、IL−15の効果的なアンタゴニスト又はアゴニストを作り出すことができる。上記の分子を含む、評価されるIL−15変異体は、以下の変化を有するものを含有する:8位における、アラニン、アスパラギン、セリン、リジン、スレオニン、又はチロシンへの変化;61位における、アラニン、アスパラギン、セリン、リジン、スレオニン、又はチロシンへの変化;65位における、アラニン、アスパラギン酸、又はアルギニンへの変化;72位における、アラニン、アスパラギン酸、又はアルギニンへの変化;及び92位、101位、108位、又は111位における、アラニン又はセリンへの変化。
【実施例17】
【0191】
−TCR/IL15融合タンパク質及びTCR/IL15Rα融合タンパク質、並びに融合タンパク質複合体による細胞間結合及び免疫細胞再標的化
融合タンパク質又は融合タンパク質複合体が、IL−15受容体産生細胞とペプチド/MHC産生標的細胞とを架橋できることを証明するために、T2細胞に、p53(aa264−272)ペプチドか、対照のCMVpp65(aa495−503)ペプチドを負荷してから、ジヒドロエチジウムで標識化する。CTLL−2細胞をカルセインAMで標識化して、2つの標識細胞集団を混合して、融合タンパク質又は融合タンパク質複合体の存在下又は不在下でインキュベートする。融合タンパク質複合体が存在しないか、又はT2細胞に対照ペプチドを負荷したときには、フローサイトメトリーによって評価すると、細胞は2つの別々の集団のままであると予測される。しかし、T2細胞にp53(aa264−272)を負荷して、融合タンパク質又は複合体の存在下でCTLL−2細胞とともにインキュベートすると、細胞の二重染色集団の出現が、T2細胞がCTLL−2細胞に融合タンパク質又は融合タンパク質複合体を介して結合したことの指標となる。
【0192】
同様に、融合タンパク質複合体が、IL−15受容体産生免疫細胞とペプチド/MHC産生標的細胞とを架橋して、標的細胞に対する免疫細胞毒性を指向できることを証明するために検討することができる。例えば、p53(aa264−272)ペプチドか、対照のCMVpp65(aa495−503)ペプチドをT2細胞に負荷してからカルセインAMで標識化する。IL−15受容体を有する免疫エフェクター細胞(すなわち、活性化されたNK細胞又はT細胞)をさまざまな比率で混合して、融合タンパク質複合体の存在下又は不在下、適当な条件(すなわち、37℃にて2〜4時間)でインキュベートする。細胞毒性は、T2標的細胞から培養培地の中に放出されるカルセインに基づいて、標準的な方法によって評価することができる。カルセイン−AMの特異的放出を測定するか、又は非特異的対照である自然放出されたカルセイン−AMと比較する。融合タンパク質複合体が存在しないか、又はT2細胞に対照用ペプチドを負荷した場合には、標的細胞の細胞毒性が低レベルであると予測される。しかし、T2細胞にp53(aa264−272)を負荷して、融合タンパク質複合体の存在下で免疫エフェクター細胞とともにインキュベートしたときに、T2細胞の特異的溶出が起こるのは、免疫エフェクター細胞が、融合タンパク質複合体を介して、p53ペプチド提示細胞に対して再標的化されていることを示すものであると考えられる。p53(aa264−272)/HLA−A2.1複合体を標的細胞として提示する腫瘍細胞株を用いて、同様の検討を行うことができる。
【実施例18】
【0193】
−IL−15変異体アンタゴニスト、TCR/IL15融合タンパク質、及び融合タンパク質複合体の抗腫瘍作用のインビボにおける証明
融合タンパク質複合体又はIL−15変異体アンタゴニストが、インビボにおいて抗腫瘍活性を有するか否かを判定するために、実験用異種移植腫瘍モデルを用いることができる。A375黒色腫、MDA−MB−231乳腺癌、PANCl膵臓癌など、p53(aa264−272)/HLA−A2.1複合体を発現するヒト腫瘍細胞株が、別のTCRに基づく融合タンパク質を用いた同様の効能の検討で用いられてきた(5〜7)。例えば、A375ヒト黒色腫細胞をヌードマウスの側腹に皮下注射すると、腫瘍を3日間で確立できる。担癌マウスに、c264scTCR/huIL15+℃264scTCR/huIL15RαSushi複合体若しくはIL−15変異体アゴニスト(用量範囲:0.1〜2mg/kg)、又は用量と均等量のPBSを、4日間又はそれ以上毎日静脈内注射する。この検討の間、腫瘍サイズを測定し、腫瘍体積を計算する。PBSで処理されたすべてのマウスは、腫瘍を発生すると予測される。融合タンパク質複合体又はIL−15変異体アゴニストで処理されたマウスの一部又は全てで腫瘍増殖の抑制又は完全な腫瘍退縮が起これば、その処理の抗腫瘍効果を示すことになるであろう。マルチサイクル投与を含む、別の投与計画も、融合タンパク質又はIL−15変異体アゴニストの抗腫瘍効果を証明することができる。p53(aa264−272)/HLA−A2.1複合体を有しない腫瘍細胞株(HT−29又はAsPC−1(5,9))は、融合タンパク質複合体のc264scTCRドメインによる抗原特異的認識についての対照として使用できる。別のTCRドメイン(すなわち、CMVpp65(aa495−503)ペプチド(9)に特異的である)を含有する別の融合タンパク質複合体を非腫瘍標的対照として使用できる。
【0194】
また、異種移植腫瘍担持マウスで、養子細胞移入の検討を行う。例えば、未処理の又は活性化された(又はメモリー)脾細胞、NK細胞、又はT細胞など、IL−15受容体を産生する免疫細胞をマウスから単離し、その細胞に結合できる条件下で、c264scTCR/huIL15+c264scTCR/huIL15RαSushi複合体又はアンタゴニストであるIL−15変異体とともにインキュベートする。場合によっては、融合タンパク質複合体又はアンタゴニストIL−15変異体を用いて、免疫細胞を活性化することができる。そして、IL−15変異体が活性化された細胞、又は融合タンパク質複合体でコートされた細胞を、A375腫瘍を担持するヌードマウスに移入する。対照は、未処理の免疫細胞、融合タンパク質複合体単独、及びPBSの移入を含んでいる。腫瘍の増殖を観測して、PBSで処理した全てのマウスが腫瘍を発症することが予測される。IL−15変異体活性化細胞又は融合タンパク質複合体被覆細胞で処理された一部又は全てのマウスにおける腫瘍抑制又は完全な腫瘍腫瘍退縮が、この治療法に抗腫瘍効果があることを示すものとなるであろう。或いは、IL−15変異体又は融合タンパク質複合体、及び免疫細胞を同時に投与するか、又は同時に若しくは異なる時に分けて投与する。免疫細胞は、腫瘍産生宿主にとって自己由来であっても同種異系であってもよい。移入される細胞数及び投与計画は、抗腫瘍効果を評価し最適化するために変化するであろう。上記したように、観察された抗腫瘍活性における抗原標的化の役割を確認するために、別の腫瘍株又は融合タンパク質複合体を用いるであろう。
【実施例19】
【0195】
−TCR/IL15:TCR/IL−15Rα融合タンパク質複合体による免疫細胞のインビトロ処理と、その後の養子細胞移入は、異種移植腫瘍動物モデルにおける生存率の向上をもたらす
TCR/IL15:TCR/IL−15Rα融合タンパク質複合体と予めインキュベートした濃縮された同種異系マウスNK細胞の腫瘍増殖に対する抗腫瘍効果を明らかにするために、ヌードマウスの実験用転移モデルにおいてヒトNSCLC A549A2腫瘍細胞を用いて、以下の検討を行った。
【0196】
無胸腺ヌードマウス(グループ当たりn=4、メス、5〜6週齢)の尾静脈側部から、ヒトNSCLC腫瘍細胞株A549−A2を5×106細胞/マウスで静脈内(IV)注射した。A549−A2細胞株は、ヒトHLA−A2.1 cDNAを発現するベクターを担持するp53陽性A549親株の形質移入体に相当する。
【0197】
A2マウス(B6バックグランド)の脾臓を回収し、Miltenyi Biotech Inc.のNK細胞単離用キットを製造業者の指示に従って用いてNK細胞を単離した。要するに、HBSS中で金属製ふるい(60メッシュ)に通して、脾臓をホモジナイズして脾細胞の単一細胞懸濁液を調製した。赤血球をACK赤血球溶解緩衝液に溶解した。細胞を、ビオチン−抗体カクテル(107細胞あたり10μL)とともに4〜8℃にて10分間インキュベートする。白血球の数を測定し、107細胞当たり30μLの緩衝液(PBS、pH 7.2、0.5%BSA及び2mM EDTA)及び20μLの抗ビオチンマイクロビーズを加えて、混合液を4〜8℃にて15分間インキュベートした。細胞を2mLの緩衝液で洗浄し、300×gにて10分間遠心分離した。この細胞を500μLの緩衝液に再懸濁して、MACAカラムに負荷した。流入物を回収して、FACScan分析によってNK細胞の純度を測定した。
【0198】
細胞を活性化させるために、c264scTCR/IL15:c264scTCR/IL15Rα融合タンパク質複合体、TCR−IL2融合タンパク質、又はrhIL−2の存在下又は不在下、T25フラスコ中10mlの10%FBS添加RPMI1640の中でNK細胞(5×106)を37℃にて一晩培養した。c264scTCR/IL15:c264scTCR/IL15Rα融合タンパク質複合体及びTCR−IL2融合タンパク質は0.8μg/mLの濃度で加え、rhIL−2は、0.2μg/mLで加えた。一晩インキュベートした後、細胞を回収して、100μL中0.5mg/mLのc264scTCR/IL15:c264scTCR/IL15Rα融合タンパク質複合体もしくはTCR−IL2融合タンパク質、又は0.125mg/mLのrhIL−2とともに氷上にて30分間プレインキュベートした。PBS(1mL)で洗浄した後、養子細胞移入を行うために細胞をPBSに再懸濁して106/mLとした。
【0199】
一日目に、マウスにA549A2腫瘍細胞(5×106)を尾静脈から静脈内注射して肺腫瘍を確立した。腫瘍細胞を注射してから14日後にマウスを無作為化して、5つのグループ(n=4)に分けた。14日目と21日目に、200mg/kgの用量の腹腔内注射によって、マウスをシクロホスファミド(CTX)で治療した。16日目及び22日目に、予め異なった融合タンパク質又はrhIL−2でインキュベートしておいたNK細胞(5×106/マウス)を静脈内注射し、PBSを注射したマウスを対照として用いた。治療計画の概要は以下の通りである。
【0200】
【表1】
【0201】
腫瘍産生マウスの生存を毎日監視した。瀕死状態になったマウスは殺生して、死亡例に算入した。腫瘍注射後100日以上生存したマウスを治癒例とみなした。
【0202】
CTX処理群、CTX+NK/rhIL−2処理群、CTX+NK/MART1scTCR−IL2処理群、CTX+NK/c264scTCR−IL2処理群、及びc264scTCR/IL15:c264scTCR/IL15Rα融合タンパク質複合体処理群におけるマウスの生存期間の中央値は、それぞれ52日、67.5日、64.5日、85.5日、及び80日である(図20)。このように、c264scTCR/IL15:c264scTCR/IL15Rα活性化NK細胞の養子細胞移入によって、化学療法のみで、又は非標的化MARTscTCR−IL2若しくはrhIL−2で処理された腫瘍産生動物で観察されるよりも長い平均生存期間がもたらされた。このパイロット実験で得られた結果は、c264scTCR/IL15:c264scTCR/IL15Rαによって活性化及び標的化されたマウスNK細胞が、増強された抗腫瘍活性を提供できることを示している。
【実施例20】
【0203】
−延長された細胞表面の滞留時間から明らかな、TCR/IL15:TCR/IL−15Rα融合タンパク質複合体のIL−15R産生免疫細胞との結合の増強
融合タンパク質複合体がIL−15R産生細胞の細胞表面に滞留する時間は、エフェクター細胞をTCR特異的な腫瘍細胞に標的させるか、架橋する融合タンパク質の能力に影響を与える可能性がある。これを調べるために、IL−15RαβγC受容体産生CTLL−2細胞及びIL−15RβγC受容体産生CTL−2細胞32Dβ細胞に対するscTCR/IL−15融合タンパク質、TCR/IL15:TCR/IL15Rα融合タンパク質複合体、及び組換えIL−15の結合を、フローサイトメトリーによって直接比較する。さまざまなタンパク質とインキュベートした後、細胞を洗浄し、37℃にて最長180分間まで培地中でインキュベートしてから、細胞表面に残存しているタンパク質のレベルをPE標識化抗IL−15mAbで検出した。開始時間0における染色とその後の時間とを比較すれば、IL−15Rに対する各タンパク質の結合の細胞表面滞留時間を測定することができる。IL−15と比較してscTCR/IL−15融合タンパク質又はTCR/IL15:TCR/IL15Rα融合タンパク質複合体の細胞表面滞留時間が増加することが、より高くより安定した受容体結合活性を表すことになるであろう。
【実施例21】
【0204】
−マウスにおけるIL−15と比較した場合のTCR/IL−15融合タンパク質及びTCR/IL15:TCR/IL15Rα融合タンパク質複合体のインビボにおける半減期の増大
c264scTCR/IL−15、c264scTCR/IL15:c264scTCR/IL15Rα複合体、組換えIL−15、又は可溶性IL−15:IL−15Ra複合体の薬物動態パラメータを、HLA−A2.1/Kbトランスジェニックマウス系統で評価する。c264scTCR/IL−2が限定されているHLA−A2.1ドメインの存在は、この融合タンパク質の薬物動態に影響を与える可能性があり、他のマウス系統よりも薬物動態の「ヒト化」的側面により高い関連性をもたらすはずである。等モル量のc264scTCR/IL15、c264scTCR/IL15:c264scTCR/IL15Rα複合体、組換えIL−15、又は可溶性IL−15:IL−15Ra複合体をマウスに静脈内注射して、注射後5分後〜2週間後までさまざまな時点で血液を採集する。上記されるELISA法を用いて融合タンパク質の血清中濃度を評価する。標準的なIL−15特異的ELISAによってIL−15の濃度を検出した。
【0205】
曲線適合ソフトウェア(例えば、WinNonlin)を用いて、c264scTCR/IL−15、c264scTCR/IL15:c264scTCR/IL15Rα複合体、組換えIL−15、又は可溶性IL−15:IL−15Ra複合体のインビボにおける薬物動態パラメータを測定する。組換えIL−15又は可溶性IL−15:IL−15Ra複合体と比較したときに、c264scTCR/IL−15、又はc264scTCR/IL15:c264scTCR/IL15Rα複合体についての、Cmax値の上昇、血清中半減期の延長、又はクリアランスの低下は、TCR−IL−15融合体又はTCR/IL15:TCR/IL15Ra複合体の生成によって、IL−15単独で観察されるより好適な薬理動態がもたらされたことを示唆している。
【実施例22】
【0206】
−IL−15変異体アンタゴニスト、TCR/IL−15融合タンパク質、及び融合タンパク質複合体の免疫抑制効果のインビボにおける立証
融合タンパク質複合体又はIL−15変異体アンタゴニストが、インビボにおいて免疫抑制活性を有するか否かを判定するために、自己免疫性関節炎実験モデルを用いる。HLA−DR4トランスジェニックマウスにおいて、II型コラーゲン(CII)を投与した後に自己免疫性関節炎が誘導されるということが明らかにされている(Rosloniec et al. 1998、 J Immunol. 160:2573-8)。また、この病気の病理に関係するCII特異的T細胞の特徴も調べられている。これらのT細胞に由来するTCR遺伝子を用いて、適当な発現ベクターと宿主細胞株を構築して、上記実施例に記載されるように、IL−15変異体アンタゴニストを含有するCIIscTCR/IL15と、CIIscTCR/IL15RαSushi融合タンパク質を作製する。CIIを投与して関節炎を誘導した後、HLA−DR4トランスジェニックマウスにCIIscTCR/IL15アンタゴニスト+CIIscTCR/IL15RαSushi複合体、又はIL−15変異体アンタゴニスト(用量範囲:0.1〜2mg/kg)、あるいは用量と均等量のPBSを、4日間又はそれ以上毎日静脈内注射する。この検討の間、マウスの足の関節を調べて、炎症の程度を0〜4の尺度で採点する。PBSで処理した全てのマウスが関節炎を発症すると期待される。融合タンパク質複合体又はIL−15変異体によって処理されたマウスの一部又は全てで、関節炎が抑制されれば(例えば、発症率又は臨床スコアが低下すれば)、その治療法に免疫抑制効果があることが示唆される。マルチサイクル投与を含む、別の投与計画によっても、融合タンパク質又はIL−15変異体の免疫抑制効果を立証できる。別の(すなわち、p53ペプチドに特異的な)TCRドメインを含有する別の融合タンパク質複合体も、非疾患標的化対照として用いることができて、標的化TCR融合タンパク質の、疾患部位に対する免疫抑制活性を指向する特異的能力を立証できるであろう。
【0207】
(参考文献の援用)
本出願を通して引用されている全ての参考文献、特許、係属中の特許出願、及び公開特許の内容は、参照により明確に本明細書に組み込まれている。
【0208】
(均等物)
当業者は、本明細書に記載されている発明の特定の態様に対する多くの均等物を認識し、又は通常の実験のみによって確認することができるであろう。そのような均等物は、添付の特許請求の範囲に包含されるものである。
【0209】
(参照文献)
1. Mortier, E., A. Quemener, P. Vusio, I. Lorenzen, Y. Boublik, J. Grotzinger, A. Plet, and Y. Jacques. 2006. Soluble interleukin-15 receptor alpha (IL-15R alpha)-sushi as a selective and potent agonist of IL-15 action through IL-15R beta/gamma. Hyperagonist IL-15 x IL-15R alpha fusion proteins. J Biol Chem 281: 1612-1619.
2. Stoklasek, T. A., K. S. Schluns, and L. Lefrancois. 2006. Combined IL-15/IL-15Ralpha immunotherapy maximizes IL-15 activity in vivo. J Immunol 177: 6072-6080.
3. Rubinstein, M. P., M. Kovar, J. F. Purton, J. H. Cho, O. Boyman, C. D. Surh, and J. Sprent. 2006. Converting IL-15 to a superagonist by binding to soluble IL-15R{alpha}. Proc Natl Acad Sci U S A 103: 9166-9171.
4. Waldmann, T. A. 2006. The biology of interleukin-2 and interleukin-15: implications for cancer therapy and vaccine design. Nat Rev Immunol 6: 595-601.
5. Belmont, H. J., S. Price-Schiavi, B. Liu, K. F. Card, H. I. Lee, K. P. Han, J. Wen, S. Tang, X. Zhu, J. Merrill, P. A. Chavillaz, J. L. Wong, P. R. Rhode, and H. C. Wong. 2006. Potent antitumor activity of a tumor-specific soluble TCR/IL-2 fusion protein. Clin Immunol 121: 29-39.
6. Card, K. F., S. A. Price-Schiavi, B. Liu, E. Thomson, E. Nieves, H. Belmont, J. Builes, J. A. Jiao, J. Hernandez, J. Weidanz, L. Sherman, J. L. Francis, A. Amirkhosravi, and H. C. Wong. 2004. A soluble single-chain T-cell receptor IL-2 fusion protein retains MHC-restricted peptide specificity and IL-2 bioactivity. Cancer Immunol Immunother 53: 345-357.
7. Mosquera, L. A., K. F. Card, S. A. Price-Schiavi, H. J. Belmont, B. Liu, J. Builes, X. Zhu, P. A. Chavaillaz, H. I. Lee, J. A. Jiao, J. L. Francis, A. Amirkhosravi, R. L. Wong, and H. C. Wong. 2005. In Vitro and In Vivo Characterization of a Novel Antibody-Like Single-Chain TCR Human IgG1 Fusion Protein. J Immunol 174: 4381-4388.
8. Penichet, M. L., E. T. Harvill, and S. L. Morrison. 1997. Antibody-IL-2 fusion proteins: a novel strategy for immune protection. Hum Antibodies 8: 106-118.
9. Zhu, X., H. J. Belmont, S. Price-Schiavi, B. Liu, H. I. Lee, M. Fernandez, R. L. Wong, J. Builes, P. R. Rhode, and H. C. Wong. 2006. Visualization of p53264-272/HLA-A*0201 Complexes Naturally Presented on Tumor Cell Surface by a Multimeric Soluble Single-Chain T Cell Receptor. J Immunol 176: 3223-3232.
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも二つの可溶性融合タンパク質を含有する可溶性融合タンパク質複合体であって、
第一の融合タンパク質が、(a)第一の生物活性ポリペプチドであって、(b)インターロイキン15(IL−15)ポリペプチド又はその機能的断片に共有結合しているポリペプチドを含有してなり、
第二の融合タンパク質が、(c)第二の生物活性ポリペプチドであって、(d)可溶性インターロイキン15受容体α鎖(IL−15Ra)ポリペプチド又はその機能的断片に共有結合しているポリペプチドを含有してなり、
第一の融合タンパク質のIL−15ドメインが、第二の融合タンパク質の可溶性IL−15Raドメインに結合して可溶性の融合タンパク質複合体を形成している、可溶性融合タンパク質複合体。
【請求項2】
第一及び第二の生物活性ポリペプチドのうち一つが、第一の可溶性T細胞受容体(TCR)又はその機能的断片を含有してなる、請求項1に記載の可溶性融合タンパク質複合体。
【請求項3】
別の生物活性ポリペプチドが、請求項2に記載の第一の可溶性TCR又はその機能的断片を含有してなり、それによって、結合活性が増大した多価のTCR融合タンパク質複合体が産生される、請求項2に記載の可溶性融合タンパク質複合体。
【請求項4】
別の生物活性ポリペプチドが、第一の可溶性TCRとは異なる、第二の可溶性TCR又はその機能的断片を含有してなる、請求項2に記載の可溶性融合タンパク質複合体。
【請求項5】
TCRが特定の抗原の認識について特異的である、請求項2〜4に記載の可溶性融合タンパク質複合体。
【請求項6】
TCRが、TCRのa鎖及びb鎖を含有してなるヘテロ二量体である、請求項2〜4に記載の可溶性融合タンパク質複合体。
【請求項7】
TCRが単鎖TCRポリペプチドを含有してなる、請求項2〜4に記載の可溶性融合タンパク質複合体。
【請求項8】
単鎖TCRが、ペプチドリンカー配列によって、TCRのV−b鎖に共有結合しているTCR V−a鎖を含有してなる、請求項7に記載の可溶性融合タンパク質複合体。
【請求項9】
単鎖TCRが、TCRのV−b鎖に共有結合している可溶性TCR Cb鎖断片をさらに含有してなる、請求項8に記載の可溶性融合タンパク質複合体。
【請求項10】
単鎖TCRが、TCRのV−a鎖に共有結合している可溶性TCR Ca鎖断片をさらに含有してなる、請求項8又は9に記載の可溶性融合タンパク質複合体。
【請求項11】
第一及び第二の生物活性ポリペプチドの一方又は両方が、抗体又はその機能的断片を含有してなる、請求項1に記載の可溶性融合タンパク質複合体。
【請求項12】
抗体が、特定の抗原の認識について特異的である、請求項11に記載の可溶性融合タンパク質複合体。
【請求項13】
抗体が単鎖抗体又は単鎖Fvである、請求項11又は12に記載の可溶性融合タンパク質複合体。
【請求項14】
単鎖抗体が、ポリペプチドリンカー配列によって、免疫グロブリン重鎖可変ドメインに共有結合している免疫グロブリン軽鎖可変ドメインを含有してなる、請求項13に記載の可溶性融合タンパク質複合体。
【請求項15】
IL−15ポリペプチドが、天然型IL−15ポリペプチドとは異なったアミノ酸配列を含有してなるIL−15変異体である、請求項1に記載の可溶性融合タンパク質複合体。
【請求項16】
IL−15変異体が、IL−15のアゴニスト又はアンタゴニストとして機能する、請求項15に記載の可溶性融合タンパク質複合体。
【請求項17】
IL−15変異体が、天然型IL−15ポリペプチドと比較して、IL−15RβγC受容体に対し増加した結合活性を有するか、又は低下した結合活性を有する、請求項15に記載の可溶性融合タンパク質複合体。
【請求項18】
IL−15変異体の配列が、天然型IL−15配列と比較して、少なくとも1つのアミノ酸の変化を有している、請求項15〜17のいずれか一項に記載の可溶性融合タンパク質複合体。
【請求項19】
アミノ酸の変化が、IL−15Rβ及び/又はγCと相互作用するIL−15のドメインにおけるアミノ酸の置換又は欠失である、請求項18に記載の可溶性融合タンパク質複合体。
【請求項20】
アミノ酸の変化が、成熟型ヒトIL−15配列(配列番号:1)の8位、61位、65位、72位、92位、101位、108位、又は111位における1個又はそれ以上のアミノ酸の置換又は欠失である、請求項18に記載の可溶性融合タンパク質複合体。
【請求項21】
アミノ酸の変化が、成熟型ヒトIL−15配列の8位におけるDからN又はAへの置換、61位におけるDからAへの置換、65位におけるNからAへの置換、72位におけるNからRへの置換、又は108位におけるQからAへの置換、又はこれらの置換を組み合わせたものである、請求項18に記載の可溶性融合タンパク質複合体。
【請求項22】
アミノ酸の変化が、IL−15アンタゴニスト活性を有するか、天然型IL−15ポリペプチドと比較して、IL−15RβγC受容体に対する結合活性が低下しているIL−15変異体を生じさせる、請求項21に記載の可溶性融合タンパク質複合体。
【請求項23】
アミノ酸の変化が、成熟型ヒトIL−15配列の72位におけるNからDへの置換である、請求項18に記載の可溶性融合タンパク質複合体。
【請求項24】
アミノ酸の変化が、IL−15アゴニスト活性を有するか、又は天然型IL−15ポリペプチドと比較して、IL−15RβγC受容体に対する結合活性が増加しているIL−15変異体を生じさせる、請求項23に記載の可溶性融合タンパク質複合体。
【請求項25】
第一の生物活性ポリペプチドが、ポリペプチドリンカー配列によって、IL−15ポリペプチド(又はその機能的断片)に共有結合している、請求項1〜24に記載の可溶性融合タンパク質複合体。
【請求項26】
第二の生物活性ポリペプチドが、ポリペプチドリンカー配列によって、IL−15Raポリペプチド(又はその機能的断片)に共有結合している、請求項1〜25に記載の可溶性融合タンパク質複合体。
【請求項27】
TCRドメインに対する抗原が、MHC分子又はHLA分子の中で提示されるペプチド抗原を含有してなる、請求項5に記載の可溶性融合タンパク質複合体。
【請求項28】
ペプチド抗原が、腫瘍関連ポリペプチド又はウイルスにコードされたポリペプチドに由来する、請求項27に記載の可溶性融合タンパク質複合体。
【請求項29】
抗体ドメインに対する抗原が、細胞表面受容体又はリガンドを含有してなる、請求項12に記載の可溶性融合タンパク質複合体。
【請求項30】
抗原が、CD抗原、サイトカイン若しくはケモカインの受容体又はリガンド、増殖因子の受容体又はリガンド、細胞接着分子、MHC/MHC様分子、FC受容体、Toll−様受容体、NK受容体、TCR、BCR、陽性/陰性共刺激受容体又はリガンド、細胞死受容体又はリガンド、腫瘍関連抗原、又はウイルスコード抗原を含有してなる、請求項12又は29に記載の可溶性融合タンパク質複合体。
【請求項31】
IL−15Raポリペプチドが、IL−15ポリペプチドに結合できる、IL−15受容体アルファの細胞外ドメインを含有してなる、請求項1〜30及び73〜74に記載の可溶性融合タンパク質複合体。
【請求項32】
IL−15Raポリペプチドが、IL−15aSushiドメイン或いはIL−15aΔE3ドメインを含有してなる、請求項1〜31及び73〜74の何れか一項に記載の可溶性融合タンパク質複合体。
【請求項33】
請求項1〜30及び73〜74の何れか一項に記載の第一の融合タンパク質をコードする核酸配列。
【請求項34】
請求項1〜32及び73〜74の何れか一項に記載の第二の融合タンパク質をコードする核酸配列。
【請求項35】
核酸配列が、融合タンパク質をコードする配列に動作可能に連結しているプロモーター、翻訳開始シグナル、及びリーダー配列をさらに含有してなる、請求項33又は34に記載の核酸配列。
【請求項36】
請求項33に記載の核酸配列を含有してなるDNAベクター。
【請求項37】
請求項34に記載の核酸配列を含有してなるDNAベクター。
【請求項38】
請求項33及び34に記載の核酸配列を含有してなるDNAベクター。
【請求項39】
請求項1に記載の可溶性融合タンパク質複合体を製造する方法であって、方法が:
a)第一の融合タンパク質をコードする、請求項36に記載のDNAベクターを第一の宿主細胞に導入すること;
b)細胞又は培地の中で第一の融合タンパク質を発現させるのに十分な条件下で、培地において第一の宿主細胞を培養すること;
c)宿主細胞又は培地から第一の融合タンパク質を精製すること;
d)第二の融合タンパク質をコードする、請求項37に記載のDNAベクターを第二の宿主細胞の中に導入すること;
e)細胞又は培地の中で第二の融合タンパク質を発現させるのに十分な条件下で、培地において第二の宿主細胞を培養すること;
f)宿主細胞又は培地から第二の融合タンパク質を精製すること;及び
g)第一の融合タンパク質のIL−15ドメインと、第二の融合タンパク質の可溶性IL−15Raドメインとを結合させて、可溶性融合タンパク質複合体を形成させるのに十分な条件下で、第一の融合タンパク質と第二の融合タンパク質を混合すること:
を含有してなる方法。
【請求項40】
請求項1に記載の可溶性融合タンパク質複合体を製造する方法であって、方法が:
a)第一の融合タンパク質をコードする、請求項36に記載のDNAベクター、及び第二の融合タンパク質をコードする、請求項37に記載のDNAベクターを、宿主細胞に導入すること;
b)細胞又は培地の中で融合タンパク質を発現させ、かつ、第一の融合タンパク質のIL−15ドメインと第二の融合タンパク質の可溶性IL−15Raドメインとを結合させて可溶性融合タンパク質複合体を形成させるのに十分な条件下で、宿主細胞を培地内で培養すること;及び
c)宿主細胞又は培地から可溶性融合タンパク質複合体を精製すること:
を含有してなる方法。
【請求項41】
請求項1に記載の可溶性融合タンパク質複合体を製造する方法であって、方法が:
a)第一及び第二の融合タンパク質をコードする、請求項38に記載のDNAベクターを宿主細胞に導入すること;
b)細胞又は培地の中で融合タンパク質を発現させ、かつ、第一の融合タンパク質のIL−15ドメインと第二の融合タンパク質の可溶性IL−15Raドメインとを結合させて可溶性融合タンパク質複合体を形成させるのに十分な条件下で、培地内で宿主細胞を培養すること;及び
c)宿主細胞又は培地から可溶性融合タンパク質複合体を精製すること:
を含有してなる方法。
【請求項42】
標的細胞を死滅させる方法であって、方法が:
a)複数の細胞を、請求項1〜32に記載の可溶性融合タンパク質複合体に接触させることであって、該複数の細胞が、請求項1に記載のIL−15ドメインによって認識されるIL−15R鎖を産生する免疫細胞、及び請求項1に記載の生物活性ポリペプチドの少なくとも一つによって認識される抗原を産生する標的細胞をさらに含有してなること;
b)標的細胞上の抗原と免疫細胞上のIL−15R鎖との間に、免疫細胞に結合して活性化させるのに十分な特異的結合複合体(架橋)を形成させること;及び
c)結合した活性化免疫細胞によって標的細胞を死滅させること:
を含有してなる方法。
【請求項43】
標的細胞が、腫瘍細胞又はウイルス感染細胞である、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
生物活性ポリペプチドがTCRを含有してなる、請求項42又は43に記載の方法。
【請求項45】
標的細胞上の抗原が、MHC分子又はHLA分子の中に提示され、TCRによって認識される腫瘍ペプチド抗原又はウイルスにコードされたペプチド抗原を含有してなる、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
免疫細胞が、T細胞、LAK細胞、又はNK細胞である、請求項42に記載の方法。
【請求項47】
疾患細胞が疾患関連抗原を発現している患者における疾患を予防又は治療する方法であって、方法が:
a)疾患関連抗原を認識する生物活性ポリペプチドを含有してなる、請求項1〜32及び73〜74のいずれか一項に記載の可溶性融合タンパク質複合体を患者に投与すること;
b)抗原を発現する疾患細胞と、IL−15Rを発現する免疫細胞との間に特異的結合複合体(架橋)を形成させて、免疫細胞を局在化させること;及び
c)患者における疾患を予防又は治療するのに十分なほど、疾患細胞を損傷又は死滅させること:
を含有してなる方法。
【請求項48】
疾患細胞が疾患関連抗原を発現する患者における疾患を予防又は治療する方法であって、方法が:
a)IL−15R鎖を有する免疫細胞を、疾患関連抗原を認識する生物活性ポリペプチドを含有してなる、請求項1〜22及び73の何れか一項に記載の可溶性融合タンパク質複合体と混合すること;
b)免疫細胞−融合タンパク質複合体混合物を患者に投与すること;
c)抗原を発現する疾患細胞と、IL−15Rを発現する免疫細胞との間に免疫細胞を局在化させるのに十分な特異的結合複合体(架橋)を形成させること;及び
d)患者における疾患を予防又は治療するのに十分なほど、疾患細胞を損傷又は死滅させること:
を含有してなる方法。
【請求項49】
疾患が、癌又はウイルス感染症である、請求項47又は48に記載の方法。
【請求項50】
疾患関連抗原がペプチド/MHC複合体である、請求項47又は48に記載の方法。
【請求項51】
請求項1〜32及び73〜74の何れか一項に記載の可溶性融合タンパク質複合体の有効量を哺乳動物に投与することを含有してなる、哺乳動物において免疫応答を刺激する方法。
【請求項52】
請求項1〜32及び73〜74の何れか一項に記載の可溶性融合タンパク質複合体の有効量を哺乳動物に投与することを含有してなる、哺乳動物において免疫応答を抑制する方法。
【請求項53】
少なくとも一つの可溶性融合タンパク質が、検出可能な標識を含有してなる、請求項1〜32及び73〜74の何れか一項に記載の可溶性融合タンパク質複合体。
【請求項54】
検出可能な標識が、ビオチン、ストレプトアビジン、酵素若しくはその触媒活性断片、放射性核種、ナノ粒子、常磁性金属イオン、又は蛍光性、リン光性、若しくは化学発光性の分子である、請求項53に記載の可溶性融合タンパク質複合体。
【請求項55】
細胞又は組織上に提示された抗原を含有してなる細胞若しくは組織を検出する方法であって、方法が:
a)抗原と、可溶性融合タンパク質複合体の生物活性ポリペプチドとの間に特異的結合複合体を形成させる条件下で、当該細胞若しくは組織を、少なくとも一つの請求項54に記載の可溶性融合タンパク質複合体に接触させること;
b)抗原に結合していない何れかの可溶性融合タンパク質複合体を除去するのに適した条件下で、当該細胞若しくは組織を洗浄すること;及び
c)抗原を含有してなる細胞若しくは組織の指標である特異的結合複合体を検出すること:
を含有してなる方法。
【請求項56】
生物活性ポリペプチドがTCRを含有してなり、抗原が、当該TCRに認識されるMHC分子又はHLA分子の中に提示されたペプチド抗原を含有してなる、請求項55に記載の方法。
【請求項57】
天然型のIL−15ポリペプチドとは異なるアミノ酸配列であるアミノ酸配列を含有してなるIL−15変異体であって、当該IL−15変異体が、天然型IL−15ポリペプチドと比較して、IL−15RβγC受容体に対して増加した、又は低下した結合活性を有する、IL−15変異体。
【請求項58】
IL−15変異体がIL−15のアゴニスト又はアンタゴニストとして機能する、請求項57に記載のIL−15変異体複合体。
【請求項59】
IL−15変異体の配列が、天然型IL−2配列と比較して、少なくとも1つのアミノ酸の変化を有する、請求項57に記載のIL−15変異体複合体。
【請求項60】
アミノ酸の変化が、IL−15Rβ及び/又はγCと相互作用するIL−15のドメインにおけるアミノ酸の置換又は欠失である、請求項59に記載のIL−15変異体複合体。
【請求項61】
アミノ酸の変化が、成熟ヒトIL−15の配列の8位、61位、65位、72位、92位、101位、108位、又は111位における1つ又はそれ以上のアミノ酸の置換又は欠失である、請求項59に記載のIL−15変異体複合体。
【請求項62】
アミノ酸の変化が、成熟型ヒトIL−15配列の8位におけるDからN又はAへの置換、61位におけるDからAへの置換、65位におけるNからAへの置換、72位におけるNからRへの置換、又は108位におけるQからAへの置換、又はこれらの置換を組み合わせたものである、請求項59に記載のIL−15変異体複合体。
【請求項63】
アミノ酸の変化が、IL−15アンタゴニスト活性を有するか、又は天然型IL−15ポリペプチドと比較して、IL−15RβγC受容体に対する結合活性が低下しているIL−15変異体を生じさせる、請求項62に記載のIL−15変異体複合体。
【請求項64】
アミノ酸の変化が、成熟型ヒトIL−15配列の72位におけるNからDへの置換である、請求項59に記載のIL−15変異体複合体。
【請求項65】
アミノ酸の変化が、IL−15アゴニスト活性を有するか、又は天然型IL−15ポリペプチドと比較して、IL−15RβγC受容体に対する結合活性が増加しているIL−15変異体を生じさせる、請求項64に記載のIL−15変異体複合体。
【請求項66】
請求項57〜65に記載のIL−15変異体をコードする核酸配列。
【請求項67】
請求項66に記載の核酸配列を含有してなるDNAベクター。
【請求項68】
請求項67に記載のベクターを含有してなる宿主細胞。
【請求項69】
請求項57に記載のIL−15変異体を製造する方法であって、方法が:
b)IL−15変異体を発現させるのに十分な条件下で、請求項68に記載の宿主細胞を培養することを含有していて、
それによって、IL−15変異体を製造する方法。
【請求項70】
さらに、IL−15変異体を精製することを含有している、請求項70に記載の方法。
【請求項71】
有効量の請求項57〜65に記載のIL−15変異体を哺乳動物に投与することを含有している、哺乳動物における免疫応答を刺激する方法。
【請求項72】
有効量の請求項57〜65に記載のIL−15変異体を哺乳動物に投与することを含有している、哺乳動物における免疫応答を抑制する方法。
【請求項73】
第一の生物活性ポリペプチドが、TCRαポリペプチド又はその機能的断片を含み、そして第二の生物活性ポリペプチドが、TCRβポリペプチド又はその機能的断片を含有してなる、請求項1に記載の可溶性融合タンパク質複合体。
【請求項74】
第一の生物活性ポリペプチドが、抗体重鎖ポリペプチド又はその機能的断片を含み、そして第二の生物活性ポリペプチドが、抗体軽鎖ポリペプチド又はその機能的断片を含有してなる、請求項1に記載の可溶性融合タンパク質複合体。
【請求項1】
少なくとも二つの可溶性融合タンパク質を含有する可溶性融合タンパク質複合体であって、
第一の融合タンパク質が、(a)第一の生物活性ポリペプチドであって、(b)インターロイキン15(IL−15)ポリペプチド又はその機能的断片に共有結合しているポリペプチドを含有してなり、
第二の融合タンパク質が、(c)第二の生物活性ポリペプチドであって、(d)可溶性インターロイキン15受容体α鎖(IL−15Ra)ポリペプチド又はその機能的断片に共有結合しているポリペプチドを含有してなり、
第一の融合タンパク質のIL−15ドメインが、第二の融合タンパク質の可溶性IL−15Raドメインに結合して可溶性の融合タンパク質複合体を形成している、可溶性融合タンパク質複合体。
【請求項2】
第一及び第二の生物活性ポリペプチドのうち一つが、第一の可溶性T細胞受容体(TCR)又はその機能的断片を含有してなる、請求項1に記載の可溶性融合タンパク質複合体。
【請求項3】
別の生物活性ポリペプチドが、請求項2に記載の第一の可溶性TCR又はその機能的断片を含有してなり、それによって、結合活性が増大した多価のTCR融合タンパク質複合体が産生される、請求項2に記載の可溶性融合タンパク質複合体。
【請求項4】
別の生物活性ポリペプチドが、第一の可溶性TCRとは異なる、第二の可溶性TCR又はその機能的断片を含有してなる、請求項2に記載の可溶性融合タンパク質複合体。
【請求項5】
TCRが特定の抗原の認識について特異的である、請求項2〜4に記載の可溶性融合タンパク質複合体。
【請求項6】
TCRが、TCRのa鎖及びb鎖を含有してなるヘテロ二量体である、請求項2〜4に記載の可溶性融合タンパク質複合体。
【請求項7】
TCRが単鎖TCRポリペプチドを含有してなる、請求項2〜4に記載の可溶性融合タンパク質複合体。
【請求項8】
単鎖TCRが、ペプチドリンカー配列によって、TCRのV−b鎖に共有結合しているTCR V−a鎖を含有してなる、請求項7に記載の可溶性融合タンパク質複合体。
【請求項9】
単鎖TCRが、TCRのV−b鎖に共有結合している可溶性TCR Cb鎖断片をさらに含有してなる、請求項8に記載の可溶性融合タンパク質複合体。
【請求項10】
単鎖TCRが、TCRのV−a鎖に共有結合している可溶性TCR Ca鎖断片をさらに含有してなる、請求項8又は9に記載の可溶性融合タンパク質複合体。
【請求項11】
第一及び第二の生物活性ポリペプチドの一方又は両方が、抗体又はその機能的断片を含有してなる、請求項1に記載の可溶性融合タンパク質複合体。
【請求項12】
抗体が、特定の抗原の認識について特異的である、請求項11に記載の可溶性融合タンパク質複合体。
【請求項13】
抗体が単鎖抗体又は単鎖Fvである、請求項11又は12に記載の可溶性融合タンパク質複合体。
【請求項14】
単鎖抗体が、ポリペプチドリンカー配列によって、免疫グロブリン重鎖可変ドメインに共有結合している免疫グロブリン軽鎖可変ドメインを含有してなる、請求項13に記載の可溶性融合タンパク質複合体。
【請求項15】
IL−15ポリペプチドが、天然型IL−15ポリペプチドとは異なったアミノ酸配列を含有してなるIL−15変異体である、請求項1に記載の可溶性融合タンパク質複合体。
【請求項16】
IL−15変異体が、IL−15のアゴニスト又はアンタゴニストとして機能する、請求項15に記載の可溶性融合タンパク質複合体。
【請求項17】
IL−15変異体が、天然型IL−15ポリペプチドと比較して、IL−15RβγC受容体に対し増加した結合活性を有するか、又は低下した結合活性を有する、請求項15に記載の可溶性融合タンパク質複合体。
【請求項18】
IL−15変異体の配列が、天然型IL−15配列と比較して、少なくとも1つのアミノ酸の変化を有している、請求項15〜17のいずれか一項に記載の可溶性融合タンパク質複合体。
【請求項19】
アミノ酸の変化が、IL−15Rβ及び/又はγCと相互作用するIL−15のドメインにおけるアミノ酸の置換又は欠失である、請求項18に記載の可溶性融合タンパク質複合体。
【請求項20】
アミノ酸の変化が、成熟型ヒトIL−15配列(配列番号:1)の8位、61位、65位、72位、92位、101位、108位、又は111位における1個又はそれ以上のアミノ酸の置換又は欠失である、請求項18に記載の可溶性融合タンパク質複合体。
【請求項21】
アミノ酸の変化が、成熟型ヒトIL−15配列の8位におけるDからN又はAへの置換、61位におけるDからAへの置換、65位におけるNからAへの置換、72位におけるNからRへの置換、又は108位におけるQからAへの置換、又はこれらの置換を組み合わせたものである、請求項18に記載の可溶性融合タンパク質複合体。
【請求項22】
アミノ酸の変化が、IL−15アンタゴニスト活性を有するか、天然型IL−15ポリペプチドと比較して、IL−15RβγC受容体に対する結合活性が低下しているIL−15変異体を生じさせる、請求項21に記載の可溶性融合タンパク質複合体。
【請求項23】
アミノ酸の変化が、成熟型ヒトIL−15配列の72位におけるNからDへの置換である、請求項18に記載の可溶性融合タンパク質複合体。
【請求項24】
アミノ酸の変化が、IL−15アゴニスト活性を有するか、又は天然型IL−15ポリペプチドと比較して、IL−15RβγC受容体に対する結合活性が増加しているIL−15変異体を生じさせる、請求項23に記載の可溶性融合タンパク質複合体。
【請求項25】
第一の生物活性ポリペプチドが、ポリペプチドリンカー配列によって、IL−15ポリペプチド(又はその機能的断片)に共有結合している、請求項1〜24に記載の可溶性融合タンパク質複合体。
【請求項26】
第二の生物活性ポリペプチドが、ポリペプチドリンカー配列によって、IL−15Raポリペプチド(又はその機能的断片)に共有結合している、請求項1〜25に記載の可溶性融合タンパク質複合体。
【請求項27】
TCRドメインに対する抗原が、MHC分子又はHLA分子の中で提示されるペプチド抗原を含有してなる、請求項5に記載の可溶性融合タンパク質複合体。
【請求項28】
ペプチド抗原が、腫瘍関連ポリペプチド又はウイルスにコードされたポリペプチドに由来する、請求項27に記載の可溶性融合タンパク質複合体。
【請求項29】
抗体ドメインに対する抗原が、細胞表面受容体又はリガンドを含有してなる、請求項12に記載の可溶性融合タンパク質複合体。
【請求項30】
抗原が、CD抗原、サイトカイン若しくはケモカインの受容体又はリガンド、増殖因子の受容体又はリガンド、細胞接着分子、MHC/MHC様分子、FC受容体、Toll−様受容体、NK受容体、TCR、BCR、陽性/陰性共刺激受容体又はリガンド、細胞死受容体又はリガンド、腫瘍関連抗原、又はウイルスコード抗原を含有してなる、請求項12又は29に記載の可溶性融合タンパク質複合体。
【請求項31】
IL−15Raポリペプチドが、IL−15ポリペプチドに結合できる、IL−15受容体アルファの細胞外ドメインを含有してなる、請求項1〜30及び73〜74に記載の可溶性融合タンパク質複合体。
【請求項32】
IL−15Raポリペプチドが、IL−15aSushiドメイン或いはIL−15aΔE3ドメインを含有してなる、請求項1〜31及び73〜74の何れか一項に記載の可溶性融合タンパク質複合体。
【請求項33】
請求項1〜30及び73〜74の何れか一項に記載の第一の融合タンパク質をコードする核酸配列。
【請求項34】
請求項1〜32及び73〜74の何れか一項に記載の第二の融合タンパク質をコードする核酸配列。
【請求項35】
核酸配列が、融合タンパク質をコードする配列に動作可能に連結しているプロモーター、翻訳開始シグナル、及びリーダー配列をさらに含有してなる、請求項33又は34に記載の核酸配列。
【請求項36】
請求項33に記載の核酸配列を含有してなるDNAベクター。
【請求項37】
請求項34に記載の核酸配列を含有してなるDNAベクター。
【請求項38】
請求項33及び34に記載の核酸配列を含有してなるDNAベクター。
【請求項39】
請求項1に記載の可溶性融合タンパク質複合体を製造する方法であって、方法が:
a)第一の融合タンパク質をコードする、請求項36に記載のDNAベクターを第一の宿主細胞に導入すること;
b)細胞又は培地の中で第一の融合タンパク質を発現させるのに十分な条件下で、培地において第一の宿主細胞を培養すること;
c)宿主細胞又は培地から第一の融合タンパク質を精製すること;
d)第二の融合タンパク質をコードする、請求項37に記載のDNAベクターを第二の宿主細胞の中に導入すること;
e)細胞又は培地の中で第二の融合タンパク質を発現させるのに十分な条件下で、培地において第二の宿主細胞を培養すること;
f)宿主細胞又は培地から第二の融合タンパク質を精製すること;及び
g)第一の融合タンパク質のIL−15ドメインと、第二の融合タンパク質の可溶性IL−15Raドメインとを結合させて、可溶性融合タンパク質複合体を形成させるのに十分な条件下で、第一の融合タンパク質と第二の融合タンパク質を混合すること:
を含有してなる方法。
【請求項40】
請求項1に記載の可溶性融合タンパク質複合体を製造する方法であって、方法が:
a)第一の融合タンパク質をコードする、請求項36に記載のDNAベクター、及び第二の融合タンパク質をコードする、請求項37に記載のDNAベクターを、宿主細胞に導入すること;
b)細胞又は培地の中で融合タンパク質を発現させ、かつ、第一の融合タンパク質のIL−15ドメインと第二の融合タンパク質の可溶性IL−15Raドメインとを結合させて可溶性融合タンパク質複合体を形成させるのに十分な条件下で、宿主細胞を培地内で培養すること;及び
c)宿主細胞又は培地から可溶性融合タンパク質複合体を精製すること:
を含有してなる方法。
【請求項41】
請求項1に記載の可溶性融合タンパク質複合体を製造する方法であって、方法が:
a)第一及び第二の融合タンパク質をコードする、請求項38に記載のDNAベクターを宿主細胞に導入すること;
b)細胞又は培地の中で融合タンパク質を発現させ、かつ、第一の融合タンパク質のIL−15ドメインと第二の融合タンパク質の可溶性IL−15Raドメインとを結合させて可溶性融合タンパク質複合体を形成させるのに十分な条件下で、培地内で宿主細胞を培養すること;及び
c)宿主細胞又は培地から可溶性融合タンパク質複合体を精製すること:
を含有してなる方法。
【請求項42】
標的細胞を死滅させる方法であって、方法が:
a)複数の細胞を、請求項1〜32に記載の可溶性融合タンパク質複合体に接触させることであって、該複数の細胞が、請求項1に記載のIL−15ドメインによって認識されるIL−15R鎖を産生する免疫細胞、及び請求項1に記載の生物活性ポリペプチドの少なくとも一つによって認識される抗原を産生する標的細胞をさらに含有してなること;
b)標的細胞上の抗原と免疫細胞上のIL−15R鎖との間に、免疫細胞に結合して活性化させるのに十分な特異的結合複合体(架橋)を形成させること;及び
c)結合した活性化免疫細胞によって標的細胞を死滅させること:
を含有してなる方法。
【請求項43】
標的細胞が、腫瘍細胞又はウイルス感染細胞である、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
生物活性ポリペプチドがTCRを含有してなる、請求項42又は43に記載の方法。
【請求項45】
標的細胞上の抗原が、MHC分子又はHLA分子の中に提示され、TCRによって認識される腫瘍ペプチド抗原又はウイルスにコードされたペプチド抗原を含有してなる、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
免疫細胞が、T細胞、LAK細胞、又はNK細胞である、請求項42に記載の方法。
【請求項47】
疾患細胞が疾患関連抗原を発現している患者における疾患を予防又は治療する方法であって、方法が:
a)疾患関連抗原を認識する生物活性ポリペプチドを含有してなる、請求項1〜32及び73〜74のいずれか一項に記載の可溶性融合タンパク質複合体を患者に投与すること;
b)抗原を発現する疾患細胞と、IL−15Rを発現する免疫細胞との間に特異的結合複合体(架橋)を形成させて、免疫細胞を局在化させること;及び
c)患者における疾患を予防又は治療するのに十分なほど、疾患細胞を損傷又は死滅させること:
を含有してなる方法。
【請求項48】
疾患細胞が疾患関連抗原を発現する患者における疾患を予防又は治療する方法であって、方法が:
a)IL−15R鎖を有する免疫細胞を、疾患関連抗原を認識する生物活性ポリペプチドを含有してなる、請求項1〜22及び73の何れか一項に記載の可溶性融合タンパク質複合体と混合すること;
b)免疫細胞−融合タンパク質複合体混合物を患者に投与すること;
c)抗原を発現する疾患細胞と、IL−15Rを発現する免疫細胞との間に免疫細胞を局在化させるのに十分な特異的結合複合体(架橋)を形成させること;及び
d)患者における疾患を予防又は治療するのに十分なほど、疾患細胞を損傷又は死滅させること:
を含有してなる方法。
【請求項49】
疾患が、癌又はウイルス感染症である、請求項47又は48に記載の方法。
【請求項50】
疾患関連抗原がペプチド/MHC複合体である、請求項47又は48に記載の方法。
【請求項51】
請求項1〜32及び73〜74の何れか一項に記載の可溶性融合タンパク質複合体の有効量を哺乳動物に投与することを含有してなる、哺乳動物において免疫応答を刺激する方法。
【請求項52】
請求項1〜32及び73〜74の何れか一項に記載の可溶性融合タンパク質複合体の有効量を哺乳動物に投与することを含有してなる、哺乳動物において免疫応答を抑制する方法。
【請求項53】
少なくとも一つの可溶性融合タンパク質が、検出可能な標識を含有してなる、請求項1〜32及び73〜74の何れか一項に記載の可溶性融合タンパク質複合体。
【請求項54】
検出可能な標識が、ビオチン、ストレプトアビジン、酵素若しくはその触媒活性断片、放射性核種、ナノ粒子、常磁性金属イオン、又は蛍光性、リン光性、若しくは化学発光性の分子である、請求項53に記載の可溶性融合タンパク質複合体。
【請求項55】
細胞又は組織上に提示された抗原を含有してなる細胞若しくは組織を検出する方法であって、方法が:
a)抗原と、可溶性融合タンパク質複合体の生物活性ポリペプチドとの間に特異的結合複合体を形成させる条件下で、当該細胞若しくは組織を、少なくとも一つの請求項54に記載の可溶性融合タンパク質複合体に接触させること;
b)抗原に結合していない何れかの可溶性融合タンパク質複合体を除去するのに適した条件下で、当該細胞若しくは組織を洗浄すること;及び
c)抗原を含有してなる細胞若しくは組織の指標である特異的結合複合体を検出すること:
を含有してなる方法。
【請求項56】
生物活性ポリペプチドがTCRを含有してなり、抗原が、当該TCRに認識されるMHC分子又はHLA分子の中に提示されたペプチド抗原を含有してなる、請求項55に記載の方法。
【請求項57】
天然型のIL−15ポリペプチドとは異なるアミノ酸配列であるアミノ酸配列を含有してなるIL−15変異体であって、当該IL−15変異体が、天然型IL−15ポリペプチドと比較して、IL−15RβγC受容体に対して増加した、又は低下した結合活性を有する、IL−15変異体。
【請求項58】
IL−15変異体がIL−15のアゴニスト又はアンタゴニストとして機能する、請求項57に記載のIL−15変異体複合体。
【請求項59】
IL−15変異体の配列が、天然型IL−2配列と比較して、少なくとも1つのアミノ酸の変化を有する、請求項57に記載のIL−15変異体複合体。
【請求項60】
アミノ酸の変化が、IL−15Rβ及び/又はγCと相互作用するIL−15のドメインにおけるアミノ酸の置換又は欠失である、請求項59に記載のIL−15変異体複合体。
【請求項61】
アミノ酸の変化が、成熟ヒトIL−15の配列の8位、61位、65位、72位、92位、101位、108位、又は111位における1つ又はそれ以上のアミノ酸の置換又は欠失である、請求項59に記載のIL−15変異体複合体。
【請求項62】
アミノ酸の変化が、成熟型ヒトIL−15配列の8位におけるDからN又はAへの置換、61位におけるDからAへの置換、65位におけるNからAへの置換、72位におけるNからRへの置換、又は108位におけるQからAへの置換、又はこれらの置換を組み合わせたものである、請求項59に記載のIL−15変異体複合体。
【請求項63】
アミノ酸の変化が、IL−15アンタゴニスト活性を有するか、又は天然型IL−15ポリペプチドと比較して、IL−15RβγC受容体に対する結合活性が低下しているIL−15変異体を生じさせる、請求項62に記載のIL−15変異体複合体。
【請求項64】
アミノ酸の変化が、成熟型ヒトIL−15配列の72位におけるNからDへの置換である、請求項59に記載のIL−15変異体複合体。
【請求項65】
アミノ酸の変化が、IL−15アゴニスト活性を有するか、又は天然型IL−15ポリペプチドと比較して、IL−15RβγC受容体に対する結合活性が増加しているIL−15変異体を生じさせる、請求項64に記載のIL−15変異体複合体。
【請求項66】
請求項57〜65に記載のIL−15変異体をコードする核酸配列。
【請求項67】
請求項66に記載の核酸配列を含有してなるDNAベクター。
【請求項68】
請求項67に記載のベクターを含有してなる宿主細胞。
【請求項69】
請求項57に記載のIL−15変異体を製造する方法であって、方法が:
b)IL−15変異体を発現させるのに十分な条件下で、請求項68に記載の宿主細胞を培養することを含有していて、
それによって、IL−15変異体を製造する方法。
【請求項70】
さらに、IL−15変異体を精製することを含有している、請求項70に記載の方法。
【請求項71】
有効量の請求項57〜65に記載のIL−15変異体を哺乳動物に投与することを含有している、哺乳動物における免疫応答を刺激する方法。
【請求項72】
有効量の請求項57〜65に記載のIL−15変異体を哺乳動物に投与することを含有している、哺乳動物における免疫応答を抑制する方法。
【請求項73】
第一の生物活性ポリペプチドが、TCRαポリペプチド又はその機能的断片を含み、そして第二の生物活性ポリペプチドが、TCRβポリペプチド又はその機能的断片を含有してなる、請求項1に記載の可溶性融合タンパク質複合体。
【請求項74】
第一の生物活性ポリペプチドが、抗体重鎖ポリペプチド又はその機能的断片を含み、そして第二の生物活性ポリペプチドが、抗体軽鎖ポリペプチド又はその機能的断片を含有してなる、請求項1に記載の可溶性融合タンパク質複合体。
【図1A】
【図1B】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14AB】
【図14C−1】
【図14C−2】
【図14D−1】
【図14D−2】
【図15】
【図16】
【図17AB】
【図17C】
【図18】
【図19AB】
【図19C】
【図20】
【図21】
【図22】
【図1B】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14AB】
【図14C−1】
【図14C−2】
【図14D−1】
【図14D−2】
【図15】
【図16】
【図17AB】
【図17C】
【図18】
【図19AB】
【図19C】
【図20】
【図21】
【図22】
【公表番号】特表2010−527919(P2010−527919A)
【公表日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−507463(P2010−507463)
【出願日】平成20年5月9日(2008.5.9)
【国際出願番号】PCT/US2008/005918
【国際公開番号】WO2008/143794
【国際公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【出願人】(504090190)アルター・バイオサイエンス・コーポレーション (8)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年5月9日(2008.5.9)
【国際出願番号】PCT/US2008/005918
【国際公開番号】WO2008/143794
【国際公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【出願人】(504090190)アルター・バイオサイエンス・コーポレーション (8)
【Fターム(参考)】
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