説明

血中コレステロール低減作用を有する新規乳酸菌

【課題】本発明の目的は、死菌の状態において、コレステロール吸着能及び胆汁酸吸着能が高く、優れた血中コレステロール低減作用を発揮できる乳酸菌を提供することである。
【解決手段】ラクトバチルス ファーメンタム(Lactobacillus fermentum)、ラクトバチルス プランタラム(Lactobacillus plantarum)、及びラクトバチルス パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)の何れかに属する乳酸菌の内、死菌の乾燥菌体重量1mg当たり、60容量%エタノール溶液において1.2μg以上のコレステロール吸着量を示し、且つリン酸緩衝液(pH6.8)において33nmol以上の胆汁酸吸着量を示す乳酸菌を採用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、死菌の状態において、コレステロール吸着能及び胆汁酸吸着能が高く、優れた血中コレステロール低減作用を発揮する乳酸菌に関する。更に、本発明は、当該乳酸菌を含有する食品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食生活の欧米化やライフスタイルの変化に伴ってわが国では高脂血症の罹患率は増加傾向にあり、これが原因の一つと考えられる虚血性心疾患の発症率も上昇している。とりわけ高コレステロール血症は多くの疫学調査から動脈硬化性疾患の独立した危険因子とされている。
【0003】
コレステロールは、細胞の膜成分やステロイドホルモンの材料となる生命機能維持に不可欠な脂質である。しかし、食生活の変化の結果として、食餌性コレステロールの摂取が過剰になり、この外来性コレステロールが生体内のコレステロール上昇をもたらし、各種疾病を引き起こす原因になってきている。これらの疾病を予防するためには、血中総及びLDLコレステロール値を低減させると共に、HDLコレステロール値を増加させることにより、血中コレステロール値の改善を図ることが望ましいと考えられている。
【0004】
これまでに、乳酸菌を使用することによって血中コレステロール値の改善を図る試みが多く為されている。そして、これまでの報告から、乳酸菌によるこれらの血中コレステロール値改善作用の主要な機序は、菌体のコレステロール吸着作用(非特許文献1参照)、菌体の胆汁酸吸着作用(非特許文献2参照)、胆汁酸脱抱合作用(非特許文献3参照)等による可能性が考えられている。しかしながら、胆汁酸脱抱合作用に関しては、当該作用により生じた遊離の胆汁酸は、回腸部位では再吸収され難いため大腸へ移行し易く、そこで腸内細菌により発癌プロモーターである二次胆汁酸に変換されることから、大腸癌のリスクを増大させると考えられている(非特許文献4参照)。一方、乳酸菌の菌体の胆汁酸吸着能に着目して血中コレステロール値改善作用を評価した報告例は多い(例えば、特許文献1及び2参照)。しかしながら、胆汁酸吸着作用が強くても、コレステロール吸着作用が弱い場合、腸管内の遊離したコレステロール量が増加する可能性が考えられる。コレステロールは腸管内で遊離していると、腸内細菌により代謝されることが知られており、その代謝物の一種であるコプロスタノールが1,2-ジメチルヒドラジン処理ラットで大腸癌を引き起こすことが示唆されている(非特許文献5参照)。このように、遊離したコレステロールや胆汁酸が腸管内に存在すると生体にとって有害となる恐れがあり、血中コレステロールの低減には、胆汁酸吸着作用と同時にコレステロール吸着作用を発揮させることが重要であると考えられる。
【0005】
また、従来、多くの食品では、品質保持のために、加熱等の殺菌処理に供された後に提供されている。もし、生菌状態の乳酸菌を使用する場合、適用した食品の賞味期限が2週間程度と比較的短いものに制限されることになる。これに対して、従来の乳酸菌では、コレステロール吸着作用又は胆汁酸吸着作用は、生菌状態で評価されているものが殆どであり、実際、発酵食品の製造に有用とされている乳酸菌であるラクトバチルス ファーメンタム、ラクトバチルス プランタラム及びラクトバチルス パラカゼイに関して、死菌の状態で優れたコレステロール吸着作用及び胆汁酸吸着作用を併せ持つものは報告されていない。そのため、加熱殺菌処理した菌体若しくはそれから加工される成分で血中コレステロール値改善作用を示す乳酸菌を単離・取得できれば、加工食品への適用範囲が大きく広がり、その有用性も高まると考えられる。
【0006】
このような従来技術を背景として、死菌の状態であっても、コレステロール吸着作用及び胆汁酸吸着作用の両項目について一定以上の力価を持ち、血中コレステロールの低減に有用な乳酸菌の単離及びその利用が切望されている。
【0007】
一方、鮒寿司や糠漬は日本国内で長年にわたり摂食されてきた乳酸菌発酵食品であり、これらから分離される乳酸菌はヒトに対する有害作用はなく、安全性の点で問題はないと考えられる。
【特許文献1】特開2003-23501号公報
【特許文献2】特開2004-208577号公報
【非特許文献1】Hosono et al.: Milchwissenschaft. 50, 556-560(1995)
【非特許文献2】Hashimoto Milchwissenschaft et al.:. 55, 316-319(2000)
【非特許文献3】Gilliland et al.: Appl. Env. Microbiol. 33, 15-18(1977)
【非特許文献4】Hill: Mutat. Res. 238, 313-320(1990)
【非特許文献5】Panda et al.: Br. J. Cancer. 80, 1132-1136(1986)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、上記従来技術の課題を解決することである。具体的には、本発明は、死菌の状態において、コレステロール吸着能及び胆汁酸吸着能が高く、優れた血中コレステロール低減作用を発揮できる乳酸菌を提供することを目的とする。更に、本発明は、前記乳酸菌を利用した食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記課題を解決すべく、糞便や各種発酵食品を分離源として、血中コレステロールの低減に有用な菌株の単離について、鋭意検討を行った。その結果、従来公知の乳酸菌に比して、優れた特性を有するラクトバチルス ファーメンタム、ラクトバチルス プランタラム及びラクトバチルス パラカゼイを鮒寿司又は糠漬から取得した。即ち、死菌の状態であってもコレステロール吸着能及び胆汁酸吸着能に優れており、しかも胆汁酸脱抱合作用を有していない、ラクトバチルス ファーメンタム、ラクトバチルス プランタラム及びラクトバチルス パラカゼイの単離に成功した。更に、当該乳酸菌は、血中コレステロールの低減に有用であることも確認した。本発明は、これらの知見に基づいて、更に改良を重ねることにより完成したものである。
【0010】
即ち、本発明は、下記に掲げる乳酸菌及びその利用に関する発明を提供する:
項1. ラクトバチルス ファーメンタム(Lactobacillus fermentum)、ラクトバチルス プランタラム(Lactobacillus plantarum)、及びラクトバチルス パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)の何れかに属し、死菌の乾燥菌体重量1mg当たり、60容量%エタノール溶液において1.2μg以上のコレステロール吸着量を示し、且つリン酸緩衝液(pH6.8)において33nmol以上の胆汁酸吸着量を示すことを特徴とする、乳酸菌。
項2. 胆汁酸脱抱合作用を示さないことを特徴とする、請求項1に記載に乳酸菌。
項3. ラクトバチルス ファーメンタムNLB202株(NITE P-161)、ラクトバチルス ファーメンタムNLB209株(NITE P-162)、ラクトバチルス ファーメンタムNLB214株(NITE P-163)、ラクトバチルス プランタラムNLB136株(NITE P-158)、ラクトバチルス パラカゼイNLB162株(NITE P-159)、又はラクトバチルス パラカゼイNLB163株(NITE P-160)である、項1又は2のいずれかに記載の乳酸菌。
項4. 項1乃至3のいずれかに記載の乳酸菌を含有する、食品。
項5. 食品が発酵乳製品である、項4に記載の食品。
項6. 項1乃至3のいずれかに記載の乳酸菌を含有する、高脂血症患者用食品。
項7. 項1乃至3のいずれかに記載の乳酸菌を含有する、血中コレステロール値低減剤。
【0011】
以下本発明を詳細に説明する。
1.乳酸菌
本発明の乳酸菌は、ラクトバチルス ファーメンタム(Lactobacillus fermentum)、ラクトバチルス プランタラム(Lactobacillus plantarum)、及びラクトバチルス パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)の何れかに属するものであって、以下(1)及び(2)の特性を有することを特徴とするものである:
(1)死菌の状態において、乾燥菌体重量1mg当たり、60容量%エタノール溶液において1.2μg以上のコレステロール吸着量を示す。
(2)死菌の状態において、乾燥菌体重量1mg当たり、リン酸緩衝液(pH6.8)において33nmol以上の胆汁酸吸着量を示す。
【0012】
本発明において、乾燥菌体重量とは、生菌の場合は、乳酸菌を培養した培養液から遠心分離等の手段により菌体を回収し、適当な溶液で洗浄した後に、凍結乾燥することにより得られる乾燥生菌体の重量を意味する。また、死菌の場合の乾燥菌体重量とは、乳酸菌を培養した培養液から遠心分離等の手段により菌体を回収して、回収した菌体を適当な溶液で洗浄し、次いで100℃で30分間加熱処理に供した後に凍結乾燥することにより得られる乾燥死菌体の重量を意味する。
【0013】
上記コレステロール吸着量については、具体的には、Hosono et al.の方法(Milchweissenschaft. 50, 556-560(1995))の方法に従って測定される。即ち、試料(凍結乾燥菌体)12 mgを、コレステロールを100μg/mLの濃度で含有する60容量%エタノール水溶液0.4 mLに懸濁し、穏やかに撹拌しながら37℃で1時間インキュベートする。次いで、遠心分離により菌体除去後、上清0.1 mLを33重量%水酸化カリウム水溶液0.3 mL及びエタノール3.0 mLと混合し、60℃で15分間インキュベートする。その後、室温まで冷却して、n-ヘキサン5.0 mLを添加撹拌し、次に蒸留水3.0 mLを添加撹拌する。ヘキサン層回収後、窒素気流下で乾固し、この乾固物にo-フタルアルデヒド(0.05重量%)を含有する氷酢酸溶液1 mLを加える。室温で10分間静置後、硫酸0.5 mLを添加し、吸光度(550 nm)を測定する。下記の式よりコレステロール吸着量を算出する。コレステロール吸着量1.20μg/mg以上を有効と判断した。
【0014】
【数1】

【0015】
また、上記胆汁酸吸着量については、具体的には、以下の方法に従って測定される。即ち、試料(凍結乾燥菌体)12 mgを、タウロコール酸を1.25 mmol/Lの濃度で含有するリン酸緩衝液(pH6.8;リン酸濃度10 mmol/L)溶液0.8 mLに懸濁し、穏やかに撹拌しながら37℃で2.5時間インキュベートする。遠心分離により菌体除去後、反応液上清のタウロコール酸濃度を測定する。下記の式より試料の胆汁酸吸着量を算出する。
【0016】
【数2】

【0017】
本発明の乳酸菌は、前記コレステロール吸着量が1.2μg以上であればよいが、好ましくは1.4μg以上、更に好ましくは1.5μg以上である。また、本発明の乳酸菌は、前記胆汁酸吸着量については、33nmol以上を充足する限り特に制限されないが、好ましくは35nmol以上、更に好ましくは40nmol以上である。本発明の乳酸菌は、死菌の状態で、このようなコレステロール吸着能及び胆汁酸吸着能を兼ね備えることにより、血中コレステロールの低減効果を一層顕著ならしめることができる。
【0018】
一方、本発明者等による試験結果によると、血中コレステロールの低減作用が優れている公知乳酸菌であるラクトバチルス ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus) LGG株、ラクトバチルス カゼイ(Lactobacillus casei) シロタ株及びラクトバチルス アシドフィラス(Lactobacillus acidophilus) CL-92株は、死菌の状態では、前記コレステロール吸着量及び前記胆汁酸吸着量は、下表の通りである。即ち、本発明の乳酸菌は、死菌の状態において、血中コレステロールの低減作用を有することが公知の従来の乳酸菌と比較して、前記コレステロール吸着量値は同等以上の値を示し、且つ前記胆汁酸吸着量は高い値を示す。
【0019】
【表1】

【0020】
また、本発明の乳酸菌は、生菌の状態であっても、前記コレステロール吸着能及び胆汁酸吸着能を兼ね備えることが望ましく、これによって当該乳酸菌の適用範囲を一層拡げることが可能になる。
【0021】
また、本発明の乳酸菌は、前述するコレステロール吸着能及び胆汁酸吸着能に加えて、胆汁酸脱抱合作用を示さないことが望ましい。胆汁酸脱抱合作用を示す乳酸菌では、たとえコレステロール吸着能及び胆汁酸吸着能を兼ね備えていても、脱抱合された胆汁酸からの二次胆汁酸の発生による大腸癌のリスクが増加するという不都合がある。
【0022】
本発明の乳酸菌は、例えば、以下の方法に従って、(1)分離源からの目的乳酸菌種の分離、及び(2)コレステロール吸着量及び胆汁酸吸着量の測定を行うことによって、単離することができる。
(1)分離源からの目的乳酸菌種の分離
ラクトバチルス ファーメンタムに属する乳酸菌については、例えば、以下の方法に従って分離することができる。即ち、まず、鮒寿司や糠漬等の分離源を約9倍量のMRS液体培地に添加し、45℃で1〜3日間培養する。得られた培養液の適量をLBS寒天培地に塗布して、45℃で1〜3日間再度培養する。培地上に形成された集落及び菌体の形状を目視及び顕微鏡により観察し、更にラクトバチルス ファーメンタム特異的プラマー(Byun et al.: J. Clin. Microbiol. 42, 3128-3136(2004))を使用した16S rDNAの部分増幅産物の塩基配列解析を行う。これらの結果から、ラクトバチルス ファーメンタムに属する乳酸菌を選定する。
【0023】
また、ラクトバチルス プランタラム、又はラクトバチルス パラカゼイに属する乳酸菌については、例えば、以下の方法に従って分離することができる。即ち、まず、鮒寿司や糠漬等の分離源を0.85重量%塩化ナトリウム含有水溶液に懸濁、希釈し、32℃で、1〜3日間、BL寒天培地上で培養する。培地上に形成された集落及び菌体の形状を目視及び顕微鏡により観察し、更にprbacプラマー(Rupf et al.: J. Dent. Res. 78, 850-856(1999))を使用した16S rDNAの部分増幅産物の塩基配列解析を行う。これらの結果から、ラクトバチルス プランタラム又はラクトバチルス パラカゼイに属する乳酸菌を選定する。
(2)コレステロール吸着量及び胆汁酸吸着量の測定
次いで、上記(1)で選定された乳酸菌について、コレステロール吸着量及び胆汁酸吸着量を、前述する方法に従って測定する。コレステロール吸着量及び胆汁酸吸着量の測定結果に基づいて、本発明の乳酸菌を同定し、単離する。
【0024】
本発明の乳酸菌の好適な例としては、本発明者らが、鮒寿司又は糠漬から単離・同定した下記の乳酸菌が包含される。
(i)ラクトバチルス ファーメンタムNLB202株、NLB209株、及びNLB214株
これらの乳酸菌は、糠漬から単離されたものである。これらの乳酸菌の菌学的性質について以下の表2及び3に示す。
【0025】
【表2】

【0026】
【表3】

【0027】
以上の菌学的性質を、バージィーズ・マニュアル・オブ・システマティック・バクテリオロジー(Bergey's Manual of Systematic Bacteriology)に照合と共に、16SrRNAの塩基配列の解析結果から、本3菌株をラクトバチルス ファーメンタム(Lactobacillus fermentum)に属する菌株と同定し、それぞれラクトバチルス ファーメンタムNLB202株、ラクトバチルス ファーメンタムNLB209株、ラクトバチルス ファーメンタムNLB214株と命名した。これら3菌株は、それぞれラクトバチルス ファーメンタムNLB202株(NITE P-161)、ラクトバチルス ファーメンタムNLB209株(NITE P-162)、ラクトバチルス ファーメンタムNLB214株(NITE P-163)として、平成17年12月28日に、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに寄託されている。
【0028】
本ラクトバチルス ファーメンタムNLB202株、NLB209株、及びNLB214株は、死菌及び生菌のいずれの状態であっても、乾燥菌体重量1mg当たり、前記コレステロール吸着量が1.4μg以上であり、且つ前記胆汁酸吸着量が40nmol以上である。従って、これらの菌株は、生菌及び死菌のいずれの状態でも、血中コレステロール値の低減に有用である。
【0029】
また、ラクトバチルス ファーメンタムは、一般的には、遠心分離による菌体回収時に菌体の沈殿の崩れ易いという欠点があるが、本ラクトバチルス ファーメンタムNLB214株は、遠心分離後菌体沈殿の崩れが少なく、菌体の回収が容易であるという利点もあり、工業的な使用に適している。
【0030】
(ii)ラクトバチルス プランタラムNLB136株
これらの乳酸菌は、鮒寿司から単離されたものである。本乳酸菌の菌学的性質について以下の表4及び5に示す。
【0031】
【表4】

【0032】
【表5】

【0033】
以上の菌学的性質から、バージィーズ・マニュアル・オブ・システマティック・バクテリオロジー(Bergey's Manual of Systematic Bacteriology)に照合することにより、本菌株をラクトバチルス プランタラム(Lactobacillus plantarum)に属する菌株と同定し、ラクトバチルス プランタラムNLB136株(NITE P-158)として、平成17年12月28日に、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに寄託した。
【0034】
本ラクトバチルス プランタラムNLB136株は、死菌及び生菌のいずれの状態であっても、乾燥菌体重量1mg当たり、前記コレステロール吸着量が1.3μg以上であり、且つ前記胆汁酸吸着量が33nmol以上である。従って、本菌株は、生菌及び死菌のいずれの状態でも、血中コレステロール値の低減に有用である。
【0035】
(iii)ラクトバチルス パラカゼイNLB162株及びNLB163株
これらの乳酸菌は、糠漬から単離されたものである。これらの乳酸菌の菌学的性質について以下の表6及び7に示す。
【0036】
【表6】

【0037】
【表7】

【0038】
以上の菌学的性質を、バージィーズ・マニュアル・オブ・システマティック・バクテリオロジー(Bergey's Manual of Systematic Bacteriology)に照合して、本2菌株をラクトバチルス パラカゼイ サブスピーシーズ パラカゼイ(Lactobacillus paracasei subsp. paracasei)に属する菌株と同定し、それぞれラクトバチルス パラカゼイNLB162株、ラクトバチルス パラカゼイNLB163株と命名した。これらの菌株は、それぞれラクトバチルス パラカゼイNLB162株(NITE P-159)、又はラクトバチルス パラカゼイNLB163株(NITE P-160)として、平成17年12月28日に、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに寄託されている。
【0039】
本ラクトバチルス パラカゼイNLB162株及びNLB163株は、還元脱脂乳中でも良好に生育できるので、発酵乳のスターターとしても使用可能であり、多岐に亘る用途に適用できる点でも有利である。
【0040】
これら本発明の乳酸菌の培養は、一般的な乳酸菌の培養方法で可能である。本乳酸菌の培養方法については、本乳酸菌が良好に生育する条件であれば特に制限はないが、例えばMRS(de Man Rogosa Sharpe)培地等を用いて、静置培養又はpHを一定に制御した中和培養で行う方法が例示される。
【0041】
2.食品
前記乳酸菌は、死菌の状態においても、コレステロール吸着能及び胆汁酸吸着能の双方の点で優れているので、食品の一成分として使用されて摂取されることにより、生体内で血中コレステロール低減作用を効果的に発揮することができる。それ故、前記乳酸菌を含有する食品(以下、「本発明食品」と表記する)は、血中コレステロールの低減用として有用である。また、本発明食品は、高脂血症患者用食品としても極めて優れている。なお、本発明において、食品とは飲料を含む意で使用する。
【0042】
本発明食品は、一般の食品以外に、保健機能食品(栄養機能食品及び特定保健用食品)、栄養補助食品、病者用食品等としても有用である。本発明食品の具体例としては、特に制限されないが、バター等の乳製品;マヨネーズ等の卵加工品;バターケーキ等の菓子パン類;乳酸菌飲料、ヨーグルト等の発酵乳製品等が例示される。また、上記の他、本発明食品は、前記乳酸菌と共に、必要に応じて適当な担体及び添加剤を添加して製剤化された形態(例えば、粉末、顆粒、カプセル、錠剤等)であってもよい。
【0043】
通常、コレステロール含量の高い食品(例えば、バター、マヨネーズ、バターケーキ等)については、その食品の摂取によって、血中コレステロール値が上昇する傾向がみられるが、前記乳酸菌を含むことによって、血中コレステロール値の上昇を抑制できる。即ち、本発明食品をコレステロール含量の高い食品に適用することにより、コレステロールの過剰摂取時における血中コレステロール値上昇の抑制効果を期待することができる。
【0044】
また、前記乳酸菌自体は、発酵乳製品に添加したり、発酵乳製品の乳酸発酵用微生物として使用しても、その風味を損なうことなく、発酵乳製品本来の良好な呈味を維持することができる。このような自然で良好な風味を呈させるという観点から、本発明食品の好適なものとして、発酵乳製品が挙げられる。
【0045】
本発明の食品において含有される乳酸菌は、生菌及び死菌のいずれの状態であってもよい。ここで、死菌の状態の前記乳酸菌を含む食品としては、前記乳酸菌を加熱又は破砕等の手段で死滅させる処理により得られる菌体成分を添加した食品であっても、また前記乳酸菌を生菌の状態で含む食品を加熱処理したものであってもよい。
【0046】
本発明食品において配合される前記乳酸菌の量については、使用する乳酸菌の種類、食品の形態等に応じて適宜設定できる。一例として、本発明食品100g当たりの前記乳酸菌の含有量が、生菌数に換算して1×108〜1×1013cfu、好ましくは1×109〜1×1012cfu、更に好ましくは1×1010〜1×1011cfu程度が例示される。ここで、「生菌数に換算」とは、生菌の状態の場合にはその菌数を示し、死菌の状態の場合には当該死菌が生存していると仮定して算出した菌数を示す。このような含有量で前記乳酸菌を含むことにより、血中コレステロール低減作用を一層効果的に獲得することが可能になる。
【0047】
本発明食品は、所定量の前記乳酸菌の生菌体又は死菌体を各種食品に配合することにより調製される。また、本発明食品が発酵乳製品の場合であれば、前記乳酸菌を、単独で又は他の乳酸菌と混合して発酵用乳酸菌として用いて、所定の原料と混合して発酵させることによって、製造することもできる。
【0048】
また、本発明食品は、含有する前記乳酸菌が死菌の状態であっても、優れた血中コレステロール低減作用を発揮することができる。従って、本発明食品は、製造工程において、加熱殺菌処理に供することも可能であり、これによって本発明食品の保存安定性を向上せしめることができる。
【0049】
本発明食品の1日当たりの摂取量としては、摂取するヒトの年齢、性別、体重、期待される効果等に応じて適宜決定され、特に限定されるものではない。一般には、前記乳酸菌含量(生菌数換算)を1×1010〜1×1011cfu/100gの割合で含む食品を、1日当たり100〜500g程度摂取するとよい。
【0050】
3.血中コレステロール値低減剤
前記乳酸菌は、血中コレステロール値低減剤の有効成分として製剤化されて使用することもできる。当該血中コレステロール値低減剤は、高脂血症等の予防又は治療剤として有用である。
【0051】
本発明の血中コレステロール値低減剤において、配合される乳酸菌は生菌及び死菌のいずれの状態であってもよい。
【0052】
本発明の血中コレステロール値低減剤は、前記乳酸菌と共に、必要に応じて製剤製造上許容される担体や添加剤を適宜配合して調製される。添加される担体や添加剤の種類及び配合割合については、製剤の形態や投与形態に応じて適宜選択される。
【0053】
本発明の血中コレステロール値低減剤は、経口投与が可能である限り、その形態については特に制限されないが、該剤の形態の一例として、錠剤、丸剤、顆粒剤、カプセル剤、液剤、懸濁剤等が例示される。
【0054】
本発明の血中コレステロール値低減剤に含有されるべき前記乳酸菌の量は、該剤の形態、該剤の1日当たりの投与量等に基づいて適宜決定される。
【0055】
本発明の血中コレステロール値低減剤の投与量については、適用形態、患者の年齢や性別、疾患の程度等に応じて適宜設定されるが、例えば、有効成分である前記乳酸菌が、1日当たり1×108〜1×1013cfu程度に相当する量とすればよい。また、本発明の血中コレステロール値低減剤は、前記の1日当たりの投与量を1回又は2〜4回に分けて投与してもよい。
【発明の効果】
【0056】
従来公知の乳酸菌では、(i)コレステロール吸着能及び胆汁酸吸着能の双方を満足することができない、(ii)死菌の状態ではコレステロール吸着能及び胆汁酸吸着能が低減するため、食品への適用に制限がある、(iii)胆汁酸脱抱合作用があるため、大腸癌リスクを高めてしまう、等の欠点があった。
【0057】
これに対して、本発明の乳酸菌は、生菌及び死菌の状態において、コレステロール吸着能及び胆汁酸吸着能が優れており、良好な血中コレステロール低減作用を発揮することができる。また、本発明の乳酸菌は、胆汁酸脱抱合作用を示さないため、大腸癌の発症リスクもなく、安全性の点でも優れている。
【0058】
特に、本発明者等によって寄託されているラクトバチルス ファーメンタムNLB202株、ラクトバチルス ファーメンタムNLB209株、ラクトバチルス ファーメンタムNLB214株、ラクトバチルス プランタラムNLB136株、ラクトバチルス パラカゼイNLB162株、及びラクトバチルス パラカゼイNLB163株は、同種に属する微生物と比較しても、生菌及び死菌の状態において、コレステロール吸着能及び胆汁酸吸着能が優れており、実用的価値は極めて高いといえる。
【0059】
また、本発明の乳酸菌を含む食品は、血中コレステロール低減作用を効果的に発揮するので、血中コレステロール低減用の食品として、或いは高脂血症患者用食品として有用である。
【0060】
更に、本発明の乳酸菌を使用した血中コレステロール値低減剤は、血中のコレステロール値を低減させることができるので、血中コレステロール値の低減が求められる疾患(例えば、高脂血症等)の予防又は治療に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0061】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例1 コレステロール吸着能及び胆汁酸吸着能の測定
<試験方法>
本発明の乳酸菌(ラクトバチルス ファーメンタムNLB202株、ラクトバチルス ファーメンタムNLB209株、ラクトバチルス ファーメンタムNLB214株、ラクトバチルス プランタラムNLB136株、ラクトバチルス パラカゼイNLB162株、及びラクトバチルス パラカゼイNLB163株)、及び表8に示す公知又は日清食品株式会社所有の乳酸菌を用いて、凍結乾燥生菌体及び凍結乾燥死菌体を調製し、コレステロール吸着能及び胆汁酸吸着能を測定した。その具体的方法を以下に示す。
【0062】
なお、表8に示す公知乳酸菌の内、ラクトバチルス ラムノサス LGG株、ラクトバチルス カゼイ シロタ株及びラクトバチルス アシドフィラス CL-92株は、血中コレステロール値を低減する作用が既に知られている乳酸菌である。また、表8に示す乳酸菌の内、ラクトバチルス プランタラムNLB134株及びラクトバチルス プランタラムNLB150株は、鱒寿司から単離されたものであり、日清食品株式会社食品安全研究所において保管されている乳酸菌である。
【0063】
1.供試菌株の凍結乾燥菌体調製
供試菌株をMRS液体培地で32℃、24時間培養後、培養液を新鮮MRS液体培地に1容量%接種し、32℃で18時間培養した。培養後、菌体を遠心分離により収集した。滅菌蒸留水で菌体を2回洗浄した後、凍結乾燥することにより、凍結乾燥生菌体を調製した。また、別途、滅菌蒸留水で洗浄した菌体を少量の滅菌蒸留水に懸濁後、100℃で30分間加熱した後、凍結乾燥することにより、凍結乾燥死菌体を調製した。
【0064】
2.コレステロール吸着能の測定
前述する方法に従って、供試菌株のコレステロール吸着能の測定を行った。即ち、供試菌株の凍結乾燥菌体12 mgを、コレステロールを100μg/mLの濃度で含有する60容量%エタノール水溶液0.4 mLに懸濁し、37℃で1時間保温した。遠心分離により菌体除去後、上清0.1 mLを33重量%水酸化カリウム水溶液0.3 mL及びエタノール3.0 mLと混合し、60℃で15分間保温した。室温まで冷却後、n-ヘキサン5.0 mLを添加撹拌し、次に蒸留水3.0 mLを添加撹拌した。ヘキサン層回収後、窒素気流下で乾固し、0.05重量% o-フタルアルデヒド/氷酢酸溶液1 mLを加えた。室温で10分間静置後、硫酸0.5 mLを添加して、吸光度(550 nm)を測定した。前述する式に従って、コレステロール吸着量を測定した。
【0065】
3.胆汁酸吸着能の測定
前述する方法に従って、供試菌株の胆汁酸吸着能の測定を行った。即ち、供試菌株の凍結乾燥菌体12 mgを1.25 mmol/Lタウロコール酸/10 mmol/Lリン酸緩衝液(pH6.8)溶液0.8 mLに懸濁し、37℃で2.5時間保温した。遠心分離により菌体除去後、反応液上清のタウロコール酸濃度を総胆汁酸-テストワコー(酵素比色法:和光純薬社製)を用いて測定した。前述する式に従って、胆汁酸吸着量を測定した。
【0066】
<試験結果>
得られた結果を表8に示す。この結果から、本発明の乳酸菌の凍結乾燥死菌体は、いずれも、1.2μg以上のコレステロール吸着量を示し、且つ33nmol以上の胆汁酸吸着量を示すことが確認された。また、ラクトバチルス ファーメンタムNLB202株、ラクトバチルス ファーメンタムNLB209株、ラクトバチルス ファーメンタムNLB214株、及びラクトバチルス プランタラムNLB136株については、凍結乾燥死菌体のみならず、凍結乾燥生菌体でも、1.2μg以上のコレステロール吸着量を示し、且つ33nmol以上の胆汁酸吸着量を示すことが確認された。
【0067】
これに対して、従来公知の乳酸菌では、凍結乾燥死菌体及び凍結乾燥生菌体のいずれにおいても、1.2μg以上のコレステロール吸着量を示し、且つ33nmol以上の胆汁酸吸着量を示すものは存在しなかった。特に、血中コレステロール低減作用を有していることが報告されている公知乳酸菌でも、本発明の乳酸菌に比べて、コレステロール吸着能及び胆汁酸吸着能の点で、明らかに劣っていることが確認された。
【0068】
【表8】

【0069】
実施例2 胆汁酸脱抱合作用の有無の確認
本発明の乳酸菌(ラクトバチルス ファーメンタムNLB202株、ラクトバチルス ファーメンタムNLB209株、ラクトバチルス ファーメンタムNLB214株、ラクトバチルス プランタラムNLB136株、ラクトバチルス パラカゼイNLB162株、及びラクトバチルス パラカゼイNLB163株)について、胆汁酸脱抱合作用の有無を以下の方法に従って評価した。
【0070】
1.ラクトバチルス ファーメンタムNLB202株、NLB209株及びNLB214株
du Toit et al.の方法(J. Food Microbiol. 40, 93-104(1998))に従った。具体的には、MRS液体培地中37℃で24時間培養した供試菌株の培養液を滅菌した円形ペーパーディスク(抗生物質検定用直径8 mm)に浸潤させ、0.5重量%タウロデオキシコール酸ナトリウム−0.37 g/L 塩化カルシウム添加MRS寒天培地に置き、37℃で3日間培養した。ペーパーディスク下のMRS寒天培地中に白色沈殿が形成された場合、胆汁酸脱抱合作用陽性と判定した。
【0071】
この結果、ラクトバチルス ファーメンタムNLB202株、NLB209株及びNLB214株は、いずれも、胆汁酸脱抱合作用は陰性であった。これに対して、公知乳酸菌であるラクトバチルス アシドフィルスJCM 1132株は、胆汁酸脱抱合作用が陽性であった。
【0072】
2.ラクトバチルス プランタラムNLB136株、ラクトバチルス パラカゼイNLB162株及びNLB163株
Walker et al.の方法(J. Dairy Sci. 76, 956-961(1993))に従った。具体的には、供試菌株のMRS培養液を、0.2重量%タウロコール酸ナトリウム及び0.2重量%チオグリコール酸ナトリウムを含むMRS液体培地に、1容量%接種し、37℃で24時間培養した。培養液10 mLを1 mol/L水酸化ナトリウム水溶液でpH7.0に調整し、純水で全量を12.5 mLとした後、遠心分離により菌体除去した。培養上清7.5 mLを10 mol/L塩酸でpH1.0に調整、純水で全量を12 mLとした。これに3倍量の酢酸エチルを加え、撹拌した。酢酸エチル層0.75 mLを窒素気流下で蒸発乾固後、乾個物を0.01 mol/L水酸化ナトリウム水溶液 0.25mLに溶解し、更に16 mol/Lの硫酸1.5 mL及び1重量% フルフラール 0.25 mLを加えて65℃で13分間加温した。冷却後、氷酢酸 1.25 mLを添加し、吸光度(660 nm)を測定することにより、コール酸の遊離量を定量した。
【0073】
得られた結果を表9に示す。ラクトバチルス アシドフィルスJCM 1132株、ラクロバチルス ガッセリ(Lactobacillus gasseri) JCM 1131株は、胆汁酸脱抱合作用を示した。これに対して、ラクトバチルス プランタラムNLB136株、ラクトバチルス パラカゼイNLB162株及びNLB163株は、胆汁酸脱抱合作用を示さないことが確認され、腸管内で大腸癌のリスクを増大させると考えられる遊離胆汁酸を増加させないことが示唆された。
【0074】
【表9】

【0075】
実施例3 人工胃液耐性の評価試験
本発明の乳酸菌(ラクトバチルス ファーメンタムNLB202株、ラクトバチルス ファーメンタムNLB209株、ラクトバチルス ファーメンタムNLB214株、ラクトバチルス プランタラムNLB136株、ラクトバチルス パラカゼイNLB162株、及びラクトバチルス パラカゼイNLB163株)について、胃液に対する耐性を東らの方法(食科工. 48, 656-663(2001))に従って評価した。具体的には、供試菌株のMRS培養液を0.32重量%ペプシン含有MRS液体培地(pH2.0、2.5、3.0及び4.0)に接種(2〜8×106cfu/mL)し、37℃で4時間培養後、生存菌数をMRS寒天培地で計測した。本試験における各条件の設定根拠は、次の通りである。
pH:健常人の胃内pHは通常1〜2だが、食事により上昇する(牛乳180 mL摂取:pH3〜4)ことから、pH2.0、2.5、3.0、4.0を設定した。
処理時間:通常、胃内容物が十二指腸に移送されるのに約2時間かかるといわれていることから処理時間を2倍の4時間とした。
【0076】
なお、比較として、ラクトバチルス ラムノサスLGG(ATCC53103)株についても胃液耐性を測定した。当該ラクトバチルス ラムノサスLGG株については、ヒト消化管内で生存し、in vitroでもpH2.5において生存することが報告されている乳酸菌である(田渕ら:日本畜産学会報. 73, 509-514 (2002))。また、ラクトバチルス ファーメンタムに属する公知乳酸菌と本発明乳酸菌を比較するために、ラクトバチルス ファーメンタムJCM 1173株の胃液耐性についても測定した。
【0077】
得られた結果を表10に示す。この結果から、本発明の乳酸菌は、ラクトバチルス ファーメンタムに属する公知乳酸菌に比して、胃液耐性に優れていることが確認された。更に、本発明の乳酸菌は、ラクトバチルス ラムノサスLGG(ATCC53103)株と同等又はそれ以上に優れた胃液耐性を有していることも明らかとなった。
【0078】
【表10】

【0079】
実施例4 人工胆汁耐性の評価試験
本発明の乳酸菌(ラクトバチルス ファーメンタムNLB202株、ラクトバチルス ファーメンタムNLB209株、ラクトバチルス ファーメンタムNLB214株、ラクトバチルス プランタラムNLB136株、ラクトバチルス パラカゼイNLB162株、及びラクトバチルス パラカゼイNLB163株)について、胆汁に対する耐性を東らの方法(食科工. 48, 656-663(2001))に従って評価した。具体的には、供試菌株のMRS培養液を、ウシ胆汁末(Oxgall:Becton Dickinson製)を0(対照)、0.1、0.2、0.5、1重量%含有するMRS培地に1%接種し、37℃で18時間培養後、濁度(600 nm)を測定することにより、相対増殖率[対照に対する濁度の割合(%)]を算出した。ヒト腸管内の胆汁濃度は2重量%であり、0.2重量% Oxgallに相当すると報告されている(瀧口ら:腸内細菌学雑誌. 11, 11-18(2000))。
【0080】
得られた結果を表11に示す。この結果から、ラクトバチルス ラムノサスLGG(ATCC53103)株の増殖は0.2重量% Oxgallにより50%以上抑制された。これに対して、本発明の乳酸菌は強い胆汁耐性を示すことが確認された。
【0081】
【表11】

【0082】
本実施例4と前記実施例3の結果から、本発明の乳酸菌の生菌を摂取すると、生きた状態のままでも当該乳酸菌が腸管に到達し得ることが確認された。
【0083】
実施例5 コレステロール負荷マウスに対する作用
本発明の乳酸菌(ラクトバチルス ファーメンタムNLB202株、ラクトバチルス ファーメンタムNLB209株、ラクトバチルス ファーメンタムNLB214株、ラクトバチルス プランタラムNLB136株、ラクトバチルス パラカゼイNLB162株、及びラクトバチルス パラカゼイNLB163株)について、コレステロール負荷マウスに対する作用効果を以下の方法に従って評価した。
【0084】
1.ラクトバチルス ファーメンタムNLB202株、NLB209株及びNLB214株
乳酸菌凍結乾燥物として、ラクトバチルス ファーメンタムNLB202株、NLB209株、NLB214株、及びラクトバチルス ラムノサスLGG(ATCC53103)株の生菌凍結乾燥物及び加熱死菌凍結乾燥物を用いて、以下の試験を実施した。実験動物として、6週令のC57BL6/J系雄マウス(日本クレア製)を使用した。マウスは購入後、個体別にケージに収容し、表12に示す基礎飼料を与えて6日間予備飼育後、平均体重がほぼ等しくなるよう1群7匹に群分けした。表11に示す基礎飼料、対照飼料及び試験飼料を与え、14日飼育した。水及び飼料は自由摂取させた。
【0085】
最終日に16時間絶食した後、エーテル麻酔下で心臓から全血を採取して失血死させた。採取した血液を遠心分離して血漿を得た。血漿中の総コレステロール値及びHDLコレステロール値を市販の測定キット(コレステロールE-テストワコー,HDLコレステロールE-テストワコー:和光純薬製)で測定した。また,総コレステロール値とHDLコレステロール値の差より非HDLコレステロール値を、非HDLコレステロール値とHDLコレステロール値の比から動脈硬化指数を求めた。得られた結果を表13及び14に示す。
【0086】
【表12】

【0087】
【表13】

【0088】
【表14】

【0089】
<摂餌量及び体重増加量>
基礎飼料を与えた群、対照飼料を与えた群、乳酸菌含有試験飼料を与えた群間で摂餌量に有意な差はみられなかった。体重増加量は、ラクトバチルス ファーメンタムNLB202株、NLB209株、及びNLB214株の生菌投与群又は死菌投与群において、対照群に比べ有意に多かった。
<血漿総コレステロール値>
対照飼料を与えた群の血漿総コレステロール値は、基礎飼料を与えた群に比べ有意に高かった(37.2%増加)。 一方、各乳酸菌含有試験飼料を与えた群の血漿総コレステロール値は、対照飼料を与えた群に比べ有意に低い、若しくは低い傾向を示した(LGG株:22.4%減少、NLB202株生菌:22.7%減少、NLB202株死菌:8.5%減少、NLB209株生菌:20.3%減少、NLB209株死菌:7.4%減少、NLB214株生菌:16.8%減少、NLB214株死菌:16.7%減少)。
<血漿HDLコレステロール値>
対照飼料を与えた群の血漿HDLコレステロール値は、基礎飼料を与えた群に比べ有意に低かった(40.8%減少)。各乳酸菌含有試験飼料を与えた群の血漿HDLコレステロール値は、対照飼料を与えた群に比べ有意に高い、若しくは高い傾向を示した(LGG株:17.3%増加、NLB202株生菌:12.0%増加、NLB202株死菌:26.8%増加、NLB209株生菌:8.9%増加、NLB209株死菌:16.3%増加、NLB株214生菌:12.4%増加、NLB株214死菌:29.3%増加)。
<血漿非HDLコレステロール値>
対照飼料を与えた群の血漿非HDLコレステロール値(VLDLコレステロール+LDLコレステロールに相当:動脈硬化原性コレステロールを含む)は、基礎飼料を与えた群に比べ有意に高かった(215.8%増加)。一方、各乳酸菌含有試験飼料を与えた群の血漿非HDLコレステロール値は、対照飼料を与えた群に比べ有意に低い、若しくは低い傾向を示した(LGG株:39.4%減少、NLB202株生菌:37.6%減少、NLB202株死菌株:23.6%減少、NLB209株生菌:32.8%減少、NLB209株死菌:17.6%減少、NLB214株生菌:29.4%減少、NLB株214死菌:36.5%減少)。
<動脈硬化指数>
対照飼料を与えた群動脈硬化指数(非HDLコレステロール値とHDLコレステロール値の比)は、基礎飼料を与えた群に比べ有意に高かった(525%増加)。一方、各乳酸菌含有試験飼料を与えた群の動脈硬化指数は対照飼料を与えた群に比べ有意に低い、若しくは低い傾向を示した(LGG株:48%減少、NLB202株生菌:48%減少、NLB202株死菌:40%減少、NLB209株生菌:40%減少、NLB209株死菌:32%減少、NLB214株生菌:32%減少、NLB214株死菌:52%減少)。
【0090】
2.ラクトバチルス プランタラムNLB136株、ラクトバチルス パラカゼイNLB162株及びNLB163株
乳酸菌凍結乾燥物として、ラクトバチルス プランタラムNLB136株(生菌)、ラクトバチルス パラカゼイNLB162株(加熱死菌)、NLB163株(加熱死菌)及びラクトバチルス ラムノサスLGG(ATCC53103)株(生菌)の凍結乾燥物を用いて、表15に示す基礎飼料、対照飼料及び試験飼料を調製し、上記と同様の方法で、6週令のC57BL6/J系雄マウスに給餌して、コレステロール負荷マウスに対する作用効果を評価した。得られた結果を表16に示す。
【0091】
【表15】

【0092】
【表16】

【0093】
<摂餌量及び体重増加量>
基礎飼料を与えた群、対照飼料を与えた群、乳酸菌含有試験飼料を与えた群間で摂餌量及び体重増加量に有意な差はみられなかった。
<血漿総コレステロール値>
対照飼料を与えた群の血漿総コレステロール値は、基礎飼料を与えた群に比べ有意に高かった(63.3%増加)。 一方、各乳酸菌含有試験飼料を与えた群の血漿総コレステロール値は、対照飼料を与えた群に比べ有意に低かった(LGG株:29.0%減少、NLB株136:28.0%減少、NLB162株:33.1%減少、NLB163株:35.8%減少)。特に、NLB163株の試験飼料群の値は、LGG群よりも9.7%低かった。
<血漿HDLコレステロール値>
対照飼料を与えた群の血漿HDLコレステロール値は、基礎飼料を与えた群に比べ有意に低かった(60.5%減少)。NLB162株及び163株の試験飼料群の血漿HDLコレステロール値は、対照飼料を与えた群に比べ有意に高かった(NLB162株:50.1%増加、NLB163株:62.2%増加)。また、NLB162株及び163株の試験飼料群の血漿HDLコレステロール値は、LGG株の試験飼料群に比べても有意に高かった。
<血漿非HDLコレステロール値>
対照飼料を与えた群の血漿非HDLコレステロール値(VLDLコレステロール+LDLコレステロールに相当:動脈硬化原性コレステロールを含む)は、基礎飼料を与えた群に比べ有意に高かった(276.2%増加)。一方、各乳酸菌含有試験飼料を与えた群の血漿非HDLコレステロール値は、対照飼料を与えた群に比べ有意に低かった。特に、NLB162株及びNLB163株の試験飼料群の値は、LGG株の試験飼料群に比べ21.0%及び29.3%低かった。
<動脈硬化指数>
対照飼料を与えた群の動脈硬化指数(非HDLコレステロール値とHDLコレステロール値の比)は、基礎飼料を与えた群に比べ有意に高かった(1048%増加)。一方、各乳酸菌含有試験飼料を与えた群の動脈硬化指数は対照群に比べ有意に低かった。特に,NLB162株及びNLB163株の試験飼料群の値は、LGG株の試験飼料群に比べ60.0%及び62.3%低かった。
【0094】
以上の結果より、ラクトバチルス パラカゼイNLB162株及びNLB163株の加熱殺菌処理菌体が強い血中コレステロール値改善作用を示すことが確認された。
【0095】
実施例6 還元脱脂乳における増殖性
本発明の乳酸菌(ラクトバチルス プランタラムNLB136株、ラクトバチルス パラカゼイNLB162株、及びラクトバチルス パラカゼイNLB163株)について、還元脱脂乳における増殖性を以下の方法に従って評価した。即ち、0.3重量%酵母エキス添加10%還元脱脂乳で前培養した供試菌株の培養液を、10%還元脱脂乳に1容量%接種し、32℃で24及び48時間培養し、培養液中の生菌数の測定及び培養液のpHの測定を行った。生菌数計測にはMRS寒天培地を使用した。また、培養液のpHは、pHメーターで測定した。
【0096】
得られた結果を表17及び18に示す。この結果から、NLB162株及びNLB163株は、10%還元脱脂乳中でも増殖性を示し、増殖に伴いpHも6.0以下まで減少した。この結果は、発酵乳のスターターとしてNLB162株及びNLB163株が利用可能であることを示している。
【0097】
【表17】

【0098】
【表18】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラクトバチルス ファーメンタム(Lactobacillus fermentum)、ラクトバチルス プランタラム(Lactobacillus plantarum)、及びラクトバチルス パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)の何れかに属し、死菌の乾燥菌体重量1mg当たり、60容量%エタノール溶液において1.2μg以上のコレステロール吸着量を示し、且つリン酸緩衝液(pH6.8)において33nmol以上の胆汁酸吸着量を示すことを特徴とする、乳酸菌。
【請求項2】
胆汁酸脱抱合作用を示さないことを特徴とする、請求項1に記載に乳酸菌。
【請求項3】
ラクトバチルス ファーメンタムNLB202株(NITE P-161)、ラクトバチルス ファーメンタムNLB209株(NITE P-162)、ラクトバチルス ファーメンタムNLB214株(NITE P-163)、ラクトバチルス プランタラムNLB136株(NITE P-158)、ラクトバチルス パラカゼイNLB162株(NITE P-159)、又はラクトバチルス パラカゼイNLB163株(NITE P-160)である、請求項1又は2のいずれかに記載の乳酸菌。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の乳酸菌を含有する、食品。
【請求項5】
食品が発酵乳製品である、請求項4に記載の食品。
【請求項6】
請求項1乃至3のいずれかに記載の乳酸菌を含有する、高脂血症患者用食品。
【請求項7】
請求項1乃至3のいずれかに記載の乳酸菌を含有する、血中コレステロール値低減剤。

【公開番号】特開2007−189973(P2007−189973A)
【公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−12787(P2006−12787)
【出願日】平成18年1月20日(2006.1.20)
【出願人】(000226976)日清食品株式会社 (127)
【Fターム(参考)】