説明

血小板の生存を延長するための組成物および方法

本発明は、減少した血小板クリアランスを有する修飾血小板および血小板クリアランスを減少させる方法を提供する。本発明はまた、血小板の保存のための組成物を提供する。本発明はまた、修飾血小板を含有する医薬組成物を作る方法および止血を調節するために哺乳動物に医薬組成物を投与するための方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
発明の分野
本発明は、血小板のクリアランスを減少させるおよび血小板の生存を延長するための組成物および方法に関する。
【0002】
発明の背景
血小板は、血管損傷位置への付着および血漿フィブリン塊の形成の促進により、損傷した哺乳動物を失血から保護する無核の骨髄由来の血液細胞である。骨髄機能不全により血小板の循環が激減したヒトは、生命にかかわる特発性出血を患い、および重症度の低い血小板欠損症は、外傷または手術に次ぐ出血合併症の一因となる。
【0003】
70,000個/μL以下への循環血小板数の減少は、標準皮膚出血時間試験の延長をもたらし、そして出血間隔は長くなり、血小板数がゼロまで減少するにつれて無限大近くになると推定されることが、報告されている。血小板数が20,000個/μL未満の患者は、特に血小板減少症が骨髄機能不全によって引き起こされるときおよび罹患した患者が敗血症または他の障害により破壊されたとき、粘膜の表面からの特発性出血を非常に起こしやすいと考えられている。再生不良性貧血、急性および慢性白血病、転移癌だが特に電離放射線および化学療法による癌処置がもたらした転移癌などの骨髄疾患に関連する血小板欠損症は、主要な公衆衛生問題を表す。主要な手術、障害および敗血症に関連する血小板減少症もまた、かなりの数の血小板輸血の投与に帰結する。
半世紀前の医療における大きな進展は、かかる血小板欠損症を治療するための血小板輸血の開発であり、900万件を超える血小板輸血が、1999年に米国単独で行なわれた(Jacobs et al., 2001)。血小板は、しかしながら、すべての他の移植可能な組織とは違って、非常に短期間の冷却の対象となる場合でも血小板は受容者(recipient)の循環から急速に消滅し、血小板の生存を短縮させる冷やす(cooling)効果は不可逆であるため、冷蔵に耐容性がない(Becker et al., 1973; Berger et al., 1998)。
【0004】
その結果生じる、輸血前にこれらの細胞を室温で保持する必要性は、血小板貯蔵のために、独特な一連の費用がかかり複雑な物流の必要条件を強いてきた。血小板は、室温で活発に代謝するため、代謝性アシドーシスの有毒な結果を防ぐために、発生したCOの放出を可能にし、血小板は多孔性容器内での持続的攪拌を要求する。室温貯蔵条件は、「貯蔵損傷」として知られる一連の欠陥である、高分子の分解および血小板の止血機能の低下をもたらす(Chemoff and Snyder, 1992)。しかし、短い(5日)制限へと至らしめる室温貯蔵についての主要な問題は、より高い細菌感染の危険性である。血液成分の細菌汚染は現在、最も頻繁に起こる血液成分使用の感染性合併症であり、ウィルス媒介のそれをはるかに超える(Engelfriet et al., 2000)。米国においては、年間3000〜4500件の細菌敗血症の症状が、細菌汚染された血液成分が原因で生じる(Yomtovian et al., 1993)。
【0005】
血小板の独特な不可逆的低温不耐性の根底にある機構は、生理学的重要性を有しているため、謎であった。循環血小板は、血管損傷と反応すると、複雑な形態へと変形する滑らかな表面の円盤である。40年以上前、研究者達は、円盤状の血小板もまた、冷蔵温度で形態が変化することに注目した(Zucker and Borrelli, 1954)。円盤状の形態が室温で貯蔵した血小板の生存度の最良の予測の判断材料であるというその後の証拠は(Schlichter and Harker, 1976)、低温誘発された形態は本質的に、冷却した血小板の急速なクリアランスに関与するという結論を導き出した。おそらく冷やすことにより変形した不規則な形をした血小板は、微小循環内で捕捉されるようになったのであろう。
【0006】
シグナル伝達をリガンドにより誘発される血小板の形態変化へと至らしめる機構と結びつける我々の研究を基に(Hartwig et al., 1995)、我々は、冷却は、カルシウムの放出を阻害することにより、アクチンフィラメントを切断し、アクチンフィラメントの反矢じり端(barbed end)をキャッピングするタンパク質であるゲルゾリンの活性化と一致する程度にカルシウムレベルを上昇させるだろうと予測した。我々はまた、低温での膜脂質相転移は、ホスホイノシチドをクラスター化するだろうと判断した。ホスホイノシチドクラスタリングは、アクチンフィラメント反矢じり端をアンキャッピングし(uncap)(Janmey and Stossel, 1989)、フィラメント伸長のための核形成部位を作り出す。我々は、両方の機構の実験的証拠を生み出し、ゲルゾリンの活性化、アクチンフィラメント反矢じり端のアンキャッピング、および冷やした血小板におけるアクチンの集合を立証した(Hoffmeister et al., 2001; Winokur and Hartwig, 1995)。
【0007】
他者は、膜相転移と一致する冷却した血小板における分光変化を報告している者もいる(Tablin et al., 1996)。この情報は、カルシウムの上昇を阻害するために細胞透過性カルシウムキレート剤を用い、そして反矢じり端のアクチンの集合を阻止するためにサイトカラシンBを用いて、冷却した血小板の円盤状の形態を保存するための方法を提案した。これらの剤の添加は、4℃で血小板を円盤状の形態に保持するが(Winokur and Hartwig, 1995)、我々が本明細書において報告するように、かかる血小板はまた、急速に循環から一掃される。したがって、冷却した血小板の急速なクリアランスの問題が残り、血小板についての循環時間ならびに貯蔵時間を増加する方法が必要である。
【0008】
発明の概要
本発明は、減少した血小板クリアランスを有する修飾血小板および血小板クリアランスを減少させる方法を提供する。本発明はまた、血小板の保存のための組成物を提供する。本発明はまた、修飾血小板を含有する医薬組成物を作る方法および止血を媒介する(mediate)ために哺乳動物に医薬組成物を投与するための方法を提供する。
【0009】
ヒト血小板の冷却は、血小板表面上のフォンヴィルブランド(von Willebrand)因子(vWf)受容体複合体αサブユニット(GPIbα)の複合体のクラスタリングを引き起こすことが現在発見されている。血小板表面上のGPIbα複合体のクラスタリングは、in vitroおよびin vivoでマクロファージ補体タイプ3受容体(αβ、CR3)による認識を引き出す。CR3受容体は、GPIbα複合体の末端βGlcNAcによりN結合糖類を認識し、血小板を貪食し(phagocytose)、循環から血小板を一掃し、止血機能の付随的損失をもたらす。
【0010】
本出願人は、GPIbαの暴露されたβGlcNAcの残基を糖化へと至らしめると信じられている特定の糖分子による血小板の処置は、血小板クリアランスを減少させ、血小板食作用を妨害し、血小板循環時間を増加させ、および血小板貯蔵時間を増加させたことを発見した。
【0011】
本発明の一側面は、血小板の集団の循環時間を増加させる方法を提供する。該方法は、単離された血小板の集団を、前記血小板の集団のクリアランスを減少させるのに効果的な量の少なくとも1種のグリカン修飾剤と接触させることを含む。いくつかの態様において、グリカン修飾剤は、UDP−ガラクトースおよびUDP−ガラクトース前駆体からなる群から選択される。いくつかの好ましい態様において、グリカン修飾剤は、UDP−ガラクトースである。
【0012】
いくつかの態様において、本方法は、グリカン部分の修飾を触媒する酵素を添加することをさらに含む。グリカン部分の修飾を触媒する酵素の一例は、ガラクトシルトランスフェラーゼである。
好ましい態様の一つにおいて、グリカン修飾剤はUDP−ガラクトースであり、グリカン部分の修飾を触媒する酵素はガラクトシルトランスフェラーゼである。
【0013】
いくつかの態様において、血小板の集団の循環時間を増加させる方法は、血小板を少なくとも1種のグリカン修飾剤と接触させる前、接触させるのと同時にまたは接触させた後に血小板の集団を冷却することをさらに含む。
いくつかの態様において、血小板の集団は、実質的に正常な止血作用を保持する。
いくつかの態様において、血小板の集団を少なくとも1種のグリカン修飾剤と接触させるステップは、血小板用バッグ内で行われる。
いくつかの態様において、循環時間は少なくとも約10%、15%、20%、25%、30%、40%、50%、60%、75%、100%、150%、200%、またはそれ以上増加する。
【0014】
本発明の別の側面によると、血小板の貯蔵時間を増加させる方法を提供する。該方法は、単離された血小板の集団を前記血小板の集団のクリアランスを減少させるのに効果的な量の少なくとも1種のグリカン修飾剤の量と接触させること、および血小板の集団を貯蔵することを含む。
いくつかの態様において、グリカン修飾剤は、UDP−ガラクトースおよびUDP−ガラクトース前駆体からなる群から選択される。いくつかの好ましい態様において、グリカン修飾剤は、UDP−ガラクトースである。
【0015】
いくつかの態様において、本方法は、血小板の表面上のグリカンへのグリカン修飾剤の添加を触媒する酵素を添加することをさらに含む。好ましい態様の一つにおいて、グリカン修飾剤はUDP−ガラクトースであり、グリカン部分の修飾を触媒する酵素はガラクトシルトランスフェラーゼである。
いくつかの態様において、本方法は、血小板を少なくとも1種のグリカン修飾剤と接触させる前、接触させるのと同時にまたは接触させた後に、血小板の集団を冷却することをさらに含む。
【0016】
いくつかの態様において、血小板の集団は、実質的に正常な止血作用を保持する。
血小板の集団を少なくとも1種のグリカン修飾剤と接触させるステップは、血小板用バッグまたは容器内で行われる。
血小板を少なくとも約3日、少なくとも約5日、少なくとも約7日、少なくとも約10日、少なくとも約14日、少なくとも約21日、または少なくとも約28日間冷却貯蔵する。
【0017】
本発明の別の側面によると、修飾血小板を提供する。
該修飾血小板は、血小板の表面上に複数の修飾グリカン分子を含む。
いくつかの態様において、修飾グリカン分子は、GPIbα分子の部分である。該修飾グリカン分子は、少なくとも1種の添加した糖分子を含む。
添加した糖は、天然の糖であってよく、または非天然の糖であってもよい。
添加した糖の例は、UDP−ガラクトースおよびUDP−ガラクトース前駆体を含むが、これらに限定されない。好ましい態様の一つにおいて、添加した糖は、UDP−ガラクトースである。
【0018】
別の側面において、本発明は複数の修飾血小板を含む血小板組成物を提供する。いくつかの態様において、血小板組成物は貯蔵培地をさらに含む。いくつかの態様において、血小板組成物は、薬学的に許容しうる担体をさらに含む。
【0019】
本発明のさらに別の側面によると、哺乳動物への投与のための医薬組成物を作るための方法を提供する。該方法は、
(a)薬学的に許容しうる担体中に含有された血小板の集団を少なくとも1種のグリカン修飾剤と接触させ、処置した血小板製剤を形成するステップ、
(b)処置した血小板製剤を貯蔵するステップ、および
(c)処置した血小板製剤を加温するステップ
を含む。
いくつかの態様において、処置した血小板製剤を加温するステップは、血小板を37℃に加温することにより行なわれる。
【0020】
いくつかの態様において、薬学的に許容しうる担体に含まれた血小板の集団を少なくとも1種のグリカン修飾剤と接触させるステップは、グリカン部分の修飾を触媒する酵素の存在下で、血小板を少なくとも1種のグリカン修飾剤と接触させることを含む。いくつかの態様において、本方法は、血小板製剤中の酵素を除去または不活性化する、例えば血小板製剤を洗浄する方法をさらに含む。
グリカン修飾剤の例を上に記載する。好ましい態様の一つにおいて、グリカン修飾剤は、UDP−ガラクトースである。いくつかの態様において、本方法は、グリカン修飾剤のグリカン部分への添加を触媒する酵素を添加することをさらに含む。
好ましい態様の一つにおいて、グリカン修飾剤はUDP−ガラクトースであり、酵素はガラクトシルトランスフェラーゼである。
【0021】
いくつかの態様において、血小板の集団は、実質的に正常な止血作用を保持する。
特定の態様において、血小板の集団を少なくとも1種のグリカン修飾剤と接触させるステップは、血小板用バッグ内で行われる。
いくつかの態様において、血小板製剤を約15℃未満の温度で貯蔵する。いくつかの他の態様において、血小板製剤を室温で貯蔵する。
【0022】
本発明のさらに別の側面によると、哺乳動物において止血を媒介する方法を提供する。本方法は、哺乳動物へ複数の修飾血小板または修飾血小板組成物を投与することを含む。
本発明のまたさらに別の側面によると、血小板を保存するための貯蔵組成物を提供する。該組成物は、貯蔵組成物に添加した血小板の貯蔵時間および/または循環時間を増加させるために、貯蔵組成物に添加した血小板のグリカンを修飾するのに十分な量の少なくとも1種のグリカン修飾剤を含む。
いくつかの態様において、組成物はグリカン部分の修飾を触媒する酵素をさらに含む。
いくつかの態様において、組成物を約15℃未満の温度で貯蔵する。いくつかの他の態様において、組成物を室温で貯蔵する。
【0023】
本発明の別の側面によると、血小板を収集する(および随意に加工する)ための容器を提供する。本容器は、貯蔵組成物に添加した血小板のグリカンを修飾するのに十分な量の少なくとも1種のグリカン修飾剤を含む。
いくつかの態様において、本容器はグリカン修飾剤によりグリカン部分の修飾を触媒する酵素をさらに含む。
いくつかの態様において、本容器は複数の血小板または複数の血小板を含む血漿をさらに含む。
いくつかの態様において、グリカン修飾剤は、自然発生の血小板中より高い濃度で存在する。
【0024】
本発明のまたさらに別の側面によると、血小板を収集および加工するための装置を提供する。本装置は、血小板を収集するための容器;前記容器との液体伝達における少なくとも1つのサテライト(satellite)容器;およびサテライト容器中の少なくとも1種のグリカン修飾剤を含む。
いくつかの態様において、サテライト容器中のグリカン修飾剤は、容器中の血小板を保存するのに十分な量で存在する。
いくつかの態様において、サテライト容器中のグリカン修飾剤は、破壊可能なシールにより容器への流入を阻止される。
【0025】
本発明のこれらのおよび他の側面、ならびに様々な利点および有用性は、以下の発明の詳細な説明を参考により明確になるだろう。本発明の各限定は、本発明の様々な態様を包含することができる。したがって、いずれか一要素または要素の組み合わせを含む各限定を、本発明の各側面に含むことができることが予想される。
【0026】
図面の簡単な説明
図1Aは、室温の血小板、ならびにEGTA−AMおよびサイトカラシンBの存在下または非存在下で、冷却し再加温した血小板の、マウスにおける循環時間を示す。曲線は、5−クロロメチルフルオレセインジアセテート(CMFDA)で標識された、室温(RT)の血小板、氷浴の温度(Cold)で冷却し注射前に室温まで再加温した血小板、ならびに血小板の円盤状の形態を保存するためにEGTA−AMおよびサイトカラシンBで処置した、冷却し再加温した血小板(Cold+CytoB/EGTA)の生存率を表す。各曲線は、6匹のマウスの平均±SDを表す。同一のクリアランス傾向が、111インジウム標識血小板で観察された。
【0027】
図1Bは、in vitroで正常に凝集する冷却した血小板を示す。洗浄した、冷却し再加温した(Cold)または室温(RT)の野生型の血小板を、37℃で示したアゴニストの添加により刺激し、光透過率を、標準の血小板凝集計で記録した。EGTA−AMおよびサイトカラシンBで処置した冷却した血小板の凝集反応は、未処置の冷却した血小板と同一だった。
【0028】
図1Cは、低温誘発クリアランスが主にマウスの肝臓内で生じることを示す。肝臓は、冷却した血小板の主要クリアランス器官であり、注入した血小板を60〜90%含む。一方、RT血小板は、脾臓内でよりゆっくりと一掃される。111インジウム標識血小板を同系のマウスに注入し、組織を0.5、1および24時間目に採取した。データをグラムあたりの組織で表現する。各棒(bar)は、4匹の分析した動物の平均値±SDを表す。
【0029】
図1Dは、冷却した血小板は、肝類洞(hepatic sinusoidal)マクロファージ(クッパー細胞)と共局在する(co-localize)ことを示す。この代表的な共焦点顕微鏡写真は、輸血の1時間後に、肝小葉の門脈周囲領域および中間帯領域(midzonal field)に優先的に蓄積する、CMFDA標識された、冷却し再加温した血小板(緑)の肝分布を示す。クッパー細胞を、ナイルレッドで標識された球体の注射後に視覚化する。重ね合わせた顕微鏡写真は、冷却した血小板およびマクロファージの共局在を黄色で示す。小葉組織を示す。(CV:中心静脈;PV:門脈、バー:100μm)。
【0030】
図2は、冷却した血小板は、CR3欠損マウス内で正常に循環するが、補体3(C3)またはvWf欠損マウス内で循環しないことを示す。CMFDA標識された、冷却し再加温した(Cold)および室温の(RT)野生型の血小板を、同系の野生型の(WT)、CR3欠損の(A)、vWf欠損の(B)およびC3欠損の(C)受容(recipient)マウスそれぞれ6匹に輸血し、それらの生存時間を決定した。冷却した血小板は、室温の血小板と同じ動態でCR3欠損動物内を循環するが、C3欠損のマウスまたはvWf欠損のマウスの循環から急速に一掃される。データは、6匹のマウスについての平均±SDである。
【0031】
図3は、冷却した血小板がin vivoでCR3を発現するマウスマクロファージにしっかりと付着することを示す。図3A−冷却し再加温したTRITC標識血小板(左のパネル)が、室温のCMFDA標識血小板(右のパネル)よりも、3〜4倍の高い頻度で肝類洞に付着する。生体蛍光顕微鏡写真を、血小板の注入30分後に得た。図3B−冷却し再加温した血小板(Cold、中抜きの棒)および室温の血小板(RT、中塗りの棒)は、野生型のマウスと類似した分布で高マクロファージ密度(中間帯)の類洞部位に付着する。図3C−冷却し再加温した血小板は、野生型の肝臓内のマクロファージに、室温の血小板よりも3〜4倍多く付着する(中抜きの棒)。一方、冷却し再加温したまたは室温の血小板は、CR3欠損マウス内のマクロファージに対して同一の付着度を有する(中塗りの棒)。野生型のマウスによる9回の実験およびCR3欠損マウスによる4回の実験を示す(平均±SEM、P<0.05:**P<0.01)。
【0032】
図4は、GPIbαは冷却した血小板クリアランスを仲介し、低温で凝集するが、冷却した血小板において活性化したvWfに正常に結合することを示す。図4A−GPIbα細胞外ドメインを酵素的に除去したCMFDA標識血小板(左のパネル、挿入図、中塗りの領域)または対照の血小板を、室温で保持した(左のパネル)、または冷却し再加温した(右のパネル)、同系の野生型のマウスに注入し、血小板の生存率を決定した。各生存率曲線は、6匹のマウスについての平均値±SDを表す。図4B−冷却した血小板、またはRTの多血小板血漿を、ボトロセチンで処置した(影の領域)または処置しなかった(中抜きの領域)。vWf結合は、FITC標識抗vWf抗体を用いて検出した。図4C−vWf受容体は、冷却したマウス血小板の表面上で線形配列(RT)から凝集体(Chilled)へ再分布する。固定し、冷却し再加温した、または室温の血小板(RT)を、ラットモノクローナル抗マウスGPIbα抗体、次いでヤギ抗ラットIgGで被覆した10nmコロイド金粒子と共にインキュベートした。バーは100nmである。挿入図:低倍率の血小板。
【0033】
図5は、GPIbα−CR3相互作用が、in vitroで冷却したヒト血小板の食作用を仲介することを示す。図5Aおよび図5Bは、室温(RT)の血小板と共にインキュベートしたTHP−1細胞(図5A)または冷却し再加温した(Cold)血小板と共にインキュベートしたTHP−1細胞(図5B)の典型的なアッセイ結果を示す。マクロファージに関連するCM-Orange標識血小板は、オレンジ蛍光をy軸上方向にシフトする。室温で保持した血小板と共にインキュベートしたCM-Orange陽性の天然のマクロファージの平均比率を、1に標準化した。血小板の冷却は、このシフトを〜4%から20%増加させる。血小板は、CD61にFITC結合mAbで二重標識しないため、主に摂取される。
【0034】
図5Cは、未分化(中抜きの棒)THP−1細胞はCR3を約50%少なく発現し、冷却し再加温した血小板の半分程度を摂取する。しかしながら、CR3発現の分化(中塗りの棒)は、RT血小板の摂取について有意な効果はなかった。GPIbαのN末端をヒト血小板の表面から除去するヘビ毒メタロプロテアーゼ、モカラギン(Moc)によるヒト血小板の処置(挿入図;対照:実線、モカラギン処置した血小板:影の領域)は、冷却した血小板の食作用を約98%減少させた。示したデータは、5回の実験の平均±SDである。
【0035】
図6は、循環する、冷却した血小板は、CR3欠損マウスにおいて止血機能を有することを示す。CMFDA標識自己血小板の注入の24時間後に、創傷から生じた血小板凝集体内に存在するそれらの同等物により決定されるように、野生型のマウスに輸血した、室温の(RT)血小板(図6Aおよび6B)、およびCR−3欠損マウスに輸血した、冷却した(Cold)血小板(図6Cおよび6D)の正常なin vivo機能。末梢血(図6Aおよび6C)および創傷から生じる血液(流血、図6Bおよび6D)を、全血フローサイトメトリーにより分析した。
【0036】
血小板を、前方光散乱特性およびPE結合抗GPIbα mAb(pOp4)の結合により確認した。注入した血小板(点)を、それらのCMFDA蛍光により確認し、非注入の血小板(輪郭線)を、それらのCMFDA蛍光の欠如により確認した。末梢全血サンプルにおいて、分析部位をGPIbα陽性粒子周辺に描き、95%の集団を前方散乱軸(領域1)に包含し、この前方光散乱閾値より上に現れる5%粒子を、凝集体と定義した(領域2)。比率は、CMFDA陽性血小板により形成された凝集体の数を意味する。この示した結果は、4回の実験の典型的なものである。
【0037】
図6Eは、注入の24時間後に、マウスから抜いた血液のトロンビン(1U/ml)活性化に続くP−セレクチンおよびフィブリノゲン結合の暴露により決定されるように、野生型のマウスに輸血した、CM-Orangeの、室温の(RT)血小板およびCR3欠損マウスに輸血した、CM-Orangeの、冷却し再加温した(Cold)血小板のex vivo機能を示す。CM-Orange標識血小板は、CMFDA標識血小板と同程度の循環半減時間を有する(未掲載)。輸血した血小板を、それらのCM-Orange蛍光により確認した(中塗りの棒)。輸血せず(非標識)分析した血小板は、中抜きの棒として表す。結果は、P−セレクチンおよびフィブリノゲン陽性部位(領域2)に存在する細胞の比率として表現する。データは、4匹のマウスについての平均±SDである。
【0038】
図7は、2種類の血小板クリアランス経路を描写する図である。血小板は、中央および末梢循環を横断し、体の表面でより低温で可逆プライミング(priming)を遂げる。反復プライミングは、補体受容体タイプ3(CR3)を生じる肝マクロファージにより、不可逆的なGPIb−IX−V(vWfR)受容体複合体の再構成およびクリアランスへと至らしめる。血小板はまた、微小血管凝固に関与した後、一掃される。
【0039】
図8は、冷却した血小板の食作用への単糖類の効果を示す。
図9は、WGAレクチンの室温の血小板または冷却した血小板への結合のドットプロットを示す。
図10は、室温のまたは冷却した血小板へ結合した様々なFITC標識レクチンの分析を示す。
【0040】
図11Aは、β−ヘキソサミニダーゼ処置の前および後にフローサイトメトリーにより得られた、室温のまたは冷却した血小板の表面へのFITC−WGAの結合の概要を示す。
図11Bは、血小板表面からのGPIbαの除去が、冷却した血小板に結合したFITC−WGAを減少させたことを示す。
図12は、血小板オリゴ糖へのガラクトース輸送が、冷却した血小板(Cold)の食作用を減少させるが、室温の(RT)血小板の食作用には影響しないことを示す。
図13は、未処理の血小板に対する、冷却し、ガラクトシル化した(galactosylated)マウス血小板の生存率を示す。
【0041】
図14は、その表面にガラクトーストランスフェラーゼを含有する血小板は、WGA結合により判断されたように、トランスフェラーゼの添加なしでガラクトースを輸送すること(図14A)、およびヒト血小板についてのin vitro食作用の結果(図14B)を示す。図14Cは、マウス血小板の生存率におけるガラクトーストランスフェラーゼ(GalT)ありまたはなしでのUDP−ガラクトースの効果を示す。GalTを含むまたは含まないUDP−ガラクトースを、冷却前に37℃で30分間マウス血小板に添加した。血小板を氷浴内で2時間冷却し、その後マウスに輸血し(10個の血小板/マウス)、それらの生存を決定した。
【0042】
図15は、ヒト血小板への14C標識UDP−ガラクトースの取り込みの経時変化を示す。
図16は、UDP−ガラクトースの異なる濃度での4種類の血小板濃度サンプル中の血小板のガラクトシル化(galactosylation)を示す。
【0043】
発明の詳細な説明
本発明は、循環特性を高め、 実質的に正常なin vivo止血作用を保持する修飾血小板の集団を提供する。止血作用は、出血停止を媒介するための血小板の集団の能力に広く言及する。様々なアッセイが、血小板止血作用を決定するために利用可能である(Bennett, J. S. and Shattil, S. J., 1990, "Platelet function," Hematology, Williams, W. J., et al., Eds. McGraw Hill, pp 1233-12250)。しかしながら、「止血」または「止血作用」の証明は、最終的に血小板減少性のまたは血小板症の(thrombopathic)(すなわち、非機能の血小板)動物またはヒトへ注入した血小板が循環し、天然のまたは実験的に誘発した出血を止めることの証明が必要である。
【0044】
そのような証明の不足のため、実験室において止血作用を決定するための代用物として、in vitro試験を使用する。これらの試験は、凝集、分泌、血小板の形態および代謝性の変化のアッセイを含有し、活性化への多種多様な血小板の機能的反応を測定する。当該分野では、in vitro試験が、in vivoにおける止血機能を合理的に示すことは、一般的に受け入れられている。
実質的に正常な止血作用は、新しく単離した血小板の集団の止血作用とだいたい同じである止血作用の量を意味する。
【0045】
本発明は、血小板の集団の循環時間を増加させる方法および血小板の貯蔵時間を増加させる方法を提供する。また、本発明は、保存した止血作用による血小板の保存のための血小板組成物方法および組成物、ならびに保存した血小板を含有する医薬組成物を作る方法および止血を媒介するために哺乳動物に医薬組成物を投与する方法を提供する。
【0046】
本発明の一側面において、単離された血小板の集団の循環時間を増加させる方法は、単離された血小板の集団を血小板の集団のクリアランスを減少させるために効果的な量で少なくとも1種のグリカン修飾剤に接触させることを伴う。本明細書において、血小板の集団は、1個または2個以上の血小板を意味する。血小板の集団は、血小板製剤を含有する。用語「単離された」とは、血小板の天然の環境から分離されたおよび血小板の同定または使用を可能にするのに十分な量が存在することを意味する。血小板の集団に関して、本明細書において、単離されたとは、血液循環から除去されたことを意味する。血小板の集団の循環時間は、血小板の半分がもはや循環しない時間と定義される。本明細書において、「クリアランス」とは、血液循環からの血小板の除去を意味する(マクロファージ食作用によるなど)。
【0047】
グリカン修飾剤は、マクロファージにより認識される末端グリカン残基を、マクロファージが血小板をもはや貪食しないように、好ましくはGPIbαにおいて修飾する剤を意味する。本明細書において、「グリカン」または「グリカン残基」は、血小板の表面の多糖部分である。「末端」グリカンまたはグリカン残基は、多糖類の末端にあるグリカンであり、典型的には、血小板表面のポリペプチドに結合している。
【0048】
いくつかの態様において、グリカン修飾剤は、ウリジン二リン酸ガラクトース(UDP−ガラクトース)およびUDP−ガラクトース前駆体からなる群から選択される。いくつかの好ましい態様において、グリカン修飾剤は、UDP−ガラクトースである。UDP−ガラクトースは、ガラクトース代謝における中間体であり、UDP−ガラクトースを作るために、ガラクトース−1−リン酸と交換にUDP−グルコースからグルコース−l−リン酸の遊離を触媒する酵素である、UDP−グルコース−α−D−ガラクトース−1−リン酸ウリジリルトランスフェラーゼにより形成される。UDP−ガラクトースの合成方法および生産方法は、当該技術分野で周知であり、文献に記載されている(例えば、Liu et al, ChemBioChem 3, 348-355, 2002; Heidlas et al, J. Org. Chem. 57, 152-157; Butler et al, Nat. Biotechnol. 8, 281-284, 2000; Koizumi et al, Carbohydr. Res. 316, 179-183, 1999; Endo et al, Appl. Microbiol., Biotechnol. 53, 257-261, 2000参照)。UDP−ガラクトース前駆体は、分子、化合物、または中間体化合物であり、UDP−ガラクトースに(例えば、酵素的にまたは生化学的に)変換してもよい。UDP−ガラクトース前駆体の一つの非限定の例は、UDP−グルコースである。ある態様において、UDP−ガラクトース前駆体をUDP−ガラクトースに変換する酵素を、反応混合物に添加する(例えば血小板用容器内で)。
【0049】
グリカン修飾剤の効果的な量は、循環時間を増加させるおよび/または、血小板表面上のグリカン残基の十分な数の修飾により血小板の集団のクリアランスを減少させる、グリカン修飾剤の量を意味する。
【0050】
UDP−ガラクトースによる血小板の修飾は、以下のように行なうことができる。血小板の集団を、異なる濃度(1〜1000μM)のUDP−ガラクトースと共に、少なくとも1、2、5、10、20、40、60、120、180、240、または300分間、22℃〜37℃でインキュベートする。いくつかの態様において、0.1〜500mU/mlのガラクトーストランスフェラーゼを、血小板の集団に添加する。ガラクトース輸送は、FITC−WGA(小麦胚凝集素)結合を用いて機能的に観察することができる。グリカン修飾反応の目標は、WGA結合を休止している室温WGA結合レベルに減少させることである。ガラクトース輸送は、14C−UDP−ガラクトースを用いて数量化することができる。非放射性UDP−ガラクトースを14C−UDP−ガラクトースと混合し、適切なガラクトース輸送を得る。輸送反応は、上記のように行なわれる。血小板を何度も洗浄し、取り込まれた放射活性をγカウンターを用いて測定する。測定したcpmは、取り込まれたガラクトースの計算を可能にする。
【0051】
本明細書において、血小板の集団のクリアランスは、単位時間あたり単位体積の血液または血清からの血小板の集団の除去を意味する。血小板の集団のクリアランスを減少させることは、血小板の集団のクリアランスを阻止、遅延、または減少させることを意味する。血小板のクリアランスを減少させることはまた、血小板クリアランス率を減少させることを意味してもよい。
【0052】
血小板のクリアランスを減少させることは、室温貯蔵後、または冷却貯蔵後、血小板クリアランスを減少させることならびに「低温誘発性血小板活性化」を包含する。低温誘発性血小板活性化は、当業者にとって特別な意味を有する用語である。低温誘発性血小板活性化は、血小板形態における変化により現れてもよく、血小板形態における変化のいくつかは、例えば、ガラスとの接触により、以下の血小板活性化をもたらす変化と似ている。低温誘発性血小板活性化を示す構造的変化は、光学顕微鏡または電子顕微鏡などの技術を用いて最も簡単に確認される。分子レベルでは、低温誘発性血小板活性化は、アクチン束の形成をもたらし、細胞内カルシウム濃度の増加が続く。アクチン束の形成は、例えば、電子顕微鏡を用いて検出される。細胞内カルシウム濃度の増加は、例えば、蛍光細胞内カルシウムキレート剤を用いることにより決定される。アクチンフィラメント切断を阻害するための上記のキレート剤の多くはまた、細胞内カルシウムの濃度を決定するのに有用である(Tsien, R., 1980, supra.)。したがって、様々な技術が、血小板が低温誘発性活性化を経験したかどうか決定するために利用可能である。
【0053】
ガラクトースの取り込みの血小板クリアランスへの効果を、例えば分化したTHP−1細胞を用いるin vitroシステムまたはチオグリコレート注射の刺激後、腹膜腔から単離されたマウスマクロファージを使用して、測定することができる。未修飾血小板と比較した修飾血小板のクリアランス率を決定する。これらのin vitro方法において、ガラクトース輸送は、血小板を修飾するために、上記手順にしたがって行われる。そして修飾血小板はマクロファージに貪食され、マクロファージによる血小板の摂取を観察する。in vitroアッセイは、ガラクトース輸送は、ヒト血小板のように、マウスの冷却した血小板の摂取の減少をもたらすかどうかを示す。
【0054】
いくつかの態様において、血小板の集団の循環時間を増加させる方法はさらに、グリカン修飾剤と共にグリカン部分の修飾を触媒する酵素を添加することを含む。グリカン部分の修飾を触媒する酵素の一例は、ガラクトシルトランスフェラーゼである。ガラクトシルトランスフェラーゼは、UDP−ガラクトースと共にGPIbα分子の糖化を触媒する。
いくつかの態様において、血小板の集団を少なくとも1種のグリカン修飾剤と接触させるステップは、血小板用バッグ内で行われる。
【0055】
本発明によると、血小板の冷却で通常経験する悪影響(低温誘発性血小板活性化)を及ぼさず、血小板の集団を冷却することができる。血小板の集団を、血小板を少なくとも1種のグリカン修飾剤と接触させる前、接触させるのと同時にまたは接触させた後に冷却することができる。グリカン部分の選択的修飾は、冷却後(冷却しない場合もまた)、クリアランスを減少させ、したがって、現在可能な期間よりも長期間貯蔵が可能になる。本明細書において、冷却は、血小板の集団の温度を約22℃未満の温度に低下させることを意味する。いくつかの態様において、血小板を約15℃未満の温度に冷却する。いくつかの好ましい態様において、血小板を約0℃から約4℃の間の範囲の温度に冷却する。いくつかの態様において、血小板の集団を少なくとも3日間冷却貯蔵する。
【0056】
いくつかの態様において、血小板の集団を少なくとも5、7、10、14、21、および28日間冷却貯蔵する。
本発明のいくつかの態様において、血小板の集団の循環時間は、少なくとも約10%増加する。いくつかの他の態様において、血小板の集団の循環時間は、少なくとも約25%増加する。さらにいくつかの他の態様において、血小板の集団の循環時間は、少なくとも約50%増加する。またさらに他の態様において、血小板の集団の循環時間は、約100%増加する。本明細書において、血小板の集団の循環時間は、血小板の半分がもはや循環しない時間と定義される。
【0057】
本発明はまた、血小板の貯蔵時間を増加させる方法を包含する。本明細書において、血小板の貯蔵時間は、血小板が、循環する能力の損失などの血小板機能または止血作用の相当な損失がなく貯蔵することができる時間と定義される。例えば、貯蔵後循環する能力は、約1%、2%、3%、5%、10%、20%、30%、または50%未満減少する。
血小板は、当業者に既知の標準の技術により、末梢血から採集することができる。いくつかの態様において、血小板は、グリカン修飾剤による処置の前に、薬学的に許容しうる担体に含まれる。
【0058】
本発明の別の側面によると、修飾血小板または修飾血小板の集団を提供する。修飾血小板は、血小板の表面上に複数の修飾グリカン分子を含む。いくつかの態様において、修飾グリカン部分は、GPIbα分子の部分でもよい。修飾グリカン分子は、少なくとも1種類の添加した糖分子を含む。添加した糖は、天然の糖または非天然の糖でよい。
【0059】
本発明はまた、貯蔵培地中の血小板組成物を包含する。いくつかの態様において、貯蔵培地は、薬学的に許容しうる担体を含む。
用語「薬学的に許容しうる」は、血小板の生物作用の有効性を妨げない非毒性の材料および細胞、細胞培養、組織、または生物などの生物系と適合する非毒性の材料を意味する。薬学的に許容しうる担体は、希釈剤、充填剤、塩、緩衝剤、安定剤、可溶化剤、および当該技術分野で周知の他の材料を含む。
【0060】
本発明は、哺乳動物への投与のための医薬組成物を作るための方法をさらに包含する。該方法は、上述の血小板製剤の製造および血小板製剤の加温を含む。いくつかの態様において、該方法は、グリカン修飾剤および/またはグリカン部分の修飾を触媒する酵素を不活性化することおよび薬学的に許容しうる担体内に不活性化した血小板製剤を入れることを含む。好ましい態様において、冷却した血小板は、不活性化の前に室温(約22℃)まで加温する。いくつかの態様において、血小板は、グリカン部分の修飾をおよび触媒する酵素と共に/共にではなく、グリカン修飾剤と接触する前に、薬学的に許容しうる担体内に含まれ、不活性化の後に薬学的に許容しうる担体内に血小板製剤を入れる必要はない。
【0061】
本明細書において、用語「不活性化する」または「不活性化」は、グリカン修飾剤および/またはグリカン部分の修飾を触媒する酵素が、実質的に血小板のグリカン残基のグリカンを修飾できないようにされるプロセスを意味する。いくつかの態様において、冷却した血小板は、例えば、赤血球の懸濁液による希釈により不活性化される。あるいは、処置した血小板は、受容者へ注入することができ、これは赤血球懸濁液への希釈と同等である。この不活性化の方法は、閉鎖システムを有利に維持し、血小板への損傷を最小限に抑える。グリカン修飾剤の好ましい態様において、不活性化は必要ではない。
【0062】
毒性を減少させる他の方法は、注入ラインにフィルターを挿入することであり、該フィルターは、グリカン修飾剤および/またはグリカン部分の修飾を触媒する酵素を除去するために、例えば活性炭または固定化された抗体を含む。
グリカン修飾剤およびグリカン部分の修飾を触媒する酵素の一方または両方もまた、標準の臨床の細胞洗浄技術にしたがって修飾血小板を洗浄することにより除去または実質的に希釈してもよい。
【0063】
本発明はさらに、哺乳動物において止血を媒介する方法を提供する。本方法は、上述の医薬製剤を哺乳動物に投与することを含む。修飾血小板の投与は、当該技術分野で既知の標準の方法に従う。一態様によると、ヒトの患者に、修飾血小板の投与前、投与後または投与中に赤血球を輸血する。赤血球の輸血は、投与した修飾血小板を希釈する役目をし、これによりグリカン修飾剤およびグリカン部分の修飾を触媒する酵素を不活性化する。
【0064】
止血媒介のための用量は、対象の種類、年齢、体重、性別および病状、疾患の重篤度、投与の経路および頻度を含む様々な要因にしたがって選択される。通常の技術を有する医者または臨床医は、止血を調節するのに必要な血小板の効果的な量を直ちに決定し、処方することができる。
本用量は、例えば、臨床的症状および実験室試験に関して、処置への反応に従って決定することができる。かかる臨床的症状および実験室試験の例は、当該技術分野で周知であり、Harrison's Principles of Internal Medicine, 15th Ed., Fauci AS et al., eds., McGraw-Hill, New York, 2001に記載されている。
【0065】
止血を媒介するための貯蔵組成物および医薬組成物もまた、本発明の範囲内である。一つの態様において、本組成物は、薬学的に許容しうる担体、複数の修飾血小板、複数のグリカン修飾剤および随意にグリカン部分の修飾を触媒する酵素を含む。グリカン修飾剤およびグリカン部分の修飾を触媒する酵素は、血小板クリアランスを減少させるのに十分な量で組成物中に存在する。好ましくは、グリカン修飾剤(および随意にグリカン部分の修飾を触媒する酵素)は、冷却および不活性化の後、血小板が実質的に正常な止血作用を維持する量で存在する。血小板クリアランスを減少させるグリカン修飾剤(および随意にグリカン部分の修飾を触媒する酵素)の量は、血小板製剤をこれらの剤の増量に暴露することにより、処置した血小板を冷却温度に暴露することにより、および低温誘発性血小板活性化が生じたか否かを(例えば、顕微鏡により)決定することにより、選択することができる。好ましくは、グリカン修飾剤およびグリカン部分の修飾を触媒する酵素の量は、血小板をグリカン修飾剤およびグリカン部分の修飾を触媒する酵素の様々な量に暴露することにより、本明細書に記載のように血小板を冷却することにより、処置した(冷却した)血小板を加温することにより、血小板を随意に不活性化させることにより、および処置した血小板が実質上正常な止血作用を維持したかを決定するために、止血作用アッセイにおいて血小板を試験することにより、機能的に決定することができる。
【0066】
例えば、グリカン修飾剤(および随意にグリカン部分の修飾を触媒する酵素)により低温誘発性活性化を阻止するのに最適な濃度および条件を決定するために、増量したこれらの剤を、血小板を冷却温度に暴露する前に血小板と接触させる。グリカン修飾剤およびグリカン部分の修飾を触媒する酵素の最適な濃度は、in vitro試験(例えば、ガラス、トロンビン、低温保存温度に対する反応における形態的変化の観察;ADP誘発凝集)および次いで止血機能(例えば、血小板減少症の動物における回復、生存および出血時間の短縮、またはヒトの対象における51Cr標識血小板の回復および生存)を示すin vivo試験により決定されるように、血小板機能を損なわずに保存する効果的な最低濃度である。
【0067】
本発明のさらに別の側面によると、血小板クリアランスを減少させるためにまたは血小板の貯蔵時間を増加させるために、血小板に添加する組成物を提供する。本組成物は、1種または2種以上のグリカン修飾剤を含む。ある態様において、本組成物はまた、グリカン部分の修飾を触媒する酵素を含む。グリカン修飾剤およびグリカン部分の修飾を触媒する酵素は、低温誘発性血小板活性化を阻止する量で組成物中に存在する。一つの好ましい態様において、該グリカン修飾剤は、UDP−ガラクトースであり、グリカン部分の修飾を触媒する酵素は、ガラクトシルトランスフェラーゼである。
【0068】
本発明はまた、血小板を保存するための貯蔵組成物を包含する。本貯蔵組成物は、血小板クリアランスを減少するのに十分な量の少なくとも1種のグリカン修飾剤を含む。いくつかの態様において、本貯蔵組成物さらに、血小板のグリカン部分の修飾を触媒する酵素を含む。本グリカン修飾剤を、好ましくはおおよそ室温および37℃の間で保持される血小板の集団に添加する。いくつかの態様において、処置の後、血小板の集団を約4℃に冷やす。いくつかの態様において、血小板を、当業者に既知の標準の方法にしたがって、血小板用パック、バッグ、または容器に採集する。典型的に、提供者からの血液を主要容器に採取し、該容器は少なくとも1種のサテライト容器に結合していてもよく、全ての容器は、使用前に接続および殺菌する。いくつかの態様において、該サテライト容器は、破壊可能なシールにより、血小板を収集するための容器に接続する。いくつかの態様において、該主要容器はさらに、複数の血小板含有の血漿を含む。
【0069】
いくつかの態様において、(例えば遠心分離により)血小板を濃縮し、血小板のグリカン部分の修飾を触媒する酵素と共にまたは共にではなくグリカン修飾剤を添加する前に、血漿および赤血球を独立したサテライトバッグに取り除く(これらの臨床的に価値のある分画の修飾を避けるために)。処置の前の血小板濃縮もまた、血小板クリアランスを減少させるのに必要なグリカン修飾剤の量を最小限に抑えることができ、これにより最終的に患者に注入されるこれらの剤の量を最小限に抑えることができる。
【0070】
一つの態様において、該グリカン修飾剤は、閉鎖システム、例えば殺菌処理し、密封した血小板用パック内で血小板と接触させ、微生物汚染を避ける。典型的に、静脈穿刺導管(venipuncture conduit)は、血小板調達または輸血中、パックにおける唯一の開口部である。したがって、グリカン修飾剤による血小板の処置中、閉鎖システムを維持するために、該剤を、殺菌処理した接続チューブにより血小板用パックに接続した、比較的小さな、殺菌処理した容器に入れる(例えば、内容が本明細書中に参照として組み込まれる、米国特許第4,412,835号を参照)。該接続チューブは当業者に知られるように、可逆的に密封できるか、または破壊可能なシールを有する。例えば標準の実務にしたがって血小板を沈殿させ、主要パックから2番目ののバッグへ血漿を絞り出すことにより、血小板を濃縮した後、グリカン修飾剤含有の容器のシールを開き、該剤を血小板用パックに導入する。一つの態様において、該グリカン修飾剤は、独立した再封可能な接続チューブを有する独立した容器に含まれ、グリカン修飾剤の血小板製剤への連続添加を可能にする。
【0071】
グリカン修飾剤との接触後、処置した血小板を冷却する。例えば、22℃で貯蔵した血小板に比べ、低温保存温度で貯蔵した血小板は、実質的に減少した代謝性作用を有する。したがって、4℃で貯蔵した血小板は、代謝的に活性が低く、したがって、例えば、22℃で貯蔵した血小板と比較して、多量のCOを発生しない(Slichter, S. J., 1981, Vox Sang 40 (Suppl 1), pp 72-86, Clinical Testing and Laboratory-Clinical correlations)。血小板マトリックス内でのCOの溶解は、pHの減少および血小板の生存度の付随的減少をもたらす(Slichter, S., 1981, supra.)。したがって、従来の血小板用パックは、パック内外への気体の輸送(Oを中へおよびCOを外へ)を最大限にするために十分透過性のある材料で設計し、構築した材料で形成される。血小板用パックのデザインおよび構築における先行技術の制限は、低温保存温度での血小板の貯蔵を可能にし、それにより実質的に血小板代謝を減少させ、貯蔵中血小板により発生したCO量を少なくする本発明により除去される。したがって、本発明はさらに、血小板の低温貯蔵に特に有用な容器である、実質的にCOおよび/またはCOに対し非透過性である血小板用容器を提供する。
【0072】
本発明は、以下の例を参照により完全に理解できるだろう。これらの例は、しかしながら、本発明の態様を単に記述により説明するものであり、本発明の範囲を限定すると解釈されるものではない。
【0073】

例1
はじめに
適度に冷やすことは、活性化のために血小板をプライム(prime)するが、冷蔵は形態の変化および急速なクリアランスをもたらし、輸血療法のための血小板の貯蔵を危うくする。我々は、変形の阻害は、低温誘発性クリアランスを正常化しないことを見出した。我々はまた、肝臓マクロファージに主に発現する補体受容体3受容体(CR3)による認識のための対象となるように、血小板を冷やすことはフォンヴィルブランド因子(vWf)受容体複合体αサブユニット(GPIbα)の表面構造を再配列し、血小板食作用およびクリアランスへと至らしめることを見出した。GPIbαの除去は、冷却していない血小板の生存期間を延長する。冷却した血小板は、vWfを結合させ、CR3欠損マウスへの輸血後、in vitroおよびex vivoで正常に機能する。冷やした血小板は、しかしながら、トロンビンまたはADPに暴露された血小板のようには「活性化」されず、それらのvWf受容体複合体は、活性化されたvWfと正常に反応する。
【0074】
温度が37℃以下に下がるにつれて、血小板は、血栓性刺激による活性化により影響を受けやすく、これは、「プライミング」として知られる現象である(Faraday and Rosenfeld, 1998; Hoffmeister et al., 2001)。プライミングは、大部分の損傷が生じる体の表面のより低い温度での出血を制限するための順応であろう。我々は、肝クリアランスシステムの目的は、プライムされた血小板を繰り返し除去することであり、このクリアランスを促進するGPIbαにおける立体構造の変化は、vWfへのGPIbαの止血的に重要な結合に影響を及ぼさないことを提案する。したがって、GPIbαの選択的修飾は、輸血のための血小板の低温貯蔵を提供するだろう。
【0075】
材料および方法
我々は、イソチオシアン酸フルオレセイン(FITC)結合アネキシンV、フィコエリスリン(PE)結合抗ヒトCD11b/Mac−1モノクローナル抗体(mAb)、FITC結合抗マウスおよび抗ヒトIgM mAb、FITC結合抗マウスおよび抗ヒトCD62P−FITC mAbをPharmingen(San Diego, CA)から;FITC結合ラット抗マウス抗ヒトIgG mAbをSanta Cruz Biotechnology, Inc.(Santa Cruz, CA)から;FITC結合抗ヒトCD61 mAb(クローンBL−E6)をAccurate Scientific Corp.(Westbury, NY)から;FITC結合抗ヒトGPIbα mAb(クローンSZ2)をImmunotech(Marseille, France)から;およびFITC結合ポリクローナルウサギ抗vWf抗体をDAKOCytomation(Glostrup, Denmark)から得た。我々は、EGTA−アセトキシメチルエステル(AM)、Oregon Greenが結合したヒト血漿からのフィブリノゲン、CellTracker(登録商標)Orange CMTMR;CellTracker Green CMFDA、ナイルレッド(Nile-red)(535/575)が結合しおよびカルボン酸修飾されている1μmの微粒子/FluoSpheresをMolecular Probes, Inc.(Eugene, OR)から、および111インジウムをNEN Life Science Products(Boston, MA)から購入した。
【0076】
我々は、サイトカラシンB、ジメチルスルホキシド(DMSO)、イソチオシアン酸三ナトリウム(TRITC)、ヒトトロンビン、プロスタグラジンE1(PGE)、ホルボールエステル12−テトラデカノイルホルボール−13アセテート(PMA)、A23187イオノフォアをSigma(St. Louis, MO)から;ボトロセチンをCenterchem Inc.(Norwalk, CT)から;およびO−シアロ糖タンパク質エンドペプチダーゼをCerladane(Hornby, Canada)から購入した。Ca2+およびMg2+含有のHBSS、pH6.4;RPMI 1640;Ca2+およびMg2+なしのHBSS中0.05%のトリプシン−EDTA(0.53mM);および他の補助剤(ペニシリン、ストレプトマイシンおよびウシ胎仔血清)をGIBCO Invitrogen Corp.(Grand Island, NY)から得た。TGF−β1をOncogene Research Products(Cambridge, MA)から;1,25−(OH)ビタミンD3をCalbiochem(San Diego, CA)から;およびアデノシン−5’−二リン酸(ADP)をUSB(Cleveland, OH)から得た。Avertin(2,2,2−トリブロモエタノール)をFluka Chemie(Steinheim, Germany)から購入した。
【0077】
コラーゲン関連ペプチド(CRP)をTufts Core Facility, Physiology Dept.(Boston, MA)で合成し、前記のとおり架橋した(Morton et al., 1995)。ヘビ毒メタロプロテアーゼであるモカラギンは、Dr. M. Berndt, Baker Medical Research Institute, Melbourne Victoria 318 1, Australiaから提供を受けた。追加の非結合抗マウスGPIbα mAbおよびPE結合抗マウスGPIbα mAb pOp4は、Dr. B. Nieswandt(Witten/Herdecke University, Wuppertal, Germany)から提供を受けた。我々は、THP−1細胞をAmerican Type Culture Collection(Manassas, VA)から得た。
【0078】
動物
クリアランスおよび生存研究のアッセイのために、我々は、Jackson Laboratory(Bar Harbor, ME)から得た年齢、血統および性別をマッチングしたC57BL/6およびC57BL/6×129/sv野生型のマウスを使用した。補体成分C3欠損のC57BL/6×129/svマウス(Wessels et al., 1995)は、Dr. M. C. Carroll(Center for Blood Research and Department of Pediatrics, Harvard Medical School, Boston, MA)から提供を受けた。CR3欠損のC57BL/6マウス(Coxon et al., 1996)は、Dr. T Mayadasから提供を受け、vWf欠損のC57BL/6マウス(Denis et al., 1998)は、Dr. D. Wagnerから提供を受けた。マウスを、Harvard Medical Area Standing Committee on Animalsにより承認されたように、The Guide for the Care and Use of Laboratory Animalsに記載のNIH標準に従って、維持および処置した。
【0079】
ヒト血小板
血液を、同意した正常な人間のボランティア(Brigham and Women's HospitalおよびCenter for Blood Research (Harvard Medical School)両方のInstitutional Review Boardsから承認を得た)から静脈穿刺により0.1容量のAster-Jandlクエン酸ベースの抗凝血剤へ採取し(Hartwig and DeSisto, 1991)、多血小板血漿(PRP)を300×gで20分間室温で、抗凝固処理した血液の遠心分離により調製した。血小板を、室温で小さなSepharose 2Bカラムを通して、ゲル濾過により血漿タンパク質から分離した(Hoffineister et al., 2001)。
【0080】
下記のin vitro食作用アッセイにおいて使用した血小板は、20分間37℃で、1.8μMのCellTracker Orange CMTMR(CM-Orange)で標識され(Brown et al., 2000)、取り込まれていない色素を、140mMのNaCl、5mMのKCl、12mMのクエン酸三ナトリウム、10mMのグルコース、および12.5mMのショ糖、1μg/mlのPGE、pH6.0を含む5倍容量の洗浄緩衝液(緩衝液A)を用いて、遠心分離(850×g、5分)により除去した。血小板を、140mMのNaCl、3mMのKCl、0.5mMのMgCl、5mMのNaHCO、10mMのグルコースおよび10mMのHepes、pH7.4を含む溶液(緩衝液B)中3×10個/mlに再懸濁した。
【0081】
GPIbαのN末端を、1mMのCa2+および10μg/mlのヘビ毒メタロプロテアーゼであるモカラギンも含む緩衝液B中、冷却したまたは室温で維持し、標識を付した血小板の表面から酵素的に除去した(Ward et al., 1996)。酵素消化後、血小板を5倍量の緩衝液Aを用いて遠心分離により洗浄し、凝集体について顕微鏡で定期的に確認した。GPIbαのN末端除去を、5μg/mlのFITC結合抗ヒトGPIbα(SZ2)mAbを用いて10分間室温で血小板懸濁液をインキュベートすることにより観察し、次いでFACScalibur Flow Cytometer(Becton Dickinson Biosciences, San Jose, CA)ですぐにフローサイトメトリー分析を行った。血小板を前方/側方散乱特性によりゲート(gate)し、50,000事象を獲得した。
【0082】
マウス血小板
マウスを3.75mg/g(2.5%)のAvertinで麻酔し、1mlの血液を、眼窩後方の眼の叢(retroorbital eye plexus)から0.1容量のAster-Jandl抗凝血剤へと得た。
PRPを、300×gで8分間室温で抗凝固処理した血液の遠心分離により調製した。血小板を、1200×gで5分間の遠心分離により血漿タンパク質から分離し、5倍量の洗浄緩衝液(緩衝液A)を用いて遠心分離により(1200×gで5分間)2回洗浄した。この手法は、用語「洗浄」の以降の使用を意味する。血小板を、140mMのNaCl、3mMのKCl、0.5mMのMgCl、5mMのNaHCO、10mMのグルコースおよび10mMのHepes、pH7.4を含む溶液(緩衝液B)中1×10個/mlの濃度に再懸濁した。
【0083】
血小板数を、400倍の位相差顕微鏡下でBright Line Hemocytometer(Hausser Scientific, Horsham, PA)を用いて決定した。いくつかの放射性血小板クリアランス研究を111インジウムを用いて行ない、霊長類の血小板について記載した方法(Kotze et al., 1985)を用いて、マウス血小板を標識した。血小板を、0.9%のNaCl、pH6.5(0.1Mのナトリウムクエン酸で調節した)中2×10/mlの濃度に再懸濁し、次いで30分間37℃で500μCiの塩化111インジウムを添加し、上記のように洗浄し、血小板を、緩衝液B中1×10個/mlの濃度に懸濁した。
【0084】
生体顕微鏡または他の血小板生存実験のために、洗浄した血小板に、0.001%のDMSO、20mMのHEPESをも含む緩衝液B中、2.5μMのCellTracker Green CMFDA(5−クロロメチルフルオレセインジアセテート)(CMFDA)で20分間37℃で(Baker et al., 1997)、または0.15μMのTRITCで20分間37℃で標識した。取り込まれていない色素を、上記のように遠心分離により除去し、血小板を緩衝液B中1×10個/mlに懸濁した。
【0085】
GPIbαのN末端を、20分間37℃で1mMのCa2+を含む緩衝液B中100μg/mlのO−シアロ糖タンパク質エンドペプチダーゼを用いて、冷却したまたは室温の標識血小板の表面から酵素的に除去した(Bergmeier et al., 2001)。酵素消化後、血小板を遠心分離により洗浄し、凝集体について光学顕微鏡により確認した。GPIbαのN末端除去の酵素除去を、5μg/mlのPE結合抗マウスGPIbα mAb pOp4を用いて10分間室温でインキュベートすることにより観察し、結合したPEをフローサイトメトリーにより分析した。
【0086】
低温誘発性血小板の形態の変化を阻害するために、緩衝液B中10/mlの血小板を、前記のとおり2μMのEGTA−AM、次いで2μMのサイトカラシンBと共に入れ(Winokur and Hartwig, 1995)、2.5μMのCMFDAで30分間37℃で標識し、そして冷却したかまたは室温で維持した。血小板は、標準の洗浄を受け、マウスへの注射前に緩衝液B中1×10個/mlの濃度に懸濁した。
【0087】
血小板の温度についての手順
血小板の生存または機能への温度の効果を研究するために、非標識の、放射性標識した、または蛍光標識したマウスまたはヒト血小板を、マウスに輸血する前またはin vitro分析前に、2時間室温(25〜27℃)でインキュベートし、または氷浴温度でインキュベートし、そして15分間37℃で再加温した。これらの処置を受けた血小板は、それぞれ冷やしたまたは冷却した(または冷却し再加温した)および室温の血小板に指定される。
【0088】
マウス血小板の回復、生存および死(fate)
CMFDA標識した、冷却したまたは室温のマウス血小板(10個)を、27ゲージの針を用いて外側尾静脈経由で同系のマウスに注入した。回復および生存の決定のために、血液サンプルを、輸血後すぐに(<2分)および0.5、2、24、48、72時間後に0.1容量のAster-Jandl抗凝血剤に採集した。フローサイトメトリーを用いた全血分析を行い、CMFDA陽性血小板の比率を前方および側方散乱特性にしたがって、全血小板をゲートすることにより決定した(Baker et al., 1997)。各サンプルにつき、50,000事象を収集した。<2分に測定したCMFDA陽性血小板を100%と設定した。マウスあたり輸血した血小板の投入量は、全血小板の集団の約2.5〜3%だった。血小板の死を評価するために、組織(心臓、肺、肝臓、脾臓、筋肉、および大腿骨)を、マウスへの10個の冷却したまたは室温の111インジウム標識血小板の注射後0.5、1および24時間目に採取した。器官の重量およびそれらの放射活性を、Wallac 1470 Wizard自動ガンマカウンター(Wallac Inc., Gaitersburg、MD)を用いて決定した。データを、器官1グラムあたりのガンマ数として表現した。放射性血小板の回復および生存の決定のために、血液サンプルを、輸血後すぐに(<2分)および0.5および時間後に0.1容量のAster-Jandl抗凝血剤に採集し、それらのガンマ数を決定した(Kotze et al., 1985)。
【0089】
血小板凝集
従来の試験を行い、Bio/Data血小板凝集計(Horsham, PA)内で観察した。0.3mlのマウスの洗浄し攪拌した血小板のサンプルを、1U/mlのトロンビン、10μMのADP、または3μg/mlのCRPに37℃で暴露した。光透過率を3分間にわたり記録した。
【0090】
活性化vWf結合
多血小板血漿を、2U/mlのボトロセチンで5分間37℃で処置したか、または処置しなかった(Bergmeier et al., 2001)。結合したvWfを、フローサイトメトリーにより、FITC結合ポリクローナルウサギ抗vWf抗体を用いて検出した。
【0091】
血小板GPIbαの表面ラベリング
室温または2時間冷却を維持した休止マウス血小板を、0.05%のグルタルアルデヒドを含むリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中2×10/mlの濃度に希釈した。血小板溶液(200μl)を、96−wellプレートのウェルに含まれるポリリジンコートされたガラス製カバースリップ上に置き、血小板を1,500×gで5分間室温での遠心分離により、各カバースリップに付着させた。そして上清を除去し、カバースリップに結合させた血小板を、10分間PBS中0.5%グルタルアルデヒドで固定した。固定剤を除去し、未反応アルデヒドをPBS中0.1%の水素化ホウ素ナトリウムを含む溶液で急冷し、次いで10%のBSAを含むPBSで洗浄した。血小板表面上のGPIbαに、3種類のラット抗マウスGPIbαモノクローナル抗体それぞれ10μg/mlの混合物で(Bergmeier et al., 2000)1時間、次いでヤギ抗ラットIgGでコートした10nmの金で標識した。カバースリップを、PBSで何回も洗浄し、1%のグルタルアルデヒドで後固定(post-fix)し、蒸留水で再洗浄し、急速に冷凍、凍結乾燥、およびCressington CFE-60(Cressington、Watford、UK)内で1.2nmのプラチナで回転(rotary)コートし、次いで回転なしで4mnの炭素でコートした。血小板を100kVでJEOL 1200-EX電子顕微鏡で観察した(Hartwig et al., 1996; Kovacsovics and Hartwig, 1996)。
【0092】
In vitro食作用アッセイ
単球性THP−1細胞を、10%のウシ胎仔血清、25mMのHepes、2mMのグルタミンを追加したRPMI 1640細胞培養液中7日間培養し、1ng/mlのTGFPおよび50nMの1,25−(OH)ビタミンD3を用いて24時間分化させ、これはCR3発現の増加を伴った(Simon et al., 2000)。CR3発現を、フローサイトメトリーにより、PE結合抗ヒトCD11b/Mac−1 mAbを用いて観察した。未分化または分化THP−1細胞(2×10個/ml)を、24−wellプレートに播種し、45分間37℃で付着させた。付着した未分化または分化マクロファージを、15分間15ng/mlのPMAの添加により活性化させた。
前に異なる処置を受けた、CM-Orange標識された、冷却したまたは室温の血小板(10個/ウェル)を、Ca2+およびMg2+含有のHBSS中の未分化または分化した食細胞に添加し、30分間37℃でインキュベートした。インキュベーション期間の後、食細胞単層をHBSSで3回洗浄し、37℃で5分間、HBSS中0.05%のトリプシン/0.53mMのEDTAで、次いで4℃で5mMのEDTAでの処置により、付着した血小板を除去し、血小板の付着または摂取のフローサイトメトリー分析のためにマクロファージをはがした(Brown et al., 2000)。ヒトのCM-Orange標識された、冷却したまたは室温の血小板はすべて、新しく単離した非標識血小板と同じ量の血小板特異的マーカーCD61を発現した(未掲載)。マクロファージと共にインキュベートしたCM-Orange標識血小板を、それらの前方および側方散乱特性にしたがって食細胞から分離した。マクロファージをゲートし、各サンプルについて10,000事象を獲得し、データをCELLQuestソフトウェア(Becton Dickenson)で分析した。食細胞集団と関連するCM-Orange標識血小板は、オレンジ蛍光のシフトを有する(図6Aおよび図6B、摂取される、y軸)。これらの血小板は、FITC結合mAbでCD61へ二重標識するのに失敗したため、単に付着するよりも摂取された。
【0093】
血小板の免疫標識(immunolabeling)およびフローサイトメトリー
洗浄したマウス血小板またはヒト血小板(2×10個)を、CD62P、CD61、または表面結合したIgMおよびIgGの表面発現について、冷却または室温貯蔵後、10分間37℃でフルオロフォア結合Ab(5μg/ml)で染色することにより、分析した。冷却したまたは室温の血小板により暴露されたホスファチジルセリンを、10μg/mlのFITC結合アネキシンVと共に10mMのCa2+を含む400μlのHBSSに、5μlの血小板を再懸濁することにより決定した。PS暴露について陽性対照として、血小板懸濁液を1μMのA23187で刺激した。フィブリノゲン結合を、20分間室温でのOregon Greenフィブリノゲンの添加により、決定した。すべての血小板サンプルを、フローサイトメトリーによりすぐに分析した。血小板を、前方および側方散乱特性によりゲートした。
【0094】
生体顕微鏡実験
生体ビデオ顕微鏡設定の動物の用意、技術的および実験的側面が記載されている(von Andrian、1996)。両方の性別の6〜8週齢のマウスを、XylazineおよびKetaminの混合物の腹腔内注射により、麻酔した。右の頚静脈に、PE−10ポリエチレンチューブのカテーテルを挿入した。左の肝葉の下面を外科的に用意し、既述のとおりさらにin vivo 顕微鏡検査のためにガラス製カバースリップで覆った(McCuskey, 1986)。
【0095】
それぞれCMFDAおよびTRITCで標識した10個の冷却した血小板および室温の血小板を1:1で混合し、静脈内投与した。肝類洞内の標識血小板の循環を、ビデオトリガー(triggered)ストロボスコープ表面照射で追跡した。10のビデオシーンを各示した時間で3小葉中心帯から記録した。同一の視野内の冷やした(CMFDA)/RTの(TRITC)付着した血小板の比率を計算した。
共焦点顕微鏡検査を、10倍の水浸対物レンズを用いて、Olympus BX 50 WJ直立顕微鏡(Biorad, Hercules, CA)に接続したRadiance 2000 MP共焦点多光子画像システムを用いて行なった。画像を捉え、Laser Sharp 2000ソフトウェア(Biorad)(von Andrian、2002)で分析した。
【0096】
流血における血小板凝集
霊長類について既述されたように、創傷から生じる全血中の血小板による凝集体の形成を分析するために、フローサイトメトリー法を用いた(Michelson et al., 1994)。10個のCMFDA標識の室温のマウス血小板を同系の野生型のマウスに注射し、10個のCMFDA標識の冷却した血小板をCR3欠損マウスに注射した。血小板注入の24時間後、マウスの尾を3mm切片に切断し、標準の出血時間アッセイを行なった(Denis et al., 1998)。切断した尾を、37℃の100μlの0.9%等張食塩水に浸した。生じる血液を2分間採集し、0.1容量のAster-Jandl抗凝血剤、次いですぐに1%のパラホルムアルデヒド(最終濃度)を添加した。末梢血を上記と平行して眼窩後方の眼の叢の出血により得て、すぐに1%のパラホルムアルデヒド(最終濃度)で固定した。
【0097】
フローサイトメトリーによりin vivoの凝集体数を分析するために、出血時間の創傷から生じる流血、ならびに末梢全血サンプルを希釈し、PE結合抗マウスGPIbα mAb pOp4(5μg/ml、10分)で標識した。血小板を、それらの前方散乱特性およびGPIbαの陽性度(positivity)にしたがってゲーティング(gating)することにより赤血球および白血球から識別した。
【0098】
Log前方光散乱(血小板の大きさを反映している)対GPIbα結合のヒストグラムを作成した。末梢全血サンプルにおいて、分析部位をGPIbα陽性粒子周辺に描き、前方散乱軸(領域1)の95%の集団およびこの前方光散乱閾値(領域2)より上に現れる5%粒子を含有した。同一の領域を流血サンプルについて使用した。単一の血小板の数の比率として、流血中の血小板凝集体の数を、以下の式より計算した:[(流血の領域2における粒子数)−(末梢血の領域2における粒子数)]÷(流血の領域1における粒子数)×100%。注入した血小板を、それらのCMFDA標識により確認し、CMFDA陰性の非注入血小板から識別した。
【0099】
マウス血小板フィブリノゲン結合のフローサイトメトリー分析および循環血小板のP-セレクチン暴露
CM-Orange標識の室温の血小板(10個)を野生型のマウスに注入し、CM-Orange標識の冷却した血小板(10個)をCR3欠損マウスに注入した。血小板注入の24時間後、マウスを出血させ、血小板を単離した。休止のまたはトロンビン活性化した(1U/ml、5分)血小板懸濁液(2×10個)を、PBS中に希釈し、20分間室温で、FITC結合抗マウスP−セレクチンmAbまたは50μg/mlのOregon Green結合フィブリノゲンのいずれかで染色した。血小板サンプルを、フローサイトメトリーによりすぐに分析した。輸血したおよび非輸血の血小板を、前方散乱およびCM-Orange蛍光特性により、ゲートした。P−セレクチンの発現およびフィブリノゲンの結合を、トロンビンによる刺激の前および後に、各CM-Orange陽性および陰性集団について測定した。
【0100】
統計
生体顕微鏡データを、平均±SEMとして表現した。群を対応のないt検定を用いて比較した。P値<0.05を、有意であるとみなした。すべての他のデータを、平均±SDとして表した。
【0101】
結果
冷却した血小板のクリアランスは、主に肝臓において生じ、血小板の形態から独立している。
室温(RT)で保持し、同系のマウスに注入したマウス血小板は、約80時間にわたりかなり定率で消滅する(図1A)。一方、氷浴の温度で冷やし、注射前に再加温した(Cold)のマウス血小板のおよそ3分の2が、以前ヒトおよびマウスにおいて観察されたように、循環から急速に消滅する(Becker et al., 1973; Berger et al., 1998)。
【0102】
円盤状の形態を保存するために、細胞透過性カルシウムキレート剤であるEGTA−AMおよびアクチンフィラメントの反矢じり端の保護剤であるサイトカラシンB(Cold+CytoB/EGTA)で処置した冷却し再加温した血小板(Winokur and Hartwig, 1995)は、in vitroでトロンビン−、ADP−またはコラーゲン関連ペプチド−(CRP)誘発凝集により決定されたように、十分に機能したにもかかわらず、冷却した、未処理の血小板と同じくらい急速に、循環から去った(図1B)。輸血後すぐに注入した血小板の回復は、50〜70%であり、血小板消滅の動態は、血小板に標識を付すのに111インジウムまたはCMFDAを使用したかにかかわらず、区別できなかった。室温のおよび冷却したマウス血小板の相対生存率は、完全に同じように処置したマウス血小板(Berger et al., 1998)およびヒト血小板(Becker et al., 1973)について以前報告された値と似ている。
【0103】
図1Cは、室温のおよび冷却したマウス血小板の目的地の器官(organ destination)は異なることを示す。室温の血小板は、主に脾臓に行き着くのに対し、肝臓は、循環から除去した冷却した血小板の主要な滞留地(residence)である。24時間目に、室温の血小板と比べて、111インジウム標識された冷却した血小板を受けている動物の腎臓内で検出された放射性核種のより大きな分画は、冷却した血小板のより急速な分解と、放射性核種の泌尿器系への到達を反映する。注射の1時間後、CMFDAで標識した血小板の器官分布は、111インジウムで標識した血小板の器官分布と同程度だった。両方の場合において、60〜90%の標識した冷却した血小板集団が肝臓内に、約20%が脾臓内に、および約15%が肺内に堆積した。一方、4分の1の注入した室温の血小板は、肝臓、脾臓および肺の間で均等に分配した。
【0104】
冷却した血小板は、肝マクロファージ(クッパー細胞)と共局在する。
肝臓による冷却した血小板のクリアランスおよび血小板分解についての証拠は、肝臓の主要な食作用スカベンジャー細胞であるクッパー細胞による冷却した血小板の認識および摂取と一致する。図1Dは、輸血の1時間後のマウス肝臓の切片の典型的な共焦点顕微鏡写真における食作用クッパー細胞および付着した冷却したCMFDA標識血小板の位置を示す。類洞マクロファージを、ナイルレッドでマーキングをした1μmのカルボキシル修飾したポリスチレン微粒子の注射により視覚化した。輸血した血小板およびマクロファージの共局在は、両方の蛍光放射の重ね合わせた顕微鏡写真において黄色で示される。冷却した血小板は、類洞マクロファージが豊富な場所である肝小葉の門脈周囲および中間帯ドメインにおいて選択的にナイルレッド標識細胞と局在する(Bioulac-Sage et al., 1996; MacPhee et al., 1992)。
【0105】
CR3欠損のマウスは、冷却した血小板を急速に一掃しない。
CR3(αβインテグリン;CD11b/CD18;Mac−1)は、肝マクロファージによる抗体独立クリアランスの主要な伝達物質である。図2Aは、冷却した血小板と室温の血小板の両方の集団のクリアランスは、野生型のマウスと比較してCR3欠損マウスにおいてより短い(図lA)にもかかわらず、冷却した血小板は室温の血小板と同じ動態でCR3欠損動物を循環することを示す。野生型のマウスと比較して、CR3欠損マウスによる血小板除去率がわずかに速い理由は、明らかではない。冷却し再加温した血小板もまた、補体因子3であるC3欠損マウスから急速に一掃され(図2C)、CR3経由でのおよびフォンヴィルブランド因子(vWf)欠損マウスからの食作用およびクリアランスを促進する主要なオプソニンが不足する(Denis et al., 1998)(図2B)。
【0106】
冷却した血小板は、in vivoでクッパー細胞にしっかりと付着する。
野生型の肝類洞への血小板の付着を生体顕微鏡によりさらに調査し、共に注入した、冷却したおよび室温で貯蔵した、付着した血小板の間の比率を決定した。図3は、両方の冷却したおよび室温の血小板は高クッパー細胞密度で類洞部位に結合する(図3Aおよび3B)が、野生型のマウスにおいて室温の血小板より2.5〜4倍多い冷却した血小板がクッパー細胞に付着する(図3C)ことを示す。一方、CR3欠損マウス内のクッパー細胞に付着する血小板の数は、冷却または室温への暴露から独立していた(図3C)。
【0107】
GPIbαのN末端ドメインを欠乏する冷却した血小板は、正常に循環する。
vWfについてのGPIb−IX−V受容体複合体の成分であるGPIbαが、in vitroで特定の条件下でCR3に結合できるため(Simon et al., 2000)、CR3について冷却した血小板における可能性のあるカウンター(counter)受容体としてGPIbαを調査した。O−シアロ糖タンパク質エンドペプチダーゼは、マウス血小板GPIbαの45−kDaのN末端細胞外ドメインを開裂するが、αIIbβ,αα、GPVI/FcRγ鎖およびプロテアーゼ活性化受容体などの他の血小板受容体を損なわない(Bergmeier et al., 2001)。したがって、O−シアロ糖タンパク質エンドペプチダーゼによりマウス血小板からGPIbαのこの部分の細胞外ドメインを取り除き(図4A挿入図)、室温または低温インキュベーション後のマウス内でのそれらの生存を調べた。図4Aは、冷却した血小板は、GPIbαの開裂後、もはや急速なクリアランスを示さないことを示す。さらに、GPIbαが枯渇した室温処置した血小板は、GPIbαを含む室温の対照と比較したとき、生存時間をわずかに延長した(約5〜10%)。
【0108】
冷却は、活性化vWfの血小板vWf受容体への結合に影響を及ぼさないが、血小板表面上のGPIbαのクラスタリングを誘発する。
図4Bは、血小板の冷却は、マウス血小板表面上のGPIbαの分布における変化へと至らしめるが、ボトロセチン活性化vWfは、低温血小板におけるのと同様に、室温の血小板においてGPIbαに良好に結合することを示す。免疫金(immunogold)標識モノクローナルマウス抗GPIbα抗体により確認されたGPIbα分子は、休止した円盤状の血小板の滑らかな表面上に室温で線状の凝集体を形成する(図4C、RT)。この配置は、休止した血液血小板の構造の情報と一致する。GPIbαの細胞質ドメインは、フィラミンA分子の仲介を通して血小板膜の面と共に曲がっている長いフィラメントと結合する(Hartwig and DeSisto, 1991)。冷却後(図4C、Chilled)、多くのGPIbα分子は、内部アクチン再構成により変形した血小板膜にて、クラスターとして組織する(Hoffmeister et al., 2001; Winokur and Hartwig, 1995)。
【0109】
In vitroにおける冷却したヒト血小板のCR3を介した食作用による、血小板GPIbαの認識。
TGF−β1および1,25−(OH)ビタミンD3を用いたヒト単球様THP−1細胞分化は、CR3の発現を約2倍増加させる(Simon et al., 1996)。冷却は、未分化THP−1細胞による血小板食作用の3倍増加および分化THP−1細胞による約5倍増加をもたらし(図5Bおよび5C)、CR3による血小板の摂取の関与と一致した。一方、THP−1細胞の分化は、室温で貯蔵した血小板の摂取において有意な効果がなかった(図5Aおよび5C)。GPIbαが、冷却したヒト血小板におけるCR3を介した食作用のカウンター受容体であるかを決定するために、ヘビ毒メタロプロテアーゼであるモカラギンを使用し、GPIbαの細胞外ドメインを除去した(Ward et al., 1996)。ヒト血小板の表面からのモカラギンによるヒトGPIbαの除去は、冷却後のそれらの食作用を約98%減少させた(図5C)。
【0110】
低温誘発性血小板クリアランスの他の伝達物質の排除
表1は、冷やすことが、GPIbα以外の血小板受容体の発現またはそれらのリガンドとの相互作用に影響を及ぼしたかどうかについて調べた実験の結果を示す。これらの実験は、P−セレクチンの発現、αIIbβ−インテグリン密度またはαIIbβ活性化のマーカーであるαIIbβフィブリノゲン結合への検出可能な効果を明らかにしなかった。冷却はまた、アポトーシスの指標である、ホスファチジルセリン(PS)の暴露を増加させず、IgGまたはIgM免疫グロブリンの血小板結合を変化させなかった。
【0111】
表1.様々な抗体またはリガンドの血小板受容体への結合への冷却の効果。
【表1】

【0112】
冷却し再加温したまたは室温のヒトおよびマウス血小板における様々な受容体に対する蛍光標識抗体またはリガンドの結合を、フローサイトメトリーにより測定した。データを、冷却した血小板の表面に結合した平均フルオロフォア対室温の血小板の表面に結合した平均フルオロフォアの比率で表現する(平均±SD、n=3〜4)。
【0113】
循環している冷却した血小板は、CR3欠損マウスにおいて止血機能を有する。
野生型のマウスにおける急速なクリアランスにもかかわらず、CM-OrangeまたはCMFDA標識された冷却した血小板は、3種類の独立した方法により決定したように、CR3欠損マウスへの注入の24時間後、機能的であった。第一に、冷却した血小板を、標準化した尾静脈出血創傷から生じている流血中の血小板凝集体に取り込んでいる(図6)。野生型のマウスに輸血したCMFDA陽性の室温の血小板(図6B)およびCR3欠損マウスに輸血したCMFDA陽性の冷却した血小板(図6D)は、受容マウスのCMFDA陰性の血小板と同一程度に流血中に凝集体を形成した。第二に、αIIbβのフィブリノゲン結合部位の血小板表面暴露により決定したように、トロンビンによるex vivo刺激後にCR3欠損マウスへ冷却し再加温したCM-Orange標識の血小板を輸血後、24時間後に。第三に、冷却し再加温したCM-Orange血小板は、トロンビン活性化に対する反応においてP−セレクチンの上方制御の完全な能力があった(図6E)。
【0114】
考察
低温誘発性の血小板形態変化だけでは、in vivoの血小板クリアランスを引き起こさない
冷やすことは、細胞内細胞骨格の再構成を介した大きな血小板の形態変化を急速に誘発する(Hoffineister et al., 2001; White and Krivit、1967; Winokur and Hartwig, 1995)。これらの変化は、再加温により一部可逆的であるが完全に可逆的ではなく、再加温した血小板は、円盤状というより、より球状である。トロンビンによりex vivoで活性化された輸血したマウスおよびヒヒの血小板は、大きな形態の変化を伴って正常に循環するという証拠にもかかわらず、血小板の円盤状の形態の維持が、血小板の生存における主要な必要条件であるという考えは、定説であった(Berger et al., 1998; Michelson et al, 1996)。
【0115】
本明細書において、冷却は、形態の変化と独立してその除去を介する血小板表面における特異的な変化へと導き、形態の変化は本質的に急速な血小板クリアランスと至らしめないことを示した。冷却し再加温した血小板は、薬剤により円盤として保存され、未処理の冷却した血小板と同じ速度で一掃され、および歪み、冷却し再加温した血小板は、CR3欠損マウス内で室温で維持した血小板のように循環する。小型の血小板は、循環内にとどまることが可能であり、これらの大きな形態の変形にもかかわらず、捕捉(entrapment)から逃れる。
【0116】
冷却した血小板のクリアランスを仲介する受容体:CR3およびGPIbα
ヒトにおける正常な血小板の寿命は、およそ7日である(Aas, 1958; Ware et al., 2000)。例えば、播種性血管内凝固中に生じるものなどの大量の凝固反応は、血小板減少症の原因となるため、連続した機械的応力により生じた小さな血塊への血小板の取り込みは、間違いなく血小板クリアランスに寄与する(Seligsohn, 1995)。In vivoの血小板刺激は、負傷した血管壁において生じ、活性化血小板は急速にこれらの部位で隔離させる(sequester)ため、かかる凝固反応における血小板の死は、Michelsonら(Michelson et al., 1996)およびBergerら(Berger et al., 1998)の実験などにおける注入したex vivo活性化血小板の死と異なる。
【0117】
同種抗体および自己抗体は、免疫不適合血小板により感作された個体における、または自己免疫性血小板減少症の患者における、Fc受容体を有するマクロファージにより、血小板の食作用除去を加速するが、それ以外には、血小板クリアランスの機構に関してほとんど情報が存在しない。しかしながら、冷却したまたは室温のヒト血小板に結合したIgGまたはIgMの量は同一であり、血小板関連抗体のFc受容体への結合は、冷やした血小板のクリアランスを調節しないことを意味することを示した。また、血小板の冷却は、ホスファチジルセリン(PS)暴露に不利に作用するin vitroで血小板表面における検出可能なPS暴露および冷却した血小板のクリアランスにおけるスカベンジャー受容体の関与を誘発しないことを実証した。
【0118】
多くの刊行物が、血小板における低温の効果を「活性化」として言及しているにもかかわらず、細胞骨格に媒介された形態の変化とは別に、冷却した血小板は、トロンビンまたはADPなどのに刺激より活性化された血小板と似ていない。正常な活性化は、表面P−セレクチン発現を顕著に増加させ、これは、細胞内顆粒からの分泌の結果である(Berman et al., 1986)。血小板の冷却は、P−セレクチンの増加を引き起こさないが(表1)、野生型またはP−セレクチン欠損マウスから単離された冷却した血小板のクリアランスは、等しく急速である(Berger et al., 1998)。活性化はまた、αIIbβ−インテグリンの量およびフィブリノゲンについてのその結合力を増加させるが(Shattil, 1999)、冷やすことは、これらの効果を有さない(表1)。トロンビン活性化血小板の正常な生存は、我々の発見と一致する。
【0119】
肝臓マクロファージのCR3は、主に冷やした血小板の認識およびクリアランスに関与することを示した。冷却した血小板のクリアランスにおける肝臓内のCR3を有するマクロファージの主要な役割は、脾臓内の豊富なCR3発現型マクロファージにもかかわらず、IgMでコートされた赤血球の主要な肝臓のクリアランスと一致し(Yan et al., 2000)、マクロファージCR3による結合および摂取に有利に働く肝臓の血液濾過特性を反映するだろう。GPIbαの細胞外ドメインは、CR3に積極的に結合し、in vitroの剪断応力下で、THP−1細胞の回転(rolling)および安定した付着を支持する(Simon et al., 2000)。マウスGPIbαの細胞外ドメインの開裂は、マウスに輸血した冷却した血小板の正常な生存をもたらす。ヒトの冷却した血小板のGPIbαの枯渇は、処置した血小板の食作用をin vitroでのマクロファージ様細胞により大いに減少させる。したがって、GPIbαは、食作用による血小板クリアランスへと至らしめる冷却した血小板の肝臓マクロファージCR3のための共受容体であることを提案する。
【0120】
GPIbαのN末端部分が欠損している低温血小板の正常なクリアランスは、冷却した血小板クリアランスを仲介する候補として血小板表面上に発現した分子を含む多くの他のCR3結合パートナーを無視する。これらのリガンド候補は、ICAM−2、血小板インテグリンαIIbβに結合したフィブリノゲン、iC3b、P−セレクチン、グルコサミノグリカン、および高分子量キニノーゲンを含む。我々は、補体因子3を欠損しているマウスを用いて、冷却した血小板クリアランスのための機構としてオプソニンC3bフラグメントiC3bの堆積を排除したが、αIIbβの発現レベルおよびフィブリノゲン結合もまた、血小板の冷却後に変化しない。
【0121】
活性化vWfへの結合およびCR3への低温誘発性結合は、GPIbαの独立した機能のようである。
休止円盤状の血小板の表面のGPIbαは、フィラミンAおよびフィラミンBにより亜膜(submembrane)アクチン細胞骨格に結合した、GPIbα、GPIXおよびVを有する複合体内に、線形配列(図5)状に存在している(Stossel et al., 2001)。止血におけるその役割は、血管損傷位置でvWfの活性型を結合させることである。活性化vWfは、休止血小板または刺激血小板でGPIbαに同等に良好に結合することから、活性化vWfへのGPIbα結合は構造的であり、血小板からの積極的な寄与は必要ない。トロンビンおよび他のアゴニストによる懸濁液中の血小板の刺激は、GPIbαを一部血小板表面から内膜のネットワークである開放小管系へと再分布させる原因となるが、in vivoでの血小板クリアランス(Berger et al., 1998; Michelson et al., 1996)またはin vitroでの食作用(未発表の観察)を引き起こさない。しかしながら、血小板を冷やすことは、内在化(internalization)よりむしろ、GPIbαクラスタリングの原因となる。このクラスタリングは、サイトカラシンBの存在下で生じるため、反矢じり端のアクチン集合から独立している。
【0122】
低温によってCR3による血小板GPIbαの認識が促進するにもかかわらず、in vitroでのGPIbαおよび活性化vWfの間の相互作用における効果はなく、vWf欠損マウスに輸血した冷却した血小板は、野生型のマウスにおけるのと同様に急速に消滅する。vWfおよびCR3とのGPIbαの相互作用の分離可能性は、GPIbαの選択的修飾は、vWfとのGPIbαの止血に重要な反応を損なうことなく低温誘発性血小板クリアランスを阻害するかもしれないことを示唆する。In vitroでのおよびCR3欠損マウスへの注入後の冷やした血小板の血小板機能のすべての試験は、正常な結果をもたらすことから、適切に修飾した血小板は、予想通りに止血に効果的である。
【0123】
低温誘発性血小板クリアランスの生理学的重要性
全体的な血小板の形態の変化が、15℃以下の温度でのみ明らかになるにもかかわらず、精密な生化学分析は、細胞骨格の変化およびトロンビンへの反応性の増加が、温度が37℃以下に下がるにつれて、検出可能であることを示す(Faraday and Rosenfeld, 1998; Hoffineister et al., 2001; Tablin et al., 1996)。低温暴露した血小板とトロンビン刺激またはADP刺激血小板との間に残る多くの機能的差異のため、それらの変化を「プライミング」と示す。
【0124】
血小板の活性化は、コア体温にさらされる冠状および脳血管において潜在的に致命的であることから、我々は、血小板は熱センサーであり、中央循環のコア体温では比較的不活性であるが、進化史を通じて最も出血を起こしやすい位置である外側の体の表面のより低い温度で活性化がプライムされるようになるよう設計されていることを提案した(Hoffmeister et al., 2001)。本明細書において報告した発見は、GPIbαにおける不可逆変化が冷やした血小板のクリアランスの理由であることを示唆する。冷却した血小板を循環させるよりも、生物は食作用により低温でプライム化した血小板を一掃する。
【0125】
一つは局在的に活性化した血小板の除去のため、およびもう一つは過剰にプライム化した血小板を取り除くために(図7)、少なくとも2種類のクリアランス経路が関与するシステムは、なぜ冷却した血小板がCR3欠損マウスにおいて正常に循環および機能し、GPIbαの除去後にわずかに延長された循環を有するのかを、おそらく説明できるだろう。我々は、いくつかのプライム化した血小板が、確率的基礎にしたがって微小血管の凝固に入ることを提案する。その他のプライム化した血小板は、体の表面温度に繰返し暴露を受けやすく、この反復プライミングが、次第にこれらの血小板をCR3を有する肝臓マクロファージにより識別可能にさせる。冷却によりプライムされた血小板は、CR3欠損マウスにおいて正常な止血機能の能力があり、凝固はそれらのクリアランスに寄与する。しかしながら、冷蔵した血小板のクリアランス率は、室温で保持された血小板のクリアランス率と区別できないため、検査したCR3欠損マウスにおける自己血小板のわずかに短い生存時間は、おそらく微小血管凝固において正常にプライム化した血小板のクリアランスの増加に起因しない。
【0126】
本発明および例1の背景となる参考文献
【表2】

【0127】
【表3】

【0128】
【表4】

【0129】
【表5】

【0130】
【表6】

【0131】
例2
冷却した血小板食作用におけるαβ(CR3)レクチンドメインの関係
αβ(CR3)は、陽イオン独立の糖結合レクチン部位を有し、マンナン、グルカンおよびN−アセチル−D−グルコサミン(GlcNAc)に結合するそのI−ドメインに「C−T」を局在させる(Thornton et al, J. Immunol. 156, 1235-1246, 1996)。CD16b/αβ膜複合体は、β−グルカン、N−アセチル−D−ガラクトサミン(GalNAc)、およびメチル−α−マンノシドにより分裂するが、他の糖により分裂しないことから、この相互作用はαβインテグリン(CR3)のレクチン部位で生じると信じられている(Petty et al, J. Leukoc. Biol. 54, 492-494, 1993; Sehgal et al, J. Immunol. 150, 4571-4580, 1993)。
【0132】
αβインテグリンのレクチン部位は、幅広い糖特異性を有する(Ross, R. Critical Reviews in Immunology 20,197-222, 2000)。レクチンへの糖結合は、通常親和性が低いにもかからわず、クラスタリングは、結合力を増加させることにより、より強固な相互作用をもたらすことができる。冷やした後のGPIbαのクラスタリングは、電子顕微鏡により示したように、かかる機構を示唆する。動物細胞の最も一般的なヘキソサミンは、D−グルコサミンおよびD−ガラクトサミンであり、大部分はGlcNAcおよびGalNAcとして構造性炭水化物において生成し、αβインテグリンレクチンドメインもまた、シアル酸によりカバーされていない炭水化物を含む哺乳動物の糖タンパク質に結合してもよいことを示唆している。
【0133】
水溶性のGPIbαであるグリコカリシン(glycocalicin)は、60%の炭水化物含有量を有し、N−ならびにO−グリコシド結合炭水化物鎖を含む(Tsuji et al, J. Biol. Chem. 258, 6335-6339, 1983)。グリコカリシンは、4つの潜在的なN−グリコシル化の部位を含む(Lopez, et al, Proc. Natl. Acad. Sci., USA 84, 5615-5619, 1987)。45kDa領域は、N−グリコシル化される2つの部位を含む(Titani et al, Proc Natl Acad Sci 16, 5610-5614, 1987)。正常な哺乳動物の細胞において、O−グリカンの4つの一般的なコア構造を合成することができる。これらすべては、機能的炭水化物構造を形成するために、伸長、シアル酸化(sialylated)、フコシル化(fucosylated)および硫酸化してもよい。
【0134】
GPIbαのN−結合炭水化物鎖は、複合体タイプおよびジ−、トリ−およびテトラ−触覚構造(antennary structure)である(Tsuji et al, J. Biol. Chem. 258, 6335-6339, 1983)。それらは、Asn−結合のGlcNAc単位にα(1−6)−結合フコース残基を有するシアル酸化されたGalNAcタイプの構造である。Ser/Thr−結合を有するAsn−結合糖鎖の構造的類似性がある:すなわち、それらの位置は、共通のGal−GlcNAc配列である。結果は、シアル酸およびガラクトースの除去は、vWfのグリコカリシンへの結合に影響はないが、GlcNacの部分的な除去は、vWf結合の阻害をもたらしたことを示唆した(Korrel et al, FEBS Lett 15, 321-326, 1988)。より最近の研究は、炭水化物の傾向は、vWfの結合に直接関与せずに、受容体の適切な機能的コンホメーションを維持することに関与することを提案した(Moshfegh et al, Biochem. Biophys. Res. Communic. 249, 903-909, 1998)。
【0135】
冷却した血小板およびマクロファージ間の相互作用における糖の役割は、オリゴ糖残基の共有結合修飾、除去またはマスキングが、この相互作用を阻止することができたという重要な結果を有する。我々は、かかる阻止が、正常な血小板機能を低下させない場合、血小板を修飾することができ、低温血小板貯蔵を可能にするかもしれないという仮説を立てた。
【0136】
本明細書において、この仮説に有利に働く証拠を示す:1)糖類は、in vitroでマクロファージにより冷却した血小板の食作用を阻害し、効果的である特定の糖は、β−グルカンを関連標的として関与させた。低濃度のβ−GlcNAcは、驚くほど効果的な阻害物質であり、比較的少数のクラスター化した糖の妨害は、食作用を阻害するのに十分だろうという考えと一致した。冷却した血小板の食作用を最大限に阻害した濃度での糖の添加は、正常なGPIbα機能(vWf結合)に効果を有さない;2)β−GlcNAc−特異的レクチンは、冷却した血小板に貪欲に結合したが、他のレクチンは結合しなかった;3)血小板表面からのGPIbαまたはβ−GlcNAc残基の除去は、この結合を阻止した(β−GlcNAcの除去はマンノース残基を暴露したため、マンノース受容体を有するマクロファージにより食作用を阻止しなかった);4)ガラクトースの酵素的添加による冷却した血小板の暴露されたβ−グルカンの遮断は、in vitroでマクロファージにより冷却した血小板の食作用を顕著に阻害し、正常な動物内で冷却した血小板の循環時間を延長した。
【0137】
冷却した血小板の食作用への単糖類の効果
血小板の食作用への単糖類の効果を分析するために、食細胞(分化した単球性細胞系THP−1)を単糖類溶液中様々な濃度でインキュベートし、冷却したまたは室温の血小板を添加した。図中の値は、3〜5の実験の平均±SDであり、RTまたは冷却した血小板とインキュベートした摂取された血小板を含むorange陽性の単球のパーセンテージを比較している。100mMのD−グルコースは、冷却した血小板の食作用を65.5%阻害したのに対し(P<0.01)、100mMのD−ガラクトースは、冷却した血小板の食作用を有意に阻害しなかった(n=3)(図8A)。D−グルコースα−アノマー(α−グルコシド)は、100mMで90.2%阻害したが、冷却した血小板の食作用について阻害効果を有しなかった(図8B)。一方、β−グルコシドは、用量依存的に食作用を阻害した(図8B)。100mMのβ−グルコシドを用いた食細胞のインキュベーションは、食作用を80%(p<0.05)阻害し、および200mMで97%(P<0.05)阻害し、したがって、本明細書において、β−アノマーが好ましいと結論を出した。
【0138】
D−マンノースおよびそのα−アノマーおよびβ−アノマー(メチル−α−D−マンノピラノシド(図8C)およびメチル−β−D−マンノピラノシド(図8C))は、冷却したまたはRTの血小板の食作用について阻害効果を有しなかった。25〜200mMのGlcNAc(N−アセチル−D−グルコサミン)を用いた食細胞のインキュベーションは、冷却した血小板の食作用を有意に阻害した。10μMのGlcNAcのβ−アノマーは、冷却した血小板の食作用を80%阻害したのに対し(p<0.01)(図8D)、25mMのGlcNAcを用いたインキュベーションは、冷却した血小板の食作用を86%(P<0.05)阻害するのに十分であった(図8D)。単糖類のいずれも、RTの血小板の食作用について阻害効果を有しなかった。表2は、冷却した血小板の食作用について指示濃度での単糖類の阻害効果をまとめる(**P<0.01、P<0.05)。単糖類のいずれも、トロンビンまたはリストセチンが誘発したヒト血小板凝集を阻害しなかったか、またはP−セレクチン暴露により測定されたようにα−顆粒分泌を誘発しなかった。
【0139】
表2.冷却した血小板の食作用についての単糖類の阻害効果
【表7】

【0140】
様々なレクチンの室温の血小板または冷却した血小板への結合。
β−GlcNAcは、μM濃度で、in vitroで冷却したヒト血小板の食作用を強力に阻害し、これは、GlcNAcは、低温での血小板のインキュベーション後に暴露されることを示す。我々は、そして、末端糖(GlcNAc)に対して特異性を有するレクチンである小麦胚凝集素(WGA)は、室温の血小板よりも、より効果的に冷却した血小板に結合するかどうかを調査した。洗浄した、冷却したまたは室温の血小板を、30分間室温で2μg/mlのFITC結合WGAまたはFITC結合スクシニル−WGAを用いてインキュベートし、フローサイトメトリーにより分析した。図9Aおよび9Bは、室温(RT)または冷却した(Cold)ヒト血小板のFITC−WGAとのインキュベーション後のドットプロットを示す。WGAは、血小板凝集を引き起こし、そしてWGA25〜50μg/mlの濃度でセロトニンまたはADPの遊離を誘発する(Greenberg and Jamieson, Biochem. Biophys. Acta 345, 231-242, 1974)。2μg/mlのWGAとのインキュベーションは、RTの血小板の有意な凝集を誘発しなかったが(図9A、RT w/WGA)、2μg/mlのWGAを用いた冷却した血小板のインキュベーションは、大量の凝集を誘発した(図9B、Cold w/WGA)。
【0141】
図9Cは、冷却したまたは室温の血小板に結合するFITC−WGA蛍光の分析を示す。蛍光結合の増加は、凝集に関係しないことを確認するために、本明細書において、血小板凝集を誘発しない、レクチンの二量体の誘導体であるスクシニル−WGA(S−WGA)を使用した(Rendu and Lebret, Thromb Res 36, 447-456, 1984)。図9Dおよび9Eは、スクシニル−WGA(S−WGA)は、室温のまたは冷却した血小板の凝集を誘発しなかったことを示すが、室温の血小板に対して冷却した血小板へのWGA結合が同じ増加の結果となった(図9F)。血小板の冷却後のS−WGAの促進された結合は、冷却した血小板を37℃に加温することにより、戻すことができない。
【0142】
暴露されたβ−GlcNAc残基は、連鎖Galβ−1GlcNAcβ1−Rを触媒するβ1,4ガラクトシルトランスフェラーゼ酵素のための基質として機能を果たす。この予想を支持して、酵素的ガラクトシル化によるβ−GlcNAc残基のマスキングは、低温血小板へのS−WGA結合、THP−1細胞による冷却した血小板の食作用、およびマウスへの輸血後の冷却した血小板の急速なクリアランスを阻害した。ウシβ1,4ガラクトシルトランスフェラーゼおよびそのドナー基質UDP−Galにより達成した酵素ガラクトシル化は、室温の血小板と同等のレベルに、冷却したヒト血小板へのS−WGA結合を減少させた。反対に、ガラクトース特異的RCA Iレクチンの結合は、ガラクトシル化の後約2倍増加した。UDP−グルコースおよびUDPのみは、冷却したまたは室温のヒト血小板へのS−WGAまたはRCA I結合に効果がなかった。
【0143】
本明細書において、ヒトおよびマウス血小板の酵素ガラクトシル化は、外因性β1,4ガラクトシルトランスフェラーゼの添加なしで効率的であることを見出した。ドナー基質UDP−Galの添加のみは、S−WGA結合を減少させ、冷却した血小板へのRCA I結合を増加させ、in vitroでTHP1細胞による冷却した血小板の食作用を阻害し、マウス内で冷却した血小板の循環を延長させる。この予期せぬ発見についての説明は、血小板が内因性ガラクトシルトランスフェラーゼ活性をゆっくり放出すると報告されている。β1,4ガラクトシルトランスフェラーゼ、β4Gal T1の少なくとも一形態は、ヒト血漿中に、洗浄したヒト血小板におよび洗浄した血小板の上清中に存在する。ガラクトシルトランスフェラーゼは、血小板表面と特異的に関係してもよい。あるいは、活性は、血漿由来であってもよく、および血小板の開放小管系から漏出する。いずれにしても、冷却を介した血小板クリアランスに関与する血小板グリカンの修飾は、糖−ヌクレオチドドナー基質である、UDP−Galの単純な添加により、可能である。
【0144】
重要なことに、両方の冷却したおよび非冷却の血小板は、ガラクトシル化後のRCA I結合において同じ増加を示し、これはβ−GlcNAc残基が温度から独立して血小板表面において暴露されたことを意味する。しかしながら、冷却は、S−WGAによるおよびαβインテグリンによるβ−GlcNAc残基の認識のための必要条件である。我々は、血小板の冷却は、GPIbの不可逆的クラスタリングを誘発することを実証した。一般的に、レクチン結合は、低い親和性を有し、高密度の炭水化物リガンドとの多価の相互作用は、結合力を増加させる。おそらく、非冷却の血小板の表面の暴露されたβ−GlcNAcの局部密度は、認識には低すぎるが、GPIbαの低温誘発性クラスタリングは、S−WGAまたはαβインテグリンレクチンドメインに結合するのに必要な密度を提供する。S−WGAおよびRCA−I結合フローサイトメトリーにより、UDP−Galは、添加したガラクトシルトランスフェラーゼの存在下または非存在下でマウス血小板にガラクトースを輸送することを確認し、冷却しガラクトシル化したマウス血小板は循環し、初めは未処理の室温の血小板よりも有意に良好に生存することを立証した。
【0145】
最も早い回復は(<2分)、輸血したRT、冷却した血小板と、冷却しガラクトシル化した血小板との間で差異はなかったにもかかわらず、ガラクトシル化は、RT血小板で常に観察された約20%の初期の血小板損失をなくした。
【0146】
マウスおよびヒト血小板のガラクトシル化は、最大限に効果的な濃度から3桁小さい濃度までの範囲でのコラーゲン関連ペプチド(CRP)またはトロンビンに誘発された凝集およびP−セレクチン暴露により測定されたように、in vitroでのそれらの機能性を低下させなかった。重要なことに、GPIbおよび活性化vWfの間の相互作用の試験である、リストセチン濃度の範囲への未修飾のおよびガラクトシル化し冷却したヒト血小板の凝集反応は、区別できないか、またはわずかに良かった。GPIbαのN−結合グリカンのための結合点は、vWfのための結合ポケットの外側である。さらに、N−結合グリカン欠如する突然変異のGPIbα分子は、vWfにしっかりと結合する。
【0147】
β−ガラクトース(R. communisのレクチン/RCA)、2−3シアル酸(Maackia amurensisのレクチン/MAA)または2−6シアル酸(Sambucus nigraの樹皮のレクチン/SNA)に関して特異性を有するFITC標識レクチンを用いて、我々は、フローサイトメトリーによる血小板の冷却後の結合の増加は検出できず(図10)、血小板の冷却後の暴露は、GlcNAcに制限されることを示した。
【0148】
我々は、GPIbαN−グリカンのαβレクチンドメイン認識を仲介する暴露されたβ−GlcNAc残基をつきとめた。GPIbαの細胞外ドメインは、血小板炭水化物含有量の60%を、N−およびO−グリコシド結合炭水化物鎖の形状で含む。したがって、ペルオキシダーゼ標識WGAのGPIbαへの結合は、SDS−PAGEにより分離された全血小板タンパク質の表示において簡単に検出可能であり、GPIbαは、血小板にβ−GlcNAc残基の大部分を含むことを実証しており、WGAのGPIbαへの結合が、GPIbα免疫沈降物において観察可能である。GPIbαへのRCA I結合が増加するのに対し、添加したガラクトシルトランスフェラーゼを有するまたは有しないUDP−Galは、GPIbαへのS−WGA結合を減少させる。
【0149】
これらの発見は、ガラクトシル化は、特異的にGPIbαの暴露されたβ−GlcNAc残基に及ぶことを示す。In vitroでTHP−1細胞によりヒト血小板の食作用を阻害したヘビ毒プロテアーゼであるモカラギンを用いたGPIbαのN末端282残基のヒト血小板表面からの除去は、S−WGAの室温の血小板への結合レベルとほとんど同等に、冷却した血小板へのS−WGA結合を減少させる。WGAは主に、そのドメインに特異的なモノクローナル抗体SZ2により認識可能な45kDaのポリペプチドバンドとして、モカラギンにより血小板上清に遊離されたGPIbαのN末端に結合する。このドメインのグリカンは、N−結合である。GPIbαのごく一部が、モカラギン処置後、無傷のままであり、血小板の開放小管系がそれを隠すからであろう。ペルオキシダーゼ結合WGAは、モカラギン開裂後、モノクローナル抗体WM23で同定可能な残留する血小板関連GPIbαのC末端を弱く認識する。
【0150】
αβインテグリンへのおよびS−WGAへのヒト血小板の結合における低温誘発性増加は、急速に(数分以内に)生じる。S−WGAの冷却した血小板への増強された結合は、自己血漿における12日までの冷蔵貯蔵で安定したままであった。RCA I結合は、同じ条件下で、室温レベルと同等のままであった。ガラクトシル化は、RCA Iレクチンの血小板への結合を2倍にし、S−WGA結合をベースラインRTレベルへ減少させた。RCA Iの増加およびS−WGA結合の減少は、ガラクトシル化が自己血漿における12日までの貯蔵を進めたかまたは続けたかにかからわず同一であった。これらの発見は、レクチン結合を阻害するための血小板のガラクトシル化が、冷蔵の前または後に可能であり、グリカン修飾が、12日までの貯蔵中、安定していることを示す。室温で貯蔵した血小板は、凝集剤への反応性を急速に失う;この喪失は、冷蔵のものでは生じない。したがって、貯蔵の前または後に、ガラクトシル化したまたはしなかった、冷蔵血小板は、12日までの低温貯蔵で、トロンビンへの凝集反応性を保持した。
【0151】
室温貯蔵した血小板へのFITC−WGAレクチン結合と冷却貯蔵した血小板へのFITC−WGAレクチン結合との対比における、β−ヘキソサミニダーゼ(β−Hex)およびモカラギン(MOC)の効果
酵素β−ヘキソサミニダーゼは、オリゴ糖からの末端β−D−N−アセチルグルコサミン(GlcNAc)およびガラクトサミン(GalNAc)残基の加水分解を触媒する。GlcNAc残基の除去は、WGAの血小板表面への結合を減少させるかどうかを分析するために、冷却したおよび室温の洗浄したヒト血小板を、100U/mlのβ−Hexで30分間37℃で処置した。図11Aは、β−ヘキソサミニダーゼ処置の前および後にフローサイトメトリーにより得た室温のまたは冷却した血小板の表面へのFITC−WGA結合の概要を示す。冷却した血小板へのFITC−WGA結合は、GlcNAcの除去後、85%減少した(n=3)。
【0152】
また、我々は、予想通り、GPIbαの血小板表面からの除去は、血小板の冷却後、WGA−結合の減少を引き起こすかどうかを確認した。GPIbαを、前記のとおり、ヘビ毒モカラギン(MOC)を用いて、血小板表面から除去した(Ward et al, Biochemistry 28, 8326-8336, 1996)。図11Bは、血小板表面からのGPIbα除去は、冷却した血小板へのFITC−WGA結合を75%減少させ、GPIbαが激減した室温の血小板へのWGA結合にほとんど影響がなかったことを示す(n=3)。これらの結果は、WGAは、ヒト血小板の冷却後、大部分はGPIbαのオリゴ糖に結合することを示し、Mac−1レクチン部位もまた、食作用を引き起こすGPIbαのこれらの暴露された糖を認識すると推測したくなる。
【0153】
ガラクトース輸送によるヒト血小板GlcNAc残基のマスキングは、in vitroで冷却後、それらの食作用を大いに減少させ、マウス内でのそれらの生存を劇的に増加させる。
血小板へのガラクトース輸送を達成するため、単離したヒト血小板を、200μMのUDP−ガラクトースおよび15mU/mlのガラクトーストランスフェラーゼと共に30分間37℃でインキュベートし、次いで2時間冷却したかあるいは室温で維持した。ガラクトシル化は、FITC−WGA結合をほぼ休止室温レベルまで減少させた。血小板を単球に摂取させ、血小板の食作用を上記のように分析した。図12は、血小板オリゴ糖へのガラクトース輸送は、冷却した血小板(Cold)の食作用を大いに減少させるが、室温(RT)の血小板の食作用に影響を及ぼさないことを示す(n=3)。これらの結果は、in vitroにおいて、冷却した血小板の食作用は、暴露したGlcNAc残基の被覆により減少させることができることを示す。
【0154】
我々は、このアプローチを、動物にまで広げることができるかどうか、そして冷却した血小板の循環時間を増加させるために用いることができるかどうかを試験した。マウス血小板を単離し、CMFDAで染色した。ヒト血小板について上述したガラクトース輸送の同じアプローチを用いて、野生型のマウス血小板をガラクトシル化し、2時間冷却したか、あるいはしなかった。10個の血小板を野生型のマウスに輸血し、それらの生存を決定した。図13は、未処理の血小板と比較した、これらの冷却しガラクトシル化したマウス血小板の生存率を示す。冷却した未処理の血小板(Cold)は、予想通り急速に一掃されたのに対し、室温で保持した血小板(RT)およびガラクトシル化し冷却した血小板(Cold+GalT)の両方は、ほぼ同一の生存時間を有した。我々は、ガラクトシル化し冷却した血小板は、ヒト内で循環するだろうと信じている。
【0155】
ガラクトーストランスフェラーゼを熱不活性化した対照の反応もまた、WGA結合(図14A)、ヒト血小板におけるin vitro食作用の結果(図14B)、およびマウス血小板の生存(図14C)により判断されたように、活性なガラクトーストランスフェラーゼによる実験的反応において生じたように、血小板のグリカン修飾をもたらしたことに注目した。したがって、我々は血小板がそれらの表面において、いかなる外因性ガラクトーストランスフェラーゼを添加することなく、UDP−ガラクトースのみを用いてグリカン修飾を進めることができるガラクトーストランスフェラーゼ活性を含むと結論づける。したがって、血小板のグリカン修飾は、単純にUDP−ガラクトースのインキュベーションにより、達成することができる。
【0156】
UDP−ガラクトースを時間依存的にヒト血小板に取り込む。
別の一連の実験において、14C標識UDP−ガラクトースを、酵素ガラクトシルトランスフェラーゼの存在下または非存在下において、時間依存的にヒト血小板に取り込むことを示した。図15は、14C標識UDP−ガラクトースの洗浄したヒト血小板への取り込みの経時変化を示す。ヒト血小板を、異なる時間間隔でガラクトシルトランスフェラーゼの非存在下で14C標識UDP−ガラクトースを用いてインキュベートした。そして血小板を洗浄し、血小板に関連する14C放射活性を測定した。
【0157】
例3
血小板β−グリカンの酵素修飾は、in vitroのマクロファージによる冷やした血小板の食作用を阻害し、in vivoの正常な循環を適応させる。
我々の予備実験は、冷却したヒト血小板表面へのガラクトース輸送(グリカン修飾)を用いたGPIbαにおけるGlcNAc残基の酵素的被覆が、それらのin vitro食作用を大いに減少させたことを実証した。これらの発見の解釈は、GPIbα構造は、冷却したヒトおよびマウス血小板の表面上で変化したということである。これは、αβのレクチン結合ドメインにより認識されるGlcNAcの暴露またはクラスタリングの原因となり、血小板除去を引き起こす。β−GlcNAcの暴露は、WGA結合によりおよびおそらく組み換え型αβレクチンドメインペプチドの結合により測定することができる。休止しているヒト血小板は、冷却後大いに増加するWGAを結合する。我々は、ガラクトース輸送(グリカン修飾)は、αβ−レクチンとのGPIbαの相互作用を阻止するがvWfとの相互作用を阻止しないことを提案する。この修飾(血小板表面へのガラクトース輸送)は、予備実験により示したように、WTマウスにおける冷却した血小板の正常な生存へと導く。
【0158】
例4
この例は、αβレクチン部位はWGAを模倣し、糖修飾は組み換え型レクチン部位の冷却した血小板との関与を阻止することを示す。Dr. T. Springer(Corbi, et al., J. Biol Chem. 263, 12403-12411, 1988)は、ヒトαM cDNAおよびいくつかの抗αM抗体を提供した。報告されているレクチン作用を示す最小のr−huαMコンストラクトは、そのC−Tおよびその二価陽イオン結合領域(残基400〜1098)の一部を含む(Xia et al, J Immunol 162, 7285-7293, 1999)。本コンストラクトは、精製を簡単にするため、6xHisタグ付である。
【0159】
我々は、組み換え型レクチンドメインを、食作用アッセイにおける冷却した血小板の摂取の競合的阻害物質として使用することができるかを、第一に決定した。競合は、αMレクチン部位が、血小板表面への結合に関与しており、食作用を開始させることを証明した。対照として、αMのレクチン結合領域が欠如しているコンストラクトを使用し、組み換え型タンパク質を変性した。レクチン結合ドメインは、冷却した血小板の摂取の特異的阻害物質として機能する。GFPを含んで発現するαMコンストラクトを作り、αM−レクチン結合部位をFITCで標識し、それをフローサイトメトリーにより冷却した血小板の表面を標識するために使用した。血小板をCMFDAで標識した。冷却した血小板は、室温の血小板と比較して、αβインテグリンのαMレクチン側により効率的に結合することを見出した。レクチン側および全αMコンストラクト(Mac−1)は、Sf9昆虫細胞において発現された。
【0160】
血小板糖鎖を、r−huαM−レクチン部位との血小板−オリゴ糖相互作用を阻害するために修飾する。糖修飾の効率もまた、フローサイトメトリーにより血小板に結合する蛍光−レクチンドメインの結合の阻害により、観察する。
【0161】
室温の、冷却したおよび冷却し修飾した血小板の回復および循環時間を、冷却したマウス血小板へのガラクトース輸送が血小板のより長い循環をもたらすことを確立するために比較する。室温の、冷却したおよび冷却し修飾した血小板をCMFDAで染色し、上記のとおり10個の血小板を野生型のマウスに輸血した。マウスを輸血後すぐに(<2分)、30分、1時間、2、24、48および72時間後に出血させる。得た血液を、フローサイトメトリーを用いて分析する。注射直後に測定した、ゲートした血小板集団内の蛍光標識血小板の比率を、100%と設定する。様々な時点で得た蛍光標識血小板の回復を、適宜計算する。
【0162】
例5
この例は、冷却した未修飾血小板および冷却しガラクトシル化した(修飾)血小板は、in vitroおよびin vivoにおいて止血機能を有することを実証する。冷却した血小板は、アゴニスト刺激血小板という意味で「活性化」されない。低体温条件下で手術を受ける患者は、血小板減少症を発現するか、または深刻な止血の術後障害を示すかもしれない。これらの低温条件下で、血小板は、自身の機能性を失うかもしれないと信じられている。しかしながら、患者が低温手術を受けるとき、全生物は、低体温症へ暴露され、したがって多くの組織における変化を引き起こす。非冷却の血小板の肝類洞内皮細胞への付着は、低温保存障害の主要な機構である(Takeda, et al. Transplantation 27, 820-828, 1999)。したがって、手術のまたは低温保存した器官の移植の低温条件下での有害な結果へと至らしめるのは、低温肝内皮および血小板の相互作用であって、血小板の冷却自体ではないようである(Upadhya et al, Transplantation 73, 1764-1770, 2002)。2つのアプローチが、冷却した血小板が止血機能を有することを示した。1つのアプローチにおいて、αβ欠損マウスにおける冷却した血小板の循環は、冷やした後の血小板機能の研究を簡易化する。他のアプローチにおいて、修飾し冷却したおよび(おそらく)循環している血小板の機能を試験した。
【0163】
ヒトおよびマウスの未修飾のおよび修飾し(ガラクトシル化し)冷却した血小板を、アゴニストに対するin vitro凝集、P−セレクチン暴露およびフィブリノゲン結合を含む、機能性について試験した。
【0164】
αβ欠損またはWTマウスに、マウスの冷却した/RTの、修飾したまたはされていない血小板を輸血し、30分間、2および24時間循環させた。我々は、冷却した血小板は、尾静脈出血が原因の凝固反応に寄与するか、およびこれらの血小板は、活性化後、フィブリノゲンなどの剤を結合させるかを決定する。また、冷却した、修飾したまたはされていない血小板は、我々が開発したin vivo血栓形成モデルである、塩化第二鉄で損傷したおよび体外に出た(exteriorized)マウスの腸間膜において、どのように凝固に寄与するかを決定する。本方法は、損傷した血管に付着した血小板の数を検出し、糖タンパク質Vまたはβ3−インテグリン機能を欠如する血小板の低下した血小板血管壁の相互作用を立証した(Ni et al., Blood 98, 368-373 2001; Andre, et al. Nat Med 8, 247-252, 2002)。最後に、修飾血小板の貯蔵パラメータを決定する。
【0165】
In vitro血小板機能を、トロンビンおよびADPによる凝集、ならびにボトロセチンが誘発するマウス血小板へのvWf結合を用いて比較しする。マウスおよびヒトの冷却した血小板修飾(ガラクトシル化した)または未修飾血小板を、0.3×10個/mmの血小板濃度に標準化し、凝集を、標準の手順に従って、様々なアゴニストを用いて誘発した(Bergmeier, et al. 2001 276, 25121-25126, 2001)。vWf結合を研究するために、ボトロセチンを用いてマウスvWfを活性化し、PRPにおいて冷却し修飾したまたはされていない血小板への蛍光標識vWfの結合を分析する(Bergmeier, et al. 2001 276, 25121-25126, 2001)。血小板の脱顆粒が、修飾中に生じるかどうかを評価するために、フローサイトメトリーにより蛍光標識抗P−セレクチン抗体を用いて冷却したマウスおよびヒトの、修飾したまたはされていない血小板のP−セレクチン暴露もまた測定する(Michelson et al., Proc. Natl. Acad. Sci., USA 93,11877-11882, 1996)。
【0166】
10個のCMFDA標識血小板をマウスに輸血し、最初にこれらの血小板が、in vitroで機能的であることを確認する。冷却した血小板は、冷却したまたは室温のCMFDA標識血小板をαβ欠損マウスに輸血することにより凝集に寄与するかどうかを決定する。血小板の注入後30分、2時間および24時間目に、標準の尾静脈出血試験を行なう(Denis, et al. Proc Natl Acad Sci USA 95, 9524-9529, 1998)。生じる血液を1%のホルムアルデヒドですぐに固定し、血小板凝集を全血フローサイトメトリーにより決定する。血小板凝集体は、ドットプロット分析においてより大きなサイズの粒子として現れる。輸血した血小板が正常な循環において凝集しないことを確認するために、マウスを眼窩後方の眼の叢を通して抗凝血剤内へも出血させる。血小板は、これらの出血条件下では凝集体を形成しない。生じる血液をすぐに固定し、上記のように血小板を全血においてフローサイトメトリーにより分析する。
【0167】
血小板を、フィコエリスリン接合αIIbβ特異的モノクローナル抗体の結合を通して確認する。血液サンプル中の注入した血小板を、それらのCMFDA蛍光により確認する。非注入の血小板を、それらのCMFDA蛍光の欠如により確認する(Michelson, et al, Proc. Natl. Acad. Sci., U.S.A. 93,11877-11882, 1996)。同じ一連の試験を、CMFDA修飾し(ガラクトシル化し)冷却した血小板を用いて、これらの血小板をαβおよびWTへ輸血することにより行う。本実験は、流血において冷却し修飾したまたはされていない血小板の凝集を試験する。
【0168】
10個のCM-Orange標識した未修飾の冷却したまたは室温の血小板を、αβ欠損マウスに輸血し、これらの血小板が、in vitroで機能的であることを確認する。CM-orange標識血小板の注入後30分、2時間および24時間目に、既述のようにPRPを単離し、フローサイトメトリーにより分析する。P−セレクチン暴露を、抗FITC結合抗P−セレクチン抗体を用いて測定する(Berger, et al, Blood 92, 4446-4452, 1998)。非注入の血小板を、それらのCM-orange蛍光の欠如により確認する。血液サンプルにおける注入した血小板を、それらのCM-orange蛍光により確認する。CM-orangeおよびP−セレクチン陽性血小板は、二重に陽性の蛍光(CM-Orange/FITC)染色した血小板として現れる。
【0169】
冷却した血小板はまだ、トロンビンの活性化後P−セレクチンを暴露することを確認するために、PRPをトロンビンの添加(1U/ml、2分間37℃で)を通して活性化し、P−セレクチン暴露を既述のように測定する。フィブリノゲンのαIIbβへの結合を分析するために、単離した血小板をトロンビンの添加(1U/ml、2分間37℃で)を通して活性化し、Oregon-green結合フィブリノゲン(20μg/ml)を20分間37℃で添加する(Heilmann, et al, Cytometry 17, 287-293, 1994)。サンプルを、フローサイトメトリーによりすぐに分析する。PRPサンプルにおける注入した血小板を、それらのCM-orange蛍光により確認する。CM-orangeおよびOregon-green陽性血小板は、二重に陽性の蛍光染色した(CM-orange/Oregon green)血小板として現れる。同じ一連の実験を、αβ欠損およびWTマウスに輸血したCM-orange標識した修飾し(ガラクトシル化し)冷却した血小板を用いて行なう。
【0170】
例6
In Vivo血栓症モデル
最初に、二重蛍光標識血小板を用いて、αβ欠損マウスの損傷した内皮へのRTおよび未修飾の冷却した血小板の到達を示す。休止している血管を4分間観察し、その後塩化第二鉄(30μlの250mM溶液)(Sigma, St Louis, MO)を灌流により細動脈の上部に適用し、ビデオ記録をさらに10分間再開する。中心線(centerline)赤血球速度(Vrbc)を、撮影前および塩化第二鉄損傷の10分後に測定する。剪断率を、ニュートン流体についてのポアゾイユの法則(Poiseuille's law)に基づいて計算する(Denis, et al, Proc Natl Acad Sci USA 95, 9524-9529, 1998)。これらの実験は、冷却した血小板が、正常な止血機能を有しているかを示す。RTおよびガラクトシル化し冷却した血小板に対し、2つの異なる蛍光標識血小板の集団を用いて、同じマウスに注入し、WTマウスにおいてこれらの実験を繰り返し、両方の血小板の集団の血栓形成および取り込みを分析する。
【0171】
そして、上記のように冷蔵で1、5、7および14日間貯蔵し冷却したおよび修飾し冷却したマウス血小板の、in vitroの血小板機能および生存ならびにin vivoの止血作用を比較する。これらの貯蔵し冷却したおよび修飾し冷却した血小板の回復および循環時間を比較し、1)冷却したマウス血小板へのガラクトース輸送を通した修飾は、長期間冷蔵後安定している;および2)これらの血小板が正常に機能する、ことを証明する。生存実験を、上記のように行なう。WGA結合を使用して、GlcNAc残基が、より長い貯蔵時点の後、ガラクトースにより被覆されたままであることを確認する。
【0172】
これらの修飾し貯蔵した血小板が機能的に無傷で止血に寄与することの究極的な試験として、これらを全身照射されたマウスに輸血する(Hoyer, et al, Oncology 49, 166-172, 1992)。十分な数の血小板を得るために、マウスに市販のマウストロンボポエチンを7日間注射し、それらの血小板数を増加させる(Lok, et al. Nature 369, 565-558, 1994)。単離された血小板を、最適化したガラクトース輸送手順を用いて修飾し、冷蔵貯蔵し、輸血し、および尾静脈出血時間を測定した。未修飾の冷却した血小板は、循環内で生き残らないため、修飾し冷やした血小板と室温の貯蔵した血小板との比較は、この時点では必要ない。マウス血小板を、標準の試験管内で冷蔵貯蔵する。室温貯蔵したマウス血小板との比較が必要な場合、霊長類の血小板に切り替える。マウス血小板に適応させるための、技術的に特別な、小型化された、ガス透過性貯蔵容器よりも、かかる比較は、室温の貯蔵バッグが専用に設計された霊長類(ヒトを含む)の方がより適切である。
【0173】
例7
血小板製剤中の血小板のガラクトシル化
4種類の異なる血小板製剤を、UDPガラクトースの濃度を増加して処置した:400μM、600μM、および800μM。RCA結合比率の測定値は、4つの試験したサンプルにおいて、ガラクトシル化の用量依存的増加を示す(図16)。本結果は、ガラクトシル化は、血小板製剤において可能であるという証拠を提供する。
【0174】
前述は、単に特定の好ましい態様の詳細な説明であると理解されるべきである。したがって、当業者には、様々な改良および同等物が、本発明の精神と範囲から逸脱することなく可能であることが明らかである。添付の請求項の範囲内のすべてのかかる改良を包含することを意図する。
【0175】
本出願中列挙したすべての参考文献、特許および特許公開公報は、全体的に参考のために本明細書中に組み込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0176】
【図1A】室温の血小板、ならびにEGTA−AMおよびサイトカラシンBの存在下または非存在下で、冷却し再加温した血小板のマウスにおける循環時間を示す図である。
【図1B】In vitroで正常に凝集する冷却した血小板を示す図である。
【図1C】低温誘発クリアランスが主にマウスの肝臓内で生じることを示す図である。
【図1D】冷却した血小板は、肝類洞マクロファージ(クッパー細胞)と共局在することを示す図である。
【図2】冷却した血小板は、CR3欠損マウス内で正常に循環するが、補体3(C3)またはvWf欠損マウス内で循環しないことを示す図である。
【0177】
【図3A】冷却し再加温したTRITC標識血小板(左のパネル)が、室温のCMFDA標識血小板(右のパネル)よりも、3〜4倍の高い頻度で肝類洞に付着することを示す図である。
【図3B】冷却し再加温した血小板(Cold、中抜きの棒)および室温の血小板(RT、中塗りの棒)は、野生型のマウスと類似した分布で高マクロファージ密度(中間帯)の類洞部位に付着することを示す図である。
【図3C】冷却し再加温した血小板は、野生型の肝臓内のマクロファージに、室温の血小板よりも3〜4倍多く付着する(中抜きの棒)ことを示す図である。
【0178】
【図4A】室温で保持した(左のパネル)、または冷却し再加温した(右のパネル)、同系の野生型のマウスに注入した、GPIbα細胞外ドメインを酵素的に除去したCMFDA標識血小板(左のパネル、挿入図、中塗りの範囲)または対照の血小板の生存率を示す図である。
【図4B】FITC標識抗vWf抗体を用いて検出したvWf結合を示す図である。
【図4C】vWf受容体は、冷却したマウス血小板の表面上で線形配列(RT)から凝集体(Chilled)へ再分布することを示す図である。
【0179】
【図5A】室温(RT)の血小板と共にインキュベートしたTHP−1細胞の典型的なアッセイ結果を示す図である。
【図5B】冷却し再加温した(Cold)血小板と共にインキュベートしたTHP−1細胞の典型的なアッセイ結果を示す図である。
【図5C】未分化(中抜きの棒)THP−1細胞はCR3を約50%少なく発現させ、冷却し再加温した血小板の半分程度を摂取することを示す図である。
【0180】
【図6A】末梢血を全血フローサイトメトリーで分析した、野生型のマウスに輸血した、室温の(RT)血小板の正常なin vivo機能を示す図である。
【図6B】流血を全血フローサイトメトリーで分析した、野生型のマウスに輸血した、室温の(RT)血小板の正常なin vivo機能を示す図である。
【図6C】末梢血を全血フローサイトメトリーで分析した、CR−3欠損マウスに輸血した、冷却した(Cold)血小板の正常なin vivo機能を示す図である。
【図6D】流血を全血フローサイトメトリーで分析した、CR−3欠損マウスに輸血した、冷却した(Cold)血小板の正常なin vivo機能を示す図である。
【図6E】野生型のマウスに輸血した、CM-Orangeの、室温の(RT)血小板およびCR3欠損マウスに輸血した、CM-Orangeの、冷却し再加温した(Cold)血小板のex vivo機能を示す図である。
【図7】2種類の血小板クリアランス経路を描写する図である。
【図8A】冷却した血小板の食作用への単糖類(グルコースおよびガラクトース)の効果を示す図である。
【図8B】冷却した血小板の食作用への単糖類(α−グルコシドおよびβ−グルコシド)の効果を示す図である。
【図8C】冷却した血小板の食作用への単糖類(α−マンノシドおよびβ−マンノシド)の効果を示す図である。
【図8D】冷却した血小板の食作用への単糖類(GlcNAcおよびβ−GlcNAc)の効果を示す図である。
【図9A】室温(RT)ヒト血小板のFITC−WGAとのインキュベーション後のドットプロットを示す図である。
【図9B】冷却した(Cold)ヒト血小板のFITC−WGAとのインキュベーション後のドットプロットを示す図である。
【図9C】冷却したまたは室温の血小板に結合するFITC−WGA蛍光の分析を示す図である。
【図9D】室温(RT)ヒト血小板のスクシニル−WGAとのインキュベーション後のドットプロットを示す図である。
【図9E】冷却した(Cold)ヒト血小板のスクシニル−WGAとのインキュベーション後のドットプロットを示す図である。
【図9F】冷却したまたは室温の血小板に結合するスクシニル−WGA蛍光の分析を示す図である。
【0181】
【図10】室温のまたは冷却した血小板へ結合した様々なFITC標識レクチンの分析を示す図である。
【図11A】β−ヘキソサミニダーゼ処置の前および後にフローサイトメトリーにより得られた室温のまたは冷却した血小板の表面へのFITC−WGAの結合の概要を示す図である。
【図11B】血小板表面からのGPIbαの除去が冷却した血小板に結合したFITC−WGAを減少させたことを示す図である。
【図12】血小板オリゴ糖へのガラクトース輸送が、冷却した血小板(Cold)の食作用を減少させるが、室温の血小板(RT)の食作用には影響しないことを示す図である。
【図13】未処理の血小板に対する、冷却しガラクトシル化したマウス血小板の生存率を示す図である。
【0182】
【図14A】自身の表面にガラクトーストランスフェラーゼを含有する血小板は、WGA結合により判断されたように、トランスフェラーゼの添加なしでガラクトースを輸送することを示す図である。
【図14B】ヒト血小板についてのin vitro食作用の結果を示す図である。
【図14C】マウス血小板の生存率におけるガラクトーストランスフェラーゼ(GalT)ありまたはなしでのUDP−ガラクトースを示す図である。
【図15】ヒト血小板への14C標識UDP−ガラクトースの取り込みの経時変化を示す図である。
【図16】UDP−ガラクトースの異なる濃度での4種類の血小板濃度サンプル中の血小板のガラクトシル化を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血小板の集団の循環時間を増加させる方法であって、単離された血小板の集団を、前記血小板の集団のクリアランスを減少させるのに効果的な量の少なくとも1種のグリカン修飾剤と接触させることを含む、前記方法。
【請求項2】
少なくとも1種のグリカン修飾剤は、UDP−ガラクトースおよびUDP−ガラクトース前駆体からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
グリカン修飾剤は、UDP−ガラクトースである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
UDP−ガラクトース前駆体をUDP−ガラクトースに変換する酵素をさらに含む、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
グリカン部分の修飾を触媒する酵素を添加することをさらに含む、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
グリカン修飾剤はUDP−ガラクトースであり、酵素はガラクトシルトランスフェラーゼである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
血小板を少なくとも1種のグリカン修飾剤と接触させる前、接触させるのと同時にまたは接触させた後に、血小板の集団を冷却することをさらに含む、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
血小板の集団は、実質的に正常な止血作用を保持する、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
血小板の集団を少なくとも1種のグリカン修飾剤と接触させるステップは、血小板用バッグ内で行われる、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
循環時間は少なくとも約10%増加する、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
血小板の貯蔵時間を増加させる方法であって、
単離された血小板の集団を、前記血小板の集団のクリアランスを減少させるのに効果的な量の少なくとも1種のグリカン修飾剤の量と接触させること、
および前記血小板の集団を貯蔵すること
を含む前記方法。
【請求項12】
少なくとも1種のグリカン修飾剤は、UDP−ガラクトースおよびUDP−ガラクトース前駆体からなる群から選択される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
グリカン修飾剤は、UDP−ガラクトースである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
UDP−ガラクトース前駆体をUDP−ガラクトースに変換する酵素をさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
血小板表面上のグリカンへのグリカン修飾剤の添加を触媒する酵素を添加することをさらに含む、請求項11〜14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
グリカン修飾剤はUDP−ガラクトースであり、酵素はガラクトシルトランスフェラーゼである、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
血小板を少なくとも1種のグリカン修飾剤と接触させる前、接触させるのと同時にまたは接触させた後に、血小板の集団を冷却することをさらに含む、請求項11〜14のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
血小板の集団は、実質的に正常な止血作用を保持する、請求項11〜14のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
血小板の集団を少なくとも1種のグリカン修飾剤と接触させるステップは、血小板用バッグまたは容器内で行われる、請求項11〜14のいずれかに記載の方法。
【請求項20】
血小板を少なくとも約3日間冷却貯蔵する、請求項17に記載の方法。
【請求項21】
血小板を少なくとも約5日間冷却貯蔵する、請求項17に記載の方法。
【請求項22】
血小板を少なくとも約7日間冷却貯蔵する、請求項17に記載の方法。
【請求項23】
血小板を少なくとも約10日間冷却貯蔵する、請求項17に記載の方法。
【請求項24】
血小板を少なくとも約14日間冷却貯蔵する、請求項17に記載の方法。
【請求項25】
血小板を少なくとも約21日間冷却貯蔵する、請求項17に記載の方法。
【請求項26】
血小板を少なくとも約28日間冷却貯蔵する、請求項17に記載の方法。
【請求項27】
血小板表面上に複数の修飾グリカン分子を含む、修飾血小板。
【請求項28】
修飾グリカン分子は、GPIbα分子の部分である、請求項27に記載の修飾血小板。
【請求項29】
修飾グリカン分子は、少なくとも1種の添加した糖分子を含む、請求項27に記載の修飾血小板。
【請求項30】
添加した糖は、天然の糖である、請求項29に記載の修飾血小板。
【請求項31】
添加した糖は、非天然の糖である、請求項29に記載の修飾血小板。
【請求項32】
添加した糖は、UDP−ガラクトースおよびUDP−ガラクトース前駆体からなる群から選択される、請求項29に記載の修飾血小板。
【請求項33】
UDP−ガラクトース前駆体をUDP−ガラクトースに変換する酵素をさらに含む、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
添加した糖は、UDP−ガラクトースである、請求項32に記載の修飾血小板。
【請求項35】
請求項27〜34のいずれかに記載の複数の修飾血小板を含む、血小板組成物。
【請求項36】
貯蔵培地をさらに含む、請求項35に記載の血小板組成物。
【請求項37】
薬学的に許容しうる担体をさらに含む、請求項35に記載の血小板組成物。
【請求項38】
哺乳動物への投与のための医薬組成物を作るための方法であって、
(a)薬学的に許容しうる担体中に含有された血小板の集団を少なくとも1種のグリカン修飾剤と接触させ、処置した血小板製剤を形成するステップ、
(b)処置した血小板製剤を貯蔵するステップ、および
(c)処置した血小板製剤を加温するステップ
を含む、前記方法。
【請求項39】
処置した血小板製剤を加温するステップは、血小板を37℃に加温することにより行なわれる、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
血小板の集団を接触させるステップは、グリカン部分の修飾を触媒する酵素の存在下で、血小板を少なくとも1種のグリカン修飾剤と接触させることを含む、請求項38に記載の方法。
【請求項41】
血小板製剤中の酵素を除去または不活性化することをさらに含む、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
酵素を除去または不活性化するステップは、血小板製剤を洗浄することにより行なわれる、請求項38に記載の方法。
【請求項43】
少なくとも1種のグリカン修飾剤は、UDP−ガラクトースおよびUDP−ガラクトース前駆体からなる群から選択される、請求項38に記載の方法。
【請求項44】
UDP−ガラクトース前駆体をUDP−ガラクトースに変換する酵素をさらに含む、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
少なくとも1種のグリカン修飾剤は、UDP−ガラクトースである、請求項43に記載の方法。
【請求項46】
グリカン修飾剤のグリカン部分への添加を触媒する酵素を添加することをさらに含む、請求項38に記載の方法。
【請求項47】
グリカン修飾剤はUDP−ガラクトースであり、酵素はガラクトシルトランスフェラーゼである、請求項46に記載の方法。
【請求項48】
血小板の集団は、維持された止血作用を有する、請求項38〜47のいずれかに記載の方法。
【請求項49】
血小板の集団を少なくとも1種のグリカン修飾剤と接触させるステップは、血小板用バッグまたは容器内で行われる、請求項38〜47のいずれかに記載の方法。
【請求項50】
血小板製剤を約15℃未満の温度で貯蔵する、請求項38に記載の方法。
【請求項51】
血小板製剤を室温で貯蔵する、請求項38に記載の方法。
【請求項52】
哺乳動物へ、請求項27〜34のいずれかに記載の複数の血小板、または請求項35〜37のいずれかに記載の血小板組成物を投与することを含む、哺乳動物において止血を調節する方法。
【請求項53】
貯蔵組成物に添加した血小板のグリカンを修飾するのに十分な量の少なくとも1種のグリカン修飾剤を含む、血小板を保存するための貯蔵組成物。
【請求項54】
グリカン部分の修飾を触媒する酵素をさらに含む、請求項53に記載の組成物。
【請求項55】
組成物を約15℃未満の温度で貯蔵する、請求項53に記載の組成物。
【請求項56】
組成物を室温で貯蔵する、請求項53に記載の組成物。
【請求項57】
請求項53または54に記載の貯蔵組成物を含む、血小板を収集するための容器。
【請求項58】
複数の血小板をさらに含む、請求項52に記載の容器。
【請求項59】
少なくとも1種のグリカン修飾剤は、自然発生の血小板に存在しない濃度で存在する、請求項58に記載の容器。
【請求項60】
血小板を収集および加工するための装置であって、
血小板を収集するための容器;
前記容器との液体伝達における少なくとも1つのサテライト容器;および
サテライト容器中の少なくとも1種のグリカン修飾剤
を含む、前記装置。
【請求項61】
サテライト容器中の少なくとも1種のグリカン修飾剤は、容器中の血小板を保存するのに十分な量で存在する、請求項60に記載の装置。
【請求項62】
サテライト容器は、破壊可能なシールにより容器に連結されている、請求項61に記載の装置。
【請求項63】
バッグはさらに複数の血小板を含有する血漿を含む、請求項60に記載の装置。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図1D】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図6D】
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【図6E】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【図8C】
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【図8D】
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【図9A】
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【図9B】
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【図9C】
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【図9D】
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【図9E】
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【図9F】
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【図10】
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【図11A】
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【図11B】
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【図12】
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【図13】
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【図14A】
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【図14B】
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【図14C】
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【図15】
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【図16】
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【公表番号】特表2006−515279(P2006−515279A)
【公表日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−551919(P2004−551919)
【出願日】平成15年11月7日(2003.11.7)
【国際出願番号】PCT/US2003/035629
【国際公開番号】WO2004/043381
【国際公開日】平成16年5月27日(2004.5.27)
【出願人】(502143504)ザ ブライアム アンド ウィミンズ ホスピタル インコーポレーテッド (2)
【出願人】(500004999)ザイムクエスト,インク. (1)
【Fターム(参考)】