説明

血小板の生存延長のための組成物および方法

本発明は、血小板クリアランスの低減を有する修飾された血小板および血小板クリアランスを低減するための方法を提供する。さらに、血小板の保存のための組成物も提供する。発明はまた、修飾された血小板を含む薬学的組成物を作るための方法、および止血を媒介するために哺乳動物へ薬学的組成物を投与するための方法も提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
発明は、輸注された血小板の哺乳動物における循環からのクリアランスを低減し、かつ輸注された血小板の生物活性および生存を延長するための組成物および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
血小板は、血管損傷部位に付着し、血漿フィブリン塊の形成を促進することにより傷つけられた哺乳動物を失血から保護する無核の骨髄由来血液細胞である。骨髄不全により循環血小板が枯渇したヒトは、生命を脅かす突発性出血を患い、そして血小板の比較的軽度の欠損は、外傷または手術の後で出血性合併症の一因となる。
【0003】
1 μL当たり〜70,000個を下回る循環血小板数の減少は、伝えるところによれば、標準化された皮膚出血時間試験の延長をもたらし、そして出血時間が血小板数が0まで減少するにつれ推定で無限数近くにまで延長する。1 μL当たり20,000より少ない血小板数を有する患者は、特に血小板減少が骨髄不全に起因する場合および病気に冒された患者が敗血症または他の傷害で損なわれた場合、粘膜面からの突発性出血を極めて起こしやすいと考えられる。再生不良性貧血、急性および慢性白血病、転移性癌等の骨髄傷害に関連するが、特に電離放射線および化学療法を伴う癌治療に起因する血小板欠損症は、主要な公衆衛生問題を象徴する。大手術、損傷および敗血症に関連する血小板減少症もまた、著しい数の血小板輸血の投与に終わる。
【0004】
半世紀前の医療技術の主な進歩は、このような血小板欠損を正す血小板輸注の開発であり、そして1999年に米国単独で9百万の血小板輸注が行われた(Jacobs et al., 2001)。しかしながら、血小板は、たとえ非常に短い冷却期間に供されたとしても被移植者の循環から急速に消失し、血小板生存を短くする冷却効果は不可逆性であるために、血小板は、他の移植可能な組織全てと異なり、冷蔵を許容しない(Becker et al., 1973; Berger et al., 1998)。
【0005】
結果として生じる、輸注前に室温でこれらの細胞を保持することの必要性は、血小板貯蔵のための高価かつ複雑な運搬上の必要条件の独自のセットを負わせる。血小板は室温で活発に代謝するため、それらは代謝性アシドーシスの有毒な結果を妨げる発生CO2の放出を考慮して多孔性の容器中での一定の攪拌を必要とする。室温貯蔵条件は、「貯蔵傷害」として公知である(Chemoff and Snyder, 1992)一連の欠点、高分子の分解および血小板の止血機能の低下をもたらす。しかし、その短期間(5日)の制限をもたらす、室温貯蔵に関連する主要な問題は、細菌性感染の高い危険性である。血液成分の細菌の混入は現在、血液成分使用の最も頻度の高い感染性合併症であり、ウイルス作用剤のそれをはるかに超える(Engelfriet et al., 2000)。米国において、細菌が混入した血液成分のために、毎年3000-4500例の細菌性敗血症が生じる(Yomtovian et al., 1993)。
【0006】
血小板の独自の不可逆性低温不耐性の基礎をなす機構は、その生理学的な重要性と同様に、謎となっている。循環血小板は、血管損傷に反応すると複雑な形状に変わる滑面の円板である。40年以上前に、研究者らは、円板状の血小板はまた、冷蔵温度でも形状を変化させると指摘した(Zucker and Borrelli, 1954)。円板状の形状が室温で貯蔵される血小板の生存能力の最も良い予測因子であるというその後の証明は(Schlichter and Harker, 1976)、低温で誘導される形状変化自体が冷却した血小板の急速なクリアランスの原因であるという結論を導いた。察するに、冷えることにより変形した不揃いな形状の血小板は、微小循環中に捕捉されていた。
【0007】
シグナル伝達をリガンドにより誘導される血小板形状変化をもたらす機構に結びつける研究に基づき、Hartwig et al., 1995は、冷蔵することが、カルシウム放出を抑制することにより、アクチンフィラメントを切断しかつアクチンフィラメントの反矢じり端をキャップする、タンパク質ゲルゾリンの活性化と一致する程度までカルシウムのレベルを上昇し得ることを予想した。彼らはまた、低い温度での膜脂質相移転がホスホイノシチドをクラスター形成させると考えられることも論証した。ホスホイノシチドのクラスター形成は、フィラメント伸長のための核形成部位を創造するようアクチンフィラメント反矢じり端のキャップを取り除く(Janmey and Stossel, 1989)。彼らは、冷やされた血小板におけるゲルゾリン活性化、アクチンフィラメント反矢じり端のキャップ除去、およびアクチン集合を証明し、両方の機構の実験的証拠を示した(Hoffmeister et al., 2001; Winokur and Hartwig, 1995)。他は、膜相転移に一致する冷却した血小板における分光学的変化を報告している(Tablin et al., 1996)。この情報は、カルシウム上昇を抑制するための細胞透過性カルシウムキレート剤および反矢じり端アクチン集合を妨げるためのサイトカラシンBを用いる、冷却した血小板の円板状の形状を保存するための方法を示唆した。これらの作用剤の添加は、4℃で血小板を円板状の形状で保持した(Winokur and Hartwig, 1995)が、このような血小板はまた循環から急速に消失する。従って、冷却した血小板の急速なクリアランスの課題は残り、血小板の循環時間ならびに貯蔵時間を増大する方法が必要とされる。
【発明の開示】
【0008】
発明の概要
本発明は、移植後の低減された発生率の血小板クリアランスを有するグリカン修飾された血小板、および異種性血小板移植レシピエントにおいて観察される血小板クリアランスを低減するための方法を提供する。また、哺乳類血小板、特にヒト血小板などの血小板の保存および貯蔵のための組成物および方法も提供する。本発明はまた、修飾された血小板を含む薬学的組成物を作るための、および止血を媒介するために哺乳動物、特に血球減少哺乳動物に薬学的組成物を投与するための方法も提供する。
【0009】
ヒト血小板の冷却が血小板表面上でフォンウィルブランド因子(vWf)受容体複合体αサブユニット(GP1bα)複合体のクラスター形成を引き起こすことが、現今発見されている。血小板表面上でのGP1bα複合体のクラスター形成は、インビトロおよびインビボでマクロファージ補体3型受容体(αMβ2、CR3)による認識を誘発する。CR3受容体は、血小板の表面上で、GP1bα複合体を形成している、βGlcNac末端を持つN結合型糖を認識し、血小板を貪食し、それらを循環から取り除きそして止血機能の同時喪失をもたらす。
【0010】
研究では、血小板は、老化しかつ循環する間に膜糖タンパク質からシアル酸を失い(Reimers et al. Adv Exp Med Biol. 1977; Steiner, M and Vancura, S. Thromb Res.,1985)、かつインビトロで脱シアリル化された血小板は素早く取り除かれる(Greenberg et al. Lab Invest.1975; Kotze et al. Thromb Haemost.1993)ことが報告されている。シアル酸の損失により、βガラクトースなど下にある未成熟なグリカンが露出する。肝臓マクロファージおよび肝細胞を含む多くの細胞は、アシアロ糖タンパク質(ASGP)受容体を発現し、かつ提示する。ASGPは、タンパク質、細胞、および露出したβガラクトースを運ぶ粒子のエンドサイトーシスを媒介することが公知である。
【0011】
出願人らは、N-アセチルノイラミン酸(シアル酸)、またはCMP-シアル酸などの特定のヌクレオチド-糖分子などのグリカン修飾剤の有効量を用いた血小板の処置が、処置された血小板における貯蔵障害欠陥を改善または実質的に低減する効果と共にGP1bα上のN-グリカンのグリコシル化をもたらすことを発見した。さらに、本出願人らは、処置された血小板における貯蔵障害欠陥を改善または実質的に低減する効果を伴う、GP1bα上のN-グリカンのより有効なグリコシル化に対する、シアル酸およびガラクトース、またはCMP-シアル酸およびUDP-ガラクトースもしくは他の糖ヌクレオチドなどの特定のヌクレオチド-糖分子などの、いくつかのグリカン修飾剤の組合せの有効量を用いた、血小板の処置を発見した。グリカン修飾剤の有効量は、約1マイクロモル〜約10ミリモル、約1マイクロモル〜約2ミリモル、そして最も好ましくは約200マイクロモル〜約1.2ミリモルのグリカン修飾剤の範囲である。これは、哺乳動物における輸注後の血小板クリアランスを低減し、血小板食作用を阻止し、血小板循環時間を増大させ、かつ輸注のために収集された試料における血小板貯蔵時間と温度変化に対する耐性との両方を増大させる機能上の効果を有する。加えて、自家移植または異種移植のために哺乳動物から取り出された血小板が、移植後の止血機能の有意な喪失無しに、低温で長期間、すなわち、摂氏4℃で24時間、2日間、3日間、5日間、7日間、12日間もしくは20日間またはそれ以上、貯蔵される可能性がある。低温貯蔵は、血小板が通常癌患者および他の免疫システムが損なわれた患者に投与される時に重要な、血小板調製物中の混入微生物の増殖を抑制するという長所を提供する。室温で貯蔵され処置された血小板はまた、未処置の血小板に比べて、改善されたまたは実質的に低減された貯蔵障害欠陥も長期間にわたって示す。処置された血小板は、未処置の血小板よりも長期間その生物学的機能性を保持し、収集の後、少なくとも1日、3日、5日、もしくは実に7日またはそれ以上、自家移植または異種移植に適している。
【0012】
本発明の1つの局面に従って、血小板の集団の循環時間を増大するための方法が提供される。本方法は、哺乳動物に輸注した場合に貯蔵傷害を改善、実質的にまたは部分的に低減する、生物学的機能性を維持または向上させる、および処置された血小板の集団のクリアランスを低減させる有効量で、単離された血小板の集団と少なくとも1つのグリカン修飾剤とを接触させる段階を含む。いくつかの態様において、グリカン修飾剤は、UDP-ガラクトースおよびUDP-ガラクトース前駆体からなる群から選択される。いくつかの好ましい態様において、グリカン修飾剤はUDP-ガラクトースである。他の好ましい態様において、グリカン修飾剤はCMP-シアル酸である。他の好ましい態様において、UDP-ガラクトースおよびCMP-シアル酸を含む2つのグリカン修飾剤が使用される。
【0013】
いくつかの態様において、本方法は、血小板上でグリカン部分の修飾を触媒する酵素を添加する段階をさらに含む。グリカン部分の修飾を触媒する酵素の1つの例は、ガラクトシルトランスフェラーゼ、特にβ-1-4-ガラクトシルトランスフェラーゼである。グリカン部分の修飾を触媒する酵素の別の例は、血小板のグリカン部分上の末端ガラクトースにシアル酸を付加する、シアリルトランスフェラーゼである。
【0014】
1つの好ましい態様において、グリカン修飾剤は、UDP-ガラクトースであり、かつグリカン部分の修飾を触媒する酵素は、ガラクトシルトランスフェラーゼである。ある局面において、グリカン修飾剤は、直接的な手法で血小板上のグリカンに添加される、第2の化学成分をさらに含む。この第2の化学成分の例は、ポリエチレングリコール(PEG)であり、UDP-ガラクトース-PEGとしてUDP-ガラクトースなどのグリカン修飾剤と結合される場合、ガラクトシルトランスフェラーゼなどの酵素の存在下で、グリカン部分の終端で血小板にPEGの付加を触媒すると考えられる。よって、ある態様において、発明は、細胞の糖およびタンパク質への化合物の標的添加のための組成物および方法を提供する。
【0015】
いくつかの態様において、血小板の集団の循環時間を増大するための方法は、血小板を少なくとも1つのグリカン修飾剤と接触させる前に、接触と同時に、または接触後に、血小板の集団を冷却する段階をさらに含む。
【0016】
いくつかの態様において、血小板の集団は、実質的に正常な止血活性を保持する。
【0017】
いくつかの態様において、血小板の集団を少なくとも1つのグリカン修飾剤と接触させる段階は、血小板バッグ中で行われる。
【0018】
いくつかの態様において、循環時間は少なくとも約10%、15%、20%、25%、30%、40%、50%、60%、75%、100%、150%、200%、500%またはそれ以上まで増大される。
【0019】
本発明の別の局面に従って、血小板の貯蔵時間を増大するための方法が提供される。方法は、単離された血小板の集団を血小板の集団のクリアランスを低減するのに有効な少なくとも1つのグリカン修飾剤の量と接触させる段階、および血小板の集団を貯蔵する段階を含む。グリカン修飾剤の有効量は、約1マイクロモルから約2000マイクロモル、および最も好ましくは約200マイクロモルから約1.2ミリモルのグリカン修飾剤の範囲で変化する。ある局面において、血小板調製物は、低温で、すなわち冷凍または冷蔵で貯蔵される。
【0020】
いくつかの態様において、グリカン修飾剤は、糖、単糖、ヌクレオチド糖、シアル酸、シアル酸前駆体、CMP-シアル酸、UDP-ガラクトース、およびUDP-ガラクトース前駆体からなる群より選択される。いくつかの態様において、グリカン修飾剤は好ましくはUDP-ガラクトース、CMP-シアル酸、または2つの物質の組合せである。
【0021】
いくつかの態様において、本方法は、有効量の血小板の表面上でグリカンへのグリカン修飾剤の付加を触媒する酵素を添加する段階をさらに含む。1つの好ましい態様において、グリカン修飾剤はUDP-ガラクトースであり、かつ血小板の表面上でグリカンへのグリカン修飾剤の付加を触媒する酵素は、ガラクトシルトランスフェラーゼ、好ましくはβ-1-4-ガラクトシルトランスフェラーゼである。別の好ましい態様において、グリカン修飾剤は、CMP-シアル酸であり、かつ血小板の表面上でグリカンへのグリカン修飾剤の付加を触媒する酵素はシアリルトランスフェラーゼである。
【0022】
いくつかの態様において、本方法は、血小板を少なくとも1つのグリカン修飾剤に接触させる前に、接触と同時に、または接触後に、血小板の集団を冷却する段階をさらに含む。他の態様において、冷却された血小板は緩やかに、例えば1時間当たり0.5、1、2、3、4、または5℃温められる。現在好ましい態様において、本方法は緩やかに温めること、および該血小板集団を同時に糖化することを含む。
【0023】
いくつかの態様において、前記血小板の集団は、哺乳動物に輸注された場合、実質的に正常な止血活性を保持する。輸注前に、グリカン修飾剤は好ましくは、約50マイクロモルまたはそれ未満の濃度まで希釈または低減される。従って、他の態様において、投薬の間血小板調製物に添加されたグリカンは高濃度に、例えば100〜10000マイクロモルに維持され、輸注前に低減される。
【0024】
ある態様において、血小板の集団を少なくとも1つのグリカン修飾剤と接触させる段階は、全血の収集または血小板の収集の間に行われる。ある態様において、グリカン修飾剤は、血小板の収集の前に、収集と同時に、または収集後に血小板バッグの中に導入される。
【0025】
前記血小板は、下げられた温度、例えば、冷凍または冷却で貯蔵される能力を有し、少なくとも約3日、少なくとも約5日、少なくとも約7日、少なくとも約10日、少なくとも約14日、少なくとも約21日、または少なくとも約28日などの長時間貯蔵され得る。
【0026】
種々の他の態様において、処置された血小板は室温で貯蔵される。グリカン修飾剤での処置は、血小板集団を保存し、すなわち、哺乳動物の中への輸注後に血小板集団の止血機能を改善し、処置に続く期間にわたって未処置の血小板試料と比較した場合、室温で貯蔵された血小板における貯蔵障害の発生を低減する。よって、室温で貯蔵される処置された血小板試料は、少なくとも約3日、少なくとも約5日、少なくとも約7日、少なくとも約10日、少なくとも約14日、少なくとも約21日、または少なくとも約28日などの期間が延長された貯蔵時間の後の、自己輸注または異種輸注(heterologous transfusion)に適している。
【0027】
本発明の別の局面に従って、修飾された血小板が提供される。修飾された血小板は、血小板の表面上に複数の修飾されたグリカン分子を含む。修飾されたグリカン分子は、末端糖残基へのシアル酸付加、または末端糖残基のガラクトシル化、または末端糖残基のシアリル化およびガラクトシル化の両方を含む。様々な好ましい態様において、付加されたヌクレオチド糖はCMP-シアル酸、UDP-ガラクトース、または両方である。
【0028】
いくつかの態様において、このように修飾された末端グリカン分子は、GP1bα分子である。修飾された血小板は従って、末端GP1bα分子を含むグリカン構造を含み、これらは処置後、GP1bα分子に結合した末端ガラクトースまたはシアル酸を有する。付加される糖は、天然の糖であってもよく、または非天然の糖であってもよい。付加される糖の例は、これに限定されないが、以下を含む:UDP-ガラクトースおよびUDP-ガラクトース前駆体などのヌクレオチド糖。1つの好ましい態様において、付加されるヌクレオチド糖は、CMP-シアル酸またはUDP-ガラクトースである。
【0029】
別の局面において、本発明は、複数の修飾された血小板を含む血小板組成物を提供する。いくつかの態様において、血小板組成物は貯蔵培地をさらに含む。いくつかの態様において、血小板組成物は薬学的に許容される担体をさらに含む。
【0030】
本発明のさらに別の局面に従って、哺乳動物への投与のための薬学的組成物を作るための方法が提供される。方法は以下の段階を含む:
(a)薬学的に許容される担体中に含まれる血小板の集団を、少なくとも1つのグリカン修飾剤と接触させ、処置された血小板調製物を形成する段階、
(b)処置された血小板調製物を貯蔵する段階、および
(c)処置された血小板調製物を温める段階。
【0031】
いくつかの態様において、処置された血小板調製物を温める段階は、血小板を37℃に温めることにより行われる。温める段階は、徐々にまたは段階的な温度増加により起こり得る。低温で貯蔵されかつ処置された血小板集団を、緩やかな加熱、および血液産物を再び温めることと共通であるような連続的な穏やかな攪拌により温めることが好ましい。血液加温装置は、WO/2004/098675で開示されており、低温貯蔵条件からの処置された血小板集団を再び温めるのに適している。
【0032】
いくつかの態様において、薬学的に許容される担体中に含まれる血小板の集団を少なくとも1つのグリカン修飾剤と接触させる段階は、血小板を少なくとも1つのグリカン修飾剤と、単独でまたはグリカン部分の修飾を触媒する酵素の存在下で接触させる段階を含む。グリカン修飾剤は、好ましくは約1マイクロモルから約2000マイクロモル、および最も好ましくは約200マイクロモルから約1200マイクロモルの濃度で添加される。いくつかの態様において、本方法は、血小板調製物中のグリカン修飾剤または酵素の濃度を低減させる段階、またはそれを取り除く、または中和する段階をさらに含む。グリカン修飾剤または血小板調製物中の酵素の濃度を低減させる、それを取り除くまたは中和する方法は、例えば、血小板調製物を洗浄する段階または血小板調製物の希釈を含む。グリカン修飾剤は好ましくは、ヒト被験者の中への血小板の移植の前に、約50マイクロモルまたはそれ未満に希釈される。
【0033】
グリカン修飾剤の例は、上に列挙されている。1つの好ましい態様において、グリカン修飾剤は、CMP-シアル酸またはUDP-ガラクトースである。いくつかの態様において、本方法は、β-1-4ガラクトシルトランスフェラーゼなどの、グリカン部分へのグリカン修飾剤の付加を触媒する外因性酵素を添加する段階をさらに含む。
【0034】
1つの好ましい態様において、グリカン修飾剤はUDP-ガラクトースかつ酵素はガラクトシルトランスフェラーゼである。
【0035】
いくつかの態様において、血小板の集団は、好ましくは哺乳動物の中への移植後に、実質的に正常な止血活性を示す。
【0036】
ある態様において、血小板の集団を少なくとも1つのグリカン修飾剤と接触させる段階は、血小板バッグ中の血小板などの全血または分画された血液の収集工程中に行われる。
【0037】
いくつかの態様において、血小板調製物は、約15℃未満、好ましくは10℃未満、およびより好ましくは5℃未満の温度で貯蔵される。いくつかの他の態様において、血小板調製物は室温で貯蔵される。他の態様において、血小板は、例えば、0℃、-20℃もしくは-80℃またはより冷たい温度で、冷凍される。
【0038】
本発明のさらに別の局面に従って、哺乳動物において止血を媒介するための方法が提供される。本方法は、複数の修飾された血小板または修飾された血小板組成物を哺乳動物に投与する段階を含む。血小板は、収集中、貯蔵する前、保存後および温める間などの投与前に、または移植の直前に、グリカン修飾剤で修飾される。
【0039】
本発明のまたさらに別の局面に従って、血小板を保存するための貯蔵組成物が提供される。本組成物は、血小板グリカンを修飾するのに十分な量で血小板に添加される、少なくとも1つのグリカン修飾剤を含み、その結果、血小板クリアランスを低減させることにより貯蔵組成物に添加された血小板の貯蔵時間および/または循環時間を増大する。
【0040】
いくつかの態様において、前記組成物は、グリカン部分の修飾を触媒する酵素をさらに含む。酵素は外から添加されてもよい。β-1-4ガラクトシルトランスフェラーゼまたはシアリルトランスフェラーゼ、またはその両方が、血小板上でグリカン部分の修飾を触媒するための好ましい酵素の良い例となる。
【0041】
本発明の別の局面に従って、血小板を収集する(および任意で加工する)ための容器が提供される。容器は、少なくとも1つのグリカン修飾剤を、その中に含まれる血小板のグリカンを修飾するのに十分な量で含む。容器は好ましくは血小板バッグ、または他の血液収集デバイスである。
【0042】
いくつかの態様において、容器は、β-1-4ガラクトシルトランスフェラーゼまたはシアリルトランスフェラーゼなどの、グリカン修飾剤を用いてグリカン部分の修飾を触媒する酵素をさらに含む。
【0043】
いくつかの態様において、容器は、複数の血小板または複数の血小板を含む血漿をさらに含む。
【0044】
いくつかの態様において、グリカン修飾剤は、自然に生じる血小板中または血清中で見出されるより高い濃度で存在する。ある局面において、これらの濃度は、1マイクロモルから2000マイクロモル、および最も好ましくは約200マイクロモルから約1.2ミリモルである。他の態様において、β-1-4ガラクトシルトランスフェラーゼまたはシアリルトランスフェラーゼは、酵素が血小板に外から添加された場合に観察される濃度など、自然に生じる血小板中または血清中で見出されるより高い濃度である。
【0045】
本発明のまださらに別の局面に従って、血小板を収集するおよび加工するためのデバイスが提供される。デバイスは以下を含む:血小板を収集するための容器;該容器と流体伝達している少なくとも1つのサテライト容器;およびサテライト容器中の少なくとも1つのグリカン修飾剤。容器は任意で、β-1-4ガラクトシルトランスフェラーゼまたはシアリルトランスフェラーゼなどの酵素を含む。
【0046】
いくつかの態様において、サテライト容器中のグリカン修飾剤は、容器中の血小板を保存するのに十分な量、例えば約1マイクロモルから約50ミリモルの濃度で存在する。
【0047】
いくつかの態様において、サテライト容器中のグリカン修飾剤は、壊れやすいシールにより容器の中に流れるのを妨げられている。
【0048】
他の局面において、本発明は、血小板の集団を収容出来る、かつ含むことが出来る滅菌した容器、周囲に対して実質的に閉ざされた容器、および容器中に収集および貯蔵される量の血小板を修飾するのに十分な量の滅菌したグリカン修飾剤を有するキットを含み、キットは使用のための適切な添付材料および説明書をさらに含む。キット中のグリカン修飾剤は、少なくともCMP-シアル酸、UDP-ガラクトース、またはシアル酸を含む。容器は、血小板の低温貯蔵に適している。
【0049】
ある局面において、本発明はまた、GP1bα分子を持つ複数の血小板を得る段階、および血小板と、血小板上でGP1bα分子の終端をガラクトシル化またはシアリル化するグリカン修飾剤とを接触させる段階を含む、糖タンパク質を修飾する方法も含む。
【0050】
本発明は、血小板を有する血液の試料を得る段階、および少なくとも血小板と、血小板上でGP1bα分子の終端をガラクトシル化またはシアリル化するグリカン修飾剤とを接触させる段階を含む、血液成分を修飾する方法をさらに含む。
【0051】
他の局面において、発明は、血小板を有する血液の試料を得る段階、少なくとも血小板と、血小板上でGP1bα分子の終端をガラクトシル化またはシアリル化するグリカン修飾剤とを接触させる段階、および修飾された血小板を有する血液試料を約摂氏2℃から約摂氏18℃の温度で少なくとも3日間貯蔵し、その結果血液サンプル中の病原体増殖を低減させる段階を含む、血液試料中の病原体増殖を低減する方法を含む。
【0052】
本発明のこれらの局面および他の局面、ならびに種々の利点および有用性は、以下の発明の詳細な記載に関連して、より明らかになると考えられる。本発明の各限定は、本発明の種々の態様を包含し得る。従って、任意の1つの要素または要素の組合せを含む各限定は、本発明のそれぞれの局面に含まれ得ることが、予想される。
【0053】
発明の詳細な記載
本発明は、強化された循環特性を有しかつ実質的に正常なインビボ止血活性を保持する修飾された血小板の集団を提供する。止血活性は、出血停止を媒介する血小板の集団の能力に広く言及する。種々のアッセイが、血小板止血活性を決定するために利用可能である(Bennett, J. S. and Shattil, S. J., 1990, "Platelet function," Hematology, Williams, W. J., et al, Eds. McGraw Hill, pp 1233- 12250)。しかしながら、「止血」または「止血活性」の立証は最終的に、血小板減少症のまたは血小板病の(thrombopathic)(すなわち機能しない血小板)動物またはヒトの中に注入された血小板が循環しかつ自然にまたは実験的に誘導される出血を止めるという立証を必要とする。
【0054】
このような立証には及ばないが、研究室は、止血活性を決定するための代用としてインビトロ試験を用いる。凝集、分泌、血小板の形態および代謝変化のアッセイを含むこれら試験は、活性化に対する多種多様な血小板機能反応を測定する。当技術分野において、インビトロ試験はインビボ止血機能を適度に示すことが、概して容認される。
【0055】
実質的に正常な止血活性は、健常体(血小板減少症または血小板病ではない哺乳動物)におけるインビボ未処置血小板の止血活性と機能的に同等または実質的に同様である、またはインビトロで新鮮に単離された血小板の集団の止血活性と機能的に同等または実質的に同様である、修飾された血小板で見られる止血活性の量に言及する。
【0056】
本発明は、血小板の貯蔵時間を増大する血小板の下げられた温度での貯蔵のための方法、ならびに哺乳動物における血小板の集団のクリアランス低減または循環時間増大のための方法を提供する。また、血小板組成物、保存された止血活性を伴う血小板の保存のための方法および組成物、ならびに保存された血小板を含む薬学的組成物を作るためおよび止血を媒介するよう哺乳動物へ薬学的組成物を投与するための方法も提供する。また、貯蔵のための血小板調製物を処置するためのキット、および貯蔵するための容器も提供する。
【0057】
本発明の1つの局面において、血小板の単離された集団の循環時間を増大するための方法は、血小板の単離された集団を少なくとも1つのグリカン修飾剤と血小板の集団のクリアランスを低減するのに有効な量で接触させる段階を含む。本明細書において用いられるように、血小板の集団は、1つまたは複数の血小板を有する試料に言及する。血小板の集団は、血小板濃縮物を含む。「単離された」という用語は、その自然な環境から分離され、かつその同定または使用を許容するのに十分な量で存在することを意味する。血小板の集団に関して本明細書において用いられるように、単離されたは、哺乳動物の血液循環から除去されたまたは取り除かれたを意味する。血小板の集団の循環時間は、その哺乳動物の中への移植後にその集団中の血小板の半分がもはや哺乳動物中で循環していない時間として定義される。本明細書において用いられるように、「クリアランス」は、(限定されないがマクロファージの食作用などの)哺乳動物の血液循環からの修飾された血小板の除去を意味する。本明細書において用いられるように、血小板の集団のクリアランスは、単位時間当たりの血液または血清の単位体積からの血小板の集団の除去に言及する。血小板の集団のクリアランスを低減することは、血小板の集団のクリアランスを妨げること、遅らせることまたは低減することに言及する。血小板のクリアランスを低減することはまた、血小板クリアランスの割合を低減することを意味してもよい。
【0058】
グリカン修飾剤は、血小板上でグリカン残基を修飾する作用剤に言及する。本明細書において用いられるように、「グリカン」または「グリカン残基」は、GP1bα多糖により例示される、血小板の表面上の多糖部分に言及する。「末端の」グリカンまたはグリカン残基は、通常は血小板表面上でポリペプチドに付着している、多糖の遠位末端でのグリカンである。好ましくは、グリカン修飾剤は、血小板の表面上でGP1bαを変化させる。
【0059】
本明細書において記載されるような使用に適したグリカン修飾剤は、アラビノース、フルクトース、フコース、ガラクトース、マンノース、リボース、グルコン酸、ガラクトサミン、グルコサミン、N-アセチルガラクトサミン、ムラミン酸、シアル酸(N-アセチルノイラミン酸)などの単糖、ならびにシチジンモノホスホ-N-アセチルノイラミン酸(CMP-シアル酸)、ウリジン二リン酸ガラクトース(UDP-ガラクトース)およびUDP-グルコースなどのUDP-ガラクトース前駆体などのヌクレオチド糖を含む。いくつかの好ましい態様において、グリカン修飾剤はUDP-ガラクトースまたはCMP-シアル酸である。
【0060】
UDP-ガラクトースは、UDP-ガラクトースを作るためにUDP-グルコースからガラクトース-1-リン酸と交換でグルコース-1-リン酸の遊離を触媒する酵素UDP-グルコース-α-D-ガラクトース-1-リン酸ウリジルトランスフェラーゼにより形成される、ガラクトース代謝における中間体である。UDP-ガラクトースおよびシアル酸は、Sigmaなどのいくつかの商業的な供給者から広く入手可能である。加えて、UDP-ガラクトースの合成および生産のための方法は、当技術分野時おいて周知であり、かつ文献に記載されている(例えば、Liu et al, ChemBioChem 3, 348-355, 2002; Heidlas et al, J. Org. Chem. 57, 152-157; Butler et al, Nat. Biotechnol. 8, 281-284, 2000; Koizumi et al, Carbohydr. Res. 316, 179-183, 1999; Endo et al, Appl. Microbiol., Biotechnol. 53, 257-261, 2000を参照のこと)。UDP-ガラクトース前駆体は、UDP-ガラクトースに(例えば、酵素的に、生化学的に)変換される可能性がある分子、化合物、または中間体化合物である。UDP-ガラクトース前駆体の1つの制限しない例は、UDP-グルコースである。ある態様において、UDP-ガラクトース前駆体をUDP-ガラクトースに変換する酵素は、(例えば、血小板容器中で)反応混合物に添加される。
【0061】
グリカン修飾剤の有効量は、血小板の表面上で十分な数のグリカン残基を変え、血小板の集団に導入される場合、哺乳動物の中への血小板の移植の後に哺乳動物における血小板の集団の循環時間を増大しおよび/またはクリアランスを低減する、グリカン修飾剤の量である。グリカン修飾剤の有効量は、約1マイクロモルから約2000マイクロモル、好ましくは約10マイクロモルから約1000マイクロモル、より好ましくは約100マイクロモルから約150マイクロモル、および最も好ましくは約200マイクロモルから約1200マイクロモルの濃度である。
【0062】
グリカン修飾剤を用いる血小板の修飾は、以下の通り行われ得る。血小板の集団は、選択されたグリカン修飾剤(1〜200 μMの濃度)と共に22℃〜37℃で少なくとも1、2、5、10、20、40、60、120、180、240または300分間インキュベートされる。複数のグリカン修飾剤(すなわち、2、3、4またはそれより多い)が、同時にまたは連続的に用いられてもよい。いくつかの態様において、0.1〜500 mU/mlのガラクトーストランスフェラーゼまたはシアリルトランスフェラーゼが、血小板の集団に添加される。ガラクトース転移は、FITC-WGA(小麦胚芽凝集素)結合を用いて機能的にモニターされ得る。グリカン修飾反応の目標は、休止室温WGA結合レベルまでWGA結合を減らすことである。ガラクトース転移は、14C-UDP-ガラクトースを用いて定量化され得る。適切なガラクトース転移を得るために非放射性のUDP-ガラクトースを14C-UDP-ガラクトースと混合する。血小板を徹底的に洗浄し、取り込まれた放射能をγ-カウンターを用いて測定する。測定されたcpmは、取り込まれたガラクトースの算出を可能にする。同様の技術が、シアル酸転移モニタリングに適用可能である。
【0063】
血小板のクリアランスを低減する段階は、室温または冷却での貯蔵、ならびに「低温で誘導される血小板活性化」後の血小板のクリアランスを低減する段階を包含する。低温で誘導される血小板活性化は、当業者にとって特別な意味を持つ用語である。低温で誘導される血小板活性化は、血小板の形態の変化により明らかである可能性があり、そのいくつかは、例えばガラスとの接触による血小板活性化の後に生ずる変化に類似している。低温で誘導される血小板を示す構造的な変化は、光学顕微鏡法または電子顕微鏡法などの技術を用いて非常に容易に同定される。分子レベルに関して、低温で誘導される血小板活性化は、アクチン束形成およびそれに続く細胞内カルシウムの濃度の増加をもたらす。アクチン束形成は、例えば電子顕微鏡法を用いて検出される。細胞内カルシウム濃度の増加は、例えば蛍光細胞内カルシウムキレート剤を用いることにより、決定される。アクチンフィラメント切断を抑制するための上記に記載されたキレート剤の多くはまた、細胞内カルシウムの濃度を決定するためにも有用である(上記Tsien, R., 1980)。従って、種々の技術が、血小板が低温で誘導される活性化を経験しているかどうかを決定するために利用可能である。
【0064】
修飾された血小板のクリアランスの低減をもらたす、血小板上でグリカン部分へのガラクトースまたはシアル酸付加の効果は、分化させたTHP-1細胞、または例えばチオグリコレート注射刺激の後に腹腔から単離されるマウスマクロファージを用いるインビトロシステムのいずれかを用いて測定され得る。修飾されていない血小板と比較した修飾した血小板のクリアランスの割合が、決定される。クリアランスの割合を試験するために、修飾された血小板をマクロファージに食べさせ、マクロファージによる血小板の摂取をモニターする。修飾されていない血小板に対する修飾された血小板の摂食の低減(2倍またはそれより大きい)は、本明細書において記載される目的のためのグリカン部分の成功した修飾を指す。
【0065】
本発明に従って、修飾された血小板の集団は、通常処置されていない血小板の冷蔵で経験される有害な効果(低温で誘導される血小板の活性化)無しに、冷却され得る。修飾された血小板の集団は、血小板を少なくとも1つのグリカン修飾剤と接触させる段階の前に、接触させる段階と同時に、または接触させる段階後に、冷却され得る。グリカン部分の選択的な修飾は、冷却した後に(また冷却しないとしても)クリアランスを低減し、よって、現在可能であるよりも長期間の貯蔵を許容する。本明細書において用いられるように、冷蔵することは、血小板の集団の温度を約37℃より低い温度まで下げることに言及する。いくつかの態様において、血小板は、約15℃より低い温度まで冷却される。好ましい態様において、血小板は、約0℃と約4℃の間の範囲で変動する温度まで冷却される。冷却する段階はまた、血小板調製物を冷凍する、すなわち、0℃、-20℃、-50℃、および-80℃またはより低い温度まで冷凍する段階も包含する。細胞の低温保存のための工程は、当技術分野において周知である。
【0066】
いくつかの態様において、血小板の集団は、少なくとも3日間冷却され貯蔵される。いくつかの態様において、血小板の集団は、少なくとも5、7、10、14、21および28日間またはより長い間、冷却され貯蔵される。
【0067】
本発明のいくつかの態様において、血小板の集団の循環時間は、少なくとも約10%まで増大される。いくつかの他の態様において、血小板の集団の循環時間は、少なくとも約25%まで増大される。さらにいくつかの他の態様において、血小板の集団の循環時間は、少なくとも約50%から約100%まで増大される。まださらに他の態様において、血小板の集団の循環時間は、約150%またはそれより大きく増大される。
【0068】
本発明はまた、血小板の貯蔵時間を増大するための方法も包含する。本明細書において用いられるように、血小板の貯蔵時間は、血小板が循環能力の喪失または血小板クリアランスの増加などの血小板機能または止血活性の実質的な喪失無しに貯蔵され得る時間として定義される。
【0069】
血小板は、当業者に公知の標準的な技術により、例えば全血からの単離またはアフェレーシス工程により、末梢血から収集される。いくつかの態様において、血小板は、グリカン修飾剤での処置の前に、薬学的に許容される担体中に含まれる。
【0070】
本発明の別の局面に従って、修飾された血小板または修飾された血小板の集団が提供される。修飾された血小板は、血小板の表面上の複数の修飾されたグリカン分子を含む。いくつかの態様において、修飾されたグリカン部分は、GP1bα分子である。本発明はまた、貯蔵培地中の血小板組成物をも包含する。いくつかの態様において、貯蔵培地は、薬学的に許容される担体を含む。
【0071】
いくつかの態様において、本発明は、当技術分野で公知の他の血小板保存方法の1つまたは複数を用いる、上述された血小板修飾方法の組合せを提供する。例えば、本発明で提供される血小板修飾方法は、例えば以下の米国特許第7,030,110号;同第7,029,654号;同第7,005,253号;同第6,900,231号;同第6,866,992号;同第6,730,783号;同第6,706,765号;同第6,706,021号;同第6,693,115号;同第6,638,931号;同第6,635,637号;同第6,566,379号;同第6,521,663号;同第6,518,310号;同第6,514,978号;同第6,497,823号;同第6,476,016号;同第6,472,399号;同第6,420,397号;同第6,417,161号;同第6,350,764号;同第6,344,486号;同第6,344,466号;同第6,326,492号;同第6,277,556号;同第6,245,763号;同第6,235,778号;同第6,221,669号;同第6,204,263号;同第6,037,356号;同第5,919,614号;同第5,763,156号;同第5,753,428号;同第5,660,825号;同第5,622,867号;同第5,582,821号;同第5,571,686号;および同第5,569,579号;同第5,550,108号;同第5,529,821号;同第5,474,891号;同第5,466,573号;同第5,399,268号;同第5,376,524号;同第5,344,752号;同第5,269,946号;同第5,256,559号;同第5,236,716号;同第5,234,808号;ならびに同第5,198,357号に記載されるがそれに限定されるわけではない方法との組合せにおいて有用である。
【0072】
「薬学的に許容される」という用語は、血小板の生物活性の有効性を妨げず、細胞、細胞培養液、組織または生物体などの生物システムと適合性がある非毒性材料を意味する。薬学的に許容される担体は、希釈剤、注入剤、塩、緩衝剤、安定剤、溶解剤、および当技術分野において周知である他の材料を含み、例えば血小板調製物を7.4のpH、血液の生理的なpHに安定させる緩衝剤は、本発明を伴う使用に適している薬学的に許容される組成物である。
【0073】
本発明は、哺乳動物への投与のための薬学的組成物を作るための方法をさらに包含する。本方法は、上記の血小板調製物を調製する段階、および血小板調製物を温める段階を含む。いくつかの態様において、本方法は、グリカン修飾剤および/またはグリカン部分の修飾を触媒する酵素を中和する、除去するまたは希釈する段階、および修飾された血小板調製物を薬学的に許容される担体中に配置する段階を含む。好ましい態様において、冷却した血小板は、中和または希釈前に室温(約22℃)に温められる。いくつかの態様において、血小板は、グリカン部分の修飾を触媒する酵素を伴うまたは伴わないグリカン修飾剤との接触前に薬学的に許容される担体中に含まれ、そして中和または希釈の後で血小板調製物を薬学的に許容される担体中に配置することは必須ではない。
【0074】
本明細書において用いられるように、「中和する」または「中和」という用語は、それによりグリカン修飾剤および/またはグリカン部分の修飾を触媒する酵素が実質的に血小板上でグリカン残基のグリカン修飾が出来ないようになる、または血小板溶液中のそれらの濃度が哺乳動物に対して有害でないレベルまで、例えば50マイクロモルより少ないグリカン修飾剤に低下させる工程に言及する。いくつかの態様において、冷却した血小板は、希釈により、例えば赤血球の懸濁剤で中和される。または、処置された血小板は、レシピエント内へ注入され得、そしてそれは赤血球懸濁剤の中への希釈と同等である。この中和の方法は、密閉されたシステムを有利に維持し、かつ血小板への損害を最小にする。グリカン修飾剤の好ましい態様において、中和は必要とされない。
【0075】
毒性を低減する他の方法は、注入ライン内にフィルタを挿入することにより、フィルタは、グリカン修飾剤および/またはグリカン部分の修飾を触媒する酵素を除去するために、例えば活性炭または固定化された抗体を含む。
【0076】
グリカン修飾剤およびグリカン部分の修飾を触媒する酵素のいずれかまたは両方はまた、標準的な臨床上の細胞洗浄技術に従って修飾された血小板を洗浄することにより除去または実質的に希釈されてもよい。
【0077】
本発明は、哺乳動物において止血を媒介するための方法をさらに提供する。本方法は、上記の薬学的調製物を哺乳動物に投与する段階を含む。修飾された血小板の投与は、当技術分野において公知の標準的な方法に従ってもよい。1つの態様に従って、ヒト患者は、修飾された血小板の投与前に、投与後に、または投与の間に、赤血球を輸注される。赤血球輸注は、投与された修飾された血小板を希釈するのに役に立ち、その結果グリカン修飾剤およびグリカン部分の修飾を触媒する酵素を中和する。
【0078】
修飾された血小板を用いて止血を媒介するための投与計画は、対象の型、年齢、体重、性別および病状を含む種々の因子、病気の重症度、投与の経路および頻度に従って、選択される。一般の熟練した医師または臨床医は、止血を媒介するために必要とされる修飾された血小板の有効量を容易に決定および処方し得る。
【0079】
投与計画は、例えば、臨床的徴候および臨床検査の点からの処置に対する反応に従って、決定され得る。このような臨床的徴候および臨床検査の例は、当技術分野において周知であり、記載されている、Harrison's Principles of Internal Medicine, 15th Ed., Fauci AS et al., eds., McGraw-Hill, New York, 2001を参照のこと。
【0080】
同様に、止血を媒介するための貯蔵組成物および薬学的組成物が本発明の範囲内である。1つの態様において、組成物は、薬学的に許容される担体、複数の修飾された血小板、複数のグリカン修飾剤および任意でグリカン部分の修飾を触媒する酵素を含む。グリカン修飾剤およびグリカン部分の修飾を触媒する酵素は、血小板クリアランスを低減するために、十分な量で組成物中に存在する。好ましくは、グリカン修飾剤(および任意でグリカン部分の修飾を触媒する酵素)は、それによって冷却および中和後に血小板が正常な止血活性を実質的に保持する量で存在する。血小板クリアランスを低減するグリカン修飾剤(および任意でグリカン部分の修飾を触媒する酵素)の量は、これら作用剤の増加する量に血小板の調製物を曝露し、処置された血小板を冷却温度に曝露し、低温で誘導される血小板活性化が起こっているかどうか(例えば、顕微鏡法により)を決定することにより、選択され得る。好ましくは、グリカン修飾剤およびグリカン部分の修飾を触媒する酵素の量は、様々な量のグリカン修飾剤およびグリカン部分の修飾を触媒する酵素に血小板を曝露し、本明細書において記載されているように血小板を冷却し、処置された(冷却した)血小板を温め、任意で血小板を中和し、処置された血小板が正常な止血活性を実質的に維持しているかどうか決定するために血小板を止血活性アッセイで試験することにより、機能的に決定され得る。
【0081】
例えば、血小板の低温で誘導される活性化をグリカン修飾剤(および任意でグリカン部分の修飾を触媒する酵素)で修飾することにより妨げるための最適な濃度および状態を決定するために、これら作用剤の増加量は、血小板を冷却する温度に曝露する前に血小板と接触する。グリカン修飾剤およびグリカン部分の修飾を触媒する酵素の最適濃度は、インビボ試験(例えば、ガラス、トロンビン、低温保存温度に反応する形態的変化の観察、ADPで誘導される凝集)、続いて止血機能(例えば、血小板減少症の動物における回復、生存および出血時間の短縮、またはヒト対象における51Crで標識された血小板の回復および生存)を示すインビボ試験により決定されるような無傷の血小板の機能を保存する最小有効濃度である。
【0082】
本発明のさらに別の局面に従って、血小板クリアランスを低減する、または血小板貯蔵時間を増大するよう血小板に添加するための組成物が提供される。組成物は、1つまたは複数のグリカン修飾剤を含む。ある態様において、組成物はまた、グリカン部分の修飾を触媒する酵素も含む。グリカン修飾剤およびグリカン部分の修飾を触媒する酵素は、低温で誘導される血小板活性化を妨げる量で組成物中に存在する。
【0083】
本発明はまた、血小板を保存するための貯蔵組成物も包含する。貯蔵組成物は、少なくとも1つのグリカン修飾剤を血小板クリアランスを低減するのに十分な量で含む。いくつかの態様において、貯蔵組成物は、血小板上でグリカン部分の修飾を触媒する酵素をさらに含む。グリカン修飾剤は、好ましくは約室温と37℃の間で保たれる血小板の集団に添加される。いくつかの態様において、処置の後で、血小板の集団は、約4℃に冷やされる。いくつかの態様において、血小板は、当業者に公知の標準的な方法に従う血小板パック、バッグ、または容器の中へ収集される。通常、ドナーからの血液は、少なくとも1つのサテライト容器に結合される可能性がある主要な容器の中に採取され、その容器の全ては使用前に連結されかつ滅菌される。いくつかの態様において、サテライト容器は、血小板を収集するための容器に壊れやすいシールにより連結される。いくつかの態様において、主要な容器は、複数の血小板を含む血漿をさらに含む。
【0084】
いくつかの態様において、血小板は、濃縮され(例えば遠心分離により)、血漿および赤血球は、血小板上でグリカン部分の修飾を触媒する酵素の有無にかかわらず、グリカン修飾剤を添加する前に(これら臨床上価値を有する画分の修飾を避けるために)異なる予備のバッグの中へ出される。処置前に血小板濃度はまた、血小板クリアランスを低減するために必要とされるグリカン修飾剤の量を最小限にしてもよく、その結果、最終的に患者の中へ注入されるこれら作用剤の量は最小限になる。
【0085】
1つの態様において、グリカン修飾剤は、微生物の混入を避けるために、閉鎖系、例えば滅菌した密閉血小板パック中で血小板と接触する。通常、静脈穿刺導管が、血小板獲得または輸注の間、パック中で唯一の開口部である。従って、グリカン修飾剤を用いる血小板の処置の間、閉鎖系を維持するため、作用剤は、滅菌した連結管により血小板パックに取り付けられた比較的小さな滅菌した容器中に位置する(例えば、その内容が参照により本明細書に組み入れられる米国特許第4,412,835号を参照のこと)。連結管は、当業者に公知であるように、可逆的に密閉されてもよく、または壊れやすいシールを有してもよい。血小板が濃縮された後に、例えば標準的な習慣に従って血小板を定着させかつ血小板を主要なパックから第2のバッグの中へしぼり出すことにより、グリカン修飾剤を含む容器へのシールが開かれ、そして作用物質が血小板パックの中へ導入される。1つの態様において、グリカン修飾剤は、血小板濃縮物へのグリカン修飾剤の連続した添加を可能にするために、異なる再密閉可能な連結管を有する異なる容器中に含まれる。
【0086】
グリカン修飾剤との接触に続いて、処置された血小板は冷却される。例えば22℃で貯蔵された血小板と対照的に、低温保存温度で貯蔵された血小板は、実質的に代謝活性が減少している。よって、4℃で貯蔵される血小板は代謝的に活性が低く、従って例えば22℃で貯蔵された血小板と比較して大量のCO2を生じない(Slichter, S. J., 1981 Vox Sang 40 (Suppl 1), pp 72-86, Clinical Testing and Laboratory-Clinical correlations.)。血小板マトリックス中のCO2の溶解は、pHの低下および付随する血小板生存能の低下をもたらす(上記Slichter, S., 1981)。これは、血小板集団を血液の生理的なpHでまたはその近くで保つよう選択される緩衝剤を血小板集団へ添加することにより解決し得る。同様に、慣例的な血小板パックは、パックの中へのおよびパックからの気体輸送(O2入りおよびCO2出)を最大にするために十分に透過可能な材料で設計または構成される材料で形成される。血小板パックの設計および構成における先行技術の制限は、低温保存温度で血小板の貯蔵を可能にする、本発明により不要になり、その結果、実質的に血小板代謝は低下し、かつ貯蔵中に血小板より発生するのCO2量は減少する。従って、本発明は、実質的にCO2および/またはO2を透過しない血小板容器をさらに提供し、その容器は血小板の低温貯蔵に特に有用である。気体が透過可能なおよび透過可能でない両方の態様において、発明は、血小板が低温貯蔵および続くインビボでの循環をする能力があるように、その中に導入された血小板の糖質を実質的に修飾するのに十分な量のグリカン修飾剤の量をその中に有する血液貯蔵容器を提供する。
【0087】
本発明はまた、キット内容物を用いるために適切なパッケージ化材料および取扱説明書をさらに含む、血小板の収集、加工および貯蔵のために用いられるキットも提供する。血液および血液産物の取り扱いおよび貯蔵を含む標準的な医療行為に従って、キット中の全ての試薬および供給物は、滅菌していることが好ましい。キット内容物を滅菌するための方法は、当技術分野において公知であり、例えば、エチレンガス、照射などである。ある態様において、キットは静脈穿刺供給物および/または血液収集供給物、例えば注射針セット、血小板ドナーの皮膚を滅菌するための溶液、および血液収集バッグまたは血液収集容器を含んでもよい。好ましくは、容器は、「閉鎖されている」、すなわち実質的に周囲環境から密閉されている。このような閉鎖された血液収集容器は、当技術分野において周知であり、その中に含まれる血小板調製物の微生物混入を妨げる手段を提供する。他の態様は、血液収集および血小板アフェレーシスのための供給物を含むキットを含む。キットは、容器中に収集および貯蔵された血小板の容量を修飾するのに十分な量のグリカン修飾剤をさらに含んでもよい。ある態様において、キットは、血小板の末端グリカンを第2のまたは第3の化学成分で修飾する、例えば収集された血小板をペグ化するための試薬を含む。他の態様において、キットは、グリカン修飾剤が容器により保有される血液または血小板の容量を処置するのに十分な量で容器の中に提供される、血液貯蔵容器を有する血液収集システムを含む。グリカン修飾剤の量は、容器の容量によると考えられる。グリカン修飾剤は、滅菌した非化膿性溶液として提供されることが好ましいが、凍結乾燥された粉体として提供されてもよい。例えば、血液バッグは250 mlの収容力を有し提供される。血液バッグ中に含まれるのは、250 mlの血液が添加された場合、UDP-Galの最終濃度が約1200マイクロモルであるような量のUDP-Galである。他の態様は、異なる濃度のグリカン修飾剤、例えば、これに限定されないが、10マイクロモルから10ミリモル、および好ましくは100マイクロモルから1.2ミリモルのグリカン修飾剤の最終濃度をもたらす量を含む。他の態様は、例えば、容器の中へ導入された血液産物に対してN結合型糖タンパク質のシアリル化まはたガラクトシル化をもたらすような、グリカン修飾剤の組合せを使用する。
【0088】
本発明は、以下の実施例を参照することによりさらに十分に理解されると考えられる。しかしながら、これらの実施例は、本発明の態様を例示することのみを企図しており、本発明の範囲を限定するよう解釈されない。
【0089】
実施例
実施例1
導入
穏当に冷やすことは、活性化に対して血小板を刺激するが、冷蔵は、治療用輸注のための血小板の貯蔵を危うくする、形状変化および急速なクリアランスをもたらす。発明者らは、形状変化の阻害は低温で誘導されるクリアランスを正常化しないことを見出した。発明者らはまた、冷やした血小板が、大部分は肝臓マクロファージ上に発現する補体受容体3受容体(CR3)による認識の標的となるように、フォンウィルブランド因子(vWF)受容体複合体αサブユニット(GP1bα)の表面立体配置を再配置し、血小板の食作用およびクリアランスをもたらすことも見出した。GP1bα除去は、冷却していない血小板の生存を延長する。冷却した血小板は、vWFに結合し、そしてCR3欠損マウスの中へ輸注後にインビトロおよびエクスビボで正常に機能する。しかしながら、冷やされた血小板は、トロンビンまたはADPに曝露された血小板のように「活性化されて」おらず、そのvWf-受容体複合体は、活性化されたvWfと正常に反応する。
【0090】
温度が37℃より下に下がった場合、血小板は、「プライミング」として公知の現象である血栓性の刺激による活性化にさらに影響されやすくなり、(Faraday and Rosenfeld, 1998; Hoffmeister et al., 2001)。プライミングは、最も損傷が起こる体表のより低い温度で出血を限定する適応である可能性がある。発明者らは、肝クリアランスシステムの目的は繰り返し刺激された血小板を除去することであり、このクリアランスを促進するGP1bαの構造変化は、GP1bαの止血に重要なvWfへの結合に影響を与えないということを提案する。従って、GP1bαの選択的な修飾は、輸注のための血小板の低温貯蔵に対応する可能性がある。
【0091】
材料および方法
発明者らは、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)-結合アネキシンV、フィコエリトリン(PE)-結合抗ヒトCD11b/Mac-1モノクローナル抗体(mAb)、FITC結合抗マウスおよび抗ヒトIgM mAb、FITC結合抗マウスおよび抗ヒトCD62P-FITC mAbをPharmingen (San Diego, CA)から、FITC結合ラット抗マウス抗ヒトIgG mAbをSanta Cruz Biotechnology, Inc. ( Santa Cruz, CA)から、FITC結合抗ヒトCD61mAb(クローンBL-E6)をAccurate Scientific Corp. (Westbury, NY)から、FITC結合抗ヒトGP1bα mAb(クローンSZ2)をImmunotech (Marseille, France)から、およびFITC結合ポリクローナルウサギ抗vWf抗体をDAKOCytomation (Glostrup, Denmark)から入手した。発明者らは、EGTA-アセトキシメチルエステル(AM)、ヒト血漿由来のオレゴングリーン結合フィブリノーゲン、CellTracker(商標)オレンジCMTMR; CellTrackerグリーンCMFDA、ナイルレッド(Nile-red)(535/575)結合およびカルボン酸で修飾された1 μm微粒子/FluoSpheresをMolecular Probes, Inc. (Eugene, OR)から、ならびに111インジウムをNEN Life Science Products (Boston, MA)から購入した。発明者らは、サイトカラシンB、ジメチルスルホキシド(DMSO)、イソチオシアネート三ナトリウム(TRITC)、ヒトトロンビン、プロスタグランジンE1(PGE1)、ホルボールエステル12-テトラデカノイルホルボール-13アセタート(phorbol ester 12-tetradecanoylphorbol-13 acetate)(PMA)、A23187イオノフォアをSigma (St. Louis, MO)から; ボトロセチンをCenterchem Inc. (Norwalk, CT)から;およびO-シアロ糖タンパク質-エンドペプチダーゼをCerladane (Hornby, Canada)から購入した。Ca2+およびMg2+を含むHBSS pH 6.4、RPMI 1640、0.05% トリプシン-EDTA(0.53 mM)を含みCa2+およびMg2+を含まないHBSS、および他の補充物(ペニシリン、ストレプトマイシンおよびウシ胎児血清)はGIBCO Invitrogen Corp. (Grand Island, NY)からであった。TGF-β1はOncogene Research Products (Cambridge, MA)から、1,25-(OH)2ビタミンD3はCalbiochem (San Diego, CA)から、およびアデノシン-5'-二リン酸(ADP)はUSB (Cleveland, OH)からであった。アベルチン(Avertin)(2,2,2- トリブロモエタノール)はFluka Chemie (Steinheim, Germany)から購入した。コラーゲン関連ペプチド(CRP)は、Tufts Core Facility, Physiology Dept. (Boston, MA)で合成され、そして以前に記載されているように(Morton et al., 1995)架橋した。モカラギン(Mocarhagin)、ヘビ毒メタロプロテアーゼは、Dr. M. Berndt, Baker Medical Research Institute, Melbourne Victoria 318 1, Australiaより提供された。追加の結合されていない抗マウスGP1bα mAbおよびPE結合抗マウスGP1bα mAb pOp4は、Dr. B. Nieswandt (Witten/Herdecke University, Wuppertal, Germany)より提供された。発明者らは、THP-1細胞をAmerican Type Culture Collection (Manassas, VA)から入手した。
【0092】
動物
クリアランスおよび生存試験のアッセイのために、発明者らは、Jackson Laboratory (Bar Harbor, ME)から入手した齢、系統および性が合うC57BL/6およびC57BL/6×129/sv野生型マウスを用いた。補体成分C3を欠損したC57BL/6×129/svマウス(Wessels et al., 1995)は、Dr. M. C. Carroll (Center for Blood Research and Department of Pediatrics, Harvard Medical School, Boston, MA)より提供された。CR3を欠損したC57BL/6マウス(Coxon et al., 1996)は、Dr. T Mayadasより提供され、vWfを欠損したC57BL/6マウス(Denis et al., 1998)は、Dr. D. Wagnerより提供された。マウスは、The Guide for the Care and Use of Laboratory Animalsに記載のNIHスタンダードに従って、Harvard Medical Area Standing Committee on Animalsによって承認されたように維持されかつ扱われた。
【0093】
ヒト血小板
(Institutional Review Boards of both Brigham and Women's HospitalおよびCenter forBlood Research (Harvard Medical School)から認可を得た)同意した正常なヒトボランティアから0.1倍量のAster-Jandlシトラートに基づく抗凝固剤の中へ静脈穿刺により採血し(Hartwig and DeSisto, 1991)、血小板に富む血漿(PRP)を室温で20分間、300×gでの抗凝固処理された血液の遠心分離により調製した。血小板を、室温で低分子量セファロース2Bカラムを通すゲル濾過により血漿タンパク質から分離した(Hoffmeister et al., 2001)。以下に記載されるインビトロ食作用アッセイにおいて用いられる血小板を、37℃で20分間、1.8 μM CellTracker(商標)オレンジCMTMR(CM-Orange)で標識し(Brown et al., 2000)、取り込まれなかった色素を、140 mM NaCl、5 mM KCl、12 mM シトラート三ナトリウム、10 mM グルコース、および12.5 mM スクロース、1 μg/ml PGE1を含む洗浄緩衝剤、pH 6.0(緩衝剤A)の5倍量で遠心分離(850×g、5分)により除去した。血小板を、140 mM NaCl、3 mM KCl、0.5 mM MgCl2、5 mM NaHCO3、10 mM グルコースおよび10 mM Hepesを含む溶液、pH 7.4 (緩衝剤B)中で3×108/mlで再懸濁した。
【0094】
GP1bαのN末端を冷却したまたは室温で維持されかつ標識された血小板の表面から1 mM Ca2+および10 μg/mlのヘビ毒メタロプロテアーゼ モカラギンをさらに含む緩衝剤B中で酵素的に除去した(Ward et al., 1996)。酵素消化の後、血小板を5倍量の緩衝剤Aで遠心分離により洗浄し、顕微鏡法により凝集物を慣例的に確認した。GP1bα-N末端除去を、室温で10分間、血小板懸濁液を5 μg/mlのFITC結合抗ヒトGP1bα(SZ2)mAbでインキュベート、続いてFACScaliburフローサイトメーター(Becton Dickinson Biosciences, San Jose, CA)上で即時フローサイトメトリー分析することによりモニターした。血小板を前方/側方散乱特性によりゲートし、50,000イベントを獲得した。
【0095】
マウス血小板
マウスに3.75 mg/g(2.5%)のアベルチンで麻酔をかけ、1 mlの血液を眼窩後眼神経叢(retroorbital eye plexus)から0.1倍量のAster-Jandl抗凝固剤の中へ得た。PRPを室温で8分間、300×gでの抗凝固処理された血液の遠心分離により調製した。血小板を1200×gで5分間の遠心分離により血漿タンパク質から分離し、5倍量の洗浄緩衝剤(緩衝剤A)を用いて遠心分離(1200×g、5分間)により2回洗浄した。「洗浄した」という用語のその後の使用は、この工程を意味する。血小板を、140 mM NaCl、3 mM KCl、0.5 mM MgCl2、5 mM NaHCO3、10 mM グルコースおよび10 mM Hepesを含む溶液、pH 7.4(緩衝剤B)中で1×109/mlの濃度で再懸濁した。血小板数を400×倍率での位相差顕微鏡下、Bright Line Hemocytometer(Hausser Scientific, Horsham, PA)を用いて決定した。いくつかの放射性血小板クリアランス試験を111インジウムで行った、そして発明者らは齧歯類血小板に対して記載された方法(Kotze et al., 1985)を用いてマウス血小板を標識した。血小板を0.9% NaCl、pH 6.5(0.1 M ナトリウムシトラートで調整される)中で2×109/mlの濃度で再懸濁した、続いて37℃で30分間、500 μCiの111塩化インジウムを添加し、上記に記載のように洗浄し、そして緩衝剤B中で1×109/mlの濃度で再懸濁した。
【0096】
生体内顕微鏡法または他の血小板生存実験のために、洗浄された血小板を、0.001% DMSO、20 mM HEPESをさらに含む緩衝剤B中で、37℃で20分間2.5 μM CellTrackerグリーンCMFDA(5-クロロメチルフルオレセイン二酢酸)(CMFDA)(Baker et al., 1997)、または37℃で20分間0.15 μM TRITCのいずれかで標識した。取り込まれなかった色素を上記に記載されたような遠心分離により除去し、血小板を緩衝剤B中で1×109/mlの濃度で懸濁した。
【0097】
GP1bαのN末端を、1 mM Ca2+を含む緩衝剤B中で、37℃で20分間、100 μg/ml O-シアロ糖タンパク質エンドペプチダーゼを用いて、冷却したまたは室温の標識された血小板の表面から酵素的に除去した(Bergmeier et al., 2001)。酵素消化後、血小板を遠心分離により洗浄し、光学顕微鏡法により凝集物を確認した。GP1bα-N末端除去の酵素的除去を、血小板懸濁液を5 μg/mlのPE結合抗マウスGP1bαmAb pOp4と共に室温で10分間インキュベートすることによりモニターし、フローサイトメトリーにより結合PEを分析した。
【0098】
低温で誘導される血小板形状変化を抑制するために、緩衝剤B中で109/mlの血小板を、以前に記載されたように(Winokur and Hartwig, 1995)、2 μM EGTA-AM続いて2 μM サイトカラシンBでロードし、37℃で30分間2.5 μM CMFDAで標識し、その後冷却したまたは室温で維持した。血小板を、マウスの中への注射前に、緩衝剤B 中で1×109/mlの濃度で標準的な洗浄および懸濁に供した。
【0099】
血小板温度プロトコル
血小板の生存または機能に対する温度の効果を試験するために、標識されていない、放射活性物質で標識された、もしくは蛍光で標識されたマウスまたはヒト血小板を、室温(25〜27℃)で2時間、でなければ氷浴温度でインキュベートし、その後マウスの中への輸注またはインビトロ分析前に、37℃で15分間再び温めた。これらの処置に供される血小板はそれぞれ、冷やされたまたは冷却した(もしくは冷却し、再び温められた)および室温の血小板と呼ばれる。
【0100】
マウス血小板の回復、生存および運命
CMFDAで標識された冷却したまたは室温のマウス血小板(108)を、27-ゲージ針を用いて側面尾静脈経由で同系のマウスの中に注射した。回復および生存の決定のために、血液サンプルを輸注後直ちに(2分未満)および0.5、2、24、48、72時間で、0.1倍量のAster-Jandl抗凝固剤の中へ収集した。フローサイトメトリーを用いる全血分析を行い、CMFDA陽性血小板の百分率をその前方および側方散乱特性に従う(Baker et al., 1997)全血小板に対するゲーティングにより決定した。50,000イベントを各試料中収集した。2分未満の時間で測定されたCMFDA陽性血小板を100%として設定した。マウス1匹当たりの輸注された血小板のインプットは、全血小板集団の〜2.5-3%だった。
【0101】
血小板の運命を評価するために、組織(心臓、肺、肝臓、脾臓、筋肉、および大腿骨)を、マウスの中への108の冷却したまたは室温の111インジウムで標識された血小板の注射後0.5、1および24時間で採取した。臓器重量およびその放射能をWallac 1470 Wizard自動ガンマカウンター(Wallac Inc., Gaithersburg, MD)を用いて決定した。データを器官1グラム当たりのガンマ数として表示した。放射能血小板の回復および生存の決定のために、血液試料を、0.1倍量のAster-Jandl抗凝固剤の中への輸注後直ちに(2分未満)ならびに0.5および数時間で収集し、そのガンマ数を決定した(Kotze et al., 1985)。
【0102】
血小板凝集
通常の試験を行い、Bio/Dataアグリゴメーター(aggregometer)(Horsham, PA)内でモニターした。0.3〜mlマウスの洗浄されかつ攪拌された血小板の試料を、1 U/ml トロンビン、10 μM ADP、または3 μg/ml CRPに37℃で曝露した。光透過率を3分を超えて記録した。
【0103】
活性化されたVWf結合
血小板に富む血漿を37℃で5分間、2 U/ml ボトロセチンでまたはそれ無しで処置した(Bergmeier et al., 2001)。結合したvWfをFITC結合ポリクローナルウサギ抗vWf抗体を用いるフローサイトメトリーにより検出した。
【0104】
血小板Gp1bαの表面標識
室温で維持されまたは2時間冷却した、休止マウス血小板を、0.05% グルタルアルデヒドを含むリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中で2×106/mlの濃度に希釈された。血小板溶液(200 μl)を96ウェルプレートのウェル中に含まれるポリリシンでコーティングされたカバーグラス上に配置し、血小板を室温で5分間1,500×gでの遠心分離により各カバーグラスに付着させた。その後、上清流体を除去し、カバーグラスに結合した血小板を0.5%グルタルアルデヒドを用いてPBS中で10分間固定させた。固定剤、PBS中に0.1%水素化ホウ素ナトリウムを含む溶液でクエンチされた未反応のアルデヒドを除去し、続いて10%BSAを含むPBSで洗浄した。血小板表面上のGP1bαを3種類のラット抗マウスGP1bαモノクローナル抗体、各10 μg/mlの混合剤で1時間(Bergmeier et al., 2000)標識し、その後ヤギ抗ラットIgGでコーティングされた10 nm金が続いた。カバーグラスをPBSで徹底的に洗浄し、1%グルタルアルデヒドで固定化後、蒸留水で再び洗浄し、急速に冷凍し、凍結乾燥し、Cressington CFE-60 (Cressington, Watford, UK)中で1.2 nmのプラチナで回転式コーティングされ、その後回転無しで4 nmの炭素が続いた。血小板をJEOL 1200-EX電子顕微鏡(Hartwig et al., 1996; Kovacsovics and Hartwig, 1996)内で100 kVで検分した。
【0105】
インビトロ食作用アッセイ
単球THP-1細胞を、10%ウシ胎児血清、25 mM Hepes、2 mM グルタミンで補われるRPMI 1640細胞培養培地中で7日間培養し、1 ng/ml TGFPおよび50 nM 1,25-(OH)2ビタミンD3を用いて24時間分化させ、CR3の発現増加が伴う(Simon et al., 2000)。CR3発現をPE結合抗ヒトCD11b/Mac-1 mAbを用いるフローサイトメトリーによりモニターした。未分化のまたは分化したTHP-1細胞(2×106/ml)を24ウェルプレートの上に蒔いて培養し、37℃で45分間付着させた。付着した未分化のまたは分化したマクロファージを15 ng/ml PMAの添加により15分間活性化した。予め異なる処置に供された、CM範囲で標識された、冷却したまたは室温の血小板(10/ウェル)を、Ca2+およびMg2+を含むHBSS中で未分化のまたは分化した食細胞に添加し、37℃で30分間インキュベートした。インキュベーション期間に続いて、食細胞単層をHBSSで3回洗浄し、血小板の付着または摂取のフローサイトメトリー分析のためにマクロファージを引き離すため付着した血小板を0.05%トリプシン/0.53 mM EDTAを含むHBSSで37℃5分間続いて4℃で5 mM EDTAの処置により除去した(Brown et al., 2000)。ヒトCMオレンジで標識された、冷却したまたは室温の血小板は全て、新鮮に単離された非標識の血小板と同量の血小板特異的マーカーCD61を発現した(示されていない)。マクロファージと一緒にインキュベートされたCMオレンジで標識された血小板を、それらの前方および側方散乱特性に従って食細胞から分離した。マクロファージ、各試料に対して獲得した10,000イベントをゲートし、データをCELLQuestソフトウェア(Becton Dickenson)で分析した。食細胞集団を関連付けるCMオレンジで標識された血小板はオレンジ蛍光においてシフトを有する(図6aおよび図6b、摂取、y軸)。それらCD61に対するFITC結合mAbで二重ラベルできなかったため、これらの血小板を付着のみよりむしろ摂取した。
【0106】
血小板の免疫標識およびフローサイトメトリー
洗浄されたマウスまたはヒト血小板(2×106)を、冷却または室温貯蔵の後37℃で10分間フルオロフォア結合Ab(5 μg/ml)で染色することにより、CD62P、CD61または表面結合IgMおよびIgGの表面発現を分析した。冷却したまたは室温の血小板によるホスファチジルセリン露出を、5 μlの血小板を10 mM Ca2+を含む400 μlのHBSS中で10 μg/mlのFITC結合アネキシンVと共に再懸濁することにより決定した。PS露出の陽性対照として、血小板懸濁液を1 μM A23187で刺激した。フィブリノーゲン結合を室温で20分間オレゴングリーン-フィブリノーゲンの添加により決定した。全ての血小板試料をフローサイトメトリーにより直ちに分析した。血小板を前方および側方散乱特性によりゲートした。
【0107】
生体内顕微鏡法実験
動物の調製、生体内ビデオ顕微鏡法準備の技術的局面および実験的局面は、記載されている(von Andrian, 1996)。両方の性別の6から8週齢マウスにキシラジンおよびケタミンの混合物の腹腔内注射により麻酔をかけた。右頸静脈にPE-10ポリエチレン管系でカテーテルを入れた。左肝葉の下面を外科的に調製し、記載されたように(McCuskey, 1986)さらなるインビボ顕微鏡法のためにカバーグラスにより覆われた。CMFDAおよびTRITCそれぞれで標識された、108の冷却した血小板および室温血小板を1:1で混合し、静脈内に投与した。肝臓類洞における標識された血小板の循環をビデオ誘発ストロボ落射照明(video triggered stroboscopic epi-illumination)により追跡した。10ビデオ場面をそれぞれ指示された時点で3つの小葉中心体(centrilobular zone)から記録した。同じ可視化領域における冷やされた(CMFDA)付着血小板/RT(TRITC)付着血小板の比率を計算した。共焦点顕微鏡法を、10×浸水対象を用いる、Olympus BX 50 WJ upright microscope (Biorad, Hercules, CA)に連結されたRadiance 2000 MP confocal-multiphotonイメージングシステムを用いて行った。イメージをLaser Sharp 2000ソフトウェア(Biorad) (von Andrian, 2002)で捕捉および分析した。
【0108】
流血(shed blood)における血小板凝集
発明者らは、霊長類に対して記載されているように(Michelson et al., 1994)、傷から現れる全血における血小板による凝集物形成を分析するためにフローサイトメトリー法を用いた。発明者らは、108のCMFDAで標識された室温マウス血小板を同系の野生型マウスの中へ、および108のCMFDAで標識された冷却した血小板をCR3欠損マウスの中へ注射した。血小板注入後24時間、3-mm区分のマウス尾を切断する、標準的な出血時間アッセイを行った(Denis et al., 1998)。切断された尾を100 μlの0.9%等張食塩水中に37℃で浸した。現れた血液を2分間収集し、0.1倍量のAster-Jandl抗凝固剤を添加し、直ちに1%パラホルムアルデヒド(最終濃度)が続いた。上に記載されているように、末梢血を平行して眼窩後眼神経叢出血より得、直ちに1%パラホルムアルデヒド(最終濃度)で固定した。フローサイトメトリーによりインビボ凝集物の数を分析するために、出血時間傷から現れる流血、ならびに末梢全血試料を希釈し、PE結合抗マウスGP1bαmAb pOp4(5 μg/ml、10分)で標識した。血小板を、それらの前方散乱特性およびGP1bα陽性に従ってゲートすることにより赤血球および白血球から区別した。その後、(血小板の大きさを反映する)GP1bα結合に対する対数前方散乱光のヒストグラムを生成した。末梢全血試料において、前方散乱軸上の集団の95%(領域1)およびこの前方散乱光閾の上方に現れる粒子の5%(領域2)を含むよう、分析領域をGP1bα陽性粒子の周りにプロットした。同じ領域を流血試料に対して用いた。単一血小板の数の百分率として流血中の血小板凝集物の数を、以下の色から計算した:[(流血の領域2中の粒子の数)-(末梢血の領域2中の粒子の数)]÷(流血の領域1中の粒子の数)×100%。注入された血小板をそのCMFDA標識により同定し、CMFDA陰性非注入血小板から区別した。
【0109】
マウス血小板フィブリノーゲン結合および循環血小板のP-セレクチン露出のフローサイトメトリー分析
室温のCMオレンジで標識された室温血小板(108)を野生型マウスの中に、およびCM-オレンジで標識された冷却した血小板(108)をCR3欠損マウスの中に注射した。血小板注入後24時間、マウスを出血させ、血小板を単離した。休止しているまたはトロンビン活性化された(1 U/ml、5分)血小板懸濁液(2×108)をPBS中で希釈し、それぞれをFITC結合抗マウスP-セレクチンmAbでまたは50 μg/mlオレゴングリーン結合フィブリノーゲンで、室温で20分間染色した。血小板試料を直ちにフローサイトメトリーにより分析した。輸注された血小板および輸注されていない血小板をその前方散乱特性およびCM-オレンジ蛍光特性によりゲートした。P-セレクチン発現およびフィブリノーゲン結合を、トロンビンの刺激前および後に。それぞれCM-オレンジ陽性集団および陰性集団として測定した。
【0110】
統計値
生体内顕微鏡法データを平均±SEMとして表す。集団を非対応t検定を用いて比較した。0.05より小さいP値を有意と見なした。全ての他のデータは平均±SDとして表示する。
【0111】
結果
冷却した血小板のクリアランスは大部分は肝臓中に生じ、血小板の形状と無関係である
室温(RT)で保たれかつ同系のマウスの中に注入されたマウス血小板は、約80時間にわたってほぼ一定速度で消失する(図1A)。対照的に、氷浴温度で冷却し注射前に再び温められた(低温)マウス血小板の約2/3は、ヒトおよびマウスにおいて以前に観察されたように(Becker et al., 1973; Berger et al., 1998)急速に循環から消失する。その円板状の形状を保存するために細胞透過性カルシウムキレート剤EGTA-AMおよびアクチンフィラメント反矢じり端キャッピング剤サイトカラシンBで処置された(Winokur and Hartwig, 1995)、冷却しかつ再び温められた血小板(低温+CytoB/EGTA)は、これらの血小板がインビトロでトロンビン、ADPまたはコラーゲン関連ペプチド(CRP)で誘導される凝集により決定されるように十分に機能するという事実(図1B)にもかかわらず、冷却した未処置の血小板と同じ位急速に去った。輸注の直後の注入された血小板の回復は50〜70%で、血小板消失の反応速度は、発明者らが血小板を標識するために111インジウムまたはCMFDAを用いても、区別がつかなかった。室温のおよび冷却したマウス血小板の相対的な生存割合は、同じように処置されたマウス血小板(Berger et al., 1998)およびヒト血小板(Becker et al., 1973)に対して以前に報告された値に似ている。
【0112】
図1Cは、室温のおよび冷却したマウス血小板の器官目的地が異なることを示す。室温血小板は主として最後に脾臓に行くのに対し、肝臓は循環から除去された冷却した血小板の主要な居住地である。室温血小板と24時間で比較して111インジウムで標識された冷却した血小板を受ける動物の腎臓中で検出される放射性ヌクレオチドのより大きな画分は、冷却した血小板のより急速な分解および泌尿器系への遊離放射性核種の送達を反映している可能性がある。注入後1時間、CMFDAで標識された血小板の器官分布は、111インジウムで標識された血小板のそれに相当した。いずれにしても、標識され冷却した血小板集団の60〜90%は肝臓中に、〜20%は脾臓中におよび〜15%は肺中に沈積する。対照的に、注入された室温血小板の1/4は、等しく肝臓、脾臓および肺の間に分布した。
【0113】
冷却した血小板は肝臓マクロファージ(クッパー細胞)と共存する
肝臓による冷却した血小板のクリアランスおよび血小板分解の証拠は、クッパー細胞、肝臓の主要な食作用性スカベンジャー細胞による冷却した血小板の認識および摂取と矛盾がない。図1Dは、輸注後1時間のマウス肝臓部位の代表的な共焦点顕微鏡写真における食作用性クッパー細胞および付着した冷却したCMFDAで標識された血小板の位置を示す。類洞マクロファージを、ナイルレッドでしるしがつけられた1 μmのカルボキシル修飾ポリスチレン微小球の注射により可視化した。輸注された血小板およびマクロファージの共存は、両方の蛍光発光の合体した顕微鏡写真中で黄色で示される。冷却した血小板は、ナイルレッドで標識された細胞と共に類洞マクロファージに富む部位である肝臓腺房の門脈周囲領域および中央帯状領域(midzonal domain)中に選択的に局在する(Bioulac-Sage et al., 1996; MacPhee et al., 1992)。
【0114】
CR3欠損マウスは冷却した血小板を急速に取り除かない
CR3(αMβ2インテグリン; CD11b/CD18; Mac-1)は、肝臓のマクロファージによるクリアランスと無関係の抗体の主要な媒介物である。図2aは、両方の血小板集団のクリアランスが野生型マウスのそれ(図1a)と比較してCR3欠損マウスにおいてより短いが、冷却した血小板がCR3欠損動物において室温血小板と同じ反応速度で循環することを示す。野生型マウスと比較してCR3欠損マウスによるわずかに早い血小板除去速度の理由は不確かである。冷却しかつ再び温められた血小板はまた、CR3を介する食作用およびクリアランスを促進する主要なオプソニンを失っている、補体因子3 C3欠損マウス(図2c)およびフォンウィルブランド因子(vWf)欠損マウス(Denis et al., 1998)(図2b)からも急速に取り除かれる。
【0115】
冷却した血小板はインビボでクッパー細胞にしっかりと付着する
野生型肝臓類洞への血小板付着はさらに、生体内顕微鏡法により調べられ、一緒に注入された冷却した付着血小板と室温で貯蔵された付着血小板の間の比率を決定した。図3は、冷却したおよび室温の血小板の両方が類洞領域に高いクッパー細胞密度で取り付いているが(図3aおよび図3b)、室温血小板より2.5から4倍多くの冷却した血小板が野生型マウスにおけるクッパー細胞に取り付いている(図3c)ことを示す。対照的に、CR3欠損マウスにおけるクッパー細胞に付着している血小板の数は、冷却または室温曝露に無関係であった(図3c)。
【0116】
GP1bαのN末端ドメインを欠く冷却した血小板は、正常に循環する
GP1bα、vWfに対するGP1b-IX-V受容体複合体の構成要素は、インビトロである条件下でCR3に結合出来るので(Simon et al., 2000)、発明者らは、GP1bαをCR3に対する冷却した血小板上の可能性ある対の受容体として調査した。O-シアロ糖タンパク質エンドペプチダーゼは、マウス血小板GP1bαの45-kDa N末端細胞外ドメインを切断し、αIIbβ3、α2α1、GPVI/FCRγ鎖およびプロテアーゼで活性化された受容体などの他の血小板受容体を無傷の状態にしておく(Bergmeier et al., 2001)。よって、発明者らは、GP1bαの細胞外ドメインのこの部分をマウス血小板からO-シアロ糖タンパク質エンドペプチダーゼで取り除き(図4A挿入図)、室温または低温インキュベーション後にマウスにけるそれら生存を試験した。図4Aは、冷却した血小板がGP1bαの切断後にもはや急速なクリアランスを呈さないことを示す。加えて、GP1bαを除去された室温で処置された血小板は、GP1bαを含む室温対照と比較した場合、わずかに延長した生存時間(〜5〜10%)を有する。
【0117】
冷却は血小板vWf-受容体への活性化vWfの結合に影響を与えないが、血小板表面上でGP1bαのクラスター形成を誘導する
図4Bは、血小板の冷却はマウス血小板表面上でGP1bαの分布の変化をもたらすが、ボトロセチンで活性化されたvWfは低温血小板上と同様に、室温でもGP1bαに良好に結合することを示す。免疫金で標識されたモノクローナルマウス抗GP1bα抗体により同定される、GP1bα分子は、室温で休止円板状血小板の滑面上に直線状の凝集物を形成する(図4C、RT)。この配置は、休止血液血小板の構造についての情報と矛盾がない。GP1bαの細胞質ドメインは、フィラメントA分子の仲介を介して血小板膜の平面に接して曲がるロングフィラメントに結合する(Hartwig and DeSisto, 1991)。冷却後(図4C、冷却)、多くのGP1bα分子は、内部アクチン再構成により変形する血小板膜にわたるクラスターとして組織化する(Hoffmeister et al., 2001; Winokur and Hartwig, 1995)。
【0118】
冷却したヒト血小板のCR3媒介食作用によるインビトロ血小板GP1bαの認識
TGF-β1および1,25-(OH)2ビタミンD3を用いるヒト単球様THP-1細胞の分化は、CR3の発現を〜2倍まで増加する(Simon et al., 1996)。冷却は、CR3による血小板取り込みの中央値と矛盾しない、未分化THP-1による血小板食作用の3倍の増加および分化したTHP-1細胞による〜5倍の増加をもたらす(図5Bおよび図5C)。対照的に、THP-1細胞の分化は、室温で貯蔵された血小板の取り込みに対して有意な効果を有さない(図5Aおよび図5c)。GP1bαが冷却したヒト血小板上でCR3媒介食作用の対の受容体かどうか決定するために、発明者らは、GP1bαの細胞外ドメインを除去するために、ヘビ毒メタロプロテアーゼ モカラギンを用いた(Ward et al., 1996)。モカラギンでのヒト血小板の表面からのヒトGP1bαの除去は、冷却後のその食作用を〜98%まで減じた(図5C)。
【0119】
低温で誘導される血小板クリアランスの他の媒介物の排除
表1は、冷やすことがGP1bαより他の血小板受容体の発現またはそれらのリガンドとの相互作用に影響を与えるかどうかを試験した実験の結果である。これらの実験は、αIIbβ3インテグリン密度であるP-セレクチンの発現、またはαIIbβ3活性化のマーカーであるαIIbβ3フィブリノーゲン結合に対して検出可能な効果を示さなかった。冷却はまた、アポトーシスの指標、ホスファチジルセリン(PS)露出も増加せず、またIgGまたはIgMイムノグロブリンの血小板結合をも変化しなかった。
【0120】
(表1)血小板受容体への種々の抗体またはリガンドの結合に対する冷却の効果

【0121】
冷却し再び温められたもしくは室温のヒトまたはマウス血小板上の種々の受容体に対する蛍光で標識された抗体またはリガンドの結合を、フローサイトメトリーにより測定した。データは、室温血小板に対する冷却した血小板の表面への平均フルオロフォア結合間の比率として表示した(平均±SD、n=3〜4)。
【0122】
循環する冷却した血小板はCR3欠損マウスにおいて止血機能を有する
野生型マウスにおけるそれらの急速なクリアランスにもかかわらず、CM-オレンジまたはCMFDAで標識された冷却した血小板は、3つの独立の方法により決定されるように、CR3欠損マウスの中に注入後24時間機能した。第1に、冷却した血小板は、標準化された尾静脈出血傷から現れる流血中の血小板凝集物の中に取り込まれる(図6)。野生型マウスの中に輸注されたCMFDA陽性室温血小板(図6b)およびCR3欠損マウスの中に輸注されたCNIFDA陽性冷却した血小板は(図6d)、レシピエントマウスのCMFDA陰性血小板と同じ程度に流血中に凝集物を形成させた。第2に、トロンビンによるエクスビボ刺激に続いて、CR3欠損マウスの中へのCM-オレンジで標識された冷却しかつ再び温められた血小板の輸注後24時間のαIIbβ3上のフィブリノーゲン結合部位の血小板表面露出により決定される。第3に、冷却しかつ再び温められたCM-オレンジ血小板は、トロンビン活性化に反応してP-セレクチンの上方制御する能力が十分あった(図6e)。
【0123】
考察
低温で誘導される血小板形状変化単独ではインビボで血小板クリアランスをもたらさない
冷やすことは、細胞内細胞骨格再構成により媒介される広範囲な血小板形状変化を急速に誘導する(Hoffmeister et al., 2001; White and Krivit, 1967; Winokur and Hartwig, 1995)。これらの変化は、再び温めることにより、完全にではないが部分的に可逆であり、再び温められた血小板は、円板状というより球状である。トロンビンによりエクスビボで活性化された注入されたマウスおよびヒヒ血小板は、広範囲な形状変化を伴い正常に循環するという証拠にもかかわらず(Berger et al., 1998; Michelson et al, 1996)、血小板の円板状の形状の保存が血小板生存の主要な必要条件であるという考えはドグマとなっている。ここに、発明者らは、冷却が形状変化とは独立にそれらの除去を媒介する血小板表面の特定の変化をもたらし、そして形状変化それ自体は急速な血小板クリアランスをもたらさないということを示している。薬学的作用剤と一緒に円板として保存される、冷却しかつ再び温められた血小板は、未処置の冷却した血小板と同じ速度で消え、ゆがんだ冷却しかつ再び温められた血小板は、CR3欠損マウスにおいて室温で維持された血小板のように循環する。血小板の小さなサイズは、これら広範囲の形状の異常にかかわらず捕捉を逃れ、循環中に残ることを可能にする可能性がある。
【0124】
冷却した血小板のクリアランスを媒介する受容体:CR3およびGP1bα
ヒトにおける正常な血小板寿命は、約7日である(Aas, 1958; Ware et 2000)。播種性血管内凝固の間に起こるような、大規模な凝固反応は血小板減少症を引き起こすので、連続的な機械的ストレスにより発生する小さな血塊の中への血小板の取り込みは疑いなく、血小板クリアランスの一因となる(Seligsohn, 1995)。インビボ血小板刺激は傷つけられた血管壁上で起こり、活性化された血小板はこれらの部位で急速に隔離されるので、このような凝固反応における血小板の運命は、Michelson et al(Michelson et al., 1996)およびBerger et al(Berger et al., 1998)の実験におけるような注入されたエクスビボで活性化された血小板のそれとは異なる。
【0125】
同種抗体および自己抗体は、免疫学的に不適合な血小板により感作された個体または自己免疫血小板減少症を伴う患者においてFc受容体関連マクロファージによる血小板の食作用性除去を促進するが、血小板クリアランスの機構に関する別の情報はほとんど存在しない。しかしながら、発明者らは、Fc受容体への血小板関連抗体の結合は冷やした血小板のクリアランスを媒介しないことを含意する、冷却したまたは室温のヒト血小板に結合するIgGまたはIgMの量は同じであることを示した。発明者らはまた、血小板の冷却は、PS露出および冷却した血小板のクリアランスにおけるスカベンジャー受容体の関与に対して影響する、インビトロで血小板表面上での検出可能なホスファチジルセリン(PS)露出も誘導しない。
【0126】
多くの刊行物が、血小板に対する低温の効果を「活性化」として言及しているが、細胞骨格で媒介される形状変化を除いて、冷却した血小板は、トロンビンまたはADPなどの刺激により活性化された血小板に似ていない。正常な活性化は、細胞内顆粒からの分泌の結果である、表面P-セレクチン発現を顕著に増加する(Berman et al., 1986)。血小板の冷却は、P-セレクチンの上方制御をもたらさないが(表1)、野生型またはP-セレクチン欠損マウスから単離された冷却した血小板のクリアランスは等しく急速である(Berger et al., 1998)。活性化はまた、αIIbβ3インテグリンの量およびそのフィブリノーゲンに対する結合活性も増加するが(Shattil, 1999)、冷やすことこれらの効果を有さない(表1)。トロンビンで活性化された血小板の正常な生存は、発明者らの発見と矛盾しない。
【0127】
発明者らは、肝臓マクロファージ上のCR3が冷やした血小板の認識およびクリアランスの主な原因であることを示している。脾臓中の豊富なCR3発現マクロファージにもかかわらず、冷却した血小板のクリアランスにおける肝臓中のCR3関連マクロファージの大部分の役割は、IgMで覆われた赤血球の主に肝臓のクリアランス(Yan et al., 2000)と矛盾がなく、CR3マクロファージによる結合および摂取を支持する肝臓の血液濾過特性を反映する可能性がある。GP1bαの細胞外ドメインはCR3にどん欲に結合し、インビトロずり応力下でTHP-1細胞のローリングおよび堅固な付着を支持する(Simon et al., 2000)。マウスGP1bαの細胞外ドメインの切断は、マウスの中に輸注された冷却した血小板の正常な生存をもたらす。ヒト冷却した血小板のGP1bα欠損は、インビトロでマクロファージ様細胞による処置された血小板の食作用を大幅に減らす。従って、発明者らは、GP1bαが、食作用による血小板クリアランスをもたらす、冷却した血小板上の肝臓マクロファージCR3の共同受容体であることを提案する。
【0128】
GP1bαのN末部分を欠く低温血小板の正常なクリアランスは、冷却した血小板クリアランスを媒介するための候補として血小板表面上で発現される分子を含む、多くの他のCR3結合パートナーの可能性を排除する。これらのリガンド候補は、ICAM-2、血小板インテグリンαIIbβ3に結合するフィブリノーゲン、iC3b、P-セレクチン、グルコサミノグリカン、および高分子量キニノーゲンを含む。発明者らは、オプソニンのC3b断片iC3bの沈着を補体因子3に欠けるマウスを用いる冷却した血小板クリアランスのための機構として排除し、αIIbβ3の発現レベルおよびフィブリノーゲン結合はまた、血小板の冷蔵後、変化がなかった。
【0129】
活性化vWfへの結合およびCR3への低温誘導された結合は、GP1bαの異なる機能であると思われる
休止している円板状血小板の表面上のGP1bαは、フィラミンAおよびフィラミンBにより膜直下のアクチン細胞骨格に付着する、GP1bα、GP1XおよびGP1Vを伴う複合体中に直線的な配列(図5)で存在する(Stossel et al., 2001)。止血におけるその役割は、血管損傷の部位でvWfの活性化型に結合することである。活性化されたvWfは休止したまたは刺激された血小板上でGP1bαに等しく良く結合するので、活性化されたvWfへのGP1bα結合は、本質的であり、血小板からの積極的な寄与を必要としない。トロンビンおよび他のアゴニストによる懸濁液中の血小板の刺激は、血小板に部分的に血小板表面から開放小管系(open canalicular system)である内膜ネットワークの中への再分布を引き起こすが、インビボで血小板クリアランス(Berger et al., 1998; Michelson et al., 1996)またはインビトロで食作用(刊行されていない知見)をもたらさない。しかしながら、血小板の冷却は、内部移行よりむしろGP1bαクラスター形成を引き起こす。それはサイトカラシンBの存在下で起こるので、このクラスター形成は、反矢じり端アクチン集合には関係ない。
【0130】
CR3による血小板GP1bαの低温促進認識にもかかわらず、それはGP1bαとインビトロで活性化されたvWfの間の相互作用に効果を有さず、vWf欠損マウスの中に輸注された冷却した血小板は野生型マウス中と同じくらい急速に消失する。vWfおよびCR3とのGP1bαの相互作用の分離可能性は、GP1bαの選択的修飾が低温で誘導された血小板のクリアランスをGP1bαの止血で重要なvWfとの反応性を損なうこと無しに抑制する可能性があることを示唆する。インビトロおよびCR3欠損マウスの中へ注入後の冷やした血小板の血小板機能の全ての試験は正常な結果を生じているので、適切に修飾された血小板は予想通りに止血で有効であった。
【0131】
低温で誘導される血小板クリアランスの生理学的な重要性
著しい血小板形状変化は15℃より低い温度でのみ明らかになるが、精密な生化学的な解析は、細胞骨格変化およびトロンビンへの反応性の増加が37℃を下回る温度で検出可能であることを示す(Faraday and Rosenfeld, 1998; Hoffmeister et al., 2001; Tablin et al., 1996)。低温で曝露された血小板とトロンビンまたはADPで刺激された血小板の間に残る多くの機能的な差違のために、発明者らは、それらの変化を「プライミング」として言及する。血小板活性化は、中核体温に供される冠状血管および脳血管において潜在的に致死性であるので、発明者らは、血小板が中心循環の中核温度で比較的不活性であるが、進化の歴史を通じて最も出血を受けやすい部位である、外側の体表のより低い温度で活性化に対して予備刺激される状態になるよう設計された、温度センサーであることを提案している(Hoffmeister et al., 2001)。ここに報告された発見は、GP1bαの不可逆性の変化が冷やした血小板のクリアランスの理由であることを示唆する。冷却した血小板を循環させることよりむしろ、生物体が食作用により低温で予備刺激された血小板を取り除く。
【0132】
1つは局所的に活性渇された血小板の除去のためのものであり、もう1つは過剰に予備刺激された血小板を排除するためのものである、少なくとも2つのクリアランス経路を含むシステム(図7)は、なぜ冷却した血小板が循環およびCR3欠損マウスにおいて正常に循環および機能し、GP1bαの除去後にわずかに延長された循環を有するかを何とかして説明出来る。発明者らは、いくつかの予備刺激された血小板は確率論的基礎に基づいて微少血管凝固にはいることを提案する。他は、体表温度への繰り返される曝露を受け、この繰り返しのプライミングが結局これら血小板をCR3関連肝臓マクロファージにより認識出来るようにする。冷却により予備刺激された血小板は、CR3欠損マウスにおいて正常な止血機能の能力を有し、凝固物はそれらのクリアランスの一因となる。しかしながら、冷蔵された血小板のクリアランス速度は室温で保たれた血小板のそれと区別がつかないことから、試験されたCR3欠損マウスにおける自己血小板のわずかに短い生存時間は、微少血管凝固中の正常に予備刺激された血小板のクリアランスの増加におそらく起因しない。
【0133】
発明および実施例1の背景のための参考





【0134】
実施例2
冷却した血小板食作用におけるαMβ2(CR3)レクチンドメインの影響
αMβ2(CR3)は、マンナン、グルカンおよびN-アセチル-D-グルコサミン(GlcNAc)に結合し、そのIドメインに「C-T」を位置する、カチオン非依存性糖結合レクチン部位を有する(Thornton et al, J. Immonol. 156, 1235-1246, 1996)。CD16b/αMβ2膜複合体は、β-グルカン、N-アセチル-D-グルコサミン(GalNAc)、およびメチル-α-マンノシドにより分裂するが、他の糖により分裂しないので、この相互作用はαMβ2インテグリン(CR3)のレクチン部位で起こると見られている (Petty et al, J. Leukoc. Biol. 54, 492-494, 1993; Sehgal et al, J. Immunol. 150, 4571-4580, 1993)。
【0135】
αMβ2インテグリンのレクチン部位は、広い糖特異性を持つ(Ross, R. Critical Reviews in Immunology 20, 197-222, 2000)。レクチンに結合する糖は通常、親和性が低いが、クラスター形成は、増加する結合活性によるより強い相互作用をもたらし得る。冷却に続くGP1bαのクラスター形成は、電子顕微鏡法により示されるように、この機構を示唆する。動物細胞の最も一般的なヘキソサミンは、主としてGlcNAcおよびGalNAcとして構造的糖質中で生じる、D-グルコサミンおよびD-ガラクトサミンであり、αMβ2インテグリンレクチンドメインはまたシアル酸により覆われない糖質を含む哺乳類糖タンパク質にも結合する可能性もあることを示唆する。GP1bαの可溶型、グリコカリシン(glycocalicin)は、N-ならびにO-グリコシドで結合した糖鎖を含む糖質内容物の60%を有する(Tsuji et al, J. Biol.Chem. 258, 6335-6339, 1983)。グリコカリシンは、4つの潜在的なN-グリコシル化部位を含む(Lopez, et al, Proc. Natl. Acad. Sci, USA 84, 5615-5619 ,1987)。45 kDa領域は、N-グリコシル化される2つの部位を含む(Titani et al, Proc Natl Acad Sci 16, 5610-5614, 1987)。正常な哺乳類細胞において、O-グリカンの4つの一般的なコア構造が合成され得る。それらの全ては、機能的な糖質構造を形成するよう、伸長され、シアリル化され、フコシル化され、および硫酸化される可能性がある。GP1bαのN結合糖鎖は、複合体型ならびにジ-、トリ-およびテトラ-触覚状構造である(Tsuji et al, J. Biol.Chem. 258, 6335-6339, 1983)。それらは、α(1-6)結合フコース残基を伴うAsn結合GlcNAc単位でシアリル化されたGalNAc型構造である。Ser/Thr結合を伴うAsn結合糖鎖の構造的類似点が存在する、すなわちそれらの位置は一般的なGal-GlcNAc配列である。結果は、シアル酸およびガラクトースの除去はグリコカリシンへのvWfの結合に対して影響を与えないが、GlcNAcの部分的な除去はvWf結合の阻害をもたらすことを示唆した(Korrel et al, FEBS Lett 15, 321-326, 1988)。より最近の研究は、糖質パターンがvWfの結合に直接関係すること無しに、受容体の適切な機能的な高次構造の維持に関わるということを提案した(Moshfegh et al, Biochem. Biophys. Res. Communic. 249, 903-909, 1998)。
【0136】
冷却した血小板とマクロファージの間の相互作用における糖の役割は、オリゴ糖残基の共有結合的修飾、除去またはマスキングがこの相互作用を妨げ得るという重要な結果を持つ。発明者らは、このような妨げが正常な血小板機能を損なわないとすれば、発明者らは血小板を修飾しかつ低温血小板貯蔵を可能にすることが出来る可能性があると、仮説を立てた。ここに、発明者らは、この仮説を支持する証拠を示す: 1)糖類はインビトロでマクロファージによる冷却した血小板の食作用を抑制し、有効である特異的な糖はβ-グルカンを関連する標的として関係づけた。低濃度のβ-GlcNAcは驚いたことに有効な阻害剤であり、比較的少数のクラスター形成された糖との干渉が食作用を抑制するのに十分である可能性があるという考えと矛盾しない。冷却した血小板の食作用を最大限阻害した濃度での糖の添加は、正常なGP1bα機能(vWf結合)に対して効果を有さない; 2)他のレクチンではなく、β-GlcNAc特異的レクチンは、冷却した血小板にどん欲に結合した; 3)血小板表面からのGP1bαまたはβ-GlcNAc残基の除去はこの結合を妨げた(β-GlcNAc除去はマンノース残基を露出したので、マンノース受容体を持つマクロファージによる食作用を妨げなかった); 4)ガラクトースの酵素的な付加による冷却した血小板上で露出されたβ-グルカンのブロッキングは、インビトロでマクロファージによる冷却した血小板の食作用を著しく抑制し、正常な動物における冷却した血小板の循環時間を延ばした。
【0137】
冷却した血小板の食作用に対する単糖の効果
血小板食作用に対する単糖の効果を分析するために、食細胞(分化された単球性細胞株THP-1)を種々の濃度で単糖溶液中でインキュベートし、冷却したまたは室温の血小板を添加した。図中の値は、RT血小板または冷却した血小板と共にインキュベートされた摂取された血小板を含むオレンジ陽性単球の百分率を比較する3〜5実験の平均±SDである。100 mM D-グルコースが冷却した血小板食作用を65.5%(P<0.01)まで抑制したのに対し、100 mM D-ガラクトースは冷却した血小板食作用を有意に抑制しなかった(n=3)(図8A)。100 mMは90.2%まで抑制したが、D-グルコースα-アノマー(α-グルコシド)は冷却した血小板食作用に対する抑制的な効果を有さなかった(図8B)。対照的に、β-グルコシドは用量依存的動態で食作用を抑制した(図8B)。100 mM β-グルコシドとの食細胞のインキュベーションは、食作用を80%まで(P<0.05)、および200 mMは97%まで(P<0.05)抑制した、従って発明者らはβ-アノマーが好ましいと結論を下した。D-マンノースならびにそのα-およびβ-アノマー(メチル-α-D-マンノピラノシド(図8C)およびメチル-β-D-マンノピラノシド(図8C))は、冷却したまたはRT血小板食作用に対して抑制的な効果を有さなかった。25から200 mM GlcNAc(N-アセチル-D-グルコサミン)との食細胞のインキュベーションは、冷却した血小板食作用を有意に抑制した。25 mM GlcNacとのインキュベーションは、冷却した血小板の食作用を86%(P<0.05)まで抑制するのに十分であった(図8D)のに対し、10 μMのGlcNAcのβ-アノマーは冷却した血小板の食作用を80%(P<0.01)まで抑制した(図8D)。どの単糖もRT血小板食作用に対する抑制的な効果を有さなかった。表2は、冷却した血小板食作用に対する表示された濃度での単糖の抑制的な効果を要約する(**P<0.01、*P<0.05)。どの単糖も、P-セレクチン露出により測定されるような、トロンビンまたはリストセチン(ristocetin)で誘導されるヒト血小板凝集またはα-顆粒分泌誘導を抑制しなかった。
【0138】
(表2)冷却した血小板食作用に対する単糖の抑制的な効果

【0139】
室温血小板または冷却した血小板への種々のレクチンの結合
β-GlcNAcは、μM濃度でインビトロで冷却したヒト血小板食作用を強力に抑制し、GlcNAcが低温での血小板のインキュベーション後に露出されることを示した。その後、発明者らは、末端糖(GlcNAc)に対して特異性を持つレクチンである小麦胚芽凝集素(WGA)が室温血小板より冷却した血小板により効果的に結合するかどうか調べた。洗浄された、冷却したまたは室温の血小板を2μg/mlのFITC結合WGAまたはFITC結合スクシニル-WGAと一緒に30分間室温でインキュベートし、フローサイトメトリーにより分析した。図9Aおよび図9Bは、室温(RT)または冷却した(低温)ヒト血小板のFITC-WGAとのインキュベーション後のドットプロットを示す。WGAは、25〜50 μg/ml WGAの間の濃度で血小板凝集およびセロトニンまたはADPの遊離を誘導する(Greenberg and Jamieson, Biochem. Biophys. Acta 345, 231-242, 1974)。2 μg/ml WGAとのインキュベーションは、RT-血小板の有意な凝集を誘導しなかった(図9A、RT w/WGA)が、2μg/ml WGAとの冷却した血小板のインキュベーションは、大規模な凝集を誘導した(図9B、冷温/w WGA)。図9Cは、冷却したまたは室温の血小板に結合するFITC-WGA蛍光の分析を示す。蛍光結合の増加が凝集に関係しないことを実証するために、発明者らは、血小板凝集を誘導しないレクチンの二量体誘導体であるスクシニル-WGA(S-WGA)を用いた(Rendu and Lebret, Thromb Res 36, 447-456, 1984)。図9Dおよび図9Eは、スクシニル-WGA(S-WGA)が室温のまたは冷却した血小板の凝集を誘導しなかったが、室温血小板に対して冷却した血小板へのWGA結合の同様の増加を結果として生じる(図9F)ことを示す。血小板の冷却後のS-WGAの増強された結合を、37℃に冷却した血小板を温めることにより逆転させることは出来ない。
【0140】
露出したβ-GlcNAc残基は、Galβ-1GlcNAcβ1-R結合を触媒するβ1,4ガラクトシルトランスフェラーゼ酵素の基質として働く。この予測を支持して、酵素的なガラクトシル化によるβ-GlcNAc残基のマスキングが、低温血小板へのS-WGA結合、THP-1細胞による冷却した血小板の食作用、およびマウスの中への輸注後の冷却した血小板の急速なクリアランスを抑制した。ウシβ1,4ガラクトシルトランスフェラーゼおよびその供与体基質UDP-Galを用いて成し遂げられる、酵素的なガラクトシル化は、冷却したヒト血小板へのS-WGA結合を室温血小板と同等のレベルまで減じた。逆に、ガラクトース特異的RCA Iレクチンの結合が、ガラクトシル化後、〜2倍まで増加した。UDP-グルコースおよびUDP単独は、冷却したまたは低温のヒト血小板へのS-WGAまたはRCA I結合に対して効果がなかった。
【0141】
発明者らは、ヒトおよびマウスの血小板の酵素的なガラクトシル化が、外因性β1,4ガラクトシルトランスフェラーゼの添加無しに有効であることを見出した。供与体基質UDP-Galの単独添加は、冷却した血小板へのS-WGA結合を減少しかつRCA I結合を増加し、インビトロでTHP1細胞による冷却した血小板の食作用を抑制し、マウスにおいて冷却した血小板の循環を延長する。この予期しない発見に対する説明は、血小板が報告によれば外因性ガラクトシルトランスフェラーゼ活性をゆっくり放出するということである。β1,4ガラクトシルトランスフェラーゼの少なくとも一形態である、βGal T1は、ヒト血漿中、洗浄された血小板上、および洗浄された血小板の上清液中に存在する。ガラクトシルトランスフェラーゼは特に血小板表面と関連する可能性がある。または、活性は、血漿由来であり、血小板の開放小管系から漏れ出る可能性がある。いずれにしても、低温で媒介される血小板クリアランスの原因である血小板グリカンの修飾は、糖ヌクレオチド供与体基質、UDP-Galの単純な添加により可能である。
【0142】
重要なことには、冷却したおよび冷却していない血小板両方が、ガラクトシル化後、RCA I結合の同じ増加を示し、α-GlcNAc残基が温度に関係なく血小板表面上に露出されていることを含意する。しかしながら、冷却は、S-WGAおよびαMβ2インテグリンによるα-GlcNAc残基の認識の必要条件である。発明者らは、血小板の冷却がGP1bの不可逆性のクラスター形成を誘導することを明らかにしている。概してレクチン結合は低親和性であり、高密度の糖質リガンドとの多価相互作用が結合力を増大する。あるいは、冷却していない血小板の表面上に露出したβ-GlcNAcの局所密度は認識のためには低すぎるが、GP1bαの低温で誘導されるクラスター形成が、S-WGAまたはαMβ2インテグリンレクチンドメインへの結合に必要な密度を提供する。発明者らは、S-WGAおよびRCA-I結合フローサイトメトリーにより、UDP-Galが添加されたガラクトシルトランスフェラーゼの存在または非存在下でガラクトースをマウス血小板の上へ移動することを確かめ、冷却しガラクトシル化されたマウス血小板が未処置の室温血小板より有意に良く循環および当初生存することを記録に残した。
【0143】
最も初期の回復(2分未満)は、輸注されたRT血小板、冷却した血小板および冷却しガラクトシル化された血小板の間で異ならなかったが、ガラクトシル化は、常にRT血小板で観察される約20%の当初血小板損失を消滅させた。
【0144】
マウスおよびヒト血小板のガラクトシル化は、最大限有効から3桁のより低い規模の範囲にわたる濃度で、コラーゲン関連ペプチド(CRP)またはトロンビンにより誘導される凝集およびP-セレクチン露出により測定されるようなインビトロでのそれらの機能性を損なわなかった。重要なことには、リストセチン濃度の範囲への修飾されてないおよびガラクトシル化された冷却したヒト血小板の凝集反応、GP1bと活性化されたVWFの間の相互作用の試験は、区別することが出来ないかまたはわずかに良かった。GP1bα上のN結合グリカン付着点は、VWFの結合ポケットの外側である。さらに、N結合グリカンを欠く変異体GP1bα分子は、VFWにしっかりと結合する。
【0145】
β-ガラクトースに対して特異性を持つFITCで標識されたレクチン(R. communisレクチン/RCA)、2-3シアル酸(Maackia amurensisレクチン/MAA)または2-6シアル酸(Sambucus Nigra barkレクチン/SNA)を用いて、発明者らは、フローサイトメトリーにより血小板の冷却後の結合増加を検出出来ず(図10)、これは血小板の冷却後の露出がGlcNAcに限定されることを示す。
【0146】
発明者らは、GP1bβNグリカンのαMβ2レクチンドメイン認識を媒介する露出したβ-GlcNAc残基を局在させた。GP1bβの細胞外ドメインは、N-およびO-グリコシドで結合した糖鎖型中に60%の総血小板糖質内容物を含む。従って、GP1bβへのペルオキシダーゼで標識されたWGAの結合は、SDS-PAGEにより分離される総血小板タンパク質の表示で容易に検出可能であり、GP1bαが血小板上のβ-GlcNAc残基の大部分を含み、GP1bαへのWGAの結合がGP1bα免疫沈降で観察出来ることを明らかにする。添加されるガラクトシルトランスフェラーゼの有無にかかわらずUDP-Galは、GP1bαへのS-WGA結合を減らすのに対し、GP1bαへのRCA I結合は増加する。これらの発見は、ガラクトシル化が特にGP1bα上に露出したβ-GlcNAc残基を覆うことを示す。インビトロでTHP-1細胞によるヒト血小板の食作用を抑制した、ヘビ毒プロテアーゼモカラギンを用いるヒト血小板表面からのGP1bαのN末端282残基の除去は、冷却した血小板へのS-WGA結合をS-WGA室温結合レベルとほとんど同等に減少する。WGAは大部分は、そのドメインに特異的なモノクローナル抗体SZ2により認識可能な45 kDaのポリペプチドバンドとして血小板上清液の中にモカラギンにより遊離されるGP1bαのN末端に結合する。このドメインのグリカンはN結合型である。あるいは血小板の開放小管系はそれを隔離するので、GP1bαのごく一部は、モカラギン処理後無傷で残る。ペルオキシダーゼ結合WGAは、モノクローナル抗体WM23で同定可能な、モカラギン切断後のGP1bαC末端に関連する残留血小板を弱く認識する。
【0147】
αMβ2インテグリンおよびS-WGAへのヒト血小板の結合の低温で誘導される増加は、急速に起こる(数分以内)。冷却した血小板へのS-WGAの強化された結合は、自己血漿中で12日間の冷蔵貯蔵まで安定であった。RCA I結合は、同じ条件下で室温レベルと同等であった。ガラクトシル化は、血小板へのRCA Iレクチンの結合を2倍にし、ベースラインRTレベルまでS-WGA結合を減じた。RCA I結合の増加およびS-WGA結合の減少は、ガラクトシル化が行われたか、または続いて12日間まで自己血漿中で血小板を貯蔵したにもかかわらず、同じであった。これらの発見は、レクチン結合を抑制する血小板のガラクトシル化は冷蔵の前または後で可能であり、グリカン修飾は貯蔵中12日間まで安定であることを示す。室温で貯蔵された血小板は、凝集剤に対する反応性を急速に喪失し; この喪失は冷蔵で起こらない。従って、貯蔵前または後でのガラクトシル化の有無にかかわらず冷蔵した血小板は、12日間までの低温貯蔵の間トロンビンへの凝集反応性を保持した。
【0148】
室温で貯蔵された血小板に対する冷却した血小板へのFITC-WGAレクチン結合に対するβ-ヘキソサミニダーゼ(β-Hex)およびモカラギン(MOC)の効果
酵素β-ヘキソサミニダーゼは、オリゴ糖からの末端のβ-D-N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)およびガラクトサミン(GalNAc)残基の加水分解を触媒する。GlcNAc残基の除去が血小板表面へのWGA結合を減ずるかどうか分析するために、冷却したおよび室温の洗浄されたヒト血小板を37℃で30分間100 U/ml β-Hexで処置した。図11Aは、β-ヘキソサミニダーゼ処理の前および後にフローサイトメトリーにより得られた、室温のまたは冷却した血小板の表面へのFITC-WGA結合の概要を示す。冷却した血小板へのFITC-WGA結合は、GlcNacの除去後85%まで減ぜられた(n=3)。発明者らはまた、予想通りに、血小板表面からのGP1bαの除去が血小板冷却後WGA結合の減少をもたらすかどうか確認した。以前に記載されているように(Ward et al, Biochemistry 28, 8326-8336,1996)、GP1bαをヘビ毒モカラギン(MOC)を用いて血小板表面から除去した。図11Bは、血小板表面からのGP1bα除去が冷却した血小板へのFITC-WGA結合を75%まで減じ、GP1bαを除去した室温血小板へのWGA結合に対してほとんど影響がないことを示す(n=3)。これらの結果は、WGAは主としてヒト血小板の冷却後、GP1bα上でオリゴ糖に結合するということを示し、Mac-1レクチン部位はまた、食作用をもたらすGP1bα上でこれら露出した糖も認識すると推測したくなる。
【0149】
ガラクトース転移によるヒト血小板GlcNAc残基のマスキングは、インビトロでその冷却後食作用を大幅に減らし、マウスにおけるその生存を劇的に増加する
血小板の上へガラクトース転移を成し遂げるために、単離されたヒト血小板を200μM UDP-ガラクトースおよび15 mU/mlガラクトースと共に37℃で30分間インキュベートし、続いて2時間冷却または室温で維持した。ガラクトシル化は、ほぼ休止室温レベルまでFITC-WGA結合を減らした。血小板を単球に摂食させ、血小板食作用を上に記載されたように分析した。図12は、血小板オリゴ糖の上へのガラクトース転移は冷却した血小板(低温)食作用を大幅に減らすが、室温(RT)血小板の食作用に影響を与えないことを示す(n=3)。これらの結果は、冷却した血小板のインビトロ食作用が露出したGlcNAc残基の被覆を介して減ぜられ得ることを示す。発明者らは、このやり方が動物に拡大され、冷却した血小板の循環時間を増大するよう用いられ得るかどうか試験した。マウス血小板を単離し、CMFDAで染色した。上でヒト血小板に対して記載された同じガラクトース転移のやり方を用いて、野生型マウス血小板をガラクトシル化し、2時間冷蔵したまたはしなかった。108の血小板を野生型マウスの中に輸注し、その生存を決定した。図13は、未処置の血小板に対するこれらの冷却した、ガラクトシル化されたマウス血小板の生存を示す。両方の血小板は室温(RT)で保たれ、ガラクトシル化された冷却した血小板(低温+GalT)はほとんど同じ生存時間を有していたのに対し、冷却した未処置の血小板(低温)は予測されたように急速に取り除かれた。発明者らは、ガラクトシル化され冷却した血小板はヒトにおいて循環すると考えられると確信している。
【0150】
発明者らは、その中でガラクトーストランスフェラーゼが熱で不活性化されている、発明者らの対照反応はまた、WGA結合により判断されるように、活性ガラクトーストランスフェラーゼとの実験的的反応中で起こるような血小板のグリカン修飾ももたらし(図14A)、インビトロ食作用はヒト血小板(図14B)およびマウス血小板(図14C)の生存ををもたらすことを指摘した。従って、発明者らは、血小板はその表面上でガラクトーストランスフェラーゼ活性を含み、それは任意の外因性ガラクトーストランスフェラーゼの添加無しにUDP-ガラクトースのみを用いてグリカン修飾を導く能力があると結論づける。よって、血小板のグリカン修飾は、単にUDP-ガラクトースとのインキュベーションにより成し遂げられ得る。
【0151】
UDP-ガラクトースは、時間依存性動態でヒト血小板の中に取り込まれる
別の実験一式において、発明者らは、14Cで標識されたUDP-ガラクトースが酵素ガラクトシルトランスフェラーゼ存在または非存在下で時間依存性動態でヒト血小板の中に取り込まれることを示している。図15は、洗浄されたヒト血小板の中への14Cで標識されたUDP-ガラクトース取り込みの経時変化を示す。ヒト血小板をガラクトシルトランスフェラーゼの非存在下で異なる時間間隔で14Cで標識されたUDP-ガラクトースと共にインキュベートした。その後、血小板を洗浄し、血小板に関連する14C放射能を測定した。
【0152】
実施例3
血小板β-グリカンの酵素的な修飾は、インビトロでマクロファージによる冷やした血小板の食作用を抑制し、インビボで正常な循環に適応させる
発明者らの予備的な実験は、冷却したヒト血小板表面の上へのガラクトース転移(グリカン修飾)を用いるGP1bα上のGlcNAc残基の酵素的な被覆が、そのインビトロ食作用を大幅に減らすことを明らかにしている。これらの発見の1つの解釈は、GP1bα構造が冷却したヒトおよびマウス血小板の表面上で変化したというものである。これは、血小板除去をもたらすαMβ2のレクチン結合ドメインにより認識される、GlcNAcの露出またはクラスター形成を引き起こす。β-GlcNAc露出は、WGA結合によりおよびあるいは組換えαMβ2レクチンドメインペプチドの結合により測定され得る。休止ヒト血小板は、冷却後に大幅に増加する、WGAに結合する。発明者らは、ガラクトース転移(グリカン修飾)は、vWfではなくαMβ2-レクチンとのGP1bαの相互作用を妨げると考えられることを提案する。この修飾(血小板表面上へのガラクトース転移)は、発明者らの予備的な実験により示されるように、WTマウスにおける冷却した血小板の正常な生存をもたらす。
【0153】
実施例4
この実施例は、αMβ2レクチン部位模倣体WGAおよび糖修飾が冷却した血小板と組換えレクチン部位の結合を妨げることを示す。Dr. T. Springer (Corbi, et al., J Biol Chem. 263, 12403-12411, 1988)は、ヒトαM cDNAおよびいくつかの抗αM抗体を提供した。報告されているレクチン活性を示す最も小さいr-huαM構築物は、そのC-Tおよびその二価カチオン結合領域の一部分(残基400〜1098)を含む(Xia et al, J Immunol 162, 7285-7293, 1999)。構築物は、精製の容易さのために6xHisで標識される。発明者らは第1に、組換えレクチンドメインが食作用アッセイにおいて冷却した血小板摂取の競合的な阻害剤として用いられ得るかどうか決定した。競合は、αMレクチン部位が血小板表面への結合を媒介し、食作用を開始することを証明した。対照として、αMのレクチン結合領域を欠く構築物を用い、組換えタンパク質を変性した。レクチン結合ドメインは、冷却した血小板摂取の特異的阻害剤として機能する。発明者らは、GFPを含みかつ発現するαM構築物を作製し、FITCでαM-レクチン結合部位を標識し、フローサイトメトリーにより冷却した血小板の表面を標識するためにそれを用いた。血小板をCMFDAで標識した。発明者らは、冷却した血小板が室温血小板と比較してαMβ2インテグリンのαMレクチン部位により効果的に結合することを見出した。レクチン部位およびαM-構築物全体(Mac-1)をSf9昆虫細胞中で発現した。
【0154】
r-huαM-レクチン部位との血小板-オリゴ糖相互作用を抑制するよう血小板糖鎖を修飾する。糖修飾の効率はまた、フローサイトメトリーにより血小板に結合する蛍光レクチンドメインの結合の阻害によりモニターされる。
【0155】
室温の、冷却したおよび冷却し修飾された血小板の回復および循環時間を、冷却したマウス血小板の上へのガラクトース転移がより長い循環血小板をもたらすということを立証するために、比較する。室温の、冷却したおよび冷却し修飾された血小板をCMFDAで染色し、上に記載されるように108の血小板を野生型マウスの中に輸注する。マウスを輸注後直ちに(2分未満)、30分、1時間、2時間、24時間、48時間および72時間で採血する。得られた血液をフローサイトメトリーを用いて分析する。注射後直ちに測定されるゲートされた血小板集団の範囲内の蛍光で標識された血小板の百分率を100%としてセットする。種々の時点で得られる蛍光で標識された血小板の回復をそれに応じて計算する。
【0156】
実施例5
この実施例は、冷却し修飾されていないおよび冷却しガラクトシル化された(修飾された)血小板がインビトロおよびインビボで止血機能を有することを明らかにする。冷却した血小板は、アゴニストで刺激された血小板という意味で「活性化」されない。低体温条件下で手術を受ける患者は、血小板減少を発生する、または重篤な術後止血障害を示す可能性がある。これら低体温条件下で、血小板はその機能性を喪失する可能性があると考えられている。しかしながら、患者が低体温手術を受ける場合、生物体全体が結果的に複数の組織で変化をもたらす低体温に曝露される。肝臓類洞内皮細胞への冷却しない血小板の付着は低温保存損傷の主要な機構である(Takeda, et al. Transplantation 27, 820-828, 1999)。従って、それは、血小板冷却それ自体ではなく、手術の低体温条件または低温で保存された器官の移植下で有害な結果をもたらす、低温肝臓内皮と血小板の間の相互作用であると思われる(Upadhya et al, Transplantation 73, 1764-1770, 2002)。2つのやり方が冷却した血小板が止血機能を有することを示した。1つのやり方において、αMβ2欠損マウスにおける冷却した血小板の循環が、冷却後血小板機能の試験を容易にする。他のやり方において、修飾され冷却したおよび(多分)循環する血小板の機能を試験した。
【0157】
ヒトならびにマウスの修飾されていないおよび修飾された(ガラクトシル化された)冷却した血小板を、アゴニストに対するインビトロ凝集、P-セレクチン露出およびフィブリノーゲン結合を含む、機能性に対して試験した。
【0158】
αMβ2欠損のまたはWTマウスを、冷却したまたはされていない、マウスの冷却した/RT血小板で輸注し、30分間、2時間および24時間循環させる。発明者らは、冷却した血小板が尾静脈出血により引き起こされる凝固反応の一因となるかどうか、およびこれらの血小板が活性化後フィブリノーゲンなどの作用剤を結合するかどうか決定する。発明者らはまた、どのように修飾されたまたはされていない、冷却した血小板が、発明者らが開発したインビボ血栓形成モデルである塩化第二鉄で傷つけられかつ外面化されたマウス腸間膜上の凝固の一因となるのかも決定する。この方法は、傷つけられた血管に付着する血小板の活を検出し、糖タンパク質Vまたはβ3インテグリン機能を欠く血小板の損なわれた血小板血管壁相互作用を記録に残している(Ni et al,. Blood 98, 368-373 2001; Andre, et al. Nat Med 8, 247-252, 2002)。最後に、発明者らは、修飾された血小板の貯蔵パラメータを決定する。
【0159】
インビトロ血小板機能をトロンビンおよびADPでの凝集ならびにボトロセチンで誘導されるマウス血小板へのvWf結合を用いて比較する。修飾された(ガラクトシル化された)または修飾されていないマウスおよびヒトの冷却した血小板を、0.3×109/mm3の血小板濃度に正規化し、標準的なプロトコルに従って種々のアゴニストを用いて凝集を誘導する(Bergmeier, et al. 2001 276, 25121-25126, 2001)。vWf結合を試験するために、発明者らは、ボトロセチンを用いてマウスvWfを活性化し、PRP中の修飾されたまたはされていない冷却した血小板への蛍光で標識されたvWfの結合を分析する(Bergmeier, et al. 2001 276, 25121-25126, 2001)。修飾中に血小板の脱顆粒が起こっているかどうか評価するために、発明者らはまた、フローサイトメトリーにより蛍光標識された抗P-セレクチン抗体を用いて修飾されたまたはされていない冷却したマウスおよびヒト血小板のP-セレクチン露出を測定する(Michelson et al., Proc. Natl. Acad. Sci., USA 93, 11877- 11882, 1996)。
【0160】
109のCMFDAで標識された血小板をマウスの中に輸注し、第1にこれらの血小板がインビトロで機能することを実証する。発明者らは、冷却した血小板がαMβ2欠損マウスの中へ冷却したまたは室温のCMFDAで標識された血小板を輸注することによる凝集の一因となるかどうか決定する。血小板の注入後30分、2時間および24時間で、標準的な尾静脈出血試験を行う(Denis, et al. Proc Natl Acad Sci USA 95, 9524-9529, 1998)。現れる血液を直ちに1%ホルムアルデヒド中に固定し、血小板凝集を全血フローサイトメトリーにより決定する。血小板凝集物は、より大きなサイズを持つ粒子としてドットプロット分析中に現れる。輸注された血小板が正常な循環において凝集しないことを実証するために、発明者らはまた、抗凝固剤の中にマウスから眼窩後眼神経叢を介してマウスを採血する。血小板はこれらの出血条件下で凝集物を形成しない。現れる血液を直ちに固定し、血小板を上に記載されているように全血におけるフローサイトメトリーにより分析する。血小板をフィコエリトリン結合αIIbβ3特異的モノクローナル抗体の結合を介して同定する。血液試料中に注入された血小板をそのCMFDA蛍光により同定する。注入されない血小板をそのCMFDA蛍光欠如により同定する(Michelson, et al, Proc. Natl. Acad. Sci, U.S.A. 93, 11877-11882, 1996)。同じ試験一式を、αMβ2およびWTの中へこれらの血小板を輸注するCMFDAで修飾され(ガラクトシル化され)冷却した血小板を用いて行う。この実験は、流血中での修飾されたまたはされていない冷却した血小板の凝集を試験する。
【0161】
これらの血小板がインビトロで機能することを実証するために、109のCM-オレンジで標識された修飾されていない、冷却したまたは室温の血小板をαMβ2欠損マウスの中に輸注する。CM-オレンジで標識された血小板の注入後30分、2時間および24時間で、記載されているようにPRPを単離し、フローサイトメトリーにより分析する。P-セレクチン露出を抗FITC結合抗P-セレクチン抗体を用いて測定する(Berger, et al, Blood 92, 4446-4452, 1998)。注入されていない血小板をそのCM-オレンジ蛍光の欠如により同定する。血液試料中に注入された血小板をそのCM-オレンジ蛍光により同定する。CM-オレンジおよびP-セレクチン陽性血小板は、二重陽性(CM-オレンジ/FITC)の蛍光で染色された血小板として現れる。冷却した血小板がトロンビン活性化後にまだP-セレクチンを露出していることを実証するために、PRPをトロンビンの添加(1 U/ml、37℃で2分)を介して活性化し、P-セレクチン露出を記載されたように測定する。αIIbβ3へのフィブリノーゲンの結合を分析するために、単離された血小板をトロンビン(1U/ml、2分、37℃)の添加を介して活性化し、オレゴングリーン結合フィブリノーゲン(20 μg/ml)を37℃で20分間添加する(Heilmann, et al, Cytometry 17, 287-293, 1994)。試料を直ちにフローサイトメトリーにより分析する。PRP試料中の注入された血小板を、そのCM-オレンジ蛍光により同定する。CM-オレンジおよびオレゴングリーン陽性血小板は、二重陽性の蛍光で染色された(CM-オレンジ/オレゴングリーン)血小板として現れる。同じ実験一式を、αMβ2欠損マウスおよびWTマウスの中に輸注された、CM-オレンジで標識され修飾され(ガラクトシル化され)冷却した血小板を用いて行う。
【0162】
実施例6
インビトロ血栓症モデル
第1に、発明者らは、二重に蛍光で標識された血小板を用いてαMβ2欠損マウスの傷つけられた内皮へのRTのおよび修飾されず冷却した血小板の送達を示す。静止した血管を4分間モニターし、その後塩化第二鉄(30 μlの250-mM溶液)(Sigma, St Louis, MO)を灌流により細動脈の上部に適用し、さらに10分間ビデオ記録を再開する。中心線赤血球速度(centerline erythrocyte velocity)(Vrbc)を撮影する前および塩化第二鉄損傷後10分、測定する。ずり速度を、Newtonian流体に対するPoiseuille's lawに基づいて計算する(Denis, et al, Proc Natl Acad Sci USA 95, 9524-9529, 1998)。これらの実験は、冷却した血小板が正常な止血機能を持つかどうかを示す。発明者らは、同じマウスの中に注射された2つの異なる蛍光で標識された血小板集団を用いてRTのおよびガラクトシル化され冷却した血小板を比較するWTマウスにおけるこれらの実験を繰り返し、両方の血小板集団の血栓形成および取り込みを分析する。
【0163】
その後、発明者らは、上に記載されたように、冷蔵下で1、5、7および14日間貯蔵された、冷却したおよび修飾され冷却したマウス血小板のインビトロの血小板機能および生存ならびにインビボの止血活性を比較する。発明者らは、これら貯蔵された冷却した血小板および修飾され冷却した血小板の回復および循環時間を比較し、以下を証明する: 1)冷却したマウス血小板の上へのガラクトース転移を介する修飾は長期間冷蔵後安定である;および2)これら血小板は正常に機能する。生存実験を上に記載されたように行う。GlcNAc残基がより長期の貯蔵時点後にガラクトースにより覆われていることを実証するために、発明者らは、WGA結合を用いる。これら修飾され、貯蔵された血小板が機能的に無傷であり、止血の一因となるという究極試験として、発明者らはそれらを全身照射されたマウスの中に輸注する(Hoyer, et al, Oncology 49, 166-172, 1992)。十分な数の血小板を得るために、発明者らは、その血小板数を増大するよう7日間市販されているマウストロンボポイエチンをマウスに注射する(Lok, et al. Nature 369, 565-558, 1994)。単離された血小板を最適化されたガラクトース転移プロトコルを用いて修飾し、冷蔵下で貯蔵し、輸注し、尾静脈出血時間を測定する。修飾されない冷却した血小板は循環中で持続しなかったので、室温で貯蔵された血小板との修飾され冷却した血小板の比較は、この時点で必要ではない。マウス血小板を冷蔵下で標準的な試験管中に貯蔵する。室温で貯蔵されたマウス血小板との比較が必要ならば、発明者らは霊長類動物の血小板に切り換える。マウス血小板を収容するための技術者特殊の小型化、気体透過性の貯蔵容器よりむしろ、このような比較は、そのための室温貯蔵バッグが設計されている、哺乳類動物(ヒトを含む)がより適切である。
【0164】
実施例7
血小板濃縮物における血小板のガラクトシル化
4つの異なる血小板濃縮物をUDP-ガラクトースの増加濃度:400 μM、600 μMおよび800 μMで、処置した。今後の実験は、10 μMと5000 μMの間のUDPガラクトースを用いる。RCA結合比率測定は、4つの試験された試料中のガラクトシル化の用量依存性増加を示した(図16)。発明者らの結果は、ガラクトシル化が血小板濃縮物中で可能であるという証拠を提供する。
【0165】
前述は、ある好ましい態様の詳細な記載のみであることが理解されるべきである。従って、種々の修飾および同等物が発明の精神および範囲から逸脱すること無しになされ得ることは、当業者に明らかであるべきである。添付の特許請求の範囲の範囲内の全てのこのような修飾を包含することが企図される。本出願において引用される全ての参照、特許および特許刊行物は、その全体を参照により本明細書に組み入れられる。
【0166】
実施例8
CMP-シアル酸から内因性血小板シアリルトランスフェラーゼ活性により触媒される血小板複合糖質上に露出したβ-ガラクトースへのシアル酸の酵素的転移の立証
本実施例は、ヒト血小板が、CMP-シアル酸から露出したβ-ガラクトース残基を有する外因性高分子量基質ならびに血小板中の内因性複合糖質へのシアル酸の転移を触媒し得る、内因性シアリルトランスフェラーゼ活性を含むという証拠を提供する。酵素的な修飾は、外因性シアリルトランスフェラーゼの添加無しで、かつ供与体基質CMP-シアル酸単独の単純な添加により成し遂げられ得る。
【0167】
最初の試験は、血小板の界面活性剤溶解物中の、ならびに無傷の非溶解血小板の表面上のシアリルトランスフェラーゼ活性の存在を明らかにした。シアリルトランスフェラーゼ活性を、供与体基質CMP-[14C]シアル酸から大きなかつ非透過性糖タンパク質アクセプター基質アシアロフェツイン(asialofetuin)へのシアル酸の転移のインビトロ測定により推定した。
【0168】
発明者らは、血小板抽出物中および無傷の非溶解血小板の表面上の両方でシアリルトランスフェラーゼ活性の存在を試験した。シアリルトランスフェラーゼ活性を、糖質供与体基質CMP-シアル酸から大きな糖タンパク質アクセプター基質アシアロフェツインへのシアル酸の転移の測定によりインビトロで推定した。シアリルトランスフェラーゼ活性の総量の測定を、酵素源として血小板界面活性剤溶解物を用いて行い一方で、表面に位置するシアリルトランスフェラーゼ活性を非溶解血小板を用いて測定した。簡単に言えば、アフェレーシスにより収集された血小板を5分間1200×gでの遠心分離により血漿から分離し、140 mM NaCl、5 mM KCl、12 mM クエン酸三ナトリウム、10 mM グルコース、プロスタグランジンEおよび12.5 mM スクロース、pH 6.0の溶液中で2回洗浄した。洗浄した血小板を140 mM NaCl、3 mM KCl、0.5 mM MgCl2、5 mM NaHCO3、10 mM Hepes、pH 7.4中5×108/mlの濃度で再懸濁した。血小板溶解を溶解緩衝剤(25 mM HEPES-KOH(pH 7.4)、10 mM MgCl2、1% Triton X-100(Sigma)、および1錠のEDTAを含まないプロテアーゼ阻害剤カクテル(Roche))中で5×10e9 血小板の溶解に作製した。血小板溶解中の活性を25 mM HEPES-KOH(pH 7.4)、10 mM MgCl2、0.25% Triton X-100(Sigma)および250 μM CMP-[14C]-シアル酸(14,000 cpm/nmol)(Amersham)、ならびに変動濃度のアクセプター基質アシアロフェツイン(0〜3 mg/mL)(Sigma)を含む100 μl反応混合液中で行われる標準的な酵素アッセイにより分析した。2〜10 μLの血小板溶解を酵素源として用いた。総反応混合液を37℃で1時間インキュベートした。アシアロフェツイン中に取り込まれたCMP-[14C]活性の量をWhatman GF/Cガラス繊維フィルタを通る濾過により酸沈殿後に評価した(Schwientek et al, 1998, β4GA1T4)。見られるように、溶解された血小板(パネルA)および無傷の血小板(パネルB)の両方が濃度依存的な動態でアクセプター基質アシアロフェツイン中のシアル酸の取り込みを触媒する。
【0169】
図67に示されるように、血小板抽出物および無傷の血小板の両方は、濃度依存的な動態でアクセプター基質アシアロフェツインの中への14Cで標識されたシアル酸の転移を触媒する。これは、シアリルトランスフェラーゼ活性が血小板で見出され、この活性が無傷の血小板上で、血小板膜を透過出来ない、アシアロフェツインなどの大きな外因性アクセプター基質に利用可能であることを明らかにする。結果は、血小板における少なくともいくらかの検出されるシアリルトランスフェラーゼ活性が細胞膜に関連し、無傷の血小板で機能することを示す。
【0170】
血小板が膜表面で活性シアリルトランスフェラーゼ活性を含むという驚くべき知見を伴って、発明者らは次に、この活性が不完全なシアリル化グリカンを潜在的に発現する内因性膜糖タンパク質に対して作用し得るかどうか試験した。血小板シアリルトランスフェラーゼ活性による内因性糖タンパク質へのシアル酸の転移を2つの方法で試験した。血小板溶解物を、血小板で見出される総糖タンパク質に転移する血小板中の総シアリルトランスフェラーゼ活性の能力を試験するために用いた。緩衝剤(140 mM NaCl、3 mM KCl、0.5 mM MgCl2、5 mM NaHCO3、10 mM Hepes、pH 7.4)中で懸濁した無傷の血小板を血小板膜糖タンパク質に転移する表面に露出したシアリルトランスフェラーゼ活性の能力を評価するために用いた。実験はまた、露出したβGlcNAc残基の事前のグリコシル化が、同定されるシアリルトランスフェラーゼ活性の基質として機能するグリカンを終結させる適切なガラクトースを形成するために必要とされるかどうかを決定するようにも設計された。以前に、特に冷やした後の、血小板が有意な量のβGlcNAcを発現することが明らかにされた(Hoffmeister et al, Science 2003)。よって、以下の3つの異なるグリカン修飾戦略を用いることが可能であった:1)UDP-[14C]-ガラクトース、2)UDP-[14C]-ガラクトースおよびCMP-[14C]-シアル酸、ならびに3)CMP-[14C]-シアル酸単独の添加。放射性糖ヌクレオチドの取り込みをSDS-PAGEクロマトグラフィ続いてオートラジオグラフィによりモニターした。
【0171】
内因性血小板アクセプタータンパク質中の放射性糖質シアル酸の取り込みを、界面活性剤溶解血小板または非溶解血小板のいずれかをCMP-[14C]-シアル酸と共にインキュベートすることにより評価した。14C-シアル酸取り込みをグリコシル化混合物のSDS-PAGEクロマトグラフィに続いてオートラジオグラフィによりモニターした。簡単に言えば、ヒトアフェレーシス血小板を洗浄し、再懸濁緩衝剤(40 mM NaCl、3 mM KCl、0.5 mM MgCl2、5 mM NaHCO3、10 mM Hepes、pH 7.4)中で再懸濁し、2画分に分割した。1つの画分をCMP-[14C]-シアル酸の添加と共に37℃で60分間インキュベートした。他の分画を(図67で上記されているように)溶解し、グリコシル化緩衝剤(図67で上記されているように)およびCMP-[14C]-シアル酸中で60分間インキュベートした。インキュベーション産物をLaemlli緩衝剤中で溶解し、SDS-PAGEに供し、PVDF膜(Millipore. Bedford. MA. USA)続いてオートラジオグラフィ(Autoradiography film. Denville Inc.)に転写した。見られるように、14C標識されたシアル酸が無傷の血小板上の表面タンパク質中に取り込まれた。CMP-[14C]-シアル酸単独またはUDP-[14C]-ガラクトースとの組合せとのインキュベーションはほぼ同程度の取り込みを生じ、主としてガラクトースを血小板の表面上に露出することを示した。血小板溶解物において、発明者らは、UDP-[14C]-ガラクトースおよびCMP-[14C]-シアル酸両方とのインキュベーションに伴う放射性糖の取り込み対する明確な添加効果を見出した。これは、細胞内血小板タンパク質が露出したガラクトースおよびGlcNAcの両方を有することを示す。
【0172】
図68で示されるように、血小板溶解物は、試験されたどの糖ヌクレオチド組合せの存在下でも多数の糖タンパク質の中への放射性糖の取り込みを示した。これは、血小板界面活性剤溶解物がガラクトシルトランスフェラーゼ活性およびシアリルトランスフェラーゼ活性のアクセプター基質として作用するためにβGlcNAcならびにβGalの十分な露出を伴うタンパク質を含むことを明らかにする。重要なことに、UDP-GalおよびCMP-シアル酸両方を伴う組み合わされた反応は、CMP-シアル酸単独より高いレベルの取り込みをもたらし、ガラクトシル化がアクセプターの量または多分質を増加することを示唆した。驚くべきことに、糖ヌクレオチド組合せを伴う無傷の血小板のインキュベーションは異なるパターンをもたらした。用いられた条件下で、14C-Galの取り込みは観察されない、またはほんのわずかのみ観察された。著しく対照的に、CMP-シアル酸の添加は血小板膜糖タンパク質の中への放射性シアル酸の高いレベルの取り込みをもたらした(図68、パネルB)。興味深いことに、取り込みは主として、約130 kDのより弱い強度のバンド形成を伴う135 kDの近似重量を有するタンパク質の中へであった。非溶解血小板における放射性糖の検出可能な取り込みは、CMP-シアル酸またはCMP-シアル酸およびUDP-ガラクトースいずれかの添加でのみ見出された。UDP-[C14]-ガラクトース単独と共にインキュベートされた非溶解血小板で取り込みは見られなかった。これらの結果は驚くべきことに、ヒト血小板膜糖タンパク質がオリゴ糖鎖を終結させる有意な量のシアリル化されていないβガラクトースを発現する一方で、オリゴ糖鎖を終結するβGlcNAcの量は相対的に少ないことを示唆する。UDP-GalおよびCMP-シアル酸の組合せの使用は、露出したβGlcNAc残基およびβGal残基の両方にわたる取り込みの最も高いレベルを提供する。
【0173】
本実施例は、単離された緩衝化血小板調製物へのCMP-シアル酸の単独の添加後に血小板の表面上で露出したβガラクトース残基のシアリル化が可能なヒト血小板中のシアリルトランスフェラーゼ活性の存在を明らかにする実験的証拠を提供する。さらに、本実施例は、UDP-GalおよびCMP-シアル酸を組み合わせた使用は、より効率的なグリコシル化を提供することを示す証拠を提供する。
【0174】
実施例9
UDP-ガラクトースおよびCMP-シアル酸を用いたヒトアフェレーシス血小板単位の修飾
本実施例は、UDP-ガラクトースおよびCMP-シアル酸と共に37℃で60分間インキュベートした後の、アフェレーシス血小板単位のインビトロでのガラクトシル化およびシアリル化を示す。ヒトアフェレーシス血小板の酵素的修飾は、外因性の酵素を添加せず、血漿中に再懸濁された血小板にドナー糖を単純に添加することによって成し遂げられた。
【0175】
血小板は、アフェレーシスによって健康なドナーから収集される。収集された血小板を、3つのバッグの中に分割した。スプリット1に、滅菌したUDP-ガラクトース溶液(0.9%生理食塩水中40mM)3.6mLを最終濃度1.2mMまで注射し、かつ滅菌したCMP-シアル酸溶液(0.9%生理食塩水中に50mMで可溶化されている)3.6mLを最終濃度1.5mMまで注射した。第2および第3のスプリットは、未処置のままとした。少量の試料(2mL)をスプリット2から取り出し、RCA-1読み出しのための参照試料として、1.2mM UDP-ガラクトースで処置した。全てのスプリットおよびRCA-1参照試料を、37℃で1時間インキュベートした。スプリット1および2を、攪拌せずに冷蔵下で(4℃で)貯蔵し、かつスプリット3を攪拌しながら22℃で合計14日間貯蔵した。0日目、2日目、5日目、および14日目に全ての試料をそれぞれのスプリットから取り、pH、グリコシル化効率、活性化の程度、およびアゴニスト反応について試験した。血小板の成功したガラクトシル化およびシアリル化(修飾)の確認は、蛍光標識されたレクチン、sWGA、およびRCA-1を用いたFACS分析により評価した。アゴニスト反応を、アゴニストとしてリストセチンおよびトロンビンを用いた凝集測定でモニターした。P-セレクチン露出、アネキシン-V結合、vWF結合、およびフィブリノーゲン結合を、蛍光で標識されたP-セレクチン抗体と標識されたアネキシン-Vを用いたFACSで測定した。
【0176】
図69に表すように、アフェレーシス血小板の、ガラクトシル化およびシアリル化は成功した。UDP-ガラクトースのみを伴う血小板のインキュベーションは、sWGA結合の減少とRCA-1結合の増大をもたらす。このことは、ガラクトースがUDP-ガラクトースから末端のβGlcNAcに転移することを示す。UDP-ガラクトースとCMP-シアル酸との両方を伴う血小板のインキュベーションは、RCA-1結合およびsWGA結合の減少をもたらす。このことは、先ずガラクトース、そしてその後にシアル酸を段階的に添加することにより、露出したβガラクトースおよび露出したβGlcNAcの両方が保護されていることを示す。
【0177】
冷蔵された血小板のインビトロでの機能を、血小板アゴニスト反応を測定することにより評価した(図71)。以前の報告に一致して、室温血小板と比較した場合、冷蔵された血小板は、インビトロでのアゴニスト反応(トロンビンおよびリストセチン)が保存されていることを示した。低温で貯蔵した、グリコシル化された血小板とグリコシル化されていない血小板との間に違いは全く見られなかった。多くの表面タンパク質を分析し、P-セレクチンの露出、およびホスファチジルセリン(アネキシン-V結合)、ならびにフォンウィルブランド因子およびフィブリノーゲンの結合に関して、未処置の血小板と処置された血小板との間に違いは全く見つからなかったということを見出した(図70)。低温貯蔵された血小板に対するアネキシンV結合において軽微な増加が長期にわたり見られた。しかし、この増加は室温で貯蔵された血小板を用いるよりも非常に少ない。P-セレクチンの露出は冷却後著しく増大するが、5日間貯蔵された室温血小板上で観察されたレベルでは増大しなかった。pHは、ガラクトース修飾を伴うおよび伴わない冷蔵されたアフェレーシス血小板において変化がないままだった(結果示さず)。
【0178】
結論として、本実施例は、標準的なアフェレーシス血小板単位から得られた血小板は、血小板バッグに直接添加された1.2mM UDP-ガラクトースおよび1.5mM CMP-シアル酸により修飾され、その後37℃で1時間インキュベートされることにより、GlcNAcおよびガラクトースの保護をもたらすことを示す。本実施例はまた、グリコシル化工程がインビトロでの血小板機能において変化を誘導しないことを例示する。
【0179】
実施例10
表面シアル酸低減を伴う血小板は急速にインビボで取り除かれる
本実施例は、表面シアル酸の減少および故のガラクトースの露出が、哺乳動物の中への自家移植または異種移植後に循環からの血小板の除去増加をもたらすことを明らかにする。シアリルトランスフェラーゼは、α2-3、α2-6またはα2-8結合いずれか中の種々のグリカンへのシアル酸の転移を触媒する18種類の酵素のファミリーである。血漿成分に取り付く大部分のシアル酸は、6つの異なるST3Galトランスフェラーゼ(ST3Gal I-IV)の1つにより合成される、α2-3結合型である。異なるシアリルトランスフェラーゼが欠損しているマウスの試験は、ST3Gal-IVが血小板の機能および止血の最も重要な修飾因子であることを示唆している(Ellies, LG, et al., PNAS 99: 10042-10047を参照のこと)。Elliesらは、マウスにおける2,3シアリルトランスフェラーゼIVの欠如が血小板数低下をもたらし、KOマウスからの血小板はGalβ4GlcNAc-Rに結合する2,3シアル酸を欠くことを明らかにする。血小板数低下は、血小板形成の抑制または/および血小板生存の減少の結果であることが示唆された。著者らは、血小板数低下の主な理由はアシアロ糖タンパク質受容体による血小板取り込み増加であることを示唆する。これは、競合的阻害剤タンパク質アシアロフェツインの投与が血小板数を正すという事実により示唆される。これは、提案された機構の強力な指標だが、Elliesらは、(シアリル化低下を伴う)KO血小板が本実施例により図示される、生存減少を有することを示していない。加えて、KO血小板の再シアリル化がその生存をレスキューすることは、本発明のある態様により正しく認識される。
【0180】
α2,3シアリルトランスフェラーゼIVは、N結合型グリカン複合体上でCMP-シアル酸から2型鎖(Galβ4GlcNAcβ3-R)へのシアル酸の転移を触媒する。α2,3シアリルトランスフェラーゼIVを欠くマウスは、血小板の数の減少を有する。しかしながら、ノックアウトマウスにおける血小板数低下が血小板産生低下またはクリアランス増加によるものであるかどうかは公知ではない。発明者らは、ST3Gal-IVノックアウトマウスからの血小板の表面上のガラクトースの量増加がクリアランス増加をもたらすアシアロ-糖タンパク質受容体による認識をもたらすという仮説を立てた。マウス輸注実験により本仮説を試験する前に、発明者らは、ノックアウトマウスからの血小板がその表面上に存在するガラクトースの量を増加しているという以前の知見を確認した。これは、図72、パネルAで明らかにされているように、FITCHでラベルされた糖質結合タンパク質ECAで血小板を標識することにより行われた。その後、発明者らは、ガラクトースの提示増加が輸注された血小板の生存減少をもたらすかどうかを試験した。
【0181】
輸注試験を、野生型マウスにおけるST3GalIV -/-血小板のインビボクリアランスを決定するために行った。ST3GalIV -/-血小板の寿命(白四角)は、野生型およびヘテロ接合体血小板の寿命(黒四角)と比較して有意に減少されることが見出された。ST3GalIV -/-マウスから得られる血小板をCMFDAで標識し、野生型マウスの眼窩後眼神経叢の中に輸注した。血液を異なる時点で収集し、フローサイトメトリーにより血小板生存を追った。マウスを2.5%アベルチン(Fluka Chemie, Steinham, Germany)の腹腔内注射により麻酔し、血液を眼窩後眼出血により0.1倍量のAster-Jandyl抗凝固剤の中に得た。全血を8分間300×gで遠心分離し、血小板に富む血漿(PRP)を単離した。血小板を5分間1200×gでの遠心分離により血漿から分離し、140 mM NaCl、5 mM KCL、12 mM クエン酸三ナトリウム、10 mMグルコース、および12.5 mM スクロース、pH 6.0の溶液中で2回洗浄した。洗浄した血小板を140 mM NaCl、3 mM KCl、0.5 mM MgCl2、5 mM NaHCO3、10 mM Hepes、pH 7.4中5×108/mlの濃度で再懸濁した。血小板を37℃で15分間(DMSO中1:100に希釈された)CMFDAで標識した。300 μlの標識された血小板を野生型マウスの眼窩後眼神経叢の中に輸注した。血液をゼロ時間から48時間まで収集し、フローサイトメトリーにより血小板生存を追った。ヘテロ接合体マウスおよび野生型マウスからの血液を比較のため平行して調べた。レクチン標識:マウスを2.5%アベルチン(Fluka Chemie, Steinham, Germany)の腹腔内注射により麻酔し、血液を眼窩後眼出血により0.1倍量のAster-Jandyl抗凝固剤の中に得た。血小板を上に記載されたように洗浄した。洗浄した血小板を140 mM NaCl、3 mM KCl、0.5 mM MgCl2、5 mM NaHCO3、10 mM Hepes、pH 7.4中1×106/mlの濃度で再懸濁し、FITCH結合糖質結合タンパク質RCA-1と共に濃度0.1 μg/mLで室温で20分間インキュベートした。標識をフローサイトメトリーにより追った。
【0182】
図72パネルBは、ST3GalT-IVノックアウトマウスからの血小板が野生型動物の中に輸注された場合、対照血小板と比べて低減された生存時間を有するということを明らかにする。これは、α2,3シアル酸の低減がクリアランスからの循環血小板の保護に必須であることを明らかにする。データはさらに、アシアロ糖タンパク質受容体により媒介される認識および食作用からの基礎をなすガラクトース残基の保護におけるシアル酸の潜在的な重要性を強調する。
【0183】
実施例11
シアリル化は非冷蔵マウス血小板の生存を改善する
本実施例は、血小板調製物が室温(約18℃から25℃)で維持された場合に、UDP-ガラクトースおよびCMP-シアル酸でのマウス血小板のグリコシル化が生存増加および貯蔵障害低減ををもたらすことを明らかにする。以前に、フォンウィルブランド因子受容体(VWF)複合体が、そのレクチンドメインを介してVWF受容体のGPi1bαサブユニット上の露出したβN-アセチルグルコサミン(βGlcNAc)残基に結合する、肝臓のマクロファージ上のαMβ2-インテグリンにより認識されることが明らかにされている。ガラクトシル化による露出したGlcNAcの被覆は、冷却した血小板の認識およびクリアランスを防ぐ。さらに、血小板は循環中または貯蔵時のいずれか時間とともに表面シアル酸を失うことが公知である。理論に制限されること無しに、これは膜表面上でのグリカンの交換から、ならびに一部分膜の流動性のために起こる。このシアル酸の喪失は、アシアロ受容体により認識され得る最後から2番目のガラクトースの露見をもたらす。冷却されない血小板の再ガラクトシル化および再シアリル化が血小板生存を増大するかどうか試験するために、発明者らは、ガラクトシル化された血小板とガラクトシル化されていない血小板の生存を比較する輸注実験を行った。図73に見られるように、より大きな割合のシアリル化されかつガラクトシル化された血小板(黒四角)が、未処置対照(白四角)と比べて異なる時点で回復され得る。このことは、グリコシル化が未処置の血小板に比べて異種的に輸注され冷却されずグリカン修飾された血小板の生存を増大することを明らかにする。
【0184】
マウスを2.5%アベルチン(Fluka Chemie, Steinham, Germany)の腹腔内注射により麻酔し、血液を眼窩後眼出血により0.1倍量のAster-Jandyl抗凝固剤(85 mMクエン酸ナトリウム、69 mMクエン酸、20 mg/mlグルコース、pH=4.6)の中に得た。全血を8分間300×gで遠心分離し、血小板に富む血漿(PRP)を単離した。血小板をPRPに直接添加される1.2 mMのUDP-ガラクトースおよびCMP-シアル酸との37℃で60分間のインキュベーションによりガラクトシル化した。インキュベーションに続いて、血小板を5分間1200×gでの遠心分離により血漿から分離し、140 mM NaCl、5 mM KCL、12 mM クエン酸三ナトリウム、10 mMグルコース、および12.5 mM スクロース、pH 6.0の溶液中で2回洗浄した。洗浄した血小板を140 mM NaCl、3 mM KCl、0.5 mM MgCl2、5 mM NaHCO3、10 mM Hepes、pH 7.4中5×108/mlの濃度で再懸濁し、37℃で15分間(DMSO中で1:100に希釈された)CMFDAと共にインキュベートした。300 μlの標識された血小板を野生型マウスの眼窩後眼神経叢の中に輸注した。血液をゼロ時間から48時間まで収集し、血小板生存をフローサイトメトリーにより決定した。ヘテロ接合体マウスおよび野生型マウスからの血液を比較のため平行して調べた。見られるように、より大きな割合のCMP-シアル酸およびUDP-ガラクトースと共にインキュベートされた血小板が、処置されていない対照と比べて異なる時点で循環し、グリカン修飾、すなわちグリコシル化/シアリル化が、対照血小板と比較して、野生型動物の中に輸注された場合、冷却しない血小板の生存を増大することを明らかにする。
【図面の簡単な説明】
【0185】
【図1A】EGTA-AMおよびサイトカラシンBの存在下または非存在下での室温血小板および冷却しかつ再び温められた血小板のマウスにおける循環時間を示す。曲線は、5-クロロメチルフルオレセイン二酢酸(CMFDA)で標識された、室温(RT)血小板、氷浴温度(低温)で冷却しかつ注射前に室温に再び温められた血小板、およびその円板状の形状を保つためにEGTA-AMおよびサイトカラシンBで処置された冷却しかつ再び温められた血小板の生存を描写する。それぞれの曲線は、6匹のマウスの平均±SDを表す。同一のクリアランスパターンが111インジウムで標識された血小板で得られた。
【図1B】冷却した血小板がインビトロで正常に凝集することを示す。洗浄された、冷却し再び温められた(低温)または室温(RT)の野生型血小板を、37℃で示されたアゴニストにより刺激し、光透過を標準的なアグリゴメーターで記録した。EGTA-AMおよびサイトカラシンBで処置された血小板の凝集反応は、未処置の冷却した血小板と同一であった。
【図1C】低温で誘導されたクリアランスが主としてマウスの肝臓中で起こることを示す。肝臓は、注射された血小板の60〜90%を含む、冷却した血小板の主要なクリアランス器官である。対照的に、RT血小板は、脾臓中で比較的ゆっくり取り除かれる。111インジウムで標識された血小板を同系のマウスの中に注射し、組織を0.5、1および24時間で収集した。データを1グラムの組織当たりで表現した。それぞれのバーは、分析された動物4匹の平均値±SDを描写する。
【図1D】冷却した血小板が肝臓類洞のマクロファージ(クッパー細胞)と共存することを示す。この代表的な共焦点顕微鏡写真は、輸注の1時間後の、好ましくは肝小葉の門脈周囲領域および中央帯状領域中に蓄積する、CMFDAで標識された、冷却し再び温められた血小板(緑)の肝臓分布を示す。クッパー細胞をナイルレッドで標識されたスフェアの注射後、可視化した。冷却した血小板およびマクロファージの共存を示す合体した顕微鏡写真は黄色である。小葉組織が示される(CV:中心静脈、PV:門脈、バー:100 μM)。
【図2】冷却した血小板がCR3欠損マウスにおいて正常に循環するが、補体3(CR3)またはvWf欠損マウスではそうではないことを示す。CMFDAで標識された、冷却され再び温められた(低温)または室温の(RT)野生型血小板を、同系の野生型(WT)、CR3欠損(A)、vWf欠損(B)およびC3欠損(C)レシピエントマウスのそれぞれ6匹の中に輸注し、その生存時間を決定した。冷却した血小板は、CR3欠損動物において室温血小板と同じ反応速度で循環するが、C3欠損またはvWf欠損マウスの循環からは急速に取り除かれる。データは6匹のマウスの平均±SDである。
【図3】冷却した血小板が、インビボでCR3を発現するマウスマクロファージにしっかりと付着することを示す。図3A-冷却し再び温められたTRITCで標識された血小板(左パネル)は、室温のCMFDAで標識された血小板(右パネル)より3〜4×高い頻度で肝臓類洞に付着する。生体内蛍光顕微鏡写真は、血小板の注入後30分で得られた。図3B-冷却し再び温められた(低温、白抜きバー)および室温の血小板(RT、黒バー)が、高いマクロファージ密度を伴う類洞領域(中央帯状)に野生型マウスと同様の分布で付着する。図3C-冷却し再び温められた血小板は、野生型肝臓中のマクロファージに室温血小板より3〜4×多く付着する(白抜きバー)。対照的に、冷却し再び温められたまたは室温の血小板は、CR3欠損マウスにおけるマクロファージへの同一の付着を有する(黒バー)。野生型マウスを用いて9実験およびCR3欠損マウスを用いて4試験を示す(平均±SEM、*P<0.05:**P<0.01)。
【図4】GP1bαが冷却した血小板クリアランスを媒介し、低温で凝集するが、冷却した血小板上で活性化されたvWfと正常に結合することを示す。図4A-GP1bα細胞外ドメインが酵素的に取り除かれたCMFDAで標識された血小板(左パネル、挿入図、黒領域)または対照血小板を、室温で保持(左パネル)または冷却し再び温め(右パネル)、同系の野生型マウスの中に注入し、血小板生存を決定した。それぞれの生存曲線は、6匹のマウスに対する平均値±SDを表す。図4B-冷却した、または室温血小板に富む血漿をボトロセチンでと共に(斜線部分)またはそれ無しで(白抜き部分)で処置した。vWf結合をFITCで標識された抗vWF抗体を用いて検出した。図4C-vWf受容体は、冷却したマウス血小板の表面上で直線的な配列(RT)から凝集物(冷却した)に再分布する。固定された、冷却し再び温められた、または室温の血小板(RT)を、モノクローナルラット抗マウスGP1bα抗体、続いてヤギ抗ラットIgGでコーティングされた10 nm コロイド性金粒子と共にインキュベートした。バーは100 nmである。挿入図:血小板の低倍率。
【図5】GP1bα-CR3相互作用がインビトロで冷却したヒト血小板の食作用を媒介することを示す。図5Aおよび図5Bは、室温(RT)血小板(図5A)または冷却し再び温められた血小板(図5B)と共にインキュベートされたTHP-1細胞の代表的なアッセイ結果を示す。マクロファージと関連するCM-オレンジで標識された血小板は、オレンジ蛍光でy軸の上の方へ移る。室温で保持された血小板と共にインキュベートされたCM-オレンジ陽性未変性マクロファージの平均百分率を、1に標準化した。血小板の冷却は、この移行を〜4%から20%へ増加する。それらはCD61に対するFITC結合mAbで二重に標識しないため、血小板は大部分が摂取される。図5C-分化されない(白抜きバー)THP-1細胞は、〜50%少ないCR3を発現し、冷却し再び温められた血小板の半分を摂取する。しかしながら、CR3発現の分化(黒バー)は、RT血小板の取り込みに対して有意な効果を有さなかった。ヒト血小板の表面からGP1bαのN末端を除去する、ヘビ毒メタロプロテアーゼ、モカラギン(Moc)でのヒト血小板の処置(挿入図;対照:実線、モカラギンで処置された血小板:斜線)は、冷却した血小板の食作用を〜98%まで減らした。データは5実験の平均±SDである。
【図6】循環する、冷却した血小板がCR3欠損マウスにおいて止血機能を有することを示す。野生型マウスの中に輸注された室温(RT)血小板のおよび(図6Aおよび図6B)およびCR3欠損マウスの中に輸注された冷却した(低温)血小板の正常なインビボ機能は、CMFDAで標識された自己血小板の注入後24時間で傷から出てくる血小板凝集物中のその同等の存在により決定される。末梢血(図6Aおよび図6C)および傷から出てくる血液(流血、図6Bおよび6D)を全血フローサイトメトリーにより分析した。血小板を前方光散乱特性およびPE結合抗GP1bαmAb(pOp4)の結合により同定した。注入された血小板(ドット)をそのCMFDA蛍光により、注入されていない血小板(等高線)をそのCMFDA蛍光の欠如により同定した。末梢性全血試料において、前方散乱軸上で集団の95%を含むように分析領域をGP1bα陽性粒子の周りにプロットし(領域1)、この前方光散乱閾上方に現れる粒子の5%を凝集物として定義した(領域2)。百分率は、CMFDA陽性血小板により形成される凝集物の数を意味する。この示された結果は、代表的な4実験である。図6Eは、注入後24時間後にマウスから採取された血液のトロンビン(1 U/ml)活性化に続くP-セレクチンの露出およびフィブリノーゲン結合により決定されるような、野生型マウスの中に輸注されたCM-オレンジ、室温(RT)血小板およびCR3欠損マウスの中に輸注されたCM-オレンジ、冷却し再び温められた(低温)血小板のエクスビボ機能を示す。CM-オレンジで標識された血小板は、CMFDAで標識された血小板のそれに匹敵する循環半減期時間を有する(図示せず)。輸注された血小板を、そのCM-オレンジ蛍光により同定した(黒バー)。輸注されていない(ラベルされていない)分析された血小板は、白抜きバーとして表される。結果をP-セレクチンおよびフィブリノーゲン陽性領域(領域2)中に存在する細胞の百分率として表示する。データは4匹のマウスに対する平均±SDである。
【図7】2つの血小板クリアランス経路を描写する概略図である。血小板は、中心性のおよび末梢性の循環を横切り、体表で低温で可逆のプライミングを受ける。繰り返されるプライミングが、不可逆性のGP1b-IX-V(vWfR)受容体複合体の再配置および肝臓マクロファージを運ぶ補体受容体3型(CR3)によるクリアランスをもたらす。血小板はまた、それらが微少管凝固物中に加わった後に取り除かれる。
【図8】冷却した血小板の食作用に対する単糖の効果を示す。
【図9】室温血小板または冷却した血小板へのWGAレクチン結合のドットプロットを示す。
【図10】室温のまたは冷却した血小板に結合する種々のFITCで標識されたレクチンの分析を示す。
【図11A】β-ヘキソサミニダーゼ処置の前および後に、フローサイトメトリーにより得られる室温のまたは冷却した血小板の表面へのFITC-WGA結合の概要を示す。
【図11B】血小板表面からのGP1bα除去が冷却した血小板へのFITC-WGA結合を減らしたことを示す。
【図12】血小板オリゴ糖の上へのガラクトース転移が冷却した(低温)血小板食作用を減らすが、室温(RT)血小板の食作用に影響を与えないことを示す。
【図13】処置されていない血小板に対する冷却した、ガラクトシル化されたマウス血小板の生存を示す。
【図14】その表面上にガラクトーストランスフェラーゼを含む血小板が、WGA結合により判断されるような外部のトランスフェラーゼの添加無しにガラクトースを転移し(図14A)、インビトロ食作用がヒト血小板に対して生ずる(図14B)ことを示す。図14Cはマウス血小板の生存に対するガラクトーストランスフェラーゼ(GalT)を伴うまたは伴わないUDP-ガラクトースのそれを示す。冷却する前にGalTを伴うまたは伴わないUDP-ガラクトースを、37℃で30分間添加した。血小板を氷浴中で2時間冷却し、その後マウスの中に輸注し(108血小板/マウス)し、その生存を決定した。
【図15】ヒト血小板の中への14Cで標識されたガラクトース取り込みの時間経過を示す。
【図16】UDP-ガラクトースの異なる濃度での4つの血小板濃縮物試料中の血小板のガラクトシル化を示す。
【図17】補体受容体が冷却した血小板の食作用およびクリアランスを媒介することを示す。
【図18】血小板フォンウィルブランド因子受容体のGP1bαサブユニットがαM/β2インテグリンのαMのI-ドメインに結合することを示す。
【図19】冷却した血小板がαMノックアウトマウスにおいて正常に循環しかつ機能する。
【図20】vWf受容体不活性化を図示する。
【図21】αM/β2が、GP1bαの外側先端部分を認識し、冷却した血小板のクリアランスを媒介することを示し、よってGP1bαが凝固性の(vWf結合)および非凝固性の(クリアランス)機能を有することを明らかにする。
【図22】αM(CD11b)の主要な構造を図示する。
【図23】αMがレクチン親和性部位を持つことを示す。
【図24】マクロファージαM/β2受容体のレクチンドメインがクラスター形成されたGP1bα上でβGlcを認識することを示す。
【図25】可溶性αM-レクチン領域がマクロファージにより冷却したヒト血小板食作用を抑制することを示す。
【図26】αMαXキメラタンパク質を発現するCHO細胞の構成を示す。
【図27】冷却により誘導される変化した血小板表面に対する食作用アッセイを図示する。
【図28】αM-レクチンドメインが冷却したヒト血小板食作用を媒介することを示す。
【図29】マクロファージαM/β2受容体が冷却した血小板のクラスター形成されたGP1bα受容体上のβGlcNAc残基を認識することを示す。
【図30】GP1bαを介する血小板のガラクトシル化を図示する。
【図31】血小板表面上でのβ4GalT1の発現を示す。
【図32】ガラクトシル化され冷却したマウス血小板がインビボで循環し得ることを図示する。
【図33】ガラクトシル化され冷却したマウス血小板がマウスモデルにおいて正常に機能し得ることを図示する。
【図34】ヒト血小板濃縮物がガラクトシル化され得り、血小板機能を保存することを示す。
【図35】ヒト血小板濃縮物のガラクトシル化のための方法を図示する。
【図36】血小板濃縮物上の表面ガラクトースは安定であることを示す。
【図37】ガラクトシル化がヒト冷却した血小板のTHP-1マクロファージによる食作用を抑制することを示す。
【図38】血小板数およびpHが冷蔵された血小板濃縮物で変化しないことを示す。
【図39】濃縮物の貯蔵中のアゴニストに対する血小板反応の保持に対する冷蔵およびガラクトシル化の効果を示す。
【図40】濃縮物中の血小板の形状変化(延展)および凝集に対する貯蔵条件の効果を示す。
【図41】血小板を収集し、処置しおよび貯蔵するためのバイオプロセスを記載する、発明の態様を図示する。血小板は、IRDP-個別の無作為ドナー血小板、PRDP-プールされた無作為ドナー血小板、およびSDP-単一のドナー血小板を含む、種々の血液源に由来する。グリカン修飾剤、例えばUDP-Galおよび/またはCMP-NeuAcの溶液を含む容器は、血小板を含むバッグに滅菌合体する。滅菌したドックはまた、滅菌連結デバイス(SCD)または完全な封じ込めデバイス(TCD)としても言及される。滅菌したドックはシステムの無菌性を維持している間、2つの導管の連結を許容する。グリカン修飾剤を血小板と混合し、その後修飾された血小板を白血球フィルタを通して非通気性バッグに移す。全血から白血球画分を除去するためのグラスウールまたはアフィニティ分離方法は、当技術分野において公知であり、血小板から白血球を濾過するための手段の例を提供する。
【図42】血小板を収集、処置および貯蔵するためのバイオプロセスを記載する、発明の限定しない態様2を図示する。
【図43】血小板を収集、処置および貯蔵するためのバイオプロセスを記載する、発明の限定しない態様3を図示する。
【図44】血小板を収集、処置および貯蔵するためのバイオプロセスを記載する、発明の限定しない態様4を図示する。
【図45】血小板を収集、処置および貯蔵するためのバイオプロセスを記載する、発明の限定しない態様5を図示する。
【図46】血小板を収集、処置および貯蔵するためのバイオプロセスを記載する、発明の限定しない態様6を図示する。
【図47】血小板を収集、処置および貯蔵するためのバイオプロセスを記載する、発明の限定しない態様7を図示する。
【図48】血小板を収集、処置および貯蔵するためのバイオプロセスを記載する、発明の限定しない態様8を図示する。
【図49】血小板を収集、処置および貯蔵するためのバイオプロセスを記載する、発明の限定しない態様9を図示する。
【図50】血小板を収集、処置および貯蔵するためのバイオプロセスを記載する、発明の限定しない態様10を図示する。
【図51】血小板を収集、処置および貯蔵するためのバイオプロセスを記載する、発明の限定しない態様11を図示する。
【図52】血小板を収集、処置および貯蔵するためのバイオプロセスを記載する、発明の限定しない態様12を図示する。
【図53】血小板を収集、処置および貯蔵するためのバイオプロセスを記載する、発明の限定しない態様13を図示する。
【図54】血小板を収集、処置および貯蔵するためのバイオプロセスを記載する、発明の限定しない態様14を図示する。
【図55】血小板を収集、処置および貯蔵するためのバイオプロセスを記載する、発明の限定しない態様15を図示する。
【図56】血小板を収集、処置および貯蔵するためのバイオプロセスを記載する、発明の限定しない態様16を図示する。
【図57】血小板を収集、処置および貯蔵するためのバイオプロセスを記載する、発明の限定しない態様17を図示する。
【図58】血小板を収集、処置および貯蔵するためのバイオプロセスを記載する、発明の限定しない態様18を図示する。
【図59】血小板を収集、処置および貯蔵するためのバイオプロセスを記載する、発明の限定しない態様19を図示する。
【図60】血小板を収集、処置および貯蔵するためのバイオプロセスを記載する、発明の限定しない態様20を図示する。
【図61】血小板を収集、処置および貯蔵するためのバイオプロセスを記載する、発明の限定しない態様21を図示する。
【図62】血小板を収集、処置および貯蔵するためのバイオプロセスを記載する、発明の限定しない態様22を図示する。
【図63】血小板を収集、処置および貯蔵するためのバイオプロセスを記載する、発明の限定しない態様23を図示する。
【図64】血小板を収集、処置および貯蔵するためのバイオプロセスを記載する、発明の限定しない態様24を図示する。
【図65】血小板を収集、処置および貯蔵するためのバイオプロセスを記載する、発明の限定しない態様25を図示する。
【図66】血小板を収集、処置および貯蔵するためのバイオプロセスを記載する、発明の限定しない態様26を図示する。
【図67】血小板が内因性の細胞内および細胞外シアリルトランスフェラーゼを含むことを図示する。
【図68】内因性血小板シアリルトランスフェラーゼ活性が、供与体基質CMP-シアル酸の単独添加により血小板上で露出したβ-ガラクトースの伸長を触媒することを図示する。
【図69】ヒトアフェレーシス血小板のガラクトシル化とシアリル化との組合せが、血小板表面上のβGlcNAcおよびβガラクトースの両方の露出を阻止することを図示する。レクチンは蛍光標識され、sWGAは末端のN-アセチルグルコサミン(βGlcNAc)残基に結合し、RCA-1は末端のβガラクトース残基に結合する。結果は、sWGAおよびRCA-1と、未処置のおよび処置された血小板との結合の間の比として表される。
【図70】血小板をグリコシル化されていない低温貯蔵された血小板と比較する場合、グリコシル化工程が、血小板表面における変化を誘導しないことを図示する。ヒトアフェレーシス単位を3つに分けた:1.グリコシル化されていない(NG)、2.グリコシル化された(G)、および3.室温(RT)。グリコシル化された(G)スプリットを、1.2mM UDP-ガラクトースおよび1.5mM CMP-シアル酸と共にインキュベートし、低温(4℃)で貯蔵した。グリコシル化されていないスプリット(NG)を、糖ヌクレオチドの添加無しでインキュベートし、低温(4℃)で貯蔵した。室温血小板は、処置せずに室温で貯蔵した。示される日数で、血小板を試料採取し、P-セレクチンの露出(n=6)、ホスファチジルセリン(n=2)、vWF結合(n=6)、およびフィブリノーゲン結合(n=6)についてFACS分析によって試験した。パネルAは、時間と処置の関数としてアネキシン-V結合(陽性の割合)のヒストグラムを示す。パネルBは、時間と処置の関数としてp-セレクチン(陽性の割合)のヒストグラムを示す。パネルCは、時間と処置の関数としてvWF結合(陽性の割合)のヒストグラムを示す。パネルDは、時間と処置の関数としてフィブリノーゲン(陽性の割合)のヒストグラムを示す。
【図71】UDP-ガラクトースとCMP-シアル酸とを併用したグリコシル化の効果が、インビトロでの血小板の機能に変化を誘導せず、低温貯蔵されたアフェレーシス血小板のインビトロでの機能は保存されることを図示する。ヒトアフェレーシス単位を3つに分け、上述のように処理し、貯蔵した。示される日数で試料採取された血小板を、トロンビンおよびリストセチンを用いた凝集測定によってアゴニスト反応について試験した。パネルAは、貯蔵時間(日数)の関数として凝着(光出現差(%))のグラフを示す。パネルBは、貯蔵時間(日数)の関数として凝集(% 光出現差)を示す。
【図72】シアル酸減少を伴う血小板が、野生型マウスにおけるST3GalIV -/-血小板のクリアランスにより明らかにされたように、インビボで急速に取り除かれることを図示する。
【図73】グリコシル化が冷却しない血小板の循環を改善することを図示する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血小板集団を得る段階、および血小板を少なくとも1つのグリカン修飾剤の有効量と接触させ、それによりその末端で修飾された表面グリカン残基を有する修飾された血小板集団を生ずる段階を含む方法であって、修飾された血小板集団が哺乳動物の中に輸注された時、少なくとも修飾されていない血小板と同じ位の長さ哺乳動物中を循環する、血小板集団の循環時間を増大するための方法。
【請求項2】
グリカン修飾剤が、CMP-シアル酸またはCMP-シアル酸前駆体である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
CMP-シアル酸前駆体を有する血小板集団に、CMP-シアル酸前駆体をCMP-シアル酸に変換する酵素を添加する段階をさらに含む、請求項2記載の方法。
【請求項4】
グリカン修飾剤が、CMP-シアル酸およびUDP-ガラクトースである、請求項1記載の方法。
【請求項5】
血小板をグリカン修飾剤と接触させる前に、接触と同時に、または接触後に血小板集団を冷却する段階をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項6】
血小板をグリカン修飾剤と接触させる前に、接触と同時に、または接触後に室温で血小板集団を貯蔵する段階をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項7】
血小板集団が、哺乳動物の中に輸注される時、実質的に正常な止血活性を保持する、請求項5または6記載の方法。
【請求項8】
血小板集団が、哺乳動物の中に輸注される時、修飾されていない血小板の循環半減期より約5%またはそれより長い循環半減期を有する、請求項5または6記載の方法。
【請求項9】
修飾された血小板集団がヒトの中への移植に適している、請求項1記載の方法。
【請求項10】
血小板集団を得る段階、および血小板を少なくとも1つのグリカン修飾剤の有効量と接触させ、それによりその末端で修飾された表面グリカン残基を有する修飾された血小板集団を生ずる段階、および血小板集団中で微生物の増殖を低減するために血小板を冷却し、それにより血小板集団の貯蔵時間を増大する段階を含む、血小板の貯蔵時間を増大するための方法。
【請求項11】
グリカン修飾剤が、CMP-シアル酸またはCMP-シアル酸前駆体である、請求項10記載の方法。
【請求項12】
CMP-シアル酸前駆体を有する血小板集団に、CMP-シアル酸前駆体をCMP-シアル酸に変換する酵素を添加する段階をさらに含む、請求項11記載の方法。
【請求項13】
グリカン修飾剤が、CMP-シアル酸およびUDP-ガラクトースである、請求項10記載の方法。
【請求項14】
血小板をグリカン修飾剤と接触させる前に、接触と同時に、または接触後に血小板集団を冷却する段階をさらに含む、請求項10記載の方法。
【請求項15】
血小板をグリカン修飾剤と接触させる前に、接触と同時に、または接触後に室温で血小板集団を貯蔵する段階をさらに含む、請求項10記載の方法。
【請求項16】
血小板集団が、哺乳動物の中に輸注される時、実質的に正常な止血活性を保持する、請求項14または15記載の方法。
【請求項17】
血小板集団が、哺乳動物の中に輸注される時に、修飾されていない血小板の循環半減期より約5%またはそれより長い循環半減期を有する、請求項14または15記載の方法。
【請求項18】
修飾された血小板集団がヒトの中への移植に適している、請求項10記載の方法。
【請求項19】
修飾されてない血小板と比べて哺乳動物移植後により長い生存を有する、血小板の表面上に複数の修飾されたグリカン分子を含む修飾された血小板。
【請求項20】
血小板の表面上の修飾されたグリカン分子が、その末端でガラクトシル化される、請求項19記載の修飾された血小板。
【請求項21】
血小板の表面上の修飾されたグリカン分子が、その末端でシアリル化される、請求項19記載の修飾された血小板。
【請求項22】
修飾されたグリカン分子が、GP1bα分子である、請求項19記載の修飾された血小板。
【請求項23】
GP1bα分子が少なくとも1つの単糖を有するその末端で修飾される、請求項22記載の修飾された血小板。
【請求項24】
単糖がガラクトースである、請求項23記載の修飾された血小板。
【請求項25】
単糖がシアル酸である、請求項23記載の修飾された血小板。
【請求項26】
GP1bα分子が、単糖、ガラクトース、およびシアル酸で修飾される、請求項23記載の修飾された血小板。
【請求項27】
請求項19記載の修飾された血小板を含み、少なくとも1つの薬学的に許容される賦形剤をさらに含む、薬学的組成物。
【請求項28】
血小板の表面上の修飾されたグリカン分子が、その末端でガラクトシル化される、請求項27記載の薬学的組成物。
【請求項29】
血小板の表面上の修飾されたグリカン分子が、その末端でシアリル化される、請求項27記載の薬学的組成物。
【請求項30】
修飾された血小板が、出血性疾患で苦しめられているヒト患者の中への移植に適している、請求項27記載の薬学的組成物。
【請求項31】
組成物がヒトへの投与前に少なくとも5日間冷却貯蔵可能で、かつ該組成物が修飾されない血小板に比べてヒトにおいて止血機能の有意な喪失または血小板クリアランスの有意な増加無しに貯蔵後ヒトの中に輸注可能である、請求項27記載の薬学的組成物。
【請求項32】
複数の修飾された血小板を含み、血小板が少なくとも24〜60時間貯蔵される能力があり、かつ血小板調製物が修飾されない血小板に比べてヒトにおいて止血機能の有意な喪失または血小板クリアランスの有意な増加無しに貯蔵後ヒトへの投与に適している、安定な血小板調製物。
【請求項33】
修飾された血小板が、そのGP1bα分子の末端でガラクトシル化される、請求項32記載の安定な血小板調製物。
【請求項34】
修飾された血小板が、そのGP1bα分子の末端でシアリル化される、請求項32記載の安定な血小板調製物。
【請求項35】
血小板が、低温で貯蔵される能力のある、請求項32記載の安定な血小板調製物。
【請求項36】
血小板が、修飾されていない血小板と比較して生物活性の実質的な低減無しに室温で貯蔵される能力がある、請求項32記載の安定な血小板調製物。
【請求項37】
請求項32、35、または36に記載の安定な血小板調製物を哺乳動物に投与する段階を含む、哺乳動物における止血を媒介するための方法。
【請求項38】
周囲に対して実質的に閉ざされた、血小板集団を収容しかつ包含する能力のある滅菌した容器、および容器中に収集されかつ貯蔵された血小板の容量を修飾するのに十分な量の滅菌したグリカン修飾剤を含み、使用のための適切なパッケージング材料および説明書をさらに含む、キット。
【請求項39】
グリカン修飾剤が、UDP-ガラクトースである、請求項38記載のキット。
【請求項40】
グリカン修飾剤が、CMP-シアル酸である、請求項38記載のキット。
【請求項41】
グリカン修飾剤が、CMP-シアル酸およびUDP-ガラクトースである、請求項38記載のキット。
【請求項42】
容器が、血小板の低温貯蔵に適している、請求項38記載のキット。
【請求項43】
GP1bα分子を有する複数の血小板を得る段階、および血小板をグリカン修飾剤と接触させる段階を含み、グリカン修飾剤が血小板上のGP1bα分子の末端をガラクトシル化および/またはシアリル化する、血小板糖タンパク質を修飾する方法。
【請求項44】
請求項43記載の修飾された糖タンパク質および改良された貯蔵特性を有する血小板を含む、輸注可能な血小板調製物。
【請求項45】
血小板を有する血液の試料を得る段階、および少なくとも血小板をグリカン修飾剤と接触させる段階を含み、グリカン修飾剤が血小板上のGP1bα分子の末端をガラクトシル化またはシアリル化する、血液成分を修飾する方法。
【請求項46】
血小板を有する血液の試料を得る段階、少なくとも血小板をグリカン修飾剤に接触させる段階を含み、グリカン修飾剤が血小板上のGP1bα分子の末端をガラクトシル化またはシアリル化し、および修飾された血小板を有する血液試料を約2℃から約18℃の温度で少なくとも3日間貯蔵し、それにより血液試料中の病原体増殖を低減する段階を含む、血液試料中の病原体増殖を低減する方法。
【請求項47】
血液試料が緩やかに再び温められる、請求項46記載の方法。

【図1A】
image rotate

【図1B】
image rotate

【図1C】
image rotate

【図1D】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4A】
image rotate

【図4B】
image rotate

【図4C】
image rotate

【図5A】
image rotate

【図5B】
image rotate

【図5C】
image rotate

【図6A】
image rotate

【図6B】
image rotate

【図6C】
image rotate

【図6D】
image rotate

【図6E】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8A】
image rotate

【図8B】
image rotate

【図8C】
image rotate

【図8D】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14A】
image rotate

【図14B】
image rotate

【図14C】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate

【図24】
image rotate

【図25】
image rotate

【図26】
image rotate

【図27】
image rotate

【図28】
image rotate

【図29】
image rotate

【図30】
image rotate

【図31】
image rotate

【図32】
image rotate

【図33】
image rotate

【図34】
image rotate

【図35】
image rotate

【図36】
image rotate

【図37】
image rotate

【図38】
image rotate

【図39】
image rotate

【図40】
image rotate

【図41】
image rotate

【図42】
image rotate

【図43】
image rotate

【図44】
image rotate

【図45】
image rotate

【図46】
image rotate

【図47】
image rotate

【図48】
image rotate

【図49】
image rotate

【図50】
image rotate

【図51】
image rotate

【図52】
image rotate

【図53】
image rotate

【図54】
image rotate

【図55】
image rotate

【図56】
image rotate

【図57】
image rotate

【図58】
image rotate

【図59】
image rotate

【図60】
image rotate

【図61】
image rotate

【図62】
image rotate

【図63】
image rotate

【図64】
image rotate

【図65】
image rotate

【図66】
image rotate

【図67】
image rotate

【図68】
image rotate

【図69】
image rotate

【図70】
image rotate

【図71】
image rotate

【図72】
image rotate

【図73】
image rotate


【公表番号】特表2009−511069(P2009−511069A)
【公表日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−535791(P2008−535791)
【出願日】平成18年10月16日(2006.10.16)
【国際出願番号】PCT/US2006/040579
【国際公開番号】WO2007/047687
【国際公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【出願人】(506041648)ザイムクエスト インコーポレイティッド (9)
【Fターム(参考)】