説明

血液から赤血球および血小板をサイズに基づいて除去するための微少流体システム

本発明は、一つまたは複数の所望の粒子中の試料を濃縮するための装置および方法を特徴とする。例えば血液試料中の白血球などの細胞の濃縮のために、これらの装置および方法は典型的に使用される。一般的に、本発明の方法は、一定のサイズ、形、または変形能の粒子が通過することのできる少なくとも一つの篩を含む装置を利用する。本発明の装置は、少なくとも二つの流出口を有し、かつ、流体の連続的な流れが篩を通過することなく装置を通過できるように、篩が配置されている。装置はまた、選択された粒子が篩を通り抜けるように導くための力発生装置を含む。そのような力発生装置は、例えば、拡散、電気泳動、誘電泳動、遠心力、または圧力駆動性の流れを利用する。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療診断および微少流体の分野に関する。なお、本発明は、NIHによって授与されたGrant No. GM 62119の下に、政府援助を得て達成された。本政府は本発明に関して一定の権利を有する。
【背景技術】
【0002】
血液、骨髄、ならびに関連の器官および組織の疾患の研究は、特定の細胞の分子解析から恩典を得る。ヒトの身体は、異なる濃度で見出される三種類の細胞である、赤血球、白血球および血小板を含む、約5リットルの血液を含有する。これらの細胞は、多様な疾患への洞察を与えることができる。疾患の識別は、特定の白血球における構造的および形態的な変化などの、希な事象の発見および単離と関係しうる。このための最初の段階は、例えば白血球のような特定の細胞を血液試料から単離することである。
【0003】
血液中には六つの異なる型の白血球が存在し、それらの濃度は、赤血球および血小板の濃度より約3桁少ない(表1)。最初の単離は、一般的には、血液試料の大部分から白血球を単離するための選別装置を必要とする。血液から細胞集団を分離するために考案された、いくつかのアプローチが存在する。これらの細胞分離技術は、以下の二つの広義のカテゴリーに分類されうる:(1) 固定され、様々な細胞特異的マーカーを用いて染色された細胞の選択に基づく、侵襲的な方法;および(2) 関心対象の細胞集団に特異的な生物物理学的パラメータを用いて、生細胞を単離するための非侵襲的な方法。
【0004】
(表1)血液細胞の型、濃度、およびサイズ

【0005】
種々のフローサイトメトリーおよび細胞選別方法が利用可能であるが、通常、これらの技術は、大量の試料および熟練した技師を必要とする、いくつかの大きく高価な機器を利用する。これらのサイトメータおよび選別機は、細胞の分離を達成するために、静電偏向、遠心分離[1]、蛍光活性化細胞選別(FACS)[2]、および磁気活性化細胞選別(MACS)[3]のような方法を使用する。これらのアッセイ法を行うための機器はまた、市販されている。微細加工技術およびソフトリソグラフィ技術[4]を用いる細胞選別機器の小型化により、極めて効率的で、操作が容易で、かつ少量の試料を用いる細胞選別装置を製造する能力がもたらされている。しかしながら、より大きな大規模装置と比べて有望な結果をもたらしているフローサイトメータおよび細胞選別機[5、6]を小型化する試みは、これまでほとんど行われていない。
【0006】
先行技術の方法は、高コストならびに、熟練した技師および大量の試料が必要という欠点を有するため、これらの制限を克服する混合物中の特定の型の細胞を濃縮するための新規の装置および方法が必要である。
【発明の開示】
【0007】
発明の概要
本発明は、一つまたは複数の所望の粒子中で試料を濃縮するための装置および方法を特徴とする。これらの装置および方法は、例えば血液試料中の白血球のような、細胞の濃縮のために典型的に使用される。一般的に、本発明の方法は、一定のサイズ、形、または変形能の粒子が通過できる篩を、少なくとも一つ含む装置を利用する。本発明の装置は、少なくとも二つの流出口を有しており、かつ、流体の連続的な流れが篩を通過することなく装置を通過できるように、篩が配置されている。装置はまた、選択された粒子が篩を通り抜けるように導くための、力発生装置を含む。そのような力発生装置は、例えば、拡散、電気泳動、誘電泳動、遠心力、または圧力駆動性の流れを利用する。
【0008】
ひとつの局面において、本発明は、粒子の濃度を高めるための装置を特徴とする。本装置は、注入口および第一流出口および第二流出口を有するチャネル;注入口と第二流出口の間には配置されず、注入口と第一流出口との間に配置される第一篩;ならびに、粒子を第一篩へ導くための力発生装置を含む。力発生装置は、第二流出口を通してよりも第一流出口を通してより大きな流速を生じうる。篩はまた、チャネルの領域内に配置されてもよく、領域に入る流体が篩を通って引き込まれるように、篩を含む領域内の点で広がっているチャネルを、力発生装置が含んでもよい。装置は、第三流出口および、注入口と第三流出口との間に配置される第二篩をさらに含んでもよく、ここで、篩はチャネルの領域内に配置され、かつ、領域に入る流体が篩を通って引き込まれるように、篩を含む領域内の点で広がっているチャネルを力発生装置が含む。力発生装置は、例えば二つの電極を含み、ここで、DC電圧が電極に加えられる場合、荷電した粒子が、電気泳動によって第一篩に向かうまたは離れる方向に移動できるように、第一篩が電極の間に配置されている。もう一つの態様においては、粒子が誘電泳動によって第一篩に向かうまたは離れる方向に移動できるような、不均一な電場を生じることのできる、二つまたはそれ以上の電極を、力発生装置が含む。または、粒子が遠心力によって第一篩に向かって移動できるように、力発生装置は、湾曲したチャネルを含む。好ましくは、注入口と第二流出口の間の流れの方向の、篩の長手方向に沿った圧力損失は、実質的に一定である。典型的な篩は、母体赤血球を通過させるが、胎児赤血球を通過させない。
【0009】
本発明の装置は、粒子を含有する流体から、粒子の標的集団中で濃縮された試料を産生する方法において使用される。この方法は、本発明の装置を提供する以下の段階を含む:粒子を含有する流体を、注入口を通ってチャネル内へと導く段階;流体中の粒子が第一篩へ導かれ、かつ粒子のサイズ、形、または変形能に基づいて第一篩を実質的に通過するまたはしないように、力発生装置を本明細書に記載されるように作動させる段階;および、標的集団の粒子が第一篩を実質的に通過する場合には第一流出口から、または標的集団の粒子が第一篩を実質的に通過しない場合には第二流出口から、標的集団の粒子を含有する流出物を回収し、それにより、粒子の標的集団中で濃縮された試料を産生する段階。典型的な標的集団は、胎児赤血球、癌細胞、および感染性微生物を含む。
【0010】
「粒子」とは、流体中に溶解されていない任意の固形の物体を意味する。粒子は任意の形またはサイズでありうる。典型的な粒子は、細胞およびビーズである。
【0011】
「力発生装置」とは、流体中の粒子に力を加えることのできる任意の装置を意味する。力発生装置は、チャネルと連結した装置でもよいし、チャネルの一部分であってもよい。典型的な力発生装置は、例えば、電気泳動または誘電泳動のための電極、チャネル拡大(例えば、本明細書記載の拡散器)、および圧力源と連結した湾曲チャネルを含む。
【0012】
「微少流体の」とは、1 mm未満の寸法を少なくとも一つ有することを意味する。
【0013】
本発明の他の特徴および利点は、以下の詳細な説明および添付の特許請求の範囲から明らかであろう。
【0014】
発明の詳細な説明
本発明は、流体中の粒子の濃度を高める、例えば白血球中の試料を濃縮するための装置を特徴とする。一般的に、本発明の装置は、注入口および二つまたはそれ以上の流出口を有するチャネルを含み、かつ、一つまたは複数の篩は、チャネル内の注入口と流出口の間に配置されている。粒子を含有する流体が装置を通過する時、所望のサイズ、形、または変形能の粒子は篩を通過しうるが、他の粒子は通過しない。本装置は、粒子が篩を通るように導くために、力発生装置を利用する。
【0015】
以下の考察は、血液試料中の赤血球および血小板から白血球を濃縮することに焦点をおく。しかしながら、本発明の装置および方法は、一般的に、様々なサイズ、形、または変形能を有する粒子の任意の混合物に適用可能である。本発明の装置はまた、例えば、試料中の全ての粒子よりも小さい細孔を有する篩を利用することによって、いかなる粒子も分離することなく粒子の試料から過剰な流体を除去するためにも用いられうる。
【0016】
装置
本発明の装置内における粒子の分離は、そのサイズ、形、または変形能に基づいて粒子を選択的に通過させる篩の使用に基づく。
【0017】
篩における細孔のサイズ、形、または変形能は、篩を通過することのできる粒子の型を決定する。
【0018】
例えば、連続的に増加するサイズの細胞を除去するために、二つまたはそれ以上の篩を直列または並列に配列することができる。
【0019】
ある態様において、篩は、間隔を離した一連の柱(post)を含む。多様な柱のサイズ、形状、および配置が、本発明の装置において使用できる。図1は、篩に使用できる様々な柱の形を図示している。柱間の隙間の大きさ、および柱の形は、高速かつ効率的な濾過を確実にするために最適化されうる。例えば、赤血球のサイズの範囲は5μmから8μm程度であり、血小板のサイズの範囲は1μmから3μm程度である。全ての白血球のサイズは10μmより大きい。その上、篩における間隔を、母体赤血球は通過できるが有核胎児赤血球は通過できないように設計することができるので、サイズに基づいて胎児赤血球を母体赤血球から分離することができる。柱間の隙間が大きいことは、赤血球および血小板が篩を通過する速度を増加させるが、隙間サイズが大きいことはまた、白血球を逃す危険性も増加させる。隙間サイズが小さいほど、白血球のより効率的な捕獲が確実になるが、赤血球および血小板の通過速度もまた遅くなる。適用の型によって、異なる形状を用いることができる。
【0020】
篩を、別の方法によって製造してもよい。例えば、鋳型法、電鋳法、エッチング、掘削、またはその他の穴を作成する方法によって、例えば、シリコン、ニッケル、またはPDMSのような材料の板の中に、篩を形成することができる。あるいは、適切な細孔サイズを有する重合体マトリックスまたは無機マトリックス(例えば、ゼオライトまたはセラミック)を、本明細書記載の装置内の篩として利用することができる。
【0021】
本発明の装置に関連するひとつの問題とは、篩の目詰まりである。適切な篩の形および設計によって、ならびに、ウシ血清アルブミン(BSA)またはポリエチレングリコール(PEG)などの非粘着性コーティングで、篩を処理することによっても、この問題は軽減されうる。目詰まりを防止する一つの方法とは、篩と粒子の間の接触面積を最小限にすることである。
【0022】
本発明の装置は、通常、連続的な流動様式で作動する、例えば、より大きな白血球を血液から濾過する、粒子選別機である。装置内における篩の位置は、目詰まりを回避しかつ分離後の粒子の回収を可能にすると同時に、最大数の粒子が確実に篩と接触するように、選択される。一般的に、粒子は、レイノルズ数が極めて低いために、装置中のチャネル内に維持されている、その層流線を横断するが、これは通常は微少流体である。血液細胞選別機のいくつかの異なる設計には、層流線を横切って粒子を移動させるためおよび篩と接触させるための様々な機構(圧力駆動性流れ、電気泳動、誘電泳動、および遠心力)を含むことが記載されている。これらのスキームそれぞれを利用する装置を、以下に記載する。
【0023】
圧力駆動性流れ
可変性の流出口の圧力
二つの流出口における圧力の差に基づいた装置の模式図を図2に示す。この装置においては、流出口1を通り抜ける流速は、流出口2を通り抜ける流速よりも大きい。この構造により、粒子は、その層流線を横断して動くことができ、かつ、流出口1と主チャネルの間の篩と接触することができる。篩を通過できない粒子は流出口2へ流れて装置の中を移動し続け、篩の目詰まりを軽減または排除する。二つの流出口の間の圧力差は、任意の適切な手段によって達成され得る。例えば、外付けのシリンジポンプを用いて、または、流出口2よりも流出口1のサイズをより大きく設計することによって、圧力を制御することができ、これにより流出口2に対して流出口1の流体抵抗が低下する。
【0024】
拡散器
低剪断応力濾過装置の模式図を図3に示す。装置は、拡散器の中へ通じる一つの注入口チャネルを有するが、これはチャネルの広がった部分である。ある構造においては、チャネルはV字形に広がっている。拡散器は、白血球集団を濃縮しながら、血液からより小さな赤血球および血小板を濾過するように成形された細孔を有する、二つの篩を含む。拡散器の形状が、層流の流線を広げ、装置の中を移動しながらより多くの細胞が篩に接触するようにさせる(図4)。装置は、例えば赤血球および血小板のような篩を通過する細胞を回収する二つの流出口、ならびに濃縮された白血球を回収する一つの流出口という、三つの流出口を含む。
【0025】
図3の装置の長さに対する、個々の篩全体にわたる圧力差を、簡単な抵抗モデルを用いて模式化した(図5)。このモデルにおいては、圧力差は篩に沿って直線的に低下し、かつ、篩の端部に向かって陰圧の損失が存在し、これは、潜在的に分離収率を低下させる、篩を通じた逆流を生じうる(図6)。従って、図3の装置の構造により、所望の状況下で作動する篩の比率の低下がもたらされる。小さな圧力損失またはそれどころか陰圧の損失を有する篩の後ろの部分よりも、篩の最初の部分により、細胞は極めて大きな圧力損失を被る。篩全体にわたるより均一な圧力損失を確実にするために、同じ抵抗モデル(図7)を用いて拡散器の形状を変更することによって、篩に沿った圧力損失におけるこの差に対処できる。篩に沿って一定の圧力損失をもたらす構造を、図8に示す。
【0026】
本拡散装置は、通常、赤血球および血小板の100%枯渇を保証するものではない。しかしながら、初期の赤血球/白血球比である600:1を、およそ1:1の比まで改善できる。本装置の利点とは、流速が十分に低いので、細胞にかかる剪断応力が白血球の形質または生存率に影響しない点、および、白血球の損失を最小限または皆無にするように、全ての白血球が保持されることを、フィルターが保証する点である。拡散器の角度の拡大により、より大きな濃縮因子がもたらされると考えられる。
【0027】
一つの拡散器からの流出口が二番目の拡散器の注入口へ注がれている拡散器を、二つ以上連続配置することによってもまた、より良い濃縮を得ることができる。柱間の隙間の拡大により、篩の中のより大きな細孔を通って白血球を失う危険性を伴う枯渇プロセスが、迅速になりうる。
【0028】
電気泳動:
電気泳動は、二つの電極の間にDC電圧を加えることにより、荷電した粒子を操作することを必要とする。荷電した粒子は、逆荷電した電極に向かって移動する傾向がある。細胞は、通常、正常のpH水準においては負に荷電しており、電気泳動の間は、陽極に向かって遊走する[7]。チャネル幅方向の電気泳動を用いて、粒子を流線の外へ追い出して篩と接触させることができ、一方で、チャネルに沿った流れを維持して、連続的な流れの分離を達成し、かつ、篩の目詰まりを回避することができる。通常、血液細胞は1 V/cmの加電圧で約1 μm/secの速度で移動するが、これは、合理的な時間の範囲内で、細胞などの粒子を、チャネル幅方向に移動させるのに十分である。この電圧水準はまた、気泡形成、または細胞に対する悪影響を回避する。
【0029】
電気泳動装置の模式図を図9に示す。本装置内においては、篩は二つの電極の間に位置する。DC電圧が電極に加えられる場合、負に荷電した細胞は篩へ導かれるが、赤血球および血小板しか、篩を通過することができない。
【0030】
誘電泳動:
誘電泳動は、例えば細胞のような粒子を操作するための、高周波における非対称のAC電場の応用である。培地および細胞の極性に応じて、細胞は正の(高電場に向かう方向)または負の(高電場から離れる方向)誘電泳動のいずれかを受ける[8,9]。異なる方向(正または負の誘電泳動)への異なる細胞の挙動は、周波数を変動させることによって、変化させることができる。赤血球は、より低い周波数においては、負の誘電泳動を受け、より高い周波数においては、正の誘電泳動を受けることが、これまでに示されている[10]。誘電泳動はまた、異なる細胞を異なる方向で、層流線を横断させて分離を引き起こすため、または連続的な流れを維持しながら篩に接触させるために、用いることができる。
【0031】
白血球、赤血球、および血小板、または、赤血球および血小板のみを篩に向かって移動させるのに、誘電泳動を用いることができる。誘電泳動を用いた細胞の分離の模式図を図10に示す。篩を二つの電極の間に配置することによって、サイズ、形、または変形能に基づいた粒子の分離が生じる。
【0032】
別の態様において、誘電泳動を用いて、二つまたはそれ以上の細胞集団を、篩を使用することなく、空間的に分離させうる。二つの細胞集団は、その後、異なる流出口へ導かれて回収されうる。
【0033】
遠心力に基づいた分離:
異なる質量(サイズ)の細胞を分離するのに用いることができるもうひとつの技術とは、湾曲チャネルに作用する遠心力の使用である。粒子に作用する遠心力は、F=mω2Xにより得られる。式中、mは粒子の大きさであり、ωは、回転ローターの角速度(ラジアン/秒)であり、Xは、回転軸からの粒子の距離(またはローターの半径)である。質量および流れの速度が増加するほど、粒子に作用する遠心力もまた増加する。図11に示すようならせん構造を設計することにより、および、例えば外付けのシリンジポンプを用いて流速(粒子のスピード)を制御することにより、チャネルを分割する篩を用いて濾過される、より小さな粒子と、異なるサイズの粒子とを分離することができる。血液試料中では、より小さな赤血球および血小板は篩を通過し、かつ、より大きな白血球は通過しないので、白血球の分離および濃縮が達成される。
【0034】
二方向(bi-directional)流れ:
粒子の分離のためのもうひとつの技術とは、例えば外付けのシリンジポンプによって制御することができる、方向性をもつ流れの使用である。原理を、図12において説明する。試料の初期流れは、注入口1から流出口1までであり、ここで、試料が篩を通過し、より大きな粒子は排除される。全試料容量が濾過された後、排除された粒子を篩から洗い流すために緩衝液(注入口2)が用いられるが、これは流出口2を通して回収される。
【0035】
変動性
本発明の装置は、二つを上回る粒子集団を作出するために、二つを上回る流出口および一つを上回る篩を含むように設計されうる。そのような複数の経路を、直列または並列に配列してもよい。例えば電気泳動装置においては、複数個のチャンバーを作出するために、複数の篩を電極間に配置することができる。注入口に最も近い篩が最大径の細孔を有し、かつ、一連の篩のそれぞれがより小さい細孔を有し、集団を複数の画分に分離する。誘電泳動、圧力駆動性流れ、および遠心力流れを用いた類似の装置が可能である。
【0036】
加工
本発明の装置のチャネルおよび篩の加工のために、ポリ(ジメチルシロキサン)(PDMS)ソフトリソグラフィー、重合体鋳造(例えば、エポキシ、アクリル樹脂、またはウレタンを使用)、注入成形、重合体加熱エンボス加工、レーザー微細機械加工(micromachining)、薄膜表面微細機械加工、ガラスおよびシリコンの両方のディープエッチング(deep etching)、電鋳法、ならびにステレオリソグラフィー(stereolithography)などの3-D加工技術のような簡単な微細加工技術を、用いることができる。電極は、リフトオフ(lift off)、蒸着、成形、または他の析出技術のような標準技術によって加工されうる。上記で列挙された工程の大部分は、微細な外装(feature)を複製するために、フォトマスクを用いる。5μmを上回る外装サイズについては、透明素材の乳剤マスクを用いることができる。2μmから5μmの間の外装サイズは、ガラス素材のクロムフォトマスクが必要でありうる。より小さな外装に関しては、ガラス素材の電子ビーム直接描画マスク(E-beam direct write mask)を用いることができる。次に、シリコンもしくはガラスの場合には、エッチングのためのフォトレジストのパターンを明確にするために、または、例えばSU-8フォトレジストを用いて陰画複製(negative replica)を明確にするためにマスクが用いられ、その後、これを、PDMS、エポキシ、およびアクリル樹脂のような重合材料の複製成形のための原版として用いることができる。その後、加工されたチャネルを、ガラスのような硬い基材の上に接着し、装置を完成させることができる。加工のための他の方法は、当技術分野において公知である。本発明の装置は、単独の材料から、または組み合わされた材料から加工されうる。
【0037】
方法
本発明の装置を、混合物または懸濁物中の粒子集団を分離または濃縮するための方法において利用できる。好ましくは、本発明の方法により、望ましくない粒子のうち、少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、95%または99%が、試料から除去される。本発明の方法においては、試料は、本発明の装置の中に導入される。装置の中に導入されると、篩を通過することによって、または篩を通過しないことによって、所望の細胞が大量の試料から分離される。細胞は、例えば圧力駆動性流れ、電場、または遠心力によって発生させた外からの力によって、篩に向かう方向に(または篩から離れる方向に)導かれる。本発明の装置は少なくとも二つの流出口を有し、ここで、一つの流出口へ到達するためには、細胞は篩を通過しなければならない。分離されると、例えばさらなる精製、解析、貯蔵、改良、または培養のために、粒子が回収されうる。
【0038】
血液から白血球を分離することが有用であると一般的には記載されるが、本発明の方法を用いて他の細胞または粒子を分離してもよい。例えば、尿または髄液など正常では無菌の体液から細胞を単離するために、本装置を用いてもよい。他の態様においては、例えば、母体血由来の胎児赤血球、血液または他の体液由来の癌細胞、および動物または環境試料由来の感染性微生物のような希少な細胞を、試料から単離することができる。本発明の装置は、従って、医療診断、環境もしくは品質保証試験、コンビナトリアルケミストリー、または基礎研究の分野において使用されうる。
【0039】
次の実施例は、本発明の様々な特徴を説明することを意図するものであって、決して限定することを意図しない。
【0040】
実施例1. 拡散フィルター:
より小さな赤血球および血小板を、より大きな白血球から、サイズに基づいて分離するための装置が、簡単なソフトリソグラフィー技術を用いて、加工された(図13)。装置の外装と形状を有するクロムフォトマスクを加工して、シリコンウエハー(silicon wafer)を、SU-8フォトレジスト中の装置の陰画複製でパターン付けるのに用いた。その後この原版は、標準的な複製成形技術を用いて、PDMSチャネルおよび篩構造を加工するのに用いられた。PDMS装置を、酸素プラズマで処理後、スライドガラスに接着した。図13は、拡散器の形状および篩と共に、チャネル構造の低倍率画像を示している。装置を流れる粒子または細胞の大部分を確実に篩と相互作用させるために層流の流線を広げるのに、拡散器の形状が用いられる。より小さな赤血球および血小板は篩を通過し、かつ、より大きな白血球は中央のチャネルに閉じこめられる。篩の、より高倍率の写真を図14に示す。
【0041】
実施例2. 電気泳動:
電気移動はまた、細胞がその層流の流線を横断するため、および、全ての細胞または粒子が篩と相互作用するまたは接触することを確実にするために、用いることができる。本装置は実施例1のようにして加工されたが、PDMSは、フォトリソグラフィーでパターン付けされた金電極を有するスライドガラスに接着される(図15)。負に荷電した細胞を、正に荷電した電極へと引きつけるために、電気泳動が用いられる。より小さな赤血球および血小板は篩を通過するが、一方、より大きな白血球は排除される。白血球は分離ポートを通して、単離されて抽出される。
【0042】
参照文献

【0043】
他の態様
上記の明細書中に記載された全ての刊行物、特許、および特許出願は、参照によって本明細書に組み込まれる。記載された本発明の方法およびシステムの様々な修正および改変は、本発明の範囲および精神から逸脱することなく、当業者にとって明白であろう。本発明は、具体的な態様に関連して記載されているが、請求された本発明は、そのような具体的態様に過度に制限されてはならないことが、理解されるべきである。実際に、当業者にとって明らかな、本発明を実行するために記載された様式の様々な修正は、本発明の範囲内であることが意図されている。
【0044】
他の態様は添付の特許請求の範囲に記載されている。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の篩についての様々な形状の説明図である。
【図2】二つの出力において差次的な流速を利用する装置の模式図である。
【図3】本発明の低剪断応力拡散装置の模式図である。赤血球を分離するための設計パラメータも示す。
【図4】流体が本発明の拡散装置を通過する時の、層流の流線の模式的描写である。
【図5】篩全体にわたる圧力損失を計算するための簡単な抵抗モデルである。
【図6】装置の長手方向に沿った篩全体にわたる、計算された圧力損失のグラフである。
【図7】篩全体にわたって一定の圧力損失を確保するために用いたモデルである。
【図8】篩全体にわたって実質的に一定の圧力損失を有する装置の模式図である。
【図9】チャネル内の粒子を操作するために電気泳動を利用する本発明の装置の模式図である。
【図10】非対称のAC電場を用いた誘電泳動による、粒子の分離の模式図である。
【図11】異なるサイズの粒子を分離するために遠心力を利用する装置の模式図である。
【図12】双方向性流れを利用する装置の模式図である。
【図13】拡散器形状および二つの篩を有するチャネル構造の、低倍率顕微鏡写真である。
【図14】図13の装置内における篩間の5ミクロンの隙間を示す高倍率顕微鏡写真である。
【図15】粒子の電気泳動操作のための装置の顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a. 注入口および第一流出口および第二流出口を有するチャネル;
b. 注入口と第二流出口の間には配置されず、注入口と第一流出口の間に配置される、第一篩;ならびに
c. 粒子を第一篩へ導く、力発生装置
を含む、粒子の濃度を高めるための装置。
【請求項2】
力発生装置が、第二流出口を通してよりも第一流出口を通してより大きな流速を生じる、請求項1記載の装置。
【請求項3】
篩がチャネルの領域内に配置されており、かつ、領域に入る流体が篩を通って引き込まれるように、篩を含む領域内の点で広がっているチャネルを、力発生装置が含む、請求項1記載の装置。
【請求項4】
注入口と第二流出口の間の流れの方向の、篩の長手方向に沿った圧力損失が、実質的に一定である、請求項3記載の装置。
【請求項5】
第三流出口、および、注入口と第三流出口の間に配置される第二篩をさらに含む、請求項1記載の装置であって、篩がチャネルの領域内に配置され、かつ、領域に入る流体が篩を通って引き込まれるように、篩を含む領域内の点で広がっているチャネルを、力発生装置が含む、装置。
【請求項6】
注入口と第二流出口の間の流れの方向の、篩の長手方向に沿った圧力損失が、実質的に一定である、請求項5記載の装置。
【請求項7】
力発生装置が二つの電極を含み、かつ、DC電圧が電極に加えられる場合、荷電した粒子が、電気泳動によって第一篩に向かうまたは離れる方向に移動できるように、第一篩が電極の間に配置される、請求項1記載の装置。
【請求項8】
誘電泳動によって第一篩に向かうまたは離れる方向に粒子が移動できるような、不均一な電場を生じることのできる、二つまたはそれ以上の電極を、力発生装置が含む、請求項1記載の装置。
【請求項9】
粒子が遠心力によって第一篩に向かって移動できるように、力発生装置が、湾曲したチャネルを含む、請求項1記載の装置。
【請求項10】
第一篩が、母体赤血球を通過させるが、胎児赤血球を通過させない、請求項1記載の装置。
【請求項11】
粒子含有流体から、粒子の標的集団中で濃縮された試料を産生する方法であって、以下の段階を含む方法:
a. i. 注入口および第一流出口および第二流出口を有するチャネル;
ii. 注入口と第二流出口の間には配置されず、注入口と第一流出口の間に配置される、第一篩;ならびに
iii. 粒子を第一篩へ導くための力発生装置
を含む装置を供給する段階;
b. 粒子含有流体を、注入口を通ってチャネル内へ導く段階;
c. 流体中の粒子が第一篩へ導かれ、かつ、粒子のサイズ、形、または変形能に基づいて第一篩を実質的に通過するまたは通過しないように、力発生装置を作動させる段階;ならびに
d. 標的集団の粒子が第一篩を実質的に通過する場合には第一流出口から、または、標的集団の粒子が第一篩を実質的に通過しない場合には第二流出口から、標的集団の粒子を含む硫出物を回収し、それにより、粒子の標的集団中で濃縮された試料を産生する段階。
【請求項12】
力発生装置が、第二流出口を通してよりも第一流出口を通してより大きな流速を生じる、請求項11記載の方法。
【請求項13】
篩がチャネルの領域内に配置されており、かつ、領域に入る流体が篩を通って引き込まれるように、篩を含む領域内の点で広がっているチャネルを、力発生装置が含む、請求項11記載の方法。
【請求項14】
注入口と第二流出口の間の流れの方向の、篩の長手方向に沿った圧力損失が、実質的に一定である、請求項13記載の方法。
【請求項15】
装置が、第三流出口、および、注入口と第三流出口の間に配置される第二篩をさらに含み、篩がチャネルの領域内に配置され、かつ、領域に入る流体が篩を通って引き込まれるように、篩を含む領域内の点で広がっているチャネルを、力発生装置が含む、請求項11記載の方法。
【請求項16】
注入口と第二流出口の間の流れの方向の、篩の長手方向に沿った圧力損失が、実質的に一定である、請求項15記載の方法。
【請求項17】
装置が、第三流出口、および、注入口と第三流出口の間に配置される第二篩をさらに含み、篩がチャネルの領域内に配置され、かつ、領域に入る流体が篩を通って引き込まれるように、篩を含む領域内の点で広がっているチャネルを、力発生装置が含む、請求項11記載の方法。
【請求項18】
力発生装置が二つの電極を含み、かつ、DC電圧が電極に加えられる場合、荷電した粒子が、電気泳動によって第一篩に向かうまたは離れる方向に移動できるように第一篩が電極の間に配置される、請求項11記載の方法。
【請求項19】
誘電泳動によって第一篩に向かうまたは離れる方向に粒子が移動できるような、不均一な電場を生じることのできる電極を、力発生装置が含む、請求項11記載の方法。
【請求項20】
粒子が遠心力によって第一篩に向かって移動できるように、力発生装置が、湾曲したチャネルを含む、請求項11記載の方法。
【請求項21】
標的集団が胎児赤血球を含む、請求項11記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公表番号】特表2007−503597(P2007−503597A)
【公表日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−533661(P2006−533661)
【出願日】平成16年6月9日(2004.6.9)
【国際出願番号】PCT/US2004/018373
【国際公開番号】WO2004/113877
【国際公開日】平成16年12月29日(2004.12.29)
【出願人】(505164025)ザ ジェネラル ホスピタル コーポレーション (20)
【Fターム(参考)】