説明

血液分析装置及び血液分析方法

遠心操作により流路内で血漿分離を行う血液分析装置において、ポンプなどを用いることなく装置内で血液、血漿、較正液の搬送を行う。較正液をセンサ部分から確実に排出して高精度分析を可能にする。センサ部を血漿分離部内に設け、これを血液溜め、較正液溜めから見て第1の遠心力加圧方向側に配置し、較正液廃液溜めを血漿分離部(センサ部)から見て第2の遠心力加圧方向配置する。第1の遠心方向への遠心操作により較正液をセンサ部へ搬送する。センサ較正後に、第2の遠心方向に遠心して、センサ部から較正液を確実に排出できる。較正液排出後は、再度第1の遠心方向に遠心して、血液溜め内の血液をセンサ部に搬送すると共に血球・血漿分離を行う。複数のセンサを設ける場合には、血液溜めからの血液導入流路をセンサ溝下方で分岐して連通させ、この分岐部に血球を分画させる。各センサを血球分画により互いに隔離でき、より高精度な分析が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、石英板や高分子樹脂板などの絶縁材基板に作製した超小型の溝流路によって構成されたチップ状血液分析装置に関する。特に、当該チップ上の溝流路に微量(数μL以下)の血液を導入して遠心分離を行い、血球と血漿に分離した後に当該血漿中の種々の化学物質濃度を測定する際に、分析センサの較正液や血液等の液体の搬送を遠心力により行うための流路構造に関する。
【背景技術】
従来の健康診断や疾病状態の診断は、患者から数ccの多量の血液を採取し、その分析に大規模な自動血液分析装置で得た測定値より行われてきた。通常、このような自動分析装置は、病院などの医療機関に設置されており、規模が大きく、また、その操作は専門の資格を有するものに限られるものであった。
しかし、近年、極度に進歩した半導体装置作製に用いられる微細加工技術を応用し、たかだか数mmから数cm四方のチップ上に種々のセンサなどの分析装置を配置して、そこに被験者の血液などの体液を導き、被験者の健康状態を瞬時に把握することができる新しいデバイスの開発とその実用化の気運が高まってきている。このような安価なデバイスの出現により、来たるべき高齢化社会において老人の日々の健康管理を在宅で可能にすることなどで増加の一途を辿る健康保険給付金の圧縮を図れる。また救急医療の現場においては被験者の感染症(肝炎、後天性免疫不全症など)の有無を本デバイスを用いて迅速に判断できれば適切な対応ができるなど、種々の社会的な効果が期待されるために非常に注目されつつある技術分野である。このように従来の自動分析装置に代わって、血液分析を各家庭で自らの手で実施することを目指した小型簡便な血液分析方法ならびに血液分析装置が開発されている(例えば、特開2001−258868号;WO 01/69242 A1 及び US 2003/0114785 A1に対応)
図1は、特開2001−258868号に記載されたマイクロモジュール化された血液分析装置の一例を示す。符号101は血液分析装置の下側基板であり、下側基板上にエッチングにより形成した微細な溝流路(マイクロキャピラリ)102が設けられている。この下側基板101の上には、略同一サイズの上側基板(不図示)が張り合わされ、溝流路102を外部から密閉している。
流路102には、最上流部から最下流部にかけて、血液採取手段103,血漿分離手段104,分析手段105,移動手段106が順次設けられている。流路最前部の血液採取手段103には、中空の採血針103aが取付けられ、この針103aを体内に刺して基板内への血液の取り入れ口とする。分離手段104は、流路102の途中を湾曲させたもので例えばU字型のマイクロキャピラリからなる。採取した血液をこのU字型のマイクロキャピラリに導いた後、本基板を遠心分離器により一定方向に加速度を加えることによって、U字部最下部に血球成分を沈殿させ、上清として血漿を分離する。分析手段105は、血液中のpH値、酸素、二酸化炭素、ナトリウム、カリウム、カルシウム、グルコース、乳酸などの各濃度を測定するためのセンサである。
流路最下流部に位置する移動手段106は、マイクロキャピラリ中で血液を電気浸透流により移動させるものであり、電極107、108と、その間をつなぐ流路部分109からなる。この電極間に電圧印加して生じる電気浸透流により流路内に予め満たしておいた緩衝液を流路下流側に移動させ、生じる吸引力によって流路102最前部の採取手段103から基板内に血液を取り入れる。また、遠心分離により得られた血漿を分析手段105に導く。
110は分析手段から情報を取出すための出力手段であり、電極などから構成される。111は、以上の採取手段、血漿分離手段、分析手段、移動手段、出力手段を必要に応じて制御するための制御手段である。
採取手段103より採取された血液は、分離手段104にて血漿と血球成分に分離され、この血漿を分析手段105に導き、そこで血漿中のpH値、酸素、二酸化炭素、ナトリウム、カリウム、カルシウム、グルコース、乳酸などの各濃度を測定する。各手段間の血液の移動は、電気泳動や電気浸透などの現象を用いたものなどポンプ能力を有する移動手段106により行う。なお、図1では流路102の下流域は5つに分岐し、このそれぞれに分析手段105,移動手段106が設けられている。
このような血液分析装置の基板には石英などのガラス材料が用いられることが多かったが、装置を大量にまた低コストで製作するのにより適し、また使い捨ての際の廃棄を考慮して近年樹脂素材が用いられるようになってきている。
図1に示した従来の血液分析装置では、血液試料を装置内に導入するときに電気浸透ポンプ106のような移動手段が必要である。導入した血液を基板ごと遠心分離して血漿を得た後は、この血漿を分析手段105に移動させるため電気浸透ポンプ106を再度作動させることが必要となる。また、分析手段が特に電気化学的原理に基づき構成されるセンサである場合には、このセンサを予め較正液を用いて較正する必要がある。すなわち、血漿をセンサに導く前にこのセンサを較正液を浸してセンサの較正を行い、較正後の較正液を分析手段から排出しなければならない。このような較正液の移送にもポンプなどの移動手段が必要となる。
移動手段は、図1のように同一基板内に設けた電気浸透ポンプや、あるいは基板外の設置した負圧ポンプなどを用いることが考えられ、これらの移動手段により血液や血漿、および較正液などを圧送または吸引して移動させることになる。このとき所望の液体を血液分析装置内の所望の位置まで移動させるためには移動手段の吸引力等を的確に制御する必要がある。このためには、液体の位置センサを新たに血液分析装置内またはその外部に設置しなければならず、これらの制御機構や位置センサを付加するために装置が高価になるという問題があった。
分析手段が電気化学的原理に基づき構成されるセンサである場合には、既知濃度の被検成分を含有する較正液(標準液)でセンサを較正した後、この較正液を分析手段から排出しなければならない。しかし、較正液を排出しても、分析手段や流路手段の表面には、表面の濡れ性に応じて若干較正液が残留する。前述したように今対象としている血液分析装置は数マイクロリットル程度の微量血液中の種々の化学物質の濃度を分析するために、流路手段などの装置を構成する手段のサイズは小さくなっている。一般に物体の大きさが小さくなるとその表面積(S)と体積(V)の比S/Vは大きくなり、これは表面の効果が顕著に現れてくることを意味している。従って、流路手段や分析手段表面に残留する較正液の量が僅かであっても、導入される血漿量が少ない分析装置では、測定される化学物質濃度に変動を及ぼすという問題があった。このためには較正後の較正液を確実に分析手段より排出してから血漿を分析手段へと導入することが必要である。
本発明は、このような事情に鑑みなされたものであり、遠心操作により流路内で血漿分離を行う血液分析装置であって、ポンプなどを用いることなく装置内で血液、血漿、較正液の搬送を行うことができ、さらに較正液をセンサ部分から確実に排出することにより高精度の分析を可能にする血液分析装置を提供することを第1の目的とする。
また本発明は、遠心操作により流路内で血漿分離を行う血液分析装置を使用する際に、遠心操作だけで装置内で血液、血漿、較正液の搬送を行うことができ、較正液をセンサ部分から確実に排出することにより高精度の分析を可能にする血液分析方法を提供することを第2の目的とする。
【発明の開示】
本発明によれば、第1の目的は、遠心により全血試料の血漿分離を行い、血液液性成分中の被検成分を分析する血液分析装置において:
(a)血液液性成分中の被検成分を分析するセンサを備える基板と;
(b)前記基板内に設けられ、前記センサを収容するセンサ溝を有し、前記基板に対して第1の遠心方向に遠心力を作用させたときにこのセンサ溝内で血漿分離を行う血漿分離部と;
(c)前記血漿分離部と連通し、前記基板に対して前記第1の遠心方向に遠心力を作用させたときに前記血漿分離部に血液試料を導入する血液導入流路と;
(d)前記血漿分離部と連通し、前記基板に対して前記第1の遠心方向に遠心力を作用させたときに前記血漿分離部に較正液を導入する較正液導入流路と;
(e)前記血漿分離部と連通し、前記基板に対して第2の遠心方向に遠心力を作用させたとき前記血漿分離部内の液体が移動するようにした較正液廃液溜めと;
(f)前記血漿分離部と前記較正液廃液溜めとを連通し、前記基板に対して第2の方向に遠心力を作用させたとき前記血漿分離部内の較正液を前記較正液廃液溜めに排出する較正液排出流路;
とを備えることを特徴とする血液分析装置により達成される。
すなわち、本発明の血液分析装置は異なる2方向への遠心操作を可能にしたものであり、第1の遠心方向への遠心操作により較正液導入流路内の較正液を血漿分離部(明細書中ではセンサ部ともいう)へ搬送し、センサ較正後には、第2の遠心方向に基板を遠心することにより、血漿分離部(センサ部)から較正液を確実に排出できるようにしたものである。較正液排出後は、第1の遠心方向に遠心することにより、血液導入流路の血液を血漿分離部(センサ部)に搬送すると共に、血球・血漿分離を行うことができる。
血液導入流路の途中に秤量用の血液溜めを設け、又較正液導入流路の途中にも秤量用の較正液溜め設けるのが好ましい態様である。
基板に対して遠心力を作用させる第1の遠心方向と第2の遠心方向とは略直交していることが好ましく、例えば四角形上の基板の下辺側に血漿分離部(センサ部)を設ける場合には、この下辺と略直交する左辺(また右辺)側に較正液廃液溜めを設ける。血液溜めと較正液溜めを設ける場合、これらは基板の中央部又は上辺側に位置することになる。但し、第1、第2の遠心方向は必ずしも略直交する必要はない。血液試料を血液溜めに導入して第1の遠心方向に遠心して血球・血漿分離を行うときに、較正液が血漿分離部(センサ部)に逆流しないように較正液廃液溜めが位置し較正液廃液流路が配設されていればよい。
血漿分離部(センサ部)に複数のセンサ溝を設け、各センサ溝に異なる被検成分を分析するための複数のセンサを収容してもよい。この場合には、血液導入流路は分岐して複数のセンサ溝のそれぞれに第1の遠心力加圧方向側(基板下辺側)で連通させる。血液導入流路は、センサ部から第1の遠心力加圧方向側(基板下辺側)に位置する部分の容積が、基板を第1の遠心方向側に遠心した場合に、血液中の血球分画成分を収容する容量を有するのが好ましい。センサの一つに接触する血漿が他のセンサと接触する血漿とは血球分画により隔離されることになるので、センサ作動により行われる電気化学的反応により水素イオン濃度が局所的に変動する場合であっても、隣接する他のセンサには影響がなくなる。
基板には、血液導入流路の血液導入口に採血針を取付可能とすれば、採血針から採血した全血を直接血液溜めに導入することができる。また、血液溜めと血液導入流路を親水化処理しておくことにより、血液試料の導入を円滑に行うことができる。
本発明の第2の目的は、以下のステップからなる血液分析方法:
(a)センサを備える基板と;前記基板内に設けられ、前記センサを収容するセンサ溝を有しこのセンサ溝内で血漿分離を行う血漿分離部と;前記血漿分離部に血液試料を導入する血液導入流路と;前記血漿分離部に較正液を導入する較正液導入流路と;較正液廃液溜めと;前記血漿分離部と前記較正液廃液溜めとを連通し、前記血漿分離部内の較正液を前記較正液廃液溜めに排出する較正液排出流路とを備える血液分析装置を用意し;
(b)前記較正液導入流路に較正液を供給し;
(c)前記血漿分離部が遠心力加圧方向となるように前記基板に対して第1の遠心方向に遠心力を作用させて、前記較正液導入流路内の較正液を血漿分離部の前記センサ溝に導入し;
(d)前記センサの較正を行い;
(e)前記基板を回転して前記較正液溜めが遠心力加圧方向となるように基板を第2の遠心方向に配置して遠心することにより、センサ溝内の較正液を較正液廃液溜めに排出し;
(f)前記血液導入流路に血液試料を導入し;
(g)前記血漿分離部が遠心力加圧方向となるように前記基板に対して第1の遠心方向に遠心力を作用させて、血液試料を前記血漿分離部に移送する一方、血漿分離部で血球血漿分離を行わせ、分離された血漿を前記センサ溝に導入し;
(h)センサ溝内の血漿中の液性成分の分析をセンサにより行う、
によって達成することができる。
【図面の簡単な説明】
図1は、従来のチップ状血液分析装置の概念図である。
図2は、本発明の第1実施態様によるチップ状血液分析装置の全体斜視図である。
図3は、図1の血液分析装置の分解斜視図である。
図4は、図1の血液分析装置の上基板の底面図である。
図5は、図1の血液分析装置の下基板の平面図である。
図6は、図5の領域VIの拡大図である。
図7A,Bは、図6のA−A’線及びB−B’線の断面図である。
図8は、第1実施態様のチップ状血液分析装置の使用前の状態を示す図である。
図9は、第1実施態様のチップ状血液分析装置に較正液を導入した状態を示す図である。
図10は、較正液を遠心によりセンサ溝に移送した状態を示す図である。
図11は、較正後の較正液を遠心により廃液溜めに排出した状態を示す図である。
図12は、血液をチップ状血液分析装置内の血液溜めに導入した状態を示す図である。
図13は、遠心により血液をセンサ溝に搬送し、血球・血漿分離を行った状態を示す図である。
図14は、血液分析装置の遠心装置を説明する図である。
図15は、実施例1の比較例で使用した、較正液の排出にポンプを用いる血液分析装置の構造を説明する図である。
図16は、親水化処理を行った第2実施態様による血液分析装置の平面概略図である。
図17は、第2実施態様で使用する毛細管血採取装置の説明図である。
図18は、第2実施態様の上基板底面の一部を親水性化処理方法を説明する図である。
図19は、第2実施態様の下基板上面の一部を親水性化処理方法を説明する図である。
【発明を実施するための最良の形態】
第1実施態様
第2図は本発明の一実施態様による血液分析装置の透過斜視図、第3図は、その分解斜視図、図4は上基板の底面図、図5は下基板の平面図である。これらの図において、符号10は血液分析装置であり、上基板12が下基板14に積層されている。上下基板12,14は例えばポリエチレンテレフタレート(PET)やポリカーボネート(PC)などの樹脂で作られる。
上基板12の底面には、図4に示すように、図上やや上辺側に較正液溜め16と血液溜め18が設けられ、その下方には血漿分離部(センサ部)21が、側方には較正液廃液溜め22が設けられている。血漿分離部(センサ部)21は複数のセンサ溝20を備え、各センサ溝20には後述する下基板14上の電極に対応する位置が拡径して拡径部20aを形成している。24はセンサ部21に血液試料を導入する流路であり、園と中には血液溜め18が設けられている。血液溜め18からセンサ溝20とを連通する下部血液導入流路24aは、センサ溝20の下方で分岐して、それぞれのセンサ溝20の下方に接続している。この血液導入流路24aの分岐部は、較正液排出流路26とも連通し、これにより、センサ溝20は較正液廃液溜め22と連通している。26aは較正液廃液溜め22からセンサ部21への逆流を防止するための逆流防止堰である。28は較正液導入流路であり、その途中に設けられた較正液溜め16内の較正液を各センサ溝20に導入する。30,32は空気抜き溝流路である。また較正液溜め16の図上上方にはこれと連通する凹部34が設けられ、その中心には較正液を基板外部から導入するための貫通孔36が設けられている。なお、24bは血液溜め18に血液を導入する上部血液導入流路であり、その導入口40には採血針が取付可能とされている。これらの凹状構造物は樹脂基板上に型を用いた射出成形やモールディングにより微細な溝流路構造として形成される。溝流路20,24(24a、24b)、26,28,30,32は幅数百μmであり、貫通穴36以外の凹み深さは溝流路も含めてすべて100μmである。血液溜め18の容量は血液分析に必要十分な血液量1μLである。較正液溜め16の容量もこれと同じほぼ1μLである。
下基板14上には、図5に示すように、複数のセンサ電極50、センサ出力信号を取り出す出力パッド52、これらを導通する配線54が設けられている。これらは、例えば樹脂基板上にスクリーン印刷法を用いてそれぞれ10から20μmの厚さで形成することができる。
この下基板14上には、厚さ50μmほどの光重合性感光フィルム56がパッド52の一部が露出するように貼り付けられている(図5、斜線部)。このとき圧力や熱を適度に加えながらフィルム56を貼り付けることで、樹脂基板14上のセンサ電極50および配線54の厚みに起因する凹凸を緩和して平坦化されている。その後、センサ電極50上のフィルムの一部を紫外線光露光と現像により開口穴58を形成してセンサ電極50の一部を露出したものである。
なお、これら電極、配線、パッドの形成はその他のスパッタリングやめっきなどの金属成膜方法を用いても形成することができる。
このように形成された下基板14上に、図4の上基板12を反転して積層し、基板10を作成する(図2,3)。上基板12底面の凹状構造物は下基板14により密閉されるが、センサ溝20の拡径部20aに下基板上の開口穴58が位置し、一対のセンサ電極50はそれぞれのセンサ溝20に露出してセンサを構成する。これら下基板の複数のセンサ電極50と上基板の複数のセンサ溝20により、センサ部21が構成される。なお一対のセンサ電極50の一方には、イオン感応膜又は酵素固定化膜を塗布し、他方のセンサ電極を参照電極とすることにより、一対のセンサ電極がある一種の化学物質を分析するためのセンサとなる。
一対のセンサ電極の構造を、図6,7を用いて説明する。図6は、図5中の点線部VIの上面拡大図、図7A,Bは図6のA−A’線、B−B’線の部分断面図を示す。
一般に電極を用いた電気化学的センシングにおいては、電位測定型のポテンショメトリ法と電流測定型のアンペロメトリ法がある。ポテンショメトリは溶液中の水素、ナトリウム、カリウム、カルシウム、アンモニアなどのイオンに感応するような膜(イオン感応膜)を電極上に塗布しておき、測定対象であるイオンを含む溶液中での当該電極と参照電極との電位差が、溶液中のイオン濃度の対数に比例する(ネルンスト応答)ことから、対象となるイオンの濃度を測定するものである。
ポテンショメトリの場合、一対の電極50の一方の電極50aには特定のイオンに感応する膜が塗布され、他方の電極50bは参照電極(Ag/AgCl電極)が用いられる。すなわち図6に示すように、開口穴58に露出した電極50a上にイオン感応膜60を塗布する。ここで用いる電極50aは、例えば炭素のペーストを乾燥させたものが用いられる。そして参照電極として使用される他方の電極50bは、配線54上にスクリーン印刷法により形成されたAg/AgCl電極がある。
ポテンショメトリ法では、種々のイオン感応膜を用いることにより、血液血漿成分中の水素イオン濃度(pH)、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン濃度の分析だけでなく、血漿中の尿素窒素(BUN)、乳酸、クレアチニンなどのイオン以外の濃度分析にも用いることができる。例えば、尿素窒素を分析する場合には、イオン感応膜60にアンモニアのイオン感応膜を用いるとともに、当該膜中にウレアーゼを固定化しておく。血漿中の尿素窒素は、ウレアーゼの作用により以下の反応が進む。
尿素窒素+HO+2H → 2NH+CO
生成したアンモニアイオンの濃度を測定すれば尿素窒素濃度を求めることができる。なお、この反応では水素イオン(H+)が消費されその濃度が減少するので、水素イオン感応膜を用いることによっても尿素窒素濃度を測定することができる。同様にして、血漿中クレアチニン濃度もポテンショメトリ法で分析することができる。
一方、アンペノメトリ法は、一対の電極間に電圧を印加し、そのとき流れる電流値から血液、血漿中の対象化学物質濃度を分析する方法である。この場合には、図7で示したイオン感応膜60の代わりに酵素固定化膜を用いる。これを陽極とし、露出したセンサ電極50bを陰極とする。この電極対によるセンシングの原理を被分析対象物をグルコースとして簡単に説明する。
液体(今の場合、血液や血漿)中のグルコース(β−D−グルコース)は、陽極電極上に固定化されている酵素(この場合グルコースオキシダーゼ)の作用により、以下の反応が進行する。
β−D−グルコース+HO+O → D−グルコン酸+H
生成する過酸化水素(H)量はグルコース濃度に比例する。電極間に電圧を印加して陽極上でこの過酸化水素を(H → 2H+O+2e)というように電気分解する。このときe(電子)が生成する。これは電極を経て電流が流れることを意味している。すなわちこの電流量はグルコース濃度にほぼ比例することから、これを測定すればグルコース濃度を知ることができる。
以上説明したポテンショメトリやアンペロメトリ法による電気化学センサは、分析時の環境条件(温度など)やセンサを構成する種々の膜の厚さなどのばらつきが分析結果に影響を及ぼす。このため、被検試料の分析の前に、既知濃度の被分析化学物質を含む較正液をセンサに導いて、この出力を調べ、センサの較正をすることが、高い信頼性を有する分析結果を得るためには不可欠である。
本実施態様では、このようなポテンショメトリやアンペロメトリ法による電気化学センサを図5に示すように8組の電極対に8種類形成した。すなわち水素イオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、グルコース、尿素窒素、クレアチニン、乳酸である。これらのセンサを構成するイオン感応膜や酵素含有膜を電極50a上に塗布した後に、図2に示すように上下基板12,14を張り合わせる。そして次に外径100ミクロン、内径50ミクロンのチューブの先端を鋭利に研磨した無痛針62をチップ先端に取り付ける。
次に、この血液分析装置の使用方法を図8〜13により説明する。なお、これらの図では、電極50,配線54は図示を一部省略してある。まず血液分析の前にセンサの較正を行う。
センサの較正
図8の血液分析装置10上面上の貫通穴36から較正液70を導入し、図9に示すように較正液溜め16が満たされるまで入れる。この較正液溜め16に満たされると、ほぼ1μL容量の較正液70が秤量される。この較正液は、血液分析を行う直前に導入してもよいし、予め血液分析装置内の較正液溜めに入れておいてもよい。較正液を血液分析装置10内に導入してから、図14に示すような遠心分離装置に取り付け、遠心操作を行う。このとき、血液分析装置10内の血漿分離部(センサ部)21が遠心方向側、すなわち、遠心力F1の加圧方向側に位置するようにセットする。この遠心操作により、較正液70は較正液導入流路28を通りセンサ部の各センサ溝20に移行し、センサ電極を覆う(図10)。この状態で各センサの較正を行う。なお、図10中の符号Cは遠心中心軸であり、符号F1は遠心加圧方向である。
較正液の排出
センサの較正を行った後にセンサ部21の較正液を排出する。図11に示すように、分析装置10を時計回りに90度回転し、較正液廃液溜め22が図の下側に、すなわち、第2の遠心方向F2側に位置するように、図14の遠心分離装置に取り付け遠心操作を行う。これにより、センサ溝20内の較正液70は較正液廃液溜め22に移動し、較正液排出が完了する。十分な遠心力を印加することにより較正液の排出を完全に行うことができる。従って、残留較正液による分析値への誤差が生じることがなくなる。
血液の導入
次に図12に示すように、基板10の血液導入口40に無痛採血針62を取付け、これをヒト皮膚に刺して、全血72を血液溜め18に導入する。この血液溜め18に満たされると分析に必要十分な血液量1μLが秤量することができる。この血液導入時には、空気抜き流路30,32を塞ぎながら無痛針62を皮膚に穿刺して、貫通穴36から負圧ポンプで吸引することで血液導入を行う。較正液廃液溜め22に連通する流路32を遮断しているので、血液導入時に廃液溜め22内の較正液70が逆流することはない。
血液搬送と血球・血漿の分離
その後、血液の血漿分離部(センサ部)への移送と血球・血漿分離を行う。図13に示すように、センサ部21が図の下側に、すなわち第1の遠心方向(遠心力加圧方向)F1側に位置するように、図14の遠心分離装置に取り付け遠心操作を行う。遠心により、血液72は血漿分離部(センサ部)21へと移動するとともに、血球と血漿成分が遠心力により分離される。血液導入流路24aの分岐部に血球成分72bが、その上のセンサ溝20には血漿72aが分画される。図13に示すように、血漿72aがセンサ電極を収容するセンサ溝拡径部21aにあるように流路設計がなされている。一般に、血液の全体積に対する血球成分比率は34〜48%であるので、これを勘案してこのセンサ電極周辺の流路設計を行えば、分離された血漿成分が遠心分離後に自動的にセンサ電極上に来るようにすることができる。したがって従来のように遠心分離後に血漿成分をセンサ電極へとポンプ等で導く必要ない。
最後に、血液分析装置(基板)10を遠心分離装置から取り外し、各センサ溝20に収容された血漿中の被検成分を各センサ電極50により分析する。分析時には、各センサ溝20は血球分画72bにより互いに遮断されている。このため各センサ電極対50a,50bは他とは絶縁され、他のセンサでの電気化学的反応の影響が受けにくくなる。例えば先述したように尿素窒素濃度を分析する場合には、ウレアーゼの反応により水素イオンが消費され、局所的に水素イオン濃度が減少する。またグルコース濃度を分析する場合には過酸化水素の電気分解によって水素イオンが生成されるためこの濃度が増加することになる。このようなグルコース測定用センサ電極と水素イオン濃度センサを隣接して配置した場合、各センサでの水素イオン濃度の変動が分析結果に悪影響を及ぼすことが容易に予想される。特にこのような現象はチップ状分析装置のように流路寸法が小さく、血液容量が少ない場合に顕著となる。本発明の血液分析装置では、各センサ電極間が血球成分によって絶縁されているので、血球成分が障壁となってセンサ間の相互作用を抑制することができる。
第2実施態様
図16は本発明の第2実施態様による血液分析装置を示す。この分析装置10では、図中斜線部で示した血液溜め18とその上流の血液導入流路24b、導入口40までの内壁と、貫通穴36から較正液溜め16までの流路内壁が親水化処理されている点が、第1実施態様とは異なる。また血液導入口40には、採血針の代わりに、採血シリンダ76が取付けられる。その他の構造は、第1実施態様と同じである。
第1実施態様の血液分析装置では、血液や較正液の搬送を遠心力を利用して行うことができるが、被験者からの採血には、ポンプを用いた吸引が必要となる。第2実施態様では、現在家庭で各人が行っている血糖(グルコース)値検査の際に用いられる毛細管血採取装置を用いて皮膚上に滲み出した数μL程度の血液を血液分析装置内に中空の採血シリンダ76で導入することができる。毛細管血採取装置78は、図17に示すように、本体80に穿刺針82を備え、内部に縮装されたバネにより、皮膚表面84に微小な傷をつけ(同図(B))、そこから毛細管血86を数μL程度滲み出させるものである(同図(C))。
採血シリンダ76は、例えば、外径300μm、内径150μmのポリカーボネート樹脂の中空シリンダであり、その内壁は、オゾン処理により親水化したものである。本実施態様では、採血シリンダ76から血液溜め18内への血液導入を円滑に行うために、血液導入流路24の導入口40から血液溜め18までの領域の流路24bの内壁が親水化処理されている。同様に、貫通穴36から較正液溜め16までの内壁も親水化処理されている(図16の斜線部)。このような親水化処理により、吸引ポンプを用いることなく、血液は毛細管作用によって血液溜め内に容易に導入することができる。また、較正液も、貫通穴36に必要量を点着するだけで較正液溜めに導入することができ、その後の遠心操作を行うまで、他の部位に移行することがなくなる。
親水化処理は、例えば以下のように行うことができる。すなわち図4と同じ流路構造を形成したPET樹脂製上基板12の上に、図18に示すアルミニウム製マスク板88を載せる。このマスク板88は、較正液溜め16,血液溜め18,血液導入流路24a,較正液を導入する貫通穴36を除き、これ以外の領域(図18斜線部)を覆う。この状態で上基板12を酸素プラズマに曝す。酸素プラズマは、例えば133Paの酸素圧力中で2.45GHzのマイクロ波をプラズマキャビティに導き酸素プラズマを発生させる。入射電力は100Wで処理時間は30秒である。酸素プラズマに曝すと、マスク88に覆われていない部分のPET樹脂表面は酸素原子により酸化され、親水性が増す。この酸素プラズマ処理により樹脂基板表面の水滴接触角は、処理前の約70度から処理後の15度程度と低減させることができ、親水性が増していることが確認できる。
下基板14も同様に親水化処理を行う。すなわち、図5に示すようにセンサ電極構造を形成した下基板14上に、上基板12の親水化処理に用いたマスク板88を反転して載置する(図19参照)。この後、上基板12の場合と同じように酸素プラズマ暴露により親水化処理を行う。この後、センサ電極上に種々のイオン感応膜や酵素含有膜を塗布してセンサを形成し、上下基板12,14を張り合わせて血液分析装置とすることができる。
なお、基板12,14の表面の親水性化処理方法としては、ここで述べた酸素原子やオゾンなどの活性酸素を用いる方法のほかに酸化チタン(TiO)、酸化珪素(SiO)などの親水性無機化合物やポリ(2−ヒドロキシエチルメタクリレート)(Poly HEMA)、ポリビニルアルコール(PVA)などの親水性有機化合物を表面に被覆することによって行うことができる。
【実施例1】
図2,3に示した血液分析装置を作製し、電気化学センサの較正、血液の導入、および遠心分離による血液の血球血漿分離と血漿成分中の種々の化学物質濃度の分析を試みた。作製手順についてはほぼ既に述べているが、ここで用いた血液分析装置はPET樹脂を基板として用い、その大きさは20mm角である。
センサ電極は、図8において向かって左からグルコース、pH、乳酸、クレアチニン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン及び尿素窒素(BUN)を分析する各センサ電極を配置した。較正液は、ダルベッコリン酸緩衝液(PBS、153.2mM NaCl、4.15mM KCl、pH7.4)に1.0mM CaCl、4.0mMグルコース、5.0mM尿素、1.0mM乳酸、100μMクレアチニンを含有させたものを用いた。
約1μLの較正液を較正液溜め16に入れた後、図14に示した遠心装置を用いて遠心し、較正液をセンサ溝20に搬送した(図10参照)。用いた遠心装置の回転半径(回転中心から血液分析装置上で最も遠心力が印加される最外部)までの距離は約25mmであり、3000rpmで5秒遠心した。各センサによる較正液の分析値を求め、各センサの較正を終えた後、較正液廃液溜め22が第2の遠心力加圧方向F2側となるように10000rpmで5秒遠心して、較正液をセンサ溝から排出した(図11参照)。血液導入口40に無痛針62を取付け、健常人男子前腕静脈を穿刺して、貫通穴36から負圧ポンプで吸引することで血液導入を行った(図12)。再度、血液分析装置を血漿分離部(センサ部)21が第1の遠心力加圧方向F1側となるように10000rpmで60秒遠心して、血液の搬送および血球血漿成分の分離を行った(図13)。その後、血漿中の水素、ナトリウム、カリウム、カルシウムイオン、およびグルコース、尿素窒素、クレアチニン、乳酸の8種類の化学物質の濃度分析を行った。
同時に、同一被験者から10cc程の血液を採取して遠心分離により得られた血漿を従来の健康診断で用いられる従来法により分析した。pH、ナトリウムイオン、カリウムイオン及びカルシウムイオンの分析は電極法により行った。グルコース、尿素窒素(BUN)、乳酸及びクレアチニンについては、比色法を原理とした分析を行った。実施例1及び従来法の結果を後述の表1に示す。実施例1の分析結果は従来法によるほぼ一致し、若干の違いは血液分析装置上のセンサの誤差範囲であった。
比較例
比較例として、較正液の導入・排出を遠心を用いずに負圧ポンプを用いて行った。使用した血液分析装置は図15に示すように、較正液廃液溜め22に連通する吸引ポンプ接続口74を設けたものであり、図12に示した空気抜き通路32を廃したものである。その他の構造は実施例1で使用したものと同じである。この血液分析装置を用いて、実施例1と同時に、同一被験者の血液分析を試みた。較正液のセンサ溝20への導入、較正後の較正液の排出を、ポンプ接続口74に接続した負圧ポンプによって行った以外の操作は第1実施例と同様である。分析結果を、従来法と実施例1の結果と使用較正液の組成値とを比較して表1に示す。

比較例の分析結果を較正液を遠心力により排出した実施例1と比較すると、比較例では特にナトリウムイオン濃度が高目となり、またグルコースは低目に出力されている。この結果はポンプで較正液を排出した場合は、較正液が完全に排出されきれずに残留してしまい、この残留した較正液が血漿と混ざって分析結果に影響を及ぼしたことを示すと考えられる。較正液のナトリウムイオン濃度と、遠心力で較正液を排出した場合の血漿のナトリウムイオン濃度は、それぞれ153.2mM、140mMであり、較正液をポンプで排出した場合の血漿中ナトリウムイオン濃度は較正液中のそれに近づく方向に変動している。またグルコース濃度の場合も、較正液中と遠心力で較正液を排出した場合の血漿中グルコース濃度はそれぞれ4.0mM、6.2mMであり、やはりポンプで較正液を排出した場合の血漿中グルコース濃度は較正液中のそれに近づく方向に変動している。較正液が残留しても出力結果がそれほど変動しないように、較正液中の種々の化学物質の濃度を健常者のそれの値に近くしておけばよいが、例えばグルコース、クレアチニン、尿素窒素、乳酸などは健常者であってもその濃度は食前食後、朝晩、被験者の疲労の度合い等の条件で変動するので、高い精度でこれらの濃度を分析するためにはセンサ較正後に較正液を確実に排出することが望ましい。したがって遠心力による較正液の排出は、従来のポンプ等を用いた排出と比較してより確実に遂行できることから、高精度な分析結果を得るためには有用である。
【実施例2】
全血試料の代わりに予め分画した血漿を用いて分析を行った。使用した血液分析装置は第1実施例のものと同じものである。分析装置内で、血球・血漿分離を行わない点のみが実施例1とは異なる。被験者から採血した静脈血液約1ccを遠心分離により予め血漿分画を得て、これを、既にセンサの較正を行った血液分析装置10の血液溜め18に導入した。その後、遠心力により血漿成分をセンサ電極方向へと移動させた。この場合は血液の血球血漿成分分離を行うわけではないので、5000rpm、5秒回転させて血漿の移動をさせた。そしてこの血漿成分中の各成分の濃度分析を行った。結果を表2に示す。

実施例2の結果は分析装置内で血漿分離を行った実施例1とほぼ一致したが、pHの値が実施例1よりも低い。pHの値は対数表示であり、この変動は大きなものである。またpH7.2の値は健常者の血液のそれを逸脱してしまっている。
【実施例3】
実施例1,2で用いた血液分析装置のセンサ電極の配列を実施例1,2とは変えて、血漿試料の分析を行った。センサ電極の配列は、図3,8において左から表3に示す通りである。この血液分析装置を用い、実施例2と全く同様にして血漿試料を用いて分析を行った。結果を表4に示す。


実施例3の分析結果は、pHの値が高い点を除くと血液分析装置内で導入血液の血球血漿分離を行った実施例1とよく一致している。これらのセンサ電極配置による違いは以下のように考えられる。すなわちグルコースセンサでは、上でも述べたように電極上での過酸化水素の分解に伴い水素イオンが生成される。また乳酸センサは電極上で乳酸オキシダーゼ酵素の作用により血漿中の乳酸と酸素からビルベートと過酸化水素を生成し、この過酸化水素を分解したときに生成する電子を電流量として観測してこれから乳酸濃度を求めているが、このとき同時に水素イオンも生成される。したがってこれらのセンサ電極近傍では水素イオン濃度は高くなる、すなわちpHは局所的に低下する。したがって実施例1,2のようにpHセンサ電極がグルコースセンサ電極と乳酸センサ電極に挟まれているときは、血漿中のpHの変動がpHセンサ電極の部位にまで及び、結果として観測されるpHの値が実際よりも低目に出力されたものと考えられる。
一方、尿素窒素(BUN)センサでは、前記したように、ウレアーゼの作用で血漿中の尿素と水素イオン、水からアンモニアイオンと二酸化炭素が生成されるので、水素イオンは消費されていくことになる。これはpHの値を高める。従って、実施例3のようにpHセンサと尿素窒素センサ電極が隣接している場合には、pHセンサは実際の値よりも高めの値を出力してしまったと考えられる。
これに対して、センサ電極間を血球成分72bで絶縁している実施例1の場合には(図13)、このような現象が見られない。また従来の多量に血液を用いる分析法の結果とほぼ同等の分析結果が得られた。このことから、実施例1で行った血球成分による絶縁は、センサ電極間の相互干渉を抑制する上で非常に有効であることが確認された。
【実施例4】
第2実施態様として説明した図16に示すような較正液溜め16,血液溜め18及びこれらへの導入路34,36,24bを親水化処理した血液分析装置を作製し、これを用いて血液分析を行った。
図16に示した分析装置(基板)10の貫通穴36に約1μLの較正液を点着して較正液溜め16に導入した。このとき、貫通穴36から較正液溜め16までの領域は親水性化処理しているために毛細管現象により速やかに較正液溜め16を満たすことができた。この後、図14に示した遠心装置を用い、較正液をセンサ溝20に搬送した。各センサの較正を終えた後は、実施例1と同様の遠心操作により、較正液をセンサ溝20から較正液廃液溜め22に排出した。
図17に示した家庭用毛細管血採取装置78を用いて、被験者の皮膚表面に毛細管血86を数μL出血させ、この出血部位に分析装置10に取り付けた採血シリンダ76を接触させた。血液86は毛細管現象により基板10内の血液溜め18に速やかに吸入された。親水性化処理を施した血液溜め18が満たされたところでこの吸入が止まり、それ以上の吸入は見られなかった。このことは必要な血液量を正確に秤量していることを示す。
血液導入後、実施例1と同様な遠心操作により、血液をセンサ溝20に移送すると共に、血球血漿分離を行い、各センサ溝内に分画された血漿中の種々の化学物質の濃度分析を行った。分析結果は実施例1とよく一致していた。
【産業上の利用可能性】
以上のように、本発明に血液分析装置は異なる2方向への遠心操作を可能にしたものであり、センサ部を血漿分離部内に設け、これを血液導入流路、較正液導入流路、血液溜め、較正液溜めから見て第1の遠心力加圧方向側に配置すると共に、較正液廃液溜めを血漿分離部(センサ部)から見て第2の遠心力加圧方向配置した。このため、第1の遠心方向への遠心操作により較正液溜め内の較正液をセンサ部へ搬送し、センサ較正後には、第2の遠心方向に遠心することにより、センサ部から較正液を確実に排出できる。較正液排出後は、再度第1の遠心方向に遠心することにより、血液溜め内の血液を血漿分離部(センサ部)に搬送すると共に、血球・血漿分離を行うことができる。これによりセンサ部内のセンサ溝で分析が行える。従来のようにポンプを用いることなく装置内で血液・血漿、較正液の搬送を行うことができる。また、遠心操作により較正後の較正液をセンサ溝から完全に排出出来るので、残留較正液による分析誤差が生じることがない。
センサ部に複数のセンサ溝を設け、血液溜めからの血液導入流路を分岐して複数のセンサ溝のそれぞれに第1の遠心力加圧方向側(基板下辺側)で連通させ、この分岐部に血液中の血球分画成分を収容させれば、各センサは血球分画により互いに隔離されることになるので、隣接する他のセンサの影響を受けなくなり、より高精度な分析が可能となる。
血液溜めと血液導入路を親水化処理しておけば、血液試料は毛細管作用により容易に分析装置内に導入することができ、従来法のような負圧ポンプを使用する必要がなくなる。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】


【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】

【図14】

【図15】

【図16】

【図17】

【図18】

【図19】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
遠心により全血試料の血漿分離を行い、血液液性成分中の被検成分を分析する血液分析装置において:
(a)血液液性成分中の被検成分を分析するセンサを備える基板と;
(b)前記基板内に設けられ、前記センサを収容するセンサ溝を有し、前記基板に対して第1の遠心方向に遠心力を作用させたときにこのセンサ溝内で血漿分離を行う血漿分離部と;
(c)前記血漿分離部と連通し、前記基板に対して前記第1の遠心方向に遠心力を作用させたときに前記血漿分離部に血液試料を導入する血液導入流路と;
(d)前記血漿分離部と連通し、前記基板に対して前記第1の遠心方向に遠心力を作用させたときに前記血漿分離部に較正液を導入する較正液導入流路と;
(e)前記血漿分離部と連通し、前記基板に対して第2の遠心方向に遠心力を作用させたとき前記血漿分離部内の液体がこの中に移動するようにした較正液廃液溜めと;
(f)前記血漿分離部と前記較正液廃液溜めとを連通し、前記基板に対して第2の方向に遠心力を作用させたとき前記血漿分離部内の較正液を前記較正液廃液溜めに排出する較正液排出流路;
とを備えることを特徴とする血液分析装置。
【請求項2】
前記血漿分離部は、異なる被検成分を分析するための複数のセンサを収容した複数のセンサ溝を備え、前記血液導入流路は分岐して複数のセンサ溝のそれぞれに、血漿分離部の第1の遠心方向加圧方向側で連通していることを特徴とする請求項1の血液分析装置。
【請求項3】
前記血液導入流路は、前記血漿分離部から第1の遠心力加圧方向側に位置する部分が、基板を第1の遠心方向に遠心力を加圧した場合に血液中の血球分画成分を収容する容量を有し、前記センサの一つに接触する血漿が他のセンサと接触する血漿とは血球分画により隔離されるようにされていることを特徴とする請求項2の血液分析装置。
【請求項4】
前記センサは電気化学的センサであることを特徴とする請求項1〜3の血液分析装置。
【請求項5】
前記血液導入流路の血液導入口には、採血針が取付可能とされていることを特徴とする請求項1の血液分析装置。
【請求項6】
前記血液導入流路が親水化処理されていることを特徴とする請求項1の血液分析装置。
【請求項7】
前記較正液導入流路が親水化処理されていることを特徴とする請求項1の血液分析装置。
【請求項8】
前記血液導入流路の途中には、血液溜めが設けられていることを特徴とする請求項1の血液分析装置。
【請求項9】
前記血液溜めと、血液溜めより上流側の血液導入流路とが、親水化処理されていることを特徴とする請求項8の血液分析装置。
【請求項10】
前記較正液導入流路の途中には、較正液溜めが設けられていることを特徴とする請求項1の血液分析装置。
【請求項11】
前記較正液溜めと、較正液溜めより上流側の較正液導入流路とが、親水化処理されていることを特徴とする請求項10の血液分析装置。
【請求項12】
前記第1の遠心方向と前記第2の遠心方向は略直交していることを特徴とする請求項1の血液分析装置。
【請求項13】
以下のステップからなる血液分析方法:
(a)センサを備える基板と;前記基板内に設けられ、前記センサを収容するセンサ溝を有しこのセンサ溝内で血漿分離を行う血漿分離部と;前記血漿分離部に血液試料を導入する血液導入流路と;前記血漿分離部に較正液を導入する較正液導入流路と;較正液廃液溜めと;前記血漿分離部と前記較正液廃液溜めとを連通し、前記血漿分離部内の較正液を前記較正液廃液溜めに排出する較正液排出流路とを備える血液分析装置を用意し;
(b)前記較正液導入流路に較正液を供給し;
(c)前記血漿分離部が遠心力加圧方向となるように前記基板に対して第1の遠心方向に遠心力を作用させて、前記較正液導入流路内の較正液を血漿分離部の前記センサ溝に導入し;
(d)前記センサの較正を行い;
(e)前記基板を回転して前記較正液溜めが遠心力加圧方向となるように基板を第2の遠心方向に配置して遠心することにより、センサ溝内の較正液を較正液廃液溜めに排出し;
(f)前記血液導入流路に血液試料を導入し;
(g)前記血漿分離部が遠心力加圧方向となるように前記基板に対して第1の遠心方向に遠心力を作用させて、血液試料を前記血漿分離部に移送する一方、血漿分離部で血球血漿分離を行わせ、分離された血漿を前記センサ溝に導入し;
(h)センサ溝内の血漿中の液性成分の分析をセンサにより行う。
【請求項14】
前記血漿分離部は複数のセンサ溝を備え、前記血液導入流路は各センサ溝よりも第1の遠心方向辺縁側で分岐して各センサ溝の連通し;
前記ステップ(g)の第1の方向への遠心により、血液試料中の血球分画を血液導入流路の第1の遠心方向辺縁側の分岐部に沈澱させる一方、遠心上清として分離された血漿を各センサ溝に位置させることを特徴とする請求項13の血液分析方法。
【請求項15】
前記ステップ(g),(h)において、各センサ溝に導入された血漿は他のセンサ溝内の血漿とは、前記血液導入流路分岐部に存在する血球分画により互いに隔離されていることを特徴とする請求項14の血液分析方法。
【請求項16】
前記血液導入流路の途中には血液溜めが設けられ、血液溜めとその上流側の血液導入流路とが親水化処理されており;
前記ステップ(f)において血液試料は毛細管作用により血液溜めに導入することを特徴とする請求項13の血液分析方法。
【請求項17】
前記第1の遠心方向と、前記第2の遠心方向とは略直交することを特徴とする請求項13の血液分析方法。

【国際公開番号】WO2004/074846
【国際公開日】平成16年9月2日(2004.9.2)
【発行日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−502739(P2005−502739)
【国際出願番号】PCT/JP2004/001802
【国際出願日】平成16年2月18日(2004.2.18)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】