説明

血液成分採取装置

【課題】返血工程において、内出血の発生を事前に予防し、若しくは適度に抑えることのできる血液成分採取装置を提供する。
【解決手段】血液成分採取装置10において、返血ラインに血液成分を送り出す血液ポンプ28を駆動する制御部26は、血液ポンプ28を回転させて返血を開始した際に、圧力センサ38から得られる圧力Pdが血液ポンプ28の累積回転数、累積送液量又は返血経過時間に対応して設定された制限用閾値502又は停止用閾値501を超えるとき、又は前記圧力Pdの傾斜が所定傾斜PL2を超えるときに、血液ポンプ28を減速又は停止させる圧力判断処理を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドナーから採血を行い、採取された血液を複数の成分に分離した後に所定の成分を採取し、残りの成分をドナーに返血する血液成分採取装置に関する。
【背景技術】
【0002】
採血には、血液をそのまま採取する全血採血と、所定の成分のみを取り出す成分採血がある。成分採血では、ドナーから採取した血液を遠心分離することにより所定の成分を抽出し、他の成分についてはドナーに返還する。これにより、必要な成分(血漿や血小板)については全血採血よりも多く採取することができ、しかも他の成分については返還をすることからドナーの負担を軽減することができる。また、このような成分採血を自動的に行うための血液成分採取装置が実用化されている。
【0003】
血液成分採取装置では、ドナーに対して針を穿刺した後、該針を介して行う採血処理、採取された血液を複数の成分に分離し、所定の成分を採取する処理、及び残りの成分を針からドナーに返血する処理等が所定の制御部の作用下にポンプを回転させることにより自動的に行われる。ポンプにチューブが装着されており、採血時にはポンプを正回転させてチューブから血液を吸い込み、返血時にはポンプを逆回転させて残りの成分をチューブに送り出す。採血及び返血におけるチューブの血液及び血液成分の流量はポンプの回転速度に応じて変化させることができる。
【0004】
一連の成分採血において、ドナーを拘束する時間を低減するためには、採血及び返血をできるだけ迅速に行うことが望ましく、そのためにはポンプの回転速度を上げればよいが、回転速度を上げるのにも当然に限度がある。
【0005】
このような観点から、下記特許文献1では、ドナー毎に2つの流量域でテストを行って静脈の抵抗と、該抵抗に基づく圧力・流量曲線を生成し、この圧力・流量曲線によってポンプの回転速度を規定する装置が提案されている。
【0006】
しかし、針の穿刺状態によっては、返血時に、血液成分が圧縮気味に滞留し、その部分の圧力が上昇して針を押し戻すように作用する。その結果、針先が静脈から抜けた状態となり、血液が血管外に送り出されてしまい、内出血の状態になる。また、針先が静脈から抜けなくても、針と血管壁の隙間から血液が漏れてしまうと同様の状態となる。
【0007】
このような内出血の状態は、ドナーが痛みを感じて気づく場合の他に、ドナーが多少の違和感を感じたり、ドナーやオペレータが穿刺部位が腫脹していることで気づく場合もあり、また、気づかない場合もある。このような内出血が発生すると、皮膚が外観的に腫れ又は変色し、回復するまでにある程度の時間がかかりドナーに不快感又は不安感を与えることがある。
【0008】
一般に、ドナーが痛みや違和感を感じた場合には返血を中断し、ドナーが了解した場合は抜針して、針を交換し、再度穿刺して残りの血液成分を返血する。しかしながら、ドナーが了解しない場合にはその時点で返血を中止し、返血予定であった血液成分を回路に残した状態で終了することになる。この場合、ドナーは返血できなかった血液成分をロスしたことになるため、次の献血まで所定期間をあける必要がある。また、残存した血液成分を返血する場合には、内出血の箇所を避けて再度の穿刺を行う必要があり、ドナーに不満を与えかねない。
【0009】
また、返血中にドナーが違和感を感じない場合であっても、次のサイクルの採血中に十分な採血速度が得られず、必要量の血液成分が得られる前に採血、返血を中止せざるを得なくなる場合がある。
【0010】
ところで、返血を行っている際、内出血が発生してもドナーはすぐには気づかない場合があって、即時に適切な対応をとることができず、視認可能な程度の内出血となってドナーに不快感又は不安感を与える懸念がある。
【0011】
また、ドナーにとって違和感のない内出血については、その発生を予知、予防する手段がない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特公平6−57250号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明はこのような課題を考慮してなされたものであり、返血工程において、内出血の発生を事前に予防し、若しくは適度に抑えることのできる血液成分採取装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、ドナーから採取した血液を分離した後、所定の血液成分をドナーに返血する返血ラインと、前記返血ラインに血液成分を送り出す可変速度の血液ポンプと、前記返血ラインの圧力を検出する圧力センサと、前記血液ポンプを駆動する制御部とを有し、前記制御部は、前記血液ポンプを回転させて返血を開始した際に、前記圧力センサから得られる前記圧力が前記血液ポンプの累積回転数、累積送液量又は返血経過時間に対応して設定された制限用閾値又は停止用閾値を超えるとき、若しくは前記圧力の傾斜が所定傾斜を超えるときに、前記血液ポンプを減速又は停止させる圧力判断処理を行うことを特徴とする。
【0015】
このように、血液ポンプを回転させている際に、前記圧力が制限用閾値又は停止用閾値を超えるときに血液ポンプを減速又は停止させることにより、ドナーに違和感を与えうる内出血の発生を予知、予防し、若しくは適度に抑えることができる。
【0016】
また、返血時で血液ポンプを回転させている際に、圧力の傾斜(圧力の変化の傾き)が所定傾斜を超えるときに血液ポンプを減速又は停止させることにより、ドナーに違和感を与えうる内出血の発生を予防し、若しくは適度に抑えることができる。
【0017】
前記制御部は、返血開始時から所定時間が経過した後、又は前記血液ポンプが所定数だけ回転した後に、前記圧力判断処理を開始するようにしてもよい。
【0018】
前記制御部は、返血開始時の前記圧力を初期圧力とし、返血開始時から所定時間が経過するまで、又は前記血液ポンプが所定数だけ回転するまでに、前記圧力センサから得られる前記圧力と前記初期圧力との差圧力が所定閾値を超えるときに、前記血液ポンプを減速又は停止させる差圧判断処理を行うようにしてもよい。
【0019】
本発明は、ドナーから採取した血液を分離した後、所定の血液成分を採取し、残余の血液成分をドナーに返血する血液成分採取装置において、ドナーに残余の血液成分を返血する返血ラインと、前記返血ラインに血液成分を送り出す可変速度の血液ポンプと、前記返血ラインの圧力を検出する圧力センサと、前記血液ポンプを駆動する制御部と、を有し、前記制御部は、返血開始時の前記圧力を初期圧力とし、返血開始時から所定時間が経過するまで、又は前記血液ポンプが所定数だけ回転するまでに、前記圧力センサから得られる前記圧力と前記初期圧力との差圧力が所定閾値を超えるときに、前記血液ポンプを減速又は停止させる差圧判断処理を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明の血液成分採取装置によれば、ドナーに違和感を与えうる内出血の発生を予知、予防し、若しくは適度に抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本実施の形態に係る血液成分採取装置を示す斜視図である。
【図2】制御部のブロック構成図である。
【図3】採血キットの回路図である。
【図4】血液成分採取装置で行われる成分採血の手順を示すフローチャートである。
【図5】返血工程の第1実施例のフローチャートである。
【図6】対応処理のフローチャートである。
【図7】返血工程におけるドナー圧力及び返血速度の変化を示すグラフである。
【図8】図8Aは、圧力値傾斜判断処理の初回に初期圧力が記録されたメモリの内容を示す図であり、図8Bは、圧力値傾斜判断処理で累積回転数が0.25のときのメモリの内容を示す図であり、図8Cは、圧力値傾斜判断処理で累積回転数が0.5のときのメモリの内容を示す図であり、図8Dは、圧力値傾斜判断処理で累積回転数が2.25のときのメモリの内容を示す図であり、図8Eは、圧力値傾斜判断処理で累積回転数が2.5のときのメモリの内容を示す図である。
【図9】図9Aは、差圧力閾値判断処理の初回におけるメモリの内容を示す図であり、図9Bは、差圧力閾値判断処理で累積回転数が3.0のときのメモリの内容を示す図である。
【図10】返血工程の第2実施例のフローチャートである。
【図11】返血工程の第3実施例のフローチャート(その1)である。
【図12】返血工程の第3実施例のフローチャート(その2)である。
【図13】返血工程の第3実施例のフローチャート(その3)である。
【図14】返血工程の第3実施例の当初のドナー圧力及び返血速度の変化を示すグラフである。
【図15】返血工程の第3実施例の全期間のドナー圧力及び返血速度の変化を示すグラフである。
【図16】ドナー圧力の微分値及び2階微分値を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係る血液成分採取装置について実施の形態を挙げ、添付の図1〜図16を参照しながら説明する。
【0023】
図1に示すように、本実施の形態に係る血液成分採取装置10は、装置本体12と、該装置本体12に装着される採血キット14とを有する。装置本体12は、箱形の機構本体部15と、該機構本体部15の背面左右から上方に延在する第1支柱16a及び第2支柱16bと、第1支柱16aの上端左側に設けられた重量計18と、第2支柱の上端部に設けられたモニタ20と、第1支柱16aの右側に設けられた複室バッグ126の有無を検出するバッグ検出センサ21と第2支柱16bの右側に設けられた除菌フィルター114の有無を検出するセンサ23a及び気泡除去用チャンバー112の有無及び抗凝固剤の滴下を検出するセンサ23bとを有する。モニタ20は血液成分採取装置10の入出力装置であり、大型のカラータッチパネル20aと、スピーカ20bとを有し、画像及び音声を用いた簡易な操作が可能である。スピーカ20bはステレオ式である。
【0024】
機構本体部15は左側の制御機構部22と、右側の遠心分離機構部(分離手段)24とからなる。制御機構部22は、血液成分採取装置10の全体を統括的に制御する制御部26と、血液ポンプ28と、抗凝固剤ポンプ30と、濁度センサ32と、6つの気泡センサ34a、34b、34c、34d、34e、34fと、7つのクランプ36a、36b、36c、36d、36e、36f、36gと、ドナー圧力センサ38と、システム圧力センサ40とを有する。濁度センサ32及び各気泡センサ34a〜34fとしては、それぞれ、例えば、超音波センサ、光学式センサ、赤外線センサ等を用いることがきる。濁度センサ32と気泡センサ34dは一体的に構成されている。
【0025】
遠心分離機構部24は採血キット14の遠心ボウル(遠心分離器)120が装着され、該遠心ボウル120内に導入された血液を遠心分離する機構部である。
【0026】
遠心ボウル120の設定回転速度としては、例えば4200〜5800rpm程度に設定される。これにより、貯血空間内の血液は内層より血漿層(PPP層)、バフィーコート層(BC層)及び赤血球層(CRC層)に分離される。遠心ボウルの近傍には、血漿層とバフィーコート層との界面(以下、単に界面と呼ぶ。)の位置に応じて変化する透過率から該界面の位置を検出する光学式センサ(図示せず)が設けられている。
【0027】
制御部26は、機構本体部15の内部に設けられている。制御機構部22における制御部26以外の機器は、採血キット14のチューブが装着可能なように上面、前面及び支柱に設けられている。
【0028】
血液ポンプ28及び抗凝固剤ポンプ30は、チューブ側面にローラを押圧させながら連続的に転動させることにより内部の血液を押し出すローラポンプ式であり、血液に対して非接触の状態で駆動可能である。また、血液ポンプ28及び抗凝固剤ポンプ30は、制御部26の作用下に速度及び流体吐出方向が可変である。血液ポンプ28は、採血時には所定の正方向に回転することにより血液を引き込む吸引ポンプとして作用し、返血時には逆方向に回転することにより血液成分をチューブ104に送り出す吐出ポンプとして作用する。
【0029】
濁度センサ32は、挟み込まれたチューブ内を通過する液体の濁度を検出するセンサである。気泡センサ34a〜34fは、挟み込まれたチューブ内を通過する液体の有無又は気泡を検出するセンサである。クランプ36a〜36gは、挟み込まれたチューブを両側から押圧して閉じ、又は開放して連通させ、開閉バルブとしての作用を奏する。これらのクランプ36a〜36gは、カセットハウジング42がはめ込み可能なように制御機構部22の上面における一区画に集中配置されている。カセットハウジング42は採血キット14のチューブの多くの部分を一体的に集約、配置するための樹脂製部材であり、該カセットハウジング42を制御機構部22の上面にはめ込むことにより所定のチューブが対応するクランプ36a〜36gによって開閉可能に配置される。
【0030】
ドナー圧力センサ38は、採血キット14における採血経路系統(採血回路)14a(図3参照)の一部が差し込まれ、採血ラインの圧力を示すドナー圧力Pdを計測するセンサであり、採血時には採血圧力センサとして作用し、返血時には返血圧力センサとして作用する。
【0031】
システム圧力センサ40は、処理経路系統14b(図3参照)の一部が差し込まれ、回路内の圧力を示すシステム圧力(回路内圧力)Psを計測するセンサである。なお、装置本体12にセットされた状態の採血キット14におけるチューブの配置は本発明の要旨ではないので、図1においてはチューブの一部を省略して図示している。
【0032】
図2に示すように、制御部26は、出力用として血液ポンプドライバ76と、抗凝固剤ポンプドライバ78と、モータドライバ80と、クランプドライバ82とを有し、血液ポンプ28、抗凝固剤ポンプ30、モータ64及びクランプ36a〜36gを制御する。血液ポンプドライバ76は、血液ポンプ28の速度及び吐出方向を制御する。抗凝固剤ポンプドライバ78は、抗凝固剤ポンプ30の速度を制御する。モータドライバ80はモータ64の回転速度を制御する。クランプドライバ82は、クランプ36a〜36gを個別に開閉制御する。
【0033】
また、制御部26は、各センサの入力制御を行う入力インターフェース84と、モニタ20の入出力を行うモニタインターフェース86とを有する。さらに、制御部26は、各機能部と協動して初期処理及び採血、分離採取、返血処理からなる成分採血処理動作を制御するモード制御部88と、各センサの入力信号等に基づいて異常の監視を行う異常監視部90と、所定のプログラムやデータの記憶を行う記憶部92と、タイマ94と、外部機器とのデータ通信を行う通信部96と、血液ポンプ28の回転速度に基づいて採血速度及び返血速度Vを求める速度検出部98とを有する。
【0034】
モード制御部88には、採血工程における制御を行う吸引制御部88aと、返血工程における制御を行う吐出制御部88bとを有する。吸引制御部88a及び吐出制御部88bは、ドナー圧力Pdに基づいて血液ポンプ28の回転速度Nを制御する機能を含む。
【0035】
制御部26内の機能の一部は、記憶部92に記録されたプログラムを図示しないCPUによって読み込み実行することにより実現される。
【0036】
図3に示すように、採血キット14は、ドナーから血液を採取及び返還するための採血経路系統14aと、採取した血液を遠心分離又は循環等させる処理経路系統14bとを有する。
【0037】
採血経路系統14aは、ドナーに穿刺する中空の採血針100と、一端が採血針100に接続されて他端が分岐継手102を介して処理経路系統14bに接続されたチューブ104と、該チューブ104の途中に設けられたチャンバー106と、抗凝固剤が入った抗凝固剤容器107(図1参照)に接続される抗凝固剤容器接続用針108と、一端が該抗凝固剤容器接続用針108に接続されたチューブ110と、該チューブ110の途中に設けられた気泡除去用チャンバー112及び除菌フィルター(異物除去用フィルター)114とを有する。チューブ104とチューブ110は、採血針100の近傍に設けられた分岐継手116により接続されている。
【0038】
チューブ104(及び後述するチューブ140)は採血、返血に共用であり、採血ライン及び返血ラインとして作用する。
【0039】
チャンバー106は、チューブ104を通過する血液中の気泡及びマイクロアグリゲートを除去する。チャンバー106の一端にはチューブ104から分岐した短いチューブ118が設けられている。該チューブ118の端部は通気性かつ菌不透過性のフィルター(図示せず)に接続されるとともに、ドナー圧力センサ38に挿入されており、ドナー圧力Pdを計測可能である。
【0040】
抗凝固剤容器接続用針108に接続された抗凝固剤容器107には、ACD−A液のような抗凝固剤が蓄えられている。チューブ110の一部は抗凝固剤ポンプ30に装着されており、該抗凝固剤ポンプ30の作用下に抗凝固剤容器接続用針108から供給された抗凝固剤はチューブ110及び分岐継手116を介してチューブ104内の血液中に抗凝固剤が混入される。チューブ110の途中には気泡センサ34aが装着される。
【0041】
チャンバー106と分岐継手102との間には、気泡センサ34b及びクランプ36aが装着される。クランプ36aは分岐継手102の近傍に装着されており、クランプ36aを開くことにより採血経路系統14aと処理経路系統14bは連通する。チューブ104には直列して2つの気泡センサ34e及び34fが装着されており、気泡や空気を確実に検知することができる。
【0042】
処理経路系統14bは遠心ボウル120と、血漿採取バッグ122と、血小板採取バッグ124と、中間バッグ126aと、エアーバッグ126bと、バッグ128と、白血球除去フィルター130とを有する。
【0043】
血漿採取バッグ122及び血小板採取バッグ124は、遠心分離等の処理により得られた血漿及び血小板を蓄えるバッグである。血漿採取バッグ122は重量計18(図1参照)のフック18aに懸架され、収納された血漿の重量を計測することができる。血小板採取バッグ124は、機構本体部15の前面に懸架される(図1参照)。
【0044】
中間バッグ126aは、採取した血小板(濃厚血小板)を一時的に貯留するための容器である。エアーバッグ126bは、回路内の無菌空気を一時的に収納するための容器である。エアーバッグ126bと中間バッグ126aとは、回路的には分離した独立の容器であるが、物理的には一体的であって複室バッグ126を構成している。複室バッグ126はバッグ検出センサ21(図1参照)のフック21aに懸架される。
【0045】
採血を行う際には、遠心ボウル120の貯血空間内等の空気はエアーバッグ126b内に移送され、収納される。返血工程の際には、エアーバッグ126b内に収納されている空気は、貯血空間内に戻され、所定の血液成分が、ドナーへ返還される。
【0046】
バッグ128は血小板採取バッグ124に接続されたバッグであり、成分採血の終了後、血小板採取バッグ124内の空気を排出する際に用いられる。
【0047】
血漿採取バッグ122、血小板採取バッグ124、中間バッグ126a、エアーバッグ126b及びバッグ128は、それぞれ樹脂製(例えば、軟質ポリ塩化ビニル)の可撓性を有するシート材を重ね、その周縁部を融着(熱融着、高周波融着、超音波融着等)または接着剤により接着等して袋状にしたものが使用される。
【0048】
なお、血小板採取バッグ124に使用されるシート材としては、血小板保存性を向上するためにガス透過性に優れるものを用いることがより好ましい。このようなシート材としては、例えば、ポリオレフィンやDnDP可塑化ポリ塩化ビニル等を用いることができる。
【0049】
白血球除去フィルター130は、中間バッグ126aから血小板採取バッグ124に血液成分を移送する際に、血液成分中の白血球を分離除去するフィルターである。図1から明らかなように、白血球除去フィルター130は、中間バッグ126aより低く、血小板採取バッグ124より高い位置に配置される。
【0050】
次に、処理経路系統14bの各構成機器を接続するチューブについて説明する。処理経路系統14bの端部である分岐継手102と遠心ボウル120の導入口との間はチューブ140で接続されている。該チューブ140の一部は血液ポンプ28に装着される。したがって、血液ポンプ28を正転させることにより血液を採血経路系統14aから遠心ボウル120内に導入し、又は処理経路系統14b内で所定の循環動作を行うことができる。また、血液ポンプ28を逆転させることにより、所定の血液成分を採血経路系統14aに導出し、ドナーに返還することができる。
【0051】
遠心ボウル120の排出口にはチューブ142が接続されており、該チューブ142は分岐継手144を介して三つ股に分岐してチューブ146、チューブ148及びチューブ150に接続されている。チューブ142は、濁度センサ32及び気泡センサ34dに直列的に接続されている。
【0052】
チューブ146はエアーバッグ126bに接続されており、その途中はクランプ36eに装着されている。チューブ148の端部は通気性かつ菌不透過性のフィルター(図示せず)に接続されるとともに、システム圧力センサ40に挿入されており、システム圧力Psを計測可能である。
【0053】
チューブ150の端部は血漿採取バッグ122に接続されており、その途中には分岐継手152が設けられ、チューブ154を介して中間バッグ126aに接続されている。チューブ154はクランプ36dに装着されている。分岐継手152と血漿採取バッグ122との間のチューブ150はクランプ36cに装着されている。
【0054】
中間バッグ126aと血小板採取バッグ124との間はチューブ156により接続されており、その途中には白血球除去フィルター130が設けられている。中間バッグ126aと血小板採取バッグ124との間のチューブ156は、気泡センサ34c及びクランプ36gに装着されている。白血球除去フィルター130の端部には、チューブ156から短く分岐したフィルター160が設けられている。フィルター160は菌不透過性のベントフィルター及びキャップからなる。
【0055】
気泡センサ34cとクランプ36gとの間のチューブ156には分岐継手162が設けられ、チューブ164を介して、血漿採取バッグ122に接続されている。チューブ164の途中には分岐継手166が設けられている。該分岐継手166と分岐継手102との間はチューブ168により接続されている。分岐継手162と分岐継手166との間のチューブ164はクランプ36fに装着されている。チューブ168における分岐継手102の近傍部には、クランプ36bが装着されている。
【0056】
血小板採取バッグ124とバッグ128はチューブ158により接続されている。
【0057】
このように構成される採血キット14は予め所定の滅菌処理がなされている。なお、採血キット14には、チューブが集中配置されたカセットハウジング42、及びチューブの一部とフィルター160とを保持するフィルターカセット170(図1参照)が設けられている。
【0058】
次に、血液成分採取装置10により成分採血を行う主な手順について図4を参照しながら説明する。
【0059】
先ず、図4のステップS1において所定の初期処理を行う。初期処理としては、チューブ110とチューブ104の採血針100からチャンバー106までを、抗凝固剤でプライミングし、その後、ドナーの血管に採血針100を穿刺する。この後、モニタ20のカラータッチパネル20aを操作して成分採血処理を開始する。これ以降の手順は主に制御部26の作用下に自動的に行われる。
【0060】
ステップS2において第1の血漿採取工程を行う。この第1の血漿採取工程は、遠心ボウル120の貯血空間内に血液を導入して遠心分離することにより得られる血漿を血漿採取バッグ122内に採取する工程である。
【0061】
ここで、血液(抗凝固剤添加血液)は、チューブ104を介して移送され、遠心ボウル120の導入口よりロータの貯血空間内に導入される。このとき、遠心ボウル120内の空気は、チューブ142及びチューブ146を介してエアーバッグ126b内に送り込まれる。
【0062】
貯血空間内に所定量の血液が導入された状態で遠心ボウル120のロータの回転を開始する。ロータの回転数はステップS9まで一定に維持される。ロータの回転により、貯血空間内に導入された血液は、内側から血漿層、バフィーコート層、赤血球層の3層に分離される。なお、第2サイクル以降は、血液ポンプ28と同時にモータ64を駆動する。
【0063】
ステップS3において、チューブ142に設けられた気泡センサ34dの信号を監視し、チューブ142を流れる流体が空気から血漿に変わったことを検出した後クランプ36eを閉じるとともにクランプ36cを開放する。貯血空間の容量を越える血液が貯血空間内に導入されると、遠心ボウル120の排出口から血漿が流出することから、このタイミングを気泡センサ34dにより検出してクランプ操作を行い、チューブ142及びチューブ150を介して血漿を血漿採取バッグ122内に導入、採取するように切り替える。血漿採取バッグ122に導入された血漿の重量は、重量計18により計測される。重量計18から得られる重量信号に基づき、血漿採取バッグ122内に所定量の血漿が採取されたことが確認された後ステップS4へ移る。
【0064】
ステップS4において、定速血漿循環工程を行う。定速血漿循環工程は、血漿採取バッグ122内の血漿を貯血空間を含む循環回路で定速にて循環させる工程である。つまり、クランプ36aを閉じ、クランプ36bを開放するとともに抗凝固剤ポンプ30を停止する。これにより、採血を一時中断するとともに、血漿採取バッグ122内の血漿を循環させる経路が形成される。この循環回路は、血漿採取バッグ122からチューブ164、168及び140を介して貯血空間内に至り、遠心ボウル120の排出口から流出してきた血漿をチューブ142及び150を介して血漿採取バッグ122内に回収する経路である。この定速血漿循環工程を所定時間行った後、ステップS5へ移る。
【0065】
ステップS5において、第2の血漿採取工程を行なう。第2の血漿採取工程では、第1の血漿採取工程と同様に血漿の採取及び遠心分離を行なう。これにより、貯血空間内の赤血球量が増加、すなわち、赤血球層の層厚が増大するのに伴い、界面も徐々に遠心ボウル120の回転軸に近づくので、光学式センサ62からの検出信号に基づいて界面が所定レベルに到達したことを確認した後、ステップS6へ移る。
【0066】
ステップS6において加速血漿循環工程を行なう。加速血漿循環工程は、血漿採取バッグ122内の血漿を貯血空間内に加速させながら循環回路内で循環させる工程である。血漿の循環速度が所定速度に到達した後、ステップS7へ移る。
【0067】
ステップS7において第3の血漿採取工程を行う。第3の血漿採取工程では、第1及び第2の血漿採取工程と同様に、血漿の採取を行なう。血漿採取バッグ122内に所定量の血漿が採取されたことが確認された後、ステップS8へ移る。
【0068】
ステップS8において血小板採取工程を行なう。血小板採取工程は血漿採取バッグ122内の血漿を、貯血空間内で第1の加速度にて加速させながら循環させ、次いで、第1の加速度より大きい第2の加速度に変更し、該第2の加速度にて加速させながら循環させて、貯血空間内より血小板を流出させ、濃厚血小板を中間バッグ126a内に採取(貯留)する工程である。血小板採取工程において所定の操作を行った後、クランプ36eを開放し、この他のクランプ36a〜36d、36f及び36gを閉じた状態とし、血液ポンプ28を停止する。
【0069】
ステップS9においてモータ64の回転数を制御してロータを減速及び停止させる。
【0070】
ステップS10において返血工程を開始する。返血工程はロータの貯血空間内に残存する血液成分(主に、赤血球、白血球)をドナーに返血する工程である。つまり、クランプ36a及びクランプ36eを開放するとともに、血液ポンプ28を逆転する。これにより、ロータの貯血空間内に残存する血液成分は遠心ボウル120の導入口から排出され、チューブ104(採血針100)を介してドナーに返血(返還)される。返血工程の詳細については後述する。
【0071】
この後、所定の終了条件に基づいて返血工程を終了する。
【0072】
ステップS11において、所定のサイクル数を終了したか否かを確認し、未終了であるときにはステップS2へ戻り採血、返血等の処理を続行する。
【0073】
なお、最終サイクル時には、ステップS5で濾過工程を開始する。濾過工程は、中間バッグ126a内に一時的に採取(貯留)した濃厚血小板を、白血球除去フィルター130に供給して、濃厚血小板の濾過、すなわち、濃厚血小板中の白血球の分離除去を行なう工程である。白血球が除去された濃厚血小板は血小板採取バッグ124に貯溜される。
【0074】
次に、ステップS10(図4参照)において行われる返血処理の第1実施例について図5〜図7を参照しながら説明する。以下の処理は、複数回行われる返血処理について毎回行われる。この返血工程は、開始後の比較的短い時間に行われる差圧力閾値判断処理(差圧判断処理)と、その後に行われる圧力値傾斜判断処理(圧力判断処理)とを含む。
【0075】
なお、図7において、破線で示されるグラフ510及び512は、そのままではドナーに違和感を与えうる内出血が発生する可能性があると判断される場合であり、太線で示されるグラフ526は、そのままではドナーに大きな違和感を与えないが、ドナーの血管から採血針100が外れる等して、内出血が発生する可能性があると判断される場合であり、細線で示されるグラフ522及び524は、内出血の可能性がないと判断される場合である。
【0076】
図7において、縦軸530、532及び534は、血液ポンプ28の返血速度Vが50mL/min、60mL/min及び90mL/minに達する箇所を代表的に示す線である。採血時の採血速度をプラス値に規定している関係上、返血速度Vはマイナス値として表される。
【0077】
先ず、図5のステップS101において、血液ポンプ28の累積回転数A及びドナー圧力Pdの計測を開始する。このステップS101において得られる返血開始時のドナー圧力Pdを初期圧力P0として記憶する。
【0078】
以下の処理は、累積回転数Aを基準にして行われ、例えば、A=0.25回転毎に行う。ドナー圧力Pdについても、A=0.25回転毎に計測をするものとする。制御部26で行うこれらの処理は、累積回転数A以外にも、例えば返血開始からの積算返血量(累積送液量A’)、返血開始からの経過時間(返血経過時間T)等に基づいて行ってもよい。
【0079】
ステップS102において、返血制限圧力PL1を10〜150mmHgに設定する。第1実施例では、返血制限圧力PL1を100mmHgに設定する。この返血制限圧力PL1は、得られるドナー圧力Pdと初期圧力P0との差の圧力(以下、ドナー圧力Pdという。)が超えたときにドナー圧力Pdを下げるべく血液ポンプ28の回転速度(時間当たりの回転数)を低下させるなど所定の処理を行うための基準となる圧力値である。
【0080】
また、傾斜閾値PL2を10〜50mmHgに設定する。第1実施例では、傾斜閾値PL2を20mmHgに設定する。この傾斜閾値PL2は、返血開始直後を除く安定な返血状態では変動し得ないはずの傾斜を示すもので、血液ポンプ28が0.5回転する間の変動許容幅を示す。この変動幅を超えるときにはドナー圧力Pdを下げるべく血液ポンプ28の回転数を低下させるなど所定の処理を行う。
【0081】
なお、傾斜閾値PL2は、血液ポンプ28が所定回転する間の変動許容幅であり、この所定値は、血液ポンプ28(ローラポンプ)のローラの数に合わせて設定することが好適である。
【0082】
ステップS103において、血液ポンプ28を回転させて返血を開始する。血液ポンプ28は採血時の正方向に対して逆方向に回転させる。
【0083】
血液ポンプ28は、返血速度Vが所定の返血速度設定値となるように回転速度を制御する。返血速度設定値は、例えば、初期状態で20mL/minであり、その後に返血速度設定値としての90mL/minに達するまで加速を行うように設定されている。
【0084】
ステップS104において、返血開始時又は前回にドナー圧力Pdを計測した時点(ステップS105)を基準として、累積回転数Aが0.25だけ増加したか、つまり、血液ポンプ28が0.25回転したか否かを確認する。0.25回転したときにはステップS105へ移り、0.25回転未満であるときには待機する。
【0085】
ステップS105において、その時点のドナー圧力Pdを計測して記録をする。初期圧力P0及びドナー圧力Pdは、いわゆるリングバッファに蓄えられる。このリングバッファの利用方法については後述する(図8A〜図9B参照)。
【0086】
ステップS106において、第1差圧ΔP1を、ΔP1←Pd−P0として求める。ここで用いるドナー圧力Pdは、直前のステップS105において計測した値である。第1差圧ΔP1に基づく処理によれば、初期圧力P0による影響を排除することができる。なお、第1差圧ΔP1はドナー圧力Pdと同じ値であるが、後述する第2差圧ΔP2と対比しやすいように表記する。
【0087】
ステップS107において、第1差圧ΔP1と返血制限圧力PL1とを比較し、ΔP1≧PL1であるときにはステップS108へ移り、ΔP1<PL1であるときにはステップS109へ移る。
【0088】
このステップS107の判断は、ドナーに違和感を与えうる内出血の兆候の有無を予知的に調べるものであり、図7において、ドナー圧力Pd(つまり、第1差圧ΔP1)が返血制限圧力PL1以上である場合に分岐処理をして、対応処理のステップS108によって返血を中断させ、内出血を予防するものである。
【0089】
初期段階(例えば、累積回転数Aが2.5までの期間)でドナーに違和感を与えうる可能性があるのは、図7において返血制限圧力PL1よりも上の範囲であることが本発明者の研究により確認されている。これは、採血針100の先から吐出される返血成分が正確に静脈に供給されていないことに基づいて、過度にドナー圧力Pdが上昇するためであると考えられる。
【0090】
また、このような初期段階では、ドナー圧力Pd及びPdはある程度急上昇をすることから、上昇の傾斜値に基づく判断よりも固定的な返血制限圧力PL1による閾値判断としてもよい。
【0091】
図7においては、グラフ510及び512については、返血制限圧力PL1よりも上方に至っていることから、ドナーに違和感を与えうる内出血を発生する可能性があると判断され、ステップS108の対応処理が行われることになる。一方、グラフ522、524及び526については、返血制限圧力PL1による制限はない。
【0092】
この対応処理は、図6に示すように、ステップS201において血液ポンプ28を停止させ(又は減速させ)、ステップS202において所定の音響手段又はモニタ20に所定の情報を表示させ、オペレータに通報する。この後、ステップS203で必要な処置を行い、ステップS204において、オペレータが返血を再開することが可能と判断した場合には、再開ボタン(図示せず)を押下して返血を再開する。返血を再開するが可能でないと判断した場合には必要な処置を行った後、中止ボタン(図示せず)を押下して、返血を中断する。
【0093】
図5に戻り、ステップS109において、累積回転数Aが2.5回転に達したか否かを確認し、達している場合にはステップS110へ移り、未達である場合にはステップS104へ戻る。
【0094】
ここまでのステップS101〜S109の処理が、便宜上、差圧力閾値判断処理として区分可能であり、図7においては、A=2.5よりも左側の領域が相当する。また、以下の処理は、便宜上、圧力値傾斜判断処理として区分可能であり、図7においては、A=2.5よりも右側の領域が相当する。
【0095】
ステップS110において、前回にドナー圧力Pdを計測した時点(ステップS105又はS111)を基準として、累積回転数Aが0.25だけ増加したか、つまり、血液ポンプ28が0.25回転したか否かを確認する。0.25回転したときにはステップS111へ移り、0.25回転未満であるときには待機する。
【0096】
ステップS111において、その時点のドナー圧力Pdを計測して記録をする。このドナー圧力Pdは、いわゆるリングバッファに蓄えられる。
【0097】
ステップS112において、第2差圧ΔP2を、ΔP2←Pd−PdN−2として求める。ここで、添え字のN及びN−2は、ドナー圧力Pdを計測した順序を示すものであり、添え字Nは直前のステップS105において計測した値であることを示し、添え字N−2は2回前において計測した値であることを示す。この一連の処理は、血液ポンプ28が0.25回転する毎に行われることから、PdN−2は、血液ポンプ28が0.5回転前のときのドナー圧力Pdである。
【0098】
このように、所定の間隔をおいて第2差圧ΔP2を求めることにより、ノイズ等の影響を低減することができる。この第2差圧ΔP2は、ドナー圧力Pd及びPdの傾斜を示すことになる。
【0099】
ステップS113において、ドナー圧力Pdの傾斜である第2差圧ΔP2が所定傾斜(つまり、20mmHg/0.5rev)の傾斜閾値PL2を超えるか否かを調べる。つまり、第2差圧ΔP2と傾斜閾値PL2とを比較し、ΔP2≧PL2であるときにはステップS114へ移り、ΔP2<PL2であるときにはステップS115へ移る。
【0100】
このステップS113の判断は、ドナーに違和感を与えうる内出血の兆候の有無を予知的に調べるものであり、図7において、第2差圧ΔP2が傾斜閾値PL2以上である場合に分岐処理をして、対応処理のステップS114によって返血を中断させ、内出血を予防するものである。
【0101】
定常状態に移行した返血(例えば、累積回転数Aが2.5以降)でドナーに違和感を与えうる可能性があるのは、図7において傾斜閾値PL2よりも所定時間での変動幅が大きいときであることが本発明者の研究により確認されている。これは、当初は適切に穿刺されていた採血針100が何らかの理由によりずれて、返血成分が正確に静脈に供給されなくなりつつあることに基づいて、ドナー圧力Pdが上昇し始めるためであると考えられる。
【0102】
図7においては、グラフ526については、累積回転数Aが12回程度以上の領域において0.5回転当たりの変動幅が傾斜閾値PL2よりも大きくなっていることから、ドナーに違和感を与えうる内出血を発生する可能性があると判断され、ステップS114の対応処理が行われることになる。一方、グラフ522及び524については、傾斜閾値PL2による制限はない。
【0103】
図7から明らかなように、傾斜閾値PL2を用いた処理を行うことによりグラフ526が上昇し始めたときに迅速な判断が可能となり、前記の返血制限圧力PL1に基づく判断でドナー圧力Pdが100mmHgに達するよりも短時間で検出が可能である。
【0104】
ステップS114の対応処理は、前記のステップS108と同じ処理である。
【0105】
ステップS115において、返血工程の終了を確認する。すなわち、累積回転数Aが所定値に達し、所定量の血液成分が返血されたと判断できる場合には、図5に示す返血工程を終了し、それ以外の場合にはステップS110に戻って返血を続行する。
【0106】
次に、ドナー圧力Pdを図8A〜図9Bのメモリ600に記録し、第1差圧ΔP1及び第2差圧ΔP2を求める方法について説明する。メモリ600はRAMの一部であり、続き番号の10個のアドレスad0〜ad10により構成されている。メモリ600はいわゆるリングバッファとして用いられる。
【0107】
図8A〜図9Bにおいて、各アドレスad0〜ad10に示される記号はドナー圧力Pdであり、このうちP0は初期圧力である。PN(N=1,2,3…)は、N回目に得られたドナー圧力Pdを示す。
【0108】
先ず、差圧力閾値判断処理の前記のステップS101において得られた初期圧力P0は、図8Aに示すように、アドレスad0〜ad10の全てに記録される。
【0109】
第1回目に得られたドナー圧力Pd=P1は、図8Bに示すように、アドレスad0に記録される。このときの第1差圧ΔP1は、ΔP1←P1−P0であるが、アドレスポインタ操作によりアドレスad0の値(P1)から隣のアドレスad1(P0)の値を減算して求められる。アドレスポインタ操作は、例えば該アドレスポインタが示すアドレスにデータを書き込む毎に+1更新されるように設定しておき、更新されたアドレスポインタが示すアドレスの値をP0として読み込めばよい。アドレスポインタIは0〜10の値をとるものとし、I=11のときはI←0にする。
【0110】
なお、図8B以降で、ハッチングが付されているアドレスは第1差圧ΔP1又は第2差圧ΔP2を求めるのに参照される部分を示す。
【0111】
第2回目に得られたドナー圧力Pd=P2は、図8Cに示すように、アドレスad1に記録される。このときの第1差圧ΔP1は、ΔP1←P2−P0であるが、アドレスポインタ操作によりアドレスad1の値(P2)から隣のアドレスad2(P0)の値を減算して求められる。
【0112】
以後、同様にしてドナー圧力Pdは昇順のアドレスに順次記録され、第1差圧ΔP1はその1つ隣のアドレスの値(つまりP0)を減算することにより求められる。
【0113】
次に、圧力値傾斜判断処理のステップS111で最初に得られるドナー圧力Pd=P11は、図9Aに示すように、アドレスad10に記録される。このときの第2差圧ΔP2は、ΔP2←P11−P9であるが、アドレスポインタ操作によりアドレスad10の値(P11)から2つ隣のアドレスad8(P9)の値を減算して求められる。
【0114】
アドレスポインタ操作は、例えば該アドレスポインタIが示すアドレスにデータを書き込む毎に+1更新されるように設定した場合、I−3の示すアドレスの値がP11であり、I−2の示すアドレスの値がP9である。アドレスポインタ操作は、これに限られるものでないことはもちろんである。
【0115】
ステップS111で2回目に得られるドナー圧力Pd=P12は、図9Bに示すように、アドレスad0に記録される。このときの第2差圧ΔP2は、ΔP2←P12−P10であり、前記のアドレスポインタ操作により求められる。
【0116】
以後、同様にしてドナー圧力Pdは昇順のアドレスにad0〜ad10の範囲で順次記録され、ad10に記録した後には再度ad0に戻って記録する。第2差圧ΔP2は2つ隣のアドレスの値を減算することにより求められる。
【0117】
上述したように、本実施の形態に係る血液成分採取装置10によれば、返血時で血液ポンプ28を回転させている際に、ドナー圧力Pdの傾斜である第2差圧ΔP2が所定傾斜の傾斜閾値PL2を超えるときに血液ポンプ28を減速又は停止させることにより、ドナーに違和感を与えうる内出血の発生を予知、予防することができる。
【0118】
上記の各説明における累積回転数A(回)は、例えば累積送液量A’(mL)、返血経過時間T(min)に置き換えてもよいことはもちろんである。累積送液量A’と累積回転数Aとは血液ポンプ28の仕様により、例えば、A/A’=1.15という関係式により相互変換が可能である。また、返血経過時間Tは、返血工程(返血処理)において血液ポンプ28が稼動している累積時間である。
【0119】
なお、上述の説明では、累積回転数AがA=2.5回となるまでの差圧力閾値判断処理では、第1差圧ΔP1と固定的な返血制限圧力PL1とを比較判断しているが、累積回転数AがA=2.5回以降の圧力値傾斜判断処理の一種であるとも言える。
【0120】
すなわち、第1差圧ΔP1は、累積回転数Aの時点のドナー圧力Pdと初期圧力P0との差であり、その傾斜はΔP1/Aである。その時点の比較対象の返血制限圧力PL1は、傾斜閾値としてはPL1/Aと表される。また、前記のステップS107におけるΔP1≧PL1という比較判断は、ΔP1/A≧PL1/Aと表すこともできるので、前記のステップS113と同様の傾斜比較判断であり、圧力値傾斜判断処理の一種であるとも言える。
【0121】
次に、ステップS10(図4参照)において行われる返血処理の第2実施例について図10を参照しながら説明する。以下の処理は、複数回行われる返血処理について毎回行われる。この第2実施例は、基本的には第1実施例と同様の処理を行うものであって、第1実施例では、当初、返血制限圧力PL1が設定され、その後は傾斜閾値PL2が設定されているが、第2実施例では、当初、傾斜閾値PL3が設定され、その後は傾斜閾値PL4が設定される。
【0122】
返血工程の第2実施例は、図10に示す処理として行われる。図10におけるステップS301〜S315は、第1実施例における図5のステップS101〜S115に相当し、第1実施例の処理と異なるのは、ステップS302、S306、S307、S313である。
【0123】
ステップS302では、傾斜閾値PL3及び傾斜閾値PL4が設定される。傾斜閾値PL3は、A<2.5の期間における血液ポンプ28が0.25回転する間の変動許容幅で、例えば、10〜50mmHgに設定する。第2実施例では、傾斜閾値PL3を20mmHgに設定する。傾斜閾値PL3を20mmHg/0.5回転として、図7に図示する。
【0124】
傾斜閾値PL4は、A≧2.5の期間における血液ポンプ28が0.5回転する間の変動許容幅で、前記の傾斜閾値PL2と同様のパラメータである。傾斜閾値PL2は、例えば、10〜50mmHgに設定する。第2実施例では、傾斜閾値PL4を傾斜閾値PL2と同じ20mmHgに設定する。傾斜閾値PL4を図7に図示する。
【0125】
ステップS306は、A<2.5の期間における差圧ΔP1を求める処理であり、前記のステップS112と同様の処理をする。
【0126】
ステップS307は、前記のステップS107と同様の処理であって、返血制限圧力PL1の代わりに傾斜閾値PL3を用いて、差圧ΔP1との比較処理をする。
【0127】
ステップS313は、前記のステップS113と同様の処理であって、傾斜閾値PL2の代わりに傾斜閾値PL4を用いて、差圧ΔP2との比較処理をする。
【0128】
このような第2実施例によれば、前記の第1実施例と同様の効果が得られる。
【0129】
なお、傾斜閾値PL3は、傾斜閾値PL4と同様、血液ポンプ28が0.5回転する間の変動許容幅で設定してもよく、この場合には、例えば20〜100mmHgに設定する。
【0130】
次に、ステップS10(図4参照)において行われる返血処理の第3実施例について図11〜図16を参照しながら説明する。以下の処理は、複数回行われる返血処理について毎回行われる。
【0131】
先ず、図11のステップS401において、血液ポンプ28の累積回転数A及びドナー圧力Pdの計測を開始する。この後、累積回転数A及びドナー圧力Pdは所定の処理部で微小時間毎に連続的に取得する。
【0132】
ステップS402において、返血制限圧力Plを170〜240mmHgに設定する。第3実施例では、返血制限圧力Plを200mmHgに設定する。この返血制限圧力Plは、得られるドナー圧力Pdが超えたときにドナー圧力Pdを下げるべく血液ポンプ28の回転数を低下させるなど所定の処理を行うための基準となる圧力値である。換言すれば、返血制限圧力Plはドナー圧力Pdの上限を制限する実質的な制限圧力である。返血制限圧力Plが200mmHgの場合及び150mmHgに設定されている場合の制御部26による制御手順については後述する。
【0133】
ステップS403において、血液ポンプ28を回転させて返血を開始する。血液ポンプ28は採血時の正方向に対して逆方向に回転させる。
【0134】
血液ポンプ28は、返血速度Vが所定の返血速度設定値となるように回転速度を制御する。返血速度設定値は、例えば、初期状態で20mL/minであり、その後に返血速度設定値としての90mL/minに達するまで加速を行うように設定されている。また、返血制限圧力Plは初期状態で+200mmHgに設定されており、常時、ドナー圧力Pdが返血制限圧力Plを超えたら、ドナー圧力Pdが返血制限圧力Pl以下となるように制御される。
【0135】
なお、採血時の採血速度をプラス値に規定している関係上、返血速度Vはマイナス値として表される(図14参照)。
【0136】
ステップS404において、累積回転数Aが2.5回転に達したか否かを確認し、達している場合にはステップS405へ移り、未達である場合には待機する。
【0137】
ステップS405において、その時点のドナー圧力Pdを調べ返血開始時のドナー圧力Pdとの差圧ΔPを求める。
【0138】
ステップS406において、差圧ΔPを確認し、ΔP≧100mmHgであるときにはステップS407へ移り、ΔP<100mmHgであるときにはステップS411へ移る。
【0139】
このステップS406の判断は、ドナーに違和感を与えうる内出血の兆候の有無を予知的に調べるものであり、図14において、ドナー圧力PdがポイントP11以上である場合、又はドナー圧力Pdの傾斜がポイントP11〜P12の傾斜以上である場合に分岐処理をして以下のステップS407〜S409によって返血を中断させ、内出血を予防するものである。
【0140】
ドナーに違和感を与えうる可能性があるのは、図14において閾値直線501(停止用閾値)よりも上の範囲であることが本発明者の研究により確認されている。したがって、ステップS406に相当する判断処理は、必ずしもポイントP11でのみ行われるものではなく、他端のポイントP12(累積回転数Aが6程度の箇所)で行ってもよいし、ポイントP11〜P12の間で1回又は複数回行ってもよい。閾値直線501は、以下の(1)式又は(2)式で表される。
【0141】
Pd=27×A+14(mmHg) …(1)
Pd=31×A’+14(mmHg)…(2)
ここで、A’は血液ポンプ28による累積送液量(mL)である。
【0142】
図14においては、グラフ510及び512については、閾値直線501よりも上方であることから、ドナーに違和感を与えうる内出血を発生する可能性があると判断され、以下のステップS407の処理が行われることになる。
【0143】
なお、図14及び図15において、破線で示されるグラフ510及び512は、そのままではドナーに違和感を与えうる内出血が発生する可能性があると判断される場合であり、太線で示されるグラフ514、516及び518は、そのままではドナーに違和感を与えない内出血が発生する可能性があると判断される場合であり、細線で示されるグラフ520、522及び524は、内出血の可能性がないと判断される場合である。
【0144】
このうち、グラフ514、516及び520は、閾値直線502(制限用閾値)を超えているが、実際には、後述するように返血制限圧力Plを150mmHgに低下させることにより、制限がなされる。
【0145】
なお、図14及び図15において、縦軸530、532及び534は、血液ポンプ28の返血速度Vが50mL/min、60mL/min及び90mL/minに達する箇所を代表的に示す線である。
【0146】
ステップS407(圧力判断処理)において血液ポンプ28を停止させ、ステップS408において所定の音響手段又はモニタ20に所定の情報を表示させ、オペレータに通報する。この後、ステップS410において、オペレータが返血を再開することが可能と判断した場合には、再開ボタン(図示せず)を押下して、ステップS401に戻り、返血を再開するが可能でないと判断した場合には必要な処置を行った後、中止ボタン(図示せず)を押下して、返血を中断する。
【0147】
一方、ステップS411において、累積回転数Aが10回転に達したことを確認し、ステップS412へ移る。
【0148】
ステップS412において、ドナー圧力Pdを確認し、Pd>100mmHgであるときにはステップS413へ移り、Pd≦100mmHgであるときにはステップS416へ移る(図14のポイントP22参照)。
【0149】
このステップS412の判断は、ドナーが違和感を感じない内出血の兆候の有無を予知的に調べる手段の1つであり、ドナー圧力Pdが閾値直線502(制限用閾値)を超えるときには返血制限圧力Plを適切に調整し、内出血の発生を予防する。
【0150】
したがって、ステップS412に相当する判断処理は、必ずしもポイントP22でのみ行われるものではなく、他端のポイントP21(累積回転数Aが2.65程度の箇所)で行ってもよいし、ポイントP21〜P22の間で1回又は複数回行ってもよい。閾値直線502は、以下の(3)式又は(4)式で表される。
【0151】
Pd=6×A+32(mmHg) …(3)
Pd=7×A’+32(mmHg) …(4)
A’は前記の通り、血液ポンプ28による累積送液量(mL)である。
【0152】
この(3)式及び(4)式から明らかなように、閾値直線502は前記(1)式又は(2)式で表されるの閾値直線501よりも小さい値に設定される。
【0153】
閾値直線501及び502は必ずしも固定的なものではなく、経験的に変更してもよく、又は曲線であってもよい。また、ドナーの体重、性別、穿刺部の血管内血流速等によって変更してもよい。
【0154】
ここで、ドナー圧力Pdが閾値直線502を超えることは、ドナーが違和感を感じない内出血の発生する可能性のある第1のケースであり、図14のグラフ514、516、518のような波形の場合、そのまま返血を続行すると、内出血が発生する場合があることが本発明者の研究によって確認されている。これは、採血針100の先端部の流体抵抗が大きくなり、針間と血管壁の隙間から血液が漏れたため内出血の状態に移行する兆候となっていると考えられる。
【0155】
ドナーが違和感を感じない内出血の発生する可能性がある第2のケースは、図14において、ドナー圧力Pdが山形の変化を示すことが本発明者の研究により確認されている。これは、第1のケースと同様の理由で内出血の状態に移行する兆候となっていると考えられる。このような第2のケースは以下のステップS413S〜S414の処理によって判断される。
【0156】
つまり、ステップS413では、取得したドナー圧力Pdの微分の処理を開始する。該処理は所定のルーチンで行われ、微小時間ごとに微分結果が供給される。
【0157】
ステップS414において、得られたドナー圧力Pdの微分値の遷移状態を調べ、ドナー圧力Pdが上昇した後に下降する山形の変化を示したと判断されるときには、ステップS425で返血制限圧力Plを150mmHgに下げた後にステップS426へ移り、それ以外のときにはステップS415へ移る。
【0158】
このステップS414の判断は、供給された微分値が正の値から負の値に切り換わったことによって判断される。また、本願発明者の研究によれば、山形の変化の中でも特に上方に尖鋭な凸の山形の場合に内出血の兆候があることが確認されている。このような尖鋭な凸の山形の判断には、図16に示すように、供給された微分値550が、所定の短期間に正の値から負の値に0を中心とした所定幅Dを超えて急変したことによって判断される。又は、ドナー圧力Pdの2階微分値552が所定の閾値K1を下回ったことによって判断してもよい。
【0159】
もちろん、これらの微分値550及び2階微分値552やその他の各波形は、所定のフィルタリングによりノイズ成分を除去してから判断してもよい。
【0160】
図14においては、グラフ514が累積回転数Aが10以下の箇所で山形を示していることがステップS414で判断され、ドナーに違和感を与えうる内出血を発生する可能性があると判断され、以下のステップS425に移ることになる。
【0161】
図14においては、グラフ516、518及び520については、閾値直線502よりも上方であることから、ドナーに違和感を与えない内出血を発生する可能性があると判断され、以下のステップS415の処理が行われることになる。
【0162】
他方、グラフ522及び524については、閾値直線502よりも下方であることから、内出血を発生する可能性がないと判断され、制限処理はなされない。
【0163】
なお、図14及び図15において、グラフ522及び524とも累積回転数Aが10〜20付近の範囲で一時的にドナー圧力Pdが下降する傾向を示しているが、これは、返血回路の途中に存在していた血漿がドナーの方向に流れ、エアートラップチャンバーで赤血球と混和されてチャンバー106から出てくる血液のヘマトクリット値が低下し、このような低ヘマトクリット値の血液が採血針100を通過する際に一過性の通過抵抗の低下が生じるためである。
【0164】
ステップS415において、ステップS402における返血制限圧力Plを+120〜+170mmHgに設定する。本実施形態では、返血制限圧力Plを200mmHgから150mmHgに下げるとともに、初期状態で0のフラグFに1をセットする。
【0165】
このステップS415の処理では、返血制限圧力Plを150mmHgに下げることにより、この後にドナー圧力Pdが上昇しても150mmHgで制限されることになり、ドナーの静脈内に血液を無理に吐出することがない、結果として内出血が発生することを予防・抑制することができる。
【0166】
また、内出血を予防・抑制するための手段としては圧力による制限以外にも、速度の制限を行ってもよい。つまり、初期状態で90mL/minに設定されている返血速度設定値を、例えば60mL/minに低下させるようにしてもよい。ステップS422及びS425についても同様である。
【0167】
ステップS416においてフラグFを確認し、F=1であればステップS417へ移り、F=0であればステップS418へ移る。
【0168】
ステップS417において、前記のステップS414と同様に、ドナー圧力Pdが上昇した後に下降する山形の変化の判断を行い、山形であると判断されるときには、ステップS426へ移り、それ以外のときにはステップS418へ移る。
【0169】
図14においては、グラフ520が累積回転数Aが10より大きい箇所で山形を示していることがステップS417で判断され、ドナーに違和感を与えうる内出血を発生する可能性があると判断され、以下のステップS426に移ることになる。ただしグラフ520の場合、後述するように、その後の判断で内出血の可能性がないと判断され、所定の復帰処理が行われる。
【0170】
ステップS418において、ドナー圧力Pdの値を確認し、Pd>260mmHgであるときにはステップS407へ移り、Pd≦260mmHgであるときにはステップS419へ移り処理を続行する。
【0171】
このステップS418の条件が成立する場合は、返血制限圧力Plを低下させたにも拘わらずその後内出血の兆候が消滅しないと判断され、ステップS407〜S410の処理により返血を中断する。
【0172】
ステップS419において、その時点の返血速度設定値を確認し、該値が50mL/min以下であるときにはステップS424へ移り、50mL/minを超えているときには、ステップS420に移る。なお、該値は5〜55mL/minの範囲で設定できる。
【0173】
ステップS420において、返血速度の取得を開始し、移動平均等により過去1分間の平均値が得られるようにする。
【0174】
ステップS421において、得られた過去1分間の返血速度の平均値を確認し、該値が流速閾値としての50mL/minを超えているときにはステップS423へ移り、50mL/min以下であるときにはステップS422に移る。
【0175】
このステップS421の判断は、ドナーが違和感を感じない内出血の兆候の有無を予知的に調べる手段の1つであり、以下のステップS422の処理によって返血制限圧力Plを適切に調整し、内出血の発生を予防する。
【0176】
つまり、このように平均返血速度が低下している場合には、ドナーが違和感を感じない内出血の発生する可能性がある第3のケースであり、内出血による穿刺部周辺の腫脹に起因して次のサイクルの採血工程で採血速度が上がらなくなる可能性があると判断し、所定の予防措置を行う。
【0177】
一方、平均返血速度が低下していない場合は、ドナーが違和感を感じない内出血の可能性が低いと判断し、そのまま返血を継続する。
【0178】
なお、返血速度設定値が50mL/min以下であるときには、平均返血速度も低下していることが当然であるから、ステップS419の分岐判断によりステップS421をバイパスしている。
【0179】
ステップS422において、返血制限圧力Plを150mmHgに下げるとともに、フラグFに1をセットし、ステップS424に移る。
【0180】
ステップS423において、返血制限圧力Plを200mmHgに戻すとともに、フラグFを0をセットする。
【0181】
なお、返血制限圧力Plを復帰させる処理は、一度に200mmHgに戻さずとも、例えば、状況を観察しながら10mmHgずつ制限を徐々に弛めるようにしてもよい。
【0182】
ステップS424において、返血工程の終了を確認する。すなわち、累積回転数Aが所定値に達し、所定量の血液成分が返血されたと判断できる場合には、図11〜図13に示す返血工程を終了し、それ以外の場合にはステップS416に戻って返血を続行する。
【0183】
一方、ステップS426においては、累積回転数Aを取得し、ステップS427において、A≧35であるか否かを確認する。A≧35であるときにはステップS428へ移り、A<35であるときにはステップS426へ戻り待機する。
【0184】
ステップS428において、その時点の返血速度Vと、返血速度設定値を比較し、返血速度V<返血速度設定値であるときにはステップS416へ移り、返血速度≧返血速度設定値であるときにはステップS429に移る。
【0185】
このステップS428の判断は、それ以前に返血制限圧力Plを予防的に150mmHgに下げているが、その後の状況から内出血が発生しないことを確認し、元の返血状況(返血制限圧力Pl及び返血速度V等)に復帰させて、迅速な返血を図るためのものである。
【0186】
このような復帰判断は、ステップS428では、(1)累積回転数Aが35となったときに返血速度V≧返血速度設定値であることを条件としているが、これ以外にも次の条件を用いてもよい。
【0187】
すなわち、(2)返血速度V≧返血速度設定値となったときの累積回転数Aが所定値(20〜60)より小さく、例えば、A<35であること。(3)返血開始からドナー圧力Pdが+100〜+200mmHgの範囲での設定値、例えば、+150mmHgに達するまでの時間が5〜20secの範囲での設定値、例えば、34sec以上であること。(4)返血開始からの経過時間が5〜20secの範囲での設定値、例えば、34secのとき、ドナー圧力Pdが+100〜+200mmHgの範囲での設定値、例えば、+150mmHgに達していないこと。(5)返血開始からドナー圧力Pdが+100〜+200mmHgの範囲での設定値、例えば、+150mmHgに達するまでの累積回転数Aが所定値(20〜60)より小さく、例えば、A>35であること。
【0188】
換言すれば、累積回転数A又は経過時間と、ドナー圧力Pd又は返血速度Vとの関係(つまり、累積回転数A又は経過時間に応じて、ドナー圧力Pdが回復判断圧力閾値である+150mmHgを下回っており、又は返血速度Vが回復判断流速閾値である50mL/minを超えている関係)に基づいて内出血が発生しないという判断ができ、返血制限圧力Pl又は返血速度の制限値を上昇させられるのであって、上記以外の組合わせであってもよい。
【0189】
なお、回復判断流速閾値は20mL/minから、設定速度の2/3と60mL/minの小さい方までの範囲で設定できる。
【0190】
これらの条件が成立するときには、内出血が発生しないと判断でき、以下のステップS429で復帰処理を行えばよい。
【0191】
ステップS429において、返血制限圧力Plを200mmHgに戻すとともに、フラグFに0をセットし、ステップS416へ移る。また、圧力ではなく速度による制限を行っている場合には60mL/minに低下させている返血速度設定値を元の90mL/minに戻せばよい。
【0192】
例えば、上記の(5)条件は、図15のポイントP3に基づいて判断できる。該(5)条件に基づいて判断を行う場合、グラフ520は、当初、山形の波形を示して返血制限圧力Plが150mmHgに制限されているが、A=35であるときPd<+150mmHgであることから、内出血が発生しないという判断ができ、ステップS429で返血制限圧力Plを200mmHgに復帰させることができる。一方、グラフ518は、当初、閾値直線502を超えて返血制限圧力Plが150mmHgに制限されており、A=35であるときにPd=+150mmHgであり、ちょうど境界上を通過しており、もとの状況に復帰すると内出血が発生する可能性は排除できず、返血制限圧力Plを150mmHgに制限したままとする。
【0193】
次に、採血時及び返血時における血液ポンプ28の回転速度Nの制御手順について説明する。回転速度Nはドナー圧力Pdの区分に基づいて加減速を行うことにより行われる。この加減速は流量換算値に基づいて規定され、50msec程度の間隔で更新制御される。なお、この間隔は、25〜200msecの範囲で設定できる。
【0194】
先ず、採血開始時には、0〜+150mL/minの設定値からスタートする。
【0195】
採血時で、ドナー圧力Pdが+220〜+300mmHgの設定値以上であるとき、又は、−300〜−100mmHgの設定値未満であるときには、圧力異常であるとして、血液ポンプ28の回転を停止させ、所定の異常対処処理を行う。
【0196】
ドナー圧力Pdが−50〜+30mmHgの設定値以上、+20〜+300mmHgの設定値未満の範囲であるときには、+2〜+90mL/min/secの設定値の加速度で、設定速度までの範囲内で加速を行う。
【0197】
ドナー圧力Pdが−100〜−5mmHgの設定値以上、−50〜+20mmHgの設定値未満の範囲であるときには、+1〜+10mL/min/secの設定値の加速度で、設定速度までの範囲内で加速を行う。
【0198】
ドナー圧力Pdが−200〜−50mmHgの設定値以上、−150〜−20mmHgの設定値未満の範囲であるときには、−5〜−50mL/min/secの設定値の減速度で、流量0までの範囲内で減速を行う。
【0199】
ドナー圧力Pdが−280〜−80mmHgの設定値以上、−200〜−50mmHgの設定値未満の範囲であるときには、−100〜−10mL/min/secの設定値の減速度で、流量0までの範囲内で減速を行う。
【0200】
なお、これらの設定値は、互いに重複(矛盾)しないように設定される。
【0201】
次に、返血時には、返血開始時、血液ポンプ28の回転速度Nは吐出量換算の初期値で、所定の設定速度が20mL/min以上のときには20mL/minからスタートし、20mL/min未満のときには該設定速度からスタートし、それぞれ加速する。
【0202】
ドナー圧力Pdが−300〜−100mmHgの設定値未満であるときには、圧力異常であるとして、血液ポンプ28の回転を停止させ、所定の対処処理を行う。
【0203】
次に、返血時で、返血制限圧力Plが初期状態の200mmHgに設定されている場合について説明する。この場合、ドナー圧力Pdが+220〜+300mmHgの設定値以上であるときには、圧力異常であるとして、血液ポンプ28の回転を停止させ、所定の異常対処処理を行う。
【0204】
ドナー圧力Pdが+155〜+300mmHgの設定値以上、+220〜+300mmHgの設定値未満の範囲であるときには、−100〜−10mL/min/secの設定値の減速度で減速を行う。
【0205】
ドナー圧力Pdが+120〜+250mmHgの設定値以上、+155〜+260mmHgの設定値未満の範囲であるときには、−2〜−100mL/min/secの設定値の減速度で減速を行う。
【0206】
ドナー圧力Pdが+20〜+200mmHgの設定値以上、+150〜+250mmHgの設定値未満の範囲であるときには、ヒステリシス処理を行い、先ず減速の最中であるか、加速の最中であるかを確認する。
【0207】
減速の最中であるときには、−2〜−100mL/min/secの設定値の減速度で減速を続行する。加速の最中であるときには、+2〜+90mL/min/secの設定値の加速度で設定速度までの範囲内で加速を続行する。
【0208】
ドナー圧力Pdが−220〜−50mmHgの設定値以上、+20〜+200mmHgの設定値未満の範囲であるときには、+2〜+90mL/min/secの設定値の加速度で設定速度までの範囲内で加速をする。
【0209】
なお、これらの設定値は、互いに重複(矛盾)しないように設定される。
【0210】
このような処理により、採血時及び返血時とも適切な速度制御がなされる。
【0211】
上記の説明では、採血の後に返血を行う片腕採取方式を例にしたが、採血と返血とを同時に行う両腕連続方式に対しても本発明が適用可能であることはもちろんである。両腕採取方式の場合、採血圧力センサと返血圧力センサ、及び吸引ポンプと吐出ポンプとをそれぞれ独立的に設けるとよい。
【0212】
次に、返血時で、返血制限圧力Plが150mmHgに設定されている場合について説明する。
【0213】
この場合、ドナー圧力Pdが+100〜+200mmHgの設定値以上、+200〜+300mmHgの設定値未満の範囲であるときには、−100〜−10mL/min/secの設定値の減速度で減速を行う。
【0214】
ドナー圧力Pdが+90〜+220mmHgの設定値以上、+100〜+200mmHgの設定値未満の範囲であるときには、−2〜−100mL/min/secの設定値の減速度で減速を行う。
【0215】
ドナー圧力Pdが+20〜+150mmHgの設定値以上、+90〜+220mmHgの設定値未満の範囲であるときには、ヒステリシス処理を行い、先ず減速の最中であるか、加速の最中であるかを確認する。
【0216】
減速の最中であるときには、−2〜−100mL/min/secの設定値の減速度で減速を続行する。加速の最中であるときには、+2〜+90mL/min/secの設定値の加速度で設定速度までの範囲内で加速を続行する。これ以外の場合には、返血制限圧力Plが200mmHgに設定されている場合と同様に制御すればよい。
【0217】
なお、これらの設定値は、互いに重複(矛盾)しないように設定される。
【0218】
また、採血及び返血時のいずれの場合においても、上記のポンプ制御を行った結果、血液ポンプ28の回転速度Nが0になり、その状態が所定時間(例えば、3〜60秒)経過し、又は所定時間(例えば、3〜180秒)累積されたときにはオペレータに通報(エラー画面表示、警報音、又はランプ点灯)して所定の処理を促すとよい。この場合、オペレータが穿刺状態の修正等の処置をして、所定の再開指示操作を行うと、血液成分採取装置10は工程を再開、継続する。なお、回転速度Nが0の状態のときには、流量低下を示す所定の通報音を鳴らすようにしてもよい。
【0219】
返血制限圧力Plに基づく血液ポンプ28の制御手順はこれに限られるものでないことはもちろんである。
【0220】
上記の各説明における累積回転数Aは、例えば累積送液量A’に置き換えてもよいことはもちろんである。
【符号の説明】
【0221】
10…血液成分採取装置 26…制御部
28…血液ポンプ 38…圧力センサ
98…速度検出部 104…チューブ
501…停止用閾値 502…制限用閾値

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドナーから採取した血液を分離した後、所定の血液成分をドナーに返血する返血ラインと、
前記返血ラインに血液成分を送り出す可変速度の血液ポンプと、
前記返血ラインの圧力を検出する圧力センサと、
前記血液ポンプを駆動する制御部と、
を有し、
前記制御部は、前記血液ポンプを回転させて返血を開始した際に、前記圧力センサから得られる前記圧力が前記血液ポンプの累積回転数、累積送液量又は返血経過時間に対応して設定された制限用閾値又は停止用閾値を超えるとき、若しくは前記圧力の傾斜が所定傾斜を超えるときに、前記血液ポンプを減速又は停止させる圧力判断処理を行うことを特徴とする血液成分採取装置。
【請求項2】
請求項1記載の血液成分採取装置において、
前記制御部は、返血開始時から所定時間が経過した後、又は前記血液ポンプが所定数だけ回転した後に、前記圧力判断処理を開始することを特徴とする血液成分採取装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の血液成分採取装置において、
前記制御部は、返血開始時の前記圧力を初期圧力とし、返血開始時から所定時間が経過するまで、又は前記血液ポンプが所定数だけ回転するまでに、前記圧力センサから得られる前記圧力と前記初期圧力との差圧力が所定閾値を超えるときに、前記血液ポンプを減速又は停止させる差圧判断処理を行うことを特徴とする血液成分採取装置。
【請求項4】
ドナーから採取した血液を分離した後、所定の血液成分を採取し、残余の血液成分をドナーに返血する血液成分採取装置において、
ドナーに残余の血液成分を返血する返血ラインと、
前記返血ラインに血液成分を送り出す可変速度の血液ポンプと、
前記返血ラインの圧力を検出する圧力センサと、
前記血液ポンプを駆動する制御部と、
を有し、
前記制御部は、返血開始時の前記圧力を初期圧力とし、返血開始時から所定時間が経過するまで、又は前記血液ポンプが所定数だけ回転するまでに、前記圧力センサから得られる前記圧力と前記初期圧力との差圧力が所定閾値を超えるときに、前記血液ポンプを減速又は停止させる差圧判断処理を行うことを特徴とする血液成分採取装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2012−139546(P2012−139546A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−93768(P2012−93768)
【出願日】平成24年4月17日(2012.4.17)
【分割の表示】特願2008−543116(P2008−543116)の分割
【原出願日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】