説明

血液検査測定器および測定値補正方法

【課題】
血液の形態によらず、正確な測定値を得ることができる血液検査測定器を提供すること。
【解決手段】
血液中の成分と反応を示す試薬が担持された血液吸収性部材を備えた血液検査具を用いて測定した血液成分の補正値を求める方法であって、ヘマトクリット値が既知の血液サンプルを用いて、測定時間途中で測定値の差を測定することによって得られた呈色速度に基づいて、ヘマトクリット値ごとの血液成分の補正値を求める。前記呈色速度は、呈色開始から0秒と6秒の間の任意の2点間の測定値の差とする方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は血液中の特定成分を測定する血液検査測定器および測定値の補正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の血液検査具として実公昭60−38216号(特許文献1)が知られている。この液体分析用器具aは、図8に示すように、液体中の特定成分により反応を示す試薬層b、液体吸収層c及び被覆部材dがそれぞれ重層され、最上層の被覆部材dに小孔eが設けられてなる。そして、この液体分析用器具aは次のようにして使用される。すなわち、その被覆部材dの小孔e上に血液が塗布される。塗布された血液は、小孔eを通り液体吸収性部材c中で拡散され、やがて試薬層bに達し、該試薬層bに含まれる試薬により呈色反応を起こす。この一定時間経過後の呈色を測定器で測定することにより、血液中の特定成分を測定する。
【0003】
上述のような液体分析用器具aを用いて血液中の特定成分を測定するには、必要にして充分な血液が小孔eから液体吸収性部材cに供給されなければならない。しかしながら試料の血液は、指頭等をメスまたは針などで穿刺し、絞り出す操作をして皮膚上にごく少量を集め、さらに上述の液体分析用器具aでは、単に最上層の被覆部材dに小孔eが設けられているだけであるため、小孔eの位置確認を指先で行うから、小孔eの周りに血液を付けてしまい、指先に付いている血液をうまく小孔eに供給できなかった。また、指先上の血液が球状にならず流れて広がった場合や、血液採取を腹壁や耳朶から行う場合には、小孔eへの供給は非常に困難であった。
【0004】
このような問題を解決するために特開平3−99265(特許文献2)が知られている。図9に示すとおり、この液体分析用器具アは、液体吸収性部材イ及び試薬層ウを片面に備えてなる器具本体エと、一端に液体の吸収口を有し、他端を前記液体吸収性部材イと接するように細管オを設けてなる。この発明により上述の問題は解決されたが、一方新たな問題を生じた。血液を、指頭等から細管オにより毛細管現象で吸収する際、細管先端を皮膚面に押しつけ細管を塞いだ場合には、必要量の血液を吸収する前に皮膚からの血液の供給が止まってしまい、測定が開始できなかったり、正確な測定ができなかった。また、血液検査具を測定器から取り外す場合、特に病棟等で第3者の血液を測定する際、測定者が第3者の血液に触れ、B型肝炎やエイズ等の感染のおそれがあった。
【0005】
【特許文献1】実公昭60−38216号公報
【0006】
【特許文献2】特開平3−99265号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、上述したような血液の形態、採取部位、及び採取手技によらず、簡便に血液を採取でき、また正確な測定値を得ると共に、血液検査具廃棄時の安全性をも考慮した血液検査具及び血液検査測定器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的は、下記(1)〜(6)の発明により達成される。
(1)血液中の成分と反応を示す試薬が担持された血液吸収性部材を備えた血液検査具を用いて測定した血液成分の測定値の補正値を求める方法であって、ヘマトクリット値が既知の血液サンプルを用いて、測定時間途中で測定値の差を測定することによって得られた呈色速度に基づいて、ヘマトクリット値ごとの血液成分の測定値の補正値を求める方法。
(2)前記呈色速度が、呈色開始から0秒と6秒の間の任意の2点間の測定値の差である上記(1)に記載の血液成分の測定値の補正値を求める方法。
(3)血液中の成分と反応を示す試薬が担持された血液吸収性部材を備えた血液検査具を用いて測定した血液成分の測定値を補正する方法であって、測定時間途中で測定値の差を測定することによって得られた呈色速度に応じて、測定時間における測定値を、予めヘマトクリット値が既知の血液サンプルを用いて定めた補正値で補正することを特徴とする血液成分の測定値補正方法。
(4)前記呈色速度が、呈色開始から0秒と6秒の間の任意の2点間の測定値の差である上記(3)に記載の血液成分の測定値補正方法。
(5)血液中の成分と反応を示す試薬が担持された血液吸収性部材を備えた血液検査具をセットして用いる血液検査測定器において、前記血液成分の測定時間途中で測定値の差を測定することによって得られた呈色速度に応じて、測定時間における測定値を、予めヘマトクリット値が既知の血液サンプルを用いて定めた補正値で補正することを特徴とする血液検査測定器。
(6)前記呈色速度が、呈色開始から0秒と6秒の間の任意の2点間の測定値の差である上記(5)に記載の血液検査測定器。
【発明の効果】
【0009】
本発明の血液検査測定器および測定値補正方法によれば、血液の形態、採取部位、及び採取手技によらず、簡便に血液を採取でき、また正確な測定値を得ると共に、血液検査具廃棄時の安全性が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の血液検査具及び血液検査測定器を、添付図面に基づいて詳細に説明する。図1は本発明の血液検査具の実施例を示す縦断面図、図2及び図3は、それぞれ図1に示す細管両端の斜視図、図4及び図5は細管両端の上面図、図6は血液検査具の使用状態を示す縦面図、図7は血液検査具と血液検査測定器との組み合わせ使用状態を示す縦断面図を示す。図1に示す本発明の血液検査具100は、主に血液中の成分と反応を示す試薬を担持した血液吸収性部材1、血液吸入のための細管20を備えたホルダー2により構成されている。以下、各構成要素について説明する。血液吸収性部材1は、多孔性膜を担体とし試薬を含浸したものである。多孔性膜は血液中の赤血球を濾過できる程度の孔径を有するものが望ましい。多孔性膜を使用することにより、特にオキシダーゼ反応のように大気中の酸素を基質として反応する過程を含む試薬系において、試料が試薬層上に展開後、試料受容側が試料に覆われた状態でも反対側より大気中の酸素が供給されることにより、反応を迅速に進ませることができ、試料を除去することなく発色を観察することができる。
【0011】
多孔性膜の材質としては、ポリエステル類、ポリアミド類、ポリオレフィン類、ポリスルホン類またはセルロース類等があげられが、試薬を溶解した水溶液を含浸させたり、測定時には血球を濾過するため、親水性の材料または、親水化された材質が好ましい。親水化はプラズマ処理、グロー放電、コロナ放電、紫外線照射等の物理活性化処理のほか、界面活性剤、水溶性シリコン、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等の塗布等により行うことができる。反応試薬として、オキシダーゼ及びペルオキシダーゼ存在下4-アミノアンチピリンと、上記の水素供与体との酸化縮合反応が知られている。なお、血液吸収性部材1は、後述するが、ホルダー2と接着や融着等によって固着されている。
【0012】
図1に示すホルダー2は、細管20、血液吸収性部材との固着部30、測定器との嵌合部40、及びフランジ50から構成されている。各構成部は成形により一体に成形されているが、別々の部品を組み合わせて構成しても良い。ホルダー2は所定の剛性を有する剛性材料で構成されている。材料としては、例えばアクリル樹脂、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、硬質ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ABS樹脂、ポリエステル、ポリフェニレンサルファイド(PPS)等があげられるが、測定時には血液を吸入、展開するため、アクリル樹脂等の親水性の高い材料、または親水化された材質が好ましい。親水化はプラズマ処理、グロー放電、コロナ放電、紫外線照射等の物理活性化処理のほか、界面活性剤、水溶性シリコン、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等の塗布等により行うことができる。
【0013】
図2に示す細管20の血液吸入口側端21の端面22には、血液採取部位の皮膚によって塞がれ、血液の吸入を妨げられることのないように、凹溝23を形成している。図4(a)及びその線分I-I′の断面である図4(b)に示す凹溝23の細管との接触部分の周長D1は、血液の吸入開始を妨げることのない大きさでなくてはならなず、細管の半径をrとすると、D1≦2×π×r×50%が望ましい。図6に示す凹溝23の深さPについては、皮膚の状態にもよるが、細管20を皮膚によって塞ぐことのない、0.1mm以上、好ましくは0.2mmから1mmが好ましい。凹溝23の形状は、図2及び図4の形状に限定されず、一部皮膚に触れない構造を有していればよい。他にも例えば、複数の凹溝を細管20を中心に放射状に形成したり、細管20に接するように平行に形成するものなどが挙げられる。
【0014】
図3に示す細管20の血液吸収性部材との接触端24の端面25には、吸入された血液が血液吸収性部材にスムーズに展開し、正確な測定値を得られるように、凹溝26を形成している。凹溝26の深さについては、特に限定しないが、0.01mm以上、好ましくは0.05mmから0.2mmが好ましい。また平面27は、血液吸収性部材1接着や融着のど方法により固定することもできる。このことにより血液吸収性部材1が歪んだり波打つことにより端面25と間に隙間を生じ血液の展開が行われないことを防止することができる。図5に示す凹溝24の細管との接触部分の周長D2は、細管20内の血液が該接触端の末端まで吸入でき、血液吸収性部材1と血液が接触し、展開されるように、細管の半径をrとすると、D2≦2×π×r×50%が望ましい。
【0015】
また図1示す通り血液吸収性部材1とホルダー2との間に、血液の展開できる隙間28を確保している。隙間の高さは0.02mm以上、好ましくは0.05mm〜0.2mmがよい。凹溝26の形状は、図3及び図5の形状に限定されず、一部皮膚に触れない構造を有していればよい。他にも例えば、複数の凹溝を細管20を中心に放射状に形成したり、細管20に接するように平行に形成するものなどが挙げられる。図6に示す通り、ホルダー2には、血液吸収性部材1を固着するための固着部30、及び測定器200と定位置でセットできるように、嵌合部40が形成されている。
【0016】
測定器200には、呈色強度を光学的に測定し、測定値へ換算、表示するものや、成分量に応じた電位変化を電気的に測定し、測定値へ換算、表示するものが知られている。こういった血液測定に置ける誤差要因の1つとして、血液のヘマトクリット値の個人差があげられる。ヘマトクリット値は、血液中に占める赤血球の容積であるが、成人女性で35%〜45%、成人男性で40%〜50%、新生児では60%を越える場合も多く、性差、年齢差等の個人差が大きい。従って、血清を分離せず全血を検体とした検査においては、一定量の血液が血液吸収性部材1へ供給されても、血清の量にバラツキを生じるため、これが測定誤差要因となっている。こういった誤差を生じる検査の例としては、血糖値、コレステロール値、尿酸値、クレアチニン値、ナトリウム等の無機イオン値等の血清成分の検査があげられる。
【0017】
測定器200は、ヘマトクリット値を、試薬の呈色速度により判別し、血液中の測定成分の測定値を補正する。該呈色速度は、測定時間途中での、測定値の差を測定することによって得られる。該呈色速度の測定のタイミングとしては、ヘマトクリット値によって速度に差を生じやすい、呈色開始から間もない0秒と6秒間の任意の2点、好ましくは0秒と4秒間の任意の2点がよい。病院での測定等、患者等の第3者の血液に触れ、B型肝炎やエイズ等のおそれがある場合には、図7に示すとおり、測定後ホルダー2を測定器200から外す際、ホルダーに2直接触れないように、測定器200に突きだしピン210、かつ、ホルダーにフランジ部50を設け、取り外し機構が設けられる。また、図示されてはいないが、バネじかけや、電磁石を利用した取り外し機構でもよい。
【0018】
(実施例1)アクリル樹脂を材質として、表1のとおりホルダーを成形した。各ホルダーは、空気0.7torr下、プラズマ処理して親水化し、試薬を含まない、厚さ約150μmのポリスルホン膜を、血液吸収性部材としてホルダーに融着して、血液を吸入させた。必要血液量はいずれも細管体積よりほぼ5μl以上であり、指を穿刺後、湧出した血液約20μlの中心部から、吸入口先端を指へすばやく押し当て、ポリスルホン膜上に血液が展開するか否かによって、血液の吸入を比較確認した。表2に示す通り、本発明に係わるサンプル1が優れており、凹溝が有効であることが明らかである。
【0019】
【表1】

【0020】
【表2】

【0021】
(実施例2)表3のホルダーを成形し、実施例1と同様の方法で処理し、これに表4の組成からなる試薬溶液を含浸し、40℃で30分間乾燥させた厚さ約150μmのポリスルホン膜を融着し、血糖値約100mg/dl及び400mg/dlの検体を用いて、血糖値の測定を繰り返し約30回行った。表2に示す通り、本発明に係わるサンプル3が優れており、凹溝が有効であることが明らかである。
【0022】
【表3】

【0023】
【表4】

【0024】
【表5】

【0025】
(実施例3)実施例2で作成したサンプル3を使用して、ヘマトクリット値30%、40%、50%、60%の血液を作成して、これに同じ血糖値となるようグルコースを添加した。色差計(日本分光社、シグマ80)を使用して、2秒毎に反射率から血糖値を測定した。表6及び7より、反応速度(血糖値の2秒値−0秒値の差)から、測定時間(20秒)における血糖値を短時間でも正確な値を得ることが可能である。尚、表6に対応する線グラフ1(図10)及び表7に対応する線グラフ2(図11)から、4秒値他でも同様の補正が可能である。また表6及び7から求めた具体的な補正値を表8に未補正値との比較を表9に示す。なお、表8の補正値は、補正を行うための係数を指すものである。
【0026】
【表6】

【0027】
【表7】

【0028】
【表8】

【0029】
【表9】

【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の血液検査具の縦断面図である。
【図2】細管20の吸入口先端の外観拡大図である。
【図3】細管20の血液吸収性部材接触端の外観拡大図である。
【図4】図2に示す吸入口先端の上面図である。
【図5】図3に示す血液吸収性部材接触端の上面図である。
【図6】血液検査具の使用状態の模式図である。
【図7】血液検査具と血液検査測定器とを組み合わせ状態を示す縦断面図である。
【図8】先行技術実公昭60−38216の実施例である。
【図9】先行技術特開平3−99265の実施例である。
【図10】表6に対応する線グラフである。
【図11】表7に対応する線グラフである。
【符号の説明】
【0031】
1 血液吸収性部材
2 ホルダー
20 細管
21 吸入口側端
22 吸入口側端面
23 吸入口側凹溝
24 血液吸収性部材との接触端
25 血液吸収性部材との接触端面
26 接触端面凹溝
30 固着部
40 嵌合部
50 フランジ
200 測定器
210 突き出しピン
300 血液
a 液体分析用器具
b 試薬層
c 液体吸収層
e 小孔
ア 液体分析用器具
イ 液体吸収性部材
ウ 試薬層
エ 器具本体
オ 細管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液中の成分と反応を示す試薬が担持された血液吸収性部材を備えた血液検査具を用いて測定した血液成分の測定値の補正値を求める方法であって、
ヘマトクリット値が既知の血液サンプルを用いて、測定時間途中で測定値の差を測定することによって得られた呈色速度に基づいて、ヘマトクリット値ごとの血液成分の測定値の補正値を求める方法。
【請求項2】
前記呈色速度が、呈色開始から0秒と6秒の間の任意の2点間の測定値の差である請求項1に記載の血液成分の測定値の補正値を求める方法。
【請求項3】
血液中の成分と反応を示す試薬が担持された血液吸収性部材を備えた血液検査具を用いて測定した血液成分の測定値を補正する方法であって、
測定時間途中で測定値の差を測定することによって得られた呈色速度に応じて、測定時間における測定値を、予めヘマトクリット値が既知の血液サンプルを用いて定めた補正値で補正することを特徴とする血液成分の測定値補正方法。
【請求項4】
前記呈色速度が、呈色開始から0秒と6秒の間の任意の2点間の測定値の差である請求項3に記載の血液成分の測定値補正方法。
【請求項5】
血液中の成分と反応を示す試薬が担持された血液吸収性部材を備えた血液検査具をセットして用いる血液検査測定器において、
前記血液成分の測定時間途中で測定値の差を測定することによって得られた呈色速度に応じて、測定時間における測定値を、予めヘマトクリット値が既知の血液サンプルを用いて定めた補正値で補正することを特徴とする血液検査測定器。
【請求項6】
前記呈色速度が、呈色開始から0秒と6秒の間の任意の2点間の測定値の差である請求項5に記載の血液検査測定器。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−10706(P2006−10706A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−233703(P2005−233703)
【出願日】平成17年8月11日(2005.8.11)
【分割の表示】特願平8−172072の分割
【原出願日】平成8年7月2日(1996.7.2)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】