説明

血液浄化装置

【課題】脱血の終了を容易且つ正確に検知することができる血液浄化装置を提供する。
【解決手段】プライミング液充填工程にて血液回路及びダイアライザ3の血液流路にプライミング液が充填された状態で、動脈側血液回路1の先端及び静脈側血液回路2の先端の双方から同時に当該ダイアライザまで患者の血液を導いてプライミング液と置換させ、置換された液体を当該ダイアライザの血液浄化膜を介して透析液流路側に濾過させる脱血工程が行われ、脱血工程の過程で、ダイアライザ3における血液浄化膜の限外濾過率又は膜間圧力差を経時的に求める演算手段9と、該演算手段9にて経時的に求められた膜間圧力差又は限外濾過率の変化率を監視するとともに、その膜間圧力差又は限外濾過率の変化率が規定値より大きくなったことを検出し、脱血工程が終了したことを検知する監視手段10とを具備したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイアライザを使用した透析治療など、患者の血液を体外循環させつつ浄化するための血液浄化装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、透析治療時においては、採取した患者の血液を体外循環させて再び体内に戻すための血液回路が用いられており、かかる血液回路は、例えば中空糸膜を具備したダイアライザ(血液浄化手段)と接続し得る動脈側血液回路及び静脈側血液回路から主に構成されている。これら動脈側血液回路及び静脈側血液回路の各先端には、動脈側穿刺針及び静脈側穿刺針が取り付けられ、それぞれが患者に穿刺されて透析治療における血液の体外循環が行われることとなる。
【0003】
このうち、動脈側血液回路には、しごき型の血液ポンプが配設されており、当該血液ポンプを駆動させることにより患者の体内から血液をダイアライザ側に送り込む一方、動脈側血液回路及び静脈側血液回路には、動脈側ドリップチャンバ及び静脈側ドリップチャンバが接続されており、除泡した後に患者の体内に血液が戻されるようになっている。
【0004】
また、動脈側血液回路における血液ポンプより上流側(即ち、動脈側穿刺針側)には、プライミングや返血時等に生理食塩水を供給するためのプライミング液供給ライン(生理食塩水ライン)がT字管等を介して接続されており、透析治療前に、血液回路や該血液回路に接続されたドリップチャンバ等構成要素に生理食塩水(プライミング液)を流し充填させてプライミングを行い得るよう構成されている。
【0005】
然るに、動脈側血液回路の先端に取り付けられた動脈側穿刺針及び静脈側血液回路の先端に取り付けられた静脈側穿刺針を患者に穿刺するとともに、プライミングにて血液回路及びダイアライザの血液流路にプライミング液が充填された状態で、動脈側穿刺針及び静脈側穿刺針の双方から同時にダイアライザまで患者の血液を導いてプライミング液と置換させ、置換された液体を当該ダイアライザの血液浄化膜を介して透析液流路側に濾過させることが行われている。これにより、プライミング液を患者の体内に導くことなく脱血を行うことができる。
【0006】
従来の血液浄化装置においては、上記の如き脱血時、例えば限外濾過ポンプ等を駆動させることにより血液流路の液体を血液浄化膜を介して透析液流路側に濾過させていた。そして、ダイアライザの血液流路及び血液回路のプライミングボリューム(充填されたプライミング液の容量)を予め記憶しておき、限外濾過ポンプ等が当該プライミングボリューム分だけ駆動したことを把握させることにより、脱血が終了したことを把握していた(例えば特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2000−325470号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来の血液浄化装置においては、ダイアライザの血液流路及び血液回路のプライミングボリュームを予め記憶しておき、限外濾過ポンプ等が当該プライミングボリューム分だけ駆動したことを把握させることにより、脱血が終了したことを把握していたので、以下の如き問題があった。
【0008】
即ち、患者の特性等により使用するダイアライザの種類や血液回路に接続すべき構成要素等が異なることから、ダイアライザの血液流路及び血液回路のプライミングボリュームが患者毎に異なっているのが実情である。而して、プライミングボリュームが種々異なることから、当該プライミングボリュームを基準として脱血終了を判断するのは困難を生じてしまうという問題があった。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、脱血の終了を容易且つ正確に検知することができる血液浄化装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1記載の発明は、動脈側血液回路及び静脈側血液回路から成るとともに、当該動脈側血液回路の先端から静脈側血液回路の先端まで患者の血液を体外循環させ得る血液回路と、該血液回路の動脈側血液回路及び静脈側血液回路の間に介装されて当該血液回路を流れる血液を浄化するとともに、血液を浄化するための血液浄化膜を介して患者の血液が流れる血液流路及び透析液が流れる透析液流路が形成された血液浄化手段と、前記動脈側血液回路に配設された血液ポンプと、該血液浄化手段の透析液流路入口及び出口に接続された透析液導入ライン及び透析液排出ラインとを具備した血液浄化装置において、治療前のプライミングにおいて前記血液回路及び前記血液浄化手段の血液流路内にプライミング液を供給して当該血液回路及び血液流路内で充填させるプライミング液充填工程と、該プライミング液充填工程にて前記血液回路及び前記血液浄化手段の血液流路にプライミング液が充填された状態で、前記動脈側血液回路の先端及び前記静脈側血液回路の先端の双方から同時に当該血液浄化手段まで患者の血液を導いてプライミング液と置換させ、置換された液体を当該血液浄化手段の血液浄化膜を介して前記透析液流路側に濾過させる脱血工程と、該脱血工程後、前記動脈側血液回路の先端から前記血液浄化手段を介して前記静脈側血液回路の先端まで患者の血液を体外循環しつつ浄化する治療工程とが行われるとともに、前記脱血工程の過程で、前記血液浄化手段における血液浄化膜の限外濾過率又は膜間圧力差を経時的に求める演算手段と、該演算手段にて経時的に求められた膜間圧力差又は限外濾過率の変化率を監視するとともに、その膜間圧力差又は限外濾過率の変化率が規定値より大きくなったことを検出し、前記脱血工程が終了したことを検知する監視手段とを具備したことを特徴とする。
【0011】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の血液浄化装置において、前記血液回路の何れかの部位における液圧を測定するプライミング液側液圧測定手段と、前記透析液導入ライン又は透析液排出ラインの何れかの部位における液圧を測定する透析液側液圧測定手段とを具備するとともに、前記演算手段は、当該プライミング液側液圧測定手段で測定される液圧と透析液側液圧測定手段で測定される液圧とに基づき前記膜間差圧又は限外濾過率を求めるものであることを特徴とする。
【0012】
請求項3記載の発明は、請求項1又は請求項2記載の血液浄化装置において、前記透析液排出ラインの途中に限外濾過ポンプを具備するとともに、前記脱血工程は、当該限外濾過ポンプを一定速度で駆動させて前記血液浄化手段の透析液流路側を血液流路に対して負圧とし、且つ、前記血液ポンプを当該限外濾過ポンプより遅い速度で駆動させることにより脱血することを特徴とする。
【0013】
請求項4記載の発明は、請求項1〜3の何れか1つに記載の血液浄化装置において、前記監視手段で膜間圧力差又は限外濾過率の変化率が規定値より大きくなったことを検出すると、自動的に前記治療工程が開始されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1の発明によれば、経時的に求められた膜間圧力差又は限外濾過率の変化率を監視するとともに、その膜間圧力差又は限外濾過率の変化率が規定値より大きくなったことを検出し、脱血工程が終了したことを検知するよう構成されているので、脱血の終了を容易且つ正確に検知することができる。
【0015】
請求項2の発明によれば、演算手段は、プライミング液側液圧測定手段で測定される液圧と透析液側液圧測定手段で測定される液圧とに基づき膜間差圧又は限外濾過率を求めるので、既存手法(既存の演算方法等)を用いて限外濾過率測定工程における限外濾過率を求めることができる。
【0016】
請求項3の発明によれば、脱血工程は、当該限外濾過ポンプを一定速度で駆動させて血液浄化手段の透析液流路側を血液流路に対して負圧とし、且つ、血液ポンプを当該限外濾過ポンプより遅い速度で駆動させることにより脱血するので、より確実に、動脈側血液回路の先端及び前記静脈側血液回路の先端の双方から同時に当該血液浄化手段まで患者の血液を導いてプライミング液と置換させることができる。
【0017】
請求項4の発明によれば、監視手段で膜間圧力差又は限外濾過率の変化率が規定値より大きくなったことを検出すると、自動的に治療工程が開始されるので、脱血工程から治療工程までの自動化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら具体的に説明する。
本実施形態に係る血液浄化装置は、透析治療を行うための透析装置から成り、図1に示すように、動脈側血液回路1及び静脈側血液回路2から成る血液回路と、動脈側血液回路1及び静脈側血液回路2の間に介装されて血液回路を流れる血液を浄化するダイアライザ3(血液浄化手段)と、動脈側血液回路1に配設されたしごき型の血液ポンプ4と、静脈側血液回路2の途中に配設された静脈側ドリップチャンバ5と、プライミング液としての生理食塩水を収容した収容手段7と、該収容手段7と動脈側血液回路1とを連結したプライミング液供給ラインLcと、第1センサP1(プライミング液側液圧測定手段)及び第2センサP2(透析液側液圧測定手段)と、演算手段9と、監視手段10とから主に構成されている。
【0019】
動脈側血液回路1には、その先端にコネクタcを介して動脈側穿刺針aが接続される一方、静脈側血液回路2には、その先端にコネクタdを介して静脈側穿刺針bが接続されるとともに、途中に静脈側ドリップチャンバ5が接続されている。そして、動脈側穿刺針a及び静脈側穿刺針bを患者に穿刺した状態で、血液ポンプ4を駆動させると、患者の血液は、動脈側血液回路1を通ってダイアライザ3に至った後、該ダイアライザ3によって血液浄化が施され、静脈側ドリップチャンバ5で除泡がなされつつ静脈側血液回路2を通って患者の体内に戻る。即ち、患者の血液を血液回路の動脈側血液回路1の先端から静脈側血液回路2の先端まで体外循環させつつダイアライザ3にて浄化するのである。
【0020】
ダイアライザ3は、その筐体部に、血液導入口3a(血液導入ポート)、血液導出口3b(血液導出ポート)、透析液導入口3c(透析液導入ポート)及び透析液導出口3d(透析液導出ポート)が形成されており、このうち血液導入口3aには動脈側血液回路1が、血液導出口3bには静脈側血液回路2がそれぞれ接続されている。また、透析液導入口3c及び透析液導出口3dは、透析装置本体から延設された透析液導入ラインLa及び透析液排出ラインLbとそれぞれ接続されている。
【0021】
ダイアライザ3内には、複数の中空糸(不図示)が収容されており、この中空糸が血液を浄化するための血液浄化膜を構成している。而して、ダイアライザ3内には、血液浄化膜を介して患者の血液が流れる血液流路及び透析液が流れる透析液流路が形成されている。そして、血液浄化膜を構成する中空糸には、その外周面と内周面とを貫通した微小な孔(ポア)が多数形成されて中空糸膜を形成しており、該膜を介して血液中の老廃物等が透析液内に透過し得るよう構成されている。
【0022】
複式ポンプ6(往復動ポンプ)は、透析装置本体内で透析液導入ラインLa及び透析液排出ラインLbに跨って配設されているとともに、当該透析装置本体には、ダイアライザ3中を流れる患者の血液から水分を除去するための除水ポンプ8が配設されている。かかる除水ポンプ8は、透析液排出ラインLbにおいて複式ポンプ6を迂回する如く形成された除水ラインLdの途中に形成されたものである。この除水ポンプ8を駆動させることにより、複式ポンプ6が定量型(導入する透析液と排出する透析液の量とが略同等)であるため、透析液導入ラインLaから導入される透析液量よりも透析液排出ラインLbから排出される液体の容量が多くなり、その多い容量分だけ血液中から水分が除去(除水)されるのである。
【0023】
また、除水ポンプ8は、透析液排出ラインLbの途中に配設された限外濾過ポンプとして機能するよう構成されており、後述する脱血工程時に駆動して、プライミング液充填工程で充填された生理食塩水(プライミング液)を血液流路から透析液流路まで血液浄化膜を介して正濾過(血液流路側から透析液流路側方向への濾過)させ、透析液排出ラインLbを通過させつつ外部へ排出し得るよう構成されている。
【0024】
更に、透析液導入ラインLaの一端がダイアライザ3(透析液導入口3c)に接続されるとともに、他端が所定濃度の透析液を調製する透析液供給装置(不図示)に接続されている。また、透析液排出ラインLbの一端は、ダイアライザ3(透析液導出口3d)に接続されるとともに、他端が排液手段(不図示)と接続されており、透析液供給装置から供給された透析液が透析液導入ラインLaを通ってダイアライザ3に至った後、透析液排出ラインLbを通って排液手段に送られるようになっている。
【0025】
収容手段7(所謂「生食バッグ」と称されるもの)は、可撓性の透明な容器から成り、生理食塩水(プライミング液)を所定容量収容し得るもので、例えば透析装置本体に突設されたポール(不図示)の先端に取り付けられている。プライミング液供給ラインLcは、動脈側血液回路1における動脈側穿刺針aと血液ポンプ4との間の部位(連結部P)に接続され、収容手段7内の生理食塩水(プライミング液)を血液回路内に供給し得るものである。尚、プライミング液供給ラインLcには、その流路を任意に開閉可能な電磁弁V1が形成されている。
【0026】
第1センサP1(プライミング液側液圧測定手段)は、静脈側血液回路2の途中に配設された静脈側ドリップチャンバ5内の液圧を測定するためのもので、例えば静脈側ドリップチャンバ5の空気層から延設されたチューブの先端に形成され、当該静脈側ドリップチャンバ5内の圧力を測定することにより静脈側血液回路2内の圧力(気圧及び液圧)を測定可能なものである。かかる第1センサP1により、治療時における静脈側血液回路2内を流れる血液の圧力(液圧)を測定することができる。
【0027】
第2センサP2(透析液側液圧測定手段)は、透析液排出ラインLbの途中に配設されて液圧を測定するためのもので、例えば透析液排出ラインLbから延びるチューブの先端に形成され、その部位の液圧を測定し得るものである。かかる第2センサP2により、治療時における透析液排出ラインLbを流れる透析液の圧力を測定することができる。これら第1センサP1及び第2センサP2は、例えば透析装置本体に配設された演算手段9と電気的に接続されており、かかる演算9と監視手段10とが電気的に接続されている。
【0028】
上記の如き透析装置(血液浄化装置)は、透析治療前において、図2に示すように、コネクタc、dを連結させて閉回路を構成するとともに、プライミング液供給ラインLcにて血液回路(動脈側血液回路1及び静脈側血液回路2)内に生理食塩水(プライミング液)を供給して当該血液回路内で充填させるプライミング液充填工程が行われるよう構成されている。然るに、プライミング液充填工程で上記の如く血液回路内に生理食塩水(プライミング液)を満たすことにより、ダイアライザ3内の血液流路(中空糸膜内の流路)にもその生理食塩水(プライミング液)が充填されることとなる。
【0029】
上記の如きプライミング液充填工程後、図3に示すように、コネクタc、dの連結を解き、これらコネクタc、dに動脈側穿刺針a、静脈側穿刺針bをそれぞれ取り付け、当該動脈側穿刺針a及び静脈側穿刺針bを患者のシャントに穿刺しつつ血液ポンプ4及び限外濾過ポンプとしての除水ポンプ8を駆動させることにより、生理食塩水(プライミング液)と血液とが順次置換され、脱血工程が行われることとなる。
【0030】
かかる脱血工程は、当該限外濾過ポンプとしての除水ポンプ8を一定速度で駆動させてダイアライザ3の透析液流路側を血液流路に対して負圧とし、且つ、血液ポンプ4を当該除水ポンプ8(限外濾過ポンプ)より遅い速度で駆動させることにより脱血するよう構成されており、これにより、動脈側血液回路1の先端及び静脈側血液回路2の先端の双方から同時にダイアライザ3まで患者の血液を導いて充填されていたプライミング液と置換させる。
【0031】
即ち、脱血工程は、プライミング液充填工程にて血液回路及びダイアライザ3の血液流路に生理食塩水(プライミング液)が充填された状態で、動脈側血液回路1の先端(動脈側穿刺針a)及び静脈側血液回路2の先端(静脈側穿刺針b)の双方から同時にダイアライザ3まで患者の血液を導いて生理食塩水(プライミング液)と置換させ、置換された液体を当該ダイアライザ3の血液浄化膜を介して透析液流路側に濾過させるのである。
【0032】
生理食塩水(プライミング液)が患者の血液と全て置換されると、脱血工程が終了し、動脈側血液回路1の先端(動脈側穿刺針a)からダイアライザ3(血液流路)を介して静脈側血液回路2の先端(静脈側穿刺針b)まで患者の血液を体外循環しつつダイアライザ3の血液浄化膜による浄化、及び除水ポンプ8の駆動による除水等、透析治療が行われる(治療工程)。
【0033】
ここで、本実施形態に係る透析装置(血液浄化装置)は、第1センサP1及び第2センサP2と電気的に接続された演算手段9と、該演算手段9と電気的に接続された監視手段10とを具備している。演算手段9は、脱血工程の過程で、第1センサP1(プライミング液側液圧測定手段)で測定される液圧と第2センサP2(透析液側液圧測定手段)で測定される液圧とに基づきダイアライザ3における血液浄化膜の限外濾過率(UFR)又は膜間圧力差(TMP)を経時的(リアルタイム)に求めるためのものである。
【0034】
具体的には、限外濾過率(UFR)と膜間圧力差(TMP)とは、限外濾過率(UFR)=除水速度/膜間圧力差(TMP)、なる関係式(但し、除水速度は除水ポンプ8の駆動による流速)が成り立つため、除水速度が同じ場合、膜間圧力差(TMP)が高ければ限外濾過率(UFR)は低くなり、反対に膜間圧力差(TMP)が低ければ限外濾過率(UFR)は高くなる傾向となる。
【0035】
尚、第1センサP1で液圧が測定される部位と第2センサP2で液圧が測定される部位との間のヘッド差で生じるヘッド差圧(α)を求めるとともに、当該第1センサP1による測定値(PBout)と第2センサP2による測定値(PDout)とを減算して求められた値から当該ヘッド差圧αを減算する((PBout−PDout)−α)ことにより膜間差圧(TMP)を求め、或いはその膜間差圧(TMP)から限外濾過率(UFR)を求めるよう構成するのが好ましい。
【0036】
かかるヘッド差圧(α)を求めるには、プライミング液充填工程にてダイアライザ3の血液流路に生理食塩水(プライミング液)が充填されるとともに当該ダイアライザ3の透析液流路に透析液が充填された状態で、当該ダイアライザ3の血液浄化膜の膜間差圧(TMP)又はそこから限外濾過率(UFR)を求めるのが好ましい。
【0037】
監視手段10は、演算手段9にて経時的に求められた膜間圧力差又は限外濾過率の変化率(例えば単位時間あたりの変化量)を監視するとともに、その膜間圧力差又は限外濾過率の変化率が規定値より大きくなったことを検出し、脱血工程が終了したことを検知するためのものである。即ち、ダイアライザ3の血液浄化膜は、ある大きさよりも小さい物質は通過させるものの大きい物質は通過させない半透膜で構成されているため、脱血工程が進行するに連れ、ダイアライザ3の血液流路側が生理食塩水(電解質水溶液等から成るプライミング液)から血液に置換されると、血液中の血球及び血漿成分が血液浄化膜を通過できず水分子の膜透過(濾過)を阻害することとなる。
【0038】
これにより、脱血工程が終了してダイアライザ3の血液流路側が血液に置換された状態となると、当該血液流路側が生理食塩水(プライミング液)で充填された状態と比べ、膜間圧力差(TMP)が急激に高くなり、そこから導き出される限外濾過率(UFR)は急激に低くなる。この急激な変化(単位時間あたりの変化量が規定値より大きくなったこと)を監視手段10が検出することにより、脱血工程が終了したことを検知することができるのである。
【0039】
以下、本実施形態に係る透析装置の作用について説明する。
まず、図2に示すように、ダイアライザ3の血液導入口3a及び血液導出口3bに対し動脈側血液回路1及び静脈側血液回路2の基端をそれぞれ接続させるとともに、透析液導入口3c及び透析液導出口3dに対し透析液導入ラインLa及び透析液排出ラインLbをそれぞれ接続させ、且つ、コネクタcとコネクタdとを接続して互いの流路を連通させた状態とする。
【0040】
一方、プライミング液供給ラインLcの先端を動脈側血液回路1の連結部Pに接続するとともに、その途中の電磁弁V1を開状態とする。これにより、収容手段7内の生理食塩水(プライミング液)は、その自重によりプライミング液供給ラインLcを通って血液回路(静脈側ドリップチャンバ5内含む)、及びダイアライザ3の血液流路内に至り満たされることとなる(プライミング液充填工程)。尚、このとき血液ポンプ4は停止状態となっている。
【0041】
上記の如く血液回路(静脈側ドリップチャンバ5内含む)及びダイアライザ3の血液流路内で生理食塩水(プライミング液)が充填された状態で、複式ポンプ6を駆動して透析液導入ラインLaから透析液をダイアライザ3内の透析液流路に供給し、透析液排出ラインLbから排出させる(所謂ガスパージ工程を行う)。そして、複式ポンプ6を停止し、ダイアライザ3における透析液流路側と血液流路側との圧力が安定した後(圧力が安定する一定時間経過後)、第1センサP1及び第2センサP2によりそれぞれの液圧を測定する。
【0042】
このとき、複式ポンプ6及び血液ポンプ4が停止しており、且つ、動脈側血液回路1先端と静脈側血液回路2先端とが連結されているので、透析液流路側及び血液流路側は密閉系を構成することとなっている。尚、動脈側血液回路1先端と静脈側血液回路2先端とが連結されておらず開放された状態であっても、両者の圧力バランスが取れた状態とすれば足りる。
【0043】
而して、演算手段9は、第1センサP1の測定値(PBout)及び第2センサP2の測定値(PDout)から、所定の演算式を用いてヘッド差圧(α)を求める。即ち、α=PBout−PDout なる演算式を演算手段9にて実行すれば、第1センサP1(プライミング液側液圧測定手段)が液圧を測定する部位と第2センサP2(透析液側液圧測定手段)が液圧を測定する部位との間のヘッド差(高低差)で生じるヘッド差圧(α)を求めることができるのである。
【0044】
その後、図3で示すように、コネクタc、dの連結を解き、これらコネクタc、dに動脈側穿刺針a、静脈側穿刺針bをそれぞれ取り付け、当該動脈側穿刺針a及び静脈側穿刺針bを患者に穿刺して脱血工程に移行する。かかる脱血工程においては、限外濾過ポンプとしての除水ポンプ8を駆動させて除水ラインLdにおいて透析液を一定速度v(限外濾過速度)で流動させるとともに、血液ポンプ4を駆動させる。但し、血液ポンプ4を当該限外濾過ポンプとしての除水ポンプ8より遅い速度で駆動させる。
【0045】
而して、プライミング液充填工程にて血液回路及びダイアライザ3の血液流路に生理食塩水(プライミング液)が充填された状態で、動脈側血液回路1の先端(動脈側穿刺針a)及び静脈側血液回路の先端(静脈側穿刺針)の双方から同時に当該ダイアライザ3まで患者の血液を導いて生理食塩水(プライミング液)と置換させとともに、除水ポンプ8による駆動に伴ってダイアライザ3の透析液流路側が負圧とされることにより、血液流路側の生理食塩水(プライミング液)が血液浄化膜を介して透析液流路側に一定速度vで正濾過(血液流路側から透析液流路側方向への濾過)されることとなる。
【0046】
これにより、ダイアライザ3の血液浄化膜を介して血液流路と透析液流路との間で生理食塩水(プライミング液)を濾過させることができるので、第1センサP1及び第2センサP2によりそれぞれの液圧を測定し、それら測定値(第1センサP1の測定値PBout及び第2センサP2の測定値PDout)から所定の演算式を用いて演算手段9にて膜間差圧(TMP)を求めることができる。かかる所定の演算式は、「TMP=PBout−PDout−α」とされる。
【0047】
即ち、本実施形態の如く限外濾過ポンプとしての除水ポンプ8を一定速度で駆動させてダイアライザ3の透析液流路側を血液流路に対して負圧とし、且つ、血液ポンプ4を当該除水ポンプ8(限外濾過ポンプ)より遅い速度で駆動させることにより脱血することにより、第1センサP1で測定される液圧と第2センサP2で測定される液圧とに基づき膜間差圧(TMP)が経時的(リアルタイム)に求められるのである。そして、演算手段9は、この求められた膜間差圧(TMP)に基づき、所定の演算式を用いてダイアライザ3における血液浄化膜の限外濾過率(UFR)を経時的に求める。かかる所定の演算式は、「生食UFR=v÷TMP」とされる。
【0048】
この経時的に求められた膜間差圧(TMP)又は限外濾過率(UFR)は、監視手段10により監視される。即ち、監視手段10は、演算手段9にて経時的に求められた膜間差圧(TMP)又は限外濾過率(UFR)の変化率(単位時間あたりの変化量)を監視するとともに、その膜間差圧(TMP)又は限外濾過率(UFR)の変化率が規定値(予め実験等により求められた値)より大きくなったことを検出し、脱血工程が終了したことを検知するのである。
【0049】
このように、監視手段10で膜間差圧(TMP)又は限外濾過率(UFR)の変化率が規定値より大きくなったことを検出し、脱血工程が終了したことを検知すると、自動的に透析治療(治療工程)が開始されるよう構成されている。これにより、脱血工程から治療工程までの自動化を図ることができる。尚、監視手段10で膜間差圧(TMP)又は限外濾過率(UFR)の変化率が規定値より大きくなったことを検出したとき、自動的に治療工程に移行せず、例えば画面等にその旨表示させたり或いは音声等による出力で脱血工程が終了したことを報知するよう構成してもよい。
【0050】
上記実施形態に係る血液浄化装置によれば、経時的に求められた膜間圧力差(TMP)又は限外濾過率(UFR)の変化率を監視するとともに、その膜間圧力差(TMP)又は限外濾過率(UFR)の変化率が規定値より大きくなったことを検出し、脱血工程が終了したことを検知するよう構成されているので、脱血の終了を容易且つ正確に検知することができる。尚、演算手段9にて限外濾過率(UFR)を求めず専ら膜間圧力差(TMP)のみを求めるとともに、監視手段10にてその膜間圧力差(TMP)の変化率を監視して脱血工程が終了したことを検知するものとしてもよい。
【0051】
また、演算手段9は、第1センサP1(プライミング液側液圧測定手段)で測定される液圧と第2センサP2(透析液側液圧測定手段)で測定される液圧とに基づき膜間差圧(TMP)又は限外濾過率(UFR)を求めるので、既存手法(既存の演算方法等)を用いて演算手段9において限外濾過率を求めることができる。
【0052】
更に、脱血工程は、限外濾過ポンプとしての除水ポンプ8を一定速度で駆動させてダイアライザ3の透析液流路側を血液流路に対して負圧とし、且つ、血液ポンプ4を当該限外濾過ポンプより遅い速度で駆動させることにより脱血するので、より確実に、動脈側血液回路1の先端(動脈側穿刺針a)及び静脈側血液回路2の先端(静脈側穿刺針b)の双方から同時に当該ダイアライザ3まで患者の血液を導いてプライミング液と置換させることができる。
【0053】
次に、本願発明の実施例について説明する。
膜面積1.5mのIV型ダイアライザを使用し、生理食塩水にてプライミング後、動脈側血液回路先端及び静脈側血液回路先端に穿刺針を取り付け、牛血(1L)のタンクに接続し、自動脱血の確認を行った。尚、牛血のヘマトクリット(Ht)は、28%、41%、45%とした。
【0054】
脱血に伴う、膜間圧力差(TMP)の経時的変化は図5に示すグラフの通りであった。全ての例(ヘマトクリットが28、41、45%のもの全て)において、膜間圧力差(TMP)が上昇する時点(同グラフ中2点鎖線で示した時点)で肉眼的に脱血は完了した。ここで、UFR=V/TMP(Vは限外濾過速度)なので膜間圧力差(TMP)を使用して脱血の完了を検知する方法を図6(膜間圧力差(TMP)の上昇と脱血完了)を用いて説明する。
【0055】
限外濾過速度Vにて限外濾過を開始し、時間とTMPの値を連続的にモニタリングするとともに、一定時間ごとに時間とTMPの関係を直線近似する。かかる直線近似式は Y=aX+bで表されるが、経時的にY=cX+d、Y=eX+f、…と逐次変化していくこととなる。このとき、a、c、eは近似直線の傾きであり、膜間圧力差(TMP)がどれだけ急激に上昇しつつあるかを示している。
【0056】
脱血が専ら生理食塩水(プライミング液)を限外濾過している段階(Y=aX+b)をベースに、Y=cX+d、Y=eX+fに示す近似直線傾き比c/a、e/aを算出し、規定値に達したところ(同図中2点鎖線で示した時点)で脱血完了と判断する。別な方法として、直線近似式のY切片は、図6(TMPの上昇と脱血完了)で示す通り、b>d>fとなる。初期にたてた直線近似式のY切片bを基準として、Y切片の大きさが予め決めた既定値に達したところで脱血完了と判断することも可能である。尚、ヘマトクリットによってTMPの上昇曲線が異なるので、あらかじめ患者ごとに個々のヘマトクリット値を入力しておけばより確実に脱血の完了が判断できる。
【0057】
また、さらに別な方法として、直線近似式Y=aX+bからは、相関係数Rが算出される。脱血開始から現時点まで直線近似式を延長すれば、TMPが上昇し始める時点から相関係数Rが減少する。R減少幅を規定値として記憶しておけば規定値に達したところで脱血完了を判断可能である。当該相関係数はR×R(Rの2乗)を使用してもよい。このように、近似式または近似式に対する相関係数を使用して脱血完了を判断することが可能とされる。
【0058】
以上、本実施形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、例えば第1センサP1から成るプライミング液側液圧測定手段は、血液回路の何れかの部位におけるプライミング液の液圧を測定するものであれば他の位置に配設されたものであってもよく、或いは第2センサP2から成る透析液側液圧測定手段は、透析液導入ラインLa又は透析液排出ラインLbの何れかの部位における透析液の液圧を測定するものであれば他の位置に配設されたものであってもよい。
【0059】
また、第1センサP1(プライミング液側液圧測定手段)が液圧を測定する部位と第2センサP2(透析液側液圧測定手段)が液圧を測定する部位との間のヘッド差(高低差)で生じるヘッド差圧が極めて微小である場合、ヘッド差圧による誤差が小さいと判断し、当該ヘッド差圧を求めないよう構成してもよい。
【0060】
尚、本実施形態においては、除水ポンプ4を限外濾過ポンプとして機能させているが、透析液排出ラインLbの途中において別個限外濾過ポンプを設けるよう構成してもよい。また、透析治療時に用いられる透析装置に適用しているが、患者の血液を体外循環させつつ浄化し得る他の装置(例えば血液濾過透析法、血液濾過法、AFBFで使用される血液浄化装置、血漿吸着装置など)に適用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0061】
脱血工程の過程で、血液浄化手段における血液浄化膜の限外濾過率又は膜間圧力差を経時的に求める演算手段と、該演算手段にて経時的に求められた膜間圧力差又は限外濾過率の変化率を監視するとともに、その膜間圧力差又は限外濾過率の変化率が規定値より大きくなったことを検出し、脱血工程が終了したことを検知する監視手段とを具備した血液浄化装置であれば、他の形態及び用途のものにも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の実施形態に係る透析装置(血液浄化装置)を示す模式図
【図2】同透析装置におけるプライミング液充填工程時の状態を示す模式図
【図3】同透析装置における脱血工程時の状態を示す模式図
【図4】同透析装置における治療工程時の状態を示す模式図
【図5】実施例におけるTMPの経時的変化を示すグラフ
【図6】実施例におけるTMPの上昇と脱血完了との関係を示すグラフ
【符号の説明】
【0063】
1 動脈側血液回路
2 静脈側血液回路
3 ダイアライザ(血液浄化手段)
4 血液ポンプ
5 静脈側ドリップチャンバ
6 複式ポンプ
7 収容手段
8 除水ポンプ(限外濾過ポンプ)
9 演算手段
10 監視手段
P1 第1センサ(プライミング液側液圧測定手段)
P2 第2センサ(透析液側液圧測定手段)
La 透析液導入ライン
Lb 透析液排出ライン
Lc プライミング液供給ライン
Ld 除水ライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動脈側血液回路及び静脈側血液回路から成るとともに、当該動脈側血液回路の先端から静脈側血液回路の先端まで患者の血液を体外循環させ得る血液回路と、
該血液回路の動脈側血液回路及び静脈側血液回路の間に介装されて当該血液回路を流れる血液を浄化するとともに、血液を浄化するための血液浄化膜を介して患者の血液が流れる血液流路及び透析液が流れる透析液流路が形成された血液浄化手段と、
前記動脈側血液回路に配設された血液ポンプと、
該血液浄化手段の透析液流路入口及び出口に接続された透析液導入ライン及び透析液排出ラインと、
を具備した血液浄化装置において、
治療前のプライミングにおいて前記血液回路及び前記血液浄化手段の血液流路内にプライミング液を供給して当該血液回路及び血液流路内で充填させるプライミング液充填工程と、
該プライミング液充填工程にて前記血液回路及び前記血液浄化手段の血液流路にプライミング液が充填された状態で、前記動脈側血液回路の先端及び前記静脈側血液回路の先端の双方から同時に当該血液浄化手段まで患者の血液を導いてプライミング液と置換させ、置換された液体を当該血液浄化手段の血液浄化膜を介して前記透析液流路側に濾過させる脱血工程と、
該脱血工程後、前記動脈側血液回路の先端から前記血液浄化手段を介して前記静脈側血液回路の先端まで患者の血液を体外循環しつつ浄化する治療工程と、
が行われるとともに、
前記脱血工程の過程で、前記血液浄化手段における血液浄化膜の限外濾過率又は膜間圧力差を経時的に求める演算手段と、
該演算手段にて経時的に求められた膜間圧力差又は限外濾過率の変化率を監視するとともに、その膜間圧力差又は限外濾過率の変化率が規定値より大きくなったことを検出し、前記脱血工程が終了したことを検知する監視手段と、
を具備したことを特徴とする血液浄化装置。
【請求項2】
前記血液回路の何れかの部位における液圧を測定するプライミング液側液圧測定手段と、
前記透析液導入ライン又は透析液排出ラインの何れかの部位における液圧を測定する透析液側液圧測定手段と、
を具備するとともに、前記演算手段は、当該プライミング液側液圧測定手段で測定される液圧と透析液側液圧測定手段で測定される液圧とに基づき前記膜間差圧又は限外濾過率を求めるものであることを特徴とする請求項1記載の血液浄化装置。
【請求項3】
前記透析液排出ラインの途中に限外濾過ポンプを具備するとともに、前記脱血工程は、当該限外濾過ポンプを一定速度で駆動させて前記血液浄化手段の透析液流路側を血液流路に対して負圧とし、且つ、前記血液ポンプを当該限外濾過ポンプより遅い速度で駆動させることにより脱血することを特徴とする請求項1又は請求項2記載の血液浄化装置。
【請求項4】
前記監視手段で膜間圧力差又は限外濾過率の変化率が規定値より大きくなったことを検出すると、自動的に前記治療工程が開始されることを特徴とする請求項1〜3の何れか1つに記載の血液浄化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−4905(P2010−4905A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−163979(P2008−163979)
【出願日】平成20年6月24日(2008.6.24)
【出願人】(000226242)日機装株式会社 (383)
【Fターム(参考)】