説明

血液透析装置

【課題】血液浄化に際し、できるだけ血液側から透析液側への物質の移動が起こらず、アルブミンのような有用なたんぱく質の漏出の少ない血液透析装置を提供すること。
【解決手段】ダイアライザに、血液ポンプを有する動脈側血液回路及び静脈側血液回路からなる血液系と、透析液供給ライン及び透析液排出ラインからなる透析液系を接続した血液透析装置であって、入力部から入力された透析液流量に基づいて、透析開始直後または逆濾過透析液による大量補液直後若しくは急速補液直後の所定時間における透析液流量を調整して、透析開始直後または逆濾過透析液による大量補液直後若しくは急速補液直後におけるアルブミンの漏出を抑制するアルブミン漏出抑制手段を備えた血液透析装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腎不全患者の腎臓を代替する治療手段として、体外循環を応用して血液浄化を行う血液透析装置に関し、特に、透析時に生体に有用な物質の漏出を抑制することが可能な血液透析装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
腎不全患者の治療のために、患者の体内から取出した血液を浄化して再び体内に戻すための方法として、種々の血液浄化方式が知られているが、代表的なものとして、中空糸膜を用いて拡散の原理を利用して行う血液透析(HD)及びこの拡散と限外濾過の原理を利用して行う血液透析濾過(HDF)がある。
【0003】
これらHD及びHDFにおいては、透析器部分における透析液側の透析器への入口圧と出口圧の圧力勾配と、患者血液の透析器の入口圧と出口圧の圧力勾配における圧力差による内部濾過(透析液が中空糸外側から内側の血液流路側へ移動する濾過現象)が生じており、この内部濾過量をより多くすること(促進)することで、例えば、血液透析方式であっても血液透析濾過(HDF)に近い溶質除去効果を狙うことが試みられている。
【0004】
図4は実際の内部濾過型のダイアライザにおける圧力勾配によって起こる濾過現象を説明するためのもので、図4の横軸はダイアライザ距離を表したもので、Aが動脈側、Vが静脈側であり、縦軸は圧力を示している。血液流と透析液流の向きは反対となっており、透析液はダイアライザの静脈側の入口から導入され、動脈側の出口より排出される。従って、ダイアライザの動脈側から入る血液圧(実線)は高く、順次静脈側に向って低下するが、反対に透析液圧(破線)は静脈側が高く動脈側に向って順次低下していくことから、ダイアライザの動脈側から中間にかけては血液圧が透析液圧を上回ることから、血液側から透析液側への溶質(小分子の)及び溶媒の移動(濾過)が生じ、また、中間から静脈側にかけては逆に透析液圧が血液圧を上回ることから、透析液側から血液側への透析液の移動(内部濾過)が生じる。
【0005】
近年、上述した内部濾過型血液透析方式や血液透析濾過方式においては、透析開始初期に生体にとって有用なタンパク質(アルブミンが代表例)の漏出が増大するといった現象が発生することと、積極的な内部濾過の促進による中空糸膜の劣化(ファウリングに起因する)に伴う性能低下(除去物質の除去率の低下)が懸念されてきた。従来においても、透析開始初期のアルブミンの漏出は極力抑えることが推奨されており、実際の血液透析濾過(HDF)では、アルブミン漏出を4g以下に抑えることが目安とされている。従来のアルブミン漏出の抑制手段としては、例えば、特許文献1に示すようにダイアライザの透析膜設計によってアルブミンの漏出を抑制するという方法が提案されていた。
【特許文献1】特開平09−285536号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記した従来のアルブミン抑制方法では、治療条件(除水流量、除水速度)、患者側因子(ヘマクリット値、総タンパク量など)の影響で、アルブミン漏出量がバラツクという理由で効果的にアルブミンを抑制することは難しく、実際の透析治療に適用するには多くの問題が残っていた。しかも、単純にアルブミンの漏出を抑制すると、図3からも分かるように、除去物質の代表であるα1−ミクログロブリン(α1−MG)といった物質の除去率も同時に低下してしまうなどの影響もでるので、この点からもアルブミンの抑制には解決すべき問題があった。図3は、通常の透析液流量及び除水流量のもとで血液循環を行った場合におけるアルブミンとα1MGの除去率と経過時間の関係を示すが、比較的初期の段階ではアルブミンとα1MGとは同様の動向を示している。
【0007】
本発明は、血液浄化に際し、できるだけ血液側から透析液側への有用物質の移動が起こらず、アルブミンのような有用なタンパク質の漏出の少ない治療モードが可能な血液透析装置を提供することを目的とする。また、本発明は、除去物質のα1−MG除去能もある程度発揮でき、かつ、除水機構及び血液ポンプとの合理的な連動も可能な血液透析装置を他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を達成するための本発明に係る血液透析装置は、ダイアライザに、血液ポンプを有する動脈側血液回路及び静脈側血液回路からなる血液系と、透析液供給ライン及び透析液排出ラインからなる透析液系を、それぞれ接続する血液透析装置であって、透析開始後の透析液流量又は透析液流量と除水流量の両流量を制御するための機構(アルブミン漏出抑制手段)を前記透析液系に設け、特に血液循環の初期段階における物質の漏出を抑制することを特徴とする。また、本発明に係る血液透析装置は、血液系と透析液系の両系からなる実働部の動作条件を入力する入力部と、前記入力部からの入力値と前記実働部に設けた計測手段からの計測値の少なくとも一方を表示する表示部と、前記入力値または前記計測値に基づいて前記実働部の動作を制御する制御部と、前記入力値と計測値の少なくとも一方を記憶する記憶部を備え、この透析装置においては、特に、前記透析液供給ライン及び透析液排出ラインの少なくとも一方に除水/補液機構を配置した構成とすることが好ましい。
【0009】
前記透析液流量を制御するための機構は、(1)透析液系に設けた流量調整弁にて流量を調整するか、(2)複数の電磁弁ラインを並列に設けてその電磁弁ラインの開く数を調整するか、(3)透析液系にバイパス回路を設けて透析液の流入を停止するか、(4)透析液系に設けた透析液循環ポンプ能力を制御して透析液流量を可変にするか、(5)透析液供給ラインと透析液排出ラインに設けた送液手段の送液速度を調整するか、のいずれかにより構成している。これらの機構はそれぞれ透析条件、操業形態、コストなどの各種条件を考慮して、最適なものを選択すればよい。
【0010】
また、透析開始後の透析液流量を、予め設定したプログラムに基づいて経時的に流量を調整したり、もしくは流入を停止させること、もしくは、透析開始後の少なくとも1〜60分間は透析液流量及び/又は除水流量を0又は低位とすることが好ましい。具体的には、透析液流量としては0〜200mL/min、除水流量としては0〜5mL/minにするのが望ましい。
【0011】
更に、上記の血液透析装置においては、透析液の流量制御は、装置の操作パネルにおいて任意に設定し、除水/補液機構の除水プログラムに連動して行うようにしたこと、補液機構による逆濾過急速補液の終了時に合わせて実施すること、装置の操作パネルにおいて任意に設定した、透析液流量制御プログラムと除水プログラムに合わせて血液流量を経時的に調整することが好ましい。このように補液機構による逆濾過急速補液の実施と、透析液流量、除水流量をコントロールすることで、アルブミンの漏出を抑制し、β2MG、α1MG等の除去能を最大限に発揮することが可能となる。
【0012】
更にまた、ダイアライザとして、血液系及び透析液系の圧力勾配を利用した内部濾過型のダイアライザを使用することを特徴とし、この内部濾過型ダイアライザの使用において、ECUM(透析液流量=0mL/min)状態とHD状態を繰り返すことにより、除水/補液を繰り返す血液透析濾過(Tidal HDF:特開2005−649号公報参照)を実施すること、ヘマクリットの測定結果の入力により予め設定されたデータにより、透析液流量を決定すること、ヘマクリット測定装置におけるヘマクリット値に連動して透析液流量を変更すること、透析液流量をコントロールすることによって透析液の使用量の適正化(内部濾過型ダイアライザにおける透析液流量の適正化)による透析液使用量の削減、節約を可能とすること、が上述した本発明に係る血液透析装置において実現される。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る血液透析装置によれば、血液側から透析液側への有用物質の移動が効果的に抑制され、有用なアルブミンのようなタンパク質の漏出を防止できる。
また、本発明は、除去物質のβ2MGの除去ある程度達成でき、かつ、除水機構及び血液ポンプとの合理的な連動も可能であり、かつ、設備的にも負担が軽く極めて実用性に富む透析装置とすることができる。
更に、本発明を内部濾過型ダイアライザに適用した場合には、除水/補液を繰り返す血液透析濾過(Tidal HDF)を実施することが可能となること、また、透析液使用量の削減、節約を可能とする利点もある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明を実施するうえで有効な血液透析装置の具体例を示すもので、血液の体外循環により血液浄化を行うダイアライザ(透析器)1の一端の血液導入側には動脈側血液回路2が接続され、他端の血液排出側には静脈側血液回路3が接続されて血液系を構成すると共に、これらの血液回路は患者の動脈側接続部4a及び静脈側接続部4bにそれぞれ連結されている。前記動脈側血液回路2の途中には患者からの脱血を行い、この血液をダイアライザに送るための血液ポンプ5が配置されている。ダイアライザが内部濾過型のタイプの場合には、例えば、本体の有効長の拡大化や内部に充填される中空糸内径の狭小化などによって圧力の増大を図ることが考慮されている。なお、本発明における内部濾過型ダイアライザ、あるいは本明細書中で表記する内部濾過型ダイアライザとは、透析治療中において自然発生的に内部濾過を生じるダイアライザを指している。
【0015】
一方、ダイアライザ1の側面には、透析液供給ライン6及び透析液排出ライン7がそれぞれ接続されて透析液系を構成しており、ダイアライザ内においては多数本の各中空糸の内側に血液を通し、かつ、これらの中空糸の外側に透析液を通すことで、血液と透析液間で中空糸膜を介し拡散と濾過作用によって起こる血液から透析液への溶質の移動により血液中の老廃物の除去を行い、血液浄化が遂行される。効率的な血液浄化のために、通常、透析液供給ライン6及び透析液排出ライン7のダイアライザ1への取付けは、血液回路側の導入口及び排出口と反対方向に取り付け、血液流と透析液流が向流となるようにしている。
【0016】
また、前記透析液供給ライン6及び透析液排出ライン7に、それぞれ第1送液手段(透析液供給側)8及び第2送液手段9(透析液排液側)を設けると共に、必要に応じて透析液排出ラインにおける第2送液手段9の上流側と下流側とを連絡するバイパスライン11を設け、該バイパスライン11に除水/補液のための透析液の量を調整可能とする正逆両方向に送液可能な第3送液手段10が設けられている。図示の例では、正逆両方向に送液可能なバイパスライン11は、透析液排出ライン7にのみ設けた場合を示したが、本発明ではこれに限定することなく、透析液供給ライン6にのみ或いは透析液供給ライン6及び透析液排出ライン7の両方に設けることもできる。上述した各送液手段としては、往復ポンプや回転ポンプなどの公知の手段を用いればよい。
【0017】
上記の各送液手段からなる透析液流量調整機構12とは別に、透析系のダイアライザ寄りには透析液の流量を調整するための透析液流量調整部が配置されており、これらは血液ポンプ5と共に制御部15で適宜コントロールされる。また、本発明に係る血液透析装置は、血液系と透析液系の両系からなる実働部の動作条件を入力する入力部と、前記入力部からの入力値と前記実働部に設けた計測手段からの計測値の少なくとも一方を表示する表示部と、前記入力値または前記計測値に基づいて前記実働部の動作を制御する制御部と、前記入力値と計測値の少なくとも一方を記憶する記憶部を備える。
【0018】
上記した図1に示すような透析設備において、本発明では、例えば、図2に示す制御方式を採用することを特徴とする。すなわち、透析開始後の一定時間帯にわたって透析液流量を制御するための機構を前記透析液系に設け、透析の初期段階における物質漏出(特に、アルブミンの如きタンパク質の漏出)を抑制するものである。
【0019】
制御の一例として、図2に示すごとく、透析開始時から30分間は透析液流量を0mL/minとし、次の30分間を100mL/minとした後、通常流量の500mL/minに戻すプログラムに基づいて、あるいは入力部から入力された透析液流量に基づいて透析液の流量をコントロールする。透析液流量0mL/min時に除水だけを行う状態は、いわゆるECUM(Extra Corporeal Ultrafiltration Method)状態に相当するが、本発明においてはこの透析液流の停止時には、除水流量についても第3送液手段(例えば、除水/補液ポンプ)を停止して0mL/minを維持する。この透析液流量及び除水流量を0mL/minにする時間帯では、ダイアライザ1内では血液流の流動があっても(血液ポンプが作動中)、透析液は滞留状態にあり、実質的な拡散や濾過は行われない。従って、この時間帯ではアルブミンの漏出はほとんど生じないこととなる。
【0020】
これに対し、従来のプログラム除水は、図5に示すように、透析中に予め設定した除水流量の変化パターンに合わせて、経時的に除水流量を変化させていたが、このパターンでは図示の如く、透析初期段階の除水流量が大きいため、アルブミンの漏出が多かった。除水流量が大きいことは、濾過量も必然的に多くなることから、従来では血液循環開始後の初期においてはアルブミンの漏出については全く配慮していなかったと言える。
【0021】
本発明において、このように透析初期段階の透析液流量を極めて低く維持し(例えば、0〜血液流量mL/min範囲内)、必要に応じて流量を停止状態(併せて除水流量を0
mL/minにする場合も含む)にしたのは、上述の如く通常の透析液流量で透析を開始
すると、その初期段階におけるタンパク質(アルブミン)などの有用物質の漏出が抑制できないためである。透析開始から一定の時間帯にわたって透析液流量を低位に維持することで、望ましくは、透析開始直後1〜60分間における透析液流量を0〜200mL/minにすることで、タンパク質(アルブミン)の無駄な漏出が制御しうる。この一定の時間帯としては、透析開始から最大約60分間程度が必要であり、最適な時間帯としては約30分間で、最小限15分前後の時間は必要である。これは通常の透析では開始から約15分間の時間帯が最もアルブミン漏出が大きいとの理由による。
【0022】
なお、図2の流量パターンは、一例を示すもので、本発明はこれに限定されることなく、他の任意の流量パターンを採用することができる。例えば、開始後の15分間を透析液流量を0とし、その後の45分間で段階的に流量を増してゆくパターン、或いは定時間毎にステップ状に順次0から増量していくパターンなどが考えられる。この流量パターンは、設定された全体の透析時間、透析液流量、血液流量、除水流量、患者側の状況(Ht値)などを考慮して適宜決めることが必要である。なお、流量パターンは、流量と当該流量を維持する継続時間の形態で入力部に入力され、前記流量の増減と前記継続時間の変更が可能であることが望ましい。
【0023】
[透析液流量の具体的な制御手段例]
(1)絞り弁(流量調整弁)を使用する例
図6において、透析液供給ライン6に、透析液流量検出器13と流量調整弁、例えばニードル弁14を設け、検出器13からの流量信号を制御部15に入力し、制御部15においては前記流量信号と透析液流量調整機構12からの信号等に基づいて適正な透析液流量を演算し、その指示信号をニードル弁14の操作用モータ(ステッピングモータなど)16に出力し、流量を調整する。このタイプは、細かく流量を調整する場合に有効である。
【0024】
(2)電磁弁を使用して流路を開閉する例
図7において、透析液供給ライン6及び透析液排出ライン7に、それぞれ流路の開閉を行う電磁弁17を設けておき、制御部15からの指示に基づき、前記電磁弁17を閉止し、透析液流量を0にすることができる。必要に応じて流量を0mL/minまたは通常流量(例えば、500mL/min)との切り替えを行えばよい。このタイプは、切替のタイミングを注意すればよいことから、操作が単純であるため、実際の操業には実用性が高い。
【0025】
(3)バイパス回路を設ける例
図8において、透析液供給ライン6及び透析液排出ライン7に、それぞれ流路の開閉を行う電磁弁18を設けると共に、これら電磁弁の反ダイアライザ側の透析液供給ライン6及び透析液排出ライン7を結ぶバイパス路を設け、該バイパス路にも電磁弁19を設けている。2個の電磁弁18を閉止し、別の電磁弁19を開放すれば、透析液はダイアライザ1には到達せず、バイパス路を通って戻ることになる。このタイプは、個人用透析装置のように透析液を調整しながら稼動し、一旦停止すると即座に復帰が難しい装置に適用することが望ましい。
【0026】
(4)透析液循環ポンプを用いる例
透析液流量調整機構12内の第1及び第2送液手段(ポンプP1、P2)の能力を調整するか、透析液排出ライン7の透析液流量調整機構12よりダイアライザ側に設置した循環ポンプ20の能力を調整することで、透析液流量をコントロールする。このタイプは制御時間が短く、プログラム的に透析液流量を可変させる場合に有効である。
【0027】
(5)送液手段の送液速度を調整する例
透析液供給ライン上送液手段P1及び透析液排出ライン上の送液手段P2の送液速度を連動調整することで、透析液流量をコントロールする。このタイプは制御時間が短く、プログラム的に透析液流量を可変させる場合に有効である。
【0028】
なお、上記した各態様例(1)〜(4)において、(1)の透析液流量検出器13とニードル弁14、(2)の電磁弁17、(3)の電磁弁18と電磁弁19、(4)の循環ポンプ20、それぞれが図1の透析液流量調整部に相当するものである。また、当該透析液流量調整部および前記(5)の送液手段P1と送液手段P2は、入力部から入力された透析液流量に基づいて、透析開始直後または逆濾過透析液による大量補液直後若しくは急速補液直後の所定時間における透析液流量を調整して、透析開始直後または逆濾過透析液による大量補液直後若しくは急速補液直後におけるアルブミンの漏出を抑制するので、これらの実働部に設けられた実働手段は、本発明に係る血液透析装置が備えるアルブミン漏出抑制手段に相当する。
【0029】
本発明においては、透析液の流量制御は、実働部の動作条件を入力する入力部である装置の操作パネルにおいて任意に設定し、除水/補液機構の除水プログラムに連動して行うようにすること、補液機構による逆濾過急速補液の終了時に合わせて実施すること、また、装置の操作パネルにおいて任意に設定した、透析液流量制御プログラムと除水/補液プログラムに合わせて血液流量を経時的に調整することも可能である。また、入力部から入力された透析液流量および当該透析液流量と関連付けて入力された除水流量に基づいて、透析液流量と除水流量の双方を調整することも可能である。ここで、関連付けとは、例えば、透析液流量を50%減少させれば、除水流量も50%減少させるような入力形態を言う。
【0030】
図10は、このような除水プログラムと連動させた例を示すもので、透析液流量パターンは図2に示すようなパターンを採用した場合に、除水流量を下方の図のように調整する。例えば、透析開始時の一定時間帯は透析液及び除水ともに0mL/min維持するが、透析液流量が一定量に立ち上がったときには、これより少ない除水流量で立ち上げ、次いで、通常流量で透析液及び除水を継続した後、透析液が通常流量を維持して後半にかけて段階的に除水速度を下げてゆき、最後に透析液流量が0になった時点で一定時間帯僅かな量の除水を行う。この最後の時間帯がECUM状態となる。
【0031】
また、本発明で用いるダイアライザとして、血液系及び透析液系の圧力勾配を利用した内部濾過型のダイアライザを使用する場合には、この内部濾過型ダイアライザの使用に際し、ECUM(透析液流量=0mL/min)状態とHD状態を繰り返すことにより、除水/補液を繰り返す血液透析濾過(Tidal HDF)を実施することが可能となる。このように本発明で内部濾過型ダイアライザを用いることで、実質的にHD設備であっても、効率的な血液透析濾過(Tidal HDF)を実施することができ、その利点は大きい。また、第3送液手段の補液機構がなくとも実施可能である。
【0032】
また、本発明では、血液のヘマクリットの測定結果の入力により予め設定されたデータにより、その都度最適な透析液流量を決定することが可能である。ヘマトクリット測定値により、予め設定する目標ヘマトクリット値との差の大きさによって、透析液流量の増減率を設定しておいて、実際の透析治療においてヘマトクリット値と目標ヘマトクリット、増減率とから流量を調整する。
【0033】
しかも、ヘマクリット測定装置におけるヘマクリット値に連動して透析液流量を適宜変更するにより、常に適正な透析液流量を確保することができる。上記のプロセスと同様であるが、ヘマトクリットの測定間隔を短くし、それに伴って透析液流量の調整頻度も多くなる。
【0034】
加えて、本発明により透析液流量をコントロールすることによって、透析液の使用量の適正化(内部濾過型ダイアライザにおける透析液流量の適正化)による透析液使用量の削減、節約が可能となる。血液透析における血流量と透析液流量は、透析効率を左右するパラメータであるが、単純に速度を早くすればよいというものではなく、ある速度域以上では透析効率の上昇幅も小さくなる。よって、ある速度域以上で、透析液流量を早くすることは無駄となり、適切な流量に設定することが最も効率的であるということになる。
【0035】
以上の如く本発明では、透析開始直後の一定時間帯において透析液流量を停止又は低位に維持することにより物質の移動を抑制しているが、この時間帯に中空糸膜表面にはタンパク層等が形成され、これにより透析液の還流を開始しても、最初から透析液を還流した場合よりもアルブミンの漏出が抑制される。なお、α1MGなどの除去対象物質の除去率の低下に対しては、後述するように逆濾過補液を実施することでダイアライザの膜の目詰まり等を解消し、β2MG、α1MG等の中大分子物質除去性能を回復し、性能を最大限に発揮させることも可能である。
【0036】
透析液の流量制御は、装置の入力部において設定(任意の時間毎の区切りにおける透析液流量を設定することによるもので、複数の任意時間毎の区切りにて設定する。)し、除水/補液機構の除水プログラムに連動して行うことができる。透析開始初期は有用物質であるアルブミンの漏出量が多く、それを抑える為には除水流量を抑えることと、透析液流量を下げて内部濾過を抑えることが有用と考えられ、それぞれ単独で実施しても効果が見込まれるが、同時に実施することでも効果が見込まれる。
【0037】
すなわち、本発明に係る血液透析装置が備えるアルブミン漏出抑制手段としては、前記した流量と当該流量を維持する継続時間の形態等で入力部に入力された透析液流量に基づいて、主として透析開始直後の所定時間における透析液流量を調整する前記したニードル弁14、電磁弁17等の実働手段から構成されてもよいし、入力部から入力された透析液流量および当該透析液流量と関連付けて入力された除水流量に基づいて、主として透析開始直後の所定時間における透析液流量と除水水量の双方を調整する実働手段から構成されてもよい。後者における除水水量の調整については、透析液供給ラインと透析液排出ラインの少なくとも一方に配置された除水/補液機構によって行うのが望ましい。当該除水/補液機構についても実働部における実働手段の一つである。なお、ここで主として透析開始直後の所定時間における透析液流量ないし透析液流量と除水水量の双方を調整する実働手段としているが、当該実働手段、すなわちアルブミン漏出抑制手段が、後述する逆濾過透析液による大量補液直後若しくは急速補液直後においてアルブミン漏出の抑制に寄与することは透析開始直後の局面の場合と同様である。
【0038】
ただし、このように連動して制御することによってアルブミンの漏出を抑えることができるのは透析開始直後の一定時間帯(0〜60分)、もしくは後述する逆濾過急速補液実施後が有効である。それ以外のタイミングにおいては溶質の除去性能に合わせて透析液流量を調整することが望ましく、除水流量は血液の状態によって調整することが望ましい。この場合、計測値であるヘマトクリット値がマーカーとして適当である。
【0039】
逆濾過透析液による大量補液直後または急速補液直後にアルブミンの漏出量が増加するのは、通常は透析治療が進行していくと血液透析器の中空糸のファウリング、膜細孔の目詰まりなどによって物質の除去の程度が低下することとなるが、逆濾過透析液による大量若しくは急速補液を実施すると、透析治療中に自然発生的に生じる内部濾過の速度よりは十分に速い速度での逆濾過を実施するために、血液透析器の中空糸表面に堆積した物質が一旦剥離することによって、β2−MG、α1−MGといった除去物質の除去率が復活するのと併せて、有用物質であるアルブミンの漏出量も増加するためである。
【0040】
なお、ファウリング、膜細孔の目詰まりの進行度合いはTMPの上昇である程度判断することが可能であり、ファウリング、膜細孔の目詰まりの進行度合いによって判断し、逆濾過透析液による大量補液または急速補液を実施することで膜細孔の目詰まりが解消され、β2−MG、α1−MG等の除去率を増加させることが可能となる。しかしながら、これと同時にアルブミンの漏出量も増加することから、本発明に係る血液透析装置においては、透析開始初期と同様に逆濾過透析液による大量補液直後または急速補液直後におけるアルブミンの漏出を抑えるために、大量補液・急速補液の終了タイミングに連動して透析液流量や除水流量を低位にする。例えば、透析開始直後の場合と同様に、逆濾過透析液による大量補液直後若しくは急速補液直後1〜60分間における透析液流量をアルブミン漏出抑制手段によって0〜200mL/minに調整することが望ましい。また、透析液流量と除水流量の双方を調整する場合には、すなわち、透析液流量と関連付けて除水水量を入力部に入力する場合には、同じくアルブミン漏出抑制手段によって除水流量を0〜5mL/minに調整するのが望ましい。
【0041】
急速補液を行う場合は、循環動態の変動をできるだけ抑える目的で静脈側から患者側へ戻る血流量が変化しないようにすることが望ましい。これには補液実施前に例えば血液ポンプ速度が200mL/minであって、急速補液を100mL/minで実施する場合、血液ポンプ速度を100mL/minに低下させると、静脈側から患者へ戻る速度は変化しないこととなり、循環動態の変動も小さくすることができる。さらに、透析効率、特に低分子量物質(尿素など)は拡散による除去が主であり、血流量が増えれば、それに伴って透析液流量を増やすことでクリアランスを向上することが可能であり、これによって最適な透析液流量を設定することが可能となる。血流量が増加した場合は血液ポンプの回転数が高くなる。血液ポンプから回転信号を取り出すことによって、血液ポンプの速度増加を演算し、その増加率に連動して透析液流量を増加させることで可能となる。
【0042】
また、本発明に係る血液透析装置においては、実働部に設けた計測手段からの計測値に基づいて、より具体的には、計測手段によって計測されたヘマトクリット値またはTMP値に基づいて、制御部が実働部に対しヘマトクリット値の操作を行う。
【0043】
ヘマトクリット値と患者血圧には相関関係が認められ、例えば、透析治療後半に比較的良く発生する血圧低下症状の要因の一つとして、循環血液量の低下があり、透析開始前のヘマトクリット値、すなわち血液中の血球の容積が占める割り合いを示す値は余剰水分が含まれている分、低値であるが、血液透析による除水が進むにつれてヘマトクリット値は上昇することとなる。また、それに伴って血管内を循環している血液量自体も減少することとなり、これによって血圧低下症状を発生する場合がある。本発明に係る血液透析装置は、血圧低下症状の要因である循環血液量を回復させるために、患者血圧と相関関係が認められるヘマトクリット値に基づいて、逆濾過透析液による大量補液または急速補液を実施するものである。
【0044】
TMP値(膜間圧力差)の圧力変動にはダイアライザ膜のファウリング、膜細孔の目詰まりによる血液側から透析液側への物質移動に際して発生する圧力上昇の場合と、患者血圧の低下に伴う血液回路側の圧力低下による場合がある。従来の透析治療においてはTMP値の変動を見て、血圧低下症状を事前に防止するために急速補液を実施するなどの方法が取られており、TMP値の上昇時は除水速度を下げるなどの調整が行われていた。本発明に係る血液透析装置においてはTMP値が上昇した場合には、逆濾過透析液による大量補液または急速補液を実施することによって積極的に中空糸膜のファウリング、膜細孔の目詰まりをWash Outして、α1−MGやβ2−MGの除去率を復活させるものである。
【実施例】
【0045】
以下、本発明の望ましい実施態様を挙げる。
血液透析装置における透析液流量調整機構は、透析液送液機構として密閉系を有する一般的な性能を具備した上で、例えば透析器へ透析液を供給する透析液供給ラインと透析器から透析液を排出する透析液排出ラインにそれぞれ電磁弁が設けられ、透析液流量調整機構において例えば透析液排出ラインの透析液排出ポンプの上流側と下流側の間に両者を連結するバイパスラインを設け、このバイパス回路に送液手段として下流側から上流側又は上流側から下流側の両方向に送液可能なポンプ(除水/補液ポンプ)を装備する。
血液回路は動脈側血液回路と静脈側血液回路から構成され、動脈側血液回路は動脈側穿刺針との接続部、血液ポンプセグメント、ヘパリン注入セグメント、動脈チャンバー及び透析器との接続部を有する。
静脈側血液回路は透析器との接続部、静脈チャンバー、静脈圧モニターライン、静脈側穿刺針との接続部を有する。
【0046】
本血液透析装置では、透析液の循環状態、血液側からの除水流量及び血液側の循環状態を相互に連動させて制御を行うことが重要であるため、各構成要素を伝達手段により連絡し、連動制御ができるように構成させることが望ましい。更に、透析液流量を制御(停止)するための透析液供給ラインと透析液排出ラインに接続された電磁弁についても伝達手段により連絡し、連動制御を行うことが望ましい。血液透析開始に先立って、血液透析装置の操作パネル上において除水プログラム及び透析液流量プログラム(及び必要であれば血液流量プログラム)を設定する。設定は時間区分ごとの各流速を設定する方法で、画面上に表示されたグラフ状の図を変更することで実施するか、表形式で表された時間区分と各流速の数値を変更することで実施してもよい。また、各時間区分は初期設定では透析液流量プログラムの時間区分タイミングと、除水プログラムの時間区分タイミング、血液流量プログラムの時間区分タイミングは一致させておき、連動動作の設定を容易としておくことが望ましい。
【0047】
血液透析治療開始直後は、除水プログラムと透析液流量プログラムによって最初の15分間を除水流量、透析液流量共に0mL/minとして治療を実施し、15分後に透析液の還流を開始する。この場合の機器構成では透析液を止めるか、流すかの設定となるだけであるため、15分後には調整されている透析液流量(例えば500mL/min)にて還流を開始する。この状態(除水流量は0mL/minのまま)を15分継続し、その後に除水を開始する。これにより、内部濾過型ダイアライザを使用して内部濾過による置換液量を増加させた場合においても、血液透析開始直後のアルブミンのリークを抑制することが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明を実施するための透析装置の概略を示す説明図である。
【図2】本発明の透析装置を用いて行う透析液流量の制御方式例を示す流量パターン図である。
【図3】通常の透析液流量のもとで血液から透析液へ漏出するアルブミンとα1MGの除去率を経時的に示す図である。
【図4】ダイアライザにおける圧力勾配によって起こる濾過現象を説明する図である。
【図5】従来の除水パターンの一例を示す説明図である。
【図6】本発明における透析液流量の制御手段の一例を示す説明図である。
【図7】本発明における透析液流量の制御手段の他の例を示す説明図である。
【図8】本発明における透析液流量の制御手段の他の例を示す説明図である。
【図9】本発明における透析液流量の制御手段の他の例を示す説明図である。
【図10】本発明における透析液流量と除水流量との関係を示す説明図である。
【図11】本発明における設定入力例を示すフローチャートである。
【図12】本発明に係る血液透析装置の構成ブロック図である。
【符号の説明】
【0049】
1 ダイアライザ 2 動脈側血液回路
3 静脈側血液回路 4a 動脈側接続部
4b 静脈側接続部 5 血液ポンプ
6 透析液供給ライン 7 透析液排出ライン
8 第1送液手段 9 第2送液手段
10 バイパスライン 11 第3送液手段
12 透析液流量調整機構 13 透析液流量検出器
14 ニードル弁 15 制御部
16 モータ 17〜19 電磁弁
20 透析液循環ポンプ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイアライザに、血液ポンプを有する動脈側血液回路及び静脈側血液回路からなる血液系と、透析液供給ライン及び透析液排出ラインからなる透析液系を接続した血液透析装置であって、
血液系と透析液系の両系からなる実働部の動作条件を入力する入力部と、
前記入力部からの入力値と前記実働部に設けた計測手段からの計測値の少なくとも一方を表示する表示部と、
前記入力値または前記計測値に基づいて前記実働部の動作を制御する制御部と、
前記入力値と計測値の少なくとも一方を記憶する記憶部と、
前記入力部から入力された透析液流量に基づいて、透析開始直後または逆濾過透析液による大量補液直後若しくは急速補液直後の所定時間における透析液流量を調整して、透析開始直後または逆濾過透析液による大量補液直後若しくは急速補液直後におけるアルブミンの漏出を抑制するアルブミン漏出抑制手段を備えた血液透析装置。

【請求項2】
ダイアライザに、血液ポンプを有する動脈側血液回路及び静脈側血液回路からなる血液系と、透析液供給ライン及び透析液排出ラインからなる透析液系を接続した血液透析装置であって、
血液系と透析液系の両系からなる実働部の動作条件を入力する入力部と、
前記入力部からの入力値と前記実働部に設けた計測手段からの計測値の少なくとも一方を表示する表示部と、
前記入力値または前記計測値に基づいて前記実働部の動作を制御する制御部と、
前記入力値と計測値の少なくとも一方を記憶する記憶部と、
前記入力部から入力された透析液流量および当該透析液流量と関連付けて入力された除水流量に基づいて、透析開始直後または逆濾過透析液による大量補液直後若しくは急速補液直後の所定時間における透析液流量と除水流量の双方を調整して、透析開始直後または逆濾過透析液による大量補液直後若しくは急速補液直後におけるアルブミンの漏出を抑制するアルブミン漏出抑制手段を備えた血液透析装置。

【請求項3】
前記透析液流量の調整が、
(1)透析液系に設けた流量調整弁にて流量を調整するか、
(2)複数の電磁弁ラインを並列に設けてその電磁弁ラインの開く数を調整するか、
(3)透析液系にバイパス回路を設けて透析液のダイアライザへの流入を停止するか、
(4)透析液循環ポンプ能力を制御して透析液流量を可変するか、
(5)透析液供給ラインと透析液排出ラインに設けた送液手段の送液速度を調整するか、のいずれかである請求項1または2に記載の血液透析装置。

【請求項4】
前記透析液流量の入力が、流量と当該流量を維持する継続時間の形態で行われ、前記流量の増減と前記継続時間の変更が可能である請求項1〜3のいずれか1項に記載の血液透析装置。

【請求項5】
前記除水流量の調整を、前記透析液供給ラインと透析液排出ラインの少なくとも一方に配置された除水/補液機構によって行う請求項2〜4のいずれか1項に記載の血液透析装置。

【請求項6】
透析開始直後または逆濾過透析液による大量補液直後若しくは急速補液直後1〜60分間における透析液流量を0〜200mL/minにする請求項1〜5のいずれか1項に記載の血液透析装置。

【請求項7】
透析開始直後または逆濾過透析液による大量補液直後若しくは急速補液直後1〜60分間における除水流量を0〜5mL/minにする請求項2〜6のいずれか1項に記載の血液透析装置。

【請求項8】
透析液流量が0mL/minであるECUM状態とHD状態を繰り返すことにより、除水/補液を繰り返す血液透析濾過(HDF)を実施することが可能な請求項1〜7のいずれか1項に記載の血液透析装置。

【請求項9】
前記計測値の1つがヘマトクリット値であり、当該ヘマクリット値に連動して透析液流量を変更することができる請求項1〜8のいずれか1項に記載の血液透析装置。

【請求項10】
前記制御部が、前記実働部に設けた計測手段からの計測値に基づいて、実働部に対し逆濾過透析液による大量補液または急速補液の操作を行う請求項1〜9のいずれか1項に記載の血液透析装置。

【請求項11】
請求項10に記載の計測値が、ヘマトクリット値またはTMP値である請求項10に記載の血液透析装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2007−268257(P2007−268257A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−62684(P2007−62684)
【出願日】平成19年3月12日(2007.3.12)
【出願人】(000116806)旭化成メディカル株式会社 (133)
【出願人】(000153030)株式会社ジェイ・エム・エス (452)
【Fターム(参考)】