説明

血漿交換・廃液浄化循環透析システム

【課題】 血漿交換に引き続き、血漿交換によって分離された血漿を安全かつ簡便に効率よく浄化し、これを透析液として循環利用できるようにした血漿交換・廃液浄化循環透析システムを提供すること。
【解決手段】 患者の体内から取り出された血液を血球と血漿に分離し、分離された血漿のかわりとなる補充液を分離された血球と混合して体内に返還する回路と、分離された血漿の少なくとも一部を浄化し、これを透析液として循環させて患者の体内から取り出された血液を透析することで有害物を除去して体内に返還する回路を有する血漿交換・廃液浄化循環透析システムであって、透析液として利用する浄化した血漿を循環させる回路に複数の血漿浄化装置が回路に対して並列に接続されてなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血漿交換に引き続き、血漿交換によって分離された血漿を浄化し、これを透析液として循環利用できるようにした血漿交換・廃液浄化循環透析システムに関する。
【背景技術】
【0002】
急性肝不全などの治療として、患者の体内から取り出された血液を血球と血漿に分離し、分離された血漿のかわりとなる補充液を分離された血球と混合して体内に返還する血漿交換(Plasma Exchange:PE)が一般的に行われているが、その効果は患者の血漿を補充液で希釈し、余剰分を廃液として廃棄していることに過ぎないので限定的なものである。このような事情に鑑み、血漿交換によって分離された血漿を浄化し、これを透析液として循環利用して患者の体内から取り出された血液を透析することができる血漿交換廃液浄化循環透析装置が特許文献1において提案されている。この装置を用いれば、単に血漿交換を行うだけよりもより効果的に血液浄化を行うことができる。
【特許文献1】特開2005−237946号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1に記載された血漿交換廃液浄化循環透析装置では、透析液として利用する浄化した血漿を循環させる回路にはただ1つの血漿浄化装置が回路に対して直列に接続されているに過ぎないので、血漿の浄化効率などの点で改善の余地がある。
そこで本発明は、血漿交換に引き続き、血漿交換によって分離された血漿を安全かつ簡便に効率よく浄化し、これを透析液として循環利用できるようにした血漿交換・廃液浄化循環透析システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記の点に鑑みてなされた本発明の血漿交換・廃液浄化循環透析システムは、請求項1記載の通り、患者の体内から取り出された血液を血球と血漿に分離し、分離された血漿のかわりとなる補充液を分離された血球と混合して体内に返還する回路と、分離された血漿の少なくとも一部を浄化し、これを透析液として循環させて患者の体内から取り出された血液を透析することで有害物を除去して体内に返還する回路を有する血漿交換・廃液浄化循環透析システムであって、透析液として利用する浄化した血漿を循環させる回路に複数の血漿浄化装置が回路に対して並列に接続されてなることを特徴とする。
また、請求項2記載のシステムは、請求項1記載のシステムにおいて、複数の血漿浄化装置が、陰イオン交換樹脂を用いた吸着器を持つ装置、活性炭を用いた吸着器を持つ装置、血液透析器を持つ装置から選択される少なくとも2種類の装置であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、血漿交換に引き続き、血漿交換によって分離された血漿を安全かつ簡便に効率よく浄化し、これを透析液として循環利用できるようにした血漿交換・廃液浄化循環透析システムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明の血漿交換・廃液浄化循環透析システムは、患者の体内から取り出された血液を血球と血漿に分離し、分離された血漿のかわりとなる補充液を分離された血球と混合して体内に返還する回路と、分離された血漿の少なくとも一部を浄化し、これを透析液として循環させて患者の体内から取り出された血液を透析することで有害物を除去して体内に返還する回路を有する血漿交換・廃液浄化循環透析システムであって、透析液として利用する浄化した血漿を循環させる回路に複数の血漿浄化装置が回路に対して並列に接続されてなることを特徴とするものである。
【0007】
図1は本発明の血漿交換・廃液浄化循環透析システムの一実施形態の概略構成図である。その作動概要は次の通りである。まず、患者の体内から取り出された血液は、血漿交換・廃液浄化循環透析システム1のポンプP1によってライン2から血漿分離装置3の中空糸外腔の内部に導入されることで血球と血漿に分離される。分離された血漿は、ポンプP2によってライン4に送られる。これと同時に、補充液バッグ5に充填された補充液(新鮮凍結血漿を解凍したものなど)がポンプP3によってライン6からライン7を経てライン8に送られ、血漿分離装置3で分離された血球と混合されて両者が体内に返還されることで血漿交換が行われる。血漿交換が行われる間、ライン4に対して並列に接続された3種類の血漿浄化装置、陰イオン交換樹脂を用いた吸着器を持つ装置9、活性炭を用いた吸着器を持つ装置10、血液透析器を持つ装置11は作動停止されており、ライン4に送られた血漿はそのまま貯留バッグ12に貯留される。血漿交換が行われる間、血漿浄化装置9、10、11が作動停止されているのは、仮に装置を作動させた場合、装置はライン4に対して並列に接続されているので、装置内の潅流速度がライン2の血液流速に比較してかなり低速になるため(ライン2の血液流速を100mL/分と仮定すれば血漿分離装置3の中空糸外腔の分離膜の性能上ライン4に送られる血漿流速は30mL/分程度であるので装置内の潅流速度はそれよりも低速になる)、装置内で血漿の凝固が起こる危険性などがあるからである。
【0008】
所定の時間経過後、貯留バッグ12に所定量の血漿が貯留されると、血漿交換が停止され、次のようにして分離された血漿を利用した血液の浄化循環透析が行われる。まず、三方活栓Aでライン6が閉鎖されて補充バッグ5からの補充液の補充が停止され、かわりに貯留バッグ12内の血漿がポンプP3によってライン7を経て三方活栓Bでライン8が遮断されて血漿分離装置3の中空糸外腔に導入される。さらに血漿分離装置3の中空糸外腔に導入された血漿は、ポンプP2によってライン4に送られ、作動させた3種類の血液浄化装置9、10、11に順次導入されて浄化され、貯留バッグ12に戻される。以上の循環により、貯留バッグ12内の血漿は持続的に浄化されながら血漿分離装置3の中空糸外腔に導入される。一方、血漿分離装置3の中空糸外腔の内部には患者の体内から取り出された血液がポンプP1によってライン2から導入される。これにより、血漿分離装置3の中空糸外腔構造のもとで、浄化された血漿が血液に対する透析液として機能し、血液は透析によって有害物が除去された後、ライン8から体内に返還される。一方、血液から除去された有害物を含む透析液としての血漿は、ポンプ2によってライン4に送られ、3種類の血漿浄化装置9、10、11に順次導入されて浄化され、貯留バッグ12に戻される。
【0009】
以上のように、血漿交換・廃液浄化循環透析システム1を用いれば、血漿交換を行った後、分離された血漿を利用した血液の浄化循環透析に速やかに移行することができる。
【0010】
また、血漿交換・廃液浄化循環透析システム1は、3種類の血漿浄化装置9、10、11がライン4に対して並列に接続されているので、特許文献1に記載されたただ1つの血液浄化装置がラインに対して直列に接続されているに過ぎない血漿交換廃液浄化循環透析装置に比較して血漿の浄化効率が格段に優れている。それぞれの血漿浄化装置9、10、11がライン4に対して並列に接続されていることには次のような利点がある。即ち、仮にそれぞれの血漿浄化装置9、10、11がライン4に対して直列に接続されているとした場合、それぞれの装置の内部抵抗が合算された分の負荷をポンプP2が受けることになるので、ポンプP2が受ける負荷が大きくなって流量の調整が困難になるといった問題や、それぞれの装置が有する至適潅流速度(例えば、陰イオン交換樹脂を用いた吸着器を持つ装置では30〜40mL/分、活性炭を用いた吸着器を持つ装置では>50mL/分、血液透析器を持つ装置では>50mL/分である)をそれぞれの装置ごとに設定することに制約が伴うといった問題がある。また、装置に血液凝固などに起因するトラブルや機能低下が発生した際にシステムを作動停止させることなく当該装置だけを停止や交換するためにはバイパス回路を設けておかなければならないのでシステム全体の回路が複雑になり、よって作業遅延や作業ミスを招来する恐れがあるといった問題がある。しかしながら、それぞれの血漿浄化装置9、10、11がライン4に対して並列に接続されていると、装置の内部抵抗に由来するポンプP2が受ける負荷を低減させることができるとともに、それぞれの装置が有する至適潅流速度をそれぞれの装置ごとに自由に設定することができる。また、バイパス回路を設けておかなくてもトラブルや機能低下が発生した装置を簡単に停止や交換することができるので、作業遅延や作業ミスを減らすことができる。よって安全性や簡便性の向上を図ることができる。なお、図1に示したように、それぞれの血漿浄化装置9、10、11のライン4への接続を、ライン4に出入路ポート13を設けて行うことで、安全性や簡便性のよりいっそうの向上を図ることができる。
【0011】
血漿交換・廃液浄化循環透析システム1は市販の血液浄化装置や血漿浄化装置を用いて構成することができる。例えば、図1において点線の枠で囲った部分に対応する装置としては、旭化成メディカル社の血液浄化装置(商品名:Plasauto iQ21)を用いることができる。陰イオン交換樹脂を用いた吸着器を持つ装置9、活性炭を用いた吸着器を持つ装置10、血液透析器を持つ装置11についても各種の市販品を用いることができる。それぞれの装置を用いたシステムの組み立て方法や、試運転方法、洗浄方法、分解方法などは、自体公知の血漿交換システムや血液透析システムなどのそれぞれの方法に準じて行えばよい。
【0012】
なお、上記において説明した血漿交換・廃液浄化循環透析システム1では、血球と血漿を分離でき、かつ、血液の透析を行うことができる血漿分離装置として、中空糸外腔構造の血漿分離装置を用いたが、血漿分離装置は中空糸外腔構造のものに限定されるわけではなく、血球と血漿を分離でき、かつ、血液の透析を行うことができるものであればどのような構造のものであってもよい。また、血球と血漿を分離するための装置と血液の透析を行うための装置を別にしてもよい。3種類の血漿浄化装置は、陰イオン交換樹脂を用いた吸着器を持つ装置、活性炭を用いた吸着器を持つ装置、血液透析器を持つ装置に限定されるわけではなく、血漿を浄化することができる装置であればどのような装置を用いてもよい。また、必ず3種類の装置が必要であるわけではなく、複数であればその数は限定されるものではない。また、その接続順序も限定されるものではない。ラインに設ける出入路ポートの数は3セットに限定されるわけではなく、例えば5セット設けておき、そのうちの3セットを使って残りの2セットは更なる血漿浄化装置を接続する場合を想定してそれまで封止しておくといったようにしてもよい。
【実施例】
【0013】
自体公知の方法で作製したブタ劇症肝炎モデルに対し、図1に示した本発明の血漿交換・廃液浄化循環透析システム1を用いて治療を行い、その有用性を確認した。
【産業上の利用可能性】
【0014】
本発明は、血漿交換に引き続き、血漿交換によって分離された血漿を安全かつ簡便に効率よく浄化し、これを透析液として循環利用できるようにした血漿交換・廃液浄化循環透析システムを提供することができる点において産業上の利用可能性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の血漿交換・廃液浄化循環透析システムの一実施形態の概略構成図である。
【符号の説明】
【0016】
1 血漿交換・廃液浄化循環透析システム
2 ライン
3 血漿分離装置
4 ライン
5 補充液バッグ
6 ライン
7 〃
8 〃
9 血漿浄化装置(陰イオン交換樹脂を用いた吸着器を持つ装置)
10 〃(活性炭を用いた吸着器を持つ装置)
11 〃(血液透析器を持つ装置)
12 貯留バッグ
13 出入路ポート
P1 ポンプ
P2 〃
P3 〃
A 三方活栓
B 〃

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の体内から取り出された血液を血球と血漿に分離し、分離された血漿のかわりとなる補充液を分離された血球と混合して体内に返還する回路と、分離された血漿の少なくとも一部を浄化し、これを透析液として循環させて患者の体内から取り出された血液を透析することで有害物を除去して体内に返還する回路を有する血漿交換・廃液浄化循環透析システムであって、透析液として利用する浄化した血漿を循環させる回路に複数の血漿浄化装置が回路に対して並列に接続されてなることを特徴とするシステム。
【請求項2】
複数の血漿浄化装置が、陰イオン交換樹脂を用いた吸着器を持つ装置、活性炭を用いた吸着器を持つ装置、血液透析器を持つ装置から選択される少なくとも2種類の装置であることを特徴とする請求項1記載のシステム。

【図1】
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【公開番号】特開2008−212299(P2008−212299A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−51962(P2007−51962)
【出願日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【出願人】(504229284)国立大学法人弘前大学 (162)
【Fターム(参考)】