説明

血漿回収方法及び器具並びに血液簡易検査方法及び器具

【課題】小型且つ簡単な構造の器具で、少量の血液量で血漿と血球とを短時間で簡便且つ精度良く分離して血漿を回収でき、しかも分離助剤等の薬剤を一切使用する必要がない。
【解決手段】血漿回収器具10は、内部に厚みが50μm〜2mmと極めて薄い直方体形状のマイクロ空間14を有すると共に、マイクロ空間14に連通する血液充填口20と血漿回収口22とを備えた容器12と、血液充填口20を介して容器12のマイクロ空間14に血液Aを充填する注射器16と、容器12を鉛直方向に対して所定の傾斜角になるように傾斜させる傾斜手段19と、血漿回収口22から血漿Bを吸引して回収するシリンジポンプ18と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血漿回収方法及び器具並びに血液簡易検査方法及び器具に係り、特に血液検査の前処理として、血液中の血漿と血球とを短時間で分離することにより、血漿のみを効率的に回収する技術、及び血漿分離から血液検査までを1つの器具によって簡易的に行う技術に関する。
【背景技術】
【0002】
血液検査を行う場合、真空採血管により数mLの血液を測定項目に応じて採取し、真空採血管を各種の自動分析機にセットする。自動分析装置は大型であり、病院によっては装置をもたず検査センターに依頼して血液を検査することも多々ある。そのため、検査結果が出るまでに時間を要しているのが現状である。緊急を要する検査を行う場合は、検査装置のある施設へ出向く必要があり、高齢者、病人にとっては検査自体が身体的に負担となる。また、血液検査をもっと気軽に、頻繁に行う環境が出来れば、病気に対する予防が進み、生活の質を高めることが出来る。
【0003】
ところで、血液検査に使用する血液は光学的に分析される場合が多く、血液中の固形物、例えば赤血球が内包するヘモグロビンの持つ色素が比色測定を妨害することが知られている。この為、高精度の検査結果を得るためには、血液検査の前処理として、血液から血球を分離した血漿(血清も含むものとする)のみを検体とする処理が必要になる。この場合、大がかりな血漿回収装置を備えた大病院や検査センターに限らず、血液検査を実施するその場で、血液から血球を分離除去して血漿のみを簡単に回収できるようにするには、装置を簡単な検査器具のように小型化し、且つ血漿回収方法を簡便化することが重要である。また、血液検査を受ける患者の身体的、心理的負担を減らすためには、少量の採血量で検査できることが必要である。
【0004】
このような背景から、血漿回収方法及び装置としては、次のことが要求されている。
【0005】
(1)血漿回収操作を小型な器具で、簡便に且つ少量の血液量で行うことができること。例えば、血液採取を容易にし、誰でもどこでも検査できるようにするためには、ランセットにより採取できる血液量を多くても数十μL程度まで少なくする必要がある。
【0006】
(2)生血は時間がたつと変化し、検査には使用できなくなるため、血漿回収までの時間、即ち血漿と血球とを分離する分離時間をできるだけ短くできること。
【0007】
(3)分離助剤等の薬剤は検査精度を低下する懸念があり、使用しないこと。
【0008】
従来の血漿回収装置又は器具としては次のものがある。
【0009】
特許文献1は、遠心分離法によって血漿と血球を分離する方法であり、分離に長い時間がかかるという問題があるだけでなく、血球分離後に血液検査装置に血漿を入れ替える手間がある。特許文献2は、遠心分離法における装置の大型化を改良したものであり、マイクロチップ内に血液を導入し、マイクロチップごと遠心分離機にかける方法を提案しているが、装置が高速回転部を必須とするために、装置の小型化には限度がある。
【0010】
特許文献3は、膜分離法によって血漿と血球を分離する方法であり、極微量の血液を採取し分離することができるが、この方法を実現するためには採取した血液の希釈や、微小な容器内から検査すべき血漿を抜き取る操作があり、操作が煩雑になる。また、膜分離法は膜自体に保水力があるため、検体の一部を損失し易いだけでなく、加圧により血液をフィルター内に押し出す必要があるため、目詰まりが生じたり、溶血したりするという問題がある。
【0011】
特許文献4は、遠心分離や膜分離以外の方法であり、血液を導入する基板表面上に陽イオン交換物質と陰イオン交換物質とを交互に積層することにより、基盤表面上を陽イオンに帯電させ、陰イオンに帯電している赤血球(血球の一部)を電気的に捕捉する方法である。しかし、この方法はコーティング作業が繁雑になるという問題があるだけでなく、血漿中の成分が静電的に吸着する恐れが十分考えられる。
【0012】
また、特許文献5も遠心分離や膜分離以外の方法であり、微量血液に凝集剤(分離助剤)を混和し、生成した凝集塊を流路構造で沈降させることによって、血液の固形成分と液体成分を分離する方法である。しかし、この方法は、流路が複雑な形状を持つことや、凝集作用が現れるまで時間がかかるという問題があるだけでなく、凝集剤による血液検査への悪影響が懸念される。
【0013】
また、従来は、血球を分離した血漿を、別な場所にて血液検査を行うことが通常であるが、これは時間のロスでもあるだけでなく、検体のロスでもある。そのため、血球分離と同時に同じ場所で血液検査を行う方法が望まれている。
【特許文献1】特開2003−83958号公報
【特許文献2】特開2006−52950号公報
【特許文献3】特開2003−270239号公報
【特許文献4】特開2000−171461号公報
【特許文献5】特開2005−292092号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上記したように、従来の血漿回収方法や装置は、一長一短があり、上記した(1)〜(3)の要求を満足するものではない。
【0015】
また、単に、血液検査の前処理として血漿を回収するにとどまらず、血漿分離から血液検査までを1つの簡易検査器具で簡単に精度良く検査できれば、血漿の回収と血液検査とを別の場所で行う必要がない。これにより、血液検査をもっと気軽に、頻繁に行う環境を整えることができ、病気に対する予防が進む。
【0016】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、小型且つ簡単な構造の器具で、少量の血液量で血漿と血球とを短時間で簡便且つ精度良く分離して血漿を回収でき、しかも分離助剤等の薬剤を一切使用する必要がない血漿回収方法及び器具を提供することを目的とする。
【0017】
更に、本発明は、血漿分離から血液検査までを1つの簡易検査器具で簡単に精度良く検査することができる血液簡易検査方法及び器具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の請求項1は前記目的を達成するために、血液から血球を分離して血漿を回収する血漿回収方法において、厚みが50μm〜2mmと極めて薄い直方体形状のマイクロ空間を有する容器に血液を充填する充填工程と、前記充填工程の前又は後に、前記容器を鉛直方向に対して30〜60°の傾斜角になるように傾斜させる傾斜工程と、前記傾斜した容器内の血液を所定時間静置して、該血液を重力により血漿と血球とに固液分離する固液分離工程と、固液分離された血漿を前記容器から吸引して回収する回収工程と、を備えたことを特徴とする血漿回収方法を提供する。
【0019】
尚、「容器を鉛直方向に対して傾斜させる」とは、容器を鉛直方向(重力方向)に立設させた状態から、容器をマイクロ空間の厚み方向に倒して傾斜させる場合と、容器を寝かせた状態から、容器をマイクロ空間の厚み方向に起こして傾斜させる場合と、の両方を意味する。ここで挙げた容器とは、いわゆる試験管のように幅に対して長さが長い形状のものを指している。
【0020】
本発明の請求項1は、固液分離におけるボイコット効果を、厚みが50μm〜2mmと極めて薄い直方体形状のマイクロ空間に適用することで、重力による自然沈降でありながら、血漿と血球とを極めて短時間で分離できるようにしたものである。
【0021】
即ち、充填工程では、厚みが50μm〜2mmと極めて薄い直方体形状のマイクロ空間を有する容器に血液を充填する。ここで、マイクロ空間の厚みを50μm〜2mmとしたのは、傾斜工程において容器を30〜60°に傾斜させた際に、厚みが50μm未満ではボイコット効果が発揮されにくく、また厚みが2mmを超えると血球の沈降距離が大きくなり過ぎて短時間での血球沈降を実現できない。従って、マイクロ空間の厚みと容器の傾斜角とは相対的な関係にあるので、予め実験等を行って、上記厚み範囲内及び上記傾斜角範囲内において、適切な厚みと傾斜角とを組み合わせることが好ましい。
【0022】
そして、固液分離工程において、マイクロ空間内に血液を所定時間静置して、該血液を重力により血漿と血球とに固液分離する。ここで、重力方向に対する容器の立設方向により、マイクロ空間内部の血球の振る舞いが変わることについて述べておく。鉛直に立設した容器内の血球は、重力方向、つまり鉛直方向に移動する。同時に血漿は重力とは逆方向に移動し、血球と血漿とが正面衝突することになるので、血球は沈降し難い状況になる。
【0023】
これに対して、本発明における固液分離工程では、傾斜された容器内のマイクロ空間では、血球が重力方向に沈降し、血漿がマイクロ空間の厚み方向の上部上面に沿って上昇する。これにより、血球の沈降方向と血漿の上昇方向が正反対になることを回避できる。そのため、お互いの流れが干渉しづらくなり、結果として血漿と血球とを短時間で分離できる。しかも空間のサイズはマイクロメートルであるため、空間を傾斜させることで血球の実質的な沈降距離を顕著に短くできる。
【0024】
このように、ボイコット効果をマイクロ空間に利用することで、少量の血液量で極めて短時間で血漿と血球との分離が可能になる。分離後の回収であるが、固液分離された血漿を容器から吸引して回収する。これにより、小型且つ簡単な構造の器具で、少量の血液量で血漿と血球とを短時間で簡便且つ精度良く分離して血漿を回収でき、しかも分離助剤等の薬剤を一切使用する必要がない。
【0025】
マイクロ空間の厚みのより好ましい範囲は、100μm〜500μmlである。また、傾斜角の特に好まし値は45°である。
【0026】
請求項2は請求項1において、前記固液分離工程では、前記血液の温度を11〜40℃の範囲に保持することを特徴とする。
【0027】
血液は粘度が高く血球が沈降しにくいので、血液の温度を11〜40℃の範囲に保持することで、血液の粘度を下げて血球の沈降速度を向上できる。ちなみに、40℃を超えると、血液の品質に悪影響があり、11℃未満では沈降速度を向上させる効果が小さい。
【0028】
請求項3は請求項1又は2において、前記固液分離工程では、前記静置する所定時間を3〜5分の範囲にすることを特徴とする。
【0029】
請求項3は、固液分離工程での、血漿と血球との分離時間を具体的に示したものであり、3分以上静置すれば血漿と血球とを分離することができ、多少安全をみても5分静置すれば十分である。
【0030】
本発明の請求項4は前記目的を達成するために、血液を簡易的に検査する血液簡易検査方法において、厚みが50μm〜2mmと極めて薄い直方体形状のマイクロ空間を有する容器に血液を充填する充填工程と、前記充填する前又は後に、前記容器を鉛直方向に対して30〜60°の傾斜角になるように傾斜させる傾斜工程と、前記傾斜した容器内の血液を所定時間静置して、該血液を重力により血漿と血球とに固液分離する固液分離工程と、前記固液分離した血漿中の被検査物質と、前記マイクロ空間の厚み方向の対向面のうち前記傾斜した状態における上面上部側に予め固着されている検査試薬と、を接触させて検査する検査工程と、を備えたことを特徴とする血液簡易検査方法を提供する。
【0031】
本発明の請求項4は、ボイコット効果をマイクロ空間に適用することによって、血漿と血球との分離時間を短縮できるだけでなく、血漿の上昇流がマイクロ空間の上面に沿って流れることを利用したものである。即ち、マイクロ空間の上面上部側に予め検査試薬を固着しておけば、血漿中の被検査物質(成分)と、検査試薬との接触効率が良くなるので、マイクロ空間のような単なる空間において、血漿分離から血液検査までを一貫して精度良く行うことができる。
【0032】
請求項5は請求項4において、前記血漿中の被検査物質は抗原であると共に、前記検査試薬は抗体であり、前記検査工程において、抗原抗体反応を行わせることにより検査することを特徴とする。
【0033】
請求項5は、本発明における好ましい態様を示したものであり、抗原抗体反応による血液検査を簡易且つ高精度に行うことができる。
【0034】
尚、本発明の血液簡易検査方法においても、固液分離工程では、血液の温度を11〜40℃の範囲に保持することが好ましい。また、固液分離工程では、静置する所定時間を3〜5分の範囲にすることが好ましい。
【0035】
本発明の請求項6は前記目的を達成するために、血液から血球を分離して血漿を回収する血漿回収器具において、内部に厚みが50μm〜2mmと極めて薄い直方体形状のマイクロ空間を有すると共に、前記マイクロ空間に連通する血液充填口と血漿回収口とを備えた容器と、前記血液充填口を介して前記容器のマイクロ空間に血液を充填する充填手段と、前記容器を鉛直方向に対して所定の傾斜角になるように傾斜させる傾斜手段と、前記血漿回収口から血漿を吸引して回収する吸引手段と、を備えたことを特徴とする血漿回収器具を提供する。
【0036】
請求項6は、本発明を装置として構成したものであり、本発明の血漿回収器具を使用すれば、小型且つ簡単な構造の器具で、少量の血液量で血漿と血球とを短時間で簡便且つ精度良く分離して血漿を回収でき、しかも分離助剤等の薬剤を一切使用する必要がない。
【0037】
請求項7は請求項6において、前記傾斜角は30〜60°の範囲であることを特徴とする。
【0038】
請求項7は、ボイコット効果をマイクロ空間に適用した際の容器の好適な傾斜角を示したものであり、傾斜角は30〜60°の範囲が好ましく、特に好ましい傾斜角度は45°である。
【0039】
請求項8は請求項6又は7において、前記マイクロ空間の厚みをD、長さをLとしたときに、L/Dで表されるアスペクト比が5〜50の範囲であることを特徴とする。
【0040】
請求項8は、マイクロ空間の厚みDに対する長さLの好適なアスペクト比を示したもので、血球の沈降速度はアスペクト比が5〜50の範囲で正比例する傾向にある。
【0041】
請求項9は請求項6〜8の何れか1において、前記容器は透明であることを特徴とする。
【0042】
容器を透明にすれば、血漿と血球との分離終了時点を目視で認識できるだけでなく、血球の沈降や血漿の上昇流の状況を目視で認識できるので、容器を適切な傾斜角に調整することができる。
【0043】
請求項10は請求項6〜8の何れか1において、前記容器の材質は、樹脂、石英ガラス、パイレックスガラスの何れかであることを特徴とする。
【0044】
請求項10は、容器の材質として特に好適なものを示したものである。
【0045】
請求項11は請求項6〜10の何れか1において、前記容器を加熱する加熱手段を設けたことを特徴とする。
【0046】
血液は粘度が高く血球が沈降しにくいので、血液を加熱手段で加熱(好ましくは11〜40℃)することで、血液の粘度を下げて血球の沈降速度を向上できる。ちなみに、40℃を超えると、血液の品質に悪影響があり、11℃未満では沈降速度を向上させる効果が小さい。
【0047】
本発明の請求項12は前記目的を達成するために、血液を簡易的に検査する血液簡易検査器具において、内部に厚みが50μm〜2mmと極めて薄い直方体形状のマイクロ空間を有し、該マイクロ空間の前記厚み方向で対向する対向面のうちの片面側に検査試薬が固着されると共に、前記マイクロ空間に連通する血液充填口と空気抜き口とを有する容器と、前記血液充填口から前記容器のマイクロ空間に血液を充填する充填手段と、前記容器を鉛直方向に対して所定の傾斜角で且つ前記検査試薬を固着した前記片面側が上面になるように傾斜させる傾斜手段と、を備えたことを特徴とする血液簡易検査器具を提供する。
【0048】
請求項12は、本発明を装置として構成したもので、本発明の血液簡易検査器具を用いれば、血漿分離から血液検査までを1つの簡易検査器具で簡単に精度良く検査することができる。
【0049】
請求項13は請求項12において、前記検査試薬は抗体であり、前記血液の成分である血漿中の抗原を検査することを特徴とする。
【0050】
本発明における好ましい態様を示したものであり、抗原抗体反応による血液検査を簡易且つ高精度に行うことができる。
【0051】
尚、本発明の血液簡易検査器具においても、容器の傾斜角は30〜60°の範囲であることが好ましくい。また、マイクロ空間の厚みをD、長さをLとしたときに、L/Dで表されるアスペクト比が5〜50の範囲であることが好ましい。更には、容器は透明であることが好ましいく、例えばアクリル等の透明樹脂、石英ガラス、パイレックスガラス等を使用できる。また、容器を加熱する加熱手段を設けて、固液分離される血液の温度を11〜40℃の範囲に保持することが好ましい。また、固液分離では、静置する所定時間を3〜5分の範囲にすることが好ましい。
【発明の効果】
【0052】
以上説明したように、本発明の血漿回収方法及び器具によれば、小型且つ簡単な構造の器具で、少量の血液量で血漿と血球とを短時間で簡便且つ精度良く分離して血漿を回収でき、しかも分離助剤等の薬剤を一切使用する必要がない。
【0053】
また、本発明の血液簡易検査方法及び器具によれば、血漿分離から血液検査までを1つの簡易検査器具で簡単に精度良く検査することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0054】
以下、添付図面に従って、本発明に係る血漿回収方法及び器具並びに血液簡易検査方法及び器具の好ましい実施の形態について詳説する。
【0055】
(血漿回収方法及び器具)
図1は、本発明の血漿回収器具10の一態様を示す概念図である。
【0056】
図1に示すように、本発明の血漿回収器具10は、主として、容器12と、容器12内に形成されたマイクロ空間14に血液を充填する充填手段16と、マイクロ空間14で血漿と血球とに分離された血漿(上澄液)を吸引する吸引手段18と、容器12を傾斜させる傾斜手段19(図2参照)と、で構成される。
【0057】
容器12の内部には、厚みDが50μm〜2mmと極めて薄い直方体形状のマイクロ空間が形成される。厚みDの好ましい範囲は100μm〜500μmの範囲である。また、容器12の長さLは、厚みDとの関係で設定されることが好ましく、マイクロ空間14の厚みをD、長さをLとしたときに、L/Dで表されるアスペクト比が5〜50の範囲になるように長さLを設定する。例えば、マイクロ空間14の厚みDを50μmとした場合には、長さLを250μm〜2.5mmのとし、マイクロ空間14の厚みDを2mmとした場合には、長さLを10mm〜100mmの長さとする。従って、血液検査に必要な血漿量に応じてマイクロ空間14の大きさを前記条件に合うように設定すればよい。マイクロ空間14の幅Wは特に限定されないが、厚みDと同程度の範囲であることが好ましい。図1では、マイクロ空間14の幅Wを厚みの約2倍程度に形成している。
【0058】
容器12の長さ方向一端側には、血液Aを充填する血液充填口20が形成され、容器12の上面側には血漿回収口22が形成される。ここで、直方体のマイクロ空間14を形成する各面(6面)のうち、血液充填口20側の面を天面14A、反対側を底面14Bとすると共に、血漿回収口22側の面を上面14C、反対側を下面14Dとする。そして、血液充填口20には注入管24が連結されると共に、血漿回収口22には該血漿回収口22と同じ間口の回収流路28Aが形成された回収流路部材28を介して吸引管30が連結される。この場合、マイクロ空間14の幅Wを、例えば厚みDと同じ程度に細くする場合には、回収流路部材28を介さないで吸引管30に連結することができる。しかし、マイクロ空間14の幅Wを広くする場合には、回収流路部材28を介することで、後記する固液分離でマイクロ空間14の上面上部に溜まった血漿B(図2参照)をマイクロ空間14の幅方向において均等に吸引することができる。
【0059】
また、回収流路部材28を設ける場合には、マイクロ空間14に充填された血液Aが回収流路28Aまで入り込むと、血球Cの実質的な沈降距離が長くなるのでよくない。従って、例えば、回収流路28Aの厚みEを薄くして血液Aの表面張力で血液Aが回収流路28Aまで入り込まないようにしたり、回収流路28Aの内面を疎水化処理して血液Aを弾くことで血液Aが回収流路28Aまで入り込まないようする工夫を行うとよい。
【0060】
血液Aをマイクロ空間14に充填する充填手段16としては、例えば図1に示すように、注射器16を好適に使用することができる。即ち、血液Aを内部に保有する注射器16の針16Aを注入管24に挿入し、ピストン16Bを押し込んで注射器16内の血液をマイクロ空間14に注入する。
【0061】
また、血漿Bを回収するための吸引手段18としては、例えば、図1に示すように、吸引圧力制御を兼ね備えた連続流動方式のシリンジポンプ18を好適に使用することができる。これにより、吸引圧力及び吸引流量を任意に制御することができる。即ち、シリンジポンプ18の先端口18Aを吸引管30に接続すると共に、回収チューブ32を図示しない血液検査装置に接続する。これにより、マイクロ空間14において分離された血漿(上澄液)を回収流路部材28を介して血液検査装置に直接送液することができる。
【0062】
また、容器12を傾斜させる傾斜手段19としては、例えば図2に示したものを使用できる。図2に示すように、傾斜手段19は、基台19Aの上面中央部に、揺動機構部19Bを介して支持部材19Cを矢印a−b方向に揺動自在に支持することにより構成される。また、支持部材19Cは、断面凹状に形成され、この凹部に容器12の下側部分が着脱自在に嵌め込まれる。揺動機構部19Bとしては、支持部材19Cに支持された容器12が所定の傾斜角で動かないように維持される機構であれば何れでもよい。
【0063】
上記したマイクロ空間14を有する容器12や回収流路28Aを有する回収流路部材28を製作するには微細加工技術が好適に使用される。微細加工技術としては、例えば次のようなものがある。
(1) X線リソグラフィと電気メッキを組み合わせたLIGA技術
(2) EPON SU8を用いた高アスペクト比フォトリソグラフィ法
(3) 機械的マイクロ切削加工(ドリル径がマイクロオーダのドリルを高速回転するマイクロドリル加工等)
(4) Deep RIEによるシリコンの高アスペクト比加工法
(5) Hot Emboss加工法
(6) 光造形法
(7) レーザー加工法
(8) イオンビーム法
容器12や回収流路部材28を製作するための材料としては、耐熱、耐圧及び耐溶剤性、加工容易性等の要求に応じて、金属、ガラス、セラミックス、プラスチック、シリコン、及びテフロン(登録商標)等の樹脂を好適に使用でき、特に、ポリスチレン樹脂、PMMA樹脂、石英ガラス、パイレックスガラスが好ましい。また、容器12は、後記する血漿回収方法で説明するように、血漿Bと血球Cとの分離状態を視覚により認識できることが好ましく、透明な材料で製作することが好ましい。
【0064】
また、容器12を加熱する加熱手段(図示せず)を設けることが好ましい。加熱手段としては、金属抵抗線やPolysilicon などのヒータ構造を容器12に作り込む方法などがある。金属抵抗線やPolysilicon などのヒータ構造の場合には、加熱についてはこれを使用し、冷却については自然冷却でサーマルサイクルを行うことで温度を制御する。この場合の温度のセンシングについては、金属抵抗線の場合には同じ抵抗線をもう一つ作り込んでおき、その抵抗値の変化に基づいて温度検出を行い、Polysilicon の場合には、熱電対を用いて温度検出を行う方法が一般的に採用されている。また、近年においては、ペルチェ素子を用いた温度制御機能を容器12に組み込むことで、血液の温度制御を精度良く行うこともできる。何れにしても、温度制御そのものは、従来からの温度制御技術でもペルチェ素子に代表される新規な温度制御技術でも可能であり、容器12の材料等に応じた加熱・冷却機構と温度センシング機構の選択、ならびに外部制御系の構成を組み合わせて最適な方法を選択することができる。
【0065】
次に上記の如く構成された血漿回収器具10を用いて本発明の血漿回収方法の手順を、図1〜図3を用いて説明する。
【0066】
本発明の血漿回収方法は、主として、厚みが50μm〜2mmと極めて薄い直方体形状のマイクロ空間14を有する容器12に血液Aを充填する充填工程と、容器12を鉛直方向(重力方向)に対して30〜60°の傾斜角になるように傾斜させる傾斜工程と、傾斜した容器12内の血液を所定時間静置して、該血液Aを重力により血漿Bと血球Cとに固液分離する固液分離工程と、固液分離された血漿Bを容器12から吸引して回収する回収工程と、により構成される。
【0067】
先ず、図2(A)に示すように、充填工程において、傾斜手段19に保持された容器12を立設させた状態にする。そして、図1の注射器16を使用して容器12内のマイクロ空間14に血液Aを充填する。この場合、吸引管30は大気に開放させて空気抜きとして使用する。
【0068】
次に、図2(B)に示すように、傾斜工程において、容器12を鉛直方向(重力方向)に対して30〜60°の傾斜角、好ましくは45°の傾斜角になるように傾斜させる。この場合、回収流路部材28が設けられた容器12の上面側(マイクロ空間14の上面14C側と同義)が上になるように傾斜させる。尚、容器12の傾斜動作は、血液Aを容器12に充填する前でもよく、後でもよい。また、充填工程では、容器12を立設した状態で充填することに限定されるものではなく、容器12を寝かせた状態で充填してから、30〜60°の傾斜角になるように起き上がらせてもよい。
【0069】
次に、図2(B)〜図2(C)の固液分離工程では、容器12を傾斜させた状態で固液分離工程を行うことにより、マイクロ空間14においてボイコット効果が生じる。即ち、図3(A)に示すように、血球Cが重力方向に沈降する一方、血漿Bがマイクロ空間14の上面14C(容器上面側の内壁面)に沿って上昇する。この結果、マイクロ空間14には、マイクロ空間14の上面14Cに沿って上昇した上昇流がマイクロ空間14の下面14Dに沿って下降流として下降する血漿Bの環状流(図3(A)の点線矢印)が形成される。これにより、血球Cの沈降と血漿Bの上昇流とが正面衝突することがないので、血漿と血球とを短時間で速やかに分離することができる。更には、容器12を傾斜させることで、図3(A)から分かるように、血球Cの沈降距離Hを顕著に短くすることができる。そして、沈降距離Hを沈降してマイクロ空間の下面14Dに衝突した血球Cは血漿Bの環状流にのってマイクロ空間14の底面14B方向に運ばれる。
【0070】
この結果、図2(C)に示すように、血漿Bと血球Cとを短時間で精度良く分離できる。具体的には、傾斜されたマイクロ空間14に血液Aを3〜5分程度静置することで、該血液Aを重力により血漿Bと血球Cとに固液分離することができる。この固液分離工程では、容器12を11〜40℃に保温して、血液Aの粘度を下げることが好ましい。これにより、血球Cの沈降速度を一層速くすることができる。
【0071】
一方、容器12を立設した状態で固液分離工程を行うと、図3(B)に示すように、血球Cの沈降と血漿Bの上昇流とがまともに正面衝突し、血球Cの沈降速度が顕著に遅くなる。しかも、マイクロ空間14の長さLに相当する沈降距離を沈降することになるので、極めて長い分離時間を必要とする。
【0072】
ボイコット効果については、雑誌「Nature」(Boycott A.E., Sedimentation of blood corpuscles, Nature(London), 104, 532.1920発行)及び雑誌「バイオレオロジー」(米田出版、貝原眞、坂西明郎、1999年6月4日初版発行)に詳しく紹介されている。
【0073】
固液分離工程が終了したら、図1に示すように、吸引管30にシリンジポンプ18を接続して、上澄液としての血漿Bのみを回収する回収工程を行う。即ち、シリンジポンプ18の吸引力は、マイクロ空間14と回収流路28Aとの境界線における血漿Bの表面張力を破ることができ、且つ回収流路28Aの疎水性による血漿の流れ込み防止力を破ることができる程度でよい。例えば、マイクロ空間14の血漿Bが回収流路28Aに1mm/秒以下の流速で流れ込むように吸引力を発揮させることが好ましい。吸引力を大きくし過ぎると、せっかく沈降した血球Cが舞い上がってしまい、回収される血漿Bに混入してしまう恐れがある。回収した血漿Bはシリンジポンプ18の回収チューブ32を介して血液検査装置に送液される。
【0074】
このように、ボイコット効果をマイクロ空間14に利用することで、少量の血液量で極めて短時間で血漿Bと血球Cとの分離が可能になる。これにより、小型且つ簡単な構造の器具で、少量の血液量で血漿と血球とを短時間で簡便且つ精度良く分離して血漿Bを回収でき、しかも分離助剤等の薬剤を一切使用する必要がない。
【0075】
(血液簡易検査方法及び器具)
図4は、本発明の血液簡易検査器具40の一態様を示す概念図である。
【0076】
図4に示すように、血液簡易検査器具40の基本的な構成は、上述した血漿回収器具10と同様であるが、マイクロ空間14の上面14C上部側に検査試薬42が予め固着されている点が相違する。尚、マイクロ空間14の上面14C下部側は血漿B中に血球Cが混在する確率が大きいため、マイクロ空間14の上面14C上部側のみに検査試薬42を固着させることが好ましいが、上面14Cの略全体に検査試薬42を固着してもよい。
【0077】
血液簡易検査器具40の外観的な形状も、基本的には図1の血漿回収器具10と同様であるが、図1から吸引手段18を削除し、また回収流路28A及び吸引管30を空気抜き口とする点で相違する。
【0078】
検査試薬42としては抗体を好適に使用することができ、これによりマイクロ空間14の上面14C上部に固着させた抗体に、血漿B中の抗原を反応させて、いわゆる酵素免疫反応(ELISA)による検査を行うことができる。
【0079】
ELISAの1つであるサンドイッチ法とは、検査対象の抗原に対する抗体を固定化し、蛍光や色素、あるいは放射性物質、酵素等で標識された第2抗体を用いた抗原抗体反応による簡便な検査手法である。直接、抗原を標識しなくてよいため、手軽に、且つ高感度に反応検出を行うことができる。尚、検査試薬42としては、抗体に限定するものではなく、血漿中の成分と反応して何らかの検査を行える試薬であれば何でもよい。
【0080】
マイクロ空間14の上面14C上部側に検査試薬42を固着する方法としては、例えばインクジェット装置のノズルから検査試薬42を噴出させてマイクロ空間14の上面14C上部に吹き付けることで固着する方法を好適に採用できる。但し、この固着方法に限定されるものではない。
【0081】
次に、上記の如く構成された血液簡易検査器具40を使用した本発明の血液簡易検査方法の手順を説明する。
【0082】
血液Aの充填工程から固液分離工程までは、上述した血漿回収方法と同様である。この固液分離工程と並行して検査工程が行われる。即ち、図3(A)で既に説明したように、マイクロ空間14に血漿Bの上昇流が形成される。これにより、血球Cの沈降と血漿Bの上昇流とを衝突させることなく、血漿Bと血球Cとを分離することができると共に、図4に示すように、血漿Bの上昇流(図4の点線矢印)はマイクロ空間14の上面14Cに沿って流れ、上面14C上部に固着された検査試薬42と効率的に接触して反応する。
【0083】
このように、ボイコット効果をマイクロ空間14に適用することで、血漿Bの上昇流がマイクロ空間14の上面14Cに沿って流れることにより、血漿Bへの攪拌効果が発揮され、血漿B中の成分がマイクロ空間14の上面に接触する確率を飛躍的に向上させる効果を奏する。従って、マイクロ空間14の上面14C上部に予め検査試薬42を固着しておけば、血漿B中の被検査物質(成分)と、検査試薬42との接触効率が良くなるので、マイクロ空間14のような単なる空間において、血漿分離から血液検査までを一貫して精度良く行うことができる。
【実施例】
【0084】
次に、本発明の具体的な実施例として、図4に示した血液簡易検査器具40を使用して、血漿B中の抗原をELISA法で検査する血液簡易検査方法を説明する。
【0085】
ポリスチレンの材質で製作された容器12内には、厚みが200μm、幅が400μmの断面で、長さが2cmのマイクロ空間14が形成される。そして、マイクロ空間14の上面14C上部側に、予め一次抗体としてマウス抗ヒトIgGを固着した。固着方法は、インクジェット装置のインク噴出ノズルから一次抗体をマイクロ空間14の上面14C上部に吹き付ける方法で行った。
【0086】
次に、非特異吸着抑制用BSAバッファー(1%ウシ胎仔血清添加リン酸緩衝生理食塩水)をマイクロ空間14に導入して一次抗体が固定された表面以外をBSAで覆うために、37℃で10分間反応させる。その後、マイクロ空間14を、リン酸バッファー(リン酸緩衝生理食塩水)で2回洗浄した後、1.5μLの血液(ヘマトクリット値50%)をマイクロ空間14に充填する。
【0087】
次に、図4に示すように、容器12を鉛直方向(重力方向)に対して、45度傾けて静置する。尚、使用した血液Aは凝固防止のため、血液Aと3.8%クエン酸ナトリウムとが4:1の体積比になるように混和してある。更に、この血液に標識2次抗体として、ペルオキシダーゼ標識抗ヒト免疫グロブリン抗体を5分間、室温にて反応させ、予めIgG抗原と標識2次抗体とを反応させておく。
【0088】
この結果、マイクロ空間14において、次第に血球Cが沈降し、容器12を傾斜させてから3分後には、透明な血漿Bの相である血漿相及び血球Cの集合体である血球相が明確に現れ出す。この段階で、血漿中の標識2次抗体と結合したIgGは、一次抗体と反応して、表面に固定される。
【0089】
次に、洗浄バッファー(0.05%Tween20添加リン酸緩衝生理食塩水 )にてマイクロ空間14内の洗浄を行い、一度マイクロ空間14内を満たした血液を、全て洗い出す。このとき、血球はなるべく残らないように洗い出す。
【0090】
次に、発色基質液(2,2'-azino-bis[3-ethylbenzothiazoline-6-sulfonate] (ABTS)、ABTSを クエン酸/リン酸混合バッファー(0.05M クエン酸水溶液に0.05M リン酸水素ナトリウム水溶液をpH4.0になるまで加えた溶液に溶解し、0.7mg/mLの濃度としたもの )の1.5μLをマイクロ空間14に加える。反応中は遮光する。ABTSは、標識酵素であるペルオキシダーゼとの反応により、青緑色を呈する。この反応を10分間行い、その後、反応停止液 (0.01%アジ化ナトリウム液)で反応停止後、ELISA検出装置でマイクロ空間14の上面14C上部、即ち血漿の溜まっていた領域を、405nmの発光強度で測定した。
【0091】
その結果を、予め作成した検量線(発光強度とIgG量の関係)から読み取ったところ、最大1ng/mLのIgGを検出できた。なお、発光強度を測定する領域は検量線を作成した領域と同じにすることが必要である。また、バックグラウンド強度の測定は、ABTSを含まないクエン酸/リン酸混合バッファーをマイクロ空間14に満たして行った。
【0092】
このように、本発明の血液簡易検査器具40を使用すれば、マイクロ空間14のような微小空間において、血漿分離から血液検査までを数ステップのプロセスで精度良く行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】本発明の血漿回収器具の一例を示す概念図
【図2】本発明の血漿回収方法の手順を説明する説明図
【図3】ボイコット効果を説明する説明図
【図4】本発明の血液簡易検査器具の一例を示す概念図
【符号の説明】
【0094】
10…血漿回収器具、12…容器、14…マイクロ空間、16…充填手段(例えば注射器)、18…吸引手段(例えばシリンジポンプ)、19…傾斜手段、20…血液充填口、22…血漿回収口、24…注入管、28…回収流路部材、30…吸引管、32…回収チューブ、40…血液簡易検査器具、42…検査試薬

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液から血球を分離して血漿を回収する血漿回収方法において、
厚みが50μm〜2mmと極めて薄い直方体形状のマイクロ空間を有する容器に血液を充填する充填工程と、
前記充填工程の前又は後に、前記容器を鉛直方向に対して30〜60°の傾斜角になるように傾斜させる傾斜工程と、
前記傾斜した容器内の血液を所定時間静置して、該血液を重力により血漿と血球とに固液分離する固液分離工程と、
固液分離された血漿を前記容器から吸引して回収する回収工程と、を備えたことを特徴とする血漿回収方法。
【請求項2】
前記固液分離工程では、前記血液の温度を11〜40℃の範囲に保持することを特徴とする請求項1の血漿回収方法。
【請求項3】
前記固液分離工程では、前記静置する所定時間を3〜5分の範囲にすることを特徴とする請求項1又は2の血漿回収方法。
【請求項4】
血液を簡易的に検査する血液簡易検査方法において、
厚みが50μm〜2mmと極めて薄い直方体形状のマイクロ空間を有する容器に血液を充填する充填工程と、
前記充填する前又は後に、前記容器を鉛直方向に対して30〜60°の傾斜角になるように傾斜させる傾斜工程と、
前記傾斜した容器内の血液を所定時間静置して、該血液を重力により血漿と血球とに固液分離する固液分離工程と、
前記固液分離した血漿中の被検査物質と、前記マイクロ空間の厚み方向の対向面のうち前記傾斜した状態における上面上部側に予め固着されている検査試薬とを接触させて検査する検査工程と、を備えたことを特徴とする血液簡易検査方法。
【請求項5】
前記血漿中の被検査物質は抗原であると共に、前記検査試薬は抗体であり、前記検査工程において、抗原抗体反応を行わせることにより検査することを特徴とする請求項4の血液簡易検査方法。
【請求項6】
血液から血球を分離して血漿を回収する血漿回収器具において、
内部に厚みが50μm〜2mmと極めて薄い直方体形状のマイクロ空間を有すると共に、前記マイクロ空間に連通する血液充填口と血漿回収口とを備えた容器と、
前記血液充填口を介して前記容器のマイクロ空間に血液を充填する充填手段と、
前記容器を鉛直方向に対して所定の傾斜角になるように傾斜させる傾斜手段と、
前記血漿回収口から血漿を吸引して回収する吸引手段と、
を備えたことを特徴とする血漿回収器具。
【請求項7】
前記傾斜角は30〜60°の範囲であることを特徴とする請求項6の血漿回収器具。
【請求項8】
前記マイクロ空間の厚みをD、長さをLとしたときに、L/Dで表されるアスペクト比が5〜50の範囲であることを特徴とする請求項6又は7の血漿回収器具。
【請求項9】
前記容器は透明であることを特徴とする請求項6〜8の何れか1の血漿回収器具。
【請求項10】
前記容器の材質は、樹脂、石英ガラス、パイレックスガラスの何れかであることを特徴とする6〜9の何れか1の血漿回収器具。
【請求項11】
前記容器を加熱する加熱手段を設けたことを特徴とする請求項6〜10の何れか1の血漿回収器具。
【請求項12】
血液を簡易的に検査する血液簡易検査器具において、
内部に厚みが50μm〜2mmと極めて薄い直方体形状のマイクロ空間を有し、該マイクロ空間の前記厚み方向で対向する対向面のうちの片面側に検査試薬が固着されると共に、前記マイクロ空間に連通する血液充填口と空気抜き口とを有する容器と、
前記血液充填口から前記容器のマイクロ空間に血液を充填する充填手段と、
前記容器を鉛直方向に対して所定の傾斜角で且つ前記検査試薬を固着した前記片面側が上面になるように傾斜させる傾斜手段と、を備えたことを特徴とする血液簡易検査器具。
【請求項13】
前記検査試薬は抗体であり、前記血液の成分である血漿中の抗原を検査することを特徴とする請求項12の血液簡易検査器具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−82897(P2008−82897A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−263486(P2006−263486)
【出願日】平成18年9月27日(2006.9.27)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.パイレックス
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】