説明

血管動脈瘤の治療用デバイス

血管動脈瘤の治療用デバイスが記載される。治療は、動脈瘤箇所の隔離ボリュームに有効量のエラスチン安定剤を送達することにより達成される。エラスチン安定剤は、送達用組成物に組み込むことができる。デバイスは、任意で、治療効果を向上させる吸引手段を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般には、動脈瘤近傍への局所的送達のために、選択された安定化組成物を送達するデバイスを使用した血管動脈瘤の治療に関する。本発明は、さらに、治療を行うために動脈瘤近傍のボリュームを隔離することができるデバイスに関する。安定化組成物がデバイスで動脈瘤近傍に送達される前に、動脈瘤周辺の隔離ボリューム内の血液を吸引して、組成物の希釈を低減することができる。
【背景技術】
【0002】
動脈瘤は、動脈構造が破壊され、その後、血管が拡張し、最終的に致命的な破裂に至る恐れがあるという特徴を持つ変性疾患である。動脈瘤がよく発生するいくつかの部位には、腹部大動脈(腹部大動脈瘤(AAA))、胸部大動脈、および脳動脈が含まれる。また、脚部の末梢動脈瘤、すなわち膝窩動脈および大腿動脈は、この血管病変が発生する一般的な部位である。そのような末梢動脈瘤の発症は他の部位にある動脈瘤の存在と強い関連があるものと見られ、末梢動脈瘤患者の30乃至60%はAAAもあると推定されている。
【0003】
動脈瘤は、数年をかけて成長し、健康への高い危険性を呈する。動脈瘤は、断裂または破裂して大量の出血、卒中、および出血性ショックを引き起こす可能性があり、それらは症例の80%以上で致命的となる可能性がある。AAAは、特に高齢人口にとっては深刻な健康問題であり、50歳以上の患者の死因の上位10位以内に入る。腹部動脈瘤の推定発症率は、年間10万人当たり約50人である。米国ではAAAのみで毎年約6万件の手術が行われている。小児では、AAAは、鈍的腹部外傷や、大動脈等の主要動脈の血管壁の弾性繊維形成の欠陥であるマルファン症候群の結果、発生する場合がある。
【0004】
動脈瘤は、特にアテローム性動脈硬化症、動脈成分の欠陥、遺伝子感受性、高血圧を含む、大きなクラスの変性疾患および病変が原因となって発症する可能性があり、数年をかけて静かに進行する可能性がある。動脈瘤の特徴には、エラスチン等の血管構造タンパク質の酵素分解、炎症性浸潤物、石灰化、および最終的な脈管構造の全体的な破壊がある。
【0005】
診断された動脈瘤の現在の治療方法は、一般に侵襲性の外科技術に限定される。小さな動脈瘤と初期診断された後、最も一般的な医療手法は、動脈瘤の進行を継続的に観察し、所定の大きさ(例えば直径約5cm)に達すると外科治療が適用されるものである。現在の外科治療は、一般に、血管内のステントグラフトの修復か、または任意で、病変のある血管を血管グラフトと完全に交換することに限定される。そのような外科治療は、動脈瘤患者の生命を救い、生活の質を改善することができるが、術後に起こり得る合併症(例えば神経損傷、出血、または卒中)と、デバイスに関連する合併症(例えば血栓症、漏出、または故障)のために、患者には手術自体の危険性以外の危険性がなお存在する。さらに、動脈瘤の場所または解剖学的構造によっては、侵襲性の外科処置の危険性が、処置で得られ得る利益を上回る場合もあり、例えば脳の深部にある動脈瘤の場合には、患者には治療の選択肢がほとんど残されない。さらに、矯正手術後に動脈瘤が進行した場合は、血管グラフトが緩み、外れる可能性があるため、外科治療で常に永続的な解決が得られるとは限らない。一般に、現在の動脈瘤の治療の選択肢の大半は、機械的なブリッジである。患者によっては、動脈瘤の特定の性質または患者の状態のために、患者がグラフトの修復に適合しない場合もある。
【0006】
動脈瘤は、構造タンパク質の酵素分解が特徴となる唯一の病気ではない。構造タンパク質の分解が重要な役割を果たしていると見られる他の病気には、マルファン症候群、大動脈弁上狭窄、慢性閉塞性肺疾患(COPD)がある。罹患者にとって、それらの病気は、少なく見積もっても生活の質の低下、そしてしばしば早死を招く。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第7252834号
【特許文献2】米国特許出願公開第2007/0293937号
【特許文献3】米国仮特許出願第61/011648号
【特許文献4】米国特許第6463317号
【特許文献5】米国特許第6793664号
【特許文献6】米国仮特許出願第61/066688号
【特許文献7】米国特許第6929626号
【特許文献8】米国特許第6979347号
【特許文献9】国際出願公開第01/41735号
【特許文献10】国際出願公開第2007/064152号
【特許文献11】米国特許出願公開第2006/0034925号
【特許文献12】米国仮特許出願第61/066688号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】J. Pharmaceutical Sciences (1977) 66:1
【非特許文献2】1991, J. Neurosurg. 74:441-6
【発明の概要】
【0009】
一態様では、血管内の隔離されたボリュームを治療するためのデバイスが、開示される。デバイスは、シャフトおよび封止要素を備える。シャフトは、近位端と、遠位端と、近位端または近位端近傍から遠位端または遠位端近傍まで延びた少なくとも1つの管腔と、を有する。一実施例では、管腔は、管腔の近位端にあるポートに連結している。封止要素は、拡張可能要素と、シャフトの管腔と流体連通した1つまたは複数の交換ポートを備えた流体交換部分と、を備える。拡張可能要素は、ロープロファイル形態と、隔離ボリュームと管腔の間の流体の交換のために構成された流動経路を備える流体交換部分の交換ポートと共に、血管の壁を押して血管内に隔離ボリュームを形成する形状の拡張形態と、を有する。
【0010】
一実施例では、拡張形態で配備時のデバイスの封止要素は、拡張可能要素が血管壁と接触した時に血液が隔離ボリュームの側を通って流れることを可能にする経路を、備える。一実施例では、デバイスのシャフトは、さらに、シャフトの遠位端にポートを有する迅速交換ガイドワイヤ管腔を備える。一実施例では、デバイスの拡張可能要素は、拡張形態で膨張され、かつロープロファイル形態で収縮されるバルーンを備え、バルーンはシャフトの管腔の1つと流体連通している。別の実施例では、デバイスの拡張可能要素は、流体不浸透膜と、膜と界接した自動拡張支持部とを備える。自動拡張支持部は、支持部が非拘束状態の時に、拡張可能要素をロープロファイル形態と拡張形態との間で遷移させる。さらに別の実施例では、デバイスの拡張可能要素は、ロープロファイル形態と拡張形態との間の拡張可能要素の遷移を制御する駆動要素を備える。一実施例では、デバイスの流体交換部分は、隔離ボリュームと流体連通した1つまたは複数の交換ポートを備えるデバイスのシャフトの上にある。一実施例では、デバイスの交換ポートはさらに、隔離ボリュームと流体連通した開口を有する、シャフトからずらされた管状導管を備える。別の実施例では、流体交換部分は、デバイスの封止要素の側部に開口を有する、管腔の一部分である側部経路を備える。一実施例では、デバイスはさらに、側部経路および管腔の内部に配置されて封止要素の側部の開口を貫通して隔離ボリュームに接近するマイクロカテーテルを備える。一実施例では、交換ポートは、液体浸透性構造を備える。一実施例では、デバイスはさらに、シャフトの管腔の1つに通じるポートに動作可能に連結された吸引装置を備える。一実施例では、吸引装置は注入器を備える。一実施例では、デバイスはさらに、シャフトの管腔の1つに通じるポートに動作可能に連結された送達要素を備える。送達要素は、血管組織と反応して組織を安定化する安定化液を備える。
【0011】
別の態様では、血管の隔離部分を治療するための方法が開示される。方法は、拡張可能部分が血管の壁とで隔離ボリュームを形成した状態で血管内に配置されるデバイスを使用して、血管の隔離ボリュームに治療用組成物を送達する工程を含む。治療用組成物は、患者から延びるシャフトの管腔と流体連通した流体交換部分を通じて隔離ボリューム中に送達される。
【0012】
一実施例では、方法はさらに、療用組成物の送達の前に隔離ボリュームから流体を吸引する工程を含む。別の実施例では、方法の吸引工程および治療用組成物の送達工程が少なくとも1回反復され、送達される治療用組成物は、同一の組成物である場合も、異なる組成物である場合もある。吸引工程は、デバイスの管腔の1つから流体を抜く工程を含む。一実施例では、治療が行なわれる間、血管中の流動が送達デバイスのバイパス経路を通じて維持される。
【0013】
一実施例では、方法で使用される治療用組成物は、エラスチン安定化組成物を含む。一実施例では、血管の隔離部分は動脈瘤を含む。一実施例では、動脈瘤の体積が吸引後少なくとも約10%縮小される。動脈瘤の体積は、対応する、動脈瘤のない健常な血管と比較した過剰体積として求められる。一実施例では、方法で使用される組成物は、フェノール化合物、タンニン酸もしくはその誘導体、フラボノイドもしくはフラボノイド誘導体、フラボリグナンもしくはフラボリグナン誘導体、フェノール性リゾームもしくはフェノール性リゾーム誘導体、フラバン−3−オールもしくはフラバン−3−オール誘導体、タンニンもしくはタンニン誘導体、エラグ酸もしくはエラグ酸誘導体、プロシアニジンもしくはプロシアニジン誘導体、アントシアニンもしくはアントシアニン誘導体、ケルセチンもしくはケルセチン誘導体、(+)−カテキンもしくは(+)−カテキン誘導体、(−)−エピカテキンもしくは(−)−エピカテキン誘導体、ペンタガロイルグルコースもしくはペンタガロイルグルコース誘導体、ノボタンニンもしくはノボタンニン誘導体、エピガロカテキン没食子酸塩もしくはエピガロカテキン没食子酸塩誘導体、ガロタンニンもしくはガロタンニン誘導体、オリーブ油の抽出物もしくはオリーブ油抽出物の誘導体、カカオ豆もしくはカカオ豆の誘導体、ツバキもしくはツバキの誘導体、カンゾウもしくはカンゾウの誘導体、ムチサンゴもしくはムチサンゴの誘導体、アロエベラもしくはアロエベラの誘導体、カモミールもしくはカモミールの誘導体、それらの組み合わせ、または薬学的に許容し得るそれらの塩、である化合物を、含む。一実施例では、方法で使用される組成物は、さらに、グルタルアルデヒド、没食子酸捕捉剤、脂質低下薬、抗菌剤、抗真菌剤、またはそれらの組み合わせを含む。一実施例では、治療用組成物を送達する工程は、異なる組成物で反復される。例えば、一方の治療用組成物の送達はエラスチン安定化組成物の送達を含み、他方の治療用組成物の送達はグルタルアルデヒドの送達を含むことができる。一実施例では、方法で使用される組成物はさらに、ペンタガロイルグルコースゲル、ヒドロゲル、ナノ粒子、またはそれらの組み合わせを含む、送達ビヒクル(vehicle)を備える。
【0014】
さらなる態様では、マイクロカテーテルを使用して血管の隔離部分を治療するための方法が開示される。方法は、拡張可能部分が血管の壁とで隔離ボリュームを形成した状態で血管内に配置されるデバイスを使用して、血管の隔離ボリュームに治療用組成物を送達する工程を、含み、治療用組成物は、患者から延びるシャフトの管腔の内部に配置されたマイクロカテーテルを通じて隔離ボリューム中に送達される。一実施例では、方法はさらに、治療用組成物の送達の前に、マイクロカテーテルを使用して隔離ボリュームから流体を吸引する工程を含む。一実施例では、吸引工程および治療用組成物の送達工程は少なくとも1回反復され、送達される治療用組成物は、同一の組成物である場合も、異なる組成物である場合もある。
【0015】
一態様では、血管内の動脈瘤を安定化するための方法が開示される。方法は、動脈瘤の少なくとも一部分を含む血管の隔離部分から血液を吸引する工程と、血液が吸引された後に、血管の隔離部分に有効量の血管安定化組成物を適用する工程と、を含む。吸引によって動脈瘤の体積を縮小しても、縮小しなくてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】迅速交換型送達デバイスの概略側面図である。
【図2】図1の送達デバイスのシャフトの断面図である。
【図3】送達デバイスの一実施例の拡張形態の概略図である。
【図4】図3のデバイスの拡張可能要素の断面図である。
【図5】動脈瘤近傍に配備された図3のデバイスの概略側面図である。
【図6】送達デバイスの一実施例の拡張形態の概略正面図である。
【図7】動脈瘤近傍に配備された図6のデバイスの概略背面図である。
【図8】自動拡張式の支持部を有する送達デバイスの一実施例の拡張形態の概略図である。
【図9】自動拡張式の支持部を有する送達デバイスの別の実施例の拡張形態の概略側面図である。
【図10】図9のデバイスの拡張可能要素の断面図である。
【図11】自動拡張式の支持部を有する送達デバイスの一実施例の拡張形態の概略図である。
【図12】図11のデバイスの概略側面図である。
【図13】駆動要素を有する送達デバイスの一実施例の拡張形態の概略図である。
【図14】脈管内で動脈瘤の近傍に誘導されるデバイスの概略図である。
【図15】ロープロファイル形態で動脈瘤近傍に配置された図14のデバイスの図である。
【図16】動脈瘤近傍のボリュームを隔離するために拡張形態で配備された図15のデバイスの図である。
【図17】動脈瘤近傍の隔離ボリュームから流体を吸引する、配備された図16のデバイスの図である。
【図18】動脈瘤近傍の隔離ボリュームに有効量の治療用組成物を送達する、配備された図16のデバイスの図である。
【図19】脈管から回収されるロープロファイル形態にある図14のデバイスの概略図である。
【図20】デバイスのシャフト上に側部経路を有する送達デバイスの一実施例の拡張形態の概略側面図である。
【図21】デバイスの側部経路の内部にマイクロカテーテルを配置した状態で動脈瘤近傍に誘導される図20のデバイスの図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本明細書に記載のデバイスは、患者の脈管系または他の脈管を通じて対象血管領域に接近する低侵襲性の処置により、血管の選択部分周辺のボリュームを隔離できるようにする。デバイスはさらに、治療用組成物との全身性接触および治療用組成物の希釈を大幅に低減または解消できるように、動脈瘤または他の脈管状態のための治療用組成物を隔離ボリュームに送達できるようにする。一部の実施例では、本明細書に記載される手法は、デバイスを使用して任意で動脈瘤周辺の血液を吸引し、その後、動脈瘤の部位に安定剤を送達することにより動脈瘤の部位の血管を安定化し、かつ/または、例えばエラスチンのような構造タンパク質で支えられる脈管構造のさらなる分解を低減することができる血管内手法を用いた動脈瘤の治療を提供する。したがって、隔離ボリュームは、安定剤の効果を向上させる目的に貢献する。該当する実施例で、安定剤は、プルロニックヒドロゲルおよび/またはポリマーナノ粒子等の送達用組成物に埋め込むか、かつ/または、送達用組成物に付随させることができる。一部の実施例では、隔離ボリュームを迂回するように設計された流動経路を通じて、脈管中で隔離ボリュームの側を通る血流を維持することができる。本明細書の記載は、大動脈瘤および脳動脈瘤を中心とするが、本明細書に記載の治療手法は、本明細書の教示に基づいて、他の動脈瘤ならびに他の脈管障害および疾患に合わせて一般化することができる。一般に、デバイスの標的とする結合組織を安定化させて、例えば、動脈瘤、アテローム性動脈硬化症、遺伝的感受性、鈍器損傷、マルファン症候群等に伴うもの等、各種の機序および/または状態が原因で生じ得るタンパク質分解の影響を受けにくくすることができる。
【0018】
結合組織は、他の種類の組織、すなわち上皮組織、筋組織、および神経組織がその上に支持される骨組みである。結合組織は、一般に、相互と直接には結合せず、細胞外基質中に保持された個別の細胞からなる。そして細胞外基質は固有の機械的特性を持つ固有の細胞から排出される組成物からなり、それらの組成物には、例えばコラーゲン繊維やエラスチン繊維等の繊維成分が含まれる。結合組織は広く異なる構造をとり得る。血管は、一般に、例えば血管を覆う内皮細胞の薄層を持つ結合組織を伴う。
【0019】
動脈瘤の箇所で、血管は組織の分解を示す。血管内の血圧のために、血管の組織が弱くなると血管は一般に組織が弱くなった箇所で拡張する。この拡張はさらに、拡張近傍に流動を生じさせる。血管がさらに弱くなると、血管中の圧力のために血管が破裂し、それに対応する悪影響が伴う可能性がある。本明細書に記載される一部の実施例では、組織の安定化と併せて、血管のより正常な機能を期待できるように、血管の自然形状により似せて血管を造形することができる。
【0020】
本明細書に開示されるデバイスは、結合組織のエラスチン成分および特に血管または他の脈管の安定化のための治療用組成物の局所的な送達を対象とすることができる。一部の実施例では、デバイスは動脈瘤形成の影響を受ける血管の安定化を対象とすることができるが、他の実施例では、他の器官、他の疾患、および/または他の状態を治療できることを理解すべきである。詳細には、開示される治療剤および治療プロトコルは、脈管のエラスチン成分を含む動物および人間の結合組織に適用できる可能性がある。
【0021】
本明細書に記載されるように、低侵襲性の処置を使用して動脈瘤近傍の組織を安定化する化学安定剤を送達することができる。化学的安定化と併せて、何らかの程度の構造的再造形を行うことができる。対して、動脈瘤の外科治療は、血管内のステントグラフトの修復(脈管内部への管の設置)または病変のある大動脈もしくは他の血管を人工血管グラフトに完全に交換することを伴う。動脈瘤の外科治療は、毎年数千人の命を救い、生活の質を改善している。しかし、手術に関連する合併症やデバイスに関連する問題のために、術後10年生存率はわずか50%まで低下する可能性がある。加えて、そもそも血管内ステントが解剖学的に適するのはAAA患者のわずか30%乃至60%であり、エンドリーク(endoleak)およびグラフトのずれの危険性を呈する。さらに、フルサイズのグラフトを挿入するための観血手術は侵襲性が高く、高い手術リスクに耐えられる患者に使用が限定される。年齢は、現在の動脈瘤の治療手法に関連する主要なリスク要因の1つであるため、そのような衰弱および生命の危険の可能性がある血管内病状の早期介入は有利である可能性がある。
【0022】
動脈瘤の化学的安定化治療のための処置が、Vyavahare他による米国特許第7252834号(’834号特許)、名称「結合組織のエラスチン安定化」に記載され、同文献は参照により本明細書に組み込まれる。本明細書のデバイスおよび方法は、一部の実施例で、’834号特許の組成物ならびに血管組織のための他の安定剤および/または治療剤の効果的な送達を提供する。本明細書に記載のデバイスは、脈管系を通じた低侵襲性の処置を用いて治療部位に配置できるデバイスを使用して、動脈瘤の近傍等の血管壁の一区間を隔離する。したがって、デバイスの近位端は患者体外に留まり、一方、デバイスの遠位端は患者の脈管系を通じて治療箇所に挿入される。
【0023】
血管壁の隔離は、隔離された治療箇所を定める構造を貫通する専用の導管または適切に設計された開口に基づいて、血流が隔離領域の側を継続的に通過できるようにするデバイス設計を用いて行うことができる。さらに、デバイスは、動脈瘤以外の疾患の治療に使用するために適合することができる。本明細書に記載のデバイスとは対照的に、選択された脈管領域を隔離せずに治療流体を領域に送達できるデバイスがBiggs他による米国特許出願公開第2007/0293937号、名称「Endoluminal Medical Device for Local Delivery of Cathepsin Inhibitors, Method of Making and Treating」に記載され、同文献は参照により本明細書に組み込まれる。しかし、選択された血管部分を隔離せずに治療流体が血管中に放出されると、治療流体が、選択された血管領域より下流の血流中に放出され、治療流体が著しく全身に送達される。
【0024】
本発明のデバイスは、一般に、シャフトおよび封止要素を備える。封止要素は、拡張可能部分および流体交換部分を備える。封止部分は、一般に、ロープロファイルの送達形態と、隔離ボリュームを形成した配備時の拡張形態と、を有する。具体的には、配備されたデバイスは、血管内の選択領域の上流および下流で血管壁と接触して隔離ボリュームを形成する。流体交換部分は、隔離ボリュームからの流体の除去および/または送達を可能にする。封止要素は、流動の迂回路を形成することができ、デバイスが配備された時に脈管中の流動が隔離ボリュームの側を通って流れることができる。
【0025】
動脈瘤近傍の血管領域の隔離は、バルーン等の1つまたは複数の拡張可能構造を使用して、または、脈管内で放出されると所望の形態をとる自動拡張型の構造を使用して、実現することができる。バルーンを利用したデバイスは、一般に、1つまたは複数のバルーンを膨張させる液体を送達する管腔を備える。同一の管腔を治療剤の送達に使用しても、そうでなくともよい。別の管腔を使用して、隔離された脈管領域から血液を吸引することができる。一部の実施例では、第1の管腔を通じて不活性液でバルーンを膨張させ、第2の管腔を通じて吸引および治療液の送達が行われる。吸引と流体の送達が単一の管腔を通じて順次行われる場合は、管腔は、隔離ボリュームに治療液を送達できるように、管腔から液体を除去するために吸引で折り畳めるようにすることができる。これに代えて、またはこれに加えて、管腔を通じて1つまたは複数のマイクロカテーテルを送達してマイクロカテーテルで隔離ボリュームに接近することができ、マイクロカテーテルを使用して隔離ボリュームを吸引、または治療剤を送達することができる。
【0026】
一部の実施例では、デバイスは、適切な膜に動作可能に連結された1つまたは複数の自動拡張要素を備える。自動拡張要素は、シースから、または駆動ツールを使用して、放出することができる。例えば、ばね式の金属製の枠がシースから放出されると再び拡張形態を採ることができる。同様に、器具を使用して、枠を送達形態から配備形態に遷移させることができる。自動拡張型の要素は、一般に、脈管壁まで拡張して、膜および自動拡張要素で封鎖されたボリュームを形成し、脈管壁の一区間が、封鎖されたボリュームの境界の一部を形成する。
【0027】
封鎖されたボリュームに関連する脈管壁の区間は、一般に、動脈瘤の少なくとも一部等、治療のために選択された脈管壁部分を含む。デバイスの流体交換部分が、隔離ボリュームへの接近を提供する。デバイスの近位端または近位端近傍から延在するデバイスのシャフトに付随する1つまたは2つの管腔により、流体交換部分およびそれに対応して封鎖ボリュームへの流体連通が提供される。具体的には、1つの管腔を使用して対象領域から血液を排除することができ、同一の管腔または別の管腔を使用して治療剤を送達することができる。
【0028】
一般に、動脈瘤は、適切な画像化技術を使用して最初に識別される。デバイスは、低侵襲性の処置を用いるカテーテル等の送達技術を使用して脈管中に導入することができる。デバイスの封止部分は、脈管中で動脈瘤の近くに配置されるように配向して、形成される封鎖ボリュームが動脈瘤の少なくとも一部分を包含するようにする。一部の実施例では、封鎖ボリュームから血液を排除することができる。封鎖ボリュームから血液を排除すると、圧力が血管内の血圧未満に下がった。脈管に適当な弾性がある場合は、動脈瘤は、動脈瘤の体積を減少させて脈管の少なくとも一部を自然形状に戻す形で圧力の低下に反応することができる。また、封鎖ボリュームに治療剤を導入することができる。治療剤は、組織を安定化してさらなる分解および機械的不安定性を防ぐことができる。組織を安定化すると、対応する深刻な結果または場合によっては致命的な結果を伴う、動脈瘤破裂の可能性を低下させることができる。血液の排除と安定剤の付加の組み合わせの使用により、動脈瘤をより歪みのない形状に安定化することができる。
【0029】
本明細書に記載のデバイスおよびそれに対応するプロセスは、動脈瘤の進行を阻止および/または後退させ、脈管壁のさらなる脆弱化および拡張を予防する治療を提供することができる。これらの処置は、回復時間を短縮し、患者に対する処置のリスクを軽減する低侵襲性の方式で実施することができる。
【0030】
エラスチン安定剤の送達用デバイス
本明細書に記載の送達デバイスは、低侵襲性の処置を使用して血管内に導入することができる。デバイスの遠位端は、動脈瘤の近傍または脈管内の他の治療箇所に配置することができる。一般に、デバイスは、シャフト、封止要素、および遠位端または遠位端近傍の箇所から近位端または近位端近傍の箇所までの流動通路を提供する(1つまたは複数の)流動管腔を備える。1つまたは複数の流動管腔は、シャフトを貫通して延在し、脈管の隔離ボリュームへの流体の送達および/または流体の除去を可能にする。封止要素は、治療流体の局所的送達のために動脈瘤または他の対象領域に接近できるように、選択箇所で脈管壁に対してボリュームを隔離するように構成される。一般に、デバイスは、さらに、脈管流動が封止要素の側を通って流れるための通路を備える。デバイスは、任意で、ガイドワイヤとのデバイスのオーバーザワイヤ型または迅速交換型の接点としてのガイド管腔を備えることができる。デバイスは動脈瘤の治療に有効であり得るが、デバイスは、血管の一部分の局所的治療のために他の状況で使用することができる。
【0031】
シャフトは、患者の血管中に送達するのに適した寸法を有することができる。詳細には、シャフトの直径は、所望の脈管を無理なく通る小ささであるべきである。シャフトの長さは、所望の箇所に届き、同時にデバイスの適当な一部分が患者から延びた状態を維持するように選択することができる。シャフトは、患者から延びた近位端の操作に基づいて、遠位端近傍に流体を送達および/または流体を除去するための、選択された数の流動管腔を、有することができる。特に対象とする実施例では、直接、またはマイクロカテーテルを使用して、隔離ボリュームに治療用組成物を送達するために、少なくとも1つの管腔が必要である。
【0032】
一般に、シャフトは、1、2、3、または4つ以上の別個の流動管腔を有することができる。3つの流動管腔を使用する場合は、1つの流動管腔を使用してバルーン等を拡張して封止要素を拡張させ、第2の流動管腔を使用して隔離ボリュームから血液を吸引し、第3の流動管腔を使用して治療用組成物を送達することができる。デバイスがバルーン型構造ではなく自動拡張式の封止要素を有する場合は、バルーン等を拡張する流体の供給に使用される管腔は必要ない。さらに、一部の実施例では、管腔の機能は組み合わせることができる。例えば、単一の管腔を使用して封止構造の1つまたは複数のバルーンを拡張することができ、同一の管腔を使用して、徐々に流体を隔離ボリュームに漏出させることによって治療用組成物を送達するのと同時に、(1つまたは複数の)バルーン内の適切な圧力を維持することができる。また、隔離ボリュームは、治療用組成物の送達にも使用される管腔を使用して吸引することができる。単一の管腔を流体の吸引および送達の両方に使用する場合、流動管腔は、十分な吸引を加えると折り畳む材料から形成することができ、血液または他の体液で満たされた管腔に妨害されずに治療流体を送達することができる。単一の管腔を複数の機能に使用する場合は、管腔の数はそれに応じて減らすことができる。単一の管腔の多機能性は、隔離ボリュームに接近するために送達されるマイクロカテーテルで得ることができ、その場合、治療剤の吸引および送達には同一のマイクロカテーテルを使用しても異なるマイクロカテーテルを使用してもよい。一部の実施例では、管腔を通して送達して隔離ボリュームに接近する前に、マイクロカテーテルに治療剤を事前に装填することができる。
【0033】
さらに、シャフトは、ガイドワイヤまたは同様のガイド構造でデバイスを搬入するためのガイド管腔を有することができる。一部の実施例では、デバイスは迅速交換形態を有し、ガイド管腔は、デバイスの遠位端に近い、デバイスの短い方の区間にわたってのみ延在する。脈管を通る流動が封止要素の側を通過するためのバイパス通路も、ガイド管腔として使用することができる。ただし、デバイスは、ガイドワイヤがシャフトの全長または大半にわたって延在するオーバーザワイヤ形態を、有することができる。
【0034】
封止要素は、一般に、拡張していない送達形態、および拡張した配備形態を有する。拡張した配備形態では、封止要素は、脈管壁の一部内のボリュームを隔離して、隔離ボリュームの境界を形成する。隔離ボリュームは、治療用組成物を全身に暴露することなく動脈瘤の治療を行うことを可能にする。さらに、隔離ボリュームにより、動脈瘤箇所の圧力を局所的に下げることができる。封止要素は、脈管の2つの位置を別々に封止する、間隔を空けた2つの構成部品を、備えることができる。あるいは、封止要素は、構成部品同士を連結したシートを有する、間隔を空けた2つの構成部品を、備えることもでき、端部構成部品が脈管壁と接触し、シートが、端部構成部品間のボリュームを脈管壁と共に隔離して、隔離ボリュームの外側境界を形成する。
【0035】
図1を参照すると、迅速交換型の送達デバイスが概略的に示される。隔離/送達デバイス100は、シャフト102と、封止要素104と、ガイドポート108および対応する3つの管腔を通じて流体を送達または除去するための3つのアクセスポート110、112、114を備えたガイド管腔106と、を備える。図では、ガイドワイヤ120は、シャフトに取り付けられた別個のガイド管腔106を貫通して延在している。図2を参照すると、シャフト102は、それぞれアクセスポート110、112、114と流体連通した3つの流動管腔122、124、126を備える。図1を参照すると、アクセスポート110、112、114は、それぞれ流動デバイス116、118、120と連結されている。流動デバイスは、注入器、ポンプ等、またはそれらの組み合わせとすることができる。例えば、空の注入器を使用して流体を排除し、液体の入った注入器を使用して脈管中の隔離ボリュームに液体を送達することができる。ルアー(Luer)フィッティングまたは当分野で周知等の他の適当なフィッティングを使用して、流動デバイスをアクセスポートに取り付けることができる。
【0036】
図3を参照すると、隔離/送達デバイスの一実施例の拡張形態を示す。隔離/送達デバイス300は、シャフト302、およびシャフトに取り付けられた拡張可能要素304を備える。図4に示すように、シャフトは、拡張可能要素304と流体連通した2つの管腔322および324を備える。シャフトの近位端または近位端近傍で、管腔はそれぞれ、液体送達および/または吸引デバイスと連結された別個のポートと流体連通している。
【0037】
拡張可能要素304は、遠位バルーン306、近位バルーン308、流体交換部分310、およびバイパス経路312を備える。管腔322は、バルーン306、308と流体連通しており、バルーンの膨張および収縮は、管腔322を流される流体で調節することができる。流体交換部分310は、管腔324と流体連通した複数の開口316を有する。脈管中に配備されると、バルーン306、308が隔離ボリュームを形成し、隔離ボリュームに出入りする流体は、流体交換部分310を通じて調節することができる。
【0038】
図5を参照すると、脈管330内で管腔322からの流体で拡張可能要素304を膨張させることによってデバイスが拡張される。拡張形態では、遠位バルーン306および近位バルーン308が脈管壁332を押して脈管の一部を隔離して、動脈瘤336の近傍に隔離ボリューム334を形成する。管腔322は、ポート340を通じて遠位バルーン306に接近し、ポート342を通じて近位バルーン308に接近する。管腔324は、ポート344を通じて流体交換部分310に接近する。
【0039】
図3に示すように、バイパス経路312により、血液等の脈管流体が拡張可能要素304を通って通過することができる。流体交換部分の複数の開口316は、隔離ボリューム334と流体連通している。隔離ボリューム334内の流体を開口316を通じて管腔324中に吸引して隔離ボリューム内の圧力を下げ、可能性としては動脈瘤336の拡大した体積を縮小することができる。吸引後、管腔324を通じて治療用組成物を流体交換部分310に送達して、開口316を通じて隔離ボリューム334中に放出することができる。一部の実施例では、流体交換部分310の開口316は、代替の液体浸透性構造に置き換える、または液体浸透性構造で補うことができる。ガイドワイヤ構造と同様であってよい柔軟構造350がデバイスの遠位端から延びてデバイスの送達を容易にすることができるが、代替または追加実施例においては、デバイスは、オーバーザワイヤ形態または迅速交換形態ではガイドワイヤに載置することができる。
【0040】
図6を参照すると、隔離/送達デバイスの一実施例の拡張形態が示される。隔離/送達デバイス400は、シャフト402および拡張可能要素404を備える。シャフトは、拡張可能要素404と流体連通した2つの管腔422、424を備える。デバイスは、脈管中に誘導するための柔軟性のあるガイドワイヤ様の構造418を任意で有する。シャフトの近位端または近位端近傍で、シャフト402の管腔は、液体送達/除去デバイスにそれぞれ連結可能なポートと流体連通している。
【0041】
拡張可能要素404は、遠位バルーン406、近位バルーン408、流体交換部分410、およびバイパス経路412を備える。管腔424は、ポート426、428を通じてバルーン406、408と流体連通しており、バルーンの膨張および収縮は、管腔424を流される流体で調節することができる。流体交換部分410は、管腔422と流体連通した複数の開口416を有する。一部の実施例では、流体交換部分410の開口416は、代替の液体浸透性構造に置き換える、または液体浸透性構造で補うことができる。脈管中に配備されると、バルーン406、408が脈管内部で隔離ボリュームを形成し、隔離ボリュームに入る流体の流れは、流体交換部分410を通じて調節することができる。
【0042】
図7を参照すると、脈管430中で管腔424からの流体で拡張可能要素404を膨張させることによりデバイスが拡張される。拡張形態では、遠位バルーン406および近位バルーン408が脈管壁432を押して脈管の一部を隔離して、動脈瘤436の近傍に隔離ボリューム434を形成する。バイパス経路412により、血液等の脈管流体が拡張可能要素404を通って通過することができる。流体交換部分の複数の開口416(図6)は、隔離ボリューム434と流体連通している。管腔422を通じて治療用組成物を送達して、開口416を通じて隔離ボリューム434中に放出することができる。
【0043】
図8を参照すると、隔離/送達デバイスの一実施例の拡張形態が示される。隔離/送達デバイス500は、シャフト502、およびシャフトに取り付けられた自動拡張要素504を備える。デバイスは、脈管中への誘導を行うための柔軟性のあるガイドワイヤ様の構造518を任意で有する。シャフトは、流体交換部分510と、シャフトの近位端または近位端近傍で液体送達および/または吸引デバイスと流体連通している中央管腔と、を備える。
【0044】
自動拡張要素504は、遠位拡張可能要素506、近位拡張可能要素508、およびバイパス経路512を備える。自動拡張要素504の拡張および折り畳みは、カテーテル520を通じて制御される。折り畳まれた形態では、自動拡張要素504は、シャフトと共にカテーテル520内部に収容される。カテーテル520が引き戻されると、形状記憶ワイヤ514が拡張して自動拡張要素504を配備する。流体交換部分510は、管腔と流体連通した複数の開口516を有する。脈管中に配備されると、自動拡張要素506、508が脈管壁を押して脈管の一部分を隔離して隔離ボリュームを形成し、隔離ボリュームに出入りする流体の流れは、流体交換部分510を通じて調節することができる。また、バイパス経路512により、血液等の脈管流体が自動拡張要素504を通って通過することができる。デバイスが動脈瘤近傍に配備されると、隔離ボリューム中の流体を開口516を通じて管腔中に吸引して、隔離ボリューム内の圧力を下げ、また可能性としては動脈瘤の拡大した体積を縮小することができる。吸引後、管腔を通じて流体交換部分510に治療用組成物を送達して、開口516を通じて隔離ボリューム中に放出することができる。一部の実施例では、流体交換部分510の開口516は、代替の液体浸透性構造に置き換える、または液体浸透性構造で補うことができる。
【0045】
図9および図10を参照すると、隔離/送達デバイス600の一実施例の拡張形態が示される。隔離/送達デバイス600は、シャフト602、およびシャフトに取り付けられた自動拡張要素604を備える。デバイスは、脈管中に誘導するための柔軟性のあるガイドワイヤ様の構造618を任意で有する。シャフト602は、流体交換部分670と、シャフトの近位端または近位端近傍で(1つまたは複数の)液体送達および/または吸引デバイスと流体連通した中央管腔と、を備える。
【0046】
自動拡張要素604は、遠位枠606、近位枠608、および流体不浸透膜610を備える。膜610は、非孔質ポリマーシート、金属箔、それらの組み合わせ等から形成することができる。遠位枠606は、固定具616、618でシャフト602に取り付けられた形状記憶ワイヤ614を備え、近位枠608は、固定具622、624でシャフト602に取り付けられた形状記憶ワイヤ620を備える。シャフト602の中央管腔は、中央管腔と流体連通した、先端に開口628を有する管626を通じて、膜610の外側に開口している。シャフト602と膜610との間の空間が、脈管中の流動が自動拡張要素604を通過するための流動バイパス経路630を形成する。自動拡張要素604の拡張および折り畳みは、カテーテル632で制御される。折り畳まれた形態では、自動拡張要素604はカテーテル632の中に折り畳まれ、ワイヤ枠614、620はカテーテルで拘束されてロープロファイル形態になる。カテーテル632が引き戻されると、形状記憶ワイヤ614、620が外側に拡張して拡張可能要素604を配備し、脈管壁に接触して脈管壁と膜との間に隔離ボリュームを形成する。
【0047】
図11および図12を参照すると、隔離/送達デバイスの別の実施例の拡張形態が示される。隔離/送達デバイス700は、シャフト702、およびシャフトに取り付けられた自動拡張要素704を備える。デバイスは、デバイスを脈管中に誘導するための、シャフトの遠位端から延びる柔軟性のあるガイドワイヤ様の構造718を任意で有する。シャフトは、流体交換部分710と、シャフトの近位端または近位端近傍で(1つまたは複数の)液体送達および/または吸引デバイスと流体連通した中央管腔と、を備える。
【0048】
自動拡張要素704は、遠位支持部706、近位支持部708、および非多孔質膜712を備える。非多孔質膜712は、配備されると脈管の一区間の周囲に隔離ボリュームを形成する。自動拡張要素704の拡張および折り畳みは、カテーテル720で制御される。折り畳まれた形態では、自動拡張要素704は、カテーテル720内部に折り畳まれる。カテーテル720が引き戻されると、自動拡張要素704が拡張してバイパス流動経路714を形成する。流体交換部分710は、シャフトを貫通して延在する管腔と流体連通した複数の開口716を有する。脈管内に配備されると、支持部706、708が脈管壁を押すように拡張して脈管の一部分を隔離して隔離ボリュームを形成し、隔離ボリュームに出入りする流体の流れは、流体交換部分710を通じて調節することができる。さらに、バイパス経路714により、血液等の脈管流体が拡張した要素704を通って通過することができる。デバイスが動脈瘤近傍に配備されると、開口716を通じて隔離ボリューム中の流体を管腔中に吸引して隔離ボリューム内の圧力を下げ、また可能性としては動脈瘤の拡大した体積を縮小することができる。吸引後、管腔を通じて治療用組成物を流体交換部分710に送達して、開口716を通じて隔離ボリューム中に放出することができる。一部の実施例では、流体交換部分710の開口716は、代替の液体浸透性構造に置き換える、または液体浸透性構造で補うことができる。
【0049】
図13は、図11および12に類似するが駆動要素を備える実施例を示す。図13を参照すると、隔離/送達デバイス740は、シャフト742、シャフトに取り付けられた拡張要素744、および駆動要素746を備える。デバイスは、デバイスを脈管中に誘導するための、シャフトの遠位端から延びる柔軟性のあるガイドワイヤ様の構造748を任意で有する。シャフトは、流体交換部分750と、シャフトの近位端または近位端近傍で(1つまたは複数の)液体送達および/または吸引デバイスと流体連通した中央管腔と、を備える。
【0050】
自動拡張要素744は、遠位支持部756、近位支持部758、遠位支持部756と近位支持部758を連結する連結支持部760、および非多孔質膜762を備える。非多孔質膜762は、配備されると脈管壁の一区間の周辺に隔離ボリュームを形成する。流体交換部分750は、シャフトを貫通して延在する管腔と流体連通した複数の開口を有する。
【0051】
近位支持部758は、ワイヤ等である駆動要素746に連結される。駆動要素746は、ループ770で誘導されてシャフト742に沿って延びるが、ループ770は、駆動要素管腔に置き換えることができる。駆動要素746が近位方向に引っ張られると、近位支持部758および遠位支持部756がその弾性のために折り畳んで送達形態になる。駆動要素を遠位方向に動かすと、支持部は、図13に示すように配備形態に遷移する。
【0052】
図20を参照すると、隔離/送達デバイス900の一実施例の拡張形態が示される。隔離/送達デバイス900は、シャフト902、およびシャフトに取り付けられた拡張可能要素904を備える。シャフトは、アクセス管腔922、バルーン管腔924、および流体交換部分970を備える。流体交換部分970は、拡張可能要素904の側部に側部開口914を有する、アクセス管腔922に連結された遠位側部経路部分910を、備える。一実施例では、アクセス管腔922は、流体交換部分970で終端して側部経路910との平滑な連結部を形成する。拡張可能要素904は、遠位バルーン906、近位バルーン908、バイパス経路912、および側部開口914を備える。バルーン管腔924は、バルーン906、908と流体連通しており、バルーンの膨張および収縮は、上記管腔を流される流体で調節することができる。
【0053】
図21を参照すると、図20のデバイスが脈管930内部の動脈瘤936の近傍に配備されている。拡張形態では、遠位バルーン906および近位バルーン908が脈管壁932を押して脈管930の一部を隔離して、動脈瘤936の近傍に隔離ボリューム934を形成する。側部経路910と側部開口914を通じてアクセス管腔922の内部にマイクロカテーテル940が配置されて、隔離ボリューム934に到達することができ、カテーテルは遠位端942および近位端944を備える。
【0054】
一実施例では、第1のマイクロカテーテル940を使用して、マイクロカテーテルの近位端944に取り付けられた吸引装置を通じて隔離ボリューム934から流体を吸引する。次いで、第1のマイクロカテーテル940を第2のマイクロカテーテル940と交換して、第2のマイクロカテーテル940の近位端944に取り付けられた送達デバイスを通じて隔離ボリューム934に安定剤を送達する。一実施例では、第2のマイクロカテーテル940には安定剤が事前に装填される。上記のように工程の1つまたは複数を反復することができる。
【0055】
患者体内のデバイスの視覚化を得るために、デバイスまたはデバイスの選択部分を、X線画像化等の画像化技術を使用して視覚化できる放射線不透過性材料から形成することができる。一般に、封止要素の配置は選択されたボリュームの隔離を目的とするので、特定の画像化マーカを封止要素の箇所または封止要素周辺に含めることが望ましい場合がある。したがって、マーカ帯、放射線不透過材等を、封止要素の箇所または封止要素近傍に配置して、身体の脈管内の所望箇所への封止要素の配置を支援することができる。
【0056】
送達デバイスは、1種または複数種の生体適合性材料から形成することができ、それらの材料には、例えば、ステンレス鋼もしくは合金、例えばNitinol(登録商標)等の金属、または、ポリエーテルアミドブロック共重合体(PEBAX(登録商標))、ナイロン(ポリアミド)、ポリオレフィン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエステル、ポリウレタン、ポリカーボネート、もしくはその他の適切な生体適合性ポリマー等のポリマーが含まれる。放射線不透過性は、プラチナ−イリジウム合金やプラチナ−タングステン合金等のマーカを付加することにより、または、高分子樹脂に添加された、硫酸バリウム、三酸化ビスマス、次炭酸ビスマス、粉末タングステン、粉末タンタル等の放射線不透過剤を用いて実現することができる。一般に、シャフトのいくつかの異なる区間は、他の区間と異なる材料から形成することができ、シャフトの区間は、いくつかの異なる箇所および/または特定の一箇所で、複数種の材料を備えることができる。バルーン等は、適切な弾性ポリマー等から形成することができる。流体交換部分のいくつかの実施例を形成する多孔質膜は、選択された孔がシート内に配置されたポリマーシート等から形成することができ、孔の数および大きさは、所望程度の流体通過が得られるように配置される。
【0057】
ボリュームを隔離し、局所化された治療を提供するための処置
本明細書に記載されるデバイスを使用する処置は、一般に、デバイスを血管内に導入する工程と、デバイスを動脈瘤の部位近傍に配置する工程と、デバイスを駆動して動脈瘤の部位を隔離する工程と、動脈瘤の部位の周辺から血液を吸引する工程と、有効量の治療剤を動脈瘤の部位に送達する工程と、デバイスの駆動を解除する工程と、血管からデバイスを取り出す工程と、を含む。任意で、動脈瘤部位周辺から血液を吸引し、有効量の治療剤を動脈瘤の部位に送達する工程は、所望の効果を達成するために反復することができる。送達される治療用組成物は、同一の組成物である場合も、異なる組成物である場合もある。例えば、一方の治療用組成物の送達はエラスチン安定化組成物の送達を含み、他方の治療用組成物の送達はグルタルアルデヒドの送達を含み、それらは所望の順序で順次送達することができる。デバイスを配置する箇所を特定するために、処置の実施前ならびに処置中に適切な画像化が行われる。
【0058】
デバイスは他の処置に使用することができるが、動脈瘤の治療は非常に重要な臨床問題であり、また近年有用な治療剤が開発されていることから、以下の解説は動脈瘤の治療に的を絞る。ただし、隔離ボリュームの形成を通じて、他の脈管疾患または損傷を治療することができる。例えば、組織プラスミノゲン活性化因子(tPA)やウロキナーゼ等の血栓溶解剤、または弱酸、または石灰化プラークを再吸収するオステオポンチン等の抗石灰化酵素の送達を通じて、脈管の石灰化部分を治療することができる。
【0059】
動脈瘤に関しては、血液検査を使用して動脈瘤の進行を追跡する新しい技術が開発されている。そのような技術については、2008年1月18日出願のOgle他による同時係属米国仮特許出願第61/011648号、名称「Diagnostic Biomarkers for Vascular Aneurysm」にさらに記載され、同文献は参照により本明細書に組み込まれる。動脈瘤が、識別され、治療を開始する段階まで進行すると、一般には画像化を使用して動脈瘤の位置を特定し、病状の重症度を評価し、治療処置の手法を特定する。
【0060】
高解像度の画像化技術(CT、MRI)の発達により、動脈瘤拡大の程度を診断および特定する方法を利用することができる。各種の適切な造影剤を使用して画像化を強化することができる。動脈瘤の処置を導く磁気共鳴およびCT画像化技術の使用については、Kucharczyk他による米国特許第6463317号、名称「Device and Method for the Endovascular Treatment of Aneurysms」、およびMazzocchi他による米国特許第6793664号、名称「System and Method of Minimally-Invasive Endovascular Aneurysm Treatment」にさらに記載され、両文献は参照により本明細書に組み込まれる。
【0061】
特定された動脈瘤の位置に基づいて、安定剤送達のために動脈瘤までデバイスを誘導する処置を行うことができる。図14を参照すると、送達デバイス802の封止要素800が、動脈瘤806のある脈管804内に送達される。図では、封止要素800はロープロファイルの送達形態にある。図15を参照すると、動脈瘤806近傍に封止要素800が配置される。デバイス800表面の放射線不透過マーカを使用して、処置中に画像化を行って脈管内の封止要素800の位置を特定することができる。
【0062】
図16を参照すると、隔離ボリューム808を形成した拡張形態の封止要素800が示される。拡張形態への遷移は、デバイスの特有の設計に基づいて行なうことができる。例えば、拡張形態への遷移は、例えば1つまたは複数のバルーンのファイリングを通じて、またはシースからの自動拡張部材の放出を通じて、または駆動要素を使用することにより、行うことができる。
【0063】
脈管中の流動は、バイパス経路810を通じて維持される。流体交換部分812は、デバイス802の管腔と隔離ボリューム808との間で流体を交換するために構成される。図17に示す任意の工程で、流体交換部分812およびデバイス802の管腔を通じて隔離ボリューム808から血液が排除される。血液を排除すると隔離ボリューム808内の圧力が下がり、その結果、動脈瘤806の箇所における脈管の歪みが低減されるか、または解消される可能性がある。
【0064】
図18を参照すると、隔離ボリューム808中に安定化組成物が送達され、組成物は動脈瘤806と相互作用して動脈瘤箇所の脈管を安定化する。安定化組成物は、デバイス802の管腔を通して、流体交換部分812を通じて送達される。脈管内の流動はバイパス経路810を通じて維持されるので、安定化組成物が脈管壁に作用するための適度な時間を得ることができる。一部の実施例では、治療は、約1分乃至約5時間の時間継続することができ、さらなる実施例では約5分乃至約60分、追加的実施例では約15分乃至約30分間継続することができる。当業者は、上記の明示的な範囲内にある他の治療時間範囲が企図され、本開示の範囲内にあることを認識されよう。吸引工程および/または治療用組成物の送達工程が少なくとも1回繰り返され、送達される治療用組成物が同一である場合も異なる場合もある実施例に関しては、反復される工程に関して本明細書で述べられる治療時間は、同じ場合も、異なる場合もある。例えば、一方の治療用組成物の送達は、例えば約5分乃至約30分間脈管に作用することが許されるグルタルアルデヒドの送達を含むことができ、他方の治療用組成物の送達は、例えば約15分乃至約30分間脈管に作用することが許されるエラスチン安定化組成物の送達を含む可能性がある。
【0065】
図19を参照すると、安定化組成物との接触を提供するための選択された時間が経過すると、図17で説明した手順と同様の手順を使用して隔離ボリューム808を任意で吸引することができる。封止要素は、回収形態に遷移させることができ、ロープロファイルで隔離ボリュームを形成しない回収形態は、送達形態と類似する可能性がある。回収形態への遷移は、例えば1つまたは複数のバルーンの収縮、シース等を使用した可撓枠の折り畳み、または駆動部材を使用した要素の遷移、を含むことができる。封止要素が回収形態に遷移すると、デバイス802を患者から除去することができる。
【0066】
一般に、図14乃至図19に概説する処置は、図3乃至図13に示すデバイスおよび本明細書に述べられる代替実施例を用いて行うことができる。処置は、一般に、封止要素の性質に応じて細部が異なる。一部の実施例では、必要な場合は、安定化流体と順次接触させる等のために、隔離領域に液体を送達し、液体を除去する追加的な工程を行うことができる。一実施例では、治療用組成物を送達する工程は異なる組成物で繰り返され、その場合、一方の治療用組成物の送達はエラスチン安定化組成物の送達を含み、他方の治療用組成物の送達はグルタルアルデヒドの送達を含む。
【0067】
調剤および送達のオプション
特に断りのない限り、本明細書で報告されるすべての濃度は重量/体積百分率であり、重量はグラム単位、体積はミリメートル単位である。例えば、0.06%のペンタガロイルグルコース(PGG)は、100mLの水、または100mLの生理食塩水もしくは他の液体担体中に0.06gのPGGがあることを意味する。一般に、当業者に周知の処方方法を使用する等して、適切なエラスチン安定化治療用組成物を、薬学的に許容し得る処方で提供することができる。そのような処方は、一般に、本明細書に記載のデバイスを通じて、動脈瘤近傍の隔離ボリュームに付随する結合組織に投与することができる。治療用組成物は、エラスチンと相互作用して組織を安定化するフェノール化合物を含むことができる。
【0068】
任意の適切な方法で標的血管に送達されると、組成物は、血管の結合組織に到達し、次いで結合組織を安定化することができる。例えば、血管の管腔から結合組織に送達された場合、本明細書に開示される組成物は、血管壁の内皮を貫通して結合組織のエラスチンと接触し、その構造アーキテクチャを安定化することができる。本明細書に記載のデバイスを使用して治療用組成物を送達することができるが、代替または追加実施例では、組成物は全身送達プロトコルで静脈から送達することができる。例えば、浸透圧ミニポンプを使用してカニューレを通じて、標的血管に直接送達する等、対象部位への高濃度の治療用組成物の調節された送達を得ることができる。送達手法に関係なく、in situ重合可能なヒドロゲルは、当業者に一般に知られ、下記でさらに述べるように、送達プロトコルで利用することが可能な送達ビヒクルの別の例である。
【0069】
治療用組成物は、エラスチンを安定する薬剤に加えて、付加的な薬剤を含むことができる。そのような付加薬剤は、組織に直接的な利益を与える能動的薬剤、または組成物中の他の薬剤の送達、適合性、または反応性を改善する補助剤等である。例えば、一実施例では、組成物はグルタルアルデヒドを含むことができる。グルタルアルデヒドは、結合組織を標的とする場合、組織をさらに安定させるためにタンパク質中の遊離アミン間に共有結合架橋を形成することができる。別の実施例では、グルタルアルデヒドは、エラスチン安定化組成物で組織を治療する前または後に送達することができる。所望される場合、組成物は、没食子酸捕捉剤、例えばアスコルビン酸またはグルタチオンを含有して、遊離没食子酸残基の放出を低減または防止することができる。また、治療用組成物は、いくつかの可能な脂質低下薬と組み合わせて、しばしば動脈瘤の形成と併せて見られる石灰化脂質沈着物または動脈硬化プラークの発生を防止することができる。
【0070】
付加薬剤は、約0.0001%乃至約10%の濃度を有することができる。ただし、これらの例示的濃度は特定の実施例では効果的であるが、本発明で使用される組成物は、より広い範囲の濃度を備えることに注意されたい。例えば、使用される実際の濃度は、上記のように送達方式に加えて、処置の標的器官、標的領域の大きさ、所望の放置時間、および好ましいpHに影響される可能性がある。一実施例では、本明細書に開示される組成物は、約0.01%乃至約2%の範囲、また追加的実施例では約0.1%乃至約1%の範囲の付加薬剤の濃度を備えることができる。当業者は、上記の明示的範囲内にある他の範囲が企図され、本開示の範囲内にあることを認識されよう。
【0071】
治療用組成物は、1種類または複数種の緩衝剤を含むことができる。例えば、精製水、生理食塩水、ならびにリン酸緩衝剤、ホウ酸塩緩衝剤、HEPES、PIPES、およびMOPSO等の生体適合性緩衝剤を含めることにより、エラスチン安定剤として1種類または複数のフェノール化合物を含み、約4.0乃至約9.0のpHを有する組成物を調合することができる。一実施例では、本発明の組成物は、約5.5乃至約7.4のpHを有するように調合することができる。
【0072】
例えば注入や本発明のデバイスによる脈管系への局所的な送達等、非経口送達のための組成物は、薬学的に許容し得る滅菌水溶液または非水溶液、分散液、懸濁液、または乳濁液、ならびに使用直前に滅菌の注入可能溶液または分散液に還元する滅菌粉末を含むことができる。適切な水性担体および非水性担体、希釈液、溶剤、またはビヒクルの例には、水、エタノール、ポリオール(例えばグリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等)、カルボキシメチルセルロース、およびそれらの適切な混合物、植物油(例えばオリーブ油)、ならびにオレイン酸エチル等の注入可能な有機エステルが含まれる。また、組成物は、フェノール化合物の効果を高めることができる、湿潤剤または乳化剤、pH緩衝剤等の少量の補助物質を含有することができる。適正な流動性は、例えばレシチン等のコーティング材の使用により、分散液の場合は必要な粒子の大きさを維持することにより、および界面活性剤の使用により、維持することができる。それらの組成物は、防腐剤、湿潤剤、乳化剤、および分散剤等の佐剤も含有してよい。
【0073】
微生物の作用の防止は、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸等の各種の抗菌剤および抗真菌剤を含めることによって確実にすることができる。糖、塩化ナトリウム等の等張剤を含めることが望ましい場合もある。
【0074】
一部の実施例では、組成物は、薬学的に許容し得る塩、例えば無機酸または有機酸から得られる塩をその構成成分に含むことができる。薬学的に許容し得る塩は当分野で周知である。例えば、S.M.Berge他は、J. Pharmaceutical Sciences (1977) 66:1(以下参照)で薬学的に許容し得る塩について詳述しており、同文献は参照により本明細書に組み込まれる。薬学的に許容し得る塩には、例えば塩酸もしくはリン酸等の無機酸、または酢酸、酒石酸、マンデル酸等の有機酸で形成される、酸付加塩が含まれる。遊離カルボキシル基で形成される塩は、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カルシウム、または水酸化第二鉄等の無機塩基、および、イソプロピルアミン、トリメチルアミン、2−エチルアミノエタノール、ヒスチヂン、プロカイン等の有機塩基から得ることもできる。代表的な酸付加塩には、これらに限定されないが、酢酸塩、アジピン酸塩、アルギン酸塩、塩化物、硫酸塩、クエン酸塩、アスパラギン酸塩、安息香酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、重硫酸塩、酪酸塩、ショウノウ酸塩、カンファースルホン酸塩、ジグルコン酸塩、グリセロリン酸、ヘミ硫酸塩、ヘプタン酸塩、ヘキサン酸塩、フマル酸塩、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、2−ヒドロキシメタンスルホン酸塩(イセチオン酸塩)、乳酸塩、マレイン酸塩、メタンスルホン酸塩、ニコチン酸塩、2−ナフタレンスルホン酸、シュウ酸塩、パモ酸塩、ペクチン酸塩、過硫酸塩、3−フェニルプロピオン酸塩、ピクリン酸塩、ピバル酸塩、プロピオン酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、チオシアン酸塩、リン酸塩、グルタミン酸塩、重炭酸塩、p−トルエンスルホン酸塩、およびウンデカン酸が含まれる。また、塩基性窒素含有基を、メチル、エチル、プロピル、およびブチルの塩化物、臭化物、ヨウ化物等の低級アルキルハロゲン化物;硫酸ジメチル、硫酸ジエチル、硫酸ジブチル、および硫酸ジアミルのような硫酸ジアルキル;デシル、ラウリル、ミリスチル、およびステアリルの塩化物、臭化物、およびヨウ化物等の長鎖ハロゲン化物;ならびに臭化ベンジルや臭化フェネチル等のようなアリールアルキルハロゲン化物、その他等の物質で、四級化することができる。
【0075】
エラスチン安定剤
エラスチンは、結合組織の弾性および反動に寄与する結合組織のタンパク成分である。さらに、エラスチンは、結合組織に非常に豊富に含まれる。エラスチンは、大動脈壁に見出せる最も多い細胞外基質タンパク質と考えられる。エラスチンのポリペプチド鎖は、天然に共に架橋結合してゴム状の弾性繊維を形成する。コラーゲンと異なり、エラスチン分子は、繊維が伸ばされると、解けて、より伸張した形状になり、伸張力が緩和されると、直ちに自発的に反動する。結合組織の病変におけるエラスチンの変性は、一般に、血管細胞および浸潤する炎症細胞から分泌され得る、エラスターゼ酵素およびマトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)酵素を含む酵素が原因と考えられる。エラスチンの分解を招く各種酵素の仕組みおよび機構の多くの側面は依然として未知であるが、一般には、大半の酵素は、天然架橋結合から離れた部位でタンパク質を攻撃し、タンパク質と結合するものと考えられる。
【0076】
動脈瘤内のエラスチン変性
動脈瘤の特徴は、エラスチンおよびコラーゲンを含む動脈構造タンパク質の変性、炎症性浸潤物、石灰化、および動脈構造の全体的な破壊である。その結果、機械的特性が失われ、進行性の拡張が生じる。エラスチンは、その不溶性、天然のデスモシンおよびイソデスモシンによる架橋結合、ならびに極めて長い生物学的半減期のために、一般に抗分解性と認識されている。しかし、エラスチンを分解することが可能な酵素の特異的集合であるマトリックスメタロプロテイナーゼ(特にMMP−2、MMP−9、およびMMP−12)が存在する。MMPは、骨の再造形、創傷の治癒、および血管形成等の正常な生理学的過程に関係する。しかし、多くの血管疾患の病理過程では異常に高いレベルのMMPが認められており、AAAの形成および進行に対する重要な寄与因子と見られる。この事実は、動脈構造の著しい変性、内側エラスチン含有量の減少、および破断または分断した弾性層板が明白に示すように、動脈瘤組織内の重篤なエラスチン分解が継続的に報告されることで裏付けられる。いくつかの他の比較的動的な基質成分と異なり、エラスチンが自身を即座に回復できない(ほぼ70年の生物学的半減期が証拠となる)ことを考えると、この分解は特に重大である。
【0077】
さらに、エラスチンが分解すると可溶性のエラスチンペプチドが放出される。このペプチドは、分解過程の受動的な副産物ではなく、プロテアーゼの生成、走化性、細胞増殖、および他の様々な生物学的働きに関して能動的であることが証明されている。そのようなペプチドと平滑筋細胞の相互作用によりエラスチンラミニン受容体(ELR)の発現が増大することが示されており、エラスチンペプチドが放出されると、さらなる基質分解が連鎖的に生じる可能性がある。いくつかの細胞種に見られる67kDa受容体であるELRとのこの結合は、後にmRNAとタンパク質の両レベルでより高いMMP合成を促進する。多数の研究が、この制限されないMMPの働きとエラスチンペプチドの存在の相関関係を裏付けられている。灌流の箇所でMMPレベルの上昇と基質分解を誘発する、動脈瘤の動物モデルとして管腔灌流されたエラスチンペプチドを使用することでも、このペプチドの生物学的能力が固められる。エラスチンペプチドの極端な生物活性は、動脈瘤組織内のエラスチン分解の臨床的重要性と、その後のエラスチンの変性を防止する必要性を強く示している。
【0078】
結合組織の分解は、デバイスで送達されるフェノール化合物で組織のエラスチン成分を安定化させることによって阻止または鈍化することができる。この有益な効果については、Isenburg他による同時係属米国仮特許出願第61/066688号、名称「Treatment of Aneurysm With Application of Elastin Stabilizing Agent Embedded in a Delivery System」にさらに記載され、同文献は参照により本明細書に組み込まれる。詳細には、いくつかの天然および合成のフェノール化合物はいずれもエラスチンと結合し、それにより、例えばエラスチン分解酵素の作用による分解からエラスチンを保護することができると考えられる。したがって、一実施例では、本発明は、酵素触媒のエラスチン分解、特にエラスターゼおよび/またはMMP触媒のエラスチン分解を阻止できる組成物を送達するデバイスおよび方法を対象とする。
【0079】
エラスチン安定剤としてのフェノール化合物
フェノール化合物は、幅広い用途への使用が認められている多種多用な材料の群である。例えば、フェノール化合物は、多くの植物に天然に存在し、しばしば人間の食餌の一成分である。フェノール化合物は、例えば局所皮膚の外用薬や栄養補助食品等に使う遊離基捕捉剤および中和剤としての効果が詳細に調査されている。
【0080】
一部の実施例におけるフェノール化合物は、疎水性コアに結合した少なくとも1つのフェノール基を含む任意の化合物を含む。特定の理論に制約されることは望まないが、フェノール化合物とエラスチンタンパク質の相互作用は、水酸基と分子の疎水性コアの両方に関連する側面を含むものと考えられる。詳細には、フェノール化合物は、立体手段と結合形成の両方を通じてエラスチンタンパク質を安定化し、それにより、酵素媒介(例えばエラスターゼまたはMMP媒介)開裂の影響を受けるタンパク質上の部位を保護することができると考えられる。具体的には、フェノール化合物の水酸基は、例えば、メチオニン、グリシンおよびプロリンを含む極性アミノ酸残基等のアミノ酸残基との水素結合形成を介してエラスチンと多価結合することができ、複数のタンパク質が単一の分子と相互作用して、複数のエラスチン分子を伴う3次元の架橋結合構造を生成することができると考えられる。さらに、特定の実施例では、本発明のフェノール化合物は、1つまたは複数の二重結合を含むことができ、その二重結合でフェノール化合物がエラスチンと共有結合して、フェノール化合物と結合組織のエラスチンとのより強固でより永続的な保護的会合を形成することができる。
【0081】
また、エラスターゼ媒介開裂の影響を受けやすい部位を含むと考えられるエラスチンタンパク質の広い疎水性領域は、フェノール化合物の疎水性コアとタンパク質との会合の部位も含んでいるものと考えられる。そのため、フェノール化合物とタンパク分子との会合は、タンパク質と疎水性コアの会合を通じて酵素の標的となるタンパク質上の特定の結合部位を保護するとともに、広い3次元の架橋結合構造の形成を通じてタンパク質の分解を立体配置により阻止することができると考えられる。
【0082】
本明細書で包含されるフェノール化合物には、疎水性コアと、分子の疎水性部分から延びる1つまたは複数のフェノール基と、を含む材料が、含まれる。例えば、本発明の例示的なフェノール化合物には、これらに限定されないが、フラボノイドならびにその誘導体(例えばアントシアニン、ケルセチン)、フラボリグナン、フェノール性リゾーム、(+)−カテキンおよび(−)−エピカテキンを含めたフラバン−3−オール、他のタンニンならびにその誘導体(タンニン酸、ペンタガロイルグルコース、ノボタンニン、エピガロカテキン没食子酸塩、ガロタンニン等)、エラグ酸、プロシアニジン等が含まれ得る。
【0083】
本明細書で包含されるフェノール化合物には、合成および天然のフェノール化合物も含まれる。例えば、天然のフェノール化合物には、オリーブ油抽出物(例えばヒドロキシチロソール(3,4−ジヒドロキシフェニルエタノール)およびオレウロペイン、エピカテキンおよび類似化合物を含有する可能性のあるカカオ豆の抽出物、カメリアシネンシス(緑茶)およびカメリアアッサムを含むツバキの抽出物、カンゾウ、ムチサンゴ、アロエベラ、カモミール等の抽出物等の天然植物に基づく供給源からの抽出物にあるフェノール化合物が含まれ得る。
【0084】
本明細書に記載のフェノール化合物は、タンニンおよびその誘導体であってよい。タンニンは多くの植物種に見出すことができる。例えば、茶樹(カメリアシネンシス)は、天然に高いタンニン含有量を有する。緑茶の葉は、タンニン酸および没食子酸群のみならず、プロデルフィニジン、プロアントシアニジンも含有するため、タンニンの主要な植物供給源である。タンニンは、ワイン、特に赤ワイン、ならびにブドウの果皮および種子にも含まれる。ザクロも種々のタンニン、特に加水分解型タンニンを含有する。
【0085】
タンニン酸は、一般的な天然由来タンニンである。架橋結合剤としてのタンニン酸は、異種移植または同種移植の組織移植片の調製および形成でしばしば使用される多くの固定剤、例えばグルタルアルデヒド固定剤に多くの特性が似る。さらに、タンニン酸は、他の結合組織成分ならびにエラスチンと相互作用することができ、したがって、エラスチン成分に加えて、ここに開示されるプロセスでは標的とする結合組織の追加的成分を安定化することができる。
【0086】
生体適合性組成物
一般に、本明細書に記載のフェノール化合物は、生体適合性組成物として提供することができる。一実施例では、フェノール化合物を使用してin vivoで結合組織を安定化する。したがって、そのような実施例では、開示される化合物を含む治療剤の調製において薬剤の生体適合性および細胞毒性が重要である可能性がある。かつては、タンニン酸を含有する製剤が肝毒性を生じさせるのではないかと疑われた。その後、この毒性は、主として、製剤の純度の低さと、毒性のある没食子酸残基が組成物に含まれること、によるとされている。したがって、一実施例では、組成物は高純度のタンニン酸を含み、組成物には遊離没食子酸残基はほとんどまたは全く含まれない。例えば、一実施例では、組成物は、製剤中にわずか約5%の遊離没食子酸残基しか含まないことが可能である。一実施例では、組成物は、組成物中に約1%乃至約5%の遊離没食子酸残基を含むことができる。当業者は、上記の明示的範囲内にある他の遊離没食子酸残基の範囲が企図され、本開示の範囲内にあることを認識されよう。
【0087】
一実施例では、組成物は、有効量のペンタガロイルグルコース(PGG)を含む。PGGは、タンニン酸分子の部分であり、タンニン酸の疎水性コアと複数のフェノール水酸基を含むが、外側の没食子酸残基およびタンニン酸に関連する加水分解型エステル結合を持たない。そのため、PGGのような没食子酸残基のない化合物を選択薬剤として利用することにより、長時間の適用プロセスにわたって遊離没食子酸残基が放出される可能性を阻止することができる。
【0088】
本明細書に開示される組成物は、選択された範囲で変動してよい濃度で1種または複数種のフェノール化合物を含むことができ、濃度は、一般に、特定の用途、フェノール化合物が標的とする送達部位、および送達プロセスで使用される方式に応じて決まる。例えば、一実施例では、組成物は、約0.0001%乃至約10%の濃度の1種または複数種のフェノール化合物を含むことができる。ただし、これらの例示的濃度は特定の実施例では有効であるが、本発明で使用される組成物は、より広い範囲のフェノール化合物濃度を備えることに留意されたい。例えば、使用される実際の濃度は、上記のように送達方式に加えて、処置の標的器官、標的領域の大きさ、所望の放置時間、および好ましいpHに影響される可能性がある。一実施例では、ここに開示される組成物は、約0.01%乃至約2%、追加的な実施例では約0.1%乃至約1%の範囲の濃度のフェノール化合物を含むことができる。当業者は、上記の明示的範囲内にある他の範囲が企図され、本開示の範囲内にあることを認識されよう。
【0089】
送達システム
一部の実施例では、本発明の方法は、持続放出性または徐放性の送達システムの使用を含むことができる。そのようなシステムは、例えば、特定の器官または脈管箇所への長期間の薬剤送達が望まれる状況で望ましい可能性がある。この特定の実施例によれば、徐放性マトリクスは、酵素加水分解もしくは酸/塩基加水分解で、または溶解で、分解可能な材料、通常はポリマーで作製されたマトリクスを含むことができる。例えば下記でさらに説明するようなパッチまたはステントの形態で、標的組織の箇所またはその近傍に配置されると、例えば体内に挿入されると、そのようなマトリクスに酵素および体液が作用することができる。徐放性マトリクスは、種々の生体適合性材料から選択することができ、それらの材料は、リポソーム、ポリラクチド(ポリ乳酸)、ポリグリコリド(グリコール酸のポリマー)、ポリラクチドコグリコリド(乳酸とグリコール酸のコポリマー)ポリ無水物、ポリ(オルト)エステル、ポリタンパク質、ヒアルロン酸、コラーゲン、コンドロイチン硫酸、カルボン酸、脂肪酸、リン脂質、多糖、核酸、ポリアミノ酸、フェニルアラニン、チロシン、イソロイシン等のアミノ酸、ポリヌクレオチド、ポリビニルプロピレン、ポリビニルピロリドン、およびシリコーン等である。可能な生分解性ポリマーおよびその使用については、例えばBrem他(1991, J. Neurosurg. 74:441-6)に詳細に記載され、同文献は参照により全体が本明細書に組み込まれる。
【0090】
開示される治療剤の用量は、治療対象の疾患状態または特定の状態、ならびに患者の状態やデバイスの大きさおよび設計等の他の臨床的要因に依存し得る。また、ここに開示される治療剤は、他の形態の療法、例えば外科的な血管内ステントグラフト修復や過度に損傷した脈管系領域の置換と併せて投与することができる。例えば、本明細書に記載の方法で動脈瘤を治療して、動脈瘤疾患の進行を止めることができる。治療後に、現在利用される血管内ステントグラフトを移植することができる。2つの治療法を組み合わせることにより、将来動脈瘤が拡大する危険性、および動脈瘤の狭窄部分でグラフトが移動する危険性を下げることができる。本明細書に開示されるデバイスを送達に使用する実施例の場合、生体適合性のある埋め込み可能デバイスから局所的に治療剤を送達する低侵襲性の処置を用いて、1種または複数種のフェノール化合物を含む組成物を、診断された動脈瘤等の特定の部位にin vivoで適用することができる。血管への経皮的進入、および、それに対応する、本明細書に記載のデバイスの導入に適した血管処置のためのカテーテル使用の送達技術は、当業者に一般に周知であり、本明細書に記載のデバイスと共に使用するために適合することができる。
【0091】
組成物は、カプセル封入、コーティング、注入、または当業者に周知等の他の装填機構を介して、薬物送達ビヒクルに装填することができる。医薬品形態の長期吸収は、吸収を遅らせることができるモノステアリン酸アルミニウムやゼラチン等の薬剤の含有により、もたらすことができる。例えば、注入可能なデポー形態は、ポリラクチド−ポリグリコリド、ポリ(オルトエステル)、およびポリ(無水物)等の生分解性ポリマーで形成されたマトリクス中に装填されたエラスチン安定剤を含むマイクロカプセルマトリクスを形成することにより、作製することができる。治療剤とポリマーの比および用いる特定ポリマーの性質に応じて、薬物放出の速度を調整することができる。デポー注入可能調剤は、身体組織と適合性のあるリポソームまたはマイクロエマルションに治療剤を取り込むことによっても、調製することができる。治療調剤は、例えば細菌保持フィルタで濾過することにより、または使用直前に滅菌水または他の滅菌注入可能媒体に、溶解または分散させることが可能な滅菌固体組成物の形態の滅菌剤を組み込むことにより、滅菌することができる。血管内の薬物送達方法については、DiCarlo他(米国特許第6929626号。参照により本明細書に組み込まれる)により概説される。同文献は、血管の管腔内に配置することができ、薬物、例えば本明細書に記載のフェノール化合物でコーティングする、または他の方法で薬物を装填することができる、管腔内配置可能な管状デバイスについて、記載する。
【0092】
本明細書に記載のデバイスを使用した治療剤の送達は、ステントの使用で補うことができ、ステントは、さらに、薬物のコーティングを備えても、備えなくともよい。参照により本明細書に組み込まれるWu他による米国特許第6979347号は、ステント表面のフェノール化合物等のコーティングを通じて治療用物質を送達するための装置およびそれに関連する方法を記載する。例えば、フェノール化合物またはその組成物は、従来の噴霧技術または改良浸漬技術を使用してステント表面の溝に付着させることができる。
【0093】
一実施例では、ここに開示される薬剤は、ヒドロゲル送達ビヒクルの使用により、結合組織を標的とすることができる。本明細書では、ヒドロゲルは、構造的安定性を保ちながら高度に水和できるポリマーマトリクスを含むものと定義される。適当なヒドロゲルマトリクスは、非架橋結合および架橋結合ヒドロゲルを含むことができる。また、架橋結合ヒドロゲル送達ビヒクルは、例えばin vivoのような水性環境で利用される場合に分解性になるように、任意で加水分解性部分を含むことができる。例えば、送達ビヒクルは、ポリ乳酸等の加水分解性の架橋結合剤を含む架橋結合ヒドロゲルを含むことができ、in vivoで分解性にすることができる。
【0094】
当分野で一般に知られるように、ヒドロゲル送達ビヒクルは、例えば、グリコサミノグリカン、多糖、タンパク質等の天然ポリマーと、合成ポリマーを含むことができる。本発明のヒドロゲルを形成する際に利用できる親水性ポリマー材料の非限定的リストには、デキストラン、ヒアルロン酸、キチン、ヘパリン、コラーゲン、エラスチン、ケラチン、アルブミン、乳酸のポリマーおよびコポリマー、グリコール酸、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリレート、ポリメタクリル酸、エポキシド、シリコーン、ポリプロピレングリコール、ポリビニルアルコール、およびポリエチレングリコール等のポリオールならびにそれらの誘導体、アルギン酸ナトリウムや架橋結合アルギン酸ガム等のアルギン酸塩、ポリカプロラクトン、ポリ無水物、ペクチン、ゼラチン、架橋タンパク質ペプチドおよび多糖等が含まれ得る。
【0095】
ヒドロゲルは、一般には架橋結合のために水溶液に溶解しない親水性ポリマーである。Pluronic(商標)ポリマーは、一般に、ポリオキシ−プロピレン/ポリオキシエチレンブロックコポリマーを含む。したがって、そのようなブロックコポリマーおよび同様の組成物の架橋結合から得られるヒドロゲルは、Pluronic(商標)ヒドロゲルと呼ぶことができる。同様に、患者体内に導入するのに適した他のヒドロゲルを同様に使用することができる。医療用途に適したPluronic(商標)ヒドロゲルについては、例えばShah他による国際出願公開第01/41735号、名称「Thermosensitive Biodegradeable Hydrogels Based on Low Molecular Weight Pluronics」、および、Han他による国際出願公開第2007/064152号、名称「Injectable Thermosensitive Pluronic Hydrogels Coupled With Bioactive Materials for Tissue Regeneration and Preparation Methods Thereof」にさらに記載され、両文献は参照により本明細書に組み込まれる。
【0096】
薬物送達用のポリマー粒子は、一般に、例えば生体適合性ポリマーを含み、粒子は球形の場合も球形でない場合もある。ポリマー粒子の平均粒子直径は、一般に、わずか約5ミクロンであり、さらなる実施例ではわずか1ミクロンであり、追加的実施例ではわずか約250ナノメートルであり、ここで、直径は、非球形粒子の場合、粒子の中心を通る平均寸法である。ナノ粒子およびマイクロ粒子を使用した薬物の送達については、Au他による米国特許出願公開第2006/0034925号、名称「Tumor Targeting Drug-Loaded Particles」にさらに記載され、同文献は参照により本明細書に組み込まれる。ポリ(乳酸グリコール酸共重合体(PLGA))からのナノ粒子の形成については、下記例でさらに説明する。
【0097】
PGGの形成は一定条件下でゲルを形成することが明らかになっている。ゲル形成中の濃度等の条件が、形成されるゲルの特性に影響する。一部の実施例では、PGGゲルは、患者の体温である37℃前後で溶解するように調合することができる。これに加えて、またはこれに代えて、PGGは、37℃前後またはより高い温度でゲル形態を保つゲルとして調合することもできる。ゲル形態のPGGは、必要に応じて特性を調整して、薬物送達ビヒクル、例えば徐放性の送達ビヒクルとして使用することができる。ゲル形態のPGGは、ヒドロゲルおよび/またはポリ(乳酸グリコール酸共重合体)のナノ粒子等の他の送達システムと併用して、短期間または長期間(28日間)の放出プロファイルを提供することもできる。
【0098】
遅延放出等のための送達ビヒクルを使用するエラスチン安定剤の送達については、Eisenberg他による同時係属米国仮特許出願第61/066688号、名称「Treatment of Aneurysm With Application of Elastin Stabilizing Agent Embedded in a Delivery System」にさらに記載され、同文献は参照により本明細書に組み込まれる。
【0099】
エラスチン安定剤を用いた治療は、機械的安定化と組み合わせることができる。詳細には、動脈瘤外面に血管周囲帯状被包材を配置して、化学的な安定化と併せて機械的安定化を得ることができる。一部の実施例では、本明細書に記載の送達システムは、血管周囲帯状被包材と併用することができる。例えば、送達システムを被包材の内面に沿って被覆する、かつ/または被包材の材料中に埋め込むことができる。被包材で動脈瘤部位との密接な接触が得られ、継続的に薬物を放出する。それらの実施例では、帯状被包材は、動脈瘤部位の脈管系を物理的に強化して動脈瘤の破裂を防止することができ、一方で、エラスチン安定剤が当該箇所の脈管のさらなる分解を阻止しながら作用して、脈管組織を安定化および強化することができる。被包材は、織布または不織布として形成できるポリエステル等の生体適合性ポリマーから形成することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血管内の隔離されたボリュームを治療するためのデバイスであって、
近位端と、遠位端と、前記近位端または近位端近傍から前記遠位端または遠位端近傍まで延びた少なくとも1つの管腔と、を備えるシャフトであって、前記管腔は前記管腔の近位端にあるポートに連結している、シャフト、および
拡張可能要素と、前記シャフトの前記管腔と流体連通した1つまたは複数の交換ポートを備えた流体交換部分と、を備える封止要素、
を備え、
前記拡張可能要素は、ロープロファイル形態と、隔離ボリュームと前記管腔との間の流体の交換のために構成された前記流体交換部分の前記交換ポートと共に、前記血管の壁を押して前記血管内に隔離ボリュームを形成する形状の、拡張形態と、を有する、デバイス。
【請求項2】
前記拡張形態にある前記封止要素が、前記拡張可能要素が前記血管壁と接触した時に血液が前記隔離ボリュームの側を通って流れることを可能にする経路を備える、請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
前記シャフトがさらに、前記シャフトの前記遠位端にポートを有する迅速交換ガイドワイヤ管腔を備える、請求項1に記載のデバイス。
【請求項4】
前記拡張可能要素が、前記拡張形態で膨張され、かつ前記ロープロファイル形態で収縮されるバルーンを備え、前記バルーンは前記シャフトの前記管腔の1つと流体連通している、請求項1に記載のデバイス。
【請求項5】
前記拡張可能要素が、流体不浸透膜と、前記膜と界接した自動拡張支持部と、を備え、前記自動拡張支持部は、前記支持部が非拘束状態の時に、前記拡張可能要素を前記ロープロファイル形態と前記拡張形態との間で遷移させる、請求項1に記載のデバイス。
【請求項6】
前記拡張可能要素が、前記ロープロファイル形態と前記拡張形態との間の前記拡張可能要素の遷移を制御する駆動要素を、備える、請求項1に記載のデバイス。
【請求項7】
前記流体交換部分が、前記隔離ボリュームと流体連通した1つまたは複数の交換ポートを備える前記デバイスの前記シャフトの上にある、請求項1に記載のデバイス。
【請求項8】
前記交換ポートが、さらに、前記隔離ボリュームと流体連通した開口を有する、前記シャフトからずらされた管状導管を、備える、請求項7に記載のデバイス。
【請求項9】
前記流体交換部分が、前記デバイスの前記封止要素の側部に開口を有する、前記管腔の一部分である側部経路を、備える、請求項7に記載のデバイス。
【請求項10】
前記側部経路および前記管腔の内部に配置されて前記封止要素の側部の前記開口を貫通して前記隔離ボリュームに接近するマイクロカテーテルを、さらに備える、請求項9に記載のデバイス。
【請求項11】
前記交換ポートが液体浸透性構造を備える、請求項1に記載のデバイス。
【請求項12】
前記シャフトの前記管腔の1つに通じる前記ポートに動作可能に連結された吸引装置を、さらに備える、請求項1に記載のデバイス。
【請求項13】
前記吸引装置が注入器を備える、請求項12に記載のデバイス。
【請求項14】
前記シャフトの前記管腔の1つに通じる前記ポートに動作可能に連結された送達要素を、さらに備え、前記送達要素は、血管組織と反応して前記組織を安定化する安定化液を、備える、請求項1に記載のデバイス。
【請求項15】
血管の隔離部分を治療するための方法であって、
拡張可能部分が前記血管の壁とで隔離ボリュームを形成した状態で前記血管内に配置されるデバイスを、使用して、前記血管の前記隔離ボリュームに治療用組成物を送達する工程を、含み、前記治療用組成物は、患者から延びるシャフトの管腔と流体連通した流体交換部分を通じて前記隔離ボリューム中に送達される、方法。
【請求項16】
前記治療用組成物の送達の前に前記隔離ボリュームから流体を吸引する工程を、さらに含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記吸引工程および前記治療用組成物の送達工程が少なくとも1回反復され、送達される前記治療用組成物は、同一の組成物である場合も、異なる組成物である場合もある、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記吸引工程が、前記デバイスの前記管腔の1つから流体を抜く工程を、含む、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
治療が行なわれる間、前記血管中の前記流動が前記送達デバイスのバイパス経路を通じて維持される、請求項15に記載の方法。
【請求項20】
前記治療用組成物がエラスチン安定化組成物を含む、請求項15に記載の方法。
【請求項21】
前記血管の隔離部分が動脈瘤を含む、請求項15に記載の方法。
【請求項22】
前記動脈瘤の体積が吸引後少なくとも約10%縮小され、前記動脈瘤の体積は、対応する、動脈瘤のない健常な血管と比較した過剰体積として求められる、請求項16に記載の方法。
【請求項23】
前記組成物が、フェノール化合物、タンニン酸もしくはその誘導体、フラボノイドもしくはフラボノイド誘導体、フラボリグナンもしくはフラボリグナン誘導体、フェノール性リゾームもしくはフェノール性リゾーム誘導体、フラバン−3−オールもしくはフラバン−3−オール誘導体、タンニンもしくはタンニン誘導体、エラグ酸もしくはエラグ酸誘導体、プロシアニジンもしくはプロシアニジン誘導体、アントシアニンもしくはアントシアニン誘導体、ケルセチンもしくはケルセチン誘導体、(+)−カテキンもしくは(+)−カテキン誘導体、(−)−エピカテキンもしくは(−)−エピカテキン誘導体、ペンタガロイルグルコースもしくはペンタガロイルグルコース誘導体、ノボタンニンもしくはノボタンニン誘導体、エピガロカテキン没食子酸塩もしくはエピガロカテキン没食子酸塩誘導体、ガロタンニンもしくはガロタンニン誘導体、オリーブ油の抽出物もしくはオリーブ油抽出物の誘導体、カカオ豆もしくはカカオ豆の誘導体、ツバキもしくはツバキの誘導体、カンゾウもしくはカンゾウの誘導体、ムチサンゴもしくはムチサンゴの誘導体、アロエベラもしくはアロエベラの誘導体、カモミールもしくはカモミールの誘導体、それらの組み合わせ、または薬学的に許容し得るそれらの塩、である化合物を含む、請求項15に記載の方法。
【請求項24】
前記組成物が、さらに、グルタルアルデヒド、没食子酸捕捉剤、脂質低下薬、抗菌剤、抗真菌剤、またはそれらの組み合わせを、含む、請求項15に記載の方法。
【請求項25】
前記治療用組成物を送達する工程が、異なる組成物で反復され、一方の治療用組成物の送達はエラスチン安定化組成物の送達を含み、他方の治療用組成物の送達はグルタルアルデヒドの送達を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項26】
前記組成物が、さらに、ペンタガロイルグルコースゲル、ヒドロゲル、ナノ粒子、またはそれらの組み合わせを含む、送達ビヒクルを、備える、請求項15に記載の方法。
【請求項27】
血管の隔離部分を治療するための方法であって、
拡張可能部分が前記血管の壁とで隔離ボリュームを形成した状態で前記血管内に配置されるデバイスを、使用して、前記血管の前記隔離ボリュームに治療用組成物を送達する工程を含み、前記治療用組成物は、患者から延びるシャフトの管腔の内部に配置されたマイクロカテーテルを通じて前記隔離ボリューム中に送達される、方法。
【請求項28】
前記治療用組成物の送達の前に、前記マイクロカテーテルを使用して前記隔離ボリュームから流体を吸引する工程を、さらに含む、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記吸引工程および前記治療用組成物の送達工程が、少なくとも1回反復され、送達される前記治療用組成物は、同一の組成物である場合も、異なる組成物である場合もある、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
血管内の動脈瘤を安定化するための方法であって、
前記動脈瘤の少なくとも一部分を含む前記血管の隔離部分から血液を吸引する工程と、
血液が吸引された後に、前記血管の前記隔離部分に有効量の血管安定化組成物を適用する工程と、
を含む方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公表番号】特表2011−528254(P2011−528254A)
【公表日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−518713(P2011−518713)
【出願日】平成21年7月13日(2009.7.13)
【国際出願番号】PCT/US2009/004044
【国際公開番号】WO2010/008513
【国際公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【出願人】(510196741)バトリックス・メディカル・インコーポレイテッド (2)
【氏名又は名称原語表記】VATRIX MEDICAL, INC.
【Fターム(参考)】