説明

血管強化剤

【課題】優れた血管強化作用を有し、医薬又は化粧品として有用な血管強化剤を提供する。
【解決手段】ローズマリー、セージ、ゲンノショウコ、ハトムギ、スギナ、トウヒ、ヒバマタ、ゴボウ、ドクダミ、サンショウ、バクモントウ、イチョウ、ナツメ及びヘチマから選ばれる植物又はその抽出物を有効成分とする血管強化剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管の脆弱化を抑制し、血管を強化する血管強化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
スパイダーベイン(くも状血管)、静脈瘤、酒さ、毛細血管過拡張症、紫斑病、鼻出血、眼底出血、慢性静脈不全症等の抹消血管疾患は、血管組織の機械的強度の低下、血管透過性の亢進等、血管が脆弱化することにより発症することが知られている。従って、斯かる疾患の予防・治療には、血管組織の機械的強度や毛細血管の抵抗性を高める血管強化薬が有効であると考えられる。
【0003】
従来、血管強化薬としては、ヘスペリジン、ルチン等といったBioflavonid類が下肢の静脈不全や痔疾に用いられていることが報告されている(例えば、非特許文献1参照)が、国内での製造・販売はなされておらず入手が困難である。そのため、より安全で有効な薬剤の提供が望まれている。
【非特許文献1】C. Allegra, et al., Lymphology, 31 (suppl), 12-16 (1998)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、優れた血管強化作用を有し、医薬又は化粧品として有用な血管強化剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、血管強化剤の評価系について検討したところ、血管内皮細胞をコラーゲンゲル上に播種した場合に、当該細胞の収縮力によってコラーゲンゲルが収縮することを見出した。そして、外観上のゲル面積が縮小する現象を指標として、血管内皮細胞の収縮抑制物質や血管強化物質の評価が可能であり、特定の植物又はその抽出物に血管強化作用又は血管内皮細胞収縮抑制があることを見出した。
【0006】
すなわち本発明は、ローズマリー、セージ、ゲンノショウコ、ハトムギ、スギナ、トウヒ、ヒバマタ、ゴボウ、ドクダミ、サンショウ、バクモントウ、イチョウ、ナツメ及びヘチマから選ばれる植物又はその抽出物を有効成分とする血管強化剤を提供するものである。
【0007】
また本発明は、ローズマリー、セージ、ゲンノショウコ、ハトムギ、スギナ、トウヒ、ヒバマタ、ゴボウ、ドクダミ、サンショウ、バクモントウ、イチョウ、ナツメ及びヘチマから選ばれる植物又はその抽出物を有効成分とする血管内皮細胞収縮抑制剤を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の血管強化剤及び血管内皮細胞収縮抑制剤は、血管の脆弱化に起因する末梢血管疾患の予防、改善又は治療を目的とした医薬又は化粧料として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の血管強化剤及び血管内皮細胞収縮抑制剤において、ローズマリーとはシソ科のRosmarinus officinalis.を、セージとはシソ科のSalvia officinalisやSalvia splendensなどを、ゲンノショウコとはフウロソウ科のGeranium thunbergii Siebold et Zuccarini (Geraniaceae)を、ハトムギとはイネ科のCoix lachryma-jobi Linne var. ma-yuen Stapfを、スギナとはトクサ科のEquisetum arvense Linne (Equisetaceae)を、トウヒとはマツ科のCitrus aurantium Linne又はダイダイCitrus aurantium Linne var. daidai Makinoを、ヒバマタとはヒバマタ科のFucus Vesiculosisを、ゴボウとはキク科のArctium lappa Linne (Compositae)を、ドクダミとはドクダミ科のHouttuynia cordata Thunberg (Saururaceae)を、サンショウとはミカン科のZanthoxylum piperitum De Candolla又はその他同属植物(Rutaceae)を、バクモントウとはユリ科のジャノヒゲOphiopogon japonica又はその他同属植物(Liliaceae)を、イチョウとはイチョウ科のGinkgo biloba Linne (Ginkgoaceae)を、ナツメとはクロウメモドキ科のZizyphus jujuba MILL. var. inermis (BUNGE) REHD.を、ヘチマとはウリ科のLuffa cylindrica M. Reomen (Cucurbitaceae)又はLuffa cylindrica (Cucurbitaceae) をそれぞれ意味する。
【0010】
上記植物は、その植物の全草、葉、花、樹皮、枝、果実又は根等をそのまま又は粉砕して用いることができるが、ローズマリーについては葉あるいは花、セージについては葉あるいは花、ゲンノショウコについては地上部、ハトムギについては種子、スギナについては全草、トウヒについては果皮、ヒバマタについては全藻、ゴボウについては根、ドクダミについては地上部、サンショウについては果皮、バクモントウについては根、イチョウについては葉、ナツメについては果実、ヘチマについては地上部あるいは全草を使用するのが好ましい。
【0011】
本発明における抽出物とは、上記植物を常温又は加温下にて抽出するか又はソックスレー抽出器等の抽出器具を用いて抽出することにより得られる各種溶媒抽出液、その希釈液、その濃縮液又はその乾燥末を意味するものである。
【0012】
本発明の植物抽出物を得るために用いられる抽出溶剤としては、極性溶剤、非極性溶剤のいずれをも使用することができる。例えば、水;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類;プロピレングリコール、ブチレングリコール等の多価アルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル類;テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル等の鎖状及び環状エーテル類;ポリエチレングリコール等のポリエーテル類;スクワラン、ヘキサン、シクロヘキサン、石油エーテル等の炭化水素類;トルエン等の芳香族炭化水素類;ジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類;及び二酸化炭素等が挙げられ、これらは混合物として用いることができる。
【0013】
上記の植物抽出物は、そのまま用いることもできるが、当該抽出物を希釈、濃縮若しくは凍結乾燥した後、粉末又はペースト状に調製して用いることもできる。
【0014】
また、上記の植物抽出物は、クロマトグラフィー液々分配等の分離技術により、上記抽出物から不活性な夾雑物を除去して用いることもできる。尚、本発明の植物若しくはそれらの抽出物は、2種以上を混合して用いてもよい。
【0015】
本発明者らは、血管内皮細胞をコラーゲンゲル上に播種した場合に、当該細胞の収縮力によってコラーゲンゲルが収縮することを見出した。このことは、コラーゲンゲルの収縮現象を尺度として、血管内皮細胞を構成成分の1つとする血管の機能や構造の脆弱性及び強度を測り知ることが出来るものと考えられる。すなわち、血管内皮細胞は、細胞自身の形態を保持するために、細胞骨格を形成するα−アクチンの緊張力を制御することで、細胞表面に対して張力を発生していると考えられている。さらに、トロンビンを作用させた場合、α−アクチンが凝集して、より大きな張力が発生し、その結果、細胞自身が収縮するという現象が知られている。さらに、血管内皮細胞は、接着分子やインテグリンといった架橋分子を介して、コラーゲンやフィブロネクチンといった細胞外基質分子と強く接着していることも知られている。したがって、血管内皮細胞の骨格分子の緊張力の発生を契機として、細胞の収縮が引き起こされると、その結果として、接着している細胞外基質物質を引き寄せ合う作用が働く。したがって、コラーゲンゲルを視覚的に観察可能なまでに大きく固化させた物体の上に血管内皮細胞を播種しておくことで、血管内皮細胞の張力に起因したコラーゲンゲルの収縮現象を観察することが出来、さらに、トロンビンなどで刺激を加えることで、細胞の収縮作用が起こり、より大きな張力にともなって、コラーゲンゲルの収縮を促進的に誘発することが出来る。
【0016】
一方、生体中の、特に皮膚や血液脳関門といった組織の血管において、血管内皮細胞は、互いに接近しあい、敷石上に単層に並んだ半透膜状の形態をなしていることが解剖学的に示されている。そして、血管内の血液と血管外組織の水分との間で、血管内皮細胞同士の間隙を主な経路として、水分や低分子の栄養は透過し、血液成分の高分子物質はめったに透過しないという調整がなされている。ここで、ひとたび、血管内皮細胞同士の間隙の調整作用が破綻し、間隙が大きくなると、物質の透過は劇的に亢進し、血液成分なども通過してしまうと考えられ、そのような細胞間隙の調整作用の破綻と間隙拡大には、それぞれの細胞の収縮が大きく関与するものと考えられる。そのため、細胞の収縮現象を抑制するような物質は、生体においては、血管の構造を保持する能力を高める作用、即ち、血管強化作用を示すものと考えられる。従って、外観上のゲル面積が縮小する現象を指標として、血管内皮細胞の収縮抑制物質や血管強化物質の評価が可能である。
【0017】
本発明の植物又はそれらの抽出物は、後記実施例に示すように、上記コラーゲンゲルの収縮を抑制する。従って、これらは血管強化作用及び血管内皮細胞収縮抑制作用を有すると考えられる。
【0018】
従って、当該植物又はそれらの抽出物は、血管強化剤又は血管内皮細胞収縮抑制剤として、血管の脆弱化に起因する疾患、例えばスパイダーベイン(くも状血管)、静脈瘤、酒さ、毛細血管過拡張症、紫斑病、鼻出血、眼底出血、慢性静脈不全症等の抹消血管疾患の予防、改善又は治療に有効な医薬又は化粧料となり得る。
【0019】
本発明の血管強化剤及び血管内皮細胞収縮抑制剤を医薬として使用する場合には、錠剤、カプセル剤等の内服剤、軟膏、水剤、エキス剤、ローション剤、乳剤等の外用剤、注射剤とすることができ、当該医薬には本発明の植物又はその抽出物の他に、助剤、安定化剤、湿潤剤、乳化剤、吸収促進剤、界面活性剤等の薬学的に許容される担体を任意に組合せて配合することができる。
【0020】
また、化粧料として使用する場合は、種々の形態、例えば、油中水型又は水中油型の乳化化粧料、クリーム、ローション、ジェル、フォーム、エッセンス、ファンデーション、パック、スティック、パウダー等とすることができ、当該化粧料には本発明の植物又はその抽出物の他に、化粧料成分として一般に使用されている油分、界面活性剤、紫外線吸収剤、アルコール類、キレート剤、pH調整剤、防腐剤、増粘剤、色素類、香料、各種皮膚栄養剤等を任意に組合せて配合することができる。
【0021】
医薬又は化粧料における本発明の植物又はそれら抽出物の含有量は、上記植物を用いる場合、乾燥重量換算で当該組成物中に0.002〜20重量%、特に0.01〜10重量%とするのが好ましく、抽出物としては、固形分換算で0.0002〜2重量%、特に0.001〜1重量%とするのが好ましい。
【実施例】
【0022】
実施例1 コラーゲンゲル収縮抑制作用の評価方法
血管内皮細胞用三次元培養キット(岩城硝子)のコラーゲンゲル溶液を処方通りに混和調製し、24穴マイクロプレート(189mm2/ウェル)に500μl/ウェルづつ分注したのち37℃にて30分以上インキュベートして固化させた。そのゲル上にヒト臍帯静脈由来血管内皮細胞(HUVEC)を0.7×105ケ/ウェルの密度で播種し、細胞を定着させた。播種時には、血管内皮細胞用基礎培地EBM−2(Clonetics)にウシ血清(関東化学)を10%添加した培地を用いた。播種して24時間後、それぞれの培養ウェルを、表1に示す植物抽出物を加えた無血清培地(EBM−2)に置き換えるとともにゲルをウェルから剥がして浮遊培養した。コントロールには、植物抽出物を加えないEBM−2を用いた。17時間培養後、すべてのウェルをトロンビン(Sigma)を0.5U/ml含むEBM−2に置換し、30分後に、収縮したゲルの上部径を計測することでゲル面積を算出した。効果判定には、植物抽出物の収縮抑制率を求めた。即ち、植物抽出物添加試料とコントロールとのゲル面積の差をコントロールのゲル面積の収縮量に対する割合で示した(下記式1)。
【0023】
【数1】

【0024】
【表1】

【0025】
尚、実施例1で用いた植物抽出物は表2に示すとおりであり、常法に従って調製した。
【0026】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ローズマリー、セージ、ゲンノショウコ、ハトムギ、スギナ、トウヒ、ヒバマタ、ゴボウ、ドクダミ、サンショウ、バクモントウ、イチョウ、ナツメ及びヘチマから選ばれる植物又はその抽出物を有効成分とする血管強化剤。
【請求項2】
ローズマリー、セージ、ゲンノショウコ、ハトムギ、スギナ、トウヒ、ヒバマタ、ゴボウ、ドクダミ、サンショウ、バクモントウ、イチョウ、ナツメ及びヘチマから選ばれる植物又はその抽出物を有効成分とする血管内皮細胞収縮抑制剤。

【公開番号】特開2006−36673(P2006−36673A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−217647(P2004−217647)
【出願日】平成16年7月26日(2004.7.26)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】