血管新生内皮細胞を標的とした陽イオン脂質組成物
【課題】血管新生内皮細胞を標的とした陽イオン脂質組成物の提供。
【解決手段】血管新生内皮細胞は、その増殖を阻害または促進することによって標的細胞に影響を及ぼす物質を含む脂質/DNA複合体または陽イオンリポソームによって選択的に標的とされる。血管新生部位は、検出可能な標識を含む陽イオンリポソームを投与することによって、正確に特定することができる。複合体は、血管新生内皮細胞の環境下で選択的に且つ該環境下に限って活性化されるプロモーターを含むヌクレオチド構築物を含んでいてもよい。
【解決手段】血管新生内皮細胞は、その増殖を阻害または促進することによって標的細胞に影響を及ぼす物質を含む脂質/DNA複合体または陽イオンリポソームによって選択的に標的とされる。血管新生部位は、検出可能な標識を含む陽イオンリポソームを投与することによって、正確に特定することができる。複合体は、血管新生内皮細胞の環境下で選択的に且つ該環境下に限って活性化されるプロモーターを含むヌクレオチド構築物を含んでいてもよい。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
発明の背景
本発明は、多様な異なる疾患および異常の治療ならびに診断に適用することができる。本発明は、癌の治療、創傷治癒、および多様な慢性炎症疾患に用いることができるが、それらに限定されない。一般に、これらはそれぞれ、癌様組織の外科的切除、創傷の縫合、および炎症を起こした間接の外科的切除、のような物理的手段によって、現在直接的に治療されている。さらにそれらは化学的手段によっても治療できる。化学療法は癌に適用され、増殖ホルモンは創傷治癒に適用され、そして抗炎症剤が慢性炎症疾患の治療に適用されている。これら、および関連する治療は、一般に、癌様の、損傷した、または炎症を起こした組織を直接治療することを目的としている。本発明が、従来の治療様相とどのように異なるかを理解するために、これらの領域における現在の治療技術に関して、簡単に全般的に述べる。
【0002】
癌の治療
「癌」という用語は、治療、予後および治癒可能性において多様である範囲の疾患を含む。診断および治療に対するアプローチは、腫瘍発生部位、播種の程度、関連部位、患者の生理状態、および予後に依存する。診断がなされれば、通常、腫瘍の「進行段階を分類」するが、これは、外科技法、物理的検査、組織病理学、画像化、および臨床検査値を用いて、疾患の程度を定義し、治癒の確率が高い順に癌患者の集団をグループに分けることを含むプロセスである。そのようなシステムは、患者の治療を計画するため、そして予後を判定するため、の双方において用いられる(非特許文献1)。癌のタイプまたは進行段階によって、3種類の一般的な治療タイプ:手術、放射線療法、および化学療法のいずれを用いるかを決定することができる。積極的な併用様相治療計画を選択することも可能である。そのためには、原発腫瘍の除去に手術を用いることができ、残存細胞を放射線療法または化学療法で治療する(非特許文献2)。
【0003】
手術は、癌の診断および治療に中心的な役割を果たしている。一般に、外科的アプローチは生検を得るために必要であるが、手術はほとんどの癌患者にとって最終的な治療となりうる。手術はまた、腫瘍塊を減少させ、転移を切除し、差し迫った医学的問題を解決し、緩和およびリハビリテーションを行うために用いられる。癌治療の主な外科技法は、手術野を展開させて腫瘍を直視下で切除することを含むが、現在の技法では内視鏡手段によって何らかの切除を行うことができる。癌の治療における主な懸念は、手術のリスクを考慮しなければならないことである(非特許文献1)。
【0004】
放射線療法は、主要なおよび待期的な癌の治療のいずれにおいても、重要な役割を果たしている。遠隔放射線療法(超高圧放射線療法)および小線源照射療法(組織内および腔内照射)が一般的に用いられている。X線の形での電磁波照射は、一般的な悪性腫瘍を治療するために最も普通に用いられる遠隔放射線療法であるが、一方X線と類似の電磁波を形成するが、ラジウム、コバルト、および他の元素の放射性同位体によって放射されるガンマ線も用いられる。放射線療法は、細胞内でイオン化を生じることによって悪性および正常組織の双方に障害を与える、光子と呼ばれる離散性の大量のエネルギーとして、組織にエネルギーを移入する。イオンの標的は最も一般的にDNAであり;放射線療法は、放射線障害が悪性組織と非悪性組織との間で均一でない、すなわち急速に分裂する細胞は休止期の細胞よりDNA損傷をより受けやすい、という事実を利用している(非特許文献3)。放射線療法は重要な毒性と共に独自の利益に関連する。放射線は、放射線照射が実施可能な唯一の局所治療法である特定の解剖学的部位(例えば、縦隔)では好ましく、そして腫瘍が広範に広がっている場合も、放射線照射が実施可能な唯一の局所治療となるかも知れない。患者が手術に耐えられないことがわかったとき、または患者の容態によって手術技法ができない場合にも、放射線照射を用いてもよい。放射線治療は組織損傷を伴い、これが初期および後期放射線効果となりうる。初期効果(放射線療法の急性毒性)には、皮膚の紅斑、落屑、食道炎、悪心、脱毛症、および骨髄抑制が含まれ、後期効果には組織の壊死および繊維症が含まれ、通常、これが放射線療法の制限毒性を左右する(非特許文献1)。
【0005】
現在使用されているほぼ全ての化学療法剤が、DNA合成、DNAおよびRNA合成の前駆体の準備、または分裂を妨害し、このように、増殖しつつある細胞を標的としている(非特許文献4)。動物腫瘍に関する研究およびヒトの臨床試験から、薬剤を併用すれば、単剤の場合より高い客観的反応率およびより長い生存期間が得られることが示された(非特許文献5)。併用薬剤療法は、アルキル化剤、代謝拮抗剤、および抗生物質を含む、多数の薬剤の異なる作用機序および細胞障害能を利用している(非特許文献6)。患者の生理状態、腫瘍の増殖特徴、腫瘍細胞集団の不均一性、および腫瘍の多剤耐性状態が、化学療法の有効性に影響を及ぼす。一般に、化学療法は標的を絞って投与されないため(尤も、これらの技法は、非特許文献7によって開発中であるが)、その結果、骨髄抑制、胃腸炎、悪心、脱毛症、肝または肺障害、不妊症のような副作用が起こりうる。
【0006】
創傷治癒
創傷治癒は、異なる多くのタイプの細胞が関与する組織修復および再形成に関する複雑かつ遷延性のプロセスであり、これには、再生プロセスのバランスをとるために様々な生化学反応カスケードの精巧に適合させた調節を必要とする。創傷治癒は一般に、3つの相に分けられる:炎症、増殖、および成熟(非特許文献8)。プロセスは、様々なタイプの細胞の創傷領域への遊走、上皮細胞および繊維芽細胞の増殖刺激、新しい血管の形成、細胞外マトリクスの形成を含む。これらのプロセスが正確に機能するか否かは、様々なサイトカインの生物学的活性化に依存する(非特許文献9)。栄養、免疫系、酸素、血液量、感染症、免疫抑制、および赤血球細胞の減少が、創傷治癒における全ての影響因子である(非特許文献10)。
【0007】
創傷治癒の速度と共にその質は通常、最初の損傷のタイプおよび程度に依存する。創傷を治療するためには、それぞれが損傷組織の治癒を指向する一般的な3種類のプロセスを用いる。創傷の閉鎖は、絆創膏、ステープルまたは電気的焼灼も使用することができるが、最も一般的に縫合によって行う(非特許文献11)。皮膚用絆創膏および様々な縫合はそれぞれ、創傷の一次縫合において、特定の利益および欠点を示す。皮膚用絆創膏は、炎症反応を引き起こすことが少ないが上皮下創傷空間を縫合できない、一方様々な縫合によって引き起こされる炎症反応およびその後の瘢痕形成は、縫合針の大きさ、縫合材料の直径、およびそれがモノフィラメントまたは編まれた縫合糸であるか否か、に依存する(非特許文献12)。
【0008】
創傷では、微生物接種の大きさ、微生物の菌力、および宿主の抗微生物防御メカニズムが、感染症を発症するか否かを左右する。このように、抗生物質はまた、創傷の治療において治療的価値を有することができる(非特許文献13)。適当な抗生物質、その投与経路を選択するために、および副作用を防止するためには、各抗生物質の薬理作用を理解しなければならない(非特許文献12)。最近の結果は、抗生物質療法によって細胞増殖および分化がより迅速に進行し、このように創傷修復の増強において有用となる可能性があることを示唆している(非特許文献14及び非特許文献15)。蛋白分解酵素も同様に、汚染した創傷の抗生物質治療の補助として用いられている(非特許文献16)。
【0009】
bFGF、EGF、PDGF、およびTGF-βを含む様々なサイトカインを単独または併用して局所投与すると、創傷治癒はかなり加速される可能性がある(非特許文献17)。増殖因子は、細胞を創傷部位に誘引し、その増殖を刺激し、細胞外マトリクスの沈着に大きい影響を及ぼす。組換え技術によってこれらのサイトカインの大量生産能が開発されて以来、多くの研究によって、増殖因子は、正常および損傷した治癒モデルにおいて組織修復の全ての局面を増強させることができることが示された(例えば、非特許文献18及び非特許文献19)。予備的な臨床試験から、増殖因子による治療によって時に、組織修復の統計学的に有意な改善が得られることが示されたが、これらの結果が臨床的に有意であるかは明確でなく、新しい臨床試験は、特定のタイプの損傷治癒を目的とする標的増殖因子に重点を置かなければならないことが示唆されている(非特許文献20)。
【0010】
慢性炎症
天然の、液性、および細胞性免疫メカニズムは全て、慢性炎症疾患の発病に関係している(非特許文献21)。自己免疫疾患はリンパ球機能の異常に起因する。異常なT細胞機能は、細胞性免疫を通じて疾患の原因となることがあり、抗体産生におけるヘルパーT細胞の活性は、自己抗体の形成に関与する可能性がある。自己免疫疾患においてヘルパーT細胞が中心的な役割を果たしていることは、これらの多くの疾患と特定のHLA分子との関連によって支持される。免疫寛容の維持において1つ以上の段階が不全であれば自己免疫が起こりうる(非特許文献22)。
【0011】
自己免疫疾患ではいくつかのタイプの治療が用いられ、その全てが罹患組織における免疫応答を減弱させることを目的としている。例えば、自己免疫疾患であるリウマチ性関節炎の治療は、非ステロイド性抗炎症剤(NSAID)またはグルココルチコステロイドのような抗炎症剤、金塩のような寛解誘導剤、および/またはシクロフォスファミドのような免疫抑制剤を使用することができる。炎症プロセスの際に損傷を受けた関節を置換するために、整形外科手術も用いることができる(非特許文献23)。最近の研究から、リウマチ性関節炎の治療において、TNF-αの使用のような、罹患組織に向けられた新しい治療の可能性が示唆されている(非特許文献24)。
【0012】
アレルギーとは、環境中の抗原に対する免疫応答が組織の炎症および臓器の機能不全を引き起こす状態を意味する。自己免疫疾患の場合と同様に、アレルギー疾患においても免疫系のいくつかの成分の相互作用があることが、データから示唆されている。アレルギー疾患の発現の多様性は、異なる免疫イフェクターメカニズムから生じ、これは特異的なパターンの組織損傷を誘発する(非特許文献25)。それぞれのアレルギー疾患の臨床的特徴は、罹患した臓器または組織における免疫が媒介する炎症反応を反映している(例えば、喘息は肺における炎症反応を反映している)。
【0013】
免疫媒介アレルギー疾患を治療するために、いくつかの治療戦略が用いられているが、その全てが炎症を起こした組織における免疫応答を減弱させることを目的としている。例えば、喘息の治療では、治療は、環境のコントロール、薬物療法、およびアレルギン免疫療法を含むことができる(非特許文献25)。喘息の治療において、原因物質の除去は炎症の予防に最も成功する手段である。しかし、それは可能でないことがしばしばあり、このように薬剤のいくつかのクラスが用いられている。これらの中には、メチルキサンチン(気管支拡張のため)、アドレナリン刺激剤(β-アドレナリン受容体の刺激、気管支拡張剤)、グルココルチコイド(肺の炎症を弱める)、クロモン(肥満細胞をダウンレギュレートする、肺の炎症を弱める)、および抗コリン作動薬(気管支拡張剤)が含まれる(非特許文献26)。疑わしいアレルゲンの抽出物による脱感作または免疫療法も、喘息における炎症を減少させるために示唆されている(非特許文献26及び非特許文献27)。
【0014】
現在の治療法−免疫学
上記の治療レジメの成功の程度は多様である。成功率はほとんどの場合完全とはほど遠く、さらによい治療を開発する研究が続けられている。一つの有望な研究領域は、免疫系に影響を及ぼすことに関する。遺伝子操作および/または化学刺激を用いることによって、生体自身の免疫系が疾患を治療する、例えば抗体が癌細胞を破壊するように、免疫応答を修飾および/または刺激することができる。このタイプの治療は、疾患と闘うために生物学的プロセスを利用するという点において上記の治療とは異なる。しかし、それでもこの治療は、作製された抗体が癌細胞を直接攻撃することから直接的治療である。
【0015】
本発明は、本発明が癌様の、損傷を受けた、または炎症を起こした細胞に直接影響を及ぼすことを含まない、という点において、通常の治療とは大きく異なる治療のために用いることができる。
【0016】
少なくとも理論的に、血管新生を阻害することによって血管新生に関連した癌または炎症を治療することが可能であることが認識されている。それに関連する現在の考え方に関する典型的な例は、1995年9月28日に公表されたPCT出願国際公開公報第95/25543号において考察されている。この公表された出願は、血管新生内皮細胞の表面上に存在すると思われる抗原と結合する抗体を投与することによって、血管新生を阻害する方法を記述している。詳しく述べると、本出願は、一般に細胞接着事象と呼ばれる細胞−細胞相互作用および細胞−細胞外マトリクス相互作用を媒介すると思われる膜受容体であるαvβ3に結合する抗体を投与することを記述している。この受容体を遮断することによって、治療は血管新生を阻害し、それによって癌および炎症を治療すると期待される。
【0017】
【非特許文献1】ストックデール(Stockdale, F)、1996、「癌患者管理の基本(Principles of Cancer Treatment)」、Scientific American Medicine、第3巻、デール&フェダーマン編(Dale, D.C. and Federman, D.D.)、Scientific American Press, New York
【非特許文献2】ローゼンバーグ(Rosenberg, S.A.)、1985、「癌の併用治療:どのようなものか、そしていつ作用するか(Combined-modality therapy of cancer:what is it and when does it work)」、New Engl. J. Med. 312:1512〜14
【非特許文献3】パス(Pass, H.I.)、1993、「腫瘍学における光力学療法:メカニズムと臨床での利用(Photodynamic therapy in oncology:mechanisms and clinical use)」、J. Natl. Cancer/ Instit. 85:443〜56
【非特許文献4】ストックデール(Stockdale, F)、1996、「癌の増殖と化学療法(Cancer growth and chemotherapy)」、前記
【非特許文献5】フライ(Frei, E.III)、1972、「併用化学療法:大統領の教書(Combination cancer therapy:presidential address)」、Cancer Res. 32:2593〜2607
【非特許文献6】デビタら(Devita, V.T.)、1975、「併用対単剤化学療法:癌の薬物治療を選別する根拠の再検討(Combination versus single agent chemotherapy:a review of the basis for selection of drug treatment of cancer)」、Cancer 35:98〜110
【非特許文献7】パスタンら(Pastan, I.)、1986、「免疫毒素(Immunotoxins)」、Cell 47:641〜648
【非特許文献8】ワルドルフ&フュークス(Waldorf, H. and Fewkes, J.)、1995、「創傷治癒(Wound Healing)」、Adv. Dermatol. 10:77〜96
【非特許文献9】ベネット&シュルツ(Bennett, N.T., and Schultz, G.S.)、1993、「増殖因子と創傷治癒:増殖因子およびその受容体の生化学特性(Growth factors and wound healing:biochemical properties of growth factors and thier receptors)」、Am J. Surg. 165:728〜37
【非特許文献10】ウィットニー(Witney, J.D.)、1989、「組織酸素飽和が創傷治癒に及ぼす生理学的影響(Physiological Effects of tissue oxygenation on wound healing)」、Heart Lung 18:466〜474
【非特許文献11】フィーレス(Wheeless, C. R.)、1996、「フィーレスのオルタエディクス・テキスト(Wheeless' Textbook of orthaediscs)」)(ガレットら(Garett, W. E.)、1984、J. Hand. Surg. 9(5):683〜92
【非特許文献12】シンプソン(Simpson, W. R.)、1977、「頭部および頸部皮膚創傷における治療の生理学的原理(Physiological principles of therapy in head and neck cutaneous wounds)」、Laryngoscope 87:792〜816
【非特許文献13】エドリッチら(Edlich, R. F.)、1986、「軽微な軟組織裂傷の抗菌剤による治療:批評的再検討(Antimicrobial treatment of minor soft tissue lacerations:a critical review)」、Emergency Medical Clinics of North America 4(3):561〜80
【非特許文献14】バロウら(Barrow, R. E.)、1994、「ヒツジ気管上皮修復の促進におけるセファゾリンの有効性(Efficacy of cefazolin in promoting ovine tracheal epithelial repair)」、Respiration 61:231〜5
【非特許文献15】メーダーら(Maeder, K.)、1993、「脊髄損傷患者におけるメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)生着(Methicillin-resistant Staphylococcus aureus (MRSA)colonization in patients with spinal cord injury」、Paraplegia 31:639〜44
【非特許文献16】ロードヒーバーら(Rodeheaver, G. T.)、1978、「蛋白溶解酵素が抗生物質作用の有効期間を延長させるメカニズム(Mechanism by which proteolytic enzymes prolong the golden period of antibiotic action)」、Am. J. Surg. 136(3):379〜82
【非特許文献17】モーリン(Moulin, V.)、1995、「皮膚の創傷治癒における増殖因子(Growth factors in skin wound healing)」、Eur. J. Cell. Biol. 68:1〜7
【非特許文献18】シュルツら(Schultz, G. S.)、1987、「トランスフォーミング増殖因子-αおよびワクシニア増殖因子によって増強された上皮の創傷治癒(Epithelical wound healing enhanced by growth factor-alpha and vaccinia growth factors)」、Science 235:350〜2
【非特許文献19】デュエルら(Deuel, T. F.)、1991、「増殖因子と創傷治癒:モデル・サイトカインとしての血小板由来増殖因子(Growth factor and wound healing:platelet derived growth factor as a model cytokine)」、Annu. Rev. Med. 42:567〜84
【非特許文献20】グリーンハル(Greenhalgh, D. G.)、1996、「創傷治癒における増殖因子の役割(The role of growth factors in wound healing)」、J. Trauma 41:159〜67
【非特許文献21】セイマーら(Seymour, G. J.)、1979、「進行性慢性炎症性歯周病の免疫学的病因(The immunopathogenesis of progressive chronic inflammatory peridontal disease)」、J. Oral Pthol. 8:249〜65
【非特許文献22】ロビンソン(Robinson, D. R.)、1996、「免疫寛容と自己免疫(Immunologic Tolerance and Autoimmunity)」、Scientific American Medicine、第2巻、第VI章、Scientific American Press, New York、1〜11頁
【非特許文献23】ギリランド&マニク(Gilliland, B. C., and Mannik, M.)、1983、「リウマチ性関節炎(Rheumatoid Arthritis)」、「ハリソンの基本内科(Harrison's principles of internal Medicine)」、McGrow Hill、New York、1977〜1984頁
【非特許文献24】ブレナンら(Brennan, F. M.)、1995、「慢性炎症疾患におけるサイトカインの発現(Cytokine expression in chronic inflammatory disease)」、Br. Med. Bull. 51:368〜384
【非特許文献25】ビアら(Beer, D. J.)、1996、「アレルギー(Allergy)、Scientific American Medicine、第2巻、VII章、Scientific American Press, New York、1〜29頁
【非特許文献26】マックファデン&オーステン(McFadden, E. R., Jr., and Austen, K. F.)、「免疫および環境的損傷によって引き起こされた肺疾患(Lung disease caused by immunologic and environmental injury)」、「ハリソンの基本内科(Harrison's Principles of Internal Medicine)」、McGraw Hill, New York,、1512〜1519頁
【非特許文献27】ジャケミン&セントレミー(Jacquemin, M. G., and Saint-Remy, J. M.)、1995、「アレルゲン特異的抗体複合体の注射に関連したヒトにおける抗アレルゲンIgEおよびIgG抗体の特異的ダウン・レギュレーション(Specific down-regulation of anti-allergen IgE and IgG antibodies in human associated with injection of allergen-specific antibody complexes)」、Ther. Immunol. 2:41〜52
【発明の開示】
【0018】
発明の概要
薬剤を選択的に血管新生内皮細胞に輸送する方法を開示する。本方法は、陽イオン脂質および血管新生を促進もしくは阻害するおよび/または検出可能な標識を含む化合物を包含する陽イオン性リポソーム(またはポリヌクレオチド/脂質複合体)を、好ましくは循環系に、より好ましくは動脈内に注射することを含む。投与後、陽イオン性リポソームは、血管新生内皮細胞と選択的に会合し、このことは、それらが、対応する休止期の、血管新生を行っていない内皮細胞との会合より5倍以上(好ましくは10倍以上)の比で、血管新生内皮細胞と会合することを意味する。リポソーム(またはポリヌクレオチド/脂質複合体)が血管新生内皮細胞と会合すると、それらは、内皮細胞によって取り込まれ、望ましい作用を発揮する。この物質は、内皮細胞を破壊し、さらに血管新生を促進し、凝固を促進する、および/または適当な手段によって内皮細胞を検出することができるように内皮細胞にタグをつけることができる。血管新生内皮細胞に影響を及ぼす物質は、発現されると血管新生を促進または抑制する蛋白質をコードするDNAのようなヌクレオチド配列であってもよい。ヌクレオチド配列は、好ましくは、そのプロモーターが血管新生内皮細胞における場合に限って活性である、またはある化合物の投与によってそれらの細胞において活性化することができ、それによってプロモーターの活性化によって遺伝子のスイッチを入れるもしくは切ることができるようになる、プロモーターに機能的に結合されたベクターの中に含まれている。本発明を説明するより詳しい記述およびカラー写真は、本発明者らが発表した論文に示されている−サーストンら(Thurston)、「陽イオンリポソームは、マウスの腫瘍および炎症における血管新生内皮細胞を標的にする(Cationic Liposomes Target Angiogenic Endothelial Cells in Tumors and Inflammation in Mice)」、J. Clin. Invest. 1998年4月1日号。
【0019】
複合体が、血中で、対応する正常な内皮細胞と比較して血管新生内皮細胞に対してより大きい親和性を有することを特徴とする、陽イオン脂質および血管新生の阻害剤を含む阻害剤/脂質複合体を開示する。複合体は好ましくは、検出可能な標識を含む。標識は、複合体内のいずれに存在してもよく、陽イオン脂質、阻害剤、その両者と結合していてもよく、またはいずれにも結合していなくてもよい。
【0020】
本発明はまた、陽イオン脂質およびヌクレオチド配列を含むヌクレオチド/陽イオン脂質複合体を含む。配列は、血管新生に影響を及ぼす蛋白質をコードする。複合体は、血中で、対応する正常な内皮細胞と比較して血管新生内皮細胞に対してより大きい親和性を有することを特徴とする。配列は、好ましくは、血管新生内皮細胞内で選択的に活性化されるプロモーターに機能的に結合しているDNA配列である。適したプロモーターには、フォン・ビリブラント因子(von Willibrand Factor)遺伝子プロモーターと共に、FLT-1遺伝子プロモーターおよびFLK-1遺伝子プロモーターが含まれる。ヌクレオチド配列は、正常な内皮細胞と比較して好ましくは血管新生内皮細胞内で遺伝子材料の発現を選択的に妨害するアンチセンス配列であってもよい。
【0021】
本発明はまた、血管新生部位の診断法を含む。本方法は、血中で、対応する正常な内皮細胞と比較して血管新生内皮細胞に対してより大きい親和性を有する、陽イオン脂質および検出可能な標識を含む複合体を投与することを含む。投与された複合体は、血管新生内皮細胞と選択的に会合する。その後、検出可能な標識を検出して、それによってその部位での標識の蓄積に基づいて血管新生の部位を決定する。標識は、蛍光標識、組織化学標識、免疫組織化学標識、放射性標識、またはその他の適した標識であってもよい。本方法は、標識の蓄積部位で、組織を単離して、その後単離された組織を分析することを含んでもよい。
【0022】
血管新生部位を診断する方法は、それによって悪性腫瘍または悪性組織を正確に同定して切除する方法を含む。この方法は、陽イオン脂質およびヒトの肉眼で検出可能な標識を含む複合体を投与することを含む。標識は、特定の波長の光が標識上で示された場合にヒトの肉眼で直接検出可能な光を放出してもよい。検出可能な標識を有する複合体は血管新生内皮細胞に結合する。患者はいかなる哺乳動物でもよいが、一般に、手術を受けるヒトである。外科的に患者を切開して、標識が蛍光を発するようになる光に腫瘍を暴露する。蛍光を発する組織全体を切除する。このように、この方法によって、血管新生内皮細胞を含むいかなる組織も、正確な位置を特定して、切除することができる。
【0023】
本発明は、組成物が血中で対応する正常な内皮細胞と比較して血管新生内皮細胞に対してより大きい親和性を有し、組成物が血管新生内皮細胞に入るように新生血管の血管新生内皮細胞にしばらくの間選択的に会合する、陽イオン脂質と血管新生に影響を及ぼす物質とを含む、血管新生内皮細胞に選択的に影響を及ぼす組成物を含む。本組成物は、好ましくは哺乳動物の循環中への注射によって投与するために製剤化される。組成物は好ましくは、対応する正常な内皮細胞と比較して血管新生内皮細胞に対する親和性が好ましくは5倍以上、より好ましくは10倍以上である。組成物は、好ましくは陽イオン脂質を5モル%以上含み、血管新生に影響を及ぼす物質は、好ましくは血管新生の阻害剤であるが、組成物を創傷治癒に用いる場合には血管新生の促進剤であってもよい。
【0024】
本発明の目的は、血管新生内皮細胞に選択的に影響を及ぼし、それによって血管新生を阻害または促進する方法を提供することである。
本発明のもう一つの目的は、リポソームが血管新生内皮細胞と選択的に会合し、血管新生を行っていない対応する内皮細胞とは会合しないようにデザインされている、検出可能な標識を含む陽イオンリポソームを投与することによって、血管新生部位を診断する方法を提供することである。
本発明のもう一つの目的は、陽イオン脂質と、血管新生を阻害もしくは促進するよう特異的に企図されデザインされた化合物とを含む陽イオンリポソームを提供することであって、該化合物は、水溶性であっても、水中に容易に分散するものであっても、または脂質に適合性で脂質二重層に取り込まれるものであってもよい。
本発明のもう一つの目的は、その結果、血管中の血流を妨害または完全に遮断する局所血管内凝血が起こるように、血管新生内皮細胞に選択的に影響を及ぼす方法を提供することである。
もう一つの目的は、検出可能な標識で細胞を標識し、それによってその後の培養および/または分析において、血管新生内皮細胞を周辺の細胞と区別することができるようになる、血管新生内皮細胞を分析する方法を提供することである。
本発明のさらにもう一つの目的は、その化合物が血管新生内皮細胞を破壊し、その後腫瘍細胞を破壊する、腫瘍の血管新生内皮細胞に毒性化合物を輸送することによって、望ましくない腫瘍を破壊する方法を提供することである。
本発明のもう一つの目的は、血管新生内皮細胞へ陽イオン脂質/DNA複合体を輸送することによって血管新生内皮細胞に選択的に影響を及ぼす方法を提供することであって、該DNAが、血管新生内皮細胞に好ましくは独自に会合している環境において選択的に活性化されるプロモーターに結合されている、すなわちプロモーターが、休止期の内皮細胞においては活性化されない方法を提供することである。
【0025】
本発明の特徴は、本発明の陽イオンリポソームが、血管新生に関与していない対応する内皮細胞と会合する場合より、はるかに高い選択性で(5倍以上、好ましくは10倍以上)血管新生内皮細胞に選択的に会合することである。
【0026】
本発明の利点は、血管が破壊され、または凝血などによって非機能的となるように、および周囲の組織(腫瘍細胞のような)に対する栄養供給が遮断され、それによって該組織が破壊されるように(例えば固形腫瘍を破壊する)、細胞が影響を受ける(例えば殺される)、内皮細胞に少量の毒性化合物を正確に輸送するために本発明の陽イオン性リポソームを用いることができる点である。
本発明のもう一つの利点は、本発明の陽イオンリポソームが、進行中の血管新生に関連した悪性または良性腫瘍に関連した血管新生を阻害するために用いることができる点である。
本発明のさらにもう一つの利点は、陽イオンリポソームを用いて、血管新生を促進する化合物が部位特異的に輸送され、それによって創傷治癒が増強される点である。
【0027】
本発明の重要な特徴は、いくつかのクラスの疾患および/または異常を、異常に関係する組織を直接治療することなく治療すること、例えば血管新生を阻害することによって、腫瘍への血管供給を遮断し、いかなる方法においても腫瘍細胞を直接治療することなく腫瘍を殺すことである。
【0028】
本発明のこれらならびに他の目的、利点および特徴は、添付の図面と共に本明細書に提供された開示を読むことによって当業者には明らかとなると思われる。
【0029】
好ましい態様の詳細な説明
本方法において用いられる血管新生内皮細胞およびリポソームに選択的に影響を及ぼす/標識する本方法を記述する前に、記述の特定のリポソーム、方法、または活性物質は、当然のことながら変更してもよいため、本発明はそれらに制限されないと理解すべきである。同様に、本明細書で用いられる用語は特定の態様のみを記述することを目的としており、本発明の範囲は添付の請求の範囲によってのみ制限されるため、制限的に解釈されないことも理解すべきである。
【0030】
本明細書および添付の請求の範囲において用いられるように、単数形「1つの(a, an)」、および「その(the)」とは、本文で明らかにそうでないと述べている場合でなければ複数形を含むことに注意しなければならない。したがって、例えば、「1つのリポソーム(a liposome)」という語は、そのようなリポソームの混合物および多数のリポソームを含み、「1つの物質(an agent)」という語は、多数の物質およびその混合物を含み、そして「その方法(the method)」という語は、本明細書に記述のタイプの1つ以上の方法または段階を含む。
【0031】
本明細書に記述の刊行物は、本出願の提出日以前の開示に限って提供している。本明細書のいかなる開示も、先行発明に基づいて、本開示がなされた日付を早める権利が本発明者らにはないと自認したと解釈されるべきではない。
【0032】
別途定義していない限り、本明細書における全ての技術的および科学的用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解される意味と同じ意味を有する。本明細書に記述のものと類似または同等であるいかなる方法および材料も、本発明の実践または試験において用いることができるが、好ましい方法および材料を本明細書に記述する。本明細書に引用した全ての刊行物は、刊行物が引用されている本発明の具体的局面を開示し説明する目的で参照として本明細書に組み入れられる。
【0033】
定義
本明細書において用いられる「治療」、「治療している」、「治療する」等の用語は、一般に、望ましい薬理学的および/または生理学的作用を得ることを意味するよう用いられる。作用は、疾患またはその症状を完全にまたは部分的に予防するという点において予防的であってもよく、ならびに/または、疾患および/もしくは疾患に帰することができる副作用の部分的もしくは完全な安定化または治癒という点において治療的であってもよい。本明細書で用いられる「治療」とは、哺乳動物、特にヒトにおける疾患のいかなる治療にも適用され、以下の段階を含む:
(a)疾患もしくは症状に対して素因を有する可能性があるが、まだそれを有すると診断されていない被験者において疾患もしくは症状が起こることを防止する段階;
(b)疾患の症状を阻害する、すなわちその発症を停止させる段階;または
(c)疾患の症状を軽減する、すなわち疾患もしくは症状の退行を引き起こす段階。
【0034】
「血管新生」という用語は、新しい血管の発生を含む組織血管形成のプロセスを指す。血管新生は、以下の3つのメカニズムの一つを通じて起こる:(1)新生血管形成、内皮細胞は、新血管の形成を開始させる既存の血管から遊走する;(2)血管形成、前駆細胞からデノボで血管を生じる;または(3)血管拡張、既存の小血管の直径が広げられて、より大きな血管が形成される(ブラッド&ゼッター(Blood, C. H., and Zetter, B. R.)、1990、Biochem. Biophys. Acta. 1032:89〜118)。
【0035】
血管新生は、新生児の成長の正常なプロセスにおいて、および黄体形成サイクルの際に女性の生殖系において、重要なプロセスである(モーゼスら(Moses, M. A.)、1990、Science 248:1408〜10参照)。正常な条件下では、既存または新しい血管の新たな形成または再形成を含む全てのプロセスは、自己制御性のプロセスであって、特定の細胞タイプの増殖は調節され協調される。
【0036】
血管新生はまた、創傷治癒ならびに、組織の炎症、関節炎、喘息、腫瘍の増殖、糖尿病網膜症、およびその他の条件を含む多くの臨床疾患の病因に関係している。血管新生に関連する臨床発現は、血管新生疾患と呼ばれる(フォークマン&クラグスブルン(Folkman, J. and Klagsbrun, M.)、1987、Science 235:442〜7)。
【0037】
多くの実験は、正常および病的な状態のいずれの際にも、血液供給が不十分である条件下で、組織が血管新生を促進する血管新生因子を生成することができることを示唆している。これらの因子および化合物は、細胞特異性、およびそれによってそれらが新しい血管の増殖を誘導するメカニズムが異なる。これらの因子は多様なメカニズムを通じて機能する。例えば、それらは、内皮細胞の遊走および増殖を誘導する、またはコラゲナーゼ産生を刺激する可能性がある(クラグスブルン&ダモール(Klagsbrun, M. and D'Amore, P. A.)、1991、「血管新生の制御因子(Regulators of angiogenesis)」、Ann. Rev. Physiol. 53:217〜39)。血管新生活性の直接的定量ができる多くのバイオアッセイが存在する(ウィルティングら(Wilting, J.)、1991、「増殖因子の定性的および定量的試験のための改変漿尿膜(CAM)アッセイ。担体、PBS、アンギオゲニン、およびbFGFの作用に関する研究(A Modified chorioallantoic menbrane(CAM)assay for qualitative and quantitative study of growth factors. Studies on the effects of carriers, PBS, angiogenin, and bFGF)」、Anal. Embrol. (Berl)183:259〜71)。
【0038】
血管新生阻害剤は、疾患の治療に有用であるかも知れないと提唱されている。例えば、血管新生を阻害すれば腫瘍の増殖を制限する可能性がある。(1)血管新生因子の放出を阻害する、(2)モノクローナル抗体のような手段を用いて血管新生因子を中和する、および(3)血管新生を阻害することが知られている分子である抗血管新生因子を用いて、内皮細胞反応を阻害する(フォークマンら(Folkman, J.)、1992、Seminars in Cancer Biology 3:89〜96)ことを含む、血管新生を阻害するいくつかの手段が提唱されている。コラゲナーゼ阻害剤、基底膜代謝回転阻害剤、血管抑制性ステロイド、真菌由来阻害剤、血小板第4因子、トロンボスポンジン、ペニシラミンのような関節炎剤、および特にα-インターフェロンなどの、いくつかのそのような内皮細胞阻害因子が報告されている(例えば、フォークマンら(Folkman, J.)、1992、Seminars in Cancer Biology 3:89〜96;例えば、ステピエンら(Stepien, H.)、1996、「フマギリンとその誘導体TNP-470がフィッシャー344系ラットのエストロゲン誘発プロラクチノーマの機能、形態、および血管新生に及ぼす阻害効果(Inhibitory effects of fumagillin and its analogue TNP-470 on the function, morphology, and angiogenesis of an oestrogen-induced prolactinoma in Fischer rats)」、J. Endocrinol. 150:99〜106;メイオンら(Maione, T. E.)、1990、「組換え型ヒト血小板第4因子および関連ペプチドによる血管新生の阻害(Inhibiton of angiogenesis by recombinant human platelet factor-4 and related peptides)」、Science 247:77〜9を参照のこと)。
【0039】
「内皮細胞」という用語は、循環系の内表面に存在する単純な扁平細胞の単層である、内皮を形成する細胞を意味する。これらの細胞は、通常の条件下では増殖は非常に遅く、細胞分裂は、おそらく1年に1回だけであるが、細胞分裂能を保持している。内皮細胞の増殖は、[3H]チミジンを用いてS期の細胞を標識することによって示すことができる。正常血管では、標識される内皮細胞の比率は、動脈の分岐点で特に高く、ここでは細胞の乱れと摩耗が代謝回転を刺激するように思われる(ゴス(Goss, R. J.)、1978、The Physiology of Growth、Academic Press、New York, 120〜137頁)。正常な内皮細胞は休止期にある、すなわち分裂せず、そのため、以下に述べるように血管新生内皮細胞と識別することができる。
【0040】
内皮細胞はまた、血管新生において重要なプロセスである遊走能を有する。内皮細胞は、創傷修復の際のように必要が生じた場合、または腫瘍形成の場合のようにそれらに対する認められた必要性が生じた場合に、インビボで新しい毛細管を形成する。新しい血管の形成は血管新生と命名されており、これには内皮細胞にとって分裂誘発性または化学誘因剤となりうる分子(血管新生因子)が関係する(クラグスブルン(Klagsbrun、前記)。血管新生の間、内皮細胞は既に存在する毛細管から遊走して、新しい血管の形成を開始する、すなわち1つの血管から、その血管が伸長するように細胞が遊走する(スパイデル(Speidel, C. C.、Am J. Anat. 52:1〜79)。内皮細胞の増殖および遊走はいずれも、インビトロ試験によって示されており;培養されている内皮細胞は増殖して、自発的に毛細血管を形成することができる(フォークマン&ハウデンシルド(Folkman, J., and Haudenschild. C.)、1980、Nature 288:551〜56)。
【0041】
「血管新生内皮細胞」および「血管新生を行いつつある内皮細胞」などの用語は、(上記のように)血管新生を起こしつつある(上記のような)内皮細胞を意味するために、本明細書において互換的に用いられる。このように、血管新生内皮細胞は、細胞分裂をほぼ1年に1回行う正常な条件をはるかに超えた速度で増殖する内皮細胞である。内皮細胞の正常な増殖らの分化速度は、正常な増殖の2倍、5倍、または10 倍以上であるかも知れず、患者の年齢および状態、関係する腫瘍のタイプ、創傷のタイプ等のような要因に応じて大きく変化することがありうる。正常な内皮細胞と血管新生内皮細胞との増殖の程度の差が測定可能で、生物学的に有意であると見なされれば、2つのタイプの細胞は、本発明によって識別される、すなわち血管新生内皮細胞は、陽イオンリポソームの選択的結合に関して、対応する正常な休止期の内皮細胞と識別することができる。
【0042】
「対応する内皮細胞」、「正常なまたは休止期の内皮細胞」などの用語は、内皮細胞の一部が血管新生を行い、そして内皮細胞の一部が休止期である場合に、(通常の条件下で)同じタイプの組織の中に含まれる正常な休止期の内皮細胞を指すために用いられる。本発明では、血管新生内皮細胞を選択的に標的とし、これは対応する休止期の内皮細胞を標的とする場合より5倍大きい、好ましくは10倍大きい選択性で標的とされる。
【0043】
「脂質」という用語は、脂肪、脂質、水に不溶性である原形質のアルコール・エーテル・可溶性成分を含む、一般用語としてのその従来の意味において用いられる。脂質には、脂肪、脂肪油、精油、ワックス、ステロイド、ステロール、燐脂質、糖脂質、スルホリピッド、アミノリピッド、クロモリピッド(リポクローム)、および脂肪酸が含まれる。この用語は、天然に存在する、および合成的に生成される脂質の双方を含む。本発明に関連して好ましい脂質は、フォスファチジルコリンおよびフォスファチジルエタノールアミン、ならびにスフィンゴミエリンを含む燐脂質である。脂肪酸が存在する場合、それらの長さは炭素数12〜24個で、不飽和結合(二重結合)を6個まで含み、アシルまたはエーテル結合によって骨格に結合している。骨格に1つ以上の脂肪酸が結合している場合、脂肪酸は異なるものであってもよく(非対称)、または例えばリゾレシチンのように1つの脂肪酸鎖のみが存在してもよい。特に、卵黄、ウシの心臓、脳、もしくは肝臓、または大豆から精製したレシチン(フォスファチジルコリン)のように、非イオン性の脂質が天然資源に由来する場合、混合製剤もまた可能である。ステロイドおよびステロール、特にコレステロールおよびステロールは3b位で置換される。
【0044】
本明細書において用いられる「陽イオン脂質」という用語は、陽イオン性である本発明のいかなる脂質(既に定義したように)も含む。脂質は、測定時に利用できる機器によって測定可能な陽性電荷(生理的pHにおいて)を有する場合には陽イオンであると判定される。陽イオン脂質上に脂肪酸が存在する場合、それらの長さは炭素数12〜24個で、不飽和結合(二重結合)6個までを含み、アシルまたはエーテル結合のいずれかによって骨格と結合している;骨格に1個の脂肪酸鎖のみが結合していることもあり得る。1つ以上の脂肪酸が骨格に結合している場合、脂肪酸は異なるもの(非対称)であってもよい。混合製剤も可能である。
【0045】
「リポソーム」という用語は脂質二重層によって囲い込まれた任意の分画を含む。リポソームは脂質小胞とも呼ばれる。リポソームを形成するために、脂質分子は、伸長した非極性(疎水性)部分と極性(親水性)部分とを含む。分子の疎水性部分および親水性部分は、好ましくは、伸長した分子構造の2つの両端に存在する。そのような脂質が水中に拡散すると、それらは自発的にラメラと呼ばれる二重膜を形成する。ラメラは、互いに向かい合う非極性(疎水性)表面と水性溶媒に面する極性(親水性)表面とを有する、脂質分子の2つの単層シートから成る。脂質によって形成された膜は、細胞の内容物を囲い込む細胞膜と同様に、水相の部分を囲い込む。このように、リポソームの二重層は細胞膜に蛋白質成分が存在しない細胞膜と類似性を有する。本発明に関連して用いられるようにリポソームという用語は、一般に直径が1〜10μmで、そのどこかに2〜数100個の同心性の脂質二重層を水相の層と交互に含む多重ラメラリポソームを含むが、同様に、単一の脂質層を含み、一般に多重ラメラリポソームを超音波処理することによって産生される直径20〜100ナノメートルの単ラメラ小胞も含む。
好ましいリポソームは、単一の脂質二重層を有し、直径の範囲が25〜200 nmである小さい単ラメラ小胞(SUV)である。
【0046】
好ましいポリヌクレオチド(DNA、RNAおよび合成ポリヌクレオチド類似体を含む)リポソーム複合体は、好ましいリポソームから調製される。複合体は、陽イオン脂質1〜50 nmol毎にポリヌクレオチド1μgが存在するように調製される。DNA遺伝子カセットからの発現が望ましい最終産物である場合、陽イオン脂質に対するポリヌクレオチドの最適な比率は、標準量のDNAを、上記の範囲内の異なる量の陽イオンリポソームと混合する、一連の製剤を調製することによって経験的に決定される。次にこれらの製剤をインビボで投与して、最も高い発現を生じる製剤を決定することができる。
【0047】
陽イオンリポソームは、0mV以上のゼータ電位を有するとして機能的に定義することができる。
本明細書において用いられる「陽イオンリポソーム」という用語は、陽イオン性である既に定義したいかなるリポソームも含むものと解釈される。リポソームは生理的pHにおいて存在する場合に陽イオン性であると決定される。リポソーム自身が陽イオン性であると決定される実体である、ということは、インビボの環境においてその生理的pHにおいて測定可能な陽性電荷を有するリポソームが、他の物質に結合するようになるという意味であることに留意されたい。それらの他の物質は、陰性に荷電していてもよく、それによって陽性電荷を有しない構造が形成されてもよい。インビボ環境において存在する本発明のリポソームの電荷および/または構造は、正確には決定されていない。しかし、本発明にしたがって、本発明の陽イオンリポソームは、それ自身が陽イオン性であるいくつかの脂質を少なくとも用いて生成されると考えられる。リポソームは完全に陽イオン脂質だけから成る必要はないが、生理的pHにおいて、リポソームが形成されてインビボ環境下に置かれる場合に、リポソームが最初に陽性電荷を有するように陽イオン脂質の十分量を含まなければならない。
【0048】
「ヌクレオチド配列/陽イオン脂質複合体」という用語は、少なくとも上記の陽イオン脂質と混合したRNAまたはDNA配列であってもよく、および中性脂質を含んでもよいヌクレオチド配列の組合せを指す。DNA配列および陽イオン脂質を組み合わせる場合、それらは古典的なリポソームではない複合体を自発的に形成する。本発明は特に、ヌクレオチド配列が特に血管新生内皮細胞に影響を及ぼすようにデザインされた、特定のヌクレオチド配列/陽イオン脂質複合体を形成することを目的とする。例えば、ヌクレオチド配列は血管新生内皮細胞を殺す蛋白質をコードするものでもよい。配列は、好ましくは、血管新生内皮細胞の環境内にある場合に限って選択的に活性化される、すなわち対応する休止期の内皮細胞では活性化されない、プロモーターに機能的に結合される。さらに、複合体は血管新生内皮細胞内で遺伝子材料の発現を遮断し、それによって血管新生内皮細胞の機能を重度に破壊する、および/または細胞を殺す、アンチセンス配列である配列を含んでもよい。DNAはプラスミドであっても、直鎖状であってもよい。遺伝子産物が望ましい場合(それ自身がRNA転写物である、または蛋白質に翻訳される)、DNAプロモーター配列と、遺伝子産物をコードするDNA配列とを含む発現カセットが必要である。ホスホジエステル結合以外を有するヌクレオチドは、特にアンチセンスでの用途において用いられる。
【0049】
「会合する」という用語は、リポソームおよび/またはその内容物が内皮細胞に入るために十分な期間、血管新生内皮細胞に十分に近接して存在する、本発明の陽イオンリポソームの作用を意味する。本発明のリポソームは多様な状況において血管新生内皮細胞に会合してもよいが、最も好ましくは、インビボ条件の場合に血管新生内皮細胞と会合する。このように、リポソームは血管新生内皮細胞との会合前に、血流中に存在する他の分子または物質との接着、結合、または会合によって改変してもよい。リポソームと血管新生内皮細胞との会合には、2つの無関係な分子、すなわちヒト血清アルブミンおよびヒトトランスフェリンのような別の巨大分子間に起こる非特異的相互作用のような多様な力が原因となる可能性がある。これらの分子間力は、(1)静電気的;(2)水素結合;(3)疎水性;および(4)ファン・デル・ワールス力である、4つの一般領域に分類されると考えられる。静電気力は、陽イオンリポソーム上の反対荷電基と、血管新生内皮細胞上または細胞内に存在する基との間のような、反対荷電イオン基間の引力による。引力(F)は、電荷間の距離(d)の平方に反比例する。水素結合力は、親水基間の可逆的な水素架橋の形成によって提供される。本発明のリポソームは、-COOHのような親水性基を含んでもよく、-OH、-NH2基であってもよい類似の基が内皮細胞の表面上に存在してもよい。これらの力は、これらの基を有する2つの分子の近接した位置に大きく左右される。疎水性の力は、水中の油滴が融合して単一の大きい油滴となる場合と同様に機能する。従って、本発明のリポソーム中に存在する基のように、非極性の疎水基は、水性環境で会合する傾向があり、内皮細胞の表面上に存在する疎水基と会合する傾向がある可能性がある。最後に、ファン・デル・ワールス力は分子間で生じ、外部の電子雲の間の相互作用に依存する。
【0050】
「選択的に会合する」および「選択的に標的化する」等の用語は、本明細書において、血管新生に関係していない対応する正常な内皮細胞と陽イオンリポソームとの会合より高い程度で、陽イオンリポソームを血管新生内皮細胞と会合させる、本発明の陽イオンリポソームの特性を記述するために用いられる。本発明に従って、選択的または好ましい会合は、リポソームが、血管新生を行わない対応する正常な内皮細胞と比較して、血管新生を行う内皮細胞と5倍以上の高い程度で会合することを意味する。より好ましくは、好ましいまたは選択的な会合は、血管新生内皮細胞と対応する正常な内皮細胞との間の選択性が10倍以上であることを示している。
【0051】
「癌」という用語は、不適当な細胞増殖の疾患を意味する。このような混乱は、腫瘍組織の塊が生体臓器の機能を損なう場合に、臨床的に最も明らかとなる。正常組織および悪性組織は、単細胞レベルにおいて、および組織レベルにおいて、類似の増殖特徴を有するため、正常な組織の増殖を記述する考え方を悪性組織にも適用できる。癌は、細胞増殖調節の障害であると共に組織増殖調節が障害された疾患でもある。倍加時間とは、組織または腫瘍の大きさまたは細胞数が倍加するために必要な時間を指す。臨床的に明らかな腫瘍の倍加時間は通常、腫瘍に含まれる細胞の細胞周期時間よりかなり長い。しかし、腫瘍とは異なり、成人における正常な肝臓、心臓、または肺は、細胞生産と細胞死の速度が等しくなる定常状態にあるために、倍加時間を有しない(ストックデール(Stockdale, F.)、1996、「癌の増殖と化学療法(Cancer growth and chemotherapy)」、Scientific American Medicine、第3巻、Scientific American Press, New York、12〜18頁)。腫瘍の増殖特徴は、新しい細胞の産生が細胞死を超えることである;新生物形成事象は、自己再生を行う幹細胞の比率が増加し、且つ成熟へと進行する細胞の比率が対応して減少する傾向がある(マックローチら(McCulloch, E. A.)、1982、「急性骨髄芽球性白血病における転帰の変化に対する芽球細胞特性の関与(The contribution of blast cell properties to outcome variation in acute myeloblastic leukemia(AML))」、Blood 59:601〜608)。それぞれの腫瘍集団に関して倍加時間が存在し、特異的増殖曲線を確立することができる(ストックデール(Stockdale, F.)、前記)。腫瘍の増殖パターンは、腫瘍発生の間、増殖速度は最初は非常に速く、その後大きさが増加するにつれて徐々に低下することを示したゴムペルジアン(gomperzian)曲線によって説明することができる(スティール(Steel, GG)、1977、Growth kinetics of tumors、Oxford University Press, Inc.、New York, 40頁)。
【0052】
発明の全般的局面
添付の図面は、本発明の陽イオンリポソームが血管新生内皮細胞を標的にする際の高い選択性を視覚的に明らかに示している。本発明の基本的な態様は、薬学的に許容される担体と、ある物質またはDNA/陽イオン複合体を含む陽イオンリポソームとを含む製剤を投与する(好ましくは血管内に注射する、より好ましくは動脈内に注射する)ことによって、血管新生内皮細胞に選択的に影響を及ぼす方法を含む。その物質は、血管新生を阻害する化合物、血管新生を促進する化合物、および/または検出可能な標識であってもよい。注射された製剤中の陽イオンリポソームは、新生血管壁の内側に並ぶ血管新生内皮細胞の中に入る(エンドサイトーシスによって)。陽イオンリポソームは、リポソームそのものおよび/またはリポソームの内容物が血管新生内皮細胞に入るために十分な時間および方法で、血管新生内皮細胞と会合する。その後、細胞に入る化合物は、血管新生を阻害もしくは促進することができる、または血管新生部位を検出できるようにする標識を単に提供する。血管新生内皮細胞を標的とする選択性は、添付の図面を参考にすることによって最もよく理解することができる。
【0053】
図1は、その上に大きく丸い濾胞(黄色)が存在するマウス卵巣の一部を示す。血管新生は、正常なマウス卵巣内で起こるために、検出可能な標識を含む陽イオンリポソームは、濾胞(赤〜オレンジ色)の増殖しつつある血管の血管新生内皮細胞と会合する。しかし、図1の中で、標識が血管新生内皮細胞のみと会合しているのか、またはそれが卵巣および濾胞内の組織全体と会合しているか否かを明らかに決定することは不可能である。
【0054】
図2は、検出可能な標識を含む本発明の陽イオンリポソーム(赤〜オレンジ色)を静脈内注射したマウスの膵臓腫瘍の切片を示す蛍光顕微鏡写真である。血管新生は腫瘍内で容易に起こる。このように、この写真は、本発明の陽イオンリポソーム(赤〜オレンジ色)が、血管新生内皮細胞(緑色)に特異的に会合していることを示す証拠となる。しかし、これらの結果は、本発明の特異性を歴然と証明するわけではない。
【0055】
図3および4の比較は、本発明が血管新生部位を特定する能力があることを示している。図3は、マウスの正常な膵臓組織内の血管を示す写真である。正常な内皮細胞では、対応する血管新生内皮細胞と比べて標識量ははるかに少ない。このことは、マウス内の膵臓腫瘍の写真である図4と図3を比較することによって、明らかに示される。図4は、腫瘍領域内の陽イオンリポソーム内に高度に蓄積された標識(黄〜オレンジ色)が含まれることを明らかに示している。図3と図4とに大きな差があることから、腫瘍部位を明らかにし且つ正確にマークするために本発明を利用できることが示される。しかし、図4では多量の標識が新生血管に会合しているため、血管新生内皮細胞を選択的に標的にする陽イオンリポソームの特異性を十分に認識することはできないかも知れない。
【0056】
図5は、正常なマウス膵島における血管(緑色)の写真である。赤〜オレンジ色の着色が少量であることから、陽イオンリポソームと、膵臓組織の血管の内側に沿った正常な内皮細胞との会合は限られていることが示される。
【0057】
検出可能な標識を含む陽イオンリポソームの特異性は、図5を図6と比較することによってより明らかに示される。図6は、マウスの膵臓内の腫瘍の新生血管の内皮細胞に標識がかなり高度に蓄積されていることを明らかに示している。
【0058】
陽イオンリポソームが血管新生内皮細胞を正確に標的化できることは、図7および8においてはっきりと示される。図7は、蛍光標識が血管のみと会合していること、すなわち、標識は周辺の組織に漏れていない、または移動していないことを明らかに示している。特異性は図8において最も明確に示され、ここでは、血管新生内皮細胞内に検出される、標識された陽イオンリポソームに明らかに焦点を当てており、標識がそれらの細胞に特異的で、周辺組織に漏れていない、または移動していないことを示している。
【0059】
図9および10は、上記と同じ作用を、異なる血管新生モデルを用いて示している。図1〜8は全て、正常または癌様組織のいずれかに対するものであった。図9および10はそれぞれ、マウス気管の正常組織および炎症組織を示す。より詳しく述べると、図9は、気管の正常な血管、すなわち病原体不含マウスの気管を示す。図10は、感染によって血管新生が起こった気管の血管を示している。図10では、検出可能な高濃度の標識が現れているが、このことは、本発明の陽イオンリポソームが血管新生内皮細胞に選択的に会合すること−−感染症によって血管新生へと誘導された気管の内皮細胞に特に会合していることを示している。
【0060】
図11は、血管新生内皮細胞と、血管新生を行っていない対応する正常な内皮細胞との会合能における陽イオンリポソームの特異性の差を示すグラフである。図11に示すように、本発明の陽イオンリポソーム(この実験に関して)は、血管新生を行っていない対応する内皮細胞と比較して血管新生内皮細胞に対する親和性が約10倍大きいことを示した。
【0061】
最後に、図12および13は、本発明の陽イオンリポソームが血管新生内皮細胞の中にどのようにして入るかを示している。図12では、陽イオンリポソームが血管新生内皮細胞の表面に接触している。図13では、陽イオンリポソームは、血管新生内皮細胞の中にエンドサイトーシスによって入り、細胞中に存在する。
【0062】
本発明の陽イオンリポソームの特異性を、言葉で表し、数値によって示したので、当業者は、本発明を利用するために異なる多様な物質を含む、異なる多様な陽イオンリポソームを作製することができると思われる。しかし、念のため、以下に陽イオンリポソームおよびその製造方法について説明し、その後に血管新生を阻害または促進する物質について説明する。
【0063】
リポソーム
リポソームは、(上記のような)陽イオン脂質を含む脂質を(上記のように)水溶液に加えて、数秒から数時間にわたって溶液を攪拌することによって容易に形成することができる。この単純な方法によって、自発的に、直径約1〜10μmの範囲の、大きい多重ラメラリポソームまたは小胞が形成される。これらのリポソームは、脂質がその中に存在する水相の層と交互になる2〜数100個の同心性の脂質二重層を含む。血管新生を阻害する、血管新生を促進する、または検出可能な標識を提供する化合物のような物質を水相内に含むことができる。物質は好ましくは水溶性で、または少なくとも水中に容易に拡散させることができる。
【0064】
水層の厚さおよびそれによりリポソーム内に捕らえられる水相の総量は、荷電した脂質間の静電気反発力と、二重層間のファン・デル・ワールス引力との全体としてのバランスに依存する。このように、水中の間隙(したがって、捕らえられた水性材料の容積)は、膜における荷電脂質の比率が増加するにつれて、また水相における電解質(荷電イオン)の濃度が減少するにつれて増加する。形成された小さいリポソームまたは小胞は単ラメラであり、大きさは約20〜100 nmの範囲で、多重ラメラ小胞を超音波処理することによって作製することができる。大きさが直径約0.1〜1μmの範囲である比較的大きな単ラメラリポソームは、脂質を有機溶媒または界面活性剤に溶解し、可溶化剤を蒸発または透析によって除去した場合に得ることができる。特定の脂質またはストリンジェントな脱水・水和条件を必要とする方法による、比較的小さな単ラメラリポソームの融合によって、細胞と同じ大きさの、または細胞より大きい単ラメラ管を生じることができる。
【0065】
本発明の陽イオンリポソームを作製するためには、少なくともいくつかの陽イオン脂質を用いてリポソームを産生することが必要である。しかし、本発明の陽イオンリポソームは完全に陽イオン脂質のみで構成されている必要はない。例えば、中性脂質を約45%の量で、そして陽イオン脂質を約55%の量を用いれば、本発明に関連して有用で、血管新生内皮細胞を選択的に標的化する陽イオン脂質を生じる。
【0066】
陽イオンリポソームを血管新生に影響を及ぼす物質および/または標識と混合することは、標準的な技術に従ってリポソームが調製されるリポソーム調製物を含むが、この技術によって、例えば塩酸1-{2-(9(Z)-オクタデセノイルオキシ)エチル}-2-(8(Z)-ヘプタデセニル)3-(2-ヒドロキシエチル)イミダゾリウム9DOTAP)、コレステロール、およびテキサスレッドDHPEの溶液を混合して、蒸発乾固させ、その後脂質薄膜を5%デキストロース中で再度水和して多重ラメラ小胞を生じる。これらの小胞をポリカーボネート・メンブレンフィルターを通じて押し出し、単ラメラ小胞を得る。リポソームおよび混合すべき物質、例えばプラスミドDNAを5%デキストロース溶液中または他の生理的に許容される賦形剤中で特定の比率で互いに混合する。有用な陽イオン脂質には、以下のものが含まれる:DDAB、臭化ジメチルジオクタデシルアンモニウム[Avanti Polar LipidsおよびSigma Chemical Companyから入手可能]、1,2-ジアシル-3-トリメチルアンモニウム-プロパン類(ジオレオイル(DOTAP)、ジミリストイル、ジパルミトイル、ジセアロイルを含むが、これに限定されない)[これらは全て、Avanti Polar Lipidsから入手可能]、1,2-ジアシル-3-ジメチルアンモニウム-プロパン類(ジオレオイル、ジミリストイル、ジパルミトイル、ジセアロイルを含むが、これに限定されない)[これらは全て、Avanti Polar Lipidsから入手可能]DOTMA、塩化N-[1-[2,3-ビス(オレオイルオキシ)]プロピル]-N,N,N-トリメチルアンモニウム、DOGS、ジオクタデシルアミドグリシルスペルミン[Promega Corporationから入手可能]DC-コレステロール、3b-[N-(N',N'-ジメチルアミノエタン)カルバモイル]コレステロールDOSPA、2,3-ジオレオイルオキシ-N-(2(スペルミンカルボキサミド)-エチル)-N,N-ジメチル-1-プロパンアンモニウムトリフルオロアセテート、1,2-ジアシル-sn-グリセロ-3-エチルフォスフォコリン(ジオレイル(DOEPC)、ジラウロイル、ジミリストイル、ジパルミトイル、ジステアロイル、パルミトイル-オレオイルを含むがこれらに限定されない)[これらはAvanti Polar Lipidsから入手可能]、b-アラニルコレステロール、CTAB、臭化セチルトリメチルアンモニウムdiC14-アミジン、N-t-ブチル-N'-テトラデシル-3-テトラデシルアミノプロピオンアミジン、14Dea2、塩酸O,O'-ジテトラデカノリル-N-(トリメチルアンモニオアセチル)ジエタノールアミン、(ヨウ化N,N,N',N'-テトラメチル-N,N'-ビス(2-ヒドロキシエチル)-2,3-ジオレオイルオキシ-1,4-ブタンジアンモニウム[プロメガ・コーポレーションから入手可能]、塩化1-[2-(9(Z)-オクタデセノイルオキシ)エチル]-2-(8(Z)-ヘプタデセニル-3-(2-ヒドロキシエチル)イミダゾリニウム(DOTIM)、塩化1-[2-ヘキサデカノイルオキシ)エチル]-2-ペンタデシル-3-(2-ヒドロキシエチル)イミダゾリニウム(DPTIM)、塩化1-[2-テトラデカノイルオキシ)エチル]-2-トリデシル-3-(2-ヒドロキシエチル)イミダゾリウム(DMTIM)のような、塩化1-[2-アシルオキシ)エチル]2-アルキル(アルケニル)-3-(2-ヒドロキシエチル)イミダゾリニウム誘導体。最後の3個の脂質はソロディンら(Solodin)、Biochem 43、135737〜13544、1995に記述されている。これは、ウィスコンシン州のティム・ヒース(Tim Heath)の研究室からの論文で、メガビオス(Megabios)は脂質に関する発明のいくつかに対して特許を得ている。
【0067】
以下のような、4級アミン上にヒドロキシアルキル部分を含む、2,3-ジアルキルオキシプロピル4級アンモニウム化合物誘導体:
臭化1,2-ジオレオイル-3-ジメチル-ヒドロキシエチルアンモニウム(DORI);
臭化1,2-ジオレイルオキシプロピル-3-ジメチル-ヒドロキシエチルアンモニウム(DORIE);
臭化1,2-ジオレイルオキシプロピル-3-ジメチル-ヒドロキシプロピルアンモニウム(DORIE-HP);
臭化1,2-ジオレイルオキシプロピル-3-ジメチル-ヒドロキシブチルアンモニウム(DORIE-HB);
臭化1,2-ジオレイルオキシプロピル-3-ジメチル-ヒドロキシペンチルアンモニウム(DORIE-HPe);
臭化1,2-ジミリスチルオキシプロピル-3-ジメチル-ヒドロキシルエチルアンモニウム(DMRIE);
臭化1,2-ジパルミチルオキシプロピル-3-ジメチル-ヒドロキシエチルアンモニウム(DPRIE);
臭化1,2-ジステリルオキシプロピル-3-ジメチル-ヒドロキシエチルアンモニウム(DSRIE)−これらの脂質はバイカル、フェルナーら(Vical, Felgner)、J. Biol. Chem. 269、2550〜2561、1994 によって作製された。
陽イオンリポソームは、陽イオン脂質そのものから、または他の脂質と混合して、特に、以下の中性脂質と混合して調製される:
【0068】
コレステロール
1,2-ジアシル-sn-グリセロ-3-フォスフォエタノールアミン類(ジオレオイル(DOPE)を含むがこれに限定されない;大きい誘導体ファミリーは、Avanti Polar Lipidsから入手できる);
1,2-ジアシル-sn-グリセロ-3-フォスフォコリン類(大きい誘導体ファミリーは、Avanti Polar Lipidsから入手できる)。
注意 合成および天然の双方の非対称の脂肪酸を含むことができ、そして上記のジアシル誘導体に関しては混合製剤を含むことができる。
上記のタイプのリポソームおよび当業者が想起するその他のタイプのリポソームは、血管新生を促進または阻害する、および/または検出可能な標識を含む物質を含むリポソームと共に本発明において用いることができる。本発明のリポソームの一例は、血管新生を阻害する脂溶性または水溶性物質を含む陽イオンリポソームである。しかし、脂溶性の化合物は、脂質二重層の中に存在してもよい。以下に、血管新生阻害剤についての説明を記述する。しかし、本発明によりその他のものが当業者に想起される、および/または開発されること、そのような血管新生阻害剤は本発明に関連して容易に使用することができることに留意すべきである。
【0069】
血管新生阻害剤
ヘパリンは、血管新生の増強剤であり、ヘパリン拮抗剤は血管新生反応を阻害することができる。ヘパリン結合蛋白質であるプロタミンは、抗血管新生特性を示す(タイラー&フォークマン(Taylor, S. and Folkman, J. )、1982、「プロタミンは血管新生の阻害剤である(Protamine is an inhibitor of angiogenesis)」、Nature、297、307)が、これをヒトに暴露するとアナフィラキシー反応を引き起こすことが知られているため、臨床的に有用でない。もう一つの抗血管新生剤は、ヘパリン結合蛋白質であるメジャー塩基性蛋白質であるが、これも非常に毒性が強く、このためヒトで使用するには現実的でない。しかし、本発明によって高度に選択的な標的化が得られたため、血管新生を阻害するが、ヒトでの治療応用には毒性が強すぎると思われるこれらおよび他の化合物は、非常に少量で用いることができるため、当然有用となる。
【0070】
血小板第4因子(PF4)は、ヘパリン結合活性および抗血管新生特性の双方を示し、それは他のヘパリン拮抗剤ほど強い毒性を示さないため、臨床的に有用となるかも知れない。米国特許第5,112,946号に開示されたPF4の化学改変体は、PF4の抗血管新生特性を増強する。これらの改変には、その遊離のアミノ基をフルオレセイン・イソチオシアネートで修飾したPF4類似体の産生、蛋白質の構造的組成が特に変化したPF4変異体の産生、および抗血管新生特性を保持するPF4断片の産生が含まれる。特に、PF4のカルボキシ末端に相当するアミノ酸13個の合成ペプチドは、強い抗血管新生(angiostatic)活性を示した。
【0071】
多様なステロイドが、血管新生を阻害することが示されている。この抗血管新生活性は、ヘパリンまたは関連する分子の付加によって増強される(フォークマン、ワイズら(Folkman, J., Weisz, P. B.)、1989、「合成ヘパリン置換体による血管新生の制御(Control of angiogenesis with synthetic heparin substitutes)」、Science、243、1490〜3)。テトラヒドロコルチゾンのようないわゆる「抗血管新生(angiostatic)ステロイド」は、インビボで血管新生の阻害能を有する。特に6α-フルオロ-17,21-ジヒドロキシ-16β-メチル-プレグナ-4,9-(11)-ジエン-3,20-ジオンは、強力な抗血管新生(angiostatic)ステロイドとして用いられている。
【0072】
コラーゲン代謝を調節する薬剤は血管新生を阻害することが判明した。アミノ酸プロリンの類似体は特にコラーゲン合成を阻害し、インビボで血管新生を阻害する。特にL-アゼチジン-2-カルボン酸(LACA)、シス-ヒドロキシプロリン(CHP)、D,L-3,4-デヒドロプロリン(DHP)、およびチオプロリン(TP)はそれぞれ、活性が強い順に抗血管新生活性を示す(イングバー&フォークマン(Ingber, D., and Folkman, J.)、1988、「コラーゲン代謝の調節による血管新生の阻害(Inhibition of angiogenesis through modulation of collagen metabolism)」、1988、Lab. Invest. 59、44〜51)。これらの類似体のそれぞれも、抗血管新生性(angiostatic)ステロイドおよびヘパリンの抗血管新生作用を増強する。
【0073】
血小板のα顆粒に存在する糖蛋白質であるヒトトロンボスポンジンは、米国特許第5,192,744号に開示されているように、トリマーまたはモノマーもしくは断片型で血管新生を阻害する。それぞれはグリコシル化型において作用し、非グリコシル化型において作用すると予想される。血管新生阻害特性は、アミノ末端と会合したヘパリン結合ドメインおよびモノマー蛋白質のカルボキシ末端に認められた血小板結合ドメインの欠失後でも存在する。
【0074】
ラミニン活性を示すペプチドは血管新生を阻害し、過剰な血管が組織に形成されることを防止する。そのような活性を有する特殊なペプチドは:1)チロシン・イソロイシン・グリシン・セリン・アルギニン;2)プロリン・アスパルチン(aspartine)・セリン・グリシン・アルギニン;および3)システイン・アスパラギン酸・プロリン・グリシン・チロシン・イソロイシン・グリシン・セリン・アルギニンである。これらのペプチドは、環状型で抗血管新生活性を維持すると予想される。
【0075】
血管新生阻害物質のその他の例には、コラゲナーゼ活性を示す軟骨組織からの抽出物、網膜色素内皮細胞に由来する蛋白質(Arch. Ophthalmol.、103、1870(1985))、培養軟骨細胞から誘導した抗癌因子(タキガワ&スズキ(Takigawa, M. and Suzuki, F.)、1988、「軟骨由来抗癌因子を産生するクローン細胞株の確立(Establishment of clonal cell lines producing cartilage-derived anti-tumor factor(CATF)」、Protein, Nucleic Acid and Enzyme、33、1803〜7)、インドメタシンのような抗炎症剤(ピーターソン(Peterson, H. I.)、1986、「プロスタグランジン合成阻害剤による腫瘍血管新生阻害(Tumor angiogenesis inhibition by prostaglandin synthase inhibitors)」、Anticancer Res.、6、251〜3)、リボヌクレアーゼ阻害剤(シャピロ&バリー(Shapiro, R., and Vallee, B. L.)、1987、「ヒト胎盤リボヌクレアーゼ阻害剤はアンギオゲニンの血管新生およびリボヌクレオチド溶解活性をいずれも消失させる(Human placental ribonuclease inhibitor abolishes both angiogenic and ribonucleolytic activities of angiogenin)」、PNAS 84、2238〜41)、硫酸多糖類とペプチドグリカンの複合体(例えば、JPA-S63(1988)-119500)、関節炎用の金製剤、ハービマイシンA(JPA-S63(1988)-295509)およびフマギリンまたはフマギロール誘導体、が含まれる。米国特許第5,202,352号に開示されるように、多くのフマギロール誘導体が血管新生阻害特性を有する。上記引用は、血管新生の阻害剤を記述および開示するために参照として組み入れられる。
【0076】
血管新生因子
多くの生体化合物が血管新生を刺激する。アンギオゲニンは、ニワトリのCAMまたはウサギ角膜における強力な血管新生因子であることが示されている。末梢血単球から単離されたアンギオトロフィンは、正常な創傷治癒において何らかの役割を果たすと提唱されているもう一つの血管新生化合物である(Biochemistry 27, 6282(1988))。フィブリンのような、創傷治癒に関連する別の因子も、血管新生を誘導する。
【0077】
血管新生のメディエータのもう一つのクラスは、酸性および塩基性繊維芽細胞増殖因子(FGF)、トランスフォーミング増殖因子α(TGF-α)および血小板由来増殖因子(PDGF)を含む、増殖因子のようなポリペプチド血管新生因子である。これらの分子のそれぞれは、インビボで血管新生を誘導することが示されている。血管新生活性を示す他の類似の分子は、血管内皮増殖因子(VEGF)、腫瘍壊死因子α(TNF-α)、トランスフォーミング増殖因子β(TGF-β)、およびヘパリン結合増殖因子(HBGF)である。
【0078】
ポリペプチド血管新生因子の他にもその他の血管新生因子が記述されている。脂質由来血管新生因子であるプロスタグランジンE1およびE2は、血管新生特性を有する周知の炎症性細胞誘引物質である(J. Natl. Cancer Inst. 69、475〜482(1982))。ニコチンアミドは、ニワトリの角膜またはニワトリのCAMアッセイにおいて調べたところ、血管新生反応を引き起こす(Science 236、843〜845(1987))。
【0079】
検出可能な標識
本発明の陽イオンリポソームを用いて、いかなる種類の検出可能な標識も輸送することができる。標識は、リポソームを形成するために用いる脂質に対して溶解性であるか、または、水または水性生理食塩液もしくはデキストロース水溶液のような水溶液に溶解する、もしくは少なくとも拡散する。標識は放射性標識、蛍光標識、組織化学的または免疫組織化学的に検出可能な物質、または検出可能な色素であってもよい。標識は適当量存在してもよく、リポソームそのものに、または血管新生を阻害もしくは促進する物質と共に含まれてもよく、または複合体を形成してもよい。
【0080】
投与
患者に投与される血管新生阻害剤または促進剤の量(血管新生を行う内皮細胞を含む循環系を有するいかなる動物であってもよい)は、広範囲の要因に応じて変化するであろう。例えば、ヒトに対しては、より小さい動物より実質的に大量を投与することが必要であると考えられる。血管新生阻害剤または促進剤の量は、投与すべき物質の効力と共に、患者の体格、年齢、性別、体重および状態に依存する。投与に関してかなりの変動があることが示されているため、当業者は本開示を用いて、最初に極めて少量を投与して、望ましい結果が得られるまで用量を漸増させることによって、適当な投与量を容易に決定することができると思われる。投与量は、上記の要因に基づいて大きく変化するが、一般に、本発明によって、周辺組織、例えば腫瘍細胞そのものを標的とする輸送システムと比較して、いかなる物質も実質的により少量を投与することが可能になる。
【0081】
ヌクレオチド配列/陽イオン脂質複合体
DNAおよびRNA配列を含むヌクレオチド配列を脂質と組み合わせる場合、両者は複合体を形成する。ヌクレオチド配列および脂質の特定量を選択し、特定の脂質を選択することによって、インビトロで互いに凝集しない複合体を形成することが可能である。そのような複合体に形成に関する一般情報は、1993年6月24日に公表され、ヌクレオチド配列/脂質複合体の形成を具体的に開示および説明するために、本明細書に参照として組み入れられる、PCT出願国際公開公報第93/12240号に記述されている。本発明に関連して、ヌクレオチド配列は、血管新生内皮細胞に影響を及ぼすが、他の細胞、特に他の対応する内皮細胞、すなわち休止期の内皮細胞には影響を及ぼさないように特にデザインされる。本発明に関連して用いられるDNA配列は、プロモーターに機能的に結合しており、それらのプロモーターは、血管新生内皮細胞の環境下に限ってヌクレオチド配列の発現が得られるように、特にデザインされる。最初に、プロモーターはその配列が血管新生内皮細胞に輸送された後に活性化することができる活性化可能なプロモーターとなりうる。より好ましくは、プロモーターは血管新生内皮細胞の特殊な環境下で活性化されるようにデザインされる。休止期の内皮細胞の環境では起こらないが、血管新生内皮細胞の環境下では、天然に起こる現象が多くある。2つのタイプの細胞の差を利用することによって、プロモーターは、それが血管新生内皮細胞の存在下に限って活性化されるように特にデザインされる。
【0082】
DNAカセットからの転写は、特異的な遺伝子プロモーターを用いて単一の、または狭い範囲の細胞タイプに制限することができる。内皮細胞は、その遺伝子およびそのプロモーターが解明されているいくつかの蛋白質を選択的に発現する。血管内皮増殖因子(VEGF)受容体flt-1およびflk-1遺伝子プロモーター、フォン・ウィルブランド因子(VWF)遺伝子プロモーター、およびタイ・ファミリー遺伝子プロモーターは、リポーター遺伝子構築物と結合すると、内皮細胞において選択的発現を指向することが示されている。以下の刊行物は、血管新生内皮細胞において活性化されるプロモーターを開示および記述するために引用する。
【0083】
ハトヴァら(Hatva, E.)、1996、「毛細管血管芽腫および血管周囲細胞腫における血管増殖因子と受容体(Vascular growth factors and receptors in capillary hemangioblastomas and hemangiopericytomas)」、Am. J. Path. 148:763〜75;
ストローンら(Strawn, L. M.)、1996、「腫瘍増殖抑制の標的としてのflk-1(Flk-1 as a target for tumor growth inhibition)」、Cancer Res. 56:3540〜5;
ミロウアら(Millauer, B.)、1996「Flk-1のドミナント・ネガティブ抑制はインビボで多くのタイプの腫瘍の増殖を抑制する(Dominant-negative inhibition of Flk-1 suppresses the growth of many tumor types in vivo)」、Cancer Res. 56:1615〜20;
サトら(Sato, T. N.)、1996、「受容体チロシンキナーゼTie-1およびTie-2の血管形成における明確な役割(Distinct roles of the receptor tyrosine kinases Tie-1 and Tie-2 in blood vessel formation)」、Nature 376:70〜4;
オザキら(Ozaki, K.)、1996、「ヒト内皮細胞に自殺遺伝子を導入するためにフォン・ウィルブランド因子プロモーターの使用(Use of von Willebrand factor promoter to transduce suicidal gene to human endothelial cells, HUVEC)」、Human Gene Therapy、13:1483〜90;
ロニッケら(Ronicke, V.)、1996、「内皮特異的マウス血管内皮細胞増殖因子受容体-2(Flk-1)プロモーターの特徴付け(Characterization of the endothelium-specific murine vascular endothelial growth factor receptor-2(Flk-1)promoter)」、Circulation Res. 79:277〜85;
シマら(Shima, D. T.)、1996、「血管内皮増殖因子のマウス遺伝子。ゲノム構造、転写単位の定義、そして転写および転写後調節配列の特徴付け(The mouse gene for vascular endothelial growth factor. Genomic structure, definition of the transcriptional unit, and characterization of transcriptional and post-transcriptional regulatory sequences.)」、J. Biol. Chem. 271:3877〜8;
モリシタら(Morishita, K.)、1995、「内皮特異的遺伝子発現を与える血管内皮増殖因子受容体(flt-1)の新規プロモーター(A novel promoter for vacsular endothelial growth factor receptor(flt-1)that confers endothelial-specific gene expression.)」、J. Biol. Chem. 270:27948〜53;
パターソンら(Patterson, C.)、1995、「血管内皮増殖因子に対する受容体であるKDR/flk-1に対するプロモーターのクローニングおよび機能分析(Cloning and functional analysis of the promoter for KDR/flk-1, a receptor for vascular endothlial growth factor)」、J. Biol. Chem. 270:23111〜8;
コルホーネンら(Korhonen, J.)、1995、「インビボにおいてタイ遺伝子プロモーターによって指向される内皮特異的遺伝子発現(Endothelial-specific gene expression directed by the tie genepromotor in vivo)」、Blood 86:1828〜35。
【0084】
注意 オザキの引用文は、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(TK)を内皮細胞において発現させ、その後プロドラッグであるガンシクロビルで処置する、というもう一つの有用なアプローチを記述している。
または、ヌクレオチド配列は、血管新生内皮細胞内で発現されなければならない配列と結合し、それによってその細胞の生存に必要な、血管新生内皮細胞の天然に存在する配列の発現を遮断するアンチセンス配列であることが可能である。
【0085】
凝血塊形成
リポソームまたはヌクレオチド配列/脂質複合体を用いて実施することのできる本発明のもう一つの局面は、凝血塊の形成を含む。詳しく述べると、本発明のリポソームまたは複合体は、それが血管新生内皮細胞に影響を及ぼし、その結果新生血管において凝血塊を形成するようにデザインされる。凝血塊は残りの血管に対する栄養および酸素の流れを防止し、その結果血管および周辺組織の死が起こる。
【0086】
望ましからぬ腫瘍を除去するために、腫瘍の血管内で凝血塊を形成する基本的な考え方は、腫瘍血管を標的にした抗体を用いて実施されている。本発明は、血栓形成カスケードを促進する薬剤を含む陽イオン脂質を用いることによって、結果の改善を得ることができた。例えば、本発明の陽イオンリポソームは、血栓(血液凝固カスケード)の主要な開始受容体である、ヒト組織因子(TF)を含むように構築することができる。
【0087】
腫瘍細胞は血液供給に依存する。腫瘍血管の局所破壊によって、大量の腫瘍細胞の死が起こる。腫瘍血管内皮は血液と直接接している。しかし、腫瘍細胞そのものは血流の外に存在し、ほとんどの場合、循環中に注射された多くの材料に接近しにくい。本発明の他の局面と共にこの局面は、標的とする細胞が、それら自身、形質転換されない血管新生内皮細胞である、すなわち療法に対して抵抗性となる変異を獲得する可能性が低い細胞である、という点において特に良好に作用する。腫瘍細胞はかなりの変異を受け、そのような変異はしばしば細胞を治療に対して抵抗性にする。抗体による標的化を用いて腫瘍の大きさを減少させることに関する結果は、以下のように他の研究者によって示されている:ビュロウズ&ソープ(Burrows, F. J. and P. E. Thorpe)、腫瘍血管に対して向けられた免疫毒素によるマウスの巨大腫瘍の根絶(Eradication of large tumors in mice with an immunotoxin directed against tumor vasculature)、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:8996〜9000、1993。ヒュアン、モレマ、キング、ワトキンス、エドギントンおよびソープ(Huang, X., G. Molema, S. King, L. Watkins, T.S. Edginton, and P.E. Thorpe)、腫瘍血管に対する組織因子の抗体指向標的化によるマウス腫瘍の梗塞(Tumor infarction in mice by antibody-directed targeting of tissue factor to tumor vasculature)、Science 275:547〜550、1997。
【0088】
本発明に関連して凝血塊形成を行うために、DNA/陽イオン脂質複合体を形成することが好ましい。複合体は、その蛋白質が血栓(血液凝固)カスケードに対する主要な開始受容体である、ヒト組織因子のような蛋白質をコードするDNAを含む。TFをコードする遺伝子は、好ましくは、血管新生内皮細胞の環境下で活性化され、休止期の内皮細胞の環境では活性化されないプロモーターに機能的に結合している。このように、複合体の陽イオン脂質は、複合体を血管新生内皮細胞と会合させる。その後、複合体は血管新生内皮細胞内に取り込まれ、複合体のDNAが発現される。発現された蛋白質は血液凝固カスケードを開始させる。血管内に凝血塊が形成されると、周辺の腫瘍細胞に対するさらなる酸素供給および栄養補給が遮断される。その後、腫瘍細胞は死滅する。切断されたヒト組織因子(tTF)のようなヒト組織因子上の変化もまた、凝血を開始させるために用いることができる。tTFをコードする遺伝子材料および他の要因は既知である(上記引用のヒュアンらの引用および本明細書に引用した刊行物を参照のこと)。
【0089】
血管新生の実験モデル
本発明は、齧歯類の血管新生のモデルを用いることによって容易となった。喘息および気管支炎のような慢性炎症疾患は、気道粘膜に組織および血管再形成を誘導する。慢性気道炎症の病因を理解するために、ラットおよびマウスの気管において慢性炎症および組織再形成が起こるモデルを用いた。血管新生は、マイコプラズマ・プルモニス(Mycoplasma pulmonis)感染症の結果として気道粘膜に起こる。このモデルにおいて、マイコプラズマ・プルモニス(Mycoplasma pulmonis)の菌体は、気管および気管支上皮に持続的な感染症を引き起こす。M.プルモニスに感染したラットの気道粘膜はいくつかの明確な異常を示す:1)上皮および粘膜固有層の肥厚;2)上皮の細胞組成物の変化;3)血管新生;4)血漿漏出に関する炎症メディエータであるサブスタンスPに対する新生血管の感受性の増加;5)細静脈と共に毛細管からのサブスタンスPによる血漿漏出;および6)毛細管内皮細胞上のサブスタンスPに対する受容体(NK1受容体)の数の増加。このモデルにおいて、血管新生は慢性炎症によって開始され、血管は炎症メディエータに対してより感受性が高い。
【0090】
レクチンの環流を用いて、血管内の内皮細胞表面を染色した研究によって、M.プルモニス感染症後のラットにおける血管新生の程度が明らかになった。感染したラットの気管粘膜には多くの毛細管様血管が存在し、これらの血管は、炎症メディエータであるサブスタンスPの静脈内注射後に漏出する。
【0091】
マウスでは、M. プルモニスは、接種後6〜9日をピークとする急性の肺感染症を引き起こし、その後気道の持続的感染症を生じる。M. プルモニスによる感染症に対するマウスの反応は、マウスの系統に大きく左右される:例えば、C3H系はC57BL系より死亡率が高く、およびサイトカインである腫瘍壊死因子-αの減少がより大きい。上皮過形成のような、粘膜再形成のいくつかの局面は、M. プルモニスに感染したマウスの気道において記述されている。M. プルモニスの鼻腔内接種によって感染させたC57BL/6マウスでは、気管の血管数は、明らかに新しい毛細管の増殖によって劇的に増加する。この系統では、気管粘膜の血管はもはや平面ではなく、小血管が粘膜平面に対して垂直に増殖する。増加した血管分布領域に多数の明らかな血管芽が認められる。このように、C57BL/6マウスをM. プルモニスに感染させると、内皮の増殖を伴う慢性気道炎症、血管再形成、および血管新生を生じる。対照的に、M. プルモニスの鼻腔内接種によって感染させたC3H/HeNCrマウスでは、気管粘膜における血管内皮細胞の数は増加するが血管数は増加しない。血管分布の増加は、血管の長さまたは数の増加によるものではなく、血管の直径の増加によるものであり、この血管径の増加は、内皮細胞数の倍加によるものである。感染した気管における個々の内皮細胞の大きさは有意に増加していない。M. プルモニスに対する循環中の抗体レベルはマウスの2系統において同程度である。このように、M. プルモニスによるC3H/HeNCrマウスの感染では、血管再形成および内皮増殖を伴うが、血管数は有意に増加しない慢性気道炎症を生じ、一方C57BL/6マウスでは内皮の増殖および新しい血管を生じる。
【0092】
第二のモデルにおいて、血管新生は、SV40ウイルス腫瘍遺伝子のトランスジェニック発現に起因する腫瘍に起こる。「RIP-Tag」トランスジェニックマウスモデルは、正常組織から腫瘍へのよく特徴付けのなされた進行の際に血管新生内皮細胞の表現型の変化を調べる機会を提供する。「RIP-Tag」トランスジェニックマウスモデルでは、SV-40ウイルス、ラージT抗原(Tag)からの腫瘍遺伝子がラットのインスリンプロモーター(RIP)の領域によって起動される。マウスゲノムの中に挿入すると、この構築物は、膵臓中に散在する約400個の島に局在する、特に膵島β-細胞においてTag発現を誘導する。しかし、これらのマウスにおける膵臓の全ての島はTagを発現するが、膵島は通常約6週齢まで正常に発達する。この後、膵島の約50%が過形成となる。しかし、これらの過形成島の中で、小さい分画(<5%)が約10週までに腫瘍に発展する。この腫瘍発生におけるボトルネックは、島が血管新生の誘導能を獲得する際に克服されると考えられる:従って、腫瘍発生のこの相は「血管新生スイッチ」と呼ばれている。同様の血管新生スイッチはまた、いくつかのヒト腫瘍と同様に、マウス腫瘍発生の他のモデルにおいても存在するように思われる。このように、RIP-Tagモデルは、腫瘍における血管新生の進行を調べるために十分に特徴付けの成された枠組みを提供する。
【実施例】
【0093】
以下の実施例は、陽イオンリポソームの製造法および該リポソームを使用するための方法について、完全な開示および記述を当業者に提供するために述べるものであって、本発明と見なされる範囲を制限するものと解釈されない。使用した数値(例えば、量、温度等)に関しては正確を期するように努力したが、何らかの実験誤差および逸脱が起こりうる。別途明示していない限り、割合は重量による割合で、分子量は重量平均分子量;温度はセルシウス温度、そして圧力は大気圧またはほぼ大気圧である。下記のそれぞれの実施例は、実施した多くの実験を表し、その方法および結果について要約していることに留意されたい。必ずしも全ての実験が陽性結果を示したわけではないことを当業者は認識すると思われる。しかし、以下の実施例は得られた結果を正確に伝えていると考えられる。
【0094】
実施例1
正常マウスにおける陽イオン脂質の分布
リポソームおよび/またはプラスミドDNAを標識し、標識した複合体の細胞内分布を静脈内注射後の様々な時間に測定した。実験は雌雄の病原体不含マウス(体重20〜25 g)を用いて実施した。
【0095】
陽イオン性の小さい単ラメラ小胞リポソームを、陽イオン脂質DDAB、またはDOTAPおよび中性脂質DOPEまたはコレステロールから調製して、テキサスレッドまたは赤色蛍光カルボシアニン色素DiIまたはCM-DiIで標識し、場合によってはルシフェラーゼまたはβ-ガラクトシダーゼのようなリポーター遺伝子を含むプラスミドDNAと複合体を形成した。内皮細胞は、トマト(Lycopersicon esculentum)の蛍光植物レクチンフルオレセインを用いて標識した。単球/マクロファージは、蛍光ビーズ(デューク、500 nm)を用いて標識した。細胞核はDAPI、YO-PROまたはヘキスト33342色素によって標識した。
【0096】
300μlまでの容量にDNA 10〜60μgを含む蛍光リポソームまたはリポソーム-DNA複合体を、無麻酔のマウスの尾静脈に注射した。実験によっては、500 nm蛍光ビーズを複合体の後に注射した。5分から24時間後、動物をペントバルビタールナトリウムで麻酔して、左心室の中を固定液(1%パラホルムアルデヒドの燐酸緩衝塩類溶液)で環流し、その後蛍光レクチンを環流して血管の内皮表面を標識した。環流後、組織を摘出し、塊としてまたはビブラトーム(Vibratome)もしくは組織チョッパーを用いて切片にして調製した。さらに、標本のいくつかを電子顕微鏡用に処理した。組織をエピ蛍光顕微鏡または共焦点顕微鏡によって調べた。さらに、標本のいくつかを透過型電子顕微鏡によって調べた。
【0097】
結果:注射の5分〜24時間後に調べたマウスにおいて、CM-DiIまたはDiI標識リポソームまたはリポソーム-DNA複合体は、肺に最も豊富に認められた。さらに、それらは肺胞毛細管の内皮細胞に最も多く認められた。肺胞毛細管における蛍光は、両肺の全ての肺葉に均一に分布した。さらに、いくつかのCM-DiIまたはDiI蛍光は、血管内単球/マクロファージに存在した。
【0098】
肺の次に、標識したリポソームまたは複合体が大量に存在したのは肝臓および脾臓であった。これらの臓器では、CM-DiIまたはDiI-蛍光は、蛍光ビーズと共に存在した。肝臓では、CM-DiIまたはDiI-蛍光およびビーズはクッパー細胞に存在した。脾臓では、それらはマクロファージに存在した。
【0099】
卵巣の血管も、CM-DiIもしくはDiI標識リポソームまたは複合体によって強く標識された。詳しく述べると、マウス卵巣の大卵胞および黄体の新生血管における内皮細胞は、静脈内注射後にCM-DiIまたはDiI-標識DDAB:コレステロール(リポソームまたは)-DNA複合体を強く取り込むことが認められた。これらの知見は写真によって確認された(図1)。卵巣の他の血管に含まれる標識複合体は比較的少なかった。これらの結果を用いて、血管新生内皮細胞がリポソームおよびリポソーム-DNA複合体を選択的に取り込んだこと、すなわち実験で使用した陽イオンリポソームは、血管新生を行っていない対応する内皮細胞と比較すると、血管新生を行っている内皮細胞と会合する可能性がはるかに高いと推論した。
【0100】
標識したリポソームまたは複合体は、リンパ節の高内皮細静脈(HEV)および小腸のパイエル板の内皮細胞においても非常に豊富に存在したが、これらのリンパ様臓器の毛細管の内皮細胞にはまばらであった。標識したリポソームまたは複合体は、下垂体前葉、心筋、横隔膜、副腎皮質、および脂肪組織の毛細管内皮細胞にも多量に存在した。
【0101】
標識したリポソームまたは複合体は、膀胱、子宮、およびファロピウス管、の細静脈に接着した単球/マクロファージに大量に存在した。細静脈の中には、標識した単球/マクロファージを多数含むものがあった。さらに、これらの臓器の小動脈、毛細血管、および細静脈の内皮細胞が標識される割合は小さかった。
【0102】
下垂体後葉、腎髄質、小腸絨毛(回腸)、膵臓、および副腎髄質の毛細管内皮細胞に関連して認められた標識リポソームまたは複合体は比較的少なかった。脳、甲状腺、腎皮質、膵島、気管または気管支の内皮細胞には、時折現れる単球/マクロファージを例外として、標識リポソームまたは複合体がほとんど認められなかった。
【0103】
結論:これらの試験において用いられたCM-DiIまたはDiI-標識DDAB:コレステロールリポソームまたはリポソーム-DNA複合体製剤は、主な3つのタイプの細胞を標的とした:内皮細胞、マクロファージおよび単球。リポソームまたは複合体の取り込みは、臓器および血管特異的であった。そのほとんどが肺の毛細管内皮細胞、ならびに肝臓および脾臓のマクロファージによって取り込まれた。卵巣、下垂体前葉、心臓、横隔膜、副腎皮質、および脂肪組織の毛細管内皮細胞もまた標的とされた。卵巣においてリポソームまたは複合体を取り込む血管は血管新生部位であった。さらに、リンパ節のHEVおよび腸のパイエル板が標的とされた。他の臓器の内皮細胞またはマクロファージを標的とすることは少なく、ばらつきが大きかった。脳、甲状腺、腎皮質、気管および気管支の血管は標的とされなかった。
【0104】
さらに実験から、リポソームまたは複合体はほとんどの臓器において血管から漏出しなかったことが示された。それらは血管内皮が不連続である脾臓の血管外細胞に認められたが、他の臓器では滲出は認められなかった。
【0105】
最後に、大卵胞および黄体の血管による陽イオンリポソームおよびリポソーム-DNA複合体の強い取り込みは、新生血管の内皮細胞が選択的な取り込み部位であったことを示している。
【0106】
実施例2
RIP-Tag5マウスにおけるDDAB:コレステロール(リポソームまたは)-DNA複合体の取り込み
実施例1の実験の結果から、卵胞および黄体の新生血管が陽イオンリポソームまたはリポソーム-DNA複合体を強く取り込むことが示された。したがって、腫瘍の新生血管の内皮細胞が陽イオンリポソームまたはリポソーム-DNA複合体を強く取り込むか否かを調べる実験を行った。
【0107】
マウスの実験モデルの章では、[ハナハン(Hanahan, D.)、組換え型インスリン/シミアンウイルス40腫瘍遺伝子を発現するトランスジェニックマウスにおける膵臓のβ細胞腫瘍の遺伝的形成(Heritable formation of pancreatic beta-cell tumors in transgenic mice expressing recombinant insulin/simian virus 40 oncogenes)。Nature 315:115〜22、1985];[ハナハン&フォークマン(Hanahan, D., and J. Folkman)、腫瘍発生の際の血管新生スイッチのパターンと浮かび上がるメカニズム(Patterns and emerging mechanisms of the angiogenic switch during tumorigenesis)、Cell 86:353〜64、1996]に記述されているような腫瘍のトランスジェニックRIP-Tag5モデルを用いた。RIP-Tagと呼ばれるこのモデルにおいて、SV-40ウイルスからの腫瘍遺伝子、ラージT抗原(Tag)は、ラットのインスリンプロモーター(RIP)の領域によって起動される。マウスゲノムに挿入すると、この構築物は、特に膵島のβ細胞におけるT抗原の発現を誘導する。
【0108】
このモデルの一つの重要な属性は、腫瘍発生の様々な段階、したがって血管新生の様々な段階が、それぞれのRIP-Tag5マウスに同時に存在することである。300〜400個の全ての島がT抗原を発現するが、島は最初は正常に発達する。しかし、6週齢では約半数が過形成となり、これらのうち一部が10週までに腫瘍に発展する。腫瘍発生は、血管新生の発現と一致するように思われる。この変換は、「血管新生スイッチ」と呼ばれる(フォークマン、ワトソン、イングバー、およびハナハン(Folkman, J., K. Watson, D. Ingber, and D. Hanahan)、過形成から新生物への移行の際の血管新生の誘導(Induction of angiogenesis during the transition from hyperplasia to neoplasia)、Nature 339:58〜61、1989;ハナハン&フォークマン(Hanahan, D., and J. Folkman)、腫瘍発生の際の血管新生スイッチのパターンと浮かび上がるメカニズム(Patterns and emerging mechanisms of the angiogenic switch during tumorigenesis)、Cell 86:353〜64、1996)。同様の血管新生スイッチは、いくつかのヒト腫瘍と共に腫瘍発生に関する他のマウスモデルにも存在するように思われる(ハナハン&フォークマン(Hanahan, D., and J. Folkman)、腫瘍発生の際の血管新生スイッチのパターンと浮かび上がるメカニズム(Patterns and emerging mechanisms of the angiogenic switch during tumorigenesis)、Cell 86:353〜64、1996)。
【0109】
実施例1と同じ方法および材料を使用した。詳しく述べると、CM-DiIまたはDiI標識DDAB:コレステロールリポソームを、腫瘍を有するRIP-Tag5マウス1匹に静脈内注射し、CM-DiIまたはDiI-標識DDAB:コレステロール-DNA複合体を別のRIP-Tag5マウスに静脈内注射した。膵島細胞腫瘍の新生血管内におけるリポソームまたは複合体の分布を注射の24時間後に調べ、正常マウスの膵島の血管と比較した。
【0110】
結果:2つの新規知見が得られた:(1)リポソームまたは複合体は内皮から漏出することなく新生血管の内皮細胞に取り込まれた、および(2)血管新生血管の内皮細胞では、リポソームまたは複合体のエンドソーム取り込みは、膵島の正常血管の内皮細胞より大きかった(図2は、組織標本の写真である)。
【0111】
結論:この実験から、血管新生腫瘍血管によるDDAB:コレステロールリポソームまたはリポソーム-DNA複合体の選択的取り込みと一貫した結果が得られた。実験を繰り返す前に、(1)リポソーム-DNA複合体の蛍光強度を増加させた、(2)RIP-Tagマウスの腫瘍における陽イオンリポソームおよびリポソーム-DNA複合体の取り込み部位を特定する方法を改善した;および(3)RIP-Tag5マウスの膵島細胞腫瘍における新生血管の構造および機能に対する理解を深めた。
【0112】
実施例3
RIP-Tag2マウスにおけるDOTAP:コレステロール-DNA複合体の取り込み
目的:リポソーム-DNA複合体の蛍光強度は、テキサスレッド-DHPEをDiIの代わりに使用することによって増加した。蛍光陽イオンリポソーム-DNA複合体の取り込み部位を特定するため、RIP-Tag2マウスの膵臓の調製法を改善し;RIP-Tag2マウスの膵島腫瘍細胞における新生血管の構造および機能を調べた。これらの改善を行った後、陽イオンリポソームおよび脂質DNA複合体がどのようにして取り込まれるかを調べるために、実施例2に記述したタイプの実験を行った。
【0113】
方法:テキサスレッド-DHPEで標識した陽イオンDOTAP:コレステロール小単ラメラ小胞リポソームを調製した。リポソーム-DNA複合体は、プラスミドDNA 60μgの300μl溶液を用いて、5%グルコース中で総脂質:DNA比が24:1(nmol/μg)となるように調製した。複合体(300μl)を無麻酔のトランスジェニックRIP1-Tag2 C57BL/6マウスおよび無麻酔の正常C57BL/6マウスの尾静脈に注射した。
【0114】
複合体を注射した4時間後、ネンブタール50 mg/kgの腹腔内注射によってマウスを麻酔した。1%パラホルムアルデヒドを下行大動脈を通して環流することによって血管を固定して、緑色蛍光レクチンを環流することによって血管の内表面を染色した(サーストン、バルク、ヒラタ、およびマクドナルド(Thurston, G., P. Baluk, A. Hirata, and D. M. McDonald)、「レクチン結合によって炎症細静脈の内皮細胞境界域に認められる透過性と無関係な変化(Permeability-unrelated changes revealed at endothelial cell borders in inflamed venules by lectin binding)」、Am. J. Physiol. 271:H2547〜2562、1996)。組織全体またはビブラトーム切片をベクタシールドの上に載せて、クリプトン・アルゴンレーザーおよび最適化した光電子増倍管を備えたツァイス・アキソフォト(Zeiss Axiophot)蛍光顕微鏡またはツァイスLSM410共焦点顕微鏡を用いて調べた。画像はコダック・エクタクロームフィルム(ASA 400)によって記録するか、またはデジタル共焦点画像ファイルとして記録した。
【0115】
結果:実験により、RIP1-Tag2マウスの膵臓腫瘍における血管新生内皮細胞によるテキサスレッド-標識DOTAP:コレステロール-DNA複合体の強い取り込みが示された。腫瘍血管による取り込みは、正常な膵島の対応する内皮細胞によるこれらの複合体の取り込みをはるかに超えた(図3と4を比較)。
【0116】
腫瘍は、赤色蛍光リポソーム複合体によってその血管が強く標識されているために、隣接する組織から容易に識別された。腫瘍血管の幾何学構造は多様で、正常な島に典型的なパターンから、正常な島のパターンよりも顕著に大きく、より密度が濃い洞様毛細血管の、密度の高い、蛇行性の融合性のネットワークが示された。後者の場合、血管は黄体の血管に類似していた。腫瘍血管の標識の強さは腫瘍の大きさにほぼ関連していた。最も大きい腫瘍では標識が最も強かった。
【0117】
小から中等度の大きさの腫瘍の血管の中には、太くて短い巣状の動脈瘤様の突起を有するものがあった。これらの部位は、テキサスレッドで標識された点が異常なほど多数存在したために特に顕著で、これはエンドソームであると思われた。これらの部位のテキサスレッド標識は、隣接する血管の標識より大きかった。これらの構造は毛細管芽であると思われた。血管が等しく強く標識されている、密度の濃い、複雑な血管構造を有する大きい腫瘍では、このような構造は認められなかった。
【0118】
腫瘍にテキサスレッド複合体が滲出した証拠はなかった。同様に、テキサスレッド標識複合体は、腫瘍における血管外赤血球集団の内部には認められなかった。腫瘍血管の強い標識は、発達初期段階での卵巣の黄体の標識に類似していた。
【0119】
実施例4
腫瘍および慢性炎症の新生血管による陽イオンリポソームおよびリポソーム-DNA複合体の取り込み
目的:この知見を血管新生の他のモデルにも広げるために、実施例3に記述したタイプの実験を実施した。これらの実験はまた、陽イオンリポソームが新生血管を標的とするためにはDNAが存在しなければならないのか否かという疑問に答えるために行った。新生血管によるDOTAP:コレステロールリポソームまたはリポソーム-DNA複合体の選択的取り込みがあるか否かについて、血管新生に関する4種類の動物モデルを調べた。
【0120】
モデル:RIP1-Tag2腫瘍モデル。トランスジェニックC57BL/6マウスを作製して出生時にPCR解析によって表現型を決定した。マウスモデルについては先に記述した。
【0121】
HPV腫瘍モデル トランスジェニックHPV(ヒト乳頭腫ウイルス)マウスを作製して、出生時にPCR解析によって表現型を決定した。トランスジェニックしていない同腹子を対照とした。このモデルにおいて、ヒト乳頭腫ウイルスからの腫瘍遺伝子は、ケラチン14プロモーター領域によって起動される。マウスゲノムに挿入すると、この構築物は特に上皮細胞にHPV発現を誘導する。トランスジェニックマウスは全て、胸部上部および耳の皮膚に血管新生を伴う形成不全を示し、一部が腫瘍を発症した。
【0122】
マウスのマイコプラズマ・プルモニス(Mycoplasma pulmonis)感染症モデル この感染症の結果、気道粘膜に血管新生を伴う慢性気道炎症が起こる。麻酔後(87 mg/kgケタミンおよび13 mg/kgキシラジンを腹腔内注射)、病原体不含の8週齢の雌雄C3H/HeNCrまたはC57BL/6マウス(いずれもCharles Riverから)に、マイコプラズマ・プルモニス(Mycoplasma pulmonis)(株5782C-UAB CT7)の3×104コロニー形成単位を50μlの容量で鼻腔内に接種した。病原体不含マウスを対照として、滅菌したブロスを接種した。感染および対照マウスをバリア条件下で個別にケージに収容した。実験終了時に、M.プルモニスに対する抗体の血清レベルを測定した(Microbiological Associates、ベセスダ、メリーランド州)。感染の1〜8週後にマウスを調べた。
【0123】
ラットのマイコプラズマ・プルモニス(Mycoplasma pulmonis)感染症モデル マウスの場合と同様に、この感染症は、気道粘膜における血管新生が一つの特徴である慢性気道疾患を生じる。麻酔(40 mg/kgケタミンおよび8mg/kgキシラジンを腹腔内注射する)後、病原体不含の8週齢の雄性ウィスター系ラット(チャールス・リバー社より)に5782C4株のマイコプラズマ・プルモニス(Mycoplasma pulmonis)の容量200μlを3日間連続して毎日鼻腔内接種した。ブロスを接種した病原体不含ラットを対照とした。感染および対照ラットをバリア条件下で個別にケージに収容した。実験終了時に、M. プルモニスおよび他の病原体に対する抗体の血清レベルを測定した(Microbaiological Associates、ベセスダ、メリーランド州)。
【0124】
方法:テキサスレッド-DHPEで標識した陽イオンDOTAP:コレステロールリポソームを実施例3に記述のように調製した。リポソームを5%グルコースの容量100μl中に総脂質360 nmolの用量でマウスの尾静脈に注射した。ラットを大腿静脈から感染させた。リポソーム-DNA複合体は、プラスミドDNA 60μgを容量200〜300μlで用いて、5%グルコース中で総脂質:DNA比が24:1となるように調製した。リポソームまたは複合体(200〜300μl)を無麻酔のRIP-Tag2、HPV、またはM. プルモニス感染マウスの尾静脈に注射した。非トランスジェニック、病原体不含マウスを対照として用いた。
【0125】
注射の20分または4時間後、ネンブタール50 mg/kgの腹腔内注射によってマウスまたはラットを麻酔した。下行大動脈を通じて1%パラホルムアルデヒドを環流することによって血管を固定し、血管内表面を緑色蛍光レクチンの環流によって染色した(サーストン、バルク、ヒラタ、およびマクドナルド(Thurston, G., P. Baluk, A. Hirata, and D. M. McDonald)、「レクチン結合によって炎症血管の内皮細胞境界域に認められる透過性に無関係な変化(Permeability-unrelated changes revealed at endothelial cell borders in inflamed venules by lectin binding)」、Am. J. Physiol. 271:H2547〜2562、1996)。組織全体またはビブラトーム切片をベクタシールドの上に載せて、ツァイス蛍光顕微鏡または共焦点顕微鏡によって血管を調べた。
【0126】
蛍光リポソームまたは複合体の取り込み量を共焦点顕微鏡によって定量した。簡単に説明すると、焦点軸に2.5μm離して置いた一連の共焦点画像12個を、20×NA 0.6レンズ(ツァイス社)を用いて、共焦点ピンホールサイズ、光電子増倍管ゲイン、およびレーザー出力を標準の設定にして、フルオレセインおよびテキサスレッドチャンネル中で気管の上部領域について収集した。血管(トマトのフルオレセイン)およびリポソーム(テキサスレッド)をそれぞれ示す一連の画像から投射を得た。共焦点ソフトウェアを用いて、面積およそ200μm2の領域の輪郭を血管画像上に明確に示し、リポソーム画像の対応する領域の平均蛍光を測定した。バックグラウンドの強度は、血管に隣接する選択した領域の蛍光を測定することによって決定した。測定は気管あたり血管25個について、1群あたり気管4個について行った(n=4)。有意差はスチューデントのt検定によって評価した。
【0127】
透過型電子顕微鏡のために調製した組織は先に記述したように処理した(マクドナルド(McDonald, D. M.)、炎症刺激に暴露されたラット気管の細静脈の内皮間隙と透過性(Endothelial gaps and permeability of venules of rat tracheas exposed to inflammatory stimuli)、Am. J. Physiol. 266:L61〜L83、1994)。簡単に説明すると、一次固定液(1%蔗糖、4%PVP、0.05%CaCl2、および0.075%H2O2を加えた3%グルタルアルデヒドの75 mMカコジル酸緩衝液、pH 7.1)を室温で5分環流し、その後二次固定液(0.05%CaCl2、1%蔗糖、および4%PVPを含む、3%グルタルアルデヒドの75 mMカコジル酸緩衝液、pH 7.1)で5分環流した。組織を室温で1時間インサイチューで固定し、その後固定液を除去して二次固定液で4℃で一晩固定した。剃刀の刃で組織の形を整え、組織チョッパーで切片にして、オスミウム(2%OsO4の100 mMカコジル酸緩衝液、pH 7.4、4℃で18時間)で後固定し、H2Oで洗浄(4℃で18時間)して、酢酸ウラニル(水溶液、37℃で48時間)で一括して染色した。次に組織をアセトンによって脱水して、エポキシ樹脂に浸潤させて抱埋した。ウルトラミクロトームで超薄片を切断し、単スロットの標本グリッド上に載せて、ツァイスEM-10電子顕微鏡で調べた。
【0128】
結果:実験によって、テキサスレッド標識DOTAP:コレステロールリポソームは、テキサスレッド標識DOTAP:コレステロール-DNA複合体およびDiI-標識DDAB:コレステロール-DNA複合体に関するこれまでの知見と同様に、DNAの非存在下で、RIP1-Tag2マウスの腫瘍の血管新生内皮細胞を選択的に標的とすることが明らかになった。トランスジェニックRIP1-Tag2マウスに関するこの実験およびその後の実験から、過形成の島および腫瘍の新生血管による陽イオンリポソームの取り込みは、対応する正常な血管の取り込みをはるかに超えることが確認された(図5、6、7および8)。過形成の島および小さい腫瘍の血管では、リポソームは巣状領域での場合に限って内皮細胞に取り込まれた(図8)が、より大きい腫瘍では取り込みは比較的全体に広がっていた(図6)。取り込みの局所領域は、新しい血管増殖部位の可能性があると考えられた(図8)。
【0129】
陽イオンリポソームまたはリポソーム-DNA複合体のこの特性は、血管新生内皮細胞に物質を選択的に輸送するために実際に利用できる可能性があるため、腫瘍の血管新生内皮細胞のこの特性が、病的な血管新生の他の部位での内皮細胞と同じであるか否かを調べることが望ましいように思われた。この疑問は、テキサスレッド標識DOTAP:コレステロールリポソームの血管新生内皮細胞による取り込みを、その一つの特徴が血管新生である慢性気道炎症を引き起こすマイコプラズマ・プルモニス(Mycoplasma plumonis)感染症のマウスの気管において調べる実験において対処した(図9と10を比較)。慢性炎症領域における血管新生内皮細胞は、陽イオンリポソームの異常に高い取り込み部位であることが判明した(図10)。詳しく述べると、M. プルモニスに感染したマウス気管の血管は、異常なほど大量の取り込みを示した。新生血管の共焦点顕微鏡測定から、感染マウスは対照マウスより取り込み量が20〜30倍多いことが示された(図11)。新生血管によっては100倍もの取り込みを示した。M. プルモニスに感染したマウスの血管新生内皮細胞に関する共焦点および電子顕微鏡試験によって、陽イオンリポソームは最初、エンドソームと会合して(図12)、次にその中に取り込まれる(internalize)ことが示唆された(図13)。
【0130】
同様に、陽イオンリポソームは、マウスの卵胞および黄体、トランスジェニックHPVマウスの形成不全皮膚、およびM. プルモニス感染症による血管新生を有するラットの気管の新生血管によって強く取り込まれた。
【0131】
結論:これらの実験から、陽イオンリポソームおよびリポソーム-DNA複合体は、腫瘍の血管新生内皮細胞および慢性炎症部位を選択的に標的とすることが確認された。
【0132】
本発明は、最も実際的で、好ましい態様であると思われるものを、本明細書に示して記述する。しかし、そうした態様からの逸脱が可能であり、それらは、本発明の範囲内であること、および本開示を読むことによって当業者には明らかな改変が想起されるであろうことが理解される。
【0133】
参考文献
前記の本文中に以下の文書を活字と数値によって引用している。それらの内容は本明細書に引用として明白に組み入れられる。
A.米国特許第4,897,355号
B.米国特許第4,394,448号
C.米国特許第5,328,470号
D.国際公開公報第93/12240号
E.国際公開公報第91/06309号
【図面の簡単な説明】
【0134】
図1〜10は、本明細書において、カラー版および白黒版の両方で提出する。これは、本発明が、カラー写真によって最もよく理解されるが、現行のPCT出願では容認されないために、このようなことを行った。図1〜10のカラー写真は、本明細書に参照として組み入れられる、1997年3月12日に提出された米国特許出願第08/820,337号のものである。さらに、本発明の標識複合体が血管新生内皮細胞に対して、対応する正常な内皮細胞より親和性が大きいことを明らかに示すカラー写真は、サーストンら(Thurston)、「陽イオンリポソームは、マウスの腫瘍および炎症において血管新生内皮細胞を標的にする(Cationic Liposomes Target Angiogenic Endothelial Cells in Tumors and Inflammation in Mice)」、J. Clin. Invest. 1998年4月1日号(参照として組み入れられる)に示されている。
【図1】正常なマウス卵巣の濾胞の新生血管における赤色蛍光CM-DiI-標識DDAB:コレステロール-DNA複合体の取り込みを示す蛍光顕微鏡写真である(スケール表示:60μm)。
【図2】RIP1-Tag5マウスにおける膵臓腫瘍の切片の新生血管における赤色蛍光CM-DiI-標識DDAB:コレステロール-DNA複合体の取り込みを示す蛍光顕微鏡写真である−血管は蛍光レクチンで緑色に染色される(スケール表示:40μm)。
【図3】正常なマウス膵島の血管にはテキサスレッド標識DOTAP:コレステロール-DNA複合体(黄〜オレンジ色)の取り込みがほとんどない、または全くないことを示す低倍率蛍光顕微鏡写真である(スケール表示:150μm)。
【図4】RIP1-Tag2マウスにおける膵臓腫瘍の血管におけるテキサスレッド標識DOTAP:コレステロール-DNA複合体(黄〜オレンジ色)の取り込みを示す低倍率蛍光顕微鏡写真である(スケール表示:150μm)。
【図5】蛍光レクチンで染色した(緑色)正常膵島には、テキサスレッド標識DOTAP:コレステロールリポソーム(赤〜オレンジ色)の取り込みがほとんどない、または全くないことを示す共焦点顕微鏡写真である(スケール表示:50μm)。
【図6】RIP1-Tag2マウスの膵臓腫瘍におけるテキサスレッド標識DOTAP:コレステロールリポソーム(赤〜オレンジ色)の取り込みを示す共焦点顕微鏡写真である。リポソームを静脈内注射した後、トマト(Lycopersicon esculentum)レクチンの(緑色)蛍光の環流によって血管を染色した(スケール表示:50μm)。
【図7】RIP1-Tag2マウスの膵臓腫瘍におけるテキサスレッド標識DOTAP:コレステロールリポソーム(赤〜オレンジ色)の取り込みを示す共焦点顕微鏡写真である。リポソームを静脈内注射した後、トマト(Lycopersicon esculentum)レクチンの(緑色)蛍光の環流によって血管を染色した(スケール表示:50μm)。
【図8】RIP1-Tag2マウスの膵臓腫瘍におけるテキサスレッド標識DOTAP:コレステロールリポソーム(赤〜オレンジ色)の取り込みを示す共焦点顕微鏡写真である。リポソームを静脈内注射した後、トマト(Lycopersicon esculentum)レクチンの(緑色)蛍光の環流によって、血管を染色した。血管増殖が起こりうる部位は、強い取り込みを示す(スケール表示:50μm)。
【図9】蛍光レクチンで血管を緑色に染色した病原体不含マウスの気管における正常な血管には、テキサスレッド標識DOTAP:コレステロールリポソーム(赤〜オレンジ色)の取り込みがほとんどないことを示す共焦点顕微鏡写真である
【図10】マイコプラズマ・プルモニス(Mycoplasma pulmonis)感染症のマウスの気管の新生血管におけるテキサスレッド標識DOTAP:コレステロールリポソーム(赤〜オレンジ色)の取り込みを示す共焦点顕微鏡写真である(スケール表示:50μm)。
【図11】静脈内注射の4時間後、リポソームの蛍光の強度を測定することによって評価した、病原体不含マウス気管およびマイコプラズマ・プルモニス(Mycoplasma pulmonis)に感染したマウス気管の血管によるテキサスレッド-DOTAP:コレステロールリポソームの取り込み量を示すグラフである。測定は、ツァイスLSM 410共焦点顕微鏡を用いて行った。感染したマウスに、M. プルモニス菌を鼻腔内接種し、4週間後に調べた。星印は統計学的に有意差があることを示す(P<0.05、平均値±SE、1群あたりのマウス数n=4)。
【図12】M. プルモニスに感染したマウスの気管において、内皮細胞と会合したDOTAP:コレステロールリポソームを示す透過型電子顕微鏡写真である(スケール表示:50μm)。
【図13】M. プルモニスに感染したマウスの気管において、内皮細胞によって取り込まれたDOTAP:コレステロールリポソームを示す透過型電子顕微鏡写真である(スケール表示:80μm)。
【背景技術】
【0001】
発明の背景
本発明は、多様な異なる疾患および異常の治療ならびに診断に適用することができる。本発明は、癌の治療、創傷治癒、および多様な慢性炎症疾患に用いることができるが、それらに限定されない。一般に、これらはそれぞれ、癌様組織の外科的切除、創傷の縫合、および炎症を起こした間接の外科的切除、のような物理的手段によって、現在直接的に治療されている。さらにそれらは化学的手段によっても治療できる。化学療法は癌に適用され、増殖ホルモンは創傷治癒に適用され、そして抗炎症剤が慢性炎症疾患の治療に適用されている。これら、および関連する治療は、一般に、癌様の、損傷した、または炎症を起こした組織を直接治療することを目的としている。本発明が、従来の治療様相とどのように異なるかを理解するために、これらの領域における現在の治療技術に関して、簡単に全般的に述べる。
【0002】
癌の治療
「癌」という用語は、治療、予後および治癒可能性において多様である範囲の疾患を含む。診断および治療に対するアプローチは、腫瘍発生部位、播種の程度、関連部位、患者の生理状態、および予後に依存する。診断がなされれば、通常、腫瘍の「進行段階を分類」するが、これは、外科技法、物理的検査、組織病理学、画像化、および臨床検査値を用いて、疾患の程度を定義し、治癒の確率が高い順に癌患者の集団をグループに分けることを含むプロセスである。そのようなシステムは、患者の治療を計画するため、そして予後を判定するため、の双方において用いられる(非特許文献1)。癌のタイプまたは進行段階によって、3種類の一般的な治療タイプ:手術、放射線療法、および化学療法のいずれを用いるかを決定することができる。積極的な併用様相治療計画を選択することも可能である。そのためには、原発腫瘍の除去に手術を用いることができ、残存細胞を放射線療法または化学療法で治療する(非特許文献2)。
【0003】
手術は、癌の診断および治療に中心的な役割を果たしている。一般に、外科的アプローチは生検を得るために必要であるが、手術はほとんどの癌患者にとって最終的な治療となりうる。手術はまた、腫瘍塊を減少させ、転移を切除し、差し迫った医学的問題を解決し、緩和およびリハビリテーションを行うために用いられる。癌治療の主な外科技法は、手術野を展開させて腫瘍を直視下で切除することを含むが、現在の技法では内視鏡手段によって何らかの切除を行うことができる。癌の治療における主な懸念は、手術のリスクを考慮しなければならないことである(非特許文献1)。
【0004】
放射線療法は、主要なおよび待期的な癌の治療のいずれにおいても、重要な役割を果たしている。遠隔放射線療法(超高圧放射線療法)および小線源照射療法(組織内および腔内照射)が一般的に用いられている。X線の形での電磁波照射は、一般的な悪性腫瘍を治療するために最も普通に用いられる遠隔放射線療法であるが、一方X線と類似の電磁波を形成するが、ラジウム、コバルト、および他の元素の放射性同位体によって放射されるガンマ線も用いられる。放射線療法は、細胞内でイオン化を生じることによって悪性および正常組織の双方に障害を与える、光子と呼ばれる離散性の大量のエネルギーとして、組織にエネルギーを移入する。イオンの標的は最も一般的にDNAであり;放射線療法は、放射線障害が悪性組織と非悪性組織との間で均一でない、すなわち急速に分裂する細胞は休止期の細胞よりDNA損傷をより受けやすい、という事実を利用している(非特許文献3)。放射線療法は重要な毒性と共に独自の利益に関連する。放射線は、放射線照射が実施可能な唯一の局所治療法である特定の解剖学的部位(例えば、縦隔)では好ましく、そして腫瘍が広範に広がっている場合も、放射線照射が実施可能な唯一の局所治療となるかも知れない。患者が手術に耐えられないことがわかったとき、または患者の容態によって手術技法ができない場合にも、放射線照射を用いてもよい。放射線治療は組織損傷を伴い、これが初期および後期放射線効果となりうる。初期効果(放射線療法の急性毒性)には、皮膚の紅斑、落屑、食道炎、悪心、脱毛症、および骨髄抑制が含まれ、後期効果には組織の壊死および繊維症が含まれ、通常、これが放射線療法の制限毒性を左右する(非特許文献1)。
【0005】
現在使用されているほぼ全ての化学療法剤が、DNA合成、DNAおよびRNA合成の前駆体の準備、または分裂を妨害し、このように、増殖しつつある細胞を標的としている(非特許文献4)。動物腫瘍に関する研究およびヒトの臨床試験から、薬剤を併用すれば、単剤の場合より高い客観的反応率およびより長い生存期間が得られることが示された(非特許文献5)。併用薬剤療法は、アルキル化剤、代謝拮抗剤、および抗生物質を含む、多数の薬剤の異なる作用機序および細胞障害能を利用している(非特許文献6)。患者の生理状態、腫瘍の増殖特徴、腫瘍細胞集団の不均一性、および腫瘍の多剤耐性状態が、化学療法の有効性に影響を及ぼす。一般に、化学療法は標的を絞って投与されないため(尤も、これらの技法は、非特許文献7によって開発中であるが)、その結果、骨髄抑制、胃腸炎、悪心、脱毛症、肝または肺障害、不妊症のような副作用が起こりうる。
【0006】
創傷治癒
創傷治癒は、異なる多くのタイプの細胞が関与する組織修復および再形成に関する複雑かつ遷延性のプロセスであり、これには、再生プロセスのバランスをとるために様々な生化学反応カスケードの精巧に適合させた調節を必要とする。創傷治癒は一般に、3つの相に分けられる:炎症、増殖、および成熟(非特許文献8)。プロセスは、様々なタイプの細胞の創傷領域への遊走、上皮細胞および繊維芽細胞の増殖刺激、新しい血管の形成、細胞外マトリクスの形成を含む。これらのプロセスが正確に機能するか否かは、様々なサイトカインの生物学的活性化に依存する(非特許文献9)。栄養、免疫系、酸素、血液量、感染症、免疫抑制、および赤血球細胞の減少が、創傷治癒における全ての影響因子である(非特許文献10)。
【0007】
創傷治癒の速度と共にその質は通常、最初の損傷のタイプおよび程度に依存する。創傷を治療するためには、それぞれが損傷組織の治癒を指向する一般的な3種類のプロセスを用いる。創傷の閉鎖は、絆創膏、ステープルまたは電気的焼灼も使用することができるが、最も一般的に縫合によって行う(非特許文献11)。皮膚用絆創膏および様々な縫合はそれぞれ、創傷の一次縫合において、特定の利益および欠点を示す。皮膚用絆創膏は、炎症反応を引き起こすことが少ないが上皮下創傷空間を縫合できない、一方様々な縫合によって引き起こされる炎症反応およびその後の瘢痕形成は、縫合針の大きさ、縫合材料の直径、およびそれがモノフィラメントまたは編まれた縫合糸であるか否か、に依存する(非特許文献12)。
【0008】
創傷では、微生物接種の大きさ、微生物の菌力、および宿主の抗微生物防御メカニズムが、感染症を発症するか否かを左右する。このように、抗生物質はまた、創傷の治療において治療的価値を有することができる(非特許文献13)。適当な抗生物質、その投与経路を選択するために、および副作用を防止するためには、各抗生物質の薬理作用を理解しなければならない(非特許文献12)。最近の結果は、抗生物質療法によって細胞増殖および分化がより迅速に進行し、このように創傷修復の増強において有用となる可能性があることを示唆している(非特許文献14及び非特許文献15)。蛋白分解酵素も同様に、汚染した創傷の抗生物質治療の補助として用いられている(非特許文献16)。
【0009】
bFGF、EGF、PDGF、およびTGF-βを含む様々なサイトカインを単独または併用して局所投与すると、創傷治癒はかなり加速される可能性がある(非特許文献17)。増殖因子は、細胞を創傷部位に誘引し、その増殖を刺激し、細胞外マトリクスの沈着に大きい影響を及ぼす。組換え技術によってこれらのサイトカインの大量生産能が開発されて以来、多くの研究によって、増殖因子は、正常および損傷した治癒モデルにおいて組織修復の全ての局面を増強させることができることが示された(例えば、非特許文献18及び非特許文献19)。予備的な臨床試験から、増殖因子による治療によって時に、組織修復の統計学的に有意な改善が得られることが示されたが、これらの結果が臨床的に有意であるかは明確でなく、新しい臨床試験は、特定のタイプの損傷治癒を目的とする標的増殖因子に重点を置かなければならないことが示唆されている(非特許文献20)。
【0010】
慢性炎症
天然の、液性、および細胞性免疫メカニズムは全て、慢性炎症疾患の発病に関係している(非特許文献21)。自己免疫疾患はリンパ球機能の異常に起因する。異常なT細胞機能は、細胞性免疫を通じて疾患の原因となることがあり、抗体産生におけるヘルパーT細胞の活性は、自己抗体の形成に関与する可能性がある。自己免疫疾患においてヘルパーT細胞が中心的な役割を果たしていることは、これらの多くの疾患と特定のHLA分子との関連によって支持される。免疫寛容の維持において1つ以上の段階が不全であれば自己免疫が起こりうる(非特許文献22)。
【0011】
自己免疫疾患ではいくつかのタイプの治療が用いられ、その全てが罹患組織における免疫応答を減弱させることを目的としている。例えば、自己免疫疾患であるリウマチ性関節炎の治療は、非ステロイド性抗炎症剤(NSAID)またはグルココルチコステロイドのような抗炎症剤、金塩のような寛解誘導剤、および/またはシクロフォスファミドのような免疫抑制剤を使用することができる。炎症プロセスの際に損傷を受けた関節を置換するために、整形外科手術も用いることができる(非特許文献23)。最近の研究から、リウマチ性関節炎の治療において、TNF-αの使用のような、罹患組織に向けられた新しい治療の可能性が示唆されている(非特許文献24)。
【0012】
アレルギーとは、環境中の抗原に対する免疫応答が組織の炎症および臓器の機能不全を引き起こす状態を意味する。自己免疫疾患の場合と同様に、アレルギー疾患においても免疫系のいくつかの成分の相互作用があることが、データから示唆されている。アレルギー疾患の発現の多様性は、異なる免疫イフェクターメカニズムから生じ、これは特異的なパターンの組織損傷を誘発する(非特許文献25)。それぞれのアレルギー疾患の臨床的特徴は、罹患した臓器または組織における免疫が媒介する炎症反応を反映している(例えば、喘息は肺における炎症反応を反映している)。
【0013】
免疫媒介アレルギー疾患を治療するために、いくつかの治療戦略が用いられているが、その全てが炎症を起こした組織における免疫応答を減弱させることを目的としている。例えば、喘息の治療では、治療は、環境のコントロール、薬物療法、およびアレルギン免疫療法を含むことができる(非特許文献25)。喘息の治療において、原因物質の除去は炎症の予防に最も成功する手段である。しかし、それは可能でないことがしばしばあり、このように薬剤のいくつかのクラスが用いられている。これらの中には、メチルキサンチン(気管支拡張のため)、アドレナリン刺激剤(β-アドレナリン受容体の刺激、気管支拡張剤)、グルココルチコイド(肺の炎症を弱める)、クロモン(肥満細胞をダウンレギュレートする、肺の炎症を弱める)、および抗コリン作動薬(気管支拡張剤)が含まれる(非特許文献26)。疑わしいアレルゲンの抽出物による脱感作または免疫療法も、喘息における炎症を減少させるために示唆されている(非特許文献26及び非特許文献27)。
【0014】
現在の治療法−免疫学
上記の治療レジメの成功の程度は多様である。成功率はほとんどの場合完全とはほど遠く、さらによい治療を開発する研究が続けられている。一つの有望な研究領域は、免疫系に影響を及ぼすことに関する。遺伝子操作および/または化学刺激を用いることによって、生体自身の免疫系が疾患を治療する、例えば抗体が癌細胞を破壊するように、免疫応答を修飾および/または刺激することができる。このタイプの治療は、疾患と闘うために生物学的プロセスを利用するという点において上記の治療とは異なる。しかし、それでもこの治療は、作製された抗体が癌細胞を直接攻撃することから直接的治療である。
【0015】
本発明は、本発明が癌様の、損傷を受けた、または炎症を起こした細胞に直接影響を及ぼすことを含まない、という点において、通常の治療とは大きく異なる治療のために用いることができる。
【0016】
少なくとも理論的に、血管新生を阻害することによって血管新生に関連した癌または炎症を治療することが可能であることが認識されている。それに関連する現在の考え方に関する典型的な例は、1995年9月28日に公表されたPCT出願国際公開公報第95/25543号において考察されている。この公表された出願は、血管新生内皮細胞の表面上に存在すると思われる抗原と結合する抗体を投与することによって、血管新生を阻害する方法を記述している。詳しく述べると、本出願は、一般に細胞接着事象と呼ばれる細胞−細胞相互作用および細胞−細胞外マトリクス相互作用を媒介すると思われる膜受容体であるαvβ3に結合する抗体を投与することを記述している。この受容体を遮断することによって、治療は血管新生を阻害し、それによって癌および炎症を治療すると期待される。
【0017】
【非特許文献1】ストックデール(Stockdale, F)、1996、「癌患者管理の基本(Principles of Cancer Treatment)」、Scientific American Medicine、第3巻、デール&フェダーマン編(Dale, D.C. and Federman, D.D.)、Scientific American Press, New York
【非特許文献2】ローゼンバーグ(Rosenberg, S.A.)、1985、「癌の併用治療:どのようなものか、そしていつ作用するか(Combined-modality therapy of cancer:what is it and when does it work)」、New Engl. J. Med. 312:1512〜14
【非特許文献3】パス(Pass, H.I.)、1993、「腫瘍学における光力学療法:メカニズムと臨床での利用(Photodynamic therapy in oncology:mechanisms and clinical use)」、J. Natl. Cancer/ Instit. 85:443〜56
【非特許文献4】ストックデール(Stockdale, F)、1996、「癌の増殖と化学療法(Cancer growth and chemotherapy)」、前記
【非特許文献5】フライ(Frei, E.III)、1972、「併用化学療法:大統領の教書(Combination cancer therapy:presidential address)」、Cancer Res. 32:2593〜2607
【非特許文献6】デビタら(Devita, V.T.)、1975、「併用対単剤化学療法:癌の薬物治療を選別する根拠の再検討(Combination versus single agent chemotherapy:a review of the basis for selection of drug treatment of cancer)」、Cancer 35:98〜110
【非特許文献7】パスタンら(Pastan, I.)、1986、「免疫毒素(Immunotoxins)」、Cell 47:641〜648
【非特許文献8】ワルドルフ&フュークス(Waldorf, H. and Fewkes, J.)、1995、「創傷治癒(Wound Healing)」、Adv. Dermatol. 10:77〜96
【非特許文献9】ベネット&シュルツ(Bennett, N.T., and Schultz, G.S.)、1993、「増殖因子と創傷治癒:増殖因子およびその受容体の生化学特性(Growth factors and wound healing:biochemical properties of growth factors and thier receptors)」、Am J. Surg. 165:728〜37
【非特許文献10】ウィットニー(Witney, J.D.)、1989、「組織酸素飽和が創傷治癒に及ぼす生理学的影響(Physiological Effects of tissue oxygenation on wound healing)」、Heart Lung 18:466〜474
【非特許文献11】フィーレス(Wheeless, C. R.)、1996、「フィーレスのオルタエディクス・テキスト(Wheeless' Textbook of orthaediscs)」)(ガレットら(Garett, W. E.)、1984、J. Hand. Surg. 9(5):683〜92
【非特許文献12】シンプソン(Simpson, W. R.)、1977、「頭部および頸部皮膚創傷における治療の生理学的原理(Physiological principles of therapy in head and neck cutaneous wounds)」、Laryngoscope 87:792〜816
【非特許文献13】エドリッチら(Edlich, R. F.)、1986、「軽微な軟組織裂傷の抗菌剤による治療:批評的再検討(Antimicrobial treatment of minor soft tissue lacerations:a critical review)」、Emergency Medical Clinics of North America 4(3):561〜80
【非特許文献14】バロウら(Barrow, R. E.)、1994、「ヒツジ気管上皮修復の促進におけるセファゾリンの有効性(Efficacy of cefazolin in promoting ovine tracheal epithelial repair)」、Respiration 61:231〜5
【非特許文献15】メーダーら(Maeder, K.)、1993、「脊髄損傷患者におけるメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)生着(Methicillin-resistant Staphylococcus aureus (MRSA)colonization in patients with spinal cord injury」、Paraplegia 31:639〜44
【非特許文献16】ロードヒーバーら(Rodeheaver, G. T.)、1978、「蛋白溶解酵素が抗生物質作用の有効期間を延長させるメカニズム(Mechanism by which proteolytic enzymes prolong the golden period of antibiotic action)」、Am. J. Surg. 136(3):379〜82
【非特許文献17】モーリン(Moulin, V.)、1995、「皮膚の創傷治癒における増殖因子(Growth factors in skin wound healing)」、Eur. J. Cell. Biol. 68:1〜7
【非特許文献18】シュルツら(Schultz, G. S.)、1987、「トランスフォーミング増殖因子-αおよびワクシニア増殖因子によって増強された上皮の創傷治癒(Epithelical wound healing enhanced by growth factor-alpha and vaccinia growth factors)」、Science 235:350〜2
【非特許文献19】デュエルら(Deuel, T. F.)、1991、「増殖因子と創傷治癒:モデル・サイトカインとしての血小板由来増殖因子(Growth factor and wound healing:platelet derived growth factor as a model cytokine)」、Annu. Rev. Med. 42:567〜84
【非特許文献20】グリーンハル(Greenhalgh, D. G.)、1996、「創傷治癒における増殖因子の役割(The role of growth factors in wound healing)」、J. Trauma 41:159〜67
【非特許文献21】セイマーら(Seymour, G. J.)、1979、「進行性慢性炎症性歯周病の免疫学的病因(The immunopathogenesis of progressive chronic inflammatory peridontal disease)」、J. Oral Pthol. 8:249〜65
【非特許文献22】ロビンソン(Robinson, D. R.)、1996、「免疫寛容と自己免疫(Immunologic Tolerance and Autoimmunity)」、Scientific American Medicine、第2巻、第VI章、Scientific American Press, New York、1〜11頁
【非特許文献23】ギリランド&マニク(Gilliland, B. C., and Mannik, M.)、1983、「リウマチ性関節炎(Rheumatoid Arthritis)」、「ハリソンの基本内科(Harrison's principles of internal Medicine)」、McGrow Hill、New York、1977〜1984頁
【非特許文献24】ブレナンら(Brennan, F. M.)、1995、「慢性炎症疾患におけるサイトカインの発現(Cytokine expression in chronic inflammatory disease)」、Br. Med. Bull. 51:368〜384
【非特許文献25】ビアら(Beer, D. J.)、1996、「アレルギー(Allergy)、Scientific American Medicine、第2巻、VII章、Scientific American Press, New York、1〜29頁
【非特許文献26】マックファデン&オーステン(McFadden, E. R., Jr., and Austen, K. F.)、「免疫および環境的損傷によって引き起こされた肺疾患(Lung disease caused by immunologic and environmental injury)」、「ハリソンの基本内科(Harrison's Principles of Internal Medicine)」、McGraw Hill, New York,、1512〜1519頁
【非特許文献27】ジャケミン&セントレミー(Jacquemin, M. G., and Saint-Remy, J. M.)、1995、「アレルゲン特異的抗体複合体の注射に関連したヒトにおける抗アレルゲンIgEおよびIgG抗体の特異的ダウン・レギュレーション(Specific down-regulation of anti-allergen IgE and IgG antibodies in human associated with injection of allergen-specific antibody complexes)」、Ther. Immunol. 2:41〜52
【発明の開示】
【0018】
発明の概要
薬剤を選択的に血管新生内皮細胞に輸送する方法を開示する。本方法は、陽イオン脂質および血管新生を促進もしくは阻害するおよび/または検出可能な標識を含む化合物を包含する陽イオン性リポソーム(またはポリヌクレオチド/脂質複合体)を、好ましくは循環系に、より好ましくは動脈内に注射することを含む。投与後、陽イオン性リポソームは、血管新生内皮細胞と選択的に会合し、このことは、それらが、対応する休止期の、血管新生を行っていない内皮細胞との会合より5倍以上(好ましくは10倍以上)の比で、血管新生内皮細胞と会合することを意味する。リポソーム(またはポリヌクレオチド/脂質複合体)が血管新生内皮細胞と会合すると、それらは、内皮細胞によって取り込まれ、望ましい作用を発揮する。この物質は、内皮細胞を破壊し、さらに血管新生を促進し、凝固を促進する、および/または適当な手段によって内皮細胞を検出することができるように内皮細胞にタグをつけることができる。血管新生内皮細胞に影響を及ぼす物質は、発現されると血管新生を促進または抑制する蛋白質をコードするDNAのようなヌクレオチド配列であってもよい。ヌクレオチド配列は、好ましくは、そのプロモーターが血管新生内皮細胞における場合に限って活性である、またはある化合物の投与によってそれらの細胞において活性化することができ、それによってプロモーターの活性化によって遺伝子のスイッチを入れるもしくは切ることができるようになる、プロモーターに機能的に結合されたベクターの中に含まれている。本発明を説明するより詳しい記述およびカラー写真は、本発明者らが発表した論文に示されている−サーストンら(Thurston)、「陽イオンリポソームは、マウスの腫瘍および炎症における血管新生内皮細胞を標的にする(Cationic Liposomes Target Angiogenic Endothelial Cells in Tumors and Inflammation in Mice)」、J. Clin. Invest. 1998年4月1日号。
【0019】
複合体が、血中で、対応する正常な内皮細胞と比較して血管新生内皮細胞に対してより大きい親和性を有することを特徴とする、陽イオン脂質および血管新生の阻害剤を含む阻害剤/脂質複合体を開示する。複合体は好ましくは、検出可能な標識を含む。標識は、複合体内のいずれに存在してもよく、陽イオン脂質、阻害剤、その両者と結合していてもよく、またはいずれにも結合していなくてもよい。
【0020】
本発明はまた、陽イオン脂質およびヌクレオチド配列を含むヌクレオチド/陽イオン脂質複合体を含む。配列は、血管新生に影響を及ぼす蛋白質をコードする。複合体は、血中で、対応する正常な内皮細胞と比較して血管新生内皮細胞に対してより大きい親和性を有することを特徴とする。配列は、好ましくは、血管新生内皮細胞内で選択的に活性化されるプロモーターに機能的に結合しているDNA配列である。適したプロモーターには、フォン・ビリブラント因子(von Willibrand Factor)遺伝子プロモーターと共に、FLT-1遺伝子プロモーターおよびFLK-1遺伝子プロモーターが含まれる。ヌクレオチド配列は、正常な内皮細胞と比較して好ましくは血管新生内皮細胞内で遺伝子材料の発現を選択的に妨害するアンチセンス配列であってもよい。
【0021】
本発明はまた、血管新生部位の診断法を含む。本方法は、血中で、対応する正常な内皮細胞と比較して血管新生内皮細胞に対してより大きい親和性を有する、陽イオン脂質および検出可能な標識を含む複合体を投与することを含む。投与された複合体は、血管新生内皮細胞と選択的に会合する。その後、検出可能な標識を検出して、それによってその部位での標識の蓄積に基づいて血管新生の部位を決定する。標識は、蛍光標識、組織化学標識、免疫組織化学標識、放射性標識、またはその他の適した標識であってもよい。本方法は、標識の蓄積部位で、組織を単離して、その後単離された組織を分析することを含んでもよい。
【0022】
血管新生部位を診断する方法は、それによって悪性腫瘍または悪性組織を正確に同定して切除する方法を含む。この方法は、陽イオン脂質およびヒトの肉眼で検出可能な標識を含む複合体を投与することを含む。標識は、特定の波長の光が標識上で示された場合にヒトの肉眼で直接検出可能な光を放出してもよい。検出可能な標識を有する複合体は血管新生内皮細胞に結合する。患者はいかなる哺乳動物でもよいが、一般に、手術を受けるヒトである。外科的に患者を切開して、標識が蛍光を発するようになる光に腫瘍を暴露する。蛍光を発する組織全体を切除する。このように、この方法によって、血管新生内皮細胞を含むいかなる組織も、正確な位置を特定して、切除することができる。
【0023】
本発明は、組成物が血中で対応する正常な内皮細胞と比較して血管新生内皮細胞に対してより大きい親和性を有し、組成物が血管新生内皮細胞に入るように新生血管の血管新生内皮細胞にしばらくの間選択的に会合する、陽イオン脂質と血管新生に影響を及ぼす物質とを含む、血管新生内皮細胞に選択的に影響を及ぼす組成物を含む。本組成物は、好ましくは哺乳動物の循環中への注射によって投与するために製剤化される。組成物は好ましくは、対応する正常な内皮細胞と比較して血管新生内皮細胞に対する親和性が好ましくは5倍以上、より好ましくは10倍以上である。組成物は、好ましくは陽イオン脂質を5モル%以上含み、血管新生に影響を及ぼす物質は、好ましくは血管新生の阻害剤であるが、組成物を創傷治癒に用いる場合には血管新生の促進剤であってもよい。
【0024】
本発明の目的は、血管新生内皮細胞に選択的に影響を及ぼし、それによって血管新生を阻害または促進する方法を提供することである。
本発明のもう一つの目的は、リポソームが血管新生内皮細胞と選択的に会合し、血管新生を行っていない対応する内皮細胞とは会合しないようにデザインされている、検出可能な標識を含む陽イオンリポソームを投与することによって、血管新生部位を診断する方法を提供することである。
本発明のもう一つの目的は、陽イオン脂質と、血管新生を阻害もしくは促進するよう特異的に企図されデザインされた化合物とを含む陽イオンリポソームを提供することであって、該化合物は、水溶性であっても、水中に容易に分散するものであっても、または脂質に適合性で脂質二重層に取り込まれるものであってもよい。
本発明のもう一つの目的は、その結果、血管中の血流を妨害または完全に遮断する局所血管内凝血が起こるように、血管新生内皮細胞に選択的に影響を及ぼす方法を提供することである。
もう一つの目的は、検出可能な標識で細胞を標識し、それによってその後の培養および/または分析において、血管新生内皮細胞を周辺の細胞と区別することができるようになる、血管新生内皮細胞を分析する方法を提供することである。
本発明のさらにもう一つの目的は、その化合物が血管新生内皮細胞を破壊し、その後腫瘍細胞を破壊する、腫瘍の血管新生内皮細胞に毒性化合物を輸送することによって、望ましくない腫瘍を破壊する方法を提供することである。
本発明のもう一つの目的は、血管新生内皮細胞へ陽イオン脂質/DNA複合体を輸送することによって血管新生内皮細胞に選択的に影響を及ぼす方法を提供することであって、該DNAが、血管新生内皮細胞に好ましくは独自に会合している環境において選択的に活性化されるプロモーターに結合されている、すなわちプロモーターが、休止期の内皮細胞においては活性化されない方法を提供することである。
【0025】
本発明の特徴は、本発明の陽イオンリポソームが、血管新生に関与していない対応する内皮細胞と会合する場合より、はるかに高い選択性で(5倍以上、好ましくは10倍以上)血管新生内皮細胞に選択的に会合することである。
【0026】
本発明の利点は、血管が破壊され、または凝血などによって非機能的となるように、および周囲の組織(腫瘍細胞のような)に対する栄養供給が遮断され、それによって該組織が破壊されるように(例えば固形腫瘍を破壊する)、細胞が影響を受ける(例えば殺される)、内皮細胞に少量の毒性化合物を正確に輸送するために本発明の陽イオン性リポソームを用いることができる点である。
本発明のもう一つの利点は、本発明の陽イオンリポソームが、進行中の血管新生に関連した悪性または良性腫瘍に関連した血管新生を阻害するために用いることができる点である。
本発明のさらにもう一つの利点は、陽イオンリポソームを用いて、血管新生を促進する化合物が部位特異的に輸送され、それによって創傷治癒が増強される点である。
【0027】
本発明の重要な特徴は、いくつかのクラスの疾患および/または異常を、異常に関係する組織を直接治療することなく治療すること、例えば血管新生を阻害することによって、腫瘍への血管供給を遮断し、いかなる方法においても腫瘍細胞を直接治療することなく腫瘍を殺すことである。
【0028】
本発明のこれらならびに他の目的、利点および特徴は、添付の図面と共に本明細書に提供された開示を読むことによって当業者には明らかとなると思われる。
【0029】
好ましい態様の詳細な説明
本方法において用いられる血管新生内皮細胞およびリポソームに選択的に影響を及ぼす/標識する本方法を記述する前に、記述の特定のリポソーム、方法、または活性物質は、当然のことながら変更してもよいため、本発明はそれらに制限されないと理解すべきである。同様に、本明細書で用いられる用語は特定の態様のみを記述することを目的としており、本発明の範囲は添付の請求の範囲によってのみ制限されるため、制限的に解釈されないことも理解すべきである。
【0030】
本明細書および添付の請求の範囲において用いられるように、単数形「1つの(a, an)」、および「その(the)」とは、本文で明らかにそうでないと述べている場合でなければ複数形を含むことに注意しなければならない。したがって、例えば、「1つのリポソーム(a liposome)」という語は、そのようなリポソームの混合物および多数のリポソームを含み、「1つの物質(an agent)」という語は、多数の物質およびその混合物を含み、そして「その方法(the method)」という語は、本明細書に記述のタイプの1つ以上の方法または段階を含む。
【0031】
本明細書に記述の刊行物は、本出願の提出日以前の開示に限って提供している。本明細書のいかなる開示も、先行発明に基づいて、本開示がなされた日付を早める権利が本発明者らにはないと自認したと解釈されるべきではない。
【0032】
別途定義していない限り、本明細書における全ての技術的および科学的用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解される意味と同じ意味を有する。本明細書に記述のものと類似または同等であるいかなる方法および材料も、本発明の実践または試験において用いることができるが、好ましい方法および材料を本明細書に記述する。本明細書に引用した全ての刊行物は、刊行物が引用されている本発明の具体的局面を開示し説明する目的で参照として本明細書に組み入れられる。
【0033】
定義
本明細書において用いられる「治療」、「治療している」、「治療する」等の用語は、一般に、望ましい薬理学的および/または生理学的作用を得ることを意味するよう用いられる。作用は、疾患またはその症状を完全にまたは部分的に予防するという点において予防的であってもよく、ならびに/または、疾患および/もしくは疾患に帰することができる副作用の部分的もしくは完全な安定化または治癒という点において治療的であってもよい。本明細書で用いられる「治療」とは、哺乳動物、特にヒトにおける疾患のいかなる治療にも適用され、以下の段階を含む:
(a)疾患もしくは症状に対して素因を有する可能性があるが、まだそれを有すると診断されていない被験者において疾患もしくは症状が起こることを防止する段階;
(b)疾患の症状を阻害する、すなわちその発症を停止させる段階;または
(c)疾患の症状を軽減する、すなわち疾患もしくは症状の退行を引き起こす段階。
【0034】
「血管新生」という用語は、新しい血管の発生を含む組織血管形成のプロセスを指す。血管新生は、以下の3つのメカニズムの一つを通じて起こる:(1)新生血管形成、内皮細胞は、新血管の形成を開始させる既存の血管から遊走する;(2)血管形成、前駆細胞からデノボで血管を生じる;または(3)血管拡張、既存の小血管の直径が広げられて、より大きな血管が形成される(ブラッド&ゼッター(Blood, C. H., and Zetter, B. R.)、1990、Biochem. Biophys. Acta. 1032:89〜118)。
【0035】
血管新生は、新生児の成長の正常なプロセスにおいて、および黄体形成サイクルの際に女性の生殖系において、重要なプロセスである(モーゼスら(Moses, M. A.)、1990、Science 248:1408〜10参照)。正常な条件下では、既存または新しい血管の新たな形成または再形成を含む全てのプロセスは、自己制御性のプロセスであって、特定の細胞タイプの増殖は調節され協調される。
【0036】
血管新生はまた、創傷治癒ならびに、組織の炎症、関節炎、喘息、腫瘍の増殖、糖尿病網膜症、およびその他の条件を含む多くの臨床疾患の病因に関係している。血管新生に関連する臨床発現は、血管新生疾患と呼ばれる(フォークマン&クラグスブルン(Folkman, J. and Klagsbrun, M.)、1987、Science 235:442〜7)。
【0037】
多くの実験は、正常および病的な状態のいずれの際にも、血液供給が不十分である条件下で、組織が血管新生を促進する血管新生因子を生成することができることを示唆している。これらの因子および化合物は、細胞特異性、およびそれによってそれらが新しい血管の増殖を誘導するメカニズムが異なる。これらの因子は多様なメカニズムを通じて機能する。例えば、それらは、内皮細胞の遊走および増殖を誘導する、またはコラゲナーゼ産生を刺激する可能性がある(クラグスブルン&ダモール(Klagsbrun, M. and D'Amore, P. A.)、1991、「血管新生の制御因子(Regulators of angiogenesis)」、Ann. Rev. Physiol. 53:217〜39)。血管新生活性の直接的定量ができる多くのバイオアッセイが存在する(ウィルティングら(Wilting, J.)、1991、「増殖因子の定性的および定量的試験のための改変漿尿膜(CAM)アッセイ。担体、PBS、アンギオゲニン、およびbFGFの作用に関する研究(A Modified chorioallantoic menbrane(CAM)assay for qualitative and quantitative study of growth factors. Studies on the effects of carriers, PBS, angiogenin, and bFGF)」、Anal. Embrol. (Berl)183:259〜71)。
【0038】
血管新生阻害剤は、疾患の治療に有用であるかも知れないと提唱されている。例えば、血管新生を阻害すれば腫瘍の増殖を制限する可能性がある。(1)血管新生因子の放出を阻害する、(2)モノクローナル抗体のような手段を用いて血管新生因子を中和する、および(3)血管新生を阻害することが知られている分子である抗血管新生因子を用いて、内皮細胞反応を阻害する(フォークマンら(Folkman, J.)、1992、Seminars in Cancer Biology 3:89〜96)ことを含む、血管新生を阻害するいくつかの手段が提唱されている。コラゲナーゼ阻害剤、基底膜代謝回転阻害剤、血管抑制性ステロイド、真菌由来阻害剤、血小板第4因子、トロンボスポンジン、ペニシラミンのような関節炎剤、および特にα-インターフェロンなどの、いくつかのそのような内皮細胞阻害因子が報告されている(例えば、フォークマンら(Folkman, J.)、1992、Seminars in Cancer Biology 3:89〜96;例えば、ステピエンら(Stepien, H.)、1996、「フマギリンとその誘導体TNP-470がフィッシャー344系ラットのエストロゲン誘発プロラクチノーマの機能、形態、および血管新生に及ぼす阻害効果(Inhibitory effects of fumagillin and its analogue TNP-470 on the function, morphology, and angiogenesis of an oestrogen-induced prolactinoma in Fischer rats)」、J. Endocrinol. 150:99〜106;メイオンら(Maione, T. E.)、1990、「組換え型ヒト血小板第4因子および関連ペプチドによる血管新生の阻害(Inhibiton of angiogenesis by recombinant human platelet factor-4 and related peptides)」、Science 247:77〜9を参照のこと)。
【0039】
「内皮細胞」という用語は、循環系の内表面に存在する単純な扁平細胞の単層である、内皮を形成する細胞を意味する。これらの細胞は、通常の条件下では増殖は非常に遅く、細胞分裂は、おそらく1年に1回だけであるが、細胞分裂能を保持している。内皮細胞の増殖は、[3H]チミジンを用いてS期の細胞を標識することによって示すことができる。正常血管では、標識される内皮細胞の比率は、動脈の分岐点で特に高く、ここでは細胞の乱れと摩耗が代謝回転を刺激するように思われる(ゴス(Goss, R. J.)、1978、The Physiology of Growth、Academic Press、New York, 120〜137頁)。正常な内皮細胞は休止期にある、すなわち分裂せず、そのため、以下に述べるように血管新生内皮細胞と識別することができる。
【0040】
内皮細胞はまた、血管新生において重要なプロセスである遊走能を有する。内皮細胞は、創傷修復の際のように必要が生じた場合、または腫瘍形成の場合のようにそれらに対する認められた必要性が生じた場合に、インビボで新しい毛細管を形成する。新しい血管の形成は血管新生と命名されており、これには内皮細胞にとって分裂誘発性または化学誘因剤となりうる分子(血管新生因子)が関係する(クラグスブルン(Klagsbrun、前記)。血管新生の間、内皮細胞は既に存在する毛細管から遊走して、新しい血管の形成を開始する、すなわち1つの血管から、その血管が伸長するように細胞が遊走する(スパイデル(Speidel, C. C.、Am J. Anat. 52:1〜79)。内皮細胞の増殖および遊走はいずれも、インビトロ試験によって示されており;培養されている内皮細胞は増殖して、自発的に毛細血管を形成することができる(フォークマン&ハウデンシルド(Folkman, J., and Haudenschild. C.)、1980、Nature 288:551〜56)。
【0041】
「血管新生内皮細胞」および「血管新生を行いつつある内皮細胞」などの用語は、(上記のように)血管新生を起こしつつある(上記のような)内皮細胞を意味するために、本明細書において互換的に用いられる。このように、血管新生内皮細胞は、細胞分裂をほぼ1年に1回行う正常な条件をはるかに超えた速度で増殖する内皮細胞である。内皮細胞の正常な増殖らの分化速度は、正常な増殖の2倍、5倍、または10 倍以上であるかも知れず、患者の年齢および状態、関係する腫瘍のタイプ、創傷のタイプ等のような要因に応じて大きく変化することがありうる。正常な内皮細胞と血管新生内皮細胞との増殖の程度の差が測定可能で、生物学的に有意であると見なされれば、2つのタイプの細胞は、本発明によって識別される、すなわち血管新生内皮細胞は、陽イオンリポソームの選択的結合に関して、対応する正常な休止期の内皮細胞と識別することができる。
【0042】
「対応する内皮細胞」、「正常なまたは休止期の内皮細胞」などの用語は、内皮細胞の一部が血管新生を行い、そして内皮細胞の一部が休止期である場合に、(通常の条件下で)同じタイプの組織の中に含まれる正常な休止期の内皮細胞を指すために用いられる。本発明では、血管新生内皮細胞を選択的に標的とし、これは対応する休止期の内皮細胞を標的とする場合より5倍大きい、好ましくは10倍大きい選択性で標的とされる。
【0043】
「脂質」という用語は、脂肪、脂質、水に不溶性である原形質のアルコール・エーテル・可溶性成分を含む、一般用語としてのその従来の意味において用いられる。脂質には、脂肪、脂肪油、精油、ワックス、ステロイド、ステロール、燐脂質、糖脂質、スルホリピッド、アミノリピッド、クロモリピッド(リポクローム)、および脂肪酸が含まれる。この用語は、天然に存在する、および合成的に生成される脂質の双方を含む。本発明に関連して好ましい脂質は、フォスファチジルコリンおよびフォスファチジルエタノールアミン、ならびにスフィンゴミエリンを含む燐脂質である。脂肪酸が存在する場合、それらの長さは炭素数12〜24個で、不飽和結合(二重結合)を6個まで含み、アシルまたはエーテル結合によって骨格に結合している。骨格に1つ以上の脂肪酸が結合している場合、脂肪酸は異なるものであってもよく(非対称)、または例えばリゾレシチンのように1つの脂肪酸鎖のみが存在してもよい。特に、卵黄、ウシの心臓、脳、もしくは肝臓、または大豆から精製したレシチン(フォスファチジルコリン)のように、非イオン性の脂質が天然資源に由来する場合、混合製剤もまた可能である。ステロイドおよびステロール、特にコレステロールおよびステロールは3b位で置換される。
【0044】
本明細書において用いられる「陽イオン脂質」という用語は、陽イオン性である本発明のいかなる脂質(既に定義したように)も含む。脂質は、測定時に利用できる機器によって測定可能な陽性電荷(生理的pHにおいて)を有する場合には陽イオンであると判定される。陽イオン脂質上に脂肪酸が存在する場合、それらの長さは炭素数12〜24個で、不飽和結合(二重結合)6個までを含み、アシルまたはエーテル結合のいずれかによって骨格と結合している;骨格に1個の脂肪酸鎖のみが結合していることもあり得る。1つ以上の脂肪酸が骨格に結合している場合、脂肪酸は異なるもの(非対称)であってもよい。混合製剤も可能である。
【0045】
「リポソーム」という用語は脂質二重層によって囲い込まれた任意の分画を含む。リポソームは脂質小胞とも呼ばれる。リポソームを形成するために、脂質分子は、伸長した非極性(疎水性)部分と極性(親水性)部分とを含む。分子の疎水性部分および親水性部分は、好ましくは、伸長した分子構造の2つの両端に存在する。そのような脂質が水中に拡散すると、それらは自発的にラメラと呼ばれる二重膜を形成する。ラメラは、互いに向かい合う非極性(疎水性)表面と水性溶媒に面する極性(親水性)表面とを有する、脂質分子の2つの単層シートから成る。脂質によって形成された膜は、細胞の内容物を囲い込む細胞膜と同様に、水相の部分を囲い込む。このように、リポソームの二重層は細胞膜に蛋白質成分が存在しない細胞膜と類似性を有する。本発明に関連して用いられるようにリポソームという用語は、一般に直径が1〜10μmで、そのどこかに2〜数100個の同心性の脂質二重層を水相の層と交互に含む多重ラメラリポソームを含むが、同様に、単一の脂質層を含み、一般に多重ラメラリポソームを超音波処理することによって産生される直径20〜100ナノメートルの単ラメラ小胞も含む。
好ましいリポソームは、単一の脂質二重層を有し、直径の範囲が25〜200 nmである小さい単ラメラ小胞(SUV)である。
【0046】
好ましいポリヌクレオチド(DNA、RNAおよび合成ポリヌクレオチド類似体を含む)リポソーム複合体は、好ましいリポソームから調製される。複合体は、陽イオン脂質1〜50 nmol毎にポリヌクレオチド1μgが存在するように調製される。DNA遺伝子カセットからの発現が望ましい最終産物である場合、陽イオン脂質に対するポリヌクレオチドの最適な比率は、標準量のDNAを、上記の範囲内の異なる量の陽イオンリポソームと混合する、一連の製剤を調製することによって経験的に決定される。次にこれらの製剤をインビボで投与して、最も高い発現を生じる製剤を決定することができる。
【0047】
陽イオンリポソームは、0mV以上のゼータ電位を有するとして機能的に定義することができる。
本明細書において用いられる「陽イオンリポソーム」という用語は、陽イオン性である既に定義したいかなるリポソームも含むものと解釈される。リポソームは生理的pHにおいて存在する場合に陽イオン性であると決定される。リポソーム自身が陽イオン性であると決定される実体である、ということは、インビボの環境においてその生理的pHにおいて測定可能な陽性電荷を有するリポソームが、他の物質に結合するようになるという意味であることに留意されたい。それらの他の物質は、陰性に荷電していてもよく、それによって陽性電荷を有しない構造が形成されてもよい。インビボ環境において存在する本発明のリポソームの電荷および/または構造は、正確には決定されていない。しかし、本発明にしたがって、本発明の陽イオンリポソームは、それ自身が陽イオン性であるいくつかの脂質を少なくとも用いて生成されると考えられる。リポソームは完全に陽イオン脂質だけから成る必要はないが、生理的pHにおいて、リポソームが形成されてインビボ環境下に置かれる場合に、リポソームが最初に陽性電荷を有するように陽イオン脂質の十分量を含まなければならない。
【0048】
「ヌクレオチド配列/陽イオン脂質複合体」という用語は、少なくとも上記の陽イオン脂質と混合したRNAまたはDNA配列であってもよく、および中性脂質を含んでもよいヌクレオチド配列の組合せを指す。DNA配列および陽イオン脂質を組み合わせる場合、それらは古典的なリポソームではない複合体を自発的に形成する。本発明は特に、ヌクレオチド配列が特に血管新生内皮細胞に影響を及ぼすようにデザインされた、特定のヌクレオチド配列/陽イオン脂質複合体を形成することを目的とする。例えば、ヌクレオチド配列は血管新生内皮細胞を殺す蛋白質をコードするものでもよい。配列は、好ましくは、血管新生内皮細胞の環境内にある場合に限って選択的に活性化される、すなわち対応する休止期の内皮細胞では活性化されない、プロモーターに機能的に結合される。さらに、複合体は血管新生内皮細胞内で遺伝子材料の発現を遮断し、それによって血管新生内皮細胞の機能を重度に破壊する、および/または細胞を殺す、アンチセンス配列である配列を含んでもよい。DNAはプラスミドであっても、直鎖状であってもよい。遺伝子産物が望ましい場合(それ自身がRNA転写物である、または蛋白質に翻訳される)、DNAプロモーター配列と、遺伝子産物をコードするDNA配列とを含む発現カセットが必要である。ホスホジエステル結合以外を有するヌクレオチドは、特にアンチセンスでの用途において用いられる。
【0049】
「会合する」という用語は、リポソームおよび/またはその内容物が内皮細胞に入るために十分な期間、血管新生内皮細胞に十分に近接して存在する、本発明の陽イオンリポソームの作用を意味する。本発明のリポソームは多様な状況において血管新生内皮細胞に会合してもよいが、最も好ましくは、インビボ条件の場合に血管新生内皮細胞と会合する。このように、リポソームは血管新生内皮細胞との会合前に、血流中に存在する他の分子または物質との接着、結合、または会合によって改変してもよい。リポソームと血管新生内皮細胞との会合には、2つの無関係な分子、すなわちヒト血清アルブミンおよびヒトトランスフェリンのような別の巨大分子間に起こる非特異的相互作用のような多様な力が原因となる可能性がある。これらの分子間力は、(1)静電気的;(2)水素結合;(3)疎水性;および(4)ファン・デル・ワールス力である、4つの一般領域に分類されると考えられる。静電気力は、陽イオンリポソーム上の反対荷電基と、血管新生内皮細胞上または細胞内に存在する基との間のような、反対荷電イオン基間の引力による。引力(F)は、電荷間の距離(d)の平方に反比例する。水素結合力は、親水基間の可逆的な水素架橋の形成によって提供される。本発明のリポソームは、-COOHのような親水性基を含んでもよく、-OH、-NH2基であってもよい類似の基が内皮細胞の表面上に存在してもよい。これらの力は、これらの基を有する2つの分子の近接した位置に大きく左右される。疎水性の力は、水中の油滴が融合して単一の大きい油滴となる場合と同様に機能する。従って、本発明のリポソーム中に存在する基のように、非極性の疎水基は、水性環境で会合する傾向があり、内皮細胞の表面上に存在する疎水基と会合する傾向がある可能性がある。最後に、ファン・デル・ワールス力は分子間で生じ、外部の電子雲の間の相互作用に依存する。
【0050】
「選択的に会合する」および「選択的に標的化する」等の用語は、本明細書において、血管新生に関係していない対応する正常な内皮細胞と陽イオンリポソームとの会合より高い程度で、陽イオンリポソームを血管新生内皮細胞と会合させる、本発明の陽イオンリポソームの特性を記述するために用いられる。本発明に従って、選択的または好ましい会合は、リポソームが、血管新生を行わない対応する正常な内皮細胞と比較して、血管新生を行う内皮細胞と5倍以上の高い程度で会合することを意味する。より好ましくは、好ましいまたは選択的な会合は、血管新生内皮細胞と対応する正常な内皮細胞との間の選択性が10倍以上であることを示している。
【0051】
「癌」という用語は、不適当な細胞増殖の疾患を意味する。このような混乱は、腫瘍組織の塊が生体臓器の機能を損なう場合に、臨床的に最も明らかとなる。正常組織および悪性組織は、単細胞レベルにおいて、および組織レベルにおいて、類似の増殖特徴を有するため、正常な組織の増殖を記述する考え方を悪性組織にも適用できる。癌は、細胞増殖調節の障害であると共に組織増殖調節が障害された疾患でもある。倍加時間とは、組織または腫瘍の大きさまたは細胞数が倍加するために必要な時間を指す。臨床的に明らかな腫瘍の倍加時間は通常、腫瘍に含まれる細胞の細胞周期時間よりかなり長い。しかし、腫瘍とは異なり、成人における正常な肝臓、心臓、または肺は、細胞生産と細胞死の速度が等しくなる定常状態にあるために、倍加時間を有しない(ストックデール(Stockdale, F.)、1996、「癌の増殖と化学療法(Cancer growth and chemotherapy)」、Scientific American Medicine、第3巻、Scientific American Press, New York、12〜18頁)。腫瘍の増殖特徴は、新しい細胞の産生が細胞死を超えることである;新生物形成事象は、自己再生を行う幹細胞の比率が増加し、且つ成熟へと進行する細胞の比率が対応して減少する傾向がある(マックローチら(McCulloch, E. A.)、1982、「急性骨髄芽球性白血病における転帰の変化に対する芽球細胞特性の関与(The contribution of blast cell properties to outcome variation in acute myeloblastic leukemia(AML))」、Blood 59:601〜608)。それぞれの腫瘍集団に関して倍加時間が存在し、特異的増殖曲線を確立することができる(ストックデール(Stockdale, F.)、前記)。腫瘍の増殖パターンは、腫瘍発生の間、増殖速度は最初は非常に速く、その後大きさが増加するにつれて徐々に低下することを示したゴムペルジアン(gomperzian)曲線によって説明することができる(スティール(Steel, GG)、1977、Growth kinetics of tumors、Oxford University Press, Inc.、New York, 40頁)。
【0052】
発明の全般的局面
添付の図面は、本発明の陽イオンリポソームが血管新生内皮細胞を標的にする際の高い選択性を視覚的に明らかに示している。本発明の基本的な態様は、薬学的に許容される担体と、ある物質またはDNA/陽イオン複合体を含む陽イオンリポソームとを含む製剤を投与する(好ましくは血管内に注射する、より好ましくは動脈内に注射する)ことによって、血管新生内皮細胞に選択的に影響を及ぼす方法を含む。その物質は、血管新生を阻害する化合物、血管新生を促進する化合物、および/または検出可能な標識であってもよい。注射された製剤中の陽イオンリポソームは、新生血管壁の内側に並ぶ血管新生内皮細胞の中に入る(エンドサイトーシスによって)。陽イオンリポソームは、リポソームそのものおよび/またはリポソームの内容物が血管新生内皮細胞に入るために十分な時間および方法で、血管新生内皮細胞と会合する。その後、細胞に入る化合物は、血管新生を阻害もしくは促進することができる、または血管新生部位を検出できるようにする標識を単に提供する。血管新生内皮細胞を標的とする選択性は、添付の図面を参考にすることによって最もよく理解することができる。
【0053】
図1は、その上に大きく丸い濾胞(黄色)が存在するマウス卵巣の一部を示す。血管新生は、正常なマウス卵巣内で起こるために、検出可能な標識を含む陽イオンリポソームは、濾胞(赤〜オレンジ色)の増殖しつつある血管の血管新生内皮細胞と会合する。しかし、図1の中で、標識が血管新生内皮細胞のみと会合しているのか、またはそれが卵巣および濾胞内の組織全体と会合しているか否かを明らかに決定することは不可能である。
【0054】
図2は、検出可能な標識を含む本発明の陽イオンリポソーム(赤〜オレンジ色)を静脈内注射したマウスの膵臓腫瘍の切片を示す蛍光顕微鏡写真である。血管新生は腫瘍内で容易に起こる。このように、この写真は、本発明の陽イオンリポソーム(赤〜オレンジ色)が、血管新生内皮細胞(緑色)に特異的に会合していることを示す証拠となる。しかし、これらの結果は、本発明の特異性を歴然と証明するわけではない。
【0055】
図3および4の比較は、本発明が血管新生部位を特定する能力があることを示している。図3は、マウスの正常な膵臓組織内の血管を示す写真である。正常な内皮細胞では、対応する血管新生内皮細胞と比べて標識量ははるかに少ない。このことは、マウス内の膵臓腫瘍の写真である図4と図3を比較することによって、明らかに示される。図4は、腫瘍領域内の陽イオンリポソーム内に高度に蓄積された標識(黄〜オレンジ色)が含まれることを明らかに示している。図3と図4とに大きな差があることから、腫瘍部位を明らかにし且つ正確にマークするために本発明を利用できることが示される。しかし、図4では多量の標識が新生血管に会合しているため、血管新生内皮細胞を選択的に標的にする陽イオンリポソームの特異性を十分に認識することはできないかも知れない。
【0056】
図5は、正常なマウス膵島における血管(緑色)の写真である。赤〜オレンジ色の着色が少量であることから、陽イオンリポソームと、膵臓組織の血管の内側に沿った正常な内皮細胞との会合は限られていることが示される。
【0057】
検出可能な標識を含む陽イオンリポソームの特異性は、図5を図6と比較することによってより明らかに示される。図6は、マウスの膵臓内の腫瘍の新生血管の内皮細胞に標識がかなり高度に蓄積されていることを明らかに示している。
【0058】
陽イオンリポソームが血管新生内皮細胞を正確に標的化できることは、図7および8においてはっきりと示される。図7は、蛍光標識が血管のみと会合していること、すなわち、標識は周辺の組織に漏れていない、または移動していないことを明らかに示している。特異性は図8において最も明確に示され、ここでは、血管新生内皮細胞内に検出される、標識された陽イオンリポソームに明らかに焦点を当てており、標識がそれらの細胞に特異的で、周辺組織に漏れていない、または移動していないことを示している。
【0059】
図9および10は、上記と同じ作用を、異なる血管新生モデルを用いて示している。図1〜8は全て、正常または癌様組織のいずれかに対するものであった。図9および10はそれぞれ、マウス気管の正常組織および炎症組織を示す。より詳しく述べると、図9は、気管の正常な血管、すなわち病原体不含マウスの気管を示す。図10は、感染によって血管新生が起こった気管の血管を示している。図10では、検出可能な高濃度の標識が現れているが、このことは、本発明の陽イオンリポソームが血管新生内皮細胞に選択的に会合すること−−感染症によって血管新生へと誘導された気管の内皮細胞に特に会合していることを示している。
【0060】
図11は、血管新生内皮細胞と、血管新生を行っていない対応する正常な内皮細胞との会合能における陽イオンリポソームの特異性の差を示すグラフである。図11に示すように、本発明の陽イオンリポソーム(この実験に関して)は、血管新生を行っていない対応する内皮細胞と比較して血管新生内皮細胞に対する親和性が約10倍大きいことを示した。
【0061】
最後に、図12および13は、本発明の陽イオンリポソームが血管新生内皮細胞の中にどのようにして入るかを示している。図12では、陽イオンリポソームが血管新生内皮細胞の表面に接触している。図13では、陽イオンリポソームは、血管新生内皮細胞の中にエンドサイトーシスによって入り、細胞中に存在する。
【0062】
本発明の陽イオンリポソームの特異性を、言葉で表し、数値によって示したので、当業者は、本発明を利用するために異なる多様な物質を含む、異なる多様な陽イオンリポソームを作製することができると思われる。しかし、念のため、以下に陽イオンリポソームおよびその製造方法について説明し、その後に血管新生を阻害または促進する物質について説明する。
【0063】
リポソーム
リポソームは、(上記のような)陽イオン脂質を含む脂質を(上記のように)水溶液に加えて、数秒から数時間にわたって溶液を攪拌することによって容易に形成することができる。この単純な方法によって、自発的に、直径約1〜10μmの範囲の、大きい多重ラメラリポソームまたは小胞が形成される。これらのリポソームは、脂質がその中に存在する水相の層と交互になる2〜数100個の同心性の脂質二重層を含む。血管新生を阻害する、血管新生を促進する、または検出可能な標識を提供する化合物のような物質を水相内に含むことができる。物質は好ましくは水溶性で、または少なくとも水中に容易に拡散させることができる。
【0064】
水層の厚さおよびそれによりリポソーム内に捕らえられる水相の総量は、荷電した脂質間の静電気反発力と、二重層間のファン・デル・ワールス引力との全体としてのバランスに依存する。このように、水中の間隙(したがって、捕らえられた水性材料の容積)は、膜における荷電脂質の比率が増加するにつれて、また水相における電解質(荷電イオン)の濃度が減少するにつれて増加する。形成された小さいリポソームまたは小胞は単ラメラであり、大きさは約20〜100 nmの範囲で、多重ラメラ小胞を超音波処理することによって作製することができる。大きさが直径約0.1〜1μmの範囲である比較的大きな単ラメラリポソームは、脂質を有機溶媒または界面活性剤に溶解し、可溶化剤を蒸発または透析によって除去した場合に得ることができる。特定の脂質またはストリンジェントな脱水・水和条件を必要とする方法による、比較的小さな単ラメラリポソームの融合によって、細胞と同じ大きさの、または細胞より大きい単ラメラ管を生じることができる。
【0065】
本発明の陽イオンリポソームを作製するためには、少なくともいくつかの陽イオン脂質を用いてリポソームを産生することが必要である。しかし、本発明の陽イオンリポソームは完全に陽イオン脂質のみで構成されている必要はない。例えば、中性脂質を約45%の量で、そして陽イオン脂質を約55%の量を用いれば、本発明に関連して有用で、血管新生内皮細胞を選択的に標的化する陽イオン脂質を生じる。
【0066】
陽イオンリポソームを血管新生に影響を及ぼす物質および/または標識と混合することは、標準的な技術に従ってリポソームが調製されるリポソーム調製物を含むが、この技術によって、例えば塩酸1-{2-(9(Z)-オクタデセノイルオキシ)エチル}-2-(8(Z)-ヘプタデセニル)3-(2-ヒドロキシエチル)イミダゾリウム9DOTAP)、コレステロール、およびテキサスレッドDHPEの溶液を混合して、蒸発乾固させ、その後脂質薄膜を5%デキストロース中で再度水和して多重ラメラ小胞を生じる。これらの小胞をポリカーボネート・メンブレンフィルターを通じて押し出し、単ラメラ小胞を得る。リポソームおよび混合すべき物質、例えばプラスミドDNAを5%デキストロース溶液中または他の生理的に許容される賦形剤中で特定の比率で互いに混合する。有用な陽イオン脂質には、以下のものが含まれる:DDAB、臭化ジメチルジオクタデシルアンモニウム[Avanti Polar LipidsおよびSigma Chemical Companyから入手可能]、1,2-ジアシル-3-トリメチルアンモニウム-プロパン類(ジオレオイル(DOTAP)、ジミリストイル、ジパルミトイル、ジセアロイルを含むが、これに限定されない)[これらは全て、Avanti Polar Lipidsから入手可能]、1,2-ジアシル-3-ジメチルアンモニウム-プロパン類(ジオレオイル、ジミリストイル、ジパルミトイル、ジセアロイルを含むが、これに限定されない)[これらは全て、Avanti Polar Lipidsから入手可能]DOTMA、塩化N-[1-[2,3-ビス(オレオイルオキシ)]プロピル]-N,N,N-トリメチルアンモニウム、DOGS、ジオクタデシルアミドグリシルスペルミン[Promega Corporationから入手可能]DC-コレステロール、3b-[N-(N',N'-ジメチルアミノエタン)カルバモイル]コレステロールDOSPA、2,3-ジオレオイルオキシ-N-(2(スペルミンカルボキサミド)-エチル)-N,N-ジメチル-1-プロパンアンモニウムトリフルオロアセテート、1,2-ジアシル-sn-グリセロ-3-エチルフォスフォコリン(ジオレイル(DOEPC)、ジラウロイル、ジミリストイル、ジパルミトイル、ジステアロイル、パルミトイル-オレオイルを含むがこれらに限定されない)[これらはAvanti Polar Lipidsから入手可能]、b-アラニルコレステロール、CTAB、臭化セチルトリメチルアンモニウムdiC14-アミジン、N-t-ブチル-N'-テトラデシル-3-テトラデシルアミノプロピオンアミジン、14Dea2、塩酸O,O'-ジテトラデカノリル-N-(トリメチルアンモニオアセチル)ジエタノールアミン、(ヨウ化N,N,N',N'-テトラメチル-N,N'-ビス(2-ヒドロキシエチル)-2,3-ジオレオイルオキシ-1,4-ブタンジアンモニウム[プロメガ・コーポレーションから入手可能]、塩化1-[2-(9(Z)-オクタデセノイルオキシ)エチル]-2-(8(Z)-ヘプタデセニル-3-(2-ヒドロキシエチル)イミダゾリニウム(DOTIM)、塩化1-[2-ヘキサデカノイルオキシ)エチル]-2-ペンタデシル-3-(2-ヒドロキシエチル)イミダゾリニウム(DPTIM)、塩化1-[2-テトラデカノイルオキシ)エチル]-2-トリデシル-3-(2-ヒドロキシエチル)イミダゾリウム(DMTIM)のような、塩化1-[2-アシルオキシ)エチル]2-アルキル(アルケニル)-3-(2-ヒドロキシエチル)イミダゾリニウム誘導体。最後の3個の脂質はソロディンら(Solodin)、Biochem 43、135737〜13544、1995に記述されている。これは、ウィスコンシン州のティム・ヒース(Tim Heath)の研究室からの論文で、メガビオス(Megabios)は脂質に関する発明のいくつかに対して特許を得ている。
【0067】
以下のような、4級アミン上にヒドロキシアルキル部分を含む、2,3-ジアルキルオキシプロピル4級アンモニウム化合物誘導体:
臭化1,2-ジオレオイル-3-ジメチル-ヒドロキシエチルアンモニウム(DORI);
臭化1,2-ジオレイルオキシプロピル-3-ジメチル-ヒドロキシエチルアンモニウム(DORIE);
臭化1,2-ジオレイルオキシプロピル-3-ジメチル-ヒドロキシプロピルアンモニウム(DORIE-HP);
臭化1,2-ジオレイルオキシプロピル-3-ジメチル-ヒドロキシブチルアンモニウム(DORIE-HB);
臭化1,2-ジオレイルオキシプロピル-3-ジメチル-ヒドロキシペンチルアンモニウム(DORIE-HPe);
臭化1,2-ジミリスチルオキシプロピル-3-ジメチル-ヒドロキシルエチルアンモニウム(DMRIE);
臭化1,2-ジパルミチルオキシプロピル-3-ジメチル-ヒドロキシエチルアンモニウム(DPRIE);
臭化1,2-ジステリルオキシプロピル-3-ジメチル-ヒドロキシエチルアンモニウム(DSRIE)−これらの脂質はバイカル、フェルナーら(Vical, Felgner)、J. Biol. Chem. 269、2550〜2561、1994 によって作製された。
陽イオンリポソームは、陽イオン脂質そのものから、または他の脂質と混合して、特に、以下の中性脂質と混合して調製される:
【0068】
コレステロール
1,2-ジアシル-sn-グリセロ-3-フォスフォエタノールアミン類(ジオレオイル(DOPE)を含むがこれに限定されない;大きい誘導体ファミリーは、Avanti Polar Lipidsから入手できる);
1,2-ジアシル-sn-グリセロ-3-フォスフォコリン類(大きい誘導体ファミリーは、Avanti Polar Lipidsから入手できる)。
注意 合成および天然の双方の非対称の脂肪酸を含むことができ、そして上記のジアシル誘導体に関しては混合製剤を含むことができる。
上記のタイプのリポソームおよび当業者が想起するその他のタイプのリポソームは、血管新生を促進または阻害する、および/または検出可能な標識を含む物質を含むリポソームと共に本発明において用いることができる。本発明のリポソームの一例は、血管新生を阻害する脂溶性または水溶性物質を含む陽イオンリポソームである。しかし、脂溶性の化合物は、脂質二重層の中に存在してもよい。以下に、血管新生阻害剤についての説明を記述する。しかし、本発明によりその他のものが当業者に想起される、および/または開発されること、そのような血管新生阻害剤は本発明に関連して容易に使用することができることに留意すべきである。
【0069】
血管新生阻害剤
ヘパリンは、血管新生の増強剤であり、ヘパリン拮抗剤は血管新生反応を阻害することができる。ヘパリン結合蛋白質であるプロタミンは、抗血管新生特性を示す(タイラー&フォークマン(Taylor, S. and Folkman, J. )、1982、「プロタミンは血管新生の阻害剤である(Protamine is an inhibitor of angiogenesis)」、Nature、297、307)が、これをヒトに暴露するとアナフィラキシー反応を引き起こすことが知られているため、臨床的に有用でない。もう一つの抗血管新生剤は、ヘパリン結合蛋白質であるメジャー塩基性蛋白質であるが、これも非常に毒性が強く、このためヒトで使用するには現実的でない。しかし、本発明によって高度に選択的な標的化が得られたため、血管新生を阻害するが、ヒトでの治療応用には毒性が強すぎると思われるこれらおよび他の化合物は、非常に少量で用いることができるため、当然有用となる。
【0070】
血小板第4因子(PF4)は、ヘパリン結合活性および抗血管新生特性の双方を示し、それは他のヘパリン拮抗剤ほど強い毒性を示さないため、臨床的に有用となるかも知れない。米国特許第5,112,946号に開示されたPF4の化学改変体は、PF4の抗血管新生特性を増強する。これらの改変には、その遊離のアミノ基をフルオレセイン・イソチオシアネートで修飾したPF4類似体の産生、蛋白質の構造的組成が特に変化したPF4変異体の産生、および抗血管新生特性を保持するPF4断片の産生が含まれる。特に、PF4のカルボキシ末端に相当するアミノ酸13個の合成ペプチドは、強い抗血管新生(angiostatic)活性を示した。
【0071】
多様なステロイドが、血管新生を阻害することが示されている。この抗血管新生活性は、ヘパリンまたは関連する分子の付加によって増強される(フォークマン、ワイズら(Folkman, J., Weisz, P. B.)、1989、「合成ヘパリン置換体による血管新生の制御(Control of angiogenesis with synthetic heparin substitutes)」、Science、243、1490〜3)。テトラヒドロコルチゾンのようないわゆる「抗血管新生(angiostatic)ステロイド」は、インビボで血管新生の阻害能を有する。特に6α-フルオロ-17,21-ジヒドロキシ-16β-メチル-プレグナ-4,9-(11)-ジエン-3,20-ジオンは、強力な抗血管新生(angiostatic)ステロイドとして用いられている。
【0072】
コラーゲン代謝を調節する薬剤は血管新生を阻害することが判明した。アミノ酸プロリンの類似体は特にコラーゲン合成を阻害し、インビボで血管新生を阻害する。特にL-アゼチジン-2-カルボン酸(LACA)、シス-ヒドロキシプロリン(CHP)、D,L-3,4-デヒドロプロリン(DHP)、およびチオプロリン(TP)はそれぞれ、活性が強い順に抗血管新生活性を示す(イングバー&フォークマン(Ingber, D., and Folkman, J.)、1988、「コラーゲン代謝の調節による血管新生の阻害(Inhibition of angiogenesis through modulation of collagen metabolism)」、1988、Lab. Invest. 59、44〜51)。これらの類似体のそれぞれも、抗血管新生性(angiostatic)ステロイドおよびヘパリンの抗血管新生作用を増強する。
【0073】
血小板のα顆粒に存在する糖蛋白質であるヒトトロンボスポンジンは、米国特許第5,192,744号に開示されているように、トリマーまたはモノマーもしくは断片型で血管新生を阻害する。それぞれはグリコシル化型において作用し、非グリコシル化型において作用すると予想される。血管新生阻害特性は、アミノ末端と会合したヘパリン結合ドメインおよびモノマー蛋白質のカルボキシ末端に認められた血小板結合ドメインの欠失後でも存在する。
【0074】
ラミニン活性を示すペプチドは血管新生を阻害し、過剰な血管が組織に形成されることを防止する。そのような活性を有する特殊なペプチドは:1)チロシン・イソロイシン・グリシン・セリン・アルギニン;2)プロリン・アスパルチン(aspartine)・セリン・グリシン・アルギニン;および3)システイン・アスパラギン酸・プロリン・グリシン・チロシン・イソロイシン・グリシン・セリン・アルギニンである。これらのペプチドは、環状型で抗血管新生活性を維持すると予想される。
【0075】
血管新生阻害物質のその他の例には、コラゲナーゼ活性を示す軟骨組織からの抽出物、網膜色素内皮細胞に由来する蛋白質(Arch. Ophthalmol.、103、1870(1985))、培養軟骨細胞から誘導した抗癌因子(タキガワ&スズキ(Takigawa, M. and Suzuki, F.)、1988、「軟骨由来抗癌因子を産生するクローン細胞株の確立(Establishment of clonal cell lines producing cartilage-derived anti-tumor factor(CATF)」、Protein, Nucleic Acid and Enzyme、33、1803〜7)、インドメタシンのような抗炎症剤(ピーターソン(Peterson, H. I.)、1986、「プロスタグランジン合成阻害剤による腫瘍血管新生阻害(Tumor angiogenesis inhibition by prostaglandin synthase inhibitors)」、Anticancer Res.、6、251〜3)、リボヌクレアーゼ阻害剤(シャピロ&バリー(Shapiro, R., and Vallee, B. L.)、1987、「ヒト胎盤リボヌクレアーゼ阻害剤はアンギオゲニンの血管新生およびリボヌクレオチド溶解活性をいずれも消失させる(Human placental ribonuclease inhibitor abolishes both angiogenic and ribonucleolytic activities of angiogenin)」、PNAS 84、2238〜41)、硫酸多糖類とペプチドグリカンの複合体(例えば、JPA-S63(1988)-119500)、関節炎用の金製剤、ハービマイシンA(JPA-S63(1988)-295509)およびフマギリンまたはフマギロール誘導体、が含まれる。米国特許第5,202,352号に開示されるように、多くのフマギロール誘導体が血管新生阻害特性を有する。上記引用は、血管新生の阻害剤を記述および開示するために参照として組み入れられる。
【0076】
血管新生因子
多くの生体化合物が血管新生を刺激する。アンギオゲニンは、ニワトリのCAMまたはウサギ角膜における強力な血管新生因子であることが示されている。末梢血単球から単離されたアンギオトロフィンは、正常な創傷治癒において何らかの役割を果たすと提唱されているもう一つの血管新生化合物である(Biochemistry 27, 6282(1988))。フィブリンのような、創傷治癒に関連する別の因子も、血管新生を誘導する。
【0077】
血管新生のメディエータのもう一つのクラスは、酸性および塩基性繊維芽細胞増殖因子(FGF)、トランスフォーミング増殖因子α(TGF-α)および血小板由来増殖因子(PDGF)を含む、増殖因子のようなポリペプチド血管新生因子である。これらの分子のそれぞれは、インビボで血管新生を誘導することが示されている。血管新生活性を示す他の類似の分子は、血管内皮増殖因子(VEGF)、腫瘍壊死因子α(TNF-α)、トランスフォーミング増殖因子β(TGF-β)、およびヘパリン結合増殖因子(HBGF)である。
【0078】
ポリペプチド血管新生因子の他にもその他の血管新生因子が記述されている。脂質由来血管新生因子であるプロスタグランジンE1およびE2は、血管新生特性を有する周知の炎症性細胞誘引物質である(J. Natl. Cancer Inst. 69、475〜482(1982))。ニコチンアミドは、ニワトリの角膜またはニワトリのCAMアッセイにおいて調べたところ、血管新生反応を引き起こす(Science 236、843〜845(1987))。
【0079】
検出可能な標識
本発明の陽イオンリポソームを用いて、いかなる種類の検出可能な標識も輸送することができる。標識は、リポソームを形成するために用いる脂質に対して溶解性であるか、または、水または水性生理食塩液もしくはデキストロース水溶液のような水溶液に溶解する、もしくは少なくとも拡散する。標識は放射性標識、蛍光標識、組織化学的または免疫組織化学的に検出可能な物質、または検出可能な色素であってもよい。標識は適当量存在してもよく、リポソームそのものに、または血管新生を阻害もしくは促進する物質と共に含まれてもよく、または複合体を形成してもよい。
【0080】
投与
患者に投与される血管新生阻害剤または促進剤の量(血管新生を行う内皮細胞を含む循環系を有するいかなる動物であってもよい)は、広範囲の要因に応じて変化するであろう。例えば、ヒトに対しては、より小さい動物より実質的に大量を投与することが必要であると考えられる。血管新生阻害剤または促進剤の量は、投与すべき物質の効力と共に、患者の体格、年齢、性別、体重および状態に依存する。投与に関してかなりの変動があることが示されているため、当業者は本開示を用いて、最初に極めて少量を投与して、望ましい結果が得られるまで用量を漸増させることによって、適当な投与量を容易に決定することができると思われる。投与量は、上記の要因に基づいて大きく変化するが、一般に、本発明によって、周辺組織、例えば腫瘍細胞そのものを標的とする輸送システムと比較して、いかなる物質も実質的により少量を投与することが可能になる。
【0081】
ヌクレオチド配列/陽イオン脂質複合体
DNAおよびRNA配列を含むヌクレオチド配列を脂質と組み合わせる場合、両者は複合体を形成する。ヌクレオチド配列および脂質の特定量を選択し、特定の脂質を選択することによって、インビトロで互いに凝集しない複合体を形成することが可能である。そのような複合体に形成に関する一般情報は、1993年6月24日に公表され、ヌクレオチド配列/脂質複合体の形成を具体的に開示および説明するために、本明細書に参照として組み入れられる、PCT出願国際公開公報第93/12240号に記述されている。本発明に関連して、ヌクレオチド配列は、血管新生内皮細胞に影響を及ぼすが、他の細胞、特に他の対応する内皮細胞、すなわち休止期の内皮細胞には影響を及ぼさないように特にデザインされる。本発明に関連して用いられるDNA配列は、プロモーターに機能的に結合しており、それらのプロモーターは、血管新生内皮細胞の環境下に限ってヌクレオチド配列の発現が得られるように、特にデザインされる。最初に、プロモーターはその配列が血管新生内皮細胞に輸送された後に活性化することができる活性化可能なプロモーターとなりうる。より好ましくは、プロモーターは血管新生内皮細胞の特殊な環境下で活性化されるようにデザインされる。休止期の内皮細胞の環境では起こらないが、血管新生内皮細胞の環境下では、天然に起こる現象が多くある。2つのタイプの細胞の差を利用することによって、プロモーターは、それが血管新生内皮細胞の存在下に限って活性化されるように特にデザインされる。
【0082】
DNAカセットからの転写は、特異的な遺伝子プロモーターを用いて単一の、または狭い範囲の細胞タイプに制限することができる。内皮細胞は、その遺伝子およびそのプロモーターが解明されているいくつかの蛋白質を選択的に発現する。血管内皮増殖因子(VEGF)受容体flt-1およびflk-1遺伝子プロモーター、フォン・ウィルブランド因子(VWF)遺伝子プロモーター、およびタイ・ファミリー遺伝子プロモーターは、リポーター遺伝子構築物と結合すると、内皮細胞において選択的発現を指向することが示されている。以下の刊行物は、血管新生内皮細胞において活性化されるプロモーターを開示および記述するために引用する。
【0083】
ハトヴァら(Hatva, E.)、1996、「毛細管血管芽腫および血管周囲細胞腫における血管増殖因子と受容体(Vascular growth factors and receptors in capillary hemangioblastomas and hemangiopericytomas)」、Am. J. Path. 148:763〜75;
ストローンら(Strawn, L. M.)、1996、「腫瘍増殖抑制の標的としてのflk-1(Flk-1 as a target for tumor growth inhibition)」、Cancer Res. 56:3540〜5;
ミロウアら(Millauer, B.)、1996「Flk-1のドミナント・ネガティブ抑制はインビボで多くのタイプの腫瘍の増殖を抑制する(Dominant-negative inhibition of Flk-1 suppresses the growth of many tumor types in vivo)」、Cancer Res. 56:1615〜20;
サトら(Sato, T. N.)、1996、「受容体チロシンキナーゼTie-1およびTie-2の血管形成における明確な役割(Distinct roles of the receptor tyrosine kinases Tie-1 and Tie-2 in blood vessel formation)」、Nature 376:70〜4;
オザキら(Ozaki, K.)、1996、「ヒト内皮細胞に自殺遺伝子を導入するためにフォン・ウィルブランド因子プロモーターの使用(Use of von Willebrand factor promoter to transduce suicidal gene to human endothelial cells, HUVEC)」、Human Gene Therapy、13:1483〜90;
ロニッケら(Ronicke, V.)、1996、「内皮特異的マウス血管内皮細胞増殖因子受容体-2(Flk-1)プロモーターの特徴付け(Characterization of the endothelium-specific murine vascular endothelial growth factor receptor-2(Flk-1)promoter)」、Circulation Res. 79:277〜85;
シマら(Shima, D. T.)、1996、「血管内皮増殖因子のマウス遺伝子。ゲノム構造、転写単位の定義、そして転写および転写後調節配列の特徴付け(The mouse gene for vascular endothelial growth factor. Genomic structure, definition of the transcriptional unit, and characterization of transcriptional and post-transcriptional regulatory sequences.)」、J. Biol. Chem. 271:3877〜8;
モリシタら(Morishita, K.)、1995、「内皮特異的遺伝子発現を与える血管内皮増殖因子受容体(flt-1)の新規プロモーター(A novel promoter for vacsular endothelial growth factor receptor(flt-1)that confers endothelial-specific gene expression.)」、J. Biol. Chem. 270:27948〜53;
パターソンら(Patterson, C.)、1995、「血管内皮増殖因子に対する受容体であるKDR/flk-1に対するプロモーターのクローニングおよび機能分析(Cloning and functional analysis of the promoter for KDR/flk-1, a receptor for vascular endothlial growth factor)」、J. Biol. Chem. 270:23111〜8;
コルホーネンら(Korhonen, J.)、1995、「インビボにおいてタイ遺伝子プロモーターによって指向される内皮特異的遺伝子発現(Endothelial-specific gene expression directed by the tie genepromotor in vivo)」、Blood 86:1828〜35。
【0084】
注意 オザキの引用文は、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(TK)を内皮細胞において発現させ、その後プロドラッグであるガンシクロビルで処置する、というもう一つの有用なアプローチを記述している。
または、ヌクレオチド配列は、血管新生内皮細胞内で発現されなければならない配列と結合し、それによってその細胞の生存に必要な、血管新生内皮細胞の天然に存在する配列の発現を遮断するアンチセンス配列であることが可能である。
【0085】
凝血塊形成
リポソームまたはヌクレオチド配列/脂質複合体を用いて実施することのできる本発明のもう一つの局面は、凝血塊の形成を含む。詳しく述べると、本発明のリポソームまたは複合体は、それが血管新生内皮細胞に影響を及ぼし、その結果新生血管において凝血塊を形成するようにデザインされる。凝血塊は残りの血管に対する栄養および酸素の流れを防止し、その結果血管および周辺組織の死が起こる。
【0086】
望ましからぬ腫瘍を除去するために、腫瘍の血管内で凝血塊を形成する基本的な考え方は、腫瘍血管を標的にした抗体を用いて実施されている。本発明は、血栓形成カスケードを促進する薬剤を含む陽イオン脂質を用いることによって、結果の改善を得ることができた。例えば、本発明の陽イオンリポソームは、血栓(血液凝固カスケード)の主要な開始受容体である、ヒト組織因子(TF)を含むように構築することができる。
【0087】
腫瘍細胞は血液供給に依存する。腫瘍血管の局所破壊によって、大量の腫瘍細胞の死が起こる。腫瘍血管内皮は血液と直接接している。しかし、腫瘍細胞そのものは血流の外に存在し、ほとんどの場合、循環中に注射された多くの材料に接近しにくい。本発明の他の局面と共にこの局面は、標的とする細胞が、それら自身、形質転換されない血管新生内皮細胞である、すなわち療法に対して抵抗性となる変異を獲得する可能性が低い細胞である、という点において特に良好に作用する。腫瘍細胞はかなりの変異を受け、そのような変異はしばしば細胞を治療に対して抵抗性にする。抗体による標的化を用いて腫瘍の大きさを減少させることに関する結果は、以下のように他の研究者によって示されている:ビュロウズ&ソープ(Burrows, F. J. and P. E. Thorpe)、腫瘍血管に対して向けられた免疫毒素によるマウスの巨大腫瘍の根絶(Eradication of large tumors in mice with an immunotoxin directed against tumor vasculature)、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:8996〜9000、1993。ヒュアン、モレマ、キング、ワトキンス、エドギントンおよびソープ(Huang, X., G. Molema, S. King, L. Watkins, T.S. Edginton, and P.E. Thorpe)、腫瘍血管に対する組織因子の抗体指向標的化によるマウス腫瘍の梗塞(Tumor infarction in mice by antibody-directed targeting of tissue factor to tumor vasculature)、Science 275:547〜550、1997。
【0088】
本発明に関連して凝血塊形成を行うために、DNA/陽イオン脂質複合体を形成することが好ましい。複合体は、その蛋白質が血栓(血液凝固)カスケードに対する主要な開始受容体である、ヒト組織因子のような蛋白質をコードするDNAを含む。TFをコードする遺伝子は、好ましくは、血管新生内皮細胞の環境下で活性化され、休止期の内皮細胞の環境では活性化されないプロモーターに機能的に結合している。このように、複合体の陽イオン脂質は、複合体を血管新生内皮細胞と会合させる。その後、複合体は血管新生内皮細胞内に取り込まれ、複合体のDNAが発現される。発現された蛋白質は血液凝固カスケードを開始させる。血管内に凝血塊が形成されると、周辺の腫瘍細胞に対するさらなる酸素供給および栄養補給が遮断される。その後、腫瘍細胞は死滅する。切断されたヒト組織因子(tTF)のようなヒト組織因子上の変化もまた、凝血を開始させるために用いることができる。tTFをコードする遺伝子材料および他の要因は既知である(上記引用のヒュアンらの引用および本明細書に引用した刊行物を参照のこと)。
【0089】
血管新生の実験モデル
本発明は、齧歯類の血管新生のモデルを用いることによって容易となった。喘息および気管支炎のような慢性炎症疾患は、気道粘膜に組織および血管再形成を誘導する。慢性気道炎症の病因を理解するために、ラットおよびマウスの気管において慢性炎症および組織再形成が起こるモデルを用いた。血管新生は、マイコプラズマ・プルモニス(Mycoplasma pulmonis)感染症の結果として気道粘膜に起こる。このモデルにおいて、マイコプラズマ・プルモニス(Mycoplasma pulmonis)の菌体は、気管および気管支上皮に持続的な感染症を引き起こす。M.プルモニスに感染したラットの気道粘膜はいくつかの明確な異常を示す:1)上皮および粘膜固有層の肥厚;2)上皮の細胞組成物の変化;3)血管新生;4)血漿漏出に関する炎症メディエータであるサブスタンスPに対する新生血管の感受性の増加;5)細静脈と共に毛細管からのサブスタンスPによる血漿漏出;および6)毛細管内皮細胞上のサブスタンスPに対する受容体(NK1受容体)の数の増加。このモデルにおいて、血管新生は慢性炎症によって開始され、血管は炎症メディエータに対してより感受性が高い。
【0090】
レクチンの環流を用いて、血管内の内皮細胞表面を染色した研究によって、M.プルモニス感染症後のラットにおける血管新生の程度が明らかになった。感染したラットの気管粘膜には多くの毛細管様血管が存在し、これらの血管は、炎症メディエータであるサブスタンスPの静脈内注射後に漏出する。
【0091】
マウスでは、M. プルモニスは、接種後6〜9日をピークとする急性の肺感染症を引き起こし、その後気道の持続的感染症を生じる。M. プルモニスによる感染症に対するマウスの反応は、マウスの系統に大きく左右される:例えば、C3H系はC57BL系より死亡率が高く、およびサイトカインである腫瘍壊死因子-αの減少がより大きい。上皮過形成のような、粘膜再形成のいくつかの局面は、M. プルモニスに感染したマウスの気道において記述されている。M. プルモニスの鼻腔内接種によって感染させたC57BL/6マウスでは、気管の血管数は、明らかに新しい毛細管の増殖によって劇的に増加する。この系統では、気管粘膜の血管はもはや平面ではなく、小血管が粘膜平面に対して垂直に増殖する。増加した血管分布領域に多数の明らかな血管芽が認められる。このように、C57BL/6マウスをM. プルモニスに感染させると、内皮の増殖を伴う慢性気道炎症、血管再形成、および血管新生を生じる。対照的に、M. プルモニスの鼻腔内接種によって感染させたC3H/HeNCrマウスでは、気管粘膜における血管内皮細胞の数は増加するが血管数は増加しない。血管分布の増加は、血管の長さまたは数の増加によるものではなく、血管の直径の増加によるものであり、この血管径の増加は、内皮細胞数の倍加によるものである。感染した気管における個々の内皮細胞の大きさは有意に増加していない。M. プルモニスに対する循環中の抗体レベルはマウスの2系統において同程度である。このように、M. プルモニスによるC3H/HeNCrマウスの感染では、血管再形成および内皮増殖を伴うが、血管数は有意に増加しない慢性気道炎症を生じ、一方C57BL/6マウスでは内皮の増殖および新しい血管を生じる。
【0092】
第二のモデルにおいて、血管新生は、SV40ウイルス腫瘍遺伝子のトランスジェニック発現に起因する腫瘍に起こる。「RIP-Tag」トランスジェニックマウスモデルは、正常組織から腫瘍へのよく特徴付けのなされた進行の際に血管新生内皮細胞の表現型の変化を調べる機会を提供する。「RIP-Tag」トランスジェニックマウスモデルでは、SV-40ウイルス、ラージT抗原(Tag)からの腫瘍遺伝子がラットのインスリンプロモーター(RIP)の領域によって起動される。マウスゲノムの中に挿入すると、この構築物は、膵臓中に散在する約400個の島に局在する、特に膵島β-細胞においてTag発現を誘導する。しかし、これらのマウスにおける膵臓の全ての島はTagを発現するが、膵島は通常約6週齢まで正常に発達する。この後、膵島の約50%が過形成となる。しかし、これらの過形成島の中で、小さい分画(<5%)が約10週までに腫瘍に発展する。この腫瘍発生におけるボトルネックは、島が血管新生の誘導能を獲得する際に克服されると考えられる:従って、腫瘍発生のこの相は「血管新生スイッチ」と呼ばれている。同様の血管新生スイッチはまた、いくつかのヒト腫瘍と同様に、マウス腫瘍発生の他のモデルにおいても存在するように思われる。このように、RIP-Tagモデルは、腫瘍における血管新生の進行を調べるために十分に特徴付けの成された枠組みを提供する。
【実施例】
【0093】
以下の実施例は、陽イオンリポソームの製造法および該リポソームを使用するための方法について、完全な開示および記述を当業者に提供するために述べるものであって、本発明と見なされる範囲を制限するものと解釈されない。使用した数値(例えば、量、温度等)に関しては正確を期するように努力したが、何らかの実験誤差および逸脱が起こりうる。別途明示していない限り、割合は重量による割合で、分子量は重量平均分子量;温度はセルシウス温度、そして圧力は大気圧またはほぼ大気圧である。下記のそれぞれの実施例は、実施した多くの実験を表し、その方法および結果について要約していることに留意されたい。必ずしも全ての実験が陽性結果を示したわけではないことを当業者は認識すると思われる。しかし、以下の実施例は得られた結果を正確に伝えていると考えられる。
【0094】
実施例1
正常マウスにおける陽イオン脂質の分布
リポソームおよび/またはプラスミドDNAを標識し、標識した複合体の細胞内分布を静脈内注射後の様々な時間に測定した。実験は雌雄の病原体不含マウス(体重20〜25 g)を用いて実施した。
【0095】
陽イオン性の小さい単ラメラ小胞リポソームを、陽イオン脂質DDAB、またはDOTAPおよび中性脂質DOPEまたはコレステロールから調製して、テキサスレッドまたは赤色蛍光カルボシアニン色素DiIまたはCM-DiIで標識し、場合によってはルシフェラーゼまたはβ-ガラクトシダーゼのようなリポーター遺伝子を含むプラスミドDNAと複合体を形成した。内皮細胞は、トマト(Lycopersicon esculentum)の蛍光植物レクチンフルオレセインを用いて標識した。単球/マクロファージは、蛍光ビーズ(デューク、500 nm)を用いて標識した。細胞核はDAPI、YO-PROまたはヘキスト33342色素によって標識した。
【0096】
300μlまでの容量にDNA 10〜60μgを含む蛍光リポソームまたはリポソーム-DNA複合体を、無麻酔のマウスの尾静脈に注射した。実験によっては、500 nm蛍光ビーズを複合体の後に注射した。5分から24時間後、動物をペントバルビタールナトリウムで麻酔して、左心室の中を固定液(1%パラホルムアルデヒドの燐酸緩衝塩類溶液)で環流し、その後蛍光レクチンを環流して血管の内皮表面を標識した。環流後、組織を摘出し、塊としてまたはビブラトーム(Vibratome)もしくは組織チョッパーを用いて切片にして調製した。さらに、標本のいくつかを電子顕微鏡用に処理した。組織をエピ蛍光顕微鏡または共焦点顕微鏡によって調べた。さらに、標本のいくつかを透過型電子顕微鏡によって調べた。
【0097】
結果:注射の5分〜24時間後に調べたマウスにおいて、CM-DiIまたはDiI標識リポソームまたはリポソーム-DNA複合体は、肺に最も豊富に認められた。さらに、それらは肺胞毛細管の内皮細胞に最も多く認められた。肺胞毛細管における蛍光は、両肺の全ての肺葉に均一に分布した。さらに、いくつかのCM-DiIまたはDiI蛍光は、血管内単球/マクロファージに存在した。
【0098】
肺の次に、標識したリポソームまたは複合体が大量に存在したのは肝臓および脾臓であった。これらの臓器では、CM-DiIまたはDiI-蛍光は、蛍光ビーズと共に存在した。肝臓では、CM-DiIまたはDiI-蛍光およびビーズはクッパー細胞に存在した。脾臓では、それらはマクロファージに存在した。
【0099】
卵巣の血管も、CM-DiIもしくはDiI標識リポソームまたは複合体によって強く標識された。詳しく述べると、マウス卵巣の大卵胞および黄体の新生血管における内皮細胞は、静脈内注射後にCM-DiIまたはDiI-標識DDAB:コレステロール(リポソームまたは)-DNA複合体を強く取り込むことが認められた。これらの知見は写真によって確認された(図1)。卵巣の他の血管に含まれる標識複合体は比較的少なかった。これらの結果を用いて、血管新生内皮細胞がリポソームおよびリポソーム-DNA複合体を選択的に取り込んだこと、すなわち実験で使用した陽イオンリポソームは、血管新生を行っていない対応する内皮細胞と比較すると、血管新生を行っている内皮細胞と会合する可能性がはるかに高いと推論した。
【0100】
標識したリポソームまたは複合体は、リンパ節の高内皮細静脈(HEV)および小腸のパイエル板の内皮細胞においても非常に豊富に存在したが、これらのリンパ様臓器の毛細管の内皮細胞にはまばらであった。標識したリポソームまたは複合体は、下垂体前葉、心筋、横隔膜、副腎皮質、および脂肪組織の毛細管内皮細胞にも多量に存在した。
【0101】
標識したリポソームまたは複合体は、膀胱、子宮、およびファロピウス管、の細静脈に接着した単球/マクロファージに大量に存在した。細静脈の中には、標識した単球/マクロファージを多数含むものがあった。さらに、これらの臓器の小動脈、毛細血管、および細静脈の内皮細胞が標識される割合は小さかった。
【0102】
下垂体後葉、腎髄質、小腸絨毛(回腸)、膵臓、および副腎髄質の毛細管内皮細胞に関連して認められた標識リポソームまたは複合体は比較的少なかった。脳、甲状腺、腎皮質、膵島、気管または気管支の内皮細胞には、時折現れる単球/マクロファージを例外として、標識リポソームまたは複合体がほとんど認められなかった。
【0103】
結論:これらの試験において用いられたCM-DiIまたはDiI-標識DDAB:コレステロールリポソームまたはリポソーム-DNA複合体製剤は、主な3つのタイプの細胞を標的とした:内皮細胞、マクロファージおよび単球。リポソームまたは複合体の取り込みは、臓器および血管特異的であった。そのほとんどが肺の毛細管内皮細胞、ならびに肝臓および脾臓のマクロファージによって取り込まれた。卵巣、下垂体前葉、心臓、横隔膜、副腎皮質、および脂肪組織の毛細管内皮細胞もまた標的とされた。卵巣においてリポソームまたは複合体を取り込む血管は血管新生部位であった。さらに、リンパ節のHEVおよび腸のパイエル板が標的とされた。他の臓器の内皮細胞またはマクロファージを標的とすることは少なく、ばらつきが大きかった。脳、甲状腺、腎皮質、気管および気管支の血管は標的とされなかった。
【0104】
さらに実験から、リポソームまたは複合体はほとんどの臓器において血管から漏出しなかったことが示された。それらは血管内皮が不連続である脾臓の血管外細胞に認められたが、他の臓器では滲出は認められなかった。
【0105】
最後に、大卵胞および黄体の血管による陽イオンリポソームおよびリポソーム-DNA複合体の強い取り込みは、新生血管の内皮細胞が選択的な取り込み部位であったことを示している。
【0106】
実施例2
RIP-Tag5マウスにおけるDDAB:コレステロール(リポソームまたは)-DNA複合体の取り込み
実施例1の実験の結果から、卵胞および黄体の新生血管が陽イオンリポソームまたはリポソーム-DNA複合体を強く取り込むことが示された。したがって、腫瘍の新生血管の内皮細胞が陽イオンリポソームまたはリポソーム-DNA複合体を強く取り込むか否かを調べる実験を行った。
【0107】
マウスの実験モデルの章では、[ハナハン(Hanahan, D.)、組換え型インスリン/シミアンウイルス40腫瘍遺伝子を発現するトランスジェニックマウスにおける膵臓のβ細胞腫瘍の遺伝的形成(Heritable formation of pancreatic beta-cell tumors in transgenic mice expressing recombinant insulin/simian virus 40 oncogenes)。Nature 315:115〜22、1985];[ハナハン&フォークマン(Hanahan, D., and J. Folkman)、腫瘍発生の際の血管新生スイッチのパターンと浮かび上がるメカニズム(Patterns and emerging mechanisms of the angiogenic switch during tumorigenesis)、Cell 86:353〜64、1996]に記述されているような腫瘍のトランスジェニックRIP-Tag5モデルを用いた。RIP-Tagと呼ばれるこのモデルにおいて、SV-40ウイルスからの腫瘍遺伝子、ラージT抗原(Tag)は、ラットのインスリンプロモーター(RIP)の領域によって起動される。マウスゲノムに挿入すると、この構築物は、特に膵島のβ細胞におけるT抗原の発現を誘導する。
【0108】
このモデルの一つの重要な属性は、腫瘍発生の様々な段階、したがって血管新生の様々な段階が、それぞれのRIP-Tag5マウスに同時に存在することである。300〜400個の全ての島がT抗原を発現するが、島は最初は正常に発達する。しかし、6週齢では約半数が過形成となり、これらのうち一部が10週までに腫瘍に発展する。腫瘍発生は、血管新生の発現と一致するように思われる。この変換は、「血管新生スイッチ」と呼ばれる(フォークマン、ワトソン、イングバー、およびハナハン(Folkman, J., K. Watson, D. Ingber, and D. Hanahan)、過形成から新生物への移行の際の血管新生の誘導(Induction of angiogenesis during the transition from hyperplasia to neoplasia)、Nature 339:58〜61、1989;ハナハン&フォークマン(Hanahan, D., and J. Folkman)、腫瘍発生の際の血管新生スイッチのパターンと浮かび上がるメカニズム(Patterns and emerging mechanisms of the angiogenic switch during tumorigenesis)、Cell 86:353〜64、1996)。同様の血管新生スイッチは、いくつかのヒト腫瘍と共に腫瘍発生に関する他のマウスモデルにも存在するように思われる(ハナハン&フォークマン(Hanahan, D., and J. Folkman)、腫瘍発生の際の血管新生スイッチのパターンと浮かび上がるメカニズム(Patterns and emerging mechanisms of the angiogenic switch during tumorigenesis)、Cell 86:353〜64、1996)。
【0109】
実施例1と同じ方法および材料を使用した。詳しく述べると、CM-DiIまたはDiI標識DDAB:コレステロールリポソームを、腫瘍を有するRIP-Tag5マウス1匹に静脈内注射し、CM-DiIまたはDiI-標識DDAB:コレステロール-DNA複合体を別のRIP-Tag5マウスに静脈内注射した。膵島細胞腫瘍の新生血管内におけるリポソームまたは複合体の分布を注射の24時間後に調べ、正常マウスの膵島の血管と比較した。
【0110】
結果:2つの新規知見が得られた:(1)リポソームまたは複合体は内皮から漏出することなく新生血管の内皮細胞に取り込まれた、および(2)血管新生血管の内皮細胞では、リポソームまたは複合体のエンドソーム取り込みは、膵島の正常血管の内皮細胞より大きかった(図2は、組織標本の写真である)。
【0111】
結論:この実験から、血管新生腫瘍血管によるDDAB:コレステロールリポソームまたはリポソーム-DNA複合体の選択的取り込みと一貫した結果が得られた。実験を繰り返す前に、(1)リポソーム-DNA複合体の蛍光強度を増加させた、(2)RIP-Tagマウスの腫瘍における陽イオンリポソームおよびリポソーム-DNA複合体の取り込み部位を特定する方法を改善した;および(3)RIP-Tag5マウスの膵島細胞腫瘍における新生血管の構造および機能に対する理解を深めた。
【0112】
実施例3
RIP-Tag2マウスにおけるDOTAP:コレステロール-DNA複合体の取り込み
目的:リポソーム-DNA複合体の蛍光強度は、テキサスレッド-DHPEをDiIの代わりに使用することによって増加した。蛍光陽イオンリポソーム-DNA複合体の取り込み部位を特定するため、RIP-Tag2マウスの膵臓の調製法を改善し;RIP-Tag2マウスの膵島腫瘍細胞における新生血管の構造および機能を調べた。これらの改善を行った後、陽イオンリポソームおよび脂質DNA複合体がどのようにして取り込まれるかを調べるために、実施例2に記述したタイプの実験を行った。
【0113】
方法:テキサスレッド-DHPEで標識した陽イオンDOTAP:コレステロール小単ラメラ小胞リポソームを調製した。リポソーム-DNA複合体は、プラスミドDNA 60μgの300μl溶液を用いて、5%グルコース中で総脂質:DNA比が24:1(nmol/μg)となるように調製した。複合体(300μl)を無麻酔のトランスジェニックRIP1-Tag2 C57BL/6マウスおよび無麻酔の正常C57BL/6マウスの尾静脈に注射した。
【0114】
複合体を注射した4時間後、ネンブタール50 mg/kgの腹腔内注射によってマウスを麻酔した。1%パラホルムアルデヒドを下行大動脈を通して環流することによって血管を固定して、緑色蛍光レクチンを環流することによって血管の内表面を染色した(サーストン、バルク、ヒラタ、およびマクドナルド(Thurston, G., P. Baluk, A. Hirata, and D. M. McDonald)、「レクチン結合によって炎症細静脈の内皮細胞境界域に認められる透過性と無関係な変化(Permeability-unrelated changes revealed at endothelial cell borders in inflamed venules by lectin binding)」、Am. J. Physiol. 271:H2547〜2562、1996)。組織全体またはビブラトーム切片をベクタシールドの上に載せて、クリプトン・アルゴンレーザーおよび最適化した光電子増倍管を備えたツァイス・アキソフォト(Zeiss Axiophot)蛍光顕微鏡またはツァイスLSM410共焦点顕微鏡を用いて調べた。画像はコダック・エクタクロームフィルム(ASA 400)によって記録するか、またはデジタル共焦点画像ファイルとして記録した。
【0115】
結果:実験により、RIP1-Tag2マウスの膵臓腫瘍における血管新生内皮細胞によるテキサスレッド-標識DOTAP:コレステロール-DNA複合体の強い取り込みが示された。腫瘍血管による取り込みは、正常な膵島の対応する内皮細胞によるこれらの複合体の取り込みをはるかに超えた(図3と4を比較)。
【0116】
腫瘍は、赤色蛍光リポソーム複合体によってその血管が強く標識されているために、隣接する組織から容易に識別された。腫瘍血管の幾何学構造は多様で、正常な島に典型的なパターンから、正常な島のパターンよりも顕著に大きく、より密度が濃い洞様毛細血管の、密度の高い、蛇行性の融合性のネットワークが示された。後者の場合、血管は黄体の血管に類似していた。腫瘍血管の標識の強さは腫瘍の大きさにほぼ関連していた。最も大きい腫瘍では標識が最も強かった。
【0117】
小から中等度の大きさの腫瘍の血管の中には、太くて短い巣状の動脈瘤様の突起を有するものがあった。これらの部位は、テキサスレッドで標識された点が異常なほど多数存在したために特に顕著で、これはエンドソームであると思われた。これらの部位のテキサスレッド標識は、隣接する血管の標識より大きかった。これらの構造は毛細管芽であると思われた。血管が等しく強く標識されている、密度の濃い、複雑な血管構造を有する大きい腫瘍では、このような構造は認められなかった。
【0118】
腫瘍にテキサスレッド複合体が滲出した証拠はなかった。同様に、テキサスレッド標識複合体は、腫瘍における血管外赤血球集団の内部には認められなかった。腫瘍血管の強い標識は、発達初期段階での卵巣の黄体の標識に類似していた。
【0119】
実施例4
腫瘍および慢性炎症の新生血管による陽イオンリポソームおよびリポソーム-DNA複合体の取り込み
目的:この知見を血管新生の他のモデルにも広げるために、実施例3に記述したタイプの実験を実施した。これらの実験はまた、陽イオンリポソームが新生血管を標的とするためにはDNAが存在しなければならないのか否かという疑問に答えるために行った。新生血管によるDOTAP:コレステロールリポソームまたはリポソーム-DNA複合体の選択的取り込みがあるか否かについて、血管新生に関する4種類の動物モデルを調べた。
【0120】
モデル:RIP1-Tag2腫瘍モデル。トランスジェニックC57BL/6マウスを作製して出生時にPCR解析によって表現型を決定した。マウスモデルについては先に記述した。
【0121】
HPV腫瘍モデル トランスジェニックHPV(ヒト乳頭腫ウイルス)マウスを作製して、出生時にPCR解析によって表現型を決定した。トランスジェニックしていない同腹子を対照とした。このモデルにおいて、ヒト乳頭腫ウイルスからの腫瘍遺伝子は、ケラチン14プロモーター領域によって起動される。マウスゲノムに挿入すると、この構築物は特に上皮細胞にHPV発現を誘導する。トランスジェニックマウスは全て、胸部上部および耳の皮膚に血管新生を伴う形成不全を示し、一部が腫瘍を発症した。
【0122】
マウスのマイコプラズマ・プルモニス(Mycoplasma pulmonis)感染症モデル この感染症の結果、気道粘膜に血管新生を伴う慢性気道炎症が起こる。麻酔後(87 mg/kgケタミンおよび13 mg/kgキシラジンを腹腔内注射)、病原体不含の8週齢の雌雄C3H/HeNCrまたはC57BL/6マウス(いずれもCharles Riverから)に、マイコプラズマ・プルモニス(Mycoplasma pulmonis)(株5782C-UAB CT7)の3×104コロニー形成単位を50μlの容量で鼻腔内に接種した。病原体不含マウスを対照として、滅菌したブロスを接種した。感染および対照マウスをバリア条件下で個別にケージに収容した。実験終了時に、M.プルモニスに対する抗体の血清レベルを測定した(Microbiological Associates、ベセスダ、メリーランド州)。感染の1〜8週後にマウスを調べた。
【0123】
ラットのマイコプラズマ・プルモニス(Mycoplasma pulmonis)感染症モデル マウスの場合と同様に、この感染症は、気道粘膜における血管新生が一つの特徴である慢性気道疾患を生じる。麻酔(40 mg/kgケタミンおよび8mg/kgキシラジンを腹腔内注射する)後、病原体不含の8週齢の雄性ウィスター系ラット(チャールス・リバー社より)に5782C4株のマイコプラズマ・プルモニス(Mycoplasma pulmonis)の容量200μlを3日間連続して毎日鼻腔内接種した。ブロスを接種した病原体不含ラットを対照とした。感染および対照ラットをバリア条件下で個別にケージに収容した。実験終了時に、M. プルモニスおよび他の病原体に対する抗体の血清レベルを測定した(Microbaiological Associates、ベセスダ、メリーランド州)。
【0124】
方法:テキサスレッド-DHPEで標識した陽イオンDOTAP:コレステロールリポソームを実施例3に記述のように調製した。リポソームを5%グルコースの容量100μl中に総脂質360 nmolの用量でマウスの尾静脈に注射した。ラットを大腿静脈から感染させた。リポソーム-DNA複合体は、プラスミドDNA 60μgを容量200〜300μlで用いて、5%グルコース中で総脂質:DNA比が24:1となるように調製した。リポソームまたは複合体(200〜300μl)を無麻酔のRIP-Tag2、HPV、またはM. プルモニス感染マウスの尾静脈に注射した。非トランスジェニック、病原体不含マウスを対照として用いた。
【0125】
注射の20分または4時間後、ネンブタール50 mg/kgの腹腔内注射によってマウスまたはラットを麻酔した。下行大動脈を通じて1%パラホルムアルデヒドを環流することによって血管を固定し、血管内表面を緑色蛍光レクチンの環流によって染色した(サーストン、バルク、ヒラタ、およびマクドナルド(Thurston, G., P. Baluk, A. Hirata, and D. M. McDonald)、「レクチン結合によって炎症血管の内皮細胞境界域に認められる透過性に無関係な変化(Permeability-unrelated changes revealed at endothelial cell borders in inflamed venules by lectin binding)」、Am. J. Physiol. 271:H2547〜2562、1996)。組織全体またはビブラトーム切片をベクタシールドの上に載せて、ツァイス蛍光顕微鏡または共焦点顕微鏡によって血管を調べた。
【0126】
蛍光リポソームまたは複合体の取り込み量を共焦点顕微鏡によって定量した。簡単に説明すると、焦点軸に2.5μm離して置いた一連の共焦点画像12個を、20×NA 0.6レンズ(ツァイス社)を用いて、共焦点ピンホールサイズ、光電子増倍管ゲイン、およびレーザー出力を標準の設定にして、フルオレセインおよびテキサスレッドチャンネル中で気管の上部領域について収集した。血管(トマトのフルオレセイン)およびリポソーム(テキサスレッド)をそれぞれ示す一連の画像から投射を得た。共焦点ソフトウェアを用いて、面積およそ200μm2の領域の輪郭を血管画像上に明確に示し、リポソーム画像の対応する領域の平均蛍光を測定した。バックグラウンドの強度は、血管に隣接する選択した領域の蛍光を測定することによって決定した。測定は気管あたり血管25個について、1群あたり気管4個について行った(n=4)。有意差はスチューデントのt検定によって評価した。
【0127】
透過型電子顕微鏡のために調製した組織は先に記述したように処理した(マクドナルド(McDonald, D. M.)、炎症刺激に暴露されたラット気管の細静脈の内皮間隙と透過性(Endothelial gaps and permeability of venules of rat tracheas exposed to inflammatory stimuli)、Am. J. Physiol. 266:L61〜L83、1994)。簡単に説明すると、一次固定液(1%蔗糖、4%PVP、0.05%CaCl2、および0.075%H2O2を加えた3%グルタルアルデヒドの75 mMカコジル酸緩衝液、pH 7.1)を室温で5分環流し、その後二次固定液(0.05%CaCl2、1%蔗糖、および4%PVPを含む、3%グルタルアルデヒドの75 mMカコジル酸緩衝液、pH 7.1)で5分環流した。組織を室温で1時間インサイチューで固定し、その後固定液を除去して二次固定液で4℃で一晩固定した。剃刀の刃で組織の形を整え、組織チョッパーで切片にして、オスミウム(2%OsO4の100 mMカコジル酸緩衝液、pH 7.4、4℃で18時間)で後固定し、H2Oで洗浄(4℃で18時間)して、酢酸ウラニル(水溶液、37℃で48時間)で一括して染色した。次に組織をアセトンによって脱水して、エポキシ樹脂に浸潤させて抱埋した。ウルトラミクロトームで超薄片を切断し、単スロットの標本グリッド上に載せて、ツァイスEM-10電子顕微鏡で調べた。
【0128】
結果:実験によって、テキサスレッド標識DOTAP:コレステロールリポソームは、テキサスレッド標識DOTAP:コレステロール-DNA複合体およびDiI-標識DDAB:コレステロール-DNA複合体に関するこれまでの知見と同様に、DNAの非存在下で、RIP1-Tag2マウスの腫瘍の血管新生内皮細胞を選択的に標的とすることが明らかになった。トランスジェニックRIP1-Tag2マウスに関するこの実験およびその後の実験から、過形成の島および腫瘍の新生血管による陽イオンリポソームの取り込みは、対応する正常な血管の取り込みをはるかに超えることが確認された(図5、6、7および8)。過形成の島および小さい腫瘍の血管では、リポソームは巣状領域での場合に限って内皮細胞に取り込まれた(図8)が、より大きい腫瘍では取り込みは比較的全体に広がっていた(図6)。取り込みの局所領域は、新しい血管増殖部位の可能性があると考えられた(図8)。
【0129】
陽イオンリポソームまたはリポソーム-DNA複合体のこの特性は、血管新生内皮細胞に物質を選択的に輸送するために実際に利用できる可能性があるため、腫瘍の血管新生内皮細胞のこの特性が、病的な血管新生の他の部位での内皮細胞と同じであるか否かを調べることが望ましいように思われた。この疑問は、テキサスレッド標識DOTAP:コレステロールリポソームの血管新生内皮細胞による取り込みを、その一つの特徴が血管新生である慢性気道炎症を引き起こすマイコプラズマ・プルモニス(Mycoplasma plumonis)感染症のマウスの気管において調べる実験において対処した(図9と10を比較)。慢性炎症領域における血管新生内皮細胞は、陽イオンリポソームの異常に高い取り込み部位であることが判明した(図10)。詳しく述べると、M. プルモニスに感染したマウス気管の血管は、異常なほど大量の取り込みを示した。新生血管の共焦点顕微鏡測定から、感染マウスは対照マウスより取り込み量が20〜30倍多いことが示された(図11)。新生血管によっては100倍もの取り込みを示した。M. プルモニスに感染したマウスの血管新生内皮細胞に関する共焦点および電子顕微鏡試験によって、陽イオンリポソームは最初、エンドソームと会合して(図12)、次にその中に取り込まれる(internalize)ことが示唆された(図13)。
【0130】
同様に、陽イオンリポソームは、マウスの卵胞および黄体、トランスジェニックHPVマウスの形成不全皮膚、およびM. プルモニス感染症による血管新生を有するラットの気管の新生血管によって強く取り込まれた。
【0131】
結論:これらの実験から、陽イオンリポソームおよびリポソーム-DNA複合体は、腫瘍の血管新生内皮細胞および慢性炎症部位を選択的に標的とすることが確認された。
【0132】
本発明は、最も実際的で、好ましい態様であると思われるものを、本明細書に示して記述する。しかし、そうした態様からの逸脱が可能であり、それらは、本発明の範囲内であること、および本開示を読むことによって当業者には明らかな改変が想起されるであろうことが理解される。
【0133】
参考文献
前記の本文中に以下の文書を活字と数値によって引用している。それらの内容は本明細書に引用として明白に組み入れられる。
A.米国特許第4,897,355号
B.米国特許第4,394,448号
C.米国特許第5,328,470号
D.国際公開公報第93/12240号
E.国際公開公報第91/06309号
【図面の簡単な説明】
【0134】
図1〜10は、本明細書において、カラー版および白黒版の両方で提出する。これは、本発明が、カラー写真によって最もよく理解されるが、現行のPCT出願では容認されないために、このようなことを行った。図1〜10のカラー写真は、本明細書に参照として組み入れられる、1997年3月12日に提出された米国特許出願第08/820,337号のものである。さらに、本発明の標識複合体が血管新生内皮細胞に対して、対応する正常な内皮細胞より親和性が大きいことを明らかに示すカラー写真は、サーストンら(Thurston)、「陽イオンリポソームは、マウスの腫瘍および炎症において血管新生内皮細胞を標的にする(Cationic Liposomes Target Angiogenic Endothelial Cells in Tumors and Inflammation in Mice)」、J. Clin. Invest. 1998年4月1日号(参照として組み入れられる)に示されている。
【図1】正常なマウス卵巣の濾胞の新生血管における赤色蛍光CM-DiI-標識DDAB:コレステロール-DNA複合体の取り込みを示す蛍光顕微鏡写真である(スケール表示:60μm)。
【図2】RIP1-Tag5マウスにおける膵臓腫瘍の切片の新生血管における赤色蛍光CM-DiI-標識DDAB:コレステロール-DNA複合体の取り込みを示す蛍光顕微鏡写真である−血管は蛍光レクチンで緑色に染色される(スケール表示:40μm)。
【図3】正常なマウス膵島の血管にはテキサスレッド標識DOTAP:コレステロール-DNA複合体(黄〜オレンジ色)の取り込みがほとんどない、または全くないことを示す低倍率蛍光顕微鏡写真である(スケール表示:150μm)。
【図4】RIP1-Tag2マウスにおける膵臓腫瘍の血管におけるテキサスレッド標識DOTAP:コレステロール-DNA複合体(黄〜オレンジ色)の取り込みを示す低倍率蛍光顕微鏡写真である(スケール表示:150μm)。
【図5】蛍光レクチンで染色した(緑色)正常膵島には、テキサスレッド標識DOTAP:コレステロールリポソーム(赤〜オレンジ色)の取り込みがほとんどない、または全くないことを示す共焦点顕微鏡写真である(スケール表示:50μm)。
【図6】RIP1-Tag2マウスの膵臓腫瘍におけるテキサスレッド標識DOTAP:コレステロールリポソーム(赤〜オレンジ色)の取り込みを示す共焦点顕微鏡写真である。リポソームを静脈内注射した後、トマト(Lycopersicon esculentum)レクチンの(緑色)蛍光の環流によって血管を染色した(スケール表示:50μm)。
【図7】RIP1-Tag2マウスの膵臓腫瘍におけるテキサスレッド標識DOTAP:コレステロールリポソーム(赤〜オレンジ色)の取り込みを示す共焦点顕微鏡写真である。リポソームを静脈内注射した後、トマト(Lycopersicon esculentum)レクチンの(緑色)蛍光の環流によって血管を染色した(スケール表示:50μm)。
【図8】RIP1-Tag2マウスの膵臓腫瘍におけるテキサスレッド標識DOTAP:コレステロールリポソーム(赤〜オレンジ色)の取り込みを示す共焦点顕微鏡写真である。リポソームを静脈内注射した後、トマト(Lycopersicon esculentum)レクチンの(緑色)蛍光の環流によって、血管を染色した。血管増殖が起こりうる部位は、強い取り込みを示す(スケール表示:50μm)。
【図9】蛍光レクチンで血管を緑色に染色した病原体不含マウスの気管における正常な血管には、テキサスレッド標識DOTAP:コレステロールリポソーム(赤〜オレンジ色)の取り込みがほとんどないことを示す共焦点顕微鏡写真である
【図10】マイコプラズマ・プルモニス(Mycoplasma pulmonis)感染症のマウスの気管の新生血管におけるテキサスレッド標識DOTAP:コレステロールリポソーム(赤〜オレンジ色)の取り込みを示す共焦点顕微鏡写真である(スケール表示:50μm)。
【図11】静脈内注射の4時間後、リポソームの蛍光の強度を測定することによって評価した、病原体不含マウス気管およびマイコプラズマ・プルモニス(Mycoplasma pulmonis)に感染したマウス気管の血管によるテキサスレッド-DOTAP:コレステロールリポソームの取り込み量を示すグラフである。測定は、ツァイスLSM 410共焦点顕微鏡を用いて行った。感染したマウスに、M. プルモニス菌を鼻腔内接種し、4週間後に調べた。星印は統計学的に有意差があることを示す(P<0.05、平均値±SE、1群あたりのマウス数n=4)。
【図12】M. プルモニスに感染したマウスの気管において、内皮細胞と会合したDOTAP:コレステロールリポソームを示す透過型電子顕微鏡写真である(スケール表示:50μm)。
【図13】M. プルモニスに感染したマウスの気管において、内皮細胞によって取り込まれたDOTAP:コレステロールリポソームを示す透過型電子顕微鏡写真である(スケール表示:80μm)。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽イオン脂質と血管新生の阻害剤とを含む阻害剤/脂質複合体であって、対応する正常な内皮細胞と比較して血管新生内皮細胞に対して、血中でより高い親和性を有することを特徴とする複合体。
【請求項2】
検出可能な標識をさらに含む、請求項1記載の複合体。
【請求項3】
陽イオン脂質と血管新生に影響を及ぼすヌクレオチド配列とを含むヌクレオチド/陽イオン脂質複合体であって、対応する正常な内皮細胞と比較して血管新生内皮細胞に対して、血中でより高い親和性を有することを特徴とする複合体。
【請求項4】
ヌクレオチド配列が、血管新生内皮細胞内で選択的に活性化されるプロモーターで、選択的にはFLT-1遺伝子プロモーター、FLK-1遺伝子プロモーターおよびフォン・ウィルブランド因子遺伝子プロモーターからなる群より選択されるプロモーターに機能的に結合しているDNA配列である、請求項3記載の複合体。
【請求項5】
ヌクレオチド配列が、血管新生内皮細胞内で遺伝子材料の発現を選択的に破壊するアンチセンス配列である、請求項3記載の複合体。
【請求項6】
下記の段階を含む、血管新生部位を診断する方法:
陽イオン脂質と検出可能な標識とを含む複合体であって、対応する正常な内皮細胞と比較して、血管新生内皮細胞に対して血中でより高い親和性を有する複合体を哺乳動物に投与する段階;
複合体を血管新生内皮細胞と選択的に会合させる段階;および
標識を検出して、それによってその部位における標識の蓄積に基づいて血管新生部位を決定する段階。
【請求項7】
哺乳動物がヒトであって、検出可能な標識が、蛍光標識、組織化学標識、免疫組織化学標識および放射性標識からなる群より選択される、請求項6記載の方法であって、
標識蓄積部位の組織を単離する段階;および
単離された組織を分析する段階をさらに含む方法。
【請求項8】
外科手術により哺乳動物を切開して高濃度の血管新生内皮細胞を含むと考えられる領域を暴露する段階;
該領域を、検出可能な標識が蛍光を発する波長の光に暴露する段階;および
蛍光を発する標識によって特定された組織を摘出する段階をさらに含む、請求項6記載の方法。
【請求項9】
対応する正常な内皮細胞と比較して血管新生内皮細胞に対して血中でより高い親和性を有し、
血管新生内皮細胞内に入るために十分な時間および方法で、新生血管の血管新生内皮細胞と選択的に会合する、
陽イオン脂質と血管新生に影響を及ぼす物質とを含む、血管新生内皮細胞に選択的に影響を及ぼす組成物。
【請求項10】
哺乳動物の循環系へ注射によって投与するために処方され、さらに、対応する正常な内皮細胞と比較して血管新生内皮細胞に対して、血中で5倍以上高い親和性を有し、
5モル%以上の陽イオン脂質を含み、
血管新生に影響を及ぼす物質が血管新生の阻害剤である、請求項9記載の組成物。
【請求項1】
陽イオン脂質と血管新生の阻害剤とを含む阻害剤/脂質複合体であって、対応する正常な内皮細胞と比較して血管新生内皮細胞に対して、血中でより高い親和性を有することを特徴とする複合体。
【請求項2】
検出可能な標識をさらに含む、請求項1記載の複合体。
【請求項3】
陽イオン脂質と血管新生に影響を及ぼすヌクレオチド配列とを含むヌクレオチド/陽イオン脂質複合体であって、対応する正常な内皮細胞と比較して血管新生内皮細胞に対して、血中でより高い親和性を有することを特徴とする複合体。
【請求項4】
ヌクレオチド配列が、血管新生内皮細胞内で選択的に活性化されるプロモーターで、選択的にはFLT-1遺伝子プロモーター、FLK-1遺伝子プロモーターおよびフォン・ウィルブランド因子遺伝子プロモーターからなる群より選択されるプロモーターに機能的に結合しているDNA配列である、請求項3記載の複合体。
【請求項5】
ヌクレオチド配列が、血管新生内皮細胞内で遺伝子材料の発現を選択的に破壊するアンチセンス配列である、請求項3記載の複合体。
【請求項6】
下記の段階を含む、血管新生部位を診断する方法:
陽イオン脂質と検出可能な標識とを含む複合体であって、対応する正常な内皮細胞と比較して、血管新生内皮細胞に対して血中でより高い親和性を有する複合体を哺乳動物に投与する段階;
複合体を血管新生内皮細胞と選択的に会合させる段階;および
標識を検出して、それによってその部位における標識の蓄積に基づいて血管新生部位を決定する段階。
【請求項7】
哺乳動物がヒトであって、検出可能な標識が、蛍光標識、組織化学標識、免疫組織化学標識および放射性標識からなる群より選択される、請求項6記載の方法であって、
標識蓄積部位の組織を単離する段階;および
単離された組織を分析する段階をさらに含む方法。
【請求項8】
外科手術により哺乳動物を切開して高濃度の血管新生内皮細胞を含むと考えられる領域を暴露する段階;
該領域を、検出可能な標識が蛍光を発する波長の光に暴露する段階;および
蛍光を発する標識によって特定された組織を摘出する段階をさらに含む、請求項6記載の方法。
【請求項9】
対応する正常な内皮細胞と比較して血管新生内皮細胞に対して血中でより高い親和性を有し、
血管新生内皮細胞内に入るために十分な時間および方法で、新生血管の血管新生内皮細胞と選択的に会合する、
陽イオン脂質と血管新生に影響を及ぼす物質とを含む、血管新生内皮細胞に選択的に影響を及ぼす組成物。
【請求項10】
哺乳動物の循環系へ注射によって投与するために処方され、さらに、対応する正常な内皮細胞と比較して血管新生内皮細胞に対して、血中で5倍以上高い親和性を有し、
5モル%以上の陽イオン脂質を含み、
血管新生に影響を及ぼす物質が血管新生の阻害剤である、請求項9記載の組成物。
【図11】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図12】
【図13】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2007−84565(P2007−84565A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−303924(P2006−303924)
【出願日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【分割の表示】特願平10−539812の分割
【原出願日】平成10年3月12日(1998.3.12)
【出願人】(592130699)ザ・レジェンツ・オブ・ザ・ユニバーシティ・オブ・カリフォルニア (364)
【氏名又は名称原語表記】The Regents of The University of California
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【分割の表示】特願平10−539812の分割
【原出願日】平成10年3月12日(1998.3.12)
【出願人】(592130699)ザ・レジェンツ・オブ・ザ・ユニバーシティ・オブ・カリフォルニア (364)
【氏名又は名称原語表記】The Regents of The University of California
【Fターム(参考)】
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