説明

血管新生阻害剤及びその利用

【課題】新規な血管新生阻害剤を提供する。
【解決手段】ラムノースを構成単糖の主成分とする硫酸化多糖又はその塩を含有する、血管新生阻害剤とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管新生阻害剤及びその利用に関し、詳しくは、ラムノースを構成単糖の主成分とする硫酸化多糖を含有する血管新生阻害剤及び該阻害剤を含む血管新生阻害を要する疾患の予防用又は治療用の薬剤組成物等に関する。
【背景技術】
【0002】
生体においては様々な生理的条件下で血管新生が生じているが、ガンの成長や転移に際し、ガン細胞が自身の栄養補給のために血管内皮成長因子(VEGF)を誘導して血管新生を生じさせていると考えられている。このため、腫瘍血管新生を阻害してガン細胞の発育や転移を抑制する方法が注目されてきており、血管新生を阻害する薬剤も開示されている(特許文献1)。
【0003】
一方、藻類由来の酸性多糖としては、フコダイン、ラムナン硫酸、硫酸ガラクタン等が知られており、例えば、硫酸化多糖であるフコダインには、抗がん活性、抗凝血活性などが知られている。また、同じく硫酸化多糖であるラムナン硫酸においては、抗凝血活性が知られている(特許文献2)。
【特許文献1】特開2003−96078
【特許文献2】特開昭63−235301号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ラムナン硫酸の血管新生阻害作用については報告されていない。そこで、本発明は、血管新生を阻害することのできる新規な血管新生阻害剤及び該阻害剤を用いた薬剤組成物及び食品組成物等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、緑藻植物のアオサ藻綱に属するヒトエグサ(Monostroma n
itidum )やヒロハノヒトエグサ(Monostroma Latissimum)のラムナン硫酸を含有する抽出画分が血管新生阻害作用を示すことを見出し、本発明を完成した。すなわち、本発明によれば以下の手段が提供される。
【0006】
本発明の一つの形態によれば、ラムノースを構成単糖の主成分とする硫酸化多糖又はその塩を含有する、血管新生阻害剤が提供される。この形態においては、前記硫酸化多糖は、以下の特徴を有することができる。
(a)構成多糖の全質量において、ラムノース含量が50質量%以上、グルコース含量が1質量%以上30質量%以下及びキシロース含量が1質量%以上10質量%以下
(b)硫酸基含量が10質量%以上40質量%以下
【0007】
さらに、本発明の血管新生阻害剤は、ゲルろ過クロマトグラフィーによるプルラン換算重量平均分子量が0.5万以上300万以下であってもよい。
【0008】
本形態においては、前記硫酸化多糖はアオサ藻綱に属する藻類由来とすることができる。また、前記阻害剤は、前記藻類又は前記藻類の抽出物を含むことができ、前記抽出物を前記藻類の熱水抽出物とすることができる。さらに、前記藻類は、Monostroma属に属する藻類から選択することができ、Monostroma Latissimum又はMonostroma nitidumを用いることができる。
【0009】
また、本発明の他の一つの形態によれば、Monostroma属に属する藻類又はその抽出物を含有する、血管新生阻害剤が提供される。この形態においては、前記阻害剤は、ラムノースを構成単糖の主成分とする硫酸化多糖又はその塩を含有していることが好ましい。
【0010】
また、本発明の他の一つの形態によれば前記硫酸化多糖がナトリウム塩であることも好ましい態様である。
【0011】
また、本発明の他の一つの形態によれば、上記いずれかの血管新生阻害剤を含む、血管新生阻害を要する疾患の予防用又は治療用の薬剤組成物が提供される。この形態において、前記疾患は固形腫瘍、血管病変、皮膚疾患、骨・関節症、生殖器疾患、眼疾患及び肺疾患からなる群から選択することができる。さらに、前記疾患は、固形腫瘍の転移であってもよい。また、前記薬剤組成物は、局所投与用とすることもできるし、経口投与用であってもよい。
【0012】
本発明の他の一つの形態によれば、上記いずれかの血管新生阻害剤を含有する、血管新生阻害を要する疾患の予防又は予後のための食品組成物が提供される。前記食品組成物は、栄養補助組成物とすることができる。さらに、前記食品組成物は、固形腫瘍の転移抑制用とすることもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の血管新生阻害剤は、ラムノースを構成単糖の主成分とする硫酸化多糖又はその塩を含有することを特徴としている。本発明の血管新生阻害剤を投与することにより、血管新生阻害を要する疾患の予防又は治療が可能となる。さらに、本阻害剤を摂取させることにより、血管新生阻害を要する疾患患者又は該疾患についてのリスクを要する個体、具体的には生化学的、身体的又は遺伝的に該疾患の兆候を有する個体、該疾患の治療後の個体、派生的疾患としてこうした疾患の発症が予測される個体において該疾患の発症を予防若しくは遅延し、進行を抑制し、予後を改善し、QOLを向上させることができる。
【0014】
なお、本明細書において、「血管新生」とは既存の血管から新しい血管が形成されることを意味している。したがって、胚形成期の初期の段階にみられる最初の血管形成の過程を意味する脈管形成は、本発明において「血管新生」には含まれない。また、本明細書において、血管新生とは、哺乳類及び非哺乳類を含む動物の血管新生を対象としている。また、哺乳類としては、ヒト及び非ヒト動物を含んでおり、非ヒト動物としては、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウマなどの家畜、ニワトリ、七面鳥等の家禽、イヌ、ネコ等のペットが含まれる。
【0015】
以下、本発明の血管新生阻害剤、薬剤組成物及び食品組成物等について詳細に説明する。
(血管新生阻害剤)
本発明の血管新生阻害剤(以下、単に本阻害剤という。)は、ラムノースを構成単糖の主成分とする硫酸化多糖又はその塩を含有している。本発明における硫酸化多糖としては、例えば、構成糖の3位又は4位が硫酸エステル化されている硫酸化多糖が挙げられる。硫酸化多糖は、その硫酸基において遊離の酸であってもよいし、金属塩などの塩であってもよい。こうした塩としては、例えば、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属塩、カルシウム、マグネシウムなどのアルカリ土類金属等が挙げられる。本発明においては、好ましくはナトリウム塩である。
【0016】
本発明における硫酸化多糖の単糖組成は、ラムノースを主成分としており、構成単糖の50質量%以上がラムノースである。硫酸化多糖におけるラムノースモル比率は、好ましくは、60質量%以上であり、さらに好ましくは70質量%以上である。ラムノース比率と血管新生阻害活性との関係は必ずしも明らかではなく本発明を拘束するものではない。
【0017】
なお、硫酸化多糖における構成単糖の組成については、例えば、酸加水分解法により多糖を構成単糖まで分解後、遊離酸を分離除去し、単糖成分をHPLCで定量することにより得ることができる。酸加水分解法は、例えば、以下のようにして行うことができる。糖類含有試料を、酸加水分解〈多糖試料(約20mg)を2N硫酸(10ml)に溶解させ、沸騰水浴中で2時間加熱〉後、10%塩化バリウム水溶液を添加し遊離硫酸を硫酸バリウムとして沈降分離(遠心分離)させ、上澄液を高速液体クロマトグラフィー(カラム:Asahipack NH2P−50 4E、カラム温度:35℃、移動相:水/アセトニトリル=25/75、流量:1ml/min、検出器:RI)により行った。
【0018】
また、本発明の硫酸化多糖は、ラムノース以外の構成単糖として、グルコース及び/又はキシロースを含むことができる。好ましくはグルコースを含有し、さらにキシロースを含んでいる。グルコースを含有する場合、その含量は1質量%以上30質量%以下であることが好ましい。また、キシロースを含有する場合は、その含量は1質量%以上10質量%以下であることが好ましい。なお、これらの構成単糖についても、ラムノース含量と同様にして算出することができる。
【0019】
本発明の硫酸化多糖のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による分子量は、血管新生阻害活性を有する限り特に限定しない。例えば、プルラン換算重量平均分子量が0.5万以上300万以下のものを用いることができる。本阻害剤又は組成物が経口投与することを考慮すると、例えば、プルラン換算重量平均分子量が2.5万以下のものを好ましく用いることができる。一方、注射等により局所投与する場合には、例えば、プルラン換算重量平均分子量30万超300万以下程度のものを好ましく用いることができる。
【0020】
本発明の硫酸化多糖としては、こうした天然由来の硫酸化多糖を必要に応じて適宜加水分解したものであってもよい。また、本発明の硫酸化多糖としては、こうしてGPC等により分画した各種の分子量画分を単独又は2種以上の画分を組み合わせて用いることができる。なお、分子量に基づく分画手法としては、例えば、GPCのほか、限外ろ過法を単独であるいは他の分子量分画法と組み合わせて用いることができる。こうした各種の分画法により分離した画分を組み合わせてもよい。
【0021】
本発明の硫酸化多糖における硫酸基含有量は、血管新生阻害活性を有する限り特に限定しないが、おおむね15質量%以上であることが好ましい。また、上限も特に限定しないが、40質量%以下であることが好ましい。より好ましくは35質量%以下である。なお、硫酸基含有量は、燃焼フラスコ法、ロジソン酸法により求めることができる。燃焼フラスコ法は、例えば、分析化学、15巻、689〜691頁、(1966年)、17巻、1322〜1324頁、(1968年)に記載の燃焼フラスコ法を採用することができる。燃焼フラスコ法により試料中の硫黄元素を定量し、得られた試料中の硫黄原子の含有量(質量%)に3を乗ずることにより硫酸基含有量を算出することができる。また、ロジソン法は、例えば、Analytical Biochem、41巻、471〜476頁、(1971年)に記載の方法を採用することができる。
【0022】
こうした硫酸化多糖としては、天然には、アオサ藻綱に属する藻類に含まれ、該藻類から抽出される酸性多糖が挙げられる。したがって、本阻害剤は、こうした硫酸化多糖を含むアオサ藻綱に属する藻類又は該藻類からの抽出物若しくはその一部を含有することができる。本発明を拘束するものではないが、本発明の硫酸化多糖がその由来植物である藻類の抽出物とともにあるいは当該抽出物として本阻害剤に含まれることは、本発明の硫酸化多糖の生理活性上好ましいと考えられる。したがって、本阻害剤としては、こうした藻類又はその抽出物を好ましく用いることができる。より好ましくは、本発明における硫酸化多糖を含有することが好ましく、さらに好ましくは、本発明の硫酸化多糖を含有する抽出画分を用いる。
【0023】
藻類から硫酸化多糖を得るには、例えば、以下の方法を採用することができる。乾燥させた藻類を洗浄し水で膨潤させた後、水などの水性媒体で抽出する。水性媒体としては、水を主体とし、好ましくは水のみあるいは水と有機酸及び/又は無機酸とを含む酸性水性媒体を用いる。酸としては、クエン酸、コハク酸、リンゴ酸、フマル酸、シュウ酸、L−アスコルビン酸、酢酸、塩酸、硫酸などを単独であるいは組み合わせて用いることができる。好ましくは、抽出に際しては、適宜原料を細断する。水性媒体による硫酸化多糖の抽出は、水性媒体を加熱して行うことが好ましく、熱水(70℃以上、好ましくは95℃以上程度)で行うことが好ましい。抽出時間はおおよそ1時間〜8時間程度である。抽出後は、遠心分離により沈殿物を除いた後、上澄み液をそのまま透析あるいはエタノール等の有機溶媒を添加して硫酸化多糖を沈殿させた後該沈殿物の水溶液を透析して低分子成分を除去することにより、粗硫酸化多糖画分を得ることができる。この粗画分は、このまま本発明の阻害剤として使用することができるが、さらに、この粗画分を、DEAEセルロースカラム等を用いてイオン強度勾配をかけて精製することができる。なお、こうした採取操作においては、適時にバイオアッセイを並行して行い、管腔形成の阻害を指標として精製を進めることが好ましい。
【0024】
また、藻類由来の硫酸化多糖、例えば、ラムナン硫酸は、主としてNa,K,Ca,Mg塩等の形態を採っているが、本発明の硫酸化多糖は、こうした天然の塩の形態に限定されないで各種の形態を採ることができる。塩の種類を変えるには、硫酸化多糖の硫酸基をイオン交換により一旦フリーとし、その後所望のアルカリで中和すればよい。例えば、本発明における硫酸化多糖のナトリウム塩は、以下のようにして得ることができる。すなわち、硫酸化多糖を例えば、塩酸等で平衡化したカチオン交換樹脂カラム等により硫酸基をフリーとし、その後、硫酸基フリーの硫酸化多糖をNaOHで中和すればよい。
【0025】
こうした藻類としては、ヒビミドロ目Monostroma、Protomonostromaや、アオサ目Blindingia、Enteromorpha、Ulva、Ulvariaが挙げられる。具体的には、Monostroma nitidum(ヒトエグサ)、Monostroma latissimum(ヒロハノヒトエグサ)、Monostroma Sravillei(ウスヒトエグサ)、Monostroma angicava(エゾヒトエグサ)、Protomonostroma undulatum(シワヒトエグサ)、Enteromorpha prolifera(スジアオノリ)、Enteromorpha intestinalis(ボウアオノリ)、Enteromorpha compressa(ヒラアオノリ)、Enteromorpha linza(ウスバアオノリ)、Ulva pertusa(アナアオサ)、Ulvaria fusca(クロヒトエグサ)、Blindingia minima(ヒメアオノリ)が挙げられる。なかでも、ヒトエグサ、ヒロハノヒトエグサなどが好ましく用いられる。なお、ヒトエグサとヒロハノヒトエグサは類似しており、両者を区別することは必ずしも容易でない。したがって、ある藻類が両者のいずれかであると明確に分類できる場合を除いて、当該藻類をヒトエグサ又はヒロハノヒトエグサとして取り扱うことができる。
【0026】
また、硫酸化多糖としては、血管新生阻害活性を有する限り天然由来の多糖又は硫酸化多糖を化学修飾した半合成の硫酸化多糖も挙げられる。例えば、上記した藻類を始めとする天然生物から採取した硫酸化多糖あるいはその分解物について硫酸化を施したものであってもよいし、また、部分的に脱硫酸したものであってもよい。さらに、硫酸エステル基を有していない天然由来の多糖又はその分解物を硫酸化してもよい。硫酸化は、水酸基をスルホン化すればよい。水酸基のスルホン化は、例えば、クロロスルホン酸−ピリジン錯体 、DCC(ジシクロヘキシルカルボジイミド)−硫酸、三酸化イオウ−トリメチルアミン錯体、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)中で三酸化イオウ−ピリジン錯体を用いる方法などにより実施することができる。
【0027】
さらに、硫酸化多糖としては、血管新生阻害活性を有する限り、合成多糖を硫酸化したもの又は硫酸化した単糖やオリゴマーを重合したものなどの合成硫酸化多糖も挙げられる。さらに、本発明の硫酸化多糖としては、血管新生阻害活性を有する限り、ラムノース以外の構成単糖に対して糖に施される一般的な化学修飾が施された硫酸化多糖であってもよい。化学修飾としては例えば、水酸基等のアシル化、アセチル化、カルボキシル化、リン酸化などが挙げられる。こうした糖に対する化学修飾法は当業者であれば必要に応じて行うことができる。
【0028】
本阻害剤は、こうした硫酸化多糖の1種又は2種以上若しくはこうした硫酸化多糖を含有する藻類若しくはその抽出物を組み合わせて用いることができる。本阻害剤の血管新生阻害活性は、例えば、一般に用いられている管腔形成を指標とする方法により評価することができる。管腔形成を指標とする血管新生阻害の評価の一例を以下に説明する。まず、ヒト臍帯由来静脈内皮細胞(HUVEC)の所定細胞濃度の細胞浮遊液を調製し、この浮遊液に対して各種濃度の硫酸化多糖を加え、この混合液をマトリゲル(商標)などの細胞培養用ゲル上に播種して、例えば、37℃で6時間、CO2インキュベーター内で培養し、その後、位相差顕微鏡で観察し、培養状態の画像情報をCCDカメラ等で取得してこの画像情報を画像解析装置にてHUVECが形成する管腔の長さを測定する。管腔の長さは、例えば、CCDカメラを装着した位相差顕微鏡を用いて撮影した画像から選択した少なくとも四視野において形成された管腔の長さを計測し、その平均値として算出することができる。また、阻害率は、硫酸化多糖の非存在下に形成された管腔長(平均値)−硫酸化多糖存在下の管腔長(平均値)/硫酸化多糖非存在下の管腔長×100(%)として算出することができる。
【0029】
また、本阻害剤については、例えば、以下の方法により血管新生阻害活性((1)及び(2))またガン細胞増殖転移抑制効果(3)を確認できる。
【0030】
(1)血管新生阻害活性−マトリゲル(商標)・インプラントアッセイ
種々の濃度でのヒトエグサ抽出試料などの硫酸化多糖含有試料を、VEGF及びヘパリンの存在下あるいは非存在下にマトリゲルに混入し、このマトリゲルを重症複合免疫不全症(SCID)マウスの皮下に注入する。3日後に、皮下においてマトリゲルに向かって新生した血管の量を顕微鏡下肉眼的に観察し、写真撮影して評価を行う。また、新生血管を含むマトリゲルを試験管内にてコラゲナーゼ処理により溶解し、溶解液中に滲出したヘモグロビン量を測定し、それに基づき新生血管の量を測定する。これによりマトリゲル内に添加した物質の血管新生抑制作用を対照(生理食塩水投与群)と比較し評価を行う。
【0031】
(2)血管新生阻害活性−CAM(Chorioallantois membrane)アッセイならびにラット角膜アッセイニワトリ胚漿尿膜CAM(Chorioallantois membrane)あるいはラット角膜に試料を含有させたディスク基材を設置し、2,3日後に、ディスクに向かって新生された血管を顕微鏡下肉眼的に観察し、写真撮影をして、対照(生理食塩水投与群)と比較し評価を行う。
【0032】
(3)ガン細胞増殖転移抑制効果−担癌動物を用いたin vinoテスト
株化乳癌細胞あるいはメラノーマ細胞(50万個/200μl)をSCIDマウスの皮内に注入し、同時に試料(例えば、1500mg/kg)を連日投与する。投与後、マウス皮内の腫瘍の容積を経時的に観察し、対照(生理食塩水投与群)のマウスと比較する。同時に、腫瘍内における新生血管を血管内皮細胞特異的分子マーカーであるCD31(PECAM)に対する抗体を用いた免疫染色法により測定し、対照(生理食塩水投与群)のマウスと比較評価を行う。一方、試料の癌細胞の転移に対する効果は、乳ガン細胞あるいはメラノーマ細胞(例えば、50万個/200μl)をSCIDマウスの尾静脈から注射するとともに、試料(1500mg/kg)を連日投与し、3から5週間後に肺を取り出し、肺に見られる転移巣の数を顕微鏡下で計数し、対照(生理食塩水投与群)のマウスと比較評価を行う。
【0033】
本阻害剤の血管新生阻害活性は、管腔形成試験以外のインビトロ及びインビボの血管新生阻害活性の評価法によって血管新生阻害活性を確認できたものであってもよい。
【0034】
本阻害剤は、粉末などの固体、溶液、懸濁液等の各種の形態を取ることができる。一般的には粉末等の固体状態で流通され、提供される。本組成物には、硫酸化多糖以外に硫酸化多糖の安定性等を高めるために適宜添加剤を含んでいてもよい。また、硫酸化多糖以外に、抽出原料由来のタンパク質等を含んでいる場合もある。
【0035】
本阻害剤は、各種研究用試薬として用いることができるほか、血管新生阻害を要する疾患の予防や治療に用いる薬剤組成物、こうした疾患を有する若しくはリスクを有する個人や健常人に摂取させる食品組成物や外用に用いる化粧料組成物等とすることができる。
【0036】
(薬剤組成物)
本発明の薬剤組成物は、本阻害剤を含有しており、血管新生阻害を要する疾患の予防用又は治療用の薬剤組成物(以下、本薬剤組成物という。)として使用できる。本薬剤組成物において、血管新生阻害を要する疾患としては、例えば、胃癌、食道癌、舌癌、咽頭癌、大腸癌、肺癌、肝臓癌、腎臓癌、乳癌、胆管癌、膵臓癌、前立腺癌、子宮体癌、子宮頸癌、卵巣癌、膀胱癌、皮膚癌、血管腫、多発性骨髄腫瘍などの固形腫瘍が挙げられる。また、血管線維腫、アテローム性動脈硬化、動静脈奇形、血管癒着などの血管病変、肉芽、血管腫、肥大性瘢痕、早老、乾癬、強皮症、ケロイド、いぼなどの皮膚疾患、出血性関節炎、非結合骨折、リウマチ様関節炎、変形性関節症等の骨・関節症、卵巣肥大性症候群、卵胞嚢胞、多嚢胞卵巣等の生殖器疾患、加齢性黄斑変性症、糖尿病性網膜症、新生血管緑内症、角膜移植後血管新生、トラコーマ等の眼疾患、排気腫、慢性気管支炎等の肺疾患などが挙げられる。なお、本薬剤組成物が対象とする疾患はこれらに限定されるものではない。また、上記した各種固形腫瘍の予防又は治療には、これらの各種固形腫瘍の転移の抑制を含んでいる。
【0037】
本薬剤組成物における硫酸化多糖は、硫酸エステル基における遊離の酸であってもよいし、医薬的に許容される塩であってもよい。こうした塩としては、例えば、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属塩、カルシウム、マグネシウムなどのアルカリ土類金属等が挙げられる。本発明の硫酸化多糖は、ナトリウム塩であることが好ましい。
【0038】
また、本薬剤組成物は、本組成物以外の上記疾患に有効な他の薬剤を含有することができる。例えば、抗ガン剤、抗炎症剤、抗菌剤又は抗ウイルス剤などの抗感染症剤などが挙げられる。本薬剤組成物は、また、上記疾患の有効な他の薬剤と併用して投与可能に組み合わせられた薬剤組成物セットとして提供されてもよい。
【0039】
本薬剤組成物は、少なくとも本阻害剤を有効成分として含むほか、医薬上許容される公知の薬剤担体を含んで、各種の製剤形態を備えることができる。こうした薬剤担体は、当該分野において周知であり、本薬剤組成物に適用される可能性のある製剤形態に用いられる公知の薬剤担体を適宜選択して用いればよい。本薬剤組成物の製剤形態としては、例えば、粉末、散剤、顆粒、錠剤、カプセル剤、チュアブル剤等の固形剤、溶液剤、懸濁剤、乳剤等の液剤、注射剤、坐剤、フィルム剤、ゲル剤が挙げられる。また、こうした製剤形態に用いられる薬剤担体としては、例えば、グルコース、乳糖、ショ糖、澱粉、マンニトール、デキストリン、脂肪酸グリセリド、ポリエチレングルコール、ヒドロキシエチレンデンプン、エチレングリコール、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、アミノ酸、ゼラチン、アルブミン、水、生理食塩水等が挙げられる。さらに、必要に応じて、安定化剤、湿潤剤、乳化剤、結合剤、等張化剤等の添加剤を含んでいてもよい。こうした本薬剤組成物は、各種製剤形態に応じた公知の常套手段により調製することが可能である。
【0040】
本薬剤組成物は、哺乳類において難消化性の多糖体を含有するため、経口投与しても、口腔、食道、胃、小腸、大腸等の消化管内において血管新生阻害作用を生じさせることができる。この場合には、各種の固形又は液体の経口剤として提供される。また、本薬剤組成物は、腫瘍部位や炎症部位への局所適用剤として使用できる。例えば、腫瘍部位の摘出前又は後にその領域を覆ったり、あるいは所定の標的部位の血管新生を阻害したりするのに本薬剤組成物を用いることができる。また、本薬剤組成物は、リウマチや各種疾患の炎症部位への適用も挙げられる。例えば、本薬剤組成物を、関節、皮膚、口腔、各種内膜、血管内皮、網膜などにおける炎症部位に注入、塗布等することにより、炎症部位での血管新生を阻害することができる。本薬剤組成物は、こうした局所適用の製剤形態として、特に、液剤、用時溶解する固形剤、フィルム剤、ゲル剤、坐剤、注射剤等が挙げられる。また、内視鏡、カテーテル、チューブ等を用いて経管的又は経皮的に本薬剤組成物を送達することもできる。さらに、本薬剤組成物は、バルーンやステントなどの各種の体内留置材料に塗布した医療用具などの形態で適用されてもよい。
【0041】
本薬剤組成物の有効投与量は、剤型、投与方法、対象者の年齢、体重、症状、投与スケジュール等により、適宜選択決定されるが、例えば、経口用の場合、硫酸化多糖の投与量は、成人で、1日あたり1mg〜5000mg以下であることが好ましく、より好ましくは100mg〜2000mgである。これらは、1日に数回に分けて投与しても良い。また、経口摂取以外について投与量は、その製剤形態、投与方法、使用目的及び当該医薬の投与対象である患者の年齢、体重、症状により異なり適宜選択決定されるが、一般には、前記有効成分の投与量で、ヒト(例えば成人)0.0001mg/体重〜1000mg/体重、好ましくは0.01mg/体重〜100mg/体重、より好ましくは、0.01mg/体重〜30mg/体重である。また、局所適用する場合には、薬剤組成物における硫酸化多糖の含有量は、例えば薬剤組成物100重量%中、通常0.001重量%〜100重量%、好ましくは0.1重量%〜90重量%、より好ましくは、1.0重量%〜800重量%である。
【0042】
(治療方法)
本発明の治療方法は、本薬剤組成物を血管新生阻害を要する疾患を有する個体又は該疾患に対してリスクを有する個体に対して投与する工程を備えている。また、投与形態としては、これらの個体に経口投与することもできるし、こうした疾患部位又はこうした疾患の発生についてのリスクを有する部位に対して局所投与することもできる。
【0043】
(食品組成物)
本発明の食品組成物は、本組成物を含有しており、血管新生阻害を要する疾患の予防、改善又は予後のため食品組成物(以下、本食品組成物という。)として利用できる。本食品組成物において、血管新生阻害を要する疾患とは、本薬剤組成物におけるものと同様である。また、本食品組成物に含まれる硫酸化多糖における硫酸エステル基における遊離の酸であってもよいし、例えば、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属塩、カルシウムなどのアルカリ土類金属等の塩とすることができる。
【0044】
本食品組成物は、例えば、本発明の硫酸化多糖を含有する加工食品、菓子類、調味料、嗜好性食品、飲料等の一般的な食品とすることができる。具体的形態としては、特に限定しないが、クッキー、ビスケット、キャンディ、ガム、ゼリー等の固形又は半固形嗜好食品類、果汁、茶、コーヒー、清涼飲料等の嗜好飲料類、パン、麺類等の主食系の食品類、スープ、カレー、シチュー、各種ソースなどの副食系食品類、各種の風味・調味料類とすることができる。このほか、栄養補助食品、機能性食品、特定保健用食品、経管栄養剤等とすることもできる。栄養補助食品等としては、上記した薬剤組成物の経口投与形態と同様の製剤形態を採ることもできる。
【0045】
また、本食品組成物は、本発明の血管新生阻害剤を含むことから、本発明の血管新生阻害作用並びにその作用に基づく、固形腫瘍、血管病変、皮膚疾患、骨・関節症、生殖器疾患、眼疾患及び肺疾患のほか固形腫瘍の転移などを始めとする各種の疾患の予防又は治療用途に使用可能に構成してもよい。
【0046】
本食品組成物の有効な摂取量は、対象者の年齢、体重、状況等にもよるが、おおよそ硫酸化多糖の摂取量は、例えばヒト成人で、1日あたり1mg〜5000mg以下であることが好ましく、より好ましくは100mg〜2000mgである。これらは、1日に数回に分けて摂取しても良い。
【0047】
本食品組成物における硫酸化多糖の含有量は特に限定されるものではないが、例えば、乾燥重量換算で0.01質量%以上20質量%以下程度が好ましく、より好ましくは、0.1質量%以上5質量%以下である。
【0048】
(化粧料組成物)
本組成物を含有する本発明の化粧料組成物(以下、本化粧料組成物という。)は、皮膚外用として化粧料組成物とすることができる。本化粧料組成物は、化粧品、医薬部外品等とすることができ、具体的には、乳液、クリーム、ローションのようなスキンケア製品、軟膏等とすることができる。
【0049】
本化粧料組成物の皮膚外用における含有量は、症状の違いにより適宜選択されるが、例えば、全重量の0.001質量%以上50質量%以下程度、好ましくは0.01質量%以上10質量%以下である。これを1〜数回/日に分けて塗布することができる。これを1〜数回/日に分けて塗布することができる。
【0050】
(非ヒト動物用薬剤組成物等)
さらに、本阻害剤を含有する組成物は、非ヒト動物用の薬剤組成物や餌料組成物として使用できる。非ヒト動物としては、家畜、家禽、ペット等が挙げられる。非ヒト動物においても、本阻害剤を投与し又は摂取させることにより、血管新生阻害を要する疾患の予防又は治療が可能であり、健康の維持が可能となる。なお、本阻害剤を含有する種々の形態の非ヒト動物用の薬剤組成物や餌料組成物を製造することは当業者において容易である。
【実施例】
【0051】
以下に実施例を挙げて、具体的に説明するが、これに限定されるものではない。
【0052】
(実施例1)
(ヒトエグサからの硫酸化多糖の抽出)
(試料1)
三重県産養殖ヒトエグサ750g(水分約7%)を18lの水に30分間浸漬させて膨潤させた後、10分間水切りを行った。この藻体に水18lを加えて沸騰させてクエン酸5.4gを添加し、95℃〜100℃で6時間熱水抽出した。この熱水抽出液に水を加えて総量を18.8kgとした上、珪藻土540gを添加し混合して遠心分離して上澄み液(15.9kg)を得た。この上澄み液1.5lにさらに珪藻土5gを添加して減圧ろ過処理を行った。この操作を繰り返して上澄み液の全量を減圧ろ過し、得られたろ液の総量に水を加えて16kgとした。
【0053】
このろ液を次に、限外ろ過膜(分画分子量1万)でろ過した。限外ろ過処理は、膜透過液が50%の時点で終了させる。この濃縮液に対して減量分(透過液量分)を補充して全量で16kgとした。この処理を合計3回繰り返した。最終的に得られた16kgの濃縮液をスプレードライして粉体(試料1:270g)を得た。
【0054】
試料1について、以下のHPLC条件でGPCを行った。GPCによれば、試料6のプルラン換算重量平均分子量は51万であった。
HPLC条件:
カラム:Shodex OH Pak SB−806M HQ2本
溶離液:0.1M NaCl
カラム温度:40℃
検出器:RI
流速:1ml/分
【0055】
(試料2)
三重県産養殖ヒトエグサ750g(水分約7%)を18lの水に30分間浸漬させて膨潤させた後、10分間水切りを行った。この操作を合計3回行って藻体を洗浄した。この藻体に水18lを加えて95℃〜100℃で6時間熱水抽出した。この熱水抽出液に水を加えて総量を18.8kgとした上、珪藻土1080gを添加し混合して遠心分離して上澄み液(13.6kg)を得た。この上澄み液の全量をスプレードライして粉体(試料2:140g)を得た。試料1と同様の条件でGPCを行ったところ、試料2のプルラン換算重量平均分子量は250万であった。
【0056】
(試料3〜5)
試料1の約6gを7M尿素0.05MKCl溶液300mlに溶解した(2%溶液)。
この溶液を、イオン交換カラムであるDE52充填カラム(ワットマン社製、直径50mm、長さ500mm)に注入して、移動相として、7M尿素0.05MKCl溶液を500ml、7M尿素0.15MKCl溶液を同3000ml、7M尿素0.25MKCl溶液を1500ml及び7M尿素2MKCl溶液を1500ml、通液して、KCl濃度を段階的に高めて多糖を分画した。7M尿素0.25MKCl溶液通液時における溶出分画を、セロファン膜を用いて流水下4〜5日透析して濃縮液を凍結乾燥して試料3とした。また、7M尿素2MKCl通液時における溶出分画を同様に透析して濃縮液を凍結乾燥して試料4とした。さらに、7M尿素0.25MKCl溶液通液時における溶出分画1gを蒸留水50mlに溶解し、カチオン交換樹脂SK104充填カラム(三菱化成株式会社製)を用いて、脱カチオン液を回収し(pH1.9〜2.4)、1NNaOHで中和し、フリーズドライして粉体(試料5)を得た。試料3及び4について、試料1と同様の条件でGPCを行った。試料3,4,5のプルラン換算重量平均分子量はそれぞれ119万、23万、22万であった。
【0057】
(試料6)
三重県産養殖ヒトエグサ240gを6lの水に加え30分間浸漬後、洗浄水を分離し再度水を加え全量6.24kgとした。このものを液温60℃〜65℃に維持しながら2時間温水抽出を行った。遠心分離により温水抽出液3.79kgと固形分(以下、回収ヒトエグサという。)1.23kgを得た。この回収ヒトエグサ300gに、水3lとクエン酸100mgを加えて、95℃〜100℃で6時間適時加水しながら熱水抽出した。この熱水抽出液をろ過してろ液の全量を凍結乾燥して粉体(3g)を得た。この粉体を0.1mMトリス緩衝液(pH8.7)200mlに溶解し、タンパク質分解酵素(科研製薬株式会社製アクチナゼーE)約0.14gを加えて50℃で15時間インキュベート後、DE52充填カラム(7M尿素0.15M KClで平衡化)に注入して、7M尿素0.15MKCl 3l以上通液後、KCl濃度を0.15M〜2Mまで約11時間かけてグラジエント通液し、フラクションコレクターにて各溶出画分を回収した。各種の画分について、試料1について行ったGPCと同様の条件にてGPCを行い、保持時間(RT)が約14.5分となるピークを、主ピークとして有するフラクションを回収フラクションとしてまとめ、この全量を、透析チューブ用いて4〜5日透析し、濃縮液をフリーズドライして粉体(試料6)を得た。こうして得られた試料6について、試料1と同様の条件でGPCを行った。試料6のプルラン換算重量平均分子量は189万であった。
【0058】
(試料7)
試料6製造時に得られたヒトエグサ温水抽出液550gを凍結乾燥により粉体3gを得た。この粉体3gを0.1mMトリス緩衝液(pH8.7)200mlに溶解し、タンパク質分解酵素(科研製薬株式会社製アクチナゼーE)約0.14gを加えて50℃で15時間インキュベート後、DE52充填カラム(7M尿素0.15M KClで平衡化)に注入して、7M尿素0.15MKCl 3l以上通液後、KCl濃度を0.15M〜2Mまで約11時間かけてグラジエント通液し、フラクションコレクターにて各溶出画分を回収した。各種の画分について、試料1についてのGPC条件にて保持時間(RT)が約15.5分となるピークを、主ピークとして有するフラクションを回収フラクションとしてまとめ、この全量を、透析チューブを用いて5日間透析し、濃縮液をフリーズドライして粉体(試料7)を得た。こうして得られた試料7について、試料1と同様の条件でGPCを行った。試料7のプルラン換算重量平均分子量は62万であった。
【0059】
(試料8)
試料1の3gを0.1mMトリス緩衝液(pH8.7)200mlに溶解し、タンパク質分解酵素(科研製薬株式会社製アクチナーゼE)約0.14gを加えて50℃で15時間インキュベート後、DE52充填カラム(7M尿素0.15M KClで平衡化)に注入して、7M尿素0.15MKCl 3l以上通液後、KCl濃度を0.15M〜2Mまで約11時間かけてグラジエント通液し、フラクションコレクターにて各溶出画分を回収した。各種の画分について、試料1についてのGPC条件にて保持時間(RT)が約17分となるピークを、主ピークとして有するフラクションを回収フラクションとしてまとめ、この全量を、透析チューブを用いて5日間透析し、濃縮液をフリーズドライして粉体(試料8)を得た。こうして得られた試料8について、試料1と同様の条件でGPCを行った。試料8のプルラン換算重量平均分子量は21万であった。
【0060】
(試料9)
試料6製造時に得られたヒトエグサ温水抽出液550gを凍結乾燥により粉体3gを得た。この粉体3gを試料9とした。試料9のGPCによるプルラン換算重量平均分子量は100万であった。
【0061】
(試料10)
三重県産養殖ヒトエグサ400g(水分約7%)を10lの水に30分間浸漬させて膨潤させた後、10分間水切りを行った。この藻体に水10lを加えて沸騰させてリンゴ酸28.8gを添加し、95℃〜100℃で4時間熱水抽出した。この熱水抽出液に水を加えて総量を10kgに調整後、2.5kgを珪藻土ろ過により固液分離を行った。この清澄液300gを透析チューブにて脱塩精製後、凍結乾燥を行った。凍結乾燥品3gを0.1mMトリス緩衝液(pH8.7)200mlに溶解し、タンパク質分解酵素(科研製薬株式会社製アクチナーゼE)約0.14gを加えて50℃で15時間インキュベート後、DE52充填カラム(7M尿素0.15M KClで平衡化)に注入して、7M尿素0.15MKCl 3l以上通液後、KCl濃度を0.15M〜2Mまで約11時間かけてグラジエント通液し、フラクションコレクターにて各溶出画分を回収した。各種の画分について、試料1についてのGPC条件にて保持時間(RT)が約18分となるピークを、主ピークとして有するフラクションを回収フラクションとしてまとめ、この全量を、透析チューブを用いて5日間透析し、濃縮液をフリーズドライして粉体2g(試料10)を得た。試料10について試料1と同様の条件でGPCを行ったところ、そのプルラン換算重量平均分子量は5万であった。
【0062】
(実施例2)
(血管新生阻害活性の評価)
実施例1で調製した試料1〜8について、ヒト臍帯由来静脈内皮細胞(HUVEC)を用いて管腔形成を指標とした血管新生阻害活性の評価を行った。まず、氷冷した24ウェルプレートのアックウェルに氷冷した10mg/mlの濃度のマトリゲル(BD1社製)の0.3mlを速やかに添加したあとに、5%CO2インキュベーター内(37℃)で2時間インキュベートさせることによりゲル化させた。
【0063】
次に、HUVECをコラーゲンコートシャーレに播種し、10%ウシ胎児血清(FBS)含有MCDB131培養液(クロレラ工業株式会社製)を用いて、37℃の5%CO2インキュベーター内で対数増殖中期から後期になるまで培養した。次いで、リン酸緩衝化整理食塩水で2回洗浄後、0.05%トリプシン/0.02%EDTAで約1分間処理して、シャーレ壁からHUVECを分離浮遊させた。適当量の10%FBS含有MCDB131培養液を添加し、ピペッティングしてHUVEC浮遊液を調製した。血球計測盤でHUVEC細胞数を計測した後、5%FBS含有MCDB131培養液で希釈して最終的に2×104の細胞/mlの細胞浮遊液を調製した。その後、HUVEC浮遊液に最終濃度が0、0.01、0.1及び1μg/mlとなるように試料1〜8をそれぞれ加えて、このHUVEC浮遊液1mlをゲル化させたマトリゲル上に静かに播種して、37℃で6時間CO2インキュベーター内で培養した。その後、位相差顕微鏡(オリンパス製、倍率100倍)で観察し、画像をCCDカメラを用いて撮影し、画像データについて画像解析装置(NIH IMAGE)を用いて少なくとも4視野を選択し、それぞれの視野に含まれる管腔の長さを計測し、その平均値をそれぞれの管腔長さとした。こうして得られた管腔長さと、硫酸化多糖不存在下において同様に計測した管腔長さとから、以下の式から管腔形成阻害率(%)を算出した。結果を図1及び図2に示す。
【0064】
管腔形成阻害率(%)=(硫酸化多糖不存在下における管腔長さ−試料における管腔長さ)/(硫酸化多糖非存在下の管腔長さ)×100
【0065】
図1及び図2に示すように、全ての試料において、管腔形成を阻害しており、なかでも、試料2、試料5,試料6において、対照に対して20%以下に管腔形成を阻害していた。これらのことから、試料1〜8のいずれの硫酸化多糖は血管新生阻害活性を有しており、なかでも、試料2、試料5、試料6における硫酸化多糖画分は、高い血管新生阻害活性があることがわかった。特に、粗精製画分であってGPCでのプルラン換算重量平均分子量が最大(250万)である試料2は高い血管新生阻害活性を示した。また試料6,7及び8ではGPCでの平均分子量が高い成分ほど阻害活性が高いことがわかった。また、一方、GPCでのプルラン換算重量平均分子量22万〜23万である低分子試料4,5において、試料4をイオン交換により脱塩後、ナトリウム単一塩に調整した試料5は、イオン交換処理前の試料4よりも高い血管新生阻害活性を示すことがわかった。
【0066】
(実施例3)
試料1、2、5〜8及び10について硫酸含有量と構成単糖の成分比率を測定した。なお、それぞれ以下の方法により測定した。結果を表1に示す。
【0067】
(1)硫酸基含有量の測定方法
(燃焼フラスコ法)
硫黄原子の元素分析を、分析化学、15巻、689〜691頁、(1966年)、17巻、1322〜1324頁、(1968年)に記載の燃焼フラスコ法により行い、得られた試料中の硫黄原子の含有量(重量%)に3を乗ずることにより硫酸基含有量を算出した。
【0068】
(2)構成単糖の測定方法
試料を酸加水分解〈試料(約20mg)を2N硫酸(10ml)に溶解させ、沸騰水浴中で2時間加熱〉後、高速液体クロマトグラフィー(カラム:Asahipack NH2P−50 4E、カラム温度:35℃、移動相:水/アセトニトリル=25/75、流量:1ml/min、検出器:RI)にて各種単糖を同定し定量した。
【0069】
【表1】

【0070】
表1に示すように、試料1、2、5〜8及び10は、いずれもラムノースを構成単糖の主成分としており、その質量比率は、68質量%から93質量%にわたっており、第2の主成分であるグルコースの質量比率との和では、86質量%から97質量%にわたり、さらにキシロースの質量比率を加えると、92質量%〜100質量%であった。また、良好な血管新生阻害活性を有している試料2、試料5及び試料6は、ラムノースの質量比率は75質量%から93質量%の範囲であった。また、これらの3種の試料について、グルコースの質量比率は、4質量%から11質量%であり、さらに、キシロースの質量比率は、3質量%から7質量%であった。なお、これらの3種の試料について、ラムノースの質量%とグルコースの質量%との総和は、86質量%から97質量%であり、これらの2種の単糖が大部分の単糖を構成していることがわかった。
【0071】
また、表1に示すように、試料2においては、Rham/Gul比(ラムノースの質量%/グルコースの質量%)が、6.8であり、試料5では23.3、試料6では、同18.2となっている。また、Rham/Xylo比(ラムノースの質量%/キシロースの質量%)は、試料2では10.7、試料5では31.0、試料6では22.8であり、(Rham+Gul)/Xylo比(ラムノースの質量%とグルコースの質量%の総和/キシロースの質量%率)は、試料2では、12.3、試料5では、32.3、試料6では24であった。
【0072】
(実施例4)
本実施例では、In vivoでの癌の転移に及ぼすヒトエグサ抽出成分の影響を以下の方法で評価した。
【0073】
癌細胞のin vivo転移の測定
各群10匹のC57/BL6マウスを用いて、ヒトエグサ熱水抽出物(実施例1の試料2)の癌細胞の転移に及ぼす効果を測定した。B16マウスメラノーマ細胞(50万個/200μl)をマウスの尾静脈から注射するとともに、ヒトエグサ熱水抽出物(実施例1の試料2)(250 mg/kg)を連日経口投与し、2週間後に肺を取り出し、肺に見られる癌細胞の転移巣の数を顕微鏡下で計数し、対照(蒸留水投与群)のマウスのそれと比較することにより、ヒトエグサ熱水抽出物(実施例1の試料2)の癌細胞の転移に及ぼす影響を評価した。結果を図3及び図4に示す。なお、転移率は、コントロールの転移巣の数に対するヒトエグサ熱水抽出物の転移巣の数の%である。
【0074】
これに対して、図3及び図4に示すように、C57/BL6マウス尾静脈から注入したB16マウスメラノーマ細胞の肺への転移を2週間後に観察した結果、肺への転移巣の数は、蒸留水投与群に比較して、ヒトエグサ熱水抽出物経口投与群では著しく有意に低下していた。
【0075】
以上のことから、ヒトエグサの熱水抽出物は、in vivoにおける癌細胞の肺転移を顕著に抑制することがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】試料1〜3の管腔形成率(%)を示すグラフ図。
【図2】試料4〜8の管腔形成率(%)を示すグラフ図。
【図3】B16マウスメラノーマ細胞の肺転移を示す図。
【図4】B16マウスメラノーマ細胞の肺転移率を表す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラムノースを構成単糖の主成分とする硫酸化多糖又はその塩を含有する、血管新生阻害剤。
【請求項2】
前記硫酸化多糖は、以下の特徴を有する、請求項1に記載の阻害剤。
(a)構成多糖の全質量において、ラムノース含量が50質量%以上、グルコース含量が1質量%以上30質量%以下及びキシロース含量が1質量%以上10質量%以下
(b)硫酸基含量が10質量%以上40質量%以下
【請求項3】
ゲルろ過クロマトグラフィーによるプルラン換算重量平均分子量が0.5万以上300万以下である、請求項1又は2に記載の血管新生阻害剤。
【請求項4】
前記硫酸化多糖は、アオサ藻綱に属する藻類由来である、請求項1〜3のいずれかに記載の阻害剤。
【請求項5】
前記阻害剤は、前記藻類又はその抽出物を含有する、請求項1〜4のいずれかに記載の阻害剤。
【請求項6】
前記抽出物は、前記藻類の熱水抽出物である、請求項5に記載の阻害剤。
【請求項7】
前記藻類は、Monostroma属に属する藻類から選択される、請求項4〜6のいずれかに記載の阻害剤。
【請求項8】
前記藻類は、Monostroma Latissimum又はMonostroma nitidumである、請求項7に記載の阻害剤。
【請求項9】
前記硫酸化多糖がナトリウム塩である、請求項1〜8のいずれかに記載の阻害剤。
【請求項10】
Monostroma属に属する藻類又はその抽出物を含有する、血管新生阻害剤。
【請求項11】
ラムノースを構成担当の主成分とする硫酸化多糖又はその塩を含有する、請求項10に記載の血管新生阻害剤。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれかに記載の血管新生阻害剤を含む、血管新生阻害を要する疾患の予防用又は治療用の薬剤組成物。
【請求項13】
前記疾患は固形腫瘍、血管病変、皮膚疾患、骨・関節症、生殖器疾患、眼疾患及び肺疾患からなる群から選択される、請求項12に記載の薬剤組成物。
【請求項14】
前記疾患は、固形腫瘍の転移である、請求項12に記載の薬剤組成物。
【請求項15】
前記薬剤組成物は、局所投与用である、請求項12〜14のいずれかに記載の薬剤組成物。
【請求項16】
経口投与用である、請求項12〜14のいずれかに記載の薬剤組成物。
【請求項17】
請求項1〜11のいずれかに記載の血管新生阻害剤を含有する、血管新生阻害を要する疾患の予防又は予後のための食品組成物。
【請求項18】
前記食品組成物は、栄養補助組成物である、請求項17に記載の食品組成物。
【請求項19】
前記食品組成物は、固形腫瘍の転移抑制用である、請求項17又は18に記載の食品組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−57285(P2009−57285A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−148864(P2006−148864)
【出願日】平成18年5月29日(2006.5.29)
【出願人】(304040441)江南化工株式会社 (4)
【出願人】(304026696)国立大学法人三重大学 (270)
【Fターム(参考)】