説明

血管製造方法

【課題】簡易な操作で、早期に、移植される血管に異物が含まれないように製造する。
【解決手段】常温状態のコラーゲンゲルからなる2つのブロックの間に血管内皮細胞を挟む準備ステップS1と、該コラーゲンゲルブロック間に挟まれた状態の血管内皮細胞を培養する培養ステップS2と、該培養ステップS2後に冷却してコラーゲンゲルブロックを液化させ、コラーゲンを分離する血管回収ステップS3とを含む血管製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ゲル化する溶液に、細胞および/または薬学的活性成分等の生体作用物質を含浸させたゲル溶液を多孔質人工血管基材の孔内に含浸させ、孔内に取り込まれたゲル溶液をゲル化させる人工血管の製造方法が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
【特許文献1】特開2003−126125号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の製造方法では、予め人工血管基材を用意してその孔内に細胞等を含浸させる必要があり、操作が煩雑で、細胞が生体組織に置き換わるまでに相当の時間を要するとともに、患者の体内に移植される人工血管内にゲル溶液が残存してしまうという不都合がある。
【0005】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであって、簡易な操作で、早期に、移植される血管に異物が含まれないように製造することができる血管製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、常温状態のコラーゲンゲルからなる2つのブロックの間に血管内皮細胞を挟む準備ステップと、該コラーゲンゲルブロック間に挟まれた状態の血管内皮細胞を培養する培養ステップと、該培養ステップ後に冷却して前記コラーゲンゲルブロックを液化させ、コラーゲンを分離する血管回収ステップとを含む血管製造方法を提供する。
【0007】
本発明によれば、準備ステップにおいてコラーゲンゲルブロックに血管内皮細胞を挟み、培養ステップにおいてコラーゲンゲルブロック間に挟まれた状態の血管内皮細胞を培養し、血管回収ステップにおいて、培養後に冷却してコラーゲンブロックを液化させることでコラーゲンを分離することにより、異物を含まない血管を簡易かつ迅速に製造することができる。
【0008】
上記発明においては、前記培養ステップが、静脈血管を生成する静脈血管培養ステップと、動脈血管を生成する動脈血管培養ステップとを含み、前記血管回収ステップが、前記静脈血管が生成されたコラーゲンゲルブロックと、前記動脈血管が生成されたコラーゲンゲルブロックとを重ねて冷却することとしてもよい。
このようにすることで、静脈血管培養ステップにおいてコラーゲンブロック間に挟まれた状態で生成された静脈血管と、動脈血管培養ステップにおいてコラーゲンブロック間に挟まれた状態で生成された動脈血管とが、血管回収ステップにおいて重ね合わせられた状態で冷却されることにより、実際の生体内の構造と同様に、静脈血管と動脈血管とが混在する血管を簡易かつ迅速に製造することができる。
【0009】
また、上記発明においては、前記準備ステップが、コラーゲンゲルを酸性に成分調製することが好ましい。
このようにすることで、より効率的に血管を製造することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、簡易な操作で、早期に、移植される血管に異物が含まれないように製造することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の一実施形態に係る血管製造方法について、図面を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る血管製造方法は、図1に示されるように、準備ステップS1と、培養ステップS2と血管回収ステップS3とを含んでいる。
【0012】
準備ステップS1は、図2に示されるように、常温で固体状態となり、低温、例えば、4℃以下で液体状態となるコラーゲンゲルブロック1を2個用意し、それらのコラーゲンゲルブロック1間に血管内皮細胞2を播種して挟むようになっている。
コラーゲンゲルブロック1は、例えば、高研社製細胞培養用コラーゲン酸性溶液(pH3.0、0.3%濃度、成分:Atelocollagen, Native Collagen)と、0.1M水酸化ナトリウム溶液と、MEM培地と、10%FBS(ウシ胎児血清)とを7:1:1:1の割合で混合したコラーゲン溶液を37℃〜42℃に加温することにより硬化させて製造されている。
【0013】
培養ステップS2は、図3に示されるように、上記においてコラーゲンゲルブロック1間に挟まれた状態の血管内皮細胞2を、例えば、シャーレ等の培養容器3内に貯留した内皮細胞基本培地(EBM−2)4内に浸漬し、37℃、湿度100%、CO濃度5%の培養条件下において培養するようになっている。培地4の交換は、2〜3日に1回行い、10日〜2週間程度培養する。
【0014】
発明者は、研究の結果、上記コラーゲンゲルブロック1内に血管内皮細胞2を播種して培養するだけで、血管5を製造することができることを確認した。図4は、コラーゲンブロック1間に血管内皮細胞2を播種して、上記培養を行った結果、培養10日後の血管5の顕微鏡写真であり、図5は製造された血管5の断面の顕微鏡写真である。
【0015】
血管回収ステップS3は、培養ステップS2において培養されることにより、コラーゲンゲルブロック1内に3次元培養された血管5を、コラーゲンゲルブロック1ごと4℃以下に冷却する。これにより、図6に示されるように、コラーゲンゲルブロック1が液化させられて、液体状のコラーゲン1′となって製造された血管5の周囲から流れ落ち、血管5にはほとんど残留しないようなる。
【0016】
このように、本実施形態に係る血管製造方法によれば、簡易な操作で、早期に、コラーゲンゲルのような異物が含まれないように血管5を製造することができるという利点がある。
なお、本実施形態においては、単に血管5単体を製造する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、培養ステップとして、静脈血管培養ステップと動脈血管培養ステップとを行うことにより製造された静脈血管6および動脈血管7が混在する状態の血管5を製造することにしてもよい。
【0017】
この場合には、静脈血管培養ステップは、2つのコラーゲンゲルブロック1間に血管内皮細胞2を挟んで、タカラバイオ社製内皮細胞添加因子セット−2、EGM−2 SingleQuots(FBS、hEGF(組換えヒト上皮細胞成長因子)、hFGF−B(組換えヒト線維芽細胞成長因子、塩基性)、VEGF(血管内皮細胞成長因子)、アスコルビン酸、ヒドロコルチゾン、R3−IGF(インシュリン様成長因子)−1、GA−1000(50mg/mLゲンタマイシン、50μg/mLアンホテリシン−B))を用いて培養する。
また、動脈血管培養ステップは、2つのコラーゲンゲルブロック1間に血管内皮細胞2を挟んで、タカラバイオ社製平滑筋細胞培地キット−2、SmGM−2 SingleQuots(FBS、hEGF、hFGF−B、インシュリン、GA−1000(50mg/mLゲンタマイシン、50μg/mLアンホテリシン−B))を用いて培養する。
【0018】
この後に血管回収ステップS3においては、図7(a)に示されるように、上記培養ステップS2において、動脈および静脈が3次元培養されたコラーゲンブロック1を重ねて、コラーゲンゲルブロックごと4℃以下に冷却する。これにより、図7(b)に示されるように、コラーゲンゲルブロック1が液化させられて、液体状のコラーゲン1′となって製造された血管5の周囲から流れ落ち、動脈血管6と静脈血管7とが混在する状態で、かつ、コラーゲン1′がほとんど残留していない血管5を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態に係る血管製造方法を示すフローチャートである。
【図2】図1の血管製造方法の準備ステップを示す模式図である。
【図3】図1の血管製造方法の培養ステップを示す模式図である。
【図4】図3の培養ステップにおいて製造された毛細血管の顕微鏡写真である。
【図5】図4と同様の血管部分の断面の顕微鏡写真である。
【図6】図1の血管製造方法の血管回収ステップを示す模式図である。
【図7】図7の血管回収ステップの変形例であり、(a)冷却前の状態、(b)冷却後の状態をそれぞれ示す模式図である。
【符号の説明】
【0020】
S1 準備ステップ
S2 培養ステップ
S3 血管回収ステップ
1 コラーゲンゲルブロック
1′ コラーゲン
2 血管内皮細胞
6 動脈血管
7 静脈血管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
常温状態のコラーゲンゲルからなる2つのブロックの間に血管内皮細胞を挟む準備ステップと、
該コラーゲンゲルブロック間に挟まれた状態の血管内皮細胞を培養する培養ステップと、
該培養ステップ後に冷却して前記コラーゲンゲルブロックを液化させ、コラーゲンを分離する血管回収ステップとを含む血管製造方法。
【請求項2】
前記培養ステップが、静脈血管を生成する静脈血管培養ステップと、動脈血管を生成する動脈血管培養ステップとを含み、
前記血管回収ステップが、前記静脈血管が生成されたコラーゲンゲルブロックと、前記動脈血管が生成されたコラーゲンゲルブロックとを重ねて冷却する請求項1に記載の血管製造方法。
【請求項3】
前記準備ステップが、コラーゲンゲルを酸性に成分調製する請求項1または請求項2に記載の血管製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図6】
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【図7】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−142278(P2010−142278A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−319784(P2008−319784)
【出願日】平成20年12月16日(2008.12.16)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】