説明

衛生用薄葉紙及びその製造方法

【課題】紙力を低下させずに嵩高な衛生薄葉紙を製造する方法と、その方法により得られる嵩高い衛生用薄葉紙の提供。
【解決手段】原料パルプ1と吸保水性澱粉2と含む抄紙原料を、湿紙の状態にしたのちドライヤーで乾燥させることを特徴とする衛生用薄葉紙の製造方法。吸保水性澱粉2は、コスト面及び確実な効果発揮のために、原料パルプ1に対して0.01〜5.0kg/t添加するのが望ましい。また、原料パルプ1は、NBKPとLBKPとの比率(NBKP/LBKP)が0/100 〜 60/40が好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衛生用薄葉紙及びその製造方法に係り、特に、ティシューペーパー、トイレットペーパー、キッチンペーパーに好適な衛生薄葉紙及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ティシューペーパー、トイレットペーパー又はキッチンペーパーのなど、主に拭き取り、清拭、体液吸収などに用いる製品に用いられる衛生用薄葉紙では、嵩が高いことが要求される。
従来、この主の衛生用薄葉紙においては、嵩を高めるために、カチオン性特殊界面活性剤からなる嵩高剤が用いられてきた。
【特許文献1】特開2006−183188
【特許文献2】特開2006−161192
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、この種の嵩高剤は、繊維表面に定着して繊維同士の水素結合を阻害するため、紙力の低下を引き起こす。
従って、破断しやすくなるとともに紙粉量が増加するといった弊害を有する。
そこで、本発明の主たる課題は、特に、紙力を低下させずに嵩高な衛生薄葉紙を製造する方法と、その方法により得られる嵩高い衛生用薄葉紙を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決した本発明は、原料パルプと吸保水性澱粉とを含む抄紙原料を、湿紙の状態にしたのちドライヤーで乾燥させることを特徴とする衛生用薄葉紙の製造方法である。
吸保水性澱粉は、吸水により膨潤し、さらに乾燥時させると略膨潤前の大きさにまで収縮する。さらに、膨潤時また収縮時に殆ど粘着性を示さない。
従って、原料パルプと吸保水性澱粉とを含む抄紙原料からなる湿紙は、パルプ繊維間に膨潤状態の吸保水性澱粉が介在された状態となっている。
そして、この湿紙をドライヤーで乾燥すると、吸水保水性澱粉は保持する水分を失い収縮する。このとき粘着性を殆ど示さないことから、接している繊維同士を引き寄せることはない。従って、繊維間に空隙が形成され、嵩高でふんわりした衛生薄葉紙が得られる。
そして、吸保水性澱粉の膨張収縮によって繊維間の空隙を形成する本発明では、繊維間の水素結合を阻害するといったことはないため、これに起因する紙力の低下はない。従って、過度に破断しやすくなるとか、紙粉量が増加するといった弊害は生じない。
ここで、吸保水性澱粉は、コスト面及び確実な効果発揮のために、原料パルプに対して0.01〜5.0kg/t添加するのが望ましい。
また、原料パルプは、NBKPとLBKPとの比率(NBKP/LBKP)が0/100 〜 60/40であるのが好適である。LBKPよりもNBKPのほうが、繊維太さが太いため、NBKPが多いほうが嵩高になる。
【発明の効果】
【0005】
以上のとおり本発明によれば、嵩高な衛生薄葉紙の製造方法及び嵩高い衛生薄葉紙が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
次いで、本発明の実施の形態を図面を参照しながら以下に詳述する。
本発明の衛生薄葉紙の製造方法は、原料パルプと吸保水性澱粉とを含む抄紙原料を、湿紙の状態にしたのちドライヤーで乾燥させる。
原料パルプと吸保水性澱粉との混合は乾燥状態で行うか、原料パルプをスラリー化した後に吸保水性澱粉を添加することにより行う。ただし、吸保水性澱粉を膨張前にパルプ繊維間に散在させることができることから、乾燥状態で混合するのがよい。
ここで、抄紙原料を湿紙の状態にしたのち乾燥させて衛生薄葉紙を得るには、既知の抄紙機による抄紙技術により行うことができる。
すなわち、抄紙原料を実質的に湿紙に形成するワイヤーパート、湿紙を脱水するプレスパート、脱水された湿紙を乾燥するドライヤーパートの少なくとも3つのパートから成る、公知の種々の抄紙機を用いることができる。
ドライヤーとしては、既知のドライヤーを用いることができる。ドライヤーは、特に、ヤンキードライヤーが適する。
【0007】
原料パルプとしては、グランドウッドパルプ(GP)、プレッシャーライズドグランドウッドパルプ(PGW)、サーモメカニカルパルプ(TMP)等の機械パルプ;セミケミカルパルプ(CP)、針葉樹高歩留り未晒クラフトパルプ(HNKP)、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹未晒クラフトパルプ(LUKP)、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)等の化学パルプ;デインキングパルプ(DIP)、ウェイストパルプ(WP)等の古紙パルプが挙げられる。
原料パルプは、一種または二種以上を選択して用いることができる。好適には填料や異物を含まない化学パルプが好ましい。特には、NBKP(N材あるいは針葉樹パルプともいわれる。)よりもLBKP(L材あるいは広葉樹パルプともいわれる。)を多く含むものを用いる。すなわち、NBKPとLBKPとの比率(NBKP/LBKP)が0/100 〜 60/40である化学パルプが好適である。LBKPよりもNBKPのほうが、繊維太さが太いため、NBKPが多いほうが嵩高になる。
また、原料パルプ中には、藁パルプ、竹パルプ、ケナフパルプなどの木本類、草本類が含まれていてもよい。
【0008】
他方、抄紙原料中には、パルプ以外の繊維として、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、及びこれらのコポリマー等のポリエステル系繊維、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン等のポリオレフィン系繊維、ポリアクリロニトリル等のアクリル繊維、モダクリル等のアクリル系繊維、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12等のポリアミド系繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリ塩化ビニリデン繊維、ポリ塩化ビニル繊維、ウレタン繊維等の合成繊維、トリアセテート繊維、ジアセテート繊維等の半合成繊維、ビスコースレーヨン、銅アンモニアレーヨン、ポリノジックレーヨン、リヨセル等の再生セルロース系繊維、コラーゲン、アルギン酸、キチン質などを溶液にしたものを紡糸した再生繊維などの化学繊維を含ませることができる。化学繊維を構成するポリマーは、ホモポリマー、変性ポリマー、ブレンド、共重合体などの形であってもよい。
【0009】
一方、本発明における吸保水性澱粉は、少なくとも次記(1)の特徴を有し、好適に(2)〜(5)の特徴を有するものである。
(1)吸水により膨潤し、さらに乾燥時させると略膨潤前の大きさにまで収縮し、膨潤時また収縮時に殆ど粘着性を示さない。
(2)膨潤時又は水との共存下で加熱しても一定の膨潤状態で安定しており、一般的澱粉の様に粘性が発現したり、崩壊することはない。
(3)乾燥時重量の5〜20倍の重量の水分を吸収し、乾燥時体積の1.5〜4倍程度の体積に膨潤する。
(4)吸収した水は多少の外圧では離水せず、また、吸水−乾燥が可逆的で一度吸収した水を乾燥させた後も吸水能力を有する。
(5)一般性状として、白〜淡黄白色微粒粉末であり、水分率は5〜50%、pHは4〜10である。吸水量は、吸水すべき水に含まれているイオン又は塩の種類、濃度及びpHによっても殆ど変化しない。
かかる吸保水性澱粉は、馬鈴薯澱粉、コーンスターチ、甘藷澱粉、タピオカ澱粉、サゴ澱粉、米澱粉、アマランサス澱粉等の天然澱粉、それらのエーテル化、エステル化、架橋等の澱粉誘導体のいずれか1種以上を、適宜既知のアルファー化処理を施したのち、ドラムドライヤーにて乾燥し粉末化する方法で製造される。
具体例としては、特殊アルファー化でんぷん、例えば、商品名:アルファー化でんぷんKZR(日澱化學株式会社製)が挙げられる。
一方、吸保水性澱粉の配合量としては、原料パルプに対して0.01〜5.0kg/tとするのがよい。0.01kg/t未満であると効果が十分に発揮されない場合がある。5.0を超えて配合すると柔らかさがなくなりやすく、また、繊維同士の絡み弱くなって過度の紙力低下を引き起こすことがある。
【0010】
次いで、嵩高となるしくみを模式的に示す図1を参照しながら説明する。
まず、原料パルプと吸保水性澱粉を乾燥状態で混合すると、図1(A)に示すとおり、パルプ繊維間に膨張前に吸保水性澱粉が散在された状態となる。
次いで、かかる原料パルプと吸保水性澱粉に水及び適宜の添加物を混合するなどしてスラリー化して抄紙原料とし、この抄紙原料を抄紙機のワイヤーパートで湿紙の状態にする。このとき、図1(B)に示すとおり、吸保水性澱粉が乾燥時の2倍程度に膨張してパルプ繊維間を押し広げる。
そして、ドライヤーパートにて湿紙の乾燥を行うときに、図1(C)に示すように、吸保水性澱粉が収縮し、パルプ繊維間に空隙が形成され、かくして、繊維間の空隙が広い嵩の高い衛生薄葉紙が得られる。
他方、上記本発明の製造方法により製造される衛生薄葉紙は、特にティシューペーパー、トイレットペーパー、キッチンペーパーに適する。この場合、米坪10〜35g/m2において紙厚80〜500μmであるのが望ましく、本発明の製造方法では、これらペーパー製品の要求に応えるものとすることができる。
さらに、好適に、ソフトネスを0.5〜6.0gの範囲とし、JIS P 8113に基づく乾燥引張強度を縦方向200〜800cN/幅15mm×250mm、横方向;50〜400cN/幅15mm×250mmの範囲とすることができる。
これらの各数値範囲内であると、ゴワ付き感もなく、適度な柔軟性を有する。本発明は、それに加えて、使用時に所要の強度が確保され、また紙粉の発生も少ないものとなる。
【実施例1】
【0011】
次いで、本発明に用いる吸保水性澱粉の吸水及び乾燥に伴う膨張、収縮について試験したので以下に試験内容及び結果を示す。
まず、吸保水性澱粉を一粒採取し、この採取した吸保水性澱粉の水分を吸収させる前、水分を吸収させた後、さらに乾燥させた後の大きさを、レーザー顕微鏡(V−9000)にて測定し、その大きさから澱粉粒子が球形であると仮定したときの体積を算出し、比較検討した。
結果は、下記、表1に示すとおりである。
【0012】
【表1】

【0013】
表1より、本試験に用いた吸保水性澱粉は吸水により2倍程度に膨張し、さらに乾燥させることで、吸収前の1.2倍程度の大きさにまで収縮すると認められる。
以上より、吸保水性澱粉を用いることにより、これをパルプ繊維に混合することで、繊維間に空隙を形成することが可能である。
【実施例2】
【0014】
次いで、実施例及び比較例について、紙力、嵩高感、紙粉発生について評価した。
実施例は、吸保水性澱粉を用いた本発明にかかる製造方法により抄紙した紙である。比較例は、嵩高剤を添加した従来製品と、吸保水性澱粉も嵩高剤も添加していない薄葉紙とした。各例につき、パルプ配合率や添加物量の異なる数例を作成して評価した。
各例の組成等は、試験結果とともに表2に示す。
なお、嵩高感は官能評価とした。
また、紙粉量は、各例にかかる薄葉紙を縦:197mm、横:229mmの大きさに裁断し、これを2枚重ねにしてポップアップ形式で160組折り畳み、一般的なティシュカートンに収納する。そして、カートン上面の取り出し口から、一枚一枚、試料を取り出し、カートン内に残存した10μm〜100μmの粒径の紙粉の総合計数を光散乱式自動粒子計数器により測定した。
【0015】
【表2】

【0016】
吸保水性澱粉を用いて抄造した実施例は、嵩高感が感じられ、尚且つ十分な紙力を有し、紙粉量も少ない結果となった。
それに対して、比較例は、嵩高感、紙粉抑制、紙力のいずれかの項目で十分とはいえない項目のある結果となった。
この結果から、本発明の製造方法によれば、嵩高感、紙力、紙粉量の点で従来例よりも優れた薄葉紙を製造できることが示されたといえる。
【産業上の利用可能性】
【0017】
本発明は、薄葉用紙以外の紙の製造にも利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】空隙形成の仕組みを模式的に示す薄葉紙の拡大図である。
【符号の説明】
【0019】
1…パルプ繊維、2…吸保水性澱粉、3…空隙。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料パルプと吸保水性澱粉とを含む抄紙原料を、湿紙の状態にした後、ドライヤーで乾燥させることを特徴とする衛生用薄葉紙の製造方法。
【請求項2】
前記吸保水性澱粉を原料パルプに対して0.01〜5.0kg/t添加する、請求項1記載の薄葉紙の衛生用製造方法。
【請求項3】
前記原料パルプは、NBKPとLBKPとの比率(NBKP/LBKP)が0/100 〜 60/40である、請求項1又は2記載の衛生用薄葉紙の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1項に記載の方法によって製造されることを特徴とする衛生用薄葉紙。

【図1】
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【公開番号】特開2008−190050(P2008−190050A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−22483(P2007−22483)
【出願日】平成19年1月31日(2007.1.31)
【出願人】(390029148)大王製紙株式会社 (2,041)
【Fターム(参考)】