説明

衝撃吸収ステアリング装置

【課題】操舵系に設けた電気モータを、二次衝突時の衝撃荷重を吸収する手段としても利用可能とする。
【解決手段】ステアリングホイール11と操舵軸12に回転力を加えることが可能な電気モータ13がステアリングホイール11と操舵軸12を含む操舵系Aに設けられている。操舵系Aには、二次衝突時にステアリングホイール11と操舵軸12が定位置から車両前方へ軸方向に移動することを許容する前方移動許容手段a1、ステアリングホイール11と操舵軸12が定位置に保持されている状態では電気モータ13と操舵軸12間での回転力伝達を可能とし、定位置から車両前方へ軸方向に移動するときには電気モータ13と操舵軸12間での回転力伝達を不能とする断続手段a2、ステアリングホイール11と操舵軸12が定位置から車両前方へ軸方向に移動するときその軸方向移動を回転運動に変換して電気モータ13に伝達する変換伝達手段a3が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の衝突時において、二次衝突時の衝撃荷重を吸収し得るように構成した衝撃吸収ステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用のステアリング装置には、ステアリングホイールと一体的な操舵軸に回転力を加えることが可能な電気モータが前記ステアリングホイールと前記操舵軸を含む操舵系に設けられているものがあり、例えば、特許文献1に記載されている。
【特許文献1】特開2002−225733号公報
【0003】
上記した電気モータには、操舵系に反力を付与するように構成した電気モータ(ステアリングホイールと操舵軸を含む操舵系と、転舵輪を含む転舵系が機械的に連結されていないステアバイワイヤ式のステアリング装置において使用されるもの)と、操舵系をアシスト駆動するように構成した電気モータ(操舵系と転舵系が機械的に連結されているリンク式のステアリング装置において使用されるもの)がある。
【0004】
ところで、従来のステアリング装置においては、電気モータから操舵軸に回転力を加えることが可能なように電気モータと操舵軸は連結されているが、電気モータが操舵軸の軸方向に作用する二次衝突時の衝撃荷重を吸収する手段としては使用し得ない連結構造となっている。
【発明の開示】
【0005】
本発明は、ステアリングホイールと操舵軸を含む操舵系に設けられている電気モータを、二次衝突時の衝撃荷重を吸収する手段としても利用可能とすることを目的としている。かかる目的を達成するために、本発明は、ステアリングホイールと一体的な操舵軸に回転力を加えることが可能な電気モータが前記ステアリングホイールと前記操舵軸を含む操舵系に設けられている車両用ステアリング装置において、車両衝突時の二次衝突時に前記ステアリングホイールと前記操舵軸が定位置から車両前方へ軸方向に移動することを許容する前方移動許容手段と、前記ステアリングホイールと前記操舵軸が定位置に保持されている状態では、前記電気モータと前記操舵軸との間での回転力伝達を可能とし、前記ステアリングホイールと前記操舵軸が定位置から車両前方へ軸方向に移動するときには、前記電気モータと前記操舵軸との間での回転力伝達を不能とする断続手段と、前記ステアリングホイールと前記操舵軸が定位置から車両前方へ軸方向に移動するときに前記ステアリングホイールと前記操舵軸の車両前方への軸方向移動を回転運動に変換して前記電気モータに伝達する変換伝達手段を設けたことに特徴がある。
【0006】
この衝撃吸収ステアリング装置では、通常時、ステアリングホイールと操舵軸が定位置に保持されている。このため、断続手段は、電気モータと操舵軸との間での回転力伝達を可能とする。したがって、このときには、電気モータが操舵軸に回転力を加えることが可能であり、一般的な通常時制御モードにて電気モータを制御することにより通常時作動を得ることが可能である。
【0007】
また、車両の衝突時において、二次衝突時の衝撃荷重がステアリングホイールに作用すると、前方移動許容手段が機能して、ステアリングホイールと操舵軸が定位置から車両前方へ軸方向に移動する。このため、断続手段は、電気モータと操舵軸との間での回転力伝達を不能とする。また、このときには、変換伝達手段が、ステアリングホイールと操舵軸の車両前方への軸方向移動を回転運動に変換して電気モータに伝達する。
【0008】
したがって、このときには、適宜な二次衝突時制御モードにて電気モータを回生制御することにより、電気モータを発電機として機能させること(回生制動動作させること)ができて、操舵軸の軸方向に作用する二次衝突時の衝撃荷重を適宜な制御モードにて回生エネルギーとして吸収することが可能である。これにより、電気モータを二次衝突時の衝撃荷重を吸収する手段としても利用することが可能である。
【0009】
また、本発明の実施に際して、前記変換伝達手段は、前記操舵軸をねじ軸とするボールねじ機構を備えていることも可能である。この場合には、操舵軸を有効に活用して変換伝達手段をシンプルかつ安価に構成することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。図1はステアバイワイヤ式のステアリング装置に本発明を実施した実施形態を概略的に示していて、このステアリング装置においては、ステアリングホイール11と操舵軸12を含む操舵系Aと、転舵輪を含む転舵系(図示省略)が機械的に連結されていない。また、このステアリング装置においては、操舵系Aに、操舵軸12に回転力を加えることが可能な電気モータ13が設けられるとともに、前方移動許容手段a1と断続手段a2と変換伝達手段a3が設けられている。
【0011】
ステアリングホイール11は、操舵軸12の運転者側端部に一体的に固着されている。操舵軸12は、ステアリングコラム(図示省略)を介して車体20に回転可能に支持されている。電気モータ13は、そのハウジング13aにて車体20に固定されていて、出力軸13bの回転作動は電気制御装置ECUにより制御されるように構成されている。
【0012】
前方移動許容手段a1は、車両衝突時の二次衝突時、すなわち、運転者がステアリングホイール11に衝突するとき、ステアリングホイール11と操舵軸12が、図1に示した定位置から設定量Lo車両前方へ軸方向に移動することを許容するものであり、操舵軸12の前方に同軸的に配置されている。なお、前方移動許容手段a1は、操舵軸12の先端部外周に軸方向にて摺動可能に嵌合されて車体に対して回転可能かつ軸方向にて移動不能に支持されるスリーブ(図示省略)と、このスリーブと操舵軸12の嵌合部にてこれらを径方向に貫通するように設けられて二次衝突時の衝撃荷重により剪断可能な連結ピン(図示省略)を備えている。
【0013】
断続手段a2は、ステアリングホイール11と操舵軸12が定位置に保持されている状態では、電気モータ13と操舵軸12との間での回転力伝達を可能とし、ステアリングホイール11と操舵軸12が定位置から所定量L1以上に車両前方へ軸方向に移動するときには、電気モータ13と操舵軸12との間での回転力伝達を不能とするものであり、操舵軸12の中間部外周に一体的に設けた大径平歯車12aと、電気モータ13の出力軸13b先端に一体的に設けた小径平歯車13cによって構成されている。なお、上記した所定量L1は、大径平歯車12aと小径平歯車13cの軸方向での噛み合い長さに相当するものである。
【0014】
変換伝達手段a3は、ステアリングホイール11と操舵軸12が定位置から所定量L2(L2>L1)以上に車両前方へ軸方向に移動するときに、ステアリングホイール11と操舵軸12の車両前方への軸方向移動を回転運動に変換して電気モータ13の出力軸13bに伝達することが可能なものであり、操舵軸12に一体的に設けたねじ軸12bと、このねじ軸12b上に組付けたボールナット14を有するボールねじ機構Sを備えるとともに、ボールナット14の外周に一体的に設けられてステアリングホイール11と操舵軸12が定位置から所定量L2以上に車両前方へ軸方向に移動するときに電気モータ13の出力軸13b先端に一体的に設けた小径平歯車13cに噛合する大径の内歯平歯車14aを備えている。
【0015】
電気制御装置ECUは、各種のセンサ(図示省略)からの検出信号に応じて電気モータ13の作動(すなわち、出力軸13bの回転方向とトルク)を制御するものであり、通常時には通常時制御モードにて電気モータ13を制御し、車両衝突時の二次衝突時には適宜な二次衝突時制御モードにて電気モータ13を回生制御するように設定されている。
【0016】
上記のように構成した衝撃吸収ステアリング装置では、通常時、ステアリングホイール11と操舵軸12が図1に示した定位置に保持されている。このため、断続手段a2は、電気モータ13と操舵軸12との間での回転力伝達を可能とする。したがって、このときには、電気モータ13が操舵軸12に回転力を加えることが可能であり、電気制御装置ECUが通常時制御モードにて電気モータ13を制御することにより、通常時作動を得ることが可能である。
【0017】
また、車両の衝突時において、二次衝突時の衝撃荷重がステアリングホイール11に作用すると、前方移動許容手段a1が機能して、ステアリングホイール11と操舵軸12が図2に示したように定位置から車両前方へ軸方向に移動する。このため、断続手段a2は、電気モータ13と操舵軸12との間での回転力伝達を不能とする。また、このときには、変換伝達手段a3が、ステアリングホイール11と操舵軸12の車両前方への軸方向移動を回転運動に変換して電気モータ13に伝達する。
【0018】
したがって、このときには、電気制御装置ECUが適宜な二次衝突時制御モードにて電気モータ13を回生制御することにより、電気モータ13を発電機として機能させること(回生制動動作させること)ができて、操舵軸12の軸方向に作用する二次衝突時の衝撃荷重を適宜な制御モード(例えば、車両前方への軸方向移動量に応じて衝撃吸収荷重を増大させる制御モード、または、車両前方への軸方向移動量に応じて衝撃吸収荷重を減少させる制御モード、或いは、車両前方への軸方向移動量に応じて衝撃吸収荷重を増大させた後に減少させる制御モード等)にて回生エネルギーとして吸収することが可能である。これにより、電気モータ13を二次衝突時の衝撃荷重を吸収する手段としても利用することが可能である。
【0019】
また、この実施形態においては、変換伝達手段a3が操舵軸12の一部をねじ軸12bとするボールねじ機構Sを備えている。このため、操舵軸12を有効に活用して変換伝達手段a3をシンプルかつ安価に構成することが可能である。
【0020】
上記実施形態においては、変換伝達手段a3が、ボールねじ機構Sと大径の内歯平歯車14aを備えるように構成して実施したが、図3に示した変形実施形態のように、変換伝達手段a3が、ボールねじ機構Sを備えるとともに、ボールナット14の外周に一体的に設けられてステアリングホイール11と操舵軸12が図3に示した定位置から所定量L2以上に車両前方へ軸方向に移動するときに電気モータ13の出力軸13b先端に一体的に設けた小径平歯車13cに噛合する大径の外歯平歯車14bを備えるように構成して実施することも可能である。
【0021】
なお、図3に示した変形実施形態の上記以外の構成は、図1および図2に示した上記実施形態の大径の内歯平歯車14a以外の構成と実質的に同じであるため、その説明は省略する。また、図3に示した変形実施形態の作用効果は、図1および図2に示した上記実施形態の作用効果と実質的に同じであるため、その説明は省略する。
【0022】
また、図1および図2に示した上記実施形態においては、ステアリングホイール11と操舵軸12が定位置から所定量L1以上に車両前方へ軸方向に移動するときに、電気モータ13と操舵軸12との間での回転力伝達が不能となるように構成するとともに、ステアリングホイール11と操舵軸12が定位置から所定量L2以上に車両前方へ軸方向に移動するときに、ステアリングホイール11と操舵軸12の車両前方への軸方向移動が回転運動に変換されて電気モータ13の出力軸13bに伝達されるように構成して実施したが、本発明の実施に際しては、図4に示した変形実施形態のように構成して実施することも可能である。
【0023】
図4に示した変形実施形態では、電気モータ13の出力軸13bに、小径歯車13dが電磁クラッチC1を介して組付けられるとともに、小径歯車13eが電磁クラッチC2を介して組付けられている。各小径歯車13d,13eは、電気モータ13の出力軸13bに対して回転可能かつ軸方向にて移動不能に組付けられている。
【0024】
電磁クラッチC1は、出力軸13bと小径歯車13dとの間でのトルク伝達を断続するクラッチであって、その断続作動は電気制御装置ECUによって制御されるように構成されており、ステアリングホイール11と操舵軸12が定位置に保持されている状態では、出力軸13bと小径歯車13dとの間でのトルク伝達を可能とし、ステアリングホイール11と操舵軸12が定位置から車両前方へ軸方向に移動するときには、出力軸13bと小径歯車13dとの間でのトルク伝達を不能とする。
【0025】
一方、電磁クラッチC2は、出力軸13bと小径歯車13eとの間でのトルク伝達を断続するクラッチであって、その断続作動は電気制御装置ECUによって制御されるように構成されており、ステアリングホイール11と操舵軸12が定位置に保持されている状態では、出力軸13bと小径歯車13eとの間でのトルク伝達を不能とし、ステアリングホイール11と操舵軸12が定位置から車両前方へ軸方向に移動するときには、出力軸13bと小径歯車13eとの間でのトルク伝達を可能とする。
【0026】
なお、図4に示した変形実施形態の小径歯車13d,13eおよび電磁クラッチC1,C2以外の構成は、図1および図2に示した上記実施形態の小径歯車13c以外の構成と実質的に同じであるため、同一符号を付して、その説明は省略する。
【0027】
図4に示した変形実施形態では、操舵軸12の軸方向に作用する二次衝突時の衝撃荷重を、二次衝突時の初期(ステアリングホイール11と操舵軸12が定位置から車両前方へ軸方向に移動し始めるとき)から、電気モータ13を回生制御することにより、回生エネルギーとして吸収することが可能であり、図1および図2に示した実施形態や図3に示した変形実施形態に比して、二次衝突時の衝撃荷重を吸収する際のステアリングホイール11と操舵軸12の移動ストロークを長くして、二次衝突時の衝撃荷重を効果的に吸収することが可能である。
【0028】
また、上記実施形態においては、ステアリングホイール11と操舵軸12を含む操舵系Aと、転舵輪を含む転舵系が機械的に連結されていないステアバイワイヤ式のステアリング装置に本発明を実施したが、本発明は、操舵系と転舵系が機械的に連結されているリンク式のステアリング装置にも同様にまたは適宜変更して実施することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明による衝撃吸収ステアリング装置の一実施形態を概略的に示した図である。
【図2】図1に示した実施形態の作動説明図である。
【図3】本発明による衝撃吸収ステアリング装置の変形実施形態を概略的に示した図である。
【図4】本発明による衝撃吸収ステアリング装置の他の変形実施形態を概略的に示した図である。
【符号の説明】
【0030】
11…ステアリングホイール、12…操舵軸、12a…大径平歯車、12b…ねじ軸、13…電気モータ、13a…ハウジング、13b…出力軸、13c…小径平歯車、14…ボールナット、14a…大径の内歯平歯車、A…操舵系、a1…前方移動許容手段、a2…断続手段、a3…変換伝達手段、S…ボールねじ機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリングホイールと一体的な操舵軸に回転力を加えることが可能な電気モータが前記ステアリングホイールと前記操舵軸を含む操舵系に設けられている車両用ステアリング装置において、
車両衝突時の二次衝突時に前記ステアリングホイールと前記操舵軸が定位置から車両前方へ軸方向に移動することを許容する前方移動許容手段と、
前記ステアリングホイールと前記操舵軸が定位置に保持されている状態では、前記電気モータと前記操舵軸との間での回転力伝達を可能とし、前記ステアリングホイールと前記操舵軸が定位置から車両前方へ軸方向に移動するときには、前記電気モータと前記操舵軸との間での回転力伝達を不能とする断続手段と、
前記ステアリングホイールと前記操舵軸が定位置から車両前方へ軸方向に移動するときに前記ステアリングホイールと前記操舵軸の車両前方への軸方向移動を回転運動に変換して前記電気モータに伝達する変換伝達手段を設けたことを特徴とする衝撃吸収ステアリング装置。
【請求項2】
請求項1に記載の衝撃吸収ステアリング装置において、前記変換伝達手段は、前記操舵軸をねじ軸とするボールねじ機構を備えていることを特徴とする衝撃吸収ステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−218887(P2006−218887A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−31546(P2005−31546)
【出願日】平成17年2月8日(2005.2.8)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】