説明

衝突回避支援装置、および衝突回避支援プログラム

【課題】自車両が車線変更する際に他車両と衝突しないように支援を行う衝突回避支援装置において、車線変更時の運転者の負担をより軽減できるようにする。
【解決手段】衝突回避支援システムにおいては、自車両が現在の速度のまま車線変更する際に必要となる等速変更領域として設定するとともに、自車両が加速してから車線変更する際に必要となる加速変更領域、および自車両が減速してから車線変更する際に必要となる減速変更領域を設定する(S210)。そして、各変更領域設定手段が設定した各領域のうち、他車両が存在しない領域を抽出する(S230)。さらに、他車両が存在しない領域が存在しない場合、車線変更すると危険であると判断し、等速変更領域に他車両が存在しない場合、現在の速度のまま車線変更可能と判断し、加速変更領域または減速変更領域に他車両が存在しない場合、加速または減速すれば車線変更可能と判断する(S150)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自車両が車線変更する際に他車両と衝突しないように支援を行う衝突回避支援装置、および衝突回避支援プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
この種の衝突回避支援装置として、隣接車線を走行する他車両までの距離に応じて警報を行うか否かを設定するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3872033号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記衝突回避支援装置において警報が発せられたときには、運転者は現在車線変更できないことについては理解できるが、どのようにすれば車線変更できるようになるかについては運転者自身で判断する必要がある。即ち、警報が発せられた後で車線変更しようとする際の運転者の負担が軽減できないという問題点があった。
【0005】
そこで、このような問題点を鑑み、自車両が車線変更する際に他車両と衝突しないように支援を行う衝突回避支援装置において、車線変更時の運転者の負担をより軽減できるようにすることを本発明の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的を達成するために成された衝突回避支援装置において、等速変更領域設定手段は、隣接車線において自車両の真横の領域を含む領域を、自車両が現在の速度のまま車線変更する際に必要となる等速変更領域として設定し、加減速変更領域設定手段は、隣接車線において等速変更領域よりも自車両の進行方向に対して前方の領域を含み、自車両が加速してから車線変更する際に必要となる加速変更領域、および隣接車線において等速変更領域よりも自車両の進行方向に対して後方の領域を含み、自車両が減速してから車線変更する際に必要となる減速変更領域、のうちの少なくとも一方を設定する。そして、領域抽出手段は、隣接車線を走行する他車両の位置の検出結果を取得する他車両位置取得手段による他車両の位置の検出結果に基づいて、各変更領域設定手段が設定した各領域のうち、他車両が存在しない領域を抽出する。さらに、車線変更判断手段は、他車両が存在しない領域が存在しない場合、車線変更すると危険であると判断し、等速変更領域に他車両が存在しない場合、現在の速度のまま車線変更可能と判断し、加速変更領域または減速変更領域に他車両が存在しない場合、加速または減速すれば車線変更可能と判断する(請求項1)。
【0007】
即ち、本発明の衝突回避支援装置においては、自車両の前後に位置が異なる複数の領域を設定し、各領域のそれぞれに他車両が位置するか否かに応じて、自車両が等速のまま、或いは加速または減速すれば車線変更できると判断するようにしている。
【0008】
従って、このような衝突回避支援装置によれば、自車両が等速のままでは車線変更できない場合であっても、加速または減速すれば車線変更できる場合には、その旨の判断をすることができる。よって、本発明の衝突回避支援装置では、どのようにすれば車線変更できるようになるかについての判断をすることができるので、車線変更時の運転者の負担をより軽減することができる。
【0009】
ところで、上記衝突回避支援装置においては、自車両の移動速度の情報を取得する車速取得手段を備え、等速変更領域設定手段および加減速変更領域設定手段は、自車両の移動速度の情報に基づいて各領域の大きさを設定するようにしてもよい(請求項2)。
【0010】
例えば、自車両または他車両が衝突を回避することができる程度の時間に設定された回避時間(例えば1秒程度)に自車両が走行可能な範囲内を各領域の大きさに設定することが考えられる。
【0011】
このような衝突回避支援装置によれば、自車両の移動速度に応じた適切な領域の大きさを設定することができる。
また、上記衝突回避支援装置においては、隣接車線に存在する他車両の自車両に対する相対速度の検出結果を取得する相対速度取得手段と、相対速度に応じて前記各領域の大きさを補正する領域補正手段と、を備えていてもよい(請求項3)。特に、領域補正手段は、隣接車線における自車両の真横の位置を基準として、各領域において、他車両が存在する方向側の端部の位置を、相対速度に応じて変更することによって各領域の大きさを補正するようにしてもよい(請求項4)。
【0012】
なお、請求項4の記載において、「他車両が存在する方向側の端部」とは、各領域において、自車両に対して他車両が存在する側の端部を表し、具体的には、他車両が自車両よりも後方に位置していれば、各領域の後方端部を表し、他車両が自車両よりも前方にあれば、各領域の前方端部を表す。
【0013】
これらのような衝突回避支援装置によれば、車線変更可能か否かを判定する際に利用する各領域の大きさを相対速度に応じて変更するので、車線変更可能か否かの判定をより実情に合わせた形態で行うことができる。特に、他車両が存在する方向側の端部の位置を、相対速度に応じて変更すれば、他車両との相対速度に応じて判断結果を変化させ易くすることができるので、より細かな判断を行うことができる。
【0014】
さらに、上記衝突回避支援装置においては、隣接車線に存在する他車両の自車両に対する相対速度の検出結果を取得する相対速度取得手段、を備え、車線変更判断手段は、何れかの領域に他車両が存在する場合であって、かつ他車両が自車両に接近する相対速度が予め設定された基準速度以上である場合に、他車両が存在しない領域がある場合であっても、この他車両が通過するまで待機すべきと判断するようにしてもよい(請求項5)。
【0015】
このような衝突回避支援装置によれば、他車両が接近してくる場合には、この他車両が通過するまで待機すべきと判断することで、自車両の運転者に分かり易くするためのより細かな判断を行うことができる。
【0016】
なお、本発明(請求項5)は、請求項1,2の従属項としているが、請求項3,4の従属項とすることができる。この場合、相対速度取得手段が重複することになるが、何れか一方の相対速度取得手段のみを備えていればよい。
【0017】
また、上記衝突回避支援装置においては、車線変更判断手段による判断結果に応じて自車両の挙動を制御する挙動制御手段を備えた構成が考えられるが、車線変更判断手段による判断結果を運転者に報知する報知手段を備えていてもよい(請求項6)。
【0018】
このような衝突回避支援装置によれば、報知手段によって自車両の運転者が安全に車線変更できるように、自車両を加速または減速すべき旨を報知することができる。
さらに、上記衝突回避支援装置においては、自車両の運転者が車線変更する際の操作の検出結果を取得する操作結果取得手段と、車線変更する際の操作が検出されないときに報知手段の作動を禁止する作動禁止手段と、を備えていてもよい(請求項7)。
【0019】
このような衝突回避支援装置によれば、車線変更するときのみに報知を行うことができるので、車線変更しないときに報知がされることによる煩わしさを防止することができる。
【0020】
また、上記の衝突回避支援装置においては、車線変更判断手段により加速または減速すれば車線変更可能と判断された場合に、車線変更判断手段により現在の速度のまま車線変更可能と判断されるまで自動的に加速または減速する加減速手段、を備えていてもよい(請求項8)。
【0021】
このような衝突回避支援装置によれば、自車両が安全に車線変更できるように自車両を加減速することができる。
さらに、自車両の運転者が車線変更する際の操作の検出結果を取得する操作結果取得手段と、車線変更する際の操作が検出されないときに加減速手段の作動を禁止する作動禁止手段と、を備えていてもよい(請求項9)。
【0022】
このような衝突回避支援装置によれば、自車両を加減速する制御を運転者が車線変更しようとするときのみに行うことができる。
次に、上記目的を達成するために成された衝突回避支援プログラムは、コンピュータに上記衝突回避支援装置を構成する各手段を実現させるためのプログラムであることを特徴としている(請求項10)。このような衝突回避支援プログラムによれば、少なくとも請求項1に記載の衝突回避支援装置と同様の効果を享受することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明が適用された衝突回避支援システム1の概略構成を示すブロック図である。
【図2】車線変更支援処理を示すフローチャート(a)、および領域設定・判定処理を示すフローチャート(b)である。
【図3】車線変更可否判定処理を示すフローチャートである。
【図4】制御処理を示すフローチャートである。
【図5】自車両の後方から他車両が接近する際の領域設定例を示す説明図(a)、および自車両を追い越した他車両が遠ざかる際の領域設定例を示す説明図(b)である。
【図6】1台の他車両が自車両と並走する際の領域設定例を示す説明図(a)、および複数台の他車両が並走する際の領域設定例を示す説明図(b)である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に本発明にかかる実施の形態を図面と共に説明する。
[本実施形態の構成]
図1は、本発明が適用された衝突回避支援システム1の概略構成を示すブロック図である。衝突回避支援システム1は、例えば乗用車等の車両に搭載され、この衝突回避支援システム1が搭載された車両(以下、「自車両」という。)が走行する車線に対して隣接する車線(以下、「隣接車線」という。)に自車両が車線変更する際に他車両と衝突しないように支援を行うシステムである。
【0025】
本実施形態においては、自車両が右側の隣接車線に車線変更するときの処理について説明するが、左側の隣接車線に車線変更するときにおいても同様のハードウェア構成および同様の処理によって本実施形態と同様の作用および効果をできることは言うまでもない。また同様に、右側および左側の隣接車線の両方について本処理を採用することもできる。
【0026】
具体的には、図1に示すように、衝突回避支援システム1は、車線変更制御部10(衝突回避支援装置)と、各側方センサ11〜13と、車輪速センサ14と、ウインカ15と、警報装置21と、エンジン制御部31と、ブレーキ制御部32とを備えている。また、各側方センサと11〜13しては、前側方センサ11と、側方センサ12と、後側方センサ13とを備えている。
【0027】
各側方センサ11〜13は、自車両が走行する車線の右側に隣接する右側車線内の、それぞれのセンサ毎に予め設定された領域内に電波等の電磁波を送信し、この反射波を検出することによって、右側車線を走行する他車両の相対的な位置(位置)と相対的な速度(相対速度)を検出する。特に、側方センサ12は、自車両の真横を含む領域に電磁波を送信し、この領域に存在する他車両を検出する。
【0028】
また、前側方センサ11は、側方センサ12が電磁波を送信する領域よりも前方の領域を含むように電磁波を送信し、この領域に存在する他車両を検出する。この際、前側方センサ11と側方センサ12とが電磁波を送信する領域は一部が重複するよう設定されている。
【0029】
さらに、後側方センサ13は、側方センサ12が電磁波を送信する領域よりも後方の領域を含むように電磁波を送信し、この領域に存在する他車両を検出する。この際、後側方センサ13と側方センサ12とが電磁波を送信する領域は一部が重複するよう設定されている。
【0030】
車輪速センサ14は、自車両における車輪の回転速度を検出する周知のセンサである。また、ウインカ15は、周知の方向指示器として構成されている。
このような各側方センサ11〜13、車輪速センサ14による検出結果、およびウインカ15の作動状態の情報は、車線変更制御部10が取得できるよう構成されている。ここで、車線変更制御部10は、CPU、ROM、RAM等を備えた周知のマイクロコンピュータとして構成されており、ROMやRAMに格納されたプログラム(例えば、衝突回避支援プログラム)に基づく処理を実施する。
【0031】
また、車線変更制御部10は、エンジンの作動を制御するエンジン制御部31やブレーキの作動を制御するブレーキ制御部32にも接続されており、自車両が他車両と衝突する可能性が所定値以上になると、エンジン制御部31に作動を停止させる指令を送信したり、ブレーキ制御部32にブレーキを作動させたりする、周知のプリクラッシュシステムとしての機能を備えている。また、車線変更制御部10は、処理結果に応じて警報装置21に警報(報知)を行うように指示をする。
【0032】
ここで、警報装置21は、報知する内容の種別が特定できるように、報知する内容の種別に応じた異なる態様の作動を行うことができる。具体的には、警報装置21がスピーカを鳴動させる構成である場合には、報知する内容に応じて異なる音や、報知する内容に応じて異なるメッセージ音声を発するようにする。また、警報装置21が表示装置を備えている場合には、報知する内容に応じたメッセージを表示させたり、報知する内容に応じたマークを点灯・点滅させたりする。
【0033】
[本実施形態による処理]
このような衝突回避支援システム1においては、以下に示す処理が実施される。図2(a)は車線変更制御部10が実行する車線変更支援処理を示すフローチャート、図2(b)は車線変更支援処理のうちの領域設定・判定処理を示すフローチャートである。図3は車線変更支援処理のうちの車線変更可否判定処理を示すフローチャート、図4は車線変更支援処理のうちの制御処理を示すフローチャートである。
【0034】
車線変更支援処理は、イグニッションスイッチ(図示省略)等の車両の電源が投入されると開始され、その後、予め設定された周期(例えば100ms毎)に繰り返し実行される処理である。具体的には、まず、各側方センサ11〜13から隣接車線に位置する車両の位置情報を取得する(S110:他車両位置取得手段)。
【0035】
そして、車輪速センサ14から自車両の移動速度(車速)の情報を取得し(S120:車速取得手段)、各側方センサ11〜13から隣接車線に存在する他車両の自車両に対する相対速度の検出結果を取得する(S130:相対速度取得手段)。
【0036】
続いて、領域設定・判定処理(S140)、車線変更可否判定処理(S150:車線変更判断手段)、制御処理(S160)を順に実施し、これらの処理が終了すると車線変更支援処理を終了する。
【0037】
ここで、領域設定・判定処理(S140)は、隣接車線において自車両の真横(右側)の領域を含む領域を、自車両が現在の速度のまま車線変更する際に必要となる等速変更領域として設定するとともに、隣接車線において等速変更領域よりも自車両の進行方向に対して前方の領域を含み、自車両が加速してから車線変更する際に必要となる加速変更領域、および隣接車線において等速変更領域よりも自車両の進行方向に対して後方の領域を含み、自車両が減速してから車線変更する際に必要となる減速変更領域、の両方を設定する処理を含む。
【0038】
この際、図2(b)に示すように、まず、等速変更領域、加速変更領域、および減速変更領域(以下、これらをまとめて「各領域」ともいう)のそれぞれについて、ベース領域を設定する(S210:等速変更領域設定手段、加減速変更領域設定手段)。ここで、ベース領域とは、自車両の移動速度の情報に基づいて設定される領域を表す。
【0039】
等速変更領域のベース領域においては、監視対象とする隣接車線(本実施形態では、右側の隣接車線)において、自車両の前方端部(前端)の真横の位置を基準として、前方および後方に、自車両が所定時間(例えば1秒)の間に移動できる距離分の領域が設定される。つまり、等速変更領域におけるベース領域の前方端部は、自車両の前端を基準として、自車両が所定時間(例えば1秒)の間に移動できる距離だけ前方に設定され、ベース領域の後方端部は自車両の前端を基準として、自車両が所定時間(例えば1秒)の間に移動できる距離だけ後方に設定され、この間の領域が等速変更領域におけるベース領域として設定される。
【0040】
また、加速変更領域のベース領域においては、自車両の前端から2m後方における真横の位置から前方に、等速変更領域のベース領域よりもより前方の領域を含むように設定される。つまり、加速変更領域におけるベース領域の前方端部は、自車両の前端を基準として、自車両が前述の所定時間の2倍(例えば2秒)の間に移動できる距離だけ前方に設定され、ベース領域の後方端部は自車両の前端から2m後方に設定される。そして、この間の領域が加速変更領域におけるベース領域として設定される。
【0041】
さらに、減速変更領域のベース領域においては、自車両の後方端部(後端)から2m前方における真横の位置から後方に、等速変更領域のベース領域よりもより後方の領域を含むように設定される。つまり、減速変更領域におけるベース領域の前方端部は、自車両の前端から2m後方に設定され、ベース領域の後方端部は自車両の前端を基準として、自車両が前述の所定時間の2倍(例えば2秒)の間に移動できる距離だけ後方に設定される。そして、この間の領域が減速変更領域におけるベース領域として設定される。
【0042】
続いて、相対速度に応じて各領域の大きさを補正する(S220:領域補正手段)。つまり、各領域におけるベース領域の大きさを補正する。
ここでは、自車両と他車両との距離が所定時間(例えば2秒間)にどの程度変化するかを相対速度に基づき算出し、この距離分だけ、各ベース領域における後方端部および前方端部の位置を変更する。なお、複数の他車両が検出された場合には、各他車両との相対速度に応じて各端部の位置を変更したとき最も領域が大きくなるような端部の位置を採用する。
【0043】
また、この処理では、他車両の速度が自車両の速度よりも速いときには、相対速度に応じた距離分だけ、各ベース領域における後方端部および前方端部の位置を後方に移動させ、他車両の速度が自車両の速度よりも遅いときには、相対速度に応じた距離分だけ、各ベース領域における後方端部および前方端部の位置を前方に移動させる。
【0044】
なお、本処理では、明らかに他車両が存在しない領域(後方のみに他車両が存在する場合の加速変更領域、前方のみに他車両が存在する場合の減速変更領域)については領域の補正を行わない。また、加速変更領域の後方端部、減速変更領域の前方端部についても補正を行わない。さらに、補正される各端部においては、自車両の前端を基準として、この基準からの距離が10m未満にはならないよう設定される。
【0045】
ここで、具体的な領域の設定例について、図5および図6を用いて説明する。図5(a)は、自車両の後方から他車両が接近する際の領域設定例を示す説明図、図5(b)は、自車両を追い越した他車両が遠ざかる際の領域設定例を示す説明図である。また、図6(a)は、1台の他車両が自車両と並走する際の領域設定例を示す説明図、図6(b)は、複数台の他車両が並走する際の領域設定例を示す説明図である。
【0046】
図5(a)に示す例では、自車両が60km/hで走行し、自車両の後方から80km/hで他車両が接近している。この場合においては、自車両の速度が60km/hであるので、1秒当たりに移動する距離は約17mである。したがって、等速変更領域のベース領域は、前方端部が自車両の前端の真横の位置から前方に17m移動した位置に設定され、後方端部が自車両の前端の真横の位置から後方に17m移動した位置に設定される。
【0047】
また、自車両の速度が60km/hであるので、2秒間に移動する距離は約34mである。加速変更領域のベース領域は、前方端部が自車両の前端の真横の位置から前方に34m移動した位置に設定され、後方端部が自車両の前端の真横の位置から後方に2m移動した位置に設定される。さらに、同様にして、減速変更領域のベース領域は、前方端部が自車両の後端の真横の位置から前方に2m移動した位置に設定され、後方端部が自車両の前端の真横の位置から後方に34m移動した位置に設定される。
【0048】
そして、これらのベース領域は、自車両と他車両との相対速度に応じて補正される。図5(a)に示す例では、自車両と他車両との相対速度は、接近側20km/hであるため、2秒間で接近する距離は約11mである。したがって、補正後の等速変更領域は、前方端部と後方端部とがそれぞれ後方に11mずつ移動されることになる。ここで、前方端部は自車両の前端の真横の位置から前方に6mの位置となるが、最小値の10mが適用される。また、後方端部は自車両の前端の真横の位置から後方に2m移動した位置に設定される。後方端部は、17mに11mが加算され、自車両の前端の真横の位置から28m後方に設定される。
【0049】
また、補正後の減速変更領域は、前方端部については補正されることはなく、後方端部については補正後の等速変更領域と同様に後方に11m移動され、自車両の前端の真横の位置から45m後方に設定される。なお、加速変更領域については、自車両の後方のみに他車両が位置するので補正しない。
【0050】
次に、このまま自車両および他車両の速度が変化することなく、他車両が自車両を追い越した場合には、図5(b)に示すようになる。即ち、各領域のベース領域については、自車両の速度が60km/hで変わらないことから、図5(a)と同様に設定される。また、補正後の等速変更領域についても、相対速度が変化していないことから、図5(a)と同様に設定される。
【0051】
加速変更領域については、他車両の位置が自車両の後方から前方に移動したことから、補正される。即ち、加速変更領域の前方端部の位置が、ベース領域の34mから11m後方に設定され、23mに設定される。
【0052】
なお、減速変更領域については、他車両の位置が自車両の後方から前方に移動したことから、補正されない。
図6(a)や図6(b)に示すように、自車両と1または複数の他車両とが等速で走行している場合には、各領域についてベース領域を図5(a)、図5(b)に示した手順と同様に設定するのみで、補正は行わない。
【0053】
このようなS210,S220の処理によって各領域が設定されると、隣接車線に位置する他車両の位置を判定する(S230:領域抽出手段)。この処理では、設定された各領域のうち、他車両が存在する領域および存在しない領域を、各側方センサ11〜13による他車両の位置の検出結果に基づいて抽出する。この処理が終了すると、領域設定・判定処理を終了する。
【0054】
次に、車線変更可否判定処理(S150)について図3を用いて説明する。車線変更可否判定処理は、他車両が存在しない領域が存在しない場合、車線変更すると危険であると判断し、等速変更領域に他車両が存在しない場合、現在の速度のまま車線変更可能と判断し、加速変更領域または減速変更領域に他車両が存在しない場合、加速または減速すれば車線変更可能と判断する処理である。
【0055】
具体的な車線変更可否判定処理としては、まず、領域設定・判定処理にて設定した等速変更領域に他車両があるか否かを判定する(S310)。等速変更領域に他車両がなければ(S310:NO)、等速のままで車線変更が可能であると判定し(S320)、車線変更可否判定処理を終了する。
【0056】
一方、等速変更領域に他車両があれば(S310:YES)、等速変更領域内の他車両の自車両に対する相対速度を基準となる相対速度(例えば接近方向を正としたとき、+5km/h)とを比較する(S330)。この相対速度が基準となる相対速度以上であれば(S330:YES)、この他車両が自車両の側方を通過するまで車線変更することは危険であると判断し、待機するよう判定(待機判定)する(S390)。待機判定の場合には、このままの状態で数秒間待機することによって、車線変更可能になることを示す。
【0057】
S330の処理において、他車両の自車両に対する相対速度が基準となる相対速度未満であれば(S330:NO)、領域設定・判定処理にて設定した減速変更領域に他車両があるか否かを判定する(S340)。減速変更領域に他車両がなければ(S340:NO)、等速変更領域に他車両が存在しても、減速すれば車線変更可能であると判断し、自車両が減速するよう促すための減速指示判定を行い(S350)、車線変更可否判定処理を終了する。
【0058】
また、減速変更領域に他車両があれば(S340:YES)、加速変更領域に他車両があるか否かを判定する(S360)。そして、加速変更領域に他車両がなければ(S360:NO)、加速すれば車線変更可能であると判断し、自車両が加速するよう促すための加速指示判定を行い(S370)、車線変更可否判定処理を終了する。
【0059】
また、加速変更領域に他車両があれば(S360:YES)、当分の間、車線変更が不可能であるとして、車線変更不可判定を行い(S380)、車線変更可否判定処理を終了する。なお、車線変更可否判定処理による各判定結果は、車線変更制御部10のRAM等のメモリに記録される。
【0060】
次に、制御処理(S160)について図5を用いて説明する。制御処理は、車線変更可否判定処理による判定結果を受けて、自車両の運転者への報知等を行う処理である。具体的には、図5に示すように、まず、自車両の運転者が車線変更する際の操作の検出結果として、ウインカ15の作動状態を取得する(S510:操作結果取得手段)。そして、ウインカ15が作動しているか否かを判定する(S520:作動禁止手段)。
【0061】
本処理においては右側の隣接車線に車線変更することを想定しているので、S510の処理では右側ウインカ15の作動状態を取得する。なお、左側の隣接車線に車線変更する際の衝突を回避する構成の場合には、左側ウインカの作動状態を取得するようにすればよい。また、両側の隣接車線に隣接車線に車線変更する際の衝突を回避する構成の場合には、両側のウインカの作動状態を取得し、続く処理にて何れのウインカが作動しているかを判定するようにすればよい。
【0062】
ウインカ15が作動していれば(S520:YES)、車線変更可否判定処理による判定結果をRAM等のメモリから読み出し、この内容を報知するよう警報装置21に指示し(S530:報知手段)、制御処理を終了する。また、ウインカ15が作動していなければ(S520:NO)、直ちに制御処理を終了する。
【0063】
このような制御処理にて判定結果を報知するよう指示された警報装置21は、判定結果毎に異なる表示や鳴動を行い、判定結果に基づいて運転者が車線変更に関して行うべき操作を報知する。
【0064】
またエンジン制御部31とブレーキ制御部32は、警報装置21同様、ウィンカ15が作動していれば、車線変更可否判定処理による判定結果に応じて自動的に加速、または減速してもよい。具体的には、ウィンカ15が作動し且つ車線変更可否判定処理により減速指示判定が行われている場合は、等速車線変更が可能と判定されるまで自動減速することをブレーキ制御部32に指示し、ウィンカ15が作動し且つ車線変更可否判定処理により加速指示判定が行われている場合は、等速車線変更が可能と判定されるまで自動加速することをエンジン制御部31に指示してもよい。
【0065】
[本実施形態による効果]
以上のように詳述した衝突回避支援システム1において車線変更制御部10は、車線変更支援処理にて、隣接車線において自車両の真横の領域を含む領域を、自車両が現在の速度のまま車線変更する際に必要となる等速変更領域として設定するとともに、隣接車線において等速変更領域よりも自車両の進行方向に対して前方の領域を含み、自車両が加速してから車線変更する際に必要となる加速変更領域、および隣接車線において等速変更領域よりも自車両の進行方向に対して後方の領域を含み、自車両が減速してから車線変更する際に必要となる減速変更領域を設定する。そして、他車両の位置の検出結果に基づいて、各変更領域設定手段が設定した各領域のうち、他車両が存在しない領域を抽出する。さらに、他車両が存在しない領域が存在しない場合、車線変更すると危険であると判断し、等速変更領域に他車両が存在しない場合、現在の速度のまま車線変更可能と判断し、加速変更領域または減速変更領域に他車両が存在しない場合、加速または減速すれば車線変更可能と判断する。
【0066】
即ち、本発明の衝突回避支援システム1においては、各変更領域設定手段が設定した複数の領域のそれぞれに他車両が位置するか否かに応じて、自車両が等速のまま、或いは加速または減速すれば車線変更できると判断することができる。
【0067】
従って、このような衝突回避支援システム1によれば、自車両が等速のままでは車線変更できない場合であっても、加速または減速すれば車線変更できる場合には、その旨の判断をすることができる。よって、本発明の車線変更制御部10では、どのようにすれば車線変更できるようになるかについての判断をすることができるので、車線変更時の運転者の負担をより軽減することができる。
【0068】
また、衝突回避支援システム1において車線変更制御部10は、自車両の移動速度の情報を取得し、自車両の移動速度の情報に基づいて各領域の大きさを設定する。特に、自車両または他車両が衝突を回避することができる程度の時間に設定された回避時間(例えば1秒程度)に自車両が走行可能な範囲内を各領域の大きさに設定する。
【0069】
このような衝突回避支援システム1によれば、自車両の移動速度に応じた適切な領域の大きさを設定することができる。
また、衝突回避支援システム1において車線変更制御部10は、隣接車線に存在する他車両の自車両に対する相対速度の検出結果を取得し、この相対速度に応じて各領域の大きさを補正する。特に、この際には、各領域において、隣接車線における自車両の真横の位置を基準として、他車両が存在する方向側の端部の位置を、相対速度に応じて変更することによって各領域の大きさを補正する。
【0070】
これらのような衝突回避支援システム1によれば、車線変更可能か否かを判定する際に利用する各領域の大きさを相対速度に応じて変更するので、車線変更可能か否かの判定をより実情に合わせた形態で行うことができる。
【0071】
さらに、衝突回避支援システム1において車線変更制御部10は、何れかの領域に他車両が存在する場合であって、かつ他車両が自車両に接近する相対速度が予め設定された基準速度以上である場合に、他車両が存在しない領域がある場合であっても、この他車両が通過するまで待機すべきと判断する。
【0072】
このような衝突回避支援システム1によれば、他車両が接近してくる場合には、この他車両が通過するまで待機すべきと判断することで、より細かな判断を行うことができる。
また、衝突回避支援システム1において車線変更制御部10は、車線変更可否判定処理(S150)による判断結果を運転者に報知する。
【0073】
このような衝突回避支援システム1によれば、自車両の運転者が安全に車線変更できるように、自車両を加速または減速すべき旨を報知することができる。
さらに、衝突回避支援システム1において車線変更制御部10は、自車両の運転者が車線変更する際の操作の検出結果を取得し、車線変更する際の操作が検出されないときには車線変更可否判定処理(S150)による判断結果を報知する作動を禁止する。
【0074】
このような衝突回避支援システム1によれば、車線変更するときのみに報知を行うことができるので、車線変更しないときに報知がされることによる煩わしさを防止することができる。
【0075】
[その他の実施形態]
本発明の実施の形態は、上記の実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の形態を採りうる。
【0076】
例えば、上記実施形態においては、車線変更可否判定処理(S150)による判断結果に応じて、制御処理(S160)では報知を行うようにしたが、制御処理では、判断結果に応じて自車両の挙動を制御するようにしてもよい(挙動制御手段)。
【0077】
また、制御処理では、ウインカ15の作動状態を取得するようにしたが、自車両の運転者が車線変更する際の操作であればどのような操作を検出するようにしてもよい。
さらに、領域設定・判定処理(S140)では、各領域についてベース領域を設定し、一部の領域についてベース領域の大きさを補正するようにしたが、全てのベース領域について補正するようにしてもよい。
【0078】
上記のようにしても、上記実施形態と概ね同様の効果を享受することができる。
【符号の説明】
【0079】
1…衝突回避支援システム、10…車線変更制御部、11…前側方センサ、12…側方センサ、13…後側方センサ、14…車輪速センサ、15…ウインカ、21…警報装置、31…エンジン制御部、32…ブレーキ制御部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載され、自車両が走行する車線に対して隣接する車線(以下、「隣接車線」という。)に自車両が車線変更する際に他車両と衝突しないように支援を行う衝突回避支援装置であって、
前記隣接車線において自車両の真横の領域を含む領域を、自車両が現在の速度のまま車線変更する際に必要となる等速変更領域として設定する等速変更領域設定手段と、
前記隣接車線において前記等速変更領域よりも自車両の進行方向に対して前方の領域を含み、自車両が加速してから車線変更する際に必要となる加速変更領域、および前記隣接車線において前記等速変更領域よりも自車両の進行方向に対して後方の領域を含み、自車両が減速してから車線変更する際に必要となる減速変更領域、のうちの少なくとも一方を設定する加減速変更領域設定手段と、
前記隣接車線を走行する他車両の位置の検出結果を取得する他車両位置取得手段と、
前記他車両の位置の検出結果に基づいて、前記各変更領域設定手段が設定した各領域のうち、他車両が存在しない領域を抽出する領域抽出手段と、
他車両が存在しない領域が存在しない場合、車線変更すると危険であると判断し、前記等速変更領域に他車両が存在しない場合、現在の速度のまま車線変更可能と判断し、前記加速変更領域または前記減速変更領域に他車両が存在しない場合、加速または減速すれば車線変更可能と判断する車線変更判断手段と、
を備えたことを特徴とする衝突回避支援装置。
【請求項2】
請求項1に記載の衝突回避支援装置において、
自車両の移動速度の情報を取得する車速取得手段を備え、
前記等速変更領域設定手段および前記加減速変更領域設定手段は、前記自車両の移動速度の情報に基づいて前記各領域の大きさを設定すること
を特徴とする衝突回避支援装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の衝突回避支援装置において、
前記隣接車線に存在する他車両の自車両に対する相対速度の検出結果を取得する相対速度取得手段と、
前記相対速度に応じて前記各領域の大きさを補正する領域補正手段と、
を備えたことを特徴とする衝突回避支援装置。
【請求項4】
請求項3に記載の衝突回避支援装置において、
前記領域補正手段は、前記隣接車線における自車両の真横の位置を基準として、前記各領域において、他車両が存在する方向側の端部の位置を、前記相対速度に応じて変更することによって前記各領域の大きさを補正すること
を特徴とする衝突回避支援装置。
【請求項5】
請求項1または請求項2に記載の衝突回避支援装置において、
前記隣接車線に存在する他車両の自車両に対する相対速度の検出結果を取得する相対速度取得手段、を備え、
前記車線変更判断手段は、前記何れかの領域に他車両が存在する場合であって、かつ他車両が自車両に接近する相対速度が予め設定された基準速度以上である場合に、他車両が存在しない領域がある場合であっても、該他車両が通過するまで待機すべきと判断すること
を特徴とする衝突回避支援装置。
【請求項6】
請求項1〜請求項5の何れか1項に記載の衝突回避支援装置において、
前記車線変更判断手段による判断結果を運転者に報知する報知手段、
を備えたことを特徴とする衝突回避支援装置。
【請求項7】
請求項6に記載の衝突回避支援装置において、
自車両の運転者が車線変更する際の操作の検出結果を取得する操作結果取得手段と、
前記車線変更する際の操作が検出されないときに前記報知手段の作動を禁止する作動禁止手段と、
を備えたことを特徴とする衝突回避支援装置。
【請求項8】
請求項1〜請求項5の何れか1項に記載の衝突回避支援装置において、
前記車線変更判断手段により加速または減速すれば車線変更可能と判断された場合に、前記車線変更判断手段により現在の速度のまま車線変更可能と判断されるまで自動的に加速または減速する加減速手段、
を備えたことを特徴とする衝突回避支援装置
【請求項9】
請求項8に記載の衝突回避支援装置において、
自車両の運転者が車線変更する際の操作の検出結果を取得する操作結果取得手段と、
前記車線変更する際の操作が検出されないときに前記加減速手段の作動を禁止する作動禁止手段と、
を備えたことを特徴とする衝突回避支援装置。
【請求項10】
コンピュータに請求項1〜請求項9の何れか1項に記載の衝突回避支援装置を構成する各手段を実現させるための衝突回避支援プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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