説明

衝突防止装置

【課題】周囲の物との衝突を確実に防止できる衝突防止装置を提供する。
【解決手段】腕支持装置1は、腕台3を移動可能に支持する複数の関節を有する多関節アーム2と、複数の関節の動きを固定可能な複数のパウダブレーキと、ICタグ16が所定距離内に近づいたときにICタグ16の記録情報を非接触で読取可能な非接触型リーダ5と、非接触リーダ5の向きを可動駆動可能なリーダ駆動機構6と、非接触型リーダ5の読取方向が腕台3の移動方向に向くようにリーダ駆動機構6を制御すると共に、非接触型リーダ5がICタグ16の情報を読み取ったときにパウダブレーキを固定制御する制御部とを備えるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、周囲の物等との衝突を防止する衝突防止装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
脳神経外科手術は、医師が手術顕微鏡で微細な手術部位を観察しつつ、メス等を用いて手作業で処置を行うため、非常に緻密な作業が要求される。また、このような手術は長時間を要するものが多い。手術中には僅かな手の震えなどによっても手術部位以外の組織を損傷させる恐れがあるため、医師は、腕を支持固定する装置を使用して手術を実施している。
【0003】
このような装置は、腕を支持するだけでなく、手術部位の位置に合わせて手先の高さや向き、傾きなどを調整可能な必要がある。このような位置調整可能な装置が、一例として特許文献1に開示されている。
【0004】
特許文献1に示されたバランスチェアーでは、腕を支持する関節式保持アーム(移動機構)が移動自在に設けられ、オペレータが所望する位置で固定可能に構成されている。
【0005】
【特許文献1】特開平10−272163号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
手術を行う際には、手術顕微鏡、患者の血圧・心拍数などを把握するための測定装置や、患者に酸素を供給するための酸素供給装置、薬剤投与器具、メス等を載せる術具台など多くの装置や器具が医師や患者の周りに置かれている。これらの装置や器具、患者は、覆布に覆われている場合も多いし、医師は手術に集中しているため、術野からの視認が難しい。従来の特許文献1に記載されたような装置では、固定していないときに関節式保持アーム(移動機構)が自在に動くため、周囲の装置や器具に衝突して破損させたり、患者に衝突して怪我をさせたりする恐れがあるという問題がある。
【0007】
本発明は前記の課題を解決するためになされたもので、周囲の物等が視認できない位置に存在していたとしても、これらとの衝突を確実に防止できる衝突防止装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の目的を達成するためになされた特許請求の範囲の請求項1に記載の衝突防止装置は、移動台を移動可能に支持する複数の可動部を有する移動機構と、該移動機構に付されて該可動部ごとの動きを固定可能な複数の電気制御ブレーキと、被検出体が所定距離内にあるときに該被検出体の記録情報を非接触で読取可能な非接触型リーダと、該非接触リーダの向きを可動駆動可能に該移動機構に配するリーダ駆動機構と、該非接触型リーダの読取方向が該移動台の移動方向に向くように該リーダ駆動機構を制御すると共に、該非接触型リーダが該被検出体の記録情報を読み取ったときに該複数の電気制動ブレーキを固定制御する制御部と、を備えることを特徴とする。
【0009】
請求項2に記載の衝突防止装置は、請求項1に記載されたもので、前記移動機構は、前記移動台に作用する外力を検知する力覚センサを備え、前記制御部は、該力覚センサの検知信号に基づいて該移動台の前記移動方向を決定することを特徴とする。
【0010】
請求項3に記載の衝突防止装置は、請求項1に記載されたもので、前記移動機構は、前記複数の可動部の動きを検知する複数の作動量センサを備え、前記制御部は、該複数の作動量センサの検知信号に基づいて該移動台の前記移動方向を決定することを特徴とする。
【0011】
請求項4に記載の衝突防止装置は、請求項1に記載されたもので、前記移動機構または前記移動台は、該移動台の加速度を検知する加速度センサを備え、前記制御部は、該加速度センサの検知信号に基づいて該移動台の前記移動方向を決定することを特徴とする。
【0012】
請求項5に記載の衝突防止装置は、請求項1に記載されたもので、前記非接触型リーダは、前記被検出体と電波または電磁波によって通信して、該被検出体の記録情報を読み取ることを特徴とする。
【0013】
請求項6に記載の衝突防止装置は、請求項5に記載されたもので、前記非接触型リーダが読み取り可能な前記所定距離が1cm〜30cmの範囲内であることを特徴とする。
【0014】
請求項7に記載の衝突防止装置は、請求項1から6のいずれかに記載されたもので、前記移動台は、オペレータの腕を支持する腕台であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の衝突防止装置は、移動機構の支持する移動台の移動方向に、非接触型リーダの読取方向が向くように、制御部がリーダ移動機構を制御する。非接触型リーダは、読取方向にある被検出体が所定距離内のときに被検出体を検出可能なものである。制御部は、非接触型リーダが被検出体を検出したときに電気制御ブレーキを固定制御して可動部の動きを固定する。これにより、周囲の物等に被検出体を貼り付けるなどして予め付しておくことで、移動機構が所定距離内に近づいたときに移動機構の動きが自動的に固定されて、周囲の物等との衝突を確実に防止することができる。
【0016】
本発明の衝突防止装置によれば、移動機構に、移動台に作用する力を検知する力覚センサを備え、制御部は、力覚センサの検知信号に基づいて移動台の移動方向を決定することにより、非接触型リーダを移動方向に常に正確に向けることができ、周囲の物等との衝突を一層確実に防止することができる。
【0017】
本発明の衝突防止装置によれば、移動機構に複数の可動部の動きを検知する複数の作動量センサを備え、制御部は、複数の作動量センサの検知信号に基づいて移動台の移動方向を決定することにより、非接触型リーダを移動方向に常に正確に向けることができ、周囲の物等との衝突を一層確実に防止することができる。
【0018】
本発明の衝突防止装置によれば、移動機構または移動台に、移動台の加速度を検知する加速度センサを備え、制御部は、加速度センサの検知信号に基づいて移動台の移動方向を決定することにより、非接触型リーダを移動方向に常に正確に向けることができ、周囲の物等との衝突を一層確実に防止することができる。
【0019】
本発明の衝突防止装置では、電波または電磁波によって非接触型リーダが被検出体から情報を読み取るものである。このような非接触型リーダは、被検出体との間に布が存在していても情報を読取可能なため、周囲の物等が布で覆われていて視認できない位置にあったとしても、衝突を確実に防止することができる。また、このような非接触型リーダや被検出体は、読み取り精度が高く、しかも多様な製品が安価に販売されているため、誤動作なく衝突を確実に防止できると共に、装置価格を安価なものにすることができる。
【0020】
本発明の衝突防止装置によれば、非接触型リーダの読み取り可能な所定距離が1〜30cmの範囲内であることにより、被検出体から遠すぎず、かつ衝突するほど近すぎない距離で移動台を停止することができる。
【発明を実施するための好ましい形態】
【0021】
以下、本発明の実施の好ましい形態を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施の形態に限定されるものではない。
【0022】
図2には、本発明の衝突防止装置を適用する腕支持装置が、椅子に装着されて、その状態が斜視図で示されている。この腕支持装置1は、一例として、脳神経外科手術の際に、手術を行う医師が腕を支持固定するために用いられるものである。なお、本明細書中で右、左、前、後などの方向を説明する場合には、椅子30に座った医師から見た場合の方向で記載する。
【0023】
図2に示されるように、腕支持装置1は、椅子30の座面31の裏側後部から右手側方に突出する取付台32aに装着されている。なお、椅子30の座面の裏側後部から左手側方に突出する取付台32bにも、腕支持装置1の左右対称形のものが装着されるが、左右対称形である以外は同様のものであるため、図示や説明を省略する。
【0024】
腕支持装置1は、多関節アーム2、腕台3、フットスイッチ4、および制御ボックス7を備えている。
【0025】
多関節アーム2は、腕台3を移動可能に支持する複数の可動部を有する移動機構であって、この例では、可動部である5つの関節11,12,13,14,15を有して5自由度に構成されている。関節11〜15は、回転関節であり、関節11,15は、その回転軸が略垂直方向を向いて首振り回動する。また、関節12〜14は、その回転軸が水平方向であると共に、各々の回転軸が平行に設けられて、腕振り回動する。
【0026】
多関節アーム2には、関節11〜15の各々の動きを制御された制動トルクで制動すると共に固定(ロック)可能な制動トルクを有するパウダブレーキ11a〜15aが設けられている。パウダブレーキ11a〜15aは、電気制御ブレーキの一例であって、制動伝達媒体に磁性粉体(パウダー)を用いて制御電流に比例した制動トルクを発生して、安定して確実かつスムーズに制動トルクを調整可能なものである。
【0027】
また、多関節アーム2には、関節11〜15の各々の動きを検出する作動量センサの一例であるエンコーダ11b〜15bが設けられている。エンコーダ11b〜15bは、関節11〜15の回転変位量、または回転角変位量などの動きの量に基づいたディジタルパルス信号を出力する。この場合、回転式のエンコーダを用いている。さらに、多関節アーム2には、停電時に関節11〜15の各々の動きを固定(ロック)する無励磁作動ブレーキや、各関節11〜15が所定の初期姿勢となるように付勢する定荷重ばねが設けられている。
【0028】
多関節アーム2の先端部21には、6軸力トルクセンサ8を介して腕台3が設けられている。6軸力トルクセンサ8は、力覚センサの一例であって、3軸方向の力、および3軸まわりのトルクを検知するものである。この6軸力トルクセンサ8によって、腕台3に掛る力やトルクが検出される。
【0029】
また、多関節アーム2の先端部21には、その下部に非接触型リーダ5がリーダ駆動機構6によって取り付けられている。非接触型リーダ5は、一例として、RFID(Radio Frequency Identification)方式のリーダであって、電波を用いて送受信することで、被検出体のICタグ16と近距離通信を行い、ICタグ16に記録されている情報を非接触で読み取る。非接触型リーダ5には、図1に示される読取面5aの内面近くに、送受信用のアンテナが備えられている。非接触型リーダ5は、短い時間間隔でICタグ16に対する質問信号を変調してアンテナから送信する。また、非接触型リーダ5は、アンテナで受信した信号を復調することで、ICタグ16の送信した応答信号を復調し、後述する制御部9に即座に出力する。
【0030】
非接触型リーダ5と通信を行うICタグ16は、RFICタグ、電子タグ、無線タグ、無線ICタグなどとも呼ばれ、一例として薄いカードの内部に、メモリを有する小型集積回路やアンテナなどの電気回路が備えられ、メモリに記録された情報をアンテナから電波で送信可能に構成されている。この場合、メモリには、ICタグ16の識別番号が予め記録されている。ICタグ16は、非接触型リーダ5から送信される電波をエネルギー源として作動して、質問信号に対応する応答信号をアンテナから送信する。応答信号には、ICタグ16の識別番号が含まれている。
【0031】
ICタグ16は、図1,2に示されるように、腕支持装置1の周囲に配置される、例えば測定装置などの装置90に予め貼り付けられている。この場合、装置90には、非接触型リーダ5の読取面5aに対面するような表面位置の近傍にICタグ16を貼り付けておく。
【0032】
非接触型リーダ5およびICタグ16は、一例として1cm〜30cm程度の所定の短い距離内に互いがあるときに非接触で通信可能なものである。このため、ICタグ16から遠すぎず、かつ装置90に衝突するほど近すぎない距離でICタグ16を検出することができる。このような非接触型リーダ5およびICタグ16は、通信可能距離が所望する距離と合致する市販のRFID製品を選択することや、非接触型リーダ5またはICタグ16の送信電波強度を適宜調整することで得られる。
【0033】
このような、RFID方式の非接触型リーダ5やICタグ16は、互いの間に布やビニール製幕、紙製幕などの遮蔽物が存在したとして、上記した通信可能な距離内に互いが入れば通信可能なため、装置90が布等で覆われていて視認できない位置にあったとしても非接触型リーダ5がIC16の情報を確実に読み取って、衝突を確実に防止することができる。また、このような非接触型リーダ5やICタグ16は、通信可能な距離内では読み取り精度が高く、しかも多様な製品が安価に販売されている。このため、誤動作のない装置にすることができ、装置価格を安価なものにすることができる。
【0034】
図1に、非接触型リーダ5がICタグ16と通信可能な範囲Rを、2点鎖線で示す。範囲Rは、実際には立体的な範囲であるが、図1では、そのうちの水平方向の範囲を図示している。
【0035】
リーダ駆動機構6は、その内部に回転量を制御可能なサーボモータ(非図示)が内蔵されて、図1に示されるように非接触型リーダ5の向きを首振り回動するように可動駆動可能であると共に、非接触型リーダ5を停止させる位置を制御可能に構成されている。
【0036】
腕台3は、移動台の一例であって、オペレータである医師の腕を載せて支持可能なものであり、前腕支持台3aおよび手支持台3bで構成されている。前腕支持台3aは、医師の前腕にフィットして支持するように、樹脂によって上向きの浅い略U字型に形成されている。この前腕支持台3aは、6軸力トルクセンサ8に取り付けられた支柱3dの上部に固定されている。手支持台3bは、手の平の側面を載せて支持するように、前腕支持台3aよりも小さな大きさで、樹脂によって上向きの浅い略U字型に形成されている。手支持台3bは、前腕支持台3aの下部から前方に伸びる金属製の支持棒の先端に固定されている。
【0037】
腕台3は、関節11〜15が各々の所定の初期姿勢となるように付勢されていることで、待機位置に向けて付勢されている。この付勢力は、腕台3に何も載せられていないときに腕台3を待機位置に移動させ、腕台3の使用時には腕から掛けられる力に支持バランスさせ、医師に適度な反力を与えつつ腕台3の位置を容易に調整可能な付勢力である。腕台3の待機位置とは、一例として、医師が椅子30に座った際に医師の術野に対して上方後方で椅子30よりも外側に位置するものであって、腕支持装置1を使用しないときに医師に干渉しない位置であり、再度の使用時に無理なく容易に使用開始できる位置である。
【0038】
フットスイッチ4は、図2に示されるように、椅子30の足置台33に備えられて、足で踏み込み操作されて、腕台3を固定するか、固定を解除するかの操作を行うためのものである。このフットスイッチ4は、一度踏み込まれるとON状態を維持し、再度踏み込まれるとON状態が解除されてOFF状態を維持する。
【0039】
制御ボックス7は、図2に示されるように椅子30の台座部分に配され、腕支持装置1の作動を制御する。上記したフットスイッチ4、6軸力トルクセンサ8、パウダブレーキ11a〜15a、およびエンコーダ11b〜15bなどは、各々電気配線(非図示)で制御ボックス7に接続されている。
【0040】
図3には、電気系統図が示されている。制御ボックス7には、制御部9、D/A変換器11e〜15e、ドライバ11f〜15f、カウンタ11g〜15g、サーボアンプ17、A/D変換器41、およびアンプ42が備えられている。また制御ボックス7には、各部や非励磁作動ブレーキに電源を供給する電源部(共に非図示)が備えられている。
【0041】
制御部9は、中央演算装置、動作プログラムや制御用の変数などが記憶されるROM、演算処理に使用されるRAM、外部機器とのインタフェース回路、基準クロック信号を生成用の水晶発振器(共に非図示)などを備えて腕支持装置1の動作を制御する。この制御部9のROMには、さらに、腕支持装置1の周囲に配置される機器90に貼り付けられたICタグ16の識別番号が記録されている。
【0042】
図3に示されるように、制御部9には、フットスイッチ4が接続されて、このフットスイッチ4のON/OFF信号が入力される。また、制御部9には、6軸力トルクセンサ8によって検知された検知信号が、アンプ42で増幅されて、さらにA/D変換器41でアナログ/ディジタル変換されて入力される。また、制御部9は、5系統の制動量制御信号を出力し、この制動量制御信号がD/A変換器11e〜15eでディジタル/アナログ変換され、さらに、ドライバ11f〜15fで駆動信号となって、パウダブレーキ11a〜15aを各々独立して制御する。さらに、制御部9には、エンコーダ11b〜15bによって出力されるパルス信号が、カウンタ11g〜15gによってカウントされて検知信号として入力される。この検知信号に基づいて、制御部9は、関節11〜15の回転速度や回転角度、回転位置を判別することができる。
【0043】
さらに、図3に示されるように、制御部9には、非接触型リーダ5によって受信された応答信号Sが入力される。また、制御部9は、サーボアンプ17を介して、リーダ駆動機構6に内蔵されるサーボモータ16を位置制御する。
【0044】
次に、腕支持装置1の動作および制御方法について説明する。
【0045】
図4のフローチャートに示されるように、制御部9が作動を開始するとまず中央演算処理装置が動作プログラムをROMから読み込むなどの初期化を行うと共に、外部割込を許可する(ステップ61)。制御部9は、非接触型リーダ5から応答信号Sが入力したときに、外部割込されて、後述する割込処理Aを行う。
【0046】
続いて、制御部9は、ループ処理を開始する(ステップ62)。このループ処理では、制御部9は、フットスイッチ4がONかOFFかを判別する(ステップ63)。制御部9は、フットスイッチ4がONであれば、全てのパウダブレーキ11a〜15aを固定させる制動トルクに制御する(ステップ64)。これにより、関節11〜15の動きが固定されて、腕台3が固定される。医師は、腕台3の位置調整後に、フットスイッチ4をONすることで、腕台3を固定できる。腕台3が固定されて、医師は手術を行うことができる。
【0047】
ステップ63で、制御部9は、フットスイッチ4がONされてないときには、6軸力トルクセンサ8の検出値を読み取る(ステップ65)。
【0048】
制御部9は、読み込んだ6軸力トルクセンサ8の検出値に基づいて、腕台3を移動させるために医師の腕が腕台3に作用させている外力の方向を算出し、腕台3先端である手支持台3bの移動方向を決定する(ステップ66)。次に、制御部9は、腕台3先端を移動させる移動速度を決定して、この移動速度で移動方向に腕台3が動くような関節11〜15の回転速度を算出し、この回転速度で関節11〜15が動くような制動トルクを算出して、この制動トルクになるようにパウダブレーキ11a〜15aを制御する(ステップ67)。
【0049】
腕支持装置1は、腕台3をゆっくりとした微動速度で動かす微動モード、腕台3を速い粗動速度で動かす粗動モード、および、腕台3を多関節アーム2の付勢力で自動的に待機位置に戻す待機位置モードの3つのモードを有しており、各モードに対応した移動速度に決定する。モード切換は、腕台3を6軸力トルクセンサ8の方向に押す力の大きさで制御部9が判別する。例えば、腕台3に掛る腕の重さ以上の所定の閾値を超える力で押したときには微動モード、腕台3を所定の閾値以下の弱い力で押したときには粗動モード、腕台3に腕の重さが全く掛らないときには待機位置モードと制御部9が判別する。このように、各モードに応じた移動速度で腕台3が動くことにより、腕台3の位置の微調整や粗調整を容易に行うことができる。つまり、腕台3の位置を僅かに変更したい場合に、ゆっくりと動いて確実に位置調整でき、腕台3の位置を大きく変更したい場合には、速く動いて迅速に位置調整できる。また、腕台3から腕を外したときに、安全な速度で待機位置に移動させることができる。
【0050】
続いて、制御部9は、ステップ66で決定した移動方向に非接触型リーダ5の読取面5aが向くように、リーダ駆動機構6を位置制御する(ステップ68)。このため、非接触型リーダ5の読取面5aは、腕台3先端が移動する方向に正確に向けられる。なお、リーダ駆動機構6は、非接触型リーダ5の方向を首振り回動する方向にのみ動かすことができるため、リーダ駆動機構6の可動範囲内で移動方向に向かせる。
【0051】
制御部9は、ステップ62〜69のループ処理を短い時間間隔で繰り返し実行する。
【0052】
上記のようにステップ62〜69のループ処理を行うことで、例えば、図1に示されるように、2点鎖線矢印で示される移動方向Xに腕台3先端が移動しているときには、2点鎖線で示される非接触型リーダ5のように、読取面5aがこの移動方向Xを向くようにリーダ駆動機構6が非接触型リーダ5を回動させる。また、同図に示されるように、実線矢印で示される移動方向Yに腕台3先端が移動しているときには、実線で示される非接触型リーダ5のように、読取面5aがこの移動方向Yを向くようにリーダ駆動機構6が非接触型リーダ5を回動させる。したがって、読取面5aは、腕台3の移動方向に常に正確に向けられる。
【0053】
制御部9は、非接触型リーダ5から応答信号Sが入力したときは、割込処理Aを実行する。
【0054】
図5のフローチャートに示されるように、割込処理Aでは、制御部9は、応答信号Sに、予めROMに記録されている識別番号が含まれているか否かを判別することで、腕支持装置1の周囲の機器に貼り付けられたICタグ16からの応答信号か否かを判別する(ステップ81)。制御部9は、ICタグ16であると判別したときに、直ちにパウダブレーキ11a〜15aを固定させる制動トルクに制御する(ステップ82)。これにより、関節11〜15の動きが固定されて、腕台3が直ちに停止する。
【0055】
この状態を維持して、制御部9は、フットスイッチ4がON−OFF操作されるか否かを判別する(ステップ83)。なお、ステップ82まではフットスイッチ4はOFFであるので、ステップ83では、フットスイッチ4が一度ONされてからOFFされることを検出する。制御部9は、フットスイッチ4がON−OFF操作されないときには、このステップ83を繰り返し実行することで待ち受け状態となり、ON−OFF操作されたときには、割込処理Aを終了して、ステップ62〜69のループ処理に戻る。また、制御部9は、ステップ81でICタグ16からの応答信号でないと判別したときには、割込処理Aを終了し、ステップ62〜69のループ処理に戻る。
【0056】
例えば、図1の移動方向Yに腕台3がさらに移動して、ICタグ16が非接触型リーダ5の通信可能な範囲Rの内側に入ったときに、非接触型リーダ5とICタグ16とが通信を開始して、非接触型リーダ5が制御部9に応答信号Sを出力する。これにより、割込処理Aが実行されて、制御部9がICタグ16を検出する。前記したように非接触型リーダ5は、リーダ駆動機構6に回動されて読取面5aが移動方向Yを向いているので、ICタグ16の接近を可及的速やかに検出することができる。制御部9は、ICタグ16の検出により、パウダブレーキ11a〜15aを固定制御する。このため、関節11〜15の動きが固定され、多関節アーム2や腕台3が直ちに停止する。これにより、多関節アーム2や腕台3が周囲に配置された装置90と衝突することを確実に防止することができる。
【0057】
腕台3が停止したときには、医師はフットペダル4をON−OFF操作することで、腕台3が移動可能になる。
【0058】
このように、本発明の衝突防止装置を適用した腕支持装置1によれば、多関節アーム2の支持する腕台3先端の移動方向に、非接触型リーダ5の読取方向が向くように、制御部9がリーダ駆動機構6を制御する。非接触型リーダ5は、読取方向にあるICタグ16が所定範囲R内のときにICタグ16と通信可能なものである。制御部9は、非接触型リーダ5がICタグ16と通信して、ICタグ16の識別番号を検出したときにパウダブレーキ11a〜15aを固定制御して関節11〜15の動きを固定する。これにより、周囲の物にICタグ16を貼り付けるなどして予め付しておくことで、多関節アーム2とICタグ16とが所定距離R内に近づいたときに多関節アーム2の動きが自動的に固定される。したがって、多関節アーム2や腕台3と周囲の物との衝突を確実に防止することができる。
【0059】
なお、上記した説明では、制御部9は、6軸力トルクセンサ8の検出値から腕台3先端の移動方向を決定し、この移動方向に非接触型リーダ5の読取方向を向けるように制御したが、非接触型リーダ5を向ける方向を、別の方法で決定することもできる。
【0060】
一例として、図6に示される制御処理Bのフローチャートを参照しつつ説明する。
【0061】
例えば、外力や付勢力によって腕台3が動いたときには、制御部9は、エンコーダ11a〜15aの検出値から関節11〜15が動いたことを判別できる。関節11〜15のいずれかが動いたときに、制御部9は、図6に示される制御処理Bを開始する。この制御処理Bを行う場合には、図4のフローチャート中のステップ68は行わず、ステップ62〜69のループ外または、ループ内で適宜処理を行う。
【0062】
制御処理Bでは、制御部9は、関節11〜15の回転位置や角度変化と、各関節を接続するリンク長とから腕台3先端の移動方向を算出する(ステップ85)。続いて、制御部9は、算出した移動方向に非接触型リーダ5の読取面5aが向くように、リーダ駆動機構6を位置制御する(ステップ86)。制御部9は、関節11〜15が動いたことを検出する都度、制御処理Bを行う。このため、腕台3先端の動く方向に、非接触型リーダ5の読取面5aを、常に正確に向けることができる。
【0063】
非接触型リーダ5を向ける方向を決定する他の一例について説明する。
【0064】
図3に破線で示されるように、3軸加速度センサ10を制御部9に接続し、3軸加速度センサ10の検出信号を制御部9に入力する。この3軸加速度センサ10は、3軸方向の加速度を検知できるものであり、手支持台3b先端の裏面に設けておく(非図示)。制御部9は、3軸加速度センサ10の検出信号に基づいて腕台3先端の移動方向を算出し、算出した移動方向に接触型リーダ5の読取面5aが向くようにリーダ駆動機構6を位置制御する。この制御も制御処理Bを行う場合に準じて適宜処理を行う。腕台3先端の速度や移動方向が変わると加速度が変化するので、腕台3先端の動く方向に、非接触型リーダ5の読取面5aを、常に正確に向けることができる。
【0065】
なお、上記した説明では、腕支持装置1の周囲に装置90が1つ配置された例について説明したが、周囲に複数の装置や器具が配置されている場合には、各々の装置や器具に、ICタグ16と同様のものを貼り付けておくことで、これらの装置等と、腕台3や多関節アーム2との衝突を防止することができる。また、非図示の患者や患者の服、患者の覆布にICタグ16を貼り付けておくことで、患者との衝突を防止することができる。複数のICタグ16を用いる場合、各々のICタグ16に記憶させておく識別番号は、同じ識別番号であっても良いし、異なる識別番号であっても良い。同じ識別番号である場合は、前記したように制御部9のROMに1つの識別番号を記憶させておけばよく、異なる識別番号である場合には、全ての識別番号を記憶させておけばよい。この場合、制御部9は、応答信号Sが入力されたときに、応答信号S中の識別番号と、ROMに記憶されているいずれかの識別番号とが一致したときにパウダブレーキ11a〜15aを停止させる。
【0066】
また、リーダ駆動機構6は、非接触型リーダ5を1自由度で回動させる例について説明したが、非接触型リーダ5を複数の自由度で動かす構成とすることもできる。この場合、非接触型リーダ5が被検出体であるICタグ16をより確実に検出することができる。また、リーダ駆動機構6は、サーボモータを用いて非接触型リーダ5を回動させる例について説明したが、ステッピングモータを用いることもできる。
【0067】
また、非接触型リーダ5とICタグ16とが電波によって通信可能なものである例について説明したが、電磁波によって通信するものを用いても良い。また、非接触型リーダ5とICタグ16とが布等で遮蔽されない場合や、布等が透明である場合には、赤外線や光によって通信するものを用いても良い。また、ICタグ16が非接触型リーダ5から送信された電波をエネルギー源として作動する所謂パッシブタイプのICタグを用いた例について説明したが、ICタグ16が電池を内蔵して、この電池をエネルギー源として作動する所謂アクティブタイプのICタグを用いても良い。
【0068】
また、オペレータである医師の腕から作用する力で腕台3が移動可能に多関節アーム2で支持されている例について説明したが、オペレータの足や顎などを移動台が支持して、足や顎などの力で移動台が移動される装置に適用することもできる。また、モータ等によって能動的に移動台を移動させるロボットアームなどの装置に本発明を適用して、周囲の物との衝突を防止することもできる。
【0069】
また、腕台3の近くなどに警告ランプを設けておき、周囲の装置90との接近によってステップ82でパウダブレーキ11a〜15aが固定された際に、制御部9が、この警告ランプを点滅させることもできる。
【0070】
また、腕支持装置1が5自由度の多関節アーム2を備えた例について説明したが、その自由度は任意のものに変更することができる。また、関節は、回転関節に換えて、直動関節を用いることもできる。
【0071】
また、腕支持装置1が6軸力トルクセンサ8を備えた例について説明したが、可動部の数や移動制御の精度に応じて3軸力センサ、1軸力センサなどに換えることもできる。また、3軸加速度センサ10を備えた例の場合にも、可動部の数や移動制御の精度に応じて2軸加速度センサ、1軸加速度センサなどに換えることもできる。また、多関節アーム2に、腕台3先端とほぼ同様の動きをする位置があれば、その位置に3軸加速度センサを設けることもできる。
【0072】
また、多関節アーム2に周囲の装置90と当たりやすい箇所があれば、その箇所にリーダ駆動機構6や非接触型リーダ5を設けることもできる。
【0073】
また、腕支持装置1がパウダブレーキ11a〜15aを備えた例について説明したが、これに換えて、電磁コイルの通電で発生する磁界とヒステリシス材の内部磁束の向きとのずれによって制動トルクを発生するヒステリシスブレーキや、制動トルク伝達の媒体に電気粘性流体(ER流体)を用いた電気粘性流体ブレーキ(ERブレーキ)や、制動トルク伝達の媒体に磁性流体(MR流体)を用いた磁性流体ブレーキ(MRブレーキ)を備えることもできる。ここで、電気粘性流体とは、電場の印加によって粘性変化を起こすものであり、磁性流体とは、磁場の印加によって粘性変化を起こすものである。
【0074】
さらに、作動量センサとしてディジタル式のエンコーダ11b〜15bを備えた例について説明したが、アナログ式のポテンショメータを備えてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明を適用する衝突防止装置の一実施形態である腕支持装置の要部を示す一部拡大図である。
【図2】本発明を適用する衝突防止装置の一実施形態である腕支持装置が椅子に装着された状態を示す斜視図である。
【図3】本発明を適用する衝突防止装置の一実施形態である腕支持装置の電気系統図である。
【図4】本発明を適用する制御部9の制御方法を示すフローチャートである。
【図5】本発明を適用する制御部9の割込処理Aを示すフローチャートである。
【図6】本発明を適用する制御部9の制御処理Bを示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0076】
1は腕支持装置、2は多関節アーム、3は腕台、3aは前腕支持台、3bは手支持台、3dは支柱、4はフットスイッチ、5は非接触型リーダ、5aは読取面、6はリーダ駆動機構、7は制御ボックス、8は6軸力トルクセンサ、9は制御部、10は3軸加速度センサ、11,12,13,14,15は関節、11a,12a,13a,14a,15aはパウダブレーキ、11b,12b,13b,14b,15bはエンコーダ、16はICタグ、11e,12e,13e,14e,15eはD/A変換器、11f,12f,13f,14f,15fはドライバ、11g,12g,13g,14g,15gはカウンタ、16はサーボモータ、17はサーボアンプ、21は先端部、30は椅子、31は座面、32a,32bは取付台、33は足置台、61〜69,81〜83,85,86はフローチャートにおけるステップ、90は装置、Aは割込処理、Bは制御処理、Rは通信可能な範囲、Sは応答信号、X,Yは移動方向である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動台を移動可能に支持する複数の可動部を有する移動機構と、該移動機構に付されて該可動部ごとの動きを固定可能な複数の電気制御ブレーキと、被検出体が所定距離内にあるときに該被検出体の記録情報を非接触で読取可能な非接触型リーダと、該非接触リーダの向きを可動駆動可能に該移動機構に配するリーダ駆動機構と、該非接触型リーダの読取方向が該移動台の移動方向に向くように該リーダ駆動機構を制御すると共に、該非接触型リーダが該被検出体の記録情報を読み取ったときに該複数の電気制動ブレーキを固定制御する制御部と、を備えることを特徴とする衝突防止装置。
【請求項2】
前記移動機構は、前記移動台に作用する外力を検知する力覚センサを備え、前記制御部は、該力覚センサの検知信号に基づいて該移動台の前記移動方向を決定することを特徴とする請求項1に記載の衝突防止装置。
【請求項3】
前記移動機構は、前記複数の可動部の動きを検知する複数の作動量センサを備え、前記制御部は、該複数の作動量センサの検知信号に基づいて該移動台の前記移動方向を決定することを特徴とする請求項1に記載の衝突防止装置。
【請求項4】
前記移動機構または前記移動台は、該移動台の加速度を検知する加速度センサを備え、前記制御部は、該加速度センサの検知信号に基づいて該移動台の前記移動方向を決定することを特徴とする請求項1に記載の衝突防止装置。
【請求項5】
前記非接触型リーダは、前記被検出体と電波または電磁波によって通信して、該被検出体の記録情報を読み取ることを特徴とする請求項1に記載の衝突防止装置
【請求項6】
前記非接触型リーダが読み取り可能な前記所定距離が1cm〜30cmの範囲内であることを特徴とする請求項5に記載の衝突防止装置。
【請求項7】
前記移動台は、オペレータの腕を支持する腕台であることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の衝突防止装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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