説明

衣料の洗濯方法及びそのための洗浄剤組成物

【課題】人体への安全性や環境負荷低減の観点から疑問がある界面活性剤を使用することのない洗浄剤組成物であって、従来の界面活性剤を洗濯作用主剤とした合成洗剤と同等以上の洗濯性能、使い勝手が得られる、有機系キレート剤を洗濯作用主剤とする洗浄剤組成物及びそれを用いた洗濯方法を提供する。
【解決手段】易分解性であるアミノカルボン酸系の有機系キレート剤の塩(以下、有機系アルカリキレート剤)を必須成分とし、さらに再汚染防止剤を含有し、界面活性剤を含有しない無りんの洗浄剤組成物を溶解した洗濯液を用いて衣料を洗濯する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機系キレート剤を洗濯作用主剤として洗濯する衣料の洗濯方法及びそのための洗浄剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
衣料の洗濯において合成洗剤は、優れた洗浄力や使い勝手の良さから圧倒的な支持を受けてきている。しかし、合成洗剤は消費者に利益だけを与えるものではない。その一例をあげると、合成洗剤は環境ホルモンの疑いがあるものの一つとして水棲生物への影響問題も提起されはじめてきている。また、合成洗剤に含まれる界面活性剤は、繰り返しすすぎを行っても衣料に相当量残留することは誤りのない事実であり、かかる界面活性剤が皮膚を通じて人体に何らかの影響を及ぼしている蓋然性は否定できない。
【0003】
界面活性剤による優れた洗濯性能は広く認知されているものの、生物や環境への影響を考えたとき、界面活性剤無添加であって、洗濯性能や使い勝手が合成洗剤と同等またはそれ以上である新規な洗浄剤の出現が待たれるところである。
【0004】
かかる技術背景のなかで、本件出願人は、実質的に界面活性剤を使用することのない洗浄剤組成物であって、従来の界面活性剤を洗濯作用主剤とした合成洗剤と同等もしくはそれ以上の洗濯性能及び使い勝手を有する、アルカリ緩衝剤を洗濯作用主剤とする洗浄剤組成物及びそれを用いた洗濯方法を提案している(特許文献1)。
【0005】
しかしながら、特許文献1の発明には、有機系キレート剤を洗濯作用主剤とする旨は開示も示唆もされていない。しかも、同特許文献1には、その特許公報の段落番号0043に、「このように本洗浄剤においてはその主成分が洗浄力阻害要因となる硬度成分と反応しこれを無効化する作用があるため、合成洗剤成分として通常使用される有機系のキレート剤や水不溶性のゼオライトなどの軟水化剤をとくに加えることなく、実用的な軟水化効果を得ることができる。」と、そもそも有機系キレート剤の配合を否定する趣旨の記載があることを鑑みても、特許文献1の発明は、有機系キレート剤を洗濯作用主剤とする本件発明とは全く別異のものである。
【0006】
また、特許文献2には、界面活性剤の濃度が低くとも洗浄力に優れる洗濯方法を提供することを目的として、特定の高アルカリ・低硬度化された洗浄条件下で衣料を洗濯する旨が記載されている。
【0007】
しかしながら、特許文献2の発明は、界面活性剤の使用を前提とする洗濯方法等を開示するものに過ぎず、同特許文献2には、本件発明のように界面活性剤を含有しない洗濯液により洗濯する旨は開示も示唆もされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3481615号公報
【特許文献2】特開平9−132794号公報
【発明の概要】
【0009】
本発明は、人体への安全性や環境負荷低減の観点から疑問がある界面活性剤を使用することのない洗浄剤組成物であって、従来の界面活性剤を洗濯作用主剤とした合成洗剤と同等以上の洗濯性能、使い勝手が得られる、有機系キレート剤を洗濯作用主剤とする洗浄剤組成物及びそれを用いた洗濯方法を提供することを目的とする。
上記目的に鑑み本発明者らは、特許文献1に係るアルカリ緩衝剤を洗濯作用主剤とする洗浄剤の改良に取り組んでいたところ、同洗浄剤にある種の有機系キレート剤を配合させると洗濯性能が格段に向上することを見出し、かかる有機系キレート剤に着目して鋭意開発を進めていった結果、洗濯液中の硬度成分(以下では、「多価陽イオン」という場合がある。)を可能な限り無効化(不活性化)することが、衣料の洗濯性能を高める上できわめて重要な要素であると考えるに至った。
【0010】
すなわち、洗濯のメカニズムについて説明すると、基質(衣料)と汚れを引きつける力は分子間力を含めてそのほとんどが弱い静電気力によるものである。そこで、洗濯液中において基質と汚れ双方の負のゼータ電位を高めることで相互の反発力を高めてやることができれば、あとは機械力により比較的簡単に汚れを基質から剥離させることができるはずである。
【0011】
しかし、洗濯液中のカルシウムイオン、マグネシウムイオンをはじめとする多価陽イオン(硬度成分)は洗濯液中において、表面が負に帯電した基質と汚れの双方に橋渡しをする(いわゆる多価陽イオンブリッジ)かたちで両者を引き付けるため、汚れの基質からの剥離を阻害する。
【0012】
本発明者らはこの点に着目し、洗濯液中における硬度成分の無効化を高い水準で達成することが、衣料の洗濯性能を高める上できわめて重要な要素であると考えるに至ったのである。
【0013】
そうした考え方に沿って鋭意開発を進めているなかで、本発明者らは、洗濯液中の硬度成分は単に洗濯用水中に含まれているもののみならず、衣類や汚れ、更には洗濯槽に付着しているものも洗濯の過程で洗濯液中に溶出してきており、それら全てを含めた硬度成分が洗浄力の阻害要因となっている実態を知った。
【0014】
そこで、かかる洗浄力阻害要因を除去し、市場から要請されている洗浄力を確保可能な、有機系キレート剤主剤洗浄剤組成物を得る目的で、その組成及び再汚染防止剤について検討し、さらに多少の添加剤をも考慮することで、界面活性剤を一切使用しなくとも、従来の界面活性剤を洗濯作用主剤とした合成洗剤と同等以上の洗濯性能や使い勝手が得られる、有機系キレート剤を洗濯作用主剤とする洗浄剤組成物及びそれを用いた洗濯方法が提供できることを見出し、遂に本発明を完成させた。
【0015】
(1−1)有機系キレート剤
本発明において最重要成分として位置づけられる有機系キレート剤は、洗濯液中の多価陽イオン(硬度成分)と化学結合し金属イオン錯体を形成することで洗濯液中の硬度成分を無効化するというメカニズムを通じて、本発明において洗濯作用主剤としての役割を担うものであり、a) キレート化速度が速いこと、b) キレート処理能力が高いこと、c) キレート効果が安定していること、d) 安全性が高いこと、e) 生分解性が良好なこと、f) 溶解性が良好なこと、の諸条件を満足するものが好適に用いられる。
【0016】
ここで、本発明に係る有機系キレート剤として使用可能な物質を例示すると、シュウ酸(OA: oxalic
acid)、クエン酸(CA:citric acid)、酒石酸(TA:
tartaric acid)、グルコン酸(GA: gluconic acid)などの有機カルボン酸のナトリウム塩、ジヒドロキシエチルグリシン(DEG: N-(2-hydroxylethyl) glycine)、トリエタノールアミン(TEA: triethanolamine)、N-(2-ヒドロキシエチル)イミノ二酢酸(HEIDA: N-(2-hydroxyethyl)
iminodiacetic acid)、ヒドロキシエチルエチレンジアミン四酢酸(HEDTA:N-(hydroxyethyl)ethylenediamine
tetraacetic acid)などのナトリウム塩であるヒドロキシアミノカルボン酸系キレート剤、カルボキシメチルタルトロン酸(CMT: O-carboxymethyltartronic acid)、カルボキシメチルオキシコハク酸(CMOS: O-carboxymethloxysuccinic acid)などのナトリウム塩であるエーテルカルボン酸系キレート剤、ポリアクリル酸とアクリル酸/マレイン酸共重合体(コポリマー)などのナトリウム塩であるビニル型高分子電解質系キレート剤、並びに、NTA (ニトリロ三酢酸:Nitrilo Triacetic Acid )、DTPA (ジエチレントリアミン五酢酸:Diethylene Triamine
Pentaacetic Acid )、HEDTA (ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸:Hydroxyethyl Ethylene Diamine Triacetic Acid ) 、EDTA (エチレンジアミン四酢酸:Ethylene Diamine
Tetraacetic Acid )、MGDA (メチルグリシン二酢酸:MethylGlycineDiacetic Acid ) 、GLDA(Lグルタミン酸二酢酸:Dicarboxymethyle Glutamic Acid)、ASDA(アスパラギン酸二酢酸:Aspartate Diacetic Acid)、EDDS(エチレンジアミンコハク酸:Ethylenediamine Disuccinic
Acid)、HIDS(ヒドロキシコハク酸:Hydroxye Iminodisuccinic Acid)、IDS(イミノジコハク酸:Iminodisuccinic Acid)等のナトリウム塩であるカルボン酸系キレート剤が好適に用いられる。なかでも、生分解性が良好な、MGDA、GLDA、ASDA、EDDS、HIDS、IDS等が、環境負荷低減の面から好ましい。
【0017】
なお、本発明でいう有機系キレート剤とは、上述したような有機系キレート剤を単独で使用する態様、並びに、複数の有機系キレート剤を組み合わせて使用する態様の両者を包括する概念である。
【0018】
本発明に用いて好適な有機系キレート剤を洗濯性能の側面から選択する際の定量的条件としては、(i)その1%水溶液のpHが9以上、好ましくは10〜12.5の範囲にあること、(ii)最大カルシウム錯化能 (pH11における1g当りのCaCO3mg数)が200mg/g以上、好ましくは300mg/g以上であること、があげられる。
【0019】
こうした定量的条件を満足する物質として、特に、エチレンジアミン四酢酸4ナトリウム(以下、”EDTA-4Na”という場合がある。):トリロン−B粉体(登録商標、BASF社製)、並びに、メチルグリシン2酢酸3ナトリウム(以下、”MGDA-3Na”という場合がある。):トリロン−M粉末(登録商標、BASF社製)などの有機系アルカリ性キレート剤をあげることができる。ちなみに、EDTA-4Naでは、その1%水溶液のpHは10.5〜12.5、最大カルシウム錯化能は225mg/gであり、MGDA-3Naでは、その1%水溶液のpHは10.5〜12.5、最大カルシウム錯化能は327mg/gである。
【0020】
(1−2)有機系アルカリ性キレート剤の洗浄力
EDTA-4Na、並びに、MGDA-3Naの両者は、一剤でキレート作用とアルカリ緩衝作用を併せ持つことから、本発明において、有機系キレート剤、並びにアルカリ緩衝剤としてのふたつの役割を一剤で担っている。そこで、EDTA-4Na、並びに、MGDA-3Naの両者について、各物質を、その濃度を変えながら洗濯用水にそれぞれ溶解させてゆくことで、濃度別の複数の各洗濯液を得たときの、各洗濯液毎の洗浄結果を調べてみた。なお、本洗浄力試験では、有機系アルカリ性キレート剤本来の実力を見極める趣旨から、被験物質としてキレート剤のみを採用し、本発明に係る再汚染防止剤や、その他の添加剤は一切配合していない。
【0021】
ここで、EDTA-4Na、並びに、MGDA-3Naの両者ともに、各物質を、その濃度を変えながら洗濯用水に溶解させてゆくことで濃度別の複数の洗濯液を得たときに、これら濃度別の複数の洗濯液間で、そのpH、並びに、このpHの変化に伴ってキレート能や安定度などが変わっていってしまう。そうすると、前述した濃度別の複数の洗濯液間での洗浄力比較を行ったとしても、キレート剤の配合が洗浄力の向上に寄与しているか否かを検討することが難しい。そこで、この問題を除くために、上述の各洗濯液に水酸化ナトリウムを加えることでそのpHが一定(pH11)になるように調整した。
【0022】
試験条件は下記の通りである。
【0023】
(試験条件)
ターゴトメーターを使用して、回転数120rpm、洗濯時間10分、すすぎ2回、温度30°C、洗濯用水の量1リットルにて、表1に示す物質及び洗剤濃度にて洗濯を行った。洗濯用水は、精製水に塩化カルシウム二水和物を133mg/L濃度で溶解させることにより硬度90ppmの水を得て、これを洗濯用水として用いた。以下では、こうした手順を経て得た水を、日本標準洗濯用水という。
【0024】
(汚染布)
人工皮脂汚れが付着した湿式人工汚染布(財団法人洗濯科学協会製)を用いた。
【0025】
(洗浄率の算出)
洗浄率は、下記式により算出した。
【0026】
洗浄率%=(洗濯後汚染布の白度−洗濯前汚染布の白度)
÷(未汚染生地の白度−洗濯前汚染布の白度)×100
白度は、白度計(ミノルタ株式会社製、CR−14、Whiteness Index Color Reader)を用いて、各汚染布における表裏10点を測定し、この測定値を平均することで求めた。
【0027】
EDTA-4Naを、その濃度を変えながら日本標準洗濯用水に溶解させたときの、濃度別の各洗濯液毎の洗浄結果を表1に示す。
【0028】
【表1】

EDTA-4NaのpH11における最大カルシウム錯化能は225mg/gであり、日本標準洗濯用水(90mg/リットルの硬度成分を含有)に含まれる硬度成分を完全に無効化するためのEDTA-4Naの必要量(必要濃度)の計算値は次式で与えられる。
【0029】
洗濯用水の硬度/使用するキレート剤の最大カルシウム錯化能
=90/225=0.4g/リットル
ここで、表1の試験結果と上記の計算値を比較すると、計算値である0.4g/リットル濃度辺りから急に洗浄力が立ち上がりはじめ(このときの洗浄率は32.7%)、0.47g/リットル濃度辺りで頭打ちになる(このときの洗浄率は59.5%)ことがわかる。ちなみに、後述するように、市販の粉末合成洗剤を標準濃度で日本標準洗濯用水に溶解させた洗濯液(アタック
バイオ酵素、洗浄剤濃度0.67g/L、花王株式会社製、酵素及び蛍光増白剤入り)を用いて洗濯したときの、湿式人工汚染布の洗浄率は50%程度であるから、EDTA-4Naの単剤使用による洗浄力は、0.43g/リットル濃度(このときの洗浄率は48.4%)を超える使用範囲では、市販の粉末合成洗剤と同等、又はそれを超えていることがわかる。特に、0.47g/リットル濃度(このときの洗浄率は59.5%)を超える使用範囲では、市販の粉末合成洗剤の洗浄力(50%程度)を凌駕している。
【0030】
次に、MGDA-3Naを、その濃度を変えながら日本標準洗濯用水に溶解させたときの、濃度別の各洗濯液毎の洗浄結果を表2に示す。
【0031】
【表2】

MGDA-3NaのpH11における最大カルシウム錯化能は327mg/gであり、日本標準洗濯用水(90mg/リットルの硬度成分を含有)に含まれる硬度成分を完全に無効化するためのMGDA-3Naの必要量(必要濃度)の計算値は次式で与えられる。
【0032】
洗濯用水の硬度/使用するキレート剤の最大カルシウム錯化能
=90/327=0.275g/リットル
ここで、表2の試験結果と上記の計算値を比較すると、計算値である0.275g/リットル濃度辺りから急に洗浄力が立ち上がりはじめ(このときの洗浄率は25.7%)、0.37g/リットル濃度辺りで頭打ちになる(このときの洗浄率は59.9%)ことがわかる。ちなみに、前述のように、市販の粉末合成洗剤を標準濃度で日本標準洗濯用水に溶解させた洗濯液を用いて洗濯したときの、湿式人工汚染布の洗浄率は50%程度であるから、MGDA-3Naの単剤使用による洗浄力は、0.33g/リットル濃度(このときの洗浄率は52.2%)を超える使用範囲では、市販の粉末合成洗剤と同等、又はそれを超えていることがわかる。特に、0.37g/リットル濃度(このときの洗浄率は59.9%)を超える使用範囲では、市販の粉末合成洗剤の洗浄力(50%程度)を凌駕している。しかも、市販の粉末合成洗剤と同等の洗浄力(50%程度)を得るための下限使用濃度に注目してみると、EDTA-4Naの単剤使用では0.43g/リットル濃度(このときの洗浄率は48.4%)、MGDA-3Naの単剤使用では0.33g/リットル濃度(このときの洗浄率は52.2%)である。従って、MGDA-3Naの単剤使用では、EDTA-4Naの単剤使用の場合と比較して、より少ない使用量で、市販の粉末合成洗剤と同等以上の洗浄力を得ることができることがわかる。
【0033】
(2)アルカリ緩衝剤
本発明に係るアルカリ緩衝剤としては、本件出願人が先に出願し既に登録され、引用によりその開示が明細書中に取り込まれる、特許第3481615号公報に開示されている通り、重炭酸アルカリ金属塩、ほう酸アルカリ金属塩、りん酸アルカリ金属塩などのpH緩衝作用塩と、ケイ酸アルカリ金属塩、炭酸アルカリ金属塩などのアルカリ作用塩とを主成分として含有するものが用いられる。
【0034】
このうち特に、結晶性層状ケイ酸ナトリウムの単剤使用、又は結晶性層状ケイ酸ナトリウムと炭酸水素ナトリウムの組み合わせに係る混合物が好適に用いられる。
【0035】
アルカリ緩衝剤の作用は、洗濯液中に例えば酸性を呈する汚れが混入するなど、洗濯液のpHを変動させようとする外部要因が生じた場合であっても、洗濯液のpHを、洗浄力、キレート化速度、及びキレート安定能等の観点から洗濯に適した弱アルカリ性の範囲である9〜11、好ましくは10〜11に収束維持させることにある。こうしたアルカリ性洗濯環境が維持されることによって、本発明に係る有機系キレート剤は、その硬度成分捕捉能を存分に発揮することができる。これは、衣料を入れた時に洗濯液が充足すべき洗濯条件のひとつである。
【0036】
アルカリ緩衝剤のうち、特に、結晶性層状アルカリ金属塩(結晶性層状ケイ酸ナトリウム)は、上述したアルカリ能、アルカリ緩衝能に加えて、硬度成分捕捉能(イオン交換能)を備えており、本発明に係る有機系キレート剤が発揮する硬度成分捕捉能を補う目的で好適に使用できる。従って、本発明の洗浄剤組成物中における有機物の配合量を減らす要請がある場合には、市場から要請されている洗浄力(例えば、後述する洗浄試験その1の湿式人工汚染布における洗浄力である、日本標準洗剤の40%程度、好ましくは市販の粉末合成洗剤の50%程度)を確保することを考慮しながら、有機系キレート剤の一部を、アルカリ緩衝剤、特に、結晶性層状ケイ酸アルカリ金属塩(結晶性層状ケイ酸ナトリウム)に置き換えて配合すればよい。
【0037】
なお、本発明の洗浄剤組成物中に、有機系のアルカリ性キレート剤を配合する際には、アルカリ緩衝剤の配合を省略することができる。この場合、有機系のアルカリ性キレート剤が、キレート剤とアルカリ緩衝剤の役割を兼ねることになる。
【0038】
(3)再汚染防止剤(再汚染防止作用成分)
本発明に係る再汚染防止剤としては、本件出願人が先に出願し既に登録され、引用によりその開示が明細書中に取り込まれる、特許第3481615号公報に開示されている通り、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、部分鹸化型ポリビニルアルコールなどの非イオン性水溶性高分子物質が好適に用いられる。
【0039】
このうち特に、部分鹸化型ポリビニルアルコールと、カルボキシメチルセルロースの組み合わせに係る混合物が好適に用いられる。
【0040】
再汚染防止剤の作用は、主として洗濯液が呈する表面張力を0.058N/m以下に低下させることを通じて、親水性繊維並びに疎水性繊維の両者における再汚染を防止することにある。
【0041】
(4)衣料用洗浄剤組成物、及びその洗濯液
本発明に係る衣料用洗浄剤組成物は、有機系アルカリ性キレート剤を必須成分とし、さらに再汚染防止剤を含有し、界面活性剤を含有しない無りんの衣料用洗浄剤組成物、または、有機系のキレート剤、アルカリ緩衝剤、及び再汚染防止剤を含有し、界面活性剤を含有しない無りんの衣料用洗浄剤組成物、であることを要旨とする。
【0042】
これは、実際の洗濯の場面を想定したとき、洗濯用水の硬度が軟水か硬水か?、使用する洗濯機の種類がパルセーター式/ドラム式/攪拌式のうちどれか?、被洗物の量、汚れの種類・程度など、様々な洗濯環境の相違を柔軟に吸収することが要請されており、かかる要請を考慮すると、有機系アルカリ性キレート剤を必須成分とし、さらに再汚染防止剤を含有させるか、または、有機系のキレート剤、アルカリ緩衝剤、及び再汚染防止剤の三者を衣料用洗浄剤組成物の必須構成成分とすることが、その組成設計上好ましいことに由来する。
【0043】
洗濯液中の硬度成分の無効化のためには金属イオン封鎖剤が有効であるが、なかでも、洗濯液中の金属イオンと化学結合して金属イオン錯体を形成することで洗濯液中の硬度成分を無効化する機能を有する有機系キレート剤は、本発明の最重要成分として位置付けられる。
【0044】
洗濯の場面での金属イオン封鎖剤としては、有機系キレート剤以外では、イオン交換体(例えば、アルミノケイ酸塩や結晶性層状ケイ酸塩など)が用いられているが、イオン交換体の場合、イオン交換体と洗濯液中の金属イオンの濃度差に従ってイオン交換が行われるため、かかる濃度差が平衡状態となる濃度以下にまで、洗濯液中の金属イオン濃度を下げることは出来ないという本質的な問題が存在する。
【0045】
これに対し、高い洗濯性能を得る目的では、洗濯の開始から終了までの間、洗濯液中の硬度成分がほぼ無効化された状態(洗濯液の硬度が10ppm以下)を維持すること、好ましくは、完全に無効化された状態(洗濯液の硬度が0ppm以下)を維持すること、さらに好ましくは、完全に無効化されて余りある状態(洗濯液の硬度が0ppm以下であって、さらに、洗濯液中の硬度成分を無効化するための硬度成分捕捉能を有する物質が、余剰に存在している状態)を維持すること、がきわめて重要である。
【0046】
そうした観点から、本発明では、衣料を入れた時の洗濯条件として、「洗濯液のpHが9〜11(好ましくは、pH10〜11)、かつ、洗濯液中の硬度成分を無効化するための硬度成分捕捉能を有する物質が、同硬度成分をほぼ無効化できる以上の量(好ましくは、同硬度成分を全て無効化できる以上の量)、同洗濯液中に存在する」、を満足する洗濯液を用いることとした。
【0047】
ここで、「洗濯液のpHが9〜11、かつ、洗濯液中の硬度成分を無効化するための硬度成分捕捉能を有する物質が、同硬度成分をほぼ無効化できる以上の量、同洗濯液中に存在する」とは、洗濯条件として、洗濯の開始から終了までの間、洗濯液のpHを、有機系キレート剤がもつ本来の硬度成分捕捉能を引き出し得る9〜11の範囲に維持するとともに、洗濯液中の硬度成分がほぼ無効化された状態(洗濯液の硬度が10ppm以下)を維持することを意味する。
【0048】
さらに、「洗濯の開始から終了までの間、洗濯液中の硬度成分がほぼ無効化された状態(洗濯液の硬度が10ppm以下)を維持する」に対応する本発明の好ましい実施態様としては、洗濯液中の硬度成分捕捉能を有する物質が、有機系キレート剤と、アルカリ緩衝剤のうち結晶性層状ケイ酸アルカリ金属塩(結晶性層状ケイ酸ナトリウム)の混合物である態様を想定している。
【0049】
このうち、有機系キレート剤の使用態様の違いによって、さらにふたつの実施態様が存在する。すなわち、第一の使用態様は、有機系キレート剤(洗濯液中の硬度成分捕捉能を有する物質)が、衣料を入れない時の洗濯液中に、洗濯液中の硬度成分を完全には無効化できないが、ほぼ無効化できる(洗濯液の硬度を10ppm以下にできる)量以上、存在している態様であり、第二の使用態様は、有機系キレート剤(洗濯液中の硬度成分捕捉能を有する物質)が、衣料を入れない時の洗濯液中に、洗濯液中の硬度成分を完全には無効化できる(洗濯液の硬度を0ppm以下にできる)量以上、存在している態様である。
【0050】
上記第一の使用態様は、有機系キレート剤の使用量が、洗濯用水に含まれる硬度成分を完全に無効化するための有機系キレート剤の必要量計算値を下回っている使用態様であり、この場合、有機系キレート剤の硬度成分捕捉能を補う目的で、結晶性層状ケイ酸アルカリ金属塩(結晶性層状ケイ酸ナトリウム)が比較的多量に使用される。なお、後述する洗浄試験における実施例では、実施例14が本第一の使用態様に該当する。
【0051】
一方、上記第二の使用態様は、有機系キレート剤の使用量が、洗濯用水に含まれる硬度成分を完全に無効化するための有機系キレート剤の必要量計算値と同等以上である使用態様であり、この場合、有機系キレート剤の硬度成分捕捉能を補う目的では、結晶性層状ケイ酸アルカリ金属塩(結晶性層状ケイ酸ナトリウム)の使用量は、第一の使用態様と比較して少量でよい。なお、後述する洗浄試験における実施例では、実施例3,8,13,14,19以外が本第二の使用態様に該当する。また、第二の使用態様における有機系キレート剤の使用量は、洗濯用水の硬度/量と、使用する有機系キレート剤のキレート能(最大カルシウム捕捉能)から、次式により求めることができる。
【0052】
洗濯用水の硬度/使用する有機系キレート剤のキレート能(最大カルシウム捕捉能)*洗濯用水の量
しかも、さらなる洗濯性能の向上を狙って、本発明では、衣料を入れた時の洗濯条件として、「洗濯液のpHが9〜11(好ましくは、pH10〜11)、かつ、洗濯液中の硬度成分を無効化するための硬度成分捕捉能を有する物質が、同硬度成分を全て無効化できる以上の量、同洗濯液中に存在する」、を満足する洗濯液を用いることとしている。
【0053】
ここで、「洗濯液のpHが9〜11、かつ、洗濯液中の硬度成分を無効化するための硬度成分捕捉能を有する物質が、同硬度成分を全て無効化できる以上の量、同洗濯液中に存在する」とは、洗濯条件として、洗濯の開始から終了までの間、洗濯液のpHを、有機系キレート剤がもつ本来の硬度成分捕捉能を引き出し得る9〜11の範囲に維持するとともに、洗濯液中の硬度成分が全て無効化された状態(洗濯液の硬度が0ppm以下)、さらに好ましくは、洗濯液中の硬度成分が完全に無効化されて余りある状態(洗濯液の硬度が0ppm以下であって、さらに、洗濯液中の硬度成分捕捉能を有する物質が、余剰に存在している状態)を維持することを意味する。
【0054】
上述の、「洗濯の開始から終了までの間、洗濯液中の硬度成分が全て無効化された状態(洗濯液の硬度が0ppm以下)、さらに好ましくは、洗濯液中の硬度成分が完全に無効化されて余りある状態(洗濯液の硬度が0ppm以下であって、さらに、洗濯液中の硬度成分捕捉能を有する物質が、余剰に存在している状態)を維持する」に対応する本発明の好ましい実施態様としては、洗濯液中の硬度成分捕捉能を有する物質が、有機系キレート剤単独である態様(後述する洗浄試験における実施例では、実施例3,8,13,19が本使用態様に該当)と、有機系キレート剤とアルカリ緩衝剤のうち結晶性層状ケイ酸アルカリ金属塩(結晶性層状ケイ酸ナトリウム)の混合物である態様を想定している。
【0055】
本発明によれば、洗濯用水中に含まれるもの、衣料から溶出してくるもの、及び衣料に付着していた汚れから溶出してくるものを含む多価陽イオンの合計量や、使用する洗濯機の種類がパルセーター式/ドラム式/攪拌式のうちどれか?、被洗物である衣料の量、汚れの種類・程度等の洗濯環境の変動要因がもれなく考慮された、いわゆる多価陽イオンブリッジ由来の洗浄力低下要因を除去した理想的な洗濯環境で、換言すれば、完全なる軟水化がなされた洗濯液を用いて洗濯を行うことができるので、高い洗濯性能を得ることができる。
【0056】
(5)衣料用洗浄剤組成並びに使用濃度の考え方
上述した衣料用洗浄剤組成物を市場に提案する際において、その洗浄剤組成並びに標準使用量をどのように設定すべきかが問題となる。
【0057】
衣料を洗濯する際に適切な洗浄剤組成並びに使用量は、洗濯用水の硬度により大きく左右されるため、洗浄剤組成並びに使用量を各国毎に異ならせる必要がある。例えば、日本国では通常70ppm付近であるのに対し、米国では110ppm以上、欧州では180ppmを越える高硬度の水を洗濯用水として使用しているのが実情である。そうすると、洗濯用水の硬度に応じて、有機系キレート剤の必要量が変化してゆくとともに、標準使用量も加減する必要がある。
【0058】
そこで、本発明では、例えば、A)低硬度で硬度範囲の小さい地域(0〜120ppm程度)と、B)高硬度で硬度範囲の大きい地域(120〜350ppm超)に分けて、洗浄剤組成並びに標準使用量を各地域別に設定することで、洗濯用水の硬度変化による洗濯事情の相違に起因した上記の問題を吸収することとした。
【0059】
前者のA地域の場合には、硬度:90ppmの日本標準洗濯用水を用いて洗浄剤組成並びに標準使用量を設定し、ごく限られた高硬度地域においては使用量を適宜増やすことで対応すればよい。
【0060】
後者のB地域の場合には、欧州における硬度分類のタイプII(125−250ppm)を想定し、硬度:250ppmの欧州標準洗濯用水を用いて洗浄剤組成並びに標準使用量を設定するとともに、使用地域での硬度分類及び汚れの程度に応じて使用量を適宜増減させることで対応すればよい。
【0061】
ここで、標準的な家庭での洗濯用水の使用量を、全自動洗濯機では30L、ドラム式では15〜20Lとして、有機系キレート剤の必要量(計算値)を、上述したふたつの代表的な地域の硬度(90ppm/250ppm)毎に、配合しようとするキレート剤のキレート能(最大カルシウム錯化能)に基づいて求めてみる。こうして求めたキレート剤の必要量(計算値)が、各地域の硬度に応じたキレート剤の最低必要量となる。
【0062】
しかし、先に述べたとおり、硬度成分は、洗濯用水中に含まれているもののみならず、衣料から溶出してくるもの、及び衣料に付着していた汚れから溶出してくるもの、さらには洗濯槽から溶出してくるものをも考慮する必要がある。そうすると、実際のキレート剤の必要量は、上記の最低必要量よりも多くなることが、洗浄試験等を通じてわかっている。そこで、実情に合わせたキレート剤の必要量を、配合しようとするキレート剤毎に適宜設計するのが好ましい。
【0063】
なお、標準使用量を設定するにあたっては、洗濯機の種別に応じて異ならせるのが好ましい。すなわち、実際のキレート剤の必要量は、浴比の大きい(被洗物の量に対して洗濯用水量が多い)撹拌式洗濯機の場合には、最低必要量の105%〜160%とし、また、浴比の小さい(被洗物の量に対して洗濯用水量が少ない)ドラム式洗濯機の場合には、最低必要量の210%〜320%とするのが適切であることが、洗浄試験等を通じてわかっている。
【0064】
具体的には、例えばキレート能(最大カルシウム錯化能)が200mg/gのキレート剤を配合しようとする場合には、日本標準洗濯用水(硬度:90ppm)では、下記計算式より、キレート剤の最低必要量は13.5g/30L(0.45g/L)となる。
【0065】
洗濯用水の硬度/使用する有機系キレート剤のキレート能(最大カルシウム捕捉能)*洗濯用水の量=90/200*30=13.5g/30L
そこで、標準的な使用量設定としては、撹拌式洗濯機では14.1〜21.6g/30L(0.47〜0.72g/L)が好ましく、ドラム式洗濯機では19〜21.6g/(15〜20L)(0.95〜1.44g/L)の範囲が好ましい。標準的な合成洗剤と同等以上の洗浄力を得るという前提では、上述したキレート剤の使用のうち約50%程度を上限として、キレート剤の一部をアルカリ緩衝剤、特に結晶性層状ケイ酸ナトリウムに置き換えることもできる。
【0066】
本発明に係る衣料用洗浄剤組成物のうち再汚染防止剤の使用濃度は、洗濯用水の硬度によらず、撹拌式洗濯機では1.5〜2g/30L(0.05〜0.07g/L)であり、ドラム式洗濯機では3〜4g/(15〜20L)(0.15〜0.27g/L)である。
【0067】
従って、本発明の必須構成成分である、有機系キレート剤、アルカリ緩衝剤、及び再汚染防止剤を含むトータルでの使用濃度は、撹拌式洗濯機では15.6〜23.7g/30L(0.52〜0.79g/L)であり、ドラム式洗濯機では22〜25.7g/(15〜20L)(1.1〜1.71g/L)となる。
【0068】
一方、欧州標準洗濯用水(硬度:250ppm)の使用を想定した場合に、例えばキレート能(最大カルシウム錯化能)が200mg/gのキレート剤を配合しようとする場合には、キレート剤の最低必要量(濃度)は1.25g/Lとなる。
【0069】
そこで、日本標準洗濯用水の例と同様に、キレート剤の配合量並びに使用濃度を求めると、標準的な濃度設定としては、ドラム式洗濯機の使用では、2.63〜4.0g/Lの範囲が好ましい。標準的な合成洗剤と同等以上の洗浄力を得るという前提では、上述したキレート剤の使用のうち約50%程度を上限として、キレート剤の一部をアルカリ緩衝剤、特に結晶性層状ケイ酸ナトリウムに置き換えることもできる。
【0070】
ドラム式洗濯機での再汚染防止剤の使用濃度は0.15〜0.27g/Lであるから、本発明の必須構成成分である、有機系キレート剤、アルカリ緩衝剤、及び再汚染防止剤を含むトータルでの使用濃度は、2.83〜4.27g/Lとなる。
【0071】
同様に、キレート能(最大カルシウム錯化能)が300mg/gのキレート剤を配合しようとする場合なども、前述と同様の手順でキレート剤の最低必要量(濃度)を算出するとともに、この算出結果と、上述した洗濯機の種別毎のキレート剤の割り増しに関する考え方に基づいて、キレート剤の配合量並びに使用濃度や各必須成分毎の使用濃度を、適宜設定すればよい。
【0072】
上述した洗濯用水の硬度等の違いを考慮したときの、本発明に係る衣料用洗浄剤組成物の使用濃度範囲は0.5〜10.5g/Lとなる。
【0073】
なお、本発明の必須構成成分の他に、例えば洗濯用酵素、酸素系漂白剤、殺菌剤、香料、起泡剤などの添加剤を加える場合には、加えた添加剤の分だけ使用量を増やせばよい。
【0074】
(6)添加剤
本発明の洗浄剤組成物は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、必要に応じて、洗濯用酵素、酸素系漂白剤、殺菌剤、香料、起泡剤など合成洗剤等従来型の洗剤に常用成分として含まれる物質をさらに含んでもよい。
【0075】
これら添加剤のうち、最も重要なものは洗濯用酵素である。有機系キレート剤を洗濯作用主剤とする本発明の洗濯系では除去し難い汚れ成分を除去するために有用である。洗濯用酵素としては、タンパク質分解酵素(プロテアーゼ)、脂肪分解酵素(リパーゼ)、セルロース分解酵素(セルラーゼ)、デンプン分解酵素(アミラーゼ)などがあるが、なかでもプロテアーゼは日常汚れに対して特に効果的であり、セルラーゼは繰り返し洗濯した場合に木綿繊維の白さ維持や固体粒子汚れの除去等に効果があり実用性が高い。
【0076】
酵素の配合量は洗浄剤組成物総量に対して1酵素あたりおよそ0.3%から3重量%程度でよい。
【0077】
また、本洗浄剤の液性は弱アルカリ性であるので、酵素の配合を検討するにあたっては、そのpH範囲において活性値が低下しないものを選択しなければならない。
【0078】
なお、酵素の洗浄剤への配合において特に注意すべき点は、洗濯液中での酵素活性の安定性であり、特に洗濯用水中に含まれる有効遊離塩素による失活には注意しなければならない。
【0079】
したがって、洗浄剤中への配合においては酵素と還元剤を同時に添加する必要がある。還元剤としては亜硫酸塩、チオ硫酸塩が適当であるが、活性塩素をトラップして酵素の失活を防止するものとして硫酸アンモニウム塩などのアンモニウム塩を用いる方法もある。これらの配合量は洗浄剤組成物総量に対して0.3%から3重量%程度がよい。
【0080】
酸素系漂白剤としては、過炭酸ナトリウム、過ホウ酸ナトリウム、過酸化水素などを挙げることができる。本発明の洗浄剤組成物は酸素系漂白剤を使用しなくても従来の界面活性剤を主剤とした合成洗剤と同等の洗浄力を発揮するが、漂白剤を加えることでさらなる洗濯性能の向上が期待できる。なお、酸素系漂白剤を採用するにあたっては、例えばテトラアセチルエチレンジアミン等の漂白剤活性化剤を併用すれば、さらなる洗濯性能の向上が期待できて好ましい。
【0081】
殺菌剤は、被洗浄物の殺菌の他、有機物を含む洗浄剤組成物の腐敗やカビを防ぐ効果を目的として配合され、塩化ベンザルコニウムやパラベン、プロピレングリコールなどのなかからその使用目的に応じて適宜選択することができる。人体への安全性を考慮すると、柑橘類果実の種子から抽出した抽出液を添加することが望ましい。ここで、柑橘類果実とは、学術名をシトラスパラデシとする、グレープフルーツであり、抽出液自体は高粘性であるため、添加する際には水で希釈するとともに、天然のグリセリン、プロピレングリコールなどの分散剤を用いることが好ましい。シトラパラデシの種子の抽出液は、細菌や微生物の殺菌、抗菌等の制菌効果があるため、本発明の洗浄剤組成物に制菌添加剤として添加すると、被洗浄物の制菌効果が期待できる。その他の殺菌剤として、お茶の葉や竹などから得られる天然殺菌剤を配合してもよい。
【0082】
(7)衣料用洗浄剤組成物の製造方法
本発明の洗浄剤組成物は、その原料がほとんどすべて粉末もしくは粒状物であり、それらを均一に混合しさえすればよいため、種々の方法で種々の剤形に容易に製造できる。最も簡易で経済的な製造方法は、それら粉体原料を公知のバッチ式の混合機で攪拌混合する方法であり、これにより、粉末又は粒状の本発明に係る衣料用洗浄剤組成物を製造することができる。
【0083】
使い勝手の要請から1回使用量毎の錠剤型やシート型にすることができる。また、本発明に係る洗浄剤組成物は、粉体原料と水を混合して濃縮液体型の洗浄剤として製造することもできる。
【0084】
<発明の作用及び効果>
本発明によれば、人体への安全性や環境負荷低減の観点から疑問がある、従来では固定観念として当然に使用されてきた界面活性剤を一切含有しない洗浄剤組成物であって、合成洗剤と同等以上の高い洗濯性能と使い勝手を備えた、有機系キレート剤を洗濯作用主剤とする洗浄剤組成物を提供することができる。また、本発明にかかる衣料の洗濯方法、および衣料用洗浄剤組成物によれば、不潔を嫌う清潔志向と、洗剤成分の衣料への残留を嫌う健康志向との、一見矛盾する現代日本の消費者ニーズの両者を、きわめて高い水準で充足することができる。
【発明を実施するための形態】
【0085】
以下、本発明の洗浄剤組成物もしくは洗濯液の洗濯性能を、従来の洗浄剤組成物及びその洗濯液と比較した具体例を説明する。ただし、以下に示す具体的数値は本発明の洗浄剤組成物の使用により得られる洗濯性能の一部を例示的に開示するものであって、本発明を限定する趣旨ではない。なお、本明細書中に開示した洗浄力試験に係る実施例又は比較例の洗浄力については、使用する汚染布のロット番号の違いによって変わってくる場合があるため、汚染布のロット番号が相互に異なる試験間での洗浄力を比較する際には、参考程度に留めておくのが望ましいことを付言しておく。
【0086】
洗浄力試験その1
(試験条件)
洗濯機は、株式会社日立製作所製の全自動洗濯機(NW−7P5 CP、7kgタイプ、水位設定30リットル、負荷としてタオル1.5kg)を用い、水温25°Cの水道水(藤沢市水道、pH7.5、全硬度60ppm)で洗いを8分、すすぎを2回、脱水を5分実施した。
【0087】
汚染布は、人工皮脂汚れが付着した湿式人工汚染布(財団法人洗濯科学協会製)を主として用いた。この際に、異なる製造ロット間で生じる洗浄率の差分を平均化する目的で、相互に製造ロットが異なる二つの汚染布を用意し、これらの汚染布各5枚(都合10枚)をタオルに縫い付けて洗濯した。この湿式人工汚染布に加えて、一部の試験では、鉱物油とカーボンブラックが付着した汚染布(EMPA101)、オリーブ油とカーボンブラックが付着した汚染布(EMPA106)、血液が付着した汚染布(EMPA111)、タンパク質であるカカオが付着した汚染布(EMPA112)、赤ワインが付着した汚染布(EMPA114)、並びに、血液とミルクとカーボンブラックが付着した汚染布(EMPA116)を用いた。この際に、EMPA汚染布各3枚(都合18枚)をタオルに縫い付けて洗濯した。
【0088】
(洗浄率の算出)
洗浄率は、下記式により算出した。
【0089】
洗浄率%=(洗濯後汚染布の白度−洗濯前汚染布の白度)
÷(未汚染生地の白度−洗濯前汚染布の白度)×100
白度は、白度計(ミノルタ株式会社製、CR−14、Whiteness Index Color Reader)を用いて、各汚染布における表裏10点を測定し、この測定値を平均することで求めた。
【0090】
(洗濯液のpH)
洗濯液のpHは、洗濯用水に洗浄剤組成物を添加し、ガラス電極pH計(堀場製作所製)により25°Cで測定した。このとき、示された値が充分に安定した値をもって洗濯液のpHとした。
【0091】
なお、本明細書中に開示している洗浄力試験は、特にことわらない限り本試験条件に則して実施されている。
【0092】
実施例1
水道水30リットルに、メチルグリシン2酢酸3ナトリウム10.5g、結晶性層状ケイ酸ナトリウム2.9g、炭酸水素ナトリウム1.6g、ポリビニルアルコール(以下、「PVA」と省略する。)1.3g、カルボキシメチルセルロース(以下、「CMC」と省略する。)0.2gの各成分組成からなり、同成分総量が16.5gの洗浄剤を溶解して、洗浄剤濃度が0.55g/L、pHが10.0の洗濯液を得た。この洗濯液を用いて洗濯したときの洗濯前後における湿式人工汚染布の洗浄率を求めた。結果を表3に示す。
【0093】
実施例2
水道水30リットルに、メチルグリシン2酢酸3ナトリウム12g、結晶性層状ケイ酸ナトリウム2g、炭酸水素ナトリウム1g、PVA1.3g、CMC0.2gの各成分組成からなり、同成分総量が16.5gの洗浄剤を溶解して、洗浄剤濃度が0.55g/L、pHが10.0の洗濯液を得た。この洗濯液を用いて洗濯したときの洗濯前後における湿式人工汚染布の洗浄率を求めた。結果を表3に示す。
【0094】
実施例3
水道水30リットルに、メチルグリシン2酢酸3ナトリウム15g、PVA1.3g、CMC0.2gの各成分組成からなり、同成分総量が16.5gの洗浄剤を溶解して、洗浄剤濃度が0.55g/L、pHが10.0の洗濯液を得た。この洗濯液を用いて洗濯したときの洗濯前後における湿式人工汚染布の洗浄率を求めた。結果を表3に示す。
【0095】
実施例4
水道水30リットルに、メチルグリシン2酢酸3ナトリウム8g、結晶性層状ケイ酸ナトリウム7.8g、炭酸水素ナトリウム4.2g、PVA1.3g、CMC0.2gの各成分組成からなり、同成分総量が21.5gの洗浄剤を溶解して、洗浄剤濃度が0.72g/L、pHが10.3の洗濯液を得た。この洗濯液を用いて洗濯したときの洗濯前後における湿式人工汚染布の洗浄率を求めた。結果を表3に示す。
【0096】
実施例5
水道水30リットルに、メチルグリシン2酢酸3ナトリウム10g、結晶性層状ケイ酸ナトリウム6.5g、炭酸水素ナトリウム3.5g、PVA1.3g、CMC0.2gの各成分組成からなり、同成分総量が21.5gの洗浄剤を溶解して、洗浄剤濃度が0.72g/L、pHが10.3の洗濯液を得た。この洗濯液を用いて洗濯したときの洗濯前後における湿式人工汚染布の洗浄率を求めた。結果を表3に示す。
【0097】
実施例6
水道水30リットルに、メチルグリシン2酢酸3ナトリウム12g、結晶性層状ケイ酸ナトリウム5.2g、炭酸水素ナトリウム2.8g、PVA1.3g、CMC0.2gの各成分組成からなり、同成分総量が21.5gの洗浄剤を溶解して、洗浄剤濃度が0.72g/L、pHが10.3の洗濯液を得た。この洗濯液を用いて洗濯したときの洗濯前後における湿式人工汚染布の洗浄率を求めた。結果を表3に示す。
【0098】
実施例7
水道水30リットルに、メチルグリシン2酢酸3ナトリウム16g、結晶性層状ケイ酸ナトリウム2.6g、炭酸水素ナトリウム1.4g、PVA1.3g、CMC0.2gの各成分組成からなり、同成分総量が21.5gの洗浄剤を溶解して、洗浄剤濃度が0.72g/L、pHが10.3の洗濯液を得た。この洗濯液を用いて洗濯したときの洗濯前後における湿式人工汚染布の洗浄率を求めた。結果を表3に示す。
【0099】
実施例8
水道水30リットルに、メチルグリシン2酢酸3ナトリウム20g、PVA1.3g、CMC0.2gの各成分組成からなり、同成分総量が21.5gの洗浄剤を溶解して、洗浄剤濃度が0.72g/L、pHが10.3の洗濯液を得た。この洗濯液を用いて洗濯したときの洗濯前後における湿式人工汚染布の洗浄率を求めた。結果を表3に示す。
【0100】
実施例9
水道水30リットルに、メチルグリシン2酢酸3ナトリウム7.5g、結晶性層状ケイ酸ナトリウム12.3g、炭酸水素ナトリウム5.2g、PVA1.3g、CMC0.2gの各成分組成からなり、同成分総量が26.5gの洗浄剤を溶解して、洗浄剤濃度が0.88g/L、pHが10.5の洗濯液を得た。この洗濯液を用いて洗濯したときの洗濯前後における湿式人工汚染布の洗浄率を求めた。結果を表3に示す。
【0101】
実施例10
水道水30リットルに、メチルグリシン2酢酸3ナトリウム10g、結晶性層状ケイ酸ナトリウム10.6g、炭酸水素ナトリウム4.4g、PVA1.3g、CMC0.2gの各成分組成からなり、同成分総量が26.5gの洗浄剤を溶解して、洗浄剤濃度が0.88g/L、pHが10.5の洗濯液を得た。この洗濯液を用いて洗濯したときの洗濯前後における湿式人工汚染布の洗浄率を求めた。結果を表3に示す。
【0102】
実施例11
水道水30リットルに、メチルグリシン2酢酸3ナトリウム15g、結晶性層状ケイ酸ナトリウム7.2g、炭酸水素ナトリウム2.8g、PVA1.3g、CMC0.2gの各成分組成からなり、同成分総量が26.5gの洗浄剤を溶解して、洗浄剤濃度が0.88g/L、pHが10.5の洗濯液を得た。この洗濯液を用いて洗濯したときの洗濯前後における湿式人工汚染布の洗浄率を求めた。結果を表3に示す。
【0103】
実施例12
水道水30リットルに、メチルグリシン2酢酸3ナトリウム20g、結晶性層状ケイ酸ナトリウム3.8g、炭酸水素ナトリウム1.2g、PVA1.3g、CMC0.2gの各成分組成からなり、同成分総量が26.5gの洗浄剤を溶解して、洗浄剤濃度が0.88g/L、pHが10.5の洗濯液を得た。この洗濯液を用いて洗濯したときの洗濯前後における湿式人工汚染布の洗浄率を求めた。結果を表3に示す。
【0104】
実施例13
水道水30リットルに、メチルグリシン2酢酸3ナトリウム25g、PVA1.3g、CMC0.2gの各成分組成からなり、同成分総量が26.5gの洗浄剤を溶解して、洗浄剤濃度が0.88g/L、pHが10.5の洗濯液を得た。この洗濯液を用いて洗濯したときの洗濯前後における湿式人工汚染布の洗浄率を求めた。結果を表3に示す。
【0105】
【表3】

実施例14
水道水30リットルに、メチルグリシン2酢酸3ナトリウム3g、結晶性層状ケイ酸ナトリウム19g、炭酸水素ナトリウム8g、PVA1.3g、CMC0.2gの各成分組成からなり、同成分総量が31.5gの洗浄剤を溶解して、洗浄剤濃度が1.05g/L、pHが10.6の洗濯液を得た。この洗濯液を用いて洗濯したときの洗濯前後における湿式人工汚染布の洗浄率を求めた。結果を表4に示す。
【0106】
実施例15
水道水30リットルに、メチルグリシン2酢酸3ナトリウム6g、結晶性層状ケイ酸ナトリウム17g、炭酸水素ナトリウム7g、PVA1.3g、CMC0.2gの各成分組成からなり、同成分総量が31.5gの洗浄剤を溶解して、洗浄剤濃度が1.05g/L、pHが10.6の洗濯液を得た。この洗濯液を用いて洗濯したときの洗濯前後における湿式人工汚染布の洗浄率を求めた。結果を表4に示す。
【0107】
実施例16
水道水30リットルに、メチルグリシン2酢酸3ナトリウム12g、結晶性層状ケイ酸ナトリウム13g、炭酸水素ナトリウム5g、PVA1.3g、CMC0.2gの各成分組成からなり、同成分総量が31.5gの洗浄剤を溶解して、洗浄剤濃度が1.05g/L、pHが10.6の洗濯液を得た。この洗濯液を用いて洗濯したときの洗濯前後における湿式人工汚染布の洗浄率を求めた。結果を表4に示す。
【0108】
実施例17
水道水30リットルに、メチルグリシン2酢酸3ナトリウム18g、結晶性層状ケイ酸ナトリウム8.8g、炭酸水素ナトリウム3.2g、PVA1.3g、CMC0.2gの各成分組成からなり、同成分総量が31.5gの洗浄剤を溶解して、洗浄剤濃度が1.05g/L、pHが10.6の洗濯液を得た。この洗濯液を用いて洗濯したときの洗濯前後における湿式人工汚染布の洗浄率を求めた。結果を表4に示す。
【0109】
実施例18
水道水30リットルに、メチルグリシン2酢酸3ナトリウム24g、結晶性層状ケイ酸ナトリウム4.4g、炭酸水素ナトリウム1.6g、PVA1.3g、CMC0.2gの各成分組成からなり、同成分総量が31.5gの洗浄剤を溶解して、洗浄剤濃度が1.05g/L、pHが10.6の洗濯液を得た。この洗濯液を用いて洗濯したときの洗濯前後における湿式人工汚染布の洗浄率を求めた。結果を表4に示す。
【0110】
実施例19
水道水30リットルに、メチルグリシン2酢酸3ナトリウム30g、PVA1.3g、CMC0.2gの各成分組成からなり、同成分総量が31.5gの洗浄剤を溶解して、洗浄剤濃度が1.05g/L、pHが10.6の洗濯液を得た。この洗濯液を用いて洗濯したときの洗濯前後における湿式人工汚染布の洗浄率を求めた。結果を表4に示す。
【0111】
実施例20
水道水30リットルに、メチルグリシン2酢酸3ナトリウム10g、結晶性層状ケイ酸ナトリウム7.2g、炭酸水素ナトリウム0.8g、PVA1.3g、CMC0.2g、プロテアーゼ0.2g、亜硫酸ナトリウム0.3gの各成分組成からなり、同成分総量が20gの洗浄剤を溶解して、洗浄剤濃度が0.67g/L、pHが10.5の洗濯液を得た。この洗濯液を用いて洗濯したときの洗濯前後における湿式人工汚染布、並びにEMPA汚染布の洗浄率を求めた。結果を表4、表5に示す。
【0112】
比較例1
実施例1乃至20の比較例として、水道水30リットルに、結晶性層状ケイ酸ナトリウム9.2g、炭酸水素ナトリウム5.8g、PVA1.3g、CMC0.2gの各成分組成からなり、同成分総量が16.5gの洗浄剤を溶解して、洗浄剤濃度が0.55g/L、pHが10.0の洗濯液を得た。この洗濯液を用いて洗濯したときの洗濯前後における湿式人工汚染布の洗浄率を求めた。結果を表4に示す。
【0113】
比較例2
実施例1乃至20の比較例として、水道水30リットルに、結晶性層状ケイ酸ナトリウム12.8g、炭酸水素ナトリウム7.2g、PVA1.3g、CMC0.2gの各成分組成からなり、同成分総量が21.5gの洗浄剤を溶解して、洗浄剤濃度が0.72g/L、pHが10.3の洗濯液を得た。この洗濯液を用いて洗濯したときの洗濯前後における湿式人工汚染布の洗浄率を求めた。結果を表4に示す。
【0114】
比較例3
実施例1乃至20の比較例として、水道水30リットルに、結晶性層状ケイ酸ナトリウム17g、炭酸水素ナトリウム8g、PVA1.3g、CMC0.2gの各成分組成からなり、同成分総量が26.5gの洗浄剤を溶解して、洗浄剤濃度が0.88g/L、pHが10.5の洗濯液を得た。この洗濯液を用いて洗濯したときの洗濯前後における湿式人工汚染布の洗浄率を求めた。結果を表4に示す。
【0115】
比較例4
実施例1乃至20の比較例として、水道水30リットルに、結晶性層状ケイ酸ナトリウム21.2g、炭酸水素ナトリウム8.8g、PVA1.3g、CMC0.2gの各成分組成からなり、同成分総量が31.5gの洗浄剤を溶解して、洗浄剤濃度が1.05g/L、pHが10.6の洗濯液を得た。この洗濯液を用いて洗濯したときの洗濯前後における湿式人工汚染布の洗浄率を求めた。結果を表4に示す。
【0116】
比較例5
実施例1乃至20の比較例として、単に水道水30リットルを用いて洗濯したときの、洗濯前後における湿式人工汚染布、並びにEMPA汚染布の洗浄率を求めた。結果を表4、表5に示す。
【0117】
比較例6
財団法人日本規格協会によって規格化されている合成洗剤試験方法(規格番号 JIS K
3362:1998)には、洗浄力判定用指標洗剤(本明細書では日本標準洗剤という。)として、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ケイ酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、および硫酸ナトリウムを15:5:7:1:55で混合したものを用いることが規定されている。
【0118】
そこで、実施例1乃至20の比較例として、上述の日本標準洗剤を標準濃度で水道水30リットルに溶解させた洗濯液(洗浄剤濃度1.33g/L)を用いて洗濯したときの、洗濯前後における湿式人工汚染布、並びにEMPA汚染布の洗浄率を求めた。結果を表4、表5に示す。
【0119】
比較例7
実施例1乃至20の比較例として、市販の粉末合成洗剤を標準濃度で水道水30リットルに溶解させた洗濯液(アタック バイオ酵素、洗浄剤濃度0.67g/L、花王株式会社製、酵素及び蛍光増白剤入り)を用いて洗濯したときの、洗濯前後における湿式人工汚染布、並びにEMPA汚染布の洗浄率を求めた。結果を表4、表5に示す。
【0120】
【表4】

【0121】
【表5】

(洗浄力試験その1:洗浄試験結果、及びその考察)
実施例1〜20の洗浄率と、比較例6〜7の洗浄率とを比較してみると、本発明に係る有機系キレート剤を洗濯作用主剤とする洗濯液では、市販の界面活性剤を洗濯作用主剤とする合成洗剤とほぼ同等又はそれ以上の洗浄率を示している。
【0122】
このうち、表3を参照しつつ実施例20と比較例6〜7とを比べてみると、酵素及び還元剤をさらに添加した実施例20のものは、人工皮脂汚れ(人工汚染布)をはじめとして、鉱物油とカーボンブラックの複合汚れ(EMPA101)、オリーブ油とカーボンブラックの複合汚れ(EMPA106)、血液(EMPA111)、タンパク質(EMPA112)、赤ワイン(EMPA114)、並びに血液とミルクとカーボンブラックの複合汚れ(EMPA116)など、あらゆる種類の汚れのすべてについて、従来の合成洗剤を超える洗濯性能を示しており、まさに万能の洗浄力を発揮することがわかる。しかも、洗浄剤濃度の観点で実施例20と比較例6〜7とを比べてみると、実施例20の洗浄剤濃度は0.67g/L、比較例6の洗浄剤濃度は1.33g/L、比較例7の洗浄剤濃度は0.67g/Lであり、洗浄剤の使用量をみても、実施例20のものは、比較例6の日本標準洗剤と比べて約半分ですみ、また、比較例7の市販粉末合成洗剤と同等であることがわかる。
【0123】
次に、実施例に係る洗濯液が、有機系キレート剤を洗濯作用主剤とするものであるとする根拠について言及する。なお、洗濯作用主剤とは、ある洗浄剤組成物の構成成分のうち、洗浄力(洗浄率)の向上に主として貢献する成分である、と定義することにする。また、洗浄力(洗浄率)の向上に主として貢献するとは、少量の配合で洗浄力(洗浄率)が向上する場合と、それを配合することで洗浄力(洗浄率)が高水準に引き上げられる(例えば、比較例7の洗浄率と同等以上)場合と、の両者を含む概念である。
【0124】
さて、本発明の実施例に係る洗濯液が、有機系キレート剤を洗濯作用主剤とするものであることを明らかにするために、洗浄剤使用量・濃度、pH等の洗濯条件を等しく揃えた洗濯液であって、その組成が異なる三種類のものを相互に比較してみた。
【0125】
まず、洗浄剤使用量を16.5g(洗浄剤濃度:0.55g/L)とし、pHを10.0と同一条件に揃えた三種類の洗濯液が、比較例1ではアルカリ緩衝剤15gを、実施例3では有機系キレート剤15gを、そして実施例1では有機系キレート剤10.5gとアルカリ緩衝剤4.5gを、それぞれ共通の再汚染防止剤1.5gと共に水道水30リットル中に溶解させることで得られている。ここで、実施例1,3と、比較例1を対比してみると、アルカリ緩衝剤単独(比較例1)では洗浄率28.9%と大きく見劣りするものの、有機系キレート剤単独(実施例3)では洗浄率52.2%、有機系キレート剤とアルカリ緩衝剤の組み合わせに係る組成(実施例1)では洗浄率48.9%と、両者共に高い洗浄率が得られており、この場合、有機系キレート剤が洗浄力(洗浄率)の向上に主として貢献していることは明らかであるから、実施例1,3に係る洗濯液は、有機系キレート剤を洗濯作用主剤とするものであると言える。
【0126】
同様に、洗浄剤使用量を21.5g(洗浄剤濃度:0.72g/L)とし、pHを10.3と同一条件に揃えた三種類の洗濯液が、比較例2ではアルカリ緩衝剤20gを、実施例8では有機系キレート剤20gを、そして実施例5では有機系キレート剤10gとアルカリ緩衝剤10gを、それぞれ共通の再汚染防止剤1.5gと共に水道水30リットル中に溶解させることで得られている。ここで、実施例5,8と、比較例2を対比してみると、アルカリ緩衝剤単独(比較例2)では洗浄率36.5%と見劣りするものの、有機系キレート剤単独(実施例8)では洗浄率56.2%、有機系キレート剤とアルカリ緩衝剤の組み合わせに係る組成(実施例5)では洗浄率53.6%と、両者共に高い洗浄率が得られており、この場合、有機系キレート剤が洗浄力(洗浄率)の向上に主として貢献していることは明らかであるから、実施例5,8に係る洗濯液は、有機系キレート剤を洗濯作用主剤とするものであると言える。
【0127】
同様に、洗浄剤使用量を26.5g(洗浄剤濃度:0.88g/L)とし、pHを10.5と同一条件に揃えた三種類の洗濯液が、比較例3ではアルカリ緩衝剤25gを、実施例13では有機系キレート剤25gを、そして実施例10では有機系キレート剤10gとアルカリ緩衝剤15gを、それぞれ共通の再汚染防止剤1.5gと共に水道水30リットル中に溶解させることで得られている。ここで、実施例10,13と、比較例3を対比してみると、アルカリ緩衝剤単独(比較例3)では洗浄率39.5%と見劣りするものの、有機系キレート剤単独(実施例13)では洗浄率56.5%、有機系キレート剤とアルカリ緩衝剤の組み合わせに係る組成(実施例10)では洗浄率54.6%と、両者共に高い洗浄率が得られており、この場合、有機系キレート剤が洗浄力(洗浄率)の向上に主として貢献していることは明らかであるから、実施例10,13に係る洗濯液は、有機系キレート剤を洗濯作用主剤とするものであると言える。
【0128】
同様に、洗浄剤使用量を31.5g(洗浄剤濃度:1.05g/L)とし、pHを10.6と同一条件に揃えた三種類の洗濯液が、比較例4ではアルカリ緩衝剤30gを、実施例19では有機系キレート剤30gを、そして実施例16では有機系キレート剤12gとアルカリ緩衝剤18gを、それぞれ共通の再汚染防止剤1.5gと共に水道水30リットル中に溶解させることで得られている。ここで、実施例16,19と、比較例4を対比してみると、アルカリ緩衝剤単独(比較例4)では洗浄率47.1%とやや劣るものの、キレート剤単独(実施例19)では洗浄率56.5%、有機系キレート剤とアルカリ緩衝剤の組み合わせに係る組成(実施例16)では洗浄率57.1%と、両者共に高い洗浄率が得られており、この場合、有機系キレート剤が洗浄力(洗浄率)の向上に主として貢献していることは明らかであるから、実施例16,19に係る洗濯液は、有機系キレート剤を洗濯作用主剤とするものであると言える。
【0129】
上述した実施例1,3,5,8,10,13,16,19以外の例でも、有機系キレート剤を配合することによって、洗浄力(洗浄率)の向上、又は洗浄力(洗浄率)の高水準への引き上げが実現されている。
【0130】
従って、実施例1〜20に係る洗濯液は、有機系キレート剤を洗濯作用主剤とするものであると言える。
【0131】
(洗浄力試験その1:まとめ)
洗浄力試験その1の実施例1〜20では、有機系キレート剤として、メチルグリシン2酢酸3ナトリウム(MGDA-3Na、pH11における最大カルシウム錯化能は327mg/g)を使用しているが、本試験で使用した洗濯用水(60mg/リットルの硬度成分を含有、洗濯用水量:30リットル)に含まれる硬度成分を完全に無効化するためのMGDA-3Naの必要量計算値は次式で与えられる。
【0132】
60/327*30=約5.5g
表3,4を参照すると、実施例1〜20について、MGDA-3Naの使用量が5.5gを下回るのは実施例14のみであり、同実施例14を除くと、MGDA-3Naの使用量範囲は6〜30gとなり、いずれの例でも有機系キレート剤(MGDA-3Na)は、必要量計算値を超えた使用がなされていることがわかる。
【0133】
なお、実施例14では、有機系キレート剤(MGDA-3Na)の使用量が3g(洗浄剤総量中の配合比率では9.5%)と必要量計算値(5.5g)を下回っているものの、結晶性層状ケイ酸ナトリウムの使用量が19g(洗浄剤総量中の配合比率では60.3%)と多量に使用されており、こうした結晶性層状ケイ酸ナトリウムの多量使用が、有機系キレート剤(MGDA-3Na)の硬度成分捕捉能を補うことで、市販合成洗剤と同等の高い洗浄力が維持されているものと考えられる。
【0134】
次に、日本市場を対象とした洗浄剤組成物の好ましい実施例について、比較例と対比しながら、洗浄力試験その2に開示する。
【0135】
洗浄力試験その2
試験条件については、上述した洗浄力試験その1とほぼ共通のため、その相違点について言及すると、本洗浄力試験その2では、ターゴトメーターを使用して、回転数120rpm、洗濯時間10分、すすぎ2回、温度30°C、洗濯用水(日本標準洗濯用水)の量1リットルにて、下記実施例及び比較例に示す物質及び洗剤濃度にて洗濯を行った。
【0136】
実施例21
日本標準洗濯用水30リットルに、メチルグリシン2酢酸3ナトリウム10g、結晶性層状ケイ酸ナトリウム3.5g、炭酸水素ナトリウム1.5g、PVA1.3g、CMC0.2g、プロテアーゼ0.2g、亜硫酸ナトリウム0.3gの各成分組成からなり、同成分総量が17gの洗浄剤を溶解して、洗浄剤濃度が0.57g/L、pHが10.5の洗濯液を得た。この洗濯液を用いて洗濯したときの洗濯前後における湿式人工汚染布、並びにEMPA汚染布の洗浄率を求めた。結果を表6、表7に示す。
【0137】
実施例22
日本標準洗濯用水30リットルに、メチルグリシン2酢酸3ナトリウム12g、結晶性層状ケイ酸ナトリウム2g、炭酸水素ナトリウム1g、PVA1.3g、CMC0.2g、プロテアーゼ0.2g、亜硫酸ナトリウム0.3gの各成分組成からなり、同成分総量が17gの洗浄剤を溶解して、洗浄剤濃度が0.57g/L、pHが10.5の洗濯液を得た。この洗濯液を用いて洗濯したときの洗濯前後における湿式人工汚染布、並びにEMPA汚染布の洗浄率を求めた。結果を表6、表7に示す。
【0138】
実施例23
日本標準洗濯用水30リットルに、メチルグリシン2酢酸3ナトリウム15g、PVA1.3g、CMC0.2g、プロテアーゼ0.2g、亜硫酸ナトリウム0.3gの各成分組成からなり、同成分総量が17gの洗浄剤を溶解して、洗浄剤濃度が0.57g/L、pHが10.5の洗濯液を得た。この洗濯液を用いて洗濯したときの洗濯前後における湿式人工汚染布、並びにEMPA汚染布の洗浄率を求めた。結果を表6、表7に示す。
【0139】
比較例8
実施例21乃至23の比較例として、市販の粉末合成洗剤を標準濃度で日本標準洗濯用水30リットルに溶解させた洗濯液(アタック バイオ酵素、洗浄剤濃度0.67g/L、花王株式会社製、酵素及び蛍光増白剤入り)を用いて洗濯したときの、洗濯前後における湿式人工汚染布、並びにEMPA汚染布の洗浄率を求めた。結果を表6、表7に示す。
【0140】
【表6】

【0141】
【表7】

(洗浄力試験その2:洗浄試験結果、及びその考察)
実施例21〜23の洗浄率と、比較例8の洗浄率とを比較してみると、本発明に係る有機系キレート剤を洗濯作用主剤とする洗濯液では、市販の界面活性剤を洗濯作用主剤とする合成洗剤を凌駕する洗浄率を示している。
【0142】
このうち、表7を参照しつつ実施例21〜23と比較例8とを比べてみると、実施例21〜23の洗浄率は、人工皮脂汚れ(人工汚染布)をはじめとして、鉱物油とカーボンブラックの複合汚れ(EMPA101)、オリーブ油とカーボンブラックの複合汚れ(EMPA106)、血液(EMPA111)、タンパク質(EMPA112)、赤ワイン(EMPA114)、並びに血液とミルクとカーボンブラックの複合汚れ(EMPA116)など、あらゆる種類の汚れのすべてについて、従来の合成洗剤を超える洗濯性能を示しており、まさに万能の洗浄力を発揮することがわかる。しかも、洗浄剤濃度の観点で実施例21〜23と比較例8とを比べてみると、実施例21〜23の洗浄剤濃度は0.57g/L、比較例8の洗浄剤濃度は0.67g/Lであり、洗浄剤の使用量をみても、実施例21〜23のものは、比較例8の市販粉末合成洗剤よりも少なくてすみ、洗濯性能のみならず、コンパクト化の観点でも優れていることがわかる。なお、表6を参照しつつ実施例21〜23を比べてみると、実施例21、22、23の順序で有機系キレート剤の配合比率が低いので、洗浄剤組成物中における有機物の配合量を減らす要請がある場合には、実施例24の組成を採用すればよい。
【0143】
次に、実施例21〜23に係る洗濯液が、有機系キレート剤を洗濯作用主剤とするものであるか否かを検討してみると、実施例21〜23のいずれも、有機系キレート剤としてのメチルグリシン2酢酸3ナトリウムが、組成物中の配合比率で50%以上を占めており、こうした50%以上に及ぶ配合比率で有機系キレート剤を含有させることによって、洗浄力(洗浄率)の飛躍的な向上が実現されていることがわかる。
【0144】
従って、実施例21〜23に係る洗濯液は、有機系キレート剤を洗濯作用主剤とするものであると言える。
【0145】
(洗浄力試験その2:まとめ)
洗浄力試験その2の実施例21〜23では、有機系キレート剤として、メチルグリシン2酢酸3ナトリウム(MGDA-3Na、pH11における最大カルシウム錯化能は327mg/g)を使用しているが、本試験で使用した洗濯用水(90mg/リットルの硬度成分を含有、洗濯用水量:1リットル)に含まれる硬度成分を完全に無効化するためのMGDA-3Naの必要量計算値は次式で与えられる。
【0146】
90/327*1=約0.28g
表6を参照すると、MGDA-3Naの使用量は、実施例21では0.33g、実施例22では0.4g、実施例23では0.5gであり、MGDA-3Naの使用量範囲は0.33〜0.5g(洗濯用水量が30リットルでは10〜15g)となり、いずれの例でも有機系キレート剤(MGDA-3Na)は、必要量計算値(約0.28g)を超えて使用されていることがわかる。
【0147】
次に、欧州等の比較的洗濯用水の硬度が高い市場を対象とした洗浄剤組成物の好ましい実施例について、比較例と対比しながら、洗浄力試験その3に開示する。
【0148】
洗浄力試験その3
試験条件については、上述した洗浄力試験その1とほぼ共通のため、その相違点について言及すると、本洗浄力試験その3では、ミーレ社製のドラム式洗濯機(W901、Cotton60°Cコース、負荷としてタオル3kg)を用い、同洗濯機のコースプログラムに従って60°Cに加温された洗濯用水(水量は15〜20リットルの範囲)にて、下記実施例及び比較例に示す物質及び洗剤濃度にて洗濯を行った。洗濯用水は、精製水に塩化カルシウム二水和物を369mg/L濃度で溶解させることにより硬度250ppmの水を得て、これを洗濯用水として用いた。以下では、こうした手順を経て得た水を、欧州標準洗濯用水という。
【0149】
実施例24
欧州標準洗濯用水15−20リットルに、メチルグリシン2酢酸3ナトリウム27g、炭酸水素ナトリウム3g、PVA2.6g、CMC0.4g、酵素としてトータラーゼ1g、酵素安定化剤として亜硫酸ナトリウム0.5g、その他の添加剤である漂白剤として過炭酸ナトリウム15g、同漂白剤の活性化剤としてテトラアセチルエチレンジアミン2.5gの各成分組成からなり、同成分総量が52gの洗浄剤を溶解して、洗浄剤濃度が2.6−3.5g/L、pHが10.0の洗濯液を得た。この洗濯液を用いて洗濯したときの洗濯前後における湿式人工汚染布、並びにEMPA汚染布の洗浄率を求めた。結果を表8、表9に示す。
【0150】
実施例25
欧州標準洗濯用水15−20リットルに、メチルグリシン2酢酸3ナトリウム30g、PVA2.6g、CMC0.4g、酵素としてトータラーゼ1g、酵素安定化剤として亜硫酸ナトリウム0.5g、その他の添加剤である漂白剤として過炭酸ナトリウム15g、同漂白剤の活性化剤としてテトラアセチルエチレンジアミン2.5gの各成分組成からなり、同成分総量が52gの洗浄剤を溶解して、洗浄剤濃度が2.6−3.5g/L、pHが10.0の洗濯液を得た。この洗濯液を用いて洗濯したときの洗濯前後における湿式人工汚染布、並びにEMPA汚染布の洗浄率を求めた。結果を表8、表9に示す。
【0151】
比較例9
実施例24乃至25の比較例として、市販の粉末合成洗剤を標準濃度で欧州標準洗濯用水15−20リットルに溶解させた洗濯液(パーシル メガパールズ:Persil MEGAPEALS(登録商標) センシティブ:Sensitiv、洗浄剤濃度3.8−5g/L、ヘンケル社製、ゼオライト及び漂白剤入り)を用いて洗濯したときの、洗濯前後における湿式人工汚染布、並びにEMPA汚染布の洗浄率を求めた。結果を表8、表9に示す。
【0152】
【表8】

【0153】
【表9】

(洗浄力試験その3:洗浄試験結果、及びその考察)
実施例24、25の洗浄率と、比較例9の洗浄率とを比較してみると、本発明に係る有機系キレート剤を洗濯作用主剤とする洗濯液では、市販の界面活性剤を洗濯作用主剤とする合成洗剤と同等以上の洗浄率を示している。
【0154】
このうち、表9を参照しつつ実施例24、25と比較例9とを比べてみると、実施例24、25の洗浄率は、人工皮脂汚れ(人工汚染布)をはじめとして、鉱物油とカーボンブラックの複合汚れ(EMPA101)、オリーブ油とカーボンブラックの複合汚れ(EMPA106)、血液(EMPA111)、タンパク質(EMPA112)、赤ワイン(EMPA114)、並びに血液とミルクとカーボンブラックの複合汚れ(EMPA116)など、あらゆる種類の汚れのすべてについて、従来の合成洗剤を超える洗濯性能を示しており、まさに万能の洗浄力を発揮することがわかる。しかも、洗浄剤濃度の観点で実施例24、25と比較例9とを比べてみると、実施例24、25の洗浄剤濃度は2.6−3.5g/L、比較例9の洗浄剤濃度は3.8−5g/Lであり、洗浄剤の使用量をみても、実施例24、25のものは、比較例9の市販粉末合成洗剤よりも約3割ほど少なくてすみ、洗濯性能のみならず、コンパクト化の観点でも優れていることがわかる。なお、表8を参照しつつ実施例24と25を比べてみると、実施例24では有機系キレート剤の配合比率が低いので、洗浄剤組成物中における有機物の配合量を減らす要請がある場合には、実施例24の組成を採用すればよい。
【0155】
次に、実施例24、25に係る洗濯液が、有機系キレート剤を洗濯作用主剤とするものであるか否かを検討してみると、実施例24、25のいずれも、有機系キレート剤としてのメチルグリシン2酢酸3ナトリウムが、組成物中の配合比率で50%以上を占めており、こうした50%以上に及ぶ配合比率で有機系キレート剤を含有させることによって、洗浄力(洗浄率)の飛躍的な向上が実現されていることがわかる。
【0156】
従って、実施例24、25に係る洗濯液は、有機系キレート剤を洗濯作用主剤とするものであると言える。
【0157】
(洗浄力試験その3:まとめ)
洗浄力試験その3の実施例24〜25では、有機系キレート剤として、メチルグリシン2酢酸3ナトリウム(MGDA-3Na、pH11における最大カルシウム錯化能は327mg/g)を使用しているが、本試験で使用した洗濯用水(250mg/リットルの硬度成分を含有、洗濯用水量:15−20リットル)に含まれる硬度成分を完全に無効化するためのMGDA-3Naの必要量計算値は次式で与えられる。
【0158】
15リットル:250/327*15=11.47g
20リットル:250/327*20=15.29g
表8を参照すると、MGDA-3Naの使用量は、実施例24では27g、実施例25では30gであり、MGDA-3Naの使用量範囲は27〜30gとなり、いずれの例でも有機系キレート剤(MGDA-3Na)は、必要量計算値(洗濯用水量:20リットルの場合で約15g)を超えて、約2倍量が使用されていることがわかる。
【0159】
(使用薬剤の特定)
本明細書中で開示した使用薬剤については下記のものを使用した。
【0160】
1.結晶性層状ケイ酸ナトリウム:プリフィード F品(トクヤマシルテック社製)
2.重炭酸ナトリウム:Eグレード品(トクヤマ社製)
3.ポリビニルアルコール(PVA):ポバール JP−05S(日本酢ビ・ポバール社製)
4.カルボキシメチルセルロース(CMC):セロゲン BSH−12(第一工業製薬社製)
5.酵素:プロテアーゼ Properase1000E(ナガセケムテックス社製)
6.酵素:トータラーゼ(ノボザイム社製)
7.酵素安定化剤:亜硫酸ナトリウム:精製無水亜硫酸ソーダ(大東化学社製)
8.漂白剤:過炭酸ナトリウム(旭電化工業社製)
9.漂白剤活性化剤:テトラアセチルエチレンジアミン(クラリアントジャパン社製)
10.エチレンジアミン四酢酸(EDTA-4Na):トリロン−B粉体(登録商標、BASF社製)
11.メチルグリシン2酢酸3ナトリウム(MGDA-3Na):トリロン−M粉末(登録商標、BASF社製)
<産業上の利用可能性>
本発明の洗浄剤組成物は、有機系キレート剤を洗濯作用主剤とし、界面活性剤を使用することのない洗浄剤組成物であって、従来の界面活性剤を主剤とした合成洗剤と同等以上の洗浄力及び使い勝手を有するものである。
【0161】
以上に述べた本発明は、明らかに同一性の範囲に属するものが多種存在する。そのような多様性は発明の意図及び範囲から離脱したものとはみなされず、当業者に自明であるそのようなすべての変更は、本発明に係る請求の範囲の技術的射程範囲内に含まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
易分解性であるアミノカルボン酸系の有機系キレート剤の塩(以下、有機系アルカリキレート剤)を必須成分とし、さらに再汚染防止剤を含有し、界面活性剤を含有しない無りんの洗浄剤組成物を溶解した洗濯液を用いて衣料を洗濯することを特徴とする衣料の洗濯方法であって、
前記洗浄剤組成物を0.5〜10.5g/Lの濃度に溶解した場合に、
a)前記洗濯液のpHが9〜11であり、
b)前記洗濯液には、硬度成分捕捉能を有する物質(前記有機系アルカリキレート剤、もしくは前記有機系アルカリキレート剤と結晶性層状ケイ酸ナトリウムの組み合わせ)が、標準使用量(前記洗浄剤組成物を溶解する洗濯用水に含まれる硬度成分を0にするために必要な量の、撹拌式洗濯機の場合には105%〜160%、ドラム式洗濯機の場合には210%〜320%)以上存在し、
c)前記硬度成分捕捉能を有する物質に占める前記有機系アルカリキレート剤の配合比率は、前記洗濯用水の硬度成分の50%以上を無効化する配合比率であり、
d)衣料を入れて洗濯した時の、前記洗濯液の硬度成分が10ppm以下であることを特徴とする衣料の洗濯方法。
【請求項2】
易分解性であるアミノカルボン酸系の有機系キレート剤、アルカリ緩衝剤、及び再汚染防止剤を含有し、界面活性剤を含有しない無りんの洗浄剤組成物を溶解した洗濯液を用いて衣料を洗濯することを特徴とする衣料の洗濯方法であって、
前記洗浄剤組成物を0.5〜10.5g/Lの濃度に溶解した場合に、
a)前記洗濯液のpHが9〜11であり、
b) 前記洗濯液には、硬度成分捕捉能を有する物質(前記有機系キレート剤、もしくは前記有機系キレート剤と結晶性層状ケイ酸ナトリウムの組み合わせ)が、標準使用量(前記洗浄剤組成物を溶解する洗濯用水に含まれる硬度成分を0にするために必要な量の、撹拌式洗濯機の場合には105%〜160%、ドラム式洗濯機の場合には210%〜320%)以上存在し、
c)前記硬度成分捕捉能を有する物質に占める前記有機系キレート剤の配合比率は、前記洗濯用水の硬度成分の50%以上を無効化する配合比率であり、
d)衣料を入れて洗濯した時の、前記洗濯液の硬度成分が10ppm以下であることを特徴とする衣料の洗濯方法。
【請求項3】
請求項1〜2のいずれか一項に記載の衣料の洗濯方法において、
洗濯用酵素及び該酵素の失活を防ぐための還元剤をさらに含有することを特徴とする衣料の洗濯方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の衣料の洗濯方法において、
酸素系漂白剤をさらに含有することを特徴とする衣料の洗濯方法。
【請求項5】
易分解性であるアミノカルボン酸系の有機系キレート剤の塩(以下、有機系アルカリキレート剤)を必須成分とし、さらに再汚染防止剤を含有し、界面活性剤を含有しない無りんの洗浄剤組成物であって、
前記洗浄剤組成物を0.5〜10.5g/Lの濃度に溶解した場合に、
a)洗濯液のpHが9〜11であり、
b)前記洗濯液には、硬度成分捕捉能を有する物質(前記有機系アルカリキレート剤、もしくは前記有機系アルカリキレート剤と結晶性層状ケイ酸ナトリウムの組み合わせ)が、標準使用量(前記洗浄剤組成物を溶解する洗濯用水に含まれる硬度成分を0にするために必要な量の、撹拌式洗濯機の場合には105%〜160%、ドラム式洗濯機の場合には210%〜320%)以上存在し、
c)前記硬度成分捕捉能を有する物質に占める前記有機系アルカリキレート剤の配合比率は、前記洗濯用水の硬度成分の50%以上を無効化する配合比率であり、
d)衣料を入れて洗濯した時の、前記洗濯液の硬度成分が10ppm以下であることを特徴とする衣料用洗浄剤組成物。
【請求項6】
易分解性であるアミノカルボン酸系の有機系キレート剤、アルカリ緩衝剤、及び再汚染防止剤を含有し、界面活性剤を含有しない無りんの洗浄剤組成物であって、
前記洗浄剤組成物を0.5〜10.5g/Lの濃度に溶解した場合に、
a)洗濯液のpHが9〜11であり、
b) 前記洗濯液には、硬度成分捕捉能を有する物質(前記有機系キレート剤、もしくは前記有機系キレート剤と結晶性層状ケイ酸ナトリウムの組み合わせ)が、標準使用量(前記洗浄剤組成物を溶解する洗濯用水に含まれる硬度成分を0にするために必要な量の、撹拌式洗濯機の場合には105%〜160%、ドラム式洗濯機の場合には210%〜320%)以上存在し、
c)前記硬度成分捕捉能を有する物質に占める前記有機系キレート剤の配合比率は、前記洗濯用水の硬度成分の50%以上を無効化する配合比率であり、
d)衣料を入れて洗濯した時の、前記洗濯液の硬度成分が10ppm以下であることを特徴とする衣料用洗浄剤組成物。
【請求項7】
請求項5〜6のいずれか一項に記載の衣料用洗浄組成物において、
洗濯用酵素及び該酵素の失活を防ぐための還元剤をさらに含有することを特徴とする衣料用洗浄剤組成物。
【請求項8】
請求項5〜7のいずれか一項に記載の衣料用洗浄組成物において、
酸素系漂白剤をさらに含有することを特徴とする衣料用洗浄剤組成物。

【公開番号】特開2009−132934(P2009−132934A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−14622(P2009−14622)
【出願日】平成21年1月26日(2009.1.26)
【分割の表示】特願2007−524060(P2007−524060)の分割
【原出願日】平成18年7月3日(2006.7.3)
【出願人】(394021270)ミズ株式会社 (13)
【Fターム(参考)】