説明

表皮一体発泡品

【課題】インストルメントパネル等に好適な装飾性の高い溝状模様と皺模様を有する表皮一体発泡品を提供する。
【解決手段】可撓性のプラスチックからなる一枚の表皮15と、表皮15の裏面で発泡形成された発泡体とを有する表皮一体発泡品10において、表皮15には、発泡体の発泡形成時の発泡圧により表皮15の溝16が押圧されて溝幅が開口部側よりも底部側で狭くされた溝状模様Mを表面に有し、溝状模様Mの両端には、発泡体の発泡形成時の発泡圧により表皮15の溝16が押圧されて溝幅が開口部側よりも底部側で狭くされる際の表皮15の変形により発生した皺模様17を有する構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溝状模様を有する表皮一体発泡品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、表皮と前記表皮の裏面で発泡形成された発泡体とを有する表皮一体発泡品として、表皮を成形型の型面に配置し、成形型内に発泡原料を注入して発泡させることにより表皮と発泡体を一体にしたものが多用されている。
【0003】
また、近年、例えばインストルメントパネルなどの自動車内装品用表皮一体発泡品においては、装飾性向上のためなどから表面に溝状模様を有するものが求められるようになってきた。
【0004】
また、表皮の表面に溝を設けた表皮一体発泡品として、溝の内部に色の境界を設けて溝両側で色を異ならせた2色表皮一体発泡品が提案されている。この2色表皮一体発泡品は、幅の狭い溝部の両側に傾斜凸部を設けると共に前記傾斜凸部の裏側に傾斜凹部を形成した表皮材を、発泡成形型内に配置し、表皮の裏側に発泡原料を注入して発泡体を形成し、その際に発泡体の発泡圧で前記傾斜凸部を平坦にして溝の開口部を閉じ、あるいは溝の底部側よりも狭くして、溝内部における色の境界が外部から視認し難いようにしたものである。
【0005】
しかし、前記溝を設けた2色表皮一体発泡品にあっては、色の境界を視認し難くするために溝が設けられたものであり、しかもその溝は開口部を閉じ、あるいは溝の底部側よりも狭くして、溝内部における色の境界を外部から視認し難いようにしたものであるため、溝状模様としては装飾性に劣るものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−89439号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は前記の点に鑑みなされたものであって、装飾性に優れる溝状模様を有する表皮一体発泡品の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の発明は、一枚の表皮と、前記表皮の裏面で発泡形成された発泡体とを有する表皮一体発泡品において、前記表皮は可撓性のプラスチックからなって該表皮の表面に形成されている溝が前記発泡体の発泡形成時の発泡圧により押圧されて溝幅が開口部側よりも底部側で狭くされた溝状模様を前記表皮の表面に有し、前記溝状模様の両端には、前記発泡体の発泡形成時の発泡圧により前記溝幅が開口部側よりも底部側で狭くされる際の前記溝状模様の両端における前記表皮の変形により発生した皺模様を有することを特徴とする。
【0009】
請求項2の発明は、請求項1において、前記発泡体の裏側には基材を有し、前記発泡体は前記表皮と前記基材間で発泡成形されたものからなり、前記表皮の溝の底部の裏側では、前記溝の底部と前記基材との間の発泡原料流動用隙間に前記発泡体が充填されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、発泡体の発泡形成時の発泡圧により溝幅が開口部側よりも底部側で狭くされた溝状模様を表面に有するため、表皮の表面を糸で表皮裏側へ引っ張って溝状模様を形成したものと同様の形状、すなわち、表面側で溝幅が拡開し、底部側で溝幅が狭くなっており、表皮一体発泡品の使用者には溝状模様が手作業で形成された高級なものである印象を与えることができ、溝状模様の装飾性を高めることができる。
【0011】
さらに本発明によれば、溝状模様の両端には溝幅が狭くされる際に発生した皺を有するため、溝状模様が両端の皺模様によって一層装飾性に優れたものとなる。しかも、表皮一体発泡品は、溝状模様両端の皺模様を発泡体の発泡時に形成することができるため、製造が容易である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の表皮一体発泡品の一実施形態を示す斜視図である。
【図2】図1のA−A断面図及びB−B断面図である。
【図3】本発明の表皮一体発泡品の製造に用いられる成形型の一実施形態の断面図である。
【図4】図3の部分拡大断面図である。
【図5】図4のC−C断面図である。
【図6】同実施形態の成形型を用いる表皮一体発泡品の製造に際して型面に表皮を配置した状態を示す断面図である。
【図7】図6の部分拡大断面図である。
【図8】図7のD−D断面図である。
【図9】同表皮一体発泡品の製造に際して発泡原料注入時を示す断面図である。
【図10】同表皮一体発泡品の製造に際して発泡途中を示す断面図である。
【図11】図10の部分拡大断面図である。
【図12】図11のE−E断面図である。
【図13】同表皮一体発泡品の製造に際してスライド板を溝から抜き取った状態を示す断面図である。
【図14】図13の部分拡大断面図である。
【図15】図14のF−F断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下本発明の実施形態を詳細に説明する。図1及び図2に示す表皮一体発泡品10は、車両のインストルメントパネルに用いられるものであって、表面に溝状模様Mとその両端に皺模様17を有する。前記表皮一体発泡品10は、基材11と表皮15と前記表皮15の裏面で発泡形成された発泡体19とからなり、後述する製造方法によって製造されたものである。
【0014】
前記基材11は、剛性を有するプラスチック、例えばABS樹脂等からなり、射出成形等によって所定形状に形成されている。なお、前記基材11は、表皮一体発泡品の用途によっては不要とされることもある。
【0015】
前記表皮15は、可撓性のプラスチックからなり、パウダースラッシュ成形等により所定形状に形成されている。前記溝状模様Mは、前記表皮15の表面における所定部位に形成された有底の溝16が発泡体19の発泡形成時の発泡圧により押圧されて溝幅が狭くされたものからなる。前記溝状模様Mは表皮15の表面側から裏面側へ窪んだ凹形状からなり、前記表皮15の表面では前記溝状模様Mの両端に、前記溝状模様Mの長さ方向Lに交差する皺模様17が溝状模様Mの外方へ向けて略八の字状に形成されている。さらに、前記溝状模様Mは、開口部側(溝の外方側)よりも底部側(溝の内奥)で溝幅W1が狭くなっている。すなわち、前記溝状模様Mは断面形状が略V字状となっている。したがって、前記溝状模様Mは、前記表皮15の表面を糸で表皮15の裏側へ引っ張って形成されたものと同様に表面側で溝幅が拡開し、底部側で溝幅が狭くなっているため、手作業で形成されているような高級感を有する。
【0016】
また、前記皺模様17は、前記溝状模様Mの溝16が発泡体19の発泡形成時の発泡圧により押圧されて溝幅が狭くなる際に、前記溝状模様Mの両端で表皮15が変形することにより形成されたものである。前記溝状模様Mの両端に皺模様17を有することによって、前記溝状模様Mは、前記表皮15の表面を糸で表皮15の裏側へ引っ張ることによって溝状にされたものであるかのような印象が強調され、前記溝状模様の装飾性が一層向上する。
【0017】
前記溝状模様Mの寸法、すなわち溝16の寸法は求められる装飾性に応じて適宜の値とされる。例えば、本実施形態では、前記発泡体19の形成後における溝16の底部側の溝幅W1は0.5〜0.8mm、溝16の深さD1は3〜7mm、溝16の長さL1は100〜150mmとされている。なお、前記発泡体形成後の前記溝16の底部側の溝幅W1は、前記表皮15の成形時に形成された溝16の溝幅、すなわち前記発泡体19を発泡形成する前の溝16の幅よりも小となっている。本実施形態では、図4及び図5に示すように、前記発泡体19の形成前における表皮15の溝16の幅W2は1.5〜2mm、深さD2は3〜7mm、長さL2は100〜150mmにされている。
【0018】
また、前記表皮15の溝16の底部(表皮一体発泡時の成形型に表皮を配置した状態では溝の頂部)16aと対向する前記基材11の部位には、前記基材11の裏側(表皮一体発泡品の裏側)へ窪んだ凹部12が形成され、後述の表皮一体発泡品製造時に表皮の溝16の底部16aと前記基材11の凹部12間に、発泡原料流動用隙間を確保するように構成されている。
【0019】
前記発泡体19は、後述の表皮一体発泡品製造時に前記表皮15の裏面で発泡原料を発泡させることにより形成されたものであり、発泡時における発泡体の接着性によって前記基材11及び前記表皮15と一体にされている。前記発泡体19としては、軽量性、緩衝性、コストなどの点からポリウレタン発泡体が特に好ましい。
【0020】
前記溝状模様を有する表皮一体発泡品10の製造方法について説明する。図3から図8に示すように、まず、前記基材11と前記表皮15を、成形型30内に配置する。前記のように表皮一体発泡品が基材を不要とする場合には、前記基材11は用いられず、前記成形型30内に配置されない。
【0021】
前記成形型30は、下型31と上型41からなる。前記下型31の型面32と上型41の型面42は、製造する表皮一体発泡品の外形に応じた形状とされている。また、前記下型31の型面32には、前記表皮15が内面側(裏面側)を上型41の型面42へ向けて配置され、一方、前記上型41の型面42には、前記基材11が前記下型31の型面32へ向けて配置される。なお、前記基材11は、スライドピン等の保持手段によって上型41の型面42に着脱可能に固定される。
【0022】
また、前記成形型30には、前記表皮15の溝16が配置される型面32から突出及び後退可能にスライド板33が設けられている。本実施形態のスライド板33は、前記下型31の型面32において表皮15の溝16が配置される位置に設けられ、エアシリンダ等の前進後退装置34によって前記下型31の型面32から前記上型41の型面42へ向けて突出及び後退可能に構成されている。
【0023】
前記スライド板33は、前記下型31の型面32からの突出部分が前記表皮15の溝16に挿入可能なように、前記溝16の内寸法よりも小さくされている。本実施形態においては、前記スライド板33の型面32からの突出部分における寸法は、厚みFが前記溝16の幅W2よりも0.5〜1.0mm小とされ、長さGが前記溝16の長さL2よりも1〜2mm小とされ、突出量Hが前記溝16の深さD2よりも0.3〜1.0mm小とされている。特に、前記スライド板33は、前記下型31の型面32からの突出量が、前記スライド板33の長さ方向Uにおける中央U1よりも両端U2側で小となるように、略台形とされ、前記両端U2が斜面で構成されている。符号33aは前記スライド板33の先端である。なお、前記表皮15に設けられる溝16の位置及び数は、図示のものに限られるものではなく、表皮一体発泡品の形状や、求められる装飾性等に応じて決定される。また、前記溝16の位置及び数に応じて前記スライド板33の位置及び形状が決定される。
【0024】
前記下型31の型面に配置された表皮15の溝16には、前記スライド板33が挿入されて前記溝16が成形型30内に正しく保持される。なお、前記溝16へのスライド板33の挿入は、予め前記スライド板33を下型31の型面32から突出させておいて、前記表皮15を下型31の型面32に配置する際に前記スライド板33の突出部分を表皮15の溝16に挿入することにより、あるいは前記表皮15を下型31の型面32に配置した後に、前記スライド板33を下型31の型面32から突出させて前記溝16に挿入することにより行う。
【0025】
また、前記スライド板33は、前記表皮15の溝16に挿入した際に前記スライド板33の先端33aと前記表皮15の溝16の内面との間に隙間Sを形成する。前記隙間Sは、前記スライド板33の略台形形状によって、前記スライド板33の長さ方向Uの中央U1における先端33aと溝16の底部16aの隙間S1よりも、前記両端U2(図示の例では斜面の部分)における隙間S2が小にされる。本実施例では、前記中央U1の隙間S1が0.5〜1.2mm、両端U2(図示の例では斜面の部分)における隙間S2が0.3〜0.5mmにされている。
【0026】
前記表皮15及び基材11を成形型30に配置後、前記スライド板33を前記表皮15の溝16に挿入した状態で、図9から図12に示すように、前記表皮15の裏面(内面)にポリウレタン原料等の発泡原料19aを注入し、閉型して前記発泡原料19aの発泡を進行させる。なお、図示の例は、成形型30を開いた状態で発泡原料19aを注入し、その後に閉型する、いわゆるオープン注入式のものであるが、成形型30に原料注入口を形成しておき、閉型状態で原料注入口から型内に発泡原料を注入する、いわゆるクローズド注入式のものであってもよい。
【0027】
前記発泡原料19aの発泡進行による発泡圧で前記成形型30の内部圧力が増大し、前記発泡圧で表皮15の溝16が押圧されるが、前記溝16はスライド板33によって正しく保持されるため、倒れるなどの不具合を防ぐことができる。また、図7で示したように、前記スライド板の先端33aと前記表皮15の溝16の底部16aとの間に隙間S1が形成されているため、前記発泡原料19aの発泡圧で前記溝16底部16aをより狭くすることができる。さらに、前記スライド板33の長さ方向Uにおける中央U1よりも両端U2(図示の例では斜面の部分)で、前記表皮15の溝16の内面とスライド板33との隙間Sが小(すなわち中央の隙間S1>両端の隙間S2)にされているため、図1に示した前記皺模様17の部分から一般形状に戻る位置が不安定になったり、前記皺模様17が不規則に波打ったりするのを防止することができる。
【0028】
その後、図13から図15に示すように、前記発泡原料19aの発泡完了前における発泡途中で前記スライド板33を後退させ、前記表皮15の溝16からスライド板33を抜き取る。前記発泡原料19aはその後も発泡を続けて成形型30内の圧力を増大させるため、前記溝16が押圧されて溝16の溝幅が狭くなり、細い溝状模様が表皮15の表面に形成されると同時に図1に示した前記皺模様17が溝状模様の両端に略八の字状に形成される。その際、前記溝16は底部(溝の内奥)側が押圧変形し易いため、開口部側(溝の外方側)よりも底部側で溝幅Wが狭くなる。前記スライド板33を前記表皮15の溝16から抜くタイミングは、前記発泡原料19aが前記表皮15の溝16の周囲に充満した時点とするのが好ましい。このタイミングで前記スライド板33を前記表皮15の溝16から抜き取れば、前記溝16が発泡原料19aの発泡圧によって倒れたりするなどの不具合発生を防ぐことができる。
【0029】
前記発泡原料19aは発泡の進行により、前記表皮15と前記基材11間に充満し、図2に示した発泡体19となる。前記発泡体19は、前記発泡時の接着性によって前記表皮15及び基材11と接着し、一体化する。その後、前記成形型30を開いて成形品を脱型すれば、図1及び図2に示した表皮一体発泡品10が得られる。このようにして得られた表皮一体発泡品10は、前記表皮15の溝16が細くなった装飾性の高い溝状模様Mを有している。しかも前記溝状模様Mは開口部側よりも底部側で溝幅が狭くなっており、糸で表皮の表面を裏側へ引っ張ることにより形成されたものであるかのような高級感を備えている。さらに、前記表皮一体発泡品10は、前記溝16の両端で皺模様17が形成されており、装飾性が一層高いものとなっている。
【符号の説明】
【0030】
10 表面に溝状模様を有する表皮一体発泡品
11 基材
15 表皮
16 溝
17 皺模様
19 発泡体
30 成形型
31 下型
32 下型の型面
33 スライド板
41 上型
42 上型の型面
M 溝状模様

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一枚の表皮と、前記表皮の裏面で発泡形成された発泡体とを有する表皮一体発泡品において、
前記表皮は可撓性のプラスチックからなって該表皮の表面に形成されている溝が前記発泡体の発泡形成時の発泡圧により押圧されて溝幅が開口部側よりも底部側で狭くされた溝状模様を前記表皮の表面に有し、
前記溝状模様の両端には、前記発泡体の発泡形成時の発泡圧により前記溝幅が開口部側よりも底部側で狭くされる際の前記溝状模様の両端における前記表皮の変形により発生した皺模様を有することを特徴とする表皮一体発泡品。
【請求項2】
前記発泡体の裏側には基材を有し、前記発泡体は前記表皮と前記基材間で発泡成形されたものからなり、
前記表皮の溝の底部の裏側では、前記溝の底部と前記基材との間の発泡原料流動用隙間に前記発泡体が充填されていることを特徴とする請求項1に記載の表皮一体発泡品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−214055(P2012−214055A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−143800(P2012−143800)
【出願日】平成24年6月27日(2012.6.27)
【分割の表示】特願2006−65459(P2006−65459)の分割
【原出願日】平成18年3月10日(2006.3.10)
【出願人】(000119232)株式会社イノアックコーポレーション (1,145)
【Fターム(参考)】