表示体及びラベル付き物品
【課題】高い偽造防止効果を発揮する、光透過性を有する表示体を提供する。
【解決手段】本発明の表示体1は、金属薄膜層12の上に光透過層11を積層してなる積層体から形成される表示体であって、金属薄膜層12から光透過層11に向けて突出する複数の凸部からなり、かつ凸部が200nm以上500nm以下の平均中心間距離で規則的に配列された複数の第1界面部2を有している。第1界面部2は、レリーフ構造DSを形成するレリーフ構造形成層を、金属薄膜層12と光透過層11との界面部に形成している。
【解決手段】本発明の表示体1は、金属薄膜層12の上に光透過層11を積層してなる積層体から形成される表示体であって、金属薄膜層12から光透過層11に向けて突出する複数の凸部からなり、かつ凸部が200nm以上500nm以下の平均中心間距離で規則的に配列された複数の第1界面部2を有している。第1界面部2は、レリーフ構造DSを形成するレリーフ構造形成層を、金属薄膜層12と光透過層11との界面部に形成している。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば偽造防止に利用可能な画像表示技術に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、商品券及び小切手などの有価証券類、クレジットカード、キャッシュカード及びIDカードなどのカード類、並びにパスポート及び免許証などの証明書類には、それらの偽造を防止するために、通常の印刷物とは異なる視覚効果を有する表示体が貼り付けられている。また、近年、これら以外の物品についても、偽造品の流通が社会問題化している。そのため、そのような物品に対しても、同様の偽造防止技術を適用する機会が増えてきている。
【0003】
通常の印刷物とは異なる視覚効果を有している表示体としては、複数の溝を並べてなる回折格子を含んだ表示体が知られている。この表示体には、例えば、観察条件に応じて変化する像を表示させることや、立体像を表示させることができる。また、回折格子が表現する虹色に輝く分光色は、通常の印刷技術では表現することができない。そのため、回折格子を含んだ表示体は、偽造防止対策が必要な物品に広く用いられている。
【0004】
例えば、溝の長さ方向又は格子定数(即ち溝のピッチ)が異なる複数の回折格子を配置して絵柄を表示する技術が知られている(特許文献1参照)。回折格子に対する観察者又は光源の相対的な位置が変化すると、観察者の目に到達する回折光の波長が変化する。従って、上記の構成を採用すると、虹色に変化する画像を表現することができる。
回折格子を利用した表示体では、複数の溝を形成してなるレリーフ型の回折格子を使用することが一般的である。レリーフ型回折格子は、通常、フォトリソグラフィを利用して製造した原版から複製することにより得られる。
【0005】
特許文献1には、レリーフ型回折格子の原版の作製方法として、一方の主面に感光性レジストを塗布した平板状の基板をXYステージ上に載置し、コンピュータ制御のもとでステージを移動させながら感光性レジストに電子ビームを照射することにより、感光性レジストをパターン露光する方法が記載されている。また、回折格子の原版は、二光束干渉を利用して形成することもできる。
【0006】
レリーフ型回折格子の製造では、通常、まず、このような方法により原版を形成し、そこから電鋳等の方法により金属製のスタンパを作製する。次いで、この金属製スタンパを母型として用いて、レリーフ型の回折格子を複製する。即ち、まず、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリカーボネート(PC)からなるフィルム又はシート状の薄い透明基材上に、熱可塑性樹脂又は光硬化性樹脂を塗布する。次に、塗膜に金属製スタンパを密着させ、この状態で樹脂層に熱又は光を与える。樹脂が硬化した後、硬化した樹脂から金属製スタンパを剥離することにより、レリーフ型回折格子の複製物を得る。
【0007】
一般に、このレリーフ型回折格子は透明である。従って、通常、レリーフ構造を設けた樹脂層上には、蒸着法を用いてアルミニウムなどの金属又は誘電体を単層又は多層に堆積させることにより金属薄膜層を形成する。
その後、このようにして得られた表示体を、例えば紙又はプラスチックフィルムからなる基材上に接着層又は粘着層を介して貼り付ける。以上のようにして、偽造防止対策を施した表示体を得る。
【0008】
レリーフ型回折格子を含んだ表示体の製造に使用する原版は、それ自体の製造が困難である。また、金属製スタンパから樹脂層へのレリーフ構造の転写は、高い精度で行わなければならない。即ち、レリーフ型回折格子を含んだ表示体の製造には高い技術が要求される。
しかしながら、偽造防止対策が必要な物品の多くでレリーフ型回折格子を含んだ表示体が用いられるようになった結果、この技術が広く認知され、これに伴い、偽造品の発生も増加する傾向にある。そのため、回折光によって虹色の光を呈することのみを特徴とした表示体を用いて十分な偽造防止効果を達成することが難しくなってきている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第5058992号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、透過観察時において特徴的な視覚効果を示し、十分な偽造防止効果を発揮する表示体とこれを用いたラベル付き物品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、請求項1に係る発明の表示体は、光反射性と光透過性の双方を有する金属薄膜層の上に光透過層を積層してなる積層体から形成される表示体であって、前記金属薄膜層から前記光透過層に向けて300nm以上500nm以下の高さで突出する複数の凸部または前記光透過層から前記金属薄膜層に向けて300nm以上500nm以下の深さで凹む複数の凹部からなり、かつ前記凸部または前記凹部が200nm以上500nm以下の平均中心間距離で格子状に配列された複数の第1界面部を有し、該第1界面部により前記金属薄膜層と前記光透過層との界面部にレリーフ構造形成層が形成されていることを特徴とする。
【0012】
請求項2に係る発明の表示体は、請求項1に記載の表示体において、前記凸部または前記凹部の平均中心間距離が前記複数の第1界面部の各々で異なることを特徴とする。
請求項3に係る発明の表示体は、請求項2に記載の表示体において、前記凸部または前記凹部の平均中心間距離が異なる前記複数の第1界面部によって絵柄、文字、記号等の画像が表示されることを特徴とする。
請求項4に係る発明の表示体は、請求項1〜3のいずれか一項に記載の表示体において、前記第1界面部の各々を透過する光の主波長が3μm以上300μm以下の四辺からなる矩形に包含される領域で混合されるように、前記複数の第1界面部を規則的に隣接配置したことを特徴とする。
【0013】
請求項5に係る発明の表示体は、請求項1〜4のいずれか一項に記載の表示体において、前記金属薄膜層の平坦面における層厚が30nm以上100nm以下であることを特徴とする。
請求項6に係る発明のラベル付き物品は、請求項1〜5のいずれか一項に記載の表示体が、光透過性を有する接着層を介して、光透過性を有する基材からなる物品に支持されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に係る発明によると、第1界面部の凸部または凹部が可視光の波長よりも小さい平均中心間距離で配列されていることから、光の入射する側から第1界面部を観察した際、すなわち表示体からの反射光を観察した際には、反射防止/抑制効果によって黒色もしくは暗灰色に知覚される。また、光が入射する側とは反対側から第1界面部を観察した際、すなわち表示体からの透過光を観察した際には第1界面部が透けて見える効果を得ることができる。また、凸部又は凹部の平均中心間距離に応じて透過する光の波長が変化するため、例えば白色光源の光を入射光として表示体を観察した場合でも、赤や青、緑などの任意の色を知覚することができる。
従って、請求項1に係る発明によれば、反射光を観察した際と透過光を観察した際とで全く異なる視覚効果を実現することができ、インキによる印刷や従来の回折格子パターンでは実現することができず高い偽造防止効果を発揮し、真贋判定を確実に行うことができる。
【0015】
請求項2に係る発明によると、第1界面部を反射条件で観察した場合にはいずれの第1界面部も黒色もしくは暗灰色に見える一方、透過観察した際には、凸部又は凹部の平均中心間距離に応じて表示体を透過する光の波長が変わるため第1界面部ごとに異なる色を観察することができる。反射観察において概ね同一色(黒色もしくは暗灰色)に知覚される第1界面部が透過観察時には異なる色で観察可能であるため、より高い偽造防止効果を実現できる。
【0016】
請求項3に係る発明によると、透過観察した際に、異なる波長による色によって特定の画像を表現することでアイキャッチ効果(人目をひく効果)をより高めることができ、且つ、表示体の意匠性を高めることもできる。
請求項4に係る発明によると、肉眼で観察した際に、個々の第1界面部の形状や透過してくる光による色を知覚できず隣接する複数の第1界面部からの透過光が混ざり合わさったことによる混色を表示することが可能になる。従って、多くの色を表現することが可能になり、偽造防止効果の向上と、意匠性の向上を達成することができる。
【0017】
請求項5に係る発明によると、層厚が30nm以上100nm以下である金属薄膜層は光金属薄膜層としての効果と光透過層としての効果を併せ持ち、所謂ハーフミラーとして機能するという光学効果が得られる。
請求項6に係る発明によると、表示体に由来する特徴的な視覚効果により、物品の偽造及び不正使用の抑制に役立つ。また、この視覚効果は、その物品に美的外観を提供し得る。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1の実施態様に係る表示体の平面図である。
【図2】図1のII−II線に沿った断面図である。
【図3】図2に示す表示体に採用可能なレリーフ構造の一例を示す斜視図である。
【図4】図3に示すレリーフ構造の平面図である。
【図5】図2に示す表示体に採用可能なレリーフ構造の他の例を示す斜視図である。
【図6】図5に示すレリーフ構造の平面図である。
【図7】格子定数が大きい回折格子の表面に光を照射したときの状態を示す図である。
【図8】格子定数が小さい回折格子の表面に光を照射したときの状態を示す図である。
【図9】光学薄膜に入射した光の挙動を示す図である。
【図10】図1に示す表示体の正面を表示体からの反射光で観察する場合の一例を示す図である。
【図11】図1に示す表示体の正面を表示体からの反射光で観察する場合の他の例を示す図である。
【図12】図1に示す表示体の正面を表示体からの透過光で観察する場合の一例を示す図である。
【図13】本発明の第2の実施態様に係る表示体の斜視図である。
【図14】図13に示す複数の第1界面部を交互に隣接配置した場合の一例を示す平面図である。
【図15】金属薄膜層の一例を示す断面図である。
【図16】金属薄膜層に対する光の反射特性と透過特性を示す図である。
【図17】回折格子の一例を示す斜視図である。
【図18】光散乱構造の一例を示す斜視図である。
【図19】ラベル付き物品の一例を示す平面図である。
【図20】図19のXX−XX線に沿った断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
図1は本発明の第1の実施態様に係る表示体の平面図、図2は図1のII−II線に沿った断面図である。なお、図1及び図2において、X1方向とY1方向は表示体1の表示面に対して平行で且つ互いに交差する方向であり、Z1方向はX1方向及びY1方向に対して垂直な方向である。ここでは、一例として、X1方向とY1方向は互いに直交しているものとする。
【0020】
図1に示される表示体1は、図2に示すように、光透過層11と金属薄膜層12とからなる積層体を含んで構成されている。この実施態様では、光透過層11側を前面側とし、金属薄膜層12側を背面側としているが、光透過層11側を背面側とし、金属薄膜層12側を前面側としてもよい。
光透過層11は、可視光に対して高い光透過性を有している層であり、典型的には、透明な材料から形成されている。
【0021】
また、光透過層11は光透過性基材111と光透過性樹脂層112とを含み、光透過性基材111と光透過性樹脂層112は積層体を形成している。光透過層11は単層構造であってもよいし、或いは3層以上の多層構造であってもよい。
光透過性基材111は、それ自体を単独で取り扱うことが可能なフィルム又はシートから形成されている。光透過性基材111の材料としては、ポリカーボネート、ポリエステルなどの光透過性を有する樹脂を使用することができ、光透過性基材111は省略することもできる。
【0022】
光透過性樹脂層112は光透過性基材111の上に形成された層であり、この光透過性樹脂層112の表面には、レリーフ構造DSを形成するレリーフ構造形成層が形成されている。このレリーフ構造形成層については、後で詳述する。
光透過性樹脂層112を光透過性基材111の上に形成する方法としては、例えば光透過性基材111の上に樹脂を塗布し、この塗膜にスタンパを押し当てながら樹脂を硬化させる方法を用いることができ、光透過性基材111の上に塗布される樹脂としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂などを使用することができる。
【0023】
金属薄膜層12は、光透過性樹脂層112のレリーフ構造DSが設けられた表面を被覆している。金属薄膜層12は、光透過性樹脂層112のレリーフ構造DSが設けられた表面の一部を被覆していてもよく、レリーフ構造DSが設けられた表面の全体を被覆していてもよい。金属薄膜層12としては、例えばアルミニウム、銀、金又はそれらの合金などの金属材料からなる金属層を使用することができる。
【0024】
金属薄膜層12は、例えば真空蒸着法、スパッタリング法などの気相堆積法により形成することができる。例えば、光透過性樹脂層112の表面上に薄膜を気相堆積法により形成し、その一部を薬品などで溶解させたり、或いは光透過性樹脂層112と薄膜との密着力よりも強い接着力を有する接着剤で薄膜の一部を剥離させたりすることによって金属薄膜層12を形成することができる。なお、レリーフ構造DSが形成された光透過性樹脂層112の表面を金属薄膜層12により部分的に被覆する場合は、マスクを用いた気相堆積法によっても金属薄膜層12を形成することが可能である。
【0025】
表示体1は接着層、粘着層、樹脂層などの他の層を更に含むことができる。この場合、接着層や粘着層は、金属薄膜層12を被覆するように形成することが望ましい。表示体1が光透過層11と金属薄膜層12の両方を含む場合、通常、金属薄膜層12の表面の形状は光透過層11と金属薄膜層12との界面の形状とほぼ等しい。従って、上記のように接着層又は粘着層を設けると、金属薄膜層12の表面が露出するのを防止できる。それ故、偽造を目的としたレリーフ構造の転写による複製を困難とすることができる。
【0026】
光透過層11側を背面側とし、金属薄膜層12側を前面側とする場合、接着層や粘着層は光透過層11の上に形成される。
表示体1が樹脂層を含む場合、樹脂層は光透過層11と金属薄膜層12との積層体に対して前面側に形成される。例えば、光透過層11側を背面側とし、金属薄膜層12側を前面側とする場合、金属薄膜層12を樹脂層によって被覆すると、金属薄膜層12の損傷を抑制できるのに加え、偽造を目的としたレリーフ構造の転写による複製を困難とすることができる。樹脂層は、例えば、使用時に表示体の表面にキズが付いてしまうのを防ぐことを目的としたハードコート層、汚れの付着を抑制する防汚層、帯電防止層などである。
【0027】
次に、レリーフ構造形成層に設けられる第1界面部について説明する。
上述したように、光透過層11と金属薄膜層12との界面は反射面として機能する。この反射面は、図1に示す第1界面部2を含んでいる。第1界面部2は、連続した1つの領域である。上記反射面は、図1に示す例では第1界面部2を1つのみ含んでいるが、複数の第1界面部2を含んでいてもよい。第1界面部2は表示体1の全面を占めていてもよいし、表示体1の一部分のみを占めていてもよい。
【0028】
第1界面部2は、複数の凸部または凹部からなるレリーフ構造DSを含んでいる。これにより、金属薄膜層12の観察者側の面には、複数の凸部または凹部が設けられている。ここでは、レリーフ構造DSは複数の凸部からなるものとする。なお、凸部について以下に説明する事項は、凸部について述べる「高さ」を凹部については「深さ」と読み替えるべきこと以外は、凹部についても同様である。
図3は図1及び図2に示す表示体に採用可能なレリーフ構造の一例を示す斜視図であり、図4は図3に示すレリーフ構造の平面図である。また、図5はレリーフ構造の他の例を示す斜視図であり、図6は図5に示すレリーフ構造の平面図である。なお、図3及び図5はレリーフ構造を光透過層側から見た場合を示している。
【0029】
図5及び図6に示すレリーフ構造DSは、複数の凸部PRがなす列の伸長方向が図3及び図4に示すレリーフ構造DSとは異なっている。すなわち、図3及び図4に示すレリーフ構造DSは複数の凸部PRがX1軸及びY1軸と平行に配列されているのに対し、図5及び図6に示すレリーフ構造DSは複数の凸部PRがX1軸及びY1軸と45°の角度で交差する直線と平行に配列されている。
【0030】
第1界面部2には、図3及び図4または図5及び図6に示すレリーフ構造DSが形成されている。このレリーフ構造DSは、200nm〜500nmの平均中心間距離ADで規則的に配列された複数の凸部PRを含んでいる。レリーフ構造DSは、図3及び図4または図5及び図6に示した方位以外の方位に伸長する複数の凸部から成る構造であってもよい。また、第1界面部2に形成されるレリーフ構造DSは凸部及び凹部の双方が共存するような構造であってもよい。
【0031】
レリーフ構造DSの各凸部PRは、典型的にはテーパ形状を有している。テーパ形状としては、例えば、半紡錘形状、円錐及び角錐などの錐体形状、切頭円錐及び切頭角錐などの切頭錐体形状などが挙げられる。凸部PRの側面は、傾斜面のみで構成されていてもよく、階段状であってもよい。凸部PRのテーパ形状は、後述するように、レリーフ構造DSに入射する光の反射率を小さくするのに役立つ。なお、スタンパを利用して光透過性樹脂層112を形成する場合、凸部PRのテーパ形状は、硬化した光透過性樹脂層112のスタンパからの取り外しを容易にし、生産性の向上に寄与する。凸部PRの一部は、テーパ形状を有していなくてもよい。
上述したように、凸部PRは規則的に配列されているため、レリーフ構造DSは回析格子として機能する。具体的には、図3〜図6に示すレリーフ構造DSは、溝を点線で示したように配置してなる回折格子とほぼ同様に機能する。但し、レリーフ構造DSが射出する視感度の高い回折光は、特殊な条件のもとでしか観察することができない。
【0032】
回析格子として機能し得るレリーフ構造DSに照明光を照射すると、レリーフ構造DSは入射光である照明光の進行方向に対して特定の方向に強い回折光を射出する。ここで、回析格子の格子定数をd、回析格子の回折次数をm(但し、m=0、±1、±2、・・・)、入射光及び回折光の波長をλとすると、回折光の射出角βは、回折格子の溝の長さ方向に垂直な面内で光が進行する場合、下記の式(1)から算出することができる。
d=mλ/(sinα−sinβ) ・・・(1)
式(1)において、αは0次回折光、即ち、透過光又は正反射光の射出角を表し、このαの絶対値は照明光の入射角と等しく、反射型回折格子の場合には、照明光の入射方向と正反射光の射出方向は回折格子が設けられた界面の法線に関して対称である。
【0033】
なお、回折格子が反射型である場合、透過光又は正反射光の射出角αは0°以上90°未満である。また、回折格子が設けられた界面に対して斜め方向から照明光を照射し、法線方向の角度、即ち0°を境界値とする2つの角度範囲を考えると、回折光の射出角βは回折光の射出方向と正反射光の射出方向とが同じ角度範囲内にあるときには正の値であり、回折光の射出方向と照明光の入射方向とが同じ角度範囲内にあるときには負の値である。以下、正反射光の射出方向を含む角度範囲を「正の角度範囲」と呼び、照明光の入射方向を含む角度範囲を「負の角度範囲」と呼ぶ。
【0034】
法線方向から回折格子を観察する場合、表示に寄与する回折光は射出角βが0°の回折光のみである。従って、この場合、回折格子の格子定数dが回折光の波長λと比較してより大きければ、式(1)に示す関係を満足する波長λと入射角αが存在するので、この場合、観察者は、式(1)に示す関係を満足する波長λを有する回折光を観察することができる。
【0035】
これに対し、回折格子の格子定数dが回折光の波長λと比較してより小さい場合には、式(1)で示す関係を満たす入射角αは存在しない。従って、この場合、観察者は回折光を観察することができない。
この説明から明らかなように、凸部PRの平均中心間距離ADが小さいレリーフ構造DSは、通常の回折格子とは異なり、法線方向に回折光を射出しない。或いは、そのようなレリーフ構造DSが法線方向に射出する回折光は視感度の低いもののみである。
【0036】
これについて、図7及び図8を参照しながら更に詳細に説明する。
図7は格子定数が大きい回折格子の表面に光を照射したときの状態を示す図であり、図8は格子定数が小さい回折格子の表面に光を照射したときの状態を示す図である。
図7及び図8において、IFは回折格子GRが形成された界面を示し、NLは界面IFの法線を示している。また、ILは複数の波長の光から構成される白色照明光を示し、RLは正反射光又は0次回折光を示している。さらに、DLr、DLg、DLbは白色照明光ILが分光してなる赤、緑、青色に相当する波長の1次回折光をそれぞれ示している。
【0037】
図7に示す界面IFには、格子定数が可視光の最短波長、例えば400nmよりも大きな回折格子GRが設けられている。他方、図8に示す界面IFには、格子定数が可視光の最短波長よりも小さな回折格子GRが設けられている。
式(1)から明らかなように、回折格子の格子定数dが可視光の最短波長と比較してより大きい場合(例えば400nmよりも大きい場合)、界面IFに対して斜め方向から照明光ILを照射すると、回折格子GRは、図7に示すように、正の角度範囲内の射出角βr、βg及びβbで1次回折光DLr、DLg及びDLbを射出する。なお、図示していないが、この回折格子は、他の波長の光についても同様に1次回折光を射出する。
【0038】
これに対し、回折格子の格子定数dが可視光の最短波長の1/2より大きく、かつ可視光の最短波長未満である場合、界面IFに対して斜め方向から照明光ILを照射すると、図8に示すように、回折格子GRは、1次回折光DLr、DLg及びDLbをそれぞれ負の角度範囲内の射出角βr、βg及びβbで射出する。例えば、角度αが50°であり、格子定数dが330nmである場合を考えると、回折格子GRは、白色照明光ILのうち波長λが540nm(緑)の光を回折させ、1次回折光DLgを約−60°の射出角βgで射出する。
【0039】
この説明から明らかなように、レリーフ構造DSは、正の角度範囲内に回折光を射出せずに、負の角度範囲内にのみ回折光を射出する。或いは、レリーフ構造DSは、正の角度範囲内に視感度が低い回折光のみを射出し、負の角度範囲内に視感度が高い回折光を射出する。すなわち、レリーフ構造DSは、通常の回折格子とは異なり、視感度が高い回折光を負の角度範囲内にのみ射出する。
【0040】
一般に、上方に配置した光源から物品の表面に光を照射し、物品表面からの反射光によって物品表面の様子を観察する場合(以下、「反射観察」という)、特に、光反射能及び光散乱能が小さな光吸収性の物品を観察する際には、正反射光を視覚できるように物品と光源とを観察者の目に対して相対的に位置合わせする。そのため、図7を参照しながら説明した構成を表示体1のレリーフ構造DSとして採用すると、そのこと自体を観察者が知らないとしても、観察者は比較的高い確率で回折光を視覚する。これに対し、図8を参照しながら説明した構成を表示体1のレリーフ構造DSとして採用すると、そのことを知らない観察者は、多くの場合、回折光を知覚できない。それゆえ、この表示体1は、反射観察する条件下において、第1界面部2が回折光を射出し得ることを悟られ難い。
【0041】
また、上述したように、凸部PRはテーパ形状を有している。このような構造を採用した場合、平均中心間距離ADが十分に短ければ、レリーフ構造DSはZ1方向に連続的に変化した屈折率を有していると見なすことができる。そのため、どの角度から観察してもレリーフ構造DSの正反射光についての反射率は小さい。そして、レリーフ構造DSは表示体1の正面(法線方向)に回折光を実質的に射出しない。
【0042】
従って、表示体1のうちレリーフ構造DSに対応した部分は、その法線方向から反射観察した場合に、例えば黒色または暗灰色を表示する。なお、ここでの「黒色」は表示体1のうちレリーフ構造DSに対応した部分に法線方向から光を照射し、正反射光の強度を測定したときに、波長が400nm〜700nmの範囲内にある全ての光成分について反射率が10%以下であることを意味し、「暗灰色」は表示体1のうちレリーフ構造DSに対応した部分に法線方向から光を照射し、正反射光の強度を測定したときに、波長が可視光の波長である400nm〜700nmの範囲内にある全ての光成分について反射率が約25%以下であることを意味する。
【0043】
上述のように、レリーフ構造DSは、正面から観察した場合に、黒色または暗灰色を表示する。従って、表示体1のうち第1界面部2に対応した部分は、正面から観察した場合に、例えば黒色又は暗灰色印刷層の如く見える。
そして、レリーフ構造DSは、表示体1の正面から観察した場合に、黒色または暗灰色を表示するので、観察角度が負の角度範囲内にある場合、レリーフ構造DSは回折に由来した有彩色を表示する。
【0044】
凸部PRの平均中心間距離ADは500nm以下であり、可視光の最短波長以下(例えば400nm以下)であることが好ましい。また、より好ましくは、可視光の最短波長の1/2以上、すなわち200nm以上400nm以下とすることで1次回折光を射出する機能を有し、かつ黒色または暗灰色に見える構造が得られる。平均中心間距離ADを200nm未満に設定した場合には、黒色または暗灰色に見える構造が得られるが、1次回折光を射出する機能は得られなくなる。
一般的には、凸部PRの平均中心間距離ADが小さくなるに伴って明度及び彩度が低下し、より黒い表示が可能となり、平均中心間距離ADが大きくなるに伴ってやや輝度が上昇し、暗灰色に知覚されるような構造となる。
【0045】
また、凸部PRの高さが大きいほうがより黒い表示が可能となり、高さが小さくなるのに伴って輝度が上昇し、暗灰色に知覚されるようになる。典型的には凸部PRの高さは平均中心間距離ADの1/2以上とすることが望ましい。具体的には、平均中心間距離ADが500nmであった場合、凸部PRの高さを250nm以上とすることで暗灰色の表示が可能となり、さらに、平均中心間距離ADよりも大きい500nm以上の高さとすることでより黒い表示が可能となる。
【0046】
凸部PRの高さを平均中心間距離ADと比較してはるかに高い構造にすると十分な黒さが得られ、且つ、より高精度な製造技術が必要となることから一層偽造防止効果を向上させることができる。凸部PRの高さについては、個々の凸部ごとに異なる値をとっていても良いし、均一な高さで形成されていても良いが、均一な高さで形成されているほうが、観察した際に凸部の高さの不均一性に伴う黒さのわずかな変動による輝度ムラなどが発生しにくくなり望ましい。
【0047】
次に、複数の凸部PRが形成された第1界面部を透過する光の挙動について説明する。
第1界面部2は、図9に示す光学薄膜30による干渉フィルターに類似する作用を有し、反射や干渉を繰り返すことで特定の波長の光を強めたり弱めたりすることが可能である。光学薄膜30に角度θで入射する入射光ILの一部は各層の表面で反射し、光源LSがある側に反射していくが、透過光となって光源LSとは反対側の面に進行する光も存在する。
【0048】
光学薄膜30を透過していく光の波面は、光学薄膜30の内部で反射を偶数回繰り返した後に透過していく光の波面を重畳したものとなる。各波面に位相差がないときに、最大の透過光が得られ、その際の光学距離の差は、波長の整数倍となり次式(2)が成立する。
mλ=2×TO×cosθ ・・・(2)
ここで、mは次数であり、TOは光学的距離である。TOは、物理的な距離に加え、光が伝搬する媒質の屈折率が考慮される。光学薄膜30の膜厚をD、屈折率をnとするとTO=nDが成り立つ。
このとき、他の波長では各波面で打ち消し合う干渉が起こるため、光源LSとは反対側の面にはほとんど透過しなくなる。これは、薄膜の光学的距離を制御することで光源とは反対側の面に透過する光の波長を制御することが可能となることを意味している。
【0049】
第1界面部2に設ける凸部PRの平均中心間距離ADを変化させることで、光透過性樹脂層112や金属薄膜層12の入射光に対する光学的距離を変化させることができるため、第1界面部2は、光学薄膜30のように、特定の角度からの入射光に対して特定の波長の光を光源とは反対側の面に透過光として射出することが可能となる。すなわち、第1界面部2に設ける凸部PRの平均中心間距離ADを変化させることで白色光ILの入射に対し、定点に対して、例えば赤や緑、青などの特定の波長の光を透過光として射出し得る。
【0050】
次に、図1に示す表示体1による視覚効果について説明する。
図10は表示体1の正面を表示体1からの反射光で観察する場合の一例を示す図、図11は表示体1の正面を表示体1からの反射光で観察する場合の他の例を示す図、図12は表示体1の正面を表示体1からの透過光で観察する場合の一例を示す図である。
図10に示すように、例えば観察者OBの上方にある太陽や蛍光灯等の白色光源LSからの光が表示体1に入射し、観察者OBが表示体1の表面からの反射光REを観察するような観察条件下においては、表示体1の第1界面部2はその内部に形成されている複数の凸部PRによる反射防止/抑制効果によって反射光REをほとんど射出せず、黒色または暗灰色に観察される。
【0051】
図11に示すように、表示体1から射出する光によって表示体1を反射観察で見る場合には、式(1)の条件を満足する角度で表示体1に入射光ILが入射するようにし、回折光が射出される角度から表示体1を観察することで、第1界面部2による回折光DLを観察することができる。
図12に示すように、例えば太陽や蛍光灯等の白色光源LSが観察者OBに対して表示体1の裏側にあるような位置関係で表示体1を観察すると、白色光源LSから射出された表示体1への入射光ILは、表示体1の裏面から入射し、第1界面部2を透過した光TRとなって観察者OBに到達する。このとき、第1界面部2を透過する光TRの波長は第1界面部2の内部に形成されている複数の凸部PRの平均中心間距離ADに応じて決定されるため、第1界面部2を透過する光TRによって、表示体1は例えば青、赤、緑等の固有の色相を表示できる。
【0052】
第1界面部2を構成する複数の凸部PRは、その平均中心間距離ADが200nm以上500nm以下であり、高さが300nm以上500nm以下である。このような凸部PRによって第1界面部2を構成すると、図10に示すように、表示体1を反射観察した場合には黒色もしくは暗灰色に見える。そして、図11のように特定条件下においては、第1界面部2は回折光を射出する。さらに、図12に示すように、表示体1を透過観察した場合には、透過光によって固有の色相を表示することが可能となる。このような反射観察と透過観察とでまったく異なる特徴的な知覚効果を実現する構造は、他の構造では実現することができず、高い偽造防止効果を発揮する。
【0053】
凸部PRの平均中心間距離ADが500nmより大きくなると、反射観察した際に黒色もしくは暗灰色などの十分に暗い表示が難しくなり、また、透過観察した際に固有の色相の色を表示することが困難になり、光源の色とほとんど変化がない波長分布の光が透過するだけの効果しか得られなくなる。
表示体1には、凸部PRの平均中心間距離が異なる複数の第1界面部2を設けることが望ましい。凸部PRの平均中心間距離を変化させることで、透過観察した際に第1界面部2ごとに異なる色相の色を表示することが可能になる。各第1界面部2は平均中心間距離ADが200nm以上500nm以下、高さが300nm以上500nm以下の複数の凸部PRによって形成されているため、反射観察時には同じように黒色もしくは暗灰色に見え、透過観察した際には平均中心間距離に応じてそれぞれ別々の色相の色を表示することができる。
【0054】
図13は、本発明の第2の実施態様に係る表示体を示す斜視図である。図13に示される表示体1は3つの第1界面部3,4,5を有し、これらの第1界面部3,4,5は文字「TOP」の文字毎に異なる平均中心間距離で配列された複数の凸部から形成されている。この表示体1を観察者OBが観察すると、文字「T」、「O」、「P」ごとにそれぞれ異なる色が表示されることになるので、図13のように、凸部の平均中心間距離が異なる複数の第1界面部を設けることで、より一層高い偽造防止効果を実現することが可能になるとともに、意匠性を高めることも可能になる。
【0055】
図14は、凸部の平均中心間距離が異なる複数の第1界面部を交互に隣接配置した場合の一例を示す図である。図14に示すように、凸部の平均中心間距離がそれぞれ異なる第1界面部3,4,5を交互に隣接配置し、第1界面部3,4,5によって例えば文字「T」を形成することで、所謂混色を表示することも可能である。この場合、第1界面部の各々は、一辺3μm以上300μm以下の矩形に包含されるような微小領域に形成され、且つ、規則的に隣接配置するとよい。微小な複数の第1界面部が隣接配置されている文字「T」を肉眼で観察した場合、それら第1界面部の1つ1つをこれに隣接した第1界面部から区別することは不可能であるか又は困難である。よって、文字「T」を肉眼で観察した際に、第1界面部の各々の形状が観察者に認識されるのを防止することができる。すなわち、個々の第1界面部の外形状が肉眼では認識困難になり、隣接する複数の第1界面部からの透過光が混ざりあうことで複数波長の光による混色の表示が可能となる。このような方法を用いることで表示できる色数が増え、意匠性が向上する。
【0056】
複数の第1界面部の配置例としては、凸部の平均中心間距離が異なる2種類の第1界面部を互い違いに配置する市松状(チェック模様状)やストライプ状(帯状)に配置する方法や、3種類以上の第1界面部が所定の領域内に同率、同面積で現れるように順番に配置していく方法がある。ここで、第1界面部の一辺が3μm以下である場合、凸部を十分に高い密度及び形状精度で形成することが困難になる。
【0057】
金属薄膜層としては、平坦面における層厚が30nm以上100nm以下の範囲であることが好ましい。アルミニウム、銀、金等の金属は、真空蒸着法及びスパッタリング法などの気相堆積法により、レリーフ構造に追従して、高精度に薄膜にすることができる。
金属薄膜層12の一例を図15に示す。図15に示される金属薄膜層12は、気相堆積法によって層厚T1で形成された平坦面FLを有し、レリーフ構造DSの側面部分は層厚T1より相対的に薄い層厚T2で形成されている。レリーフ構造DSの高さが高ければより層厚T2は薄くなる。そのため、レリーフ構造DSが設けられる第1界面部は、平坦面FLや後述する回折格子や光散乱構造等と比較して光を透過しやすくなる。
【0058】
金属薄膜層12に対する光の反射特性と透過特性の一例を図16に示す。図16に示すように、反射光と透過光は反比例する関係にある。金属薄膜層12の平坦面FLの層厚を30nm以上100nm以下の範囲とすることで、その層厚よりも薄くなる第1界面部においては、反射光成分のみならず透過光成分をも得ることができ、反射観察及び透過観察の双方で前述のような知覚効果を実現することができる。
【0059】
次に、図1、図2、図10〜図13に示す第2界面部20について説明する。
第2界面部20は、表示体1内に配置される第1界面部以外の領域である。第2界面部20は複数あってもよいし、1つもなくてもよい。第2界面部20は第1界面部とはその構造や光学的な性質が異なる領域である。第2界面部領域は第1界面部領域とは異なる構造が形成されていてもよいし、構造が形成されていない平坦面であってもよい。
【0060】
第2界面部20に採用可能な構造としては、図17に示すような回折格子GRが挙げられる。この回折格子GRは1〜2μm程度の間隔で格子線が配置された構造であり、典型的な高さは100nm程度である。また、図17に示される回折格子GRは、回折によって虹色に輝く分光色を射出し、光源の位置や観察者の観察角度など観察条件に応じて、色や絵柄が変化する像を表示させたり、立体像を表示させたりする機能を有する。第2界面部に採用可能な回折格子のピッチは典型的には500nmより大きく、回折格子の凹凸構造によって反射防止効果が発生しにくいものがよい。
回折格子は、反射観察した場合においても、透過観察した場合においても回折によって虹色に輝く分光色を射出するため、表示体1を表裏で観察した際に顕著な差違は見られない。
【0061】
また、第2界面部20に採用可能な構造としては、例えば図18に示すような光散乱構造21が挙げられる。この光散乱構造21は、大きさや形、構造の高さが異なる凹凸形状が不規則に複数配置されたものが典型的である。光散乱構造21に入射した光は、四方八方に乱反射し、反射観察した際には白色または白濁色に見える。光散乱構造21は典型的には、幅3μm以上、高さが1μm以上のものが多く、回折格子や第1界面部に形成された凹凸構造と比較して大きい構造である。また、その大きさや配置間隔、形状は不揃いである。そのため、光を散乱する効果が得られる。光散乱構造21として、ある程度方向性を有する凹凸構造を採用すると、所望の方向にのみ強く散乱光を射出する指向性のある光散乱性を実現することもできる。
光散乱構造21についても、反射観察、透過観察に関わらず同様に白色または白濁色に見えるため、表示体1を表裏で観察した際に顕著な差違は見られない。
【0062】
また、第2界面部20は凹凸構造が形成されていない平坦面であってもよい。
表示体1の一部に第2界面部20を採用し、第2界面部20と第1界面部2又は3,4,5とを組み合わせることによって表示体1によって表現される画像の意匠性をさらに向上させることができ、また偽造防止効果のさらなる向上を図ることができる。
第2界面部20には、第1界面部2又は第1界面部3,4,5とは異なる光学特性を発揮する前述の構造以外の構造を形成してもよい。
【0063】
次に、表示体1の使用方法について説明する。
上述した表示体1は、例えば偽造防止の目的で、光透過性を有する接着材、粘着材等を介して、光透過性を有する物品にラベルとして貼り付けることができる。光透過性を有する物品は、例えば、プラスチック製の基材を用いた各種入場券や紙幣、パッケージ用のシートやケースなどである。上記の通り、表示体1は、それ自体の偽造又は模造が困難である。それ故、このラベルを物品に支持させた場合、真正品であるこのラベル付き物品の偽造又は模造も困難である。
【0064】
図19はラベル付き物品の一例を示す平面図、図20は図19のXX−XX線に沿った断面図である。図19及び図20には、ラベル付き物品の一例として、光透過性のコンサート入場券100を描いている。この入場券100は、光透過性を有する基材50を含んでいる。基材50は、例えば、PETやPCなどのプラスチックからなる。基材50の一方の主面には、印刷層40が形成されている。基材50の印刷層40が形成された面には、上述した表示体1が例えば光透過性を有する粘着層を介して固定されている。表示体1は、例えば、粘着ステッカとして又は転写箔として準備しておき、これを印刷層40に貼りつけることにより、基材50に固定する。表示体1が固定されている場所には光の透過を遮らないように印刷を設けないようにする。
この入場券100は、表示体1を含んでいる。それ故、この入場券100の偽造又は模造は困難である。
【0065】
なお、図19及び図20には、表示体1を含んだ物品として入場券を例示しているが、表示体1を含んだ物品は、これに限られない。例えば、表示体1を含んだ物品は、IC(集積回路:integrated circuit)カード、無線カード及びID(身分証明:identification)カードなどのカード類であってもよい。或いは、表示体1を含んだ物品はプラスチック紙幣や切手などであってもよい。或いは、表示体1を含んだ物品は、真正品であることが確認されるべき物品に取り付けられるべきタグであってもよい。或いは、表示体1を含んだ物品は、真正品であることが確認されるべき物品を収容する包装体又はその一部であってもよい。
【0066】
また、図19及び図20に示す入場券100では、表示体1を、印刷層40を介して基材50に貼り付けているが、表示体1は、他の方法で基材に支持させることができる。例えば、基材の内部に表示体1を埋め込んでもよく、基材の裏面、即ち表示面とは反対側の面に表示体1を固定してもよい。
表示体1は、偽造防止以外の目的で使用してもよい。例えば、表示体1は、玩具、学習教材又は装飾品等としても利用することができる。
【符号の説明】
【0067】
1…表示体、2…第1界面部、3…第1界面部、4…第1界面部、5…第1界面部、11…光透過層、12…金属薄膜層、20…第2界面部、21…光散乱構造、30…光学薄膜、40…印刷層、50…プラスチック製基材、100…入場券、111…光透過性基材、112…光透過性樹脂層、AD…平均中心間距離、D…光学薄膜の膜厚、DL…回折光、DLb…1次回折光、DLg…1次回折光、DLr…1次回折光、DS…レリーフ構造、FL…平坦面、GR…回折格子、IF…界面、IL…入射光、LS…白色照明光、NL…法線、OB…観察者、PR…凸部、TR…透過光、RE…反射光、RL…正反射光又は0次回折光、T1…平坦部の層厚、T2…凸部の側面の層厚、α…入射角、βb…射出角、βg…射出角、βr…射出角、θ…入射角。
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば偽造防止に利用可能な画像表示技術に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、商品券及び小切手などの有価証券類、クレジットカード、キャッシュカード及びIDカードなどのカード類、並びにパスポート及び免許証などの証明書類には、それらの偽造を防止するために、通常の印刷物とは異なる視覚効果を有する表示体が貼り付けられている。また、近年、これら以外の物品についても、偽造品の流通が社会問題化している。そのため、そのような物品に対しても、同様の偽造防止技術を適用する機会が増えてきている。
【0003】
通常の印刷物とは異なる視覚効果を有している表示体としては、複数の溝を並べてなる回折格子を含んだ表示体が知られている。この表示体には、例えば、観察条件に応じて変化する像を表示させることや、立体像を表示させることができる。また、回折格子が表現する虹色に輝く分光色は、通常の印刷技術では表現することができない。そのため、回折格子を含んだ表示体は、偽造防止対策が必要な物品に広く用いられている。
【0004】
例えば、溝の長さ方向又は格子定数(即ち溝のピッチ)が異なる複数の回折格子を配置して絵柄を表示する技術が知られている(特許文献1参照)。回折格子に対する観察者又は光源の相対的な位置が変化すると、観察者の目に到達する回折光の波長が変化する。従って、上記の構成を採用すると、虹色に変化する画像を表現することができる。
回折格子を利用した表示体では、複数の溝を形成してなるレリーフ型の回折格子を使用することが一般的である。レリーフ型回折格子は、通常、フォトリソグラフィを利用して製造した原版から複製することにより得られる。
【0005】
特許文献1には、レリーフ型回折格子の原版の作製方法として、一方の主面に感光性レジストを塗布した平板状の基板をXYステージ上に載置し、コンピュータ制御のもとでステージを移動させながら感光性レジストに電子ビームを照射することにより、感光性レジストをパターン露光する方法が記載されている。また、回折格子の原版は、二光束干渉を利用して形成することもできる。
【0006】
レリーフ型回折格子の製造では、通常、まず、このような方法により原版を形成し、そこから電鋳等の方法により金属製のスタンパを作製する。次いで、この金属製スタンパを母型として用いて、レリーフ型の回折格子を複製する。即ち、まず、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリカーボネート(PC)からなるフィルム又はシート状の薄い透明基材上に、熱可塑性樹脂又は光硬化性樹脂を塗布する。次に、塗膜に金属製スタンパを密着させ、この状態で樹脂層に熱又は光を与える。樹脂が硬化した後、硬化した樹脂から金属製スタンパを剥離することにより、レリーフ型回折格子の複製物を得る。
【0007】
一般に、このレリーフ型回折格子は透明である。従って、通常、レリーフ構造を設けた樹脂層上には、蒸着法を用いてアルミニウムなどの金属又は誘電体を単層又は多層に堆積させることにより金属薄膜層を形成する。
その後、このようにして得られた表示体を、例えば紙又はプラスチックフィルムからなる基材上に接着層又は粘着層を介して貼り付ける。以上のようにして、偽造防止対策を施した表示体を得る。
【0008】
レリーフ型回折格子を含んだ表示体の製造に使用する原版は、それ自体の製造が困難である。また、金属製スタンパから樹脂層へのレリーフ構造の転写は、高い精度で行わなければならない。即ち、レリーフ型回折格子を含んだ表示体の製造には高い技術が要求される。
しかしながら、偽造防止対策が必要な物品の多くでレリーフ型回折格子を含んだ表示体が用いられるようになった結果、この技術が広く認知され、これに伴い、偽造品の発生も増加する傾向にある。そのため、回折光によって虹色の光を呈することのみを特徴とした表示体を用いて十分な偽造防止効果を達成することが難しくなってきている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第5058992号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、透過観察時において特徴的な視覚効果を示し、十分な偽造防止効果を発揮する表示体とこれを用いたラベル付き物品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、請求項1に係る発明の表示体は、光反射性と光透過性の双方を有する金属薄膜層の上に光透過層を積層してなる積層体から形成される表示体であって、前記金属薄膜層から前記光透過層に向けて300nm以上500nm以下の高さで突出する複数の凸部または前記光透過層から前記金属薄膜層に向けて300nm以上500nm以下の深さで凹む複数の凹部からなり、かつ前記凸部または前記凹部が200nm以上500nm以下の平均中心間距離で格子状に配列された複数の第1界面部を有し、該第1界面部により前記金属薄膜層と前記光透過層との界面部にレリーフ構造形成層が形成されていることを特徴とする。
【0012】
請求項2に係る発明の表示体は、請求項1に記載の表示体において、前記凸部または前記凹部の平均中心間距離が前記複数の第1界面部の各々で異なることを特徴とする。
請求項3に係る発明の表示体は、請求項2に記載の表示体において、前記凸部または前記凹部の平均中心間距離が異なる前記複数の第1界面部によって絵柄、文字、記号等の画像が表示されることを特徴とする。
請求項4に係る発明の表示体は、請求項1〜3のいずれか一項に記載の表示体において、前記第1界面部の各々を透過する光の主波長が3μm以上300μm以下の四辺からなる矩形に包含される領域で混合されるように、前記複数の第1界面部を規則的に隣接配置したことを特徴とする。
【0013】
請求項5に係る発明の表示体は、請求項1〜4のいずれか一項に記載の表示体において、前記金属薄膜層の平坦面における層厚が30nm以上100nm以下であることを特徴とする。
請求項6に係る発明のラベル付き物品は、請求項1〜5のいずれか一項に記載の表示体が、光透過性を有する接着層を介して、光透過性を有する基材からなる物品に支持されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に係る発明によると、第1界面部の凸部または凹部が可視光の波長よりも小さい平均中心間距離で配列されていることから、光の入射する側から第1界面部を観察した際、すなわち表示体からの反射光を観察した際には、反射防止/抑制効果によって黒色もしくは暗灰色に知覚される。また、光が入射する側とは反対側から第1界面部を観察した際、すなわち表示体からの透過光を観察した際には第1界面部が透けて見える効果を得ることができる。また、凸部又は凹部の平均中心間距離に応じて透過する光の波長が変化するため、例えば白色光源の光を入射光として表示体を観察した場合でも、赤や青、緑などの任意の色を知覚することができる。
従って、請求項1に係る発明によれば、反射光を観察した際と透過光を観察した際とで全く異なる視覚効果を実現することができ、インキによる印刷や従来の回折格子パターンでは実現することができず高い偽造防止効果を発揮し、真贋判定を確実に行うことができる。
【0015】
請求項2に係る発明によると、第1界面部を反射条件で観察した場合にはいずれの第1界面部も黒色もしくは暗灰色に見える一方、透過観察した際には、凸部又は凹部の平均中心間距離に応じて表示体を透過する光の波長が変わるため第1界面部ごとに異なる色を観察することができる。反射観察において概ね同一色(黒色もしくは暗灰色)に知覚される第1界面部が透過観察時には異なる色で観察可能であるため、より高い偽造防止効果を実現できる。
【0016】
請求項3に係る発明によると、透過観察した際に、異なる波長による色によって特定の画像を表現することでアイキャッチ効果(人目をひく効果)をより高めることができ、且つ、表示体の意匠性を高めることもできる。
請求項4に係る発明によると、肉眼で観察した際に、個々の第1界面部の形状や透過してくる光による色を知覚できず隣接する複数の第1界面部からの透過光が混ざり合わさったことによる混色を表示することが可能になる。従って、多くの色を表現することが可能になり、偽造防止効果の向上と、意匠性の向上を達成することができる。
【0017】
請求項5に係る発明によると、層厚が30nm以上100nm以下である金属薄膜層は光金属薄膜層としての効果と光透過層としての効果を併せ持ち、所謂ハーフミラーとして機能するという光学効果が得られる。
請求項6に係る発明によると、表示体に由来する特徴的な視覚効果により、物品の偽造及び不正使用の抑制に役立つ。また、この視覚効果は、その物品に美的外観を提供し得る。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1の実施態様に係る表示体の平面図である。
【図2】図1のII−II線に沿った断面図である。
【図3】図2に示す表示体に採用可能なレリーフ構造の一例を示す斜視図である。
【図4】図3に示すレリーフ構造の平面図である。
【図5】図2に示す表示体に採用可能なレリーフ構造の他の例を示す斜視図である。
【図6】図5に示すレリーフ構造の平面図である。
【図7】格子定数が大きい回折格子の表面に光を照射したときの状態を示す図である。
【図8】格子定数が小さい回折格子の表面に光を照射したときの状態を示す図である。
【図9】光学薄膜に入射した光の挙動を示す図である。
【図10】図1に示す表示体の正面を表示体からの反射光で観察する場合の一例を示す図である。
【図11】図1に示す表示体の正面を表示体からの反射光で観察する場合の他の例を示す図である。
【図12】図1に示す表示体の正面を表示体からの透過光で観察する場合の一例を示す図である。
【図13】本発明の第2の実施態様に係る表示体の斜視図である。
【図14】図13に示す複数の第1界面部を交互に隣接配置した場合の一例を示す平面図である。
【図15】金属薄膜層の一例を示す断面図である。
【図16】金属薄膜層に対する光の反射特性と透過特性を示す図である。
【図17】回折格子の一例を示す斜視図である。
【図18】光散乱構造の一例を示す斜視図である。
【図19】ラベル付き物品の一例を示す平面図である。
【図20】図19のXX−XX線に沿った断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
図1は本発明の第1の実施態様に係る表示体の平面図、図2は図1のII−II線に沿った断面図である。なお、図1及び図2において、X1方向とY1方向は表示体1の表示面に対して平行で且つ互いに交差する方向であり、Z1方向はX1方向及びY1方向に対して垂直な方向である。ここでは、一例として、X1方向とY1方向は互いに直交しているものとする。
【0020】
図1に示される表示体1は、図2に示すように、光透過層11と金属薄膜層12とからなる積層体を含んで構成されている。この実施態様では、光透過層11側を前面側とし、金属薄膜層12側を背面側としているが、光透過層11側を背面側とし、金属薄膜層12側を前面側としてもよい。
光透過層11は、可視光に対して高い光透過性を有している層であり、典型的には、透明な材料から形成されている。
【0021】
また、光透過層11は光透過性基材111と光透過性樹脂層112とを含み、光透過性基材111と光透過性樹脂層112は積層体を形成している。光透過層11は単層構造であってもよいし、或いは3層以上の多層構造であってもよい。
光透過性基材111は、それ自体を単独で取り扱うことが可能なフィルム又はシートから形成されている。光透過性基材111の材料としては、ポリカーボネート、ポリエステルなどの光透過性を有する樹脂を使用することができ、光透過性基材111は省略することもできる。
【0022】
光透過性樹脂層112は光透過性基材111の上に形成された層であり、この光透過性樹脂層112の表面には、レリーフ構造DSを形成するレリーフ構造形成層が形成されている。このレリーフ構造形成層については、後で詳述する。
光透過性樹脂層112を光透過性基材111の上に形成する方法としては、例えば光透過性基材111の上に樹脂を塗布し、この塗膜にスタンパを押し当てながら樹脂を硬化させる方法を用いることができ、光透過性基材111の上に塗布される樹脂としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂などを使用することができる。
【0023】
金属薄膜層12は、光透過性樹脂層112のレリーフ構造DSが設けられた表面を被覆している。金属薄膜層12は、光透過性樹脂層112のレリーフ構造DSが設けられた表面の一部を被覆していてもよく、レリーフ構造DSが設けられた表面の全体を被覆していてもよい。金属薄膜層12としては、例えばアルミニウム、銀、金又はそれらの合金などの金属材料からなる金属層を使用することができる。
【0024】
金属薄膜層12は、例えば真空蒸着法、スパッタリング法などの気相堆積法により形成することができる。例えば、光透過性樹脂層112の表面上に薄膜を気相堆積法により形成し、その一部を薬品などで溶解させたり、或いは光透過性樹脂層112と薄膜との密着力よりも強い接着力を有する接着剤で薄膜の一部を剥離させたりすることによって金属薄膜層12を形成することができる。なお、レリーフ構造DSが形成された光透過性樹脂層112の表面を金属薄膜層12により部分的に被覆する場合は、マスクを用いた気相堆積法によっても金属薄膜層12を形成することが可能である。
【0025】
表示体1は接着層、粘着層、樹脂層などの他の層を更に含むことができる。この場合、接着層や粘着層は、金属薄膜層12を被覆するように形成することが望ましい。表示体1が光透過層11と金属薄膜層12の両方を含む場合、通常、金属薄膜層12の表面の形状は光透過層11と金属薄膜層12との界面の形状とほぼ等しい。従って、上記のように接着層又は粘着層を設けると、金属薄膜層12の表面が露出するのを防止できる。それ故、偽造を目的としたレリーフ構造の転写による複製を困難とすることができる。
【0026】
光透過層11側を背面側とし、金属薄膜層12側を前面側とする場合、接着層や粘着層は光透過層11の上に形成される。
表示体1が樹脂層を含む場合、樹脂層は光透過層11と金属薄膜層12との積層体に対して前面側に形成される。例えば、光透過層11側を背面側とし、金属薄膜層12側を前面側とする場合、金属薄膜層12を樹脂層によって被覆すると、金属薄膜層12の損傷を抑制できるのに加え、偽造を目的としたレリーフ構造の転写による複製を困難とすることができる。樹脂層は、例えば、使用時に表示体の表面にキズが付いてしまうのを防ぐことを目的としたハードコート層、汚れの付着を抑制する防汚層、帯電防止層などである。
【0027】
次に、レリーフ構造形成層に設けられる第1界面部について説明する。
上述したように、光透過層11と金属薄膜層12との界面は反射面として機能する。この反射面は、図1に示す第1界面部2を含んでいる。第1界面部2は、連続した1つの領域である。上記反射面は、図1に示す例では第1界面部2を1つのみ含んでいるが、複数の第1界面部2を含んでいてもよい。第1界面部2は表示体1の全面を占めていてもよいし、表示体1の一部分のみを占めていてもよい。
【0028】
第1界面部2は、複数の凸部または凹部からなるレリーフ構造DSを含んでいる。これにより、金属薄膜層12の観察者側の面には、複数の凸部または凹部が設けられている。ここでは、レリーフ構造DSは複数の凸部からなるものとする。なお、凸部について以下に説明する事項は、凸部について述べる「高さ」を凹部については「深さ」と読み替えるべきこと以外は、凹部についても同様である。
図3は図1及び図2に示す表示体に採用可能なレリーフ構造の一例を示す斜視図であり、図4は図3に示すレリーフ構造の平面図である。また、図5はレリーフ構造の他の例を示す斜視図であり、図6は図5に示すレリーフ構造の平面図である。なお、図3及び図5はレリーフ構造を光透過層側から見た場合を示している。
【0029】
図5及び図6に示すレリーフ構造DSは、複数の凸部PRがなす列の伸長方向が図3及び図4に示すレリーフ構造DSとは異なっている。すなわち、図3及び図4に示すレリーフ構造DSは複数の凸部PRがX1軸及びY1軸と平行に配列されているのに対し、図5及び図6に示すレリーフ構造DSは複数の凸部PRがX1軸及びY1軸と45°の角度で交差する直線と平行に配列されている。
【0030】
第1界面部2には、図3及び図4または図5及び図6に示すレリーフ構造DSが形成されている。このレリーフ構造DSは、200nm〜500nmの平均中心間距離ADで規則的に配列された複数の凸部PRを含んでいる。レリーフ構造DSは、図3及び図4または図5及び図6に示した方位以外の方位に伸長する複数の凸部から成る構造であってもよい。また、第1界面部2に形成されるレリーフ構造DSは凸部及び凹部の双方が共存するような構造であってもよい。
【0031】
レリーフ構造DSの各凸部PRは、典型的にはテーパ形状を有している。テーパ形状としては、例えば、半紡錘形状、円錐及び角錐などの錐体形状、切頭円錐及び切頭角錐などの切頭錐体形状などが挙げられる。凸部PRの側面は、傾斜面のみで構成されていてもよく、階段状であってもよい。凸部PRのテーパ形状は、後述するように、レリーフ構造DSに入射する光の反射率を小さくするのに役立つ。なお、スタンパを利用して光透過性樹脂層112を形成する場合、凸部PRのテーパ形状は、硬化した光透過性樹脂層112のスタンパからの取り外しを容易にし、生産性の向上に寄与する。凸部PRの一部は、テーパ形状を有していなくてもよい。
上述したように、凸部PRは規則的に配列されているため、レリーフ構造DSは回析格子として機能する。具体的には、図3〜図6に示すレリーフ構造DSは、溝を点線で示したように配置してなる回折格子とほぼ同様に機能する。但し、レリーフ構造DSが射出する視感度の高い回折光は、特殊な条件のもとでしか観察することができない。
【0032】
回析格子として機能し得るレリーフ構造DSに照明光を照射すると、レリーフ構造DSは入射光である照明光の進行方向に対して特定の方向に強い回折光を射出する。ここで、回析格子の格子定数をd、回析格子の回折次数をm(但し、m=0、±1、±2、・・・)、入射光及び回折光の波長をλとすると、回折光の射出角βは、回折格子の溝の長さ方向に垂直な面内で光が進行する場合、下記の式(1)から算出することができる。
d=mλ/(sinα−sinβ) ・・・(1)
式(1)において、αは0次回折光、即ち、透過光又は正反射光の射出角を表し、このαの絶対値は照明光の入射角と等しく、反射型回折格子の場合には、照明光の入射方向と正反射光の射出方向は回折格子が設けられた界面の法線に関して対称である。
【0033】
なお、回折格子が反射型である場合、透過光又は正反射光の射出角αは0°以上90°未満である。また、回折格子が設けられた界面に対して斜め方向から照明光を照射し、法線方向の角度、即ち0°を境界値とする2つの角度範囲を考えると、回折光の射出角βは回折光の射出方向と正反射光の射出方向とが同じ角度範囲内にあるときには正の値であり、回折光の射出方向と照明光の入射方向とが同じ角度範囲内にあるときには負の値である。以下、正反射光の射出方向を含む角度範囲を「正の角度範囲」と呼び、照明光の入射方向を含む角度範囲を「負の角度範囲」と呼ぶ。
【0034】
法線方向から回折格子を観察する場合、表示に寄与する回折光は射出角βが0°の回折光のみである。従って、この場合、回折格子の格子定数dが回折光の波長λと比較してより大きければ、式(1)に示す関係を満足する波長λと入射角αが存在するので、この場合、観察者は、式(1)に示す関係を満足する波長λを有する回折光を観察することができる。
【0035】
これに対し、回折格子の格子定数dが回折光の波長λと比較してより小さい場合には、式(1)で示す関係を満たす入射角αは存在しない。従って、この場合、観察者は回折光を観察することができない。
この説明から明らかなように、凸部PRの平均中心間距離ADが小さいレリーフ構造DSは、通常の回折格子とは異なり、法線方向に回折光を射出しない。或いは、そのようなレリーフ構造DSが法線方向に射出する回折光は視感度の低いもののみである。
【0036】
これについて、図7及び図8を参照しながら更に詳細に説明する。
図7は格子定数が大きい回折格子の表面に光を照射したときの状態を示す図であり、図8は格子定数が小さい回折格子の表面に光を照射したときの状態を示す図である。
図7及び図8において、IFは回折格子GRが形成された界面を示し、NLは界面IFの法線を示している。また、ILは複数の波長の光から構成される白色照明光を示し、RLは正反射光又は0次回折光を示している。さらに、DLr、DLg、DLbは白色照明光ILが分光してなる赤、緑、青色に相当する波長の1次回折光をそれぞれ示している。
【0037】
図7に示す界面IFには、格子定数が可視光の最短波長、例えば400nmよりも大きな回折格子GRが設けられている。他方、図8に示す界面IFには、格子定数が可視光の最短波長よりも小さな回折格子GRが設けられている。
式(1)から明らかなように、回折格子の格子定数dが可視光の最短波長と比較してより大きい場合(例えば400nmよりも大きい場合)、界面IFに対して斜め方向から照明光ILを照射すると、回折格子GRは、図7に示すように、正の角度範囲内の射出角βr、βg及びβbで1次回折光DLr、DLg及びDLbを射出する。なお、図示していないが、この回折格子は、他の波長の光についても同様に1次回折光を射出する。
【0038】
これに対し、回折格子の格子定数dが可視光の最短波長の1/2より大きく、かつ可視光の最短波長未満である場合、界面IFに対して斜め方向から照明光ILを照射すると、図8に示すように、回折格子GRは、1次回折光DLr、DLg及びDLbをそれぞれ負の角度範囲内の射出角βr、βg及びβbで射出する。例えば、角度αが50°であり、格子定数dが330nmである場合を考えると、回折格子GRは、白色照明光ILのうち波長λが540nm(緑)の光を回折させ、1次回折光DLgを約−60°の射出角βgで射出する。
【0039】
この説明から明らかなように、レリーフ構造DSは、正の角度範囲内に回折光を射出せずに、負の角度範囲内にのみ回折光を射出する。或いは、レリーフ構造DSは、正の角度範囲内に視感度が低い回折光のみを射出し、負の角度範囲内に視感度が高い回折光を射出する。すなわち、レリーフ構造DSは、通常の回折格子とは異なり、視感度が高い回折光を負の角度範囲内にのみ射出する。
【0040】
一般に、上方に配置した光源から物品の表面に光を照射し、物品表面からの反射光によって物品表面の様子を観察する場合(以下、「反射観察」という)、特に、光反射能及び光散乱能が小さな光吸収性の物品を観察する際には、正反射光を視覚できるように物品と光源とを観察者の目に対して相対的に位置合わせする。そのため、図7を参照しながら説明した構成を表示体1のレリーフ構造DSとして採用すると、そのこと自体を観察者が知らないとしても、観察者は比較的高い確率で回折光を視覚する。これに対し、図8を参照しながら説明した構成を表示体1のレリーフ構造DSとして採用すると、そのことを知らない観察者は、多くの場合、回折光を知覚できない。それゆえ、この表示体1は、反射観察する条件下において、第1界面部2が回折光を射出し得ることを悟られ難い。
【0041】
また、上述したように、凸部PRはテーパ形状を有している。このような構造を採用した場合、平均中心間距離ADが十分に短ければ、レリーフ構造DSはZ1方向に連続的に変化した屈折率を有していると見なすことができる。そのため、どの角度から観察してもレリーフ構造DSの正反射光についての反射率は小さい。そして、レリーフ構造DSは表示体1の正面(法線方向)に回折光を実質的に射出しない。
【0042】
従って、表示体1のうちレリーフ構造DSに対応した部分は、その法線方向から反射観察した場合に、例えば黒色または暗灰色を表示する。なお、ここでの「黒色」は表示体1のうちレリーフ構造DSに対応した部分に法線方向から光を照射し、正反射光の強度を測定したときに、波長が400nm〜700nmの範囲内にある全ての光成分について反射率が10%以下であることを意味し、「暗灰色」は表示体1のうちレリーフ構造DSに対応した部分に法線方向から光を照射し、正反射光の強度を測定したときに、波長が可視光の波長である400nm〜700nmの範囲内にある全ての光成分について反射率が約25%以下であることを意味する。
【0043】
上述のように、レリーフ構造DSは、正面から観察した場合に、黒色または暗灰色を表示する。従って、表示体1のうち第1界面部2に対応した部分は、正面から観察した場合に、例えば黒色又は暗灰色印刷層の如く見える。
そして、レリーフ構造DSは、表示体1の正面から観察した場合に、黒色または暗灰色を表示するので、観察角度が負の角度範囲内にある場合、レリーフ構造DSは回折に由来した有彩色を表示する。
【0044】
凸部PRの平均中心間距離ADは500nm以下であり、可視光の最短波長以下(例えば400nm以下)であることが好ましい。また、より好ましくは、可視光の最短波長の1/2以上、すなわち200nm以上400nm以下とすることで1次回折光を射出する機能を有し、かつ黒色または暗灰色に見える構造が得られる。平均中心間距離ADを200nm未満に設定した場合には、黒色または暗灰色に見える構造が得られるが、1次回折光を射出する機能は得られなくなる。
一般的には、凸部PRの平均中心間距離ADが小さくなるに伴って明度及び彩度が低下し、より黒い表示が可能となり、平均中心間距離ADが大きくなるに伴ってやや輝度が上昇し、暗灰色に知覚されるような構造となる。
【0045】
また、凸部PRの高さが大きいほうがより黒い表示が可能となり、高さが小さくなるのに伴って輝度が上昇し、暗灰色に知覚されるようになる。典型的には凸部PRの高さは平均中心間距離ADの1/2以上とすることが望ましい。具体的には、平均中心間距離ADが500nmであった場合、凸部PRの高さを250nm以上とすることで暗灰色の表示が可能となり、さらに、平均中心間距離ADよりも大きい500nm以上の高さとすることでより黒い表示が可能となる。
【0046】
凸部PRの高さを平均中心間距離ADと比較してはるかに高い構造にすると十分な黒さが得られ、且つ、より高精度な製造技術が必要となることから一層偽造防止効果を向上させることができる。凸部PRの高さについては、個々の凸部ごとに異なる値をとっていても良いし、均一な高さで形成されていても良いが、均一な高さで形成されているほうが、観察した際に凸部の高さの不均一性に伴う黒さのわずかな変動による輝度ムラなどが発生しにくくなり望ましい。
【0047】
次に、複数の凸部PRが形成された第1界面部を透過する光の挙動について説明する。
第1界面部2は、図9に示す光学薄膜30による干渉フィルターに類似する作用を有し、反射や干渉を繰り返すことで特定の波長の光を強めたり弱めたりすることが可能である。光学薄膜30に角度θで入射する入射光ILの一部は各層の表面で反射し、光源LSがある側に反射していくが、透過光となって光源LSとは反対側の面に進行する光も存在する。
【0048】
光学薄膜30を透過していく光の波面は、光学薄膜30の内部で反射を偶数回繰り返した後に透過していく光の波面を重畳したものとなる。各波面に位相差がないときに、最大の透過光が得られ、その際の光学距離の差は、波長の整数倍となり次式(2)が成立する。
mλ=2×TO×cosθ ・・・(2)
ここで、mは次数であり、TOは光学的距離である。TOは、物理的な距離に加え、光が伝搬する媒質の屈折率が考慮される。光学薄膜30の膜厚をD、屈折率をnとするとTO=nDが成り立つ。
このとき、他の波長では各波面で打ち消し合う干渉が起こるため、光源LSとは反対側の面にはほとんど透過しなくなる。これは、薄膜の光学的距離を制御することで光源とは反対側の面に透過する光の波長を制御することが可能となることを意味している。
【0049】
第1界面部2に設ける凸部PRの平均中心間距離ADを変化させることで、光透過性樹脂層112や金属薄膜層12の入射光に対する光学的距離を変化させることができるため、第1界面部2は、光学薄膜30のように、特定の角度からの入射光に対して特定の波長の光を光源とは反対側の面に透過光として射出することが可能となる。すなわち、第1界面部2に設ける凸部PRの平均中心間距離ADを変化させることで白色光ILの入射に対し、定点に対して、例えば赤や緑、青などの特定の波長の光を透過光として射出し得る。
【0050】
次に、図1に示す表示体1による視覚効果について説明する。
図10は表示体1の正面を表示体1からの反射光で観察する場合の一例を示す図、図11は表示体1の正面を表示体1からの反射光で観察する場合の他の例を示す図、図12は表示体1の正面を表示体1からの透過光で観察する場合の一例を示す図である。
図10に示すように、例えば観察者OBの上方にある太陽や蛍光灯等の白色光源LSからの光が表示体1に入射し、観察者OBが表示体1の表面からの反射光REを観察するような観察条件下においては、表示体1の第1界面部2はその内部に形成されている複数の凸部PRによる反射防止/抑制効果によって反射光REをほとんど射出せず、黒色または暗灰色に観察される。
【0051】
図11に示すように、表示体1から射出する光によって表示体1を反射観察で見る場合には、式(1)の条件を満足する角度で表示体1に入射光ILが入射するようにし、回折光が射出される角度から表示体1を観察することで、第1界面部2による回折光DLを観察することができる。
図12に示すように、例えば太陽や蛍光灯等の白色光源LSが観察者OBに対して表示体1の裏側にあるような位置関係で表示体1を観察すると、白色光源LSから射出された表示体1への入射光ILは、表示体1の裏面から入射し、第1界面部2を透過した光TRとなって観察者OBに到達する。このとき、第1界面部2を透過する光TRの波長は第1界面部2の内部に形成されている複数の凸部PRの平均中心間距離ADに応じて決定されるため、第1界面部2を透過する光TRによって、表示体1は例えば青、赤、緑等の固有の色相を表示できる。
【0052】
第1界面部2を構成する複数の凸部PRは、その平均中心間距離ADが200nm以上500nm以下であり、高さが300nm以上500nm以下である。このような凸部PRによって第1界面部2を構成すると、図10に示すように、表示体1を反射観察した場合には黒色もしくは暗灰色に見える。そして、図11のように特定条件下においては、第1界面部2は回折光を射出する。さらに、図12に示すように、表示体1を透過観察した場合には、透過光によって固有の色相を表示することが可能となる。このような反射観察と透過観察とでまったく異なる特徴的な知覚効果を実現する構造は、他の構造では実現することができず、高い偽造防止効果を発揮する。
【0053】
凸部PRの平均中心間距離ADが500nmより大きくなると、反射観察した際に黒色もしくは暗灰色などの十分に暗い表示が難しくなり、また、透過観察した際に固有の色相の色を表示することが困難になり、光源の色とほとんど変化がない波長分布の光が透過するだけの効果しか得られなくなる。
表示体1には、凸部PRの平均中心間距離が異なる複数の第1界面部2を設けることが望ましい。凸部PRの平均中心間距離を変化させることで、透過観察した際に第1界面部2ごとに異なる色相の色を表示することが可能になる。各第1界面部2は平均中心間距離ADが200nm以上500nm以下、高さが300nm以上500nm以下の複数の凸部PRによって形成されているため、反射観察時には同じように黒色もしくは暗灰色に見え、透過観察した際には平均中心間距離に応じてそれぞれ別々の色相の色を表示することができる。
【0054】
図13は、本発明の第2の実施態様に係る表示体を示す斜視図である。図13に示される表示体1は3つの第1界面部3,4,5を有し、これらの第1界面部3,4,5は文字「TOP」の文字毎に異なる平均中心間距離で配列された複数の凸部から形成されている。この表示体1を観察者OBが観察すると、文字「T」、「O」、「P」ごとにそれぞれ異なる色が表示されることになるので、図13のように、凸部の平均中心間距離が異なる複数の第1界面部を設けることで、より一層高い偽造防止効果を実現することが可能になるとともに、意匠性を高めることも可能になる。
【0055】
図14は、凸部の平均中心間距離が異なる複数の第1界面部を交互に隣接配置した場合の一例を示す図である。図14に示すように、凸部の平均中心間距離がそれぞれ異なる第1界面部3,4,5を交互に隣接配置し、第1界面部3,4,5によって例えば文字「T」を形成することで、所謂混色を表示することも可能である。この場合、第1界面部の各々は、一辺3μm以上300μm以下の矩形に包含されるような微小領域に形成され、且つ、規則的に隣接配置するとよい。微小な複数の第1界面部が隣接配置されている文字「T」を肉眼で観察した場合、それら第1界面部の1つ1つをこれに隣接した第1界面部から区別することは不可能であるか又は困難である。よって、文字「T」を肉眼で観察した際に、第1界面部の各々の形状が観察者に認識されるのを防止することができる。すなわち、個々の第1界面部の外形状が肉眼では認識困難になり、隣接する複数の第1界面部からの透過光が混ざりあうことで複数波長の光による混色の表示が可能となる。このような方法を用いることで表示できる色数が増え、意匠性が向上する。
【0056】
複数の第1界面部の配置例としては、凸部の平均中心間距離が異なる2種類の第1界面部を互い違いに配置する市松状(チェック模様状)やストライプ状(帯状)に配置する方法や、3種類以上の第1界面部が所定の領域内に同率、同面積で現れるように順番に配置していく方法がある。ここで、第1界面部の一辺が3μm以下である場合、凸部を十分に高い密度及び形状精度で形成することが困難になる。
【0057】
金属薄膜層としては、平坦面における層厚が30nm以上100nm以下の範囲であることが好ましい。アルミニウム、銀、金等の金属は、真空蒸着法及びスパッタリング法などの気相堆積法により、レリーフ構造に追従して、高精度に薄膜にすることができる。
金属薄膜層12の一例を図15に示す。図15に示される金属薄膜層12は、気相堆積法によって層厚T1で形成された平坦面FLを有し、レリーフ構造DSの側面部分は層厚T1より相対的に薄い層厚T2で形成されている。レリーフ構造DSの高さが高ければより層厚T2は薄くなる。そのため、レリーフ構造DSが設けられる第1界面部は、平坦面FLや後述する回折格子や光散乱構造等と比較して光を透過しやすくなる。
【0058】
金属薄膜層12に対する光の反射特性と透過特性の一例を図16に示す。図16に示すように、反射光と透過光は反比例する関係にある。金属薄膜層12の平坦面FLの層厚を30nm以上100nm以下の範囲とすることで、その層厚よりも薄くなる第1界面部においては、反射光成分のみならず透過光成分をも得ることができ、反射観察及び透過観察の双方で前述のような知覚効果を実現することができる。
【0059】
次に、図1、図2、図10〜図13に示す第2界面部20について説明する。
第2界面部20は、表示体1内に配置される第1界面部以外の領域である。第2界面部20は複数あってもよいし、1つもなくてもよい。第2界面部20は第1界面部とはその構造や光学的な性質が異なる領域である。第2界面部領域は第1界面部領域とは異なる構造が形成されていてもよいし、構造が形成されていない平坦面であってもよい。
【0060】
第2界面部20に採用可能な構造としては、図17に示すような回折格子GRが挙げられる。この回折格子GRは1〜2μm程度の間隔で格子線が配置された構造であり、典型的な高さは100nm程度である。また、図17に示される回折格子GRは、回折によって虹色に輝く分光色を射出し、光源の位置や観察者の観察角度など観察条件に応じて、色や絵柄が変化する像を表示させたり、立体像を表示させたりする機能を有する。第2界面部に採用可能な回折格子のピッチは典型的には500nmより大きく、回折格子の凹凸構造によって反射防止効果が発生しにくいものがよい。
回折格子は、反射観察した場合においても、透過観察した場合においても回折によって虹色に輝く分光色を射出するため、表示体1を表裏で観察した際に顕著な差違は見られない。
【0061】
また、第2界面部20に採用可能な構造としては、例えば図18に示すような光散乱構造21が挙げられる。この光散乱構造21は、大きさや形、構造の高さが異なる凹凸形状が不規則に複数配置されたものが典型的である。光散乱構造21に入射した光は、四方八方に乱反射し、反射観察した際には白色または白濁色に見える。光散乱構造21は典型的には、幅3μm以上、高さが1μm以上のものが多く、回折格子や第1界面部に形成された凹凸構造と比較して大きい構造である。また、その大きさや配置間隔、形状は不揃いである。そのため、光を散乱する効果が得られる。光散乱構造21として、ある程度方向性を有する凹凸構造を採用すると、所望の方向にのみ強く散乱光を射出する指向性のある光散乱性を実現することもできる。
光散乱構造21についても、反射観察、透過観察に関わらず同様に白色または白濁色に見えるため、表示体1を表裏で観察した際に顕著な差違は見られない。
【0062】
また、第2界面部20は凹凸構造が形成されていない平坦面であってもよい。
表示体1の一部に第2界面部20を採用し、第2界面部20と第1界面部2又は3,4,5とを組み合わせることによって表示体1によって表現される画像の意匠性をさらに向上させることができ、また偽造防止効果のさらなる向上を図ることができる。
第2界面部20には、第1界面部2又は第1界面部3,4,5とは異なる光学特性を発揮する前述の構造以外の構造を形成してもよい。
【0063】
次に、表示体1の使用方法について説明する。
上述した表示体1は、例えば偽造防止の目的で、光透過性を有する接着材、粘着材等を介して、光透過性を有する物品にラベルとして貼り付けることができる。光透過性を有する物品は、例えば、プラスチック製の基材を用いた各種入場券や紙幣、パッケージ用のシートやケースなどである。上記の通り、表示体1は、それ自体の偽造又は模造が困難である。それ故、このラベルを物品に支持させた場合、真正品であるこのラベル付き物品の偽造又は模造も困難である。
【0064】
図19はラベル付き物品の一例を示す平面図、図20は図19のXX−XX線に沿った断面図である。図19及び図20には、ラベル付き物品の一例として、光透過性のコンサート入場券100を描いている。この入場券100は、光透過性を有する基材50を含んでいる。基材50は、例えば、PETやPCなどのプラスチックからなる。基材50の一方の主面には、印刷層40が形成されている。基材50の印刷層40が形成された面には、上述した表示体1が例えば光透過性を有する粘着層を介して固定されている。表示体1は、例えば、粘着ステッカとして又は転写箔として準備しておき、これを印刷層40に貼りつけることにより、基材50に固定する。表示体1が固定されている場所には光の透過を遮らないように印刷を設けないようにする。
この入場券100は、表示体1を含んでいる。それ故、この入場券100の偽造又は模造は困難である。
【0065】
なお、図19及び図20には、表示体1を含んだ物品として入場券を例示しているが、表示体1を含んだ物品は、これに限られない。例えば、表示体1を含んだ物品は、IC(集積回路:integrated circuit)カード、無線カード及びID(身分証明:identification)カードなどのカード類であってもよい。或いは、表示体1を含んだ物品はプラスチック紙幣や切手などであってもよい。或いは、表示体1を含んだ物品は、真正品であることが確認されるべき物品に取り付けられるべきタグであってもよい。或いは、表示体1を含んだ物品は、真正品であることが確認されるべき物品を収容する包装体又はその一部であってもよい。
【0066】
また、図19及び図20に示す入場券100では、表示体1を、印刷層40を介して基材50に貼り付けているが、表示体1は、他の方法で基材に支持させることができる。例えば、基材の内部に表示体1を埋め込んでもよく、基材の裏面、即ち表示面とは反対側の面に表示体1を固定してもよい。
表示体1は、偽造防止以外の目的で使用してもよい。例えば、表示体1は、玩具、学習教材又は装飾品等としても利用することができる。
【符号の説明】
【0067】
1…表示体、2…第1界面部、3…第1界面部、4…第1界面部、5…第1界面部、11…光透過層、12…金属薄膜層、20…第2界面部、21…光散乱構造、30…光学薄膜、40…印刷層、50…プラスチック製基材、100…入場券、111…光透過性基材、112…光透過性樹脂層、AD…平均中心間距離、D…光学薄膜の膜厚、DL…回折光、DLb…1次回折光、DLg…1次回折光、DLr…1次回折光、DS…レリーフ構造、FL…平坦面、GR…回折格子、IF…界面、IL…入射光、LS…白色照明光、NL…法線、OB…観察者、PR…凸部、TR…透過光、RE…反射光、RL…正反射光又は0次回折光、T1…平坦部の層厚、T2…凸部の側面の層厚、α…入射角、βb…射出角、βg…射出角、βr…射出角、θ…入射角。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光反射性と光透過性の双方を有する金属薄膜層の上に光透過層を積層してなる積層体から形成される表示体であって、
前記金属薄膜層から前記光透過層に向けて300nm以上500nm以下の高さで突出する複数の凸部または前記光透過層から前記金属薄膜層に向けて300nm以上500nm以下の深さで凹む複数の凹部からなり、かつ前記凸部または前記凹部が200nm以上500nm以下の平均中心間距離で格子状に配列された複数の第1界面部を有し、該第1界面部により前記金属薄膜層と前記光透過層との界面部にレリーフ構造形成層が形成していることを特徴とする表示体。
【請求項2】
前記凸部または前記凹部の平均中心間距離が前記複数の第1界面部の各々で異なることを特徴とする請求項1に記載の表示体。
【請求項3】
前記凸部または前記凹部の平均中心間距離が異なる前記複数の第1界面部によって絵柄、文字、記号等の画像が表示されることを特徴とする請求項2に記載の表示体。
【請求項4】
前記第1界面部の各々を透過する光の主波長が3μm以上300μm以下の四辺からなる矩形に包含される領域で混合されるように、前記複数の第1界面部を規則的に隣接配置したことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の表示体。
【請求項5】
前記金属薄膜層の平坦面における層厚が30nm以上100nm以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の表示体。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の表示体が、光透過性を有する接着層を介して、光透過性を有する基材からなる物品に支持されていることを特徴とするラベル付き物品。
【請求項1】
光反射性と光透過性の双方を有する金属薄膜層の上に光透過層を積層してなる積層体から形成される表示体であって、
前記金属薄膜層から前記光透過層に向けて300nm以上500nm以下の高さで突出する複数の凸部または前記光透過層から前記金属薄膜層に向けて300nm以上500nm以下の深さで凹む複数の凹部からなり、かつ前記凸部または前記凹部が200nm以上500nm以下の平均中心間距離で格子状に配列された複数の第1界面部を有し、該第1界面部により前記金属薄膜層と前記光透過層との界面部にレリーフ構造形成層が形成していることを特徴とする表示体。
【請求項2】
前記凸部または前記凹部の平均中心間距離が前記複数の第1界面部の各々で異なることを特徴とする請求項1に記載の表示体。
【請求項3】
前記凸部または前記凹部の平均中心間距離が異なる前記複数の第1界面部によって絵柄、文字、記号等の画像が表示されることを特徴とする請求項2に記載の表示体。
【請求項4】
前記第1界面部の各々を透過する光の主波長が3μm以上300μm以下の四辺からなる矩形に包含される領域で混合されるように、前記複数の第1界面部を規則的に隣接配置したことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の表示体。
【請求項5】
前記金属薄膜層の平坦面における層厚が30nm以上100nm以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の表示体。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の表示体が、光透過性を有する接着層を介して、光透過性を有する基材からなる物品に支持されていることを特徴とするラベル付き物品。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
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【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2012−206352(P2012−206352A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−73532(P2011−73532)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】
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