説明

表示装置

【課題】 電極上の電界を制御し、等方性液晶とくし歯電極を用いた表示デバイスにおいて、電極上の透過率を向上することのできる表示装置を提供すること。
【解決手段】 一対の基板間に、電圧無印加時に光学的等方性で、電圧印加時に光学的異方性を生じる媒体を挟持し、少なくとも一方の基板上の他方の基板と相対する面上に、画素電極と共通電極のいずれか一方がくし歯状に形成される表示装置において、他方の基板上の相対する面上に面状の電極を形成し、該面状の電極は前記画素電極もしくは共通電極のいずれかと同電位の電圧を印加し、液晶層厚dと上記くし歯状に形成される電極の電極間隔lの関係がd≧lとなるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電圧無印加時に光学的に等方性を示す媒体を用いた表示装置に関わる。
【背景技術】
【0002】
近年の液晶パネル製造技術の進歩により、従来ブラウン管が大勢を占めていたテレビ用のディスプレイとして、液晶表示装置が用いられるようになっている。従来、液晶表示素子としては、コントラストや視野角特性を改善するための液晶表示素子の方式としては、たとえばインプレーンスイッチング(横電界)表示方式(以下IPS方式という。)やバーチカルアライメント表示方式(以下VA方式という。)が知られている。これらの方式は、TN方式に比べて、視野角とコントラストを大幅に改善することが可能となる。
【0003】
しかし、IPS、VA方式において液晶層は、光学的に一軸な媒体であるため、そのままでは透過率に視野角の依存性が生じる。さらに、非特許文献1に記載されるように、ネマチック液晶材料は分子の熱的揺らぎに起因される光散乱を示す。IPS、VA方式においては電圧無印加時に黒表示するため、黒表示であっても原理的にこの光散乱に起因される光漏れにより、コントラストの低下が避けられない。これらのような光学異方性や光散乱と言った課題は、ネマチック液晶材料を用いた表示デバイスに固有の問題である。
【0004】
このような問題に対して、近年、光学的に等方性を有する液晶(以下等方性液晶と呼ぶ。)が知られている。この等方性液晶は、液晶層に対して電圧無印加時に液晶分子の配列が光学的に等方であり、電圧印加により、電圧印加方向に複屈折性が誘起される性質を有する。このような等方性液晶としては、非特許文献2に記載されるようなコレステリックブルー相、スメクチックブルー相、あるいはキュービック相などが知られており、また非特許文献3に記載されるベントコア構造の液晶分子を垂直配向させたような材料においても同様に光学的な等方性を示すと言われている。そのほかにもスメクチックQ相、ミセル相、逆ミセル相、スポンジ相などが知られている。
【0005】
このような等方性液晶をもちいたデバイスに関するものとして、特許文献1,2および非特許文献4のようなくし歯電極を用いたデバイスが報告されている
これらのデバイスの表示原理は、一方の基板にくし歯状の画素電極と共通電極を形成し、その各々に電圧を印加することにより、電極間に基板平面に平行な電気力線が生じ、それにそって誘起される複屈折をもちいて表示するものである。この表示原理に依れば、画素内に基板平面に平行な電気力線が生じる領域のみが表示に寄与することになる。
【特許文献1】特開平05−336477
【特許文献2】特開2006−3840号公報
【非特許文献1】W. H. de Jeu著、石井力、小林駿介訳:液晶の物理、90−94頁
【非特許文献2】Harry J.Coles 、ネイチャー、436巻、997−1000頁、2005年
【非特許文献3】竹添秀男他、日本応用物理学会誌、45巻、L282−284頁、2006年
【非特許文献4】菊池裕嗣、アドバンスド・マテリアルズ、17巻、96−98頁、2005年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
公知情報を基にした表示装置の特性を評価した結果、画素電極、もしくは共通電極上においては、基板平面に平行な電気力線が生じないため、電極上はほとんど表示に寄与しない。電極上の電界を制御し、等方性液晶とくし歯電極を用いた表示デバイスにおいて、電極上の透過率を向上する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本出願に係る発明は、例えば以下の手段により達成される。
【0008】
一対の基板間に、電圧無印加時に光学的に等方性で、電圧印加時に光学的な異方性を生じる媒体を挟持し、少なくとも一方の基板上の他方の基板と相対する面上に、画素電極と共通電極のいずれか一方がくし歯状に形成される表示装置において、他方の基板上の相対する面上に面状の電極を形成し、該面状の電極は前記画素電極もしくは共通電極のいずれかと同電位の電圧を印加し、液晶層厚dと上記くし歯状に形成される電極の電極間隔lの関係がd≧lであることを特徴とする。また前記の他方の基板上に形成される面状の電極は、スリットが形成され部分的に電界が生じない領域があることを特徴とする。さらに前記のスリットは、面状の電極と電位が異なる電極上に形成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、くし歯状に形成した電極間だけでなく、電極上も透過に寄与するため、表示装置の透過率が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本表示装置は、等方性液晶を挟持する基板に配置された画素電極,共通電極間に電界を発生させ、この電界強度を変化させることにより等方性液晶層の光学特性を制御するものである。ここで、等方性液晶は電圧無印加時に光学的に等方であり、電圧印加により電圧印加方向に複屈折性を誘起する。この性質から、等方性液晶の透過率を制御する為には、上下偏光板をクロスニコルに配置し、液晶パネルの面内方向(横方向)の電界を印加することが必要となる。従って等方性液晶を用いた液晶パネルでは、基本的にはIPS方式の電極構造が適しているといえる。しかしこの構成では、電極上にはパネル面内方向の電界は生じないため、電極上は透過に寄与しない。等方性液晶を用いて良好な表示を行うためには、通常IPS方式の電極構造を改良し、パネル面に対して平行な電界をより発生する素子の構成としなければならない。
【0011】
このような観点から、等方性液晶に適したデバイス構造を図1,図2に示す。
【0012】
図1は表示素子内の画素群の構成の一例を示したものである。映像信号線DLの映像信号はゲート信号線GLにより制御された薄膜トランジスタTFTを介して画素電極PXに供給される。この画素電極PXと共通電極CTおよび後述の電極CT2の間に電界を形成し等方性液晶層を駆動することで表示を行う。
【0013】
図2は図1のA−A′の線でとった断面図を表している。カラーフィルタCFを有する上側の基板SUB2には、ブラックマトリクスBMが配置され不要な光漏れを遮断している。またカラーフィルタCFは横方向で隣接する画素同士では色の異なるものとなるため、それぞれ別の色となっている。カラーフィルターCF、ブラックマトリクスBM上には、平坦化のためのオーバーコート膜OCが塗布され、さらにその上には、電極CT2を形成されている。
【0014】
一方下側の基板SUB1は各画素において、くし歯状に形成された共通電極CT、画素電極PXを有する。共通電極CTと画素電極PX間には絶縁膜GIが設けられ、画素ごとの共通電極CTの間に対応するように映像信号線DLが設けられる。更にこの映像信号線上には保護膜PASが設けられ、その上に画素電極PXが配置する。共通電極CT、画素電極PXは例えばITOのような透明電極で形成されている。また、一対の基板SUB1,SUB2のそれぞれは、偏光板PL1,PL2を有し、かつ偏光板PL1と偏光板PL2の透過軸は互いに直交ニコルとなるように配置されている。
【0015】
電極CT2は、共通電極CT、画素電極PXのいずれかと同じ電位となるように駆動する。以降は特に断りの無い限り電極CT2は共通電極CTと同電位であるとして説明をするが、回路構成やプロセスの制約のない限り、画素電極PXと同電位として駆動しても良い。
【0016】
この構成により電圧無印加時においては、等方性液晶層が等方的であるために黒表示となる。また電圧印加時においては、共通電極CT−画素電極PX間および共通電極上にパネル面平行に電圧印加方向の複屈折性が誘起されるので、白表示となる。また電極CT2と同電位とした共通電極CTもしくは画素電極PXのいずれかの電極上には、パネル面に平行な電気力線が形成され複屈折性が生じるため、これらいずれかの電極上も白表示の際に透過に寄与することとなる。
【0017】
なお、本発明において、ガラス基板上に形成される電極の構造は、画素電極PX及び共通電極CTのいずれか一方が、櫛歯状であることを特徴としており、いずれか一方が平板状に形成された構成であっても良い。
【0018】
以下、本発明の実施例を具体的に説明する。
【実施例1】
【0019】
図1は本発明の第1実施例を示す表示装置の画素部分の平面構成を示す図である。また図2は画素部分の断面構成を示す図である。その製法は本発明の骨子には関係しないので詳細は省略するが、以下記述にしたがって表示装置を作成した。
【0020】
基板のうち一方の基板SUB1上に、薄膜トランジスタTFTおよび配線電極SL,GLを形成した。
【0021】
画素の表示領域においては、基板SUB1上層に電極CTを、ITO(インジウムチンオキサイド)からなる透明導電層としてくし歯状に形成し、さらにその上層に窒化シリコンもしくは有機物からなる絶縁層PCILを形成した。本実施例では、ITOからなるくし歯状の電極CTおよび絶縁層PCILの膜厚は、それぞれ77nmおよび500nmとした。
【0022】
次に、図2のように絶縁層PCILの上に、くし歯状の電極PXを膜厚77nmのITO電極層として形成した。このとき電極PX、CT間の距離は10.0μmとした。
【0023】
他方の基板SUB1には、ブラックマトリクスBM、カラーフィルタCFGなどを形成した後、オーバーコート膜OCを塗布、焼成したのちに電極CT2を膜厚77nmのITO電極層として形成した。
【0024】
これらの2枚の基板を、スペーサーと周辺部のシール剤とを介在させセルを組み立てた。
【0025】
さらにこのセルに後述の光学的に等方性を示す媒体を真空で封入し、紫外線硬化型樹脂からなる封止剤で封止してパネルを製作した。
【0026】
この時光学的に等方な媒体の層LCの厚み(ギャップ)は、ギャップd、画素電極PX・共通電極CT間距離lの関係がd≧lとなるよう、上記のスペーサーにより、封入状態で13.0μmとなるように調節した。
【0027】
次に、このパネルを2枚の偏光板PL1,PL2(日東電工社製SEG1224DU)で挟み、一方の偏光板の偏光透過軸を他方のそれに直交させるように配置した。電気力線EFLの面内方向の角度に対して偏光板PL1,PL2の透過軸PT1、PT2の方向が45度をなすようにした。
【0028】
次に、上記くし歯状の電極CT、PXおよび電極CT2に交流駆動電圧ACVが加わるように駆動回路を接続、その後、バックライトなどを接続したモジュール化し、表示装置を得た。
【0029】
基板間に挟持される光学等方性を示す媒体としては、非特許文献4に記載される、チッソ社製液晶材料JC1041XX,アルドリッチ社製液晶材料4-cyano-4’-pentylbiphenyl(5CB)とメルク社製カイラル剤ZLI−4572からなる液晶組成物のように、光学等方的なブルー相を発現する液晶材料を用いたが、この材料以外にも電圧無印加時には光学等方的な特性であって、電圧印加時に光学的に異方性を示す媒体であれば、同様に用いても良い。たとえば非特許文献3に記載されるベントコア形状の分子を垂直配向膜で配向させたものでも良い。この場合には、液晶層と基板の間に配向膜を形成する必要があるが、本発明においては、配向膜の種類や配向処理の方法はなんら規定されるものではない。
【0030】
この得られた表示装置を駆動した結果、高透過率の表示装置を得ることが出来た。この駆動している表示装置の画素を観察した結果、画素電極PXと共通電極CT間及び、共通電極CT上の一部も光が透過しており、高透過率である理由が、共通電極CT上においても表示に寄与している効果であることを確認した。
【0031】
図3は本実施例で実施の画素構造を模擬した電界シミュレーションである。この図において画素電極PXと共通電極CT、CT2の間に生じる等電位線を垂直に横切るように電気力線EFLが形成される。これによると、画素電極PXと共通電極CTの間には基板SUB1に対してほぼ平行な電気力線が生じる事が判った。本発明で用いる光学的に等方性の媒体は、電気力線が生じた方向に複屈折が生じることから、この電気力線にそって生じた複屈折性が生じた箇所のみ、光が透過することになる。したがって、画素電極PXと共通電極CTの間は、生じる複屈折性の大きさに従って透過光強度が変化するので、表示装置として利用することが出来る。また画素電極PX上において、基板SUB1の面に対してほぼ平行な電気力線がほとんど生じていないが、共通電極CT上には平行な電気力線が生じている。このことから、本発明の構成のように共通電極CTにITOからなる透明な電極を用いることにより透過率の向上を図ることができる。
【比較例1】
【0032】
実施例1に実施した表示装置において、画素電極PX−共通電極CT間距離l、セルギャップdの関係がd<lとなる関係として、l=10.0μm、d=4μmとなるように表示装置を形成した。
【0033】
この表示装置を駆動した結果、実施例1での表示装置と比べて透過率が低下した。
【比較例2】
【0034】
図4は比較例として用いた表示装置の断面を模式的に示した図である。実施例1において基板SUB2上に形成したCT2が無い以外は、同様の装置構成であり、その作成方法は実施例1に示したとおりとした。
【0035】
この表示装置を駆動した結果、実施例1での表示装置と比べて透過率が低下した。図5は、比較例1に実施した表示装置の画素構造を模擬した電界シミュレータの結果である。この図において、画素電極PXと共通電極CTの間には基板SUB1に対してほぼ平行な電気力線が生じる事が、画素電極PX、共通電極CT上においては、基板SUB1の面に対してほぼ平行な電気力線がほとんど生じていないことが明らかとなった。
【実施例2】
【0036】
図6は第二の発明を適用した表示装置の断面を模式的に示した図である。実施例1に実施の表示装置においては、SUB2上に電極CT2を一様に形成したが、本実施例では、画素電極PXの直上に位置する部分をドライエッチングによりITOからなる電極CT2を除去して、スリットを形成した。このときスリットの幅は、画素電極PXと同じ幅とした。また図1に示すとおり画素電極PXは、屈曲した構造であるので、スリットの構造も同様に屈曲するように形成した。また電極CT2にこのスリットを形成した以外は、同様な作成条件、画素構成で表示装置を作成した。
【0037】
この得られた表示装置を駆動した結果、良好な表示を示した。また駆動している表示装置の画素を観察した結果、画素電極PXと共通電極CT間及び、共通電極CT上の一部も光が透過しており、高透過率である理由が、共通電極CT上においても表示に寄与している効果であることを確認した。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の表示装置の画素の平面構造を示す図である。
【図2】本発明の表示装置の画素構造を示す断面図である。
【図3】本発明の表示装置の画素における電界シミュレーションの結果を示す図である。
【図4】第二比較例に実施の表示装置の画素構造を示す断面図である。
【図5】第二比較例に実施の表示装置の画素における電界シミュレーションの結果を示す図である。
【図6】第二実施例に実施の表示装置の画素構造を示す断面図である。
【符号の説明】
【0039】
PL1…………第一の偏光板
PL2…………第二の偏光板
SUB1………第一の基板
SUB2………第二の基板
OC……………平坦化層
LC……………光学的に等方性な媒体が挟持される層
PCIL………層間絶縁膜
CT……………共通電極
PX……………画素電極
CT2…………電極
BM……………ブラックマトリクス
CFR…………カラーフィルタ(赤)
CFG…………カラーフィルタ(緑)
EFL…………電気力線
GL……………走査配線
DL……………ドレイン配線
GI……………ゲート絶縁膜
TFT…………アクティブ素子
PT1…………第一の偏光板の透過軸方向
PT2…………第二の偏光板の透過軸方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の基板間に、電圧無印加時に光学的等方性で、電圧印加時に光学的異方性を生じる媒体を挟持し、少なくとも一方の基板上の他方の基板と相対する面上に、画素電極と共通電極のいずれか一方がくし歯状に形成される表示装置において、他方の基板上の相対する面上に面状の電極を形成し、該面状の電極は前記画素電極もしくは共通電極のいずれかと同電位の電圧を印加し、液晶層厚dと上記くし歯状に形成される電極の電極間隔lの関係がd≧lであることを特徴とした表示装置。
【請求項2】
前記、他方の基板上に形成される面状の電極は、スリットが形成され部分的に電界が生じない領域があることを特徴とした表示装置。
【請求項3】
前記、スリットは、面状の電極と電位が異なる電極上に形成されることを特徴とした表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−210695(P2009−210695A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−51912(P2008−51912)
【出願日】平成20年3月3日(2008.3.3)
【出願人】(502356528)株式会社 日立ディスプレイズ (2,552)
【Fターム(参考)】