表示装置
【課題】発光素子の劣化に伴う発光強度の変化を補償する。
【解決手段】駆動素子T1は、発光素子ELの目標輝度を示すデータ信号に応じて、前記発光素子に供給する駆動電流を制御し、発光素子ELは、流れる電流に応じて発光する。そして、発光素子ELの両端に掛かる電圧に応じて、データ信号が補正され、発光素子ELに供給される駆動電流が、発光素子ELの電圧降下量の増加に伴い増加するように補正される。
【解決手段】駆動素子T1は、発光素子ELの目標輝度を示すデータ信号に応じて、前記発光素子に供給する駆動電流を制御し、発光素子ELは、流れる電流に応じて発光する。そして、発光素子ELの両端に掛かる電圧に応じて、データ信号が補正され、発光素子ELに供給される駆動電流が、発光素子ELの電圧降下量の増加に伴い増加するように補正される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自発光素子を用いた表示装置と、その駆動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機ELディスプレイの開発が盛んに行われ、進歩が著しい。有機ELのような自発光素子を用いた表示装置は、画素ごとに発光を制御できるため、コントラストや視野角特性に優れる。映像表示用途などでは、平均表示階調が低いため消費電力を低減できるメリットもある。一方で、発光素子の特性自体が使用に伴い劣化すると、画素ごとの使用履歴に従って輝度低下が起こる。表示画像や用途によっては、特定のパターンで輝度低下が起こり、それが「焼き付き」として知覚されることがある。
【0003】
発光素子として有機EL素子を用いる場合、発光強度は素子に流れる電流に比例する。発光強度と素子電流の比は電流発光効率と呼ばれる。電流発光効率は本来、発光素子を構成する有機材料や素子構造、界面状態などにより決まり、表示領域全体に渡って一様である。したがって、均一な表示特性を得ようとする場合、発光素子に供給する電流を画素単位で均一になるよう制御すればよい。アクティブマトリクス方式の有機ELディスプレイでは、画素ごとに設けられているTFT素子により電流を制御し、有機EL素子を駆動する。TFT素子としては、一般的に低温多結晶シリコンTFTなどが用いられる。
【0004】
低温多結晶シリコンTFTの特徴として、結晶粒界における伝導電子散乱のため、移動度やターンオン電圧が画素ごとにばらつくという問題がある。このため、移動度やターンオン電圧のばらつきを抑えたり、補正したりすることで、均一な画素電流を供給し、均一な表示特性を得る努力がなされてきた。例えば、特許文献1には、多結晶シリコンの結晶成長方向を制御し、結晶粒の形を揃える技術が記載されている。また、画素回路に駆動TFTのしきい値電圧をオフセットさせる機能を持たせ、TFTのしきい値電圧のばらつきに起因する表示特性のばらつきを改善する技術も多数考案されている。例えば、特許文献2などである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−217214号公報
【特許文献2】特開2008−203387号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】M.E.Kondakova et al., SID 09 DIGEST,p1677
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、上記従来技術は、有機ELの電流発光効率の面内均一性が保たれていることを前提としている。しかしながら、実際には、有機EL素子自体は使用とともに劣化し電流発光効率が低下する。画素ごとの使用履歴の違いを反映して、電流発光効率は画素ごとに異なる速さで低下することになる。表示装置の用途や表示される画像などにより、有機EL素子の劣化速度の差が無視できない程度になると、その差が表示輝度ムラや焼き付きとして視認される。通常、有機ELディスプレイの装置寿命は輝度半減寿命で規定されるが、輝度ムラや焼き付きは数%の輝度差で許容限界に達するため、有機EL素子の効率低下は装置寿命を著しく損なう原因となる。そこで、有機EL素子の電流効率の低下に起因する表示輝度低下を補償したいという要望がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、複数の画素をマトリクス状に配し、各画素を駆動回路により駆動する表示装置であって、各画素は、流れる電流に応じて発光する発光素子と、この発光素子の目標輝度を示すデータ信号に応じて、前記発光素子に供給する駆動電流を制御する駆動素子と、を含み、前記駆動回路は、前記発光素子の両端に掛かる発光素子電圧に応じて、前記駆動素子に供給する前記データ信号を補正する補正手段を有し、前記補正手段により、前記データ信号に対応して前記発光素子に供給される駆動電流が、前記発光素子の電圧降下量の増加に伴い増加するように補正されることを特徴とする。
【0009】
また、前記駆動素子はトランジスタであって、前記補正手段によって、前記データ信号と前記発光素子電圧に比例、または正の相関を持つ電圧を前記駆動素子に印加することが好適である。
【0010】
また、前記補正手段が、前記データ信号と前記発光素子電圧を入力とする乗算回路を含むことが好適である。
【0011】
また、前記補正手段に含まれる前記乗算回路は、ソース電極とゲート電極を入力、ドレイン電極を出力とする、トランジスタ素子1個で構成されることが好適である。
【0012】
また、画素内に配した前記補正手段に加え、画素内に、前記駆動素子のゲートに印加する制御電圧を前記発光素子の駆動電圧変動分オフセットする手段を有することが好適である。
【発明の効果】
【0013】
このように、本発明によれば、データ信号が発光素子の駆動電圧(ターンオン電圧)の変化に応じて補正されるため、発光素子の劣化によりデータ信号による駆動電流の減少を補償することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施形態1の画素回路の構成を示す図である。
【図2】実施形態1の駆動波形図である。
【図3】実施形態2の画素回路の構成を示す図である。
【図4】実施形態2の駆動波形図である。
【図5A】有機EL素子の低電流発光輝度と素子電圧の関係を示す図である。
【図5B】有機EL素子の低電流発光輝度と素子電圧の関係を示す図である。
【図6】実施形態2の回路の画素電流シミュレーション例を示す図である。
【図7A】実施形態2の回路による画素機度補償計算例を示す図である。
【図7B】実施形態2の回路による画素機度補償計算例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について、図面に基づいて説明する。
【0016】
「電流効率の低下についての検討」
有機EL素子は使用に伴い素子特性が劣化する。通常、劣化により素子の電流発光効率が低下し、素子駆動電圧が上昇する。電流発光効率の低下の原因は完全には解明されていないが、発光材料の変質による非発光再結合中心の生成が発光効率を低下させ、駆動電圧を上昇させる一因となっていることがわかっている(非特許文献1)。この非特許文献1によると、有機EL素子の駆動電圧の上昇と電流発光効率の低下には強い相関がある。このため、駆動電圧の上昇から、有機EL素子の発光特性の劣化を推測することができる。すなわち、発光効率の低下と駆動電圧(容量遷移電圧)の上昇はほぼ線形で、しかも、温度にほとんど依存しない。ここで、容量遷移電圧は有機層中にキャリヤが励起され有機EL素子の容量の変化が観察される電圧である。非特許文献1によると、容量遷移電圧の上昇は深い順位の非発光再結合中心の生成で説明できる。
【0017】
このため、再結合中心はトラップとして機能し、有機EL素子のIV特性は単純に電圧の正の方向にシフトする。これを利用すると、有機EL素子の劣化を比較的単純な方法で補償することができる。容量遷移電圧は、電圧の印加に伴い素子内にキャリヤが増加し始める電圧であるから、IV特性上、巨視的には素子のターンオン電圧に対応する。容量遷移電圧の上昇は、素子のターンオン電圧の上昇として観察され、素子駆動電圧全体がターンオン電圧の上昇に伴い上昇する。
【0018】
「電流効率低下についての補償」
有機EL素子からの発光強度Lは素子の駆動電流Idに比例する。電流発光効率をηとして、
L=η・Id (1)
となる。
【0019】
有機EL素子の駆動電圧上昇をΔvoledとし、これが素子の電流発光効率の低下Δηに比例すると仮定すると、
Δη=κΔvoled (2)
と表せる。ただし、κは温度に依らない定数である。
【0020】
一方、TFT素子から供給される駆動電流Idは、
Id=(β/2)(Vg−Vth)2 (3)
である。ただし、βは相互コンダクタンス、Vg,Vthは駆動TFTのゲート・ソース間電圧およびしきい値電圧である。
【0021】
駆動TFTのゲート・ソース間電圧Vgとして、表示データ信号電圧Vdatと有機EL素子の駆動電圧V0に比例する電圧を印加すると、
Vg=Vdat(aV0+b) (4)
となる。ここで、駆動電圧V0は、上述のように有機EL素子のターンオン電圧とすることができ、以下駆動電圧V0をターンオン電圧V0とする。
【0022】
これは、回路上は、VdatとV0の乗算出力と、Vdatを加算することで実現できる。ただし、a,bは乗算回路と加算回路の設計により決まる定数である。
【0023】
ここで、有機EL素子の駆動電圧が素子の劣化にともないΔν変化したとすると、Vgは、
Vg=Vdat{aV00(1+Δν)+b} (5)
となる。ただし、V00は有機EL素子の劣化前の有機EL素子駆動電圧値である。
【0024】
Δνは1に比べ十分小さいと考えてよいので、式(1),(3),(5)より、発光強度Lは、
L≒(β/2)Vdat2・ξ2(1−Δη)(1+λΔV0)
となる。
【0025】
ただし、ξ,λは、
ξ=aV00+b
λ=(2aV00)/(aV00+b)
である。
【0026】
ここで、κ=λとなるようにV0を決めると、式(5)は、
L≒(β/2)Vdat2・ξ2
となり、有機EL素子からの発光強度Lは、素子の発光効率の低下に依らずほぼ一定となる。
【0027】
従って、駆動TFTのゲート・ソース間電圧Vgとして、式(4)に示されるような、表示データ信号電圧Vdatと有機EL素子のターンオン電圧V0に比例する電圧を印加し、定数bを適切に設定することで、発光強度が発光効率ηの影響を受けないようにすることができることがわかる。
【0028】
「実施形態1」
図1は、実施形態1の1画素分の回路図である。駆動トランジスタT1、書込みトランジスタT2、乗算器として機能するトランジスタT3、T3の乗算器入力を制御するトランジスタT4と、保持容量Csと、有機EL素子ELと、から構成される。
【0029】
駆動トランジスタT1のドレインは高電圧Vddの電源1に、ソースは有機EL素子ELのアノードに接続され、有機EL素子ELのカソードは低電圧Vssの電源2に接続される。これによって、駆動トランジスタT1に流れる駆動電流が有機EL素子ELに電流に供給される。保持容量Csは、駆動トランジスタT1のゲート・ソース間に接続される。
【0030】
トランジスタT2のソースはデータ線datに、ドレインはトランジスタT3のソースに接続されている。また、トランジスタT3のドレインは、駆動トランジスタT1のゲートに接続され、ゲートはトランジスタT4を介して有機EL素子ELのアノードに接続されている。
【0031】
トランジスタT2のゲートは選択制御線sel、トランジスタT4のゲートはマージ制御線mrgに接続され、これら線の印加される電圧により制御される。データ線datには、表示データ電圧Vdatと一定電圧Vblkが交互にロードされる。ここで、電圧Vblkは駆動トランジスタT1を非導通状態にする一定電圧である。
【0032】
図2は、実施形態1の回路の各所の信号波形であり、これを参照して、この回路の駆動方法について説明する。図2において、「dat」は、データ線datの信号の状態を示しており、白抜きの期間がデータ電圧であるVdatと、黒塗りの期間が所定の低電圧であるVblkとが交互に印加される。図2における選択制御線selが立ち上げられるタイミングからの動作について以下に説明する。なお、これ以前は、当該画素は、保持容量Csに保持されている電圧Vgs1に応じて駆動トランジスタT1に流れる電流によって有機EL素子ELが駆動されている。
【0033】
データ線datの電圧が、所定の高電圧であるVdatに設定している状態で、選択制御線selをHレベルにするとともに、マージ制御mrgもHレベルとする。これによって、トランジスタT2,T4がオンする。このとき、トランジスタT3のゲートは、有機EL素子ELのアノードに接続されている。有機EL素子ELのアノードは、カソード電位であるVss(例えば、0V)に対し、有機EL素子ELでの電圧降下分である、Voledだけ高い電圧になっている。従って、トランジスタT3もオンしている。
【0034】
次に、データ線の電圧が、所定の低電圧であるVblkに設定され、駆動トランジスタT1のゲート(ノードna)には、データ線datからVblkが供給される。Vblkは、低電圧であるため、駆動トランジスタT1はオフし、有機EL素子ELのアノード(ノードnb)の電位は下降して、有機EL素子ELのターンオン電圧V0に漸近する。これによって、トランジスタT4を介してV0がトランジスタT3のゲートに保持される。この段階で、保持容量Csには、V0−Vblkが保持される。また、V0は、Vblkより高電圧であり、トランジスタT3はオン状態に保持される。
【0035】
次に、マージ制御線mrgがLレベルとしてトランジスタT4をオフにする。そして、データ線datを信号電圧Vdatとする。このとき、T3のゲートには、有機EL素子ELのターンオン電圧V0が印加されており、ドレインには信号電圧Vdatが印加されることになる。
【0036】
トランジスタT3を線形領域で動作させると、トランジスタT3を流れる電流I3はトランジスタT3のVgs3(V0に比例する)とVds3にほぼ比例する。すなわち、V0とVdatを乗算した値に応じた電流がトランジスタT3に流れ、この電流によって、駆動トランジスタT1のゲート電圧が上昇し、駆動トランジスタT1に電流が流れ、有機EL素子ELが発光する。
【0037】
この時の電流量は、駆動トランジスタT1のゲート・ソース間電圧Vgs1に応じて決定されるが、上述のように、駆動トランジスタT1のゲート電圧は、そのときのV0に比例することになる。
【0038】
すなわち、Vgs=Vdat*(aVo+b)に設定される。
【0039】
なお、図2においては、データ電圧Vdatは、一定電圧と仮定しており、従って上述のようなデータ電圧Vdatの書き込み前後において、すべて同一の電圧に復帰する。実際は、データ電圧Vdatは任意の値を取り得るが、本実施形態の説明については同様であるので、省略する。
【0040】
このように、本実施形態の回路によれば、トランジスタT2がオフされた時の駆動トランジスタT1のゲート・ソース間電圧(=保持容量Csの充電電圧)は、トランジスタT3のゲート電圧であるV0とドレイン電圧であるVdatを乗算した値に対応する電圧になる。なお、トランジスタT4がオフであるため、トランジスタT3のゲートngの電圧は、ソース電圧がVblkからVdatに変化するに従って上昇し、トランジスタT3はオン状態を維持する。
【0041】
すなわち、トランジスタT1のVgs1として、V0およびVdatに比例する(V0およびVdatを乗算した電圧に対応する)電圧が印加される。従って、有機EL素子ELの劣化に伴いV0が増加すると、同じ信号電圧入力Vdatに対して有機EL素子ELに供給される電流が増加し、有機EL素子ELの発光効率の劣化分を補償する。
【0042】
本実施形態では、画素回路は、有機EL素子の発光効率の低下と駆動電圧の上昇のみ補償する。すなわち、駆動TFTの特性ばらつきや、使用に伴うTFTの劣化は無視できる程度であることが好ましい。例えば、プロセスの最適化などにより面内均一性が十分に取れている多結晶シリコンTFT基板や、面内均一性が良好で、駆動TFTの劣化が小さい微結晶シリコンTFT基板、酸化物TFT基板などでの応用が好適である。
【0043】
「実施形態2」
図3は、本発明の実施形態2の回路図である。実施形態2の回路はさらに一般的な応用を考えて、有機EL素子の発光効率劣化補償に加えて、駆動TFTのしきい値電圧補償機能を持たせた例である。実施形態1の回路に加え、発光制御トランジスタT5、および、リセットトランジスタT6を加えた6トランジスタ・1容量により構成される。
【0044】
トランジスタT5は、電源1と駆動トランジスタT1の間に直列に挿入され、駆動電流のオンオフを行い、発光期間を制御する。トランジスタT6は有機EL素子ELのアノード電圧をリセットするため、有機EL素子ELのアノードと電圧Vss2の電源3の間に配置される。
【0045】
図4に実施形態2の回路の駆動電圧波形を示す。まず、マージ制御線mrgをHレベルにしてトランジスタT4を導通する。このとき、トランジスタT5,T6を非導通、トランジスタT2を導通にしてデータ線から一定電圧Vblkを書き込む。Vblkは低電圧であり、有機EL素子ELのアノード(nb)の電位は有機EL素子ELのターンオン電圧V0付近にセットされる。このとき、トランジスタT4が導通状態のため、トランジスタT3のゲートにV0が保持される。
【0046】
さらに、トランジスタT4を非道通状態とし、トランジスタT6を導通させ有機EL素子ELのアノードを所定の低電圧Vss2である電源3に接続し、有機EL素子ELのアノードをVss2にリセットする。これにより、有機EL素子ELの電圧はV0以下となる。ここで、トランジスタT6を非導通とし、トランジスタT1のゲートに一定電圧Vblkを書込み、トランジスタT5を導通させると、有機EL素子ELに電流が流れることで、そのアノード電位が上昇し、Vblk−Vthとなったところ(トランジスタT1のゲート/ソース間電圧がそのしきい値電圧Vthに一致したところ)でT1が非道通となる。
【0047】
次に、データ線datから所望の信号電圧Vdatを書き込む。このとき、トランジスタT3のゲートには有機EL素子ELのターンオン電圧V0が、ドレインには信号電圧Vdatが印加される。
【0048】
トランジスタT3を線形領域で動作させると、トランジスタT3を流れる電流I3はトランジスタT3のVgs(Vgs2)とVdsにほぼ比例する。一定時間の後にトランジスタT2をオフにすると、保持容量CsのトランジスタT1のゲート側の端子にはトランジスタT3のゲート電圧Vgs2とドレイン電圧Vdatに比例する電圧にVblkを加えた電位が保持される。
【0049】
一方、保持容量Csの他方の端子はトランジスタT1のソースと有機EL素子ELのアノードに接続されており、Vgblk−Vthが保持されている。すなわち、T1のVgs(Vgs1)として、V0とVdatに比例する電圧(Vdat*(aVo+b)+Vblk)にVthを加えた電圧が印加される。
【0050】
このように、実施形態2では、トランジスタT1のゲート・ソース間電圧Vgs1はVth分オフセットされるため、画素電流はトランジスタT1のしきい値電圧Vthの変化に依らない。また、トランジスタT1のゲート・ソース間電圧Vgs1はV0とVdatに比例するため、ELの劣化に伴いV0が上昇すると画素電流が増加し、V0の上昇と線形の関係にあるELの効率低下を補償する。
【0051】
以下、本実施形態2の画素回路を例にその効果を説明する。有機EL素子の劣化特性は、例として非特許文献1のデータを引用し、画素電流は回路シミュレーターによる計算で求めた。
【0052】
図5A,5Bは非特許文献3から引用した有機EL素子の輝度と容量遷移電圧の関係である。有機EL素子を様々な温度下で駆動して劣化させた後、室温下で定電流駆動したときの輝度の相対値と容量遷移電圧の上昇を測定し、プロットしている。定電流駆動したときの輝度の相対変化は、その電流密度における電流発光効率の相対変化と同じになる。
【0053】
また、前述のとおり、素子の容量遷移電圧の変化は素子の駆動電圧(素子のターンオン電位に対応する電圧)変化と同じになる。図5Aは、有機EL素子として、NPB,C545TドープAlq,Alqを積層したものを用い、様々な温度で素子を駆動し劣化させた場合の測定結果であり、図5Bは、発光層に赤色ドーパントRD3もしくは、DCJTBを添加し、65℃で劣化させたときの測定結果である。
【0054】
図6は、実施形態2の回路で、駆動トランジスタT1のしきい値電圧Vthを0〜2Vの範囲で、有機EL素子のターンオン電圧V0を0〜1Vの範囲で、それぞれ変化させたときの、画素電流のシミュレーション結果である。画素電流は駆動トランジスタT1のVthの変化にはほとんど依らない一方、有機EL素子の駆動電圧(ターンオン電圧)の上昇に伴いほぼ線形に増加していることがわかる。
【0055】
有機EL素子として図5A,5Bに示す素子を仮定し、図6の結果を用いて、有機EL素子の劣化に対する画素輝度の変化を計算する。図7A,7Bは、駆動トランジスタT1のVthをパラメータとして、有機EL素子のターンオン電圧が0V,0.5V,1Vと変化したときの、画素輝度の相対変化を示している。
【0056】
図7Aは有機EL素子の劣化特性として図5Aに示す素子を仮定している。図7Aを見ると、有機EL素子のターンオン電圧が0Vから0.5Vの範囲では、Vthの変化に対する画素輝度の相対値にはあまり差が無く、Vthの変化は0Vから2Vの範囲で良好に補償されることがわかる。
【0057】
一方、有機EL素子のターンオンに対する画素輝度の相対値はターンオン電圧が0Vから0.5Vまではほぼ変化が無く、ターンオン電圧が1Vでやや減少するものの、元の有機EL素子のターンオン電圧変化1Vのときの定電流発光輝度相対値約75%(図5A)と比較すると大幅に改善されていることがわかる。
【0058】
図5Bの有機EL素子に対して計算した図7Bでは、その効果はさらに良好で、25%程度の有機EL素子の劣化(図5Bで有機EL素子ターンオン電圧変化1Vのとき)にも関わらず、画素輝度の相対値はほぼ初期値を保っている。
【0059】
以上の結果から、実施形態2による補償回路を適当に設計することにより、駆動トランジスタ(TFT)のVthシフトのみならず、有機EL素子の駆動電圧(ターンオン電圧)変化および、発光効率劣化も補償することができることがわかる。
【符号の説明】
【0060】
1〜3 電源、T1 駆動トランジスタ、T2〜T4 トランジスタ、T5 発光制御トランジスタ、T6 リセットトランジスタ、Cs 保持容量。
【技術分野】
【0001】
本発明は、自発光素子を用いた表示装置と、その駆動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機ELディスプレイの開発が盛んに行われ、進歩が著しい。有機ELのような自発光素子を用いた表示装置は、画素ごとに発光を制御できるため、コントラストや視野角特性に優れる。映像表示用途などでは、平均表示階調が低いため消費電力を低減できるメリットもある。一方で、発光素子の特性自体が使用に伴い劣化すると、画素ごとの使用履歴に従って輝度低下が起こる。表示画像や用途によっては、特定のパターンで輝度低下が起こり、それが「焼き付き」として知覚されることがある。
【0003】
発光素子として有機EL素子を用いる場合、発光強度は素子に流れる電流に比例する。発光強度と素子電流の比は電流発光効率と呼ばれる。電流発光効率は本来、発光素子を構成する有機材料や素子構造、界面状態などにより決まり、表示領域全体に渡って一様である。したがって、均一な表示特性を得ようとする場合、発光素子に供給する電流を画素単位で均一になるよう制御すればよい。アクティブマトリクス方式の有機ELディスプレイでは、画素ごとに設けられているTFT素子により電流を制御し、有機EL素子を駆動する。TFT素子としては、一般的に低温多結晶シリコンTFTなどが用いられる。
【0004】
低温多結晶シリコンTFTの特徴として、結晶粒界における伝導電子散乱のため、移動度やターンオン電圧が画素ごとにばらつくという問題がある。このため、移動度やターンオン電圧のばらつきを抑えたり、補正したりすることで、均一な画素電流を供給し、均一な表示特性を得る努力がなされてきた。例えば、特許文献1には、多結晶シリコンの結晶成長方向を制御し、結晶粒の形を揃える技術が記載されている。また、画素回路に駆動TFTのしきい値電圧をオフセットさせる機能を持たせ、TFTのしきい値電圧のばらつきに起因する表示特性のばらつきを改善する技術も多数考案されている。例えば、特許文献2などである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−217214号公報
【特許文献2】特開2008−203387号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】M.E.Kondakova et al., SID 09 DIGEST,p1677
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、上記従来技術は、有機ELの電流発光効率の面内均一性が保たれていることを前提としている。しかしながら、実際には、有機EL素子自体は使用とともに劣化し電流発光効率が低下する。画素ごとの使用履歴の違いを反映して、電流発光効率は画素ごとに異なる速さで低下することになる。表示装置の用途や表示される画像などにより、有機EL素子の劣化速度の差が無視できない程度になると、その差が表示輝度ムラや焼き付きとして視認される。通常、有機ELディスプレイの装置寿命は輝度半減寿命で規定されるが、輝度ムラや焼き付きは数%の輝度差で許容限界に達するため、有機EL素子の効率低下は装置寿命を著しく損なう原因となる。そこで、有機EL素子の電流効率の低下に起因する表示輝度低下を補償したいという要望がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、複数の画素をマトリクス状に配し、各画素を駆動回路により駆動する表示装置であって、各画素は、流れる電流に応じて発光する発光素子と、この発光素子の目標輝度を示すデータ信号に応じて、前記発光素子に供給する駆動電流を制御する駆動素子と、を含み、前記駆動回路は、前記発光素子の両端に掛かる発光素子電圧に応じて、前記駆動素子に供給する前記データ信号を補正する補正手段を有し、前記補正手段により、前記データ信号に対応して前記発光素子に供給される駆動電流が、前記発光素子の電圧降下量の増加に伴い増加するように補正されることを特徴とする。
【0009】
また、前記駆動素子はトランジスタであって、前記補正手段によって、前記データ信号と前記発光素子電圧に比例、または正の相関を持つ電圧を前記駆動素子に印加することが好適である。
【0010】
また、前記補正手段が、前記データ信号と前記発光素子電圧を入力とする乗算回路を含むことが好適である。
【0011】
また、前記補正手段に含まれる前記乗算回路は、ソース電極とゲート電極を入力、ドレイン電極を出力とする、トランジスタ素子1個で構成されることが好適である。
【0012】
また、画素内に配した前記補正手段に加え、画素内に、前記駆動素子のゲートに印加する制御電圧を前記発光素子の駆動電圧変動分オフセットする手段を有することが好適である。
【発明の効果】
【0013】
このように、本発明によれば、データ信号が発光素子の駆動電圧(ターンオン電圧)の変化に応じて補正されるため、発光素子の劣化によりデータ信号による駆動電流の減少を補償することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施形態1の画素回路の構成を示す図である。
【図2】実施形態1の駆動波形図である。
【図3】実施形態2の画素回路の構成を示す図である。
【図4】実施形態2の駆動波形図である。
【図5A】有機EL素子の低電流発光輝度と素子電圧の関係を示す図である。
【図5B】有機EL素子の低電流発光輝度と素子電圧の関係を示す図である。
【図6】実施形態2の回路の画素電流シミュレーション例を示す図である。
【図7A】実施形態2の回路による画素機度補償計算例を示す図である。
【図7B】実施形態2の回路による画素機度補償計算例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について、図面に基づいて説明する。
【0016】
「電流効率の低下についての検討」
有機EL素子は使用に伴い素子特性が劣化する。通常、劣化により素子の電流発光効率が低下し、素子駆動電圧が上昇する。電流発光効率の低下の原因は完全には解明されていないが、発光材料の変質による非発光再結合中心の生成が発光効率を低下させ、駆動電圧を上昇させる一因となっていることがわかっている(非特許文献1)。この非特許文献1によると、有機EL素子の駆動電圧の上昇と電流発光効率の低下には強い相関がある。このため、駆動電圧の上昇から、有機EL素子の発光特性の劣化を推測することができる。すなわち、発光効率の低下と駆動電圧(容量遷移電圧)の上昇はほぼ線形で、しかも、温度にほとんど依存しない。ここで、容量遷移電圧は有機層中にキャリヤが励起され有機EL素子の容量の変化が観察される電圧である。非特許文献1によると、容量遷移電圧の上昇は深い順位の非発光再結合中心の生成で説明できる。
【0017】
このため、再結合中心はトラップとして機能し、有機EL素子のIV特性は単純に電圧の正の方向にシフトする。これを利用すると、有機EL素子の劣化を比較的単純な方法で補償することができる。容量遷移電圧は、電圧の印加に伴い素子内にキャリヤが増加し始める電圧であるから、IV特性上、巨視的には素子のターンオン電圧に対応する。容量遷移電圧の上昇は、素子のターンオン電圧の上昇として観察され、素子駆動電圧全体がターンオン電圧の上昇に伴い上昇する。
【0018】
「電流効率低下についての補償」
有機EL素子からの発光強度Lは素子の駆動電流Idに比例する。電流発光効率をηとして、
L=η・Id (1)
となる。
【0019】
有機EL素子の駆動電圧上昇をΔvoledとし、これが素子の電流発光効率の低下Δηに比例すると仮定すると、
Δη=κΔvoled (2)
と表せる。ただし、κは温度に依らない定数である。
【0020】
一方、TFT素子から供給される駆動電流Idは、
Id=(β/2)(Vg−Vth)2 (3)
である。ただし、βは相互コンダクタンス、Vg,Vthは駆動TFTのゲート・ソース間電圧およびしきい値電圧である。
【0021】
駆動TFTのゲート・ソース間電圧Vgとして、表示データ信号電圧Vdatと有機EL素子の駆動電圧V0に比例する電圧を印加すると、
Vg=Vdat(aV0+b) (4)
となる。ここで、駆動電圧V0は、上述のように有機EL素子のターンオン電圧とすることができ、以下駆動電圧V0をターンオン電圧V0とする。
【0022】
これは、回路上は、VdatとV0の乗算出力と、Vdatを加算することで実現できる。ただし、a,bは乗算回路と加算回路の設計により決まる定数である。
【0023】
ここで、有機EL素子の駆動電圧が素子の劣化にともないΔν変化したとすると、Vgは、
Vg=Vdat{aV00(1+Δν)+b} (5)
となる。ただし、V00は有機EL素子の劣化前の有機EL素子駆動電圧値である。
【0024】
Δνは1に比べ十分小さいと考えてよいので、式(1),(3),(5)より、発光強度Lは、
L≒(β/2)Vdat2・ξ2(1−Δη)(1+λΔV0)
となる。
【0025】
ただし、ξ,λは、
ξ=aV00+b
λ=(2aV00)/(aV00+b)
である。
【0026】
ここで、κ=λとなるようにV0を決めると、式(5)は、
L≒(β/2)Vdat2・ξ2
となり、有機EL素子からの発光強度Lは、素子の発光効率の低下に依らずほぼ一定となる。
【0027】
従って、駆動TFTのゲート・ソース間電圧Vgとして、式(4)に示されるような、表示データ信号電圧Vdatと有機EL素子のターンオン電圧V0に比例する電圧を印加し、定数bを適切に設定することで、発光強度が発光効率ηの影響を受けないようにすることができることがわかる。
【0028】
「実施形態1」
図1は、実施形態1の1画素分の回路図である。駆動トランジスタT1、書込みトランジスタT2、乗算器として機能するトランジスタT3、T3の乗算器入力を制御するトランジスタT4と、保持容量Csと、有機EL素子ELと、から構成される。
【0029】
駆動トランジスタT1のドレインは高電圧Vddの電源1に、ソースは有機EL素子ELのアノードに接続され、有機EL素子ELのカソードは低電圧Vssの電源2に接続される。これによって、駆動トランジスタT1に流れる駆動電流が有機EL素子ELに電流に供給される。保持容量Csは、駆動トランジスタT1のゲート・ソース間に接続される。
【0030】
トランジスタT2のソースはデータ線datに、ドレインはトランジスタT3のソースに接続されている。また、トランジスタT3のドレインは、駆動トランジスタT1のゲートに接続され、ゲートはトランジスタT4を介して有機EL素子ELのアノードに接続されている。
【0031】
トランジスタT2のゲートは選択制御線sel、トランジスタT4のゲートはマージ制御線mrgに接続され、これら線の印加される電圧により制御される。データ線datには、表示データ電圧Vdatと一定電圧Vblkが交互にロードされる。ここで、電圧Vblkは駆動トランジスタT1を非導通状態にする一定電圧である。
【0032】
図2は、実施形態1の回路の各所の信号波形であり、これを参照して、この回路の駆動方法について説明する。図2において、「dat」は、データ線datの信号の状態を示しており、白抜きの期間がデータ電圧であるVdatと、黒塗りの期間が所定の低電圧であるVblkとが交互に印加される。図2における選択制御線selが立ち上げられるタイミングからの動作について以下に説明する。なお、これ以前は、当該画素は、保持容量Csに保持されている電圧Vgs1に応じて駆動トランジスタT1に流れる電流によって有機EL素子ELが駆動されている。
【0033】
データ線datの電圧が、所定の高電圧であるVdatに設定している状態で、選択制御線selをHレベルにするとともに、マージ制御mrgもHレベルとする。これによって、トランジスタT2,T4がオンする。このとき、トランジスタT3のゲートは、有機EL素子ELのアノードに接続されている。有機EL素子ELのアノードは、カソード電位であるVss(例えば、0V)に対し、有機EL素子ELでの電圧降下分である、Voledだけ高い電圧になっている。従って、トランジスタT3もオンしている。
【0034】
次に、データ線の電圧が、所定の低電圧であるVblkに設定され、駆動トランジスタT1のゲート(ノードna)には、データ線datからVblkが供給される。Vblkは、低電圧であるため、駆動トランジスタT1はオフし、有機EL素子ELのアノード(ノードnb)の電位は下降して、有機EL素子ELのターンオン電圧V0に漸近する。これによって、トランジスタT4を介してV0がトランジスタT3のゲートに保持される。この段階で、保持容量Csには、V0−Vblkが保持される。また、V0は、Vblkより高電圧であり、トランジスタT3はオン状態に保持される。
【0035】
次に、マージ制御線mrgがLレベルとしてトランジスタT4をオフにする。そして、データ線datを信号電圧Vdatとする。このとき、T3のゲートには、有機EL素子ELのターンオン電圧V0が印加されており、ドレインには信号電圧Vdatが印加されることになる。
【0036】
トランジスタT3を線形領域で動作させると、トランジスタT3を流れる電流I3はトランジスタT3のVgs3(V0に比例する)とVds3にほぼ比例する。すなわち、V0とVdatを乗算した値に応じた電流がトランジスタT3に流れ、この電流によって、駆動トランジスタT1のゲート電圧が上昇し、駆動トランジスタT1に電流が流れ、有機EL素子ELが発光する。
【0037】
この時の電流量は、駆動トランジスタT1のゲート・ソース間電圧Vgs1に応じて決定されるが、上述のように、駆動トランジスタT1のゲート電圧は、そのときのV0に比例することになる。
【0038】
すなわち、Vgs=Vdat*(aVo+b)に設定される。
【0039】
なお、図2においては、データ電圧Vdatは、一定電圧と仮定しており、従って上述のようなデータ電圧Vdatの書き込み前後において、すべて同一の電圧に復帰する。実際は、データ電圧Vdatは任意の値を取り得るが、本実施形態の説明については同様であるので、省略する。
【0040】
このように、本実施形態の回路によれば、トランジスタT2がオフされた時の駆動トランジスタT1のゲート・ソース間電圧(=保持容量Csの充電電圧)は、トランジスタT3のゲート電圧であるV0とドレイン電圧であるVdatを乗算した値に対応する電圧になる。なお、トランジスタT4がオフであるため、トランジスタT3のゲートngの電圧は、ソース電圧がVblkからVdatに変化するに従って上昇し、トランジスタT3はオン状態を維持する。
【0041】
すなわち、トランジスタT1のVgs1として、V0およびVdatに比例する(V0およびVdatを乗算した電圧に対応する)電圧が印加される。従って、有機EL素子ELの劣化に伴いV0が増加すると、同じ信号電圧入力Vdatに対して有機EL素子ELに供給される電流が増加し、有機EL素子ELの発光効率の劣化分を補償する。
【0042】
本実施形態では、画素回路は、有機EL素子の発光効率の低下と駆動電圧の上昇のみ補償する。すなわち、駆動TFTの特性ばらつきや、使用に伴うTFTの劣化は無視できる程度であることが好ましい。例えば、プロセスの最適化などにより面内均一性が十分に取れている多結晶シリコンTFT基板や、面内均一性が良好で、駆動TFTの劣化が小さい微結晶シリコンTFT基板、酸化物TFT基板などでの応用が好適である。
【0043】
「実施形態2」
図3は、本発明の実施形態2の回路図である。実施形態2の回路はさらに一般的な応用を考えて、有機EL素子の発光効率劣化補償に加えて、駆動TFTのしきい値電圧補償機能を持たせた例である。実施形態1の回路に加え、発光制御トランジスタT5、および、リセットトランジスタT6を加えた6トランジスタ・1容量により構成される。
【0044】
トランジスタT5は、電源1と駆動トランジスタT1の間に直列に挿入され、駆動電流のオンオフを行い、発光期間を制御する。トランジスタT6は有機EL素子ELのアノード電圧をリセットするため、有機EL素子ELのアノードと電圧Vss2の電源3の間に配置される。
【0045】
図4に実施形態2の回路の駆動電圧波形を示す。まず、マージ制御線mrgをHレベルにしてトランジスタT4を導通する。このとき、トランジスタT5,T6を非導通、トランジスタT2を導通にしてデータ線から一定電圧Vblkを書き込む。Vblkは低電圧であり、有機EL素子ELのアノード(nb)の電位は有機EL素子ELのターンオン電圧V0付近にセットされる。このとき、トランジスタT4が導通状態のため、トランジスタT3のゲートにV0が保持される。
【0046】
さらに、トランジスタT4を非道通状態とし、トランジスタT6を導通させ有機EL素子ELのアノードを所定の低電圧Vss2である電源3に接続し、有機EL素子ELのアノードをVss2にリセットする。これにより、有機EL素子ELの電圧はV0以下となる。ここで、トランジスタT6を非導通とし、トランジスタT1のゲートに一定電圧Vblkを書込み、トランジスタT5を導通させると、有機EL素子ELに電流が流れることで、そのアノード電位が上昇し、Vblk−Vthとなったところ(トランジスタT1のゲート/ソース間電圧がそのしきい値電圧Vthに一致したところ)でT1が非道通となる。
【0047】
次に、データ線datから所望の信号電圧Vdatを書き込む。このとき、トランジスタT3のゲートには有機EL素子ELのターンオン電圧V0が、ドレインには信号電圧Vdatが印加される。
【0048】
トランジスタT3を線形領域で動作させると、トランジスタT3を流れる電流I3はトランジスタT3のVgs(Vgs2)とVdsにほぼ比例する。一定時間の後にトランジスタT2をオフにすると、保持容量CsのトランジスタT1のゲート側の端子にはトランジスタT3のゲート電圧Vgs2とドレイン電圧Vdatに比例する電圧にVblkを加えた電位が保持される。
【0049】
一方、保持容量Csの他方の端子はトランジスタT1のソースと有機EL素子ELのアノードに接続されており、Vgblk−Vthが保持されている。すなわち、T1のVgs(Vgs1)として、V0とVdatに比例する電圧(Vdat*(aVo+b)+Vblk)にVthを加えた電圧が印加される。
【0050】
このように、実施形態2では、トランジスタT1のゲート・ソース間電圧Vgs1はVth分オフセットされるため、画素電流はトランジスタT1のしきい値電圧Vthの変化に依らない。また、トランジスタT1のゲート・ソース間電圧Vgs1はV0とVdatに比例するため、ELの劣化に伴いV0が上昇すると画素電流が増加し、V0の上昇と線形の関係にあるELの効率低下を補償する。
【0051】
以下、本実施形態2の画素回路を例にその効果を説明する。有機EL素子の劣化特性は、例として非特許文献1のデータを引用し、画素電流は回路シミュレーターによる計算で求めた。
【0052】
図5A,5Bは非特許文献3から引用した有機EL素子の輝度と容量遷移電圧の関係である。有機EL素子を様々な温度下で駆動して劣化させた後、室温下で定電流駆動したときの輝度の相対値と容量遷移電圧の上昇を測定し、プロットしている。定電流駆動したときの輝度の相対変化は、その電流密度における電流発光効率の相対変化と同じになる。
【0053】
また、前述のとおり、素子の容量遷移電圧の変化は素子の駆動電圧(素子のターンオン電位に対応する電圧)変化と同じになる。図5Aは、有機EL素子として、NPB,C545TドープAlq,Alqを積層したものを用い、様々な温度で素子を駆動し劣化させた場合の測定結果であり、図5Bは、発光層に赤色ドーパントRD3もしくは、DCJTBを添加し、65℃で劣化させたときの測定結果である。
【0054】
図6は、実施形態2の回路で、駆動トランジスタT1のしきい値電圧Vthを0〜2Vの範囲で、有機EL素子のターンオン電圧V0を0〜1Vの範囲で、それぞれ変化させたときの、画素電流のシミュレーション結果である。画素電流は駆動トランジスタT1のVthの変化にはほとんど依らない一方、有機EL素子の駆動電圧(ターンオン電圧)の上昇に伴いほぼ線形に増加していることがわかる。
【0055】
有機EL素子として図5A,5Bに示す素子を仮定し、図6の結果を用いて、有機EL素子の劣化に対する画素輝度の変化を計算する。図7A,7Bは、駆動トランジスタT1のVthをパラメータとして、有機EL素子のターンオン電圧が0V,0.5V,1Vと変化したときの、画素輝度の相対変化を示している。
【0056】
図7Aは有機EL素子の劣化特性として図5Aに示す素子を仮定している。図7Aを見ると、有機EL素子のターンオン電圧が0Vから0.5Vの範囲では、Vthの変化に対する画素輝度の相対値にはあまり差が無く、Vthの変化は0Vから2Vの範囲で良好に補償されることがわかる。
【0057】
一方、有機EL素子のターンオンに対する画素輝度の相対値はターンオン電圧が0Vから0.5Vまではほぼ変化が無く、ターンオン電圧が1Vでやや減少するものの、元の有機EL素子のターンオン電圧変化1Vのときの定電流発光輝度相対値約75%(図5A)と比較すると大幅に改善されていることがわかる。
【0058】
図5Bの有機EL素子に対して計算した図7Bでは、その効果はさらに良好で、25%程度の有機EL素子の劣化(図5Bで有機EL素子ターンオン電圧変化1Vのとき)にも関わらず、画素輝度の相対値はほぼ初期値を保っている。
【0059】
以上の結果から、実施形態2による補償回路を適当に設計することにより、駆動トランジスタ(TFT)のVthシフトのみならず、有機EL素子の駆動電圧(ターンオン電圧)変化および、発光効率劣化も補償することができることがわかる。
【符号の説明】
【0060】
1〜3 電源、T1 駆動トランジスタ、T2〜T4 トランジスタ、T5 発光制御トランジスタ、T6 リセットトランジスタ、Cs 保持容量。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の画素をマトリクス状に配し、各画素を駆動回路により駆動する表示装置であって、
各画素は、
流れる電流に応じて発光する発光素子と、
この発光素子の目標輝度を示すデータ信号に応じて、前記発光素子に供給する駆動電流を制御する駆動素子と
を含み、
前記駆動回路は、
前記発光素子の両端に掛かる発光素子電圧に応じて、前記駆動素子に供給する前記データ信号を補正する補正手段を有し、
前記補正手段により、前記データ信号に対応して前記発光素子に供給される駆動電流が、前記発光素子の電圧降下量の増加に伴い増加するように補正されることを特徴とする表示装置。
【請求項2】
請求項1に記載の表示装置において、
前記駆動素子はトランジスタであって、
前記補正手段によって、前記データ信号と前記発光素子電圧に比例、または正の相関を持つ電圧を前記駆動素子に印加することを特徴とする表示装置。
【請求項3】
請求項2に記載の表示装置において、
前記補正手段が、前記データ信号と前記発光素子電圧を入力とする乗算回路を含むこと を特徴とする表示装置。
【請求項4】
請求項3に記載の表示装置において、
前記補正手段に含まれる前記乗算回路は、ソース電極とゲート電極を入力、ドレイン電極を出力とする、トランジスタ素子1個で構成されること
を特徴とする表示装置。
【請求項5】
請求項2から4に記載の表示装置において、
画素内に配した前記補正手段に加え、
画素内に、
前記駆動素子のゲートに印加する制御電圧を前記発光素子の駆動電圧変動分オフセットする手段を有すること
を特徴とする表示装置。
【請求項1】
複数の画素をマトリクス状に配し、各画素を駆動回路により駆動する表示装置であって、
各画素は、
流れる電流に応じて発光する発光素子と、
この発光素子の目標輝度を示すデータ信号に応じて、前記発光素子に供給する駆動電流を制御する駆動素子と
を含み、
前記駆動回路は、
前記発光素子の両端に掛かる発光素子電圧に応じて、前記駆動素子に供給する前記データ信号を補正する補正手段を有し、
前記補正手段により、前記データ信号に対応して前記発光素子に供給される駆動電流が、前記発光素子の電圧降下量の増加に伴い増加するように補正されることを特徴とする表示装置。
【請求項2】
請求項1に記載の表示装置において、
前記駆動素子はトランジスタであって、
前記補正手段によって、前記データ信号と前記発光素子電圧に比例、または正の相関を持つ電圧を前記駆動素子に印加することを特徴とする表示装置。
【請求項3】
請求項2に記載の表示装置において、
前記補正手段が、前記データ信号と前記発光素子電圧を入力とする乗算回路を含むこと を特徴とする表示装置。
【請求項4】
請求項3に記載の表示装置において、
前記補正手段に含まれる前記乗算回路は、ソース電極とゲート電極を入力、ドレイン電極を出力とする、トランジスタ素子1個で構成されること
を特徴とする表示装置。
【請求項5】
請求項2から4に記載の表示装置において、
画素内に配した前記補正手段に加え、
画素内に、
前記駆動素子のゲートに印加する制御電圧を前記発光素子の駆動電圧変動分オフセットする手段を有すること
を特徴とする表示装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【公開番号】特開2011−164134(P2011−164134A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−23285(P2010−23285)
【出願日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【出願人】(510048417)グローバル・オーエルイーディー・テクノロジー・リミテッド・ライアビリティ・カンパニー (95)
【氏名又は名称原語表記】GLOBAL OLED TECHNOLOGY LLC.
【住所又は居所原語表記】1209 Orange Street, Wilmington, Delaware 19801, United States of America
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【出願人】(510048417)グローバル・オーエルイーディー・テクノロジー・リミテッド・ライアビリティ・カンパニー (95)
【氏名又は名称原語表記】GLOBAL OLED TECHNOLOGY LLC.
【住所又は居所原語表記】1209 Orange Street, Wilmington, Delaware 19801, United States of America
【Fターム(参考)】
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