説明

表面が梨肌模様の溶融アルミニウムめっき鋼板の製造方法

【課題】溶融アルミニウムめっき鋼板表面の全面にわたって、めっきむらが無く、プレス後にスパングルの浮き出しが発生しない優れた外観を得ることができる溶融アルミニウムめっき鋼板の製造方法を提供する。
【解決手段】Si:3〜15質量%を含み残部はAlと不可避的不純物からなる溶融アルミニウムめっきを施した鋼板表面のスパングル径を0.1mm〜10mmに調整した後、スキンパス圧延機のNo.1スタンドのロール粗度Ra1:0.1μm〜0.5μmとしてスキンパス圧延した後に、No.2スタンドのロール粗度Ra2:1.5μm〜4.0μmとしてスキンパス圧延を行うことを特徴とする、表面が梨肌模様の溶融アルミニウムめっき鋼板の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面が梨肌模様の溶融アルミニウムめっき鋼板の製造方法に関する。
【0002】
具体的には、溶融アルミニウムめっき鋼板表面の全面にわたって、めっきむらが無く、プレス後にスパングルの浮き出しが発生しない表面が梨肌模様の溶融アルミニウムめっき鋼板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
スパングル模様の少ない溶融アルミニウムめっき鋼板の製造方法に関しては、従来から種々の提案がなされている。
【0004】
例えば、特開昭61−147906号公報(特許文献1)には、連続溶融アルミニウムめっきライン内において、溶融めっき鋼板に、最大高さ(μRmax)
10〜30、山数(PPI)100〜125の表面あらさを有するロール径450mm以上のダルロールをワークロールとする多重スキンパスミルにより、単位幅圧延荷重250〜450kgf/mmの調質圧延を施すことを特徴とする溶融アルミニウムめっき鋼板の表面肌改善方法が記載されており、No.1スタンドにダルロール、No.2スタンドにブライトロールを使用することの開示がある。
【0005】
しかし、特許文献1の方法によると、スパングル模様を消すためには、最大高さ(μRmax)が10μm〜30μmと粗度が大きいダルロールを用いないとスパングルが消えないうえ、光沢のある鋼板を製造するには、その後にブライトロールを用いれば良いが、ダル外観を得る為には、梨肌の大きさ(下限)に限界があり、細かい梨肌を製造しようとするとスパングルが残るという問題点があった。
【0006】
更に、プレス加工後に消えたはずのスパングル模様が再び浮き出ると言う現象が観察された。
【0007】
また、特開昭63−153255号公報(特許文献2)、特開平10−158807号公報(特許文献3)には、金属酸化物粉末からなるパウダーをめっき表面に吹き付けることにより、スパングル模様を抑制した溶融めっき鋼板の製造方法が記載されている。
【0008】
しかし、特許文献2や特許文献3の方法では、パウダーの詰まりや堆積などによりパウダーの当たり方が不均一になる場合があるうえ、板温の適性範囲が狭く安定性の問題があった。特に、操業中に通板速度が変化した等の場合に、温度範囲が外れると、表面に凹凸が生じて外観を損ねる場合が生じた。
【0009】
また、特開昭59−145770号公報(特許文献4)には、めっき金属の表面が未だ溶融状態にあるとき強制冷却を水ないし水溶液を噴霧することにより行い、しかるのち、通常冷却をし、非めっき面の研磨およびスキンパス圧延を順次行うことを特徴とする片面溶融金属めっき方法が記載されている。
【0010】
しかし、特許文献4に記載された方法は、ミスト粒子が結合し粒子径が大きくなる場合あり、斑点状の表面欠陥になる場合あり。また、板温の適正範囲が狭く安定性の問題あった。特に、スパングルの大きさを1.5mm以下にしようとすると、表面に凹凸が生じて外観を損ねる場合が生じた。
【特許文献1】特開昭61−147906号公報
【特許文献2】特開昭63−153255号公報
【特許文献3】特開平10−158807号公報
【特許文献4】特開昭59−145770号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで、本発明は、前述のような従来技術の問題点を解決し、表面が梨肌模様の溶融アルミニウムめっき鋼板表面の全面にわたって、めっきむらが無く、プレス後にスパングルの浮き出しが発生しない優れた外観を得ることができる溶融アルミニウムめっき鋼板の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の要旨とするところは特許請求の範囲に記載した通りの下記内容である。
(1)Si:3〜15質量%を含み残部はAlと不可避的不純物からなる溶融アルミニウムめっきを施した鋼板表面のスパングル径を0.1mm〜10mmに調整した後、スキンパス圧延機のNo.1スタンドのロール粗度Ra1:0.1μm〜0.5μmとしてスキンパス圧延した後に、No.2スタンドのロール粗度Ra2:1.5μm〜4.0μmとしてスキンパス圧延を行うことを特徴とする、表面が梨肌模様の溶融アルミニウムめっき鋼板の製造方法。
(2)前記スキンパス圧延前のスパングル径を0.1mm〜2mmとすることを特徴とする、(1)に記載の表面が梨肌模様の溶融アルミニウムめっき鋼板の製造方法。
(3)前記スキンパス圧延前のスパングル径を調整する方法は、溶融アルミニウムめっきの浸漬ポットの出側に設けられたワイピングノズルでめっき目付け量を調整した後の鋼板表面に、パウダーを吹き付けることを特徴とする、(1)または(2)に記載の表面が梨肌模様の溶融アルミニウムめっき鋼板の製造方法。
(4)前記パウダーを吹付ける際の鋼板温度を580℃〜600℃とすることを特徴とする、(3)に記載の表面が梨肌模様の溶融アルミニウムめっき鋼板の製造方法。
(5)前記パウダーが金属粉末または金属酸化物粉末であり、該金属酸化物の鋼板表面積当たりの含有量が0.1〜20mg/m2であることを特徴とする、(3)または(4)に記載の表面が梨肌模様の溶融アルミニウムめっき鋼板の製造方法。
(6)前記金属酸化物粉末または金属酸化物粉末の粒径が2〜100μmであることを特徴とする、(5)に記載の表面が梨肌模様の溶融アルミニウムめっき鋼板の製造方法。
(7)前記金属酸化物粉末または金属酸化物粉末の吹き付け速度がめっき表面で10〜80m/secであることを特徴とする、(5)または(6)に記載表面が梨肌模様の溶融アルミニウムめっき鋼板の製造方法。
(8)前記スキンパス圧延前のスパングル径を調整する方法は、溶融アルミニウムめっきの浸漬ポットの出側に設置されたワイピングノズルでめっき目付け量を調整した後の鋼板表面に、ミストをスプレーすることを特徴とする、(1)または(2)に記載の表面が梨肌模様の溶融アルミニウムめっき鋼板の製造方法。
(9)前記ミストをスプレーする際の鋼板温度は575℃〜615℃であることを特徴とする、(8)に記載の表面が梨肌模様の溶融アルミニウムめっき鋼板の製造方法。
(10)前記スキンパス圧延前のスパングル径を調整する方法は、溶融アルミニウムめっきの浸漬ポットの出側に設けられたワイピングノズルにてめっき目付け量を調整した後の鋼板表面を、エアーを吹付けて冷却もしくは、自然冷却することを特徴とする、(1)または(2)に記載の表面が梨肌模様の溶融アルミニウムめっき鋼板の製造方法。
<作用>
(1)の発明によれば、Si:3〜15質量%を含み残部はAlと不可避的不純物からなる溶融アルミニウムめっきを施した鋼板表面のスパングル径を0.1mm〜10mmに調整した後、スキンパス圧延機のNo.1スタンドのロール粗度Ra1:0.1μm〜0.5μmとしてスキンパス圧延した後に、No.2スタンドのロール粗度Ra2:1.5μm〜4.0μmとしてスキンパス圧延を行うことにより、ロール粗度の小さいブライトロールによるスキンパス圧延によって、Alめっき層の表面の硬度差を均一にするとともに、鋼板表面のスパングルの境界が充填されて圧着した後に、ロール粗度の大きいダルロールによるスキンパス圧延を行うことにより、表面が梨肌模様の溶融アルミニウムめっき鋼板の製造が可能になり、プレス後のにスパングルの浮き上りの発生を防止することができる。
(2)の発明によれば、前記スキンパス圧延前のスパングル径を0.1mm〜2mmとすることにより、さらに表面が細かい梨肌模様のアルミニウムめっき鋼板を製造することができる。
(3)の発明によれば、溶融アルミニウムめっきの浸漬ポットの出側に設けられたワイピングノズルでめっき目付け量を調整した後の鋼板表面に、パウダーを吹き付けることにより、前記スキンパス圧延前のスパングル径を調整することができると共に、スキンパスでむらを無くすことが出来て、表面が細かくむらが無い梨肌模様のアルミニウムめっき鋼板を製造することができる。
(4)の発明によれば、前記パウダーを吹付ける際の鋼板温度を580℃〜600℃とすることにより、前記スキンパス圧延前のスパングル径の調整を効果的に行うことができるとともに、スキンパスでむらを無くすことが出来て、表面が細かくむらが無い梨肌模様のアルミニウムめっき鋼板を製造することができる。
(5)の発明によれば、前記パウダーを金属酸粉末または金属酸化物粉末とし、該金属酸粉末または金属酸化物粉末の鋼板表面積当たりの含有量を0.1〜20mg/m2とすることにより、前記スキンパス圧延前のスパングル径の調整を効果的に行うことができるともに、スキンパスでむらを無くすことが出来て、表面が細かくむらが無い梨肌模様のアルミニウムめっき鋼板を製造することができる。
(6)の発明によれば、前記金属酸粉末または金属酸化物粉末の粒径を2〜100μmとすることにより、前記スキンパス圧延前のスパングル径の調整をさらに効果的に行うことができるとともに、スキンパスでむらを無くすことが出来て、表面が細かくむらが無い梨肌模様のアルミニウムめっき鋼板を製造することができる。
(7)の発明によれば、前記金属酸粉末または金属酸化物粉末の吹き付け速度をめっき表面で10〜80m/secとすることにより、前記スキンパス圧延前のスパングル径の調整をさらに効果的に行うことができるとともに、スキンパスでむらを無くすことが出来て、表面が細かくむらが無い梨肌模様のアルミニウムめっき鋼板を製造することができる。
(8)の発明によれば、溶融アルミニウムめっきの浸漬ポットの出側に設置されたワイピングノズルでめっき目付け量を調整した後の鋼板表面に、ミストをスプレーすることにより、前記スキンパス圧延前のスパングル径を調整することができるとともに、スキンパスでむらを無くすことが出来て、表面が細かくむらが無い梨肌模様のアルミニウムめっき鋼板を製造することができる。
(9)の発明によれば、前記ミストをスプレーする際の鋼板温度を575℃〜615℃とすることにより、前記スキンパス圧延前のスパングル径の調整をさらに効果的に行うことができるとともに、スキンパスでむらを無くすことが出来て、表面が細かくむらが無い梨肌模様のアルミニウムめっき鋼板を製造することができる。
(10)の発明によれば、溶融アルミニウムめっきの浸漬ポットの出側に設けられたワイピングノズルにてめっき目付け量を調整した後の鋼板表面を、エアーを吹付けて冷却もしくは、自然冷却することにより、前記スキンパス圧延前のスパングル径を大きめに調整することができるとともに、スキンパスでむらを無くすことが出来て、表面が細かくむらが無い梨肌模様のアルミニウムめっき鋼板を製造することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、溶融アルミニウムめっき鋼板表面の全面にわたって、めっきむらが無く、プレス後にスパングルの浮き出しが発生しない優れた梨地外観を得ることができる溶融アルミニウムめっき鋼板の製造方法を提供することができるなど、産業上有用な著しい効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明を実施するための最良の形態について、図1乃至図7を用いて説明する。
【0015】
図1は、本発明を適用する溶融アルミニウムめっきラインを例示する図である。
【0016】
図1において、1は酸化還元炉、2は溶融Alポット、3は金属酸化、またはミスト吹き付け装置(ゼロ外観装置)、4はスキンパス圧延機、5はワイピングノズルを示す。
【0017】
酸化還元炉1にて熱処理を施された鋼板は、溶融Alポット2に浸漬されて、Si:3〜15質量%を含み残部はAlと不可避的不純物からなる溶融アルミニウムめっきを施された後、溶融Alポットの出側に設けられたワイピングノズル5にてめっき目付け量を調整された後、ゼロ外観装置3によって、鋼板表面のスパングル径が調整された後、スキンパス圧延機4により、降伏点伸びの解消及び形状矯正がなされる。
【0018】
図2は、本発明の実施形態を例示する図であり、図3は、比較例を例示する図である。
【0019】
アルミニウムめっき浴に浸漬後、通常の強制空冷をすると、鋼板表面に3〜10mm程度のスパングル模様ができる。
【0020】
このスパングル模様を有するアルミニウムめっき鋼板に図4の▲印に示すように、高粗度で、1.5%程度のダルスキンパス圧延をめっき後に引き続いて実施しても、ダルロールで圧延されない部分が残ってむらに見えるうえ、プレス後にスパングルが浮き上がることがある。
この原因を推定すると、溶融アルミニウムめっきのスパングルとは、アルミニウムの初晶が樹枝状に鋼板の表面に平行に発達するが、その結晶核が多い場合には、樹枝状結晶が成長した結果隣の樹枝状結晶とぶつかり、その結晶方位が異なる部分が粒界として目に見えるようになり、これの粒界のつながりがスパングルとして認識されていると考えられる。
【0021】
図6には、アルミめっき鋼板表面を白色干渉計で測定した例を示す。図5の(a)はスパングル径が1mm、(b)はスパングル径が2.8mmの例であるが、表面にアルミニウムの樹枝状の初晶が筋状に見えており、その筋状に見える樹枝状結晶が方向が異なる隣の樹枝状結晶とぶつかったところにスパングルの境界が現れることが確認された。
【0022】
更に、図7にはスパングル径とスパングル境界部の凹み深さについて測定した例を示す。図7は、白色干渉法を用いて測定した。図7に示す様に、スパングル径が6mmまではスパングル径が大きくなると凹み深さが大きくなる。一方、スパングル径が6mmを越えるとスパングル境界部の凹み深さ逆転して小さくなる傾向があることが判った。
これらの結晶粒界は、ミクロ的にはボイドが存在することも有ると思われ、圧延しただけではプレス時に浮き出ることが考えられる。即ち、結晶粒内とスパングルの境目である結晶粒界はその硬度も異なるものと考えられるので、高粗度のダルロールを用いて圧延しても、その硬度差が少なくなる訳ではなく、かえって、ダルロールの凸部で粒界を機械的に開いたり、ダルロールの突起により、ミクロ的に硬度差を付けることになり、プレス時にスパングル模様が浮き出る結果になったと考えられる。
【0023】
これに対して、本発明では、図2に示すように、溶融アルミニウムめっき後に、平滑なブライトロールでスキンパス圧延することで、まず、鋼板表面の硬度を均一化するとともに、スパングルの境界を充填して圧着し、その後にダルロールを用いてスキンパス圧延することで、細かい梨地外観を有する美麗なダル外観を得ることができる。
【0024】
ここで言う、細かい梨地外観を有する美麗なダル外観とは、1)ブライダルロールで圧延後にRaで4μm程度以下、またはRmaxで9μm以下のダルロールで圧延して得られる梨肌であり、表面のRaに極端に深い部分が無くて、かつ、むらの無い梨肌表面性状を有する鋼板である。鋼板表面粗度は、およそ、Raが3μm程度以下、Rmaxでおよそ7μm以下程度であり、
かつ、2)プレス成形後にスキンパス模様が浮き出ない表面を有する鋼板である。
【0025】
ブライトスキンパス圧延によるスパングル模様が低減して細かい梨地外観を有する美麗なダル外観が得られるのメカニズムは、下記のように考えられる。
【0026】
図2に模式的に示すようにAlめっき層のスパングルの粒界は一般に凹んでおり、プレス後にスパングルが浮き出るかどうかは、No.1スタンドにブライトロールを使用するかどうかで決まる。一方、むらが消えるか否かはNo.2スタンドのダルロールの粗度によって決まる。
【0027】
No.1スタンドにブライトロールを使用すれば、スパングルの粒界はメッキ金属が充填圧着するのでプレス後にスパングルが浮き出ることを防止できる。
【0028】
また、製品粗度PPIはNo.2スタンドのロール粗度に因る。スキンパスをかけない溶融アルミニウムめっき鋼板の初期粗度はRaで0.6μ程度であり、むらもあり、No.1スタンドにブライトロールで圧延した後でも、そのむらは残留する。しかし、No.1スタンドにブライトロールで圧延した後でも、表面が柔らかく、転写率が50〜70%と高いので、製品粗度のPPIはあまりばらつかず、スキンパス前の原板粗度に因らずスキンパスロール粗度に因る。
そこで、ダルロール圧延により、表面に凹凸を付けるとむらが解消する。ここで言うむらとは、主に、溶融めっき後の金属酸化物吹き付けやミスト吹き付けで発生する1mm〜5mm程度のほぼ円形状に発生する凹凸を言う。
加えて、No.1スタンドにブライトロールで圧延しているので、スパングル模様と関連無くダルロールの凹凸が付与できるのでスパングル模様を見えないように調整することが出来る。
【0029】
そこで、本発明においては、スキンパス圧延機のNo.1スタンドのロール粗度Ra1:0.1μm〜0.5μmとしてスキンパス圧延した後に、No.2スタンドのロール粗度Ra2:1.5μm〜4.0μmとしてスキンパス圧延を行うことを特徴とする。
【0030】
スキンパス圧延機のNo.1スタンドのロール粗度Ra1が0.1μm未満では圧延時のスリップ限界を下回るため圧延ができない、一方、粗度Ra1が0.5μmを越えるとロール表面の凹凸は鋼板表面に転写されて縦筋模様が残るからである。
【0031】
また、No.2スタンドのロール粗度Ra2が1.5μm未満では、めっきむらは完全に消えない、一方、ロール粗度Ra2が4.0μmを越えると鋼板表面の外観が粗くなり、細かい梨地外観にならないからである。
【0032】
特に、最初のスキンパスで、表面の硬度を均一化しているので、プレス後にスパングル模様が浮き出ることが無い。
【0033】
図1に示すゼロ外観装置3には、下記のミスト冷却、金属酸化物からなるパウダー吹きつけ、自然放冷もしくは、自然放冷に近い冷却速度で空気冷却する方法が適用できる。
【0034】
積極的に、ワイピング後にミスト冷却すると、全体的に緻密なスパングルが形成させるので、硬度の差異が少なくなる。
最良の方法は、ワイピング後に、金属酸化物を吹き付ける方法である。この場合には、ミスト冷却に比べて、更に緻密なスパングルが形成されるので、更に硬度の差が少なくなり、プレス後にスパングル模様が浮き出ることが全くなくなる。しかし、金属酸化物を吹き付ける方法では、表面に凹凸むらが生じることもあり、この調整にも、ブライトロールとその後のダルロールによるスキンパス圧延が有効である。
【0035】
金属酸化物を吹き付ける方法の粉体吹き付け温度は、溶融アルミめっき液体の初晶温度と共晶温度の間の温度が良く、580〜600℃が最適である。
【0036】
金属酸化物パウダーが少ないとアルミニウムの結晶が大きくなり十分なスパングル消しができない。多すぎるとスパングル消しの観点では問題ないが、ロール等にパウダーが付着して鋼板の外観が悪くなるので、金属酸化物の鋼板表面積当たりの含有量は0.1〜20mg/m2とすることが好ましい。。
【0037】
金属酸化物パウダーの粒径が小さいとアルミニウムの結晶核になりにくいのでスパングルが消えない。また、大きすぎると、粒子の数が減るのでアルミニウムの結晶が大きくなってしまうので、金属酸化物パウダーの粒径は2〜10μmが好ましい範囲である。
【0038】
金属酸化物パウダーの吹き付け速度は、あまり遅いと十分な結晶核にならないため、結晶が大きくなってしまうし、速過ぎると金属酸化物パウダーが飛散しロールなどへの付着が発生してしまうため、パウダーの吹き付け速度がめっき表面で10〜80m/secであることが好ましい。
ミスト冷却の場合は、金属酸化物吹き付けと同様であるが、吹き付け直後に凝固するため、金属酸化物吹き付けより若干広く、575℃〜615℃がよい。ミストの量・粒径や吹き付け速度などは、一般の2流体ノズルならどれでも適用可能である。
【0039】
溶融めっき鋼板表面のミクロな硬度差を少なくする為には、ワイピング後に自然放冷もしくは、自然放冷に近い冷却速度で空気冷却してもよい。更に、自然放冷もしくは、自然放冷に近い冷却速度で空気冷却した場合には、スパングル径が6mmを超えて大きくなり、この6mmを超えるとスパングル境界部凹み深さが小さくなる。また、自然放冷もしくは、自然放冷に近い冷却速度で空気冷却した場合には、図7(c)に示したスパングル径が7mmの例の様にアルミニウムの樹枝状の初晶の凹凸が小さくなり全体的に表面が滑らかになるので、No.1スタンドにブライトロールで圧延した後に、表面が非常に均一になるので、その後のNo.2スタンドのダルロールを用いてスキンパス圧延することで、細かい梨地外観を有する美麗なダル外観を得ることができる。
【0040】
図4および図5は、本発明の実施例を示す図である。
【0041】
図4の横軸はスパングル径、縦軸はスキンパス圧延後の外観評点を示しており、評点が高い程外観が劣っていることを示す。
【0042】
図4に示すように、スパングルの径と外観評点の関係には相関があり、ダルロール(Ra=4μm、Rmax=9μm)のロールでは、スパングル径が2μmであっても、スキンパス後の外観評点は3と劣る。
【0043】
一方、ブライトロール(Ra=0.4μm、Rmax=0.9μm)により1%圧下した後に、ダルロール(Ra=4μm、Rmax=9μm)で0.5%圧下した鋼板は、同等のスパングル2μmで、スキンパス後の外観評点は2と良好である。
【0044】
このように、スパングル径が小さくなると、スキンパス後の外観評点は更に良好になり、この効果は、スパングルが小さくなると、ミクロ的に硬度差が減少するものと考えられる。
【0045】
図5の横軸はNO.2スタンドのダルロールの粗度、縦軸はスキンパス圧延後の外観評点を示しており、評点が高い程外観が優れていることを示す。
図5の評点が図4とは異なるのは、表面の外観評点を更に詳しく解析した結果によるもので、図4の評点1が図5の評点5に対応して、図4の評点2が図5の評点2に対応する。
【0046】
NO.2スタンドのダルロールの粗度は、圧下力とも関係するが2μm以上で評点が4以上になり更に良好である。
【0047】
尚、図示していないが、自然放冷もしくは、自然放冷に近い冷却速度で空気冷却した場合には、スパングル径が6mm超となり、この場合にも、図5で評点2以下、図6での評点2以上の良好な梨肌評点が得られた。
【0048】
なお、本発明は、Si:3〜15質量%を含み残部はAlと不可避的不純物からなる溶融アルミニウムめっきに適用可能であるが、低Siである6%〜10%Siにすると、Alの初晶が増えるので、外観むらが出来難くい。また、Alの初晶の量が増え、硬質なAl−Siの共晶組織が少なくなるので、表面の硬度差も少なくなる。これらのことで、スキンパス後の外観が良好になる。
【実施例】
【0049】
本発明の実施例を表1に示す。
【0050】
No.1〜No.4は本発明の条件に合致する発明例であり、めっきむらが無く、プレス後のスパングルの浮き出しも発生しなかった。
【0051】
No.5〜No.9は比較例であり、スキンパス圧延に用いるロール粗度の条件が本発明範囲から外れるため。めっきむら、および/または、プレス後のスパングルの浮き出しが認められた。
【0052】
この実施例により、本発明の効果が確認された。
【0053】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明を適用する溶融アルミニウムめっきラインを例示する図である。
【図2】本発明の実施形態を例示する図である。
【図3】本発明の比較例を例示する図である。
【図4】本発明の実施例を示す図である。
【図5】本発明の実施例を示す図である。
【図6】本発明のスパングルの表面状態を示す図である。視野は947x710mm、対物レンズ:x5で白色干渉計で測定した。
【図7】本発明のスパングル境界部の凹みとスパングル径の関係を示した図である。図6と同様の測定方法を用いた。
【符号の説明】
【0055】
1 酸化還元炉
2 溶融Alポット
3 金属酸化、またはミスト吹き付け装置(ゼロ外観装置)
4 スキンパス圧延機
5 ワイピングノズル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Si:3〜15質量%を含み残部はAlと不可避的不純物からなる溶融アルミニウムめっきを施した鋼板表面のスパングル径を0.1mm〜10mmに調整した後、スキンパス圧延機のNo.1スタンドのロール粗度Ra1:0.1μm〜0.5μmとしてスキンパス圧延した後に、No.2スタンドのロール粗度Ra2:1.5μm〜4.0μmとしてスキンパス圧延を行うことを特徴とする、表面が梨肌模様の溶融アルミニウムめっき鋼板の製造方法。
【請求項2】
前記スキンパス圧延前のスパングル径を0.1mm〜2mmとすることを特徴とする、請求項1に記載の表面が梨肌模様の溶融アルミニウムめっき鋼板の製造方法。
【請求項3】
前記スキンパス圧延前のスパングル径を調整する方法は、溶融アルミニウムめっきの浸漬ポットの出側に設けられたワイピングノズルでめっき目付け量を調整した後の鋼板表面に、パウダーを吹き付けることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の表面が梨肌模様の溶融アルミニウムめっき鋼板の製造方法。
【請求項4】
前記パウダーを吹付ける際の鋼板温度を580℃〜600℃とすることを特徴とする、請求項3に記載の表面が梨肌模様の溶融アルミニウムめっき鋼板の製造方法。
【請求項5】
前記パウダーが金属粉末または金属酸化物粉末であり、該金属酸化物の鋼板表面積当たりの含有量が0.1〜20mg/m2であることを特徴とする、請求項3または請求項4に記載の表面が梨肌模様の溶融アルミニウムめっき鋼板の製造方法。
【請求項6】
前記金属酸化物粉末または金属酸化物粉末の粒径が2〜100μmであることを特徴とする、請求項5に記載の表面が梨肌模様の溶融アルミニウムめっき鋼板の製造方法。
【請求項7】
前記金属酸化物粉末または金属酸化物粉末の吹き付け速度がめっき表面で10〜80m/secであることを特徴とする、請求項5または請求項6に記載の表面が梨肌模様の溶融アルミニウムめっき鋼板の製造方法。
【請求項8】
前記スキンパス圧延前のスパングル径を調整する方法は、溶融アルミニウムめっきの浸漬ポットの出側に設置されたワイピングノズルでめっき目付け量を調整した後の鋼板表面に、ミストをスプレーすることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の表面が梨肌模様の溶融アルミニウムめっき鋼板の製造方法。
【請求項9】
前記ミストをスプレーする際の鋼板温度は575℃〜615℃であることを特徴とする、請求項8に記載の表面が梨肌模様の溶融アルミニウムめっき鋼板の製造方法。
【請求項10】
前記スキンパス圧延前のスパングル径を調整する方法は、溶融アルミニウムめっきの浸漬ポットの出側に設けられたワイピングノズルにてめっき目付け量を調整した後の鋼板表面を、エアーを吹付けて冷却もしくは、自然冷却することを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の表面が梨肌模様の溶融アルミニウムめっき鋼板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−249683(P2009−249683A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−98830(P2008−98830)
【出願日】平成20年4月7日(2008.4.7)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】