説明

表面の光触媒活性を定量化する方法およびその使用

本発明は、表面の光触媒活性を測定するための定量的測定方法に関する。この際に、薄いステアリン酸の層が、測定する光触媒表面上に蒸着される。前記表面はその後UV光で照射され、ステアリン酸の層から散乱した光の量(光ヘイズ)が規定の時間間隔で測定される。表面が光触媒であれば、ステアリン酸層は残留物無く分解し、その結果、光ヘイズはコーティングされていない表面の測定値まで低下する。その後、光ヘイズの時間依存的なカーブの推移から、表面の数量的な光触媒活性を定めることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面の光触媒活性の測定のための定量的測定方法に関する。この際に、薄いステアリン酸の層が、測定する光触媒表面上に蒸着される。前記表面はその後UV光で照射され、ステアリン酸の層から散乱した光の量(光ヘイズ[optischer haze])が規定の時間間隔で測定される。表面が光触媒であれば、ステアリン酸層は残留物無く分解し、その結果、光ヘイズはコーティングされていない表面の測定値まで低下する。その後、光ヘイズの時間依存的なカーブの推移から、表面の数量的な光触媒活性を定めることができる。
【背景技術】
【0002】
有機の試験物質を用いた光触媒の分解反応の測定はすでに技術水準である。その際、有機試験物質は、気体、液体あるいは固体層として光触媒の基質の上に存在しうる。しばしば、化学的分解産物の定量分析によって分解反応が分析される。これは、化学分析のための適切なノウハウ並びに多額の費用がかかる設備(ガスクロマトグラフ、赤外分光計など)を必要とする。
【0003】
光触媒の分解反応を実用的に測定するために、まず有機試験物質は測定する表面に塗布されなければならない。この際、測定の質は塗布された試験物質層の均質性と厳密に結びついている。原則的に、試験物質をより広い表面におよびより均質に塗布することができるほど、測定結果はより再現可能性が高くおよびより正確になる。従来の方法の場合、有機試験物質(ステアリン酸メチル、ステアリン酸など)は、たいてい有機溶媒に溶解され、これは測定する表面上の規定の面に塗布され、その後濃縮される。乾燥を通じて、しばしば、より大きな結晶および層厚の不均等性が、その中心の回りに同心円の形で発達し、それは測定精度および再現可能性を強く損なう。それだけではなく、このために必要な有機溶媒(例えば、ヘキサン)の多用は健康上の理由から問題があり、その結果適切な排気装置の存在が必要となる。
【0004】
ドイツ特許公開公報10 2004 027 118により、蛍光分析を用いた、光触媒活性表面上の有機染料の光触媒分解を定量的に決定するための方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】ドイツ特許公開公報10 2004 027 118号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明にかかる課題は、基材の光触媒活性の効率的で、経済的および正確な決定を可能にする、簡単な測定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この課題は、請求項1の特徴を有する方法によって解決される。請求項13では、前記方法の使用目的が言及される。各従属項はその際に有利な更なる形態を示す。
【0008】
本発明によれば、基材の表面の光触媒活性を定量化するための方法が提供される。その際、基材の表面と直接接触した状態にある熱蒸着層は、少なくとも一種の光を散乱する有機化合物を含有しており、短波の電磁放射線で照射され、光触媒分解によって引き起こされた化合物量の減少の時間経過が、光学的測定法によって測定される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の方法のために使用される典型的な装置を示す図である。
【図2】ヘイズ値とコーティング量μの間の関連を示す図である。
【図3】ヘイズ値の時間的な推移を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
このような方法の実行は、重要な利点を伴う:
・蒸着により、試験物質層(ステアリン酸)は数平方センチメートル大の面上に非常に均質に塗布されることができる。
・この際、その層厚およびコーティングされる面は、広い範囲にわたって自由に選択可能である。
・その塗布は簡単で、再現可能であり、且つわずかな技術的出費のみが要求される。
・層厚決定のためのヘイズ測定の利用は、非破壊的で、薄いステアリン酸層(<300nm)に対し、非常に精密な測定を可能にする。
・溶媒を使った有機試験物質の塗布のように、部分的に有毒な有機溶媒(例えば、ヘキサン)の使用は何ら必要ない。
・各自の選択に従って、光の透過における散光、もしくは反射における散光を測定できるため、透明な光触媒基材でも不透明な光触媒基材でも測定可能である。
【0011】
前記方法について、二つの代替的な実施形態が原則的に可能である。第1の有利な変形では、少なくとも一種の光散乱有機化合物を含有する層が、基材の表面に直接蒸着される。
【0012】
前記方法の代替的な実施形態では、前記層が、光学的測定法の範囲において電磁放射線に対し少なくとも部分的に透明な他の基材上に塗布され、そして、コーティング表面を有するこの他の基材が、測定されるべき基材と接触されることを予定している。その際、前記接触は摩擦的および/または連結的であってもよい。例えば、この目的ために、ステアリン酸がUV光透過性の石英ガラス基材上に蒸着され、そのコーティング面が、光触媒活性を有する表面上に置かれる。この場合、分解反応は、反射された光の散光測定によって測定されることができる。このことによって、直接ステアリン酸でコーティングすることができない滑らかな基材(組込の光触媒製品、非常に大きな寸法を持つ製品)に対しても、当該測定方法を使用することができる。
【0013】
更に、蒸着が10-6mbar〜10mbarの間、好ましくは10-3mbar〜1mbarの間、特に好ましくは10-3mbar〜10-1mbarの間の減圧下で行われることが望ましい。
【0014】
同様に、実験は、蒸着が高温で行われた場合、言い換えれば、有機物質が蒸着の際に熱せられた場合、利点を有することを明らかにした。けれどもその際、蒸着はその有機化合物の分解温度下で行われることが重要である。例えばステアリン酸では、一般に300℃〜400℃間の温度が使用される。
【0015】
好ましくは前記有機化合物は、蒸発可能な有機化合物および/または有機脂肪酸並びにそれらの誘導体からなるグループから選択される。誘導体は、本発明にかかる無機および/または有機の脂肪酸誘導体と理解される。これに関して、例えばエステル、エーテルおよび/または塩が挙げられる。原則的に、既知の有機脂肪酸はいずれもこの方法のために使用されることができる。特に、前記脂肪酸は飽和の、一価および/または多価の不飽和の脂肪酸から選択される。さらに好ましくはステアリン酸および/またはステアリン酸メチルである。ステアリン酸あるいはステアリン酸メチルは生物学的に全く心配が無く且つ非常にコスト効率が良い。
【0016】
本発明において、その方法のもとに生産される層の厚みは、その方法の実施のために重要な役割を果たさないが、好ましくは1〜1000nm、より好ましくは50〜300nmの厚みを有するコーティング層が生産される。
【0017】
さらに、コーティング層の照射は、1分〜48時間、好ましくは10分〜12時間、特に好ましくは30分〜6時間の時間に渡って行うことが適切である。その際、照射は連続的に、言い換えれば全時間に渡って連続して行ことができ、他方、間隔を空けて照射を行うことも同様に可能である。その際、塗布化合物の量の減少の測定は、照射に加えて同時に行うことができ、他方、完結した照射の後、および/または照射が間隔を空けて実行される場合、その休止の間に行われてもよい。
【0018】
好ましくは照射の際にUV光が利用される、特に100nm〜800nm間、好ましくは300nm〜500nm、特に好ましくは360nm〜420nm間の波長を有する放射線が利用される。
【0019】
本発明において、基材上のコーティング層がどのような強度で照射されるかは重要ではない、単に、十分高い出力で照射が行われ、その結果、有機物質のできる限り効率的な分解が行われることが重要である。しかしながら、照射が0.1mW/cm2以上10mW/cm2以下、好ましくは0.5mW/cm2以上5mW/cm2以下、特に好ましくは0.8mW/cm2以上1.5mW/cm2以下の強度で行われることが実用的であることが明らかになっている。
【0020】
別の有利な一実施形態において、可視および/または赤外線のスペクトル範囲における光学測定法を用いた残量の決定が行われる。その際、光学測定法は特に、吸収測定、蛍光測定、分光偏光解析法および/または散光測定からなるグループから選択される。この際、特に散光測定が好ましい。この場合、実施の形態に応じて、さらに、別の光源を使用することができるが、特に、蛍光に関する残量の決定の場合、照射の際に使用されるUV光源を、その方法の実施のために必要な唯一の光源とすることも可能であり、この場合には、実験装置のさらなる有利な簡素化がもたらされる。
【0021】
本発明に関して、同様に、当該方法の使用目的を述べる。特に、基材の光触媒活性の定量化のための方法に好適である。特に、基材は、TiO2、ZnO、SrTiO3および/またはK4NbO7でコーティングされている担体構造物、ガラス、セラミックス、金属、合成樹脂、木材および/または紙からなるグループから選択される。同様に、前記方法は、化学反応(例えば酸化および/または結晶化)の結果における有機層の光学変化の分析的観察のために使用される。
【0022】
本発明は、そこで使用されている特定のパラメーターに制限されることなく、後続の実施例に基づき、添付の図面を参照してより詳しく説明される。
【実施例】
【0023】
提示の図に、その方法のために使用される典型的な装置が記載され、それにより、その方法の蒸発処置の実施がより詳細に説明される。この際、固定装置2の上に固定された基材1が、コーティング室3の中に運び込まれ、そこは、真空管4を通じて減圧状態にされることができる。さらにコーティング室3は加熱装置5を有する。例えば加熱装置は電気で稼働されることができ、変圧器7により加熱されることができる。その際、使用される有機化合物(この場合、ステアリン酸)の入ったるつぼ8は加熱装置と熱接触させられる。10-2mbarへの低圧/真空の調節後、有機化合物(例えば、ステアリン酸)の加熱が行われ、この際、低圧の適用により、有機化合物の沸点が低下する。ここで、るつぼおよび加熱器がこのよう構成されれば、ここから放出される熱放射はごくわずかとなり、且つ有機試験物質の蒸発温度が非常に速く達成されることができる。有機化合物はその後、冷たい基材の上で、液化/再昇華の過程を通じて均一な厚みを有する均質な層に変化する。溶解させた有機物質を用いる方法では、このような層は製造されない。
【0024】
コーティングの後、UVランプを用いて、規定のスペクトル(できる限り狭帯)および既知の強度(例えば、366nmのUVAおよび1.0mW/cm2)にて照射が行われる。適当な光学測定法を用いて、規定の間隔にて、試験物質の層量の測定が行われる。これは、可視および赤外線のスペクトル範囲における吸収の測定であってもよく、並びに、蛍光の測定あるいは分光偏光解析法を用いてもよい。蒸着されたステアリン酸の場合、光学的散光測定(Haze:ヘイズ)が適している、なぜなら、これらは非常に薄いステアリン酸の層について、コーティング量に対する良好な相関をすでにはっきり示す。これらの相関の決定のために、好適なキャリブレーション測定が実行される。このために、ガラス基材上に様々な量のステアリン酸を蒸発させ、これらの試料によって散乱された光を測定する。コーティングの量は、コーティング前後の基材の重量差から、精密な分析はかり(測定精度1μg)を用いて定めることができる。この際、光学ヘイズHとコーティング量μの間の関連は、指数関数によって適切に記述できる(図2および方程式1参照)。
【数1】

【0025】
具体的な測定のために、今度は、検査される試料のヘイズ測定が規定の間隔で実行される。ヘイズ測定値の時間的発展H(t)は、同様に、指数関数によって記述できる(図3および方程式2参照)。
【数2】

【0026】
ここで、分解率rDを、面積Aおよび時間tあたりの、光触媒反応の間に分解された質量mとして定義すると、この分解率は、キャリブレーション・パラメーターBおよび分解曲線から得られたフィットパラメーターRから、方程式3によって算出できる。
【数3】

【0027】
更に、光触媒活性p.a.を、面積A、放射強度Φおよび時間t当たりの、破壊されたステアリン酸分子数N分子と定義できる。これは、方程式4を使って、分解率rD、放射強度Φおよびステアリン酸分子量m分子から定めることができる。
【数4】

【0028】
光子エネルギーE光子および化学分解メカニズムあるいは分解のために必要とされる破壊される結合数Nxを知っていれば、その上さらに、方程式5を用いて、衝突する光子あたりの破壊される結合数として定義される、量子効率Qも定めることができる。
【数5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材表面の光触媒活性の定量化方法であって、
前記基材表面と直接接触した状態にある熱蒸着層であって、有機脂肪酸およびその誘導体からなるグループから選択される光を散乱する有機化合物を少なくとも一種含有する熱蒸着層が、短波の電磁放射線で照射されること、および、
散光測定によって、光触媒分解によって引き起こされた化合物量の減少の時間的経過が測定される、
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記層が、前記基材の上に蒸着されていることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記層が、電磁放射線にとって光学測定法の範囲において透明な他の基材上に、少なくとも部分的に塗布され、コーティングされた表面を有するこの他の基材が、測定する基材と接触させられることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記蒸着が、10−6mbar〜10mbarの間、好ましくは10−3mbar〜1mbarの間、特に好ましくは10−3mbar〜10−1mbarの間の減圧下で行われることを特徴とする、上記請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記蒸着が、前記有機化合物の分解温度下で行われることを特徴とする、上記請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記有機化合物が、蒸発可能な有機物質からなるグループから選択されることを特徴する、上記請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記有機化合物が、ステアリン酸および/またはステアリン酸メチルからなるグループから選択されることを特徴とする、上記請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
1〜1000nm、好ましくは50〜300nmの厚みを有するコーティング層が形成されることを特徴とする、上記請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記コーティング層の照射が、1分〜48時間、好ましくは10分〜12時間、特に好ましくは30分〜6時間の時間に渡って行われることを特徴とする、上記請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
放射線の照射のために、100nm〜800nmの間、好ましくは300nm〜500nmの間、特に好ましくは360nm〜420nmの間の波長が利用されることを特徴とする、上記請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記照射が0.1mW/cm以上10mW/cm以下、好ましくは0.5mW/cm以上5mW/cm以下、特に好ましくは0.8mW/cm以上1.5mW/cm以下の強度にて行われることを特徴とする、上記請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
残量の決定が可視および/または赤外線のスペクトル範囲にて行われることを特徴とする、上記請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
基材の光触媒活性の定量化のための、上記請求項のいずれか1項に記載の方法の使用。
【請求項14】
前記基材が、TiO、ZnO、SrTiO、および/またはKNbOでコーティングされている担体構造物、ガラス、セラミックス、金属、合成樹脂、木材および/または紙からなるグループから選択されることを特徴とする、前記請求項に記載の使用。
【請求項15】
化学反応、例えば酸化および/または結晶化の結果における、有機層の光学的変化の分析的観察のための、請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2010−507077(P2010−507077A)
【公表日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−532716(P2009−532716)
【出願日】平成19年10月16日(2007.10.16)
【国際出願番号】PCT/EP2007/008973
【国際公開番号】WO2008/046588
【国際公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【出願人】(503306168)フラウンホーファー・ゲゼルシャフト・ツール・フェルデルング・デア・アンゲヴァンテン・フォルシュング・エー・ファウ (38)
【Fターム(参考)】