説明

表面プラズモン共鳴測定装置

【課題】表面プラズモン共鳴測定装置において、迅速かつ高精度に表面プラズモン共鳴現象を測定することができる
【解決手段】一方の面に試料溶液50を接触する金属薄膜6bと、その他方の面側で全反射可能に設けられたプリズム5と、プリズム5に金属薄膜6bの他方の面の位置で全反射するような光を入射する光源部9と、反射光52の光強度を検出する2次元撮像素子8bと、全反射の入射角が一定の状態で入射光51aの波長を選択的に規制する波長可変液晶フィルタ4と、波長可変液晶フィルタ4の選択波長を変化させて金属薄膜6bでの表面プラズモン共鳴の波長特性を取得することにより、試料溶液50の性状を測定する測定制御ユニット11とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面プラズモン共鳴測定装置に関する。例えば、試料の2次元画像を取得して行う測定に好適となる表面プラズモン共鳴測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、表面プラズモン共鳴(Surface Plasmon Resonance、略称SPR)を利用して試料の屈折率や屈折率変化を検出し、試料の性状を測定するSPR測定装置が知られている。
SPRとは、金属薄膜の表面での全反射により発生するエバネッセント波の波数と、素励起により金属薄膜の表面に発生するエネルギー波である表面プラズモン波の波数とが一致する場合に、エバネッセント波が表面プラズモン波の励起に使われて全反射の反射光強度が低下する現象である。
SPR測定装置は、金属薄膜に誘電体を接触させると誘電体の屈折率に応じて表面プラズモン波の波数が変化することを利用して、SPRによる反射光強度の変化を測定することで、試料の屈折率や、屈折率変化を起こすような試料の性状変化を測定するようにしたものである。
例えば、特許文献1には、ガラス基板上に製膜され試料溶液に接触して配置された金属薄膜の近傍に半円柱プリズムを配置し、光照射装置によって半円柱プリズムの円柱部から平行光を入射し、金属薄膜の検鏡領域で全反射した光を、受光装置で検鏡するSPR顕微鏡が記載されている。
この場合、入射角の変化によりエバネッセント波の波数が変化するため、反射光強度が極小値をとる入射角(共鳴角)をエバネッセント波の波数の式に代入することで、SPRが発生する波数が算出される。試料溶液の屈折率は、この波数を表面プラズモン波の波数の式に代入することによって算出することができるものである。
このSPR顕微鏡では、半円柱プリズムを用いているため、金属薄膜上の一定位置に回動中心を置いた状態で入射角を大きく変化させることができる。
また、特許文献2には、試料溶液を接触させた金属薄膜に対して、ハロゲンランプを光源とする投光手段から出射し、ピンホールを通してから平行光束化した光を、近赤外偏光波長フィルタに通して単色化し、三角プリズムを通して一定角度で照射し、2次元の受光手段で反射光強度の2次元画像を撮像する2次元SPR装置が記載されている。ここで、2次元画像の像歪みを補正するため、受光手段にテレセントリック光学系を備えている。
この場合、2次元画像を取得するので、金属薄膜上に多数の試料を配置することで、複数の試料による同時測定が可能となっている。
なお、この特許文献2のような三角プリズムと2次元撮像手段を用いた構成において、金属薄膜への入射角がある程度の角度範囲、例えば、10°程度の角度範囲を有するように光を照射し、その出射角分布に対応して形成される2次元撮像手段上に受光分布を取得し、可動機構を用いることなく共鳴角の測定ができるようにしたSPR測定装置も知られている。
また、特許文献3には、半円柱プリズムを用いたSPR測定装置で入射角を変化させて2次元画像を取得する2次元イメージングSPR測定装置が記載されている。この光源としては、LED光源、またはLD光源を用い光ファイバを通してから平行光束化して照射するものが採用されている。
この場合、入射角を変化させて共鳴角を測定するのは特許文献1の装置と同様であるが、平行光を入射して2次元画像を取得し、そのアスペクト比を変化させることができるため、入射角を変えても、アスペクト比が一定の2次元画像を取得することができるようになっている。
また、特許文献3には、半円柱プリズムに代えて三角プリズムを用いる場合の例として、単色平行光と2つの偏光子とを用いてCCDカメラで撮像することで解像度を上げるようにした構成と、白色平行光を用いてスペクトル変化を見ることができるようにした構成とが記載されている。後者において、スペクトル変化を見る手段としては、「2次元画像分光システムやイメージング分光器とピエゾ駆動を組み合わせて観測する」ことが記載されている。
【特許文献1】特開2001−242071号公報(図1)
【特許文献2】特開2005−140577号公報(図3)
【特許文献3】特開2001−255267号公報(図1、3、7、9、10)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記のような従来のSPR測定装置では、以下のような問題があった。
特許文献1に記載の技術では、共鳴角を読みとるために光照射装置と受光装置とを、回動する機構を設ける必要があるが、機械的な位置精度によって共鳴角の検出精度が低下するおそれがあり、また装置が複雑かつ大型のものとなるという問題がある。
また機械的な回動機構では、回動速度に限度があるため、短時間、例えば、1秒以下で共鳴角を検出するような測定は困難であるため、試料が短時間で変化するような現象の測定ができないという問題がある。
特許文献2に記載の技術では、2次元画像を取得して、例えば複数の試料の同時測定が可能となるものの、共鳴角を測定するために入射角を代えるためには、三角プリズムを交換するなどの手間がかかるので迅速な測定ができないという問題がある。
一方、入射光にある程度の角度範囲を設け、反射光の2次元画像から共鳴角を算出するようにしたSPR測定装置では、回動機構を有しないので、高精度かつ簡素な装置とすることができるものの、同時に測定できる角度範囲が2次元撮像手段のセンサ面の大きさに依存し、例えば10°程度の角度範囲となってしまう。そのため、場合によっては共鳴角が測定範囲外となってしまうという問題がある。
特許文献3に記載の技術のうち、半円柱プリズムを用いたものでは、2次元画像を撮像しつつ回動機構により共鳴角を測定できるものの、回動機構が必要となる点では、特許文献1と同様の問題がある。
一方、特許文献3の三角プリズムを用いる場合の例では、白色平行光を照射して、スペクトル変化を測定することが好ましいことが示唆されている。
この場合、特許文献3に記載された受光側に配置される「2次元画像分光システムやイメージング分光器」は、具体的にどういう構成か不明であるが、画素ごとの画像データをスペクトル分析して2次元画像の分光を行う装置や、ライン画像を取得してグレーティングなどの分光器で分光して分光データを取得しライン画像の取得位置を移動して2次元画像上を走査することで2次元画像の分光を行う装置と推察される。
これらの場合、測定面積や解像度に応じて演算時間や走査時間が膨大となるため、特殊な場合を除いて、例えば1秒以下のような短時間では測定を行えないようなものなってしまうという問題がある。また、白色光を受光するので受光光学系の色収差が測定精度に影響するという問題もある。
【0004】
本発明は、上記のような問題に鑑みてなされたものであり、迅速かつ高精度に表面プラズモン共鳴現象を測定することができる表面プラズモン共鳴測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するために、請求項1に記載の発明では、一方の面に試料を接触する金属薄膜と、該金属薄膜の他方の面側で全反射可能に設けられた光透過部材と、該光透過部材に、前記金属薄膜の他方の面の位置で全反射するような光を入射する光源と、前記金属薄膜の他方の面の位置で全反射された光の光強度を検出する光検出器と、前記全反射の入射角が一定の状態で前記全反射の入射光または反射光の波長を選択的に規制する波長規制手段と、前記波長規制手段の選択波長を変化させて前記金属薄膜での表面プラズモン共鳴の波長特性を取得することにより、前記試料の性状を測定する測定制御ユニットとを備える構成とする。
この発明によれば、光源から光透過部材を通して、一方の面に試料を接触させた金属薄膜の他方の面の側に入射し、金属薄膜の他方の面の位置で全反射させ、その反射光を光検出器で検出することができる。その際、全反射の入射角が一定の状態で波長規制手段により全反射の入射光または出射光の波長を選択的に規制し、測定制御ユニットで、波長規制手段の選択波長を変化させるので、金属薄膜への入射角を変えることなく、また分光器などを用いることなく、表面プラズモン共鳴の波長特性を取得して、試料の性状を測定することができる。
【0006】
請求項2に記載の発明では、請求項1に記載の表面プラズモン共鳴測定装置において、前記波長規制手段が、前記選択波長を連続的に変化させる機構からなる構成とする。
この発明によれば、選択波長を連続的に変化させることができるので、測定分解能を向上することができる。
【0007】
請求項3に記載の発明では、請求項1または2に記載の表面プラズモン共鳴測定装置において、前記波長規制手段が、前記選択波長を単一の卓越ピークを有する狭帯域スペクトルとして設定できる機構からなる構成とする。
この発明によれば、波長規制手段が、選択波長を単一の卓越ピークを有する狭帯域スペクトルとして設定できる機構を備えるので、略単色光を用いて測定することができる。そのため、分散や色収差の影響を略除くことができるので、測定精度を向上することができる。
【0008】
請求項4に記載の発明では、請求項1〜3のいずれかに記載の表面プラズモン共鳴測定装置において、前記波長規制手段が、偏光子を含む液晶フィルタである構成とする。
この発明によれば、複数の液晶セルをそれぞれ偏光子で挟む多層構造の液晶フィルタを構成することで、低電圧で迅速に選択波長を変更することができるので、短時間のうちに選択波長を走査して全反射の反射光のスペクトル変化を検出することができる。
【0009】
請求項5に記載の発明では、請求項1〜4のいずれかに記載の表面プラズモン共鳴測定装置において、前記光検出器が、前記全反射の反射光の像を撮像する2次元撮像手段を備える構成とする。
この発明によれば、2次元撮像手段を備えるので、試料上の2次元的な表面プラズモン共鳴を検出することができる。そのため、試料の2次元的な分布を有する性状を測定したり、撮像範囲に試料を複数配置してそれらを同時に測定したりすることができる。
【0010】
請求項6に記載の発明では、請求項5に記載の表面プラズモン共鳴測定装置において、前記測定制御ユニットが、前記波長規制手段の選択波長を変化させる波長制御部と、該波長制御部による前記選択波長の変更タイミングに同期して前記2次元撮像手段の撮像制御を行う撮像制御部と、前記2次元撮像手段により撮像された画像情報を演算して前記表面プラズモン共鳴の波長特性を算出する画像処理部と、前記波長特性の情報を演算処理して前記試料の性状を評価する性状評価部とを備える構成とする。
この発明によれば、撮像制御部により、波長制御部による選択波長の変更タイミングに同期して2次元撮像手段の撮像制御を行い、選択波長の変化に対応した反射光の像を画像情報として取得できる。そして、これらの画像情報を画像処理部によって演算処理することで表面プラズモン共鳴の波長特性を算出する。この波長特性の情報を性状評価部によって演算処理することで、試料の性状を評価することができる。
そのため、選択波長の変化に応じて、分光器を用いたり、スペクトル解析を行ったりすることなく、表面プラズモン共鳴の波長特性を自動的に取得して、試料の性状を測定することができる。
ここで、表面プラズモン共鳴の波長特性とは、波長に応じた全反射の反射光強度分布を意味する。
【0011】
請求項7に記載の発明では、請求項6に記載の表面プラズモン共鳴測定装置において、前記画像処理部が、前記画像情報の演算処理を、撮像範囲の複数の部分領域ごとに行って、前記波長特性を複数取得する構成とする。
この発明によれば、撮像範囲の複数の部分領域ごとに波長特性を取得することができるので、撮像範囲内で、1つの試料における異なる場所での表面プラズモン共鳴測定を行ったり、撮像範囲内に配置された複数の試料のそれぞれで複数の表面プラズモン共鳴測定を同時に行ったりすることができる。
【0012】
請求項8に記載の発明では、請求項6または7に記載の表面プラズモン共鳴測定装置において、前記2次元撮像手段により撮像された画像情報を表示する表示部と、前記表示部の表示画面上から位置入力を行う画面入力手段とを備え、前記画像処理部の演算処理を行う前記画像情報範囲を指定できるようにした構成とする。
この発明によれば、表示部の画像を見ながら、画面入力手段によって位置入力することにより画像処理部の演算処理を行う画像情報範囲を指定できるので、測定者が現象を画面で確かめて測定範囲を設定することができる。
【0013】
請求項9に記載の発明では、請求項1〜8のいずれかに記載の表面プラズモン共鳴測定装置において、前記測定制御ユニットが、前記波長規制手段の選択波長を予め設定された掃引範囲内で、掃引して設定することにより、前記波長特性を取得する掃引測定モードを備える構成とする。
この発明によれば、掃引測定モードを備えることにより、掃引範囲の波長に対する表面プラズモン共鳴の波長特性を取得することができる。そのため、分光器やスペクトル解析を用いることなく波長特性を取得することができる。
なお、屈折率の経時的な変化を測定するためには、測定制御ユニットが、掃引測定モードを一定掃引周期で繰り返すリアルタイム測定モードを備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の表面プラズモン共鳴測定装置によれば、波長規制手段により全反射の入射光または出射光の波長を選択的に規制し、測定制御ユニットで波長規制手段の選択波長を変化させて測定することができるので、金属薄膜への入射角を変化させることなく、迅速かつ高精度に表面プラズモン共鳴現象を測定することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下では、本発明の実施の形態について添付図面を参照して説明する。すべての図面において、実施形態が異なる場合であっても、同一または相当する部材には同一の符号を付し、共通する説明は省略する。
【0016】
本発明の実施形態に係る表面プラズモン共鳴測定装置について説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る表面プラズモン共鳴測定装置の概略構成を示す模式図である。図2は、本発明の実施形態に係る表面プラズモン共鳴測定装置に用いる波長規制手段の一例について説明する模式的な断面図である。図3は、本発明の実施形態に係る表面プラズモン共鳴測定装置の測定制御ユニットの機能ブロック構成を示す機能ブロック図である。
【0017】
本実施形態の表面プラズモン共鳴(SPR)測定装置100は、図1に示すように、SPR現象を利用して、試料溶液50の屈折率を2次元の測定領域で検出し、その屈折率または屈折率変化と関係する試料溶液50の性状を測定するものであり、試料溶液50と接触した金属薄膜での全反射の入射角を一定にした状態で入射光の波長を変化させることによってSPRの波長特性を検出するものである。
【0018】
SPR測定装置100の概略構成は、図1に示すように、光源部9、波長可変液晶フィルタ4(波長規制手段)、プリズム5(光透過部材)、検出素子6、フローセル7、受光部8、および測定制御ユニット11からなる。また、図1には図示しないが、SPR測定装置100の操作入力を行うため各種操作ボタンやキーボード、マウスなどからなる操作部12(図3参照)と、反射光強度を表示したり、測定結果のグラフ表示を行ったり、操作画面を表示したりするモニタなどからなる表示部13(図3参照)を備えている。
操作部12と表示部13とは、表示画面上で位置や範囲を選択入力する画面入力手段を兼ねている。
【0019】
光源部9は、波長分布を有する光源1と、スリット2と、スリット2から出射された光を集光して略平行光束である入射光51aを形成する集光レンズ3とからなる。
光源1の波長分布の帯域は、測定すべき試料溶液50の屈折率の範囲に応じて適宜設定することができるが、汎用的な測定を行うためには、光源1の波長帯域は、広ければ広いほど、また分布形状は平坦なほど好ましい。例えば、略白色光や白色光であることが好ましい。また、波長分布が平坦でない場合は、適宜の波長フィルタを用いて波長分布を修正することが好ましい。
光源1の例として、例えば、タングステンランプ、ハロゲンランプ、クリプトンランプ、キセノンランプなどの光源、およびそれらと適宜の波長フィルタとの組み合わせを採用することができる。本実施形態では、ハロゲンランプを用いている。
スリット2は、良好な平行光束を得るために光源1から出射された光を整形する空間フィルタであり、例えば、光源1の出射光を点光源状とするために、5μm〜100μm程度のピンホールを有するものなどを採用することができる。本実施形態では、100μmのピンホール板を採用している。
なお、良好な平行光が得られる場合には、スリット2を設けなくてもよい。例えば、光源1として、点光源状の光源や光ファイバから出射光を採用する場合には、スリット2は省略できる。
集光レンズ3は、焦点位置がスリット2のピンホールの位置に一致するように配置された凸レンズを採用することができる。
【0020】
波長可変液晶フィルタ4は、集光レンズ3により平行光束とされた入射光51aを透過して、中心波長λ(選択波長)、半値幅wとされた狭帯域の波長分布を有する入射光51bを形成するとともに、中心波長λを選択的に変化させることができるようにしたものである。
本実施形態では、図2に示すように、複数の液晶セル4bをそれぞれ偏光子4a、4aで挟んで複数積層させた構成を有する。そして、各液晶セル4bの印加電圧を液晶フィルタ駆動制御部10によって変化させることで、透過光の中心波長λを連続的に変化させることができるようになっている。
波長可変液晶フィルタ4は、偏光子4aを用いているので、出射光は偏光状態とされる。表面プラズモンはp偏光のみと結合するので、出射光はp偏光となるように位置関係を調整しておくことが好ましい。この場合、一般的に従来のSPR測定装置で入射光の光路に配置される偏光板は省略することができる。
【0021】
このような波長可変液晶フィルタは、いわゆるLyotフィルタを改良した構成を有し、偏光子が平行ニコルか直交ニコル(クロスニコル)かの配置状態と液晶セルの数などを適宜組み合わせることで、波長可変範囲を自由に設計することができ、任意の波長において良好なバンドパスフィルタを形成することができるものである(内田、「応用物理」、1995、第64巻、第5号、p.451−455)。
波長可変範囲は、偏光と複屈折を利用して波長を変化させるため、帯域には特に制約がなく、試料の種類や後述する2次元撮像素子8bの波長感度に応じて、可視域、紫外域、赤外域のいずれにわたっていてもよい。例えば、400nm〜700nmのような相対的に広帯域のものや、400nm〜500nmのような相対的に狭帯域のものを必要に応じて作成することが可能である。
このタイプの波長可変液晶フィルタによって、狭帯域のバンドパスフィルタを構成できることは、例えば、特開2005−115208に記載されており、また、R、G、Bのカラーフィルタを構成できることが、特開2000−267127に記載されている。
本実施形態では、例えば、CRI(ケンブリッジリサーチアンドインストルメンテーション)社製のバリスペック(登録商標)フィルターを好適に採用することができる。
【0022】
プリズム5は、波長可変液晶フィルタ4を透過した入射光51bを、検出素子6で全反射する角度に導くための部材である。材質としては、適宜の材質、例えば、ガラスの場合、BK7(屈折率n=1.5163)やSFL6(屈折率n=1.80518)などを好適に採用することができるが、これに限定されるものではなく、例えば、プラスチック製のプリズムを採用してもよい。
また、入射光51bを平行光として検出素子6に導くことができれば適宜の断面形状を採用することができる。
【0023】
本実施形態では、BK7を硝子材とするガラス製の三角プリズムを採用している。各プリズム面を周方向に沿って、第1面5a、第2面5b、第3面5cとするとき、第1面5aは、入射光51bの入射面をなしており、第2面5bは、検出素子6の配置面をなし、第3面5cは全反射の反射光52の出射面をなしている。
そして、プリズム5の角度は、第1面5aに対して略0°で入射する入射光51aが、例えば、70.4°の入射角で検出素子6に入射するとともに、反射光52が、第3面5cから略0°の出射角で出射するような角度に設定されている。
このように第1面51cへの入射角を略0°とすることで、第1面51cでの屈折角度を略0°とすることができるから、入射光51bの波長を変化させても検出素子6における照射位置のずれがほとんど発生しない。そのため、高精度の測定が可能となる。
ただし、測定精度が許容できる場合には、有限の角度で入射させてもよい。
【0024】
検出素子6は、透明な薄膜基板の一方の面に金属薄膜6bを形成したもので、薄膜基板の他方の面が、プリズム5の第2面5bのうち、入射光51bが照射される領域に装着される。
薄膜基板としては、例えば、ガラス製のカバーグラスやプラスチック製の薄膜等を使用することができるが、本実施形態では、例えばガラス製のカバーグラスからなるガラス板6aを採用している。
金属薄膜6bとしては薄膜化できる各種の金属を使用することができ、例えば白金、金、銀、銅、ニッケル、鉄、アルミニウム、ステンレス等が含まれる。特に好ましい金属薄膜としては、金からなる金属薄膜が挙げられる。金属薄膜6bの厚みは、通常25nm〜90nm、好ましくは40nm〜60nmである。
金属薄膜6bは、ガラス板6aの一面側に例えば、蒸着、コーティング等の手法で形成することができる。
検出素子6をプリズム5に装着する方法は、特に限定はなく、例えば、マッチングオイルを用いて表面張力を利用して装着する他、接着剤による方法やアダプタを用いて接着する方法などが採用できる。
【0025】
フローセル7は、試料溶液50を受け入れる容器であり、その内面の試料流路7aに、検出素子6の金属薄膜6bが露出されている。フローセル7には入口7bと出口7cとが設けられ、図示していないポンプ等で試料溶液50試料流路7a中に流すことができるようになっている。
フローセル7は、必要に応じて複数の試料溶液50を独立して流すことができるように検出素子6上の異なる領域に複数設けられている。
【0026】
受光部8は、反射光52の光強度を検出するもので、本実施形態では、撮像レンズ8aと、撮像レンズ8aの像面に配置された2次元撮像素子8bとを備える。これにより、試料溶液50が流される検出素子6の全領域からの反射光52の光強度を2次元的に検出できるようになっている。
2次元撮像素子8bとしては、例えばCCDカメラ、CMOSカメラ、リニアアレイなどの受光素子を採用することができる。本実施形態では、画素数が480×640で、各画素が256階調のモノクロのCCDカメラを用いている。
なお、撮像レンズ8aは、2次元撮像素子8bの面積と反射光52の面積とを適切に調整すれば省略してもよい。
【0027】
測定制御ユニット11は、SPR測定装置100の測定動作を制御するもので、例えば、CPU、メモリ、入出力インタフェース、外部記憶部などを備えるコンピュータや、適宜のハードウェアなどから構成される。そして、図3に示すように、装置制御部16、波長制御部14、光源制御部15、撮像制御部17、画像記憶部18、画像処理部19、および性状評価部20などの機能ブロック構成を備える。これらの機能ブロックは、対応するハードウェアやコンピュータにロードされたプログラムなどにより実現される。
【0028】
また、測定制御ユニット11は、少なくとも、測定者が操作部12から操作して特定の測定波長などの条件を設定して測定を行う手動測定モード、操作部12から測定波長の掃引範囲などを指定して、測定波長を変えながら連続測定を行う掃引測定モード、掃引測定モードを一定掃引周期で反復するリアルタイム測定モードとを備える。
【0029】
装置制御部16は、操作部12と電気的に接続され、操作部12からの操作入力に応じて、波長制御部14、光源制御部15、撮像制御部17、画像処理部19などに適宜の制御信号や情報を送出してそれぞれの動作を制御するとともに、それぞれから取得した情報を表示部13に表示するものである。
【0030】
波長制御部14は、波長可変液晶フィルタ4の透過波長の中心波長λを選択するためのもので、装置制御部16から送出される波長情報を液晶フィルタ駆動制御部10に送出する。液晶フィルタ駆動制御部10では、波長制御部14から送出された波長情報に対応して各液晶セル4bに印加する電圧を制御する。
波長制御部14は、単一の波長を選択することもできるが、操作部12から掃引測定モードが設定された場合には、装置制御部16から掃引開始波長λ、波長増分Δλおよび掃引ステップ数の情報が転送され、装置制御部16からのタイミング信号に同期して、中心波長λを初期値λから順次更新して液晶フィルタ駆動制御部10に送出するようになっている。
【0031】
光源制御部15は、装置制御部16から送出される制御信号と照明設定情報に基づいて、光源1の点灯制御および光量設定を行うものである。
【0032】
撮像制御部17は、装置制御部16から送出される制御信号によって、2次元撮像素子8bの撮像動作を制御するとともに、2次元撮像素子8bの撮像信号を取得するものである。
2次元撮像素子8bから取得された撮像信号は、装置制御部16に送出され、例えばNTSC信号などに変換されて表示部13に表示できるようになっている。
また、撮像制御部17は、取得された撮像信号を、必要に応じてノイズ除去や波長感度補正など適宜の信号処理を行ったのち、2次元画像データ(画像情報)に変換して、画像記憶部18に記憶する。
掃引測定モードが設定された場合には、撮像制御部17の制御動作は、波長制御部14に送出されるタイミング信号に同期して制御される。このため、撮像時の中心波長λに応じた2次元画像データが、画像記憶部18に順次記憶されていく。
【0033】
画像記憶部18は、撮像制御部17から送出される2次元画像データを記憶するためのものであり、2次元撮像素子8bの画素数や波長掃引分解能を考慮して、十分な記憶容量を有するように構成される。
【0034】
画像処理部19は、画面入力手段や操作部12から入力された指定の画像領域内で2次元画像データを演算してSPRの波長特性を算出するものである。
例えば、指定された画像領域内の輝度の平均値をとって、中心波長λの場合の反射光52の光強度Rを算出する。
また、掃引測定モードの場合には、掃引範囲の波長の数nmaxに応じて、波長特性であるデータ列(λ,R(λ))(ただし、i=1,2,…,nmax)を取得し、それらに演算処理を行って、変化率や極値を求めたり、カーブフィッティングを行ったりすることができるようになっている。
また、画像処理部19は、これらの演算結果を、数値やグラフにして表示部13に表示できるようになっている。
【0035】
性状評価部20は、画像処理部19が算出した波長特性の情報を演算処理し、試料溶液50の性状を評価するものである。試料溶液50の性状は、SPRを用いて測定される試料溶液50の屈折率、あるいは屈折率の変化と関係するものであれば、どのような性状でもよい。
そして、屈折率とこれら性状の特性値との関係を予め求めて数値テーブルや近似式などの形態で、記憶しておき、波長特性の情報から求められる屈折率、あるいは屈折率の変化に対応して、所望の性状に関する特性値を算出する。
また、性状評価部20は、このような算出結果を、数値やグラフにして表示部13に表示できるようになっている。
【0036】
次に、本実施形態のSPR測定装置100の動作について説明する。
図4は、本発明の実施形態に係る表面プラズモン共鳴測定装置の2次元画像情報を取得する動作の一例を示すフローチャートである。図5(a)、(b)は、それぞれ本発明の実施形態に係る表面プラズモン共鳴測定装置の表示画面およびグラフ出力画面の一例である。図6は、本発明の実施形態に係る表面プラズモン共鳴測定装置の波長特性を算出する動作の一例を示すフローチャートである。図7(a)、(b)、(c)は、それぞれ入射光の中心波長を580nm、650nm、720nmに変化させた場合の反射光の輝度分布を示す表示画面の写真である。図8(a)、(b)、(c)は、それぞれ図7(a)、(b)、(c)の断面方向の輝度分布を示すグラフである。図9は、本発明の実施形態に係る表面プラズモン共鳴測定装置により取得された波長特性の一例を示すグラフである。ここで、横軸は入射光の波長(nm)、縦軸は反射光強度を画像データの輝度レベルで表したものである。図10は、本発明の実施形態に係る表面プラズモン共鳴測定装置の性状測定に用いる極大吸収波長と試料の特性値との関係の一例を示すグラフである。ここで、横軸は特性値の一例であるエタノール濃度(%)、縦軸は極大吸収波長(nm)を示す。
【0037】
SPR測定装置100で測定を行うには、(a)検出素子6の金属薄膜6b上に検出対象物質に応じた生化学物質等を固定化する方法、(b)抗原との結合による抗体の屈折率変化を測定する場合のように金属薄膜6b上に抗体を固定化し試料流路7aに抗原を含んだ試料溶液50を流す方法、(c)試料溶液50をフローセル7の試料流路7aに流す方法などがある。
【0038】
例えば、(a)の方法の場合、検出素子6の金属薄膜6b上にスポッテイング装置などを用いて、検出対象物質に応じた生化学物質等を固定化する。生化学物質としては、タンパク質、DNA、糖タンパク、糖脂質、細胞、ウィルス、細菌等が挙げられる。
スポッテイング装置では、通常等間隔で一定量の生化学物質をスポッテイングできる。スポッテイングできる数はスポッテイング装置の最小容量などで決まる。例えば金属薄膜6bの大きさが10mm×10mmの場合、0.5mm径のスポットを0.5mm間隔でスポッテイングすれば、10×10=100個のスポットを作製することができる。当然、金薄膜の面積を20mm×20mmで同様な間隔でスポットすれぱ400個のスポットを作製することが可能である。
生化学物質を固定化した検出素子6は、ガラス板6aとプリズム5の第2面5bとをマッチングオイルで密着させる。そして、フローセル7をセットする。
また(b)の方法の場合、上記と同様に金属薄膜6b上に抗体を固定化し、抗原との結合や解離を測定する場合にフローセル7に抗原を含んだ溶液を一定速度で流す。
【0039】
以下では、これらの測定に概ね共通する動作を説明するため、(c)の一例として、試料のエタノール濃度を測定する場合の校正曲線を求める測定を例に取って説明する。他の測定に特有の事項については必要に応じて説明する。
【0040】
本測定では、試料溶液50として、濃度を5%おきに30%まで調整したエタノール水溶液と純水(エタノール濃度0%)との7種類を用意した。フローセル7を検出素子6上に7つ設けることで、これらの測定を同時に行うことができるが、本例では、フローセル7を2つ配置して、それぞれに濃度の異なる試料溶液50を流している。
そして、掃引測定モードによって、入射光51bの中心波長を、波長580nmから720nmまで、5nmおきに変えて照射することで、2種類の試料溶液50を同時測定している。
【0041】
図4のステップS1〜S6は、掃引測定モードにおける2次元画像データ取得工程の動作を示している。
操作部12から掃引測定モードが設定されると、表示部13に初期設定画面が表示され、掃引開始波長λ、掃引終了波長λmax、波長増分Δλの入力が求められるので、例えば、λ=580nm、λmax=720nm、Δλ=5nmを入力する(ステップS1)。
ここで、波長増分Δλはできるだけ小さいことが好ましいが、要求される測定精度や画像処理に要する時間などを考慮して設定することが好ましい。
【0042】
掃引測定モードにおける波長掃引範囲は、測定する試料の種類に応じて最適な波長に設定する。例えば、試料が生体物質の場合には、生化学物質の分子量、入射光の入射角度、金属薄膜の種類、厚さなどによって、SPRが発生する波長範囲が変わるので、実験的に最適な掃引条件を設定することが好ましい。
したがって、本実施形態のように580nm〜720nmに限定されるものではなく、必要に応じて、例えば400nm〜500nm、500nm〜600nm、700nm〜800nmなどを選ぶことができる。
一般に、赤外などの長波長側ほど、SPRによる反射光強度の変化が急峻になるので、特性値をより高分解能で求めることできて好ましい。
【0043】
ステップS2では、ステップS1の入力値が、装置制御部16によって波長制御部14に送出され、波長制御部14によって波長可変液晶フィルタ4の中心波長をλに設定する。
このとき、波長可変液晶フィルタ4は、各液晶セル4bの印加電圧に応じて、各液晶セル4bの複屈折率が確定されて、中心波長λ、半値幅wのフィルタ特性が設定される。
波長可変液晶フィルタ4では、このように電圧制御のみで、フィルタ特性が設定され、機械的な可動部、回動部をまったく含まない機構で変化させることができる。そのため、波長の切替に要する時間は、液晶セル4bの応答速度程度のきわめて短時間で済むものである。例えば、50ms〜150ms程度の時間で波長をチューニングすることができる。
【0044】
また、本実施形態の波長可変液晶フィルタ4は、単一の中心波長を有する狭帯域バンドパスフィルタである点でも高速化に有利である。
液晶を用いた他の波長可変技術、例えば、液晶ファブリペロエタロンなどでも、狭帯域バンドパスフィルタを実現することもできるが、このような技術では、可変波長範囲はせいぜい100nm程度と狭く、しかもその波長範囲内に複数のピーク波長を有するため、別のバンドパスフィルタで不要な波長帯域をカットする必要がある。そして、波長を変化させるにつれて不要な波長帯域もシフトするため、多数の別のバンドパスフィルタを用意して切り替えて用いる必要がある。このため、機械的な可動機構が必要となって切り替えに時間がかかってしまうものである。
【0045】
一方、光源制御部15に制御信号が送出され、光源1が点灯される。光源1で発生した光は、スリット2で整形され、集光レンズ3により平行光束化されて、入射光51aとして進み、中心波長がλに設定された状態の波長可変液晶フィルタ4に入射する。そして、中心波長λの狭帯域スペクトルを有する入射光51bとして、プリズム5の第1面5aに向けて出射される。
【0046】
次にステップS3では、撮像制御部17によって、2次元撮像素子8bによる撮像が開始される。
一方、プリズム5の第1面5aに入射した入射光51bは、入射角が略0°のため、略屈折されずに直進して、第2面5bに到達する。
第2面5bには、マッチングオイルを介してガラス板6aが装着されているため、入射光51bは、ガラス板6aを透過して、金属薄膜6bに到達する。このとき、金属薄膜6bでは、入射角70.4°とされ、入射光51bが反射光52として全反射される。
反射光52は、プリズム5の第3面5cから略屈折されることなく出射され、撮像レンズ8aに入射し、2次元撮像素子8b上に結像される。
【0047】
2次元撮像素子8bで発生される撮像信号は、撮像制御部17を介して装置制御部16に送出され撮像画像が表示部13に表示される。また、撮像制御部17では、撮像信号に必要に応じて信号処理を施して2次元画像データを生成し、画像記憶部18に記憶する(ステップS4)。
この2次元画像データを形成する反射光52は、金属薄膜6bに接触する試料溶液50の屈折率によっては、SPRが発生し、SPRが発生しない場合の全反射の反射光強度に比べて減光される。
【0048】
次にステップS5では、波長制御部14によって、中心波長λを波長増分Δλだけ更新する。
ステップS16では、このλとλmaxとを比較して、λ≦λmaxの場合は、ステップS2に移行し、上記の各ステップを繰り返す。
λ>λmaxの場合は、2次元画像データ取得工程を終了する。
【0049】
以上、ステップS2〜S6が繰り返されることで、全反射の入射角を一定とした状態で、λ〜λmaxまでΔλ間隔で中心波長を変化させたときの2次元画像データが取得され、画像記憶部18に順次記憶される。すなわち、本実施形態では、波長範囲140nm内で29個の波長に対応する2次元画像データが記憶される。
上記各ステップの動作時間は、可動機構の動作を含まず、いずれもきわめて短時間で実行可能なので、画像記憶部18のアクセス時間などにもよるが、本実施形態では、ステップS2〜S6を約1秒で実行できるようになっている。すなわち、掃引測定モードは反復するリアルタイム測定モードでは、掃引周期を約1秒に設定することができるものである。
【0050】
このように、波長可変液晶フィルタ4によって入射光51bの中心波長λを掃引して、反射光52の反射光強度を測定すると、SPRの共鳴角測定と同等の測定を行うことができる。
すなわち、金属薄膜6bには、全反射に伴って入射光51bのエバネッセント波が生じるが、この波数ベクトルのp偏光成分Kevは次式で表される。
ev=Ksinθ ・・・(1)
ここで、Kは入射光の波数、nはプリズムの屈折率、θは入射角である。
一方、金属薄膜6bの表面では、表面プラズモン波が生じ、その波数は次式により表される。
sp=(ω/c)・√{ε・n/(ε+n)} ・・・(2)
ここで、cは光速、ωは角振動数、εは金属薄膜6bの誘電率、nは試料溶液50の屈折率である。
また、角振動数ωと波長の関係により、ω=2πc/λだから、式(2)は、次式のようになる。
sp=(2π/λ)・√{ε・n/(ε+n)} ・・・(2a)
SPRが発生するのは、Ksp=Kevとなる場合であるから、式(2a)より、SPRが入射角θだけでなく波長λにも依存することが分かる。
そのため、反射光52の波長特性を算出することで、SPRが発生する試料溶液50の屈折率を測定することができる。
【0051】
2次元画像データ取得工程で取得された2次元画像データは、図5(a)に示すような表示画面で表示部13に表示される。
図5(a)の縦軸方向は、図1の紙面奥行き方向に対応し、図5(a)の横軸方向は、図示右側が、図1における金属薄膜6bの図示右側の画像に対応する。
図5(b)は、図5(a)上に表示されたカーソル33a、33bにそれぞれ対応する断面での輝度分布33b、34bのグラフを示している。図5(b)の横軸は、図5(a)の横軸に対応する角度換算された位置であり、縦軸は2次元撮像素子8bの輝度レベルである。輝度レベルは、反射光強度0の黒レベルが0、反射光強度最大の白レベルが255の256階調で表されている。
ここで、枠31、32で示した位置にフローセル7、7が配置されている。枠31、32の周囲で輝度が高いのは、入射光51bがSPRにより吸収されることなく全反射されているためである。これに対して、枠31、32の内側では、SPRが発生し反射光52が減光している。
【0052】
ここで、2次元画像は従来のSPR測定装置と同様に、入射角に応じてアスペクト比を調整する画像処理を行ってもよい。ただし、本実施形態では、一定の入射角で測定を行うことができるので、アスペクト比を調整したとしても、各2次元画像データに共通の処理を行うだけでよいので、画像処理が簡素となるという利点がある。
【0053】
図6に示すステップS7〜S12は、画像処理部19によって、2次元画像データ取得工程で取得された2次元画像データを演算処理して、SPRの波長特性を算出する工程の一例である。本実施形態では、枠31、32内の一部を測定領域(部分領域)として設定し、その反射光強度を平均し、その測定領域においてSPRによって減光した反射光強度Rとする。
【0054】
まず、ステップS7では、測定条件を設定する。入力は操作部12や表示部13から適宜行うことができるが、予め入力された設定ファイルを装置制御部16に呼び出して、自動設定するようにしてもよい。
測定条件としては、以下の計算条件や、算出する特性値の設定条件を必要に応じて設定する。計算条件としては、少なくとも、測定領域の設定を行う。
本実施形態では、2次元画像データ上の異なる領域に複数の試料溶液50が配置されているので、SPRによる反射光強度Rの減光状態を精度よく測定できるような測定領域を、2次元画像表示画面30を通して設定する。例えば、本例では、原理的にフローセル7の内部のエタノール濃度は一定だから、画像ノイズが少ない領域を設定する。
また、金属薄膜6bに検出対象物質や抗体などが、固定化されている場合は、固定化されている範囲を測定領域として設定する。
また、現象が試料上で部分的に発生する場合は、現象が発生している範囲を測定領域として設定する。
測定領域の設定の仕方は、例えば、特に図示しないが、操作部12から、例えばマウスのドラッグ操作などによって2次元画像表示画面30の枠31、32内に相当する矩形領域に領域選択カーソルを表示させて選択するなどして各試料溶液50に応じた測定領域を設定する。
なお、測定領域は、必ずしも2次元の矩形領域に限定されない。例えば、測定の中心座標を設定して、円状などの測定領域を選択できるようにしてもよいし、カーソル33a、33bなどを用いて、適宜断面を表示してライン状の範囲を選択できるようにしてもよい。
【0055】
次に画像記憶部18に記憶された2次元画像データを順次呼び出すためにカウンタnと、2次元画像データ取得工程で取得した2次元画像データの数に対応するカウンタ上限値nmax=29とを初期設定し、n=1とする(ステップS8)。
そして、カウンタnに応じたn番目の2次元画像データをメモリに呼び出し(ステップS9)、各測定領域の反射光強度を算出して、演算用に確保されたメモリに記憶する(ステップS10)。
本実施形態では、測定ノイズを低減するため、ステップS7で設定された測定領域の平均輝度を算出し、その値を反射光強度Rとしている。ただし、測定の必要によっては、適宜の代表値、例えば測定領域内の最低輝度、最高輝度などとして算出するようにしてもよい。
そして、カウンタnを更新する(ステップS11)。
ステップS12では、カウンタnとカウンタ上限値nmaxを比較し、n≦nmaxであれば、ステップS9に移行して、上記の各ステップを繰り返す。
n>nmaxの場合は、ステップS13に移行する。
【0056】
ステップS13では、各測定領域の波長特性を、波長λに対する反射光強度Rのデータ列として求め、図8に示すようなグラフとして、表示部13に表示するとともに、それらのデータを演算処理することによって、極大吸収波長λを求める処理を行う。極大吸収波長λは、SPRの共鳴角の測定に相当するもので、式(1)、(2a)などの関係から、試料溶液50の屈折率に換算することができるものである。
ただし、図8は、図示の都合により、620nm〜700nmの波長範囲のデータのみプロットしている。
【0057】
例えば、λ=580nm、650nm、720nmの2次元画像データの例を、図6(a)、(b)、(c)に示す。ここで、図5(a)の枠31、32に相当するフローセル7、7にはそれぞれエタノール濃度20%、30%の試料溶液50が流されている。また、それぞれにおけるカーソル33a、34aにおける輝度分布33b、34bを図7(a)、(b)、(c)に示す。
そして、これらのような2次元画像データの演算結果からから反射光強度Rを求め、曲線44、46を表示する。本例では、測定領域が2箇所のため、他の曲線は、試料溶液50を入れ替えて再度測定することにより得られる。
【0058】
極大吸収波長λは、図8のような曲線の極小値を与える波長であり、例えば、波長特性であるデータ列(λ,R(λ))(ただし、i=1,2,…,nmax)を隣接比較することにより求めることができる。
本実施形態では、より高精度に極大吸収波長λを求めるため、このように隣接比較して求めたλminを仮のλとし、λmin±20nmの範囲でのデータ列を用いて、例えば、最小自乗法を用いた2次曲線によるカーブフィッティングを行い、その2次曲線の最小値を与える波長をλとして算出している。
【0059】
次にステップS14では、ステップS13で求めた波長特性を用いて、角測定領域の試料溶液50に対して性状評価を行う。
例えば、ステップS13で求めた極大吸収波長各極大吸収波長λから、試料溶液50の屈折率を求めたり、経時現象では、屈折率の変化を求めたりすることが挙げられる。一般には、予め屈折率または屈折率変化に対応する現象の特性値と、極大吸収波長λとの関係を校正曲線などの形で求めておき、この校正曲線から極大吸収波長λに対応する特性値を求めて、数値やグラフなどとして表示する。
【0060】
本実施形態の例はこのような校正曲線を作成するためのもので、各試料溶液50のエタノール濃度と、極大吸収波長λの関係を表す近似式を、例えば回帰分析などによって取得し、図9に示すようなグラフにプロットして、表示部13に表示する。
以上で、SPR測定装置100による測定が終了する。
【0061】
図9に示すように、本例の場合、エタノール濃度と極大吸収波長λとの関係は、直線近似式y=0.444x+653.68で表され、決定係数R=0.9982となっているのでも分かるようにきわめて良好な相関があるものである。
したがってこの関係式を校正曲線として用いることで、エタノール濃度が不明な試料溶液50や、エタノール濃度が生体反応などによって変化する試料溶液50を用いて測定した極大吸収波長λから正確なエタノール濃度を測定することができる。また、エタノール濃度変化に対応する屈折率も測定することができる。
【0062】
以上では、掃引測定モードの例で説明したが、上記でステップS4を削除し、それに応じてステップS8でnmax=1とすれば手動測定モードの動作となり、上記、ステップS1〜S14を適宜のサンプリング間隔で自動的に反復すればリアルタイム測定モードの動作となる。
【0063】
本実施形態のSPR測定装置100によれば、入射光51bの波長を波長可変液晶フィルタ4で変化させて、掃引測定を行い、極大吸収波長λを測定することで、金属薄膜6bへの入射角を変化させることなく、SPRの共鳴角測定に対応する測定を行うことができる。
そのため、機械的な可動機構や、分光器などを用いることなく、迅速かつ高精度にSPRの波長特性を求めることができる。
【0064】
なお、上記の説明では、波長規制手段を光源と光透過部材との間の光路に配置した例で説明したが、光源と光検出器との間の光路であればどこに配置してもよい。
例えば、金属薄膜と光検出器との間に配置してもよい。この場合、波長規制手段は、全反射の反射光の波長を選択的に規制するものとなっている。そして、この場合、光源と金属薄膜との間には、金属薄膜に対して入射光がp偏光で入射するように偏光子を配置することが好ましい。
また、波長規制手段が、例えば複数の液晶セルをそれぞれ偏光子で挟む多層構造の液晶フィルタなどのように、平行光の波長を変化させるものである場合には、光源と光検出器との間の平行光の光路中に配置するようにする。
【0065】
また、上記の説明では、波長規制手段が、連続的に変化させる機構を採用した例で説明したが、必要な波長分解能が得られるならば、飛び飛びの波長に変化させる機構であってもよい。
【0066】
また、上記の説明では、波長規制手段が、単一の卓越ピークを有する狭帯域スペクトルとして設定できる機構を用いた例で説明したが、波長可変範囲によっては、複数の卓越ピークを有する狭帯域スペクトルとして設定できる機構と、必要な卓越ピークのみ透過させるバンドパスフィルタとを組み合わせて構成してもよい。
【0067】
また、上記の説明では、光検出器が、2次元撮像手段を備える場合の例で説明したが、1箇所に配置された試料のSPR測定を行う場合には、例えばフォトダイオードなどの光検出器を採用してもよい。
【0068】
また、上記の説明では、入射光の入射角を一定として、波長のみを変化させる場合の例で説明したが、許容できる測定精度が得られれば、波長規制手段と入射光の入射角を変化させる機構とを組み合わせることで、複数の入射角を選択的に切り替えることが可能な構成とし、一定の入射角に設定した状態で波長規制手段により波長を変化させる構成としてもよい。
この場合、入射角が一定の状態で波長を変化させる限りでは、上記と同様の作用効果を有する。また、波長を変化させることと入射角を変化させることとは同等なので、それぞれを組み合わせることでSPRの測定範囲をより広げることができるという利点がある。
特に試料の2次元撮像を行わない測定の場合には、三角プリズムに代えて円柱プリズムを用いることで、測定精度にほとんど影響しない測定を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の実施形態に係る表面プラズモン共鳴測定装置の概略構成を示す模式図である。
【図2】本発明の実施形態に係る表面プラズモン共鳴測定装置に用いる波長規制手段の一例について説明する模式的な断面図である。
【図3】本発明の実施形態に係る表面プラズモン共鳴測定装置の測定制御ユニットの機能ブロック構成を示す機能ブロック図である。
【図4】本発明の実施形態に係る表面プラズモン共鳴測定装置の2次元画像情報を取得する動作の一例を示すフローチャートである。
【図5】本発明の実施形態に係る表面プラズモン共鳴測定装置の表示画面およびグラフ出力画面の一例である。
【図6】本発明の実施形態に係る表面プラズモン共鳴測定装置の波長特性を算出する動作の一例を示すフローチャートである。
【図7】入射光の中心波長を580nm、650nm、720nmに変化させた場合の反射光の輝度分布を示す表示画面の写真である。
【図8】図7の断面方向のそれぞれの輝度分布を示すグラフである。
【図9】本発明の実施形態に係る表面プラズモン共鳴測定装置により取得された波長特性の一例を示すグラフである。
【図10】本発明の実施形態に係る表面プラズモン共鳴測定装置の性状測定に用いる極大吸収波長と試料の特性値との関係の一例を示すグラフである。
【符号の説明】
【0070】
1 光源
2 スリット
3 集光レンズ
4 波長可変液晶フィルタ(波長規制手段)
4a 偏光子
4b 液晶セル
5 プリズム(光透過部材)
6 検出素子
6a ガラス板
6b 金属薄膜
7 フローセル
8 受光部
8a 撮像レンズ
8b 2次元撮像素子(光検出器)
9 光源部
10 液晶フィルタ駆動制御部
11 測定制御ユニット
12 操作部
13 表示部
14 波長制御部
16 装置制御部
17 撮像制御部
18 画像記憶部
19 画像処理部
20 性状評価部
30 2次元画像表示画面
50 試料溶液(試料)
51a、51b 入射光
52 反射光
100 表面プラズモン共鳴測定装置
λ 中心波長(選択波長)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の面に試料を接触する金属薄膜と、
該金属薄膜の他方の面側で全反射可能に設けられた光透過部材と、
該光透過部材に、前記金属薄膜の他方の面の位置で全反射するような光を入射する光源と、
前記金属薄膜の他方の面の位置で全反射された光の光強度を検出する光検出器と、
前記全反射の入射角が一定の状態で前記全反射の入射光または反射光の波長を選択的に規制する波長規制手段と、
前記波長規制手段の選択波長を変化させて前記金属薄膜での表面プラズモン共鳴の波長特性を取得することにより、前記試料の性状を測定する測定制御ユニットとを備えることを特徴とする表面プラズモン共鳴測定装置。
【請求項2】
前記波長規制手段が、前記選択波長を連続的に変化させる機構からなることを特徴とする請求項1に記載の表面プラズモン共鳴測定装置。
【請求項3】
前記波長規制手段が、前記選択波長を単一の卓越ピークを有する狭帯域スペクトルとして設定できる機構からなることを特徴とする請求項1または2に記載の表面プラズモン共鳴測定装置。
【請求項4】
前記波長規制手段が、偏光子を含む液晶フィルタであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の表面プラズモン共鳴測定装置。
【請求項5】
前記光検出器が、前記全反射の反射光の像を撮像する2次元撮像手段を備えることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の表面プラズモン共鳴測定装置。
【請求項6】
前記測定制御ユニットが、
前記波長規制手段の選択波長を変化させる波長制御部と、
該波長制御部による前記選択波長の変更タイミングに同期して前記2次元撮像手段の撮像制御を行う撮像制御部と、
前記2次元撮像手段により撮像された画像情報を演算して前記表面プラズモン共鳴の波長特性を算出する画像処理部と、
前記波長特性の情報を演算処理して前記試料の性状を評価する性状評価部とを備えることを特徴とする請求項5に記載の表面プラズモン共鳴測定装置。
【請求項7】
前記画像処理部が、前記画像情報の演算処理を、撮像範囲の複数の部分領域ごとに行って、前記波長特性を複数取得することを特徴とする請求項6に記載の表面プラズモン共鳴測定装置。
【請求項8】
前記2次元撮像手段により撮像された画像情報を表示する表示部と、
前記表示部の表示画面上から位置入力を行う画面入力手段とを備え、
前記画像処理部の演算処理を行う前記画像情報範囲を指定できるようにしたことを特徴とする請求項6または7に記載の表面プラズモン共鳴測定装置。
【請求項9】
前記測定制御ユニットが、前記波長規制手段の選択波長を予め設定された掃引範囲内で、掃引して設定することにより、前記波長特性を取得する掃引測定モードを備えることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の表面プラズモン共鳴測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−263901(P2007−263901A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−92620(P2006−92620)
【出願日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【出願人】(000219451)東亜ディーケーケー株式会社 (204)
【Fターム(参考)】