説明

表面保護材の接着方法およびそれを用いた補修方法

【課題】下地となるコンクリートやモルタルの表面の目粗しに特定の有機酸を使用することで、専用システムを用いずに簡便に表面保護材を接着できる表面保護材の接着方法を提供する。
【解決手段】表面保護材を接着する側のモルタルやコンクリートの面にグリコール酸を塗布し、表面部分のセメント水和物を分解させた後に表面保護材を接着することを特徴とする表面保護材の接着方法であり、セメント水和物を分解させた後に、プライマーを塗布してから表面保護材を接着する前記表面保護材の接着方法であり、表面保護材が、セメントペースト、モルタル、コンクリート、樹脂類、エマルジョン系皮膜、または含浸系材料のいずれかである前記表面保護材の接着方法であり、前記表面保護材の接着方法を用いたコンクリート構造物の補修方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に、土木及び建築分野における表面保護材の接着方法およびそれを用いた補修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
土木、建築分野では、劣化した構造物を補修する際に劣化部を除去し新たに耐久性に優れた補修材で修復する工事や、劣化因子を遮蔽することを目的にコンクリート表面に各種材料をライニングする工事や、表面の美観などを考慮するため化粧する工事などが行われている。
これらの工事では、下地となるコンクリートやモルタルの表面を接着する材料との付着力を確保するために目粗しを実施する場合がある。目粗しは、一般的に、サンドブラスト、ウォータージェットなどで行われる。いずれも、専用システムを用いて専門業者が行うため工事費用も高い。小面積を施工する場合はさらにコスト高になるため、電動ピックなどによる人力作業や、サンダーケレンなどが実施されることが多い。しかし、下地コンクリートにひび割れ発生を誘発する可能性が高く、表面保護材との付着力が充分に確保できない場合があった。
一方、新設の工事では、コンクリート表面付近の硬化を遅延させて、ハイウォッシャーなどで洗い流し骨材を表面に浮き出させる方法がある。この方法では、セメントの硬化を遅延する薬剤としてクエン酸やグルコン酸などのオキシカルボン酸等が使われている。(特許文献1〜2参照)。
【特許文献1】特開平10−45992号公報
【特許文献2】特開平10−202616号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、下地となるコンクリートやモルタルの表面の目粗しに特定の有機酸を使用することで、専用システムを用いずに簡便に表面保護材を接着できる表面保護材の接着方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
すなわち、(1)表面保護材を接着する側のモルタルやコンクリートの表面にグリコール酸を塗布し、表面部分のセメント水和物を分解させた後に表面保護材を接着することを特徴とする表面保護材の接着方法、(2)セメント水和物を分解させた後に、プライマーを塗布してから表面保護材を接着する(1)の表面保護材の接着方法、(3)表面保護材が、セメントペースト、モルタル、コンクリート、樹脂類、エマルジョン系皮膜、または含浸系材料のいずれかであることを特徴とする(1)または(2)の表面保護材の接着方法、(4)(1)〜(3)のいずれかの表面保護材の接着方法を用いたコンクリート構造物の補修方法、である。
【発明の効果】
【0005】
本発明の表面保護材の接着方法により、専用システムを用いずに簡便に表面保護材を接着できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明を詳細に説明する。
なお、本発明における%は特に規定しない限り質量基準で示す。
【0007】
本発明で使用するグリコール酸は、オキシカルボン酸の一種であり、その水溶液は酸性を示す。一般に、腐食性が低いことから家庭用および工業用の洗浄剤(スケール除去)、ボイラー洗浄剤、pH調整剤、化粧品原料、生分解性ポリマーの原料などの用途がある。近年では環境への配慮が重要視されるようになり、無臭で毒性がなく生分解性があることから、さまざまな酸の代替としての利用方法がある。セメント系材料の分野では、オキシカルボン酸はセメントの硬化遅延剤として利用されており、主にクエン酸、酒石酸、グルコン酸、これらの塩類が使用されている。グリコール酸は、これら酸にくらべセメント水和物を溶解させる能力が高いのが特徴である。従って、コンクリートやモルタル表面を目粗しする場合、迅速に処理することが可能となる。
【0008】
モルタルやコンクリートの表面にグリコール酸を塗布する方法は、特に限定するものではないが、例えば、刷毛やローラーでコンクリートやモルタル表面に塗る方法や、噴霧器を用いて散布する方法がある。また、スポンジや布などに染み込ませておきコンクリートやモルタル表面に貼り付ける方法がある。
グリコール酸は、粉末状および水溶液として入手可能である。粉末状の場合は水に溶解させて使用すればよい。水に溶解する濃度は、コンクリートやモルタル表面の目粗しが充分に行える濃度範囲であれば、特に限定するものではない。
目粗しに要する時間は、酸性度によって数分〜数日に調整可能である。直ぐに表面保護材を打ち継ぐ場合は40〜80%の水溶液を使用すればよく、翌日以降であれば、5〜20%の使用液を使用すればよい。
グリコール酸を塗布した後、塗布してのままの状態で放置してもよく、ブラシなどで擦りながら目粗しを行ってもよい。
グリコール酸の塗布量は、一回に50〜200g/mが目安であり、目粗しが不十分と判断される場合は、数回に分けて塗布すればよい。
充分に目粗しが完了したと判断されたら、表面を水洗いしグリコール酸を洗い流せばよい。
【0009】
本発明で使用するプライマーとは、表面保護材を接着するときの接着力をより高める効果を発揮するものである。グリコール酸による目粗し処理が完了した後にプライマーを塗布する。
プライマーの種類としては、特に限定するものではなく、一般的に市販されているものが使用できる。例えば、エチレンー酢酸ビニル系やアクリル酸エステル系の水性ポリマーディスパージョンや、エポキシ樹脂系のプライマーや、これらにセメントなどの無機粉体を配合したペーストなどが使用できる。プライマーの使用量は、特に限定するものではなく、製造元の仕様などに基づいて行う。
プライマーの塗布方法は、特に限定するものではなく、刷毛塗り、ローラー塗り、吹付けいずれも可能である。
【0010】
本発明の表面保護材とは、セメントペースト、モルタル、コンクリート、樹脂類、エマルジョン系皮膜、含浸系材料であり、一般に市販されているものであれば適用可能である。
セメントペーストとしては、JIS R 5210に規定されている各種ポルトランドセメント、JIS R 5211、JIS R 5212、およびJIS R 5213に規定された各種混合セメント、JISに規定された以上の混和材混入率で製造した高炉セメント、フライアッシュセメント、及びシリカセメント、石灰石粉末などを混合したフィラーセメント、アルミナセメントなどから選ばれる1種または2種以上を使用したセメントに、水と、例えば、ポリマー混和剤や防錆剤を配合したものなどが挙げられる。
モルタルとしては、上記のセメントに、水と砂(細骨材)を配合したものを主体とするもので、例えば、各種補修材、各種グラウト材などが挙げられる。
コンクリートとしては、上記のセメントに、水と砂(細骨材)と砂利(粗骨材)を配合したものを主体とするもので、これらに高強度混和材、急結剤、膨張材、急硬材、分散剤などを配合した特殊なコンクリートも含まれる。
樹脂類としては、例えば、表面被覆材やはく落防止用接着剤などとして用いられるエポキシ系樹脂、アクリル系樹脂、ビニルエステル系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、クロロプレンゴム、ブタジエンゴム、シリコーン系樹脂、フッ素系樹脂などが挙げられる。なお、はく落防止対策として、ビニロン繊維シート、炭素繊維シート、アラミド繊維シート等の繊維シート類と組み合わせてもよい。
エマルジョン系皮膜としては、スチレン−ブタジエン系ラテックス、クロロプレン系ラテックス、アクリロニトリル−ブタジエン系ラテックス、メタクリル酸−ブタジエン系ラテックス、ブタジエン系ラテックス、ポリアクリル酸エステルを成分にもつ共重合体エマルジョン、ポリ酢酸ビニルエマルジョン、エチレン−酢酸ビニル系エマルジョン、塩化ビニリデン−塩化ビニルエマルジョン、エポキシ樹脂エマルジョン、酢酸ビニル−ビニルバーサテートエマルジョン、これらポリマーエマルジョンから選ばれた2種以上の混合物が挙げられる。
含浸系材料としては、例えば、シラン系物質、ケイ酸塩系物質が挙げられる。
これら表面保護材は、各種組み合わせて使用することもできる。
【0011】
本発明の表面保護材の接着方法を用いたコンクリート構造物の補修方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、樹脂やポリマーセメントモルタルでコンクリート構造物の表面を被覆する工事や、建築物の外壁にタイルを貼り付ける工事などが挙げられる。
【実施例】
【0012】
「参考例1」
表1に示す酸の10%水溶液を調製し、セメントペースト硬化体の時間当たりの溶解量を求めた。結果を表1に示す。なお、セメントペースト硬化体は作製して温度20℃、湿度60%で3ヶ月間養生したものである。
【0013】
<使用材料>
セメントペースト硬化体の配合:セメント:水=1:0.3(質量比)
セメント:普通ポルトランドセメント、市販品
水:水道水
酸A:グリコール酸、市販品
酸B:クエン酸、市販品
酸C:グルコン酸、市販品
酸D:塩酸、市販品
酸E:硫酸、市販品
【0014】
<試験方法>
各酸の10%水溶液1リットル中にセメントペースト硬化体100gを浸漬(温度20℃、攪拌無し)させ、30分後の溶解量を求めた。また、溶解試験後の硬化体表面の外観(乾燥後)も目視で確認した。
【0015】
【表1】

【0016】
表1より、酸の種類によりセメント水和物を溶解量が異なることが分かる。塩酸や硫酸は、溶解量が大きいいが、硬化体表面を脆弱化させることが分かる。
【0017】
「参考例2」
酸A(グリコール酸)溶液の濃度を変えて参考例1と同様に行った。結果を表2に示す。
【0018】
【表2】

【0019】
表2より、本発明で使用するグリコール酸の濃度を変えることによってセメント水和物の溶解量が異なることが分かる。酸濃度を変化させ溶解量が増加しても硬化体表面の脆弱化が起こらないことが分かる。
【0020】
「実施例1」
実験No.2-3のグリコール酸水溶液を、設計基準強度が24N/mmのコンクリート(材齢3ヶ月経過)表面にローラーで塗布した。塗布は100g/mの量で2回に分けて目粗しを実施した。塗布間隔は30分。目粗し完了後(1時間後)、水洗いして余剰水を拭き取り、プライマーを塗布(塗布量は100g/m)した場合と塗布しない場合について、表面保護材を接着させて付着強度を測定した。結果を表3に示す。
なお、比較のために、同じ濃度のクエン酸、グルコン酸、硫酸、塩酸水溶液について、処理後表面保護材cを用いて同様に試験を行った。
【0021】
<試験方法>
付着強度:コンクリートカッターで縦4cm×横4cmになるように切れ目を入れて、建研式付着力試験器で付着強度を材齢28日で測定した。
【0022】
<使用材料>
表面保護材a:防錆剤混入ポリマーセメントペースト、普通ポルトランドセメント(電気化学工業社製)100部に対して、固形分濃度25%の亜硝酸リチウム水溶液(電気化学工業社製、商品名「RIS111」)を50部、固形分45%のエチレン−酢酸ビニル系エマルジョン(電気化学工業社製、商品名「RIS211E」)10部を加え混合したポリマーセメントペースト、塗布厚:2mm
表面保護材b:設計基準強度が24N/mmのコンクリート(W/C=55%、s/a=47.2%、セメント299kg/m、水164kg/m、細骨材857kg/m、粗骨材977kg/m、AE減水剤3.0kg/m)、塗布厚:50mm
セメント、細骨材、粗骨材、AE減水剤は以下のものを使用した。
セメント:普通ポルトランドセメント、電気化学工業社製、密度3.15g/cm
細骨材:新潟県姫川水系産、密度2.62g/cm、5mm下
粗骨材:新潟県姫川水系産砕石、密度2.66g/cm、Gmax25mm
AE減水剤:BASFポゾリス物産社製、商品名「ポゾリスNo.70」
表面保護材c:左官用ポリマーセメントモルタル、電気化学工業社製、商品名「RIS322エース」、塗布厚:20mm
表面保護材d:アクリル系樹脂、塗布厚:1mm、市販品、電気化学工業社製、商品名「ハードロックII、DK550-003」
表面保護材e:アクリル−スチレン系エマルジョン、塗布厚:0.1mm、市販品、電気化学工業社製、商品名「クラッコフ」
表面保護材f:シラン系含浸材、塗布厚:0.1mm、市販品、恒和化学社製、商品名「コンフィックスSM−9」
プライマー:エチレン−酢酸ビニル系エマルジョン、固形分15%、市販品、電気化学工業社製、商品名「RIS211E」の3倍希釈液
【0023】
【表3】

【0024】
表3より、本発明のグリコール酸を用いることで、表面を変質させることなく目粗しが可能であり、各表面保護材との付着力が確保できることが分かる。プライマー併用すれば、さらに付着力を向上することができることが分かる。一方、グリコール酸以外の酸で処理した場合は、付着力の確保が難しいことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明の表面保護材の接着方法により、専用システムを用いずに簡便に表面保護材を接着できるので、各種表面保護材を施工する補修工事に広範に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面保護材を接着する側のモルタルやコンクリートの表面にグリコール酸を塗布し、表面部分のセメント水和物を分解させた後に表面保護材を接着することを特徴とする表面保護材の接着方法。
【請求項2】
セメント水和物を分解させた後に、プライマーを塗布してから表面保護材を接着することを特徴とする請求項1に記載の表面保護材の接着方法。
【請求項3】
表面保護材が、セメントペースト、モルタル、コンクリート、樹脂類、エマルジョン系皮膜、または含浸系材料のいずれかであることを特徴とする請求項1または2記載の表面保護材の接着方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の表面保護材の接着方法を用いたコンクリート構造物の補修方法。

【公開番号】特開2010−24114(P2010−24114A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−189425(P2008−189425)
【出願日】平成20年7月23日(2008.7.23)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】