説明

表面処理剤、表面処理剤用組成物、物品および含フッ素エーテル化合物

【課題】撥水撥油性、油脂汚れの除去性、耐アルカリ性、耐熱性に優れ、低摩擦係数を有する塗膜を形成できる表面処理剤および表面処理剤用組成物;該表面処理剤または該表面処理剤用組成物から形成される塗膜を有する物品;および、表面処理剤として有用な新規な含フッ素エーテル化合物を提供する。
【解決手段】下式(A)で表される化合物を含む、表面処理剤。
O(CFCFO)CFC(O)N(H)[−Q{−OC(O)C(R)=CH2−b (A)。
は炭素数1〜20のペルフルオロ1価飽和炭化水素基等;aは1〜200の整数;bは0または1;cは2〜10の整数;Qは炭素数2〜6の(c+1)価の飽和炭化水素基;Rは水素原子または炭素数1〜3のアルキル基。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面処理剤、表面処理剤用組成物、該表面処理剤または該表面処理剤用組成物を用いて表面処理された物品、および新規な含フッ素エーテル化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
含フッ素化合物は、撥水撥油剤等の表面処理剤として利用されている。該化合物を無機基材(金属、ガラス等)、樹脂基材(ポリカーボネート等)の表面に塗布して、塗膜を形成することによって、撥水撥油性等を有する物品が得られる。該化合物としては、ペルフルオロアルキル基と(メタ)アクリロイルオキシ基(以下、重合性基と記す。)を有する化合物が知られている。該化合物としては、たとえば、下記の化合物(1)が挙げられる(非特許文献1参照)。
CF(CF(CHOC(O)CH=CH (1)
【0003】
化合物(1)を基材の表面に塗布したのち、紫外線照射や加熱処理を行うと、重合性基の重合反応により、重合体を生じる。重合体は基材上の水酸基または他の極性基に吸引され、ペルフルオロアルキル基が大気側に配列する。その結果、化合物(1)から形成される塗膜は撥水性を発揮する。
しかし、化合物(1)は熱や酸の作用により分解し、分解生成物が環境に対して負荷を与えるとの報告がなされている。その結果、該化合物(1)の入手が困難になっている。
【0004】
近年、該化合物(1)を代替する化合物として、下記化合物(2)、化合物(3)、化合物(4)の化合物が提案されている。ただし、化合物(3)におけるsは1〜3の整数であり、化合物(4)におけるaは、1〜200の整数である(特許文献1、非特許文献1)。
CF(CF(CHOC(O)C(CH)=CH (2)
CF(CFO(CFCFCFO)−(CF(CHOC(O)CH=CH (3)
CFO(CFCFO)CFCHOC(O)C(CH)=CH (4)
【0005】
しかし、本発明者らの予察によれば、化合物(2)は、ペルフルオロアルキル基部分の炭素数が少ないために、結晶性が低くなり、実用上充分な撥水撥油性や油脂汚れの除去性を発揮できない。
化合物(3)は、(CFCFCFO)で表わされる繰返単位の構造が存在するがゆえに合成が難しい。たとえば、製造における分子量の調節が困難であるために生成物の分子量分布が大きくなる、不飽和基数が1個である目的化合物以外に0または2個であるものも生成するため、そのままを表面処理剤として用いた場合には、性能のむらが発生する、等の問題がある。
化合物(4)は、加水分解性が高いため、一度塗膜を形成させたとしても、酸やアルカリの影響により分解され性能が低下する問題がある。特にアルカリ成分を含むガラスの表面処理剤として使用した場合には、撥水撥油性能を低下させる問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2007−536393号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】山辺正顕、松尾仁 編、「フッ素系材料の開発」、株式会社シーエムシー、普及版第1刷、1997年9月10日、p.151〜166
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、撥水撥油性、油脂汚れの除去性、耐アルカリ性、耐熱性に優れ、低摩擦係数を有する塗膜を形成できる表面処理剤;撥水撥油性、油脂汚れの除去性、耐アルカリ性、耐熱性に優れ、低摩擦係数を有する塗膜を形成できる表面処理剤用組成物;該表面処理剤または表面処理剤用組成物から形成され、撥水撥油性、油脂汚れの除去性、耐アルカリ性、耐熱性に優れ、低摩擦係数を有する塗膜を有する物品;および、表面処理剤として有用な新規な含フッ素エーテル化合物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、下記[1]〜[9]の発明である。
[1]下式(A)で表される化合物(A)を含むことを特徴とする、表面処理剤。
O(CFCFO)CFC(O)N(H)[−Q{−OC(O)C(R)=CH2−b (A)。
ただし、Rは、炭素数1〜20のペルフルオロ1価飽和炭化水素基、または、炭素原子−炭素原子間にエーテル性酸素原子が挿入された炭素数2〜20のペルフルオロ1価飽和炭化水素基であり、かつ−OCFO−構造が存在しない基であり、
aは、1〜200の整数であり、
bは、0または1であり、
cは、2〜10の整数であり、
Qは、炭素数2〜6の(c+1)価の飽和炭化水素基であり、1分子中に2つのQが存在する場合、2つのQは同一でなくてもよく、
Rは、水素原子または炭素数1〜3のアルキル基であり、1分子中に存在する複数のRはすべてが同一でなくてもよい。
【0010】
[2]下式(A)で表される化合物(A)と有機溶媒とを含む、表面処理剤用組成物。
O(CFCFO)CFC(O)N(H)[−Q{−OC(O)C(R)=CH2−b (A)。
ただし、Rは、炭素数1〜20のペルフルオロ1価飽和炭化水素基、または、炭素原子−炭素原子間にエーテル性酸素原子が挿入された炭素数2〜20のペルフルオロ1価飽和炭化水素基であり、かつ−OCFO−構造が存在しない基であり、
aは、1〜200の整数であり、
bは、0または1であり、
cは、2〜10の整数であり、
Qは、炭素数2〜6の(c+1)価の飽和炭化水素基であり、1分子中に2つのQが存在する場合、2つのQは同一でなくてもよく、
Rは、水素原子または炭素数1〜3のアルキル基であり、1分子中に存在する複数のRはすべてが同一でなくてもよい。
[3]前記有機溶媒が、フッ素系有機溶媒を含む、[2]の表面処理剤用組成物。
[4]前記有機溶媒100質量部に対して、前記化合物(A)を0.001〜50質量部含む、[2]または[3]の表面処理剤用組成物。
【0011】
[5][1]の表面処理剤を基材の表面に塗布し、次に硬化させることによって形成された塗膜を有する、または、[2]〜[4]の表面処理剤用組成物を基材の表面に塗布し、有機溶媒を乾燥させ、次に硬化させることによって形成された塗膜を有する、物品。
[6]前記基材が、透明基材である、[5]の物品。
[7]前記透明基材の材料が、ガラスまたはポリカーボネートである、[6]の物品。
[8]表面に指紋除去性能を有する、[5]〜[7]の物品。
【0012】
[9]下式(A)で表される化合物(A)。
O(CFCFO)CFC(O)N(H)[−Q{−OC(O)C(R)=CH2−b (A)。
ただし、Rは、炭素数1〜20のペルフルオロ1価飽和炭化水素基、または、炭素原子−炭素原子間にエーテル性酸素原子が挿入された炭素数2〜20のペルフルオロ1価飽和炭化水素基であり、かつ−OCFO−構造が存在しない基であり、
aは、1〜200の整数であり、
bは、0または1であり、
cは、2〜10の整数であり、
Qは、炭素数2〜6の(c+1)価の飽和炭化水素基であり、1分子中に2つのQが存在する場合、2つのQは同一でなくてもよく、
Rは、水素原子または炭素数1〜3のアルキル基であり、1分子中に存在する複数のRはすべてが同一でなくてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の表面処理剤は、撥水撥油性、油脂汚れの除去性、耐アルカリ性、耐熱性に優れ、低摩擦係数を有する塗膜を形成できる。
本発明の表面処理剤用組成物は、撥水撥油性、油脂汚れの除去性、耐アルカリ性、耐熱性に優れ、低摩擦係数を有する塗膜を形成できる。
本発明の物品は、撥水撥油性、油脂汚れの除去性、耐アルカリ性、耐熱性に優れ、低摩擦係数を有する塗膜を有する。
本発明は、表面処理剤として有用な新規な含フッ素エーテル化合物を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書においては、式(A)で表わされる化合物を化合物(A)と記す。他の式で表される化合物も同様に記す。
【0015】
本明細書においてペルフルオロ1価飽和炭化水素基とは、1価飽和炭化水素基の炭素原子に結合した水素原子の全てがフッ素原子に置換した基をいう。1価飽和炭化水素基とは、炭素原子と水素原子からなる基であり、炭素原子−炭素不飽和結合を持たない基をいう。
【0016】
本明細書において炭素原子−炭素原子間にエーテル性酸素原子が挿入されたペルフルオロ1価飽和炭化水素基とは、前記のペルフルオロ1価飽和炭化水素基の炭素原子−炭素原子間にエーテル性酸素原子が挿入された基をいう。ペルフルオロ1価飽和炭化水素基中には−OCFO−構造は存在しない。−OCFO−構造が存在しないとは、通常の分析手法(19F−NMR等)では該構造の存在が検出できないことを意味する。酸素原子が挿入される位置は、炭素原子−炭素原子の単結合間であり、酸素原子の間に存在する炭素数は、2以上である。
【0017】
<化合物(A)>
化合物(A)は、下式で表される化合物である。
O(CFCFO)CFC(O)N(H)[−Q{−OC(O)C(R)=CH2−b (A)。
【0018】
aは、−(CFCFO)−単位の数であり、1〜200の整数である。aは、2〜100の整数が好ましく、3〜50の整数がより好ましく、5〜25の整数が特に好ましい。
bは、0または1である。bは、1が好ましい。
cは、2〜10の整数である。cは、2または3が好ましい。
【0019】
Qは、炭素数2〜6の(c+1)価の飽和炭化水素基である。(c+1)価の飽和炭化水素基は、直鎖構造であってもよく、分岐構造であってもよく、環状構造であってもよく、分岐構造および環状構造を部分的に有する構造であってもよい。(c+1)価の飽和炭化水素基は、直鎖構造の基であるのが好ましい。(c+1)価の飽和炭化水素基の炭素数は3〜6が好ましく、3が特に好ましい。1分子中に2つのQが存在する場合、2つのQは同一でなくてもよいが、2つのQは同一が好ましい。
(c+1)価の飽和炭化水素基の具体例としては、下記の基が挙げられる。
【0020】
【化1】

【0021】
Rは、水素原子または炭素数1〜3のアルキル基である。Rは、水素原子またはメチル基が好ましい。1分子中に存在する複数のRはすべてが同一でなくてもよいが、Rはすべて同一が好ましい。
【0022】
は、炭素数1〜20のペルフルオロ1価飽和炭化水素基、または、炭素原子−炭素原子間にエーテル性酸素原子が挿入された炭素数2〜20のペルフルオロ1価飽和炭化水素基である。ペルフルオロ1価飽和炭化水素基は、直鎖構造であってもよく、分岐構造であってもよく、環状構造であってもよく、分岐構造および環状構造を部分的に有する構造であってもよい。ペルフルオロ1価飽和炭化水素基は、直鎖構造の基であるのが好ましい。すなわちペルフルオロ1価飽和炭化水素基は、直鎖のペルフルオロアルキル基が好ましい。ペルフルオロ1価飽和炭化水素基の炭素数は1〜20が好ましく、1〜16がより好ましく、入手が容易な点で1〜3がさらに好ましく、炭素数1〜2がもっとも好ましい。炭素原子−炭素原子間にエーテル性酸素原子を有する場合、挿入される酸素原子の数は、1〜7が好ましく、1〜4がより好ましい。
【0023】
ペルフルオロ1価飽和炭化水素基の具体例としては、下記の基が挙げられる。
CF(CF−、
−(CF−、
−(CF−。
ただし、mは、0〜19の整数であり、0〜15の整数が好ましく、0〜6の整数が特に好ましい。Cは、ペルフルオロシクロヘキシル基である。Aは、ペルフルオロアダマンタンチル基である。nは、0〜15の整数である。
【0024】
としては、CF(CF−が好ましく、CF−、CFCF−、CF(CF−、またはCF(CF−がより好ましい。Rとしては、撥水撥油性の点からは、CF(CF−が好ましく、化合物(A)の製造工程の一つである直接液相フッ素化における収率の点からは、CF−、CFCF−が好ましい。
【0025】
化合物(A)は、−OCFO−構造が存在しない化合物である。−OCFO−構造が存在しないことにより、酸触媒の存在下、かつ高温条件下におかれたとしても、劣化耐性に優れる。よって、Rが、エーテル性酸素原子を有する基である場合には、Rの結合末端部分の構造が−OCF−にならないように、構造設計するのが好ましい。
【0026】
化合物(A)は、1種の化合物であってもよく、2種以上の化合物の混合物であってもよい。該混合物としては、Rまたはaが異なる2種以上の化合物を含む混合物が挙げられる。該混合物におけるaの平均値は、5〜20が好ましい。
【0027】
化合物(A)の分子量は、600〜2500が好ましく、800〜1500がより好ましい。
化合物(A)が2種以上の化合物の混合物である場合、化合物(A)の数平均分子量は、600〜2500が好ましく、800〜1500がより好ましい。化合物(A)が2種以上の化合物の混合物である場合、化合物(A)の分子量分布(Mw/Mn)は、1.05〜1.3が好ましく、1.05〜1.15がより好ましい。
化合物(A)の分子量および分子量分布が該範囲にあれば、化合物(A)の粘度が低く、蒸発成分が少なく、溶媒に溶解した際の均一性に優れる。化合物(A)の数平均分子量および分子量分布は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィにより測定できる。
以下に化合物(A)の具体例を示す。
【0028】
【化2】

【0029】
(化合物(A)の製造方法)
化合物(A)は、下記工程(a)〜(f)により製造できる。
ただし、式中のRは、Rと同一の基、またはRのフッ素原子の一部または全部が水素原子に置換された基であり、炭素数1〜20のアルキル基、または、炭素原子−炭素原子間にエーテル性酸素原子が挿入された炭素数2〜20のアルキル基が好ましい。Rは、1価のペルフルオロ有機基であり、ペルフルオロアルキル基、または、炭素原子−炭素原子間にエーテル性酸素原子が挿入されたペルフルオロアルキル基が好ましく、炭素数2〜20の該基が特に好ましい。Rは、アルキル基である。他の記号の意味は、化合物(A)における意味と同じ意味を示し、好ましい態様も同じである。
【0030】
工程(a):化合物(D1)と化合物(D2)とを反応させて化合物(D3)を得る工程。
化合物(D1)としては、aの数が異なる2種以上の混合物が入手しやすい。化合物(D1)が混合物の場合、工程(a)以降に得られる化合物も、−(CHCHO)−単位の数が異なる2種以上の混合物となる。
化合物(D1)は、ROHにエチレンオキシドを開環重合させることによって容易に合成できる。
化合物(D2)の代わりに、ペルフルオロ化された酸クロリド、またはアルコールと反応してエステル結合を生ずるペルフルオロ化された化合物を用いてもよい。
【0031】
【化3】

【0032】
工程(b):化合物(D3)をペルフルオロ化して化合物(D4)を得る工程。
ペルフルオロ化としては、液相中にフッ素ガスを導入して反応させる直接液相フッ素化等が挙げられる。
【0033】
【化4】

【0034】
工程(c):化合物(D4)におけるエステル結合の分解反応を行って化合物(D5)を得る工程。
分解反応は、フッ化セシウム、フッ化カリウムまたはフッ化ナトリウムの存在下で行うことが好ましい。
【0035】
【化5】

【0036】
工程(d):化合物(D5)と化合物(D6)とをエステル化反応させて化合物(D7)を得る工程。
エステル化反応は、公知の方法(たとえば、米国特許第3810874号明細書に記載の方法。)にしたがって実施できる。
なお、化合物(D7)は、化合物(D4)と化合物(D6)とをエステル交換反応させることによっても得られる。
【0037】
【化6】

【0038】
工程(e):化合物(D7)と化合物(D8)とをエステル−アミド交換反応させて、化合物(D9)を得る工程。
【0039】
【化7】

【0040】
工程(f):化合物(D9)に、アミン類とともに化合物(D10)を滴下することで、化合物(A)を得る工程。
アミン類としては、トリエチルアミン、ピリジンを用いるのが好ましい。
【0041】
【化8】

【0042】
化合物(D1)、化合物(D2)、化合物(D6)、化合物(D8)、化合物(D10)は、公知の化合物、または、公知の化合物から公知の製造方法により入手できる化合物である。工程(f)において、化合物(D10)を2種以上反応させる場合には、異なる化合物(D10)をそれぞれ順に反応させてもよい。2種以上の化合物(D10)を反応させることにより、1分子中に存在する複数のRのうち一部のRの種類が異なる化合物(A)を得ることができる。
【0043】
<表面処理剤>
本発明において表面処理剤とは、化合物(A)のみからなる剤、または化合物(A)と化合物(A)以外の成分を含む剤であり、かつ表面処理に用いる剤をいう。表面処理剤は有機溶媒を含まない。
化合物(A)は、それ自体が表面処理剤(潤滑剤、防汚剤、撥水撥油剤、指紋除去性能付与剤、易洗浄性付与剤、離形剤、表面改質剤等)等として用いうる有用な化合物であり、熱または光(たとえば紫外線、可視光等)によって強固な重合体を形成し、表面処理効果を長期化することが可能である。
さらに本発明の化合物(A)は−OCFO−構造が存在しないことから、酸触媒の存在下、かつ高温条件下におかれたとしても、劣化耐性に優れた塗膜を形成できる。また、ペルフルオロポリエーテル基を有するため、撥水撥油性、平滑性に優れた塗膜を形成できる。
さらに、化合物(A)の(CFCFO)構造は、分子の運動性を低下させるCF基側鎖が存在しないアルキレンオキシ構造である。よって、化合物(A)自体の分子の運動性が高くなり、該化合物から形成された塗膜は、油脂汚れの除去性に優れた塗膜となりうる。
【0044】
また、アミド結合基によって官能基を導入するため、官能基数などの設計自由度が高い。さらに、アミド結合はディップコート時の事前配向を促進するため、重合後の撥水撥油性を向上することができる。すなわち、アミド結合がその極性によって、塗布物(特に金属材料)に吸着することでペルフルオロポリエーテル基が表面方向に配向され、理想的な低表面エネルギーを実現できる。
【0045】
本発明の表面処理剤は、化合物(A)以外の他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、添加剤が挙げられる。
【0046】
(添加剤)
添加剤としては、表面処理剤から形成される塗膜の耐久性、機能の持続性等を高める目的で添加されるものが好ましく、シリカゾル、超微粒子金属酸化物(酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム等)、各種樹脂(エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂等)等が挙げられる。塗膜形成の作業性を高める目的で添加される添加剤としては、界面活性剤等が挙げられる。界面活性剤の添加量は、組成物の総質量に対して0.01〜5質量%が好ましい。
添加剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0047】
<表面処理剤用組成物>
本発明において表面処理剤用組成物とは、化合物(A)と有機溶媒とを含み、表面処理に用いられる組成物をいい、溶媒組成物である。
本発明の表面処理剤用組成物は、化合物(A)と有機溶媒とを必須とするが、化合物(A)および有機溶媒以外の成分を含んでいてもよい。他の成分としては添加剤が挙げられる。
【0048】
(有機溶媒)
本発明の表面処理剤用組成物の有機溶媒を含む形態は、溶液、懸濁液、または乳化液のいずれであってもよく、溶液であることが好ましい。
有機溶媒としては、フッ素系有機溶媒または非フッ素系有機溶媒が挙げられ、不燃である安全性の点、また、表面張力が低く膜厚斑の小さい均一な膜を調整できる点から、フッ素系有機溶媒が好ましい。
【0049】
たとえばフッ素系有機溶媒としては、パーフルオロアミン類(ペルフルオロトリプロピルアミン、ペルフルオロトリブチルアミン等)、パーフルオロアルカン類(バートレル〔デュポン社製〕等)等が挙げられる。フッ素系有機溶媒としては、溶解性が高く、環境負荷の小さい含フッ素エーテルが好ましく、特に沸点および溶解性の点で、CFCHOCFCFH(旭硝子社製、製品名:AE−3000)が好ましい。該溶媒は、コーティング(たとえばディップコート工程におけるコーティング)に適した沸点を有する。
【0050】
非フッ素系有機溶媒としては、炭化水素類、アルコール類、ケトン類、エーテル類、エステル類、塩素化炭化水素類等が挙げられる。
有機溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合した混合溶媒として用いてもよい。混合溶媒に共沸組成が存在する場合、該組成で用いることが好ましい。
有機溶媒を含む表面処理剤用組成物は、有機溶媒100質量部に対して、化合物(A)を0.001〜50質量部含むことが好ましい。
【0051】
(添加剤)
本発明の表面処理剤用組成物は、添加剤を含んでいてもよい。
添加剤は、上述の表面処理剤に用いてもよい添加剤と同様のものである。
【0052】
<用途>
本発明の表面処理剤および表面処理剤組成物(以下、表面処理剤等と記す。)の用途としては、基材の表面を塗布等の方法で処理することで基材の表面の性質を変える表面改質剤、レジスト用反射防止膜等が挙げられる。また、本発明の表面処理剤等は、そのまま使用してもよく、他の表面処理剤への添加剤として用いてもよい。添加剤として用いる場合の量は、化合物(A)の量を、他の表面処理剤の全質量(100質量部)に対して、0.01〜5質量部にするのが好ましい。
【0053】
表面改質剤としては、潤滑剤、防汚剤、撥水撥油剤、指紋除去性能付与剤、易洗浄性付与剤、離形性付与剤、電線被覆材等の表面改質剤が挙げられる。
本発明の表面処理剤等から形成された塗膜は、撥水撥油性、油脂汚れ除去性、耐アルカリ性、耐熱性に優れ、摩擦係数を低下させる。したがって、本発明の表面処理剤等は、光学部材の反射防止性、指紋除去性能付与剤として好適である。
【0054】
以上説明した本発明の表面処理剤等は、化合物(A)を必須成分として含むため、撥水撥油性、油脂汚れの除去性、耐アルカリ性、耐熱性に優れ、低摩擦係数を有する塗膜を形成できる。
【0055】
<物品>
本発明の物品は、本発明の表面処理剤を基材の表面に塗布し、次に硬化させることによって形成された塗膜を有する物品である。
または本発明の物品は、本発明の表面処理剤用組成物を基材の表面に塗布し、有機溶媒を乾燥させ、次に硬化させることによって形成された塗膜を有する物品である。
【0056】
基材の材料としては、ガラス、石材、金属、樹脂等が挙げられる。
本発明の表面処理剤等を指紋除去性能付与剤として用いる場合は、透明基材であることが好ましく、ガラスまたはポリカーボネート、ポリスチレン、ポリアクリレートが好ましい。
光学用途で用いられる場合の基材は、透明基材であることが好ましく、ガラスまたはポリカーボネートであることが好ましい。
離型性付与剤として場合の基材は、金属基材またはシリコーンであることが好ましい。金属基材としてはステンレスまたはニッケルが好ましい。
【0057】
塗布方法としては、ロールコート法、キャスト法、ディップコート法、スピンコート法、スプレーコート法、フローコート法、スキージコート法、水上キャスト法、ダイコート法、ラングミュア−プロジェット法、真空蒸着法等が挙げられる。均一な塗膜を形成できる点から、スピンコート法、ディップコート法、または真空蒸着法が好ましく、大量生産には、スプレーコート法、フローコート法、スキージコート法、またはダイコート法が好ましい。スピンコート法、ディップコート法により塗布する場合、有機溶媒を含む組成物を用いることが好ましい。
【0058】
表面処理剤等が有機溶媒を含む表面処理剤用組成物である場合、有機溶媒としては、塗布方法に適した沸点を有する有機溶媒を選択することが好ましい。
有機溶媒を含む組成物中の化合物(A)および他の成分の濃度は、塗膜の厚さによって調整することが好ましい。たとえば、厚さ250nmの塗膜を形成する場合の有機溶媒を含む組成物の全質量(100質量部)中の化合物(A)および他の成分の量は、1.5〜3.0質量部が好ましい。
【0059】
表面処理剤等の塗布は、基材の表面の前処理を行った後で行ってもよい。前処理方法としては、フッ酸、塩酸等による酸処理;水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液等によるアルカリ処理;フッ化セリウム、酸化セリウム等による研磨処理等が挙げられる。
【0060】
基材に塗布された表面処理剤等は、熱または光によって硬化させる。熱硬化の場合、硬化中に基材が劣化しないことから、100〜150℃で硬化させるのが好ましい。光硬化の場合、常温で5〜10分かけて硬化させるのが好ましい。基材の耐熱性を考慮せずに基材を選択できるので、光硬化がより好ましい。また、光硬化の場合、本発明の表面処理剤等は硬化剤を用いなくても硬化するため、硬化剤が残留しない塗膜を形成できる。
【0061】
表面処理剤等を用いて形成した塗膜は、強固な被膜であり、基材との高い密着性を有する。また、該塗膜は、透明性に優れ、屈折率が低く、耐熱性および耐薬品性に優れる。塗膜の厚さは、0.001〜50μmが好ましい。本発明の表面処理剤等によれば、単分子膜を形成できる。
該塗膜を有する物品の具体例としては、透明光学機材(レンズ等)、金型(インプリント用金型等)、半導体金属配線(金配線等)、表示部材(タッチパネル等)等が挙げられる。
本発明の化合物(A)の用途としては、表面処理剤のほかに、半導体素子用接着剤、各種材料用添加剤等が挙げられる。
【0062】
以上説明した本発明の物品にあっては、本発明の表面処理剤等を用いて基材の表面に塗膜を形成しているため、撥水撥油性、油脂汚れの除去性、耐アルカリ性、耐熱性に優れ、低摩擦係数を有する塗膜を有する。
【実施例】
【0063】
以下に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は該実施例に限定されない。
例1、3は実施例であり、例2、4、5は比較例である。
【0064】
(略号)
TMS:テトラメチルシラン、
R−113:CClFCClF
R−225:ジクロロペンタフルオロプロパン、
L:リットル、
:−CF(CF)OCFCF(CF)OCFCFCF
【0065】
(接触角)
物品の塗膜の表面に、約2μLの水滴またはヘキサデカンを5滴置き、接触角を測定し、5つの値の平均値を求めた。
【0066】
(水転落角)
物品を水平に保持し、該物品の塗膜の表面に50μLの水滴を滴下した後、物品を徐々に傾け、水滴が転落しはじめたときの物品と水平面との角度(転落角)を測定した。転落角が小さいほど水滴滑落性に優れる。
【0067】
(耐アルカリ性)
物品をpH13の水酸化ナトリウム水溶液に2時間および24時間浸漬した。物品を水洗、乾燥した後、物品の塗膜の表面の水接触角および水転落角を測定した。
【0068】
(耐摩耗性)
回転式摩擦計測機(Heidon社製)を用いて、荷重100g、回数50rpmの条件にて、物品の塗膜の表面の摩擦係数を測定した。
【0069】
(油脂汚れの除去性)
物品の塗膜の表面に、オレイン酸で人工的に油脂汚れを付着させた後、100gの荷重を4cmに対してかけながらセルロース製不織布(旭化成社製、ペンコットM−3)で1回拭き取り、油脂汚れの取れやすさを目視で判定した。
【0070】
[例1]
〔例1−1〕化合物(D3−1)の製造例:
500mLのフラスコ内に、下記化合物(D1−1)(市販のポリオキシエチレングリコールモノメチルエーテル、aの平均値:7.3。)の25g、R−225の20gおよびフッ化ナトリウムの1.2gを入れ、内温を10℃以下に保ちながら激しく撹拌し、窒素ガスをバブリングさせた。フラスコ内に、下記化合物(D2−1)の46.6gを、内温を5℃以下に保ちながら3.0時間かけて滴下した。滴下終了後、50℃にて12時間撹拌し、室温にて24時間撹拌して、粗液を回収した。粗液を減圧濾過した後、回収液を真空乾燥機(50℃、5.0torr。)で12時間乾燥し、粗液を得た。粗液を100mLのR−225に溶解し、1000mLの飽和重曹水で3回水洗し、有機相を回収した。有機相に硫酸マグネシウムの1.0gを加え、12時間撹拌した後、加圧濾過して硫酸マグネシウムを除去し、回収液からエバポレータにてR−225を留去し、室温で液体である化合物の56.1gを得た。該化合物のNMR分析の結果、下記化合物(D3−1)(ただし、実施例におけるaの平均値:7.3。)であることを確認した。
CHO(CHCHO)CHCHOH (D1−1)、
FC(O)R (D2−1)、
CHO(CHCHO)CHCHOC(O)R (D3−1)。
【0071】
化合物(D3−1)のNMRスペクトル;
H−NMR(300.4MHz、溶媒:CDCl、基準:TMS)δ(ppm):4.2,4.35,4.4,4.75。
19F−NMR(282.7MHz、溶媒:CDCl、基準:CFCl)δ(ppm):−79.5,−80.0,−82.5〜−85.0,−128.0〜−129.2,−131.5,−144.5。
【0072】
〔例1−2〕化合物(D4−1)の製造例:
3000mLのハステロイ製オートクレーブ内に、R−113の1560gを入れて撹拌し、25℃に保った。オートクレーブガス出口には、20℃に保持した冷却器、フッ化ナトリウムペレット充填層、および−20℃に保持した冷却器を直列に設置した。また、−20℃に保持した冷却器から凝集した液をオートクレーブに戻すための液体返送ラインを設置した。
オートクレーブ内に窒素ガスを1.0時間吹き込んだ後、窒素ガスで10%に希釈したフッ素ガス(以下、10%フッ素ガスと記す。)を、流速24.8L/時間で1時間吹き込んだ。つぎに、オートクレーブ内に10%フッ素ガスを同じ流速で吹き込みながら、化合物(D3−1)の27.5gをR−113の1350gに溶解した溶液を30時間かけて注入した。つぎに、オートクレーブ内に10%フッ素ガスを同じ流速で吹き込みながら、R−113の12mLを注入した。この際、内温を40℃に変更した。つづけて、ベンゼンを1質量%溶解したR−113溶液の6mLを注入した。さらに、フッ素ガスを1.0時間吹き込んだ後、窒素ガスを1.0時間吹き込んだ。
反応終了後、溶媒を真空乾燥(60℃、6.0時間。)にて留去し、室温で液体の化合物の45.4gを得た。該化合物のNMR分析の結果、化合物(D3−1)の水素原子の総数の99.9%がフッ素原子に置換された、下記化合物(D4−1)が主たる成分であることを確認した。
CFO(CFCFO)CFCFOC(O)R (D4−1)。
【0073】
化合物(D4−1)のNMRスペクトル;
H−NMR(300.4MHz、溶媒:R−113、基準:TMS、内部標準:ニトロベンゼン)δ(ppm):5.9〜6.4。
19F−NMR(282.7MHz、溶媒:R−113、基準:CFCl、内部標準:ヘキサフルオロベンゼン)δ(ppm):12.7,−54.9,−77.5〜−80.0,−81.5,−82.2,−84.5,−87.5,−89.7,−129,−131.5,−135.0〜−139.0,−144.5。
【0074】
〔例1−3〕化合物(D5−1)の製造例:
スターラーチップを投入した50mLのナスフラスコを充分に窒素ガスで置換した。ナスフラスコ内に、1,1,3,4−テトラクロロヘキサフルオロブタンの5.0g、フッ化カリウムの0.05gおよび化合物(D4−1)の2.0gを入れて激しく撹拌し、120℃に保った。ナスフラスコ出口には、20℃に保持した冷却器、およびドライアイス−エタノール冷却管を直列に設置し、ナスフラスコ出口は窒素ガスでシールした。
8時間後、ナスフラスコの内温を室温まで下げ、つづいて冷却管に真空ポンプを設置して系内を減圧に保ち、溶媒および副生物を留去した。3時間後、室温で液体の化合物の0.86gを得た。該化合物のNMR分析の結果、化合物(D4−1)のエステル結合の総数の99%がフッ素原子に置換された、下記化合物(D5−1)が主たる生成物であることを確認した。
CFO(CFCFO)CFC(O)F (D5−1)。
【0075】
化合物(D5−1)のNMRスペクトル;
H−NMR(300.4MHz、溶媒:R−113、基準:TMS、内部標準:ニトロベンゼン)δ(ppm):5.9〜6.4。
19F−NMR(282.7MHz、溶媒:R−113、基準:CFCl、内部標準:ヘキサフルオロベンゼン)δ(ppm):12.7,−54.9,−78.1,−87.5,−89.7,−135.0〜−139.0。
【0076】
〔例1−4〕化合物(D7−1)の製造例(1):
化合物(D5−1)の40gが入った500mLのナスフラスコ内に、R−113の20.0gを入れ、内温を25℃に保ちながら激しく撹拌した。ナスフラスコ内に、化合物(D6−1)の20.0gを、内温を25℃以上に保ちながらゆっくりと滴下した。
8時間後、撹拌を停止し、粗液を加圧濾過し、フッ化カリウムを除去した。つづいて、回収液からエバポレータにてR−113および過剰の化合物(D6−1)を完全に除去して室温で液状の化合物の43gを得た。該化合物のNMR分析の結果、化合物(D5−1)の酸フルオリドの総数がエステル化された、下記化合物(D7−1)が主たる生成物であることを確認した。
HOCHCH (D6−1)、
CFO(CFCFO)CFC(O)OCHCH (D7−1)。
【0077】
化合物(D7−1)のNMRスペクトル;
H−NMR(300.4MHz、溶媒:R−113、基準:TMS、内部標準:ニトロベンゼン)δ(ppm):1.27,4.27,5.9〜6.4。
19F−NMR(282.7MHz、溶媒:R−113、基準:CFCl、内部標準:ヘキサフルオロベンゼン)δ(ppm):−54.9,−78.5,−87.5,−89.7,−135.0〜−139.0。
【0078】
〔例1−5〕化合物(D7−1)の製造例(2):
スターラーチップを投入した300mLのナスフラスコ内を充分に窒素ガスで置換した。ナスフラスコ内に、化合物(D6−1)の40g、フッ化ナトリウムの5.6gおよびR−225の50gを入れた。ナスフラスコ内に、化合物(D4−1)の43.5gを滴下した後、室温にてバブリングを行いながら、激しく撹拌した。ナスフラスコ出口は窒素ガスでシールした。
8時間後、冷却管に真空ポンプを設置して系内を減圧に保ち、過剰の化合物(D6−1)およびエステル交換によって生じるCHCHOC(O)Rを留去した。24時間後、室温で液体の化合物の26.8gを得た。該化合物のNMR分析の結果、化合物(D4−1)のエステル基の全量がエステル交換された、化合物(D7−1)が主たる生成物であることを確認した。
【0079】
化合物(D7−1)のNMRスペクトル;
H−NMR(300.4MHz、溶媒:R−113、基準:TMS、内部標準:ニトロベンゼン)δ(ppm):1.27,4.27,5.9〜6.4。
19F−NMR(282.7MHz、溶媒:R−113、基準:CFCl、内部標準:ヘキサフルオロベンゼン)δ(ppm):−54.9,−78.5,−87.5,−89.7,−135.0〜−139.0。
【0080】
〔例1−6〕化合物(D9−1)の製造例:
スターラーチップを投入した300mLのナスフラスコ内を充分に窒素ガスで置換した。ナスフラスコ内に、化合物(D7−1)の30gを投入した後、系内を氷冷で5度以下に保持し、化合物(D8−1)(関東化学製、Cas;616‐30‐8)の5gをR−225の40gで希釈した溶液をゆっくりと滴下した。その後、室温にて12時間撹拌し、反応液を飽和重層水300mLに投入して3回水洗を行った。二層分離して回収した有機相に硫酸マグネシウムの1.0gを加え、12時間撹拌した後、加圧濾過にて硫酸マグネシウムを除去し、回収液からエバポレータにてR−225を留去して、室温で液体の化合物の24.8gを得た。該化合物のNMR分析の結果、化合物(D7−1)のエステル基の全量がアミド基に交換された、下記化合物(D9−1)が主たる生成物であることを確認した。
NCHCH(OH)CHOH (D8−1)、
CFO(CFCFO)CFC(O)N(H)[CHCH(OH)CHOH] (D9−1)。
【0081】
化合物(D9−1)のNMRスペクトル;
H−NMR(300.4MHz、溶媒:R−113、基準:TMS、内部標準:ニトロベンゼン)δ(ppm):2.80,3.88,5.9〜6.4。
19F−NMR(282.7MHz、溶媒:R−113、基準:CFCl、内部標準:ヘキサフルオロベンゼン)δ(ppm):−54.9,−79.8,−87.5,−89.7,−135.0〜−139.0。
【0082】
〔例1−7〕化合物(A−1)の製造例:
フラスコ内に、化合物(D9−1)の25g、R−225の20gおよびトリエチルアミン(関東化学製)の6.0gを入れ、内温を10℃以下に保ちながら激しく撹拌し、窒素ガスをバブリングさせた。フラスコ内に、化合物(D10−1)(関東化学製、Cas;920−46−7)の6.0gを、内温を5℃以下に保ちながら1.0時間かけて滴下した。滴下終了後、50℃にて12時間撹拌し、室温にて24時間撹拌して、粗液を回収した。その後、室温にて12時間撹拌し、反応液を飽和重層水300mLに投入して3回水洗を行った。二層分離して回収した有機相に硫酸マグネシウムの1.0gを加え、12時間撹拌した後、加圧濾過にて硫酸マグネシウムを除去し、回収液からエバポレータにてR−225を留去して、室温で液体の化合物の24.8gを得た。該化合物のNMR分析の結果、化合物(D9−1)の水酸基の全量がエステルに誘導された、下記化合物(A−1)が主たる生成物であることを確認した。
ClC(O)C(CH)=CH (D10−1)、
CFO(CFCFO)CFC(O)N(H)[CHCH{OC(O)C(CH)=CH}CH{OC(O)C(CH)=CH}] (A−1)。
【0083】
化合物(A−1)のNMRスペクトル;
H−NMR(300.4MHz、溶媒:R−113、基準:TMS、内部標準:ニトロベンゼン)δ(ppm):2.80,3.88,3.62,6.5。
19F−NMR(282.7MHz、溶媒:R−113、基準:CFCl、内部標準:ヘキサフルオロベンゼン)δ(ppm):−54.9,−79.8,−87.5,−89.7,−135.0〜−139.0。
【0084】
〔例2〕
〔例2−1〕化合物(D11−1)の製造例:
スターラーチップを投入した300mLのナスフラスコ内を充分に窒素ガスで置換した。ナスフラスコ内に、2−プロパノールの30g、R−225の50.0gおよびNaBHの4.1gを入れた。ナスフラスコ出口は窒素ガスでシールした。化合物(D7−1)の26.2gをR−225の30gに希釈して滴下した後、室温にて激しく撹拌した。
8時間後、冷却管に真空ポンプを設置して系内を減圧に保ち、溶媒を留去した。24時間後、ナスフラスコ内にR−225の100gを入れ、撹拌を行いながら、0.2モル/Lの塩酸水溶液の500gを滴下した。滴下後、6時間撹拌を維持した。有機相を蒸留水の500gにて3回水洗し、二層分離にて有機相を回収した。有機相に硫酸マグネシウムの1.0gを加え、12時間撹拌した後、加圧濾過にて硫酸マグネシウムを除去し、回収液からエバポレータにてR−225を留去して、室温で液体の化合物の24.8gを得た。該化合物のNMR分析の結果、化合物(D7−1)のエステル基の全量が還元された、下記化合物(D11−1)が主たる生成物であることを確認した。
CFO(CFCFO)CFCHOH (D11−1)。
【0085】
化合物(D11−1)のNMRスペクトル;
H−NMR(300.4MHz、溶媒:R−113、基準:TMS、内部標準:ニトロベンゼン)δ(ppm):2.6,3.92,5.9〜6.4。
19F−NMR(282.7MHz、溶媒:R−113、基準:CFCl、内部標準:ヘキサフルオロベンゼン)δ(ppm):−54.9,−79.8,−87.5,−89.7,−135.0〜−139.0。
【0086】
〔例2−2〕化合物(B−1)の製造:
500mLのフラスコ内に、化合物(D11−1)の25g、R−225の20gおよびトリエチルアミン(関東化学製)の3.0gを入れ、内温を10℃以下に保ちながら激しく撹拌し、窒素ガスをバブリングさせた。フラスコ内に、化合物(D10−1)の3.0gを、内温を5℃以下に保ちながら1.0時間かけて滴下した。滴下終了後、50℃にて12時間撹拌し、室温にて24時間撹拌して、粗液を回収した。その後、室温にて12時間撹拌し、反応液を飽和重層水300mLに投入して3回水洗を行った。二層分離して回収した有機相に硫酸マグネシウムの1.0gを加え、12時間撹拌した後、加圧濾過にて硫酸マグネシウムを除去し、回収液からエバポレータにてR−225を留去して、室温で液体の化合物の24.8gを得た。該化合物のNMR分析の結果、化合物(D11−1)の水酸基の全量がエステルに誘導された、下記化合物(B−1)が主たる生成物であることを確認した。
CFO(CFCFO)CFCHOC(O)C(CH)=CH (B−1)。
【0087】
化合物(B−1)のNMRスペクトル;
H−NMR(300.4MHz、溶媒:R−113、基準:TMS、内部標準:ニトロベンゼン)δ(ppm):3.29,3.83,6.5。
19F−NMR(282.7MHz、溶媒:R−113、基準:CFCl、内部標準:ヘキサフルオロベンゼン)δ(ppm):−54.9,−79.8,−87.5,−89.7,−135.0〜−139.0。
【0088】
〔例3〕
化合物(A−1)をR−255で希釈して、0.05質量%のR−225溶液とし、ディップコーターバスに投入する。装置内を20℃に調整しながら、テストディスク(直径:2.5インチ)を30秒間浸漬し、リフターを用いて6mm/秒の一定速度で引き上げる。室温にて溶媒を揮発させた後、紫外線照射装置(UVP社製、UVクロスリンカー CX−2000)を用い、化合物(A−1)が塗布されたテストディスクに紫外線を照射し、塗膜を形成する。紫外線の波長は、184nm、253nmの混合波長であり、照射時間は15秒である。塗膜が形成されたテストディスクをR−225に30秒浸漬して洗浄する。
洗浄後のディスクの初期評価は、ヘキサデカンについては良好な撥油性を示し、水については水転落性が良く、良好な撥水性を示す。
なお、基材であるテストディスクとして、HDD用サブストレートディスク(ガラス製、アルミ製)、およびCD用ディスク(ポリカーボネート(PC)製)の3種を用いる。
【0089】
〔例4〕
化合物(A−1)を化合物(B−1)に変更した以外は、例3と同様にしてディスクを作製し、評価を行う。
【0090】
〔例5〕
化合物(A−1)を下記化合物(C−1)(旭硝子社製、FA−X)に変更した以外は、例3と同様にしてディスクを作製し、評価を行う。
CF(CF(CHOC(O)C(CH)=CH (C−1)。
【0091】
化合物(A−1)から形成された塗膜は、撥水撥油性、油脂汚れの除去性、耐アルカリ性(2時間、24時間)ともに良好であり、低摩擦係数を有する。しかし、化合物(B−1)から形成される塗膜は、耐アルカリ性(24時間)が劣り、撥水撥油性が著しく低下する。化合物(B−1)はアルカリによってエステル結合の部分で加水分解したものと考察される。化合物(C−1)から形成される塗膜は、耐アルカリ性(24時間)および油脂汚れの除去性が劣り、摩擦係数が高い。
【0092】
〔例6〕
窒素ガス雰囲気(100mL/分)下、10℃/分の割合で25℃から500℃まで昇温して化合物(A1−1)の25mgの質量減少を示差熱天秤上で測定する方法で、安定性試験を行う。質量減少はなく、ほぼ一定である。
酸触媒であるγ−アルミナ微粉(日揮化学社製、N−611N)の0.5gを存在させ、化合物(A−1)の25mgの安定性試験を行う。質量減少プロフィールは酸触媒がない場合と同様であり、優れた安定性を示す。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明の表面処理剤は、潤滑剤、防汚剤、撥水撥油剤、指紋除去性能付与剤、易洗浄性付与剤、離形剤、表面改質剤等を付与する表面処理剤として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下式(A)で表される化合物(A)を含むことを特徴とする、表面処理剤。
O(CFCFO)CFC(O)N(H)[−Q{−OC(O)C(R)=CH2−b (A)。
ただし、Rは、炭素数1〜20のペルフルオロ1価飽和炭化水素基、または、炭素原子−炭素原子間にエーテル性酸素原子が挿入された炭素数2〜20のペルフルオロ1価飽和炭化水素基であり、かつ−OCFO−構造が存在しない基であり、
aは、1〜200の整数であり、
bは、0または1であり、
cは、2〜10の整数であり、
Qは、炭素数2〜6の(c+1)価の飽和炭化水素基であり、1分子中に2つのQが存在する場合、2つのQは同一でなくてもよく、
Rは、水素原子または炭素数1〜3のアルキル基であり、1分子中に存在する複数のRはすべてが同一でなくてもよい。
【請求項2】
下式(A)で表される化合物(A)と有機溶媒とを含む、表面処理剤用組成物。
O(CFCFO)CFC(O)N(H)[−Q{−OC(O)C(R)=CH2−b (A)。
ただし、Rは、炭素数1〜20のペルフルオロ1価飽和炭化水素基、または、炭素原子−炭素原子間にエーテル性酸素原子が挿入された炭素数2〜20のペルフルオロ1価飽和炭化水素基であり、かつ−OCFO−構造が存在しない基であり、
aは、1〜200の整数であり、
bは、0または1であり、
cは、2〜10の整数であり、
Qは、炭素数2〜6の(c+1)価の飽和炭化水素基であり、1分子中に2つのQが存在する場合、2つのQは同一でなくてもよく、
Rは、水素原子または炭素数1〜3のアルキル基であり、1分子中に存在する複数のRはすべてが同一でなくてもよい。
【請求項3】
前記有機溶媒が、フッ素系有機溶媒を含む、請求項2に記載の表面処理剤用組成物。
【請求項4】
前記有機溶媒100質量部に対して、前記化合物(A)を0.001〜50質量部含む、請求項2または3に記載の表面処理剤用組成物。
【請求項5】
請求項1に記載の表面処理剤を基材の表面に塗布し、次に硬化させることによって形成された塗膜を有する、または、請求項2〜4のいずれか一項に記載の表面処理剤用組成物を基材の表面に塗布し、有機溶媒を乾燥させ、次に硬化させることによって形成された塗膜を有する、物品。
【請求項6】
前記基材が、透明基材である、請求項5に記載の物品。
【請求項7】
前記透明基材の材料が、ガラスまたはポリカーボネートである、請求項6に記載の物品。
【請求項8】
表面に指紋除去性能を有する、請求項5〜7のいずれか一項に記載の物品。
【請求項9】
下式(A)で表される化合物(A)。
O(CFCFO)CFC(O)N(H)[−Q{−OC(O)C(R)=CH2−b (A)。
ただし、Rは、炭素数1〜20のペルフルオロ1価飽和炭化水素基、または、炭素原子−炭素原子間にエーテル性酸素原子が挿入された炭素数2〜20のペルフルオロ1価飽和炭化水素基であり、かつ−OCFO−構造が存在しない基であり、
aは、1〜200の整数であり、
bは、0または1であり、
cは2〜10の整数であり、
Qは、炭素数2〜6の(c+1)価の飽和炭化水素基であり、1分子中に2つのQが存在する場合、2つのQは同一でなくてもよく、
Rは、水素原子または炭素数1〜3のアルキル基であり、1分子中に存在する複数のRはすべてが同一でなくてもよい。

【公開番号】特開2011−52158(P2011−52158A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−204055(P2009−204055)
【出願日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】