説明

表面処理方法

【課題】アルミニウムまたはアルミニウム合金の局所的な溶解を防ぐこと。
【解決手段】半導体基板の表面に形成されたアルミニウムを主成分とする電極の表面を、硝酸濃度が9mol/リットル以上20mol/リットル以下の硝酸溶液に浸漬することでデスマット処理を行う(ステップS3)。ついで、電極の表面に第1ジンケート処理を行い亜鉛置換膜を形成し(ステップS4)、この亜鉛置換膜を、硝酸濃度が9mol/リットル以上20mol/リットル以下の硝酸溶液に浸漬することで剥離する(ステップS5)。ついで、電極の表面に第2ジンケート処理を行い電極の表面に亜鉛置換膜を形成し(ステップS6)、この亜鉛置換膜の表面に無電解めっき処理によってめっき皮膜を形成する(ステップS7)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、表面処理方法に関し、特に、半導体素子のアルミニウム電極に無電解めっき法により金属膜を形成する表面処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体装置をはんだ等のバンプを介して実装基板またはパッケージに接合する方法が行われている。ここで、素子の電極は多くの場合、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる。しかし、これらははんだとの濡れ性が悪く、かつはんだを強固に密着させることができないため、素子の電極にはんだバンプを接合させるためには、アンダーバンプメタル膜を形成する必要がある。
【0003】
このアンダーバンプメタル膜は、例えば半導体装置の表面電極であるアルミニウム電極の表面にニッケル(Ni)等のめっきを施すことで形成される。めっき処理法として、無電解めっき法が知られている。無電解めっき法は、例えば溶液中のニッケルイオンを、次亜燐酸などの還元剤により被めっき材の表面で還元させて析出させる方法である。しかしながら、アルミニウム電極に何の処理もせず無電解めっき処理を直接行うと、アルミニウム電極とめっき皮膜との密着力が悪い。これは、アルミニウム電極の表面が酸化され、アルミニウム電極の表面に酸化アルミニウム膜が存在するためである。したがって、実用的な密着性のあるめっき皮膜を形成することができないという問題がある。
【0004】
アルミニウム電極とめっき皮膜との密着性を向上させるためのめっき前処理方法としては、一般的に以下の3つの例が挙げられる。第1従来例として、アルミニウム電極の表面にジンケート処理を行い、アルミニウムと亜鉛とを置換した後に、無電解ニッケルめっき処理を行う方法が提案されている(例えば、下記非特許文献1参照。)。
【0005】
第2従来例として、アルミニウム電極の表面をパラジウムによって活性化させた後に、無電解ニッケルめっき処理を行う方法が提案されている(例えば、下記非特許文献2参照。)。第3従来例として、アルミニウム電極をニッケルと直接置換させた後に、自己触媒型の無電解ニッケルめっき処理を行う方法が提案されている(例えば、下記非特許文献3参照。)。
【0006】
上述した3つの例のうち、第1従来例は、アルミニウム電極への無電解めっき処理の前処理方法として、最も普及している方法である。第1従来例において、ジンケート処理とは、酸化亜鉛などのアルカリ溶液(ジンケート溶液)にアルミニウム電極の表面を浸漬することである。これにより、アルミニウム電極の表面の酸化アルミニウム膜を除去するとともに、アルミニウムを亜鉛に置換し、アルミニウム電極の表面に亜鉛膜を形成する。
【0007】
第1従来例では、ジンケート処理を行いアルミニウムを亜鉛に置換した状態で、無電解ニッケルめっき液に浸漬し、亜鉛膜の溶解と同期してニッケルを析出させる。このようにすることで、ニッケルとアルミニウム電極との界面に酸化アルミニウム膜が介在しなくなるため、アルミニウム電極との密着性が良く、かつ電気的および熱的に伝導性の良いニッケルめっき膜が形成される。
【0008】
しかしながら、ジンケート処理を1回のみ行った場合では、粒子が大きくて粗い亜鉛膜となってしまい、続けて形成するニッケルめっき膜の密着強度が実用的ではない。したがって、1回目の第1ジンケート処理によって形成されたジンケート膜(亜鉛膜)を、硝酸(HNO3)溶液を用いて剥離して、再度2回目の第2ジンケート処理を行うことで、粒子が細かくて緻密な亜鉛膜を形成する方法が提案されている。このようにジンケート処理を2回行う方法を、ダブルジンケート方法と呼び、これによって、実用的な密着強度のニッケルめっき膜を形成することができる。
【0009】
ダブルジンケート方法の処理手順としては、まず、脱脂処理を行った後に、酸溶液またはアルカリ溶液を用いてエッチング処理を行う。そして、硝酸を用いてデスマット処理を行った後に、第1ジンケート処理を行う。ついで、ジンケート膜の剥離処理を行った後、第2ジンケート処理を行う。なお、ある処理と次の処理の間には、電極の表面を水で洗う処理が含まれる。
【0010】
また、シリコン表面に直接無電解めっき処理を行う際の前処理として、フッ化水素酸に酸化剤を混合した溶液に浸漬する方法(例えば、下記特許文献1参照。)や、フッ化水素酸、硝酸および水溶液中で酸素を発生する化合物を含有するめっき前処理液に浸漬する方法(例えば、下記特許文献2参照。)が提案されている。これらの方法によれば、シリコン表面を活性化した後に、無電解めっき処理を行うため、シリコン表面と、めっき皮膜との、密着力が向上する。
【0011】
【特許文献1】特許第3975625号公報
【特許文献2】特公平6−5670号公報
【非特許文献1】山田 浩(Hiroshi Yamada)、外3名、「平面配線によるLSI接続技術(Planar LSI Interconnection Technology)」、信技報、エレクトロニクス実装学会、1987年9月25日、第87巻、第37号、p.13−18
【非特許文献2】山川 晃司(Koji YAMAKAWA)、外2名、「無電解めっき法によるバンプ形成(BUMP FORMATION BY ELECTROLESS PLATING)」、信技報、エレクトロニクス実装学会、1987年9月25日、第87巻、第40号、p.31−36
【非特許文献3】齋藤 裕一、外4名、「アルミニウム合金上への置換法を用いた無電解ニッケルめっき」、第112回講演大会要旨集、表面技術協会、6B−9、p.109−110
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、アルミニウムは、酸溶液およびアルカリ溶液に溶解する両性金属である。このため、ダブルジンケート方法において、酸溶液またはアルカリ溶液を用いる、エッチング処理、デスマット処理、ジンケート処理、剥離処理の各工程において、アルミニウム電極が溶解し侵食される。
【0013】
これらの溶解や浸食は微量であるため、一般的なバルクのアルミニウム材へ無電解めっき処理を行う際には、問題にならず、逆に適度な粗面化により密着性を向上させる要因となる。一方、半導体装置におけるアルミニウム電極は、半導体装置の微細化が進展し、アルミニウム電極の薄膜化が進んでおり、一般的に1μm程度の厚さとなってきている。このように、アルミニウム膜が薄い場合、無電解めっきの前処理の条件によっては、アルミニウム電極が溶解し浸食され、半減したり、局所的に消失したりしてしまうという問題がある。
【0014】
ここで、半導体装置におけるアルミニウム電極は、スパッタリング法や蒸着法によって形成されるため、表面の清浄度が高い。このため、脱脂処理およびエッチング処理を省略し、これらの工程における溶解や浸食を防ぐことができる。しかしながら、デスマット処理および剥離処理において、硝酸溶液にアルミニウム電極を浸漬することと、ジンケート処理においてアルカリ溶液にアルミニウム電極を浸漬することは必須であり、これらの工程におけるアルミニウムの溶解や浸食を防ぐことはできない。
【0015】
一般的に、デスマット処理や剥離処理に用いる硝酸溶液は、市販されている濃硝酸(60〜70vol%)を約2倍に希釈することで生成される。その理由は、濃硝酸溶液中においては、アルミニウムの表面が不働態化して溶解が進行しないためである。ここで、硝酸溶液中の硝酸濃度が薄すぎると不働態化が不十分となり溶解や侵食が進んでしまう。また、硝酸溶液中の硝酸濃度が濃すぎると硝酸の揮発性が顕著となり作業性が悪くなる。したがって、最適な濃度の硝酸溶液を用いる必要があるという問題がある。
【0016】
また、ジンケート処理においては、アルミニウムの表面を置換して亜鉛を析出させるためアルミニウムが溶出されるが、理論的には、アルミニウムの表面がすべて亜鉛に置換されれば、反応が止まりアルミニウムが溶出しなくなるはずである。しかし、実際には、アルミニウムが溶解する際に放出される電子が、アルミニウムが溶解することで凹部となった部分から、亜鉛が析出された凸部へ供給される。このため、凸部では、さらに亜鉛が析出することとなり、凹部では、亜鉛が析出されないため、アルミニウムの溶解が止まらなくなってしまう。したがって、アルミニウム電極の表面をジンケート液へ浸漬する時間を長くすると、アルミニウムの局所的な溶解が進んでしまうという問題がある。
【0017】
また、特許文献1および特許文献2には、無電解めっき処理の前処理について記載されているが、これらの技術は、シリコンの表面をエッチングするものである。したがって、シリコンの表面にアルミニウム膜が形成されている際に上述の溶液を用いる場合、溶液中のフッ化水素酸がアルミニウムの不働態化を阻害し、アルミニウムの溶解が止まらないという問題がある。
【0018】
この発明は、上述した従来技術による問題点を解消するため、アルミニウムまたはアルミニウム合金の局所的な溶解を防ぐことができる表面処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上述した課題を解決し、目的を達成するため、請求項1の発明にかかる表面処理方法は、まず、アルミニウムを主成分とする導体の表面を洗浄する。ついで、洗浄された導体の表面を亜鉛に置換し、形成された亜鉛置換膜を剥離する。そして、導体の表面の洗浄および亜鉛置換膜の剥離に用いる溶液を、硝酸のみを希釈した硝酸溶液とし、硝酸溶液の硝酸濃度を9mol/リットル以上20mol/リットル以下とすることを特徴とする。
【0020】
また、請求項2の発明にかかる表面処理方法は、まず、アルミニウムを主成分とする導体の表面を洗浄する。ついで、洗浄された導体の表面を亜鉛に置換し、形成された亜鉛置換膜を剥離する。そして、導体の表面の洗浄および亜鉛置換膜の剥離に用いる溶液を、酸化還元反応によって導体の表面に析出物を形成しない酸化剤を硝酸溶液に添加した混合溶液とする。さらに、この混合溶液の硝酸濃度を4mol/リットル以上20mol/リットル以下とし、かつ酸化剤の混合溶液への添加濃度を0.005mol/リットル以上酸化剤の混合溶液への溶解度以下とすることを特徴とする。
【0021】
また、請求項3の発明にかかる表面処理方法は、請求項2に記載の発明において、混合溶液に添加される酸化剤を、ペルオキソ二硫酸カリウム、過酸化水素、オゾンガスのうちのいずれか1種以上とする。また、酸化剤の混合溶液への合計添加濃度を0.005mol/リットル以上1mol/リットル以下とすることを特徴とする。
【0022】
また、請求項4の発明にかかる表面処理方法は、請求項3に記載の発明において、酸化剤に、オゾンガスが含まれる場合、酸化剤に含まれるオゾンガスの混合溶液への添加濃度を0.005mol/リットル以上0.2mol/リットル以下とすることを特徴とする。
【0023】
また、請求項5の発明にかかる表面処理方法は、請求項1〜4のいずれか一つに記載の発明において、導体は、アルミニウムまたはアルミニウム合金であることを特徴とする。
【0024】
また、請求項6の発明にかかる表面処理方法は、請求項1〜5のいずれか一つに記載の発明において、亜鉛置換膜を剥離した後に、再び導体の表面を亜鉛に置換する。ついで、形成された亜鉛置換膜の表面にニッケルを無電解めっきすることを特徴とする。
【0025】
上述の各発明によれば、アルミニウムを主成分とする導体の表面を亜鉛に置換する前に、最適な硝酸濃度の硝酸溶液を用いて導体の表面を洗浄し、アルミニウムを主成分とする導体の表面を亜鉛に置換した後に、最適な硝酸濃度の硝酸溶液を用いてこの亜鉛置換膜を剥離することができる。このように硝酸溶液中の硝酸濃度を最適にすることで、硝酸溶液の酸化力を強くし、アルミニウムの不働態化を促進することができる。これによって、洗浄工程や剥離工程において、アルミニウムを主成分とする導体の表面を硝酸溶液に浸漬した際に、アルミニウムが露出した部分の溶解を止めることができる。
【0026】
また、硝酸溶液中でのアルミニウムの溶解を止めることで、アルミニウムを主成分とする導体の表面に形成された亜鉛やその他の金属の溶解を促進することができる。したがって、置換工程(または、再置換工程)の直前の導体の表面が、亜鉛や他の金属によって汚染されるのを防ぐことができる。これによって、置換工程(または、再置換工程)において、凹部や凸部が形成される原因となる核を極小とすることができるので、アルミニウムを主成分とする導体の表面を亜鉛に置換する際にアルミニウムの局所的な溶解を防ぐことができる。
【0027】
また、請求項2〜6の発明によれば、洗浄工程および剥離工程に用いる硝酸溶液に、酸化還元反応でアルミニウムの表面に酸化析出物の形成されない酸化剤を添加することで、硝酸溶液の濃度を低くすることができる。そして、硝酸溶液の濃度が低いため、アルミニウムの溶解を大幅に抑制することができる。また、銅(Cu)、鉄(Fe)、その他の汚染金属や、置換工程後に形成される亜鉛置換膜を、完全に溶解し除去することができる。これによって、特に、再置換工程において、アルミニウムの局所的な溶解を防ぐことができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明にかかる表面処理方法によれば、アルミニウムまたはアルミニウム合金の局所的な溶解を防ぐことができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下に添付図面を参照して、この発明にかかる表面処理方法の好適な実施の形態を詳細に説明する。
【0030】
(実施の形態1)
図1は、ダブルジンケート処理の処理手順について示すフローチャートである。図1のフローチャートにおいては、まず、アルミニウムやアルミニウム合金などのアルミニウムを主成分とする電極の表面に脱脂処理を行い(ステップS1)、表面に付着している油脂性の汚れを除去して清浄にする。そして、酸溶液またはアルカリ溶液を用いてエッチング処理を行う(ステップS2)。なお、図1のフローチャートにおいては、ステップS1およびステップS2は、省略しても良い。このことによって、脱脂処理およびエッチング処理におけるアルミニウムを主成分とする電極の溶解や侵食を防ぐことができる。
【0031】
ついで、硝酸(HNO3)溶液を用いてデスマット処理を行い(ステップS3)、ステップS2におけるエッチング処理によって生じたスマットを除去する。ステップS3において、硝酸溶液中の硝酸濃度は、例えば9mol/リットル以上20mol/リットル以下とする。その理由については、後述する。
【0032】
ついで、第1ジンケート処理を行い(ステップS4)、アルミニウムを主成分とする電極の表面にジンケート膜を形成する。そして、硝酸溶液を用いて、ステップS4において形成されたジンケート膜を剥離する(ステップS5)。ステップS5において、硝酸溶液中の硝酸濃度は、例えば9mol/リットル以上20mol/リットル以下とする。その理由については、後述する。なお、ステップS3およびステップS5に用いる硝酸溶液には、例えばフッ酸などの、アルミニウムの不働態化を阻害するような酸を混合しないこととする。その理由は、これらの硝酸溶液に硝酸以外の酸を混合すると、アルミニウムの不働態化を阻害し、硝酸溶液中でアルミニウムが露出した部分の溶解が止まらなくなってしまうためである。
【0033】
ついで、第2ジンケート処理を行う(ステップS6)。ステップS4およびステップS6において、2回のジンケート処理(ダブルジンケート処理)を行うことで、アルミニウムを主成分とする電極のアルミニウムが亜鉛に置換され、アルミニウムを主成分とする電極の表面に亜鉛膜が形成される。その後、無電界めっき処理を行い(ステップS7)、亜鉛膜を例えばニッケルに置換し、ニッケルを継続的に析出させてニッケルめっき膜を形成する。このように、ダブルジンケート処理後に無電解めっき処理を行うことによって、ニッケルめっき膜を確実にかつ強固な密着力でアルミニウム電極の表面に形成することができる。なお、図1に示すフローチャートにおいて、ステップ間、すなわち、ある処理と次の処理の間には、それぞれアルミニウムを主成分とする電極の表面を水で濯ぐ処理が含まれることとする。
【0034】
(第1の検証)
つぎに、第1の検証としてデスマット処理および剥離処理に用いる硝酸溶液中の硝酸濃度について検証を行う。第1の検証においては、6インチのシリコンウエハの片面に、スパッタ法により厚さ1μmのアルミニウム−シリコン合金(Al−Si)膜を形成した。このシリコンウエハを縦30mm、横30mmに切り出したものを、めっき用基板として用意した。そして、このめっき用基板を用いて、下記の条件で実施例1〜3および比較例1,2の試料を作成した。
【0035】
まず、各めっき用基板上のAl−Si膜の表面を常温のアセトンに5分間浸漬した後に、比抵抗が10MΩ以上の脱イオン水を用いて十分に濯いだ。ついで、デスマット処理、第1ジンケート処理、剥離処理、第2ジンケート処理をこの順に行った。
【0036】
ここで、デスマット処理および剥離処理に用いる硝酸溶液中の硝酸濃度を、各試料毎に変更した。図2は、第1の検証の各試料に用いた硝酸溶液中の硝酸濃度および処理時間について示す説明図である。図2に示すように、デスマット処理および剥離処理に用いる硝酸溶液の硝酸濃度が、9mol/リットルの試料を実施例1、15mol/リットルの試料を実施例2、20mol/リットルの試料を実施例3として作成した。また、デスマット処理および剥離処理に用いる硝酸溶液の硝酸濃度が1mol/リットルの試料を比較例1、8mol/リットルの試料を比較例2として作成した。なお、デスマット処理においては上述の硝酸溶液に各試料を30秒間浸漬し、剥離処理においては上述の硝酸溶液に各試料を60秒間浸漬した。
【0037】
また、各試料とも、第1ジンケート処理および第2ジンケート処理に用いるジンケート処理液の組成は、水酸化ナトリウムを120g/リットル、酸化亜鉛を20g/リットル、酒石酸ナトリウムカリウムを50g/リットル、塩化第2鉄を2g/リットル、硝酸ナトリウムを1g/リットル含むものとする。第1ジンケート処理においては、上述のジンケート溶液に常温で10秒間、各試料を浸漬した。第2ジンケート処理においては、上述のジンケート溶液に常温で30秒間、各試料を浸漬した。なお、ある処理と次の処理の間には、Al−Si膜の表面を比抵抗が10MΩ以上の脱イオン水を用いて十分に濯いだ。
【0038】
そして、第2ジンケート処理の後に、各試料のAl−Si合金の表面を比抵抗が10MΩ以上の脱イオン水を用いて十分に濯いでから、無電解ニッケルめっき処理を行った。これにより、各試料の表面に約1μmの厚さのニッケル−リン合金(Ni−P)めっき膜を形成した。なお、各試料の無電解ニッケルめっき処理に用いるめっき液は、硝酸ニッケルを25g/リットル、次亜燐酸ナトリウムを25g/リットル、リンゴ酸ナトリウムを40g/リットル、乳酸ナトリウムを20g/リットル、グリシンを10g/リットル含む組成のものに、硫酸や苛性ナトリウムなどのpH調整剤を添加して、pHを4.8〜5.0とした。
【0039】
無電解ニッケルめっき処理においては、上述のめっき液に82℃〜86℃の温度で約5分間、各試料を浸漬した。そして、比抵抗が10MΩ以上の脱イオン水を用いて十分に濯ぎ、窒素を用いてブロー乾燥を行うことで、各試料の作成が完了した。
【0040】
つぎに、各試料について、表面の状態を検証した。まず、蛍光X線法を用いて、めっき処理の完了した各試料上に残ったAl−Si膜の膜厚(Al残膜厚)を測定した。そして、任意の箇所を割断し、その断面の任意の箇所の幅約100μmをFIB(Focused Ion Beam)法によって平滑加工して、平滑加工された部分の断面の状態を観察した。
【0041】
図3は、第1の検証の各試料について、Al−Si膜の膜厚およびめっき界面の状態を観察した結果を示す説明図である。ここで、めっき界面とは、Al−Si膜とNi−Pめっき膜との界面である。なお、図3において、Al残膜厚の評価は、試料上に残ったAl−Si膜の膜厚が0.5μmを超える試料を良好とした。また、めっき界面の状態の評価は、幅と深さとの比が1:1以上であり、かつ深さが0.1μm以上である孔を孔食と定義して、FIB法によって平滑加工した幅約100μm中に孔食があるか否かを観察し、無い試料を良好とした。
【0042】
図3に示すように、実施例1〜3は、試料上に残ったAl−Si膜の膜厚が0.5μmを超え、比較例1,2は、試料上に残ったAl−Si膜の膜厚が0.5μm以下であった。また、実施例1〜3には、めっき膜の界面に孔食が無く、比較例1,2には、孔食が観察された。
【0043】
このように、硝酸溶液の硝酸濃度が9mol/リットルより低い場合、試料上のAl−Si膜が1/2以上溶出され、孔食が生じてしまったが、硝酸溶液の硝酸濃度が9mol/リットル以上の場合、アルミニウムの溶出が抑制され、孔食が生じなかった。また、硝酸溶液の硝酸濃度が濃ければ濃いほどアルミニウムの不働態化は促進されるが、20mol/リットルより濃くなると揮発性が顕著となり、作業性が悪化するため、不適切である。したがって、デスマット処理および剥離処理に用いる硝酸溶液中の硝酸濃度は、9mol/リットル以上20mol/リットル以下が好適であることがわかった。
【0044】
実施の形態1にかかる表面処理方法によれば、ダブルジンケート方法におけるデスマット処理および剥離処理に用いる硝酸溶液中の硝酸濃度を9mol/リットル以上20mol/リットル以下と高濃度にすることで、硝酸溶液の酸化力を強くすることができる。これによって、アルミニウムの不働態化を促進し、アルミニウムを主成分とする電極の表面を硝酸溶液に浸漬した際に、アルミニウムが露出した部分の溶解を止めることができる。
【0045】
また、実施の形態1にかかる表面処理方法によれば、硝酸溶液中でのアルミニウムの溶解を止めることで、アルミニウム電極の表面の亜鉛やその他の金属の溶解を促進することができる。したがって、ジンケート処理の直前のアルミニウムを主成分とする電極の表面が、亜鉛や他の金属によって汚染されるのを防ぐことができる。これによって、ジンケート処理において、凹部や凸部が形成される原因となる核を極小とすることができるので、ジンケート処理におけるアルミニウムの局所的な溶解を防ぐことができる。
【0046】
(実施の形態2)
つぎに、実施の形態2にかかる表面処理方法について説明する。実施の形態2においては、図1に示すデスマット処理(ステップS3)および剥離処理(ステップS5)に用いる溶液を、硝酸溶液に酸化剤を添加した混合溶液とする。その他の処理については、実施の形態1と同様とし、説明を省略する。
【0047】
実施の形態2においては、デスマット処理および剥離処理に用いる混合溶液中の硝酸濃度は、4mol/リットル以上20mol/リットル以下が好適である。その理由は後述する。また、混合溶液中に添加する酸化剤としては、酸化還元反応でアルミニウムの表面に酸素析出物が形成されない酸化剤とする。具体的には、例えばペルオキソ二硫酸カリウム、過酸化水素、オゾンガスのうち、少なくとも1種を添加する。ここで、酸化剤の合計添加濃度の下限は、0.005mol/リットル以上が良い。その理由は、後述する。また、合計添加濃度の上限は、添加する酸化剤の硝酸溶液への溶解度以下とする。具体的には、例えばオゾンガスを添加する場合0.2mol/リットル以下であり、その他の酸化剤を添加する場合1mol/リットル以下であれば良い。
【0048】
(第2の検証)
つぎに、第2の検証として、酸化剤の種類と添加濃度について検証する。第2の検証においては、第1の検証に用いためっき用基板と同様の基板を用いて、下記の条件で実施例4〜7および比較例3〜5の試料を作成した。なお、デスマット処理および剥離処理以外の処理については、第1の検証と同様の処理を行った。
【0049】
ここで、第2の検証においては、デスマット処理および剥離処理に用いる混合溶液の組成を各試料毎に変更した。図4は、第2の検証の各試料に用いた混合溶液の組成および処理時間について示す説明図である。図4に示すように、デスマット処理および剥離処理において、各実施例の試料を以下に示す組成の混合溶液に浸漬した。実施例4の試料は、硝酸濃度が4mol/リットルで、ペルオキソ二硫酸カリウムの添加濃度が0.005mol/リットルの混合溶液に浸漬した。実施例5の試料は、硝酸濃度が4mol/リットルで、ペルオキソ二硫酸カリウムの添加濃度が0.1mol/リットルの混合溶液に浸漬した。実施例6の試料は、硝酸濃度が4mol/リットルで、過酸化水素の添加濃度が0.1mol/リットルの混合溶液に浸漬した。実施例7の試料は、硝酸濃度が4mol/リットルで、オゾンガスの添加濃度が0.1mol/リットルの混合溶液に浸漬した。
【0050】
また、比較例3の試料は、デスマット処理においては実施例4と同様の混合溶液に浸漬したが、剥離処理においては、硝酸濃度が3mol/リットルで、ペルオキソ二硫酸カリウムの添加濃度が0.005mol/リットルの混合溶液に浸漬した。比較例4の試料は、デスマット処理および剥離処理において、硝酸濃度が4mol/リットルで、ペルオキソ二硫酸カリウムの添加濃度が0.004mol/リットルの混合溶液に浸漬した。比較例5の試料は、デスマット処理および剥離処理において、硝酸濃度が4mol/リットルで、クロム酸カリウムの添加濃度が0.1mol/リットルの混合溶液に浸漬した。
【0051】
なお、実施例および比較例の各試料を、デスマット処理においては上述の硝酸溶液に30秒間浸漬し、剥離処理においては上述の硝酸溶液に60秒間浸漬した。
【0052】
図5は、第2の検証の各試料について、Al−Si膜の膜厚およびめっき界面の状態を観察した結果を示す説明図である。図5に示すように、実施例4〜7は、試料上に残ったAl−Si膜の膜厚が0.5μmを超え、比較例3,4は、試料上に残ったAl−Si膜の膜厚が0.5μm以下であった。また、実施例4〜7には、めっき膜の界面に孔食が無く、比較例3,4には、孔食が観察された。
【0053】
このように、デスマット処理および剥離処理に用いる溶液を、硝酸溶液に酸化剤を添加した混合溶液とした場合、酸化剤を添加しない硝酸溶液を用いるよりも、低い硝酸濃度で良いことがわかった。具体的には、混合溶液中の硝酸濃度が、4mol/リットル以上であれば良い。また、混合溶液に添加する酸化剤の添加濃度は、0.005mol/リットル以上であれば良いことがわかった。
【0054】
また、混合溶液中の硝酸濃度が濃ければ濃いほどアルミニウムの不働態化が促進されるが、20mol/リットルより濃くなると揮発性が顕著となり、作業性が悪化するため、不適切である。したがって、デスマット処理および剥離処理に用いる混合溶液の組成は、硝酸濃度が4mol/リットル以上20mol/リットル以下、かつ酸化剤の添加濃度が0.005mol/リットル以上が好適であることがわかった。
【0055】
なお、酸化剤の添加濃度の上限は、各酸化剤の硝酸溶液の溶解度以下である。具体的には、例えば、オゾンガスを添加する場合、添加濃度が0.2mol/リットル以下であれば良い。また、オゾンガス以外の酸化剤を添加する場合、添加濃度が1mol/リットル以下であれば良い。
【0056】
また、比較例5の試料は、クロム酸によって、アルミニウムの表面に不溶性の酸化クロム化合物膜(クロメート膜)が形成されるため、アルミニウムの溶出が著しく抑制された。しかしながら、その後の工程で、ジンケート膜や無電解ニッケル−リンめっき膜を析出させることができなかった。これによって、硝酸溶液に添加する酸化剤は、酸化還元反応によってアルミニウムの表面に酸化析出物が形成されない酸化剤であれば良いことがわかった。
【0057】
実施の形態2にかかる表面処理方法によれば、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。また、ダブルジンケート方法におけるデスマット処理および剥離処理に用いる硝酸溶液に、酸化還元反応でアルミニウムの表面に酸化析出物が形成されない酸化剤を添加することで、実施の形態1と比べて、硝酸濃度を低くすることができる。そして、硝酸濃度が低いため、アルミニウムの溶解を大幅に抑制することができる。
【0058】
また、実施の形態2にかかる表面処理方法によれば、銅(Cu)、鉄(Fe)、その他の汚染金属や、第1ジンケート処理後に形成される亜鉛を、完全に溶解し除去することができる。これによって、特に、第2ジンケート処理において、アルミニウムの局所的な溶解を防ぐことができる。
【0059】
以上説明したように、この表面処理方法を半導体装置の製造方法に適用すれば、アルミニウムまたはアルミニウム合金でできた電極の局所的な溶解を防ぐことができる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
以上のように、本発明にかかる表面処理方法は、電極の表面に無電解めっき処理によってめっき皮膜を形成する半導体装置の製造に有用であり、特に、アルミニウムを主成分とする電極の表面にアンダーバンプメタル膜を形成する半導体装置の製造に適している。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】ダブルジンケート処理の処理手順について示すフローチャートである。
【図2】第1の検証の各試料に用いた硝酸溶液中の硝酸濃度および処理時間について示す説明図である。
【図3】第1の検証の各試料について、Al−Si膜の膜厚およびめっき界面の状態を観察した結果を示す説明図である。
【図4】第2の検証の各試料に用いた混合溶液の組成および処理時間について示す説明図である。
【図5】第2の検証の各試料について、Al−Si膜の膜厚およびめっき界面の状態を観察した結果を示す説明図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウムを主成分とする導体の表面を洗浄する洗浄工程と、
前記洗浄工程によって洗浄された前記導体の表面を亜鉛に置換する置換工程と、
前記置換工程によって形成された亜鉛置換膜を剥離する剥離工程と、
を含み、
前記洗浄工程および前記剥離工程に用いる溶液は、硝酸のみを希釈した硝酸溶液であり、当該硝酸溶液の硝酸濃度が9mol/リットル以上20mol/リットル以下であることを特徴とする表面処理方法。
【請求項2】
アルミニウムを主成分とする導体の表面を洗浄する洗浄工程と、
前記洗浄工程によって洗浄された前記導体の表面を亜鉛に置換する置換工程と、
前記置換工程によって形成された亜鉛置換膜を剥離する剥離工程と、
前記洗浄工程および前記剥離工程に用いる溶液は、酸化還元反応によって前記導体の表面に析出物を形成しない酸化剤を硝酸溶液に添加した混合溶液であり、当該混合溶液の硝酸濃度が4mol/リットル以上20mol/リットル以下であり、かつ前記酸化剤の前記混合溶液への添加濃度が0.005mol/リットル以上前記酸化剤の前記混合溶液への溶解度以下であることを特徴とする表面処理方法。
【請求項3】
前記酸化剤は、ペルオキソ二硫酸カリウム、過酸化水素、オゾンガスのうちのいずれか1種以上であり、前記酸化剤の前記混合溶液への合計添加濃度が0.005mol/リットル以上1mol/リットル以下であることを特徴とする請求項2に記載の表面処理方法。
【請求項4】
前記酸化剤に、オゾンガスが含まれる場合、前記酸化剤に含まれるオゾンガスの前記混合溶液への添加濃度が0.005mol/リットル以上0.2mol/リットル以下であることを特徴とする請求項3に記載の表面処理方法。
【請求項5】
前記導体は、アルミニウムまたはアルミニウム合金であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の表面処理方法。
【請求項6】
前記剥離工程の後に、再び前記導体の表面を亜鉛に置換する再置換工程と、
前記再置換工程によって形成された亜鉛置換膜の表面にニッケルを無電解めっきするめっき工程と、
をさらに含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一つに記載の表面処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−121151(P2010−121151A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−293799(P2008−293799)
【出願日】平成20年11月17日(2008.11.17)
【出願人】(591083244)富士電機システムズ株式会社 (1,717)
【Fターム(参考)】