説明

表面凹凸シートの製造方法

【課題】無機又は有機微粒子を用いることなく、表面凹凸構造を有する表面凹凸シートを簡便に製造できる方法を提供する。
【解決手段】少なくともペンタエリスリトールアクリレート系紫外線硬化型樹脂材料又はトリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートアクリレート系紫外線硬化型樹脂材料を含む紫外線硬化型樹脂材料と、前記紫外線硬化型樹脂材料に対して非相溶性のポリプロピレングリコールとを混合し、塗工液を調製する第1工程と、前記塗工液を基材に塗布し、前記紫外線硬化型樹脂材料と前記ポリプロピレングリコールとが相分離した相分離構造を有する塗膜を作製する第2工程と、前記塗膜に硬化処理を施し、前記紫外線硬化型樹脂材料を硬化させて前記相分離構造を固定化した硬化膜を作製し、該硬化膜中から前記ポリプロピレングリコールを除去し、表面凹凸構造を有する成形体を形成する第3工程とを含んでいる表面凹凸シートの製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面の凹凸を有する表面凹凸シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、液晶ディスプレイ(LCD)等の表示装置は、該表示装置表面に外部からの明るい光源の光が入射した場合、該光源の写り込みや人物等の影の写り込みにより、画面の視認性が著しく妨げられることがある。
そのため、従来、前記表示装置表面には、画面の視認性向上を目的として、表示装置表面における入射光の正反射等を抑制して、前記光源等の写り込みを少なくするための凹凸構造(所謂、防眩層)が形成されている。
【0003】
前記表示装置表面に凹凸構造(防眩層)を形成させる方法としては、表面凹凸構造の形成が容易なことから、硬化樹脂材料中に微粒子を分散させた塗工液を前記表示装置表面に塗布し、前記硬化樹脂材料を硬化させて表面凹凸構造を形成させる方法が主流となっている(例えば、特許文献1)。
【0004】
前記特許文献1記載の方法によれば、紫外線硬化型樹脂材料中に無機微粒子(例えば、炭酸カルシウム粒子・酸化チタン粒子・シリカ粒子等)或いは有機微粒子(アクリル系ポリマー粒子・シリコーン系ポリマー粒子等)を分散させた塗工液を表示装置表面に塗布し、該塗工液を硬化させることにより、前記表示装置表面に表面中心線平均粗さ(Ra)が0.03μm以上の凹凸構造が形成できることが記載されている。
【0005】
しかし、前記方法で表面凹凸構造が形成された表示装置においては、前記硬化型樹脂材料中での前記微粒子の分散不良等により、ほぼ均一に凹凸構造が形成されず、入射光の正反射等を十分に抑制できず、写り込みやまぶしさを少なくするといった防眩性能が十分に発現しなかったり、また、形成された防眩層の透明性が低下する等の問題が生じることがある。
【0006】
また、時間の経過に伴い硬化した樹脂中に分散していた微粒子が、前記防眩層表面へ浮き出てしまい表示装置表面に形成された防眩層の防眩性能が低下したり、更には、表面へ浮き出た微粒子自身が外観不良(例えば、表面の汚れ等)の原因となってしまう場合もある。
一方、より微細な表面凹凸構造を形成させるには、より微細な粒子を用いる必要があり、それには限界がある。
【0007】
表面凹凸構造を形成させる別法として、特許文献2には、転写法を用いて、表示装置表面に積層させて使用する表面凹凸構造を有する防眩性フィルムを形成させる方法が開示されている。
【0008】
前記特許文献2記載の方法は、表面に凹凸形状が形成されている賦型フィルムを用いて、該賦型フィルムに硬化樹脂材料を流し込み該硬化樹脂材料を硬化させて、凹凸形状を硬化させた樹脂に写し取ることにより、表面中心線平均粗さ(Ra)が0.05μm以上の表面凹凸構造を有する防眩性フィルムを形成させるものである。
【0009】
しかし、前記特許文献2記載の方法によれば、賦型フィルムに硬化させた樹脂が付着してしまい、凹凸形状を写し取ることができず所望の防眩性能を有するフィルムが得られなかったり、また、前記賦型フィルムを何回も使用することで該賦型フィルムの表面凹凸形状が変化してしまったりし、更には、作業性が煩雑であるという問題がある。一方、より微細な表面凹凸構造を形成させるには、限界がある。
【特許文献1】特開平9−127312号公報
【特許文献2】国際公開第95/31737号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記問題点に鑑み、無機又は有機微粒子を用いることなく、表面凹凸構造を有する表面凹凸シートを簡便に製造できる方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、特定の紫外線硬化型樹脂材料と該紫外線硬化型樹脂材料に対して非相溶性の材料とを混合させた塗工液を塗布し、相分離構造の塗膜を形成させ、該塗膜を硬化させて硬化膜を作製し、該硬化膜中から所定の方法で前記非相溶性の材料を除去することで表面凹凸構造を有する表面凹凸シートを製造できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち、本発明は、少なくともペンタエリスリトールアクリレート系紫外線硬化型樹脂材料又はトリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートアクリレート系紫外線硬化型樹脂材料を含む紫外線硬化型樹脂材料と、前記紫外線硬化型樹脂材料に対して非相溶性のポリプロピレングリコールとを混合し、塗工液を調製する第1工程と、前記塗工液を基材に塗布し、前記紫外線硬化型樹脂材料と前記ポリプロピレングリコールとが相分離した相分離構造を有する塗膜を作製する第2工程と、前記塗膜に硬化処理を施し、前記紫外線硬化型樹脂材料を硬化させて前記相分離構造を固定化した硬化膜を作製し、該硬化膜中から前記ポリプロピレングリコールを除去し、表面凹凸構造を有する成形体を形成する第3工程とを含んでいることを特徴とする表面凹凸シートの製造方法を提供する。
【0013】
本発明の表面凹凸シートの製造方法によれば、少なくともペンタエリスリトールアクリレート系紫外線硬化型樹脂材料又はトリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートアクリレート系紫外線硬化型樹脂材料を含む紫外線硬化型樹脂材料と、前記紫外線硬化型樹脂材料に対して非相溶性のポリプロピレングリコールとを混合し、前記紫外線硬化型樹脂材料とポリプロピレングリコールとの界面部分に凹凸構造を有する相分離構造を形成させて、前記紫外線硬化型樹脂材料に硬化処理を施し硬化膜を作製し、該硬化膜中から前記ポリプロピレングリコールを除去することで、表面凹凸構造を形成することができる。
【0014】
また、本発明においては、前記第1工程における塗工液が溶媒を含んでおり、且つ前記第2工程後で前記第3工程の前に、前記塗膜から前記溶媒を除去する溶媒除去工程を含んでいることが好ましい。
かかる製造方法であれば、溶媒を用いて塗工液を調製するため、該塗工液の粘度を調製でき、基材に塗布する際の塗工ムラ等を防止できる。
【0015】
更に、本発明においては、前記ポリプロピレングリコールの重量平均分子量が、10,000以下であることが好ましい。
本発明においては、重量平均分子量が10,000以下のポリプロピレングリコールを用いることで相分離構造を固定化した硬化膜から、ポリプロピレングリコールを迅速に除去することができる。
【0016】
更に、本発明においては、前記硬化膜から、前記ポリプロピレングリコールの除去を溶媒抽出により行うことが好ましい。
【0017】
更に、本発明においては、前記溶媒抽出に用いる溶媒が、液化二酸化炭素又は超臨界状態の二酸化炭素であることが好ましい。
【0018】
更に、本発明においては、前記溶媒抽出に用いる溶媒が、前記ポリプロピレングリコールを選択的に溶解する有機溶媒であることが好ましい。
【0019】
また、本発明においては、表面凹凸シートの表面中心線平均粗さ(Ra)が100nm未満であることが好ましい。
表面凹凸シートの表面中心線平均粗さ(Ra)が100nm未満であれば、シート表面における光の乱反射を低減でき、ヘイズを低減させることができる。
【0020】
更に、本発明においては、表面凹凸シートの平均山谷間隔(Sm)が、30〜1000nmであることが好ましい。
表面凹凸シートの表面凹凸シートの平均山谷間隔(Sm)が、30〜1000nmであれば、シート表面における光の乱反射を低減でき、ヘイズを低減させることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る表面凹凸シートの製造方法では、無機又は有機微粒子を用いないため、該微粒子の分散不良等による防眩性能の低下や微粒子の不均一分散による外観不良等を防止することができるという優れた効果を奏する。
また、本発明に係る表面凹凸シートの製造方法では、無機又は有機微粒子を用いる場合に比べて、より微細な表面凹凸構造を有する表面凹凸シートを簡便に製造できるという優れた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の表面凹凸シートの製造方法について説明する。
本発明の表面凹凸シートの製造方法は、少なくともペンタエリスリトールアクリレート系紫外線硬化型樹脂材料又はトリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートアクリレート系紫外線硬化型樹脂材料を含む紫外線硬化型樹脂材料と、前記紫外線硬化型樹脂材料に対して非相溶性のポリプロピレングリコールとを混合し、塗工液を調製する第1工程と、前記塗工液を基材に塗布し、前記紫外線硬化型樹脂材料と前記ポリプロピレングリコールとが相分離した相分離構造を有する塗膜を作製する第2工程と、前記塗膜に硬化処理を施し、前記紫外線硬化型樹脂材料を硬化させて前記相分離構造を固定化した硬化膜を作製し、該硬化膜中から前記ポリプロピレングリコールを除去し、表面凹凸構造を有する成形体を形成する第3工程とを含んでいるものである。
【0023】
まず、本発明の第1工程は、少なくともペンタエリスリトールアクリレート系紫外線硬化型樹脂材料又はトリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートアクリレート系紫外線硬化型樹脂材料を含む紫外線硬化型樹脂材料と、前記紫外線硬化型樹脂材料に対して非相溶性のポリプロピレングリコールとを混合し、塗工液を調製する工程である。
【0024】
前記紫外線硬化型樹脂材料と前記ポリプロピレングリコールとを混合して塗工液を調製する場合、無溶媒で前記紫外線硬化型樹脂材料と前記ポリプロピレングリコールとを混合してもよく、また、溶媒を用いて前記紫外線硬化型樹脂材料と前記ポリプロピレングリコールとを混合してもよい。
溶媒を用いて前記紫外線硬化型樹脂材料と前記ポリプロピレングリコールとを混合すれば、塗工液の粘度を調製でき、基材に塗布する際の塗工ムラ等を防止できる。
【0025】
前記溶媒は、前記紫外線硬化型樹脂材料及び前記ポリプロピレングリコールの少なくとも一方を溶解しないものであってもよいし、また、前記紫外線硬化型樹脂材料及び前記ポリプロピレングリコールの双方を溶解するものであってもよい。
尚、前記溶媒として、前記紫外線硬化型樹脂材料及び前記ポリプロピレングリコールの双方を溶解するものを使用して塗工液を調製した場合、該塗工液から該溶媒を除去すれば、前記紫外線硬化型樹脂材料と前記ポリプロピレングリコールとは相分離する。
【0026】
前記溶媒としては、例えば、キシレン、トルエン等の芳香族炭化水素系;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール系;メチルエチルケトン等のケトン系等の有機溶媒が挙げられる。
前記溶媒としては、キシレン、トルエン等の芳香族炭化水素系の有機溶媒が好適に使用される。
【0027】
前記溶媒を用いて塗工液を調製する場合、該溶媒の使用量は、前記紫外線硬化型樹脂材料100重量部に対して、通常、100〜10,000重量部であり、好ましくは1,000〜5,000重量部である。
前記溶媒の使用量が、上記範囲内にあれば、塗工液の粘性を調整でき、塗工液を基板に塗布する際の塗工ムラ等を防止できる。
【0028】
前記紫外線硬化型樹脂材料と前記ポリプロピレングリコールとを混合して塗工液を調製する場合、前記紫外線硬化型樹脂材料と前記ポリプロピレングリコールとの使用量は、前記紫外線硬化型樹脂材料100重量部に対して前記ポリプロピレングリコールが300重量部以下であり、好ましくは前記ポリプロピレングリコールが100〜250重量部である。前記紫外線硬化型樹脂材料と前記ポリプロピレングリコールとを上記範囲内で混合することで、両者の界面部分で凹凸構造を形成させることができる。
【0029】
前記塗工液には、前記紫外線硬化型樹脂材料を硬化させる開始剤が混合されていてもよい。前記開始剤としては、分解してラジカルを生成する、例えばラジカル重合に用いられる開始剤を使用することができる。前記開始剤としては、例えば、ジベンゾイルパーオキシド、ジ-tert-ブチルパーオキシド、クメンヒドロパーオキシド、ラウロイルパーオキシド等の有機過酸化物や2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、 2,2’-アゾビスイソバレロニトリル等のアゾ系化合物、アセトフェノン系化合物、ベンゾフェノン系化合物、ジアセチル系化合物、ベンジル系化合物、ベンゾイン系化合物、ベンゾインエーテル系化合物、ベンジルジメチルケタール系化合物、ベンゾイルベンゾエート系化合物、ヒドロキシフェニルケトン系化合物等が挙げられる。前記開始剤の使用量は、前記紫外線硬化型樹脂材料100重量部に対して前記開始剤が0.01〜10重量部であり、好ましくは、開始剤が0.05〜10重量部である。
【0030】
更に、前記塗工液には、該塗工液を硬化させた際に、硬化膜の特性を損なわない程度にレベリング剤、チクソトロピー剤、帯電防止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、充填剤、連鎖移動剤、可塑剤及び着色剤等を配合してもよい。これらは、単独或いは2種以上を同時に使用してもよい。
【0031】
本発明で用いるペンタエリスリトールアクリレート系紫外線硬化型樹脂材料又はトリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートアクリレート系紫外線硬化型樹脂材料は、硬化させた際、透明性が高く、耐摩擦性を有するものが好ましい。前記紫外線硬化樹脂材料は、紫外線照射により硬化するため、硬化操作が容易で、且つ効率よく硬化膜を形成できる点において好適である。ペンタエリスリトールアクリレート系紫外線硬化型樹脂材料又はトリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートアクリレート系紫外線硬化型樹脂材料は、紫外線の照射により重合可能な官能基を有するものであり、一分子中に前記官能基を2個以上、好ましくは一分子中に前記官能基を3〜6個有するものが好適に用いられる。
【0032】
前記トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートアクリレート系紫外線硬化型樹脂材料としては、具体的に、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートのジアクリレート及びトリアクリレートが挙げられる。また、前記ペンタエリスリトールアクリレート系紫外線硬化型樹脂材料としては、具体的にペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0033】
本発明で用いるポリプロピレングリコールは、前記紫外線硬化型樹脂材料に対して非相溶性の材料である。尚、本発明において非相溶性の材料とは、前記紫外線硬化型樹脂材料と混合しても相溶せず、混合攪拌しても時間の経過とともに相分離してしまうものをいう。
【0034】
前記ポリプロピレングリコールは、重量平均分子量が10,000以下であり、好ましくは200〜3,000程度である。前記ポリプロピレングリコールとしては、例えば、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラプロピレングリコール及びこれらの混合物が挙げられる。重量平均分子量が、上記範囲内であれば、相分離構造を固定化した硬化膜から、ポリプロピレングリコールを迅速に除去することができる。尚、重量平均分子量は、実施例記載の方法により測定される。
【0035】
前記紫外線硬化型樹脂材料と前記添加剤との好ましい組み合わせとしては、例えば、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートアクリレート系紫外線硬化型樹脂材料と、ポリプロピレングリコール、好ましくは、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラプロピレングリコール及びこれらの混合物との組み合わせが挙げられる。また、ペンタエリスリトールアクリレート系紫外線硬化型樹脂材料と、ポリプロピレングリコール、好ましくは、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラプロピレングリコール及びこれらの混合物との組み合わせが挙げられる。
【0036】
本発明の第2工程は、前記第1工程で調製した塗工液を基材に塗布し、前記紫外線硬化型樹脂材料と前記ポリプロピレングリコールとが相分離した相分離構造を有する塗膜を作製する工程である。
【0037】
前記紫外線硬化型樹脂材料と前記ポリプロピレングリコールとが、相分離した相分離構造が形成されることで、前記紫外線硬化型樹脂材料と前記ポリプロピレングリコールとの界面部分に凹凸構造が形成される。
【0038】
前記塗工液を基材に塗布し、塗膜を作製するには、例えば、ファンテン法、ファンテンメタリング法、ダイコーター法、キャスティング法、スピンコート法或いはグラビア法等の適宜な塗布手段を用いることができる。尚、前記塗工液が溶媒を含む場合には、前記塗布手段を用いて基材上に塗膜を形成した後、溶媒除去工程で前記溶媒を加熱除去或いは減圧除去等の一般的に行われる方法を用いて除去する。
【0039】
前記塗工液が塗布される基材は、平滑な表面を有するものであれば透明(透明基材)であっても不透明(不透明基材)であってもよい。前記透明基材としては、ガラスや各種透明プラスチックフィルムが挙げられる。また、前記不透明基材としては、ステンレス、銅或いはアルミニウム等の金属板等が挙げられる。尚、前記塗工液が塗布される基材としては、前記透明基材が好ましい。
【0040】
前記透明プラスチックフィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート・ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系ポリマー、ジアセチルセルロース・トリアセチルセルロース等のセルロース系ポリマー、ポリカーボネート系ポリマー、ポリメチルメタクリレート等のアクリル系ポリマーから成形されるフィルムが挙げられる。また、ポリスチレン・アクリロニトリル−スチレン共重合体等のスチレン系ポリマー、ポリエチレン・ポリプロピレン・環状乃至ノルボルネン構造を有するポリオレフィン・エチレン−プロピレン共重合体等のオレフィン系ポリマー、塩化ビニル系ポリマー、ナイロン・芳香族ポリアミド等のアミド系ポリマーから成形されるフィルムも挙げられる。更に、イミド系ポリマー、スルホン系ポリマー、ポリエーテルスルホン系ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン系ポリマー、ポリフェニレンスルフィド系ポリマー、ビニルアルコール系ポリマー、塩化ビニリデン系ポリマー、ビニルブチラール系ポリマー、アリレート系ポリマー、ポリオキシメチレン系ポリマー、エポキシ系ポリマー等から成形されるフィルムが挙げられる。
また、前記記載の各ポリマーを適宜ブレンドしたブレンド物等から成形されるフィルムも挙げられる。尚、本発明においては、前記透明プラスチックフィルムの1種を単層で、又は同種或いは異種のフィルムを2枚以上積層して用いてもよい。
【0041】
前記透明プラスチックフィルムは、できる限り無色透明であることがよく、400〜800nmの波長領域における透過率が80%以上が好ましく、該透過率が90%以上がより好ましい。
【0042】
前記透明プラスチックフィルムは、一軸延伸処理、二軸延伸処理或いはZ軸延伸処理が施されたものであってもよい。また、前記透明プラスチックフィルムに延伸処理を施す際の延伸手段や延伸倍率は、特に制限されないが、幅方向(MD方向)、縦方向(TD方向)の何れの方向にも等倍延伸するのが好ましい。前記延伸倍率は、0.5〜3倍であり、好ましくは1〜2倍である。尚、一般的にプラスチックフィルムは、延伸処理を施すことで複屈折性を発現するため、光学用途の基材として用いる場合、既に設定されている液晶セル等の偏光状態を乱さないようにすることが必要である。光学用途の基材として用いる場合には、無延伸の状態のものが好ましい。
【0043】
前記透明プラスチックフィルムを基材として用いる場合、該プラスチックフィルムの少なくとも一面側の表面にコロナ処理等、公知の各種表面処理が施されていてもよい。前記透明プラスチックフィルム表面に前記表面処理が施されることで、前記塗工液を塗布、硬化させて得られる硬化膜と前記プラスチックフィルムとの密着性が向上する。
【0044】
前記基材の厚さは、目的に応じて適宜設定されるが、一般的には、強度、取り扱い性等の作業性及び薄膜性等の点より10〜500μmであり、好ましくは20〜300μm、より好ましくは30〜200μmである。
【0045】
次に、本発明の第3工程は、前記塗膜に硬化処理を施し、前記紫外線硬化型樹脂材料を硬化させて前記相分離構造を固定化した硬化膜を作製し、該硬化膜中から前記ポリプロピレングリコールを除去し、表面凹凸構造を有する成形体を形成するものである。
【0046】
前記塗膜に硬化処理を施すことで、相分離構造を固定化できる。本発明においては、
少なくともウレタンアクリレート系紫外線硬化型樹脂又はペンタエリスリトールアクリレート系紫外線硬化型樹脂とを含む紫外線硬化型樹脂材料と、ポリプロピレングリコールとを混合することで、両者の界面では、凹凸構造が形成される。前記凹凸構造を固定化し、前記ポリプロピレングリコールを除去することで、表面凹凸構造を有する成形体が得られる。
【0047】
前記硬化膜中から前記ポリプロピレングリコールを除去するための方法としては、溶媒による抽出法が挙げられる。前記溶媒としては、前記ポリプロピレングリコールに対して良溶媒であって、且つ前記紫外線硬化型樹脂材料を硬化させた硬化物を溶解しないものであれば特に制限なく用いることができる。上記のような性質を有する溶媒であれば、一般的な溶媒の中から適宜選択して用いることができる。前記溶媒としては、除去効率及び環境安全等の観点から、液化二酸化炭素や超臨界状態にある二酸化炭素(超臨界二酸化炭素)が挙げられる。
【0048】
前記溶媒として、液化二酸化炭素や超臨界状態にある二酸化炭素(超臨界二酸化炭素)を用いる場合の方法について説明する。硬化処理が施された硬化膜を圧力容器に入れて二酸化炭素を注入し、該硬化膜に液化二酸化炭素や超臨界状態にある二酸化炭素(超臨界二酸化炭素)を浸透させる。十分に液化二酸化炭素や超臨界状態にある二酸化炭素(超臨界二酸化炭素)が硬化膜に、浸透した後、二酸化炭素の排気と注入とを繰り返し、前記硬化膜中のポリプロピレングリコールを抽出(溶解)させて、該硬化膜中から前記ポリプロピレングリコールを除去する。
【0049】
液化二酸化炭素や超臨界状態にある二酸化炭素(超臨界二酸化炭素)により、ポリプロピレングリコールを抽出する際の温度は、二酸化炭素の臨界点以上であれば、通常、32〜230℃、好ましくは40〜200℃程度である。また、この際の圧力も二酸化炭素の臨界点以上であればよく、通常、7.3〜100MPa、好ましくは10〜50MPa程度である。
【0050】
前記液化二酸化炭素等で前記ポリプロピレングリコールを抽出する際の抽出時間は、抽出時の温度、圧力、ポリプロピレングリコールの使用量、相分離構造を有する硬化処理が施された硬化膜の形状や厚みにもよるが、通常、0.2〜3時間、好ましくは0.5〜2時間程度である。
【0051】
また、前記溶媒として、前記紫外線硬化型樹脂材料の硬化物を溶解せず、前記ポリプロピレングリコールを選択的に溶解する有機溶媒を用いることができる。前記有機溶媒を用いることで、前記液化二酸化炭素等を用いる場合に比べて、抽出時間を短縮することも可能である。また、前記有機溶媒を用いることで、大気圧下(約1.01325×105Pa)で前記ポリプロピレングリコールを除去することができ、前記液化二酸化炭素等を用いる場合のような圧力下の除去に比べて、基材の変形を抑えることができる。
【0052】
前記有機溶媒としては、特に限定されるものではなく、トルエン、エタノール、酢酸エチル或いはヘプタンなど一般的に広く用いられているものが挙げられる。除去効率の点からは、トルエン、エタノールで抽出することが好ましい。
【0053】
前記有機溶媒を用いた前記ポリプロピレングリコールの除去方法としては、特に限定されず、例えば、前記硬化処理を施した硬化膜を有機溶媒に含浸させてポリプロピレングリコールを除去する方法或いは前記硬化処理を施した硬化膜に有機溶媒をスプレーノズル等からシャワーしてポリプロピレングリコールを除去する方法等が挙げられる。効率的な除去の観点からは、前記硬化処理を施した硬化膜を有機溶媒に含浸させてポリプロピレングリコールを除去する方法が好ましい。前記硬化膜を有機溶媒中に含浸させる際の時間、溶媒温度等は適宜調整することができる。
【0054】
前記硬化膜から前記ポリプロピレングリコールを除去することで、表面凹凸構造を有する成形体を形成することができる。
【0055】
本発明の製造方法で製造された表面凹凸シートの表面中心線平均粗さ(Ra)は、100nm未満であり、好ましくは1〜80nmである。表面中心線平均表面粗さ(Ra)が上記範囲内であれば、シート表面における光の乱反射を低減でき、ヘイズを低減させることができる。尚、表面中心線平均表面粗さ(Ra)は実施例記載の方法により測定される。
【0056】
本発明の製造方法で製造された表面凹凸シートの平均山谷間隔(Sm)は、30〜1,000nmであり、好ましくは50〜500nmである。平均山谷間隔(Sm)が上記範囲内であれば、シート表面における光の乱反射を低減でき、ヘイズを低減させることができる。
尚、平均山谷間隔(Sm)は実施例記載の方法により測定される。
【0057】
前記表面中心線平均粗さ(Ra)及び前記平均山谷間隔(Sm)は、前記紫外線硬化型樹脂材料と前記ポリプロピレングリコールとの組み合わせ及び前記紫外線硬化型樹脂材料と前記ポリプロピレングリコールとの使用量により、調整することできる。
【0058】
本発明においては、無機又は有機微粒子を用いることなく、微細な表面凹凸構造を有する表面凹凸シートを簡便に製造できる。本発明で得られた表面凹凸シートは、防眩性フィルム等の光学部材として好適に用いられる。
【実施例】
【0059】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって何等限定されるものではない。
【0060】
(重量平均分子量の測定方法)
重量平均分子量は、GPC法で標準ポリスチレンにより換算した値である。GPC本体として、東ソー社製の機種名「HLC−8120GPC」を使用し、カラム温度40℃、ポンプ流量0.5ml/min、検出器RIを用いた。データ処理は、予め分子量が既知の標準ポリスチレンの検量線(分子量2060万、842万、448万、111万、70.7万、35.4万、18.9万、9.89万、3.72万、1.71万、9830、5870、2500、1050、500を用いて検量線を作成)を用い、換算分子量より分子量を求めた。
使用カラム:東ソー社製:商品名「TSKgel GMH−H(S)」×2本を直列に使用した。
移動相:テトラヒドロフラン
注入量:100μl
サンプル濃度:1.0g/l(テトラヒドロフラン溶液 )
【0061】
(全光線透過率の測定方法)
「スガ試験機社製:機種名:ヘイズメーターHGM−2DP」を用いて表面凹凸シートの表面凹凸面側から光線を透過させたときの全光線を測定した。
尚、全光線透過率(Tt)は、入射光量(T1)と試験片を通った全光量(T2)との比を下記式により求めた。(式):Tt=T2/T1(%)
【0062】
(表面中心線平均粗さ(Ra)の測定方法)
表面凹凸シートの表面中心線平均粗さ(Ra)は、JIS B 0601(1994年)に準じ、触針式表面粗さ測定器(小坂研究所製、高精度微細形状測定器:商品名「サーフコーダET4000」)を用いて測定した。尚、測定長は8mmであった。
【0063】
(平均山谷間隔(Sm)の測定方法)
表面凹凸シートの平均山谷間隔(Sm)は、JIS B 0601(1994年)に準じ、測定長さ8mmとし、触針式表面粗さ測定器(小坂研究所製、機種名:高精度微細形状測定器サーフコーダET4000)を用いて、触針速度500μm/sにて測定した。
【0064】
(反射率測定方法)
表面凹凸シートの表面凹凸構造が形成されていない基材面に黒色アクリル板を粘着剤で貼り合わせ裏面の反射をなくし、(村上色彩技術研究所製、変角光沢計:商品名「GM−3D」)を用いて60°の光沢を測定した。
【0065】
(表面観察方法)
実施例及び比較例において作成したシートの表面を走査型電子顕微鏡(日立社製:機種名「S−570」)を用い加速電圧12kVにて観察した。
【0066】
(実施例1)
ペンタエリスリトールアクリレート系紫外線硬化型樹脂材料(東亜合成社製、商品名:M450(ペンタエリスリトールトリアクリレート))100重量部、ポリプロピレングリコール(日本油脂社製、重量平均分子量:250)100重量部、ベンゾフェノン系光重合開始剤(チバ・スペシャルティー・ケミカルズ社製、商品名:イルガキュア907)4重量部、トルエン106重量部を混合して塗工液を調製した。得られた塗工液は、ペンタエリスリトールアクリレート系紫外線硬化型樹脂材料とポリプロピレングリコールとが非相溶性であるため白濁していた。表1に各試剤の使用量を示した。
前記塗工液をポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(厚み50μm)に塗布し、25℃で2分間乾燥後、紫外線(365nm、紫外線強度300mJ/cm)を照射して、前記PETフィルム上に硬化膜(厚み約0.10μm)を形成した積層シートを作製した。該積層シートを短冊状に切断して、耐圧容器に入れ、40℃、25MPaに加圧し、該圧力を保ちながら、ガス量にして5リットル/minの流量で二酸化炭素を注入、排気する操作を2時間行い、ポリプロピレングリコールを抽出する操作を行った。前記抽出操作を行った後の積層シートの全光線透過率、反射率、Ra及びSmを測定し、その測定結果を表2に示した。図1に、実施例1で得られた積層シート表面の走査型電子顕微鏡(SEM)観察像を示した。尚、前記観察像中の1目盛りは1.20μmを示す。前記抽出操作を行った後の積層シートは、良好な防眩性を示した。
【0067】
(実施例2)
TAEIC(トリス[2−(アクリロイルオキシ)エチル]イソシアヌレートアクリレート)系紫外線硬化型樹脂材料(アルドリッチ社製、商品名:トリス[2−(アクリロイルオキシ)エチル]イソシアヌレート)を用いた以外、実施例1と同様の操作を行った。表1に各試剤の使用量を、表2に抽出操作を行った後の積層シートの全光線透過率、反射率、Ra及びSmの測定結果を示した。図2に、実施例2で得られた積層シート表面の走査型電子顕微鏡(SEM)観察像を示した。
【0068】
(比較例1)
ポリプロピレングリコールを用いなかった以外は、実施例1と同様に行った。前記塗工液をポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(厚み50μm)に塗布し、25℃で2分間乾燥後、紫外線(365nm、紫外線強度300mJ/cm2)を照射して、前記PETフィルム上に硬化膜(厚み約4μm)を形成した積層シートを作製した。該積層シートを短冊状に切断して、耐圧容器に入れ、40℃、25MPaに加圧し、該圧力を保ちながら、ガス量にして5リットル/minの流量で二酸化炭素を注入、排気する操作を2時間行った。表1に各試剤の使用量を、表2に抽出操作を行った後の積層シートの全光線透過率、反射率、Ra及びSmの測定結果を示した。図3に、比較例1で得られた積層シート表面の走査型電子顕微鏡(SEM)観察像を示した。
【0069】
【表1】

(*1)PETA:ペンタエリスリトールトリアクリレート
(*2)TAEIC:トリス−[2−(アクリロイルオキシ)エチル]イソシアネレート
(*3)PPG:ポリプロピレングリコール
【0070】
【表2】

(*4):指先で数回擦り表面が剥離した場合×、剥離しなかった場合○とした。
【0071】
本発明の表面凹凸シートの製造方法を用いることで、微細な表面凹凸構造を有するシートを簡便に製造でき、該シートが優れた防眩性を有することが判明した。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】実施例1で得られた積層シート表面の(20,000倍)SEM観察像。
【図2】実施例2で得られた積層シート表面の(20,000倍)SEM観察像。
【図3】比較例1で得られた積層シート表面の(20,000倍)SEM観察像。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともペンタエリスリトールアクリレート系紫外線硬化型樹脂材料又はトリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートアクリレート系紫外線硬化型樹脂材料を含む紫外線硬化型樹脂材料と、前記紫外線硬化型樹脂材料に対して非相溶性のポリプロピレングリコールとを混合し、塗工液を調製する第1工程と、
前記塗工液を基材に塗布し、前記紫外線硬化型樹脂材料と前記ポリプロピレングリコールとが相分離した相分離構造を有する塗膜を作製する第2工程と、
前記塗膜に硬化処理を施し、前記紫外線硬化型樹脂材料を硬化させて前記相分離構造を固定化した硬化膜を作製し、該硬化膜中から前記ポリプロピレングリコールを除去し、表面凹凸構造を有する成形体を形成する第3工程とを含んでいることを特徴とする表面凹凸シートの製造方法。
【請求項2】
前記第1工程における塗工液が溶媒を含んでおり、且つ前記第2工程後で前記第3工程の前に、前記塗膜から前記溶媒を除去する溶媒除去工程を含んでいることを特徴とする請求項1記載の表面凹凸シートの製造方法。
【請求項3】
前記ポリプロピレングリコールの重量平均分子量が、10,000以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の表面凹凸シートの製造方法。
【請求項4】
前記硬化膜から、前記ポリプロピレングリコールの除去を溶媒抽出により行うことを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の表面凹凸シートの製造方法。
【請求項5】
前記溶媒抽出に用いる溶媒が、液化二酸化炭素又は超臨界状態の二酸化炭素であることを特徴とする請求項4に記載の表面凹凸シートの製造方法。
【請求項6】
前記溶媒抽出に用いる溶媒が、前記ポリプロピレングリコールを選択的に溶解する有機溶媒であることを特徴とする請求項4に記載の表面凹凸シートの製造方法。
【請求項7】
表面凹凸シートの表面中心線平均粗さ(Ra)が、100nm未満であるとを特徴とする請求項1〜6の何れか一項に記載の表面凹凸シートの製造方法。
【請求項8】
表面凹凸シートの平均山谷間隔(Sm)が、30〜1000nmであることを特徴とする請求項1〜7に何れか一項に記載の表面凹凸シートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−271756(P2007−271756A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−95092(P2006−95092)
【出願日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】