説明

表面加工方法

【課題】被加工物の表面を、簡易かつ低コストで加工することが可能な表面加工方法を提供する。
【解決手段】被加工物1の加工表面1a上に、固体の加工補助材2を設け、パルスレーザー光20を被加工物1を通して加工補助材2の被加工物1側に集光照射することによって、被加工物1の加工表面1aを加工する。この表面加工方法では、加工補助材2のパルスレーザー光20の波長に対する透過率は、被加工物1のパルスレーザー光20の波長に対する透過率よりも小さく、パルスレーザー光20のフルエンスは、被加工物1のパルスレーザー光20に対するアブレーション閾値より低く且つ加工補助材2のパルスレーザー光20に対するアブレーション閾値より高くなっている。この場合、加工補助材2がアブレーションされることで被加工物1の加工表面1aが加工されるので、例えば、被加工物1が透明材料等であっても簡易且つ低コストで表面加工をすることが可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザーアブレーションを利用して、被加工物の表面を加工する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
レーザーアブレーションを利用して被加工物の表面(加工表面)を加工する場合、通常、被加工物に対して吸収率の高い波長を有するパルスレーザー光を照射する。そのため、パルスレーザー装置を、被加工物に照射するパルスレーザー光の波長に応じて変えなければならず、波長変換装置や別のパルスレーザー装置等を用意しなければならない場合がある。また、所望の波長のパルスレーザー光を出力するためのパルスレーザー装置を新たに購入したりすると、表面加工に要するコストが高くなる場合もある。
【0003】
また、被加工物がガラス等のようにほぼ全波長帯域において光の吸収率の小さい、あるいは透過率の大きい透明材料である場合、表面加工を実施するためには、高出力のパルスレーザー光を照射しなければならない。高出力なパルスレーザー光を生成するためのパルスレーザー装置は高額であり、また、パルスの繰返し周波数を高くすることが困難なことが知られているため、加工に時間がかかることになる。
【0004】
上記問題点を解決するため、例えば、特許文献1に記載の技術がある。特許文献1では、上記透明材料よりも光の吸収率の高い流動性物質(加工補助材)を透明材料の裏面に接触させ、透明材料の表面からパルスレーザー光を照射し、透明材料をエッチングする技術が開示されている。ここでは、パルスレーザー光が照射された流動性物質がレーザーアブレーションにより局所的に蒸発し、蒸発した流動性物質が透明材料をエッチングしている。
【特許文献1】特開2000−94163号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に開示された技術では、加工補助材は流動性を有する。そのため、加工補助材を封入した状態で被加工物に接触させる工夫が必要であり、また被加工物の加工補助材と接触させた部分を加工後に洗浄する必要があるなど、加工時の手間が多い。
【0006】
本発明はこのような上記問題点を解決するためになされたもので、被加工物の表面を、簡易かつ低コストで加工することが可能な表面加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る表面加工方法は、被加工物の加工表面上に、固体の加工補助材を設ける工程と、パルスレーザー光を被加工物を通して加工補助材の被加工物側に集光照射する工程とを備え、加工補助材のパルスレーザー光の波長に対する透過率は、被加工物のパルスレーザー光の波長に対する透過率よりも小さく、パルスレーザー光のフルエンスは、被加工物のパルスレーザー光に対するアブレーション閾値よりも低く、且つ加工補助材のパルスレーザー光に対するアブレーション閾値よりも高いことを特徴とする。
【0008】
この表面加工方法では、被加工物の加工表面上に、固体の加工補助材を設け、パルスレーザー光を被加工物を通して加工補助材の加工表面側に集光照射している。上記のように照射するパルスレーザー光の波長に対する加工補助材の透過率は、被加工物の透過率よりも小さく、また、照射するパルスレーザー光のフルエンスは、被加工物のアブレーション閾値よりも低く加工補助材のアブレーション閾値よりも大きいため、パルスレーザー光が被加工物に照射されても、被加工物はアブレーションされずに加工補助材がアブレーションされる。これにより、加工補助材を構成する材料が被加工物の方向へ飛び出し、同時に被加工物は局所的に溝が形成されると共に、溝が形成された箇所には加工補助材を構成する材料がコーティングされることになる。この場合、固体の加工補助材を使用するため、被加工物の加工補助材と接触させた部分を加工後に洗浄する必要は無く、また、照射するパルスレーザー光の波長に対する透過率が被加工物よりも小さい材料を加工補助材として被加工物に設けるだけでよいため、簡易かつ低コストで表面加工を行うことが可能となる。
【0009】
また、パルスレーザー光の加工補助材への照射位置を、加工補助材に対して所定のパターンで相対的に移動させることが好ましい。これにより、被加工部材の表面を、所定のパターンに加工することができる。
【0010】
また、上記加工補助材は、色素を含むものであることが好ましい。この場合、被加工物に色素を含む加工補助材がコーティングされるため、被加工物の加工表面を加工しながら着色することができる。
【0011】
また、上記加工補助材は、少なくとも蛍光顔料又は蓄光顔料のいずれか一方を含むものであることが好ましい。この場合も、被加工物の加工表面を加工しながら被加工物に着色を施すことが可能である。
【0012】
また、加工補助材は、導電性を有するものであってもよい。この場合、被加工物に導電性を有する加工補助材がコーティングされるため、被加工物表面に電気配線を形成することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の表面加工方法によれば、被加工物の表面を、簡易かつ低コストで加工することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して本発明に係る表面加工方法の実施の形態について詳細に説明する。なお、同一又は同等の要素については同一の符号を付し、説明が重複する場合にはその説明を省略する。
【0015】
図1は、本発明に係る表面加工方法の一実施形態により、被加工物に表面加工を行う工程図である。本実施形態の表面加工方法は、光学的に透明な材料(透明材料)からなる被加工物1の表面をレーザーアブレーションを利用して加工するためのものである。ここで、透明材料とは、例えば、波長300 nm〜1100 nmの光に対して透過率が95%以上の材料のことである。被加工物1としては、例えば、アクリル樹脂、ビニル樹脂、ポリカーボネート樹脂等のプラスチック材料、石英ガラス、一般ガラス、フッ化アルミニウム、フッ化カルシウム、フッ化マグネシウム、フッ化リチウム、酸化ハフニウム、酸化マグネシウム、シリコンカーバイド、アルミナ、サファイヤ、水晶、ダイヤモンド等の無機材料、有機ガラス、有機結晶体等が挙げられる。
【0016】
本実施形態の表面加工方法では、まず、図1(a)に示すように、被加工物1の加工表面1aと、上記波長に対する透過率が被加工物1よりも小さい固体の加工補助材2の表面2aとを接触させる。これにより、被加工物1の加工表面1a上に加工補助材2が設けられることになる。
【0017】
加工補助材2としては、例えば、紙、金属、ゴム、非透明なプラスチックを挙げることができ、また、これらの材料に色素、蛍光顔料、蓄光顔料又は導電性材料を添加あるいはコーティングしたものであってもよい。
【0018】
なお、図1(a)では、被加工物1の加工表面1aの全体を加工補助材2の表面2aと接触させているが、被加工物1の加工表面1aのうち、少なくとも加工を行う領域が加工補助材2の表面2aと接触していればよい。
【0019】
次に、図1(b)に示すように、レーザー発生部11A及び集光レンズ11Bを備えるレーザー照射部11を利用して、被加工物1側から加工補助材2にパルスレーザー光20を集光照射する。具体的には、パルスレーザー光20の集光位置21が加工補助材2の表面2aに位置するようにレーザー照射部11と被加工物1との間の距離を調整しておく。そして、レーザー発生部11Aから例えば波長800 nmのパルスレーザー光20を、集光位置21でのフルエンスが、加工補助材2のアブレーション閾値以上であって被加工物1のアブレーション閾値より小さい範囲になるように照射する。なお、パルスレーザー光20のパルス幅は、例えば100 fsであり、集光位置21でのフルエンスは、例えば1×109W/cm2〜1×1012 W/cm2である。また、パルスレーザー光20の繰返し周波数は、例えば50 MHzである。更に、集光位置21における集光点の直径は、例えば10 μmである。
【0020】
上記条件でレーザー照射部11からパルスレーザー光20が照射されると、被加工物1が前述した透明材料であり、パルスレーザー光20の波長が300 nm〜1100 nmであることから、パルスレーザー光20は、殆ど被加工物1に吸収されずに加工補助材2に照射される。また、パルスレーザー光20が上述した条件のフルエンスで被加工物1及び加工補助材2に照射されるため、被加工物1を通過する際に、アブレーションは生じずに、加工補助材2がアブレーションされることとなる。
【0021】
この加工補助材2のアブレーションにより、図1(c)に示すように、加工補助材2と接触している被加工物1の加工表面1aがエッチングされ、溝(凹部)が形成されると共に、被加工物1の溝が形成された部分には加工補助材2を構成する材料からなるコーティング材30がコーティングされる。そして、被加工物1を取り出すと、図1(d)に示すように局所的に溝が形成され、更にコーティングされた被加工物1が得られる。以下、加工表面1aに溝を形成する、言い換えれば、溝切りをすることを凹加工とも称す。
【0022】
ところで、例えば、加工補助材を用いない表面加工方法を用いて、被加工物がガラス等のようにほぼ全波長帯域において光の吸収率の小さい(あるいは透過率の大きい)透明材料の表面加工を実施するためには、高出力のパルスレーザー光を照射しなければならない。高出力なパルスレーザー光を生成するためのパルスレーザー装置は高額であり、また、パルスの繰返し周波数を高くすることが困難なことが知られているため、加工に時間がかかることになる。
【0023】
これに対して、本実施形態の表面加工方法を用いると、アブレーションが容易であり固体の加工補助材2を被加工物1に接触させ、パルスレーザー光20を集光照射するという、簡易な方法で被加工物1の表面加工を行うことができる。加工補助材2は固体であるため、液体の加工補助材を用いた場合と比較して、被加工物1と接触させることは容易であり、また、被加工物1の表面を加工補助材2で汚すこともないため、加工後に被加工物1の洗浄・乾燥等の必要はない。このため、レーザー光による直接加工が困難な透明材料に対して、簡易な方法を用いて、短時間で再現性よく表面加工を行うことができる。また、パルスレーザー光20を集光照射しているため、集光径の大きさを調整することで、微細なスケールで被加工物1の表面加工を行うことができる。
【0024】
更に、パルスレーザー光20の集光位置(照射位置)21を所定のパターンで走査することにより、被加工物1に所定のパターンの凹加工を施すことができ、被加工物1に意匠加工を施すことが可能である。また、前述したように、本実施形態の表面加工方法では、被加工物1の加工表面1aに溝を形成しながら加工補助材2と同じ材料から成るコーティング材30を被加工物1の加工箇所にコーティングすることも可能である。よって、例えば、加工補助材2が色素等を含み有色である場合には、被加工物1に着色処理を施すこともできる。また、例えば、導電性を有する加工補助材2を使用することで、被加工物1に電気配線層を形成することも可能である。
【0025】
ここで、被加工物1に所定パターンの電気配線層を形成する場合を例として、本実施形態の表面加工方法をより具体的に説明する。本実施形態の表面加工方法は、例えば、図2に示すレーザー加工装置10を利用して好適に実施される。
【0026】
先ず、レーザー加工装置10について説明する。図2に示すように、レーザー加工装置10は、ステージ12と、レーザー照射部11と、ステージ用駆動部13と、制御装置14とを備えている。以下の説明では、図2に示すようにステージ12の表面に直交する方向をZ軸方向とし、Z軸に直交する2つの方向をX軸方向、Y軸方向とする。
【0027】
ステージ12は、被加工物1及び加工補助材2を載置するためのものであり、X,Y,Z軸方向に移動可能な、いわゆる3軸ステージである。ステージ用駆動部13はステージ12を駆動するためのものであり、制御装置14により制御される。制御装置14は、ステージ用駆動部13を制御してステージ12の位置を調整すると共に、レーザー照射部11が有するレーザー発生部11Aを制御して、レーザー照射部11から出力するパルスレーザー光20の条件(例えば、パルスエネルギーや、繰返し周波数)を制御する。
【0028】
次に、上記レーザー加工装置10を利用して、被加工物1に所定パターンの電気配線層を形成する方法について説明する。被加工物1は、図1を利用して説明した場合と同様に透明材料とする。電気配線層を形成する場合、加工補助材2としては導電性を有するものを用意する。導電性を有する加工補助材2としては、例えば、導電性を有する材料から形成されているものや、前述した紙、金属、ゴム、非透明なプラスチック等のようにレーザーアブレーションが容易なものをベース材としてその表面に導電性を有する材料がコーティングされているものである。
【0029】
まず、ステージ12上に加工補助材2を載置し、加工補助材2上に被加工物1を載置する。この際、被加工物1の加工表面1aと加工補助材2の表面2aとが接触するようにする。この配置では、被加工物1は、押さえの光透過部材として機能することになる。
【0030】
次に、レーザー発生部11A及び集光レンズ11Bを備えるレーザー照射部11を図1(b)と同様の位置関係で配置する。より具体的には、制御装置14によってステージ用駆動部13を制御することによってステージ12をZ軸方向に移動させて、パルスレーザー光20の集光位置21を調整する。
【0031】
また、制御装置14によってレーザー発生部11Aを制御し、レーザー発生部11Aから例えば波長800 nmのパルスレーザー光20を、集光位置21でのフルエンスが、加工補助材2のアブレーション閾値以上であって被加工物1のアブレーション閾値より小さい範囲になるように照射する。なお、パルスレーザー光20のパルス幅、集光位置21でのフルエンス、パルスレーザー光20の繰り返し周波数及び集光位置21における集光点の直径などは、図1(b)を利用して説明したものと同様である
【0032】
所定パターンの電気配線層を形成する場合、レーザー照射部11からパルスレーザー光20を照射しながら、制御装置14によってステージ用駆動部13を制御し、ステージ12をX,Y軸方向に所定のパターン(例えば、図2のようにH字状)で移動させる。これにより、被加工物1及び加工補助材2が所定のパターンで溝が形成され、かつ加工補助材2を構成する材料が被加工物1の溝が形成された部分にコーティングされる。その結果、被加工物1を取り出すと、図3(a)及び図3(a)のIIIb-IIIbに沿った端面図である図3(b)に示すように、表面が凹加工され、その凹加工された部分に加工補助材2を構成する材料からなるコーティング材30によりコーティングされた被加工物1が得られる。上述のように加工補助材2は、導電性を有する材料で構成されるもの、又は導電性を有する材料が表面にコーティングされたものを使用しているため、被加工物1の凹加工された部分には、コーティング材30によって所定のパターンの電気配線層が形成される。
【0033】
上述のように、本実施形態の表面加工方法において、加工補助材2として導電性を有するものを利用し、集光位置21を所定のパターンに走査することによって、透明材料である被加工物1の加工表面1aに所定のパターンの電気配線層を形成することができる。従って、本実施形態の表面加工方法によって、透明材料を用いた機能素子の作製をすることが可能である。
【0034】
また、図2では、直線パターンの表面加工となっているが、曲線パターンを形成することも可能である。そして、パルスレーザー光20の繰返し周波数やステージ12の移動速度を調節することにより、連続的なパターンだけでなく、点や破線パターンを形成することも可能である。
【0035】
また、本実施形態では表面加工パターンを作製するために、ステージ12を移動させているが、ステージ12とレーザー照射部11の相対位置を移動させればよい。従って、ステージ12を固定してレーザー照射部11を移動させてもよいし、ステージ12とレーザー照射部11をそれぞれ独立に移動させてもよい。
【0036】
また、上記説明では、加工補助材2として導電性を有するものとしたが、加工補助材2としては、色素、蛍光顔料又は蓄光顔料を含んだ材料、あるいはこれらがコーティングされた材料を用いることも可能である。この場合、被加工物1の表面に所定のパターンで着色等をすることが可能である。本実施形態の表面加工方法において、有色の加工補助材2を使用することで被加工物1に着色処理を施す場合、着色は、被加工物1の凹加工された部分に有色のコーティング材30を利用して施されることになるので、単に表面へのコーティングした場合と比較して、摩擦等によるコーティング材30の剥がれ落ちを減少させることが可能である。
【0037】
以上、本発明に係る表面加工方法の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されない。例えば、被加工物1は透明材料としたが、被加工物1は透明材料に限定されない。透明材料と異なる被加工物1に対しても、被加工物1の透過率よりも大きい加工補助材2を被加工物1上に載置し、パルスレーザー光20のフルエンスを上記実施形態で説明したように調整するだけで、被加工物1の加工表面1aの加工が可能となる。従って、所有しているレーザー加工装置から出力されるパルスレーザー光を利用して被加工物1を直接アブレーションすることが困難な場合でも、例えば新たにレーザー装置を購入したりせずに、被加工物1の表面加工を施すことが可能であり、結果として、低コストな表面加工を実現できる。
【0038】
また、被加工物1及び加工補助材2の形状は、本実施形態のように板状に限られず、どのような形状であっても、被加工物1の加工を行う領域に加工補助材2を接触させることができればよい。また、表面加工を行うのは被加工物1の平面部分でなくてもよく、曲面部分に表面加工を行うこともできる。その場合、加工補助材2も被加工物1の形状に対応した形状とする。そして、被加工物1に所定のパターンを形成する場合には、ステージ12は、X,Y軸方向だけでなく、X,Y軸方向の両方向に直交するZ軸方向にも移動させればよい。
【実施例】
【0039】
以下、本発明の効果をより一層明らかなものとするため、実施例及び比較例を用いて説明する。
【0040】
(実施例)
被加工物1として、厚さ2mmのアクリル樹脂(透明材料)を用い、この表面に加工を行った。加工補助材2として、緑色の蛍光塗料がコーティングされた蛍光紙及び白色の紙を用いた。レーザー発生部11Aとして、小型のフェルト秒ファイバーレーザー装置(波長802nm)を用いた。これらを、図2を利用して説明した表面加工方法と同様にして、表面加工を行った。加工条件は、レーザーパワーを約50mW、パルスエネルギーを1.0nJ/pulse、集光点の直径を約3μm、フルエンスを1.6×10J/cm2/pulse(2.2×1011W/cm2)、繰返し照射回数を48MHz、ステージ12の移動速度を0.1mm/秒とした。
【0041】
実施例の表面加工の結果を図4に示す。図4(a)は加工補助材2として緑色の蛍光塗料がコーティングされた蛍光紙を用いて表面加工を行ったアクリル樹脂の顕微鏡写真に対応する図である。幅が数十μmの直線状に凹加工することができた。また、図4(b)は図4(a)の直線状に凹加工された部分の断面の顕微鏡写真に対応する図である。加工部分は、深さが数十μmであり、凹加工され溝が形成された部分に加工補助材2の一部である緑色の蛍光塗料がコーティングされた。また、図4(c)は、加工後の緑色の蛍光塗料がコーティングされた加工補助材2の顕微鏡写真に対応する図である。凹加工を行った形状と同じ形状で緑色が消えており、加工補助材2の一部である緑色の蛍光塗料が被加工物1の凹加工された部分にコーティングされたことがわかった。
【0042】
図5は、実施例の表面加工を行ったアクリル樹脂の写真である。図5のアクリル樹脂の表面の左側に形成された直線状の溝は、加工補助材2として緑色の蛍光塗料がコーティングされた蛍光紙を用いた部分であり、右側に形成された直線状の溝は、加工補助材2として白色の紙を用いた部分である。加工補助材2として緑色の蛍光塗料がコーティングされた蛍光紙を用いた部分は、凹加工されると共に緑色に着色され、加工補助材2として白色の紙を用いた部分は、凹加工されているが着色はされなかった。
【0043】
(比較例)
加工補助材2を用いない点以外は、実施例と同様の条件で被加工物1の凹加工を試みた。しかし、比較例ではアクリル樹脂に変化はなく、凹加工を行うことはできなかった。
【0044】
実施例及び比較例の結果から明らかなように、被加工物1がパルスレーザー光20の照射のみでは加工が困難な材料であっても、被加工物1の加工表面1aに加工補助材2を設けることにより、容易に表面加工が可能であった。
【0045】
なお、本発明は、上記実施例には限定されない。例えば、被加工物1及び加工補助材2は、それぞれアクリル樹脂及び蛍光塗料がコーティングされた紙には限定されず、加工補助材2のパルスレーザー光20の波長に対する透過率は、被加工物2のパルスレーザー光20の波長に対する透過率よりも小さければよい。また、パルスレーザー光20のフルエンスも1.6×10J/cm2/pulseには限定されず、被加工物2のパルスレーザー光20に対するアブレーション閾値よりも低く、且つ加工補助材2のパルスレーザー光20に対するアブレーション閾値よりも高ければよい。さらに、表面加工パターンは、直線以外にも曲線や点線も可能であり、被加工物1の平面部分だけではなく、曲面部分に加工を行うことも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明に係る表面加工方法の一実施形態により、被加工物に表面加工を行う工程図である。
【図2】被加工物に対して所定のパターンを形成する方法の概略図である。
【図3】表面加工後の被加工物の概略図及び端面図である。
【図4】表面加工後の被加工物及び加工補助材の顕微鏡写真に対応する図である。
【図5】表面加工後の被加工物の写真に対応する図である。
【符号の説明】
【0047】
1…被加工物、2…加工補助材、11…レーザー照射部、11A…レーザー発生部、11B…集光レンズ、12…ステージ、20…パルスレーザー光、21…集光位置(照射位置)、30…コーティング材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物の加工表面上に、固体の加工補助材を設ける工程と、
パルスレーザー光を前記被加工物を通して前記加工補助材の前記被加工物側に集光照射する工程とを備え、
前記加工補助材の前記パルスレーザー光の波長に対する透過率は、前記被加工物の前記パルスレーザー光の波長に対する透過率よりも小さく、
前記パルスレーザー光のフルエンスは、前記被加工物の前記パルスレーザー光に対するアブレーション閾値よりも低く、且つ前記加工補助材の前記パルスレーザー光に対するアブレーション閾値よりも高いことを特徴とする表面加工方法。
【請求項2】
前記パルスレーザー光の前記加工補助材への照射位置を、前記加工補助材に対して所定のパターンで相対的に移動させることを特徴とする請求項1に記載の表面加工方法。
【請求項3】
前記加工補助材は、色素を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の表面加工方法。
【請求項4】
前記加工補助材は、少なくとも蛍光顔料又は蓄光顔料のいずれか一方を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の表面加工方法。
【請求項5】
前記加工補助材は、導電性を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の表面加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−36687(P2008−36687A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−216012(P2006−216012)
【出願日】平成18年8月8日(2006.8.8)
【出願人】(503304577)財団法人光科学技術研究振興財団 (11)
【出願人】(505125945)学校法人光産業創成大学院大学 (49)
【Fターム(参考)】