説明

表面増強振動分光分析用治具およびその製造方法

【課題】強度が微弱なラマン散乱光や赤外吸収を、感度よく測定できる表面増強振動分光分析用治具およびその製造方法を提供する。
【解決手段】表面増強振動分光分析用の治具であって、基板と、該基板上に形成された下地膜と、該下地膜上に形成されたベースとを備え、前記ベースは、基板に対して垂直方向に形成された複数の細孔を有し、かつ、前記細孔の側面および前記ベースの表面には、金属微粒子が露出していることを特徴とする表面増強振動分光分析用治具。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面増強振動分光分析用治具およびその製造方法に関する。特には、ラマン・赤外分光分析に用いられる表面増強振動分光分析用治具およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
試料にレーザー光を照射させると、もとの入射光と同一振動数のレーリー散乱光の他に、もとの入射光とは異なる振動数のラマン散乱光も測定試料から放出される。ラマン散乱光を分析するラマン分光分析法は、分子や結晶の構造や結合状態などを知るのに有効な手段方法である。
【0003】
しかし、有機物等の試料はレーザー光により損傷を受け易い場合もあるので、このような試料に対してレーザー強度を最小限に抑えて測定する必要がある。ラマン散乱光の強度は微弱なので、試料が薄膜である場合や測定個所が微小である場合などには、ラマンスペクトルを取得するのが困難な場合もある。よって、試料に損傷を与えない程度の強さのレーザー光を照射しても、強度が微弱なラマン散乱光を感度よく検出する為の技術が求められる。
【0004】
そのような技術の一例として、表面増強ラマン散乱(SERS)(非特許文献1参照)が挙げられる。SERSとは、銀、金、銅などの貴金属の金属膜(島状や微粒子など)を形成した基板上に堆積させた単分子層もしくは数分子層以上の試料のラマン散乱光の強度が、金属膜を形成しない場合に比べて10〜10倍も増大される現象である。ただし、前述の金属膜は表面を粗くする必要もある。例えば、μmサイズを有するSiやAg粒子、CaFなどを下地膜として形成する。さらに、この下地膜上に金属膜を形成すると、この金属膜の表面の粗さは増してくるため、SERSがさらに感度よく観測される(非特許文献2、非特許文献3参照)。また、試料の表面上に金属膜を堆積させた場合でも、SERS現象がみられる。
【0005】
また、赤外分光分析法においても同様に赤外線を試料に照射すると、その試料に特有の振動数の赤外線が吸収される。その吸収位置より振動数を知ることができ、分子構造や分子の置かれている環境などに関した情報が得られる。
【0006】
また、赤外ATR(attenuation total reflection)スペクトルの測定で、ATRプリズムに金、銀などを薄く蒸着すれば、分子の吸収強度が数十倍から数百倍も増強される(非特許文献4)。この現象を利用すれば赤外分光法による微量分析も可能である。
【0007】
また、最近では走査型プローブ顕微鏡、近接場顕微鏡、原子間力顕微鏡等の発達により、個々の金属ナノ微粒子の構造をナノスケールで測定し、同時に粒子間を制御することで微量分子の吸着した特定の粒子のみからのラマン散乱を検出することが可能になってきた。例えば、非特許文献5では、十分なSERSを生じる金属ナノ構造にレーザー光を照射したときにナノ構造表面に生じる局所電場強度を数値計算により求めることで、巨大増強度を与える金属ナノ構造が明らかになったことが報告されている。局所電場計算では、孤立した球状、楕円状等の金属ナノ粒子においては、10〜10のSERS増強しか得られないが、一方これらの形状を有するナノ粒子の接合部では、粒子サイズによらず最適波長では1010以上の単一分子感度に匹敵する増強度が得られた。つまり、金属ナノ粒子集合体およびその接合粒子で、単一分子感度の巨大な増強度が得られたと報告されている。
【0008】
また、表面増強ラマン散乱を分光分析するのに、金属微粒子を近接または接合させた構造体などが用いられることが知られている。例えば、微細孔中に金属を充填して露出させることで各々の露出された金属微粒子間距離を数nmまで縮めていく。これらの露出した金属微粒子の表面に被分析試料を付着させてからレーザー光を照射する。こうすることで、金属微粒子間に生じた電磁場を利用して感度を高める表面増強ラマン散乱の測定が可能になる(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2005−172569号公報
【特許文献2】特開2003−266400号公報
【特許文献3】特開2003−342791号公報
【特許文献4】特開2004−179229号公報
【非特許文献1】Chem.Phys.Lett. Vol26 p.163(1974)
【非特許文献2】J.Phys. Chem. 1985,89,5174−5178
【非特許文献3】Solid State Communications, Vol.55, No.12, pp.1085−1088, 1985
【非特許文献4】分析化学 Vol. 40 187 1991
【非特許文献5】J.Phys. Chem B. 2003, 107,7607−7617
【非特許文献6】Journal of Applied Physics Vol96, No.11, 2004. p6776
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来の表面増強現象を用いた振動分光法では、金属膜への試料の吸着状態もしくは試料表面への金属の吸着状態によって、ラマン散乱光強度や吸収強度を増加させていく。しかし、強度の小さい入射光を照射した場合では試料のラマン散乱光や赤外吸収を測定できないこともあるという問題があった。
【0010】
また、金属ナノ粒子の集合体中の接合部分およびその付近から十分なSERS増強度が得られた等報告されているが、特に、粒子などの金属ナノ構造体を用いて十分なSERS強度を得るには、次のことが求められる。すなわち、高密度の金属ナノ構造体の集合体を有すること、または金属ナノ構造体間の間隔を0nm〜数nm程度の距離で配置させることである(特許文献1参照)。しかしながら、特許文献1では二次元にしか金属微粒子が配置されていない。さらに、SERS増強度を感度よく得るには、被測定試料の付着する金属の表面積や金属微粒子の数を増やす必要もある。
【0011】
本発明は、上記の2つの課題に鑑みてなされたものであり、ラマン散乱光や赤外吸収を高感度に測定できる表面増強振動分光分析用治具およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る表面増強振動分光分析用の治具は、基板と、基板上に形成された下地膜と、下地膜上に形成されたベースとを備え、ベースは基板に対して垂直方向に形成された複数の細孔を有し、かつ、前記細孔の側面および前記ベースの表面には、金属微粒子が露出していることを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る表面増強振動分光分析用治具の製造方法は、基板上に下地膜を形成する工程と、下地膜上にベースとして、金属微粒子を有する膜を形成する工程と、ベースに基板に対して垂直方向に複数の細孔を形成する工程とを少なくとも有し、膜を形成する工程および細孔を形成する工程によって、細孔の側面およびベースの表面に金属微粒子が露出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によりラマン散乱光や赤外吸収を感度よく測定することが可能となる。また、本発明により、表面増強振動分光分析用治具の長寿命化が可能となる。また、本発明によりラマン散乱光もしくは赤外吸収を感度よく測定できる表面増強振動分光分析用治具の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
これより、本発明の実施の形態について図を用いて詳しく説明する。
【0016】
最初に、本発明の、試料を採取して振動分光分析を行うための表面増強振動分光分析用治具について説明する。
【0017】
図1(a)に示すように、下地膜12が設けられた基板11上に形成されたベース13中に、その基板11に対して垂直方向に多数の細孔17が形成されている。そして、そのベース13は金属微粒子状層15とSi層16(またはAl層)とを交互に積層形成した薄膜からなっている。また、その細孔17側面上の各々の金属微粒子状層15部分には、多数の金属微粒子14が露出している。この場合、金属微粒子状層15は金属微粒子14とSiを含む層となっている。つまり、Si層上に積層された金属膜の膜厚が薄い場合は、金属が凝集し金属微粒子14となる。その後、この金属微粒子14の上にSi薄膜が形成されるが、そのとき金属微粒子14の隙間にSiが堆積し、図1(a)に示すような金属微粒子14とSiを含む金属微粒子状層15となる。
【0018】
一方、金属膜の膜厚が十分に厚い場合は、金属膜の層とSi層とが交互に堆積する。この場合は、交互に層を形成したあとに熱処理により金属を拡散させて、金属微粒子をベース中に拡散させることが求められる。このように、熱処理をした場合、金属微粒子14を図1(b)に示すようにベース13全体に拡散させることもできる。
【0019】
図1(b)では、下地膜12が設けられた基板11上に形成されたベース13中に、その基板11に対して垂直方向に多数の細孔17が形成されており、そのベース13中に多数の金属微粒子14が分散されている。また、その細孔17側面およびそのベース13表面上には、多数の金属微粒子14が露出している。
【0020】
また、図1(c)では、下地膜12が設けられた基板11上に形成されたベース13中にその基板11に対して垂直方向に多数の細孔17が形成されており、そのベース13中に多数の金属微粒子14が分散されている。また、その細孔17側面およびそのベース13表面上には、多数の金属微粒子14が露出しており、さらに、その露出した金属微粒子14を覆うように金属膜18が形成されている。
【0021】
下地膜12としては、Ag、Au、Cu、Pt、Pd、Crなどの触媒活性を有する金属であることが好ましいが、特にはAu、Pt、Pdが好ましい。また、触媒活性を有しない金属であってもよい。また、平坦性を持つ連続した膜であることが好ましい。
【0022】
また、ベース13としては、金属微粒子状層15とSi層16(またはAl層)とを交互に積層形成した薄膜が好ましい。または、金属微粒子14が分散されたSi膜も好ましい。さらには、下地膜12付きの基板11に対して垂直方向に形成された柱状部材部分41と、該柱状部材部分41の側面を囲むように配置されるマトリックス部分とからなる構造体を有する(Al、Si、Ge)混合膜51も好ましい。ここで、前記柱状部材部分41は、Alを主成分とする。また、前記マトリックス部分42は、Si、Ge、SiGeのいずれかを主成分とする。
【0023】
また、細孔17は、下地膜12にまで達して形成された細孔でも、下地膜12にまで達してない細孔でもよい。
【0024】
また、細孔径2rは、実験結果より、1nm以上1μm以下であることが好ましく、その中心間距離2Rは3nm以上1.5μm以下であることが好ましい。また、アスペクト比は2以上であることが好ましく、長さは限定されるものではない。ここでいうアスペクト比とは、細孔17の細孔径に対する深さの比率をいうものとする。
【0025】
また、金属微粒子14の材料はAu、Ag、Pd、Ptのいずれかであることが好ましく、粒径は1nm以上30nm以下であることが好ましい。この粒径の範囲において、比較的にSERS現象が起こりやすいからである。また、ベース13中に分散された金属微粒子14や露出された金属微粒子14間の隙間距離は0nm以上100nm以下であることが好ましく、特には0nm以上50nm以下であることが好ましい。この範囲において、比較的にSERS現象が起こりやすいからである。また、金属微粒子14はMSi1−x(0≦X≦1、M:Au、Ag、Pd、Ptのいずれか)のようなSiと金属との混合物でもよい。
【0026】
また、金属微粒子を有する層(金属微粒子状層15)は複数の金属微粒子14が接合または近接する膜であることが好ましく、SERS現象を起こしやすくするために膜厚は1nm以上100nm以下であることが好ましい。また、この膜厚の範囲が金属粒子間距離の制御に適している。また、近接する金属微粒子14間の隙間距離は0nm以上100nm以下であることが好ましく、特には0nm以上50nm以下であることが好ましい。また、粒径は1nm以上30nm以下であることが好ましい。隙間距離や粒径をこの範囲とすることで、比較的にSERS現象を起こしやすくすることができる。
【0027】
また、Si層16、Al層16、(Al、Si、Ge)混合層16は、膜厚が1nm以上100nm以下であることが好ましい。これは、金属微粒子を分散させやすくするためである。
【0028】
また、金属膜18はAu、Pt、Pdのいずれかであることが好ましく、その膜厚は1nm以上30nm以下であることが好ましい。
【0029】
次に、本発明における表面増強振動分光分析用治具の製造方法について説明する。
【0030】
本発明の製造方法は、ベース13中の細孔17側面またはベース13表面上に多数の金属微粒子14、または金属膜18を表面に形成した多数の金属微粒子14を露出させることを特徴とする。そして、下地膜12が設けられた基板11上に形成されたベース13中に、その基板11に対して垂直方向に細孔17を形成する工程を含む。または、その下地膜12が設けられた基板11上に形成されたベース13中に、金属微粒子14を分散させ、さらにその基板11に対して垂直方向に細孔17を形成する工程を含む。または、さらに、露出された金属微粒子14表面上に金属膜18を形成する工程も含む。
【0031】
まず、図1(a)に示す表面増強振動分光分析用治具の製造方法を、以下に詳しく説明する。一例として、本発明のベース13である金属微粒子状層15とSi層16(またはAl層)とを交互に積層形成した薄膜(以後、交互積層形成薄膜21と呼ぶ)の陽極酸化を行う場合の製造方法を以下の〔a〕〜〔c〕の順に説明する(図2参照)。
【0032】
〔a〕下地膜12の形成工程(図2(a))
陽極酸化を行うには、基板11上に金属からなる下地膜12を形成することが求められる。また、下地膜12は酸性やアルカリ性を有する電解液に溶けない金属であることが好ましく、Pd、Pt、Ag、Au、Rh、Irなどの貴金属元素などが好ましい。また、膜厚は所望通りに制御してもよいが、100nm以下が好ましい。特に20nm以下が好ましい。下地膜12の形成方法としては、ゾルゲル法、蒸着法、スパッタリング法などが挙げられるが、本発明においてはスパッタリング法を採用し、膜厚20nm以下の連続した下地膜12を形成する。
【0033】
〔b〕交互積層形成薄膜21の形成工程(図2(b))
交互積層形成薄膜21の形成方法としては、ゾルゲル法、蒸着法、スパッタリング法などが挙げられるが、本発明においてはスパッタリング法を採用する。
【0034】
所望通りの膜厚を有する金属微粒子状層15およびSi層16(またはAl層16)を交互に形成することが可能である。例えば、基板11上に形成された下地膜12上に膜厚20nmのSi層16(またはAl層16)と膜厚10nmの金微粒子状層15とを交互に積層形成し続けて、膜厚240nmまで交互積層形成薄膜21を形成することができる。また、所望通りの膜厚を有する交互積層形成薄膜21を形成することも可能である。交互積層形成条件としては、Ar、Heなどの不活性ガスを雰囲気ガスに用いてもよいし、高真空下で交互積層形成を行ってもよい。
【0035】
本方法の場合、金属微粒子状層15は金属微粒子14とSiを含む層となっている。つまり、Si層上に積層された金属膜の膜厚が薄い場合は、金属が凝集し金属微粒子14となる。その後、この金属微粒子14の上にSi薄膜が形成されるが、そのとき金属微粒子14の隙間にSiが堆積し、図2(b)に示すような金属微粒子14とSiを含む金属微粒子状層15となる。
【0036】
〔c〕細孔17の形成工程(図2(c))
ここでは、交互積層形成薄膜21の陽極酸化について述べるが、まずSiまたはSi合金の陽極酸化について説明する。SiまたはSi合金の陽極酸化では、細孔17の平均直径2rは1nm以上500nm以下の範囲で制御することが可能である。また、細孔17の中心間距離2Rは3nm以上で、さらに細孔17の平均直径2rより若干大きい値より約1μmまで制御することが可能である。SiまたはSi合金の陽極酸化には、例えばフッ酸水溶液(1w%以上50w%以下)とエタノール水溶液(10w%以上99w%以下)との混合液が好ましい。フッ酸とエタノールとの混合比は所望通りの数値にしてもよいが、その混合比は1:2以上2:1以下であることが好ましい。また、印加電流は1mA/cm以上300mA/cm以下であることが好ましい。また、電解液温度は10℃以上50℃以下であることが好ましい。また、Si材料の比抵抗やPやSなどの不純物のドープ量(n−typeかp−typeのいずれかになる)などの変化で陽極酸化により形成される細孔17の径は変化する。よって、所望通りの径を有する細孔17を形成するには、適した比抵抗やドープ量などを有するSiターゲットを選定するのが好ましい。また、細孔17の平均直径2rは陽極酸化後にリン酸などの溶液中でエッチングする方法により拡大させることが可能である。
【0037】
AlまたはAl合金の陽極酸化の場合についても説明する。AlまたはAl合金の陽極酸化では、細孔17の平均直径2rは5nm以上500nm以下の範囲で制御することが可能である。また、細孔17の中心間距離2Rは10nm以上で、さらに細孔17の平均直径2rより若干大きい値より約1μmまで制御することが可能である。AlまたはAl合金の陽極酸化にはシュウ酸、リン酸、硫酸、クロム酸などの各種の酸性電解液が利用可能である。なかでも、微細な間隔の細孔17を作製するためには硫酸浴、比較的大きな間隔の細孔17を作製するためにはリン酸浴、その間の細孔17を作製するためにはシュウ酸浴が好ましい。また、細孔17の平均直径2rは陽極酸化後にリン酸などの酸性またはアルカリ性を有する溶液中でエッチングする方法により拡大させることが可能である。
【0038】
次に、図1(b)に示す表面増強振動分光分析用治具の製造方法を、以下に詳しく説明する。一例として、本発明のベース13である金属微粒子状層15とSi層16とを交互に積層形成した薄膜21の熱処理を行い、さらに陽極酸化を行う場合の製造方法を以下の〔a〕〜〔d〕の順に説明する(図3参照)。
【0039】
〔a〕下地膜12の形成工程(図3(a))
陽極酸化を行うには、基板11上に金属からなる下地膜12を形成することが求められる。また、下地膜12は酸性やアルカリ性を有する電解液に溶けない金属であることが好ましく、Pd、Pt、Ag、Au、Rh、Irなどの貴金属元素などが好ましい。また、膜厚は所望通りに制御してもよいが、100nm以下が好ましい。特には、20nm以下が好ましい。下地膜12の形成方法として、ゾルゲル法、蒸着法、スパッタリング法などが挙げられるが、本発明においてはスパッタリング法を採用し、膜厚20nm以下の連続した下地膜12を形成する。
【0040】
〔b〕交互積層形成薄膜21の形成工程(図3(b))
交互積層形成薄膜21の形成方法としては、ゾルゲル法、蒸着法、スパッタリング法などが挙げられるが、本発明においてはスパッタリング法を採用する。
【0041】
所望通りの膜厚を有する金属微粒子状層15およびSi層16を交互に形成することが可能であるが、Si層16は金属微粒子状層15と同程度の膜厚または金属微粒子状層15以下の膜厚であることが好ましい。例えば、基板11上に形成された下地膜12上に膜厚20nmのSi層16と膜厚30nmの金微粒子状層15とを交互に積層形成し続けて、膜厚220nmまで交互積層形成薄膜を形成していく。最後に膜厚10nmの金微粒子状層15を形成する。また、所望通りの膜厚を有する交互積層形成薄膜21を形成することも可能である。
【0042】
また、金属微粒子状層15はAu、Ag、Pd、Ptのいずれかを材料に用いてもよいが、MSi1−x(0≦X≦1、M:Au、Ag、Pd、Ptのいずれか)のようなSiと金属との混合物を材料に用いてもよい。本発明においては、一例として、AuターゲットおよびSiターゲットを用いてスパッタリング法によりAu0.4Si0.6からなる金属微粒子状層15とSi層16との交互積層形成を行ってもよい。
【0043】
また、交互積層形成条件としては、Ar、Heなどの不活性ガスを雰囲気ガスに用いてもよいし、高真空下で交互積層形成を行ってもよい。本発明においては、不活性ガス圧は1mTorr以上100mTorr以下であることが好ましく、膜厚0.3Å/s以上1.1Å/s以下の速度で積層形成を行うのが好ましい。
【0044】
〔c〕熱処理工程(図3(c))
〔b〕工程で作製した交互積層形成薄膜21の熱処理工程においては、真空もしくはArやHeなどの不活性ガスの下で熱処理を行えばよいが、特には、大気圧の不活性ガスの下で行うのが好ましい。
【0045】
また、熱処理温度や熱処理時間は所望通りに制御してもよいが、特には、Si層16と金属微粒子状層15との膜厚比に合わせて金属微粒子14をよく分散させるのに適した熱処理条件を選定して熱処理を行うのが好ましい。本発明においてAu0.4Si0.6からなる金属微粒子状層15とSi層16とを交互に積層形成を行った場合は、熱処理温度は200℃以上300℃以下であることが好ましい。また、熱処理時間は30分以上で2時間以下あることが好ましい(非特許文献6参照)。
【0046】
〔d〕細孔17形成工程(図3(d))
図2(c)と同様に、交互積層形成薄膜21の陽極酸化を行えばよい。また、陽極酸化条件も図2(c)と同様であり、以下に詳細に説明する。
【0047】
SiまたはSi合金の陽極酸化では、細孔17の平均直径2rは1nm以上500nm以下の範囲で制御することが可能である。また、細孔17の中心間距離2Rは3nm以上で、さらに細孔17の平均直径2rより若干大きい値より約1μmまで制御することが可能である。SiまたはSi合金の陽極酸化には、例えばフッ酸水溶液(1w%以上50w%以下)とエタノール水溶液(10w%以上99w%以下)との混合液が好ましい。フッ酸とエタノールとの混合比は所望通りの数値にしてもよいが、その混合比は1:2以上2:1以下であることが好ましい。また、印加電流は1mA/cm以上300mA/cm以下であることが好ましい。また、電解液温度は10℃以上50℃以下であることが好ましい。また、Si材料の比抵抗やPやSなどの不純物のドープ量(n−typeかp−typeのいずれかになる)などの変化で陽極酸化により形成される細孔17の径が変化する。よって、所望通りの径を有する細孔17を形成するには、適した比抵抗やドープ量などを有するSiターゲットを選定するのが好ましい。また、細孔17の平均直径2rは陽極酸化後にリン酸などの酸性またはアルカリ性を有する溶液中でエッチングする方法により拡大させることが可能である。
【0048】
また、図1(a)の表面増強振動分光分析用治具の別の製造方法として、次のものがある。本発明のベース13である下地膜12付きの基板11に対して垂直方向に、Alを主成分とする柱状部材部分41が形成してある。前記Alを主成分とする柱状部材部分41の側面を囲むように、Si、Ge、SiGeのいずれかを主成分とするマトリックス部分42からなる構造体を有する(Al、Si、Ge)混合層16と金属微粒子状層15とが交互積層配置されている。そして、この基板11をエッチングする。この製造方法についてこれより説明する(図4参照)。
【0049】
まず、(Al、Si、Ge)混合層16は、(Si、Al)O混合層(0≦X≦2)、(Ge、Al)O混合層(0≦X≦2)、(Si、Ge、Al)O混合層(0≦X≦2)のいずれかであることを特徴とする。
【0050】
ここにおいては、(Si、Al)O混合層(0≦X≦2)を採用して説明する(特許文献2、特許文献3、特許文献4等参照)が、ここではX=0として(Al、Si)混合層16とする。ここでは、Alを主成分とする柱状部材41が、Siを主成分として構成される領域、つまりマトリックス42に取り囲まれている。かつ、前記(Al、Si)混合層16にはSiが、AlとSiの全量に対して20at%以上70at%以下の割合で含まれていることを特徴とする。上記割合は、前記(Al、Si)混合層16を構成するAlとSiの全量に対するSiの割合のことであり、好ましくは25at%以上65at%以下、より好ましくは30at%以上60at%以下である。上記のAlとSiの割合を示すat%とは、SiとAlの原子の数の割合を示し、atom%あるいはat%とも記載され、例えば誘導結合型プラズマ発光分析法(ICP法)で(Al、Si)混合層51中のSiとAlの量を定量分析したときの値である。
【0051】
また、(Al、Ge)混合層、(Al、Si、Ge)混合層の場合も同様にして、(Al、Si)混合層16の場合に先述したSiの代わりにそれぞれGe、SiGeを用いて適用できる。
【0052】
図5には、(Al、Si、Ge)混合層51を形成した下地膜12付きの基板11の構成図を示す。図5において、41は柱状部材、42はSiを主成分とするマトリックス部分、12は下地膜、11は基板である。前記(Al、Si、Ge)混合層51には、前記マトリックス42中に複数の前記柱状部材41が分散していることになる。また、前記柱状部材41の平均直径(平面形状が円の場合は直径)2r(図5)は、主として(Al、Si、Ge)混合層51の製造条件により制御することが可能である。そして、その平均直径2rは0.5nm以上20nm以下、好ましくは1nm以上15nm以下である。なお、平面形状が楕円等の場合は、最も長い外径部の範囲内であればよい。ここで平均直径とは、例えば、実際のSEM写真で観察される柱状の部分を、その写真から直接、あるいはコンピュータで画像処理して導出される値である。なお、前記薄膜は、どのようなデバイスに用いるか、あるいはどのような処理を行うかにもよるが、平均径の下限としては1nm以上、あるいは数nm以上であることが実用的な下限値である。また、柱状部材42間の中心間距離2R(図5)は、30nm以下、好ましくは3nm以上20nm以下である。
【0053】
前記Al(Si、Ge)混合層51は、膜状の構造体であることが好ましく、前記柱状部材41は下地膜12および基板11に対して垂直になるようにマトリックス42中に分散していることが好ましい。(Al、Si、Ge)混合層51の膜厚としては、特に限定されるものではないが、1nm以上100μm以下の範囲で適用できる。
【0054】
次に、図4に示す本発明における表面増強振動分光分析用治具の製造方法の一実施様態を説明する。それは、(Al、Si、Ge)混合層16(一例として(Si、Al)O混合層16(0≦X≦2)を採用する)と金属微粒子状層15とを交互積層形成し、この基板をエッチングし、またはエッチング後の熱処理を行う場合である。
【0055】
前記混合層16は、非平衡状態で成膜する方法を利用して作製することができる。本発明における成膜方法としては、スパッタリング法が好ましいが、抵抗加熱蒸着、電子ビーム蒸着(EB蒸着)などの非平衡状態で物質を形成する成膜法が適用可能である。
【0056】
一例として、本発明の(Si、Al)O混合層16(0≦X≦2)を用いた場合の表面増強振動分光分析用治具の製造方法を以下の〔a〕〜〔e〕の順に説明する(図4)。
【0057】
〔a〕下地膜12の形成工程(図4(a))
基板11上に形成する下地膜12については、触媒としては、Pd、Pt、Ag、Au、Rh、Irなどの貴金属元素などが好ましく、特に平坦性を有した連続した膜が好ましい。また、膜厚は所望通りに制御してもよいが、100nm以下が好ましい。特に20nm以下が好ましい。下地膜12の形成方法として、ゾルゲル法、蒸着法、スパッタリング法などが挙げられるが、本発明においてはスパッタリング法を採用し、膜厚20nm以下の連続した下地膜12を形成する。
【0058】
〔b〕(Al、Si)混合層16(ここでは(Si、Al)O混合層16(X=0))と金属微粒子状層15との交互積層形成薄膜の形成工程(図4(b))
〔a〕工程で作製した下地膜12上に(Al、Si)混合層16と金属微粒子状層15との交互積層形成を行う。その交互積層形成薄膜21の形成方法としては、ゾルゲル法、蒸着法、スパッタリング法などが挙げられるが、本発明においてはスパッタリング法を採用する。
【0059】
所望通りの膜厚を有する金属微粒子状層16および(Al、Si)混合層15を交互に形成することが可能である。例えば、基板11上に形成された下地膜12上に膜厚20nmの(Al、Si)混合層16と膜厚10nmの金微粒子状層15とを交互に積層形成し続けて、膜厚210nmまで交互積層形成薄膜21を形成していく。最後に、膜厚5nmの金微粒子状層15を形成する。また、所望通りの膜厚を有する交互積層形成薄膜21を形成することも可能である。
【0060】
また、金属微粒子状層15はAu、Ag、Pd、Ptのいずれかであることが好ましい。
【0061】
また、交互積層形成条件としてはAr、Heなどの不活性ガスを雰囲気ガスに用いてもよいし、高真空下で交互積層形成を行ってもよい。特に、本発明においては、不活性ガス圧は1mTorr以上100mTorr以下であることが好ましい。
【0062】
ここで、(Al、Si)混合層16の形成方法についても説明する。
【0063】
図6に示すように、前記下地膜12上に、スパッタリング法により、(Al、Si)混合層16を形成する(特許文献2参照)。原料としてのSiおよびAlは、図6に示すように、Alのターゲット63上にSiチップ62を配置することで達成される。また、図6においてはSiチップ62を複数に分けて配置しているが、勿論これに限定されるものではなく、所望の成膜が可能であれば、1つであってもよい。ただし、均一なAlを含む柱状部材41を、Siを主成分とするマトリックス42領域内に均一に分散させるには、Alターゲット63上にSiチップ62を対称に配置しておくのがよい。また、所定量のAlとSiとの粉末を焼成して作製したAlSi焼成物を成膜のターゲット材として用いることもできる。また、AlターゲットとSiターゲットを別々に用意し、同時に両方のターゲットをスパッタリングする方法を用いてもよい。
【0064】
形成される層中のSiの量は、AlとSiの全量に対して20〜70at%であり、好ましくは25〜65at%、さらに好ましくは30〜60at%である。Si量がかかる範囲内であれば、Siを主成分とするマトリックス42領域内にAlを主成分とする柱状部材41が分散した(Al、Si)混合層16が得られる。成膜された(Al、Si)混合層16は、Alを主成分とする柱状部材41と、その周囲のSiを主成分とするマトリックス42領域を備える。また、基板温度は200℃以下であることが好ましい。
【0065】
なお、このような方法で(Al、Si)混合層16を形成すると、AlとSiが準安定状態の共晶型組織となり、AlがSiマトリックス42内に数nmレベルのナノ構造体(柱状部材41)を形成し、自己組織的に分離する。そのときのAlはほぼ円柱状形状であり、その孔径は1nm以上15nm以下であり、中心間距離は2nm以上30nm以下である。
【0066】
(Al、Si)混合層16のSiの量は、例えばAlターゲット63上に置くSiチップ62の量を変えることで制御できる。また、非平衡状態で成膜を行う場合、特にスパッタリング法の場合は、Arガスを流したときの反応装置内の圧力は、1mTorr以上10mTorr以下であることが好ましい。また、プラズマを形成するための出力は4インチターゲットでは、150〜1000W程度が好ましい。しかし、特に、これに限定されるものではなく、Arプラズマ61が安定に形成される圧力および出力で成膜を行えばよい。
【0067】
〔c〕細孔17形成工程(図4(c))
上記の交互積層形成膜21中のAl領域(Alを主成分とする柱状部材41領域)のみを選択的にエッチングを行う。その結果、細孔17を有するSiを主成分とするマトリックス42領域のみが残り、多孔質体が形成されるが、エッチングを行う度に(Al、Si)混合層16は酸化される場合があるので、(Si、Al)O多孔質体16(0≦X≦2)が形成される。なお、(Si、Al)O多孔質体16(0≦X≦2)の細孔17は、中心間距離2Rが30nm以下、平均直径2rが20nm以下である。好ましくは、細孔17の平均直径2rは1nm以上15nm以下であり、その中心間距離2Rは3nm以上20nm以下である。また、長さは1nm以上100μm以下の範囲である。
【0068】
エッチングに用いる溶液は、例えばAlを溶かしてSiはほとんど溶解しない、りん酸、硫酸、塩酸、クロム酸溶液などの酸が挙げられる。しかし、エッチングによる細孔17形成に不都合がなければ水酸化ナトリウムやアンモニア水などのアルカリを用いることができ、特に酸の種類やアルカリの種類は限定されるものではない。また、数種類の酸溶液やあるいは数種類のアルカリ溶液を混合したものを用いてもかまわない。またエッチング条件は、例えば、溶液温度、濃度、時間などは、作製する(Si、Al)O多孔質体16(0≦X≦2)に応じて、適宜設定することができる。
【0069】
また、〔b〕〜〔c〕工程においては、(Al、Ge)混合層、(Al、Si、Ge)混合層も同様にして、上述した(Al、Si)混合層16の場合に用いたSiの代わりにそれぞれGe、SiGeも適用できる。
【0070】
これよりは、図1(c)に示す表面増強振動分光分析用治具の製造方法を、以下に詳しく説明する。
【0071】
一例として、露出した金属微粒子14表面上に金属膜18を形成する工程に無電解めっき法を用いる場合の表面増強振動分光分析用治具の製造方法を説明する(図7参照)。
【0072】
まず、図1(a)または図1(b)に示すように、金属微粒子14を細孔17またはベース13表面上に露出させた表面増強振動分光分析用治具を作製する(図7(a))。続いて、この分光分析用治具を無電解めっき浴に浸すことで、露出させた金属微粒子14の露出部分に金属膜18を形成させることが可能である(図7(b))。また、金属膜18を表面上に形成した金属微粒子14間の隙間距離は、0nm以上50nm以下であることが好ましいが、さらに0nm以上3nm以下であることが好ましい。
【0073】
また、本発明における無電解めっきにより形成する金属膜18の材料としては、Au、Ptの貴金属が好ましい。また、無電解めっきによる金属膜18の作製条件として、金属塩、還元剤、錯化剤、pH調整剤などのめっき浴における成分の種類の組み合わせ、各々の濃度、めっき浴温度、攪拌速度、pHの調整、基板を無電解めっき浴に浸す時間が挙げられる。これらを制御することで所望通りの膜厚を有する金属膜18を作製することが可能である。
【0074】
また、無電解めっきに用いるめっき浴の主成分としては、析出させる金属を含む塩つまり金属塩、ヒドラジン、次亜リン酸ナトリウム、ジメチルアミンボランなどの金属イオンを金属として析出させるために電子を与える還元剤がある。また、めっき浴に金属の沈殿を生じさせないようにするのに必要な添加剤、つまり錯化剤もある。クエン酸ナトリウムや酒石酸ナトリウムなどの錯化剤を添加することにより金属イオンを金属錯体にしてそのままの状態にすることが可能なので、錯化剤も添加するのが好ましい。また、水酸化ナトリウムやアンモニア水などの塩基性化合物などのpH調整剤は、めっき速度、還元効率およびめっき皮膜の状態に大きく及ぼすが、無電解めっき浴のpHを安定させるためにpH調整剤を添加するのが好ましい。無電解めっき浴のpHは、無電解めっきの種類によって色々と違うが、無電解めっき浴のpHはベースが溶けない程度の範囲内であれば、酸性またはアルカリ性を有する無電解めっき浴を用いてもよい。
【0075】
以下、本発明における表面増強振動分光分析用治具を用いた振動分光分析方法に関して説明する。
【0076】
本発明における表面増強振動分光分析用治具とは、表面増強ラマン分光分析用治具と表面増強赤外分光分析用治具の二種類である。
【0077】
ラマン・赤外分光分析方法については、スピンコート法や蒸着法等の金属膜表面上に単分子層以上の試料を吸着させる方法が色々とあるが、一例として、次の方法を詳述する。金属微粒子14または金属膜18を表面上に形成した金属微粒子14を露出させたベース13を形成した下地膜12付きの基板11を有機溶液中に浸してからラマン・赤外測定を行う方法である。
【0078】
前記有機溶液における有機物つまり溶質としては、チオール基やアミノ基等の官能基を有する表面増強ラマン活性もしくは表面増強赤外活性のある有機物が好ましく、溶媒としては純水、エタノールやエチレングリコール等の有機溶媒を用いるのが好ましい。
【0079】
先述した基板を有機溶液中に浸すことで金属微粒子14または金属膜18表面上に試料を吸着させる量は、金属微粒子14または金属膜18を表面上に形成した金属微粒子14の金属元素、溶質、溶媒、濃度、溶媒温度の種類の組み合わせにより異なってくる。有機溶液における濃度は0.001mmol/L以上1mol/L以下であることが好ましく、特に0.001mmol/L以上1mmol/L以下であることが好ましい。
【0080】
また、先述した基板を有機溶液中に浸すことで金属微粒子14または金属膜18表面上に試料を吸着させる量は、金属微粒子14または金属膜18を表面上に形成した金属微粒子14の数に左右される。ラマン分光分析の場合は、レーザー光が照射する点の空間領域は直径約1μmの球領域であるので、3μm以下の深さを有する細孔17を用いるのが好ましい。一方、赤外分光分析の場合は、例えば透過法により分光分析を行う際に赤外線の照射された領域は所望通りのサイズであってもよい。
【0081】
例えば、銅フタロシアニン(CuPc)水溶液を挙げて、0.1mmol/LのCuPc水溶液(室温25℃)を作製する。この水溶液中にPd微粒子14またはAu膜18を表面上に形成したPd微粒子14を露出させたベース13を形成した下地膜12付きの基板11を必要な時間だけ浸す。そうやって、Pd微粒子14またはAu膜18を表面上に形成したPd微粒子14上にCuPcを吸着させる。その基板を前記水溶液から引き上げてから、数回純水超音波洗浄を行う。次に、その基板を窒素雰囲気下で乾燥させてから、ラマン・赤外分光分析を行う。また、単分子層以上の厚さで吸着された試料は、強度が小さいラマンレーザーでも一ヶ所でレーザー光を照射され続けると損傷を受けてしまうこともあるが、これを避けるためにはその試料を常に回転させ続ければよい。
【0082】
前述したとおり、本発明の表面増強振動分光分析用治具においては、多数の金属微粒子14が露出されたベース13が基板11上に形成された下地膜12上に形成され、その金属微粒子14は貴金属からなっている。その結果、その治具の試料付着部分は、平らかな場合に比べて試料付着面積が極めて広くなっているで検出感度が向上している。また、強度が小さいレーザー光でも強度が小さい赤外線でも分光分析が感度よくできる。さらに、表面に金属膜18が形成された金属微粒子14を用いることで金属微粒子14間の隙間距離が0nm以上10nm以下に縮まり、その隙間に生じる電磁場が一層強まって検出感度がさらに高くなる。
【0083】
次に、本発明における表面増強振動分光分析用治具の長寿命化について説明する、
振動分光分析を一度行った後の振動分光分析用治具を再び用いて振動分光分析を数回繰り返して行った例について説明する(図8参照)。
【0084】
分光分析を行った振動分光分析用治具でも使用前の振動分光分析用治具と同様に高感度測定するには、次のことが求められる。つまり、金属微粒子14または金属膜18が表面上に形成された金属微粒子14に形成した試料、金属微粒子14または金属膜18が表面上に形成された金属微粒子14、およびベース13中の細孔17側面(ベース13表面も含む)を削除することである。
【0085】
エッチングに用いる溶液は、次のpHの範囲を有することが好ましい。すなわち、金属微粒子14または金属膜18を表面上に形成した金属微粒子14に付着した試料、金属微粒子14または金属膜18を表面上に形成した金属微粒子14、およびベース13中の細孔17側面(ベース13表面も含む)が融解する程度のpHの範囲である。特に、pH2以上pH6以下の酸性、またはpH10以上pH14以下のアルカリ性であることが好ましい。りん酸、硫酸、塩酸、クロム酸溶液などの強酸性、水酸化ナトリウムやアンモニア水などの強アルカリ性を有するものが好ましく、特に酸の種類やアルカリの種類に限定されるものではない。また、数種類の酸溶液やあるいは数種類のアルカリ溶液を混合したものを用いてもかまわない。また、エッチング条件においては、溶液温度、濃度、時間などは、再使用する振動分光分析用治具の状況に応じて、適宜設定することができる。
【0086】
一例として、銅フタロシアニン(CuPc)のラマン分光分析を行った振動分光分析用治具(図8(a))を1MのNaOH水溶液に数分間浸すことでエッチング処理を行えばよい。こうすることで、エッチング前の細孔17径はさらに広大になっており、その細孔17側面の各々の金属微粒子状層15断面に新しいAu微粒子14が露出されていく(図8(b))。
【0087】
この何も付着させていない分光分析用治具にラマン分光分析を行ってみると、分光分析用治具材料以外のラマン散乱は観測されていない。続いて、この分光分析用治具を再び0.1mmolの銅フタロシアニン(CuPc)水溶液中に1分間浸し、続いて純水の超音波洗浄も行う。この基板のラマン分光分析を行うと、最初の分光分析で得られた結果に比べて表面増強ラマン散乱強度は増大されていく。
【0088】
つまり、細孔17径が増加したことで露出されたAu微粒子14の数が最初に比べて増えるので、表面増強ラマン散乱光強度をさらに感度よく測定することが可能である。
【0089】
また、数回のエッチング処理の繰り返しで細孔17径を増加させていくので、露出される金属微粒子14数の増加で表面増強ラマン散乱光強度をさらに感度よく測定でき、かつ振動分光分析用治具の長寿命化にもつながる。
【実施例】
【0090】
以下、実施例を用いて本発明を説明する。しかし、本発明は以下の例に限定されはしない。
【0091】
(実施例1)
本実施例においては、金属微粒子状層15とAl層16とを交互に積層形成した薄膜(以後、Al交互積層形成薄膜21と呼ぶ)を基板11上に形成された下地膜12上に形成し、さらに陽極酸化法によりAl交互積層形成薄膜21に細孔17を形成する。その基板11を銅フタロシアニン水溶液に浸してからラマン分光分析を行った例について説明する(図1(a)、図2)。
【0092】
まず、下地膜12として、スパッタリング法によりSi基板11上に膜厚20nmのPd薄膜12を形成した(図2(a))。さらに、下地Pd膜12付きのSi基板11上に、スパッタリング法によりAu微粒子状層15(10nm)とAl層16(30nm)を交互に積層形成し続けて膜厚200nmのAl交互積層形成薄膜21を形成した。さらに、膜厚5nmのAu微粒子状層15を形成した(図2(b))。続いて、この基板を陽極として、0.3mol/L、16℃に設定したシュウ酸水溶液に浸し、さらに40Vの電圧印加による陽極酸化を行った。
【0093】
陽極酸化後、FE−SEM(電界放出走査型電子顕微鏡)でこの試料を観察した結果、Al交互積層形成薄膜21中に平均直径30nm、中心間距離50nmの細孔17が形成されていた。また、その細孔17側面の各々の金属微粒子状層15断面に、多数の粒径5nmのAu微粒子14が露出していることが分かった(図2(c))。
【0094】
さらに、この基板を0.1mmolの銅フタロシアニン(CuPc)水溶液中に1分間浸し、続いて純水の超音波洗浄も行った。また、FE−SEMを用いて形態観察したが、そのAu微粒子上にはCuPcがみられなかった。さらに、この基板のラマン分光分析を行った結果、CuPcのSERSが得られた。
【0095】
(比較例1)
比較例1として、Pd下地膜12付きのSi基板11を用意する。この基板11上に金の蒸着を行うことで膜厚約20nmの島状の銀膜を形成した。さらに、この基板11も0.1mmolのCuPc水溶液に1分間浸し、純水の超音波洗浄を行った。続いて、この試料にもラマン分光分析を行った。この結果、SERSであるラマン散乱光を観測できたが、実施例1に比べて、この試料の表面増強ラマン散乱光強度は約1/6に減少していた。
【0096】
(比較例2)
比較例2として、陽極酸化により形成したアルミナ層中の細孔にAuを充填した基板(特許文献1参照)を用意する。まず、細孔径200nm、細孔深さ100nm、間隔300nmを有する細孔を陽極酸化法によりアルミナ層に形成した。次に、各々の細孔中に電気めっきによりAuを充填し、さらにそのアルミナ層の表面と同位置までAuを充填した後もめっき処理を続けることで、細孔がAuで埋められ、さらに細孔の周辺に過剰にAuがめっきされた。こうすることで、Au微粒子の頭部が露出されて、Au微粒子同士の頭部の隙間は数nm以下になっていた。また、Au微粒子の頭部の径は約290nmになっていた。
【0097】
続いて、この基板を0.1mmolの銅フタロシアニン(CuPc)水溶液中に1分間浸し、続いて純水の超音波洗浄を行った。そして、ラマン散乱分光測定も行った。この結果、SERSであるラマン散乱光を観測できたが、実施例1におけるAl積層形成薄膜21に比べて、この試料のラマン散乱光強度は約1/2に減少していた。
【0098】
(結果1)
実施例1においては、Au微粒子14の数が比較例1に比べて多い(細孔17表面上に露出された全てのAu微粒子14表面上に付着させたCuPc量の分を増やす)ので、表面増強ラマン散乱光強度をより感度よく測定できた。また、実施例1においては、Au微粒子14の数および隣接したAu微粒子14の隙間部の数が比較例2に比べて多いので、表面増強ラマン散乱光強度をより感度よく測定できた。というのも、比較例2ではAu微粒子が二次元に隣接されているが、本発明におけるAu微粒子14は三次元に隣接されているので、本発明における隣接したAu微粒子14の隙間部の数は比較例2に比べて多いのである。
【0099】
また、実施例1においては、金属微粒子状層15とAl層16との膜厚の比、各々の層数の制御などの薄膜形成条件の制御を行うことで、金属微粒子14の粒径、金属微粒子14の分散性(金属微粒子間の隙間距離)、細孔17の表面積を制御できる。そうすることで、表面増強ラマン散乱光強度を所望通りに制御することが可能である。
【0100】
また、実施例1においては、印加電圧、陽極酸化に用いる電解液種類、電解液温度などの陽極酸化による細孔17の条件を制御することで、細孔17の表面積を制御し、表面増強ラマン散乱光強度を所望通りに制御することも可能である。
【0101】
ここで、Au以外の金属微粒子14としては、Ag、Pd、Ptの金属を用いることも可能である。また、先述したCuPc以外の測定する試料としては、チオール基、アミノ基などの官能基を有する表面増強ラマン活性のある有機物を測定することも可能である。また、赤外分光分析においても同様に、透過法などにより表面増強赤外を測定することが可能である。
【0102】
(実施例2)
本実施例においては、金属微粒子状層15とSi層16とを交互に積層形成した薄膜(以後、Si交互積層形成薄膜21と呼ぶ)を基板11上に形成された下地膜12上に形成し、さらに陽極酸化法によりSi交互積層形成薄膜21に細孔17を形成する。そのような基板11を銅フタロシアニン水溶液に浸してからラマン分光分析を行った例について説明する(図1(a)、図2)。
【0103】
まず、下地膜12として、スパッタリング法によりSi基板11上に膜厚20nmのPd薄膜12を形成した(図2(a))。さらに、下地Pd膜12付きのSi基板11上にスパッタリング法によりAu粒子状層15(10nm)とSi層16(30nm)を交互に積層形成し続けて、膜厚200nmのAl交互積層形成薄膜21を形成した。さらに、膜厚10nmのAu微粒子状層15を形成した(図2(b))。また、スパッタリングに用いたSiターゲットは、比抵抗が0.01Ωcm以上0.03Ωcm以下であるn−typeであった。続いて、この基板を陽極としてフッ酸水溶液(5w%)とエタノール水溶液(90w%)との体積比が1である混合液(25℃に設定した)に浸し、10mA/cmの電流印加により陽極酸化を行った。FE−SEM(電界放出走査型電子顕微鏡)を用いて、その試料を形態観察した結果、細孔径100nmの細孔17側面の各々の金属微粒子状層15断面に多数の粒径5nmのAu微粒子14が露出していることが分かった(図2(c))。
【0104】
さらに、この基板を0.1mmolの銅フタロシアニン(CuPc)水溶液中に1分間浸し、続いて純水の超音波洗浄も行った。また、FE−SEMを用いて形態観察したが、そのAu微粒子14上にはCuPcがみられなかった。さらに、この基板のラマン分光分析を行った結果、CuPcのSERSが得られた。
【0105】
(比較例3)
比較例3として、Pd下地膜12付きのSi基板11を用意する。この基板11上に金の蒸着を行うことで膜厚約20nmの島状の銀膜を形成した。さらに、この基板も0.1mmolのCuPc水溶液に1分間浸し、純水の超音波洗浄を行った。続いて、この試料もラマン分光分析を行った。この結果、SERSであるラマン散乱光を観測できたが、実施例2に比べて、この試料の表面増強ラマン散乱光強度は約1/5に減少していた。
【0106】
(比較例4)
比較例4として、陽極酸化により形成したアルミナ層中の細孔に金を充填した基板(特許文献1参照)を用意する。まず、細孔径200nm、細孔深さ100nm、間隔300nmを有する細孔を陽極酸化法によりアルミナ層に形成した。次に、各々の細孔中に電気めっきによりAuを充填し、さらにそのアルミナ層の表面と同位置までAuが充填された後もめっき処理を続けることで、細孔がAuで埋められ、さらに細孔の周辺に過剰にAuがめっきされた。こうすることでAu微粒子の頭部が露出して、Au微粒子同士の頭部の隙間は数nm以下になっていた。また、Au微粒子の頭部の径は約290nmになっていた。
【0107】
続いて、この基板を0.1mmolの銅フタロシアニン(CuPc)水溶液中に1分間浸し、続いて純水の超音波洗浄を行った。そして、ラマン散乱分光測定も行った。この結果、SERSであるラマン散乱光は観測できたが、実施例2におけるSi積層形成薄膜21に比べて、この試料のラマン散乱光強度は約3/5に減少していた。
【0108】
(結果2)
実施例2においては、Au微粒子14の数が比較例3に比べて多い(細孔17表面上に露出された全てのAu微粒子14表面上に付着させたCuPc量の分を増やす)ので、表面増強ラマン散乱光強度をより感度よく測定できた。
【0109】
また、実施例2においては、Au微粒子14の数および隣接したAu微粒子の隙間部の数が比較例4に比べて多いので、表面増強ラマン散乱光強度をより感度よく測定できた。比較例4ではAu微粒子が二次元に隣接されているが、本発明におけるAu微粒子14は三次元に隣接されているので、本発明における隣接したAu微粒子14の隙間部の数は比較例4に比べて多い。
【0110】
また、実施例2においては、金属微粒子状層15とSi層16との膜厚の比、各々の層数の制御などの薄膜形成条件の制御を行うことで金属微粒子14の粒径、金属微粒子14の分散性(金属微粒子14の間隔距離)、細孔17の表面積を制御できる。そうすることで、表面増強ラマン散乱光強度を所望通りに制御することが可能である。
【0111】
また、実施例2においては、印加電圧、陽極酸化に用いる電解液種類、電解液温度などの陽極酸化による細孔17の条件を制御することで、細孔の表面積を制御し、表面増強ラマン散乱光強度を所望通りに制御することが可能である。
【0112】
また、Au以外の金属微粒子14として、Ag、Pd、Ptの金属を用いることも可能である。また、先述したCuPc以外の測定する試料としては、チオール基、アミノ基などの官能基を有する表面増強ラマン活性のある有機物を測定することも可能である。また、赤外分光分析においても同様に、透過法などにより表面増強赤外を測定することが可能である。
【0113】
(実施例3)
本実施例においては、金属微粒子14を分散させたSi層(ベース)13を基板11上に形成された下地膜12上に形成し、さらに陽極酸化法によりSi層(ベース)13に細孔17を形成する。そのような基板11を銅フタロシアニン水溶液に浸してからラマン分光分析を行った例について説明する(図1(b)、図3)。
【0114】
まず、下地膜12として、スパッタリング法によりSi基板11上に膜厚20nmのPd薄膜12を形成した(図3(a))。さらに、下地Pd膜12付きのSi基板11上にスパッタリング法によりAu0.4Si0.6からなる混合微粒子状層15(20nm)(以後、AuSi混合微粒子状層15と呼ぶ)とSi層16(30nm)を交互に積層形成した。さらに、膜厚10nmのAuSi混合微粒子状層15を形成した(図3(b))。膜厚は210nmになっていた。また、スパッタリングに用いたSiターゲットは、比抵抗が0.01Ωcm以上0.03Ωcm以下であるn−typeであった。続いて、この基板11を大気圧の不活性ガスAr中で250℃の熱処理を30分間行った。
【0115】
続いて、この基板を陽極としてフッ酸水溶液(5w%)とエタノール水溶液(90w%)との体積比が1である混合液に浸す。また、電解液温度は室温25℃に設定しておいた。さらに10mA/cmの電流印加を行い、陽極酸化を行った(図3(d))。FE−SEM(電界放出走査型電子顕微鏡)を用いて、その試料を形態観察した結果、細孔17側面およびベース13表面上の全領域に多数のAu微粒子14が露出していることが分かった。細孔17径は100nmで、Au微粒子14は粒径が5nmであった(図3(c))。
【0116】
さらに、この基板を0.1mmolの銅フタロシアニン(CuPc)水溶液中に1分間浸し、続いて純水の超音波洗浄も行った。また、FE−SEMを用いて形態観察したが、そのAu微粒子14上にはCuPcがみられなかった。さらに、この基板のラマン分光分析を行った結果、CuPcのSERSが得られた。実施例2に比べてこの試料のラマン散乱光強度は約1.5倍に増大していた。
【0117】
(結果3)
以上よりわかるように、露出したAu微粒子14の数が実施例2に比べて多いので、表面増強ラマン散乱光強度をさらに感度よく測定できた。
【0118】
また、本実施例においては、AuSi混合微粒子状層15とSi層16との膜厚の比、各々の層数の制御、AuとSiとの組成比などの薄膜形成条件の制御および熱処理温度、熱処理雰囲気などの制御を行うことで、次のことが可能である。すなわち、金属微粒子14の粒径、金属微粒子14の分散性(金属微粒子14間の隙間距離)、細孔17の表面積を制御できる。そうすることで、表面増強ラマン散乱光強度を所望通りに制御することが可能である。
【0119】
また、本実施例においては、印加電流、陽極酸化に用いる電解液種類、電解液温度などの陽極酸化による細孔17の条件を制御することで、細孔17の表面積を制御し、表面増強ラマン散乱光強度を所望通りに制御することが可能である。
【0120】
また、Au以外の金属微粒子14として、Pd、Pt、Agの金属を用いることも可能である。また、先述したCuPc以外の測定する試料としては、チオール基、アミノ基などの官能基を有する表面増強ラマン活性のある有機物を測定することも可能である。また、赤外分光分析においても同様に、顕微鏡反射法などにより表面増強赤外を測定することが可能である。
【0121】
(実施例4)
本実施例においては、金属微粒子状層15と(Al、Si)混合層16とを交互積層形成した下地膜12付きの基板11のエッチング後、該基板11を銅フタロシアニン水溶液に浸してから、ラマン分光分析を行った例について説明する(図1(a)、図4)。
【0122】
まず、下地膜12として、スパッタリング法によりSi基板11上に膜厚20nmのAu膜を形成した(図4(a))。さらに、下地金膜12付きのSi基板11上にスパッタリング法により、Al:Siの組成比が13:7である(Al、Si)混合層16(25nm)とAu微粒子状層15(5nm)とを交互に積層形成した。さらに、最後に膜厚5nmのAu微粒子状層15を形成した。膜厚は215nmになっていた。FE−SEM(電界放出走査型電子顕微鏡)で前記基板の表面を観察した結果、平均直径2rが約10nm、中心間距離2Rが約15nmであるAlを主成分とする柱状部材41がSiを主成分とするマトリックス42表面中に多数出来ていた。さらに、柱状部材15およびマトリックス16の表面上に粒径5nmの多数のAu微粒子14が形成されていた。また、断面を観察した結果、Alを主成分とする柱状部材41が下地膜12付きの基板11に対して垂直方向に形成されていた(Al、Si)混合層16とAu微粒子状層15が交互に積層形成されていた(図4(b))。
【0123】
次に、この基板を25℃に設定したリン酸5wt%中に2時間浸すことでエッチングを行った。これをFE−SEMで断面観察した結果、Alを主成分とする柱状部材41は全て溶解されて平均直径2rが約10nm、中心間距離2Rが約15nmである細孔17が形成されておいた。そして、この細孔17側面上のAu微粒子状層15部分に粒径5nmのAu微粒子14が露出していた(図4(c))。
【0124】
さらに、この基板を0.1mmolの銅フタロシアニン(CuPc)水溶液中に1分間浸し、続いて純水の超音波洗浄を行った。また、FE−SEMを用いて形態観察したが、露出していたAu微粒子14の表面上にはCuPcがみられなかった。
【0125】
さらに、この基板のラマン分光分析を行った結果、CuPcのSERSが得られた。実施例1に比べて、この試料のラマン散乱光強度は約2.5倍に増大していた。
【0126】
(結果4)
以上よりわかるが、細孔17数を増大させることで、露出したAu微粒子14の数を実施例1に比べて増大させたので、表面増強ラマン散乱光強度をさらに感度よく測定できた。
【0127】
また、本実施例においては、(Al、Si)混合層16とAu微粒子状層16の各々の膜厚および層数の制御、Au微粒子の粒径、(Al、Si)混合層16の組成比などの薄膜形成条件の制御などを行うことで細孔17の表面積を制御できる。そうすることで、表面増強ラマン散乱光強度を所望通りに制御することが可能である。
【0128】
また、Au以外の金属微粒子として、Pd、Ptの金属を用いることも可能である。また、先述したCuPc以外の測定する試料としては、チオール基、アミノ基などの官能基を有する表面増強ラマン活性もしくは表面増強赤外活性のある有機物を測定することも可能である。また、赤外分光分析においても同様に、顕微鏡反射法などにより表面増強赤外を測定することが可能である。また、本実施例のことは、(Al、Ge)混合層および(Al、Si、Ge)混合層の場合も同様に適用可能であり、表面増強ラマン散乱光強度を所望通りに制御することが可能である。
【0129】
(実施例5)
本実施例においては、金属微粒子状層15とAl層16とを積層形成した薄膜13(Al交互積層形成薄膜21)を基板11上に形成された下地膜12上に形成し、さらに陽極酸化法によりAl交互積層形成薄膜21に細孔17を形成する。その基板を無電解めっきに浸し、続いて銅フタロシアニン水溶液に浸してからラマン分光分析を行った例について説明する(図7)。
【0130】
まず、下地膜12として、スパッタリング法によりSi基板11上に膜厚20nmのPd膜12を形成した。さらに、実施例1と同様に、下地Pd膜12付きのSi基板11上にスパッタリング法によりPd微粒子状層15(10nm)とAl層16(30nm)を交互に積層形成し続けて、膜厚200nmのAl交互積層形成薄膜21を形成した。さらに、膜厚5nmのPd微粒子状層15を形成した。続いて、この基板を陽極として0.3mol/Lの16℃に設定したシュウ酸水溶液に浸し、さらに40Vの電圧印加による陽極酸化を行った。
【0131】
陽極酸化後、FE−SEM(電界放出走査型電子顕微鏡)でこの試料を観察した結果、Al交互積層形成薄膜21中に平均直径2rが30nm、中心間距離2Rが50nmの細孔17が形成されていた。また、その細孔17側面の各々のPd微粒子状層15部分およびベース13表面上に多数の粒径5nmのPd微粒子14が露出していたことが分かった(図7(a))。
【0132】
次に、無電解Auめっき浴として、40mLのダインゴールドAC−5R(大和化成(株))、20mLのダインゴールドM−20(大和化成(株))、140mLのイオン交換水を混合させて金無電解めっき浴を作製した。さらに、前記無電解Auめっき浴を加熱して75℃に設定した。また、前記めっき浴のpHは7となっていた。
【0133】
さらに、この状態で作製した基板を前記無電解Auめっき浴に1分間浸し、純粋の超音波洗浄を行った。この試料を形態観察した結果、細孔17側面およびベース13表面上に露出していたPd微粒子14表面上に膜厚10nmのAu膜18が形成されており、細孔17側面がさらに粗くなっていることがわかった。また、各々のPd微粒子14上のAu膜18が繋がったり、Au膜18付きのPd微粒子14間の隙間距離も数nmに近づいていたりしていた。また、貫通した細孔17の底部(下地膜12)にも膜厚10nmのAu膜が形成されていた(図7(b))。
【0134】
さらに、この基板11を0.1mmolの銅フタロシアニン(CuPc)水溶液中に1分間浸し、続いて純水の超音波洗浄も行った。また、FE−SEMを用いて形態観察したが、そのAu膜18上にはCuPcがみられなかった。
【0135】
この基板をラマン分光分析を行った結果、CuPcのSERSが得られており、実施例1に比べてラマン散乱光強度は1.5倍に増大していた。
【0136】
(結果5)
以上よりわかるが、細孔17側面およびベース13表面上に露出した全てのPd微粒子14表面上に、さらにAu膜18を形成したことで、その粗さや隣接した金膜18付きのPd微粒子14の隙間での電磁場が増大し、分析感度が高まった。したがって、表面増強ラマン散乱光強度をさらに感度よく測定できた。
【0137】
また、本実施例においては、印加電流、陽極酸化に用いる電解液種類、電解液温度などの陽極酸化による細孔の条件を制御することで、細孔17の表面積を制御し、表面増強ラマン散乱光強度を所望通りに制御することが可能である。
【0138】
また、Au以外の金属膜18として、Ptの金属を用いることも可能である。また、先述したCuPc以外の測定する試料としては、チオール基、アミノ基などの官能基を有する表面増強ラマン活性もしくは表面増強赤外活性のある有機物を測定することも可能である。また、赤外分光分析においても同様に、透過法などにより表面増強赤外を測定することが可能である。また、実施例2、3、4にも本実施例と同様に、無電解めっきを適用することが可能である。
【0139】
(実施例6)
本実施例においては、ラマン分光分析を一度行った後の振動分光分析用治具を再び用いて数回ラマン分光分析を行った例について説明する(図8)。
【0140】
実施例1でラマン分光分析を行った振動分光分析用治具(図8(a))を1MのNaOH水溶液に数分間浸すことでエッチング処理を行った。FE−SEM(電界放出走査型電子顕微鏡)を用いて、それを形態観察した結果、30nmだった細孔17径は50nmになっていた。そして、その細孔17側面の各々の金属微粒子状層15断面に新しいAu微粒子14が露出していることが分かった(図8(b))。
【0141】
この分光分析用治具を、再び0.1mmolの銅フタロシアニン(CuPc)水溶液中に1分間浸し、続いて純水の超音波洗浄を行った。また、FE−SEMを用いて形態観察したが、そのAu微粒子14上にはCuPcはみられなかった。さらに、この基板のラマン分光分析を行った結果、CuPcのSERSが得られており、実施例1に比べて、ラマン散乱強度は10%に増大していた。
【0142】
(結果6)
以上よりわかるが、細孔17径が増加したことで、露出したAu微粒子14の数が実施例1に比べて増えたので、表面増強ラマン散乱光強度をさらに感度よく測定できた。
【0143】
また、この数回のエッチング処理の繰り返しで細孔17径を増加させていくので、露出する金属微粒子14の増加によって、表面増強ラマン散乱光強度をさらに感度よく測定でき、それは振動分光分析用治具の長寿命化にもつながる。また、このことは、実施例2、3、4にも適用可能であり、したがって長寿命化することが可能となっている。
【図面の簡単な説明】
【0144】
【図1】本発明における表面増強振動分光分析用治具を示す概略図:(a)はベースがAl層またはSi層を用いた交互積層形成薄膜である場合、(b)はベースが金属微粒子の分散したSi層である場合、(c)はベースが((Al、Si、Ge)混合層を用いた交互積層形成薄膜である場合である。
【図2】本発明における交互積層形成薄膜の製造方法の一実施態様を示す工程図(Al層またはSi層の場合):(a)は下地膜の形成工程図、(b)は交互積層形成薄膜の形成工程図、(c)は細孔形成の工程図である。
【図3】本発明における金属微粒子が分散したベースの製造方法の一実施態様を示す工程図:(a)は下地膜の形成工程図、(b)は交互積層形成薄膜の形成工程図、(c)は熱処理の工程図、(d)は細孔形成の工程図である。
【図4】本発明における交互積層形成薄膜の製造方法の一実施態様を示す工程図((Al、Si、Ge)混合層の場合):(a)は下地膜の形成工程図、(b)は交互積層形成薄膜の形成工程図、(c)は細孔形成の工程図である。
【図5】(Al、Si、Ge)混合層の概略図:(a)は平面図、(b)はAA’断面図である。
【図6】(Al、Si、Ge)混合層の形成工程を示す概略図(スパッタリング法の場合)である。
【図7】無電解めっき法による金膜の形成工程図:(a)めっき前、(b)めっき後である。
【図8】エッチング処理による細孔径の拡大化の工程図:(a)エッチング前、(b)エッチング後である。
【符号の説明】
【0145】
11 基板
12 下地膜
13 ベース
14 金属微粒子
15 金属微粒子状層
16 Al層、Si層、または(Al、Si、Ge)混合層
17 細孔
18 金属膜
21 交互積層形成薄膜
41 柱状部材部分
42 マトリックス部分
51 (Al、Si、Ge)混合層
61 Arプラズマ
62 SiまたはGeチップ
63 Alターゲット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面増強振動分光分析用の治具であって、
基板と、該基板上に形成された下地膜と、該下地膜上に形成されたベースとを備え、
前記ベースは、基板に対して垂直方向に形成された複数の細孔を有し、かつ、
前記細孔の側面および前記ベースの表面には、金属微粒子が露出していることを特徴とする表面増強振動分光分析用治具。
【請求項2】
前記金属微粒子は、露出した部分が金属膜で覆われていることを特徴とする請求項1に記載の表面増強振動分光分析用治具。
【請求項3】
前記ベースは、金属微粒子を有する層とAl層とを交互に積層した膜、金属微粒子を有する層とSi層とを交互に積層した膜、金属微粒子が分散されたSi層、または、SiとGeの少なくとも1つとAlとを含む混合層と金属微粒子を有する層とを交互に積層した膜、のいずれかであることを特徴とする請求項1または2に記載の表面増強振動分光分析用治具。
【請求項4】
前記細孔の直径は1nm以上1μm以下であり、その中心間距離は3nm以上1.5μm以下であり、およびそのアスペクト比は2以上であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の表面増強振動分光分析用治具。
【請求項5】
前記金属微粒子を有する層、および前記Al層または前記Si層の膜厚は、1nm以上100nm以下であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の表面増強振動分光分析用治具。
【請求項6】
前記金属微粒子の材料は、Au、Ag、Pd、Pt、またはMSi1−x(0≦X≦1、M:Au、Ag、Pd、Ptのいずれか)のいずれかであることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の表面増強振動分光分析用治具。
【請求項7】
前記金属微粒子の粒径は1nm以上30nm以下であり、金属微粒子間の隙間距離は0nm以上100nm以下であることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の表面増強振動分光分析用治具。
【請求項8】
前記金属膜は、Au、Ptのいずれかであることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の表面増強振動分光分析用治具。
【請求項9】
前記金属膜の膜厚は、1nm以上30nm以下であることを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の表面増強振動分光分析用治具。
【請求項10】
前記下地膜の材料は、Au、Pd、Ptのいずれかであることを特徴とする請求項1から9のいずれかに記載の表面増強振動分光分析用治具。
【請求項11】
表面増強振動分光分析用治具の製造方法であって、
基板上に下地膜を形成する工程と、
該下地膜上にベースとして、金属微粒子を有する膜を形成する工程と、
該ベースに該基板に対して垂直方向に複数の細孔を形成する工程と、
を少なくとも有し、該膜を形成する工程および該細孔を形成する工程によって、該細孔の側面および該ベースの表面に金属微粒子が露出することを特徴とする表面増強振動分光分析用治具の製造方法。
【請求項12】
前記金属微粒子を有する膜を形成する工程の後に、熱処理により該金属微粒子を分散させる工程を有することを特徴とする請求項11に記載の表面増強振動分光分析用治具の製造方法。
【請求項13】
前記ベースは、金属微粒子を有する層とAl層とを交互に積層した膜、金属微粒子を有する層とSi層とを交互に積層した膜、またはSiとGeの少なくとも1つとAlとを含む混合層と金属微粒子を有する層とを交互に積層した膜、のいずれかであることを特徴とする請求項11または12に記載の表面増強振動分光分析用治具の製造方法。
【請求項14】
前記ベースに細孔を形成する工程には、陽極酸化またはエッチングが用いられることを特徴とする請求項11から13のいずれかに記載の表面増強振動分光分析用治具の製造方法。
【請求項15】
前記細孔を形成する工程の後に、前記金属微粒子を覆うように金属膜を形成する工程を有することを特徴とする請求項11から14のいずれかに記載の表面増強振動分光分析用治具の製造方法。
【請求項16】
前記金属膜を形成する工程には、無電解めっき法が用いられることを特徴とする請求項15に記載の表面増強振動分光分析用治具の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−281529(P2008−281529A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−128268(P2007−128268)
【出願日】平成19年5月14日(2007.5.14)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】