説明

表面増感コヒーレント反ストークスラマン分光を用いた少数の分子を検出する方法および装置

【解決手段】ここで開示されているデバイスおよび方法は、表面増感コヒーレント反ストークスラマン分光法を用いて、核酸のような複数の被分析物を高分解能および高速応答時間で、検出する段階、同定する段階、および/または、定量化する段階に関する。本発明のある実施形態によれば、核酸のような被分析物210の少量の分子試料が、マイクロ流体チャネル、マイクロチャネル、またはナノチャネル185およびラマン活性な表面を含む試料セル175を通り、表面増感コヒーレント反ストークスラマン分光法(SECARS)により検出される。本発明の他の実施形態は、被分析物の検出の装置に関する。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連する出願のクロスリファレンス)本願は、2003年10月17日に出願された米国特許出願第10/688680号の一部継続であり、その開示内容が参照されて本願に組み込まれる。
【0002】
本発明の実施形態は、分光法により分子を分析する分野に関する。特に、本発明は、一般的に生物学、生化学、および化学実験に用いられる複数の方法および複数のデバイスに関し、そして特に、方法、装置、および複数の核酸のような複数のシーケンシング分子の検出、同定用の表面増感コヒーレント反ストークスラマン分光法(SECARS)を利用した装置の使用に関する。
【背景技術】
【0003】
生物製剤およびその他の複数の試料からの少数の分子の感度がよく正確な検出、および/または同定は、医療の診断、病理学、毒物学、環境サンプリング、化学分析、科学捜査、および他の多数の分野での幅広い使用の可能性を有するとらえどころのない目標であることが分かっている。ラマン分光法、および/または表面プラズモン共鳴を用いることによりこの目標を達成することが試みられている。光が注目している媒体を透過すると、その元の方向から若干量そらされる。この現象は散乱として知られている。散乱した光のいくらかは、a)媒体による光の吸収、b)媒体中の電子の高エネルギー準位への励起、およびc)それに続いて起こる異なる波長での媒体からの光の放射によって、元の励起光から周波数が変動する。周波数の差が注目している媒体の分子振動のエネルギーレベルと一致した場合は、このプロセスは、ラマン散乱として知られている。光散乱の強度は、分子の構造と同様に、試料中の分子の濃度に依存しているものの、ラマン放射スペクトルの波長は、化学組成および試料中の光を吸収した分子の構造に特有のものである。ラマン散乱の放射光の波長が励起光の波長よりも長くなる場合は、これはストークスラマン散乱として知られている。ラマン散乱の放射光の波長が励起光の波長よりも短くなる場合は、これは、反ストークスラマン散乱として知られている。
【0004】
ラマン相互作用が励起光ビームと試料中のここの分子との間で発生する確率は非常に低く、このため、感度が低く、ラマン分析の適用性は限定されたものとなる。"光クロスセクション"とは、特定の分子または粒子によって誘起されることにより発生する光学の事象の確率を示す用語である。フォトンが分子に衝突すると、幾何学的に分子上に衝突したいくつかのフォトンだけが、分子と光学的に相互作用する。クロスセクションは、幾何学的クロスセクションの倍数および光学の事象の確率である。光学の断面は、吸収クロスセクション(フォトン吸収プロセスの)、レイリー散乱クロスセクションまたは散乱クロスセクション(レイリー散乱の)、およびラマン散乱クロスセクション(ラマン散乱の)を含む。
【0005】
少数の分子の光学的検出および分光法のためには、1分子あたり10−16cmよりも大きいクロスセクションが望ましく、1分子あたり10−21cmよりも大きいクロスセクションが必須である。典型的な自発的ラマン散乱技術は、1分子あたり約10−30cmのクロスセクションを有しており、そのため、単独分子の検出には適していない。
【0006】
銀の粗面近傍の分子が、最大6桁から7桁、ラマン散乱を増感させることが観察されている。この表面増感ラマン分光(SERS)の効果は、金属表面が金属中の伝導電子の集合的なカップリングに起因する電磁波の発生に応答して、著しい光学共鳴を示す、プラズモン共鳴の現象と関連している。本質的に、金属表面は、電磁波の局所的な効果を高めるためのミニチュアの"アンテナ"として機能できる。そのような表面の近傍に位置する分子は、ラマン分光分析においてより大きな感度を示す。
【0007】
SERSは通常、分光分析デバイスの試料セルの一部としての基板に付着させた金属の粗面フィルムを使用すること、または、試料セルに検査液の一部として金属ナノ粒子若しくは複数のコロイドを導入することのいずれかにより達成される。そして、試料は、これらの金属表面に付けられる。SERS技術は、特定の分子(例えば、色素分子、アデニン、ヘモグロビン、およびチロシン)だけにではあるが、最大1014から1016倍の強い強度の増感を与えることができ、それは、単一分子の検出のレンジに近い(Kneippら、Physical Review E, 57(6):R6281−R6284(1998)、NieらのScience、275:1102(1997)を参照)。しかしながら、他のほとんどの分子に対しては、SERS技術を用いた増感は、単一分子の検出に必要な範囲よりもはるかに低い、10から10の範囲内に未だ、留まっている。
【0008】
コヒーレント反ストークスラマン散乱(CARS)は、中心周波数がそれぞれωpおよびωsであるポンプビームまたはストークスビームと組み合わせたラマン光を使用する4つの波の混合のプロセスである。1つの分子の中でωp―ωsが、与えられた振動モードと共鳴する場合、強度が増感されたCARS信号は、2ωp―ωsの反ストークス周波数での散乱光の結果から観察される。自然のラマン散乱とは異なり、CARSは高い感度であり、1つのフォトンの励起により誘起されたバックグラウンドの蛍光の存在下で検出されうる。(Chengら、J.Phys.Chem. 105、1277(2001)を参照。)CARS技術は、単一分子の光学的な検出および分光のためにはまだ非常に小さいが、一分子あたり約10−25cmの範囲において複数のクロスセクションをもたらす、約10の係数で強度増感を与える。
【0009】
理論上は、仮にCARSおよびSERS技術が組み合わされて使用された場合には、最大1分子あたり10−21から10−16cmのクロスセクションが、複数の分子の広い範囲で確実に観察されうる。この範囲での増感は、単一分子の検出の範囲内で、確実に観察されうる。SERSとCARS、表面増感コヒーレント反ストークスラマン分光法(以下、SECARSとする)の組み合わせは、金属薄膜を用いたSERS技術で明らかにされている(Chenら、Phys.Rev.Lett. 43、946(1979);Y.R.Shen、The Principles of Non−Linear Optics、John Willey&Sons、1984、p.492を参照)。しかしながら、この金属薄膜技術を用いて観察された増感は、単一分子の検出を可能とする範囲内ではない。一般的に、SERS金属フィルム技術を用いた増感は、金属粒子の懸濁液を用いた技術で観察された増感ほど大きくはない。さらに、10から1018またはそれ以上の係数でSECARS増感を達成するためには、特定の状態が、分子の各タイプに精密に調整されなければならない。
【0010】
少数の分子の検出のためにこれらの増感を実現することの問題の一部は、少数の分子を検出する能力が、それがバックグラウンドのノイズの問題と同程度の感度の問題である点にある。仮に、溶液中の特定の蛍光分子が検出された場合には、溶媒と関連付けられたバックグラウンドから間違いなく区別可能である。バックグラウンドの寄与を最小化するために、可能な限り最も少ない量の試料が用いられなければならない。これは、分子からの信号は試料の量から独立しているものの、バックグラウンドが試料の量に比例しているという事実のためである。それゆえに、少量の分子のラマン検出は、10pLかそれ以下の量の試料を使用してよい。少数の分子を検出するためのSECARSを用いた複数のデバイスおよびラマン分光法を用いた分子からの信号の増感を増やすための方法のために、必要性は存在している。
【図面の簡単な説明】
【0011】
本発明をよりよく理解するために、いくつかの実施例が単に一例として、そして、添付図面に関して説明される。
【0012】
【図1】本発明の一実施形態に係る、複数のビームを集中させ、また、試料からのラマン散乱光を集めるための様々な光学素子を使用する、同期化されたSECARSシステムの図である。
【0013】
【図2】図1の試料セルの範囲を示す。図面のスケールがそのようなものであるため、ラマン活性な表面は、本発明の増感を可能とするために被被分析物から数十ナノメータの範囲内に配置される。
【0014】
【図3】100ナノモル濃度におけるデオキシアデノシン一リン酸(dAMP)のSECARSスペクトルである。これは、dAMPの約1000分子に対応する。Aは、730cm−1(785nmのポンプレーザで742nmに対応している)におけるdAMPのSECARS信号を表しており、約70000カウント発生している。Bは、785nmにおけるポンプレーザの信号を表している。Cは、833nmにおけるストークレーザの信号を表している。複数のスペクトルは、100ミリ秒で測定された。ポンプおよびストークスレーザは、およそ2ピコ秒でパルス発振される。ポンプレーザの平均出力は、約500mWであり、ストークスレーザの平均出力は約300mWであった。
【0015】
【図4】同一の100ナノモル濃度におけるデオキシアデノシン一リン酸(dAMP)の比較SERSスペクトルである。Aは、730cm−1(785nmのポンプレーザで833nmに対応している)におけるdAMPのSERS信号を表しており、約1500カウントだけ発生している。スペクトルは、100ミリ秒で測定された。ポンプレーザは、連続発振モードで稼動した。ポンプレーザの平均出力は、約500mWであり、ストークスレーザは用いなかった。
【0016】
【図5】100ミリモル濃度におけるデオキシアデノシン一リン酸(dAMP)の比較CARSスペクトルである。Aは、730cm−1(785nmのポンプレーザで742nmに対応している)におけるdAMPのCARS信号を表しており、約2500カウントだけ発生している。Bは、785nmにおけるポンプレーザの信号を示す。Cは、833nmにおけるストークレーザの信号を示す。スペクトルは、また、100ミリ秒で測定された。ポンプおよびストークスレーザは、約2ピコ秒でパルス発振された。ポンプレーザの平均出力は、約500mWであり、ストークスレーザの平均出力は、約300mWであった。100ナノモル濃度のdAMPのCARSスペクトルは、100ミリ秒でのスペクトル測定時間においては取得できなかった。
【0017】
【図6】90pM濃度におけるdAMPおよびdGMPからのSECARS信号である。
【0018】
【図7】90ng/μL濃度におけるアンジオテンシンIペプチドからのSECARS信号である。
【発明の開示】
【0019】
(定義)本願の開示の目的のために、以下の複数の用語が以下の複数の意味で用いられる。定義されていない複数の用語は、それらの平易で普通の意味にしたがって用いられる。
【0020】
本願では、"1つ"は、項目の1つまたは1つ以上を意味してよい。
【0021】
本願では、"約"は、数値データの10パーセント以内を意味する。例えば、"約100"は、90から110の間の値を意味してよい。
【0022】
本願では、1つの項目の"多数"は、当該項目の2つまたはそれ以上を意味する。
【0023】
本願では、"マイクロチャネル"は、1マイクロメータ(μm)と999μmとの間の断面直径を有するどのようなチャネルであってもよく、さらに、"ナノチャネル"は、1ナノメータ(nm)と999nmとの間の断面直径を有するどのようなチャネルであってもよい本発明のある実施形態においては、"ナノチャネルまたはマイクロチャネル"は、直径が約999μmかそれ以下であってよい。"マイクロ流体チャネル"は、マイクロ流体フローにより液体が移動するチャネルである。チャネル直径、マイクロ流体フローの流体粘度および流速の効果は、当該技術分野で周知である。
【0024】
本願では、"操作可能に連結"とは、装置および/またはシステムの2つ以上のユニット間の機能的な相互作用があることを意味する。例えば、仮に、核酸のような単一分子被被分析物210が試料セル175、ナノチャネル、マイクロチャネル、あるいはマイクロ流体チャネル185を通過するときに、単一分子被被分析物210を検出すべく、ラマン検出器195が配置されている場合に、ラマン検出器195は、フロースルーセル(試料セル)175、ナノチャネル、マイクロチャネル、あるいはマイクロ流体チャネル185に"操作可能に連結"されてよい。また、例えば、仮にコンピュータ200が、ラマン検出器によって検出されたラマン信号上のデータを取得し、処理し、格納し、および/または送信することができる場合に、ラマン検出器195は、コンピュータ200に"操作可能に連結"されてよい。
【0025】
本願では、"被被分析物"210という用語は、検出および/または同定されるいかなる原子、化学物質、分子、化合物、組成物、あるいは注目している会合体をも意味する。
被被分析物の例には、これらには限られないが、アミノ酸、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、アミノ酸、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、糖タンパク質、リポタンパク質、ヌクレオシド、ヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、核酸、糖、炭水化物、オリゴ糖、多糖類、脂肪酸、脂質、ホルモン、代謝物質、サイトカイン、ケモカイン、レセプター、神経伝達物質、抗原、アレルゲン、抗体、基質、代謝物質、共同因子、阻害物質、薬物、調合薬、栄養物、プリオン、毒素、毒、爆発物、殺虫剤、化学兵器、生体に有害な薬剤、放射性元素、ビタミン、複素環芳香族化合物、発癌物質、突然変異誘発物質、麻酔剤、アンフェタミン、バルビツール酸塩、幻覚剤、廃棄物、および/または汚染物質を含む。本発明のある実施形態によれば、1またはそれ以上の被分析物は、以下に述べるように、1またはそれ以上のラマン標識によって標識化されてもよい。
【0026】
"標識"という用語は、標識が付加された被分析物210を同定するために用いられうるいかなる原子、分子、化合物、または組成物を言及するために用いられる。本発明の様々な実施形態において、そのような付加は、共有あるいは非共有結合のいずれであってもよい。制限されることのない例においては、標識は、蛍光性、リン光性、発光性、エレクトロルミネセント、化学発光、またはいかなるバルキーな基であってもよく、ラマンあるいは他の分光装置の特性を示してもよい。
【0027】
"ラマン標識"は、以下のものに限られないが、複数の合成分子、複数の色素、フィコエリトリンのような複数の天然顔料、C60、バッキーボール、およびカーボンナノチューブのような複数の有機ナノ構造体、金または銀のナノ粒子またはナノプリズムのような金属ナノ構造体、および量子ドットなどのナノスケールの複数の半導体構造を含む、いかなる有機または無機分子、原子、錯体、またはラマン信号を検出可能に形成された構造体であってもよい。ラマン標識の多数の例が以下に開示されている。当業者は、そのような例に限られず、そして、"ラマン標識"は、ラマン分光によって検出できる、当業者に知られているいかなる有機または無機原子、分子、化合物、または構造を包含することを理解するであろう。
【0028】
本願では、"ナノ結晶シリコン"という用語は、典型的には、1から100ナノメータ(nm)の範囲の大きさ内の、ナノメータスケールのシリコン結晶を含むシリコンを言及する。"ポーラスシリコン"220は、エッチングされるか、または多孔質構造を形成するために別の方法で処理されたシリコンを言及する。
【0029】
(表面増感コヒーレント反ストークスラマン分光法)本発明の一実施形態は、表面増感コヒーレント反ストークスラマン分光法(以下、SECARSとする)、表面増感ラマン分光法(以下、SERSとする)とコヒーレント反ストークスラマン散乱(以下、CARSとする)の組み合わせを用いることによって少数の分子を検出する装置および方法に関する。本発明の装置および方法は、検出される、および/または同定される複数の分子とラマン活性表面との間の界面によって定義される標的領域での、異なる複数のラマン波長のストークス光およびポンプ光の双方が開始することを含む。少数の分子は、約10よりも少ない複数の分子、好ましくは約10よりも少ない複数の分子、好ましくは約10よりも少ない複数の分子、好ましくは約10よりも少ない複数の分子、好ましくは約10よりも少ない複数の分子、好ましくは約10よりも少ない複数の分子、好ましくは約10よりも少ない複数の分子、好ましくは5よりも少ない複数の分子、好ましくは1分子、およびこれらの間の範囲の分子の数を含む。一実施形態においては、ラマン活性表面は、1つあるいはそれ以上のラマン検出ユニット195に操作可能に連結される。
【0030】
図1を参照すると、一実施形態において、すなわち、ソース120および125のそれぞれからの電磁気的放射の波動130および135である、2つの入力励起ビームを、デバイスは提供する。これらのソースは、各々、一般的な光源、適切なフィルター、およびコリメータを備えてよく、あるいは好ましくは、これらのソースは、2つのダイオードレーザ、固体レーザ、イオンレーザ、あるいは同種のものによって提供されてよい。これらのレーザは、いかなる特定の大きさであってもよいが、マイクロデバイスの一部として本発明の方法が実施されることが望ましいので、マイクロレーザの使用が好ましい。適切なソースは、以下のものには限られないが、SpectraPhysics社のモデル166の514.5nmのラインアルゴンイオンレーザ、647.1nmのクリプトンイオンレーザ(Innova70、Coherent)、337nmの窒素レーザ(Laser Science Inc.)、325nmのヘリウム−カドミウムレーザ(Liconox、米国特許第6174677号を参照)、Nd:YLFレーザ、および/または様々な種類のイオンレーザおよび/または色素レーザ、垂直キャビティ面発光レーザ(VCSEL)(Honeywell,Richardson,TX、またはSchott Southbridge,MA)、ナノワイヤレーザのような他の複数のマイクロレーザ(Huangら、Science 292、1897(2001)参照)、532nm波長の倍波長Nd:YAGレーザ、あるいは、700nmと1000nmとの間のいかなる波長での倍波長Ti:サファイアレーザ370、あるいは発光ダイオードを含む。
【0031】
表面増感CARSの信号強度は、入力ポンプレーザの強度に依存する。しかしながら、界面上の最大のレーザ強度は、しばしば光学的なダメージにより制限される。この理由のために、標準的な連続波のレーザビームよりも高いピーク出力を有する、より短いポンプパルスレーザビームを用いるのが好ましい。連続波(CW)レーザは、一般的に、高ピーク出力レベルにおいてマイクロワットからワットまでの出力を供給する一方で、パルスレーザは、同一の平均出力において稼動された場合に、高ピーク出力レベルにおいてキロワットからギガワットまでの出力を供給する。これにより、光学ダメージの閾値以下のままでより強い信号が生じる。パルス幅は、約100ナノ秒から約80フェムト秒の範囲にわたる。ピーク出力およびビームのスペクトルライン幅にもよるが、典型的には、約100フェムト秒から約7ピコ秒のパルス幅で、最もよい結果が生じる。
【0032】
パルスレーザビームあるいはCWレーザビームが用いられてもよい。また、レーザが用いられた場合には、入力ビームは、複数のビームのオーバラップを保証するために同期化されなければならない。これは、適切なレーザコントローラ、あるいは他の種類の複数の同期化電子機器によって達成されてよい。商業的に利用可能な使用されてよい電子機器の複数の例は、以下に限られないが、Lok-to-Clockデバイス(Spectra-Physics)、あるいはSynchroLockデバイス(Coherent)を含む。これらの複数の電子機器は、図には示していない、追加の複数のフォトダイオードおよびそれらの操作のための複数のビームスプリッタを必要としてもよい。他の実施形態では、1つのシングルレーザビームを入力し、異なる複数の波長に可変な2つの同期化されたビームを生成する光学パラメータ式発振器(OPO)を用いる。
【0033】
ポンプ波の波ベクトルは、表面位相整合状態を満たすように、調整することができる。
【数1】

ここで、k1は、第1のビームの波ベクトルであり、k2は第2のビームの波ベクトルであり、ka(ωa)は、反ストークス信号の波ベクトルであり、そして、k'(ωa)は、表面EM波の波ベクトルである。
【0034】
光のこれら2つのビームを試料に到達させるためには、いくつかの方法が存在する。図1に示したように、SECARSデバイスの一つの実施例では、標準的な全分野における光学機器、またはミラー145と150との連続、およびダイクロイックミラー155、および/または入射ビーム130および135を試料セル中に導くプリズム140のような共焦点の光学機器のいずれかを使用してよい。ガラスあるいは水晶のような透明な物質で作成された(直角あるいは等辺の)半円筒形、あるいは対物レンズ160を通して、複数のビームは集束されてよい。そのような複数の集束レンズの例には、以下のものには限られないが、6X対物レンズ(Newport、モデルL6X)あるいは100X対物レンズ(Nikon、Epi 100x 色消し)のような、Nikon社、Zeiss社、Olympus社、およびNewport社の複数の顕微鏡対物レンズが含まれる。集束レンズ160は、ラマン活性表面および被分析物を含む領域上への複数の励起ビームを集束させるため、また、試料からのラマン散乱光を集めるために用いられる。
【0035】
これらの複数のビームは、複数のビームの特性を変化させ、または、偏光子、スリット、追加の複数のレンズ、ホログラフィックビームスプリッタ、および/または、ノッチフィルタ、モノクロメータ、ダイクロイックフィルタ、バンドパスフィルタ、複数のミラー、複数のバリアフィルタ、および複数の共焦点ピンホール、その他同種のもののようにバックグラウンドの信号を減少させる他の複数のデバイスを、任意に透過してよい。例えば、ホログラフィックビームスプリッタ(Kaiser Optical Systems,Inc. モデルHB647-26N18)は、励起ビーム135および放出されたラマン信号に、直角の配置を生じさせる。ホログラフィックノッチフィルタ(Kaiser Optical Systems,Inc.)は、レイリー散乱放射を減少させるために用いてもよい。同様に、励起ビーム130および135は、例えばバンドパスフィルタ(Corion)を用いて、スペクトル的に浄化されてもよい。
【0036】
複数の集束レンズは、図2AおよびBにおいてより細部が示されている、光学的に透過な試料セル175内へ光165を集束する。図2AおよびBに示しているように、通常210として示す検出されるべき被分析物と、より詳細については以下に述べているラマン活性表面との間の界面を含んでいる領域内に光は集束される。
【0037】
本発明のある実施形態は、様々な形態のラマン表面の使用に関する。例えば、ラマン活性表面は、以下のものに限られないが、1つ以上のナノ結晶の層、および/または金属あるいは他の導電性物質でコーティングされたポーラスシリコンのような、金属表面220および230、あるいは270および280や、金属ナノ粒子のような粒子240や、金属ナノ粒子会合体のような粒子の会合体250や、金属ナノ粒子コロイドのような粒子のコロイド(イオン化合物260を持つコロイド240)や、あるいはこれらの組み合わせを含む。
【0038】
被分析物とラマン活性表面との間の界面から放出される放射190の反ストークスビームは、試料セルの外へ透過して、スペクトル分離のためのモノクロメータに操作可能に連結されている共焦点または標準的な光学機器によって集束される、位相がそろったビームとして伝播する。ビームはラマン検出ユニット195により検出される。反ストークスビームの高い指向性の出力は、強い傾向性のバックグラウンドが存在していたとしても、その検出を可能とする。
【0039】
(ラマン検出ユニット)ラマン検出ユニットは、特に重要ではなく、特定の被分析物の少数の分子を検出するための十分な感度およびスピードを有する、どのような一般的な光学検出器であってもよい。冷却された電荷撮像素子(CCD)アレイの感度に相当する感度で十分である。検出スピードは、ミリ秒からナノ秒の範囲内である。ラマン検出ユニットは、大きなあるいは小さな領域の検出器、複数の検出器のアレイ、あるいは同種のものを備える。そのような複数の検出器の例には、複数のフォトダイオード、複数のアバランシェフォトダイオード、複数のCCDアレイ、複数の相補型MOS(CMOS)アレイ、複数の増強CCD、および同種のものを含む。CCD、CMOS、および複数のアバランシェフォトダイオードが好ましい。差動検出器195は、反ストークス波あるいはビーム190を横切る位置の光強度の変動を示す電気的な出力信号を生成する。強い吸収を決定するSECARS効果は、検査されている試料中の物質によって決定される特定の角度、または強度で発生する。これらの複数の電気的な信号は、関連回路(図示しない)を通して情報処理および制御システムまたはコンピュータを含む適切なデータ分析装置(200で総称される)へサンプリング/カウント、およびデジタル化されて入力される。
【0040】
ラマン検出ユニット195の複数の例は、以下のものに限られないが、シングルフォトンカウントモデル(RCA Model C31034 あるいはBurle Indus. モデルC310342、米国特許第5306403号参照)として操作される、Spex Model 1403 ヒ化ガリウム製の光電子増倍管を有するダブルグレーティング分光光度計、赤色増感を強化する電荷結合素子(RE−ICCD)検出システム(Princeton Instruments)を備えるISA HR−320分光器、フーリエ変換分光器(Michaelson社の複数の干渉計に基づく)、複数の電荷注入デバイス、アバランシェフォトダイオードを含む複数のフォトダイオードアレイ、複数のInGaAs検出器、電子結合CCD、強化したCCD、および/または複数のフォトトランジスタアレイを含む。
【0041】
(情報処理およびシステムまたはコンピュータの制御、およびデータ分析)本発明のある実施形態において、装置は、情報処理システムあるいはコンピュータ200を備えていてよい。開示された実施形態は、使用される情報処理システムまたはコンピュータ200の種類によって制限されることはない。典型的な情報処理システムあるいはコンピュータは、情報を通信するためのバスおよび情報を処理するプロセッサを備える。本発明の一実施形態によれば、プロセッサは、限定されることはないが、インテル社(Santa Clara、CA)から入手可能なペンティアム(登録商標)IIファミリー、ペンティアム(登録商標)IIIファミリー、およびペンティアム(登録商標)4ファミリーを含む一群のペンティアム(登録商標)ファミリーから選択される。本発明の他の実施形態によれば、プロセッサは、セレロン(登録商標)、アイテニアム(登録商標)、あるいはペンティアムゼオン(登録商標)プロセッサ(インテル社、Santa Clara、CA)であってもよい。本発明の他の様々な実施形態によれば、プロセッサは、インテル(登録商標)IA−32、またはインテル(登録商標)IA−64アーキテクチャのようなインテル(登録商標)アーキテクチャをベースにしていてもよい。また、他の複数のプロセッサが用いられてもよい。
【0042】
情報処理および制御システム、またはコンピュータ200は、ランダムアクセスメモリ(RAM)あるいは他の動的記憶装置デバイス、リードオンリーメモリ(ROM)あるいは他の静的記憶装置、および磁気ディスクまたは光学ディスクおよびその対応するドライブのような、データ記憶デバイスをさらに備えてよい。情報処理および制御システム、またはコンピュータ200は、メモリ、表示デバイス(例えば、ブラウン管または液晶表示装置(LCD))、英数字入力デバイス(例えば、キーボード)、カーソル制御デバイス(例えば、マウス、トラックボール、または複数のカーソル指示キー)、および通信デバイス(例えば、モデム、ネットワークインターフェースカード、すなわち、イーサネット(登録商標)、トークンリング、または他の種類のネットワークと接続するために用いられるインターフェースデバイス)のような、当該技術分野で周知であるいかなる周辺機器デバイスをさらに備えてもよい。
【0043】
検出ユニット195からのデータは、プロセッサによって処理され、メインメモリのようなメモリにデータは格納される。また、複数の標準的な被分析物の複数の放出プロファイル上のデータも、メインメモリまたはROM中に格納されている。プロセッサは、試料中の被分析物の型を同定するためにラマン活性表面と被分析物の複数の分子210の試料からの放出スペクトルを比較する。例えば、情報処理システムは、バックグラウンドの信号の除去、およびヌクレオチドの同定の一部としてオーバラップしている複数の信号が検出された場合の"ベースコーリング"の決定のような、複数の手順を実行する。別に備えられているコンピュータ200が、所定の実施のために用いられることが好ましい。それゆえに、システムの機器構成は、本発明の異なる実施形態において様々である。
【0044】
本願において開示されている複数の方法は、プログラムされたプロセッサの制御下において実行されてよいが、本発明の他の実施形態において複数の手順は、例えば、複数のフィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ(FPGA)、TTLロジック、あるいは、複数の特定用途向け集積回路(ASIC)のような、いかなるプログラマブルあるいはハードコートされたロジックにより、完全にまたは部分的に実行されてよい。さらに、開示されている複数の方法は、プログラムされた一般的な目的のコンピュータ200の複数の構成要素、および/または、複数のカスタムハードウエアの構成要素のいかなる組み合わせで実行されてもよい。
【0045】
データ収集の手順に続いて、データは、典型的には、データ分析手段に報告される。分析手順を容易にするために、検出ユニット195によって取得されたデータは、典型的には、上述したようなデジタルコンピュータを用いて解析される。典型的には、コンピュータは、収集したデータの解析および報告と同様に、検出ユニット195からのデータの受け取りと格納のために適切にプログラムされている。
【0046】
本発明のある実施形態によれば、複数のカスタムデザインされたソフトウエアパッケージが、検出ユニット195から取得されたデータの解析に用いられる。本発明の他の実施形態によれば、データ解析は、情報処理システム、あるいはコンピュータ200、および公的に利用可能な複数のソフトウエアパッケージを用いて実行される。DNAシーケンス分析のための利用可能なソフトウエアの限定されない例は、PRISM DNA シーケンシング分析ソフトウエア(Applied Biosystems、Foster City、CA)、Sequencherパッケージ(Gene Codes、Ann Arbor、MI)、およびウエブサイトwww.nbif.org/links/1.4.1.phpでのNational Biotechnology Information Facilityを通して利用可能な様々なソフトウエアパッケージを含む。
【0047】
(ラマン活性な表面)(A.ナノ粒子、会合体、およびコロイド)本発明のある実施形態によれば、ラマン活性表面は、単独で用いられるか、または、被分析物210の少数の分子から得られるラマン信号をさらに増感させるために、230を有する金属でコーティングされたポーラスシリコン基板220のような、他のラマン活性な表面と組み合わされた、金属ナノ粒子240によって提供される。本発明の様々な実施形態によれば、SECARS信号を供給するために利用できるいかなるナノ粒子が用いられてよいが、複数のナノ粒子は、銀、金、白金、銅、アルミニウム、あるいは他の複数の導電性材料である。銀あるいは金で作られた複数の粒子が特に好ましい。
【0048】
複数の粒子またはコロイド表面は、様々な形状および大きさであってよい。本発明の様々な実施形態によれば、直径が1ナノメータ(nm)と2マイクロメータ(μm)との間の複数のナノ粒子が用いられる。本発明の他の実施形態によれば、直径が、2nmから1μm、5nmから500nm、10nmから200nm、20nmから100nm、30nmから80nm、40nmから70nm、または、50nmから60nmの複数のナノ粒子が用いられる。本発明のある実施形態によれば、平均直径が10から50nm、50から100nm、あるいは約100nmの複数のナノ粒子が用いられる。仮に、金属でコーティングされたポーラスシリコン基板のような他のラマン活性表面と組み合わせて用いる場合には、複数のナノ粒子の大きさは、用いられる他の表面に依存する。例えば、230を有する金属コーティングされたポーラスシリコン220の複数のポアの直径は、複数のナノ粒子が複数のポアの中に収まるように選択される。
【0049】
複数のナノ粒子は、いかなる通常のまたは不規則な形状の複数のナノ粒子であってもよいが、略球形、円筒形、三角形、棒状、刃状、複数の面を有する形状、プリズム、あるいは、尖った形状を有する。複数のナノ粒子を生成する複数の方法が知られている(米国特許第6054495号、米国特許第6127120号、米国特許第6149868号、LeeおよびMeisel、J.Phys.Chem.86、3391-3395、1982参照。)。複数のナノプリズムは、Jinらによる"Photoinduced conversion of silver nanospheres to nanoprisms"、Science 294、1901、2001に説明されている。また、複数のナノ粒子は、商業的供給源から取得できる(例えば、Nanoprobes Inc. Yaphank、NY、Polysciences, Inc. Warrington、PA)。
【0050】
(コロイドおよび会合体)本発明のある実施形態によれば、ナノ粒子は、単独のナノ粒子240であり、および/または、ナノ粒子のランダムな複数のコロイド(イオン性化合物260を有する240)である。複数のナノ粒子の複数のコロイドは、NaClのような複数のイオン性化合物260を、複数のナノ粒子240に加えることなどの標準的な手法により合成される(LeeおよびMeisel、J.Phys.Chem.86、3391(1982)、J.Hulteenら、"Nanosphere Lithography:A materials general fabrication process for periodic particle array surfaces"、J.Vac.Sci.Technol.A、13、1553-1558(1995)参照。)。
【0051】
会合体は、2つの密接に接近しているナノ粒子の間の領域からのナノ粒子の欠乏に起因する誘引ポテンシャルが、非吸着ナノ粒子の添加により効果的に生じる結果である、"ディプレションメカニズム"によって反応が誘起される(J.Chem.Phys.110(4)、2280(1999)参照。)。
【0052】
本発明の他の実施形態のよれば、複数のナノ粒子240は、ダイマー、トリマー、テトラマー、あるいは他の会合体のように、複数のナノ粒子250の特定の会合体を形成するために架橋されている。SECARS検出のための"複数のホットスポット"の形成は、特定の会合体250あるいは複数のナノ粒子の複数のコロイド(イオン性化合物260を有する240)に関連している。他の複数の実施形態においては、複数のナノ粒子240の同種の集団、および/または、複数の会合体250または複数のコロイド(イオン性化合物260を有する240)を用いるが、本発明のある実施形態では、複数の会合体あるいは異なる大きさの複数のコロイドの異種の混合を用いる。本発明のある実施形態においては、複数のナノ粒子250(ダイマー、トリマー等)の選択された数を含む複数の会合体は、ショ糖密度勾配溶液の超遠心分離法のような知られた複数の技術によって濃縮、あるいは浄化される。本発明の様々な実施形態によれば、大きさが、約100、200、300、400、500、600、700、800、900から100nmの大きさかそれ以上の、複数のナノ粒子会合体250または複数のコロイド(イオン性化合物を有する240)が用いられる。本発明の特定の実施形態によれば、複数のナノ粒子会合体250または複数のコロイド(イオン性化合物260を有する240)は、約100nmと約200nmとの間の大きさである。
【0053】
複数のナノ粒子を架橋して複数の会合体を形成する複数の方法もまた当該技術分野で周知である(Feldheim、"Assemly of metal nanoparticle arrays using molecular bridges"、The Electrochemical Society Interface、Fall、2001、pp.22-25参照。)。例えば、複数の金のナノ粒子が、例えば、末端にチオールあるいはスルフヒドリル基を有する二官能基を有するリンカー化合物を用いて架橋される(Feldheim、2001)。本発明のいくつかの実施形態によれば、1つのリンカー化合物が、両末端をチオール基で誘導化される。複数の金のナノ粒子との反応において、リンカーは、リンカーの長さによって分離されるナノ粒子ダイマーを形成しうる。本発明の他の実施形態によれば、3、4あるいはそれ以上のチオール基を有する複数のリンカーが、同時に複数のナノ粒子に付加する際に使用される(Feldheim、2001)。複数のナノ粒子の過剰の使用は、複数のリンカー化合物が複数の架橋を形成し、複数のナノ粒子が沈殿することを抑制する。また、複数の銀ナノ粒子の会合体は、当該技術分野で周知である標準的な複数の合成手法により形成される。
【0054】
本発明の他の実施形態によれば、複数のナノ粒子240、複数の会合体250、あるいは複数のコロイド(イオン性化合物260を有する240)は、被分析物210の分子試料に共有結合している。本発明の他の実施形態によれば、被分析物210の分子試料は、複数のナノ粒子240に直接結合している、あるいは、複数のナノ粒子会合体250に共有結合または非共有結合で複数のリンカー化合物に結合している。
【0055】
また、被分析物210の分子を複数のナノ粒子、または他のラマン活性な表面に結合させるために、複数のナノ粒子を架橋するために知られている様々な手法が用いられる。被分析物210の分子を結合するために用いられる複数のリンカー化合物は、約0.05、0.1、0.2、0.5、0.75、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、27、30、35、40、45、50、55、60、65、60、80、90から100nmあるいはより長い長さまでの範囲のほとんどいかなる長さであってもよいことが意図されている。本発明のある実施形態によれば、異なる長さの複数のリンカーを用いる。
【0056】
本発明の開示されている一実施形態によれば、被分析物210の分子は、分子−ナノ粒子の錯体を形成するためにチャネル185を下るにつれて、複数のナノ粒子240に結合する。本発明のある実施形態によれば、架橋反応が発生するために可能な時間の長さは、非常に限られる。そのような複数の実施形態においては、エポキシド基、アジド基、アリルアジド基、トリアジン基、またはジアゾ基のような、速い反応速度を有する高反応性の架橋基を利用する。本発明のある実施形態によれば、複数の架橋基は、レーザのような強い光にさらされることにより光活性化されてもよい。例えば、ジアゾまたはアジド化合物の光活性化により、それぞれ、高反応性のカルベンおよびナイトレン部分を有する構造となる。本発明のある実施形態によれば、複数の反応性基は、複数のナノ粒子240がそれぞれ架橋するよりも、被分析物210へ複数のナノ粒子240が結合することだけができるように、選択される。被分析物210へ結合できる反応性架橋基の選択および準備は当該技術分野で周知である。本発明の他の実施形態によれば、被分析物210それ自身が、例えば、複数の金のナノ粒子240に結合できるスルフヒドリル基で共有結合的に修飾されている。
【0057】
本発明の他の実施形態によれば、ナノ粒子または他のラマン活性な表面は、アミノシラン、3−グリサイドキシプロピルトリメトキシシラン(GOP)、あるいはアミノプロピルトリメトキシシラン(APTS)などの、誘導体化シランによってコーティングされている。複数のシランの複数の末端基にある反応活性泣きは、複数のナノ粒子240の架橋した会合体の形成に用いられる。用いられる複数のリンカー化合物が、約0.05、0.1、0.2、0.5、0.75、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、27、30、35、40、45、50、55、60、65、70、80、90から100nmあるいはより長い長さの、ほとんどいかなる長さであってもよいことが意図される。本発明のある実施形態によれば、異なる長さの複数のリンカーが用いられてもよい。また、そのような複数の誘導体化シランは、複数の標準的な手法を用いて被分析物210に共有結合される。
【0058】
本発明のさらに他の実施形態によれば、複数のナノ粒子は、複数リンカー化合物に結合される前に様々な反応活性基によって修飾される。修飾された複数のナノ粒子は、Nanoprobes Inc.(Yaphank、NY)から入手可能なNanogold(登録商標)ナノ粒子のように、商業的に利用可能である。Nanogold(登録商標)ナノ粒子は、1つのナノ粒子あたりに、単一または複数のいずれかのマレイミド、アミン、または他の複数の基が結合した状態で得られる。また、Nanogold(登録商標)ナノ粒子は、電場中で複数のナノ粒子の操作を容易にするために、正または負のいずれかに帯電した形態で利用可能である。そのように修飾された複数のナノ粒子は、ダイマー、トリマー、またはその他の複数のナノ粒子の会合体を提供する、様々な公知の複数のリンカー化合物に結合される。
【0059】
複数のナノ粒子250の小さな会合体の生成という結果、および/または、溶液中で複数の被分析物が沈殿しないという結果となる限り、用いられるリンカー化合物の型は限られない。本発明のいくつかの実施形態によれば、リンカー基は、フェニルアセチレンポリマーを含む(Feldheim、2001)。もう一つの方法としては、複数のリンカー基は、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニルピロリドン、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリアクリルアミド、ポリエチレン、またはその他の公知のポリマーを含む。使用される複数のリンカー化合物はポリマーに限られず、シラン、アルカン、誘導体化シラン、または誘導体化アルカンの他の複数の型をもまた含む。本発明の特定の実施形態によれば、アルカンやシランのような比較的単純な化学構造の複数のリンカー化合物が、被分析物によって放出されるラマン信号との相互作用を避けるために用いられる。
【0060】
他の方法では、用いられる複数のリンカー化合物は、チオール基のような、単一の反応活性基を含む。単一の結合したリンカー化合物を含むナノ粒子は、例えば、2つの異なるナノ粒子に結合した複数のリンカー化合物の非共有的な相互作用による、自己会合してダイマーとなる。例えば、複数のリンカー化合物は複数のアルカンチオールを含む。チオール基が金のナノ粒子へ結合した後に続いて、アルカン基は、疎水的相互作用によって結合される傾向がある。本発明の他の実施形態によれば、複数のリンカー化合物は、各末端基に異なる機能の複数の基を含む。例えば、リンカー化合物は、1つの末端に金のナノ粒子への結合を可能とするスルフヒドリル基を含み、他の末端に他の複数のリンカー化合物への結合を可能とする異なる反応性基を含む。そのような複数の反応活性基の多くは当該技術分野で周知であり、現在の複数の方法および複数の装置で使用される。
【0061】
本発明の他の実施形態によれば、被分析物210は、ナノ粒子240の表面の近傍に結合されているか、あるいはそうでなければ、ナノ粒子240の極めて近接(約0.2と1.0nmとの間)に存在する。本願では、"近傍に結合された"とは、ラマン活性な表面に結合(共有結合、または非共有結合のいずれか)、または吸着している被分析物の分子試料を意味する。当業者は、ナノ粒子240への被分析物210の分子試料の共有結合が、SECARSによる表面増感ラマン信号を生成するためには必要でないことを理解するであろう。
【0062】
(b.金属コーティングおよび非金属コーティングされたナノ結晶、および/または、ポーラスシリコン)ナノ結晶シリコンのような、粗面あるいは広い表面積の表面の生成のための様々な方法が当業者に公知である(例えば、Petrova-Kochら、"Rapid-thermal-oxidized porous silicon-the superior photoluminescent Si"、Appl.Phys.Lett.61、943、1992;Edelbergら、"Visible luminescence from nanocrystalline silicon films produced by plasma enhanced chemical vapor deposition"、Appl.Phys.Lett.68、1415-1417、1996;Schoenfeldら、"Formation of Si quantum dots in nanocrystalline silicon"、Proc.7th Int.Conf.on Modulated Semiconductor Structures、Madorid、pp.605-608、1995;Zhaoら、"Nanocrystalline Si:a material constructed by Si quantum dots"、1st Int.Conf. on Low Dimensional Structures and Devices、Singapore、pp.467-471、1995;Lutzenら、"Structural characteristics of ultrathin nanocrystalline silicon films formed by annealing amorphous silicon"、J.Vac.Sci.Technology B 16、2802-05、1998;米国特許第5770022号、5994164号、6268041号、6294442号、6300193号)。本願で開示した複数の手法および複数の装置は、粗面あるいは広い表面積の表面の生成の方法に限られるものではなく、公知のいかなる方法も用いられることが意図されている。
【0063】
例えば、ナノ結晶シリコンを生成する複数の方法は、以下のものに限られることはないが、シリコンリッチな酸化物へのシリコン(Si)注入およびアニーリング、金属核生成触媒を用いた固相結晶化、化学気相蒸着法、PECVD(プラズマ誘導化学気相蒸着法)、気相蒸発法、気相熱分解、気相光熱分解、電気化学エッチング、シランおよびポリシランのプラズマ分解、高圧液相還元酸化反応、アモルファスシリコン層の急速アニーリング、LPCVD(低圧化学気相蒸着法)を用いたアモルファスシリコン層の蒸着の後にRTA(急速加熱アニール)サイクルを施す方法、シリコンアノードおよびシリコンのレーザアブレーションを用いたプラズマ電気アーク蒸着(米国特許第5770022号、5994164号、6268041号、6294442号、6300193号)を含む。プロセスに依存して、1から100nmあるいはより大きな大きさのいかなる大きさのSi結晶が、チップ上の薄膜、個別の層、および/または会合した複数の結晶として形成されてよい。本発明のある実施形態によれば、基板220に結合したナノ結晶シリコンを含む薄膜が用いられてよい。
【0064】
複数の実施形態は、出発物質の組成に制限されないが、本発明の他の実施形態によれば、他の複数の物質が利用され、唯一の必要条件としては、図2に例示したように、ラマン反応性金属でコーティングされることができる基板220あるいは270を形成することができなければならない物質であることが意図される。
【0065】
本発明のある実施形態によれば、シリコン結晶および/またはポーラスシリコンのポアサイズの大きさおよび/または形は、例えば、230を有する金属でコーティングされたポーラスシリコン220のプラズモン共鳴周波数を最適化するために、予め定められた制限の範囲内で選択される(米国特許第6344272号参照。)。また、プラズモン共鳴周波数は、ポーラスシリコン220をコーティングしている金属層230の厚さを制御することにより調整される(米国特許第6344272号参照)。ナノスケールのシリコン結晶の大きさを制御する方法も知られている(例えば、米国特許第5994164号および6294442号参照)。
【0066】
(1.ポーラスシリコン)上記で説明したように、粗面を有する基板220は、純粋なシリコンに限られず、また、窒化ケイ素、ゲルマニウム、および/またはチップ加工において知られている他の複数の材料を含んでいてよい。また、金属核生成触媒、および/またはドーパントのような、他の微量の物質が存在していてもよい。唯一の必要条件は、図2に例示したように、基板材料が、ラマン反応性金属、または他の導電性あるいは半導体材料230または280でコーティングされることのできる基板220または270を形成できなければならないということである。ポーラスシリコンは、最大783m/cmの大きな表面積を有し、表面増感ラマン分光技術のための非常に大きな表面積を提供する。
【0067】
当該技術分野では公知のように、ポーラスシリコン220は、電気化学セル中の希フッ化水素酸(HF)によるシリコン基板のエッチングにより生成される。ある場合においては、シリコンは、低電流密度でHF中において初めにエッチングされる。初期の複数のポアが形成された後に、シリコンは、電気化学セルから取り除かれ、電気化学セル中で形成された複数のポアを広げるために非常に希釈されたHF中でエッチングされる。また、シリコン基板の組成は、シリコンがドープされているか否か、ドーパントの種類、およびドーピングの度合に依存して、ポアサイズに影響する。シリコンポアサイズに対するドーピングの影響は当該技術分野で周知である。大きな生体分子の検出および/または同定を含む本発明の複数の実施形態においては、約2nmから100あるいは200nmのポアサイズが選択される。また、ポーラスシリコン中の複数のポアの配向についても、本発明の特定の実施形態においては選択される。例えば、1、1、1または1、1、0の結晶構造は、結晶軸に沿って対角線上には移行する複数のポアを有する一方で、エッチングされた1、0、0結晶構造は、結晶に対して垂直方向に配向する複数のポアを有する。ポアの配向の結晶構造の影響は、当該技術分野において周知である。また、結晶組成および気孔率は、ラマン信号を増感し、バックグラウンドのノイズを減少させるために、ポーラスシリコンの追加的な複数の特性を変化させることにより調整される。ポーラスシリコンの追加的な複数の特性は、当該技術分野において周知である(例えば、Cullisら、J.Appl.Phys.82、909−965(1997)、Collinsら、Physics Today、50、24-31(1997)参照)。
【0068】
本発明の様々な実施形態によれば、ポリメチルメタクリレートのような公知のレジスト化合物によりシリコン基板の一部分をコーティングすることにより、HFエッチングから保護される。HFエッチングするためのシリコン基板の選択した部分を露光するために役立つフォトリソグラフィーのようなリソグラフィー技術は、当該技術分野において周知である。選択エッチングが、ラマン分光法に用いられるポーラスSiチャンバの大きさおよび形状を制御するのに役立つ。本発明のある実施形態によれば、直径が約1μm(マイクロメータ)のポーラスシリコンチャンバーが用いられる。本発明の他の実施形態によれば、約1μmの幅のポーラスシリコンの溝またはチャネルが用いられる。ポーラスシリコンチャンバーの大きさは限定されるものではなく、いかなる大きさまたは形状のポーラスシリコンチャンバーが使用されてもよいことが意図される。例えば、1μmのチャンバの大きさは、大きさが1μmの励起レーザによって役に立つ。
【0069】
上記で開示された典型的な方法は、ポーラスシリコン基板220を生成するために限定されず、当該技術分野において周知のいかなる方法も使用されることが意図される。ポーラスシリコン基板220を作成するための複数の方法の限定されない例においては、シリコン基板またはメッシュの陽極エッチング、電気めっき、およびシリコン/酸素含有材料の蒸着の後に、制御されたアニーリングを施す方法を含む(例えば、Canham、"Silicon quantum wire array fabrication by electrochemical and chemical dissolution of wafers",Appl.Phys.Lett.57、1046、1990;米国特許第5561304号、6153489号、6171945号、6322895号、6358613号、6358815号、6359276号参照。)。本発明の様々な実施形態によれば、ポーラスシリコン層220は、バルクのシリコン、水晶、ガラス、および/またはプラスチックのような、1つ以上の補助層に結合している。ある実施形態によれば、窒化ケイ素のようなエッチストップ層がエッチングの深さを制御するために用いられる。
【0070】
本発明の他の特定の実施形態によれば、金属コーティング230の前または後のいずれかにおいて、ポーラスシリコン基板220への複数の付加的な修飾が意図される。例えば、ポーラスシリコン基板220をエッチングした後に、当該技術分野において周知の複数の手法を用いて、酸化ケイ素、および/または二酸化ケイ素に酸化してよい。例えば、酸化は、ポーラスシリコン基板220の機械的強度および安定性を向上させるために用いられる。他の例としては、230を有する金属でコーティングされたシリコン基板220が、穴を残したまま、あるいは、付加的なラマン活性材料のような他の複数の材料で満たされた金属の外殻を残して、シリコン材料を除去するためにさらにエッチングされてもよい。
【0071】
(2.シリコン基板の金属コーティング)シリコン基板220あるいは270は、金、銀、白金、銅、あるいはアルミニウムのような当業者に周知のいかなる方法によって、ラマン活性な金属でコーティングされる。限定的でない典型的な手法は、電気めっき、カソードエレクトロマイクグレーション、金属の蒸着およびスパッタ、メッキの触媒のための種結晶の使用(すなわち、金メッキのための銅/ニッケルシードの使用)、イオン注入、拡散、あるいはシリコン基板220あるいは270上への金属薄膜のメッキに関する当業者に周知の他のいかなる方法を含む(例えば、LopezおよびFauchet、"Erbium emission form porous silicon one‐dimensional photonic band gap structures"、Appl.Phys.Lett.、77、3704-6(2000);米国特許第5561304号、6171945号、6359276号参照。)。他の限定的でない金属コーティングは、無電解メッキを含む(例えば、Goleら、"Patterned metallization of porous silicon from electroless solution for direct electrical contact"、J.Electorchem.Soc.147、3785(2000)、参照。)。金属層の組成および/または厚さは、230を有する金属でコーティングされたシリコン220または280を有する270のプラズモン共鳴周波数を最適化するために制御される。
【0072】
本発明の他の実施形態によれば、被分析物の検出に用いられるラマン活性な表面は、金属コーティング、ナノ結晶、金属コーティングされたナノ結晶の固定化された複数のコロイドと結合したポーラスシリコン基板、複数のポーラスシリコンナノ粒子のような、異なる複数の型のラマン活性な表面の組み合わせを含む。そのような構成は、溶液中の被分析物のための比較的狭いチャネルを有する、ラマン活性な金属の非常に広い表面積を有する。大きな複数のたんぱく質や複数の核酸のような、大きな複数の分析分子には好ましくはないものの、単一ヌクレオチドやアミノ酸のような、小さな分子のよりよい感度および検出を提供する。
【0073】
(流路、チャネル、およびマイクロマシン技術(MEMS))図1に例示したように、本発明のある実施形態によれば、被分析物210の分子試料は、マイクロ流体チャネル、ナノチャネル、あるいはマイクロチャネル185、および/または試料セル175のような、流路またはチャネルを通って移動して、装置の検出ユニット195のそばを通り過ぎる。そのような複数の実施形態によれば、ラマン活性な表面および複数の被分析物は、より大きな装置、および/またはシステムに組み込まれる。ある実施形態によれば、ラマン活性な複数の表面は、マイクロマシンシステム(MEMS)に組み込まれる。
【0074】
MEMSは、機械的な複数の要素、複数のセンサ、複数のアクチュエータ、および電子機器を含む、統合されたシステムである。これらの構成要素の全ては、シリコンベースの、あるいは、同等の基板を含む、通常のチップ上に施される公知の微細加工技術によって製造される(例えば、Voldmanら、Ann.Rev.Biomed.Eng.1、401-425(1999))。MEMSの複数のセンサ構成要素は、機械的、熱的、生物学的、化学的、光学的、および/または磁気的な現象を測定するために用いられる。電子機器は、複数のセンサからの情報を処理して、複数のポンプ、複数のバルブ、複数のヒーター、複数の冷却器、複数のフィルター等のよう複数のアクチュエータ構成要素を制御するので、その結果、MEMSの機能を制御する。
【0075】
(a.集積チップの製造)他の例としては、本発明のある実施形態によれば、230を有する金属でコーティングされたポーラスシリコン層220または280を有する非ポーラス層270は、チップ製造方法として知られている公知の複数の方法を用いて、MEMS半導体チップの試料セルの統合部分として、組み込まれている。他の複数の実施形態によれば、230チャンバを有する金属でコーティングされたポーラスシリコン220は、シリコン基板から切り出されて、チップ、および/または他のデバイスに組み込まれる。
【0076】
さらに、MEMSの電子的な複数の構成要素は、複数の集積回路(IC)プロセス(例えば、CMOS、バイポーラ、またはBICMOSプロセス)を用いて製造されてよい。コンピュータチップ製造において知られている複数のフォトリソグラフィーおよびエッチング技術を用いてパターン化される。微細な機械的な複数の構成要素が、シリコン基板の複数の部分を選択エッチングする、あるいは、機械的、および/または電気機械の構成要素を形成するための新しい複数の構造層を加える、適当な"マイクロマシン"プロセス使用して製造される。MEMS加工の基本的な複数の手法は、基板上に材料の薄膜を蒸着する方法、フォトリソグラフィーイメージにより膜の上にパターンマスクを付ける方法、または他の公知の複数のリソグラフィー手法、および複数の膜の選択エッチング手法を含む。薄膜は、数ナノメータから100マイクロメータの範囲の厚さを有する。使用される複数の蒸着方法は、化学気相蒸着法(CVD)、電気めっき、エピタキシー、および熱酸化のような化学的な工程、並びに物理蒸着法(PVD)および鋳造のような物理的な工程を含む。複数のナノ電気機械システムの製造のための複数の手法は、本発明のある実施形態に使用されている(例えば、Craighead、Science、290、1532-36(2000)参照。)。
【0077】
(b.マイクロ流体チャネルおよびマイクロチャネル)本発明のいくつかの実施形態によれば、ラマン活性な表面は、複数のマイクロ流体チャネル、複数のナノチャネル、および/または複数のマイクロチャネルのような、様々な流体で満たされた区画に結合されている。これらおよび装置の他の構成要素は、例えば、半導体チップ、および/またはマイクロキャピラリーまたはマイクロ流体チップで知られているチップの形状で、単一のユニットとして形成される。他の例としては、ラマン結成な表面は、シリコン基板から取り除かれ、装置の他の複数の構成要素に結合される。開示された装置には、シリコン、二酸化シリコン、窒化ケイ素、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、プラスチック、ガラス、水晶等を含む、そのようなチップに用いられるものとして知られているいかなる材料を用いてもよい。
【0078】
本発明のある実施形態によれば、チャネル185は、約3nmと約1μmとの間の直径を有することが意図されている。本発明の特定の実施形態によれば、チャネル185の直径は、励起レーザビームよりもわずかに小さな大きさに選択される。複数のチップのバッチ製造のための複数の手法は、コンピュータチップ製造、および/またはマイクロキャピラリーチップ製造の分野において周知である。そのような複数のチップは、フォトリソグラフィーおよびエッチング、レーザアブレーション、射出成型、鋳造、分子ビームエピタキシー、ディップペンナノリソグラフィー、CVD製造、電子ビームまたは集束イオンビーム技術、若しくはインプリンティング技術のような、当該技術分野において周知のいかなる手法によっても製造されてよい限定されない複数の例においては、流動性を有し、プラスチックやガラスのような、光学的に透明な材料を用いた従来の成型する手法、二酸化ケイ素のフォトリソグラフィーおよびドライエッチングする手法、二酸化ケイ素基板上のアルミニウム製マスクのパターンへポリメチルメタクリレートのレジストを用いた、電子ビームリソグラフィーの後に、反応性イオンエッチングを施す手法、本発明のある実施形態に用いられるナノ電気機械システムの製造のための複数の手法を含む(例えば、Craighead、Science、290、1532-36、2000、参照。)。微細加工された様々な形態の複数のチップが、Caliper Technologies Inc.(Mountain View、CA)およびACLARA BioSciences Inc.(Mountain View、CA)のような供給源から、商業的に利用可能である。
【0079】
たんぱく質、ペプチド、核酸、ヌクレオチド、および同種のもののような、様々な単一生体分子にさらされる流体が満たされた複数の区画のために、例えば、疎水性から親水性の表面に変換するため、および/または表面への複数の分子の吸着を減少させるために、そのような複数の分子にさらされる表面はコーティングにより修飾されていてよい。ガラス、シリコン、水晶、および/または、PDMSのような通常の複数のチップ材料の表面修飾は、当該技術分野において周知である(例えば、米国特許第6263286号参照)。そのような複数の修飾は、以下のものに限られないが、商業的に利用可能な複数のキャピラリーコーティング(Supelco、Bellafonte、PA)、ポリエチレンオキサイド、あるいはアクリルアミドのような、様々な複数の官能基が結合した複数のシラン、または当該技術分野において周知の他のいかなるコーティングを含んでよい。
【0080】
被分析物210の検出を容易にするために、本発明の一実施形態によれば、励起状態における電磁波および使用される放射の周波数に透明な複数の材料を備える。ガラス、シリコン、水晶、あるいはラマン分光に用いられる周波数の範囲で一般的に透明な他のいかなる材料も、用いられてよい。いくつかの実施形態によれば、ナノチャネルまたはマイクロチャネル185は、ローディングチャンバー180の製造に用いられる同一の材料から、射出成型または他の公知の複数の手法を用いて、製造される。当該部品が導入するいかなる屈折も無視または補正できるので、試料セルにとっては、いかなる配置、形状、および大きさも可能である。レンズ160から出てきた集束した複数のビーム中の全ての光線が、光学的に透過な試料セル175をすばやく伝播し、そのためにいかなる屈折も受けないような配置が好ましい。光学的に透過な試料セル175およびチャネル185は、Keirら、1503-1508(2002)において開示されているような、マイクロ流体デバイスの一部である。
【0081】
また、複数のマイクロキャピラリー電気泳動デバイスを含む、マイクロ流体デバイスの微細加工については、例えば、Jacobsenら(Anal.Biochem、209、278-283(1994))、Effenhauserら(Anal.Chem.66,2949-2953、(1994))、Harrisonら(Science、261、895-897(1993))、および米国特許第5904824号に述べられている。
【0082】
(c.ナノチャネル)複数のナノチャネル185のような、より小さな直径を有する複数のチャネルは、以下のものに限定されることはないが、直系を狭めるためにマイクロチャネル185の内側をコーティングする手法、あるいは、ナノリソグラフィーを用いる手法、集束電子ビーム、収束イオンビーム、または集束原子レーザを用いる手法を含む、公知の複数の手法により作成される。
【0083】
複数のナノチャネル185の製造は、ナノスケールの製造に関する技術分野において周知のいかなる技術を用いてもよい。以下の述べる複数の手法は、単に、典型的な例に過ぎない。例えば、複数のナノチャネル185は、高スループット電子ビームリソグラフィーシステムを用いて作成される(例えば、NOVA Scientific,Inc.Sturbridge、MAから商業的に利用可能である)。電子ビームリソグラフィーは、複数のシリコンチップ上に5nmと同等くらいの外観を描画するのに使用される。複数のシリコン基板上にコーティングされたポリメチルメタクリレートのような、複数の感光性レジストは、マスクを使用せずにパターニングされる。電子ビームアレイは、電子ビームの安定性を向上させるために、フィールドエミッタクラスターとマイクロチャネルアンプリファイアとを結びつけるので、低電流において操作可能となる。本発明のいくつかの実施形態によれば、SoftMask(登録商標)コンピュータ制御システムが、シリコンまたは他のチップ上のナノスケールの外観の電子ビームリソグラフィーを制御するために用いられてよい。
【0084】
本発明の他の実施形態によれば、複数のナノチャネル185は、集束原子レーザを用いて作成される(例えば、Blochら、"Optics with an atom laser beam"、123-321(2001)参照。)。標準的な複数のレーザまたは集束電子ビームと同様に、集束原子レーザがリソグラフィーに用いられる。そのような複数の手法では、ミクロンスケール、またはナノスケールの構造さえもチップ上に作成することができる。本発明の他の実施形態によれば、複数のナノチャネル103を形成するために、ディップペンナノリソグラフィーが用いられてよい(例えば、Ivanisevicら、"Dip−Pen Nanolithography on Semiconductor Surfaces"、J.Am.Chem.Soc.123,7887-7889(2001)参照。)。ディップペンナノリソグラフィーは、シリコンチップのような表面に複数の分子を堆積させるのに、原子間力顕微鏡を使用する。15nmと同じぐらいの大きさの外観を、10nmの空間分解能で形成される。複数のナノスケールチャネル185は、一般的な複数のフォトリソグラフィー技術とディップペンナノリソグラフィーとの組み合わせを用いることにより形成される。例えば、レジストの層中のミクロンスケールの線は、標準的なフォトリソグラフィーを用いて形成される。ディップペンナノリソグラフィーを用いると、レジストの複数の端にレジスト化合物をさらに堆積させることにより線の幅(および、エッチング後のチャネル185の対応する直径)を狭める。より細い線のエッチングの後に、ナノスケールのチャネル185が形成される。他の例としては、原子間力顕微鏡が、ナノメータスケールの外観の形成のためにフォトレジストの除去のために用いられる。
【0085】
本発明の他の実施形態においては、チップ上の複数のナノチャネル185を作るために、イオンビームリソグラフィが用いられる(例えば、Siegel、"Ion Beam Lithography"、VLSI Electronics、Microstructure Science、Vol.16、Einspruch and Watts eds.Academic Press、New York、1987参照。)。精密に集束されたイオンビームは、マスクを使用せずにレジストの層上に複数のナノチャネル185のような、複数の外観を直接的に描画するために用いられる。他の例としては、幅のあるイオンビームが100nmの大きさと同程度の外観を形成するためのマスクと組み合わせて用いられる。例えば、フッ化水素酸を用いた化学エッチングが、レジストによって保護されていない暴露されたシリコンを除去するために用いられる。当業者は、上記で開示した複数の手法に限定されず、当該技術分野において周知のいかなる方法を用いても複数のナノチャネル185が形成されることを理解するであろう。
【0086】
そのような複数の手法は、開示された複数の手法および複数の装置に容易に適用される。本発明のいくつかの実施形態においては、当該技術分野において公知の複数の手法を用いて、マイクロキャピラリーは、ローディングチャンバー180の製造に用いられたのと同一の材料から製造される。
【0087】
本発明の一実施形態によれば、例えば、シリコンベースの材料のような適切な不活性材料で作られた、小型のマイクロ流体デバイスは、分析される複数の分子の試料のような試料中にインプリントされ、そして、ラマン活性な表面が試料セルの中に製造されるか、あるいは、試料セル中へ供給される。ガラス窓は、集束レーザスポットの視界を提供し、また、空気と反応しやすい分子にとっては重要なことだが、周囲の環境から溶液を密封する。セルは、不活性ガスで溶液をパージするポートを有していてよい。さらに、被分析物を含む試料が分析され、ラマン活性な複数のナノ粒子、複数の会合体、および複数のコロイドがセルに流入し、互いに接触すること、およびセルから流出することを可能とする大きさの複数のポートを有していてもよく、そのために、試料が分析の間中、継続的に補充されることを可能とし、最大の感度が保証される。
【0088】
(d.流路)本発明のある実施形態によれば、複数のナノ粒子240は、マイクロ流体工学、ナノ流体工学、流体力学における力、または電気浸透のような、当該技術分野において周知の手法を用いて、マイクロ流体チャネル、ナノチャネル、あるいは、マイクロチャネル185内へ操作される。例えば、本発明の一実施形態によれば、検出される被分析物210、および/または複数のナノ粒子、複数の会合体、または複数のコロイドは、ローディングチャンバー180を通って導入され、試料セル175、および/またはマイクロ流体チャネル、ナノチャネル、および/または複数のマイクロチャネル185を、溶媒のバルクのフローによって移動する。本発明の他の実施形態によれば、マイクロキャピラリー電気泳動が、被分析物210の試料セル175、および/またはマイクロ流体チャネル、ナノチャネル、および/またはマイクロチャネル185の輸送に用いられる。マイクロキャピラリー電気泳動は、一般的に、特定の分離媒体が充填されたまたはされていない、細いキャピラリーまたはチャネルの使用を含む。負に帯電した被分析物210のように、適切に帯電した複数の分子種の電気泳動は、例えば、検出ユニット側に正の電荷を印加し、反対側に負の電場を印加するように、電場を印加することに応答して発生する。電気泳動は、マイクロキャピラリーに同時に添加された複数の構成要素の混合物の大きさの分離のためにしばしば用いられるが、同程度の大きさの被分析物210の移送にも用いられうる。いくつかの被分析物210は他のものよりも大きく、そのためによりゆっくりと移動するために、試料セル175および/または流路185の長さ、および検出ユニット195を通過するのに対応する通過時間は、異なった種類の被分析物が検出されるかまたは同定される場合に、移動の差が被分析物210の順序で混同することを防止するために、最小限に維持される。他の例としては、マイクロキャピラリーを充填している分離媒体は、被分析物210の試料セル175および/または流路185への移動速度が類似しているか、または同一であるように選択される。マイクロキャピラリー電気泳動の複数の手法は、例えば、WoolleyおよびMathiesによって開示されている(Proc.Natl.Acad.Sci.USA、91、11348-352(1994)参照。)。
【0089】
本発明のいくつかの実施形態によれば、帯電した複数のリンカー化合物または帯電した複数のナノ粒子240を使用することは、電気勾配の使用を通して、複数のナノ粒子240の操作を容易にする。本発明の他の実施形態によれば、試料セル175および/または流路185は、グリセロール溶液のような比較的高い粘度を有する水溶液を含む。そのような高い粘度を有する溶液は、流速を減少させ、例えば、被分析物210のナノ粒子240への架橋反応のための可能な反応時間を増加させる役目を果たす。本発明の他の実施形態によれば、試料セル175および/または流路185は、限定はされないが、複数の有機溶媒を含む非水溶液を含んでいてよい。
【0090】
分析される被分析物の試料および金属粒子あるいは複数のコロイド表面は、様々な方法で試料セルに運ばれる。例えば、金属粒子またはコロイド表面は、分析される分子(または複数の分子)の試料へ運ばれ、分析される分子(または複数の分子)の試料は、金属粒子またはコロイド表面へ運ばれ、あるいは、分析される分子(または複数の分子)および金属粒子あるいはコロイド表面は、同時に運ばれる。図1および図2に示したように、分析される分子(または複数の分子)の試料、および/または金属粒子あるいはコロイド表面は、送り出す、あるいは他の方法で試料にチャネル185を通って試料セル中に流れ込むことを可能とするデバイスによって自動的に運ばれる。そのようなデバイスは、リニアな複数のマイクロ流体デバイスを含む。他の実施形態によれば、分析される分子(または複数の分子)の試料、および/または金属粒子、あるいはコロイド表面は、試料溶液の滴を、筒、ピペット、あるいは他のそのような手動でデバイスを運ぶものを用いて、直接試料セルに1滴落とすまたは複数の滴を落とすことにより手動で運ばれる。被分析物の分子試料およびラマン活性表面の供給の他の複数の手法もまた、可能である。被分析物の分子試料が、試料セル175を通って流れるにしたがって、分析の間中継続的に監視される反ストークスビーム190の出力は、部分的に変わる/変化する。
【0091】
これらの図から明確に分かるように、SECARデバイスの光学計装は、検出され、および/またはCARS型のデバイスによって同定される被分析物(SERS)に極めて近接したラマン活性な表面の導入のために供給される。リニアなマイクロ流体デバイスの一部として、複数のナノ粒子、複数の会合体、または複数のコロイドおよび分析される被分析物は、様々な方法で結合される。これらは、a)被分析物の分子試料を、ナノ粒子、会合体、またはコロイドに結合させ、または吸着させて、試料セルに流す段階と、b)被分析物の分子試料を、セルの内側に固定化されたナノ粒子、会合体、またはコロイドを有する試料セル中に流す段階と、c)ナノ粒子、会合体、またはコロイドおよび被分析物の分子試料を、流入したナノ粒子、会合体またはコロイドおよび流入した被分析物の分子試料を混合するための二股に分かれたマイクロ流体チャネルを有するデバイスを通して流し、被分析物の分子試料と複数のナノ粒子、複数の会合体、または複数のコロイドとが一度、完全に混合されたことの光学的測定を可能とする段階とを含む。
【0092】
異なるいくつかの実施形態が、被分析物のほんの少数の分子の試料の検出および同定を可能とする正確な放出の配向を達成するために、以下のものに限られないが、様々な波長、導波管、ポンプビームの光学カップリング/選択、および同様のものの使用を含む、マイクロスケールのこの技術の達成のために想定される。上述したように、ラマン光の2つの分離した波長は、標的被分析物の振動エネルギー準位と一致するように、そして、高い指向性を有した出力の配向に一致するように選ばれなければならない。例えば、735cm−1におけるアデニン環のブリージングモード(breathing mode)を調査するために、エネルギー準位の差が、735cm−1の振動エネルギー準位に一致するように、励起光は785nmに調整され、ストークス光は833nmに調整される。
【0093】
(ラマン標識)本発明のある実施形態は、ラマン検出ユニット195によって測定を容易にするために、被分析物210の1つ以上の分子に標識を結合することを含む。
ラマン分光法に用いられる複数の標識の限定されない例は、TRIT(テトラメチルローダミンイソチオール)、NBD(7−ニトロベンズ−2−オキサ−1,3−ジアゾール)、テキサス赤色染料、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、クレシルバイロレット、クレシルブルーバイオレット、ブリリアントクレシルブルー、パラアミノ安息香酸、エリトロシン、ビオチン、ジゴキシゲニン、5−カルボキシ−4'、5'−ジクロロ−2'、7'−ジメトキシフルオレセイン、5−カルボキシ−2'、4'、5'、7'−テトラクロロフルオレセイン、5−カルボキシフルオレセイン、5−カルボキシローダミン、6−カルボキシローダミン、6−カルボキシテトラメチルアミノフタロシアニン類、アゾメチン類、シアニン類、キサンチン類、スクシニルフルオレセイン類、アミノアクリジン、量子ドット、カーボンナノチューブ、フラーレン、イソシアン化物などの有機シアン化合物類、および同様の化合物を含む。これらおよび他の複数のラマン標識は、商業的供給源から取得でき(例えば、Molecular Probes、Eugene、OR;Sigma Aldrich Chemical Co.St.Louis、MO)、および/または、当該技術分野において周知の技術によって合成できる(Chem.Commun.724(2003)参照。)。
【0094】
複数の多環芳香族化合物は、当該技術分野において周知なように、複数のラマン標識として機能する。本発明の特定の実施形態において利用される他の複数の標識は、シアン化物、チオール、塩素、臭素、メチル、リン、および硫黄を含む。本発明のある実施形態によれば、カーボンナノチューブが複数のラマン標識として利用される。ラマン分光法における複数の標識の使用については公知である(例えば、米国特許第5306403号および6174677号参照)。当業者は、使用される複数のラマン標識が、区別ができる複数のラマンスペクトルを生成し、異なる種類の複数の被分析物210に明確に隣接するか、または結合していることを理解するであろう。
【0095】
複数の標識は被分析物210の分子(または複数の分子)に直接結合されているか、または複数の様々なリンカー化合物を介して結合されている。開示されている複数の手法において利用される複数の架橋試薬および複数のリンカー化合物は、さらに以下に詳述する。他の例としては、複数のラマン標識に共有結合している複数の分子は、標準的な商業的供給源から入手できる(例えば、Roche Molecular Biochemicals、Indianapolis、IN;Promega Corp. Madison、WI;Ambion,Inc. Austin、TX;Amersham Pharmacia Biotech、Piscataway、NJ)。複数のヌクレオチドのような、他の複数の分子と反応して共有結合を形成するように設計された複数の反応基を含む複数のラマン標識は、商業的に入手可能である(例えば、Molecular Probes、Eugene、OR)。複数の標識化された被分析物の合成のための複数の方法は公知である(例えば、米国特許第4962037号、5405747号、6136543号、6210896号参照)。
【0096】
本発明の増感については、2つの主要な理論があるが、いずれについても良く理解されておらず、本発明の記述については重要ではない。
【0097】
以上の記述から理解されるように、本発明のセンサの応答時間および本発明の手法は、差分検出デバイスの特性、およびその関連するサンプリングおよび複数の処理回路だけによって制限される。商業的に入手可能な統合プリアンプは、数ピコ秒の範囲の応答時間を提供する。これら超高速の応答時間は、検査または分析の間に生じる初期の過渡現象および他のシフトが監視されることを可能とし、また、急速な校正チェックがなされるのを許可する。本発明は、試料の関連構成物質と、金属、または半導体微粒子、若しくはコロイド表面との間で化学結合が達成されるのにかかる時間よりも短いという、とても短い時間スケールで望まれる反射特性を決定することを可能とする。
【0098】
本発明の高分解能、高速応答時間、およびコンパクトなデザインは、特定の被分析物の少数の分子の検出および同定に役立つ、多数の生物学、生化学、および化学的な応用分野において、本発明の複数の手法および複数の装置が利用されることを可能とする。これらの複数のデバイスおよび複数の手法の1つの特定の応用は、核酸のらせん構造から順次開裂して生じた、少数の標識化された、または標識化されていない複数のヌクレオチド分子の検出および同定によって、DNAやRNAのような核酸の単一らせん構造のようなポリマーの配列を決定することである。例えば、ヌクレオチドおよび複数の金属粒子の双方が、マイクロチャネル中の水/バッファ溶液を介して、検出のための微小試料セルに導入される。
【0099】
さらに特定の複数の特徴および本発明の実施を例示する、以下の複数の例が提供される。本発明の特定の複数の実施形態を示すこれらの複数の例は、本発明の範囲あるいは添付された特許請求の範囲に限定されるとは、解釈されない。
【0100】
(例1、SECARS設定1)本構成は、2つのレーザを備える。1つのレーザは、ポンプレーザであって、ポンプビームを放出し、他方のレーザは、ストークスレーザであって、ストークスビームを放出する。ポンプレーザは、76MHz周期で1ピコ秒のパルス幅の10nJのパルスを生成する。ストークスレーザは、76MHz周期で1ピコ秒のパルス幅の6nJのパルスを生成する。ポンプおよびストークスレーザは、2つのレーザによって生成される複数の出力パルスのタイミングを同期化する電子コントローラ(CoherentのSynchroLock AP)に接続されることにより、同期化して動作する。Coherent(Santa Clara、CA)から入手される2つのチタンサファイアレーザが、ポンプおよびストークスビームを供給する。2つのビームは、Chroma(Brattleboro、VT)によって製造された複数のダイクロイックミラーによって空間的に重ね合わせられる。複数のビームは、2つのビームのエネルギー準位の差が、標的の被分析物の所定の振動エネルギー準位に一致するように、特定の波長に調整される。複数のビームは、顕微鏡の対物レンズ(Zeiss)を介してマイクロ流体チャネルの検出窓領域上に伝達される。
【0101】
(反応チャンバ、マイクロ流体チャネル、およびマイクロチャネルの生成)Borofloatガラス基板(Precision Glass & Optics、Santa Ana、CA)が、濃縮HF(フッ化水素酸)中で短い時間プリエッチされ、プラズマ化学気相蒸着(PECVD)システム(PEII−A、Technics West、San Jose、CA)中でのアモルファスシリコン犠牲層の蒸着前に洗浄される。複数の基板は、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)が塗布され、フォトレジストがスピンコート(Shipley 1818、Marlborough、MA)され、そしてソフトベークされる。コンタクトマスクアライナー(Quintel Corp. San Jose、CA)が、1つ以上のマスクデザインを有したフォトレジストの露光に用いられ、露光後のフォトレジストは、Micropositデベロッパーコンセントレイト(Shipley)と水との混合物を用いて除去される。現像された複数の基板はハードベークされ、PECVD反応装置中でCF4(四フッ化炭素)プラズマを用いて露出したアモルファスシリコンが除去される。複数の基板は、反応チャンバ、およびマイクロ流体チャネル、またはマイクロチャネルを生成するために、濃縮HFを用いて化学エッチングされる。残留フォトレジストは剥離され、アモルファスシリコンは除去される。
【0102】
複数のナノチャネルは、この手法のバリエーションによって形成される。上述した標準的なフォトリソグラフィーは、集積チップのミクロンスケールの構造物の形成に利用される。レジスト薄膜がチップ上にコーティングされる。原子間力顕微鏡/操作トンネルプローブチップが、チップ表面から5から10nm幅のレジストの溝を除去するのに利用される。チップは希釈HFによって、チップ表面にナノメータスケールの溝を形成するために、短い時間エッチングされる。本願の限定的でない例においては、500nmと1μmとの間の直径を有するチャネルが生成される。
【0103】
複数のアクセスホールは、エッチングされた複数の基板にダイヤモンドドリルビット(Crystalite、Westerville、OH)で開けられる。完成したチップは、プログラムされた真空装置(Centurion VPM、J.M.Ney、Yucaipa、CA)の中で、補助的にエッチングされて穴が開けられた2つのプレートをお互いに熱的に結合させることによって準備される。2500ダルトンの分子量を遮断するナイロンフィルターが、エクソヌクレアーゼが反応チャンバからなくなることを防止するために反応チャンバとマイクロ流体チャネルとの間に挿入される。
【0104】
(ナノ粒子の生成)複数の銀のナノ粒子が、LeeおよびMeiselにしたがって生成される(J.Phys.Chem.86、3391-3395、1982参照。)。複数の金のナノ粒子が、Polyscience Inc.(Warrington、PA)またはNanoprobes Inc.(Yaphank、NY)から購入される。Polyscience Inc.から入手可能な複数の金のナノ粒子は、5、10、15、20、40および60nmの大きさであり、Nanoprobes Inc.からは、1.4nmの大きさである。本願の限定されない例においては、60nmの複数の金のナノ粒子が用いられる。
【0105】
複数の金のナノ粒子は、鎖長範囲が5nmから50nmの範囲のアルカンジチオールと反応する。複数のリンカー化合物は、複数の金のナノ粒子と反応するためのアルカンの両末端に、複数のチオール基を含む。複数のリンカー化合物へ過剰量のナノ粒子が用いられ、複数のリンカー化合物は、大きなナノ粒子の会合体の形成を避けるために、複数のナノ粒子にゆっくりと添加される。室温において2時間培養された後、複数のナノ粒子会合体は、1Mのスクロース中において超遠心分離法によって、複数の単一のナノ粒子から分離される。電子顕微鏡は、当該方法によって形成された複数の会合体が、1会合体あたり2から6のナノ粒子を含むことを明らかにしている。会合した複数のナノ粒子は、マイクロ流体フローによってマイクロチャネル中へ取り込まれる。マイクロチャネルの遠端部の狭窄により、所定の場所に複数のナノ粒子会合体が保持される。
【0106】
(ポーラス基板の生成)基板は、上述したように、陽極、電気化学エッチングにより生成された。より具体的には、基板は、エタノール、および溶液の全体積に基づいて約15容量パーセント(容量で15%のHF)の濃度でHFを含む水性電解質溶液中で、高度にホウ素がドープされたp型シリコン基板をエッチングさせることによって、生成された。陽極酸化が、(白金カソードとシリコンアノードとの間の)セルの全域にわたって、コンピュータ制御された一定電流を加えることによって実行された。ポーラスシリコンの複数の層が、2つの異なる電流密度の設定の5つの期間から生成された1つのそのような設定は、5mA/cmで20秒間であり、気孔率が約42%で約80nmの厚さの層が生成された。他の設定は、30mA/cmで10秒間であり、気孔率が約63%で約160nmの厚さの層が生成された。形成された基板は、円形で、約1インチの直径であるディスク状であった。形成された基板は、一般的に均質と考えられるものの、基板の中心部分から基板の周辺部分までを比較した場合に、少しのばらつきがあった(例えば、気孔率、厚さ等)。そのような複数の層は、層が形成される工程の性質に起因する。基板の周辺部分に向かって励起された光に対して中心部分、または基板に向かって励起された(断面直径で約1マイクロメータの)光放出スペクトル光を比較した場合に、わずかなばらつきが明白である。
【0107】
(核酸の生成およびエクソヌクレアーゼ処理)人の染色体DNAは、Smbrookらの方法(1989)によって精製される。Bam H1での分解に続いて、ゲノムのDNA断片が、pBluescript(登録商標)ベクター(Stratagene Inc. La Jolla、CA)の多重クローニング部位に挿入され、O157(E.coli.)の中で成長する。複数のアンピシリン含有アガロースプレートの上にメッキした後に、ただ一つのコロニーが選択されて、シーケンシングのために成長される。ゲノムのDNAの一部である一本鎖DNAの挿入が、ヘルパーファージを用いた重感染によって助けられる。プロテイナーゼK:ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)の溶液中での分解の後に、DNAはフェノールで抽出され、酢酸ナトリウム(pH6.5、約0.3M)および0.8のボリュームの2−プロパノールの添加により沈殿させられる。DNAを含む沈殿物は、トリス−EDTAバッファ中で、使用されるまで−20℃で保存することにより、再懸濁される。アガロースゲル電気泳動法は、精製されたDNAのシングルバンドを示す。
【0108】
ゲノムDNAの隣に挿入されて配置される公知のpBluescript(登録商標)の配列と相補的である複数のM13フォワードプライマーは、Midland Certified Reagent Company(Midland、TX)から購入される。共有結合的に修飾される複数のプライマーは、オリゴヌクレオチドの5位末端に結合しているビオチンの部分を含む。ビオチン基は、(CH2)6スペーサを介して、プリマーの5'−リン酸基へ共有結合的に架橋する。複数の標識化されたビオチンプライマーは、pBluescript(登録商標)ベクターから生成されたssDNAテンプレート分子と混成することを許可する。それから、複数のプライマー−テンプレート錯体は、Dorreらの方法(Bioimaging 5、139-152(1997))によって、複数のビーズをコーティングしているストレプトアビジンに結合される。適切なDNA希釈で、単一のプライマー−テンプレート錯体は、1つのビーズに結合される。単一のプライマーテンプレート錯体を含むビーズは、シーケンシング装置の反応チャンバに挿入される。
【0109】
プライマー−テンプレートは、修飾されたT7 DNAポリメラーゼ(United States Biochemical Corp. Cleveland、OH)を用いてインキュベートされる。反応混合物は、標識化されていないデオキシアデノシン−5'−三リン酸(dATP)、およびデオキシグアノシン−5'−三リン酸(dGTP)、ジゴキシゲニンで標識化されたデオキシウリジン−5'−三リン酸(ジゴキシゲニンdUTP)、並びにローダミンで標識化されたデオキシシチジン−5'−三リン酸(ローダミンdCTP)を含む。重合反応は、37℃で2時間の間、進められる。ジゴキシゲニン、およびローダミンで標識化された核酸が合成された後に、テンプレートのらせん構造が、標識化された核酸から分離され、テンプレートのらせん構造、DNAポリメラーゼ、および組み込まれていない複数のヌクレオチドが反応チャンバから洗い流される。本発明の他の実施形態のよれば、十号に用いられた全てのデオキシヌクレオシド三リン酸が標識化されていない。他の実施形態においては、複数の一本鎖の核酸は、相補的らせん構造の重合なしに、直接的に配列される。
【0110】
エクソヌクレアーゼ活性は、反応チャンバへエクソヌクレアーゼIIIを添加することにより開始される。反応混合物は、pH8.0、37℃で保持される。核酸の3'末端から複数のヌクレオチドが放出されると、マイクロ流体によって、マイクロ流体チャネルの下方に移送される。マイクロチャネルの入り口で、複数の電極によって作られた電気ポテンシャルの勾配が、複数のヌクレオチドが、マイクロ流体チャネルから出て、マイクロチャネルに流入することを促進する。複数のヌクレオチドは、充填された複数のナノ粒子を通るので、それらは、レーザからの励起光にさらされる。ラマン放出スペクトルは、以下に述べるように、ラマン検出器によって検出される。
【0111】
(ヌクレオチドのラマン検出)複数の分子の試料からのラマン散乱光は、同一の顕微鏡対物によって集束され、ダイクロイックミラーを通ってラマン検出器に向かう。ラマン検出器は、集束レンズ、分光器、およびアレイ検出器を備える。集束レンズは、分光器の入射スリットを通ったラマン散乱光を集束する。分光器(RoperScientific)は、その波長によって光を分散する回折格子を備える。分散される光は、アレイ検出器(RoperScientificの、背面受光ディープディプリション型CCDカメラ)上で取得される。アレイ検出器は、データ転送、および検出器の機能の制御のためのコンピュータに接続されているコントローラ回路に接続されている。
【0112】
ラマン検出器は、検出器を通り過ぎる、単一の、標識化されていない複数の分子の動きを検出、および同定できる。複数のナノ粒子がぎっしり詰まっているナノチャネル、またはマイクロチャネル中の領域を通る際に、複数の分子の試料が、励起および検出されるように、複数のレーザおよび検出器は配置される。複数のナノ粒子は、ラマン検出器のための複数の"ホットスポット"を形成するために架橋する。複数のヌクレオチドが、ナノ粒子のホットスポットを通過することにより、ラマン検出器の感度が、多数の桁のオーダで増加する。
【0113】
分析される分子(または複数の分子)の試料、および複数の金属ナノ粒子が、筒、ピペット、または他の同種の手動移送デバイスを用いて、試料セル中に直接、1滴または数滴の試料溶液を添加することにより、手動で移送される。
【0114】
分子(または複数の分子)の試料、およびコロイド性の複数の銀粒子は、別々にマイクロ流体チップに導入され、流れが検出窓に達する前に混合される。分子(または複数の分子)の試料および複数の銀コロイドの混合は、2つのレーザビームによって励起された場合に、SECARS信号を生成する。複数の電子が低エネルギー状態に戻ることに起因するラマン放出信号は、励起に用いられる同一の顕微鏡対物によって集められ、ビームの進路にある他のダイクロイックミラーが、信号をラマン分光器の検出器、すなわちアバランシェフォトダイオード検出器(EG&G)の方向に向ける。信号アンプリファイア、およびアナログ−デジタル変換器が、信号をデジタル出力に変換するために用いられる。コンピュータが、デジタル出力の記録およびデータの数学的な処理のために用いられる。
【0115】
(例2、SECARS設定2)他のSECARSの設定においては、Spectra-Physics(Mountain View、CA)のチタンサファイアレーザがパルスレーザビームを生成する。複数のレーザパルスは、Spectra-Physicsの光パラメトリック発振器(OPO)によって用いられ、2つの異なる波長の2つの同期化されたビームを生成する。OPO内の光学結晶を調整することにより、2つのビームの間の波長差を変化させることができる。OPOによって生成された2つのビームは、マイクロ光学素子を用いて、マイクロ流体チャネルの検出窓領域へ伝播される。2つのビームの角度は、位相整合条件(Fayer、Ultrafast Infrared and Raman spectroscopy、Marcel-Dekker、(2001)参照)に合わせて設定され、その状態下で、SECARS信号は、最も効果的に生成される。コロイド性の複数の銀粒子は、既に、マイクロ流体チャネルの下側の表面(例えば、フッ化カルシウム、あるいはフッ化マグネシウムの窓)に結合されている。分子(または複数の分子)の試料がマイクロ流体チャネルに導入された場合に、分子(または複数の分子)は、表面に結合しているコロイド製の複数の銀粒子に一時的に吸着するか、または近傍に移動する。2つのビームによって分子が励起された場合には、移送がそろった一方向性のビームとしてSECARS信号が生成される。SECARS信号の方向は、位相整合条件によって再び決定される。光電子増倍管(EG&G)は、SECARS信号の方向に配置されており、信号を集める。アンプリファイア、A/D変換器、およびコンピュータは、データ取得、表示、および処理に用いられる。
【0116】
(例3、SECARS設定3)他のSECARSの設定においては、複数の励起ビームが、2つのチタンサファイアレーザ(CoherentのMiraによって)によって生成される。双方のレーザからの複数のレーザパルスは、集められたビームと同一線上のダイクロマティック干渉フィルター(Chroma製またはOmega Optical製)によって重ね合わされる。重ね合わされたビームは、顕微鏡対物(Nikon LUシリーズ)を通り、そして、複数の標的被分析物が配置されているラマン活性な基板上に集束される。ラマン活性な基板は、複数の金属ナノ粒子である。複数の被分析物は、塩化リチウム塩と混合される。複数の被分析物からのラマン散乱光は、同一の顕微鏡対物によって集束され、ラマン検出器に向けて第2のダイクロイックミラーによって反射される。ラマン検出器は、バンドパスフィルタ、集束レンズ、分光器、およびアレイ検出器を備える。バンドパスフィルタは、複数のレーザビームを減衰させ、被分析物からの信号を伝達する。集束レンズは、分光器の入射スリットを通ったラマン散乱光を集束させる。分光器(Acton Research)は、その波長によって光を分散させる回折格子を備える。分散された光は、アレイ検出器(RoperScientificの、背面受光ディープディプリション型CCDカメラ)上で取得される。アレイ検出器は、データ転送、および検出器の機能の制御のためのコンピュータに接続されているコントローラ回路に接続されている。複数の結果は図3に示す。
【0117】
(比較の例4、SERS設定1)図4は、単一のチタンサファイアレーザを用いることにより生成された。レーザは、連続波モードまたはパルスモードで、近赤外波長(700nmから1000nm)の0.5から1.0Wのレーザビームを生成する。レーザビームは、ダイクロマティックミラーおよび顕微鏡対物を通過して、複数の標的被分析物が配置されているラマン活性な基板上に集束される。ラマン活性な基板は、複数の金属ナノ粒子または金属でコーティングされた複数のナノ構造体である。複数の被分析物は、塩化リチウム塩と混合される。複数の被分析物からのラマン散乱光は、同一の顕微鏡対物によって集束され、ラマン検出器に向かってダイクロイックミラーによって反射される。ラマン検出器は、ノッチフィルタ、集束レンズ、分光器、およびアレイ検出器を備える。ノッチフィルタ(Kaiser Optical)は、レーザビームを減衰させ、被分析物からの信号を伝達する。集束レンズは、分光器の入射スリットを通ったラマン散乱光を集束させる。分光器(Acton Research)は、その波長によって光を分散させる回折格子を備える。分散された光は、アレイ検出器(RoperScientificの、背面受光ディープディプリション型CCDカメラ)上で取得される。アレイ検出器は、データ転送、および検出器の機能の制御のためのコンピュータに接続されているコントローラ回路に接続されている。
【0118】
(比較の例5、CARS設定1)CARS設定においては、複数の励起ビームが2つのチタンサファイアレーザ(CoherentのMiraによって)によって生成される。双方のレーザからの複数のレーザパルスは、集められたビームと同一線上のダイクロマティック干渉フィルター(Chroma製またはOmega Optical製)によって重ね合わされる。重ね合わされたビームは、顕微鏡対物(Nikon LUシリーズ)を通り、そして、複数の標的被分析物が配置されているラマン活性な基板上に集束される。ラマン活性な基板は使用されていない。複数の被分析物は直接試料セル中に導入される。複数の被分析物からのラマン散乱光は、同一の顕微鏡対物によって集束され、ラマン検出器に向けて第2のダイクロイックミラーによって反射される。ラマン検出器は、バンドパスフィルタ、集束レンズ、分光器、およびアレイ検出器を備える。バンドパスフィルタは、複数のレーザビームを減衰させ、被分析物からの信号を伝達する。集束レンズは、分光器の入射スリットを通ったラマン散乱光を集束させる。分光器(Acton Research)は、その波長によって光を分散させる回折格子を備える。分散された光は、アレイ検出器(RoperScientificの、背面受光ディープディプリション型CCDカメラ)上で取得される。アレイ検出器は、データ転送、および検出器の機能の制御のためのコンピュータに接続されているコントローラ回路に接続されている。複数の結果は図5に示す。
【0119】
図4および5と図3とを比較すると、SECARS技術が、SERS単独の場合と比べると、感度において25フォールドの増加を示し、CARS単独の使用の場合と比べると、感度において30,000,000フォールドの増加を示している。この感度における30,000,000フォールドの増加は、小数の分子(1000、100、あるいは10分子以下、または、単一分子さえ)の検出を容易にする。
【0120】
上記の複数の例は、高分解能SECARSデバイスおよび本発明の方法の新規性および有用性を示す。前述した本発明の好適な実施形態の詳細な説明は、単に理解の明確さのために与えられており、どのような不必要な限定も理解されるべきではなく、当業者にとっては変更は明確である。上記で説明した本発明の複数のバリエーションは、その範囲から離れることなしになされえ、そして、それゆえ、そのような限定のみが、添付した特許請求の範囲によって示されるようになされる。
【0121】
(例6)2つのチタンドープされたサファイア(Ti:サファイア)レーザが複数の高原として用いられた。複数のレーザ(ブランド名 Mira)は、Coherent(Santa Clara、CA)から入手可能である。各Ti:サファイアレーザは、532nmの6Wの出力光を生成するダイオード励起固体レーザ(ブランド名Verdi)によって励起された。ポンプレーザは、785nmの光を生成するように調整された。ストークスレーザは、複数の標的分子の振動準位に一致するように調整された。例えば、dGMP分子を調査した場合には、ストークスレーザは827.7nmに調整され、SECARS信号は、746.5nm(657cm−1に相当する)あたりで検出される。アンジオテンシンIペプチド(New England Biolabs、Beverly、MAから入手した)を調査した場合には、ストークスレーザは852.4nmに調整された。SECARS信号は、727.7nmあたりで(1007cm−1に相当する)放出された。
【0122】
複数の興味のある標的分子が、複数の銀のコロイド性ナノ粒子および塩化リチウム塩の混合物中において調査された。複数の銀のコロイドは、上述したように社内で合成された。信号は、複数の銀のコロイド性ナノ粒子および塩化リチウム塩の混合物を含む制御試料から集められた。制御の信号は、複数の試料から得られた信号から差し引かれた。
【0123】
図6は、90pMのdAMPおよびdGMPから集められた信号を示す。100fL以下の集められた体積に基づいて、我々は、この濃度の集めた体積内に、平均で5分子以下の分子が存在していると推定した。図7は、90ng/μLの濃度のアンジオテンシンIペプチドの強い信号を示す。これらの結果は、SECARSが、複数のヌクレオチドおよび複数のペプチドを含む複数の分子の広範囲にわたって適用可能であることを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被分析物を検出あるいは同定する方法であって、
a)少なくとも1つのラマン活性表面に約10分子より少ない被分析物をさらす段階と、
b)第1の波長のレーザビームを、少なくとも1つの分子と前記表面との間の界面に照射する段階であって、前記分子が第2の波長の自然ストークスラマン放出と、第3の波長の自然反ストークスラマン放出とを生成する段階と、
c)前記第2の波長の第2のビームを、b)と実質的に同時に前記分子と表面との間の界面に照射する段階であって、前記第3の波長における前記分子からの前記反ストークスラマン放出の強度を増加させる段階と、
d)b)およびc)に続いて、前記第3の波長で界面からの前記反ストークス放出の強度の変化を検出または同定することにより、前記被分析物を検出または同定する段階と
を備える方法。
【請求項2】
少なくとも1つのラマン活性な表面に約10分子以下の被分析物をさらす段階
を備える請求項1に記載の方法。
【請求項3】
少なくとも1つのラマン活性な表面に約10分子以下の被分析物をさらす段階
を備える請求項1に記載の方法。
【請求項4】
少なくとも1つのラマン活性な表面に約10分子以下の被分析物をさらす段階
を備える請求項1に記載の方法。
【請求項5】
チャネルを通って前記被分析物が移動する段階
をさらに備える請求項1に記載の方法。
【請求項6】
水性媒体中の前記被分析物を検出する段階および同定する段階
をさらに備える請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記表面が、金属または導電性材料でコーティングされたシリコン基板、金属または導電性のナノ粒子、金属または導電性の複数のナノ粒子の会合体、金属または導電性の複数のナノ粒子のコロイド、およびこれらの複数の組み合わせを含むグループから選択される要素によって提供される
請求項1に記載の方法。
【請求項8】
被分析物が、アミノ酸、ペプチド、ポリペプチド、たんぱく質、糖たんぱく質、リポたんぱく質、ヌクレオシド、ヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、核酸、糖、炭水化物、オリゴ糖、多糖類、脂肪酸、脂質、ホルモン、代謝物質、サイトカイン、ケモカイン、レセプター、神経伝達物質、抗原、アレルゲン、抗体、基質、代謝物質、共同因子、阻害物質、薬物、調合薬、栄養物、プリオン、毒素、毒、爆発的、殺虫剤、化学兵器、生体に有害な薬剤、バクテリア、ウイルス、放射性元素、ビタミン、複素環芳香族化合物、発癌物質、突然変異誘発物質、麻酔剤、アンフェタミン、バルビツール酸塩、幻覚剤、廃棄物、および汚染物質を含むグループから選択される
請求項1に記載の方法。
【請求項9】
被分析物が、ヌクレオシド、ヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、核酸、アミノ酸、ペプチド、ポリペプチド、またはたんぱく質である
請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記被分析物が核酸である
請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記被分析物が、ラマン活性な表面の近部に結合されている
請求項1に記載の方法。
【請求項12】
複数のラマン活性な表面が、複数の有機化合物によって共有結合的に修飾されている
請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記チャネルが、マイクロ流体チャネル、ナノチャネル、マイクロチャネル、およびこれらの複数の組み合わせを含むグループから選択される
請求項5に記載の方法。
【請求項14】
複数の前記ナノ粒子が、約1nmと2μmとの間の大きさである
請求項13に記載の方法。
【請求項15】
複数の前記ナノ粒子の大きさが、約10から50nm、約50から100nm、約10から100nm、約100nm、および約200nmを含むグループから選択される
請求項13に記載の方法。
【請求項16】
金属が、金、銀、銅、白金、アルミニウム、およびこれらの複数の組み合わせ
を含むグループから選択される
請求項7に記載の方法。
【請求項17】
前記ラマン検出デバイスが、複数のフォトダイオード、複数のアバランシェフォトダイオード、複数の電荷結合素子アレイ、複数のCMOSアレイ、複数の増強電荷結合素子、およびこれらの複数の組み合わせを含むグループから選択される
請求項1に記載の方法。
【請求項18】
被分析物の同一性を決定するために、被分析物の検出された強度を予め同定した被分析物と比較する段階
をさらに備える請求項1に記載の方法。
【請求項19】
少なくとも1分子あたり約10−22cmの光クロスセクションを有する
請求項1に記載の方法。
【請求項20】
少なくとも1分子あたり約10−20cmの光クロスセクションを有する
請求項1に記載の方法。
【請求項21】
少なくとも1分子あたり約10−19cmの光クロスセクションを有する
請求項1に記載の方法。
【請求項22】
少なくとも1分子あたり約10−18cmの光クロスセクションを有する
請求項1に記載の方法。
【請求項23】
少なくとも1分子あたり約10−17cmの光クロスセクションを有する
請求項1に記載の方法。
【請求項24】
少なくとも1分子あたり約10−16cmの光クロスセクションを有する
請求項1に記載の方法。
【請求項25】
少なくとも1分子あたり約10−15cmの光クロスセクションを有する
請求項1に記載の方法。
【請求項26】
少なくとも1分子あたり約10−14cmの光クロスセクションを有する
請求項1に記載の方法。
【請求項27】
少なくとも1分子あたり約10−13cmの光クロスセクションを有する
請求項1に記載の方法。
【請求項28】
少なくとも1分子あたり約10−12cmの光クロスセクションを有する
請求項1に記載の方法。
【請求項29】
前記被分析物が、1つ以上の識別可能なラマン標識によって標識化されている
請求項1に記載の方法。
【請求項30】
前記チャネルを通って前記被分析物を移動させるために電場をかける段階
をさらに備える請求項1に記載の方法。
【請求項31】
被分析物の各型が、固有のラマン信号を生成する
請求項1に記載の方法。
【請求項32】
約10分子より少ない被分析物を検出するデバイスであって、
(a)第1の波長で電磁波の第1のビームを生成するための手段と、
(b)前記第1の波長とは異なる波長の第2の波長で電磁波の第2のビームを生成するための手段と、
(c)試料セルと、
(d)前記試料セルに、前記被分析物およびラマン活性な表面を導入する手段と、
(e)前記被分析物と前記ラマン活性な表面との間の界面上に、前記第1のビームと前記第2のビームとを集束させる光学素子と、
(f)被分析物とラマン活性な表面との間の界面から放出される光の強度を検出する手段であって、前記放出を受ける位置に配置されている手段と
を備えるデバイス。
【請求項33】
電磁波の第1のビームを生成する前記手段と、電磁波の第2のビームを生成する前記手段とが、2つのパルスレーザを有する
請求項32に記載のデバイス。
【請求項34】
前記光学素子が、顕微鏡対物レンズ、ミラー、プリズム、あるいはこれらの複数の組み合わせを有する
請求項32に記載のデバイス。
【請求項35】
前記試料セルが、
(a)外気から前記試料を隔離する材料の試料セル本体と、
(b)電磁波に対して透明な材料の前記試料セル本体の窓と、
(c)前記被分析物および追加的なラマン活性な表面を導入および取り除くための少なくとも1つのポート
を備える請求項32に記載のデバイス。
【請求項36】
前記試料セルに被分析物およびラマン活性な表面を導入するための前記手段が、マイクロ流体デバイスを有する
請求項32に記載のデバイス。
【請求項37】
界面から放出された光の強度を検出する前記手段が、複数のフォトダイオード、複数のアバランシェフォトダイオード、複数の電荷結合素子アレイ、複数のCMOSアレイ、複数の増強電荷結合素子、およびこれらの複数の組み合わせを含むグループから選択される差分光検出デバイスである
請求項32に記載のデバイス。
【請求項38】
約10分子より少ない被分析物を検出する装置であって、
a)反応チャンバと、
b)前記反応チャンバと流体連通している第1のチャネルと、
c)前記第1のチャネルと流体連通している第2のチャネルと、
d)前記第1および第2のチャネルと流体連通している試料セルと、
e)前記フロースルーセル内の、複数のナノ粒子、ナノ粒子の複数の会合体、ナノ粒子の複数のコロイド、または、金属コーティングされた多様性のある基板と、
f)レーザと、
g)前記フロースルーセルに操作可能に連結された、表面増感コヒーレント反ストークスラマン検出器と
を備える装置。
【請求項39】
前記ラマン検出器がCCDカメラまたはフォトダイオードアレイを有する
請求項38に記載の装置。
【請求項40】
前記CCDカメラまたはフォトダイオードアレイが、操作可能にデータ処理ユニットに連結されている
請求項38に記載の装置。
【請求項41】
前記データ処理ユニットがコンピュータを有する
請求項38に記載の装置。
【請求項42】
第1電極および第2電極と
をさらに備え、
複数の前記電極は、前記第1のチャネルから前記第2のチャネルに複数の単一被分析物を移動させる
請求項38に記載の装置。
【請求項43】
前記第1のチャネルがマイクロ流体チャネルである
請求項38に記載の装置。
【請求項44】
前記第2のチャネルがナノチャネルまたはマイクロチャネルである
請求項38に記載の装置。
【請求項45】
複数のナノ粒子が金属である
請求項38に記載の装置。
【請求項46】
金属が、銀、金、白金、銅、および/またはアルミニウムを含む
請求項45に記載の装置。
【請求項47】
ラマン検出器に操作可能に連結されており、流れが、試料セル内の金属コーティングされたナノ結晶ポーラスシリコン基板を通り過ぎるフロースルーセル
をさらに備える請求項38に記載の装置。
【請求項48】
金属コーティングされた基板が、集積チップまたは微小電気機械システム(MEMS)に組み込まれている
請求項38に記載の装置。
【請求項49】
前記検出ユニットがレーザおよびCCDカメラを有する
請求項38に記載の装置。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2007−509322(P2007−509322A)
【公表日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−535446(P2006−535446)
【出願日】平成16年10月18日(2004.10.18)
【国際出願番号】PCT/US2004/034598
【国際公開番号】WO2005/038419
【国際公開日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【出願人】(591003943)インテル・コーポレーション (1,101)
【Fターム(参考)】