説明

表面張力変動による誘導電流の取得

【課題】水槽内の水相、油相からなる界面の界面張力を利用して得られる水相及び油相による運動エネルギーを、電気エネルギ−に変換する新規な方法及びその装置の提供。
【解決手段】 円柱状容器の中央部にコイルを固定配置し、コイルの周辺を磁石及び回転子を回転可能に固定配備すると共にかつカチオン界面活性剤を溶解させた水相、及びハロゲン元素を溶させると共に飽和状態にハロゲン化カリウムを含んだ油相を接触状態に保って配置し、水相と油相の間に界面に働く界面張力が緊張と緩和を繰り返すことにより、磁石、回転子、水相及び油相をコイルの周囲の円周方向にそって移動させることによりコイル内に誘導電流を発生させることを特徴とする発電方法及び装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面張力変動を利用した誘導電流の取得に関するものである。
【背景技術】
【0002】
表面張力を変化させることを積極的に利用して私たちの生活や産業に役立つ多くの手段が提案、実行されてきた。液体の表面には表面積を小さくしようとする力(張力)が働いている。この力の単位長さあたりの値を表面張力と呼ぶ。水などの液体では、水の表面張力が大きい場合には、水は固体の表面に広がらず、固体のごく一部の表面にとどまる。水を全面に広げることが要求されることがある。すなわち表面全体を濡らすことが要求されることが多い。アルコールなどの水の表面張力を低下させる物質を添加すると、水の表面張力は下がり、均一に固体表面を濡らすことができる。 水と繊維からなる2相からな系では、水は表面積が大きいので、できるだけ表面が小さくなる性質を有しており、繊維など狭いところには入り込みにくい。 そこで、石鹸を水に添加しておくと、表面張力を著しく低下させる性質を有する物質である界面活性剤である石鹸は水の表面に広がって膜をつくり、表面張力を著しく低下させて安定な膜を生じる。その結果、水は繊維の隙間など狭いところには入り込みやすくなるので、洗濯や洗浄を好適に行うことができる。又、水と油といった混合しにくい液体に界面活性剤を混合することにより懸濁液を生成することができる。又、水と油等の混じりあわない2成分液体に関し、疎水性(親油性)基と親水性基を有している界面活性剤により、水と油の界面の界面張力も低下させることができ、洗浄、湿潤、乳化などの操作を可能にする。
【0003】
最近では、段階的な表面張力の変化を更に積極的に取り入れる工夫も行なわれている。「着色インクの裏抜けの防止を目指す高速印字できるインクジェット記録方法」において、「多価金属塩を含む反応液に、当該反応液の表面張力よりも低い表面張力を有する前記顔料インクを加え、前記反応液と前記顔料インクとが接触した界面に、表面張力を低下させた膜状の凝集体を形成する」ことも行なわれている(特許文献1、特開2004−160996)。このように、液体と固体、液体と液体の接触する界面で液体の表面張力を変化させることにより安定した状態を形成することが行なわれている。
【0004】
前記のように、水と油からなる2相界面(oil in water)の水相に界面活性剤を存在させることにより油が水中全体に粒子となって懸濁して安定に存在する懸濁液を製造することができる。この場合に、油相中に強イオン性物質(I、ピクリン酸など)が存在すると、水中の界面活性剤の親油性の部分を取り込んで油相と水相の界面の表面張力を変化させ、緊張と緩和を起させることができること、油相及び水相は円周にそって移動させることができる非平衡現象が起こることが知られている。そして、油相及び水相界面の表面張力の変化を利用した液相及び水相による液体の運動として捉え、その運動を観察することが行なわれている。 水相及び油相からなる2相中で、水中にオクタデシル-トリメチルアンモニウムクロライド(カチオン界面活性剤である第4級アンモニウム塩)を溶解させておき、一方、KIが飽和状態に保たれている油(ニトロベンゼン)中にIを溶解した状態に保つと、Iを発生させ、水中の界面に存在するカチオンのオクタデシル-トリメチルアンモニウムイオンは油相に取り込まれ、水相と油相の界面の表面張力は緩和と緊張を繰り返すマラゴーニ効果(図3)を観察できることが記載されている(非特許文献1)。具体的には、以下の反応を起こす。 C1837N(CH + I →C1837N(CHI 上記の反応により黄色沈澱が生成する。
2重の同心円容器中で、油相と水相からなる2相の油相の運動として観察すると、単一の波、空間に伝播を伴う又は伴うことなく周期的な振動による波、周期的な円周運動による波及び混乱状態の発生による波という4種類の波による運動が観察された。又、電気化学的標準電位の測定を行った(非特許文献2)。 1mMのトリメチルオクタデシルアンモニウムクロライドを含有する水相と、KIを飽和させたニトロベンゼンに2mMのヨウ素を含有させた油相を接触させることにより以下の事実を確認した。 円柱容器中の油相と水相の溶液量の割合を変化させることにより、油相はランダム状に動き回ったり、円周にそって運動するようなったり、及びアメーバ状の運動を行うようになったりする運動を観察することができる。水相中に滴状で油相を存在させることにより、油相は円周運動を起こすこと、円周運動に際しアルミニウム箔を水相の表面に置き、水相と油相の接触する部分に回転子となるアルミニウム箔を存在させると、水相と油相の移動を、回転子が回転する状態で捉えることができる。そして、この円周運動は、水と油の界面に形成される接触角θとすると、表面張力γWS、γOW、γOSの変化の結果として把握することができる。 油相の円周運動を観察すると、その円周運動はナビエストークの方程式を用いて、流体速度uを,密度ρ、圧力p、外力K、動粘度 μ/ρの関数として表現することができる。そして、角運動量を算出することができる(非特許文献3)。このようにカチオン界面活性を水相に存在させ油相に強力な陰イオンを存在させると、カチオンは油相に取り込まれることにより、水相と油相の界面の表面張力の緊張と緩和により変化させることによる一定の角運動量の変化を観察することができる。 以上によれば、カチオン界面活性剤を溶解させた水相と、ヨウ化カリウムを飽和させヨウ素を溶解させ油相により形成される2相系では水相と油相の表面張力は変化させることが可能であり、油相と水相が接する界面に設けられて回転子を一定の角運動量で回転させることを確認できる。
【0005】
しかしながら、上記の研究はいずれも非平衡現象にともなう移動現象を観察することにとどまるものであり、この移動現象を有効な手段として捉え、積極的に他の目的に利用することを意図するものではない。 本発明者は、移動現象に伴う運動エネルギーに着目し、他のエネルギーに変換させ、このエネルギーを取り出すことができないかを考えた。
【特許文献1】特開2004−160996号公報
【非特許文献1】Bioelectrochemisry and Bioenergetics 5、134-141(1978)
【非特許文献2】J.Phys.Soc.jap.54.1274-1281(1985)
【非特許文献3】Bull.Chem.Soc.Jap.66.3352-3357(1993)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、水槽内の水相、油相からなる界面に働く界面張力が緊張と緩和を繰り返すことにより得られる運動エネルギーを電気エネルギ−に変換する新規な方法及びその装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は前記課題に鋭意取り組み以下のことを見いだして、本発明を完成させた。円柱状容器の中央部にコイルを固定配置し、コイルの周辺を磁石及び回転子を回転可能に固定配置すると共にかつカチオン界面活性剤を溶解させた水相、及びハロゲン元素を溶させると共に飽和状態にハロゲン化カリウムを含んだ油相を接触状態に保って配置し、水相と油相の間に界面に働く界面張力が緊張と緩和を繰り返すことにより、磁石、回転子、水相及び油相をコイルの周囲の円周方向にそって移動させ、その移動の結果、コイル内に誘導電流を発生させることができる。
又、前記水相と油相の界面張力が緊張と緩和は、前記カチオン界面活性剤のカチオン(陽イオン)は水相側の油相との界面部分に集められ、油相内のハロゲン元素とハロゲン化カリウムにより発生させたアニオン(陰イオン)の作用により油相内に引き込まれることにより引き起されるものである。このミクロの界面張力の変動がマクロな油滴の動きを誘発する。
誘導電流の発生に関しては電流計により確認した。又、誘導電流として交流を発生することを電流計により確認した。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、水槽中で油相及び水相を接触させ、界面に生ずる表面張力が緩和と緊張を繰り返すことを利用して、油相、水相及び磁石をコイルの周囲を運動させると、コイルに誘導電流を発生させることができる。この誘導電流の取得は表面張力を利用した新規な発電方法及びそのための新規な発電装置である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、円柱状容器の中央部にコイルを固定配置し、コイルの周辺を磁石及び回転子を回転可能に固定配置すると共にカチオン界面活性剤を溶解させた水相、及びハロゲン元素を溶解させると共に飽和状態のハロゲン化カリウムを含んだ油相を接触状態に保って配置し、水相と油相の間に界面に働く界面張力が緊張と緩和を繰り返すことにより、磁石、回転子、水相及び油相をコイルの周囲の円周方向にそって移動させ、コイル内に誘導電流を発生させる発電方法及びそのための発電装置である。
【0010】
前記磁石をコイルの周囲を円周方向に移動させる際に、磁石と回転子を一緒に固定して、コイルの周囲を円周方向に移動させる場合、及び磁石は回転子からはなれた水相中の別の場所に固定する場合である。前者については図1に示すとおりである。後者については図2に示すとおりである。
【0011】
本発明の装置を、図2を用いて説明する。 前記磁石6、回転子5、水相2及び油相3をコイルの周囲の円周方向そって移動させる際に、磁石6と回転子5は離れて固定している。磁石6を水相2の左側に固定配置している。磁石の固定配置は水相の移動に差し支えなければ、どの場所でも問題はない。
水相2及び油相3の流れと共に円周方向にそって移動させる手段に、磁石6と回転子5を固定配置することが、便利である。この移動させる手段としては、流れと共に移動するものに固定することが便利である。流れと共に移動する手段としてはシート、板状体が挙げることができる。できるだけ軽量であり、しっかりと固定できるものを用いる。固定する手段は各種の固着手段(例えば、ヒモ状物などで結束、接着剤による固着)が採用される。
流れと共に移動するものとしては、水相3の表面は、シート4に覆われている扇形部分9、シートに覆われていない扇形部分12、及びその中心部が円形部分10のシートが切り取られて形成されており、シート4に覆われている扇形部分の外側部分を折り曲げて回転子5を形成して使用することが便利であり、円形部分10に近い部分に接着剤(例えば、エポキシ樹脂)により固着することが便利である。設置場所は回転子5より離れていることが好ましい。
前記カチオン界面活性剤を溶解させた水相2は、カチオン界面活性剤として塩化ステアリルトリメチルアンモニウムクロライドを溶解させた水相であり、前記ハロゲン元素を溶させると共に飽和状態にハロゲン化カリウムを含んだ油相3は、ハロゲン元素を溶解させると共に飽和状態にあるヨウ化カリウムを含んだニトロベンゼンからなる相である。
前記ハロゲン元素を溶解させると共に飽和状態にあるヨウ化カリウムは、ピクリン酸、サリチル酸又はベンゼンスルホン酸のいずれかを用いてもよい。
水相2及び油相3は室温(15〜30℃)に保たれている。カチオン界面活性剤を溶解させた水相、及びハロゲン元素を溶させると共に飽和状態のハロゲン化カリウムを含んだ油相を接触状態に保って配置することにより、水相と油相の間の界面に働く界面張力が緊張と緩和を繰り返す。水相と油相の間の界面に働く界面張力が緊張と緩和を繰り返すことにより、水相及び油相をコイルの周囲の円周方向にそって移動させることができる。磁石及び回転子は水相及び油相とともに移動する。
水の表面を覆うシート4は円柱状容器1の壁に水相があたって引起される波動をなくし、水相2及び油相3が円柱状容器の円周にそって流れるように制御することができる。同時に、水相の表面を覆うシート4の一部を折り返し、回転子4を形成している。水相3と油相の界面張力が緊張と緩和を繰り返すことにより引起される変動は回転子5に伝えられ、回転子5は一定の角速度で円周にそって移動する。
【0012】
前記扇形部分は2箇所又は3箇所など複数個設置することができる。そして各部分に回転子を設置し、回転子の部分に磁石を取り付けることができる。
【0013】
この回転子5及び磁石6が一定の角速度で移動することとなり、中心部の水中に設置されているコイル7の周囲を移動する。コイル7の周囲を磁石が回ることによりコイルには誘導電流が発生し、コイルの両端に接続されている電流計8により、発生する電流を測定する。 電流の測定は、ピコメータ8による電流の測定回路に抵抗11を挿入して測定し、測定に正確を期している。
【0014】
得られた結果は図4に示すとおりである。
左はコイルの周囲を磁石が回転している場合、右はコイルの周囲を磁石が回転していない場合をしめしている。
図2の装置では約60秒間にわたり、0.1μAから0.35μAの交流を得ていることがわかる。
【0015】
本発明の装置を、図1を用いて説明する。 この装置では、前記磁石6、回転子5、水相2及び油相3をコイルの周囲の円周方向そって移動させる際に、回転子5には磁石が一緒に固定されている点が特徴である。
磁石6及び回転子5は、水相2及び油相3をコイルの周囲の円周方向そって移動する。
前記カチオン界面活性剤を溶解させた水相2と、前記ハロゲン元素を溶させると共に飽和状態にハロゲン化カリウムを含んだ油相3は、水相と油相の間の界面に働く界面張力が緊張と緩和を繰り返すことにより、水相及び油相をコイルの周囲の円周方向にそって移動させ、その際に、回転子5及び磁石6に対して押し付ける力とした働き、円周方向にそって移動させる。回転子に磁石を一緒に固定する場合には、回転子5に袋状部分を形成して、その部分に磁石を挿入することにより、固定したり、又は接着剤(具体的にはエポキシ樹脂など)により磁石を回転子5に取り付ける。
回転子5は、流れと共に移動するものに固定することが便利である。流れと共に移動する手段としてはシート、板状体が挙げられるが、できるだけ軽量であり、しっかりと固定できるものを用いる。固定する手段は各種の固着手段(例えば、ヒモ状物などで結束、接着剤による固着)が採用される。
また、水相3の表面は、シート4に覆われている扇形部分9、シートに覆われていない扇形部分12、及びその中心部が円形部分10のシートが切り取られて形成されており、シート4に覆われている扇形部分の外側部分を折り曲げて回転子5を形成して使用することが便利であり、円形部分10に近い部分に接着剤(例えば、エポキシ樹脂)により固着することが便利である。設置場所は回転子5より離れていることが好ましい。
前記カチオン界面活性剤を溶解させた水相2は、カチオン界面活性剤として塩化ステアリルトリメチルアンモニウムクロライドを溶解させた水相である。前記ハロゲン元素を溶させると共に飽和状態にハロゲン化カリウムを含んだ油相3は、ハロゲン元素を溶解させると共に飽和状態にあるヨウ化カリウムを含んだニトロベンゼンからなる相である。
前記ハロゲン元素を溶解させると共に飽和状態にあるヨウ化カリウムは、ピクリン酸、サリチル酸又はベンゼンスルホン酸のいずれかを用いてもよい。
水相2及び油相3は室温(15〜30℃)に保たれている。カチオン界面活性剤を溶解させた水相、及びハロゲン元素を溶させると共に飽和状態のハロゲン化カリウムを含んだ油相を接触状態に保って配置しされていることにより、水相と油相の間に界面に働く界面張力が緊張と緩和を繰り返すことにより、磁石、回転子、水相及び油相をコイルの周囲の円周方向にそって移動させることができる。
【0016】
この回転子5及び磁石6はが一定の角速度で移動することとなり、中心部の水中に設置されているコイル7の周囲を移動する。コイルの周囲を磁石が回ることによりコイルには誘導電流が発生し、コイルの両端に接続されている電流計8により、発生する電流を測定する。
誘導電流の発生の記録は図2(上はコイルの周囲を回転していない場合、下はコイルの周囲を回転している場合である。)に示すとおりである。 コイルを回転させない場合については、3×10-12Aの電流が得られた。これは測定環境におけるノイズと考えられる。 回転するコイルの場合は周期18S、振幅約1×10-10Aの交流が得られている(図3)。
【0017】
前記扇形部分は2箇所又は3箇所など複数個設置することができる。そして各部分に回転子を設置し、回転子の部分に磁石を取り付けることができる。
【0018】
次に、図1及び図2で示した水相2及び油相3について更に詳細に説明する。
前記水相2は、天然に存在する水からなる相である。水には不純物が混入していることは好ましくない。蒸留水程度の純度の水であれば問題なく使用することができる。水相には水以外の物質として、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどのアルコールを用いることができる。 前記油相3は、水と混合しない油からなる相であり、水相中に相分離して存在する油からなる相である。油としては、炭化水素からなる油を用いることができる。この炭化水素には、常温で液状であるものが用いられる。室温で気化しないものが好ましい。脂肪族炭化水素(炭素数が8から20のもの)、ハロゲン置換脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、置換芳香族炭化水素、脂環式炭化水素を用いることができる。ハロゲン置換脂肪族炭化水素には、ジクロロメタン、トリクロロメタン、ジクロロエタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタンなどを挙げることができる。芳香族炭化水素としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、ナフタレンなどを挙げることができる。置換芳香族炭化水素には置換基として、ハロゲン原子により置換された芳香族炭化水素、ニトロ基により置換された芳香族炭化水素を用いることができる。具体的には、ニトロベンゼン、ニトロナフタレンを挙げることができる。
【0019】
水相2と油相3の割合(容積比)は、1対1程度であって差し支えない。油相の割合が1を超えて多くなると、油相は自由に動き回る結果、かえって安定化した状態で油相は円周にそって回転運動を行わないので、好ましくない。
油相は水相1に対して1以下に維持される。油相が少なすぎると、水相と油相間の表面張力変動がシートを移動させる程度にはならない。油相は0.05以上存在させることが必要となる。 水相として存在させる量を20mlとすると、油相の最小割合は回転子(ローター)の形状により若干の変動があるが、1ml以上あれば差し支えない。
【0020】
前記水相にはカチオン界面活性剤を溶解させる。 カチオン界面活性剤には、第4級アンモニウム塩型及びアルキルアミン塩型が用いられる。 第4級アンモニウム塩型には、アルキルトリメチルアンモニウムハライド、ジハロゲン化アルキルジメチルアンモニウムを用いる。 アルキルトリメチルアンモニウムハライドは、以下の一般式で表される。
【化1】

(式中、Rは炭素数16から18のアルキル基を表す。Xは塩素、臭素及びヨウ素から選ばれるハロゲン元素を表す。) 具体的には、トリメチルパルミチルアンモニウムクロライド、トリメチルステアリルアンモニウムクロライド、トリメチルパルミチルアンモニウムブロマイド、トリメチルステアリルアンモニウムブロマイド、トリメチルパルミチルアンモニウムアイオダイド、トリメチルステアリルアンモニウムアイオダイドを挙げることができる。 ジハロゲン化アルキルジメチルアンモニウムは、以下の式で表される。
【化2】

(式中、RRは炭素数16から18のアルキル基を表す。Xは塩素、臭素及びヨウ素から選ばれるハロゲン元素を表す。) 具体的には、ジパルミチルジメチルアンモニウムクロライド、ジステアリルジメチルアンモニウムクロライド、ジパルミチルジメチルアンモニウムブロマイド、ジステアリルジメチルアンモニウムブロマイド、ジパルミチルジメチルアンモニウムアイオダイド、ジステアリルジメチルアンモニウムアイオダイドを用いることができる。 これらの界面活性剤のカチオン部分は、アルキルトリメチルアンモニウムイオン、及びジアルキルジメチルアンモニウムイオンである。いずれもカチオン部分が油相内に取り込まれやすい状態のものが好ましい。 これらカチオン界面活性剤はいずれも公知物質であり、市販のものを購入して利用することができる。 アルキルトリメチルアンモニウムハライドの製法は以下の通りである。いずれも加圧加熱下に行う。RCHNH+2CHCl+2NaOH → RCHN(CH+2NaCl+2HORCHN(CH+CHX →C1837N(CHX ジアルキルジメチルアンモニウムハライドの場合は前記の反応式においてジアルキルメチレンアミンを原料物質として用いて、同様に生成することができる。 水に溶解させるときのアルキルトリメチルアンモニウムハライド及びジアルキルジメチルアンモニウムイオンの濃度は、10−4〜10−1モルの範囲から選ばれる。
【0021】
油相にハロゲン元素(X)を添加して、更に、ハロゲン元素を油相中に溶解させる。ハロゲン元素としては固体状のヨウ素や臭素を用いることができる。
これと同時に、ハロゲン化カリウムを飽和の状態に含有させておく。ヨウ素を用いる場合にはヨウ化カリウムを、臭素を用いる場合には臭化カリウムを用いる。 油相中ではハロゲン元素とハロゲン化カリウムが反応して以下のようにハロゲンイオンが生成する。 X+KX → K+X → K+X+X その結果、油中にはXイオンを生成させることができる。このXイオンは強力な陰イオンとして作用する。 前記ハロゲン元素とハロゲン化カリウムを用いる代わりに、ピクリン酸、サリチル酸、又はベンゼンスルホン酸等を用いることができる。この場合には生成する酸の部分が強力に作用する。
【0022】
水相に存在させるカチオン界面活性剤と、油相に存在させるハロゲン元素の割合は等量とする。その結果、油相中に取り込まれるカチオンと油相中のXは等量となる。その結果、両者は完全に使用されてしまうまで、水相及び油相は円周にそって運動を継続する。 具体的には0.1モルのアルキルトリメチルアンモニウムハライド又はジアルキルジメチルアンモニウムハライドを相に存在させた場合には、0.1モルのヨウ素及びハロゲン化カリウムが必要とされている。0.1モルのアルキルトリメチルアンモニウムハライド又はジアルキルジメチルアンモニウムハライドに対して0.2モルなどと言うようにヨウ素及びハロゲン化カリウムを用いた場合には、過剰の量である0.1モルのヨウ素及びハロゲン化カリウムが余りとして残ることとなる。 このような場合には水相に0.1モルのアルキルトリメチルアンモニウムハライド又はジアルキルジメチルアンモニウムハライドを供給することにより又水相と油相の回転運度は復活させることができる。
【0023】
いずれにしても油相に存在させるXとKXの量及び水相に存在させるカチオン界面活性剤の量は、等モルとして使用されるので両者は不足しないように添加させることが必要となる。最初からどちらかの使用量を少なく用いる場合には、途中で運動が中断するので、不足する物質の不足量を添加することにより継続することができる。
【0024】
カチオン界面活性剤が存在する水相では、アルキルトリメチルアンモニウムハライド、又はジアルキルジメチルアンモニウムハライドは、カチオン(陽イオン)である、アルキルトリメチルアンモニウムイオン又はジアルキルジメチルアンモニウムイオンとなって油相との界面に並ぶ。又、ハライドイオンは陰イオンとなって水相中に存在する。 次に、油相中では、X(又はX)が生成し、油相中に存在する。 油相中のX (又はX)イオンは、水相の油相との界面に存在するアルキルトリメチルアンモニウムイオン又はジアルキルジメチルアンモニウムイオンを油相中に取り込んで、その結果、水相の油相側の表面張力は緩和と緊張を繰り返す結果となり、油相は一定の角速度で円周にそって回転運動を始める。 前記ハロゲン元素とハロゲン化カリウムを用いる代わりに、ピクリン酸、サリチル酸、又はベンゼンスルホン酸等を用いる場合には、生成する酸の部分が強力に作用して、水相の油相との界面に存在するアルキルトリメチルアンモニウムイオン又はジアルキルジメチルアンモニウムイオンを油相中に取り込んで、その結果、水相の油相側の表面張力は緩和と緊張を繰り返す結果となる。 回転運動には、表面張力の変化を大きくすることが有効であり、界面活性剤の活性能力を上げること、界面活性剤の油相への取り込みを早くすること、の二点が挙げられる。このため、使用するカチオン界面活性剤とアニオンのマッチングを変更するなどの手段が考えられる。
【0025】
シートとしては、高分子化合物製樹脂シート又は金属箔を用いることができる。高分子化合物製樹脂シートにはポリエチレン、ポリプロピレン、塩化ビニール、ポリエステルなどのシートを用いることができる。これらは薄くて軽量のものが用いられる。金属箔として銀製、金製、銅製、アルミニウム性のものを用いることができる。 磁石をシートに取り付けるためには接着剤などで取り付けることもできるし、高分子化合物製樹脂シートにポケットなどの固定手段を設けておいて、この部分に挿入して固定することもできる。
【0026】
磁石には、従来知られている磁石を用いることができる。具体的には、フェライト、ネオジウム、アルニコなどの磁石を挙げることができる。磁束密度は、それぞれ0.385〜0.42、11.7〜12.5、12.5/T・kGである。いずれも使用できるが、本発明の場合には、強力なネオジウムの磁石を用いることが有効である。本発明の規模の実験であれば、ネオジウム磁石は3mm直径、厚さ3mmで、3950ガウス(N−008、材質NC35SH)のものを用いることが都合がよい。この磁石を場合によっては2個以上用いてもよい。
【0027】
中心部に設置されるコイルとしては、外部の磁場によっては電流を起こさず、内部の磁場による変化が誘導電流を発生させることができるものが理想的である。 コイルは巻き線状のものを適宜使用できる。本発明の実験規模では、具体的には、ホルマール線コイルであり、直径5mm、巻き数20回、長さ10mmのものを用いることができる。 以上の仕様の根拠は以下の通りである。 磁石としてネオジウム磁石(N−008、材質NC35SH)を使用磁石から0.02m離れたコイルの中心を貫く最大磁束密度Aは約1ガウス=0.0001[T]である。 コイルの中心部を通る成分の磁束密度Φnは0から−1まで変化し、角速度ω=0.4π/secを用いると、Φn=Acosωtである。 誘導起電力V=N(ΔΦ/Δt)=−ANωsinωt
N=20[巻]使用するコイルの抵抗値Rは約0.04Ωであったことから、理論的に予測される最大電流値Imax=Vmax/R=ANω/R=63[mA]となる。 コイル特性については以下の通りである。 自己インダクタンスL=μ(真空の透磁率)×μ(比透磁率)×n(単位当たりの巻き数)×A(面積)×d(長さ)=10.7×10−13[T・m/A]×μ(水とほぼ等しいと仮定すると0.999991)≒19.7×10−13[T・m/A]
【0028】
コイルの両端には電流計を接続することにより、コイル内に発生する誘導電流を測定することができる。本発明の装置の規模ではピコアンメーター(Model 6487、Keithley社製)を使用できる。 コイルは水平方向に回転した状態で用いることができる。この場合には誘導電流として交流を得る事ができる。 磁石としてネオジウム磁石(N−008、材質NC35SH)を使用磁石から0.02m離れたコイルの中心を貫く最大磁束密度Aは約1ガウス=0.0001[T]である。
【0029】
前記図1に示した発電装置で得られる誘導電流は図3に示したとおりである。上図はコイルの周囲を磁石が円周運動をしていない場合であり、誘導電流の発生はない。下図はコイルの周囲を磁石が円周運動をしている場合である。下図の場合には周期18S、振幅約1×10-10Aの交流が得ている。
【0030】
前記図2に示した発電装置で得られる誘導電流の結果は図4に示すとおりである。
左はコイルの周囲を磁石が回転している場合、右はコイルの周囲を磁石が回転していない場合を示している。
図2の装置では約60秒間にわたり、0.1μAから0.35μAの交流を得ている。
【実施例1】
【0031】
直径80mmのシャーレの中にカチオン界面活性剤であるトリメチルオクタデシルアンモニウムクロライド1mMを含む水溶液20ccを、水相として入れた。 扇形の切れ目(半径30mm、中心角度35度)を入れた薄い塩化ビニール製の円形フィルム(直径75mm、)の一部を折り返し、回転子となる部分を作り、この部分に磁石(ネオジウム磁石:直径3mm、厚さ3mm:重さ0.135g:磁束密度3950ガウス:N−008、クリエイト.Co.製)をエポキシ樹脂により固定した。誘導電流を測定するためにコイルにはピコアンメーター(MODEL 6487、Keithley)を接続した。 シャーレの中心部にはホルマル線(直径5mm、巻き数20回、長さ10mmを吊り下げて固定した。 フィルムの扇型の切れ目部分に、3mMのヨウ素、飽和したヨウ化カリウムを含むニトロベンゼン1mlを滴下して油相を形成した。 水相と油相の運動はデジタルカメラで記録した。 油相と油相の界面は緊張と緩和の運動を繰り返しながら、角速度0.4π/secで7分前後回転が持続されるのを確認した。 進行とともに油相の赤色は薄まり、表面が白濁し、水相と油相の円周に沿う運動も停止した。赤色はヨウ素が溶けて存在していたことを表す。赤色が薄まったのは界面活性剤のカチオンと反応した結果、ヨウ素が減少したことを表している。表面が白濁したのは以下の反応により反応生成物の沈澱が生じたことによる。 C1837N(CH + I (又はI)→C1837N(CHI(又はC1837N(CH) 誘導電流の発生の記録は図2(上は、コイルの周囲を磁石が回転していない場合、下はコイルの周囲を磁石が回転している場合である。)に示すとおりである。 コイルの周囲を磁石が回転していない場合については、電量の発生は期待できない。測定結果では3×10-12Aの電流が得られている。これは測定環境におけるノイズと考えられる。 コイルの周囲を磁石が回転している場合は周期18S、振幅約1×10-10Aの交流が得られた。
【実施例2】
【0032】
直径80mmのシャーレを洗浄剤で洗浄して使用した。
水相はカチオン界面活性剤であるトリメチルオクタデシルアンモニウムクロライド1mMを含む水溶液45mlを用いた。 油相は3mMのヨウ素を含ませ、塩化カルシウムを飽和させたニトロベンゼンに0.5mlを用いた。
磁石(ネオジウム磁石:直径2mm、厚さ2mm:重さ0.135g:磁束密度3100ガウス:N−005、クリエイト.Co.製)を使用した。
回転子はオーバーヘッドプロジェクタ−シートを用いた。
回転子と磁石の重量は0.429gであった。
コイルはインダクタンスが4mH、直径8mm、長さ3cmを使用した。
抵抗は4.7Ωのものを使用した。
ピコメータにより電流測定回路の抵抗は140Ω、そのうちピコメータの抵抗は80オームであった。
ピコメータはケスレー6487を使用した。
記録はDVDビデオカメラ、NTSC DC40を使用した。
測定結果を図4に示した。
左はコイルの周囲を磁石が回転している場合、右はコイルの周囲を磁石が回転していない場合をしめしている。
図2の装置では約60秒間にわたり、0.1μAから0.35μAの交流を得ていることを確認した。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の装置を示す図である。
【図2】本発明の装置を示す図である。
【図3】本発明の図1の装置により得られる誘導電流の測定結果を示す図(上はコイルの周囲を磁石が回転していない場合、下はコイルの周囲を磁石が回転している場合)である。
【図4】本発明の図2の装置により得られる誘導電流の測定結果を示す図(左はコイルの周囲を磁石が回転している場合、右はコイルの周囲を磁石が回転していない場合)である。
【図5】非特許文献1(Bioelectrochemisry and Bioenergetics 5、134-141(1978))に示されている水相と油相の界面の表面張力は緩和と緊張を繰り返すことを示す図である。
【符号の説明】
【0034】
1:円柱状容器
2:水相
3:油相
4:シート
5:回転子
6:磁石
7:コイル
8:ピコアンメータ(電流計)
9:シートに覆われている扇型部分
10:円形部分
11:抵抗
12:シートに覆われていない扇型部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円柱状容器の中央部にコイルを固定配置し、磁石及び回転子をコイルの周辺を回転可能に固定配置すると共にカチオン界面活性剤を溶解させた水相、及びハロゲン元素を溶解させると共に飽和状態のハロゲン化カリウムを含んだ油相を接触状態に保って配置し、水相と油相の間に界面に働く界面張力が緊張と緩和を繰り返すことにより、磁石、回転子、水相及び油相をコイルの周囲の円周方向にそって移動させることによりコイル内に誘導電流を発生させることを特徴とすることを特徴とする発電方法。
【請求項2】
前記磁石、回転子、水相及び油相をコイルの周囲の円周方向そって移動させる際に、磁石と回転子を離れて固定配置し、コイルの周囲を円周方向にそって移動させることを特徴とする請求項1記載の発電方法。
【請求項3】
前記磁石を、回転子、水相及び油相をコイルの周囲の円周方向そって移動させる際に、磁石は回転子と一緒に固定配置し、コイルの周囲を円周方向にそって移動させることを特徴とする請求項1記載の発電方法。
【請求項4】
前記水相の表面は、シートに覆われている扇形部分、シートに覆われていない扇形部分、及びその中心部の円形部分のシートが切り取られて形成されており、シートに覆われている扇形部分の外側部分を折り曲げて回転子が形成されていることを特徴とする請求項1から3いずれか記載の発電方法。
【請求項5】
前記水相の表面はシートに覆われている扇形部分に磁石が固定されていることを特徴とする請求項4記載の発電方法。
【請求項6】
前記カチオン界面活性剤を溶解させた水相は、カチオン界面活性剤として塩化ステアリルトリメチルアンモニウムクロライドを溶解させた水相であり、前記ハロゲン元素を溶させると共に飽和状態にハロゲン化カリウムを含んだ油相は、ハロゲン元素を溶解させると共に飽和状態にあるヨウ化カリウムを含んだニトロベンゼンからなる相であることを特徴とする請求項1から5いずれか記載の発電方法。
【請求項7】
前記ハロゲン元素を溶解させると共に飽和状態にあるヨウ化カリウムは、ピクリン酸、サリチル酸又はベンゼンスルホン酸のいずれかを用いる請求項1から6いずれか記載の発電方法。
【請求項8】
円柱状容器の中央部にコイルを固定配置し、コイルの周辺を磁石及び回転子を回転可能に固定配置すると共にカチオン界面活性剤を溶解させた水相、及びハロゲン元素を溶解させると共に飽和状態にハロゲン化カリウムを含んだ油相を接触状態に保って配置し、水相と油相の間に界面に働く界面張力が緊張と緩和を繰り返すことにより、磁石、回転子、水相及び油相をコイルの周囲の円周方向にそって移動させることによりコイル内に誘導電流を発生させることを特徴とすることを特徴とする発電装置。
【請求項9】
前記磁石、回転子、水相及び油相をコイルの周囲の円周方向そって移動させる際に、磁石及び離れて固定配置した回転子を、コイルの周囲を円周方向にそって移動させることを特徴とする請求項8記載の発電装置。
【請求項10】
前記磁石を回転子、水相及び油相をコイルの周囲の円周方向そって移動させる際に、磁石を一緒に固定配置した回転子とコイルの周囲を円周方向にそって移動させることを特徴とする請求項9記載の発電装置。
【請求項11】
前記水相の表面は、シートに覆われている扇形部分、シートに覆われていない扇形部分、及びその中心部の円形部分のシートが切り取られて形成されており、シートに覆われている扇形部分の外側部分を折り曲げて回転子を形成していることを特徴とする請求項1から3いずれか記載の発電方法。
【請求項12】
前記水相の表面はシートに覆われている扇形部分に、磁石を固定していることを特徴とする請求項11記載の発電装置。
【請求項13】
前記カチオン界面活性剤を溶解させた水相は、カチオン界面活性剤として塩化ステアリルトリメチルアンモニウムクロライドを溶解させた水相であり、前記ハロゲン元素を溶させると共に飽和状態にハロゲン化カリウムを含んだ油相は、ハロゲン元素を溶解させると共に飽和状態にあるヨウ化カリウムを含んだニトロベンゼンに相であることを特徴とする
請求項8から12いずれか記載の発電装置。
【請求項14】
前記ハロゲン元素を溶解させると共に飽和状態にあるヨウ化カリウムは、ピクリン酸、サリチル酸又はベンゼンスルホン酸のいずれかを用いることを特徴とする請求項8から13のいずれ記載の発電装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−182871(P2008−182871A)
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−203167(P2007−203167)
【出願日】平成19年8月3日(2007.8.3)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2006年8月30日 社団法人 日本化学会 コロイドおよび界面化学部会発行の「第59回 コロイドおよび界面化学討論会 講演要旨集」に発表
【出願人】(899000057)学校法人日本大学 (650)
【Fターム(参考)】