説明

表面微細凹凸構造を有する薄膜およびその製造方法

【課題】マイクロメートルオーダー、ナノメートルオーダーの微細凹凸構造が簡便な工程で効率よく得られ、種々の分野に使用可能な微細凹凸構造を有する薄膜およびその製造方法を提供する。
【解決手段】結晶性ポリマーを有機溶媒に溶解して得られた溶液を固体表面に塗布する工程と、前記溶媒を開放系又は密閉系で蒸発させて表面微細凹凸構造を有する薄膜を形成する工程とを含む薄膜の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リソグラフィー工程を経ずに自己組織化によって形成された表面微細凹凸構造を有する薄膜の製造方法、及びそれによって得られる薄膜に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、微細凹凸構造の形成方法として、電子線レジストやレーザーの2光束干渉露光方式による直接描画により、微細なレリーフ形状を形成するリソグラフィー方法が開発されている(例えば、非特許文献1参照)。しかし、前記方法は露光に時間がかかり、大面積、大量生産には適していないという問題がある。
【0003】
そこで、大面積、大量生産に適した方法として、射出成型法、プレス加工法などの形状転写法が提案されている(例えば、非特許文献1〜2参照)。この手法は、前記直接描画法によってレジスト材料に微細な凹凸形状を形成したマスターを利用し、更に電鋳加工によりマスターと相補的な微細凹凸構造を有するスタンパー(金型)を作製し、これを利用して樹脂などに転写するものである。しかし、これらの技術を使った表面設計は、非常に高度な技術が必要であり、加工寸法が1/10ミクロン程度までの加工が限界であり、加工寸法が小さくなるほど操作が煩雑になり、膨大な投資が必要であるという問題がある。
【0004】
また、別の技術としては、ナノメーターオーダーのパターニングが簡便に行える方法として、ブロックコポリマーから自己発展的に形成されるミクロ相分離構造を利用する方法が報告されている。例えば、ポリスチレンとポリイソプレンとのブロックポリマーからなる海島型のミクロ相分離膜を基板上に形成し、気相反応によりポリイソプレン相に酸化オスミウムを導入してエッチング耐性を向上させ、酸化オスミウムが選択的にドープされたポリイソプレン相をマスクとしてパターンを形成する方法を報告している(例えば、非特許文献3参照)。
【0005】
こうしたブロックコポリマーのミクロ相分離構造を用いた方法は、リソグラフィー技術と比較して簡便で低コストである。しかし、オゾン酸化は煩雑である上に反応時間が比較的長く、スループットを向上させる事が困難である。また、酸化オスミウムは毒性が強いため、安全性の観点から汎用性に乏しい。
【0006】
【非特許文献1】菊田久雄 電子情報通信学会論文 J83‐C(3),173−181(2000)
【非特許文献2】A.Gombert,C.G.,Endeavour,26,79(1967)
【非特許文献3】M.parkら、Science誌、Vol.276,1401−1406
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明の目的は、マイクロメートルオーダー、ナノメートルオーダーの微細凹凸構造が簡便な工程で効率よく得られ、種々の分野に使用可能な微細凹凸構造を有する薄膜およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究したところ、結晶性ポリマーの溶液を塗布した後、溶媒を蒸発させる薄膜の形成工程において、溶媒の種類や溶液濃度を変えることによって、種々のサイズの表面微細凹凸構造を有する薄膜が形成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明の薄膜の製造方法は、結晶性ポリマーを有機溶媒に溶解して得られた溶液を固体表面に塗布する工程と、前記溶媒を開放系又は密閉系で蒸発させて表面微細凹凸構造を有する薄膜を形成する工程とを含むことを特徴とする。
【0010】
本発明の薄膜の製造方法によると、レジストや蒸着法などの煩雑な工程を使用せずに、表面微細凹凸構造を簡易な工程で形成する事ができる。その際、結晶性ポリマーを溶解させる有機溶媒の沸点や溶液濃度を変えるという簡便な方法で、ナノメートルオーダーからマイクロメートルオーダーまでの微細構造の形成が容易に行える。さらに、溶液の自己組織化現象を利用するために、レジストや蒸着法を用いるよりも省資源、省エネルギーで微細構造を形成できるため、コスト低減に寄与する製造方法を提供する事ができる。つまり、本発明の薄膜の製造方法によると、マイクロメートルオーダー、ナノメートルオーダーの微細凹凸構造が簡便な工程で効率よく得られ、種々の分野に使用可能な微細凹凸構造を有する薄膜を製造することができる。
【0011】
このように、本発明の薄膜の製造方法では、結晶性ポリマーを溶解させる有機溶媒の沸点や溶液濃度を変えることで、結晶化の速度などを変化させられるため、原子間力顕微鏡で観察される表面微細凹凸構造の平均凹凸周期が1nm〜100μmであるものを得ることができる。
【0012】
本発明では、前記固体表面を回転させながら前記溶媒を蒸発させることで、溶媒の蒸発速度を制御することも可能である。
【0013】
一方、本発明の薄膜は、上記いずれかに記載の薄膜の製造方法で得られる、表面微細凹凸構造を有する薄膜である。本発明の薄膜は、マイクロメートルオーダー、ナノメートルオーダーの微細凹凸構造を有するため、電子的性質、導電的性質、光学的性質などの新たな機能を発揮しうる機能性材料として用いることができる。あるいは、上記微細凹凸パターンが細胞接着面を提供し、細胞支持基板へのアクセス、栄養供給ルートとなる細胞培養基材として用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。
【0015】
本発明の薄膜の製造方法は、結晶性ポリマーを有機溶媒に溶解して得られた溶液を固体表面に塗布する工程を含むものである。本発明で用いるポリマーは結晶性ポリマーであれば特に限定されないが、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリアセタール、ポリビニルアルコールなどのエンジニアリングプラスチックおよび汎用ポリマーが挙げられる。一般工業用多孔質膜として用いる場合、エンジニアリングプラスチックを用いることが、高強度、高弾性率、柔軟性の観点から望ましい。
【0016】
また、結晶性ポリマーとしては、ポリ乳酸、ポリヒドロキシ酪酸、ポリカプロラクトン、ポリエチレンアジペート、ポリブチレンカーボネートなどの生分解性ポリマーが挙げられ、医療用途として用いる場合、生体内に吸収されるという観点から望ましい。中でもポリブチレンカーボネート、ポリエチレンカーボネート等が有機溶媒への溶解性の観点から好ましい。また、ポリ乳酸、ポリカプロラクトンが入手の容易さ、価格等の観点から望ましい。
【0017】
本発明で用いることができる溶媒としては、使用するポリマーを溶解させるものであれば特に限定されない。有機溶媒の例としては、クロロホルム、塩化メチレン等のハロゲン系有機溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類、アセトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類、テトラヒドロフランなどのエーテル類、二硫化炭素などが挙げられる。これらの有機溶媒は単独で使用しても、また、組み合わせた混合溶媒として使用してもよい。
【0018】
結晶性ポリマーの溶液は、ポリマー濃度が0.01〜200g/Lであることが好ましく、より好ましくは0.1〜100g/Lである。ポリマー濃度が0.01g/Lより低いと、得られる薄膜の力学的強度が不足する傾向がある。また、ポリマー濃度が200g/Lより大きいと、濃度が高くなりすぎて、周期構造が崩壊し易くなる傾向がある。
【0019】
固体表面をなす基材としては、ガラス、金属、シリコンウエハー等の無機材料、あるいはポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエーテルケトンなどの耐有機溶剤性に優れた高分子が使用できるが、基材となる表面の平滑性の観点から基材は無機材料を用いる方が望ましい。
【0020】
ポリマー溶液を塗布する方法は、何れの塗布方法でもよく、例えばスプレー塗布、浸漬塗布、滴下塗布、流延塗布(キャスト)、スピンコートなどが挙げられる。塗布する際の溶液の温度は、室温でもよいが、30℃〜用いるポリマーのガラス転移温度に加熱してもよい。
【0021】
塗布する際の溶液の厚みは、溶媒蒸発後の薄膜の厚みが50nm〜100μmとなるように、設定するのが好ましい。
【0022】
本発明の薄膜の製造方法は、前記溶媒を開放系又は密閉系で蒸発させて表面微細凹凸構造を有する薄膜を形成する工程を含むものである。上記基板上に、高分子溶液を塗布して溶媒を蒸発させる事により、溶媒蒸発に伴うポリマー結晶化により微細凹凸構造を形成する事ができる。
【0023】
この時、溶媒蒸発速度を、溶媒の沸点あるいは蒸発条件により制御することで、微細凹凸サイズを制御可能となる。より具体的には、一般的に溶媒の沸点が低いほど、溶媒蒸発速度は速くなるため、微細凹凸サイズは小さくなる。
【0024】
また、蒸発環境については、塗布雰囲気を大気下開放系で行う場合と密閉系で行う場合とで溶媒蒸発速度を制御する方法や、塗布基材を回転体上に設置して、その上に高分子溶液を滴下した後、基材を回転させながら溶媒を蒸発させる方法などがある。
【0025】
蒸発の際の溶液の温度は、室温でもよいが、溶媒蒸発速度を速くするために、30℃〜用いるポリマーのガラス転移温度に加熱してもよい。また、基材を回転させながら溶媒を蒸発させる場合、回転数500〜3000rpmにすることによって、大気下の開放系より、溶媒蒸発速度を速くすることができる。
【0026】
本発明の薄膜は、以上のような本発明の製造方法によって好適に得られるものであり、表面微細凹凸構造を有する薄膜である。表面微細凹凸構造としては、原子間力顕微鏡で観察される平均凹凸周期が1nm〜100μmであるものが挙げられる。
【0027】
得られる薄膜の表面微細凹凸構造は、原子間力顕微鏡(AFM)写真によってより明確に観察することができるが、複数の球晶が成長してその境界線が凹部となる構造、微細粒子が連結してその間に孔が形成された構造、フィブリル化した結晶が集合した構造などが挙げられる。
【0028】
本発明の薄膜は、精密濾過、食品の清浄化処理等に使用される分離膜、電池用セパレータ等の産業用材料、包帯、紙オムツ等の医療材料の素材、雨天用衣類、手袋等の医療用材料、孔部に薬剤を収容することができるフィルム等の製剤材料、細胞の培養や、細胞から3次元組織体を形成するときの足場材料、光学材料及び電子材料に好適に使用することができる。
【実施例】
【0029】
以下、本発明の構成と効果を具体的に示す実施例等について説明する。なお、原子間力顕微鏡で観察される表面微細凹凸構造の平均凹凸周期は、次のようにして測定した。
【0030】
原子間力顕微鏡(日本ビーコ社製、Nano Scope 3A−MMAFM)を用いて薄膜の表面を観察し、その際の微小探針と試料表面間に働く原子間力をカンチレバーの変位で検出し、その変位量をレーザー光の変位量として検出して平均凹凸周期を解析し、表面凹凸を解析した。
【0031】
実施例1
ポリε‐カプロラクトン(和光純薬社製、重量平均分子量:70,000〜100,000)をクロロホルム、酢酸エチル、テトラヒドロフラン(以下THF)、又はアセトンの4種類の溶媒に溶解させ、濃度が1g/L、10g/L、50g/Lとなるように調製した。これらの溶液をガラスシャーレ上にキャストし、開放系と密閉系の状態で溶媒を蒸発させ、その後2日間室温で真空乾燥して薄膜(厚み100nm〜1μm)を得た。用いた溶媒についての詳細は表1に示す。
【表1】

【0032】
こうして得られた薄膜の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を図1〜図2に示し、同薄膜の原子間力顕微鏡(AFM)写真を図3〜図4に示す。また、AFM観察の結果から、表面凹凸を解析した結果を表2〜表3に示す。
【表2】

【0033】
【表3】

【0034】
実施例2
ポリε‐カプロラクトン(和光純薬社製、重量平均分子量:70,000〜100,000)をクロロホルムに溶解させ、濃度が10g/Lとなるように調製した。この溶液を回転体上に設置したガラス基板上に滴下して、回転数1000rpm×10秒の条件で回転させて溶媒を蒸発させ薄膜を得た。こうして得られた薄膜(厚み200nm)のSEM写真、AFM写真並びに表面凹凸の解析結果を図5に示す。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】実施例1(開放系)で得られた薄膜の走査型電子顕微鏡(SEM)写真
【図2】実施例1(密閉系)で得られた薄膜の走査型電子顕微鏡(SEM)写真
【図3】実施例1(開放系)で得られた薄膜の原子間力顕微鏡(AFM)写真
【図4】実施例1(密閉系)で得られた薄膜の原子間力顕微鏡(AFM)写真
【図5】実施例2(回転蒸発法)で得られた薄膜の走査型電子顕微鏡(SEM)写真及び原子間力顕微鏡(AFM)写真

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶性ポリマーを有機溶媒に溶解して得られた溶液を固体表面に塗布する工程と、前記溶媒を開放系又は密閉系で蒸発させて表面微細凹凸構造を有する薄膜を形成する工程とを含む薄膜の製造方法。
【請求項2】
原子間力顕微鏡で観察される表面微細凹凸構造の平均凹凸周期が1nm〜100μmである請求項1に記載の薄膜の製造方法。
【請求項3】
前記固体表面を回転させながら前記溶媒を蒸発させる請求項1又は2に記載の薄膜の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3いずれかに記載の薄膜の製造方法で得られる、表面微細凹凸構造を有する薄膜。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−161809(P2007−161809A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−357646(P2005−357646)
【出願日】平成17年12月12日(2005.12.12)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】