説明

表面性に優れたポリイミド積層体の製造方法

【課題】本発明は、基材の少なくとも片面に熱可塑性ポリイミドまたはその前駆体であるポリアミド酸を有機溶媒に溶解させた溶液を塗工形成する際、はじき等の表面性不具合を発生させないポリイミド積層体の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 ポリイミドフィルムの少なくとも片面に熱可塑性ポリイミドまたはその前駆体であるポリアミド酸を有機溶媒に溶解させた溶液を塗工形成するポリイミド積層体の製造方法において、熱可塑性ポリイミドまたはその前駆体であるポリアミド酸溶液の有機溶媒の少なくとも5重量%以上、25℃での飽和蒸気圧が3kPa〜25kPaの有機溶媒を含むことにより、はじき等の少ない表面性に優れたポリイミド積層体を得ることが出来る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材上への熱可塑性ポリイミドまたはポリアミド酸の溶液の塗工方法並びにフレキシブルプリント配線板、TABテープ、特に二層銅張積層板等に好適に用いられるポリイミド積層体の製造方法に関する。更に詳しくは、ポリイミドフィルムの少なくとも片面に熱可塑性ポリイミドまたはその前駆体であるポリアミド酸層を有機溶媒に溶解させた溶液を塗工形成するポリイミド積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エレクトロニクス製品の軽量化、小型化、高密度化にともない、各種プリント基板の需要が伸びているが、中でも、フレキシブル積層板(フレキシブルプリント配線板(FPC)等とも称する)の需要が特に伸びている。フレキシブル積層板は、絶縁性フィルム上に金属箔からなる回路が形成された構造を有している。
【0003】
上記フレキシブル積層板は、一般に、各種絶縁材料により形成され、柔軟性を有する絶縁性フィルムを基板とし、この基板の表面に、各種接着材料を介して金属箔を加熱・圧着することにより貼りあわせる方法により製造される。上記絶縁性フィルムとしては、ポリイミドフィルム等が好ましく用いられている。上記接着材料としては、エポキシ系、アクリル系等の熱硬化性接着剤が一般的に用いられている(これら熱硬化性接着剤を用いたFPCを以下、三層FPCともいう)。
【0004】
熱硬化性接着剤は比較的低温での接着が可能であるという利点がある。しかし今後、耐熱性、屈曲性、電気的信頼性といった要求特性が厳しくなるに従い、熱硬化性接着剤を用いた三層FPCでは対応が困難になると考えられる。これに対し、絶縁性フィルムに直接金属層を設けたり、接着層に熱可塑性ポリイミドを使用したFPC(以下、二層FPCともいう)が提案されている。この二層FPCは、三層FPCより優れた特性を有し、今後需要が伸びていくことが期待される。
【0005】
二層FPCに用いるフレキシブル金属張積層板の作製方法としては、金属箔上にポリイミドの前駆体であるポリアミド酸を流延、塗布した後イミド化するキャスト法、スパッタ、メッキによりポリイミドフィルム上に直接金属層を設けるメタライジング法、熱可塑性ポリイミドを介してポリイミドフィルムと金属箔とを貼り合わせるラミネート法が挙げられる。この中で、ラミネート法は、対応できる金属箔の厚み範囲がキャスト法よりも広く、装置コストがメタライジング法よりも低いという点で優れている。ラミネートを行う装置としては、ロール状の材料を繰り出しながら連続的にラミネートする熱ロールラミネート装置またはダブルベルトプレス装置等が用いられている。上記の内、生産性の点から見れば、熱ロールラミネート法をより好ましく用いることができる。
【0006】
ラミネート法に適用されるポリイミド積層体はコアとなるポリイミドフィルムに熱可塑性ポリイミドを積層する形態を有しているが、通常コアフィルムにポリイミドまたはその前駆体であるポリアミド酸を有機溶媒に溶解させた溶液をダイコーター、リップコーター、グラビアコーター、リバースコーター等種々のコーターを用い塗工形成する。
【0007】
しかしながら、ポリイミドまたはその前駆体であるポリアミド酸は溶解可能な溶媒種が限定される上、もともとポリイミドまたはポリアミド酸自体が高分子量体であることも起因し濡れ性に劣り塗工時にはじき等の不具合が発生しやすいという問題があった。
【0008】
一方、特許文献1には、希土類系永久磁石表面に付加型ポリイミド樹脂を芳香族溶剤と含酸素溶剤とからなる混合溶剤に溶解して得られる溶液を塗布し、これを加熱硬化させることによってポリイミド樹脂膜を有する希土類系永久磁石の製造方法が開示され、含酸素溶剤としてジオキソランなどエーテル系溶媒も記載されている。しかし、特許文献1で用いるポリイミドは、加熱によって硬化する付加型のポリイミド樹脂であり、特許文献1では磁石との密着性を向上させることを目的としており、塗工時のはじきなどについては着目されていない。
【0009】
特許文献2には、N,N−ジメチルホルムアミド、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、テトラヒドロフラン、のいずれの溶媒に対しても20度で10%以上の溶解性を示す、可溶性ポリイミドが記載されている。しかし、特許文献2には、ポリイミドの構造を工夫することによって、溶剤に可溶なポリイミドとすることを目的としており、ポリイミドの溶液を希釈して固形分濃度を調整すること、希釈溶剤として特定の溶剤を用いることや、塗工時のはじきについては記載されていない。
【特許文献1】特開2001−189205
【特許文献2】WO01/034678
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、基材の少なくとも片面に熱可塑性ポリイミドまたはその前駆体であるポリアミド酸を有機溶媒に溶解させた溶液を塗工形成する際、はじき等の表面性不具合を発生させない塗工方法およびポリイミド積層体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記の課題に鑑み鋭意検討した結果、以下の新規な積層体の製造方法および塗工方法によって、上記課題を解決しうることを見出した。
1)基材の少なくとも片面に熱可塑性ポリイミド層が形成された積層体の製造方法であって、少なくとも
(A)芳香族酸二無水物成分と芳香族ジアミン成分を重合して得られる熱可塑性ポリイミドまたはその前駆体であるポリアミド酸の溶液を有機溶媒で希釈する工程、
(B)希釈された熱可塑性ポリイミドまたはポリアミド酸溶液を基材上に塗布する工程を含み、(A)工程で用いる希釈溶媒として、25℃での飽和蒸気圧が3kPa〜25kPaである有機溶媒を用いることを特徴とする積層体の製造方法。
2)(A)工程で得られる、熱可塑性ポリイミドまたはその前駆体であるポリアミド酸を有機溶媒で希釈した溶液の固形分濃度が1%〜20%であることを特徴とする1)記載の積層体の製造方法。
3)前記基材がポリイミドフィルムであることを特徴とする1)または2)記載の積層体の製造方法。
4)(B)工程で用いる熱可塑性ポリイミドまたはポリアミド酸溶液の全有機溶媒中、25℃での飽和蒸気圧が3kPa〜25kPaである有機溶媒が5重量%以上含まれていることを特徴とする1)〜3)のいずれか一項に記載の積層体の製造方法。
5)上記有機溶媒がエーテル系溶媒であることを特徴とする1)〜4)のいずれか一項に記載のポリイミド積層体の製造方法。
6)基材の少なくとも片面に、熱可塑性ポリイミドまたはその前駆体であるポリアミド酸を有機溶媒に溶解させた溶液を塗工する方法であって、少なくとも
(A)芳香族酸二無水物成分と芳香族ジアミン成分を重合して得られる熱可塑性ポリイミドまたはその前駆体であるポリアミド酸を有機溶媒で希釈する工程、
(B)希釈された熱可塑性ポリイミドまたはポリアミド酸溶液を基材上に塗布する工程を含み、(A)工程で用いる希釈溶媒として、25℃での飽和蒸気圧が3kPa〜25kPaである有機溶媒を用いることを特徴とする熱可塑性ポリイミドまたはポリアミド酸の溶液の塗工方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、基材の少なくとも片面に熱可塑性ポリイミドまたはその前駆体であるポリアミド酸を有機溶媒に溶解させた溶液を塗工した場合に、はじき等が発生せず表面性が優れたものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の実施の一形態について、以下に説明する。
本発明は、基材の少なくとも片面に熱可塑性ポリイミド層が形成された積層体の製造方法であって、少なくとも
(A)芳香族酸二無水物成分と芳香族ジアミン成分を重合して得られる熱可塑性ポリイミドまたはその前駆体であるポリアミド酸を有機溶媒で希釈する工程、
(B)希釈された熱可塑性ポリイミドまたはポリアミド酸溶液を基材上に塗布する工程を含み、(A)工程で用いる希釈溶媒として、25℃での飽和蒸気圧が3kPa〜25kPaである有機溶媒を用いることを特徴とする積層体の製造方法である。
【0014】
(A)工程
(A)工程では、芳香族酸二無水物成分と芳香族ジアミン成分を有機溶媒中で重合して熱可塑性ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸を得る。ポリアミド酸の製造方法としては公知のあらゆる方法を用いることができ、通常、芳香族酸二無水物と芳香族ジアミンを、実質的等モル量を有機溶媒中に溶解させて、得られたポリアミド酸有機溶媒溶液を、制御された温度条件下で、上記酸二無水物とジアミンの重合が完了するまで攪拌することによって製造される。これらのポリアミド酸溶液は通常5〜35wt%、好ましくは10〜30wt%の濃度で得られる。この範囲の濃度である場合に適当な分子量と溶液粘度を得る。
【0015】
重合方法としてはあらゆる公知の方法およびそれらを組み合わせた方法を用いることができる。ポリアミド酸の重合における重合方法の特徴はそのモノマーの添加順序にあり、このモノマー添加順序を制御することにより得られるポリイミドの諸物性を制御することができる。従い、本発明においてポリアミド酸の重合にはいかなるモノマーの添加方法を用いても良い。代表的な重合方法として次のような方法が挙げられる。すなわち、
1)芳香族ジアミンを有機極性溶媒中に溶解し、これと実質的に等モルの芳香族テトラカルボン酸二無水物を反応させて重合する方法。
2)芳香族テトラカルボン酸二無水物とこれに対し過小モル量の芳香族ジアミン化合物とを有機極性溶媒中で反応させ、両末端に酸無水物基を有するプレポリマーを得る。続いて、全工程において芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミン化合物が実質的に等モルとなるように芳香族ジアミン化合物を用いて重合させる方法。
3)芳香族テトラカルボン酸二無水物とこれに対し過剰モル量の芳香族ジアミン化合物とを有機極性溶媒中で反応させ、両末端にアミノ基を有するプレポリマーを得る。続いてここに芳香族ジアミン化合物を追加添加後、全工程において芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミン化合物が実質的に等モルとなるように芳香族テトラカルボン酸二無水物を用いて重合する方法。
4)芳香族テトラカルボン酸二無水物を有機極性溶媒中に溶解及び/または分散させた後、実質的に等モルとなるように芳香族ジアミン化合物を用いて重合させる方法。
5)実質的に等モルの芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンの混合物を有機極性溶媒中で反応させて重合する方法。
などのような方法である。これら方法を単独で用いても良いし、部分的に組み合わせて用いることもできる。
【0016】
本発明において、上記のいかなる重合方法を用いて得られたポリアミド酸を用いても良く、重合方法は特に限定されるのもではない。
【0017】
ここで、本発明にかかるポリアミック酸組成物に用いられる材料について説明する。
【0018】
本発明において用いうる適当な酸二無水物は、ピロメリット酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4’−オキシフタル酸二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、1,1−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、オキシジフタル酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、p−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、エチレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、ビスフェノールAビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)及びそれらの類似物を含み、これらを単独または、任意の割合の混合物が好ましく用い得る。
【0019】
本発明にかかるポリイミド前駆体ポリアミド酸溶液において使用し得る適当なジアミンとしては、4,4’−ジアミノジフェニルプロパン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、ベンジジン、3,3’−ジクロロベンジジン、3,3‘−ジメチルベンジジン、2,2’−ジメチルベンジジン、3,3’−ジメトキシベンジジン、2,2’−ジメトキシベンジジン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−オキシジアニリン、3,3’−オキシジアニリン、3,4’−オキシジアニリン、1,5−ジアミノナフタレン、4,4’−ジアミノジフェニルジエチルシラン、4,4’−ジアミノジフェニルシラン、4,4’−ジアミノジフェニルエチルホスフィンオキシド、4,4’−ジアミノジフェニルN−メチルアミン、4,4’−ジアミノジフェニル N−フェニルアミン、1,4−ジアミノベンゼン(p−フェニレンジアミン)、1,3−ジアミノベンゼン、1,2−ジアミノベンゼン、ビス{4−(4−アミノフェノキシ)フェニル}スルホン、ビス{4−(3−アミノフェノキシ)フェニル}スルホン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、4,4'−ジアミノベンゾフェノン及びそれらの類似物などが挙げられる。
【0020】
本発明において用いられるポリアミド酸溶液及びポリイミド溶液は、上記の範囲の中で所望の特性を有するように適宜芳香族酸二無水物および芳香族ジアミンの種類、配合比を決定して用いることにより得ることができる。
【0021】
ポリアミド酸を合成するための好ましい溶媒は、ポリアミド酸を溶解する溶媒であればいかなるものも用いることができるが、アミド系溶媒すなわちN,N−ジメチルフォルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドンなどであり、N,N−ジメチルフォルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドが特に好ましく用い得る。
【0022】
また、摺動性、熱伝導性、導電性、耐コロナ性、ループスティフネス等のフィルムの諸特性を改善する目的でフィラーを添加することもできる。フィラーとしてはいかなるものを用いても良いが、好ましい例としてはシリカ、酸化チタン、アルミナ、窒化珪素、窒化ホウ素、リン酸水素カルシウム、リン酸カルシウム、雲母などが挙げられる。
【0023】
フィラーの粒子径は改質すべきフィルム特性と添加するフィラーの種類によって決定されるため、特に限定されるものではないが、一般的には平均粒径が0.05〜100μm、好ましくは0.1〜75μm、更に好ましくは0.1〜50μm、特に好ましくは0.1〜25μmである。粒子径がこの範囲を下回ると改質効果が現れにくくなり、この範囲を上回ると表面性を大きく損なったり、機械的特性が大きく低下したりする可能性がある。また、フィラーの添加部数についても改質すべきフィルム特性やフィラー粒子径などにより決定されるため特に限定されるものではない。一般的にフィラーの添加量はポリイミド100重量部に対して0.01〜100重量部、好ましくは0.01〜90重量部、更に好ましくは0.02〜80重量部である。フィラー添加量がこの範囲を下回るとフィラーによる改質効果が現れにくく、この範囲を上回るとフィルムの機械的特性が大きく損なわれる可能性がある。フィラーの添加は、
1.重合前または途中に重合反応液に添加する方法
2.重合完了後、3本ロールなどを用いてフィラーを混錬する方法
3.フィラーを含む分散液を用意し、これをポリアミド酸有機溶媒溶液に混合する方法
などいかなる方法を用いてもよいが、フィラーを含む分散液をポリアミド酸溶液に混合する方法、特に製膜直前に混合する方法が製造ラインのフィラーによる汚染が最も少なくすむため、好ましい。フィラーを含む分散液を用意する場合、ポリアミド酸の重合溶媒と同じ溶媒を用いるのが好ましい。また、フィラーを良好に分散させ、また分散状態を安定化させるために分散剤、増粘剤等を物性に影響を及ぼさない範囲内で用いることもできる。
【0024】
また、(A)工程では、ポリイミド溶液を用いることも出来る。一般的なポリイミドは溶媒に対し不溶なものが多いが、フッ素基、シリコン基、大きな置換基、柔軟な構造による自由体積確保等により分子構造を調整することにより溶媒可溶性ポリイミドを得ることが出来る。以下にポリイミド溶液の製造法に関し記述する。
【0025】
上記で得られたポリアミド酸重合体を、熱的または化学的方法により、脱水閉環し、ポリイミドを得る。イミド化の方法としては、ポリアミド酸溶液を加熱処理して脱水する熱的方法、脱水剤を用いて脱水する化学的方法のいずれもることが出来る。
【0026】
化学的方法による脱水剤としては、例えば、無水酢酸等の脂肪族酸無水物、および芳香族酸無水物が挙げられる。また、触媒としては、トリエチルアミン等の脂肪族第3級アミン類、ジメチルアニリン等の芳香族第3級アミン類、ピリジン、イソキノリン等の複素環第3級アミン類等が挙げられる。
【0027】
上記のようにして得られたポリイミドはそのまま溶液として用いることができる。あるいはポリアミド酸の重合に用いた、溶媒を良く溶かすが、ポリイミドが溶解しにくい貧溶媒中に、ポリイミド溶液を投入して、ポリイミド樹脂を析出させて未反応モノマーを取り除いて精製し、乾燥させ固形のポリイミド樹脂としてから、適宜、溶媒に溶解させ溶液として用いることもできる。用いる貧溶媒としては、アセトン、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ベンゼン、メチルセロソルブ、メチルエチルケトン等が挙げられる。
【0028】
熱的方法としては、例えば、ポリアミド酸を重合した後に真空オーブン中に投入し、減圧下で加熱することによってイミド化を行い、固形のポリイミド樹脂として取り出す手法が挙げられる。得られた固形のポリイミド樹脂を有機溶媒に溶解させ溶液を得ればよい。
【0029】
なお、本発明における熱可塑性ポリイミドとは、ガラス転移温度を有し、かつ、圧縮モード(プローブ径3mmφ、荷重5g)の熱機械分析測定(TMA)において、10〜400℃(昇温速度:10℃/min)の温度範囲で永久圧縮変形を起こすものをいう。
【0030】
また、本発明によって製造される積層体を、該積層体の熱可塑性ポリイミド層と金属層とをラミネート法によって張り合わせて用いる場合には、耐熱性の面から、接着層のガラス転移温度(Tg)は高い方が好ましく、300℃以上で金属箔と貼り合わせることが可能である接着層を用いることが好ましい。ここでいう「金属箔と貼り合わせることが可能」な状態とは、熱により接着層の貯蔵弾性率が大きく低下し、熔融性を発現している状態のことをいう。具体的には、300℃以上における接着層の貯蔵弾性率が10GPa以下であることが好ましく、1GPa以下であることが更に好ましい。特に好ましくは、0.1GPa以下である。
【0031】
ただし、接着層のTgを過度に上げると、ラミネート温度も非常に高くなってしまうため、既存の装置でのラミネートが不可能となってしまうことがある。既存の装置でラミネートが可能であり、かつ得られる金属張積層板の耐熱性を損なわないという点から考えると、本発明における熱可塑性ポリイミドは、150〜300℃の範囲にTgを有していることが好ましい。なお、Tgは動的粘弾性測定装置(DMA)により測定した貯蔵弾性率の変曲点の値により求めることができる。
【0032】
(A)工程において、25℃での飽和蒸気圧が3kPa〜25kPaである有機溶媒で希釈して、固形分濃度を調整することが本発明の特徴である。
【0033】
ところで、通常、熱可塑性ポリイミドやその前駆体であるポリアミド酸を溶解する溶媒としては、アミド系溶媒すなわちN,N−ジメチルフォルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドンなどであり、N,N−ジメチルフォルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドが用いられている。これらの溶媒に溶解させた熱可塑性ポリイミドあるいはポリアミド酸の溶液を、基材上に塗工しようとすると、方式による差は有るものの、いずれの方法でも基材に塗工する際、はじき等の表面性不具合が発生することがある。基材の表面性や塗液の粘度、固形分濃度、熱可塑性ポリイミドあるいはポリアミド酸の分子量及び乾燥時の温度、風量により、当業者が調整できる範囲で改善することが出来るが、根本的な改善は困難であった。はじきの発生は、塗液のポリイミドフィルムに対する濡れ性及び乾燥段階での塗液の対流が主な原因であると考えられる。ポリイミドフィルムに対する濡れ性向上及び塗液の対流防止の両立が本発明の特定の溶媒を用いることで実現できる。すなわち、本発明においては、25℃での飽和蒸気圧が3kPa〜25kPaの有機溶媒で溶液を用いる。これら溶媒は基材に塗布後、早い段階で揮発するので、該溶媒で希釈することによって、基材に塗布するのに適した固形分濃度に節することができるとともに、塗工面状を固定させることが可能となり、最終的に得られる熱可塑性ポリイミド層の表面性を優れたものとすることができる。本発明において25℃での飽和蒸気圧を規定したのは、塗工環境が通常、常温であり、表面性には塗工直後の状態がポイントとなるからである。本発明者らは、25℃における飽和蒸気圧の異なる種々の溶剤で希釈し、固形分濃度を調節した溶液について検討した結果、3kPa〜25kPaの範囲となっている有機溶剤を用いて希釈した溶液を用いて基材上に塗工すれば、最終的に得られる熱可塑性ポリイミド層の表面性が優れたものとなることを見出した。(A)工程で得られる溶液の固形分濃度は、1〜20%であることが好ましい。この範囲より飽和蒸気圧が高いと塗膜表面が安定せず外観がわるくなってしまう。また、上記範囲より飽和蒸気圧が低いと溶液の固化が進み、ゲル異物等が発生する不具合が生じる。
【0034】
25℃での飽和蒸気圧が3kPa〜25kPaである有機溶媒としては、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどが上げられるが、特にテトラヒドロフラン、ジオキサン、ジオキソラン等のエーテル溶媒が好適に用いられる。本発明においては、希釈に用いる溶媒として、25℃での飽和蒸気圧が3kPa〜25kPaを含んでいればよく、希釈後の溶液における全有機溶媒の5重量%以上、好ましくは10重量%以上、更に好ましくは30重量%以上含むことが望ましい。この範囲より少ないと表面性改善効果が小さくなる。上限量はないが、アミド系溶媒と併用することが好ましい。アミド系溶媒と併用する場合の好ましい上限量は、 である。
【0035】
(B)工程
(B)工程は、希釈された熱可塑性ポリイミドまたはポリアミド酸溶液を基材上に塗布する工程である。該溶液を塗工する基材としては、いかなるものを用いてもよく、例えば基材上に熱可塑性ポリイミドまたはポリアミド酸溶液を塗布して、後述するような乾燥・加熱条件でフィルム化し、これを基材から剥離して単層フィルムとして用いてもよいし、そのまま積層体として用いてもよい。基材としては、ポリイミドフィルムを用いることが、はじきなどの発生がより少ないことから好ましい。以下、ポリイミドフィルムを基材として用いた積層体について説明する。
【0036】
本発明に係るポリイミド積層体を得る方法としては、予めポリイミドフィルムを作製しその上に熱可塑性ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸溶液を塗布し、その後加熱イミド化し熱可塑性ポリイミド層を形成する方法が挙げられる。前記溶液を塗布する方法としては、ポリイミドフィルムを溶液にディップするなども含まれる。あるいはポリイミドフィルムを作製した上に熱可塑性ポリイミドの溶液を塗布する方法等が好適に例示され得る。
【0037】
このうち、コアであるポリイミドフィルムに熱可塑性ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸を溶液塗工しその後加熱イミド化し熱可塑性ポリイミド層を得る場合、ポリアミド酸溶液をコアフィルムに流延、塗布する方法については特に限定されず、ダイコーター、リバースコーター、ブレードコーター等、既存の方法を使用することができる。
【0038】
熱可塑性ポリイミド溶液を用いる場合も同様の方法を用いることができる。
【0039】
ポリイミドフィルムを作製しその上に熱可塑性ポリイミド前駆体であるポリアミド酸溶液を塗布し、加熱イミド化し熱可塑性ポリイミド層を形成する方法において、イミド化する方法として熱のみでイミド化する熱イミド化法と脱水剤、触媒等を用いる化学イミド化法がある。
【0040】
いずれのイミド化手順を採る場合も、イミド化を効率良く進めるために加熱を行うが、その時の温度は、(熱可塑性ポリイミドのガラス転移温度−100℃)〜(ガラス転移温度+200℃)の範囲内に設定することが好ましく、(熱可塑性ポリイミドのガラス転移温度−50℃)〜(ガラス転移温度+150℃)の範囲内に設定することがより好ましい。熱キュアの温度は高い方がイミド化が起こりやすいため、キュア速度を速くすることができ、生産性の面で好ましい。但し、高すぎると熱可塑性ポリイミドが熱分解を起こす可能性がある。一方、熱キュアの温度が低すぎると、ケミカルキュアでもイミド化が進みにくく、キュア工程に要する時間が長くなってしまう。
【0041】
イミド化時間に関しては、実質的にイミド化および乾燥が完結するに十分な時間を取ればよく、一義的に限定されるものではないが、一般的には1〜600秒程度の範囲で適宜設定される。また、接着層の熔融流動性を改善する目的で、意図的にイミド化率を低くする及び/又は溶媒を残留させることもできる。
【0042】
イミド化する際にかける張力としては、1kg/m〜15kg/mの範囲内とすることが好ましく、5kg/m〜10kg/mの範囲内とすることが特に好ましい。張力が上記範囲より小さい場合、フィルム搬送時にたるみや蛇行が生じ、巻取り時にシワが入ったり、均一に巻き取れない等の問題が生じる可能性がある。逆に上記範囲よりも大きい場合、強い張力がかかった状態で高温加熱されるため、得られるフレキシブル金属張積層板の寸法特性が悪化することがある。
また、熱可塑性ポリイミド層には、用途に応じて、例えば、フィラーのような他の材料を含んでもよい。
【実施例】
【0043】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0044】
なお、合成例、実施例及び比較例における多層ポリイミド積層体の評価法は次の通りである。
【0045】
(外観評価)
ダイコーター、リバースコーター及びグラビアコーターで塗工した際の塗工直後及び150℃、2分乾燥後の表面を目視検査し、表面不具合(はじき、泡かみ)の個数を評価した。
【0046】
(合成例1)
容量2000mlのガラス製フラスコにDMFを780g、3,3’4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)119g添加し、窒素雰囲気下で1時間攪拌した後、続いて氷浴下で30分間撹拌し、3,4’―ジアミノジフェニルエーテル(3,4’−ODA)を78.6g加え、さらに3,4’−ODA 2.4gを20gのDMFに溶解させた溶液を別途調製し、これを上記反応溶液に、粘度に注意しながら徐々に添加、撹拌を行った。粘度が2000poiseに達したところで添加、撹拌をやめ、ポリアミド酸溶液を得た。
このポリアミド酸溶液を25μmPETフィルム(セラピールHP,東洋メタライジング社製)上に最終厚みが20μmとなるように流延し、120℃で5分間乾燥を行った。乾燥後の自己支持性フィルムをPETから剥離した後、金属製のピン枠に固定し、150℃で5分間、200℃で5分間、250℃で5分間、350℃で5分間乾燥を行い、単層シートを得た。この熱可塑性ポリイミドのガラス転移温度は270℃であった。また、熱可塑性の判定において、圧縮永久変形が生じたため熱可塑性を有していることがわかった。
【0047】
(合成例2)
容量2000mlのガラス製フラスコにDMFを780g、2,2−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン(BAPP)を115.6g加え、窒素雰囲気下で攪拌しながら、3,3’4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)を78.7g徐々に添加した。続いて、エチレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)(TMEG)を3.8g添加し、氷浴下で30分間撹拌した。2.0gのTMEGを20gのDMFに溶解させた溶液を別途調製し、これを上記反応溶液に、粘度に注意しながら徐々に添加、撹拌を行った。粘度が2000poiseに達したところで添加、撹拌をやめ、ポリアミド酸溶液を得た。
【0048】
このポリアミド酸溶液を25μmPETフィルム(セラピールHP,東洋メタライジング社製)上に最終厚みが20μmとなるように流延し、120℃で5分間乾燥を行った。乾燥後の自己支持性フィルムをPETから剥離した後、金属製のピン枠に固定し、150℃で5分間、200℃で5分間、250℃で5分間、350℃で5分間乾燥を行い、単層シートを得た。この熱可塑性ポリイミドのガラス転移温度は240℃であった。また、熱可塑性の判定において、圧縮永久変形が生じたため熱可塑性を有していることがわかった。
【0049】
(合成例3)
容量2000mlのガラス製フラスコにDMFを780g、p−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)(TMHQ)105.5g添加し、窒素雰囲気下で1時間攪拌した後、続いて氷浴下で30分間撹拌し、BAPPを92.6g加え、さらにBAPP 2.1gを20gのDMFに溶解させた溶液を別途調製し、これを上記反応溶液に、粘度に注意しながら徐々に添加、撹拌を行った。粘度が2000poiseに達したところで添加、撹拌をやめ、ポリアミド酸溶液を得た。
【0050】
このポリアミド酸溶液を25μmPETフィルム(セラピールHP,東洋メタライジング社製)上に最終厚みが20μmとなるように流延し、120℃で5分間乾燥を行った。乾燥後の自己支持性フィルムをPETから剥離した後、金属製のピン枠に固定し、150℃で5分間、200℃で5分間、250℃で5分間、350℃で5分間乾燥を行い、単層シートを得た。この熱可塑性ポリイミドのガラス転移温度は210℃であった。また、熱可塑性の判定において、圧縮永久変形が生じたため熱可塑性を有していることがわかった。
【0051】
(実施例1〜11、比較例1〜4)
上記ポリアミド酸溶液及びポリイミド溶液を各種溶媒組成でSC6%へ希釈しダイコーターを用い17μmアピカルHP(鐘淵化学工業株式会社社製)に乾燥厚み4μmになるよう塗布し、150℃で2分乾燥させた。その結果を表1に示す。
【0052】
【表1】

比較例1〜比較例2に示すように適切な範囲を外れる有機溶剤を用いると外観・表面性及び欠陥数において劣る結果となった。
【0053】
これに対し、25℃での飽和蒸気圧が3kPa〜25kPaの範囲内の有機溶媒を使用すると良好な結果が得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の少なくとも片面に熱可塑性ポリイミド層が形成された積層体の製造方法であって、少なくとも
(A)芳香族酸二無水物成分と芳香族ジアミン成分を重合して得られる熱可塑性ポリイミドまたはその前駆体であるポリアミド酸の溶液を有機溶媒で希釈する工程、
(B)希釈された熱可塑性ポリイミドまたはポリアミド酸溶液を基材上に塗布する工程を含み、(A)工程で用いる希釈溶媒として、25℃での飽和蒸気圧が3kPa〜25kPaである有機溶媒を用いることを特徴とする積層体の製造方法。
【請求項2】
(A)工程で得られる、熱可塑性ポリイミドまたはその前駆体であるポリアミド酸を有機溶媒で希釈した溶液の固形分濃度が1%〜20%であることを特徴とする請求項1記載の積層体の製造方法。
【請求項3】
前記基材がポリイミドフィルムであることを特徴とする請求項1または2記載の積層体の製造方法。
【請求項4】
(B)工程で用いる熱可塑性ポリイミドまたはポリアミド酸溶液の全有機溶媒中、25℃での飽和蒸気圧が3kPa〜25kPaである有機溶媒が5重量%以上含まれていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の積層体の製造方法。
【請求項5】
上記有機溶媒がエーテル系溶媒であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のポリイミド積層体の製造方法。
【請求項6】
基材の少なくとも片面に、熱可塑性ポリイミドまたはその前駆体であるポリアミド酸を有機溶媒に溶解させた溶液を塗工する方法であって、少なくとも
(A)芳香族酸二無水物成分と芳香族ジアミン成分を重合して得られる熱可塑性ポリイミドまたはその前駆体であるポリアミド酸を有機溶媒で希釈する工程、
(B)希釈された熱可塑性ポリイミドまたはポリアミド酸溶液を基材上に塗布する工程を含み、(A)工程で用いる希釈溶媒として、25℃での飽和蒸気圧が3kPa〜25kPaである有機溶媒を用いることを特徴とする熱可塑性ポリイミドまたはポリアミド酸の溶液の塗工方法。

【公開番号】特開2006−137102(P2006−137102A)
【公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−329194(P2004−329194)
【出願日】平成16年11月12日(2004.11.12)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】