説明

表面性状測定機用検出器

【課題】十分な横剛性と低測定力とを同時に実現することができ、高精度化を図ることができる表面性状測定機用検出器を提供すること。
【解決手段】可動片3の各側面32と、これら各側面32に対向配置される軸受部材5の対向面54との隙間には、対向面54に形成された噴出口から加圧気体が噴出され、気体膜が形成される。これら気体膜を介して軸受部材5の対向面54間で可動片3を挟み込むことで、軸受部材5間における可動片3のガタを抑えることができ、十分な横剛性を得ることができる。また、各軸受面53と支軸31との隙間にも、軸受面53に形成された噴出口から加圧気体が噴出され、気体膜が形成されるので、支軸31を非接触で支持することができ、転がり軸受で支軸31を支持する場合に比べ、摩擦抵抗を大幅に抑えることができる。そのため、より測定力を低減させることができ、高精度化を図ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面性状測定機用検出器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、測定子を測定対象の表面に沿って移動させ、測定子の変位から測定対象の表面性状を測定する表面性状測定機が利用されている。このような表面性状測定機に用いられる表面性状測定機用検出器(以下、検出器と記載)として、例えば特許文献1に記載のものが知られている。
【0003】
図3は、特許文献1に記載の検出器1を模式的に示す平面図である。
特許文献1に記載の検出器1は、玉軸受21を有するケーシング2(固定部材)と、ピボット軸31を有し玉軸受21に回動自在に支持された可動片3と、可動片3から延出し先端に測定子41が設けられたスタイラス4とを備えている。可動片3は、測定対象表面の凹凸に対応して回動し紙面垂直方向に変位する。この変位が図示しないセンサにより検出される。このような検出器1において、玉軸受21の一方は、ケーシング2において軸方向に摺動自在に設けられ、板ばね22により可動片3側に向かって付勢されている。これにより、特許文献1に記載の検出器1では、玉軸受21に支持されるピボット軸31の軸方向のガタを抑え、横剛性(測定方向に直交する方向における可動片3のガタの生じにくさ)を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−310941号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の検出器1では、横剛性を向上させることはできるが、ピボット軸31と玉軸受21との接触により僅かとはいえ摩擦抵抗が生じてしまうので、可動片3を回動可能とし、かつ測定子41に測定対象表面の凹凸への追従性を付与するために、測定子41の先端にある程度の力(測定力)を付与しなければならず、低測定力化、すなわち高精度化に限界があった。
【0006】
本発明の目的は、十分な横剛性と低測定力とを同時に実現することができ、高精度化を図ることができる表面性状測定機用検出器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の表面性状測定機用検出器は、一対の軸受部材と、両側面に前記軸受部材に回動可能に支持される支軸が設けられた可動片と、前記可動片から延出するとともに先端に測定子が設けられたスタイラスとを備えた表面性状測定機用検出器であって、前記各軸受部材は、前記支軸と所定の隙間を介して配置される軸受面と、前記側面と所定の隙間を介して対向配置される対向面とを備え、前記軸受面には、前記軸受面と前記支軸との前記隙間に加圧気体を噴出する噴出口が形成され、前記対向面には、前記対向面と前記側面との前記隙間に加圧気体を噴出する噴出口が形成されていることを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、可動片の各側面と、これら各側面に対向配置される軸受部材の対向面との隙間には、対向面に形成された噴出口から加圧気体が噴出され、気体膜が形成される。従って、これら気体膜を介して軸受部材の対向面間で可動片を挟み込むことで、軸受部材間における可動片のガタを抑えることができ、十分な横剛性を得ることができる。
また、各軸受面と支軸との隙間にも、軸受面に形成された噴出口から加圧気体が噴出され、気体膜が形成されるので、支軸を非接触で支持することができ、玉軸受等の転がり軸受で支軸を支持する場合に比べ、摩擦抵抗を大幅に抑えることができる。そのため、より測定力を低減させることができ、高精度化を図ることができる。
従って、本発明によれば、十分な横剛性と低測定力とを同時に実現することができ、高精度化を図ることができる。
【0009】
本発明の表面性状測定機用検出器では、前記軸受部材は、多孔質材であり、前記軸受面で開口する多数の前記噴出口、および前記対向面で開口する多数の前記噴出口を備えていることが好ましい。
【0010】
本発明によれば、軸受部材は、内部に多数の孔を有し、軸受面および対向面に多数の噴出口が開口する多孔質材である。多数の噴出口は、軸受面および対向面において均等な分布で開口するので、これらの噴出口から加圧気体を各隙間に噴出することで、各隙間全体に亘って均一な厚さの気体膜を形成することができ、摩擦抵抗を確実に抑えることができる。
また、軸受部材は、外部から供給される加圧気体を内部の多数の孔を通過させた後に各噴出口から各隙間に噴出するので、加圧気体中の粉塵を濾過することができ、各隙間に粉塵が侵入していわゆる噛み込みが発生してしまうことを防ぐことができる。
【0011】
本発明の表面性状測定機用検出器では、前記軸受部材を有する固定部材と、前記固定部材および前記可動片間に設けられた気体ダンパとを備え、前記気体ダンパは、前記固定部材および前記可動片のうちいずれか一方に接続され、内部に気体を供給する気体供給口および外部に前記気体を排出する気体排出口を備える筒状のシリンダと、前記固定部材および前記可動片のうち他方に接続され、前記シリンダ内に摺動可能に設けられたピストンとを備え、前記可動片を介して前記測定子に測定力を付与することが好ましい。
【0012】
本発明によれば、ピストンにより区画されるシリンダ内部の密閉空間に気体を供給することで、ピストンに圧力を加えることができ、ピストンが接続される可動片を介して測定子に測定力を付与することができる。従って、気体ダンパに供給する気体流量を調整することにより、極めて微小な測定力を実現することができ、確実に高精度化を図ることができる。また、本発明では、軸受部材にも気体を供給するので、同一の装置から各部材に気体を供給することで、コストを低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態に係る検出器を模式的に示す平面図。
【図2】図1のii線−ii線矢視図。
【図3】従来の検出器を模式的に示す平面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。なお、背景技術において説明した従来の表面性状測定機用検出器1(以下、検出器1と記載)と同一機能部位には同一符号を付し、その説明を省略若しくは簡略化する。
【0015】
図1は、本実施形態に係る検出器1を模式的に示す平面図、図2は、図1のii線−ii線矢視図であり、検出器1を示す側面図である。
検出器1は、一対の軸受部材5を有する固定部材2(図2)と、略矩形に形成され、両側面32に前記軸受部材5に回動可能に支持される円柱状の支軸31が設けられた可動片3と、可動片3から延出し先端に測定子41が設けられたスタイラス4とを備えている。なお、支軸31は、本実施形態では、可動片3を貫通する一本の円柱状のピンの両端部からなるが、支軸31は、それぞれ可動片3の各側面32に接着等により固定された円柱状のピンからなっていてもよい。
【0016】
固定部材2は、可動片3の両側方に垂下する一対の腕部23を備えている。腕部23の下部は、可動片3側が開いた箱状のハウジング部24となっている。ハウジング部24内部には、円柱状の収納空間241が形成され、この収納空間241内に軸受部材5が収納されている。具体的には、軸受部材5は、収納空間241内に嵌め込まれ、接着等により収納空間241の壁面(底面および側壁面)に固定されている。収納空間241の底面には、支軸31が挿通する挿通孔242が形成され、収納空間241の側壁面には、気体供給口243が形成されている。気体供給口243には、図示しない気体供給装置から加圧空気等の適宜の加圧気体が供給される。
【0017】
軸受部材5は、多孔質材からなり、円筒状に形成されている。このような軸受部材5は、気体供給口243と連通する1条の気体供給溝52が形成された外周面51と、支軸31より若干径大に形成され支軸31と所定の隙間を介して配置される軸受面53と、軸受面53の軸方向に直交し、可動片3の側面32と所定の隙間を介して対向配置される対向面54とを備えている。この軸受部材5は、前述したように多孔質材からなり、内部に多数の孔を備えるとともに、軸受面53および対向面54の全面に均等な分布で開口する多数の噴出口を備えている。
【0018】
このような軸受部材5は、気体供給溝52に供給される加圧気体を軸受面53および対向面54からそれぞれ軸受面53と支軸31との隙間、および対向面54と側面32との隙間に噴出し、各隙間に気体膜を形成する。この際、軸受部材5は、加圧気体を、軸受部材5内部の多数の孔に通過させた後、各面53,54に亘って均一な分布で開口する多数の噴出口から各隙間に噴出することで、気体膜を各隙間全体に亘って均一な厚さに形成する。
【0019】
以上のようにして本実施形態では、軸受面53と支軸31との間に気体膜を形成するので、支軸31を非接触で支持することができ、摩擦抵抗を大幅に抑えることができる。そのため、より測定力を低減させることができ、高精度化を図ることができる。また、本実施形態では、可動片3の各側面32と、軸受部材5の対向面54との隙間にも気体膜を形成するので、該気体膜を介して可動片3を軸受部材5の対向面54間に挟み込むことができる。そのため、軸受部材5間における可動片3のガタを抑えることができ、十分な横剛性を得ることができる。なお、各隙間に噴出された加圧気体は、気体膜を形成した後、ハウジング部24と側面32との隙間、および支軸31と挿通孔242との隙間からハウジング部24外部へ排出される。
【0020】
可動片3において、スタイラス4が設けられた側とは反対側にはバランスウェイト33が設けられている。バランスウェイト33は、後述する気体ダンパ6による力が可動片3にかかっていない状態で、支軸31を中心としてスタイラス4と重量が釣り合うようにその重みおよび位置が設定され、可動片3に付与される図2中反時計回りの力である測定力を0とする。
一方、可動片3において、スタイラス4が設けられた側と固定部材2との間には気体ダンパ6が設けられている。気体ダンパ6は、固定部材22に接続された筒状のシリンダ61と、可動片3に接続され、シリンダ61内に摺動可能に設けられたピストン62とを備えている。
【0021】
シリンダ61は、ピストン62によって区画されたシリンダ61内部の密閉空間内に気体を供給する気体供給口611と、シリンダ61外部に気体を排出する気体排出口612とを備えている。気体供給口611には、本実施形態では、軸受部材5に気体を供給する図示しない気体供給装置から気体が供給されるものとする。なお、各部材6,5には、それぞれ別の気体供給装置から気体が供給されるようになっていてもよい。
ピストン62は、シリンダ61内に摺動可能に設けられたピストン本体621と、一端がピストン本体621に連結されるとともに他端が可動片3に回動自在に連結されたロッド622とを備えている。
【0022】
このような気体ダンパ6は、内部に供給される気体流量が調整されることにより、測定力0とされた状態の測定子41に極めて微小な測定力を付与し、測定対象表面の凹凸に測定子41を追従させる。測定対象表面の凹凸に測定子41が追従することにより図2中上下方向に変位する可動片3の変位は、図示しないセンサにより検出される。
【0023】
以上のような本実施形態によれば、以下の効果を奏することができる。
可動片3の各側面32と軸受部材5の対向面54との隙間に加圧気体が噴出され、気体膜が形成されるので、これらの気体膜を介して対向面54間で可動片3を挟み込むことで可動片3のガタを抑えることができ、十分な横剛性を得ることができる。
また、各軸受面53と支軸31との隙間にも加圧気体が噴出され、気体膜が形成されるので、支軸31を非接触で支持することができ、玉軸受等の転がり軸受により支軸31を支持する場合に比べ、摩擦抵抗を大幅に抑えることができる。そのため、より測定力を低減させることができ、高精度化を図ることができる。
従って、本実施形態によれば、十分な横剛性と低測定力とを同時に実現することができ、高精度化を図ることができる。
【0024】
軸受部材5は、多孔質材からなり、軸受面53および対向面54に多数の噴出口が均等な分布で開口している。そのため、これらの噴出口から加圧気体を各隙間に噴出することで、各隙間全体に亘って均一な厚さの気体膜を形成することができ、摩擦抵抗を確実に抑えることができる。
また、軸受部材5は、内部に多数の孔を有し、外部から噴出される加圧気体を内部の多数の孔を通過させた後に前記各噴出口から各隙間に噴出するので、加圧気体中の粉塵を濾過することができ、各隙間に粉塵が侵入していわゆる噛み込みが発生してしまうことを防ぐことができる。
【0025】
気体ダンパ6により測定子41に測定力を付与するので、極めて微小な測定力を実現することができ、確実に高精度化を図ることができる。また、同一の装置から各部材6,5に気体を供給するので、コストを低減させることができる。
【0026】
〔実施形態の変形〕
なお、本発明は前述の各実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
前記実施形態では、軸受部材5の噴出口の絞り形式がいわゆる多孔質絞りである例を説明したが、軸受部材の噴出口の絞り形式は、いわゆる表面絞りやオリフィス絞り、自成絞りであってもよい。
【0027】
前記実施形態では、気体ダンパ6により測定子41に測定力を付与していたが、ばね等の適宜の手段により測定子41に測定力を付与してもよい。また、気体ダンパ6を設けず、バランスウェイト33のみにより測定子41に測定力を付与してもよい。そして、バランスウェイト33の重みおよび位置を調整することのみにより、測定力を調整するように構成してもよい。
前記実施形態では、シリンダ61が固定部材2に接続され、ピストン62が可動片3に接続されていたが、シリンダ61が可動片3に接続され、ピストン62が固定部材2に接続されていてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明は、表面粗さ測定機、輪郭形状測定機、真円度測定機、および三次元測定機等の表面性状測定機に用いられる表面性状測定機用検出器に利用できる。
【符号の説明】
【0029】
1 表面性状測定機用検出器
2 固定部材
3 可動片
4 スタイラス
5 軸受部材
6 気体ダンパ
31 支軸
32 側面
41 測定子
53 軸受面
54 対向面
61 シリンダ
62 ピストン
611 気体供給口
612 気体排出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の軸受部材と、両側面に前記軸受部材に回動可能に支持される支軸が設けられた可動片と、前記可動片から延出するとともに先端に測定子が設けられたスタイラスとを備えた表面性状測定機用検出器であって、
前記各軸受部材は、前記支軸と所定の隙間を介して配置される軸受面と、前記側面と所定の隙間を介して対向配置される対向面とを備え、
前記軸受面には、前記軸受面と前記支軸との前記隙間に加圧気体を噴出する噴出口が形成され、
前記対向面には、前記対向面と前記側面との前記隙間に加圧気体を噴出する噴出口が形成されている
ことを特徴とする表面性状測定機用検出器。
【請求項2】
請求項1に記載の表面性状測定機用検出器において、
前記軸受部材は、多孔質材であり、前記軸受面で開口する多数の前記噴出口、および前記対向面で開口する多数の前記噴出口を備えている
ことを特徴とする表面性状測定機用検出器。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の表面性状測定機用検出器において、
前記軸受部材を有する固定部材と、
前記固定部材および前記可動片間に設けられた気体ダンパとを備え、
前記気体ダンパは、前記固定部材および前記可動片のうちいずれか一方に接続され、内部に気体を供給する気体供給口および外部に前記気体を排出する気体排出口を備える筒状のシリンダと、前記固定部材および前記可動片のうち他方に接続され、前記シリンダ内に摺動可能に設けられたピストンとを備え、前記可動片を介して前記測定子に測定力を付与する
ことを特徴とする表面性状測定機用検出器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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