説明

表面改質プラスチックフィルムの製造方法

【課題】プラスチック表面に機能性層を幾何学模様等のパターンや絵柄模様等、模様として形成することが可能な表面改質プラスチックフィルムの製造方法の提供。
【解決手段】プラスチックフィルムの少なくとも片面に、樹脂及び/又は無機微粒子を含有する組成物からなる微小な線状体及び/又は粒子状体から構成される表面層を静電噴霧堆積法により形成する表面改質プラスチックフィルムの製造方法において、プラスチックフィルムの裏面側に電極を配置し、かつ該電極の表面が電気伝導度の異なる物質2種以上を組合せてなる表面改質プラスチックフィルムの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防曇性や、耐汚染性、撥水性、特定光線反射性などのいわゆる機能性付与のための樹脂や微粒子を有する表面層を、絶縁性のプラスチックフィルム上に形成した表面改質プラスチックフィルムの製造方法に関するものであり、特にこれらの機能性を付与した表面層が、樹脂や無機微粒子が微小な線状体及び/又は粒子状体として表面上に部分的に形成された表面改質プラスチックフィルムの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、塩化ビニル系樹脂フィルムやオレフィン系樹脂フィルムなどの軟質のプラスチックフィルムに、防曇性や、耐汚染性、撥水性などの機能性を付与するための塗布表面層(塗膜層)を形成したフィルムが、機能性付与フィルムとして、農業用フィルム用途、化粧フィルム等の建材フィルム用途、反射防止フィルムなどの光学機器用途などで知られている。
このような機能性を有する塗膜層の形成には、機能性塗料をロールコーターでフィルム上に塗布する方法(ロールコート)、機能性塗料の溶液槽にフィルムを浸漬して塗布する方法(ディップコート)、ダイスより機能性塗料をフィルム上に押し出し塗布する方法(ダイコート)などが用いられている。
更に最近では、蛋白質などの高分子体を導電体上に堆積し、マイクロチップを作成する方法などに用いられている静電噴霧堆積法(エレクトロスプレーデポジション)などによる塗布も検討されており、フィルムの導電性を向上させることでフィルム上への塗布も可能になってきている(特許文献1)。この静電噴霧堆積法は、表面にナノオーダーサイズで微細な凹凸が形成できるため、上記従来の塗布方法よりもフィルムの機能性が向上することが期待されているが、フィルム上へ塗料等を安定的にスプレーすることが難しく、線状などを不規則(ランダム)に形成することは可能であっても、ロールコートなどで可能であるフィルム上へのパターン塗布、絵柄塗布などができないという問題があった。
【0003】
【特許文献1】特開2005−281679号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
すなわち、本発明の目的は、静電噴霧堆積法によりナノオーダーサイズの凹凸を有する機能性層をフィルム表面に形成する方法において、該機能性層を幾何学模様等のパターンや絵柄模様等、模様として形成することが可能な、表面改質プラスチックフィルムの製造方法を提供することにある。
本発明者等は、静電噴霧堆積法をフィルムへ適用する際の上記欠点を克服すべき鋭意検討した結果、絶縁性フィルムの裏面側(フィルムの噴霧材が噴霧される側と反対側)に電極を配置することで、噴霧性が変化することを見出し、更に、裏面側に配置した電極の電気伝導度を部分的に変えることで、噴霧材の定着位置を制御できることを見出し、本発明に至った。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち本発明の要旨は、(1)プラスチックフィルムの少なくとも片面に、樹脂及び/又は無機微粒子を含有する組成物からなる微小な線状体及び/又は粒子状体から構成される表面層を静電噴霧堆積法により形成する表面改質プラスチックフィルムの製造方法において、プラスチックフィルムの裏面側に電極を配置し、かつ該電極の表面が電気伝導度の異なる物質2種以上を組合せてなることを特徴とする表面改質プラスチックフィルムの製造方法及び(2)プラスチックフィルムの少なくとも片面に、樹脂及び/又は無機微粒子を含有する組成物からなる微小な線状体及び/又は粒子状体から構成される表面層を静電噴霧堆積法により形成する表面改質プラスチックフィルムの製造方法において、プラスチックフィルムの裏面側に電極を配置し、かつ該電極の表面に凹凸が形成されていることを特徴とする表面改質プラスチックフィルムの製造方法に存する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、静電噴霧堆積法により防曇性、耐汚染性などの任意の機能性をフィルムに付与する際、その機能層をフィルム上に幾何学(的)模様や絵柄模様等の模様状に形成することができるため、フィルムに意匠性も付与することが可能となる。更に、裏面側に配置する電極の電気伝導度をナノサイズでパターン化することにより、フィルム表面上にナノサイズの凹凸パターンを形成することも可能となるため、例えば、光学用フィルムへの適用も期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるわけではない。
本発明における表面改質プラスチックフィルムは、基材となるプラスチックフィルムの少なくとも片面に、堆積により形成させた、樹脂及び/又は無機微粒子を含有する組成物からなる微小な線状体及び/又は粒子状体から構成される表面層を有する、表面が改質されたプラスチックフィルムをいい、特に、該表面層が該微小な線状体及び/又は粒子状体からなる幾何学模様や絵柄模様等の模様有するプラスチックフィルムをいう。
【0008】
プラスチックフィルム
本発明において用いられるプラスチックフィルムとしては、一般的な樹脂製のフィルム、特に好ましくは熱可塑性樹脂フィルムが用いられる。該熱可塑性樹脂フィルムは、農業用フィルムや、建材用フィルム、光学機能フィルム、包装用フィルム等に用いられる、通常の熱可塑性樹脂を主成分として作成されたフィルムを言う。軟質フィルムであっても硬質フィルムであってもよいが、特に軟質フィルムが好ましい。
通常のプラスチックフィルム、特に熱可塑性樹脂フィルムは特殊な導電塗料の塗布や練り込みを行わなければたいてい絶縁性である。なお、本発明では、絶縁性とは表面電気抵抗値が108Ω・cmより大であることを意味する。
熱可塑性樹脂としては、塩化ビニル系樹脂や、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体などのポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)などのポリエステル系樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリルスチレン樹脂、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂、メチレンメタクリレート樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂(PPO樹脂)、ポリフェニレンエーテル樹脂(PPE樹脂)、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリアミド樹脂、フッ素樹脂、その他熱可塑性エラストマ−系樹脂などが挙げられるが、中でも、塩化ビニル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂が好ましい。
【0009】
本発明のフィルムとは、一般にフィルム又はシートと呼ばれる範囲の厚さのものを含む意味であり、具体的にはその用途に応じて、0.005mm〜10mmの厚さのものから任意に選択することができる。但し、本発明の静電噴霧堆積法によりフィルム表面に、帯電した樹脂及び/又は無機微粒子を含有する液滴又は線状体の付着を効果的に行うためには、プラスチックフィルムはなるべく薄いフィルムが好ましく、好ましくは0.01mm〜5mm、更に好ましくは0.03mm〜0.5mmの厚さのフィルムを用いることが好ましい。
フィルムは単層のフィルムに限らず、多層フィルムとしてもよい。またその用途に応じて、二種以上の樹脂を用いたり、樹脂種の異なった二層以上の多層フィルムとしてもよい。
【0010】
更に、プラスチックフィルムには静電噴霧堆積法により付着させる樹脂及び/又は無機微粒子を含有する液滴又は線状体の付着力を向上させたり、付着効率を向上させたりする目的で、静電噴霧堆積法による表面処理を行う前に、コロナ処理、プラズマ処理、プライマー処理などの前処理を施してもよい。ここで、プライマー処理で使用する樹脂としては、例えばアクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、シリコン系樹脂、アクリルウレタン系樹脂、アクリルシリコン系樹脂、アクリル変性ポリオレフィン系樹脂、塩化ビニル樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂などを使用することができる。プライマー処理をする場合は、プライマー処理をした後、乾燥が完結する前に静電噴霧堆積法による噴霧材の噴霧を実施することで、樹脂及び/又は無機微粒子を含有する線状体及び/又は粒子状体のより強固な密着性を得ることができる。
プラスチックフィルムには、主成分となる熱可塑性樹脂等の樹脂のほかに、任意の添加剤を添加することが出来る。添加剤としては、例えば可塑剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、熱安定剤、保温剤、滑剤、着色剤、アンチブロッキング剤、防曇剤、防霧剤などが挙げられる。また、前記の絶縁性の範囲を超えない程度で導電剤を塗布又は練り込み配合したものも挙げられる。
【0011】
表面層
本発明の表面改質プラスチックフィルムの表面層は、樹脂及び/又は無機微粒子を含有する組成物からなる微小な線状体及び/又は粒子状体から構成される。プラスチックフィルム表面に噴霧される液体はその組成や粘度等により微小な線状体及び/又は粒子状体となってプラスチックフィルム表面に付着する。本発明において、微小な線状体とは、具体的には、図1に示すように、プラスチックフィルム基材3表面に付着される線状体5をいう。線状体の大きさは、後述する使用装置の条件(印加電圧、流量、ノズル径)や使用する樹脂液の組成等によって調製でき、限定されるものではないが、繊維径としての直径が100μm〜1nm、特に好ましくは10μm〜10nmである。径が小さいほど線状体は一般に透明になるため、透明性を必要とするプラスチックフィルム用途には好ましい。また、本発明における微小な粒子状体の大きさも使用装置の条件や使用する樹脂液等液体の組成等により調製できる。粒子径としての直径が100μm〜1nm、特に好ましくは10μm〜10nmである。
【0012】
該表面層としては、プラスチックフィルムの表面に付着した線状体及び/又は粒子状体が規則的又は不規則的に一重で形成されていてもよく、或いは規則的又は不規則的に幾重にも重なり合って構成されていてもよい。また、該表面層は、均一な厚みで形成されていてもよく、或いは不均一な厚みで形成されていてもよい。ここで、表面層の平均的な厚み(線状体及び/又は粒子状体の付着により形成されている部分の平均的な厚み)は、表面改質プラスチックフィルムの用途や付与する機能によって異なるが、通常は100〜0.001μm、好ましくは50〜0.01μm、特に好ましくは10〜0.1μmである。
【0013】
<組成物>
表面改質プラスチックフィルムの表面層を構成する微小な線状体及び粒子状体は、樹脂及び/又は無機微粒子を含有する組成物からなる。ここで、「樹脂及び/又は無機微粒子」とは「樹脂、無機微粒子又は樹脂及び無機微粒子」を意味する。該表面改質プラスチックフィルムにおいては、主にこの樹脂及び/又は無機微粒子が、基材であるプラスチックフィルムの表面に機能性を付与する役割を有する。組成物が樹脂又は無機微粒子の一方若しくは両方を含有するか、また含有する樹脂の種類や無機微粒子の種類等は、表面改質プラスチックに付与する機能性やその用途、使用するプラスチックフィルムの種類等に応じて適宜選択される。また、付与する機能性としては防曇性、耐汚染性、撥水性、特定光線反射性などが挙げられる。
本発明においては、従来塗布用に知られていた種々の樹脂を使用することができ、例えばアクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、シリコン系樹脂、アクリルウレタン系樹脂、アクリルシリコン系樹脂、アクリル変性ポリオレフィン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、塩化ビニル樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂、フッ素系樹脂などが挙げられる。前述したように、使用する樹脂は、基材となるプラスチックフィルムの種類及び付与する機能により、その種類を適宜選択すればよい。例えば防曇性又は撥水性を付与するためには疎水性又は親水性の樹脂を選択する。
【0014】
また例えば、ポリオレフィン系樹脂製基材フィルムに防曇性を付与する場合は、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂が好ましく、アクリル系樹脂としては水酸基含有ビニルモノマー由来の構造単位を好ましくは60重量%以上有する親水性アクリル系樹脂や、水酸機含有ビニルモノマー由来の構造単位を60重量%未満有する疎水性アクリル系樹脂などが挙げられ、ウレタン系樹脂としては、ポリエーテル系、ポリエステル系、ポリカーボネート系のアニオン性ポリウレタンなどが挙げられる。
特に本発明の静電噴霧堆積法を用いた表面改質プラスチックフィルムの製造方法においては、樹脂の分子量がある程度大きいことが好ましく、重量平均分子量が2万以上、より好ましくは4万以上、更に好ましくは10万以上のものが好ましい。
なお疎水性又は親水性の基準は、被対象物であるプラスチックフィルムに対するものであればよく、通常、表面の濡れ性の指標となる水滴接触角などにより親水性疎水性の程度が測定される。通常は例えば80°以上の水滴接触角を疎水性(又は撥水性)と言い、50°以下の水滴接触角を親水性と言うが、本発明においては、被対象物であるプラスチックフィルムに対して、水滴接触角を小さくする樹脂であれば親水性樹脂に入ると考えてよい。
【0015】
特に本発明の線状体は、その径や密度を調整することにより、プラスチックフィルム表面に部分的に疎水性又は親水性の部分を任意のパターン状に形成して、表面の濡れ性を調整することができるため、種々の防曇性付与効果や、逆に撥水性付与効果が期待できる。
また、本発明で使用する無機微粒子としては、任意の機能性付与のための無機微粒子を採用しうるが、例えば、シリカ、アルミナ、水不溶性リチウムシリケート、水酸化鉄、水酸化スズ、酸化チタン、硫酸バリウム等の無機質コロイドゾルが挙げられ、好ましくはシリカゾル又はアルミナゾルが挙げられる。無機微粒子の平均粒子径は5nm〜10μm程度である。
無機質コロイドゾルとしては、その平均粒子径が5〜200nmの範囲で選ぶのが好ましく、また平均粒子径の異なる2種以上のコロイドゾルを組み合わせて用いてもよい。
【0016】
本発明において、特に防曇性を付与する場合には、アクリル系樹脂とシリカ又はアルミナのコロイド状微粒子を含有する組成物を用いるのが好ましい。
本発明において耐汚染性を付与する場合には、従来より耐汚染性材料として知られているフッ素系樹脂やアクリル系樹脂等を用いることができる。当該樹脂は、本発明の方法により線状体、もしくは粒子状体としてプラスチックフィルム表面に付着することによりその性能が更に向上する。
更に、組成物として、プラスチックフィルムと異なる屈折率を有する樹脂組成物を用いて本発明の線状体とし、その径を調整し、一方向、あるいは複数の方向に規則的に配列させたり、更には、規則性の有する層を多層状に形成させることにより、光の回折、干渉作用を利用して特定波長の光線を反射させることもできるようになる。
これらの組成物は、任意の溶媒に溶解した溶液、又は分散した分散液等の液体にして、噴霧材として後述する静電噴霧堆積装置の噴射ノズルに供給する。
【0017】
<静電噴霧堆積法>
本発明の表面改質プラスチックフィルムは、静電噴霧堆積法を用いた表面処理方法により好適に製造することができる。
本発明でいう静電噴霧堆積法とは、溶液又は分散液などの液体を静電的に帯電させ、帯電した微小な液滴状物質を生成し、被対象物に付着させる方法をいう。例えば特表2002−511792号公報には、蛋白質などの生体高分子から微小なフィルムやスポットを静電噴霧堆積法により形成した例が示されているが、この方法をプラスチックフィルムなどのような大規模な対象物に適用しようとした例は極めて少ない。
本発明における静電噴霧堆積法の具体的な方法としては、(1)基材であるプラスチックフィルム表面に付着しようとする樹脂、無機微粒子又は樹脂と無機微粒子を、揮発性溶媒等の溶媒に溶解した溶液又は分散した分散液を、先端に毛細管を有する噴射ノズルに導入する。(2)該プラスチックフィルムの裏面側に電気伝導度の高い(例えば金属)電極を配置する。本願の実施例においてはプラスチックフィルムと電極は接しているが、プラスチックフィルム表面の意図する位置に線状体及び/又は粒子状体を付着することができるのであれば、離れていてもよい。(3)噴射ノズルに、一定の流量となる圧力をかけつつ、噴射ノズルと裏面側に配置した電極に高電圧を印加する、という方法が挙げられる。前記(1)〜(3)の手順により、噴霧液は、直径が0.数ミクロンから数十ミクロンの帯電された液滴又は線状体としてノズル先端の毛細管から噴出され、静電反発力によりノズル先端から急速に離れ、噴霧された直後の直径より更に微細になりフィルム表面に付着する。
【0018】
なお、噴霧ノズルとプラスチックフィルムの離間距離にもよるが、この過程において、溶液又は分散液等の液体に含まれていた揮発性溶媒はほとんど揮発して、線状体及び/または粒子状体が被対象物に付着するため、その後の乾燥工程も通常は不要であり、従来の溶媒を多量に用いるロールコーター塗布法や浸漬塗布法に比べて汚染や環境問題も少ない。
本発明において用いられる静電噴霧堆積法は、従来行われていた静電塗装などの静電噴霧を利用した技術とは、大枠の原理は類似するものの実際には異なるものである。例えば従来の静電塗装技術は、大量の流量にてノズルから帯電した塗料粉体を噴出し、大粒かつ大量の塗料を、帯電させた被対象物に被覆させる技術であって、数十μmから数百μmといった厚い塗料被膜を形成する技術である。一方、本発明において用いられる静電噴霧堆積法による表面処理技術は、その電圧や流量を任意に制御し、0.数μm〜10μm程度のナノオーダーに近い範囲で表面付着物を制御する方法であり、本発明においては特に、微小な線状体及び/又は粒子状体を被対象物の表面に部分的に付着できる方法である。
また、従来の静電塗装技術などでは、被塗装物がプラスチックなどの絶縁性の場合には、プラスチックに例えばカーボンブラックなどの導電性付与物質を混合して導電性を向上しなければ塗装出来ないのが通常常識であった。しかし、静電噴霧堆積法によれば、通常の絶縁性のプラスチックフィルムであっても、表面に任意の物質を付着させることができる。
【0019】
本発明では、上記静電噴霧堆積法においてプラスチックフィルムの裏面側に配置する電極の表面を電気伝導度の異なる物質2種以上を組み合わせたものにする等、電極表面の材質を部分的に変えたり、或いは電極表面に凹凸を形成することによって、電極表面の電気伝導度を部分的に変え、液体の噴霧される位置を制御することができる(この場合、電気伝導度の高い部分に噴霧材が集中する)。従ってプラスチックフィルム表面に、機能性層を幾何学模様等のパターンや絵柄模様等、意図した模様や形状として形成することができる。電極の表面を電気伝導度の異なる物質2種以上を組み合わせたものにする方法としては、例えばアルミ等の金属製の電極の一部を絶縁性フィルムでマスキングしたり、樹脂バインダーを含むインクでドット等の絵柄を電極表面に印刷したり、図2に示すようにアルミ等の金属製の電極の一部に他の種類の金属をはめ込んだりあるいは貼り付けたり、図3に示すようにアクリル等の樹脂製の板の一部にアルミ等の金属を不連続に貼り付ける等の方法が挙げられる。また、電極表面に凹凸を形成する方法としては、ナノインプリント法等が挙げられる。
【0020】
静電噴霧堆積法に用いる具体的装置としては、図1に概略図を示すように、ノズル先端(1a)に毛細管を有し、圧力下一定流速の液を流出する噴射ノズル1と、そのノズル対面に設置した、被対象物であるプラスチックフィルム3、被対象物の裏面側に配置した電極板2、ノズル先端1aと電極板2の間に設置した電圧を印加可能な装置4が挙げられる。なお、概略図では横方向に記載されているが、実際には噴射ノズルを上方に、プラスチックフィルム3と導電板2を下方に設置し、重力も利用して液が噴霧される装置にすることも可能である。
【0021】
装置に印加する電圧や、液体の流出速度は、使用する液体の粘度や濃度によって、適宜調整することが可能であるが、印加電圧は2〜30kVの範囲、好ましくは10〜20kVの範囲から適用し、ノズル側の電圧は正であっても負であっても良い。印加電圧が高すぎるとノズル先端からコロナ放電が生じる点で好ましくなく、一方、低すぎると静電反発力が小さくなりノズル先端において噴射が起こらない点で好ましくない。
流速は、0〜5.0ml/minの範囲、好ましくは0.01〜0.5ml/minの範囲がよい。また、ノズル先端の直径は、0.05〜5mm、好ましくは0.4〜1mmの範囲が採用される。
静電噴霧堆積法に適用する、溶液や分散液等の液体の物性としては、該液体の電導度として、400mS/m以下、特に好ましくは、100mS/m以下、粘度としては、5mPas〜1900mPas、好ましくは10mPas〜600mPas、表面張力としては、20.0mN/m〜72.0mN/mの範囲のものを使用すると好ましい。
【0022】
電導度が高すぎると、静電噴霧現象が起こらなくなる点で問題がある。粘度が高すぎると噴射ノズルへの液体の供給が難しくなり、低すぎると粒状体が優先的に形成される傾向となる。表面張力が高すぎると静電噴霧が起こりにくくなり、低すぎると噴射ノズル部分に液体を保持することが難しくなる。
これらの物性値は、装置における印加電圧や流量、その他得ようとする線状体や粒子状体の径や密度によってもその適正範囲が異なるので、使用する樹脂や無機微粒子の選定や、その組成比、使用する溶媒種類とその濃度などにより適宜調整することが可能である。
【実施例】
【0023】
<プラスチックフィルム基材>
以下のポリオレフィン系フィルムをプラスチックフィルム基材とした。
フィルムの厚さ:150μm
表面電気抵抗値:3.0×1014 Ω
フィルム組成:ポリエチレン樹脂99.4重量%、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤0.1重量%、ヒンダードアミン系光安定剤0.5重量%
<噴霧材(樹脂液)の調製>
親水性のアクリル系樹脂(ヒドロキシエチルメタアクリレート(HEMA)とメタクリル酸を反応させて得られた、HEMA由来の構造単位を70重量%、メタクリル酸由来の構造単位を30重量%有するアクリル系樹脂)の樹脂液(メタノール溶液、固形分濃度20重量%)を噴霧材とした。
【0024】
電極板の作成
電極板A)アルミ製電極(10cm×10cm、厚さ2mm)の表面に穴をあけ、ステンレス製のネジを貫通させ、ステンレス部分を作成し、電極板Aとした(図2)。
なお、電極板のサイズは10cm×10cmで、スレンレス部分(ネジの頭部分)は直径15mmφである。
電極板B)10cm×10cm、厚さ2mmのアクリル板に幅100μm、厚さ500μmのアルミテープを100μm間隔で縞模様に貼り付け、電極板Bとした(図3)。
【0025】
装置概要
図1に概略図を示すように、ノズル先端1aを有し、一定流速の液を流出可能な噴射ノズル1の対面に、10cm×10cmの電極板2上に、12cm×14cmのプラスチックフィルム基材を戴置し(図では省略してあるが、プラスチックフィルム基材及び電極板はアクリル樹脂製の枠で挟まれ、固定されている)、ノズル1aと電極板2の間に電圧を印加可能な装置を用いた。
噴霧条件)
印加電圧:15kV(ノズル側: 正電圧) 流速:0.02ml/min、ノズルと電極板間距離:10cm ノズル先端の直径:1mm
表面処理
上記の装置と条件を用いて、噴射ノズル内に充填した噴霧材をプラスチックフィルム基材の表面上に噴霧した。
その結果、図4及び図5に示すように、静電噴霧堆積法によりプラスチックフィルム基材上に意図した模様状に表面層を形成することができた。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に用いる装置及び静電噴霧堆積法の概要を示す概念図
【図2】本発明の実施例で用いた電極板Aの概念図
【図3】本発明の実施例で用いた電極板Bの概念図
【図4】本発明の実施例において電極板Aを用いて得られた表面改質プラスチックフィルムの外観写真
【図5】本発明の実施例において電極板Bを用いて得られた表面改質プラスチックフィルムの外観写真
【符号の説明】
【0027】
1・・噴射ノズル、1a・・ノズル先端、2・・電極板、3・・プラスチックフィルム基材、4・・電圧印加装置、5・・線状体、6・・アルミ製電極、7・・ステンレスネジの頭、8・・アクリル板、9・・アルミテープ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチックフィルムの少なくとも片面に、樹脂及び/又は無機微粒子を含有する組成物からなる微小な線状体及び/又は粒子状体から構成される表面層を静電噴霧堆積法により形成する表面改質プラスチックフィルムの製造方法において、プラスチックフィルムの裏面側に電極を配置し、かつ該電極の表面が電気伝導度の異なる物質2種以上を組合せてなることを特徴とする表面改質プラスチックフィルムの製造方法。
【請求項2】
プラスチックフィルムの少なくとも片面に、樹脂及び/又は無機微粒子を含有する組成物からなる微小な線状体及び/又は粒子状体から構成される表面層を静電噴霧堆積法により形成する表面改質プラスチックフィルムの製造方法において、プラスチックフィルムの裏面側に電極を配置し、かつ該電極の表面に凹凸が形成されていることを特徴とする表面改質プラスチックフィルムの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2008−150444(P2008−150444A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−338055(P2006−338055)
【出願日】平成18年12月15日(2006.12.15)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【出願人】(504137956)MKVプラテック株式会社 (59)
【Fターム(参考)】