説明

表面改質二酸化チタン微粒子とその分散液、およびその製造方法

二酸化チタンと、親水性高分子のカルボキシル基とをエステル結合で化学的に修飾することにより、中性付近はもとより幅広いpH領域の水系溶媒への分散性と安定性に優れた、表面改質二酸化チタン微粒子とその分散液を得る。また、本発明の表面改質二酸化チタン微粒子の製造方法は、2〜200nmの二酸化チタン粒子分散液と水溶性高分子溶液を混合し、80〜220℃の加熱により両者をエステル結合させた後、未結合水溶性高分子を除去して、表面改質二酸化チタン微粒子を精製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、二酸化チタンの表面が、カルボキシル基を有する親水性高分子により修飾された表面改質二酸化チタン微粒子であって、該親水性高分子のカルボキシル基と二酸化チタンがエステル結合で結合していることを特徴とする、表面改質二酸化チタン微粒子とその分散液、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
従来、二酸化チタンの等電点はpH6前後といわれており、そのため中性付近の水系溶媒中では二酸化チタン粒子は凝集を生じてしまい、これを均一に分散させることは極めて困難であった。それ故、二酸化チタン粒子を水系の分散媒に均一分散させるため、現在までに種々の工夫がなされてきた。例えば、チタンイソプロポキシドから水酸化チタンの沈殿を生成させ、これを硝酸酸性下において高温で解膠した硝酸酸性の二酸化チタンゾルが提案されている(例えば、Christophe,Barbeら:Journal of the American Ceramics Society,80,3157−3171(1997)、および、Danijela,Vorkapicら:Journal of the American Ceramics Society,81,2815−2820(1998)参照)。また、四塩化チタン水溶液にアンモニア水を滴下して水酸化チタンの沈殿を生成させた後、過酸化水素水を添加して100℃で6時間反応させ、二酸化チタン粒子表面をペルオキソ基で修飾したペルオキソ基修飾二酸化チタンゾルを得る方法(例えば、特開平10−67516号公報参照)、二酸化チタン粒子表面を多孔質シリカにより表面被覆することにより、アルカリ条件下に分散させて安定化させた複合型二酸化チタン微粒子の分散液を得る方法(例えば、特開平11−319577号公報参照)、分散剤としてポリカルボン酸またはその塩を含有することによって、分散性を高めた二酸化チタンの水溶液を得る方法(例えば、特開平02−212315号公報参照)等が提案されている。
また、光触媒粒子を水処理に用いる場合の分離・濃縮を容易にする目的で、磁性材と二酸化チタンを複合させた粒子も提案されている。たとえば、鉄粉を担体として有機溶媒に溶解したチタンアルコキシドを表面に被覆したような粒子(例えば、特開平09−299810号公報参照)や、酸化鉄・シリカ担体に高温処理によってアモルファスあるいは結晶性の二酸化チタンを直接沈着させて、磁性材と二酸化チタン複合粒子を調製する方法(例えば、Watson,Beydounら:Journal of Photochemistry and Photobiology A:Chemistry,148,303−313(2002)参照)が提案されている。
しかしながら、硝酸酸性の二酸化チタンゾルの場合ではゾルのpHを中性あるいはアルカリ性にした時に、凝集あるいは沈殿が生じるなどの問題があった。ペルオキソ基修飾二酸化チタンゾルの場合でもゾルのpHは中性であるものの、ゾルに無機塩類を添加すると凝集あるいは沈殿が生じるなどの問題があった。また、多孔質シリカを表面被覆した二酸化チタン微粒子分散液の場合では、分散液のpHを中性あるいは酸性にするとやはり凝集あるいは沈殿が生じるなどの問題があった。さらに、分散剤を添加して分散性を高めた二酸化チタン水溶液でも、分散剤が光触媒の活性により分解されたり、逆に光触媒の活性が低下する場合があり、また塩が共存すると二酸化チタンが凝集あるいは沈殿を生じるなどの問題点があった。表面の一部に二酸化チタンが存在する上記磁性材との複合粒子においても、同様の現象が生じてしまい、やはり凝集・沈殿が問題となっていた。
一方、強い光活性分解能を有する二酸化チタンを、ドラッグデリバリーシステム(DDS)に応用しようとする試みがなされている(例えば、特開2002−316946号公報、特開2002−316950号公報、R.Caiら:Cancer Research,52,2346−2348(1992)参照)。これは、標的とするガン細胞に二酸化チタンを担持した金などの金属粒子を撃ち込んで取り込ませた後、紫外線等の光を照射してガン細胞を死滅させようとするものである。二酸化チタンは、大気中や溶液中でも極めて安定な物質であり、かつ(遮光された)動物体内では毒性もなく安全なことが知られている。しかも、二酸化チタンの活性化を光のオン・オフで制御することが可能なため、ガン治療等に向けてのDDSへの応用が期待される。
しかしながら、二酸化チタンの等電点は上述したようにpH6前後であり、中性付近の生理的条件下ではやはり二酸化チタン粒子が凝集してしまう問題点があった。このため、二酸化チタン分散液を注射液として直接血管内に投与したり、二酸化チタン粒子そのままをDDSの担体として用いることは不可能であった。
【発明の開示】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討を行い、二酸化チタン微粒子表面に親水性高分子を化学的に結合させて表面改質することにより、中性付近はもとより幅広いpH領域においても水系溶媒への分散性が極めて良好となることを見い出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明の表面改質二酸化チタン微粒子は、その表面にエステル結合を介して親水性高分子を有しており、中性付近はもとより幅広いpH領域の水系溶媒中においても極めて良好な分散性を示すものである。さらに、この特質を利用した表面改質二酸化チタン微粒子の分散液は、水または塩を含む各種pH緩衝液を溶媒として利用可能であり、分散性が極めて良好で安定な分散液である。また、本発明の表面改質二酸化チタン微粒子の製造方法は、2〜200nmの二酸化チタン粒子分散液と水溶性高分子溶液を混合し、80〜220℃の加熱により両者をエステル結合させた後、未結合水溶性高分子を除去して、表面改質二酸化チタン微粒子を精製することを特徴とするものである。
結果として得られた本発明の表面改質二酸化チタン微粒子は、中性に限らず広範囲のpH領域で水系溶媒に分散できる上に、pHの変動や塩の添加に対しても極めて安定である。また、他の機能性物質との複合化が容易であるため、新規な機能を付与した粒子を作製するのに有効である。例えば、本発明の表面改質二酸化チタン微粒子に抗ガン剤を担持し、光スイッチにより抗ガン剤を放出するDDSの開発が可能である。あるいは、体内の病変部に本発明の表面改質二酸化チタン微粒子を直接導入して紫外線等の光を照射すれば、凝集が起こらないため効率的にガン組織等を破壊することも可能となる。さらに、紫外線や太陽光などを照射して光触媒能の酸化還元作用を誘起することにより、種々の有機物や微生物を分解することができる。
【図面の簡単な説明】
図1は、本発明の表面改質二酸化チタン微粒子を示す模式図である。
図2は、本発明の表面改質二酸化チタン微粒子の光触媒活性(メチレンブルーの分解にともなう吸光度の減少として表示)を測定した結果を示す図である。図中○、●、□、■、△は、それぞれ実施例1〜5で作製したポリアクリル酸結合二酸化チタン微粒子(アナターゼ型)を表している。
図3は、本発明の表面改質二酸化チタン微粒子の光触媒活性による、ガン細胞に対する殺細胞性を示すグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明の実施の形態を図面に基づいて具体的に説明する。図1は本発明の表面改質二酸化チタン微粒子を示す模式図である。本発明の表面改質二酸化チタン微粒子1は、二酸化チタン微粒子表面に親水性高分子2を有し、該親水性高分子2のカルボキシル基と二酸化チタンはエステル結合で結合していることを特徴とするものである。これは、二酸化チタン微粒子1表面の二酸化チタンが反応系中の水に水和されて水酸基が生成し、その水酸基と親水性高分子のカルボキシル基とが反応してエステル結合を形成することによるものである。エステル結合の確認方法としては種々の分析方法が適用できるが、例えば赤外分光法によりエステル結合の吸収帯である1700〜1800cm−1付近の赤外吸収の有無で確認することが可能である。この表面改質により、表面改質二酸化チタン微粒子の等電点は、親水性高分子のカルボキシル残基の等電点(pH2.8〜2.9)付近となり、中性の水系溶媒中においても粒子間に電気的斥力が働くため良好な分散性を示すものである。
本発明で用いる二酸化チタン粒子としては、結晶系がアナダーゼ型でもルチル型であっても良い。これは、結晶系が異なっていても水和されて水酸基が生成するという化学的性質が同一であれば表面改質が可能なためである。強い光触媒能が所望であればアナターゼ型を、あるいは化粧料のように高屈折率等の性質が所望であればルチル型を、適宜好適に選択できる。また、同様な理由から、単一の二酸化チタン粒子だけでなく、二酸化チタンと磁性材とからなる複合二酸化チタン粒子も好適に使用される。さらに、その使用形態の自由度の観点から、これらの分散粒経は2〜200nmであることが望ましい。これは、粒径が200nmよりも大きくなると微粒子に作用する重力の効果も大きくなるため、より沈降しやすくなるためである。
また、本発明の表面改質二酸化チタン微粒子は、親水性高分子が水溶性高分子であることを特徴としている。これは、本発明が表面改質二酸化チタン微粒子を水溶液中に分散した状態で使用することを想定しており、したがって本発明で用いる親水性高分子としては水溶性高分子が望ましいためである。水溶性高分子としては複数のカルボキシル基を有するものであればいずれも使用可能であるが、例えばカルボキシメチルデンプン、カルボキシメチルデキストラン、カルボキシメチルセルロース、ポリカルボン酸類、およびカルボキシル基単位を有する共重合体(コポリマー)などが挙げられる。具体的には、水溶性高分子の加水分解性および溶解度の観点から、ポリアクリル酸、ポリマレイン酸等のポリカルボン酸類、およびアクリル酸/マレイン酸やアクリル酸/スルフォン酸系モノマーの共重合体(コポリマー)がより好適に使用される。
また、本発明の表面改質二酸化チタン微粒子の分散液は、前記表面改質二酸化チタン微粒子が水系溶媒に分散していることを特徴とする。これは、水系の分散媒体中では、表面改質二酸化チタン微粒子表面上に存在するカルボキシル残基のプロトンが解離した状態になっており、粒子間に電気的斥力が働くために凝集することなく、長期間にわたって安定に存在することによる。しかも、基本的にpHの変動や無機塩類の添加に対しても極めて安定である。さらに、本発明の表面改質二酸化チタン微粒子の等電点は、該親水性高分子のカルボキシル残基の等電点(pH2.8〜2.9)付近となっている。したがって、pH3以上の水系分散媒中ではpHが上昇するにつれて粒子間に働く電気的斥力が増大するため、pHが3〜13の水系分散媒中で極めて良好な分散性を示すものである。これらのことから、本分散液は前記水系溶媒としてpH緩衝液を利用することが可能である。すなわち、本発明の表面改質二酸化チタン微粒子は、pHが3〜13の範囲であればいかなる緩衝成分が水系分散媒に含有されていても良好な分散性を示すものである。ここで使用され得る好適な緩衝液としては、グリシン緩衝液、酢酸緩衝液、リン酸緩衝液(PBSを含む)、炭酸緩衝液、マッキルベインの緩衝液、グッドの緩衝液、ホウ酸緩衝液などが挙げられる。中性付近の緩衝液が使用できるということは、バイオテクノロジー分野や医薬医療分野における応用に対して極めて有利である。なお、上記の良好な分散性を維持するために、分散液中の表面改質二酸化チタン微粒子のカルボキシル基/二酸化チタン量比(mol/g)は、反応条件により異なるが概ね2×10−3以上であるのが好ましい。
また、本発明の表面改質二酸化チタン微粒子の製造方法は、二酸化チタン微粒子表面に親水性高分子を結合させる反応において、(1)二酸化チタンゾルを溶媒に分散させる工程と、(2)親水性高分子を溶媒に分散させる工程と、(3)これらの分散液を混合する工程と、(4)この混合液を加熱する工程と、(5)表面改質二酸化チタン微粒子と未結合親水性高分子とを分離する工程と、(6)表面改質二酸化チタン微粒子を精製する工程とからなることを特徴とする。
本発明で用いる二酸化チタンゾルとしては、チタンテトライソプロポキシド等を原料として合成することも、無機酸で解膠した既存の酸性二酸化チタンゾルを使用することも可能である。一方、(1)、(2)で用いる溶媒は、二酸化チタンゾルおよび親水性高分子共に溶解できるものが好適である。これは、二酸化チタンが溶媒中で凝集すると親水性高分子との結合反応が起こりうる表面積が減少するため、反応終了後の水系溶媒に対する分散粒径が増大して分散性も悪化するからである。さらに、ここで用いる溶媒として二酸化チタン粒子表面と反応性を有するものは不適である。特に、水酸基を含有するアルコール類は加熱すると二酸化チタン粒子表面とエーテル結合を形成するため、目的とする親水性高分子との結合反応を阻害する。この場合、二酸化チタン粒子の表面特性は使用するアルコールの特性に依存し、水系の分散媒に対する分散性が著しく低下する。本発明で使用する溶媒は上記反応性の点から、非プロトン性極性溶媒であるジメチルホルムアミド、ジオキサン、もしくはジメチルスルホキシドを使用することが好ましいが、溶媒の揮発性の観点からジメチルホルムアミドを使用することがより好適である。
次に、(3)前記溶媒の二酸化チタン分散液と、親水性高分子分散液とを混合して攪拌を行い、二酸化チタンと親水性高分子が均一に分散した分散液を作製する。この際、二酸化チタン分散液に直接親水性高分子を添加すると二酸化チタンの凝集を引き起こす場合があるので、各分散液をそれぞれ作製してから混合することが望ましい。
次いで、(4)この混合液を加熱して結合反応を行うが、この際二酸化チタンと親水性高分子との比率を適宜選択すれば加圧しなくとも反応は進行する。しかしながら、加圧すると反応がより促進されるため、加圧下で反応を進行させる方が望ましい。この際、親水性高分子としてポリアクリル酸(平均分子量:5000)を用いた場合では、分散性をより好適にするためポリアクリル酸の終濃度を0.4mg/ml以上とするのが好ましい。本発明の製造方法においては、前記加熱温度が80〜220℃であることを特徴としている。加熱温度が80℃よりも低い場合は親水性高分子の結合量が低下して水系溶媒への分散性が低下する。また、加圧下で反応を行う場合では、加熱温度が220℃を超えると反応容器の密閉性の問題から不適である。さらに、水の沸点以上の温度で反応を進行させる場合では、二酸化チタンゾルに含まれる水分が完全に反応系外に揮散されると二酸化チタンが凝集するので、加圧下で反応を進行させる方が望ましい。一方、反応液中の水分含量が高すぎると逆に反応を阻害する場合があることから、反応液中の水分含量は反応条件によって異なるが概ね4%以下が望ましい。
次に、(5)生成した表面改質二酸化チタン微粒子と未結合親水性高分子を分離する。分離する手段としては、透析法、限外濾過法、ゲル濾過クロマトグラフィー法、あるいは沈殿法などが好適に使用できるが、透析法や限外濾過法で分離する場合では使用した親水性高分子の分子量に合致した透析膜または限外濾過膜を使用する必要がある。すなわち、上記のいずれの方法でも分離可能であるが、操作の簡便性から沈殿法を利用することが望ましい。沈殿法には、等電点を利用する方法と塩析を利用する方法があり、いずれも好適に用いることができる。
等電点沈殿を利用する場合には、反応終了後にエバポレータで反応溶媒を減圧除去した後、水を添加して攪拌すると表面改質二酸化チタン微粒子は分散する。この分散液に無機酸を添加して分散液のpHを2.8以下にすると、表面改質二酸化チタンは表面の負電荷を失い凝集する。一方、粒子と結合していない親水性高分子は凝集せずに分散液中に残存するため、この溶液を遠心して未結合親水性高分子を除去することが可能となる。
また、塩析を利用する場合には、反応終了後に反応液を分液漏斗に回収し、水と層分離する有機溶媒を添加して攪拌混合を行う。層分離が完了すると、水層には表面改質二酸化チタンが含まれ、有機溶媒層には反応に用いた非プロトン系有機溶媒が含まれる。水層を分離した後、塩強度を高くしてポリエチレングリコール等の高分子を適当量添加すると、塩析により表面改質二酸化チタンの沈殿が生じる。この溶液を遠心して上清を除去すれば、表面改質二酸化チタン微粒子が得られる。
次いで、(6)沈殿した表面改質二酸化チタン微粒子を水を用いて洗浄後、表面改質二酸化チタン微粒子をpH3〜13、より好ましくはpH5〜12の水系溶媒に懸濁する。ここで使用する水系溶媒としては、水、所望のpH緩衝液、またはアルカリ性水溶液を好適に利用できる。また、この懸濁液を攪拌または超音波照射により表面改質二酸化チタン微粒子を均一に分散させ、脱塩後乾燥すると表面改質二酸化チタン微粒子の乾燥粉体を得ることができる。取扱いが簡便で安定な粉体を製造出来ることは、表面改質二酸化チタン微粒子を種々の用途に応用する際極めて有利である。
さらに、二酸化チタンと磁性材とからなる複合二酸化チタン微粒子の場合も、二酸化チタンが微粒子の表面に露出していれば、溶媒中での特性は単一の二酸化チタンと近似しているために、上記と同一の製造法、精製法を適用することができる。この表面改質複合二酸化チタン微粒子は磁性を有しているため、例えば水中の有害物質の分解処理等への応用に際し、処理後に磁石によって該微粒子を容易に回収できるため、極めて有用である。
以下、本発明を以下の実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
二酸化チタン粒子へのポリアクリル酸の導入(その1)
チタンテトライソプロポキシド3.6gとイソプロパノール3.6gを混合し、氷冷下で60mlの超純水に滴下して加水分解を行った。滴下後に室温で30分間攪拌した。攪拌後、12N硝酸1mlを滴下して80℃で8時間攪拌を行い、ペプチゼーションした。ペプチゼーション終了後0.45μmのフィルターで濾過し、さらに脱塩カラム(PD10;アマシャム・ファルマシア・バイオサイエンス)を用いて溶液交換して固形成分1%の二酸化チタンゾルを調製した。この分散液を100ml容のバイアル瓶に入れ、200Hzで30分間超音波処理を行った。超音波処理を行う前後の平均分散粒経はそれぞれ、36.4nm、20.2nmであった。超音波処理後、溶液を濃縮して固形成分20%の二酸化チタンゾルを調製した。得られた二酸化チタンゾル0.75mlを20mlのジメチルホルムアミド(DMF)に分散させ、ポリアクリル酸(平均分子量:5000、和光純薬)0.3gを溶解したDMF10mlを添加後、攪拌して混合した。水熱反応容器(HU−50、三愛科学)に溶液を移し変え、180℃で6時間合成を行った。反応終了後、反応容器温度が50℃以下になるまで冷却し、溶液を取り出した後に水120mlを添加して攪拌混合した。エバポレータでDMFおよび水を除去した後に、再度、水20mlを添加してポリアクリル酸結合二酸化チタン水溶液とした。2Nの塩酸1mlを添加してポリアクリル酸結合二酸化チタン微粒子を沈殿させ、遠心後に上清を除去することにより未反応のポリアクリル酸を分離した。再度水を添加して洗浄を行い、遠心後に水を除去した。50mMリン酸緩衝液(pH7.0)を10ml添加後、200Hzで30分間超音波処理を行い、ポリアクリル酸結合二酸化チタン微粒子を分散させた。超音波処理後、0.45μmのフィルターで濾過して、固形成分1.5%のポリアクリル酸結合二酸化チタン水溶液を得た。作製したポリアクリル酸結合二酸化チタン微粒子の分散粒径を測定したところ、45.9nmであった。得られたポリアクリル酸結合二酸化チタン水溶液を脱塩カラムPD10で脱塩後100℃で乾燥して、ポリアクリル酸結合二酸化チタン微粒子(アナターゼ型)を得た。
【実施例2】
二酸化チタン粒子へのポリアクリル酸の導入(その2)
二酸化チタンゾルとして硝酸酸性アナターゼゾルのSTS−01(石原産業株式会社、固形分濃度:20%)を使用したこと以外、実施例1と全く同様の方法でポリアクリル酸結合二酸化チタン微粒子を合成し、固形成分1.5%のポリアクリル酸結合二酸化チタン水溶液を得た。作製したポリアクリル酸結合二酸化チタン微粒子の分散粒径を測定したところ、66.6nmであった。得られたポリアクリル酸結合二酸化チタン水溶液を脱塩カラムPD10で脱塩後100℃で乾燥して、ポリアクリル酸結合二酸化チタン微粒子(アナターゼ型)を得た。
【実施例3】
二酸化チタン粒子へのポリアクリル酸の導入(その3)
合成温度を220℃にしたこと以外、実施例2と全く同様の方法でポリアクリル酸結合二酸化チタン微粒子を合成し、固形成分1.5%のポリアクリル酸結合二酸化チタン水溶液を得た。作製したポリアクリル酸結合二酸化チタン微粒子の分散粒径を測定したところ、66.1nmであった。得られたポリアクリル酸結合二酸化チタン水溶液を脱塩カラムPD10で脱塩後100℃で乾燥して、ポリアクリル酸結合二酸化チタン微粒子(アナターゼ型)を得た。
【実施例4】
二酸化チタン粒子へのポリアクリル酸の導入(その4)
合成温度を130℃にしたこと以外、実施例2と全く同様の方法でポリアクリル酸結合二酸化チタン微粒子を合成し、固形成分1.5%のポリアクリル酸結合二酸化チタン水溶液を得た。作製したポリアクリル酸結合二酸化チタン微粒子の分散粒径を測定したところ、67.4nmであった。得られたポリアクリル酸結合二酸化チタン水溶液を脱塩カラムPD10で脱塩後100℃で乾燥して、ポリアクリル酸結合二酸化チタン微粒子(アナターゼ型)を得た。
【実施例5】
二酸化チタン粒子へのポリアクリル酸の導入(その5)
合成温度を80℃にしたこと以外、実施例2と全く同様の方法でポリアクリル酸結合二酸化チタン微粒子を合成し、固形成分1.5%のポリアクリル酸結合二酸化チタン水溶液を得た。作製したポリアクリル酸結合二酸化チタン微粒子の分散粒径を測定したところ、67.9nmであった。得られたポリアクリル酸結合二酸化チタン水溶液を脱塩カラムPD10で脱塩後100℃で乾燥して、ポリアクリル酸結合二酸化チタン微粒子(アナターゼ型)を得た。
【実施例6】
二酸化チタン粒子へのポリアクリル酸の導入(その6)
チタンテトライソプロポキシド3.6gとイソプロパノール3.6gを混合し、氷冷下で60mlの超純水に滴下して加水分解を行った。滴下後に室温で30分間攪拌した。攪拌後、12N硝酸を1ml滴下して80℃で8時間攪拌を行い、ペプチゼーションした。ペプチゼーション終了後、0.45μmのフィルターで濾過し、脱塩カラムPD10を用いて溶液交換して固形成分1%の二酸化チタンゾルを調製した。この分散液を100ml容のバイアル瓶に入れ、200Hzで30分間超音波処理を行った。超音波処理を行う前と後での平均分散粒経はそれぞれ、36.4nm、20.2nmであった。超音波処理後、溶液を濃縮して固形成分20%の二酸化チタンゾルを調製した。得られた二酸化チタンゾル0.75mlを20mlのジメチルホルムアミド(DMF)に分散させ、ポリアクリル酸(平均分子量:5000、和光純薬)0.3gを溶解したDMF10mlを添加後、攪拌して混合した。水熱反応容器(HU−50、三愛科学)に溶液を移し変え、180℃で6時間合成を行った。反応終了後、反応容器温度が50℃以下になるまで冷却し、分液ロートに溶液を取り出した後、水10mlを添加して攪拌混合した。次いで、クロロホルムを40ml加え、攪拌混合した後下層を除去し、上層を回収した。このステップを2回繰り返し、DMFを除去した。この溶液10mlに1.5MのNaClを10ml、20%(w/v)ポリエチレングリコール6000(和光純薬)を加え、遠心後に上清を除去した。沈殿に2.5mlの水を加え、SephadexG−25カラム(アマシャム・ファルマシア・バイオサイエンス)によるゲルろ過を行い、ポリアクリル酸結合二酸化チタン微粒子(アナターゼ型)の分散液を得た。
【実施例7】
二酸化チタン粒子へのポリアクリル酸の導入(その7)
チタンテトライソプロポキシド3.6gとイソプロパノール3.6gを混合し、氷冷下で60mlの超純水に滴下して加水分解を行った。滴下後に室温で30分間攪拌した。攪拌後、12N硝酸を1ml滴下して80℃で8時間攪拌を行い、ペプチゼーションした。ペプチゼーション終了後、0.45μmのフィルターで濾過し、脱塩カラムPD10を用いて溶液交換して固形成分1%の二酸化チタンゾルを調製した。この分散液を100ml容のバイアル瓶に入れ、200Hzで30分間超音波処理を行った。超音波処理を行う前と後での平均分散粒経はそれぞれ、36.4nm、20.2nmであった。超音波処理後、溶液を濃縮して固形成分20%の二酸化チタンゾルを調製した。得られた二酸化チタンゾル0.75mlを20mlのジメチルホルムアミド(DMF)に分散させ、ポリアクリル酸(平均分子量:5000、和光純薬)0.3gを溶解したDMF10mlを添加後、攪拌して混合した。水熱反応容器(HU−50、三愛科学)に溶液を移し変え、150℃で5時間合成を行った。反応終了後、反応容器温度が50℃以下になるまで冷却し、反応液に対して2倍量のイソプロパノール(和光純薬)を添加した。室温で30分間静置後、遠心分離により沈殿を回収した。回収した沈殿を70%エタノールで洗浄後、2.5mlの水を加えてポリアクリル酸結合二酸化チタン微粒子(アナターゼ型)の分散液を得た。
【実施例8】
二酸化チタン粒子へのポリアクリル酸の導入(その8)
平均分子量2000および3500のポリアクリル酸を用いたこと以外、実施例7と全く同様の方法でポリアクリル酸結合二酸化チタン微粒子を合成した。平均分子量2000および3500のポリアクリル酸を用いた場合でも、ポリアクリル酸結合二酸化チタン微粒子(アナターゼ型)の分散液はいずれも良好な分散性を示し好適であった。
【実施例9】
磁性材/酸化チタン複合微粒子へのポリアクリル酸の導入
セパラブルフラスコ内にポリオキシエチレン(15)セチルエーテル(C−15:日本サーファクタント工業)を45.16gを溶解させて5分間窒素置換した後、シクロヘキセン(和光純薬)75mlを添加、0.67MのFeCl(和光純薬)水溶液3.6mlを添加し、250rpmで攪拌しながら30%アンモニア水溶液5.4mlを添加し、1時間反応させた。その後、50mMテトラエチルオルソシリケイト水溶液(和光純薬工業)を0.4ml滴下して1時間反応させた。その後、チタンテトライソプロポキシド(和光純薬工業)を最終濃度5mMになるように加えた。50%(w/v)エタノール水溶液10mlを1mlずつ10分間隔で添加した。水溶液を遠心分離し、沈殿物を350℃で2時間焼成した。焼成後、10mM硝酸水溶液に分散させて超音波処理後、0.1μmのフィルターでろ過した。得られた磁性材/酸化チタン複合体ゾル0.75mlを20mlのジメチルホルムアミド(DMF)に分散させ、ポリアクリル酸(平均分子量:5000、和光純薬)0.3gを溶解したDMF10mlを添加後、攪拌して混合した。水熱反応容器(HU−50、三愛科学)に溶液を移し変え、180℃で6時間合成を行った。反応終了後、反応容器温度が50℃以下になるまで冷却し、分液ロートに溶液を取り出した後、水10mlを添加して攪拌混合した。次いで、クロロホルムを40ml加え、攪拌混合した後下層を除去し、上層を回収した。このステップを2回繰り返し、DMFを除去した。この溶液10mlに1.5MのNaClを10ml、20%(w/v)ポリエチレングリコール6000(和光純薬)を加え、遠心後に上清を除去した。沈殿に2.5mlの水を加え、SephadexG−25カラム(アマシャム・ファルマシア・バイオサイエンス)によるゲルろ過を行い、ポリアクリル酸結合磁性材/二酸化チタン複合微粒子(アナターゼ型)の分散液を得た。本分散液は白濁も生ぜず、微粒子が良好に分散しており単一の二酸化チタンの場合と同様に好適な分散液であった。
【実施例10】
二酸化チタン粒子へのアクリル酸/スルフォン酸共重合体の導入
実施例7の工程中で得られた固形成分20%の二酸化チタンゾル0.75mlを10mlのDMFに分散させ、アクリル酸/スルフォン酸系モノマー共重合体(日本触媒製GL386、平均分子量:5000、陽イオン交換樹脂によりナトリウムをプロトンに置換して凍結乾燥した標品)0.3gを溶解したDMF10mlを添加した後、撹拌して混合した。水熱反応容器(HU−50、三愛科学)に混合液を移し変え、150℃で5時間合成を行った。反応終了後、反応容器が室温になるまで冷却して反応液に対して2倍量のイソプロパノール(和光純薬)を添加した。室温で30分間静置後、遠心分離により沈殿を回収した。沈殿を70%エタノールで洗浄後、2.5mlの水を加えてアクリル酸/スルフォン酸共重合体結合二酸化チタン微粒子(アナターゼ型)の分散液を得た。本分散液は白濁も生ぜず、微粒子が良好に分散しておりポリアクリル酸の場合と同様に好適な分散液であった。
【実施例11】
ポリアクリル酸結合二酸化チタン微粒子の分散性に及ぼすポリアクリル酸濃度の影響
実施例7の工程中で得られた固形成分20%の二酸化チタンゾル0.75mlを10mlのDMFに分散させて、異なる重量のポリアクリル酸(平均分子量:5000、和光純薬)を含むDMF溶液5mlを添加後、撹拌して混合した。水熱反応容器(HU−50、三愛科学)に溶液を移し変え、150℃で5時間合成を行った。反応終了後、それぞれの溶液の性状を観察したところ、ポリアクリル酸の終濃度として0.4mg/ml以上の場合は、良好に分散したポリアクリル酸結合二酸化チタン微粒子の分散液が得られた。一方、これ以下のポリアクリル酸濃度の場合は、一応分散はしているものの白濁しており粒子径も大きい分散液となった。したがって、上記反応条件下では、ポリアクリル酸は終濃度として0.4mg/ml以上が必要であることが分かった。
【実施例12】
ポリアクリル酸結合二酸化チタン微粒子の分散性に及ぼす水分含量の影響
実施例7の工程中で得られた固形成分20%の二酸化チタンゾル0.75mlを10mlのDMFに分散させて、異なる水分量を含む30mg/mlのポリアクリル酸(平均分子量:5000、和光純薬)DMF溶液5mlを添加後、撹拌して混合した。混合液を水熱反応容器(HU−50、三愛科学)に移し変え、150℃で5時間合成を行った。反応終了後、それぞれの溶液の性状を観察したところ、水分量が最終的に4%以下の場合は、良好に分散したポリアクリル酸結合二酸化チタン微粒子の分散液が得られた。一方、5%以上の水分量の場合は、一応分散はしているものの白濁しており粒子径も大きい分散液となった。したがって、上記反応条件下では、反応時の水分量は終濃度として4%以下が好ましいことが分かった。
【実施例13】
ポリアクリル酸結合二酸化チタン微粒子のイソプロパノールに対する溶解性
ポリアクリル酸1gを10mlのDMFに溶解したものを、溶液(A)とした。実施例7の工程中で得られた固形成分20%の二酸化チタンゾル0.25mlを10mlのDMFに分散させたものを、溶液(B)とした。また、実施例7の工程中で得られた固形成分20%の二酸化チタンゾル0.25mlと20%(w/v)ポリアクリル酸1gを10mlのDMFに分散させたものを、溶液(C)とした。さらに、溶液(C)を150℃で5時間反応させたポリアクリル酸結合二酸化チタン微粒子の分散液を、溶液(D)とした。(A)〜(D)の各溶液に2倍量のイソプロパノールを添加して撹拌後静置し、沈殿の生成を確認した。その結果、溶液(A)〜(C)はいずれもイソプロパノールに可溶性であったが、溶液(D)のみが沈殿を生じた。このことは、ポリアクリル酸(A)、二酸化チタンゾル(B)、ポリアクリル酸と二酸化チタンゾルの混合液(C)はいずれもイソプロパノールに可溶であるが、ポリアクリル酸結合二酸化チタン微粒子(D)は不溶であることを示している。すなわち、溶液(C)と(D)の比較において、二酸化チタンゾルに分散剤としてのポリアクリル酸を単に添加した系(C)では、両者は化学的に反応しておらず、それぞれ独立にイソプロパノールに対して溶解性を示したものと考えられる。一方、溶液(D)では二酸化チタンとポリアクリル酸は水和反応により化学的にエステル結合しており、酸化チタン微粒子表面に結合したポリアクリル酸の無数のカルボキシル残基の親水性により、イソプロパノールに対して不溶性を示したものと考えられる。
【実施例14】
ポリアクリル酸結合二酸化チタン微粒子の中性溶液における安定性
実施例13で用いた(A)〜(D)と同組成の各溶液を用いて、中性溶液におけるそれぞれの安定性を評価した。すなわち、(A)〜(D)の各溶液を200mMリン酸緩衝液(pH7.0)で10倍に希釈して撹拌後静置し、沈殿生成の有無を観察した。その結果、二酸化チタンゾルを含む溶液(B)と(C)は沈殿を生じたが、溶液(A)と(D)では沈殿を生じなかった。これは二酸化チタンの等電点が中性付近にあるため、溶液(B)と(C)では二酸化チタンが凝集してしまい沈殿を生じたと考えられる。一方、溶液(D)では、二酸化チタン表面は無数のカルボキシル残基により修飾されているため、微粒子全体の等電点はpH2.8前後となっており、中性溶液中でも均一に分散された状態を保持している。すなわち、溶液(C)と(D)の比較において実施例13と14の結果から、ポリアクリル酸結合二酸化チタン微粒子は、ポリアクリル酸の添加で単に分散性を高められた状態の二酸化チタン微粒子とは、全く異なる物性を示すことが分かった。
【実施例15】
ポリアクリル酸二酸化チタン微粒子のpH安定性の評価
実施例1〜7で得られたポリアクリル酸結合二酸化チタン微粒子を水に分散させ、溶液のpHを塩酸と水酸化ナトリウムを使用してpH3からpH13までpH1刻みで変化させて、ポリアクリル酸二酸化チタン微粒子の凝集あるいは沈殿が生じるかを観察した。pHを変化させた水溶液を4000rpmで遠心を行い凝集の有無を確認したが、いずれのpHにおいても各粒子の凝集あるいは沈殿は観察されなかった。
【実施例16】
ポリアクリル酸結合二酸化チタン微粒子の赤外分光(FT−IR)分析
遊離のポリアクリル酸を完全に除去した精製ポリアクリル酸結合二酸化チタン微粒子の分散液を凍結乾燥し、常法にしたがいKBr錠を作製した。赤外分光光度計(FTS−65A、日本バイオラッド・ラボラトリーズ社)を用いて、これのFT−IRを測定した。表1にポリアクリル酸結合二酸化チタン微粒子の特徴的な吸収を示す。表1において、a.分子間水素結合したO−H伸縮振動による大きくブロードな吸収が2500〜3500cmに認められる、b.(二酸化チタンには無い)メチレンの伸縮振動による2900cm−1付近の吸収がある、c.(二酸化チタンには無い)エステル結合のC=O伸縮振動による1720cm−1の吸収がある、d.低波数側に(二酸化チタンには無い)ポリアクリル酸由来の変角振動の吸収がある等から、合成したポリアクリル酸結合二酸化チタン微粒子は確かに二酸化チタンとポリアクリル酸がエステル結合を介して化学結合していることが確認された。なお、カルボン酸のC=O伸縮振動による吸収ピークはエステルより低波数側に出るため、1650cm−1の大きな二酸化チタンの吸収ピークと重複しているものと考えられる。一方、水熱反応を行わずに二酸化チタンゾルに単に分散剤としてポリアクリル酸を添加した系から、ポリアクリル酸を完全に除去して凍結乾燥したもののFT−IRスペクトルは、二酸化チタン自体のスペクトルとほぼ同一であった。すなわち、実施例13〜15および本実施例のFT−IRの分析結果から、本発明のポリアクリル酸結合二酸化チタン微粒子は二酸化チタンとポリアクリル酸とがエステル結合により強固に結合しているのに対し、二酸化チタンに単に分散剤としてポリアクリル酸を添加したものは、両者が化学的に結合しておらず、単に静電気的な相互作用により分散性を改善しているにすぎないことが判明した。

【実施例17】
ポリアクリル酸結合二酸化チタン微粒子分散液の二酸化チタン含量の測定
実施例7で得られたポリアクリル酸結合二酸化チタン微粒子の分散液を110℃で1時間加熱乾燥し、さらに4時間強熱して完全に灰化した。これをシリカゲルデシケータ中で冷却し、前記分散液中の正味の二酸化チタン量として質量を測定した。その結果、前記分散液は、8.82%(w/v)の二酸化チタンを含むことが示された。
【実施例18】
ポリアクリル酸結合二酸化チタン微粒子分散液のカルボン酸含量の測定
実施例7で得られたポリアクリル酸結合二酸化チタン微粒子の分散液1mlに、水100mlと0.1MのNaOH標準液20mlを添加した。充分に撹拌混合した後、0.1MのHCl標準液により残余のNaOHを逆滴定し、ポリアクリル酸結合二酸化チタン微粒子のカルボキシル基含量を求めた。その結果、前記分散液1mlは3.08×10−4molのカルボキシル基を含むことが示された。実施例16および17の結果から、前記分散液のカルボキシル基/二酸化チタン量比は、3.08×10−2(mol/g)であった。同様に、実施例8で得られた分子量2000のポリアクリル酸を用いて合成したポリアクリル酸結合二酸化チタン微粒子の分散液の場合では、カルボキシル基/二酸化チタン量比は2.64×10−2(mol/g)であった。さらに検討を重ねた結果、ポリアクリル酸結合二酸化チタン微粒子分散液の均一な分散性を確保するためには、前記カルボキシル基/二酸化チタン量比は2×10−3(mol/g)以上が好ましいことが判明した。
【実施例19】
ポリアクリル酸結合二酸化チタン微粒子(アナターゼ型)の光触媒活性の評価
実施例1〜5で得られたポリアクリル酸結合二酸化チタン微粒子(アナターゼ型)を固形成分が0.02%になる様に50mMリン酸緩衝液(pH7.0)で希釈した。メチレンブルー三水和物(和光純薬)を40μMになる様に水溶液に添加した。攪拌しながら、本水溶液に波長340nmの紫外光を1.5mW/cmになるように照射し、580nmにおける波長の吸収を紫外−可視光分光光度計により測定した。結果を図2に示した。全ての試料で紫外線照射時間の経過と共にメチレンブルーの分解にともなう吸光度の減少が認められることから、実施例1〜5で得られたポリアクリル酸結合二酸化チタン微粒子(アナターゼ型)が光触媒活性を保持していることは明らかである。
【実施例20】
ポリアクリル酸結合二酸化チタン微粒子(アナターゼ型)の殺菌活性の評価
実施例1で得られたポリアクリル酸結合二酸化チタン微粒子(アナターゼ型)を固形成分が1.0%になるように50mMリン酸緩衝液(pH7.0)で調整した。大腸菌をLBブロスで37℃、一晩培養した後、培養液を遠心分離し、菌体を50mMリン酸緩衝液(pH7.0)で洗浄し、培養液と等量の50mMリン酸緩衝液(pH7.0)に懸濁した。これをさらに50mMリン酸緩衝液(pH7.0)で100倍希釈したものを試験用菌液とした。この試験用菌液に上記ポリアクリル酸結合二酸化チタン微粒子を最終濃度が0.1%になるように添加した。試験用菌液とポリアクリル酸結合二酸化チタン微粒子の混合液を液深3mmになるように小型シャーレに入れ、ブラックライト照射(線量:900μW/cm)下、室温で静置した。また、ポリアクリル酸結合二酸化チタン微粒子を添加しないものを対照1として同様にブラックライト照射した。照射前、照射2時間後、4時間後に上記試験液の一部を採取し、LB寒天培地を用いた常法に従って菌数を計数した。また、ポリアクリル酸結合二酸化チタン微粒子を最終濃度0.1%となるように試験溶菌液に加え、遮光して静置したものを対照2とし、上記と同様の時間で菌数計数を行った。その結果を表2に示す。ポリアクリル酸結合二酸化チタン微粒子(アナターゼ型)を添加してブラックライトを照射した系では経時的な菌数減少が認められ、本微粒子が光触媒活性に付随する抗菌性を保持していることは明らかである。

【実施例21】
ガン細胞に対する殺細胞性の評価
実施例1で得られたポリアクリル酸結合二酸化チタン微粒子(アナターゼ型)を、固形分が1.0%になるようにPBS緩衝液(pH6.8)で調整した。2種類の培養ガン細胞(Raji、Jurkat)を、10%血清を含むRPMI1640培地(GIBCO社製)で37℃、5%二酸化炭素雰囲気下で培養し、5.8×10の細胞液を調製した。これを再度20時間同条件で培養し、試験用細胞液とした。この試験用細胞液に、上記ポリアクリル酸結合二酸化チタン微粒子分散液を終濃度で0.1%になるように添加し、試験液とした。この試験液を液深3mmになるように小型シャーレに注ぎ、ブラックライト(UV)照射下(線量:900μW/cm)室温で静置した。また、ポリアクリル酸結合二酸化チタン微粒子を添加せずUVも照射しないものをブランク(未処理)、ポリアクリル酸結合二酸化チタン微粒子を添加後UVを照射しないもの、およびポリアクリル酸結合二酸化チタン微粒子を添加せず単にUVを照射したものを対照として、同時に試験を行った。6時間後に各試験液を採取し、それぞれの細胞数を計測した。その結果を図3に示す。ポリアクリル酸結合二酸化チタン微粒子を添加し、かつUVを照射した系では細胞数が激減していることから、ポリアクリル酸結合二酸化チタン微粒子がガン細胞に対して殺細胞性を有することが認められた。
【産業上の利用可能性】
本発明により、各種応用に好適な中性の水系溶媒への分散性に優れ、かつ広範囲のpH領域においても長期間安定な分散性を有する、表面改質二酸化チタン微粒子とその分散液、およびその製造方法を提供することができる。
【図1】

【図2】

【図3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化チタンの表面が、カルボキシル基を有する親水性高分子により修飾された表面改質二酸化チタン微粒子であって、該親水性高分子のカルボキシル基と二酸化チタンがエステル結合で結合していることを特徴とする、表面改質二酸化チタン微粒子。
【請求項2】
前記二酸化チタンが、アナターゼ型、またはルチル型である、請求項1に記載の表面改質二酸化チタン微粒子。
【請求項3】
前記二酸化チタンの粒径が、2〜200nmであることを特徴とする、請求項1または2に記載の表面改質二酸化チタン微粒子。
【請求項4】
前記二酸化チタンが、二酸化チタンと磁性材とからなる複合二酸化チタンであることを特徴とする、請求項1〜3何れか一項に記載の表面改質二酸化チタン微粒子。
【請求項5】
前記親水性高分子が、水溶性高分子であることを特徴とする、請求項1〜4何れか一項に記載の表面改質二酸化チタン微粒子。
【請求項6】
前記水溶性高分子が、ポリカルボン酸を含むことを特徴とする、請求項5に記載の表面改質二酸化チタン微粒子。
【請求項7】
前記水溶性高分子が、分子中に複数のカルボキシル基単位を有する共重合体を含むことを特徴とする、請求項5に記載の表面改質二酸化チタン微粒子。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の表面改質二酸化チタン微粒子が、水系溶媒に分散していることを特徴とする、表面改質二酸化チタン微粒子の分散液。
【請求項9】
前記水系溶媒のpHが、3〜13であることを特徴とする、請求項8に記載の表面改質二酸化チタン微粒子の分散液。
【請求項10】
前記水系溶媒が、pH緩衝液であることを特徴とする、請求項9に記載の表面改質二酸化チタン微粒子の分散液。
【請求項11】
前記水系溶媒が、生理食塩水であることを特徴とする、請求項9に記載の表面改質二酸化チタン微粒子の分散液。
【請求項12】
体内の病変部に導入した後、紫外線等の光を照射して該病変部を破壊する光療法の補強剤として用いる、請求項9〜11のいずれか一項に記載の表面改質二酸化チタン微粒子の分散液。
【請求項13】
前記病変部がガン組織であることを特徴とする、請求項12に記載の表面改質二酸化チタン微粒子の分散液。
【請求項14】
二酸化チタン微粒子表面に親水性高分子を結合させる反応において、(1)二酸化チタンゾルを溶媒に分散させる第1工程と、(2)親水性高分子を溶媒に分散させる第2工程と、(3)これらの分散液を混合する第3工程と、(4)この混合液を加熱する第4工程と、(5)表面改質二酸化チタン微粒子と未結合親水性高分子とを分離する第5工程と、(6)表面改質二酸化チタン微粒子を精製する第6工程とからなる、表面改質二酸化チタン微粒子の製造方法。
【請求項15】
前記第1工程および第2工程の溶媒が、非プロトン系溶媒であることを特徴とする、請求項14に記載の表面改質二酸化チタン微粒子の製造方法。
【請求項16】
前記非プロトン系溶媒が、ジメチルホルムアミド,ジオキサン、ジメチルスルホキシドいずれかであることを特徴とする、請求項15に記載の表面改質二酸化チタン微粒子の製造方法。
【請求項17】
前記第4工程の加熱温度が、80〜220℃であることを特徴とする、請求項14〜16のいずれか一項に記載の表面改質二酸化チタン微粒子の製造方法。
【請求項18】
前記第5工程の分離する工程が、溶液のpHを2.8以下にして表面改質二酸化チタン微粒子のみを等電点凝集させることにより、上清の未結合親水性高分子を除去する工程を含むことを特徴とする、請求項14〜17のいずれか一項に記載の表面改質二酸化チタン微粒子の製造方法。
【請求項19】
前記第5工程の分離する工程が、分子ふるいにより未結合親水性分子を除去する工程を含むことを特徴とする、請求項14〜17のいずれか一項に記載の表面改質二酸化チタン微粒子の製造方法。
【請求項20】
前記第6工程の精製する工程が、表面改質二酸化チタン微粒子を水系溶媒に分散させた後に、微粒子を乾燥する工程を含むことを特徴とする、請求項14〜19のいずれか一項に記載の表面改質二酸化チタン微粒子の製造方法。
【請求項21】
前記第6工程の精製する工程が、表面改質二酸化チタン微粒子を水系溶媒に分散させた後に、塩析により表面改質二酸化チタンを沈降させる工程を含むことを特徴とする、請求項14〜19のいずれか一項に記載の表面改質二酸化チタン微粒子の製造方法。
【請求項22】
前記弟6工程の精製する工程が、表面改質二酸化チタン微粒子を水系溶媒に分散させた後に、有機溶媒沈殿により表面改質二酸化チタン微粒子を沈降させる工程を含むことを特徴とする、請求項14〜19のいずれか一項に記載の表面改質二酸化チタン微粒子の製造方法。

【国際公開番号】WO2004/087577
【国際公開日】平成16年10月14日(2004.10.14)
【発行日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−504273(P2005−504273)
【国際出願番号】PCT/JP2004/004635
【国際出願日】平成16年3月31日(2004.3.31)
【特許番号】特許第3775432号(P3775432)
【特許公報発行日】平成18年5月17日(2006.5.17)
【出願人】(000010087)東陶機器株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】