説明

表面改質多孔性シリカの製造方法、表面改質多孔性シリカ、樹脂添加用スラリー組成物、樹脂用充填剤及び樹脂組成物

【課題】高分子樹脂へ分散させた場合に大きな低誘電率化効果を奏することができる表面改質多孔性シリカ及びその製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明の表面改質多孔性シリカの製造方法では、第1の表面処理工程として、多孔性シリカを第1の表面処理剤で処理することにより、細孔内のシラノール基の一部又は全部を残しつつ、その他のシラノール基に該第1の表面処理剤を化学修飾させたプレ処理多孔性シリカとする。そして、第2の表面処理工程として、該プレ処理多孔性シリカを第2の表面処理剤で処理することにより、該細孔内に残存するシラノール基に第2の表面処理剤を化学修飾させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面改質多孔性シリカの製造方法、表面改質多孔性シリカ、樹脂添加用スラリー組成物、樹脂用充填剤及び樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、情報通信機器の技術分野では、ユビキタス社会の実現に向けて情報処理の高速化が進んでおり、これを実現するためには電気信号の更なる高周波化が必要となる。このため、高周波における誘電損失の少ない、低誘電率の基板材料が求められている。そして、このような絶縁体の低誘電率化を達成するため、低誘電率を示す空気(比誘電率=1)を多く含んだ多孔体シリカを基板のフィラーとして用いることが提案されている。中でもメソポーラスシリカは、細孔サイズが均一であり、大きな空隙率をもつという、低誘電率の絶縁材料として優れた性質を有しており、その利用が検討されている。
【0003】
例えば特許文献1では、界面活性剤からなるミセルを鋳型としてシリカをその周囲に析出させた後、界面活性剤を除去して多孔質のメソポーラスシリカを得ており、これによって低誘電率のシリカ被膜を得ている。そして、さらには平均細孔径2〜50nmのメソポーラスシリカの多孔内部に存在するシラノール基をトリアルキルシリル基を有する化合物で化学修飾することによって、さらなる低誘電率化を図るというアイデアも記載されている。
【0004】
また、特許文献2では、メソポーラスシリカの細孔内でシリコンアルコキシドを加水分解および脱水縮合させ、細孔内に細孔よりも小さな微小空隙を形成させたメソポーラスシリカが記載されている。それによれば、メソポーラスシリカが有する微小空間は極めて小さいため、高分子樹脂に分散させた場合においても微小空隙内に高分子樹脂が入り込むことはできず、樹脂組成物内に誘電率が1である空気を保持することができる。このため、上記樹脂組成物は、空気を保持した多孔体粉末を構成材料とすることができ、樹脂組成物の誘電率を低くすることができるので、上記樹脂組成物を用いて作製した回路基板は、誘電率が低いものが得られると記載されている(同文献段落番号0010参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−53773号公報
【特許文献2】特開2001−98174号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記特許文献1に記載の方法に従ってメソポーラスシリカの細孔内部に存在するシラノール基を表面処理剤で化学修飾し、さらなる低誘電率化メソポーラスシリカとしても、これをエポキシ等の高分子樹脂に分散させた場合、高分子樹脂が化学修飾された孔内部に侵入して空気を高分子樹脂で置換してしまうため、期待されるほどの低誘電率化を実現することはできない。
【0007】
この点、特許文献2の方法によれば、メソポーラスシリカの細孔内部に、シリコンアルコキシドの加水分解縮合物によって小さな微小空隙が形成されているため、その微小空間に高分子樹脂は入り込めず、低誘電の樹脂組成物が得られるとも考えられる。しかし、シリコンアルコキシドの加水分解縮合物は水を強力に吸着するため、脱水縮合によって生成した水は微小空間内から外部に脱離することは困難であると予想される。そして、こうして微小空間に吸着された水は、大きな双極子モーメントを有するために大きな誘電率を有し、このため、やはり期待されるほどの低誘電率化は実現されていない。
【0008】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、高分子樹脂へ分散させた場合に大きな低誘電率化効果を奏することができる、表面改質多孔性シリカ及びその製造方法を提供することを課題とする。また、そのような表面改質多孔性シリカを用いた樹脂添加用スラリー組成物、樹脂用充填剤及び樹脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、多孔性シリカの表面に存在するシラノール基の表面処理剤による化学修飾について、さらに詳しく検討を重ねた。その結果、細孔径が一定の大きさ以上のメソポーラスシリカを疎水性の官能基で化学修飾すれば、修飾率が極めて高くなり、誘電率を大きく下げることができることを見出し、すでに出願を行なった(特願2007−279725)。
【0010】
この誘電率の低い化学修飾多孔性シリカは高分子樹脂への分散も容易であるため、低誘電率の樹脂組成物を作製することができる。しかし、本発明者らがさらに詳しく検討した結果、この樹脂組成物は、空隙率から理論的に導かれる誘電率よりは高く、さらなる低誘電化の余地があることが分かった。本発明者らは、誘電率における理論値と実測値との違いは、化学修飾多孔性シリカの細孔に高分子樹脂が侵入し、空隙率を下げていることに原因があるのではないかと推定した。そしてさらに、細孔内に高分子樹脂が侵入するのを防ぐべく、細孔の入口付近に第1の表面処理剤を化学修飾し、さらにその細孔内部に侵入可能な第2の表面処理剤で細孔内部に残存するシラノール基を化学修飾するという、2段階の化学修飾を行えば、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明の表面改質多孔性シリカの製造方法は、多孔性シリカを第1の表面処理剤で処理することにより、前記多孔性シリカの細孔内のシラノール基の一部又は全部を残しつつ、その他のシラノール基に該第1の表面処理剤を化学修飾させる第1の表面処理工程と、
前記多孔性シリカを第2の表面処理剤で処理することにより、前記細孔内のシラノール基に第2の表面処理剤を化学修飾させる第2の表面処理工程と、
を有することを特徴とする。
【0012】
本発明の表面改質多孔性シリカの製造方法では、第1の表面処理工程で多孔性シリカを第1の表面処理剤で処理することにより、前記多孔性シリカの細孔内のシラノール基の一部又は全部を残しつつ、その他のシラノール基に該第1の表面処理剤を化学修飾させる。これにより、多孔性シリカの細孔の入口付近に第1の表面処理剤が化学修飾され、細孔の入口の径が小さくなる。
【0013】
また、第2の表面処理工程として、前記多孔性シリカを第2の表面処理剤で処理することにより、該細孔内に残存するシラノール基に第2の表面処理剤を化学修飾させる。こうして2段階の表面処理工程を行なうことにより、大きな振動数を有するシラノール基が、細孔内外ともに表面処理剤で化学修飾されて振動数が小さくなり、さらにはシラノール基への水の吸着量が減少して、誘電率が小さくなる。また、細孔の分布はシラノール基の化学修飾によってもそれほど変化せず、多孔率もほぼ保たれるため、誘電率の小さな空気の存在によっても誘電率が小さくなる。しかも、先に述べたように、多孔性シリカの細孔の入口付近は第1の表面処理剤で化学修飾されることによって細孔の入口の径が小さくなっているため、本発明の表面改質多孔性シリカを高分子樹脂へ分散させた場合においても、細孔内部への高分子樹脂の侵入が困難となる。このため、細孔内部の空気を確保したまま高分子樹脂に分散させることができ、低誘電率の樹脂組成物を作製することができる。したがって、本発明の製造方法で得られた表面改質多孔性シリカは、高分子樹脂へ分散させた場合に大きな低誘電率化効果を奏することができる。
なお、少なくとも細孔の入り口周辺に結合した第2の表面処理剤を第1の表面処理工程で用いられる第1の表面処理剤で置換できれば、第2の表面処理工程の後に第1の表面処理工程を行ってもよい。この場合、第1の表面処理剤のシラノール基に対する結合力が第2の表面処理剤のそれよりも強くなるように、各処理剤の化学構造を選択する。
また、次のような表面処理を実行することもできる。立体障害の大きなキャップ剤と多孔性シリカと混合し、もって前記多孔性シリカの細孔内のシラノール基の一部又は全部を残して、当該キャップ剤を多孔性シリカの外表面及び細孔入り口内外の周縁へ結合させる。細孔内への侵入が機械的・物理的に大きな抵抗となるように、このキャップ剤は多孔質シリカの細孔の入り口部分の直径の3/4〜1/4の大きさを持つことが好ましい。このキャップ剤は親水性でも疎水性でもよい。その後、第2の表面処理剤で細孔内に残存するシラノール基を修飾する。その後、キャップ剤を第1の表面処理剤で置換する。
【0014】
原料となる多孔性シリカは、平均細孔径が1.5nm〜50nmの細孔を有するメソポーラスシリカであることが好ましい。平均細孔径が50nm以下であれば、その細孔の入り口付近のシラノール基が第1の表面処理剤で化学修飾されることにより、細孔径が高分子樹脂の侵入を阻止できるほど小さくすることができる。また、平均細孔径が1.5nm以上であれば、細孔内に第2の表面処理剤が侵入し易くなり、細孔内のシラノール基を化学修飾して誘電率を下げることができる。さらに好ましい平均細孔径は2nm〜30nmであり、最も好ましいのは3nm〜10nmである。
【0015】
ここでメソポーラスシリカとは、二酸化ケイ素(シリカ)を材質として、均一で規則的な細孔(メソ孔)を持つ物質のことをいう。
【0016】
また、第2の表面処理剤の分子は第1の表面処理剤の分子よりも小さいことが好ましい。こうであれば、大きな分子である第1の表面処理剤で化学修飾されて細孔径の狭くなったプレ処理多孔性シリカであっても、小さな分子である第2の表面処理剤が狭くなった細孔内に侵入してシラノール基を化学修飾し、誘電率を下げることができる。
さらに好ましいのは、第1の表面処理剤の分子の最大長がメソポーラスシリカの細孔の直径の1/4〜3/4の範囲とすることである。第1の表面処理剤の分子の最大長がメソポーラスシリカの細孔の直径の3/4を超えると、第1の表面処理剤によって細孔が狭くなりすぎ、
第2の表面処理剤の細孔内への侵入が困難となる。このため、細孔内にシラノール基が残ってしまい、低誘電率化の効果が低減する。
また、第1の表面処理剤の分子の最大長がメソポーラスシリカの細孔の直径の1/4未満では、第1の表面処理剤によって細孔を小さくする効果が不充分となり、高分子樹脂に分散させた場合において細孔内に高分子樹脂が侵入し易くなる。このため、細孔内の空気の体積が小さくなり、低誘電率化の効果が低減する。
【0017】
また、第1の表面処理剤としては、細孔内のシラノール基の一部又は全部を残しつつ、その他のシラノール基に化学修飾させることのできる表面処理剤であれば用いることができる。そのような表面処理剤は、大きな細孔径を有する多孔性シリカであれば、大きな分子の第1の表面処理剤を選ぶ等、多孔性シリカの細孔の直径を考慮し適宜選択される。このような第1の表面処理剤の種類として、例えば、シラン系の表面処理剤、チタン系の表面処理剤、ジルコニア系の表面処理剤、アルミニウム系の表面処理剤、クロム系の表面処理剤、ジルコアルミニウム系の表面処理剤、アルコール等を用いることができる。シラン系の表面処理剤のなかでも、シラノール基を有するシルセスキオキサンが好ましい。ここでシルセスキオキサンとは、3官能性シラン(すなわち基本構成単位がT単位であるシラン)を加水分解することで得られる、(RSiO1.5の構造を持つネットワーク型ポリマー、または多面体クラスターのことをいう。シルセスキオキサンはかご型の立方体に縮合した構造のものや、かご型の立方体の一部が開裂した構造のものが知られているが、下記構造を有するトリシラノール(a)(式中R〜Rは同一でも良く、異なっていても良いアルキル基、アルケニル基及びアリール基のいずれかを示す)やジシラノール(b)(式中R〜R15は同一でも良く、異なっていても良いアルキル基、アルケニル基及びアリール基のいずれかを示す)のような、かご型の立方体の一部が開裂した構造のものが好ましく、さらに好ましいのはトリシラノール(a)のR〜Rがアルキル基の場合である。本発明者らの試験結果によれば、第1の表面処理剤としてR〜Rがアルキル基のトリシラノール(a)で処理して得られた表面改質多孔性シリカを高分子樹脂に分散させた場合、細孔内の空隙がほとんどそのまま保持され、低誘電率の樹脂組成物となることを確認している。アルキル基の炭素数は1〜10が好ましく、更に好ましいのは2〜8であり、特に好ましいのは4〜6である。また、シルセスキオキサンとシリカの配合割合は、シリカが有するシラノール基の数に応じてシルセスキオキサンの添加量を適宜決定することが好ましい。
【化1】

【0018】
また、第2の表面処理剤としては、第1の表面処理剤で修飾されたプレ処理多孔性シリカの細孔内に残存するシラノール基に化学修飾させることのできる表面処理剤であれば用いることができる。そのような表面処理剤は、細孔内に侵入できるほど小さな分子であって、シラノール基への反応性が高いものが好ましい。例えば、オルガノシラザン等が挙げられる。オルガノシラザンは、ジシラザンH3SiNHSiH3のSiに結合しているHがアルキル基等の有機置換基に置き換わったものである。具体的には、例えば1,1,1,3,3,3-ヘキサメチルジシラザン(以下単に「ヘキサメチルジシラザン」という)、1,1,3,3-テトラメチルジシラザン、1,3-ビス(クロロメチル)テトラメチルジシラザン、1,3-ジフェニルテトラメチルジシラザン、1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシラザン、2,2,4,4,6,6-ヘキサメチルシクロトリシラザン、ヘプタメチルジシラザン、オクタメチルシクロテトラシラザン等が挙げられる。
オルガノシラザンはジシラザンのような爆発性や腐食性がなく、取り扱いが容易である。また、電子産業でホトレジスト塗布時の界面活性剤として多量に生産されており、入手が容易で、安価である。特に好ましいのは、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)である。
【0019】
また、本発明の表面改質多孔性シリカは、多孔性シリカが細孔の容積を維持しつつ該細孔の入り口のフリースペースを小さくするようにシラノール基を化学修飾する縮径化学修飾剤と、該細孔の内部のシラノール基を化学修飾する細孔内化学修飾剤と、で化学修飾されていることを特徴とする。
【0020】
本発明の表面改質多孔性シリカでは、縮径化学修飾剤によって多孔性シリカが細孔の容積を維持しつつ該細孔の入り口のフリースペースを小さくするようにシラノール基が化学修飾されている。このため、この表面改質多孔性シリカを高分子樹脂へ分散させた場合においても、細孔内部への高分子樹脂の侵入が困難となる。このため、細孔内部の空気を確保したまま高分子樹脂に分散させることができ、低誘電率の樹脂組成物とすることができる。また、本発明の表面改質多孔性シリカでは、さらに細孔内化学修飾剤によって細孔内部のシラノール基が化学修飾されているため、多孔性シリカのシラノール基が細孔内外ともに化学修飾されており、表面改質多孔性シリカとなる。
【0021】
本発明の表面改質多孔性シリカの原料となる多孔性シリカは、平均細孔径が1.5nm〜50nmの細孔を有するメソポーラスシリカであることが好ましい。平均細孔径が50nm以下であれば、その細孔の入り口付近のシラノール基が縮径化学修飾剤で化学修飾されることにより、細孔径が高分子樹脂の侵入を阻止できるほど小さくなる。また、平均細孔径が1.5nm以上であれば、細孔内に細孔内化学修飾剤が侵入し易くなり、細孔内のシラノール基が細孔内化学修飾剤で化学修飾することが容易となり、ひいては誘電率を下げることができる。さらに好ましい平均細孔径は2nm〜30nmであり、最も好ましいのは3nm〜10nmである。
縮径化学修飾剤の具体例としては、先に第1の表面処理剤として挙げた、シラン系の表面処理剤、チタン系の表面処理剤、ジルコニア系の表面処理剤、アルミニウム系の表面処理剤、クロム系の表面処理剤、ジルコアルミニウム系の表面処理剤、アルコール等を用いることができる。シラン系の表面処理剤のなかでも、シラノール基を有するシルセスキオキサンが好ましい。シラノール基を有するシルセスキオキサンの中でも、先に化1で示した構造を有するトリシラノール(a)(式中R〜Rはアルキル基を示す)が特に好ましい。
また、細孔内化学修飾剤の具体例としては、先に第2の表面処理剤として挙げた、オルガノシラザン等が挙げられる。オルガノシラザンは、ジシラザンH3SiNHSiH3のSiに結合しているHがアルキル基等の有機置換基に置き換わったものである。具体的には、例えば1,1,1,3,3,3-ヘキサメチルジシラザン(以下単に「ヘキサメチルジシラザン」という)、1,1,3,3-テトラメチルジシラザン、1,3-ビス(クロロメチル)テトラメチルジシラザン、1,3-ジフェニルテトラメチルジシラザン、1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシラザン、2,2,4,4,6,6-ヘキサメチルシクロトリシラザン、ヘプタメチルジシラザン、オクタメチルシクロテトラシラザン等が挙げられる。
【0022】
本発明の方法で製造された表面改質多孔性シリカ又は本発明の表面改質多孔性シリカを有機溶媒に分散させることによって、本発明の樹脂添加用スラリー組成物となる。このような樹脂添加用スラリー組成物は、本発明の表面改質多孔性シリカを直接有機樹脂に添加する場合に比べて、均一に有機樹脂と混合させることができ、凝集塊となり難い。このため、有機樹脂への均一なフィラーの分散が可能となる。また、表面改質多孔性シリカの分散濃度が高くてもその粘性を低く抑えることが可能であることから、有機樹脂との混合作業における作業性が良好となる。マトリクス樹脂としては、熱硬化性や熱可塑性樹脂等、幅広く適用可能である。利用可能な有機樹脂を具体的に例示すれば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリウレタン、ポリイミド、不飽和ポリエステル、ビニルトリアジン、架橋性ポリフェニレンオキサイド、硬化性ポリフェニレンエーテル、シアノエステル樹脂、ビスマレイミドトリアジン(BT)樹脂、ポリオレフィン樹脂等を挙げることができる。
また、有機溶媒としては、メチルエチルケトン、アセトン、クロロホルム、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコール、シクロヘキサノール、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、ジエチルエーテル、ジメチルエーテル、酢酸エチル、酢酸メチル、N-メチルピロリドン、ジメチルフラン等が挙げられる。
【0023】
また、樹脂添加用スラリー組成物には、表面改質多孔性シリカの沈降を防止するための沈降防止剤を含有させることが好ましい。こうであれば、使用時において沈降している表面改質多孔性シリカを撹拌して均一にする手間を省いたり、軽減したりすることができるからである。このような沈降防止剤としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ビスマレイミドトリアジン樹脂、シアノエステル樹脂、ポリアミド樹脂、並びに無水マレイン酸を共重合成分とする共重合体及びその誘導体などが挙げられる。
【0024】
さらに、樹脂添加用スラリー組成物は、表面改質多孔性シリカを1重量%以上50重量%以下の範囲で含有していることが好ましい。表面改質多孔性シリカの含有率が1重量%未満では、表面改質多孔性シリカに対する溶媒の量が多すぎ、実用的ではない。また、表面修飾メソポーラスシリカの含有率が50重量%を超えると、高分子樹脂への分散性が著しく低下する。
【0025】
本発明の表面改質多孔性シリカは、シリカ、タルク、マイカ、炭酸カルシウム等樹脂に通常添加する樹脂用フィラーと混ぜて樹脂用充填剤とすることができる。
【0026】
また、本発明の表面改質多孔性シリカや、本発明の表面改質多孔性シリカを含有する樹脂用充填剤を熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂等の有機樹脂に含有させることにより、本発明の樹脂組成物とすることができる。こうして得られた樹脂組成物は、高周波用電子部品や高周波回路用基板に好適に用いることができる。
【0027】
熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリウレタン、ポリイミド、不飽和ポリエステル、ビニルトリアジン、架橋性ポリフェニレンオキサイド、硬化性ポリフェニレンエーテルから選択される1種以上とすることができる。また、これらの熱硬化性樹脂組成物に硬化剤又は触媒を配合することもできる。
また、熱可塑性樹脂としては、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリテトラフロロエチレン(PTFE)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリアリレート(PAR)、ポリサルフォン(PSF)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリアミド(PA)、ポリアセタール(POM)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、超高分子量ポリエチレン(UHPE)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)
メチルペンテン(TPX)、ポリカーボネイト(PC)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、アクリロニトリル/スチレン樹脂(AS)、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン樹脂(ABS)、メタクリル樹脂(PMMA)、塩化ビニル(PVC)、液晶ポリマー(LCP)等が挙げられる。
【0028】
本発明の樹脂組成物を成形した樹脂成形体は、有機樹脂が表面改質多孔性シリカの細孔内に入り込むことによって消滅した細孔容積の割合である死ポア容積率を20%以下とすることができる。このため、多孔性シリカの細孔容積の大部分が成形体となってもそのまま維持されることとなり、その細孔内の空気によって誘電率が小さくなることから、高周波用電子部品や高周波回路用基板に好適に用いることができる。特に好適に用いられるのは、死ポア容積率が10%以下の樹脂組成物であり、最も好適に用いられるのは、6%以下の樹脂組成物である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】表面改質多孔性シリカの製造方法を工程ごとに模式的に表した図である。
【図2】一次元細孔の2D−Hexagonal構造のメソポーラスシリカの構造を示す模式図である。
【図3】表面改質メソポーラスシリカの製造方法を模式的に表した工程図である。
【図4】試験例1、2における、第1の表面処理工程後及び第2の表面処理工程後のメソポーラスシリカについての赤外吸収スペクトルである。
【図5】実施例1及び試験例3における、第1の表面処理工程後及び第2の表面処理工程後のメソポーラスシリカについての赤外吸収スペクトルである。
【図6】細孔径が表面処理剤で小さくされた状態を示す模式図である。
【図7】計算で算出された細孔径と細孔内に侵入した樹脂量との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
図1は本発明の表面改質多孔性シリカの製造方法を工程ごとに模式的に表した図である。原料となる多孔性シリカ1には多数の細孔2が存在しており、細孔2の内部及び外部の表面には、数多くのシラノール基3が存在している。この多孔性シリカ1を第1の表面処理剤4で化学修飾することにより、プレ処理多孔性シリカ5となる(第1の表面処理工程S1)。
ここで、第1の表面処理剤4は、細孔2内のシラノール基3の一部又は全部を残しつつ、その他のシラノール基3を化学修飾する。このような選択的な化学修飾を行なうためには、第1の表面処理剤4が細孔2の直径よりも大きいことにより可能となるが、例え第1の表面処理剤4が細孔2の直径よりも小さかったとしても、細孔2内の入り口付近が第1の表面処理剤4で化学修飾されて、細孔2の径が狭められることによって、さらなる第1の表面処理剤4の侵入を阻止することとなり、これによりさらに奥に存在するシラノール基を残すことができる。なお、図1では、多孔性シリカ1の外部の表面に存在するシラノール基のすべてが表面処理剤4で修飾されているようになっているが、立体障害等の理由により、外部表面のシラノール基の一部が残存していても、以下に述べる第2の表面処理工程で残存するシラノール基が修飾されれば、特に問題とはならない。
【0031】
こうして多孔性シリカ1を第1の表面処理剤4で化学修飾したプレ処理多孔性シリカ5に対して、さらに第2の表面処理剤6を化学修飾させることにより、細孔2の内部に残存しているシラノール基に第2の表面処理剤を化学修飾させ、表面改質多孔性シリカ7を得る(第2の表面処理工程S2)。
このような化学修飾を行なうためには、第2の表面処理剤6が細孔2内に侵入する必要があり、このため、第2の表面処理剤はなるべく小さな分子であることが有利となる。
【0032】
こうして得られた表面改質多孔性シリカ7は、大きな振動数を有するシラノール基3が表面処理剤で化学修飾されているため、振動数が小さくなり、さらにはシラノール基への水の吸着量が減少して、誘電率が小さくなる。また、多孔率もほぼ保たれるため、誘電率の小さな空気の存在によっても誘電率が小さくなる。
さらには、この表面改質多孔性シリカ7を高分子樹脂へ分散させた場合においても、多孔性シリカの細孔の入口付近は第1の表面処理剤4で化学修飾されることによって細孔2の入口の径が小さくなっているため、細孔2内部への高分子樹脂の侵入が困難となる。このため、細孔内部の空気を確保したまま高分子樹脂に分散させることができ、低誘電率の樹脂組成物を作製することができる。
【0033】
<メソポーラスシリカを用いた表面改質多孔性シリカ>
本発明の表面改質多孔性シリカは、上述のように第1の表面処理剤及び第2の表面処理剤で細孔径を精密に制御しなければならない。このため、原料としては、細孔径のそろったメソポーラスシリカを用いることが好ましい。メソポーラスシリカの一般的な製法としては、界面活性剤を鋳型としたゾルゲル法が用いられるが、その製法によって製造されたメソポーラスシリカに限定されるものではない。ゾルゲル法においては、水溶液中に臨界ミセル濃度以上の濃度で界面活性剤を溶解させると、界面活性剤の種類に応じて一定の大きさと構造をもつミセル粒子が形成される。しばらく静置するとミセル粒子が充填構造をとり、コロイド結晶となる。ここで溶液中にシリカ源となるテトラエトキシシランなどを加え、微量の酸あるいは塩基を触媒として加えると、コロイド粒子の隙間でゾルゲル反応が進行しシリカゲル骨格が形成される。最後に高温で焼成すると、鋳型とした界面活性剤が分解・除去されて純粋なメソポーラスシリカが得られる。こうして得られるメソポーラスシリカは、棒状ミセルの存在していた場所が抜け殻として細孔となり、しかもその細孔は、界面活性剤の種類やpHやその他の条件を制御することにより、均質な径を有する貫通した細孔とすることができる。このため、表面処理剤による細孔径の制御も精密に行うことができる。こうして得られたメソポーラスシリカの構造の代表例を図2に示す。この図は貫通する細孔を有する一次元細孔の2D−Hexagonal構造を示しているが、界面活性剤の種類を変更することで、細孔の大きさや形や充填構造を制御し、3D−Hexagonal構造としたり、cubic Pn構造としたりすることができる。代表的なものとしては、小分子系カチオン性界面活性剤を用いるMCMシリーズ、ブロックコポリマーを用いるSBAシリーズが知られている。
【0034】
原料となるメソポーラスシリカの具体的な製法としては、特開2006-248832号公報に示されているように、無機原料を有機原料と混合し、反応させることにより、有機物を鋳型としてそのまわりに無機物の骨格が形成された有機物と無機物の複合体を形成させた後、得られた複合体から、有機物を除去する方法を採用することもできる。
【0035】
無機原料としては、ケイ素を含有する物質であれば特に限定されない。ケイ素を含有する物質としては、例えば、カネマイト(NaHSi・3HO)、ジ珪酸ナトリウム結晶(NaSi)、マカタイト(NaHSi・5HO)、アイラアイト(NaHSi17・XHO)、マガディアイト(NaHSi129・XHO)、ケニヤアイト(NaHSi2041・XHO)、水ガラス(珪酸ソーダ)、ガラス、無定形珪酸ナトリウム、テトラエトキシシラン(TEOS)、テトラメチルアンモニウム(TMA)シリケート、テトラエチルオルトシリケートなどのシリコンアルコキシドなどが挙げられる。また、珪酸塩以外の珪素を含有する物質としては、シリカ、シリカ酸化物、シリカ−金属複合酸化物などが挙げられる。これらは、単独でまたは2種以上を混合して用いてもよい。
【0036】
また、有機原料としては、陽イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン性界面活性剤などが挙げられる。これらは、単独でまたは2種以上を混合して用いてもよい。
【0037】
さらに、鋳型となる陽イオン性界面活性剤としては、第1級アミン塩、第2級アミン塩、第3級アミン塩、第4級アンモニウム塩などが挙げられ、これらの中では第4級アンモニウム塩が好ましい。アミン塩は、アルカリ性域では分散性が不良のため、合成条件が酸性域でのみ使用されるが、第4級アンモニウム塩は、合成条件が酸性、アルカリ性のいずれの場合にも使用することができる。
【0038】
また、鋳型となる第4級アンモニウム塩としては、オクチルトリメチルアンモニウムクロリド、オクチルトリメチルアンモニウムブロミド、オクチルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、デシルトリメチルアンモニウムクロリド、デシルトリメチルアンモニウムブロミド、デシルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、ドデシルトリメチルアンモニウムクロリド、ドデシルトリメチルアンモニウムブロミド、ドデシルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロリド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、オクタデシルトリメチルアンモニウムクロリド、オクタデシルトリメチルアンモニウムブロミド、オクタデシルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、ベヘニルトリメチルアンモニウムクロリド、ベヘニルトリメチルアンモニウムブロミド、ベヘニルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラデシルトリメチルアンモニウムクロリド、テトラデシルトリメチルアンモニウムブロミド、テトラデシルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリメチルアンモニウムクロリド、ベンジルトリメチルアンモニウムブロミド、ベンジルトリメチルアンモニウムヒドロキシドなどのアルキルトリメチルアンモニウム塩などが挙げられる。これらは、単独でまたは2種以上を混合して用いてもよい。
【0039】
また、鋳型となる陰イオン性界面活性剤としては、カルボン酸塩、硫酸エステル塩、スルホン酸塩、リン酸エステル塩などが挙げられ、なかでも、セッケン、高級アルコール硫酸エステル塩、高級アルキルエーテル硫酸エステル塩、硫酸化油、硫酸化脂肪酸エステル、硫酸化オレフィン、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、パラフィンスルホン酸塩および高級アルコールリン酸エステル塩などが挙げられる。これらは、単独でまたは2種以上を混合して用いてもよい。
【0040】
さらに、鋳型となる両性界面活性剤としては、ラウリルアミノプロピオン酸ナトリウム、ステアリルジメチルベタイン、ラウリルジヒドロキシエチルベタインなどが挙げられる。これらは、単独でまたは2種以上を混合して用いてもよい。
【0041】
また、鋳型となる非イオン界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン2級アルコールエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンステロールエーテル、ポリオキシエチレンラノリン酸誘導体、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコールなどのエーテル型のものや、ポリオキシエチレンアルキルアミンなどの含窒素型のものなどが挙げられる。これらは、単独でまたは2種以上を混合して用いてもよい。
【0042】
有機原料として界面活性剤を使用し、界面活性剤を鋳型として細孔を形成する場合は、鋳型としてミセルを利用することができる。また、界面活性剤のアルキル鎖長をコントロールすることにより、鋳型の径を変化させ、形成する細孔の径を制御することができる。さらに、界面活性剤と共にトリメチルベンゼン、トリプロピルベンゼンなどの比較的疎水性の分子を添加することにより、ミセルが膨張し、さらに大きな細孔の形成が可能となる。これらの方法を利用することにより、最適な大きさの細孔が形成できる。
【0043】
無機原料と有機原料を混合する場合、適当な溶媒を用いても良い。溶媒としては、特に限定されないが、水、アルコールなどが挙げられる。
【0044】
無機原料と有機原料との混合方法は、特に限定されないが、無機原料に重量比で2倍以上のイオン交換水を添加後、40〜80℃で1時間以上撹拌した後に、有機原料を添加して混合する方法が好ましい。
無機原料と有機原料との混合比は、特に限定されないが、無機原料: 有機原料の比(重量比)は、好ましくは0.1:1〜5:1、より好ましくは0.1:1〜3:1である。
【0045】
無機原料と有機原料との反応は、特に限定されるものではないが、好ましくはpH11以上で1時間以上撹拌し、pHを8.0〜9.0とした後、1 時間以上反応させることが好ましい。
【0046】
有機物と無機物の複合体から有機物を除去する方法としては、複合体を濾取し、水などにより洗浄、乾燥した後、400〜600℃で焼成する方法、有機溶媒などにより抽出する方法が挙げられる。
【0047】
(第1の表面処理工程S11)
原料として貫通する細孔を有するメソポーラスシリカを用いた場合、図3に示すように、第1の表面処理剤10で処理することにより、細孔8内のシラノール基9の一部を残しつつ、その他のシラノール基9に第1の表面処理剤10が化学修飾される。ここで、第1の表面処理剤10の分子の最大長は、原料となるメソポーラスシリカの貫通孔の直径の1/4〜3/4の範囲であることが好ましく、さらに好ましいのは1/3〜1/2の範囲である。第1の表面処理剤の分子の最大長は原料となるメソポーラスシリカの貫通孔の直径の1/4以上であれば、貫通孔の入り口近傍に第1の表面処理剤10が化学修飾された場合、貫通口の入り口が狭くなり、貫通孔の奥のほうまで第1の表面処理剤が侵入することができない。このため、細孔8内のシラノール基9の一部を残しつつ、その他のシラノール基9に第1の表面処理剤10が化学修飾される。また、第1の表面処理剤10の分子の最大長が原料となるメソポーラスシリカの貫通孔の直径の3/4以下であれば、細孔8内部の入り口付近を化学修飾できるため、細孔8の径を縮径することができる。また、上述の化学修飾剤によってメソポーラスシリカ表面に存在するシラノール基9を疎水性の官能基で化学修飾するには、それぞれの化学修飾剤について通常一般に行われる方法に従って行えばよい。こうして、プレ処理メソポーラスシリカ11を得る。
【0048】
(第2の表面処理工程S12)
プレ処理メソポーラスシリカ11は、さらに第2の表面処理工程S12において第2の表面処理剤12で処理され、細孔8内に残存するシラノール基9が修飾される。また、第1の表面処理工程S11で、細孔8内以外にシラノール基9が残存していた場合には、そのシラノール基9も第2の表面処理剤12で化学修飾される。このため、第2の表面処理剤12は、細孔8内に侵入しやすいように小さい分子であることが望ましく、さらには、残存するシラノール基9を化学修飾することが、低誘電率化にとって好ましいため、活性が高いことが好ましい。こうした要求にこたえることができる第2の表面処理剤として、ヘキサメチルジシラザン等、小さな置換基を有するシラザン類を好適に用いることができる。こうして表面改質メソポーラスシリカ13を得る。
【0049】
メソポーラスシリカの細孔は棒状ミセルのコロイド結晶の抜け殻であるため、細孔径もそろっている。しかもその細孔は、界面活性剤の種類やpHやその他の条件を制御することにより、均質な径の細孔を有する貫通した細孔とすることができる。このため、表面処理剤による細孔径の制御も精密に行うことができる。
なお、図3では、メソポーラスシリカの外部の表面に存在するシラノール基9のすべてが表面処理剤10で修飾されているようになっているが、立体障害等の理由により、外部表面のシラノール基9の一部が残存していても、第2の表面処理工程で残存するシラノール基が修飾されれば、特に問題とはならない。
【0050】
<樹脂添加用スラリー組成物の調製>
表面改質多孔性シリカを有機溶媒に分散させるためには三本ロール、ボールミル、ビーズミル、高圧ホモジナイザー、スパイクミル、ジェットミル、超音波分散機、各種ミキサー、ニーダー等の機器を使用して行えばよい。なお、スラリー組成物の変性を防ぐため、窒素雰囲気下等の非酸化性雰囲気下で調製を行うことが望ましい。
【0051】
調製したスラリー組成物の粘性も、調製上の重要な目安となる。粘度が低ければ、スラリー組成物中の表面改質多孔性シリカの含有割合が少ないこととなり、調製したスラリー組成物の輸送等の効率を悪化させる一因となる。逆に、粘度が高すぎる場合は、有機樹脂への分散作業の際の作業性が悪化する。
【0052】
適正な粘度は、E型粘度計を用いて、25℃で行った測定において、10〜2000cpsとなる範囲であることが望ましい。なお、簡易的に粘度を測定する方法として、25mLのメスピペットからスラリー組成物が自由落下して流出する時間を測定する方法を採用してもよく、その値によれば、25〜50秒間でスラリー組成物が完全に流出するような範囲に調製することが望ましい。
【0053】
なお、保存時における表面改質多孔性シリカの沈降、ケーキ(沈殿凝集体)の形成を抑制するためには、沈降防止剤を添加するのが望ましい。沈降防止剤を添加すると、粘度は若干高めとなり、上記範囲内において、E型粘度計による粘度で、100cps以上、メスピペットによる方法によれば、35秒間以上で完全に流出するような粘度に調製することで、ケーキの形成は殆どなくなる。
【0054】
沈降防止剤は、有機樹脂を構成する一部の高分子樹脂を用いることができる。具体的には、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ビスマレイミドトリアジン(BT)樹脂、シアノエステル樹脂、ポリアミド樹脂、無水マレイン酸を共重合成分とする共重合体およびその誘導体から選ばれる少なくとも1種であることが望ましい。マトリクス樹脂との兼ね合いで適宜適切なものを採用すればよい。沈降防止剤は、スラリー組成物の調製時と混合し、有機溶媒に溶解させればよい。なお、沈降防止剤の添加量は、上述したように、スラリー組成物の粘度を目安とし、適切な量を決定すればよい。
【0055】
上述したような作業性、保存性等を考慮する場合、スラリー組成物中の表面改質多孔性シリカの含有割合は、具体的には、スラリー全体を100重量%とする場合に、1重量%以上50重量%以下とすることが望ましい。また、樹脂添加用スラリー組成物の調製時において、表面改質多孔性シリカに、シリカ、タルク、マイカ、炭酸カルシウム等樹脂に通常添加する樹脂用フィラーと混合した樹脂用充填剤を有機溶媒に分散して樹脂添加用スラリー組成物とすることもできる。
【0056】
<表面改質多孔性シリカを含有する樹脂組成物の調製>
有機樹脂を有機溶媒に溶解した溶液中に、上述した樹脂添加用スラリー組成物を添加し、均一に混合し、有機溶媒を揮発させることにより、本発明の樹脂組成物が得られる。有機樹脂はその種類を限定するものではなく、熱硬化性あるいは熱可塑性樹脂に幅広く適用可能である。利用可能な有機樹脂を具体的に例示すれば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリウレタン、ポリイミド、不飽和ポリエステル、ビニルトリアジン、架橋性ポリフェニレンオキサイド及び硬化性ポリフェニレンエーテルから選択される1種以上を挙げることができる。有機溶媒を蒸発させるためには、例えば、スプレー、ロールコータ、スピンコータ、キャスティング、ディッピング等の方法によりコーティングし、溶媒を蒸散させた後、硬化させ、被膜状の樹脂成形体とすることができる。これら被膜状の樹脂成形体は、電子部品、接着剤、耐熱膜、保護膜等の種々の用途に供することができる。
【0057】
原料となるメソポーラスシリカや表面処理されたメソポーラスシリカの平均細孔径、比表面積、細孔容量は公知のBET法による窒素吸着等温線から算出することができる。より具体的には平均細孔径は、公知のBJH法、BET法、t−プロット法、DFT法などにより算出することができ、比表面積は、公知のBET法、t−プロット法、α法などにより算出することができ、細孔容量は、公知のBJH法、BET法、t−プロット法などにより算出することができる。また、シラノール基の化学修飾率については、化学修飾前後において、赤外線吸収スペクトルにおける3700cm−1付近のSiO−H伸縮振動に基づく吸収強度と、1000〜1300cm−1付近のSi−O伸縮振動に基づく吸収強度との比から求めることができる。
【0058】
また、細孔の規則性はX線回折等により確認することができる。摂動公式から試料の複素誘電率や複素透磁率を測定する摂動共振法等の手法によって測定することができる。なお、X線回折はX線回折装置(RINT ULTIMA II 理学電機株式会社製)等により測定することができる。
【0059】
本発明における表面改質多孔性シリカの平均細孔径、比表面積、細孔容量は公知のBET法による窒素吸着等温線から算出することができる。より具体的には平均細孔径は、公知のBJH法、BET法、t−プロット法、DFT法などにより算出することができ、比表面積は、公知のBET法、t−プロット法、α法などにより算出することができ、細孔容量は、公知のBJH法、BET法、t−プロット法などにより算出することができる。
【実施例】
【0060】
以下、本発明をさらに具体化した実施例について詳細に説明する。
(実施例1)
実施例1では、多孔性シリカとしてメソポーラスシリカ(太陽化学株式会社製 商品名:TMPS−4)を用いた。このメソポーラスシリカは、貫通する細孔(平均細孔径4.2nm)を有しており、BET法によって算出された比表面積は1159.9m/g、細孔容量は1.02cm/gである。
【0061】
・第1の表面処理工程
このメソポーラスシリカを160℃で4時間加熱した後、5gを計り取り、さらにテトラヒドロフラン4g、及びシラノール基を有するシルセスキオキサンとして下記構造式で示されるトリオール(1)1gを加えて、10分間充分に混合した。そして常圧下110℃で1時間加熱した後、さらに常圧下70℃で1晩加熱することにより、白色固体のプレ処理メソポーラスシリカを得た。
【化2】

【0062】
・第2の表面処理工程
こうして得られたプレ処理メソポーラスシリカにヘキサメチルジシラザン(信越化学工業製HMDS―3)4gを加え、10分間充分に混合した。そしてアスピレータを用いてメチルエチルケトンで2回洗浄し、常温乾燥させることにより、実施例1の表面改質メソポーラスシリカを得た。
【0063】
(試験例1)
試験例1では、実施例1で用いたのと同じメソポーラスシリカ4gを原料とし、第1の表面処理工程の表面処理剤として3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業製 KBM403)を用いた。その他の条件は実施例1と同様であり、説明を省略する。
【0064】
(試験例2)
試験例2では、実施例1で用いたのと同じメソポーラスシリカ4gを原料とし、第1の表面処理工程の表面処理剤としてシラザン類(信越化学株式会社製 KPN3504)を用いた。その他の条件は実施例1と同様であり、説明を省略する。
【0065】
(試験例3)
試験例3では、実施例1で用いたのと同じメソポーラスシリカ4gを原料とし、第1の表面処理工程の表面処理剤として下記構造式で示されるトリオール(2)1gを用いた。その他の条件は実施例1と同様であり、説明を省略する。
【化3】

【0066】
(比較例1)
比較例1は、実施例1の原料であるメソポーラスシリカそのものであり、なんらの処理も施さなかった。
【0067】
(比較例2)
比較例2では、実施例1における第1の表面処理工程(すなわちトリオール(1)による処理)を行うことなく、第2の表面処理工程(すなわちヘキサメチルジシラザンによる処理)を行った。その他の条件は実施例1と同様であり、説明を省略する。
【0068】
(比較例3)
比較例3では、実施例1における第2の表面処理工程(すなわちヘキサメチルジシラザンによる処理)を行うことなく、第1の表面処理工程(すなわちトリオール(1)による処理)を行った。その他の条件は実施例1と同様であり、説明を省略する。
【0069】
(比較例4)
比較例4は、真球シリカ(株式会社アドマテックス製 商品名:アドマファイン SO−C2 平均粒径0.5μm)であり、何らの処理も行なっていないものである。
【0070】
<エポキシ樹脂成形体の調製>
上記のようにして得られた実施例1及び試験例1〜3の表面処理メソポーラスシリカをエポキシ樹脂に添加して、硬化剤で固化することによりエポキシ樹脂組成物を得た。調製方法の詳細は以下のとおりである。
すなわち、表面処理メソポーラスシリカ3gをビーカーに計り取り、液状エポキシ樹脂(東都化成製 ZX1056)10gと、2−フェニル−4,5−ジヒドロキシイミダゾール(四国化成製 2PHZ−PW)とを加えてスパーテルにて充分に混練した。そして撹拌・脱泡機(あわとり練太郎 株式会社シンキー製)により3分間の撹拌・脱泡(2000r.p.m.)を行った。その後、3本の回転するロールによって混練を3回行い、ステンレスバッドへ移し替え、100℃で1.5時間常圧下で脱泡を行ない、さらに温度を140℃として常圧下で硬化させ、褐色のエポキシ樹脂成形体を得た。
また、比較例1として、なんらの表面処理を施していないメソポーラスシリカについて、同様にしてエポキシ樹脂成形体を作製した。
【0071】
−評価−
<赤外吸収スペクトルの測定>
上記実施例1及び試験例1〜3における、第1の表面処理工程後及び第2の表面処理工程後のメソポーラスシリカについて、赤外吸収スペクトルを測定した。結果を図4及び図5に示す。
【0072】
実施例1における第1の表面処理工程後の赤外吸収スペクトルでは、図5に示すように、2800〜3000cm-1付近にCH3伸縮振動に帰属される吸収バンドが存在しており、シラノール基にシルセスキオキサンの一種であるトリオール(1)が化学修飾されたことが確認された。ただし、3600cm-1付近のシラノール基の吸収バンドは消失していないことから、シラノール基も残存していることが分かる。そして、第2の表面処理工程後においては、シラノール基が消失しており、残存していたシラノール基がヘキサメチルジシラザンで化学修飾されていることが確認された。
【0073】
以上の結果から、第1の表面処理工程において、細孔外のシラノール基がシルセスキオキサンの一種であるトリオール(1)によって化学修飾されるが、細孔内のシラノール基はトリオール(1)によって化学修飾されていない部分が残っており、その細孔内に残っていたシラノール基が第2の表面処理工程によって、ヘキサメチルジシラザンによって化学修飾されたことが示唆された。
【0074】
これに対し、試験例1及び試験例2では、図4に示すように、第1の表面処理工程後の赤外吸収スペクトルで3600cm-1付近のシラノール基はほぼ消失しており、2800〜3000cm-1付近に存在するCH3伸縮振動に帰属される吸収バンドが確認できた。そして、第2の表面処理工程後における赤外吸収スペクトルは、第2の表面処理工程前と変わらなかった。このことから、第1の表面処理剤による第1の表面処理工程によって、全てのシラノール基が化学修飾されていることが示唆された。
【0075】
また、試験例3においては、図5に示すように、第1の表面処理工程後においても3600cm-1付近のシラノール基は残っており、2800〜3000cm-1付近に現れるべきCH3伸縮振動に帰属される吸収バンドは確認できなかった。このことから、第1の表面処理剤による化学修飾はほとんどなされていないことが分かる。そして、第2の表面処理工程後において3600cm-1付近のシラノール基は消失し、2800〜3000cm-1付近に存在するCH3伸縮振動に帰属される吸収バンドが確認されたことから、第2の表面処理工程において、すべてのシラノール基がヘキサメチルジシラザンで化学修飾されたことが分かった。
【0076】
<エポキシ樹脂成形体の比重測定>
上記実施例1及び試験例1〜3の表面処理メソポーラスシリカを含有させたエポキシ樹脂成形体の比重をアルキメデス法(すなわち大気中及び水中における重量から比重を求める方法)により求めた。さらには、理論比重(ρ理論値)と実測された比重(ρregin)と表面処理前のメソポーラスシリカの細孔容積(Vpore)とから、死ポア容積率を求めた。ここで、理論比重(ρ理論値)とは、メソポーラスシリカ自体が持つ空隙が完全に確保された時に、成型物がどれくらいの比重になるか算出したものであり、下記式(1)によって表される値である。
【0077】
【数1】

【0078】
また、死ポア容積率とは理論比重を基に実測比重からどのくらいのポア容積が埋まってしまった(空隙が損なわれた)かを表したものである。すなわち100 %であれば細孔の全てが埋まり、0%であれば完全に空隙が保たれていることを示す。上式(1)のVporeを実測値に基づいて求め、死ポア容積率を下記式(2)によって求めた。
【0079】
【数2】

【0080】
ここで、メソポーラスシリカの細孔容積は表面処理前の値(1.02cm/g)を用いて計算を行なった。上記実施例1及び試験例1〜3では第2の表面処理剤としてヘキサメチルジシラザンを用いており、これによって細孔内がトリメチルシリル化されたとすると、細孔容積が減少すると考えられるが、トリメチルシリル基のサイズは0.3nm程度と小さいため、細孔径はそれほど大きな変化は無いと考えられるからである。
【0081】
以上のようにして実測比重と理論比重から死ポア容積率を求めた結果を表1に示す。
【表1】

【0082】
表1から、実施例1では死ポア容積率が5.9%と極めて低く、エポキシ樹脂は表面処理されたメソポーラスシリカの細孔内部にほとんど侵入することなく、細孔内部には低誘電率となるための空気が充填されていることが分かった。また、前述した赤外吸収スペクトルの結果(図5参照)から、実施例1の表面処理メソポーラスシリカは、高誘電率の原因となるシラノール基は細孔内外ともに化学修飾されて低誘電率化されている。このため、実施例1のエポキシ樹脂成形体は、誘電率が低くなり、高周波回路の基板等に好適に用いることができることとなる。
【0083】
これらの結果は、次のように説明することができる。すなわち、第1の表面処理工程において表面処理剤として用いたトリオール(1)の分子の大きさは約2nmであり、メソポーラスシリカの細孔径4.2nmに侵入するためには比較的大きいため、図3の中段の図に示すように、トリオール(1)はメソポーラスシリカの細孔外のシラノール基及び細孔の入り口付近のシラノール基を化学修飾し、細孔内部のシラノール基は残存する。図6に細孔径及びトリオール(1)の分子長から求めた、細孔がトリオール(1)によって小さくされた状態の模式図を示す。
【0084】
そして、第2の表面処理工程において表面処理剤として用いたヘキサメチルジシラザンの修飾基であるトリメチルシリル基の分子の大きさは約0.3nmと小さいため、細孔内部に侵入し、図3の下段の図に示すように、細孔内部のシラノール基を化学修飾する。こうしてメソポーラスシリカは、細孔内の空隙を保持したまま細孔の入り口の径は小さくされ、エポキシ樹脂の侵入が阻止される。また、すべてのシラノール基が化学修飾されて誘電率が下がる。この相乗効果により、この表面修飾メソポーラスシリカをエポキシ樹脂に含有させた組成物は、低誘電率となるのである。
【0085】
これに対して、試験例1及び試験例2では、死ポア容積率が40%台と高く、表面処理メソポーラスシリカの細孔内にエポキシ樹脂がかなり侵入していることが分かった。先に述べたように、赤外吸収スペクトルの結果(図4参照)から、試験例1及び試験例2の表面処理メソポーラスシリカは、第1の表面処理剤による第1の表面処理工程によって、全てのシラノール基が化学修飾されていることが示唆されている。そして、そのことは低誘電率化に有利となるが、細孔内にエポキシ樹脂が侵入しているため、細孔内の空気の保持量が少なくなり、低誘電率化に不利な条件となる。
【0086】
これは、第1の表面処理剤として用いた3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(試験例1)やシラザン類(試験例2)が、メソポーラスシリカの細孔径である4.2nmに比べて小さく、細孔内のシラノール基への第1の表面処理剤の侵入が可能であるためであると考えられる。図6に細孔径及び3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランの最大分子長から求めた、細孔が3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランによって小さくされた状態の模式図を示す。図6に細孔径及び3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランの最大分子長(約1nm)から求めた細孔が3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランによって小さくされた状態の模式図を示す。なお、最大分子長は市販の計算化学ソフトを使用して、化学式から求めた。
【0087】
また、試験例3においては、赤外吸収スペクトル(図5参照)の結果において述べたように、第1の表面処理剤は反応性に乏しくてシラノール基と反応せず、すべてのシラノール基が第2の表面処理剤であるヘキサメチルジシラザンによってトリメチルシリル化されている。そして、トリメチルシリル基の分子長は0.3nmと小さいため、細孔径はそれほど小さくならず、エポキシの侵入を阻止できなかったものと考えられる。
【0088】
また、計算で算出された細孔径と細孔内に吸収された樹脂量との関係を図7に示す。ここで、細孔内に吸収された樹脂量は(細孔容積×死Pore容積率)で求めた。このグラフから、(1)細孔内に吸収された樹脂量は表面処理により狭められた細孔径に依存し、(2)細孔径が2nm以下となると、細孔内への樹脂の侵入が困難となり、特に細孔径が1nm以下では、細孔内への樹脂の侵入はほとんどなくなるのが分かった。この結果から、第1の表面処理剤がシラノール基を有するシルセスキオキサン系の表面処理剤でなくても、表面改質される前の細孔径(4.2nm)の約1/2以上の分子長を有し、シラノール基との反応活性が高い表面処理剤を第1の表面処理剤として用いれば、死ポア容積率が低くなり、かつ細孔内への高分子樹脂の侵入を防ぐことができることが分かる。
【0089】
また、実施例1及び比較例1〜3について、窒素吸着法から求めた細孔径及び細孔容積を表2に示す。
【表2】

【0090】
メソポーラスシリカをトリオール(1)のみで処理した比較例3の細孔容積は0.93cm/gであり、無処理である比較例1の細孔容積の1.26cm/gと比べて減少している。また、比較例3をさらにHMDSで処理した実施例1では、細孔容積が0.66cm/gとさらに減少している。以上の結果から、メソポーラスシリカのトリオール(1)による表面処理で、メソポーラスシリカの最外表面シラノール基及び細孔内部の一部シラノール基が修飾されるものの、細孔内部のシラノール基は残存しており、さらにHMDSで処理することにより、細孔内部の残存シラノール基が修飾されていることが分かった。また、比較例1と比較例2の細孔容積の差が、比較例3と実施例1の細孔容積の差とほぼ同じ値であることから、トリオール(1)で処理した比較例3では、未だ細孔内部のシラノール基はほとんど残存しており、比較例3をさらにHMDSで処理することにより、細孔内部のシラノール基がHMDSで修飾されることが分かった。
【0091】
<誘電率の測定>
実施例1、比較例2及び比較例4のシリカを用いたエポキシ樹脂成形体について、比重及び摂動共振器法(測定周波数は1GHz)による誘電率の測定を行なった。エポキシ樹脂成形体の作製方法は、上述した方法と同様であり、添加量は全て20質量%とした。
【表3】

【0092】
その結果、表3に示すように、HMDSによる処理を行った比較例2の誘電率は2.91であり、真球シリカである比較例4の値3.10と比べて低くなるが、トリオール(1)処理を行なってからHMDSで処理した実施例1の誘電率は2.60とさらに低くなるのが分かった。また、実測樹脂比重については、比較例2では1.235であるのに対して実施例1では1.061と低く、多孔性が保たれていることが分かった。以上の比重及び誘電率の測定結果と、上記窒素吸着法から求めた細孔径及び細孔容積の結果とから、次のようなことが分かる。
すなわち、メソポーラスシリカをトリオール(1)によって処理することにより、細孔内のシラノール基をほとんど残したまま外表面のシラノール基及び細孔入り口付近のシラノール基がトリオール(1)によって修飾される。そして、さらにHMDSで処理をすることにより、細孔内部のシラノール基がHMDSで修飾される。HMDSの分子の大きさは細孔径に比べて小さいため、HMDS処理によっても細孔内部は空隙がほとんど残され、多孔性は確保されたままとなる。しかも、細孔入り口付近は、大きな分子であるトリオール(1)によって狭くされるため、エポキシ樹脂と混練する際にも、細孔内部にエポキシ樹脂が侵入することはない。このため、実施例1の表面改質メソポーラスシリカを含有するエポキシ樹脂成形体は、細孔を維持した状態で表面処理メソポーラスシリカが分散されており、しかもシラノール基がHMDS及びトリオール(1)で修飾されており、水分の吸着も少なくなる。このため、実施例1の表面改質メソポーラスシリカは、誘電率を大きく下げる結果となったのである。
【0093】
−有機溶媒に対する分散性−
実施例1及び試験例1〜3の表面処理メソポーラスシリカ及び比較例1の未処理メソポーラスシリカについて、有機溶媒に対する分散性を調べた。すなわち、実施例1及び試験例1〜3の表面処理メソポーラスシリカ及び比較例1の未処理メソポーラスシリカを1g計り取り、トルエン10mlと混合した後、超音波撹拌を行ない分散させた。そして1時間静置させた後、分散の様子を肉眼観察した。その結果、実施例1及び試験例1〜3の表面処理メソポーラスシリカでは、均一に分散したままであったのに対し、比較例1の未処理メソポーラスシリカでは、大部分が沈殿していた。
【0094】
この発明は上記発明の実施の態様及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明の方法で処理された表面改質多孔性シリカは、IC用の絶縁基板等の充填剤として用いることにより、高周波における誘電損失を少なくすることができる。このため、電子産業において極めて有用な材料を提供することとなる。
【符号の説明】
【0096】
1…多孔性シリカ
2、8…細孔
3、9…シラノール基
4、10…第1の表面処理剤(縮径化学修飾剤)
5、11…プレ処理多孔性シリカ(11…プレ処理メソポーラスシリカ)
6、12…第2の表面処理剤(細孔内化学修飾剤)
7、13…表面改質多孔性シリカ(13…表面改質メソポーラスシリカ)
S1、S11…第1の表面処理工程
S2、S12…第2の表面処理工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔性シリカを第1の表面処理剤で処理することにより、前記多孔性シリカの細孔内のシラノール基の一部又は全部を残しつつ、その他のシラノール基に該第1の表面処理剤を化学修飾させる第1の表面処理工程と、
前記多孔性シリカを第2の表面処理剤で処理することにより、前記細孔内のシラノール基に第2の表面処理剤を化学修飾させる第2の表面処理工程と、
を有することを特徴とする表面改質多孔性シリカの製造方法。
【請求項2】
前記多孔性シリカは平均細孔径が1.5nm〜50nmの細孔を有するメソポーラスシリカであることを特徴とする請求項1記載の表面改質多孔性シリカの製造方法。
【請求項3】
前記第2の表面処理剤の分子は前記第1の表面処理剤の分子よりも小さいことを特徴とする請求項1又は2記載の表面改質多孔性シリカの製造方法。
【請求項4】
前記第1の表面処理剤の分子の最大長は前記多孔性シリカの細孔の直径の1/4〜3/4の範囲であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の表面改質多孔性シリカの製造方法。
【請求項5】
前記第1の表面処理剤は下記に示す構造式a又はb(式中R〜R及びR〜R15は同一でも良く、異なっていても良いアルキル基、アルケニル基及びアリール基のいずれかを示す)で示される前記シラノール基を有するシルセスキオキサンであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載の表面改質多孔性シリカの製造方法。
【化1】

【請求項6】
前記第2の表面処理剤はオルガノシラザンであることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項記載の表面改質多孔性シリカの製造方法。
【請求項7】
多孔性シリカが細孔の容積を維持しつつ該細孔の入り口のフリースペースを小さくするようにシラノール基を化学修飾する縮径化学修飾剤と、該細孔の内部のシラノール基を化学修飾する細孔内化学修飾剤と、で化学修飾されていることを特徴とする表面改質多孔性シリカ。
【請求項8】
前記多孔性シリカは平均細孔径が1.5nm〜50nmの細孔を有するメソポーラスシリカであることを特徴とする請求項7記載の表面改質多孔性シリカ。
【請求項9】
請求項1乃至6のいずれか1項記載の方法で製造された表面改質多孔性シリカ又は請求項7若しくは8の表面改質多孔性シリカを有機溶媒に分散してなることを特徴とする樹脂添加用スラリー組成物。
【請求項10】
前記表面改質多孔性シリカの沈降を防止するための沈降防止剤が添加されていることを特徴とする請求項9記載の樹脂添加用スラリー組成物。
【請求項11】
前記沈降防止剤は、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ビスマレイミドトリアジン樹脂、シアノエステル樹脂、ポリアミド樹脂、並びに無水マレイン酸を共重合成分とする共重合体及びその誘導体から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項10記載の樹脂添加用スラリー組成物。
【請求項12】
請求項1乃至6のいずれか1項記載の方法で製造された表面改質多孔性シリカ又は請求項7若しくは8の表面改質多孔性シリカが樹脂用フィラーに混合されていることを特徴とする樹脂用充填剤。
【請求項13】
有機樹脂に、請求項1乃至6のいずれか1項記載の方法で製造された表面改質多孔性シリカ又は請求項7若しくは8の表面改質多孔性シリカ又は請求項12の樹脂用充填剤が含有されていることを特徴とする樹脂組成物。
【請求項14】
前記有機樹脂は、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリウレタン、ポリイミド、不飽和ポリエステル、ビニルトリアジン、架橋性ポリフェニレンオキサイド及び硬化性ポリフェニレンエーテルから選択される1種以上であることを特徴とする請求項13記載の樹脂組成物。
【請求項15】
請求項14の樹脂組成物を成形した樹脂成形体であって、前記有機樹脂が表面改質多孔性シリカの細孔内に入り込むことによって消滅した細孔容積の割合である死ポア容積率が20%以下であることを特徴とする樹脂成形体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−195604(P2010−195604A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−39325(P2009−39325)
【出願日】平成21年2月23日(2009.2.23)
【出願人】(000241485)豊田通商株式会社 (73)
【出願人】(501402730)株式会社アドマテックス (82)
【出願人】(000204181)太陽化学株式会社 (244)
【Fターム(参考)】