説明

表面検査方法

【課題】検査対象物の表面に所定の方向に延伸するキズではない凹凸や模様が存在する場合であっても、当該凹凸や模様の影響を抑制もしくは除去できる表面検査方法を提供すること。
【解決手段】検査対象物9の検査対象領域を撮像して画像データを作成し、互いに直交するX軸方向とY軸方向に沿って画像データの各画素の輝度値を微分する処理を行い、画素ごとにX軸方向の微分値とY軸方向の微分値を成分とするベクトルを算出し、各画素のベクトルのX軸に対する角度の度数を計測して度数の高い角度に直角な方向を研削痕の延伸方向であると特定し、画像データの各画素のうちの度数の高い角度のベクトルの画素の輝度値を弱める補正を行うか、または度数の高くない角度のベクトルの画素の輝度値を高める補正を行い、補正した画像データを二値化し、二値化した画像データに基づいてキズを検査する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面検査方法に関するものであり、詳しくは、画像処理によって検査対象物の表面に存在するキズなどを検出する(=キズなどが存在するか否かを検査する)ことができる表面検査方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋼材、鉄材、アルミ材などといった製品は、製造後において、その表面にキズなどが存在するか否かを検査する表面検査が実施されることがある。このような製品の表面検査方法には、たとえば、検査者が目視によりキズなどを検出する方法のほか、画像処理を適用して自動的にキズなどを検出する方法などが用いられている。
【0003】
画像処理を適用する一般的な表面検査方法は、たとえば、次のような手順で実施される。まず、製品(=検査対象物)の表面を撮像し、画像データを作成する。次いで、作成した画像データに含まれる画素から、所定の閾値よりも高い輝度値(または所定の閾値よりも低い輝度値)を有する画素を抽出する。そして、所定の閾値よりも高い輝度値(または低い輝度値)を有する画素が存在した場合には、当該画素をキズとみなして検出する。または、所定の閾値よりも高い輝度値(または低い輝度値)を有する画素からなる「画素の集合」を検出し、当該「画素の集合」の大きさや、当該「画素の集合」に含まれる画素数が所定の値を超える場合には、当該「画素の集合」をキズとみなして検出する。このように、一般的には、画像データの画素の輝度に基づいて、「キズ」が存在するか否か判定する。そして、最終的には、このように検出した「キズ」に基づいて、製品の良否などを判定する。
【0004】
ところで、製品の表面には、「キズと見なさなくてもよい凹凸や模様」が存在することがある。たとえば、研削や切削などが施された製品は、その表面に、研削痕や切削痕などといった加工痕が存在することがある。このような加工痕は、キズと見なさなくてもよいことがある。このような製品に対して、前記のような表面検査方法を適用すると、「キズ」と「キズと見なさなくてもよい凹凸や模様」とを区別することが困難なことがある。すなわち、画像データの画素の輝度に基づいて「キズ」か否かを判断する方法では、「キズ」と「キズと見なさなくてもよい凹凸や模様」に対応する画素が、同レベル帯域の輝度値を有していると、これらを区別できない。このため、「キズ」の検査の精度が低下することがある。
【0005】
なお、キズの検査の精度の向上を図るために、画像データに含まれるノイズを除去する構成が用いられることがある。たとえば、所定の閾値よりも高い輝度値を有する画素の集合であっても、所定のサイズよりも小さいサイズの画素の集合は、ノイズとして除去する方法が用いられることがある。このほか、画像データの各画素の輝度値を、所定の領域ごとに平均化することによりノイズを除去する方法が用いられることがある。
【0006】
しかしながら、これらのような方法は、前記のような製品に対しては、効果が得られない。すなわち、所定のサイズよりも小さいサイズの画素の集合を、加工痕とみなして除去すると、所定のサイズよりも小さいサイズのキズも除去されて検出できなくなる。そして、キズの検出漏れがないようにするため、小さいサイズの画素の集合をキズとして検出すると、加工痕もキズとして検出される。また、画素の輝度値を平均化する構成では、加工痕に対応する画素を除去すると、キズに対応する画素までもが除去される。そして、キズの検出漏れを防止するため、平均化の程度を低くすると、加工痕が除去されずに残り、キズとして検出される。
【0007】
このような問題を解決する構成としては、たとえば、特許文献1のような構成が提案されている。特許文献1に記載の構成は、所定の方向に研削処理が施された製品に光を照射し、製品の表面からの反射光のうち、研削方向に直角の方向に散乱した成分を選択的に検出し、この検出結果に基づいて製品の表面性状を検査する、というものである。そして、研削方向に対し直角の方向に大きく広がった分布を持つ散乱成分の情報量の多さを利用して、明確に弁別することが難しい凹凸性の表面欠陥を確実に検出できるというものである。特許文献1の記載によれば、製品の表面からの反射光は、研削方向に対して直角な方向への散乱成分の拡がりが、他の方向への拡がりよりも大きいという知見に基づくものである。
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の構成は、研削方向が未知または不明であると、適用できないという問題を有する。すなわち、前記のとおり、製品の表面からの反射光のうち、研削方向に対して直角な方向に散乱した成分を選択的に検出する構成であるから、研削方向が既知である必要がある。さらに、特許文献1に記載の構成は、研削方向が一定でない製品や、研削方向が互いに相違する複数の製品に対しては、適用が困難であるという問題点も有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平9−196862号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前記実情に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、検査対象物の表面に所定の方向に延伸するキズではない凹凸や模様などが存在する場合において、当該凹凸や模様などの延伸方向を検出することができる表面検査方法を提供すること、または、検査対象物の表面に所定の方向に延伸するキズではない凹凸や模様が存在する場合であっても、当該凹凸や模様の影響を抑制もしくは除去できる表面検査方法を提供すること、または、検査対象物の表面にキズではない凹凸や模様が存在し、当該凹凸や模様の延伸方向が一定ではない場合であっても、当該凹凸や模様の影響を抑制もしくは除去できる表面検査方法を提供すること、また、キズではない凹凸や模様の延伸方向が互いに異なる複数の検査対象物についても、当該凹凸や模様の影響を抑制もしくは除去できる表面検査方法を提供すること、である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するため、本発明は、検査対象領域に所定の方向に延伸する凹凸や模様が存在する検査対象物の表面検査方法であって、検査対象物の検査対象領域を撮像して画像データを作成する段階と、前記画像データの各画素の輝度値に、互いに直交する二方向に沿って微分処理を施す段階と、前記画像データの画素ごとに、互いに直交する二方向の微分値を成分とするベクトルを算出する段階と、算出した前記ベクトルの所定の基準方向からの角度の分布を算出する段階と、
算出した前記ベクトルの所定の基準方向からの角度の分布に基づいて前記凹凸や模様の延伸方向を特定する段階と、を含むことを要旨とするものである。
【0012】
なお、「所定の方向」とは、既知の特定の方向(=特定の単一の方向または特定の複数の方向)に限定されるものではない。また、単一の方向であってもよく、複数の方向であってもよい。そして、「所定の方向」は、本発明にかかる表面検査方法においては、既知であるか未知であるかは問題とはならない。すなわち、本発明の実施形態にかかる表面検査方法を実施するにあたり、凹凸や模様の延伸方向は既知である必要はなく、未知であってもよい。
【0013】
そして、「所定の方向に延伸する凹凸や模様」は、「形状に方向性を有する凹凸や模様」であると換言できる凹凸や模様である。具体的にはたとえば、線状(直線状であってもよく曲線状であってもよい)の凹凸や模様などが含まれる。また、平面的な広がりを有する凹凸や模様であっても、「長手方向」を有する(=「長手方向」を認識できる)凹凸や模様などが含まれる。たとえば、長方形や楕円のような形状などである。
【0014】
前記算出した前記ベクトルの所定の基準方向からの角度の分布を算出する段階においては、前記所定の基準方向からの角度ごとに前記ベクトルの大きさの合計値を算出し、前記算出した前記ベクトルの方向の分布に基づいて前記凹凸や模様の延伸方向を特定する段階においては、算出した前記合計値のピークが現れる角度と90°の位相差を有する角度を前記凹凸や模様の延伸方向であると特定する構成が適用できる。なお、前記「ピークが現れる角度」や「凹凸や模様の延伸方向」は、ある程度の幅を有する値であってもよい。
【0015】
本発明は、さらに、前記ピーク値が現れる角度とは異なる角度を有するベクトルの画素の輝度値を高くする補正を行う段階と、前記補正された画像データに基づいて検査対象物の検査対象領域のキズを検査する段階とを含むことを要旨とするものである。
【0016】
前記補正を行う段階においては、画像データの各画素の輝度値に(式1)で示されるフィルタを適用する構成であることが好ましい。
【0017】
【数1】

【0018】
前記微分処理には、ソーベルの微分法またはプレヴィットの微分法が適用される。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、検査対象物の表面に、所定の方向に延伸する多数の凹凸や模様が存在する場合には、当該凹凸や模様の延伸方向を特定することができる。たとえば、グラインダの研削痕、各種切削工具による切削痕、各種砥石や砥粒による研磨痕や研削痕、圧延ローラによるローラ痕、押出加工や引抜加工におけるダイの摩擦痕などといった、所定の方向に延伸する加工痕の延伸方向を特定することができる。また、加工痕に限らず、所定の方向に延伸する平面的な模様も検出できる。このため、キズを検査するための画像処理において、所定の方向に延伸する多数の凹凸や模様の影響を除去すること、または影響を小さくすることができる。したがって、所定の方向に延伸する多数の凹凸や模様を、キズとして認識されないようにすることができる。この結果、キズの検査の精度(=キズの検出の精度)の向上を図ることができる。
【0020】
すなわち、従来のように、輝度値にのみ基づいて検出する構成では、「キズ」と「キズと見なさなくてもよい凹凸や模様」とが同程度の輝度を有すると、これらを区別できない。このため、「キズと見なさなくてもよい凹凸や模様」を「キズ」として検出することや、「キズ」が「キズと見なさなくてもよい凹凸」に埋もれて検出できなくなることがある。これに対して本発明の実施形態にかかる表面検査方法によれば、「キズ」と「キズと見なさなくてもよい凹凸や模様」とを区別できる。このため、「キズ」のみを検出することができ、キズの検査の精度の向上を図ることができる。
【0021】
また、本発明においては、「キズと見なさなくてもよい凹凸や模様」の延伸方向が未知または不明であってもよい。また、検査対象物の表面を撮像する段階においては、「キズと見なさなくてもよい凹凸や模様」の延伸方向は問題とならない。すなわち、撮像手段や照明と、「キズと見なさなくてもよい凹凸や模様」とを特定の方向に調整する必要がない。このため、検査内容が複雑になることや、検査における手間が増加することはない。また、簡単な構成の装置で実施することができる。
【0022】
また、特許文献1に記載の構成においては、複数の検査対象物について検査を行う場合には、検査対象物の向き(=「キズと見なさなくてもよい凹凸や模様」の延伸方向)を揃える必要がある。これに対して、本発明においては、複数の検査対象物について検査を行う場合であっても、検査対象物の向きを揃える必要がない。このため、検査における作業内容が複雑になることや、手間が増加することがない。
【0023】
また、特許文献1の構成では、「キズと見なさなくてもよい凹凸や模様」の延伸方向が一定ではない場合には、検査を行うことができないか、または、光源を「キズと見なさなくてもよい凹凸や模様」の延伸方向に追従させる機構が必要となる。これに対して本発明では、「キズと見なさなくてもよい凹凸や模様」の延伸方向が一定ではない場合には、一定と見なすことができる程度のサイズに画像を分割することで、検出が可能となる。さらに、光源や撮像手段を、「キズと見なさなくてもよい凹凸」の延伸方向に応じて変更する必要がない。このため、簡単な構成で検査を行うことができる。したがって、装置のコストの上昇の抑制または防止を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施形態にかかる表面検査方法において用いられる装置の構成の概略を、模式的に示した図である。
【図2】画像データの微分処理を、模式的に示した図である。
【図3】算出されたベクトルの角度の分布傾向を示すグラフである。
【図4】画像データの二値化の結果を模式的に示した図であり、(a)は本発明の実施形態にかかる表面検査方法が適用された図、(b)は従来の方法が適用された図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0026】
本発明の実施形態にかかる表面検査方法は、検査対象物の検査対象領域(=検査対象物の表面の全体または所定の一部)を撮像して画像データを作成し、作成した画像データに所定の画像処理を施すことにより、検査対象物の検査対象領域に存在するキズを検査することができる(=キズを検出することができる)。画像処理においては、検査対象物の検査対象領域に存在する「キズと見なさなくても良い凹凸や模様」を検出し、画像データから、「キズと見なさなくてもよい凹凸や模様」の影響を除去する。このため、検査対象物の検査対象領域に存在するキズを検査(=キズを検出)する際に、「キズと見なさなくてもよい凹凸や模様」の影響を受けないようにできる。したがって、検査対象物の検査対象領域に存在するキズの検査の精度(=キズの検出の精度)を高めることができる。なお、本発明の実施形態にかかる表面検査方法において、「キズ」とは、「異常な凹凸や模様」をいうものとする。
【0027】
本発明の実施形態にかかる表面検査方法の検査対象物は、グラインダなどにより研削処理が施された材料や製品(たとえば、鉄材、鋼材、アルミ材などといった各種金属材料)とする。このため、検査対象物の検査対象領域には、多数の研削痕が存在する。研削痕は、所定の方向に延伸する線状の凹部である。本発明の実施形態にかかる表面検査方向においては、研削痕を「キズと見なさなくてもよい凹凸や模様や模様」として扱う。そして、キズの検査において、研削痕をキズとして検出しないようにし、研削痕以外の凹凸や模様を、キズとして検査する(キズとして検出する)。たとえば、研削痕の延伸方向とは異なる方向に延伸する線状の凹凸や模様や、斑点状の凹凸や模様を、キズとして検査する。
【0028】
なお、本発明の実施形態にかかる表面検査方法においては、研削痕の延伸方向が具体的に明確である必要はない。
【0029】
図1は、本発明の実施形態にかかる表面検査方法において使用される装置1の構成を、模式的に示した図である。図1に示すように、本発明の実施形態にかかる表面検査方法において使用される装置1は、撮像手段11と、照明12と、記憶手段13と、演算手段14と、出力手段15とを備える。
【0030】
撮像手段11は、検査対象物9の検査対象領域を撮像して、画像データを作成することができる。撮像手段11には、CCDカメラなど、公知の各種ディジタルカメラが適用できる。
【0031】
記憶手段13は、撮像手段11が作成した画像データや、後述する演算手段14が作成したデータなど、各種のデータを記憶することができる。演算手段14は、撮像手段11が作成した画像データに対して所定の画像処理を施すことができる。さらに、画像処理結果に基づいて、検査対象物9の検査対象領域のキズを検査することができる。出力手段15は、演算手段14による画像処理やキズの検査の結果を出力することができる(たとえば表示することができる)。記憶手段13と、演算手段14と、出力手段15とは、たとえば、公知の各種パーソナルコンピュータやワークステーションなどにより実現される。
【0032】
照明12は、撮像手段11により検査対象物9の検査対象領域を撮像する際に、検査対象物9の検査対象領域に光を照射することができる。照明12は、その種類や構成が限定されるものではなく、公知の各種照明機器が適用できる。ただし、照明12は、検査対象物9の検査対象領域に対して均一な強さの光を照射できるものであることが好ましい。たとえば、同軸落射照明が好適に適用できる。同軸落射照明は、図1に示すように、光源121とハーフミラー122とを備え、光源121が発した光をハーフミラー122に反射させ、その反射光を検査対象物9の検査対象領域に照射することができる。そして、ハーフミラー122での反射光の光軸と、撮像手段11の光軸とが一致するように配設される。なお、本発明の実施形態にかかる表面検査方法において使用される装置1においては、光源12は必須ではない。たとえば、検査対象物9の検査対象領域に均一な光が照射される環境であれば、本発明の実施形態にかかる表面検査方法において使用される装置1が光源12を備えなくてもよい。
【0033】
本発明の実施形態にかかる表面検査方法は、(1)検査対象物の検査対象領域を撮像して画像データを作成する段階、(2)画像データに所定の画像処理を施して「キズと見なさなくてもよい凹凸や模様」の延伸方向を特定する段階、(3)画像データを補正して「キズと見なさなくてもよい凹凸や模様」の影響を除去する段階、(4)補正した画像データに基づいてキズを検査する段階、とを含む。
【0034】
各段階の詳細は、次のとおりである。
【0035】
(1)検査対象物の検査対象領域を撮像して画像データを作成する段階
この段階では、まず、照明12により検査対象物9の検査対象領域に光を照射し、撮像手段11により検査対象物9の検査対象領域を撮像する。撮像手段11は、検査対象物の検査対象領域を所定の数の画素に分解し、各画素の輝度(=検査対象物9の検査対象領域からの反射光の強さ)を数字符号に変換した画像データを作成する。そして、記憶手段13は、作成した画像データを記憶する。なお、撮像の際には、研削痕の延伸方向がどの方向を向いていてもよく、検査対象物9の向きを限定する(=調整する)必要はない。また、検査対象物9の検査対象領域の全体を一時に撮像し、検査対象物9の検査対象領域の全体で一つの画像データを作成してもよく、分割して複数回に分けて撮像し、複数の画像データを作成してもよい。
【0036】
検査対象物9の表面には、凹部である研削痕が存在する。そして、研削痕において、照明12の光が乱反射する。このため、研削痕からの反射光は、それ以外の部分(=凹部ではない部分)からの反射光よりも強くなる。また、検査対象物9の表面にキズが存在すると、キズからの反射光は、研削痕と同様の理由により、それ以外の部分からの反射光よりも強くなる。したがって、画像データに含まれる画素のうち、研削痕やキズが写った画素(=研削痕やキズの位置に対応する画素)は、それ以外の部分が写った画素(=凹凸や模様ではない部分に対応する画素)に比較して、輝度値が高くなる。
【0037】
(2)画像データに所定の画像処理を施して「キズと見なさなくてもよい凹凸や模様」の延伸方向を特定する段階
この段階は、さらに、(2−1)画像データの各画素の輝度値に微分処理を施す段階、(2−2)微分処理の結果に基づいてベクトルを算出する段階、(2−3)算出したベクトルに基づいて検査対象物の検査対象領域に存在する「キズと見なさなくてもよい凹凸や模様」の方向を特定する段階、とを含む。
【0038】
(2−1)画像データの各画素の輝度値に微分処理を施す段階
この段階では、演算手段14により、記憶手段13に記憶される画像データに、X軸方向とY軸方向の二方向について微分処理を施す(=互いに直交する二方向について微分処理を施す)。すなわち、画像データの画素どうしの間の輝度値の差分を、X軸方向とY軸方向の二方向について算出する。この微分処理には、たとえば、ソーベルの微分法や、プレヴィット(プレウィット)の微分法など、公知の各種ディジタル画像の微分法が適用できる。
【0039】
たとえば、ソーベルの微分法であれば、画像データの各画素の輝度値に対して、(式1−a)と(式1−b)に示すソーベルフィルタ(「ソーベルオペレータ」とも称する)を適用する。(式1−a)に示すフィルタは、X軸方向に微分処理を施すためのソーベルフィルタでの一例ある。(式1−b)に示すフィルタは、Y軸方向に微分処理を施すためのソーベルフィルタの一例である。
【0040】
【数2】

【0041】
また、プレヴィットの微分法であれば、画像データの各画素の輝度値に対して、(式2−a)と(式2−b)に示すプレヴィットフィルタ(「プレヴィットオペレータ」とも称する)を適用する。(式2−a)に示すフィルタは、X軸方向に沿って微分処理を施すためのプレヴィットフィルタの一例である。(式2−b)に示すフィルタは、Y軸方向に沿って微分処理を施すためのプレヴィットフィルタの一例である。
【0042】
【数3】

【0043】
なお、式(1−a)、式(1−b)、式(2−a)、式(2−b)では、3×3の要素を有するフィルタを示したが、適用するフィルタの要素の数は特に限定されるものではない。また、適用するフィルタは、正方行列上のフィルタであってもよく、行方向と列方向とで要素の数が異なるフィルタであってもよい。さらに、微分方法も、ソーベルの微分法やプレヴィットの微分法に限定されるものではなく、他の各種のディジタル画像の微分法や、ディジタルデータの微分法が適用できる。
【0044】
そして、このような微分処理を、すべての画素について行う。この微分処理が行われると、画像データに含まれるすべての画素について、輝度値のX軸方向の微分値と、Y軸方向の微分値とが算出される。
【0045】
図2は、画像データの微分処理を、模式的に示した図である。図2中の「対象画像データ」は、微分処理を施す対象となる画像データの例を示す。ここでは、例として、三種類の対象画像データを示す。対象画像データNo.1は、基準方向(本発明の実施形態においては、X軸方向を基準方向とする)に平行に延伸する輝線を含む画像データである。対象画像データNo.2は、基準方向に直角な方向(=Y軸方向)に延伸する輝線を含む画像データである。対象画像データNo.3は、基準方向に対して45°の方向に延伸する輝線と、135°の方向に延伸する輝線とを含む画像データである。なお、「基準方向」とは、研削痕の方向を示すために便宜上設定する方向である。本発明の実施形態においては、X軸方向を基準方向とするが、特に限定されるものではない。また、「輝線」とは、「周囲よりも輝度値が高い画素が線状に集合したもの」とする。「X軸方向微分結果」と「Y軸方向微分結果」は、それぞれ、「対象画像データ」のX軸方向に沿った輝度値の微分処理結果(=微分値)と、Y軸方向に沿った輝度値の微分処理結果を示す。そして、微分値が小さい画素を暗く(=黒く)、微分値が大きい画素を明るく(=白く)して示してある。
【0046】
図2に示すように、対象画像データNo.1は、X軸方向に沿って微分処理を施すと、輝線の端点において輝度値が急激に変化する。このため、輝線の端点において、微分値が0ではない所定の値(=輝線とそれ以外の部分の輝度値の差に応じた値)となる。それ以外の位置においては、X軸方向に隣り合う画素どうしの間では輝度値が変化しない。このため、微分値は0となる。一方、Y軸方向に沿って微分処理を施すと、微分方向と輝線の延伸方向とが直交するため、輝線の位置において輝度値が急激に変化する。このため、輝線の位置における微分値は、0ではない所定の値となる。それ以外の位置においては、微分値は0となる。
【0047】
したがって、対象画像データNo.1に微分処理を施すと、輝線に対応する画素は、端点に対応する画素を除き、X軸方向の微分値は0(ゼロ)となり、Y軸方向の微分値は、0ではない所定の値となる。一方、輝線に対応する画素以外の画素においては、X軸方向の微分値とY軸方向の微分値が、いずれも0となる。
【0048】
対象画像データNo.2にX軸方向に微分処理を施すと、微分方向と輝線の延伸方向とが直交するため、輝線の位置において輝度値が急激に変化する。このため、輝線の位置において、X軸方向の微分値は、0ではない所定の値となる。それ以外の位置においては、X軸方向の微分値は0となる。一方、Y軸方向に微分処理を施すと、輝線の端点において輝度値が急激に変化するため、輝線の端点では、Y軸方向の微分値は0ではない所定の値(=輝線とそれ以外の部分の輝度値の差に応じた値)となる。それ以外の位置においては、Y軸方向に隣り合う画素どうしの間では輝度値が変化しないため、Y軸方向の微分値は0となる。
【0049】
したがって、対象画像データNo.2に微分処理を施すと、輝線に対応する画素は、端点に対応する画素を除き、X軸方向の微分値は0ではない所定の値となり、Y軸方向の微分値は0となる。一方、輝線に対応する画素以外の画素は、X軸方向の微分値とY軸方向の微分値がいずれも0となる。
【0050】
対象画像データNo.3は、X軸方向に沿って微分処理を施すと、微分方向と輝線の延伸方向とが所定の角度(=45°,135°)をもって交差するため、輝線の位置において輝度値が急激に変化する。このため、輝線に対応する画素のX軸方向の微分値は、0ではない所定の値となる。輝線に対応する画素以外の画素のX軸方向の微分値は0となる。Y軸方向に微分処理を施した場合も同様である。
【0051】
したがって、対象画像データNo.3に微分処理を施すと、輝線に対応する画素の微分値は、X軸方向とY軸方向のいずれも、0ではない所定の値となる。なお、微分値の具体的な大きさは、輝線と微分方向の交差角度に応じて変化する。たとえば、輝線と微分方向の交差角度が小さくなると、微分値は小さくなり、90°に近付くにしたがって大きくなる。なお、対象画像データNo.3においては、微分方向に対する輝線の角度は、X軸方向とY軸方向とで等しいから、輝線に対応する画素のX軸方向の微分値とY軸方向の微分値は、等しい値となる。
【0052】
(2−2)微分処理の結果に基づいてベクトルを算出する段階
この段階では、画像データに含まれる各画素について、X軸方向の微分値とY軸方向の微分値とを成分とするベクトルVを算出する。さらに、算出した各画素のベクトルVの大きさ|V|と、基準方向(ここでは、X軸方向)に対する角度θとを算出する。各画素のベクトルVの大きさ|V|と、基準方向に対する角度θは、

|V|=((X軸方向の微分値)+(Y軸方向の微分値)1/2
θ=tan−1((Y軸方向の微分値)/(X軸方向の微分値))

で算出される。
【0053】
算出された各画素のベクトルVの角度θは、当該画素とその周囲の画素との間の輝度値の変化が最も大きい方向を示す。このため、ベクトルVの角度θに対して直角な方向(=90°の位相差を有する方向)が、各画素とその周囲の画素との間の輝度の変化が最も小さい方向となる。また、ベクトルVの大きさ|V|は、当該画素とその周囲の画素との間の輝度の変化率を示す。このため、微分値が大きい画素は、周囲との輝度値の差が大きい。
【0054】
(2−3)算出したベクトルに基づいて検査対象物の検査対象領域に存在する「キズと見なさなくてもよい凹凸や模様」の方向を特定する段階
この段階においては、まず、図3に示すようなグラフを作成する。図3に示すグラフは、算出されたベクトルVが有する角度の分布を、ベクトルVの大きさにより重み付けして示したグラフである。そして、ベクトルVが有する角度の分布の傾向を示す。図3に示すグラフの横軸は、各画素のベクトルVの基準方向に対する角度θである。また、縦軸は、各角度におけるベクトルVの大きさの合計値である。具体的には、画像データに、X軸に対してある所定の角度θを有するベクトルVの画素がN個含まれる場合には、当該ある所定の角度θに、当該N個の画素のベクトルVの大きさ|V|の合計値をプロットする。
【0055】
対象画像データNo.1においては、輝線に対応する画素のX軸方向の微分値は0(ゼロ)であり、Y軸方向の微分値は0ではない所定の値である。このため、輝線に対応する画素のベクトルVの方向は、X軸に対して90°(=270°)の位相差を有する。一方、輝線に対応する画素以外の画素のX軸方向の微分値とY軸方向の微分値は、いずれも0である。すなわち、輝線に対応する画素以外の画素のベクトルVは、いわゆるゼロベクトルである。したがって、対象画像データNo.1のグラフでは、ベクトルVの大きさの合計値は、90°と、270°の位置において突出し(=ピークが現れ)、それ以外の角度においては0となる。
【0056】
対象画像データNo.2においては、輝線に対応する画素のX軸方向の微分値は0ではない所定の値であり、Y軸方向の微分値は0である。このため、輝線に対応する画素のベクトルVの方向は、X軸に平行な方向となる(X軸との位相差が0°(=180°)となる)。一方、輝線に対応する画素以外の画素は、X軸方向の微分値とY軸方向の微分値がいずれも0となる。このため、輝線に対応する画素以外の画素のベクトルVは、いわゆるゼロベクトルとなる。したがって、対象画像データNo.2のグラフでは、ベクトルVの大きさの合計値は、0°と180°の位置において突出し、それ以外の角度においては0となる。
【0057】
対象画像データNo.3においては、基準方向に対して45°の角度を有する輝線に対応する画素の輝度の微分値は、X軸方向とY軸方向ともに、0ではない所定の値となる。そして、この輝線とX軸およびY軸の交差角度はいずれも45°(=225°)であるから、微分値は、X軸方向とY軸方向とで同じ値となる。したがって、この輝線に対応する画素のベクトルVは、X軸方向成分とY軸方向成分が同じ絶対値を有するから、その方向は、基準方向に対して135°(=315°)の位相差を有する。これに対して、この輝線以外の部分に対応する画素のベクトルVは、いわゆるゼロベクトルである。基準方向に対して45°の角度を有する輝線に対応する画素も同様である。
【0058】
したがって、対象画像データNo.3のグラフでは、ベクトルVの大きさの合計値は、45°、135°、225°、315°の角度において突出し、それ以外の角度においては0となる。
【0059】
このように、基準方向に対する角度が同じであるベクトルVを有する画素が、画像データの中にある程度まとまった数が含まれると、当該角度におけるベクトルVの大きさの合計値は、他の角度における合計値よりも大きい値となる。すなわち、当該角度に、ベクトルVの大きさの合計値のピークが現れる。また、基準方向に対する角度が互いに異なるベクトルVを有する画素が、画像データの中にそれぞれまとまった数ずつ含まれる場合には、それぞれの角度におけるベクトルVの大きさの合計値は、他の角度における合計値よりも大きくなる。すなわち、それぞれの角度において、ベクトルVの大きさのピークが現れる(=図3のグラフ中に、複数のピークが現れる)。
【0060】
そして、各ベクトルVの角度は、輝線の延伸方向に対して90°の位相差を有する。このため、合計値のピークが現れる角度に対して90°の位相差を有する角度が、輝線の延伸方向となる。このように、輝線が含まれる画像データに対して、前記(2−1)、(2−2)、(2−3)の各段階の処理を施すと、輝線の延伸方向を特定することができる。
【0061】
研削痕は互いに略平行であり、特定の方向に延伸する。このため、画像データに含まれる画素のうち、研削痕に対応する画素(=研削痕が写った画素)のベクトルVは、基準方向に対する角度がほぼ一定となる。また、研削痕は、照明の光が乱反射するから、その他の部分よりも明るくなる。このため、研削痕に対応する画素は、それ以外の画素よりも輝度が高くなる。したがって、研削痕は、画像データの中に、輝線として含まれる。そして、研削痕は、キズやその他の凹凸や模様に比較して数が多いから、研削痕に対応する画素の数は、他の部分(キズやその他の凹凸や模様)に対応する画素の数よりも多い。
【0062】
このため、検査対象物の検査対象領域を撮像した画像データについて、図3に示すグラフを作成すると、研削痕の延伸方向に対して90°の位相差を有する角度に、合計値のピークが表れる。したがって、合計値のピークが現れる角度に90°の位相差を有する角度が、研削痕の延伸方向であると特定することができる。
【0063】
このように、検査対象物の検査対象領域を撮像した画像データに対して、(2−1)、(2−2)、(2−3)の各段階の処理を施すと、研削痕の延伸方向を特定することができる。なお、実際の処理においては、図3に示すグラフを作成できるようなデータの集合があればよく、実際に図3に示すグラフそのものを作成しなくともよい。要は、演算手段14により、算出したベクトルVの大きさの合計値が、どの角度にピークを有するかを判断することができればよい。
【0064】
(3)画像データを補正して「キズと見なさなくてもよい凹凸や模様」の影響を除去する段階
この段階においては、画像データに所定の画像処理を施して、画像データに含まれる画素の輝度値を補正する。そして、研削痕に対応する画素の影響を除去する(または、研削痕に対応する画素の影響を小さくする)。具体的には、研削痕の延伸方向とは直角な方向に沿った輝度値を強調するフィルタを、画像データに適用する。
【0065】
【数4】

【0066】
このフィルタは、円を三角関数でモデル化したフィルタである。すなわち、3行3列のマトリックスのうち、中心の(要素b−2)を除く8個の要素が、円周上の各位置を示す。具体的には、(要素b−3)がX軸に対して0°の位置を示し、(要素a−3)がX軸に対して45°の位置を示し、(要素a−2)がX軸に対して90°の位置を示し、(要素a−1)がX軸に対して135°の位置を示し、(要素b−1)がX軸に対して180°の位置を示し、(要素c−1)がX軸に対して225°の位置を示し、(要素c−2)がX軸に対して270°の位置を示し、(要素c−3)がX軸に対して315°の位置を示す。
【0067】
画像データの各画素の輝度値にこのフィルタを適用すると、このフィルタの各要素の「ξ」に代入した角度(=方向)の輝度が強調される。すなわち、このフィルタの(要素b−2)を、適用対象となる画素(=着目画素)に重ねる。そして、着目画素およびこれに隣接する8個の画素のそれぞれと、これらの画素のそれぞれに重なる要素の値との積の和を、着目画素の輝度値と置き換える(=新たな輝度値とする)。すなわち、
【0068】
{(要素a−1)×(着目画素の左上の画素の輝度値)+(要素a−2)×(着目画素の上の画素の輝度値)+(要素a−3)×(着目画素の右上の画素の輝度値)+(要素b−1)×(着目画素の左の画素の輝度値)+(要素b−2)×(着目画素の輝度値)+(要素b−3)×(着目画素の右の画素の輝度値)+(要素c−1)×(着目画素の左下の画素の輝度値)+(要素c−2)×(着目画素の下の画素の輝度値)+(要素c−3)×(着目画素の右下の画素の輝度値)}/9
【0069】
の計算を行い、その結果を着目画素の新たな輝度値とする。なお、上の計算式の「右」はX軸の正の方向、「左」はX軸の負の方向、「上」はY軸の正の方向、「下」はY軸の負の方向である。
【0070】
このような計算を行うと、着目画素の輝度値は、着目画素に隣接する画素の輝度値のうち、要素の「ξ」に代入した角度(=基準方向からの角度)に隣接する画素の輝度が強調された輝度値に置き換わる。着目画素が輝線に対応する画素であった場合、当該画素の輝線の延伸方向に直角な方向に隣接する画素は、輝度値が低い画素である。このため、フィルタの要素の「ξ」に、輝線の延伸方向に直角な角度を代入すると、着目画素の輝度値は、これらの画素の輝度値が強調されて低くなる(=低い値に補正される)。なお、輝線の延伸方向に隣接する画素の輝度値は高いから、フィルタの要素の「ξ」に、輝線の延伸方向に平行な角度を代入すると、着目画素の輝度値は強調されて高い値に置き換えられる。
【0071】
したがって、研削痕の延伸方向が基準方向に対して125°の位相差を有している場合には、フィルタの要素の「ξ」に、125°に直角な角度である215°または35°を代入する。そうすると、輝線に対応する画素の輝度値は、低い値に補正される。
【0072】
なお、この段階では、研削痕に対応する画素の輝度値を低い値に補正する構成であるか、または、研削痕に対応する画素以外の画素の輝度値を高い値に補正する構成であればよい。このため、前記フィルタを適用する構成に限定されない。たとえば、研削痕の延伸方向に平行な方向のベクトルVを有する画素の輝度値を低くする構成や、研削痕の延伸方向とは異なる方向のベクトルVを有する画素の輝度値を高くする構成などが適用できる。また、画像データの各画素の輝度値を、研削痕の延伸方向とベクトルVとの位相差に応じて補正する構成であってもよい。
【0073】
(4)補正した画像データに基づいてキズを検査する段階
この段階では、まず、演算手段14により、前記段階(3)において補正した画像データの各画素の輝度値を二値化する。すなわち、輝度値が所定の閾値以上の画素(または所定の閾値を越える画素)を「白画素」とし、所定の閾値未満の画素(または所定の閾値以下の画素)を「黒画素」とする。前記段階(3)での補正により、研削痕に対応する画素の輝度値は、キズに対応する画素の輝度値よりも低くなっている。そして、研削痕に対応する画素の輝度値と、キズに対応する画素の輝度値との間に、二値化の閾値を設定する。そうすると、二値化された画像データにおいては、キズに対応する画素が「白画素」となり、それ以外の画素(研削痕に対応する画素を含む)が「黒画素」となる。
【0074】
なお、二値化の閾値は、前記段階(3)における補正の程度などに応じて適宜設定される。
【0075】
そして、二値化した画像データに基づいて、検査対象物の検査対象領域のキズを検査する。キズの検査方法には、従来公知の方法が適用できる。たとえば、二値化した画像データから「白画素の集合」を検出し、一個の「白画素の集合」に含まれる白画素の数が所定の数より多い場合には、当該検出した「白画素の集合」を「キズ」とみなす方法が適用できる。また、検出した「白画素の集合」の寸法(X軸方向寸法やY軸方向寸法)を算出し、所定の寸法を超える場合には、当該検出した「白画素の集合」を「キズ」とみなす方法が適用できる。このように、二値化した画像データに基づくキズの検査方法は、特に限定されるものではない。
【0076】
図4は、二値化された画像データを模式的に示した図である。そして、(a)は、本発明の実施形態にかかる表面検査方法が適用されたものであり、(b)は、従来の方法(=前記段階(3)の補正を行わない方法)が適用されたものである。従来の方法は、キズに対応する画素と、研削痕に対応する画素とが、同レベルの輝度値を有していると、これらを区別することが困難である。たとえば、キズの検出漏れを防止するために、二値化の閾値を低くすると、研削痕に対応する画素が「白画素」となる。そうすると、研削痕が「キズ」として検出されることになる。一方、研削痕がキズとして検出されないようにするために、二値化の閾値を高くすると、検出すべき「キズ」に対応する画素が「黒画素」となる。そうすると、検出すべきキズが検出できなくなる。このように、従来の方法では、検査対象物の検査対象領域に研削痕が存在すると、キズを精度良く検査することができない。
【0077】
これに対して、本発明の実施形態にかかる表面検査方法においては、撮像された直後の画像データにおいては、キズに対応する画素と、研削痕(すなわち、「キズと見なさなくてもよい凹凸や模様」)に対応する画素とが、同程度の輝度値を有していたとしても、その後の画像処理によって、これらの画素の輝度値に差をつけることができる。すなわち、研削痕に対応する画素以外の画素の輝度値を、研削痕に対応する画素の輝度値に影響を与えることなく、高い値に補正することができる。または、研削痕に対応する画素の輝度値を、キズに対応する画素の輝度値に影響を与えることなく、低い値に補正することができる。
【0078】
そして、補正した画像データを二値化する際に、研削痕に対応する画素の輝度値と、キズに対応する画素の輝度値との間に、二値化の閾値を設定すると、キズに対応する画素のみを「白画素」にすることができる(=研削痕に対応する画素が「白画素」にならないようにできる)。このため、研削痕に対応する画素をキズとして検出しないようにすることができる。このように、キズに対応する画素と、研削痕に対応する画素(=「キズとみなさなくてもよい凹凸や模様」に対応する画素)とを区別することができる。すなわち、画像データから、研削痕の影響を除去することができる。したがって、キズの検査の精度の向上(キズの検出の精度の向上)を図ることができる。
【0079】
なお、前記「ピークが現れる角度」や「研削痕の延伸方向」は、ある程度の幅を有する値であってもよい。すなわち、図3に示すグラフの「山のある一点(たとえば、グラフの山の頂点)」に相当する角度に基づいて研削痕の延伸方向を特定する構成であってもよく、図3に示すグラフの「山の頂点」の前後のある範囲の角度に基づいて研削痕の延伸方向を特定する構成であってもよい。したがって、前記段階(3)において、画像データの各画素の輝度値にフィルタを適用するに際し、フィルタの「ξ」にある一つの角度を代入し、フィルタを一回のみ適用する構成であってもよく、ある範囲の角度を代入し、複数回にわたってフィルタを適用する構成であってもよい。
【0080】
なお、検査対象物の検査対象領域に、延伸方向が互いに異なる(=基準方向に対する角度が互いに異なる)複数種類の研削痕が混在する場合であっても、これらの複数種類の研削痕のすべての影響を除去することができる。すなわち、このような場合には、図3の対象画像データNo.3のグラフに示すように、研削痕の延伸方向に対応する複数の角度のそれぞれに、ベクトルVの大きさの合計値のピークが現れる。そして、ベクトルVの大きさの合計値のピークが現れる角度のそれぞれについて、前記段階(3)を適用する。そうすると、延伸方向が互いに異なる研削痕の影響を、すべて除去することができる。
【0081】
たとえば、対象画像データNo.3のように、45°と135°と225°と315°において合計値のピークが現れる場合には、基準方向に対して45°(=225°)の角度を有する研削痕と、135°(=315°)の角度を有する二種類の研削痕が存在すると判断できる。このような場合には、前記段階(3)において、式(3)に示すフィルタのξに0°(または180°)を代入して画像データに適用する。さらに、ξに90°(または270°)を代入して画像データに適用する。すなわち、研削痕の延伸方向が複数存在する場合には、それらの角度のいずれにも該当しない角度の値を、式(3)に示すフィルタに代入して適用する。たとえば、前記のように、互いに異なる方向に延伸する研削痕の角度の中間の角度を代入する。このような構成とすると、研削痕に対応する画素以外の画素の輝度値を高くすることができる。換言すると、研削痕に対応する画素の輝度値を低くすることができる。
【0082】
グラインダによる研削処理の方向が、検査対象物9の検査対象領域の全体にわたって一定である場合には、研削痕の延伸方向も、検査対象物9の検査対象領域の全体にわたって一定となる。このため、この場合には、検査対象物9の検査対象領域の全体を撮像して一個の画像データを作成し、当該一個の画像データの全体を一括して処理することができる。ただし、演算手段14などとしてのパーソナルコンピュータの性能などに応じて、検査対象物9の検査対象領域を複数に分割し、分割した領域ごとに処理を行ってもよい。この場合には、処理の対象となる画像データのサイズを小さくできるから、演算手段14に過負荷が掛かることが防止できる。
【0083】
これに対して、グラインダによる研削処理の方向が、一定でない場合(=場所によって異なる場合)には、研削痕の延伸方向も、一定でなくなる(=場所によって相違する)。この場合には、次のような方法が適用できる。
【0084】
まず、検査対象物の検査対象領域を撮像して作成された画像データを分割し、複数の画像データを作成する。または、検査対象物の検査対象領域を分割し、分割した領域ごとに撮像して、複数の画像データを作成する。そして、複数の画像データのそれぞれに対して、前記各段階の処理を施す。グラインダによる研削処理の方向が一定でないと、研削痕の延伸方向は、全体としては一定でなくなる。しかしながら、このような場合であっても、研削痕の延伸方向は、局所的にはほぼ一定であるとみなせる。したがって、研削処理が施された領域から、研削痕の延伸方向が均一とみなせる程度のサイズの複数の画像データを作成する。そして、作成した画像データごとに処理を施す。これにより、複数の画像データのそれぞれにおいて、研削痕の延伸方向を特定することができる。そして、複数の画像データのそれぞれを用いて、研削痕の影響を除去してキズを検査することができる。このため、キズの検査精度の向上を図ることができる。
【0085】
なお、分割された画像データのサイズや、撮像する範囲は、前記のとおり、研削痕の延伸方向を一定とみなすことができるサイズとなる。したがって、分割された画像データのサイズや、撮像する範囲は、研削痕の形状や寸法(たとえば、曲率半径など)に応じて適宜設定される。
【0086】
なお、研削痕の方向が一定であるか否かが不明な場合や、研削痕の形状などが不明な場合や、研削痕の寸法や形状が一定でない場合(たとえば、曲率半径が場所によって異なる場合)などには、たとえば、次のような方法が適用できる。
【0087】
まず、検査対象物9の検査対象領域の全体を撮像し、一枚の画像データを作成する。そして、作成した画像データについて、前記段階(2)、(3)の処理を施す。前記段階(2)、(3)の処理を施しても研削痕の方向が特定できなかった場合には、最初に作成した画像データを、複数の小さいサイズの画像データに分割する。そして、分割した画像データについて、前記段階(2)、(3)の処理を施す。または、最初に作成した画像データから、一部の範囲を抽出し、抽出した範囲について、前記段階(2)、(3)の処理を施す。
【0088】
画像データを分割しても研削痕の延伸方向が特定できなかった場合には、画像データをさらに分割して、さらに小さいサイズの画像データを作成する。画像データから一部の範囲を抽出しても研削痕の延伸方向が特定できなかった場合には、抽出する範囲をさらに小さくした画像データを作成する。そして、このようにして作成した画像データに、前記段階(2)、(3)の処理を施す。
【0089】
このような作業を、研削痕の延伸方向が特定できるまで繰り返す。このように、前記段階(2)、(3)において、処理の対象となる画像データのサイズ(すなわち、一回の処理でキズの検査を行う範囲)を、徐々に小さくしていく方法が適用できる。このような方法であれば、研削痕の延伸方向が不明である場合や、研削痕の形状が不明である場合であっても、研削痕の延伸方向を特定することができる。
【0090】
なお、「研削痕の延伸方向が特定できない」とは、図3に示すグラフを作成した場合において、特定の角度にベクトルVの大きさの合計値のピークが現れない場合(換言すると、有位差を認められるほどに突出した合計値を有する角度が存在しない場合)などである。たとえば、合計値が、すべての角度においてほぼ等しい値をとるような場合などである。
【0091】
なお、分割のサイズまたは抽出のサイズは、研削痕の形状(たとえば曲率半径)などによって相違する。このため、段階的にサイズを小さくすることによって、適切なサイズで検査を行うことができる。換言すると、分割された画像データのサイズや、抽出された領域のサイズが、研削痕の延伸方向が略一定であるとみなすことができるサイズとなると、画像データから研削痕の影響を除去できるようになる。
【0092】
本発明の実施形態にかかる表面検査方法の作用効果をまとめると、次のとおりである。
【0093】
検査対象物の検査対象領域に、所定の方向に延伸する多数の凹凸や模様が存在する場合において、当該凹凸や模様の延伸方向を特定することができる。たとえば、グラインダの研削痕など、所定の方向に延伸する加工痕の延伸方向を特定することができる。このため、キズを検査するための画像処理において、所定の方向に延伸する多数の凹凸や模様の影響を除去すること、または影響を小さくすることができる。したがって、このような所定の方向に延伸する多数の凹凸や模様を、キズとして認識されないようにすることができる。この結果、キズの検査の精度(=キズの検出の精度)の向上を図ることができる。
【0094】
すなわち、従来のように、輝度にのみ基づいて検出する構成では、「キズ」と「キズと見なさなくてもよい凹凸や模様」とが同程度の輝度を有する場合には、これらを区別することができない。このため、「キズと見なさなくてもよい凹凸や模様」を「キズ」として検出されることや、「キズ」が「キズと見なさなくてもよい凹凸」に埋もれて検出できなくなることがある。これに対して本発明の実施形態にかかる表面検査方法によれば、「キズ」と「キズと見なさなくてもよい凹凸や模様」とを区別できる。このため、「キズ」を「キズとみなさなくてもよい凹凸や模様」から浮かび上がらせることができる。また、「キズと見なさなくてもよい凹凸や模様」を除去することができる。この結果、「キズ」のみを検出することができる。
【0095】
また、本発明の実施形態にかかる表面検査方法においては、「キズと見なさなくてもよい凹凸や模様」の延伸方向が不明であってもよい。そして、検査対象物の検査対象領域を撮像して画像データを作成する段階においては、「キズと見なさなくてもよい凹凸や模様」の延伸方向は問題とならない。このため、検査内容が複雑になることや手間が増加することない。また、本発明の実施形態にかかる表面検査方法において使用する装置も、複雑化する必要がない。
【0096】
たとえば、本発明の実施形態にかかる表面検査方法においては、検査の画像処理の段階において「キズと見なさなくてもよい凹凸や模様」の延伸方向が特定される。このため、「キズと見なさなくてもよい凹凸や模様」延伸方向は、それよりも前の段階において明らかである必要はない。また、照明や撮像手段と「キズと見なさなくてもよい凹凸や模様」の方向とが、特定の関係を有している必要はない。また、本発明の実施形態にかかる表面検査方法においては、複数の検査対象物について検査を行う場合であっても、検査対象物の向きを揃える必要がない。このため、検査における作業内容が複雑になることや、作業の手間が増加することがない。
【0097】
また、本発明の実施形態にかかる表面検査方法では、「キズと見なさなくてもよい凹凸」の延伸方向が一定ではない場合には、一定と見なすことができる程度にまで画像を分割することにより、検出が可能となる。さらに、光源や撮像手段を、「キズと見なさなくてもよい凹凸」の延伸方向に応じて変更させる必要がない。このため、簡単な構成で検査を行うことができる。したがって、装置のコストの上昇の抑制または防止を図ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0098】
以上、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明したが、本発明は、前記実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の改変が可能である。
【0099】
たとえば、前記実施形態においては、「キズと見なさなくてもよい凹凸や模様」として、グラインダによる研削痕を示したが、これに限定されるものではない。各種切削工具による切削痕、各種砥石や砥粒による研磨痕や研削痕、圧延ローラによるローラ痕、押出加工や引抜加工におけるダイの摩擦痕などといった、各種の加工痕に対しても適用できる。さらに、加工痕に限らず、製品(=検査対象物)の表面に形成された所定の凹凸や模様などに対しても適用できる。
【0100】
すなわち、本発明の実施形態にかかる表面検査方法において、「キズと見なさなくてもよい凹凸や模様」は、「形状に方向性を有する凹凸や模様」であればよい。そして、線状(直線状であってもよく曲線状であってもよい)の凹凸や模様などが含まれる。また、平面的な広がりを有する凹凸や模様であっても、「長手方向」を有する(=「長手方向」を認識できる)凹凸や模様などが含まれる。たとえば、長方形や楕円のような形状などである。
【0101】
また、前記のように、「キズと見なさなくてもよい凹凸や模様」の「所定の方向」は、既知の特定の方向(=特定の単一の方向または特定の複数の方向)に限定されるものではない。そして、「所定の方向」は、本発明にかかる表面検査方法においては、既知であるか未知であるかは問題とはならない。すなわち、本発明の実施形態にかかる表面検査方法を実施するにあたり、凹凸や模様の延伸方向は既知である必要はなく、未知であってもよい。さらに、単一の方向であってもよく、複数の方向であってもよい。
【0102】
また、本発明の実施形態にかかる表面検査方法においては、ある一つの「キズと見なさなくてもよい凹凸や模様」が、所定の単一の方向を向いているものでなくてもよい。たとえば、ある一つの「キズと見なさなくてもよい凹凸や模様」が、直線状であってもよく、曲線状であってもよい。要は、検査対象領域の一部を抜き出した場合に、当該抜き出した領域内において、それぞれの「キズと見なさなくてもよい凹凸や模様」が、ある所定の一方向を向くものであればよい(=抜き出した領域内において方向性を有するものであればよい)。そして、当該抜き出した領域内に存在する複数の「キズと見なさなくてもよい凹凸や模様」が、ある所定の一方向を向くものであればよい(=抜き出した領域内において方向性を有するものであればよい)。
【0103】
さらに、前記実施形態においては、所定の閾値よりも高い輝度を有する画素を、「キズ」や「キズと見なさなくてもよい凹部(凹凸や模様)」に対応する画素と見なしたが、この構成に限定されるものではない。たとえば、所定の閾値よりも低い輝度を有する画素を、「キズ」や「キズと見なさなくてもよい凹部(凹凸や模様)」に対応する画素と見なす構成であってもよい。要は、「キズ」や「キズと見なさなくてもよい凹部(凹凸や模様)」に対応する画素が、それ以外の部分の画素に対して輝度が高いか低いかに応じて、適宜設定すればよい。
【0104】
なお、撮像手段11は、いわゆるエリアスキャンカメラであってもよく、ラインスキャンカメラであってもよい。撮像手段11にエリアスキャンカメラが適用される場合には、検査対象物の検査対象領域の全部または所定の一部であって二次元の広がりを有する領域を、一時に撮像できる。撮像手段11にラインスキャンカメラが適用される場合には、撮像手段と検査対象物とを相対的に移動させながら撮像することにより、二次元の広がりを有する画像データを作成することができる。
【0105】
さらに、前記実施形態においては、「キズと見なさなくてもよい凹凸や模様」として、研削痕(すなわち凹部)を示したが、平面的な模様であっても適用できる。要は、画像解析において、認識可能なものであれば(たとえば、輝度値や色彩が他の部分と相違するものであれば)適用可能である。
【符号の説明】
【0106】
1 本発明の実施形態にかかる表面検査方法において使用される装置
11 撮像手段
12 照明
121 光源
122 ハーフミラー
13 記憶手段
14 演算手段
15 出力手段
9 検査対象物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査対象領域に所定の方向に延伸する凹凸や模様が存在する検査対象物の表面検査方法であって、
前記検査対象物の前記検査対象領域を撮像して画像データを作成する段階と、
前記画像データの各画素の輝度値に、互いに直交する二方向に沿って微分処理を施す段階と、
前記画像データの画素ごとに、互いに直交する二方向の微分値を成分とするベクトルを算出する段階と、
算出した前記ベクトルの所定の基準方向からの角度の分布を算出する段階と、
算出した前記ベクトルの前記所定の基準方向からの角度の分布に基づいて前記凹凸や模様の延伸方向を特定する段階と、
を、含むことを特徴とする表面検査方法。
【請求項2】
前記算出した前記ベクトルの前記所定の基準方向からの角度の分布を算出する段階においては、前記所定の基準方向からの角度ごとに前記ベクトルの大きさの合計値を算出し、
前記算出した前記ベクトルの方向の分布に基づいて前記凹凸や模様の延伸方向を特定する段階においては、算出した前記合計値のピークが現れる角度と90°の位相差を有する角度を前記凹凸や模様の延伸方向であると特定する、
ことを特徴とする請求項1に記載の表面検査方法。
【請求項3】
前記合計値のピーク値が現れる角度とは異なる角度を有するベクトルの画素の輝度値を高くする補正を行う段階と、
前記補正された画像データに基づいて前記検査対象物の前記検査対象領域のキズを検査する段階と、
を含むことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の表面検査方法。
【請求項4】
前記補正を行う段階においては、前記画像データの各画素の輝度値に(式1)で示されるフィルタを適用すること特徴とする請求項3に記載の表面検査方法。

【数1】

【請求項5】
前記微分処理は、ソーベルの微分法またはプレヴィットの微分法が適用されることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の表面検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−8018(P2012−8018A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−144522(P2010−144522)
【出願日】平成22年6月25日(2010.6.25)
【出願人】(000003713)大同特殊鋼株式会社 (916)
【Fターム(参考)】