説明

表面検査装置

【課題】被検査体の検査効率を低下させることなく異なる角度の走査画像を取得し、欠陥判定の精度を高める表面検査装置を提供する。
【解決手段】表面検査装置は、被検査体の軸に沿って導かれたレーザ光を反射するミラー手段と、ミラー手段によって反射され、被検査体の内側表面に印加されて反射されたレーザ光を受光する受光手段と、ミラー手段を被検査体の軸と同軸で回転させて周方向走査を行う周方向走査手段と、ミラー手段を被検査体の軸に沿って移動して軸方向走査を行う軸方向走査手段と、ミラー手段の被検査体の軸に対する反射角度を変更する反射角度変更手段とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検査体の内側表面を検査する表面検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、金属体を穿孔して得られる被検査体の内側表面にキズや打痕、バリ等の欠陥の有無を検査する装置として、レーザ光を穿孔内から被検査体の内側表面に照射し、反射した反射レーザ光の強度を検出し、内側表面全体を走査しながらこの検出を行うことによって画像を形成し、得られた画像から欠陥の有無を判断する技術がよく知られている。
【0003】
しかしながら、穿孔時に使用した切削油を被検査体から洗い落とすための洗浄液が、乾燥後に被検査体の内側表面に付着物(洗浄痕)として残留する場合があり、本来欠陥品として判断されるべきではない被検査体であるにもかかわらず、表面検査時においては、キズ等が存在すると誤認して欠陥品と判断される問題が生じていた。
【0004】
このような欠陥判定の精度を高める手法として、例えば特許文献1には、同一箇所を最低でも2回以上撮影し、二次元座標比較手段と三次元座標比較手段とから出力される二次元座標比較結果情報及び三次元座標比較結果情報に基づき、欠陥候補が検査対象物である円筒内面の欠陥であるかどうかを判定する欠陥検査装置が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、ボアの内側表面に対するセンサヘッドの走査方向と切削加工の方向との交差角度に応じて、傷と判定する判定用閾値を変更することで、傷の検出精度を高めようとする表面検査装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−276543号公報
【特許文献2】特開2008−241650号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示されている欠陥検査装置では、同一角度で複数回の撮影を行っているため、撮影される画像も必然的に酷似した画像となり、欠陥候補が真欠陥か偽欠陥であるかの判定は難しいものであった。また、同一箇所に対して複数回の撮影を行っているので、検査時間が長くなり、検査効率は低下する。
【0008】
一方、特許文献2に開示されている表面検査装置では、検査対象の表面形状に応じた欠陥判定方法を用いているが、単一画像による判定方法であるため、欠陥の判定には限界があった。
【0009】
そこで本発明は、被検査体の検査効率を低下させることなく異なる角度の走査画像を取得し、欠陥判定の精度を高めることができる表面検査装置を提供することを目的とする。特に走査画像における欠陥と洗浄痕との差を明確にすることで、欠陥判定の精度を高めるものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、表面検査装置は、被検査体の軸に沿って導かれたレーザ光を反射するミラー手段と、ミラー手段によって反射され、被検査体の内側表面に印加されて反射されたレーザ光を受光する受光手段と、ミラー手段を被検査体の軸と同軸で回転させて周方向走査を行う周方向走査手段と、ミラー手段を被検査体の軸に沿って移動して軸方向走査を行う軸方向走査手段と、ミラー手段の被検査体の軸に対する反射角度を変更する反射角度変更手段とを備えている。
【0011】
反射角度変更手段は、軸方向走査によりミラー手段があらかじめ定められた第1の位置に下降した際に、反射角度を基準角度からこの基準角度とは異なる所定角度に切り換えるように構成されていることが好ましい。この場合、反射角度変更手段は、側部に第1の係合部を有すると共に底部に回動支点を有しておりミラー手段が固着されている回動部材と、回動部材の第1の係合部に係合可能な第2の係合部を有しており非回動位置に設けられた第1の弾性部材とを備えており、回動部材は、軸方向走査により回動支点が固定面に押し当てられた際に回動し第1の弾性部材を弾性変形させて第1の係合部と第2の係合部との係合位置を切り換えるように構成されていることがより好ましい。さらに、この場合、第1の係合部が複数の溝部であり、第2の係合部が複数の溝部のうちの1つに係合される突出部であることも好ましい。
【0012】
反射角度の基準角度が約90°であり、反射角度の所定角度が約102°以上かつ約113°未満の角度であることがより好ましい。
【0013】
反射角度変更手段は、軸方向走査によりミラー手段が第2の位置に上昇した際に、反射角度を切り換えられた所定角度から基準角度へ戻すように構成されていることも好ましい。この場合、反射角度変更手段は、軸方向走査によりミラー手段が第2の位置に上昇した際に、回動部材を回動と逆方向に押圧し、第1の係合部と第2の係合部との切り換えられた係合位置を元に戻す押圧ロッド手段を備えていることがより好ましい。さらに、この場合、反射角度変更手段は、通常時は、押圧ロッド手段と回動部材とを離間させ、軸方向走査によりその上端が押圧された際に弾性変形し、押圧ロッド手段を回動部材に当接させて回動と逆方向に押圧させる第2の弾性部材を備えていることがさらに好ましい。
【0014】
受光手段によって受光された反射レーザ光を電気信号に変換する光電変換手段と、光電変化手段によって変換された電気信号を処理して走査画像を作成する処理手段と、処理手段によって形成された走査画像を表示する表示手段とをさらに備えていることも好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、1回の検査で異なる2つの走査画像を取得するため、検査効率を落とすことはなく、欠陥判定の精度を高めることができる。
【0016】
また、本発明によれば、ミラー手段が検査によって回動した場合においても、自動的に復帰するため、検査効率を落とすことなく、異なる2つの走査画像を得ることができる。
【0017】
さらに、本発明によれば、被検査体とミラー手段との距離を600mmとした場合、レーザ光の反射角度を約102°以上かつ約113°未満の角度に設定すると、洗浄痕が表れず欠陥のみ表れる走査画像を得ることができるので、良品を欠陥品と判定することはなくなり、常に高い精度の欠陥判定結果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態における表面検査装置全体の構成を示す概略図である。
【図2】図1の表面検査装置における走査プローブの拡大断面図である。
【図3】図2の走査プローブにおける回動筒体の先端部降下時の拡大断面図である。
【図4】図2の走査プローブにおける回動筒体の先端部上昇時の拡大断面図である。
【図5】図3に示す回動筒体の先端部降下時の種々の形態を示す拡大断面図である。
【図6】図3に示す回動筒体の先端部上昇時の種々の形態を示す拡大断面図である。
【図7】図1の表面検査装置における回動部材を90°から種々の角度に回動させた際の走査画像を示す図である。
【図8】図1の表面検査装置において各反射角度に対する基準位置(反射角度90°)からのずれを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の一実施形態における表面検査装置1は、例えば金属体を穿孔してなる被検査体Pのその孔の内側表面を検査するための装置である。
【0020】
この表面検査装置1は、図1に示すように、装置の基盤となる台座2と、台座2に立設されている昇降軸3及び支軸4と、図示しない駆動機構により昇降軸3に沿って上下移動可能に構成されている昇降装置5と、昇降装置5から水平方向に延設されているアーム部6と、レーザ光Rを発生するレーザ光発生器7と、アーム部6によって支持固定されており、レーザ光発生器7から送られたレーザ光R(図3及び図4)を被検査体Pの内側表面に照射する走査プローブ10と、被検査体Pの内側表面で反射された反射レーザ光R’(図3及び図4)を解析する判定処理部8と、昇降装置5及び判定処理部8を制御する制御手段9と、支軸4の所定高さ位置に横設されており、走査プローブ10の回転筒体13を回転自在に支持している当接支持部18とを備えている。検査されるべき孔を有する被検査体Pは、台座2の載置面2a上の所定位置に載置される。台座2は被検査体Pの孔に対応する部分に凹部を有しており、この凹部における底面、即ち、載置面2aより下方に位置しておりかつ載置面2aと平行である底面が当接面2bとなっている。後述するように、回動部材32の回動支点32aがこの当接面2bに当接する。このように当接面2bを載置面2aより下方に設けることにより、被検査体Pの孔の下部までその内側表面全体を走査することが可能となる。
【0021】
本実施形態の表面検査装置1によれば、昇降装置5の上下移動に伴い、走査プローブ10も上下移動することにより、被検査体Pの内側表面が軸方向に走査され、検査が行われる。なお、回転方向(周方向)の走査は、回転筒体13の回転によって行われる。
【0022】
走査プローブ10は、図1及び図2に示すように、レーザ光発生器7に光学的に接続されており、このレーザ光発生器7からのレーザ光Rを受け取る本体部11と、アーム部6に支持固定されており、本体部11に固着されている回転モータ部12と、回転モータ部12によってその軸を中心に回転するように構成されている回転筒体13と、回転筒体13の先端部に設けられている光路変換部14と、光路変換部14の上方に設けられている回動復帰部15と、本体部11内にその一端が取り付けられている受光ケーブル16とを備えている。回転モータ部12の位置及びそれより下方に設けられている回転筒体13、光路変換部14及び回動復帰部15は、このモータの駆動によって回転筒体13と共に回転するように構成されている。光路変換部14は回転筒体13に固着されているが、回動復帰部15は回転筒体13の軸方向に移動可能となっている。回転筒体13及び受光ケーブル16の各々の内側には光ファイバ17が配置されている。
【0023】
図3及び図4に示すように、この走査プローブ10によれば、レーザ光発生器7から出射されたレーザ光Rは、本体部11及び回転モータ部12内の回動筒体13内を通過し、光路変換部14において照射方向が変更されて、被検査体Pの内側表面に照射される。被検査体Pの内側表面において反射された反射レーザ光R’は、回転筒体13の先端の受光部13aで受光され、回転筒体13及び受光ケーブル16内の光ファイバ17を介して判定処理部8へ送られる。なお、回転筒体13が高速回転するため、回転筒体13内の光ファイバ17と受光ケーブル16内の光ファイバ17とは連続しておらず、図2に示すように、発光部13b及び受光部16a間でレーザ光の授受が行われるように構成されている。
【0024】
図1に示すように、判定処理部8は、送られてきた反射レーザ光R’を光電変換して光強度を表す電気信号を取り出す光電変換部20と、光電変換部20から得られる光強度信号及び走査位置から反射レーザ光強度の走査画像を形成する処理部21と、処理部21で形成された走査画像を表示する表示部22とを備えている。この判定処理部8は、回転モータ部12及び昇降装置5と共に制御手段9によって制御されている。判定処理部8の処理部21によって形成される反射レーザ光強度の走査画像は、横軸が回転筒体13の回転による周方向走査に基づく1回転の角度を表し、縦軸が走査プローブ10の昇降による軸方向走査に基づく軸方向位置を表した場合の各点における反射レーザ光強度である。この走査画像例については、後述する図7に示されている。
【0025】
光路変換部14は、図3及び図4に示すように、回動筒体13の先端部13aに取り付けられた回動部本体31と、レーザ光発生器7から出射されたレーザ光Rを被検査体Pの内側表面に向けて反射させるミラー部30と、回動部本体31に回動軸36において軸支されており、この回動軸36に関してミラー部30を回動可能に把持する回動部材32と、回動部材32を第1の回動位置又は第2の回動位置で係止するために回動部本体31に取り付けられた第1の弾性部材33とを備えている。ここで示す第1の弾性部材33は、例えば板バネであるが、回動部材32の回動位置を規定可能な他の弾性要素であってもよい。
【0026】
回動部本体31は、さらに、ミラー部30で反射して被検査体Pの内側表面に印加されるレーザ光Rと、被検査体Pの内側表面から反射された反射レーザ光R’とが通過するための門形の導通口34を備えている。本実施形態においては、導通口34が門形の形状を有しているが、被検査体Pに印加されるレーザ光Rの光路と被検査体Pから反射される反射レーザ光R’の光路とを阻害しない形状であれば、この導通口34はいかなる形状であってもよい。
【0027】
ミラー部30を固着把持するように形成されている回動部材32は、その底部に回動支点32aが形成されている。この回動支点32aは、2つの底辺間の頂点で形成されており、回動部本体31から下方に突出するように形成されている。この回動支点32aが台座2の当接面2bに当接し、さらにこれを押圧することによって回動部材32がその回動軸36を中心にして回動する。
【0028】
回動部材32の側部には、複数の溝部(本実施形態では2つの溝部)35a及び35bが設けられている。回動部本体31の内壁には、回動部材32の2つの溝部35a及び35bに向かって突出する突出部33aを備えた第1の弾性部材33が取り付けられている。この第1の弾性部材33の折り曲げられて形成された突出部33aが1つの溝部(図3では溝部35a、図4では溝部35b)に係合し、回動部材32を第1の回動位置又は第2の回動位置で係止している。
【0029】
回動復帰部15は、当接支持部18と光路変換部14との間に設けられている。即ち、この光路変換部14における回動部本体31の上方に設けられている。回動復帰部15は、復帰部本体40と、この復帰部本体40の下端から下方に延設されており、回動部本体31の上面を貫通して回動部材32の上面を押圧することができる押圧ロッド部41と、復帰部本体40の内側に設けられた第2の弾性部材42とを備えている。第2の弾性部材42は、リング状のスプリングであって、その上端が復帰部本体40の内面頂部に当接しており、下端が光路変換部14における回動部本体31の上面に当接している。この第2の弾性部材42は、軸方向走査により、回動復帰部15が当接支持部18によって押圧されない限りは回動復帰部15と光路変換部14との距離を一定に保ち、回動復帰部15が当接支持部18によって押圧された場合は弾性変形して回動復帰部15と光路変換部14との距離を減少させるものである。後者の場合に、回動復帰部15の押圧ロッド部41が回動部材32の上面を押圧することとなり、これによって回動部材32が逆方向に回動し、第1の弾性部材33が弾性変形することから、突出部33aと溝部35a及び35bとの係合の切換が行われる、即ち、突出部33aが溝部35bから外れて溝部35aに係合するようになる。なお、本実施形態においては、回動部材32に2つの溝部35a及び35bが設けられているが、3つ以上の溝部を設けることにより、回動位置が3つ以上となるように構成しても良いことは明らかである。さらに、第1の弾性部材33に複数の溝部を設け、回動部材32にこれら溝部のうちの1つに係合する突出部を設けるようにしても良い。
【0030】
図3に示すように、第1の弾性部材33の突出部33aが溝部35aに係合することにより、回動部材32は第1の回動位置に静止し、そのときのミラー部30の反射角度(回動筒体13の軸に対する角度)は例えば約90°である基準角度となる。一方、図4に示すように、第1の弾性部材33の突出部33aが溝部35aに係合することにより、回動部材32は第2の回動位置に静止し、そのときのミラー部30の反射角度は例えば約103°である所定角度となる。
【0031】
図5は昇降装置5が降下している状態図であって、(A)は回動部材32の回動支点32aが台座2の当接面2bと当接する前の状態を示しており、(B)は昇降装置5が降下して、回動部材32の回動支点32aが台座2の当接面2bと当接した状態を示しており、(C)は昇降装置5がさらに降下して、回動部材32の回動支点32aが台座2の当接面2bを押圧している状態を示しており、(D)は昇降装置5がさらに降下して、第1の弾性部材33の突出部33aが他方の溝部35bと係合した状態をそれぞれ示している。図6は昇降装置5が上昇している状態図であって、(A)は第1の弾性部材33の突出部33aが他方の溝部35bと係合している状態を示しており、(B)は昇降装置5が上昇して、当接支持部18と回動復帰部15とが当接した状態を示しており、(C)は昇降装置5がさらに上昇して、押圧ロッド部41が回動部材32を押圧している状態を示しており、(D)は昇降装置5がさらに上昇して、第1の弾性部材33の突出部33aが元の溝部35aと係合した状態をそれぞれ示している。
【0032】
以下、これらの図5(A)〜(D)、及び図6(A)〜(D)を用いて、本実施形態における光路変換部14及び回動復帰部15の動作を説明する。
【0033】
光路変換部14の回動部材32は、図5(A)に示すように、初期の状態及び昇降装置5が降下してもその回動支点32aが台座2の当接面2bに当接していない状態では、第1の弾性部材33の突出部33aが溝部35aに係合した状態のままとなり、回動しない(第1の回動位置にある)。従って、ミラー部30は、レーザ光Rを光路の軸方向に対して基準角度である約90°の角度で反射させる。ただし、ミラー部30で反射したレーザ光Rは、昇降装置5が降下する途中で、被検査体Pの内側表面の下端より下に照射されるため、後述するように、その領域の検出光は検査には利用されない。
【0034】
昇降装置5が降下すると、まず、図5(B)に示すように、回動部材32の回動支点32aが台座2の当接面2bと当接する。昇降装置5がさらに降下すると、図5(C)に示すように、回動部材32の回動支点32aが台座2の当接面2bを押圧することにより、回動部材32が回動軸36を支点とした反時計回りに回動し始める。これにより、溝部35aと係合していた第1の弾性部材33の突出部33aが弾性変形してこの溝部35aから外れ、回動部材32の係止が解除される。
【0035】
昇降装置5がさらに降下すると、図5(D)に示すように、弾性変形した第1の弾性部材33の突出部33aが他方の溝部35bと係合し、回動部材32の回動が静止する(第2の回動位置にある)。回動部材32のこの回動と共にミラー部30も回動し、第2の回動位置で静止する。これにより、ミラー部30はレーザ光Rを光路の軸方向に対して例えば約102°の角度で反射させる。なお、図5(D)に示した状態においても、ミラー部30で反射したレーザ光Rが、被検査体Pの内側表面の下端より下に照射されるため、後述するように、その領域の検出光は検査には利用されない。
【0036】
昇降装置5が上昇すると、図6(A)に示すように、第1の弾性部材33の突出部33aが溝部35bと係合している(第2の回動位置にある)状態、即ち、ミラー部30で、光路の軸方向に対して例えば約102°の角度で反射したレーザ光Rが、被検査体Pの内側表面に印加され、検査が行われる。
【0037】
昇降装置5がさらに上昇すると、図6(B)に示すように、回動復帰部15における復帰部本体40の上面40aが当接支持部18の下面18aに当接する。なお、この状態では、ミラー部30で反射したレーザ光Rは、被検査体Pの内側表面の上端より上に照射されるため、その領域の検出光は検査には利用されない。
【0038】
昇降装置5がまたさらに上昇すると、図6(C)に示すように、回動復帰部15における復帰部本体40の上面40aが当接支持部18の下面18aに押圧されて第2の弾性部材42が弾性変形し、回動復帰部15と光路変換部14との距離が短くなる。これにより、回動復帰部15の押圧ロッド部41の先端により押圧された回動部材32の上面は、回動軸36を支点とした時計回りの力が印加されるため、第1の弾性部材33が弾性変形して、その突出部33aが溝部35bから外れた状態となる。
【0039】
昇降装置5がさらに上昇すると、図6(D)に示すように、突出部33aが溝部35aに係合し、回動部材32は元の回動位置(第1の回動位置)に戻る。その結果、ミラー部30は、レーザ光Rを光路の軸方向に対して約90°の角度で反射させるように、反射角度を初期状態に戻す。
【0040】
以上述べたように本実施形態において、ミラー部30は、初期の状態及び昇降装置5が降下しても回動部材32の回動支点32aが台座2に当接していない状態では、回動しておらず(第1の回動位置にあり)、レーザ光Rを光路の軸方向に対して約90°の角度(基準角度)で反射させるように設定されているが、この反射角度(基準角度)は90°以外の角度であっても良い。例えば、回動前及び復帰後(第1の回動位置)は約85°で反射させ、回動後(第2の回動位置)は約102°で反射させるように構成しても良い。しかしながら、反射角度90°における反射レーザ光R’の受光量に基づいて形成された走査画像を基本画像としていることから、回動前及び回動後の反射角度の一方は90°となるように構成することが望ましい。
【0041】
次に、回動部材32(ミラー部30)の回動角と表面検査装置によって得られる走査画像との関係について図7を用いて説明する。図7は回動部材32を従ってミラー部30を反射角度90°から種々の角度に回動させた際の走査画像について、実際に行った実験結果を表している。なお、いずれの場合も、走査プローブ10の下降時には、回動部材32を回動させず、レーザ光Rを光路の軸方向に対して90°の角度で反射させた状態としている。図7(A)は走査プローブ10の上昇時にも回動部材32を回動させないで(従ってレーザ光Rを光路の軸方向に対して90°の角度で反射させたままで)取得した走査画像、図7(B)は走査プローブ10の上昇時に回動部材32を2°30′回動して(従ってレーザ光Rを光路の軸方向に対して92°30′の角度で反射させて)取得した走査画像、図7(C)は走査プローブ10の上昇時に回動部材を7°30′回動して(従ってレーザ光Rを光路の軸方向に対して97°30′の角度で反射させて)取得した走査画像、図7(D)は走査プローブ10の上昇時に回動部材を12°回動して(従ってレーザ光Rを光路の軸方向に対して102°の角度で反射させて)取得した走査画像、図7(E)は走査プローブ10の上昇時に回動部材を13°45′回動して(従ってレーザ光Rを光路の軸方向に対して103°45′の角度で反射させて)取得した走査画像、図7(F)は走査プローブ10の上昇時に回動部材を16°15′回動して(従ってレーザ光Rを光路の軸方向に対して106°15′の角度で反射させて)取得した走査画像、図7(G)は走査プローブ10の上昇時に回動部材を18°45′回動して(従ってレーザ光Rを光路の軸方向に対して108°45′の角度で反射させて)取得した走査画像、図7(H)は走査プローブ10の上昇時に回動部材を20°15′回動して(従ってレーザ光Rを光路の軸方向に対して110°15′の角度で反射させて)取得した走査画像、図7(I)は走査プローブ10の上昇時に回動部材を23°回動して(従ってレーザ光Rを光路の軸方向に対して113°の角度で反射させて)取得した走査画像である。これらの図において、走査画像50の区間Aは走査プローブ10の下降区間、区間Bは走査プローブ10の上昇区間、下降区間Aと上昇区間Bの間に表示されている線53は折返し位置をそれぞれ示している。折返し位置53の前後の黒い部分は、ミラー部30で反射したレーザ光Rが、被検査体Pの内側表面の下端より下に照射されるために、検査には利用されない領域である。
【0042】
本実験は、洗浄した際に被検査体Pの内側表面に残った洗浄痕51は付着物であることから、キズや打痕、バリ等の欠陥部より反射光量が減少していると推測し、走査プローブ10の下降時におけるレーザ光Rの光路の軸方向に対する反射角度を90°に固定し、走査プローブ10の上昇時においてはこれから0°回動した直角(図7(A))、2°30′回動した鈍角(図7(B))、7°30′回動した鈍角(図7(C))、12°回動した鈍角(図7(D))、13°45′回動した鈍角(図7(E))、16°15′回動した鈍角(図7(F))、18°45′回動した鈍角(図7(G))、20°15′回動した鈍角(図7(H))、23°回動した鈍角(図7(I))の計9つの走査画像50を取得し、走査画像50から被検査体Pを洗浄した際に残る洗浄痕51が消失する角度を見出すことを目的とした。
【0043】
表1は図7(A)〜(I)の走査画像50に洗浄痕51と欠陥52の有無を判定した結果であり、図8は本実験における各反射角度に対する基準位置(反射角度90°)からのずれを示すグラフであって、被検査体Pの内側表面とミラー部30の反射中心との距離は600mmである。表1より、レーザ光Rの反射角度を102°以上に設定することで、走査画像50から洗浄痕51がほぼ消失することを見出した。しかしながら、レーザ光Rの反射角度を113°に設定した場合、欠陥52の確認が難しくなったことを踏まえると、本実施形態においてレーザ光Rの反射角度は102°以上かつ113°未満の範囲内に留めることが望ましい。なお、本実験においては、走査プローブ10の下降時の反射角度を90°に設定して上昇時の反射角度を変更しているが、走査プローブ10の上昇時の反射角度を90°に設定して、下降時の反射角度を変更してもよい。また、被検査体Pの内側表面とミラー部30の反射中心との距離を600mmより長く設定した場合は反射角度の範囲が小さくなり、600mmより短く設定した場合は反射角度の範囲が大きくなる。
【0044】
【表1】

【0045】
以上説明したように、本実施形態によれば、昇降装置5によって上下に移動する走査プローブ10の下降時に得られる走査画像50と上昇時に得られる走査画像50とが異なるため、異なる2つの走査画像50に基づいた欠陥判定を行うことができると共に、検査効率を落とすことなく欠陥判定をすることができる。
【0046】
また、本実施形態によれば、下降時に台座2との当接により回動部材32が自動的に回動し、上昇時に当接支持部18と当接して押圧された回動復帰部15によって回動部材32が回動前の状態に自動的に戻るため、検査効率を落とすことなく異なる2つの走査画像50を自動的に得ることができる。
【0047】
特に本実施形態によれば、被検査体Pの内側表面とミラー部30の反射中心との距離を600mmとした場合に、レーザ光Rの反射角度を102°以上かつ113°未満の範囲内に設定することで、洗浄痕51が表れず欠陥52のみ表れる走査画像50を得ることができるので、良品を欠陥52と判定することはなくなり、高い精度の欠陥判定結果を常に得ることができる。
【0048】
以上述べた実施形態は全て本発明を例示的に示すものであって限定的に示すものではなく、本発明は他の種々の変形態様及び変更態様で実施することができる。従って本発明の範囲は特許請求の範囲及びその均等範囲によってのみ規定されるものである。
【符号の説明】
【0049】
1 表面検査装置
2 台座
2a 載置面
2b 当接面
3 昇降軸
4 支軸
5 昇降装置
6 アーム部
7 レーザ光発生器
8 判定処理部
9 制御手段
10 走査プローブ
11 本体部
12 回転モータ部
13 回転筒体
14 光路変換部
15 回動復帰部
16 受光ケーブル
17 光ファイバ
18 当接支持部
18a 下面
19 受光伝達部
20 光電変換部
21 処理部
22 表示部
30 ミラー部
31 回動部本体
32 回動部材
32a 回動支点
33 第1の弾性部材
33a 突出部
34 導通口
35a、35b 溝部
36 回動軸
40 復帰部本体
40a 上面
41 押圧ロッド部
42 第2の弾性部材
50 走査画像
51 洗浄痕
52 欠陥
53 折返し線
P 被検査体
R レーザ光
R’ 反射レーザ光
A 下降区間
B 上昇区間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検査体の軸に沿って導かれたレーザ光を反射するミラー手段と、該ミラー手段によって反射され、前記被検査体の内側表面に印加されて反射されたレーザ光を受光する受光手段と、前記ミラー手段を前記被検査体の前記軸と同軸で回転させて周方向走査を行う周方向走査手段と、前記ミラー手段を前記被検査体の前記軸に沿って移動して軸方向走査を行う軸方向走査手段と、前記ミラー手段の前記被検査体の前記軸に対する反射角度を変更する反射角度変更手段とを備えていることを特徴とする表面検査装置。
【請求項2】
前記反射角度変更手段は、前記軸方向走査により前記ミラー手段が第1の位置に下降した際に、前記反射角度を基準角度から該基準角度とは異なる所定角度に切り換えるように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の表面検査装置。
【請求項3】
前記反射角度変更手段は、側部に第1の係合部を有すると共に底部に回動支点を有しており前記ミラー手段が固着されている回動部材と、該回動部材の前記第1の係合部に係合可能な第2の係合部を有しており非回動位置に設けられた第1の弾性部材とを備えており、前記回動部材は、前記軸方向走査により前記回動支点が固定面に押し当てられた際に回動し前記第1の弾性部材を弾性変形させて前記第1の係合部と前記第2の係合部との係合位置を切り換えるように構成されていることを特徴とする請求項2に記載の表面検査装置。
【請求項4】
前記第1の係合部が複数の溝部であり、前記第2の係合部が前記複数の溝部のうちの1つに係合される突出部であることを特徴とする請求項3に記載の表面検査装置。
【請求項5】
前記反射角度の前記基準角度が約90°であり、前記反射角度の前記所定角度が約102°以上かつ約113°未満の角度であることを特徴とする請求項2から4のいずれか1項に記載の表面検査装置。
【請求項6】
前記反射角度変更手段は、前記軸方向走査により前記ミラー手段が第2の位置に上昇した際に、前記反射角度を前記切り換えられた所定角度から前記基準角度へ戻すように構成されていることを特徴とする請求項2から5のいずれか1項に記載の表面検査装置。
【請求項7】
前記反射角度変更手段は、前記軸方向走査により前記ミラー手段が前記第2の位置に上昇した際に、前記回動部材を前記回動と逆方向に押圧し、前記第1の係合部と前記第2の係合部との前記切り換えられた係合位置を元に戻す押圧ロッド手段を備えていることを特徴とする請求項3に記載の表面検査装置。
【請求項8】
前記反射角度変更手段は、通常時は、前記押圧ロッド手段と前記回動部材とを離間させ、前記軸方向走査によりその上端が押圧された際に弾性変形し、前記押圧ロッド手段を前記回動部材に当接させて前記回動と逆方向に押圧させる第2の弾性部材を備えていることを特徴とする請求項7に記載の表面検査装置。
【請求項9】
前記受光手段によって受光された反射レーザ光を電気信号に変換する光電変換手段と、該光電変化手段によって変換された電気信号を処理して走査画像を作成する処理手段と、該処理手段によって形成された走査画像を表示する表示手段とをさらに備えていることを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載の表面検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−184963(P2012−184963A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−46874(P2011−46874)
【出願日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【出願人】(591224744)シグマ株式会社 (22)
【Fターム(参考)】