説明

表面発光素子及びその製造方法

【課題】表面発光効率に優れており、発光波長を単色光に近くなるように制御できる表面発光素子を提供する。また、光が素子の表面に出射され、単色光で鋭く発光する表面発光素子を製造する方法を提供する。さらに、本発明の表面発光素子を用いる光電子素子を提供する。
【解決手段】第1誘電体層10と、該第1誘電体層10の上部に形成された第2誘電体層20と、を含み、前記第2誘電体層20の表面に2次元格子状の多数のエアホールが形成された2次元スラブ型光結晶構造と、前記エアホールの内壁に形成された発光物質層30と、前記光結晶構造の側面に光を照射する光ポンピング手段と、を含んで表面発光素子を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光結晶(photonic crystal;フォトニック結晶とも称されている。)を用いた表面発光素子及びその製造方法に関するもので、一層詳しくは、2次元スラブ型の光結晶(two−dimensional slab type photonic crystal;スラブ型2次元フォトニック結晶とも称されている。)構造を含み、光結晶構造のエアホール内壁に量子点(quantum dots)が形成され、この量子点の励起によって発光する表面発光素子及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光結晶は、互いに異なる屈折率または誘電率を有する2種類以上の物質が格子構造で規則的に配列されることを特徴とする。このように、互いに異なる屈折率を有する物質が規則的に配列されると、特定の周波数または波長を有する電磁気波の光結晶内部への伝播を防止する光バンドギャップが形成される。例えば、光結晶の光バンドギャップが可視光領域に形成され、光結晶に入射する光の周波数または波長が光バンドギャップに該当する場合、理論的に99%以上の入射光が光結晶から反射される。その反対に、光バンドギャップ以外の周波数または波長を有する入射光は、ほとんど光結晶を透過する。それゆえ、光結晶は、光の制御を著しく高めるものとして期待され、次世代の光学装置のための物質として活発に研究されている。
【0003】
光結晶の内部に空間(cavity)を生成した後、その空間に特定波長の光を発生させると、周囲を取り囲む光結晶壁にぶつかって継続して反射されるので、光をその空間に閉じ込められる。このように小さい空間に拘束された光は、増幅されて外部に出射されると、レーザーになる。さらに、光結晶の内部に複数の導波路を形成することで、その導波路に沿って光が移動する光集積回路を生成することもできる。
【0004】
光結晶を用いた光バンドギャップ構造物質は、特に、マイクロレーザー、フィルター、高効率LED、光スイッチ、低損失ウェーブガイドなどの多様な光電子素子への応用可能性が非常に高いので、全世界的に活発に研究されている。
【0005】
一例として、例えば、特許文献1には、光を閉じ込めるガイド部と、光繊維内の多数のホールと、ホール内の多数の量子点と、を含む光繊維が開示されている。このような光繊維においては、ホール内の量子点を励起させる励起光も、光繊維内に閉じ込められ、量子点から発光される発光波と同一の方向に出射されるので、表面発光が不可能になる。
【0006】
一方、特許文献2には、量子点を含む第1量子島層と、第1量子島層と異なるバンドギャップを有する物質が交互に形成されてなる量子島層を一つ以上含む光吸収層と、光吸収層で励起されたキャリアが集まって水平方向の伝導を引き起こす伝導通路層と、不純物層と、光吸収層で励起された光を受けて励起されるキャリアがチャンネルに集まったとき、これらキャリアを水平方向に伝導させるための二つ以上の検出電極と、を含む量子島を用いた光感知素子が開示されている。このような光感知素子においては、量子島層が光を感知し、感知された光に対応するキャリアを放出する。それゆえ、光感知素子は、発光ダイオードまたはレーザーダイオードとして用いられる。
【0007】
しかしながら、上述した各先行技術には、光が素子の表面に出射される表面発光素子が開示されていない。したがって、光が素子の表面に出射され、単色光に近い光を発光するように制御できる表面発光素子の開発が要求されている。
【特許文献1】米国特許出願公開第2005−111805号明細書
【特許文献2】大韓民国特許出願公開第2000−018855号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述した本発明の属する技術分野の技術的要求に相応するもので、その目的は、表面発光効率に優れており、発光波長を単色光に近くなるように制御できる表面発光素子を提供することにある。
【0009】
本発明の他の目的は、光が素子の表面に出射され、単色光で鋭く発光する表面発光素子を製造する方法を提供することにある。
【0010】
本発明の更に他の目的は、本発明の表面発光素子を用いる光電子素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するための本発明の一つの態様(様相)は、第1誘電体層と、該第1誘電体層の上部に形成された第2誘電体層と、を含み、前記第2誘電体層の表面に2次元格子状の多数のエアホールが形成された2次元スラブ型光結晶構造と、前記エアホールの内壁に形成された発光物質層と、前記光結晶構造の側面に光を照射する光ポンピング手段と、を含むことを特徴とする表面発光素子に関係する。
【0012】
本発明において、前記光結晶構造の第1誘電体層の誘電率は、前記第2誘電体層の誘電率より低い。また、前記第2誘電体層内のエアホールの大きさ及び幾何学(エアホールの形状及び配置(模様)など)は、光結晶の光バンドギャップが発光材料の発光波長と一致するように調整されるべきである。
【0013】
上記の目的を達成するための本発明の他の態様(様相)は、基板上に第1誘電体層を形成する段階と、前記第1誘電体層上に、光結晶構造がパターニングされた第2誘電体層を形成する段階と、パターニングされた光結晶構造上に高分子電解質をコーティングして高分子電解質層を形成する段階と、前記高分子電解質層上に発光物質をコーティングして発光物質層を形成する段階と、を含む表面発光素子の製造方法に関係する。
【0014】
本発明の更に他の態様(様相)は、本発明の表面発光素子を含む光電子素子に関係する。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る表面発光素子によると、表面発光効率を向上でき、量子点の発光波長を単色光に一層近くなるように調節できる。また、光結晶構造の格子定数を調整することで、特定帯域のみを反射・表出させる構造を得られる。
【0016】
本発明に係る表面発光素子を含む表面発光レーザーは、表面発光効率に優れており、光の生成空間が非常に小さく設けられるので、非常に少ないエネルギーのみでも作動可能となり、超高速、高効率の光通信及び光コンピュータなどの光電子基盤技術に幅広く活用される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、添付の図面に基づいて本発明を一層詳しく説明する。
【0018】
一つの態様(様相)として、本発明に係る表面発光素子は、第1誘電体層と、平面状のスラブに多数のエアホールが形成された第2誘電体層と、を含み、前記エアホールの内壁に発光物質層が形成されることを特徴とする。
【0019】
図1Aは、本発明の一実施形態(実施例)に係る表面発光素子を示す平面図で、図1Bは、本発明の一実施形態(実施例)に係る表面発光素子を示す側断面図である。
【0020】
図1A及び図1Bに示すように、本発明に係る表面発光素子は、第1誘電体層10、及び該第1誘電体層の上部に形成された第2誘電体層20を含み、前記第2誘電体層20の表面に2次元格子状の多数のエアホールが形成された2次元スラブ型光結晶構造と、前記エアホールの内壁に形成された発光物質層30と、前記光結晶構造の側面に光を照射するための光ポンピング手段(図示せず)と、を含むことを特徴とする。光結晶構造の第1誘電体層10の誘電率は、前記第2誘電体層20の誘電率より低い。
【0021】
図1Cは、本発明の一実施例に係る表面発光素子の光結晶構造を示す斜視図である。光結晶構造は、第1誘電体層10及び第2誘電体層20を含み、この光結晶構造は、2次元周期構造を備えている。
【0022】
本発明に係る表面発光素子において、前記第2誘電体層20のエアホールの大きさ及び幾何学(エアホールの形状及び配置など)は、光結晶の光バンドギャップが発光材料の発光波長と一致するように調整されるべきである。
【0023】
第1誘電体層10上に形成される第2誘電体層20は、2次元周期構造を有している。例えば、第2誘電体層20は、円筒状のエアホールを正方格子状、三角格子状またはこれらの組み合わせ形態で配列することができ、エアホールの断面形状も、円状(円筒状のエアホール)でない直方形状(四角柱状のエアホール)にすることができる。
【0024】
図2A〜図2Dは、第2誘電体層20内に形成されたエアホールの配列を示した図である。各エアホールは、図2Aに示すように正四角格子状に配列されるか、図2Bに示すように三角格子状に配列されるか、図2Cに示すように蜂の巣状(六角格子状)に配列されるか、図2Dに示すようにランダムに分布される。
【0025】
第1誘電体層10または第2誘電体層20は、セラミック、高分子材料、光硬化性樹脂、誘電体セラミック及びこれらの混合材料などの任意の材料で構成されるが、これらのうち、セラミック物質が好ましい。
【0026】
光結晶構造の第1誘電体層10の材料としては、比誘電率の低いセラミック材料、ガラス合成材料、またはプラスチック材料など、例えば、SiO系セラミック、パイレックスガラス、石英ガラス、アクリル系樹脂などが用いられる。第1誘電体層10の材料としては、7以下の低い比誘電率(=誘電率と真空の誘電率の比=ε/ε=ε)を有する物質が好ましい。
【0027】
第2誘電体層20を構成する第2誘電体層セラミックとしては、比誘電率の高いセラミック材料やガラス合成材料などが用いられる。具体的に、第2誘電体層は、BaO−Nd−TiO−B−ZnO−CuO系セラミック、Al−TiO系セラミック、TiO系セラミック、BaO−Bi−Nd−TiO系セラミック、BaO−Bi−Nd−TiO−SrTiO系セラミック、BaO−PbO−Nd−TiO系セラミック、Ba(Zn、Nb)O系セラミック、BaTi系セラミック、(Zr、Sn)TiO系セラミック、Ba(Zn、Ta)O系セラミック、Ba(Mg、Ta)O系セラミック、MgTiO−CaTiO系セラミックからなる群から選択される材料で構成されるが、必しもこれらに制限されることはない。第2誘電体層20の材料としては、20以上の比誘電率を有する物質が好ましい。
【0028】
本発明に係る表面発光素子の光結晶構造のエアホール内壁に形成される発光物質層30は、量子点またはその他の発光物質によって形成されるが、量子点によって形成されることが好ましい。量子点は、II−VI族化合物、II−V族化合物、III−VI族化合物、III−V族化合物、IV−VI族化合物、I−III−VI族化合物、II−IV−VI族化合物およびII−IV−V族化合物からなる群から選択される。具体的な例として、量子点は、CdS、CdSe、CdTe、ZnS、ZnSe、ZnTe、GaN、GaP、GaAs、GaSb、AlN、AlP、AlAs、AlSb、InP、InAs、InSb、SiC、Fe、Pt、Ni、Co、Al、Ag、Au、Cu、FePt、Fe、Fe、Si、Ge及びこれら二つ以上の組み合わせを含むが、必ずしもこれらに制限されることはない。
【0029】
本発明の量子点は、コア上にオーバーコーティングを含むコア−シェル構造でもあるが、このコアは、CdS、CdSe、CdTe、ZnS、ZnSe、ZnTe、GaN、GaP、GaAs、GaSb、AlN、AlP、AlAs、AlSb、InP、InAs、InSb、SiC、Fe、Pt、Ni、Co、Al、Ag、Au、Cu、FePt、Fe、Fe、Si、Ge及びこれら二つ以上の組み合わせからなる群から選択される少なくとも一つの物質を含み、このオーバーコーティングは、ZnS、ZnSe、ZnTe、CdS、CdSe、CdTe、HgS、HgSe、HgTe、AlN、AlP、AlAs、AlSb、GaN、GaP、GaAs、GaSb、GaSe、InN、InP、InAs、InSb、TlN、TlP、TlAs、TlSb、PbS、PbSe、PbTe及びこれら二つ以上の組み合わせからなる群から選択される一つ以上の物質を含む。
【0030】
本発明では、前記量子点の表面をメルカプト酢酸(mercaptoacetic acid:MAA)などの分散剤でコーティングし、その表面を陰に荷電させて水溶液内に分散させる。
【0031】
本発明の表面発光素子の光ポンピング手段は、エアホールの内壁に発光物質層が形成された光結晶構造に対してイン−プレーン(in−plane)方向に光を照射し、量子点を励起させるが、このポンピング手段としては、発光ダイオードまたはレーザーダイオードが用いられる。
【0032】
次に、本発明の表面発光素子の動作に対して説明する。本発明の表面発光素子においては、光ポンピング手段によって2次元スラブ型の光結晶構造のイン−プレーン方向にポンピング光(励起光)が入射される。入射される励起光は、光結晶スラブによってガイドされてスラブのイン−プレーン方向に進行し、この励起光によって量子点から発光される光は、光結晶によってスラブの垂直方向に進行し、発光素子の表面に出射される。
【0033】
図3Aに示すように、光結晶内に進行されるポンピング光(励起光)の一部がエアホールの表面から漏れ出て、エアホールの表面に付着された量子点を励起・発光させる。量子点から発光される光のうち光結晶への入射光(側面入射光)は、光結晶のバンドギャップの波長に該当する波長を有する場合、光結晶内に進行せずに反射され、表面発光方向にエアホールを通して出射される。
【0034】
図3Bのa部分は、光結晶のバンドギャップの波長に該当する波長を有する光を示し、このとき、光は光結晶内に進行しない。また、b部分は、発光するが、側面を通して一部が光結晶内部に浸透して消える光を示す。
【0035】
本発明において、2次元スラブ型光結晶に形成されるホールの大きさ、各ホールの間の距離、ホールの形状、第2誘電体層のための物質の屈折率(誘電率)などを調節することで、光結晶が閉じ込める光の波長を変化させ、量子点から発光される光の一部または全部がスラブの垂直方向に発光されるように調節できる。
【0036】
他の態様(様相)として、本発明は、表面発光素子の製造方法に関係する。図4は、本発明の一実施形態(実施例)に係る表面発光素子の製造方法の工程フローチャートである。図4に示すように、まず、基板(図示せず)上に第1誘電体層の物質を蒸着し、第1誘電体層112を形成する。当該基板上に第1誘電体層を形成する段階においては、当該段階に変えて、第1誘電体層に利用可能な材料(物質)で形成された基板であって、該基板の上部を第1誘電体層とする基板を準備する段階を設けてもよい(実施例参照のこと)。次いで、第1誘電体層112上に光結晶構造がパターニングされた第2誘電体層100を形成し(図4(a)〜(c)参照)、パターニングされた光結晶構造上に高分子電解質をコーティングして高分子電解質層124を形成する(図4(d)参照)。次いで、高分子電解質層124上に発光物質をコーティングして発光物質層130を形成する(図4(e)参照)。選択的に、発光物質層130上には、SiOまたはポリメタクリレートなどを用いて保護層140を形成できる(図4(f)参照)。
【0037】
本発明に係る光結晶構造の製造方法には、特別な制限なしに、本発明の属する技術分野で知られた任意の技術が用いられる。一般的に、光結晶は、異なる誘電率を有する2種類以上の物質を用いて製作される。通常、2次元スラブ型光結晶の場合、スラブを構成する第1誘電体層の誘電率εは、第2誘電体層の誘電率εより低い。光結晶の製造と関連しては、日本特許公開第2001−237616号公報、日本特許公開第2001−237617号公報などの内容を参照するとよい。
【0038】
基板(図示せず)上に第1誘電体層112を形成(蒸着)する段階(第1誘電体層の形成(蒸着)段階ともいう)では、ゾル−ゲル法、化学気相蒸着法、スパッタリング法などが用いられる。また、第1誘電体層に利用可能な材料(物質)で形成された基板であって、該基板の上部を第1誘電体層112とする基板を準備してもよい。前者の場合には、基板と異なる第1誘電体層112の材料(物質)を形成するような場合に有効である。但し、基板と第1誘電体層が同じ材料(物質)の場合でも何ら問題なく利用できる。一方、後者の場合には、第1誘電体層112を形成する操作が不要となる点で優れている(実施例参照のこと)。
【0039】
基板(図示せず)上に第1誘電体層112を形成した後、あるいは準備した基板の上部の第1誘電体層112上に、光結晶構造がパターニングされた第2誘電体層100を形成する(図4(a)〜(c)参照;光結晶パターニング段階ともいう)。この光結晶パターニング段階では、電子線リソグラフィ、レーザー干渉リソグラフィまたは紫外線フォトリソグラフィなどの方法が用いられる。
【0040】
具体的に、光結晶のパターニング時には、第1誘電体層112の全面に第2誘電体層100を形成した後(図4(a)参照)、この第2誘電体層100の全面にフォトレジスト組成物を塗布した後、焼成して感光膜を形成し、この感光膜を露光及び現像して感光膜パターン120を得る(図4(b)参照)。次いで、この感光膜パターン120をマスクとして化学的エッチングによって光結晶構造を形成する(図4(c)参照)。これにより、光結晶構造がパターニングされた第2誘電体層100が得られる。2次元スラブ型の光結晶構造は、例えば、円筒状のエアホールを三角格子状(図2B参照)または正方格子状(図2A参照)にパターニングする。この化学的エッチングは、湿式エッチングまたは乾式エッチングによって行われる。
【0041】
湿式エッチング方法は、酢酸水溶液、フッ化水素酸、燐酸水溶液などのエッチャントを用いてエッチングする方法で、乾式エッチング方法は、気体、プラズマ、イオンビームなどを用いてエッチングする方法である。乾式エッチングとしては、プラズマ状態で反応性ガスを活性化させ、エッチングしようとする物質との化学反応を引き起こして揮発性物質を生成させる反応性イオンエッチング方法(Reactive Ion Etching:RIE)、または、誘導結合プラズマ(Inductive Coupled Plasma:ICP)を活性源とする反応性イオンエッチング方法(ICP−RIE)が用いられる。
【0042】
発光物質コーティング段階(図4(e)参照)では、量子点またはその他の発光物質の分散溶液をドロップキャスティング(drop casting)、スピンコーティング、ディップコーティング、噴霧コーティング、フローコーティング、スクリーン印刷またはインクジェット印刷などの方法によってコーティングする。これにより、高分子電解質層124上(特に前記エアホールの内壁表面)に発光物質をコーティングして発光物質層130を形成することができる。
【0043】
本発明で使用可能な量子点以外の発光物質としては、クマリンまたはローダミン系列の低分子有機発光材料、高分子リン光物質及び有機EL材料などが用いられる。
【0044】
高分子電解質コーティング段階(図4(d)参照)では、陽電荷または陰電荷からなる高分子電解質及びその塩の形態群(陽電荷高分子電解質:ポリアリルアミン;ポリエチレンイミン、陰電荷高分子電解質:ポリアクリル酸;ポリスルホン酸)から選択される高分子電解質をドロップキャスティング、スピンコーティング、ディップコーティングなどの方法によってコーティングする。これにより、パターニングされた光結晶構造上(特に前記エアホールの内壁表面を含む全面)に高分子電解質をコーティングして高分子電解質層124を形成することができる。高分子電解質をコーティングすると、第2誘電体層100の表面に陰電荷が帯びるようになる。なお、上記光結晶構造がパターニングされた第2誘電体層100の形成にマスクとして用いられた感光膜パターン120は、上記高分子電解質をコーティングする前に取り除いてもよい。
【0045】
更に他の態様(様相)として、本発明は、本発明の表面発光素子を含む光電子素子に関係する。本発明の表面発光素子は、マイクロレーザー、フィルター、高効率LED、光スイッチ、低損失ウェーブガイドなどの多様な光電子素子への用途展開が可能である。
【0046】
特に、本発明の表面発光素子は、表面発光レーザーを製作するのに用いられるが、本発明の一実施形態(実施例)に係る光電子素子である表面発光レーザーを図5に示した。図5に示すように、本発明の他の態様(様相)による表面発光レーザーは、一対のミラーからなる外部共振器内に本発明の表面発光素子を含む。
【0047】
上記のような表面発光レーザー装置では、共振現象によって光を増幅させてレーザーを放出する。本発明の表面発光レーザーは、表面発光素子の第2誘電体層(のエアホール)以外の部分に形成されたカットオフフィルターを含む。
【実施例】
【0048】
以下の実施例及び比較例を通じて、本発明をさらに詳細に説明する。ただし、実施例は、本発明を例示するためのものであり、それらだけで本発明の範囲を限定するものではない。
【0049】
実施例1
第1誘電体層に利用可能な材料であるSiOで形成されたSiO基板であって、該基板の上部を第1誘電体層とする基板を準備した。このSiO基板上部の第1誘電体層上に非晶質TiOを化学気相蒸着法によって蒸着し、第2誘電体層を形成した。該第2誘電体層上にフォトレジスト組成物を塗布した後、焼成して感光膜を形成し、この感光膜を露光して感光膜パターンを得た。得られた感光膜パターンをマスクとして使用し、HCl:HO=4:1(体積比)の溶液をエッチャントとして使用して化学的エッチングによって、前記第2誘電体層の表面に2次元格子状(円筒状)の多数のエアホールが形成された2次元スラブ型光結晶構造をパターニングした。
【0050】
このパターニングにより、下記表1に示すように、エアホールの幾何学(円筒状の多数のエアホールを正三角格子状(図2C参照)で配列させた際の隣接する各エアホールの間の距離;図1C中の“a”参照)、エアホールの大きさ(=円形断面の直径;図1C中の“r”参照)、さらには第2誘電体層の厚さ(=スラブの厚さ;図1C中の“t”参照)の2次元スラブ型光結晶構造を形成した。なお、下記表1では、第1誘電体層の誘電率ε及び第2誘電体層の誘電率εも併せて表記した。
【0051】
次に、高分子電解質としてPAH(Polyallylamine hydrochloride)の10mM水溶液をスピンコーティングによってコーティングし、高分子電解質層上にMAA(mercaptoacetic acid)でキャッピングされたCdSeナノ粒子を塗布し、CdSeナノ粒子(=量子点)を単一層で配列した。これにより、該量子点を含む発光物質層が前記エアホールの内壁にも単一層で形成される。
【0052】
次いで、ポリメタクリレート(PMMA)をメチレンクロライドに溶解させたコーティング液を塗布・乾燥して保護層を形成することで、表面発光素子を製作した。ポンピング手段としては、450〜460nmレーザーダイオードが用いられた。
【0053】
実施例2〜5
上記の実施例1と同じ方法で実施するが、表1に示すように、光結晶構造のエアホールの幾何学(円筒状の多数のエアホールを正三角格子状(図2C参照)で配列させた際の隣接する各エアホールの間の距離;図1C中の“a”参照)、エアホールの大きさ(=円形断面の直径;図1C中の“r”参照)、さらには第2誘電体層の厚さ(=スラブの厚さ;図1C中の“t”参照)、第1誘電体層の誘電率ε及び第2誘電体層の誘電率εを多様に変形させながら表面発光素子を製造し、それぞれの表面発光素子に対する特性を評価した。ここで、実施例2の第2誘電体層は、アナターゼ(anatase)型結晶質TiOを化学気相蒸着法によって蒸着したものを用い、第2誘電体層の誘電率εを50に変形させた。同様に、実施例3の第2誘電体層は、ルチル(rutile)型結晶質TiOを化学気相蒸着法によって蒸着したものを用い、第2誘電体層の誘電率εを80に変形させた。
【0054】
【表1】

【0055】
実験例
1.カラーチューニング
実施例1、実施例4及び実施例5の表面発光素子のバンドギャップ領域(帯域)を測定し、図6A〜図6Cに示した。図6Aに示した実施例1の場合、結晶構造のエアホールの内壁表面に付着された量子点(CdSeナノ粒子)から発光されるスペクトラムの全体領域を反射・表出させる。一方、図6Bに示した実施例4の場合、量子点から発光されるスペクトラムの上(ないし下)半部のみを反射・表出させ、図6Cに示した実施例5の場合、量子点から発光されるスペクトラムの下(ないし上)半部のみを反射・表出させる。図6A〜図6Cを通して確認されるように、本発明の表面発光素子では、光結晶構造の格子定数を調整することで、発光帯域を所望の発光波長帯域に調律(調整)できる。
【0056】
2.エアホールの幾何学の変化による発光特性変化
第2誘電体層の誘電率εが最大である場合(ε=3.9、ε=80)と、第2誘電体層の誘電率εが最低である場合(ε=3.9、ε=25)にスラブ(第2誘電体層)の厚さtを固定した状態で、エアホールの直径rを変化させて実施し、各場合に対する最大発光幅を下記の数学式1によって算出し、下記の表2に示した。ここでは、スラブの厚さ/各エアホールの間の距離=t/a=0.5で行った。
【0057】
【数1】

【0058】
【表2】

【0059】
上記表中の「Width」は最大発光幅(%)を表す。下記表3も同様である。
【0060】
上記表2を通して確認されるように、スラブ(第2誘電体層)の厚さtが固定された状態でエアホールの直径rを増加させると、TMバンドギャップ幅が増加し、TEとTMバンドギャップ間の距離も増加する。
【0061】
一方、エアホールの直径rを固定した状態で、スラブ(第2誘電体層)の厚さtを変化させながら同一に実験し、その結果を下記の表3に示した。
【0062】
【表3】

【0063】
上記の表3の結果から分かるように、t/a=0.6で、r/a=0.40である場合、最大のTEギャップ(=最大発光幅)(26.5%)を得られる。なお、t/aは、0.6以外にも変化させて行ったが、表3では、最大のTEギャップが得られたt/a=0.6での実験結果を示す。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1A】本発明の一実施形態(実施例)に係る表面発光素子を示す平面図である。
【図1B】本発明の一実施形態(実施例)に係る表面発光素子を示す断面概略図である。
【図1C】本発明の一実施形態(実施例)に係る表面発光素子を示す斜視図である。
【図2A】本発明の一実施形態(実施例)に係る表面発光素子の光結晶構造の格子パターンの1つである正四角格子状の配列パターンを示す図である。
【図2B】本発明の一実施形態(実施例)に係る表面発光素子の光結晶構造の格子パターンの1つである(正)三角格子状の配列パターンを示す図である。
【図2C】本発明の一実施形態(実施例)に係る表面発光素子の光結晶構造の格子パターンの1つである蜂の巣状(六角格子状)の配列パターンを示す図である。
【図2D】本発明の一実施形態(実施例)に係る表面発光素子の光結晶構造の格子パターンの1つであるランダムパターンを示す図である。
【図3A】本発明の一実施形態(実施例)に係る表面発光素子における発光メカニズムを3段階(ポンピング光(励起光)が光結晶内に進行された段階;最上図、ポンピング光(励起光)の一部がエアホールの表面から漏れ出て、エアホールの表面に付着された量子点を励起する段階;中央図、及びポンピング光(励起光)の一部がエアホールの表面から漏れ出て、エアホールの表面に付着された量子点を励起し、発光させた段階;最下図)に分けて説明する模式図である。
【図3B】本発明の一実施例に係る表面発光素子における光バンドギャップ特性を示すグラフである。
【図4】本発明の一実施例に係る表面発光素子の製造方法を説明する工程フローチャートである。
【図5】本発明の一実施例に係る表面発光レーザーを示す断面概略図である。
【図6A】本発明の実施例1で得た表面発光素子のカラーチューニングを説明する模式図である。
【図6B】本発明の実施例4で得た表面発光素子のカラーチューニングを説明する模式図である。
【図6C】本発明の実施例5で得た表面発光素子のカラーチューニングを説明する模式図である。
【符号の説明】
【0065】
10、112 第1誘電体層、
20、100 第2誘電体層、
120 感光膜パターン、
124 高分子電解質層、
30、130 発光物質層、
140 保護層、
a 各エアホールの間の距離、
r エアホールの大きさ(=断面直径)、
t スラブ(第2誘電体層)の厚さ、
ε 第1誘電体層の誘電率、
ε 第2誘電体層の誘電率。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1誘電体層と、該第1誘電体層の上部に形成された第2誘電体層と、を含み、前記第2誘電体層の表面に2次元格子状の多数のエアホールが形成された2次元スラブ型光結晶構造と、
前記エアホールの内壁に形成された発光物質層と、
前記光結晶構造の側面に光を照射する光ポンピング手段と、を含むことを特徴とする表面発光素子。
【請求項2】
前記光結晶構造の第1誘電体層の誘電率は、前記第2誘電体層の誘電率より低いことを特徴とする請求項1に記載の表面発光素子。
【請求項3】
前記エアホールの大きさ及び幾何学は、光結晶の光バンドギャップが発光物質層の発光材料の発光波長と一致するように調整されることを特徴とする請求項1または2に記載の表面発光素子。
【請求項4】
前記第2誘電体層のエアホールは、三角格子、四角格子、六角格子、ランダムパターン、及びこれら二つ以上の組み合わせのうち少なくとも一つで配列されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の表面発光素子。
【請求項5】
前記第1誘電体層は、SiO系セラミック、パイレックスガラス、石英ガラス、アクリル系樹脂からなる群から選択される材料で構成されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の表面発光素子。
【請求項6】
前記第1誘電体層は、7以下の比誘電率を有する材料で構成されることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の表面発光素子。
【請求項7】
前記第2誘電体層は、BaO−Nd−TiO−B−ZnO−CuO系セラミック、Al−TiO系セラミック、TiO系セラミック、BaO−Bi−Nd−TiO系セラミック、BaO−Bi−Nd−TiO−SrTiO系セラミック、BaO−PbO−Nd−TiO系セラミック、Ba(Zn、Nb)O系セラミック、BaTi系セラミック、(Zr、Sn)TiO系セラミック、Ba(Zn、Ta)O系セラミック、Ba(Mg、Ta)O系セラミックおよびMgTiO−CaTiO系セラミックからなる群から選択される材料で構成されることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の表面発光素子。
【請求項8】
前記第2誘電体層は、20以上の比誘電率を有する材料で構成されることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の表面発光素子。
【請求項9】
前記発光物質層は、量子点を含むことを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の表面発光素子。
【請求項10】
前記量子点は、II−VI族化合物、II−V族化合物、III−VI族化合物、III−V族化合物、IV−VI族化合物、I−III−VI族化合物、II−IV−VI族化合物及びII−IV−V族化合物からなる群から選択されることを特徴とする請求項9に記載の表面発光素子。
【請求項11】
前記量子点は、CdS、CdSe、CdTe、ZnS、ZnSe、ZnTe、GaN、GaP、GaAs、GaSb、AlN、AlP、AlAs、AlSb、InP、InAs、InSb、SiC、Fe、Pt、Ni、Co、Al、Ag、Au、Cu、FePt、Fe、Fe、Si、Ge及びこれら二つ以上の組み合わせからなる群から選択されることを特徴とする請求項9または10に記載の表面発光素子。
【請求項12】
前記量子点は、コア上にオーバーコーティングを含むコア−シェル構造であり、
前記コアは、CdS、CdSe、CdTe、ZnS、ZnSe、ZnTe、GaN、GaP、GaAs、GaSb、AlN、AlP、AlAs、AlSb、InP、InAs、InSb、SiC、Fe、Pt、Ni、Co、Al、Ag、Au、Cu、FePt、Fe、Fe、Si、Ge及びこれら二つ以上の組み合わせからなる群から選択される少なくとも一つの物質を含み、
前記オーバーコーティングは、ZnS、ZnSe、ZnTe、CdS、CdSe、CdTe、HgS、HgSe、HgTe、AlN、AlP、AlAs、AlSb、GaN、GaP、GaAs、GaSb、GaSe、InN、InP、InAs、InSb、TlN、TlP、TlAs、TlSb、PbS、PbSe、PbTe及びこれら二つ以上の組み合わせからなる群から選択される少なくとも一つの物質を含むことを特徴とする請求項9〜11のいずれか1項に記載の表面発光素子。
【請求項13】
前記光ポンピング手段は、発光ダイオードまたはレーザーダイオードであることを特徴とする請求項1〜12のいずれか1項に記載の表面発光素子。
【請求項14】
基板上に第1誘電体層を形成する段階と、
前記第1誘電体層上に、光結晶構造がパターニングされた第2誘電体層を形成する段階と、
パターニングされた光結晶構造上に高分子電解質をコーティングして高分子電解質層を形成する段階と、
前記高分子電解質層上に発光物質をコーティングして発光物質層を形成する段階と、を含む表面発光素子の製造方法。
【請求項15】
前記第1誘電体層を形成する段階は、ゾル−ゲル法、化学気相蒸着法、スパッタリング法によって行われることを特徴とする請求項14に記載の表面発光素子の製造方法。
【請求項16】
前記光結晶構造がパターニングされた第2誘電体層を形成する段階は、電子線リソグラフィ、レーザー干渉リソグラフィまたは紫外線フォトリソグラフィによって行われることを特徴とする請求項14または15に記載の表面発光素子の製造方法。
【請求項17】
前記光結晶構造がパターニングされた第2誘電体層を形成する段階は、
前記第1誘電体層上に第2誘電体層を形成する段階と、
前記第2誘電体層上に感光膜を塗布する段階と、
前記感光膜を露光及び現像して感光膜パターンを得る段階と、
前記感光膜パターンをマスクとして化学的エッチングによって光結晶パターンを形成する段階と、を含むことを特徴とする請求項14〜16のいずれか1項に記載の表面発光素子の製造方法。
【請求項18】
前記化学的エッチングは、湿式エッチングまたは乾式エッチングであることを特徴とする請求項17に記載の表面発光素子の製造方法。
【請求項19】
前記高分子電解質をコーティングして高分子電解質層を形成する段階は、陽電荷または陰電荷からなる高分子電解質及びその塩から選択される高分子電解質をコーティングする段階であることを特徴とする請求項14〜18のいずれか1項に記載の表面発光素子の製造方法。
【請求項20】
前記陽電荷からなる高分子電解質は、ポリアリルアミンまたはポリエチレンイミンであり、前記陰電荷からなる高分子電解質は、ポリアクリル酸またはポリスルホン酸であることを特徴とする請求項19に記載の表面発光素子の製造方法。
【請求項21】
前記発光物質をコーティングして発光物質層を形成する段階は、量子点分散溶液をドロップキャスティング、スピンコーティング、ディップコーティング、噴霧コーティング、フローコーティング、スクリーン印刷及びインクジェット印刷からなる群から選択される方法によってコーティングする段階であることを特徴とする請求項14〜20のいずれか1項に記載の表面発光素子の製造方法。
【請求項22】
一対のミラーからなる外部共振器内には、請求項1〜請求項13のうち何れか一つの表面発光素子を含むことを特徴とする光電子素子。
【請求項23】
前記光電子素子は、表面発光レーザーであることを特徴とする請求項22に記載の光電子素子。
【請求項24】
前記表面発光レーザーは、表面発光素子のエアホール以外の部分に形成されたカットオフフィルターを含むことを特徴とする請求項23に記載の光電子素子。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【公開番号】特開2007−281477(P2007−281477A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−98845(P2007−98845)
【出願日】平成19年4月4日(2007.4.4)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.パイレックス
【出願人】(390019839)三星電子株式会社 (8,520)
【氏名又は名称原語表記】Samsung Electronics Co.,Ltd.
【Fターム(参考)】